(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】送風装置
(51)【国際特許分類】
F01P 5/06 20060101AFI20221212BHJP
F04D 29/28 20060101ALI20221212BHJP
F04D 29/16 20060101ALI20221212BHJP
B60K 11/06 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
F01P5/06 502D
F01P5/06 502C
F01P5/06 509
F01P5/06 511N
F04D29/28 N
F04D29/16
B60K11/06
(21)【出願番号】P 2020000976
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2020-09-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 耕一朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】北田 芳宏
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-018691(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030302(WO,A1)
【文献】特開2008-196397(JP,A)
【文献】特開2001-241325(JP,A)
【文献】特開平07-189687(JP,A)
【文献】特開平03-117616(JP,A)
【文献】特表2004-515677(JP,A)
【文献】特開2004-092583(JP,A)
【文献】実開昭62-61927(JP,U)
【文献】実開昭62-173600(JP,U)
【文献】国際公開第2017/145780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/06
F04D 29/28
F04D 29/16
B62J 50/30
B60K 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する駆動軸(22)と、前記駆動軸(22)と一体に回転するファン(51)と、前記ファン(51)を前記駆動軸(22)の軸方向の外側から覆うファンカバー(52)とを備え、前記ファン(51)の回転によって前記ファンカバー(52)を通じて吸い込んだ空気を前記ファン(51)の径方向外側に吹き出す送風装置において、
前記ファンカバー(52)は、前記ファン(51)に対し前記駆動軸(22)の前記軸方向の外側で当該軸方向に延びる筒状部(71)と、前記筒状部(71)内に設けられ、前記軸方向に交差する開口部(73)と、前記開口部(73)から前記ファン(51)に向けて前記軸方向に延びる開口部側リブ(77,377)とを備え、
前記ファン(51)における前記開口部(73)側の一側面(58a)には、前記駆動軸(22)の軸方向に延びる円周状のファン側リブ(60)が設けられ、
前記ファンカバー(52)は、前記筒状部(71)の側から前記ファン(51)に向けて前記軸方向に延びる筒状部側リブ(75)を備え、
前記筒状部側リブ(75)と、前記ファン側リブ(60)と、前記開口部側リブ(77,377)とによって、ラビリンス構造(80,380)が形成され、
前記ファン(51)は、前記ファン(51)の周方向に複数配置される羽部(56)と、複数の前記羽部(56)を前記周方向に接続するトップブレード(58)とを備え、前記一側面(58a)は前記トップブレード(58)の面であり、
前記開口部側リブ(77)は、前記ファン側リブ(60)に対し、前記ファン(51)の径方向の内側に位置し、
前記駆動軸(22)の軸方向視で、前記開口部側リブ(77,377)及び前記筒状部側リブ(75)は、前記一側面(58a)に重な
り、
前記ファン(51)の径方向視では、前記ファン側リブ(60)と前記筒状部側リブ(75)とは互いに重なるように配置され、前記ファン側リブ(60)と前記開口部側リブ(77,377)とは互いにオフセットされて配置されることを特徴とする送風装置。
【請求項2】
