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特許7191858マレイミド系共重合体、その製造方法及びそれを用いた樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】マレイミド系共重合体、その製造方法及びそれを用いた樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/32 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
C08F8/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019564691
(86)(22)【出願日】2019-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2019000201
(87)【国際公開番号】W WO2019138996
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2018001146
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松本 真典
(72)【発明者】
【氏名】野口 哲央
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-014794(JP,A)
【文献】特開平09-221522(JP,A)
【文献】国際公開第2011/018993(WO,A1)
【文献】特開平11-060640(JP,A)
【文献】特開2002-338608(JP,A)
【文献】特開2004-339280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
C08F 222/00 - 220/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル系単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して共重合を開始させる初期重合工程と、
初期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル系単量体のうちの50~90質量%、初期重合工程で用いた残りの不飽和ジカルボン酸無水物単量体の全量を、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける中期重合工程と、
初期重合工程及び中期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル単量体の全量を添加して芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を得る終期重合工程と、
得られた芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体をアンモニア又は第1級アミンでイミド化してマレイミド系共重合体を得るイミド化工程を有
前記マレイミド系共重合体は、芳香族ビニル単量体単位40~60質量%、シアン化ビニル単量体単位5~20質量%、マレイミド単量体単位35~50質量%を有し、
4質量%テトラヒドロフラン溶液の波長450nmにおける光路長10mmの透過率が90%以上、残存マレイミド系単量体量が300ppm未満である
マレイミド系共重合体の製造方法。
【請求項2】
マレイミド系共重合体中に、さらに、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0~10質量%を有する請求項1に記載のマレイミド系共重合体の製造方法。
【請求項3】
ガラス転移温度が165℃以上である請求項1又は2に記載のマレイミド系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド系共重合体、その製造方法、及びそれを用いた樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)は、その優れた機械的強度、外観、耐薬品性、成形性などを活かし、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品などに幅広く使用されている。自動車の内装材のように耐熱性が要求される用途では、耐熱付与材としてマレイミド系共重合体を含有するABS樹脂も用いられている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
マレイミド系共重合体を含有するABS樹脂は耐薬品性に劣るという欠点があり、この欠点を解決するため、マレイミド系共重合体にシアン化ビニル単量体を共重合させた共重合体が提案されている(例えば特許文献3、特許文献4参照)。シアン化ビニル単量体を共重合したマレイミド系共重合体は色相が黄色味を帯びやすく、自然色の見映えが悪いとともに着色性が劣るという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-98536号公報
【文献】特開昭57-125242号公報
【文献】特開2004-339280号公報
【文献】特開2007-9228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、色相、耐薬品性、耐熱付与性、耐衝撃性及び流動性のバランスに優れた樹脂組成物が得られるマレイミド系共重合体及びその製造方法を提供するものである。また、マレイミド系共重合体とABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン-アクリル系ゴム共重合樹脂(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合樹脂(AES樹脂)又はスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂(SAN樹脂)から選ばれた1種又は2種以上の樹脂とを混練混合して得られ、色相、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、流動性の物性バランスに優れた樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有する。
(1)芳香族ビニル単量体単位40~60質量%、シアン化ビニル単量体単位5~20質量%、マレイミド単量体単位35~50質量%を有するマレイミド系共重合体であり、4質量%テトラヒドロフラン溶液の波長450nmにおける光路長10mmの透過率が90%以上、残存マレイミド系単量体量が300ppm未満であるマレイミド系共重合体。
(2)マレイミド系共重合体中に、さらに、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位0~10質量%を有する(1)に記載のマレイミド系共重合体。
(3)ガラス転移温度が165℃以上である(1)又は(2)に記載のマレイミド系共重合体。
(4)シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル系単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して共重合を開始させる初期重合工程と、
初期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル系単量体のうちの50~90質量%、初期重合工程で用いた残りの不飽和ジカルボン酸無水物単量体の全量を、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける中期重合工程と、
初期重合工程及び中期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル単量体の全量を添加して芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を得る終期重合工程と、
得られた芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体をアンモニア又は第1級アミンでイミド化してマレイミド系共重合体を得るイミド化工程を有する、(1)~(3)のいずれかに記載のマレイミド系共重合体の製造方法。
(5)(1)~(3)のいずれかに記載のマレイミド系共重合体5~40質量%と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂又はSAN樹脂から選ばれた1種又は2種以上の樹脂60~95質量%を有する樹脂組成物。
(6)(5)記載の樹脂組成物を用いた射出成形体。
(7)自動車の内装部材又は外装部材として使用される(6)記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、色相、耐薬品性、耐熱付与性、耐衝撃性及び流動性のバランスに優れた樹脂組成物が得られるマレイミド系共重合体及びその製造方法が提供される。また、マレイミド系共重合体と、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂又はSAN樹脂から選ばれた1種又は2種以上の樹脂とを混練混合して得られ、色相、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、流動性の物性バランスに優れた樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<用語の説明>
本願明細書において「A~B」なる記載は、A以上でありB以下であることを意味する。
【0009】
本発明のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及びマレイミド単量体を共重合して得られることができる。
【0010】
マレイミド系共重合体に用いる芳香族ビニル単量体は、マレイミド系共重合体を混練混合して得られる樹脂組成物(樹脂組成物)の色相を向上させるためのものであり、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレンなどがある。これらの中でも色相を向上させる効果が高いスチレンが好ましい。スチレン系単量体は、単独で用いても良いが2種類以上を併用しても良い。
【0011】
マレイミド系共重合に含まれる芳香族ビニル単量体単位の量は、40~60質量%であり、好ましくは45~55質量%である。芳香族ビニル単量体単位の量が40質量%に満たないと樹脂組成物の色相が黄色味を帯び、60質量%を越えると樹脂組成物の耐熱性が低下する。
【0012】
マレイミド系共重合体に用いるシアン化ビニル単量体は、樹脂組成物の耐薬品性を向上させるためのものであり、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリルなどがある。これらの中でも耐薬品性を向上させる効果が高いアクリロニトリルが好ましい。アクリロニトリル系単量体は、単独で用いても良いが2種類以上を併用しても良い。
【0013】
マレイミド系共重合体に含まれるシアン化ビニル単量体単位の量は、5~20質量%であり、好ましくは、7~15質量%である。シアン化ビニル単量体単位の量が5質量%に満たないと樹脂組成物の耐薬品性を向上させる効果が得られず、20質量%を越えると樹脂組成物の色相が黄色味を帯びる。
【0014】
マレイミド系共重合体に用いるマレイミド単量体は、樹脂組成物の耐熱性を向上させるために用いるものであり、N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのN-アルキルマレイミド、及びN-フェニルマレイミド、N-クロルフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミドなどがある。これらの中でも、耐熱性を向上させる効果が高いN-フェニルマレイミドが好ましい。マレイミド系単量体は、単独で用いても良いが2種類以上を併用しても良い。
【0015】
マレイミド系共重合体に含まれるマレイミド単量体単位の量は、35~50質量%であり、好ましくは、37~45質量%である。マレイミド単量体単位の量が35質量%に満たないと樹脂組成物の耐熱性を向上させる効果が得られず、50質量%を超えると樹脂組成物の衝撃強度が低下する。
マレイミド系共重合体に含まれる各単量体単位の含有率は、C-13NMR法にて以下の測定条件で測定した値である。
装置名:FT-NMR AVANCE300(BRUKER社製)
溶媒:重水素化クロロホルム
濃度:14質量%
温度:25℃
積算回数:10000回
【0016】
マレイミド系共重合体を4質量%テトラヒドロフラン溶液としたときの波長450nmにおける光路長10mmの透過率は90%以上である。透過率が90%に満たないと、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及又はSAN樹脂から選ばれた1種又は2種以上の樹脂と混練混合して得られる樹脂組成物の色相が悪くなる。透過率は好ましくは92%以上である。透過率は、マレイミド系共重合体をテトラヒドロフランに4質量%となるように調整した溶液を光路長10mm測定用の石英角セルに充填し、分光光度計V-670ST(日本分光株式会社製)を用いて測定した値である。
【0017】
マレイミド系共重合体に含まれる残存マレイミド系単量体量は、300ppm未満である。好ましくは200ppm未満である。残存マレイミド系単量体量が300ppm以上存在すると、得られるマレイミド系共重合体の色相が黄色味を帯びたものとなる。
残存マレイミド系単量体量は、以下の条件で測定した値である。