前記軸方向において、前記ファン(51)と前記開口部(73)との距離(L)は、開口部(73)の厚み(t)と同等以上であることを特徴とする請求項1記載の送風装置。
【請求項3】
前記トップブレード(58)は、複数の前記羽部(56)を前記周方向に接続する環状であることを特徴とする請求項1または2に記載の送風装置。
【請求項4】
前記ファン(51)の径方向視では、前記ファン(51)と前記開口部側リブ(77)とが重なることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の送風装置。
【請求項5】
前記トップブレード(58)において前記ファン側リブ(60)が設けられる面(58a)及び前記トップブレード(58)の内端(58d)と外端(58e)とを結んだ仮想の直線(58f)の少なくともいずれかに沿う向きで前記ファン(51)の径方向に見た場合、前記筒状部側リブ(75)、前記ファン側リブ(60)、及び前記開口部側リブ(77)の少なくとも2つが重なることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の送風装置。
【請求項6】
前記トップブレード(58)において前記ファン側リブ(60)が設けられる面(58a)及び前記トップブレード(58)の内端(58d)と外端(58e)とを結んだ仮想の直線(58f)の少なくともいずれかに沿う向きで前記ファン(51)の径方向に見た場合、前記筒状部側リブ(75)、前記ファン側リブ(60)、及び前記開口部側リブ(77)が重なることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の送風装置。
【請求項7】
前記開口部側リブ(77)は、前記開口部(73)の周囲に設けられる円周状であり、
前記開口部側リブ(77)と前記ファン側リブ(60)とは、同軸の位置関係で配置されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の送風装置。
【請求項8】
前記駆動軸(22)は、鞍乗り型車両(1)の動力発生装置(20)の駆動軸であって、車幅方向に延び、
前記ファンカバー(52)は、前記筒状部(71,271)が前記ファン(51)に対し車幅方向外側に延出するとともに前記開口部(73)が車両側面に位置する向きで配置されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の送風装置。
【請求項9】
前記動力発生装置(20)は、前記鞍乗り型車両(1)の車体(12)に連結部(28a)を介して接続され、
前記連結部(28a)は、前記駆動軸(22)よりも上方に配置され、
前記ファンカバー(52)は、車両側面視で、前記連結部(28a)を避けるように前記ファン(51)側に凹む逃げ部(52a)を備えることを特徴とする請求項8記載の送風装置。
【請求項10】
前記一側面(58a)は、前記駆動軸(22)の軸方向視で前記開口部側リブ(77,377)が前記一側面(58a)に重なる部分から前記筒状部側リブ(75)が前記一側面(58a)に重なる部分までが、前記ファン(51)の径方向内側から径方向外側に向かうに従って前記駆動軸(22)の軸方向内側に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の送風装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転する駆動軸と、駆動軸と一体に回転するファンと、ファンを駆動軸の軸方向の外側から覆うファンカバーとを備え、ファンの回転によってファンカバーを通じて吸い込んだ空気をファンの径方向外側に吹き出す送風装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のような送風装置では、ファンの送風によってファンの外周側で気流の圧力が高くなり、気流が吸い込み側に逆流することがある。このため、気流の逆流を低減することが望まれる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、送風装置において、気流の逆流を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
送風装置は、回転する駆動軸(22)と、前記駆動軸(22)と一体に回転するファン(51)と、前記ファン(51)を前記駆動軸(22)の軸方向の外側から覆うファンカバー(52)とを備え、前記ファン(51)の回転によって前記ファンカバー(52)を通じて吸い込んだ空気を前記ファン(51)の径方向外側に吹き出す送風装置において、前記ファンカバー(52)は、前記ファン(51)に対し前記駆動軸(22)の前記軸方向の外側で当該軸方向に延びる筒状部(71)と、前記筒状部(71)内に設けられ、前記軸方向に交差する開口部(73)と、前記開口部(73)から前記ファン(51)に向けて前記軸方向に延びる開口部側リブ(77,377)とを備え、前記ファン(51)における前記開口部(73)側の一側面(58a)には、前記駆動軸(22)の軸方向に延びる円周状のファン側リブ(60)が設けられ、前記ファンカバー(52)は、前記筒状部(71)の側から前記ファン(51)に向けて前記軸方向に延びる筒状部側リブ(75)を備え、前記筒状部側リブ(75)と、前記ファン側リブ(60)と、前記開口部側リブ(77,377)とによって、ラビリンス構造(80,380)が形成され、前記ファン(51)は、前記ファン(51)の周方向に複数配置される羽部(56)と、複数の前記羽部(56)を前記周方向に接続するトップブレード(58)とを備え、前記一側面(58a)は前記トップブレード(58)の面であり、前記開口部側リブ(77)は、前記ファン側リブ(60)に対し、前記ファン(51)の径方向の内側に位置し、前記駆動軸(22)の軸方向視で、前記開口部側リブ(77,377)及び前記筒状部側リブ(75)は、前記一側面(58a)に重なり、前記ファン(51)の径方向視では、前記ファン側リブ(60)と前記筒状部側リブ(75)とは互いに重なるように配置され、前記ファン側リブ(60)と前記開口部側リブ(77,377)とは互いにオフセットされて配置されることを特徴とする。
【0006】
また、上述の構成において、前記軸方向において、前記ファン(51)と前記開口部(73)との距離(L)は、前記開口部(73)の厚み(t)と同等以上であっても良い。
【0007】
さらに、上述の構成において、前記トップブレード(58)は、複数の前記羽部(56)を前記周方向に接続する環状であっても良い。
また、上述の構成において、前記ファン(51)の径方向視では、前記ファン(51)と前記開口部側リブ(77)とが重なっても良い。
【0009】
また、上述の構成において、前記トップブレード(58)において前記ファン側リブ(60)が設けられる面(58a)及び前記トップブレード(58)の内端(58d)と外端(58e)とを結んだ仮想の直線(58f)の少なくともいずれかに沿う向きで前記ファン(51)の径方向に見た場合、前記筒状部側リブ(75)、前記ファン側リブ(60)、及び前記開口部側リブ(77)の少なくとも2つが重なっても良い。
【0010】
また、上述の構成において、前記トップブレード(58)において前記ファン側リブ(60)が設けられる面(58a)及び前記トップブレード(58)の内端(58d)と外端(58e)とを結んだ仮想の直線(58f)の少なくともいずれかに沿う向きで前記ファン(51)の径方向に見た場合、前記筒状部側リブ(75)、前記ファン側リブ(60)、及び前記開口部側リブ(77)が重なっても良い。
また、上述の構成において、前記開口部側リブ(77)は、前記開口部(73)の周囲に設けられる円周状であり、前記開口部側リブ(77)と前記ファン側リブ(60)とは、同軸の位置関係で配置されても良い。
【0011】
また、上述の構成において、前記駆動軸(22)は、鞍乗り型車両(1)の動力発生装置(20)の駆動軸であって、車幅方向に延び、前記ファンカバー(52)は、前記筒状部(71,271)が前記ファン(51)に対し車幅方向外側に延出するとともに前記開口部(73)が車両側面に位置する向きで配置されても良い。
さらに、上述の構成において、前記動力発生装置(20)は、前記鞍乗り型車両(1)の車体(12)に連結部(28a)を介して接続され、前記連結部(28a)は、前記駆動軸(22)よりも上方に配置され、前記ファンカバー(52)は、車両側面視で、前記連結部(28a)を避けるように前記ファン(51)側に凹む逃げ部(52a)を備えても良い。
また、前記一側面(58a)は、前記駆動軸(22)の軸方向視で前記開口部側リブ(77,377)が前記一側面(58a)に重なる部分から前記筒状部側リブ(75)が前記一側面(58a)に重なる部分までが、前記ファン(51)の径方向内側から径方向外側に向かうに従って前記駆動軸(22)の軸方向内側に位置するように傾斜していても良い。