装置名:ガスクロマトグラフ GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB-5ms(アジレント・テクノロジー株式会社製)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
手順:試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、ポリマーを析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをガスクロマトグラフに注入する。得られたマレイミド系単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
【0018】
マレイミド系共重合体は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及びマレイミド単量体以外の、共重合可能な単量体を本発明の効果を阻害しない範囲で共重合させても良い。マレイミド系共重合体に共重合可能な単量体とは、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、アコニット酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物単量体、メチルアクリル酸エステル、エチルアクリル酸エステル、ブチルアクリル酸エステルなどのアクリル酸エステル単量体、メチルメタクリル酸エステル、エチルメタクリル酸エステルなどのメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸単量体、アクリル酸アミド及びメタクリル酸アミドなどがあげられる。マレイミド系共重合体に共重合可能な単量体は、単独で用いても良いが2種類以上を併用しても良い。
【0019】
マレイミド系共重合体に共重合可能な単量体としては、不飽和ジカルボン酸無水物単量体が好ましい。不飽和ジカルボン酸単位が0.5質量%以上であれば、不飽和ジカルボン酸単位がアミノ基やアルコール基末端を有する他の樹脂と反応して相容化剤としての効果が得られるため好ましい。不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が10質量%以下であれば、熱安定性に優れるため好ましく、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位が5質量%以下であれば、さらに熱安定性に優れるため好ましい。
【0020】
マレイミド系共重合体は、ABS樹脂やASA樹脂などの混練混合する樹脂の耐熱性を効率的に向上させるという点で、ガラス転移温度は165℃~200℃であることが好ましく、より好ましくは170℃~200℃である。ここで、ガラス転移温度とは、JIS K-7121に準拠して、以下の装置及び測定条件により測定されるマレイミド系共重合体の補外ガラス転移開始温度(Tig)をいう。
装置名:示差走査熱量計 Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
【0021】
マレイミド系共重合体のガラス転移温度を高くするには、マレイミド単量体単位の含有量を多くしたり、ガラス転移温度の高い単量体を共重合させれば良い。
【0022】
マレイミド系共重合体の重合様式は、溶液重合、塊状重合などがある。共重合させる単量体を分割添加又は連続添加しながら重合することで、共重合組成が均一なマレイミド系共重合体を得られるという観点から、溶液重合が好ましい。溶液重合の溶媒は、副生成物が出来難く、悪影響が少ないという観点から非重合性であることが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンなどがあり、マレイミド系共重合体の脱揮回収時における溶媒除去の容易性から、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。重合プロセスは、連続重合式、バッチ式(回分式)、半回分式のいずれも適用できる。
【0023】
マレイミド系共重合体の重合方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくはラジカル重合により得ることができ、重合温度は80~150℃の範囲であることが好ましい。重合開始剤としては特に限定されるものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオニトリル、アゾビスメチルブチロニトリルなどの公知のアゾ化合物や、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル-3,3-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブチレートなどの公知の有機過酸化物を用いることができ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。重合の反応速度や重合率制御の観点から、10時間半減期が70~120℃であるアゾ化合物や有機過酸化物を用いるのが好ましい。重合開始剤の使用量は、特に限定されるものではないが、重合に用いる全単量体100質量部に対して0.1~1.5質量部使用することが好ましく、さらに好ましくは0.1~1.0質量部である。重合開始剤の使用量が0.1質量部以上であれば、十分な重合速度が得られるため好ましい。重合開始剤の使用量が1.5質量部以下であれば、重合速度が抑制できるため反応制御が容易になり、目標分子量を得ることが容易になる。
【0024】
マレイミド系共重合体の製造には、連鎖移動剤を使用することが出来る。使用される連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸エチル、リモネン、ターピノーレンなどがある。連鎖移動量の使用量は、目標分子量が得られる範囲であれば、特に限定されるものではないが、重合に用いる全単量体100質量部に対して0.01~0.8質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1~0.5質量部である。連鎖移動剤の使用量が0.01~0.8質量部であれば、目標分子量を容易に得ることができる。
【0025】
本発明のマレイミド系共重合体は、上述の芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体及び不飽和ジカルボン酸無水物を共重合しておき、共重合体中の不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位をアンモニア又は第1級アミンでイミド化させてマレイミド単量体単位に変換(後イミド化法)して得ても良い。後イミド化法でマレイミド系共重合体を得ると、共重合体中の残存マレイミド系単量体量が少なくなるため好ましい。
【0026】