【発明の効果】
【0012】
送風装置は、回転する駆動軸と、駆動軸と一体に回転するファンと、ファンを駆動軸の軸方向の外側から覆うファンカバーとを備え、ファンの回転によってファンカバーを通じて吸い込んだ空気をファンの径方向外側に吹き出し、ファンカバーは、ファンに対し駆動軸の軸方向の外側で当該軸方向に延びる筒状部と、筒状部内に設けられ、前記軸方向に交差する開口部と、開口部からファンに向けて軸方向に延びる開口部側リブとを備え、ファンにおける開口部側の一側面には、駆動軸の軸方向に延びる円周状のファン側リブが設けられ、筒状部と、ファン側リブと、開口部側リブとによって、ラビリンス構造が形成される。
この構成によれば、筒状部と、ファン側リブと、開口部側リブとによって形成されるラビリンス構造によって、ファンの径方向外側から開口部に流れる気流が減少する。このため、気流の逆流を低減できる。
【0013】
また、上述の構成において、開口部側リブは、ファン側リブに対し、ファンの径方向の内側に位置しても良い。
この構成によれば、ファン側リブに対しファンの径方向の内側の位置にラビリンス構造を形成できるため、開口部に近い位置で効果的に逆流を低減できる。
また、上述の構成において、軸方向において、ファンと開口部との距離は、開口部の厚みと同等以上であっても良い。
この構成によれば、軸方向において、開口部とファンとの間に開口部の厚みと同等以上の空間を確保でき、開口部を通った直後に発生する乱流を上記空間によって整流できる。このため、送風の効率が良い。
【0014】
さらに、上述の構成において、ファンは、ファンの周方向に複数配置される羽部と、複数の羽部を周方向に接続する環状のトップブレードとを備え、ファン側リブは、トップブレードに設けられても良い。
この構成によれば、トップブレードを利用して、開口部側リブに近い位置にファン側リブを簡単な構造で設けることができる。また、トップブレードの剛性をファン側リブによって増加させることができる。
また、上述の構成において、ファンの径方向視では、ファンと開口部側リブとが重なっても良い。
この構成によれば、駆動軸の軸方向において、開口部側リブをファンに近づけて配置でき、ラビリンス構造を狭くできる。このため、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0015】
また、上述の構成において、ファンカバーは、筒状部の側からファンに向けて軸方向に延びる筒状部側リブを備えても良い。
この構成によれば、筒状部側リブによってラビリンス構造を複雑な形状にでき、気流の逆流を効果的に低減できる。
また、上述の構成において、トップブレードにおいてファン側リブが設けられる面及びトップブレードの内端と外端とを結んだ仮想の直線の少なくともいずれかに沿う向きでファンの径方向に見た場合、筒状部、ファン側リブ、及び開口部側リブの少なくとも2つが重なっても良い。
この構成によれば、ラビリンス構造の気流の通路を屈曲させることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0016】
また、上述の構成において、トップブレードにおいてファン側リブが設けられる面及びトップブレードの内端と外端とを結んだ仮想の直線の少なくともいずれかに沿う向きでファンの径方向に見た場合、筒状部側リブ、ファン側リブ、及び開口部側リブの少なくとも2つが重なっても良い。
この構成によれば、ラビリンス構造の気流の通路を屈曲させることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
さらに、上述の構成において、トップブレードにおいてファン側リブが設けられる面及びトップブレードの内端と外端とを結んだ仮想の直線の少なくともいずれかに沿う向きでファンの径方向に見た場合、筒状部、ファン側リブ、及び開口部側リブが重なっても良い。
この構成によれば、ラビリンス構造の気流の通路を複数個所で屈曲させることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0017】
また、上述の構成において、トップブレードにおいてファン側リブが設けられる面及びトップブレードの内端と外端とを結んだ仮想の直線の少なくともいずれかに沿う向きでファンの径方向に見た場合、筒状部側リブ、ファン側リブ、及び開口部側リブが重なっても良い。