第1級アミンとは、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミンなどのアルキルアミン類及びクロル又はブロム置換アルキルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミンなどの芳香族アミンがあり、この中でもアニリン、シクロヘキシルアミンが好ましい。これらの第1級アミンは、単独で用いても良いが2種以上を併用しても良い。第1級アミンの添加量は特に限定されるものではないが、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位に対して好ましくは0.7~1.1モル当量、さらに好ましくは0.85~1.05モル当量である。マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位に対して0.7モル当量以上であれば、得られる樹脂組成物の熱安定性が良好となるため好ましい。また、1.1モル当量以下であれば、マレイミド系共重合体中に残存する第1級アミン量が低減するため好ましい。
【0027】
後イミド化法でマレイミド系共重合体を得る場合、アンモニア又は第1級アミンと不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位との反応、特に不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位からマレイミド単量体単位に変換する反応において、脱水閉環反応を向上させる目的で必要に応じて触媒を使用する事ができる。触媒の種類は特に限定されるものではないが、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N、N-ジメチルアニリン、N、N-ジエチルアニリンなどの第3級アミンがある。第3級アミンの添加量は特に限定されるものではないが、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位に対し、0.01モル当量以上が好ましい。本発明におけるイミド化反応の温度は好ましくは100~250℃であり、さらに好ましくは120~200℃である。イミド化反応の温度が100℃以上であれば、反応速度が十分に早く生産性の面から好ましい。イミド化反応の温度が250℃以下であればマレイミド系共重合体の熱劣化による物性低下を抑制できるため好ましい。
【0028】
後イミド化法でマレイミド系共重合体を得る場合、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和ジカルボン酸無水物単量体を重合初期に全量仕込んで重合することも出来るが、芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸無水物単量体とは交互共重合性が強いため、重合前期に芳香族ビニル単量体と不飽和ジカルボン酸無水物単量体が消費されてしまい、重合後期にシアン化ビニル単量体単位の多い共重合体が生成しやすくなることがある。その結果、得られるマレイミド系共重合体の色相が悪化する場合や組成分布が大きくなりABS樹脂などと混練混合した際の相溶性が欠如して、得られる樹脂組成物が物性上好ましくないものとなる場合がある。そのため色相が良好で組成分布が小さい(均一な)マレイミド系共重合体を得るには、次の各工程を有する製造方法を用いることが好ましい。
初期重合工程:シアン化ビニル単量体の仕込み量の全量、芳香族ビニル系単量体の仕込み量の10~90質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体の仕込み量の0~30質量%を混合して重合初期に仕込み共重合を開始させる。
中期重合工程:初期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル系単量体のうちの50~90質量%、初期重合工程でもちいた残りの不飽和ジカルボン酸無水物単量体の全量を、それぞれ分割又は連続的に添加させながら共重合を続ける。
終期重合工程:初期重合工程及び中期重合工程で用いた残りの芳香族ビニル単量体の全量を添加して芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体を得る。
イミド化工程:得られた芳香族ビニル-シアン化ビニル-不飽和ジカルボン酸無水物共重合体をアンモニア又は第1級アミンでイミド化してマレイミド系共重合体を得る。
【0029】
マレイミド系共重合体の溶液重合終了後の溶液或いは後イミド化終了後の溶液から、溶液重合に用いた溶媒や未反応の単量体などの揮発成分を取り除く方法(脱揮方法)は、公知の手法が採用でき、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽やベント付き脱揮押出機を用いることができる。脱揮された溶融状態のマレイミド系共重合体は、造粒工程に移送され、多孔ダイよりストランド状に押出し、コールドカット方式や空中ホットカット方式、水中ホットカット方式にてペレット形状に加工することができる。
【0030】
このようにして得られるマレイミド系共重合体は、各種樹脂と混練混合することで、得られる樹脂組成物の耐熱付与剤として用いることができる。各種樹脂としては、特に限定されるものではないが、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、SAN樹脂がある。マレイミド系共重合体とこれらの樹脂とは優れた相溶性を有していることから、高い耐熱付与効果が得られる。マレイミド系共重合体とこれらの樹脂の配合割合は、マレイミド系共重合体5~40質量%、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上の樹脂60~95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、マレイミド系共重合体10~30質量%、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上の樹脂70~90質量%である。
マレイミド系共重合体の配合割合がこの範囲であれば、樹脂組成物の耐熱性を向上させる効果が得られ、かつ、樹脂組成物の耐薬品性や色相が低下しない。
マレイミド系共重合体と各種樹脂を混練混合する方法については、特に限定されるものではないが、公知の溶融混練技術を用いることができる。好適に使用できる溶融混練装置としては、単軸押出機、完全噛合形同方向回転二軸押出機、完全噛合形異方向回転二軸押出機、非又は不完全噛合形二軸押出機などのスクリュー押出機、バンバリーミキサー、コニーダー及び混合ロールなどがある。
マレイミド系共重合体とこれらの樹脂とを混練混合する際に、さらに安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、ガラス繊維、無機充填剤、着色剤、帯電防止剤などを添加しても差し支えない。
【0031】
樹脂組成物から成形体を得る方法については、公知の成形加工技術を用いることができ、例えば、射出成形、押出成形、シート成形、プレス成形がある。本発明の樹脂組成物は特に耐熱性に優れるものであり、成形加工中に高温高圧になる射出成形の材料として特に好適に用いることができる。