この構成によれば、ラビリンス構造の気流の通路を複数個所で屈曲させることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
また、上述の構成において、開口部側リブは、開口部の周囲に設けられる円周状であり、開口部側リブとファン側リブとは、同軸の位置関係で配置されても良い。
この構成によれば、ラビリンス構造を開口部の周囲に円周状に設けることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0018】
また、上述の構成において、駆動軸は、鞍乗り型車両の動力発生装置の駆動軸であって、車幅方向に延び、ファンカバーは、筒状部がファンに対し車幅方向外側に延出するとともに開口部が車両側面に位置する向きで配置されても良い。
この構成によれば、開口部が車両側面に位置する向きで配置される場合、開口部から空気を吸い込み難くなるが、筒状部が車幅方向外側に延びるため、筒状部の開口部から効率良く空気を吸い込むことができ、気流の逆流を低減できる。
さらに、上述の構成において、動力発生装置は、鞍乗り型車両の車体に連結部を介して接続され、連結部は、駆動軸よりも上方に配置され、ファンカバーは、車両側面視で、連結部を避けるようにファン側に凹む逃げ部を備えても良い。
この構成によれば、逃げ部が形成されると気流の通路が狭くなって気流が逆流し易くなるが、ラビリンス構造によって逆流を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【
図5】ファンを車幅方向外側から見た斜視図である。
【
図6】ファンカバーを車幅方向内側から見た側面図である。
【
図7】ファンカバーを車幅方向内側から見た斜視図である。
【
図8】流体の解析プログラムにより気流の流れを解析した結果を示す図である。
【
図9】第2の実施の形態において
図2のIV-IV断面図に対応する図である。
【
図10】第3の実施の形態において
図2のIV-IV断面図に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号RHは車体右方を示す。
【0021】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車1の右側面図である。
図2は、自動二輪車1の後部の右側面図である。
自動二輪車1は、シート10に着座する乗員が足を乗せる低床のステップフロア11を有するスクーター型の鞍乗り型車両である。自動二輪車1は、車体フレーム12(車体)(
図2)の前方に前輪2を有し、駆動輪である後輪3は、車両後部に配置されるユニットスイングエンジン13に軸支される。
【0022】
自動二輪車1は、車体フレーム12の前端部に軸支されるフロントフォーク14を備え、前輪2は、フロントフォーク14の下端部に軸支される。乗員が操舵するハンドル15は、シート10の前上方でフロントフォーク14の上端に取り付けられる。
自動二輪車1は、車体フレーム12等の車体を覆う車体カバー16を備える。
なお、
図2では、車体カバー16は不図示である。
【0023】
ユニットスイングエンジン13は、内燃機関であるエンジン本体20(動力発生装置)と後輪3を支持するアーム部21とが一体化されたユニットスイング型のエンジンである。ユニットスイングエンジン13は、車両側面視で、シート10の真下に位置する。
後輪3は、アーム部21の後端部に設けられる後輪車軸3aに支持される。
【0024】
エンジン本体20は、車幅方向(左右方向)に延びるクランク軸22(駆動軸)を支持するクランクケース23と、クランクケース23から前方へ延びるシリンダー部24とを備える。
シリンダー部24は、クランクケース23側から順に、シリンダー24a、シリンダーヘッド24b、及びヘッドカバー24cを備える。
エンジン本体20は、シリンダー部24のシリンダー軸線24dが略水平に車両前後方向へ延びる水平エンジンである。詳細には、シリンダー部24は、車両側面視でやや前上がりに車両前方へ略水平に延びる。
【0025】
車体フレーム12は、クランクケース23の前方で後上がりに延びる左右一対の後部フレーム12aを備える。シリンダー部24は、クランクケース23から前方に延びて左右の後部フレーム12aの間の空間に位置する。