【0032】
樹脂組成物を成形して得られる成形体は、自動車の内装部材や外装部材などに好適に使用できる。
【実施例
【0033】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<マレイミド系共重合体(A-1)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン22質量部、アクリロニトリル13質量部、マレイン酸無水物4質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物25質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン8質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン26質量部、トリエチルアミン0.5質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-1を得た。得られたマレイミド系共重合体A-1の分析結果を表1に示す。
【0035】
<マレイミド系共重合体(A-2)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン20質量部、アクリロニトリル8質量部、N-フェニルマレイミド4質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン16質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、N-フェニルマレイミド38質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2質量部をメチルエチルケトン152質量部に溶解した溶液及びスチレン23質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にN-フェニルマレイミド添加終了後、スチレン7質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。反応終了後の重合液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-2を得た。得られたマレイミド系共重合体A-2の分析結果を表1に示す。
【0036】
<マレイミド系共重合体(A-3)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン17質量部、アクリロニトリル22質量部、マレイン酸無水物5質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン20質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物20質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.25質量部をメチルエチルケトン80質量部に溶解した溶液及びスチレン28質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン8質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン22質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-3を得た。得られたマレイミド系共重合体A-3の分析結果を表1に示す。
【0037】
<マレイミド系共重合体(A-4)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン13質量部、アクリロニトリル11質量物、マレイン酸無水物6質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン18質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物30質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2質量部をメチルエチルケトン90質量部に溶解した溶液及びスチレン31質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン9質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-4を得た。得られたマレイミド系共重合体A-4の分析結果を表1に示す。
【0038】
<マレイミド系共重合体(A-5)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン45質量部、アクリロニトリル8質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン16質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物24質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3質量部をメチルエチルケトン96質量部に溶解した溶液及びスチレン18質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン5質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン21質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-5を得た。得られたマレイミド系共重合体A-5の分析結果を表1に示す。
【0039】
<マレイミド系共重合体(A-6)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン22質量部、アクリロニトリル13質量部、マレイン酸無水物4質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物25質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.22質量部をメチルエチルケトン75質量部に溶解した溶液及びスチレン32質量部を8時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン4質量部を1時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン26質量部、トリエチルアミン0.5質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-6を得た。得られたマレイミド系共重合体A-6の分析結果を表1に示す。
【0040】