ユニットスイングエンジン13は、ユニットスイングエンジン13の上方に設けられるリンク機構28を介し、後部フレーム12aに揺動自在に支持される。
リンク機構28は、クランクケース23の上部に連結される揺動軸28a(連結部)と、左右の後部フレーム12aの上部に連結される左右一対の車体側揺動軸28bと、揺動軸28aと車体側揺動軸28bとを接続するリンク部材28cとを備える。
【0026】
揺動軸28a及び車体側揺動軸28bは、車幅方向に延びる水平な軸である。
リンク部材28cは、車体側揺動軸28bを介して後部フレーム12aに連結される左右一対の第1ピボット部28dと、左右の第1ピボット部28dを車幅方向に接続する棒状の左右連結部28eと、左右連結部28eの車幅方向の中間部から下方に延びて揺動軸28aに連結される第2ピボット部28fとを備える。
ユニットスイングエンジン13は、揺動軸28a及び車体側揺動軸28bを中心として揺動可能である。揺動軸28aは、クランク軸22よりも上方に配置される。
ユニットスイングエンジン13のアーム部21は、後輪3に対し左右の一方側(左側)に配置される。アーム部21の後端部と後部フレーム12aの後部との間には、リアクッション(不図示)が掛け渡される。
【0027】
ユニットスイングエンジン13の吸気装置は、エアクリーナーボックス32と、エアクリーナーボックス32の前方に配置されるスロットルボディ(不図示)とを備える。
エアクリーナーボックス32は、アーム部21の上部に取り付けられる。上記スロットルボディは、シリンダーヘッド24bの上面の吸気ポートに接続される。
【0028】
排気管33は、シリンダーヘッド24bの下面の排気ポートから下方に延出し、ユニットスイングエンジン13の右側方を通って後方に延びる。排気管33の後端部には、マフラー34が接続される。マフラー34は、後輪3に対し左右の他方側(右側)に配置され、後輪3に車幅方向外側から重なる。
【0029】
図3は、ユニットスイングエンジン13の断面図である。
図3は、シリンダーヘッド24bの動弁装置のカム軸39、クランクピン38、クランク軸22、変速機構43、及び減速機構45の各軸の軸線を通る断面を上方側から見た図である。
クランクケース23は、車幅方向に延びるクランク軸22を収容するクランク室35を備える。クランク室35は、クランク軸22に直交する支持壁35a,35bを左右一対備える。クランク軸22は、ベアリングを介し、支持壁35a,35bに支持される。
ピストン36は、シリンダー24a内をシリンダー軸線24dの軸方向に往復する。ピストン36は、コンロッド37及びクランクピン38を介し、クランク軸22に連結される。
シリンダーヘッド24bには、動弁装置が設けられる。動弁装置のカム軸39は、クランク軸22と平行である。
【0030】
クランクケース23は、クランク室35における左右の一方側(左側)の側部から後方に延びる変速機ケース部40を一体に備える。変速機ケース部40は、クランク室35の側方の部分から後輪3の左側方まで延びる。
変速機ケース部40は、車幅方向の外側面が開放したケース状に形成される。変速機ケース部40の外側面の開放部は、変速機ケース部40の外側面に取り付けられるケースカバー41によって塞がれる。
【0031】
ユニットスイングエンジン13のアーム部21は、変速機ケース部40とケースカバー41とによって構成される。アーム部21は中空である。
アーム部21内には、クランク軸22の回転を変速して後輪3側に伝達する変速機構43と、遠心式のクラッチ機構44と、複数のギヤで構成される減速機構45とが設けられる。
クランク軸22の駆動力は、変速機構43、クラッチ機構44、及び減速機構45を介し、後輪車軸3aに伝達される。
【0032】
クランク軸22の一端部22aは、左側の支持壁35aを貫通してアーム部21内に位置する。
変速機構43は、ベルト式の無段変速機であり、クランク軸22の一端部22aに設けられるドライブプーリー43aと、アーム部21の後部に設けられる出力軸43bと、出力軸43bに支持されるドリブンプーリー43cと、ドライブプーリー43aとドリブンプーリー43cとを接続するVベルト43dとを備える。クラッチ機構44は、出力軸43b上に設けられる。出力軸43bは、減速機構45を介し後輪車軸3aに接続される。
【0033】