<マレイミド系共重合体(A-7)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン59.7質量部、アクリロニトリル3.8質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルイソブチルケトン18質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて90℃まで昇温した。昇温後90℃を保持しながら、マレイン酸無水物36.5質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部をメチルイソブチルケトン120質量部に溶解した溶液を4時間かけて連続的に添加した。マレイン酸無水物添加終了後、110℃に昇温し、2時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32.7質量部、トリエチルアミン0.5質量部を加え155℃で4時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-7を得た。得られたマレイミド系共重合体A-7の分析結果を表2に示す。
【0041】
<マレイミド系共重合体(A-8)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン25.1質量部、アクリロニトリル14.9質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルイソブチルケトン18質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて90℃まで昇温した。昇温後90℃を保持しながら、スチレン25質量部とマレイン酸無水物35質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部をメチルイソブチルケトン120質量部に溶解した溶液を4時間かけて連続的に添加した。マレイン酸無水物添加終了後、110℃に昇温し、2時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン31.9質量部、トリエチルアミン0.5質量部を加え155℃で4時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-8を得た。得られたマレイミド系共重合体A-8の分析結果を表2に示す。
【0042】
<マレイミド系共重合体(A-9)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、アクリロニトリル8質量部、マレイン酸無水物2質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン10質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物16質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3質量部をメチルエチルケトン80質量部に溶解した溶液及びスチレン7質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン2質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン16質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-9を得た。得られたマレイミド系共重合体A-9の分析結果を表2に示す。
【0043】
<マレイミド系共重合体(A-10)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン14質量部、アクリロニトリル28質量部、マレイン酸無水物3質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン12質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物23質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.4質量部をメチルエチルケトン92質量部に溶解した溶液及びスチレン25質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン7質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン23質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-10を得た。得られたマレイミド系共重合体A-10の分析結果を表2に示す。
【0044】
<マレイミド系共重合体(A-11)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン2質量部、アクリロニトリル10質量部、マレイン酸無水物5質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.1質量部、メチルエチルケトン15質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、マレイン酸無水物38質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.4質量部をメチルエチルケトン114質量部に溶解した溶液及びスチレン35質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン10質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン38質量部、トリエチルアミン0.7質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-11を得た。得られたマレイミド系共重合体A-11の分析結果を表2に示す。
【0045】
<マレイミド系共重合体(A-12)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、マレイン酸無水物7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.18質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を7時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.03質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-12を得た。得られたマレイミド系共重合体A-12の分析結果を表2に示す。
【0046】
<マレイミド系共重合体(A-13)の製造例>