クランク軸22の他端部22bは、右側の支持壁35bを貫通してクランクケース23の外側方に延びる。
クランク軸22の他端部22bには、クランク軸22と一体に回転するフライホイール47が固定される。
フライホイール47の内側には、クランク軸22の回転によって発電する発電機48が設けられる。発電機48は、フライホイール47の内周に固定される磁石48aと、磁石48aに対しフライホイール47の径方向内側に配置されるコイル48bとを備える。コイル48bは、クランクケース23に固定される。
【0034】
ユニットスイングエンジン13は、エンジン本体20に向けて送風してエンジン本体20を空冷する送風装置50を備える。
送風装置50は、クランク軸22と、クランク軸22に固定され、クランク軸22と一体に回転するファン51と、ファン51を外側から覆うファンカバー52と、シリンダー部24を覆うシリンダー部カバー53とを備える。
【0035】
シリンダー部カバー53は、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bをシリンダー軸線24dの周囲から囲うように設けられ、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bを略全周に亘って覆う。
シリンダー部カバー53とシリンダー部24との間に形成される空間は、ファン51によって送られる気流が通る風路54である。風路54内において、シリンダー24aの外面には、冷却フィン49が設けられる。
ファンカバー52は、クランクケース23における車幅方向の外側面部23aに取り付けられ、外側面部23a及びファン51を車幅方向外側から覆う。ファンカバー52の前縁部は、シリンダー部カバー53の後縁部に接続され、ファンカバー52の内側の空間は、風路54に連通する。
【0036】
ファン51は、フライホイール47の車幅方向外側の側面に締結される。すなわち、ファン51は、フライホイール47を介し、クランク軸22の軸方向の端部に固定される。
ファン51は、クランク軸22と一体に回転することで、ファンカバー52を通じて外側から空気を吸い込み、ファンカバー52の内側に吸い込んだ空気をファン51の径方向外側に吹き出す。
ファン51が吹き出す気流は、風路54を通ってシリンダー24a及びシリンダーヘッド24bの周囲に到達し、シリンダー24a及びシリンダーヘッド24bを冷却する。
すなわち、エンジン本体20は、クランク軸22が駆動するファン51の送風によってエンジン本体20を強制的に空冷する強制空冷式である。
風路54の気流は、シリンダー部カバー53に設けられる排出口(不図示)から外側に排出される。
【0037】
図4は、
図2のIV-IV断面図であり、クランク軸22の軸心を通る断面図である。
図5は、ファン51を車幅方向外側から見た斜視図である。
図4及び
図5を参照し、ファン51は、ファン51の回転中心に位置する円板状のベース部55と、ベース部55においてファン51の周方向に略等間隔で並べて複数配置される羽部56と、複数の羽部56をファン51の周方向に接続する円環状のトップブレード58とを備える。
【0038】
ベース部55は、クランク軸22の軸線22cの延長線上に配置される。ファン51の回転中心は、クランク軸22の回転中心である軸線22cに一致する。クランク軸22の軸方向は、軸線22cの延在方向であり、車幅方向に一致する。
ファン51は、ベース部55の固定孔55a(
図5)に車幅方向外側から挿通される締結具59(
図4)によって、フライホイール47に締結される。
【0039】
各羽部56は、ベース部55の周縁部から車幅方向外側に向かってクランク軸22の軸方向に立設される板状部である。各羽部56は、クランク軸22の軸方向に見た場合、ベース部55の周縁部からファン51の径方向外側に延びる。
羽部56のベース部55からの立設方向を羽部56の高さ方向とした場合、羽部56の高さは、ファン51の中心側から径方向外側に向かうに従って低くなる。すなわち、羽部56の高さ方向の先端縁56aは、ファン51の径方向外側に向かうに従って下るように傾斜する。なお、先端縁56aの符号は、複数の先端縁56aの一部のみに付されている。
【0040】