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン40質量部、アクリロニトリル16質量部、マレイン酸無水物5質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.2質量部、メチルエチルケトン20質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物16質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3質量部をメチルエチルケトン80質量部に溶解した溶液及びスチレン18質量部を7時間かけて連続的に添加した。更にマレイン酸無水物添加終了後、スチレン5質量部を2時間かけて連続的に添加した。スチレン添加後、120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン19質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-13を得た。得られたマレイミド系共重合体A-13の分析結果を表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(組成分析)
マレイミド系共重合体をC-13NMR法を用いて以下記載の測定条件で測定した。
装置名:FT-NMR AVANCE300(BRUKER社製)
溶媒:重水素化クロロホルム
濃度:14質量%
温度:27℃
積算回数:8000回
【0050】
(450nmにおける透過率)
マレイミド系共重合体をテトラヒドロフランに溶解して4質量%テトラヒドロフラン溶液を作成し、光路長10mm測定用の石英角セルに充填した後、分光光度計V-670ST(日本分光株式会社製)を用いて測定した。
【0051】
(ガラス転移温度)
JIS K-7121に準拠して、以下の装置及び測定条件によりマレイミド系共重合体の補外ガラス転移開始温度(Tig)を測定した。
装置名:Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
【0052】
(残存マレイミド単量体量)
手順:試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをガスクロマトグラフに注入する。得られたマレイミド系単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出した。
装置名:ガスクロマトグラフ GC-2010(株式会社島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラム DB-5ms(アジレント・テクノロジー株式会社製)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件) 80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
【0053】
<樹脂組成物>
実施例7~14、比較例8~16(マレイミド系共重合体とABS樹脂との混練混合)
マレイミド系共重合体A-1~A-13と、一般に市販されているABS樹脂GR-3000(デンカ株式会社製)とを表3及び表4に示した配合割合(質量%)でブレンドした後、二軸押出機TEM-35B(東芝機械株式会社製)を用いて、表3及び表4に示す条件にて押出しペレット化した。このペレットを使用し、射出成形機により試験片を作成して、各物性値の測定を行った。結果を表3及び表4に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
(シャルピー衝撃強度)
JIS K-7111に準拠して、ノッチあり試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して相対湿度50%、雰囲気温度23℃で測定した。なお、測定機はデジタル衝撃試験機(株式会社東洋精機製作所製)を使用した。シャルピー衝撃強度が15kJ/m以上の場合を良好であると判断した。
【0057】
(メルトマスフローレート)
JIS K7210に準拠して、220℃、98N荷重にて測定した。メルトマスフローレートが3g/10分以上の場合を良好であると判断した。
【0058】
(ビカット軟化点)
JIS K7206に準拠して、50法(荷重50N、昇温速度50℃/時間)で試験片は10mm×10mm、厚さ4mmのものを用いて測定した。なお、測定機はHDT&VSPT試験装置(株式会社東洋精機製作所製)を使用した。ビカット軟化点が110℃以上の場合を良好であると判断した。
【0059】
(耐薬品性)
試験片形状316×20×2mm、長半径250mm、短半径150mmの1/4楕円法により、23℃、48時間後のクラックを観察した。試験片は成形ひずみの影響を排除するため、260℃にてペレットをプレス成形して、切り出して製造した。薬品はトルエンを用いて行った。
なお、臨界ひずみは以下の式により算出した。
ε=b/2a{1-(a-b)X/a1.5×t×100
臨界ひずみ:ε、長半径:a、短半径:b、試験厚み:t、クラック発生点:X
臨界ひずみから以下の基準にて耐薬品性を評価した。
◎:0.8以上、○:0.6~0.7、△:0.3~0.5、×:0.2以下
【0060】
(YI(色相))
射出成形機IS-50EP(東芝機械株式会社製)により、プレート(9cm×5cm)を成形温度240℃で成形し、色差計COLOR-7e(倉敷紡績株式会社製)により黄色度YIを測定した。黄色度YIが40以下の場合を良好であると判断した。
【0061】
本発明の実施例1から実施例6のマレイミド系共重合体は、450nmの透過率が十分に高く、ガラス転移温度が十分に高いため、これらマレイミド系共重合体とABS樹脂とを混練混合した実施例7から実施例14の樹脂組成物は耐衝撃性、流動性、耐熱性、耐薬品性、色相が良好な樹脂組成物が得られた。また、ABS樹脂のマトリックス樹脂はAS樹脂であることから、AS樹脂や、AS樹脂をマトリックス樹脂としているAES樹脂及びASA樹脂においても、本発明のマレイミド系共重合体は同様の効果を与えることが期待できる。一方、本発明の範囲に満たない比較例1から比較例7のマレイミド系共重合体は、本発明の請求範囲から外れており、これらマレイミド系共重合体とABS樹脂とを混練混合した比較例8から比較例16の樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、耐熱性、耐薬品性、色相のいずれかが劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のマレイミド系共重合体は、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂及びSAN樹脂と混連混合することで色相、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、流動性の物性バランスに優れた樹脂組成物を得ることができる。得られた樹脂組成物は、自動車の内装部材や外装部材など材料として好適に使用できる。