トップブレード58は、クランク軸22の軸方向視でクランク軸22の軸線22cと同軸に配置される円環状の板である。トップブレード58は、軸線22cを中心に羽部56と一体に回転する。トップブレード58は、各羽部56の先端縁56aにクランク軸22の軸方向の外側から結合され、各羽部56を互いにファン51の周方向に接続する。トップブレード58は、ファン51の強度及び剛性を増加させる。
トップブレード58の上面58a(開口部側の一側面、ファン側リブが設けられる面)は、羽部56の先端縁56aに沿っており、ファン51の径方向外側に向かうに従って下るように傾斜する。換言すると、トップブレード58においてクランク軸22の軸方向外側の面である上面58aは、ファン51の径方向内側から径方向外側に向かうに従ってクランク軸22の軸方向内側に位置するように傾斜する。
また、トップブレード58の上面58aは、ファン51における車幅方向外側の面であるとともに、クランク軸22の軸方向において、ファン51におけるファンカバー52側の面である。
【0041】
ファン51のトップブレード58の上面58aには、ファンカバー52側に向かってクランク軸22の軸方向に延びるファン側リブ60が設けられる。
ファン側リブ60は、クランク軸22の軸方向視では、クランク軸22の軸線22cと同軸に配置される円周状である。
ファン側リブ60は、トップブレード58の内周縁58bとトップブレード58の外周縁58cとの間において、内周縁58bと外周縁58cとの間の中間部に配置される。
【0042】
図6は、ファンカバー52を車幅方向内側から見た側面図である。
図7は、ファンカバー52を車幅方向内側から見た斜視図である。
図2、
図4、
図6、及び
図7を参照し、ファンカバー52は、クランクケース23の外側面部23a及びファン51を車幅方向外側から覆う側壁部65と、側壁部65の周縁部から車幅方向内側に延出してファン51を周囲から囲む周壁部66とを備える。
【0043】
ファンカバー52の周壁部66の前面には前方に開放する開放部66aが形成されており、ファンカバー52の内側の空間は、開放部66aを介してシリンダー部カバー53の風路54(
図3)に連通する。
ファンカバー52は、周壁部66の上部から上方に延びる上側取付部67と、周壁部66の下部から下方に延びる下側取付部68とを備える。
また、ファンカバー52は、側壁部65の前縁部に、前側取付部69を複数備える。
【0044】
ファンカバー52は、上側取付部67に車幅方向外側から挿通される締結具67a(
図2)と、下側取付部68に車幅方向外側から挿通される締結具68a(
図2)とによって、クランクケース23の外側面部23aに締結される。
ファンカバー52がクランクケース23に取り付けられた状態では、周壁部66の車幅方向内側の端面66bは、クランクケース23の外側面部23aに当接する。
ファンカバー52の前端部は、前側取付部69に車幅方向外側から挿通される締結具69a(
図2)によって、シリンダー部カバー53の後端部に接続される。
【0045】
ファンカバー52は、側壁部65の下部から車幅方向外側且つ下方に延出する排気管カバー部70を備える。排気管カバー部70は、ファンカバー52の下方を前後に通る排気管33を上方及び外側方から覆う。
【0046】
ファンカバー52の側壁部65は、ファン51に対しクランク軸22の軸方向の外側でクランク軸22の軸方向に延びる筒状部71と、クランク軸22の軸線22cに交差する網目部72(網目)を筒状部71の筒内に形成する開口部73とを備える。開口部73は、網目部72を気流が通過可能なルーバー部である。
【0047】
筒状部71は、側壁部65にける筒状部71の周囲の部分に対し車幅方向外側に突出する円筒状である。筒状部71は、クランク軸22の軸方向視(車両側面視)では、ファン51に車幅方向外側から重なる。
詳細には、筒状部71は、クランク軸22の軸線22cと同軸に配置される円筒状であり、クランク軸22の軸方向視では、ファン51のトップブレード58に車幅方向外側から重なる。
【0048】
ファンカバー52は、筒状部71の車幅方向内側の端部からファン51に向けてクランク軸22の軸方向に延びる筒状部側リブ75を備える。
筒状部側リブ75は、クランク軸22の軸方向視では、クランク軸22の軸線22cと同軸に配置される円周状である。
筒状部側リブ75は、クランク軸22の軸方向視では、ファン51のトップブレード58に車幅方向外側から重なる。
なお、筒状部側リブ75は、筒状部71をファン51に向けて延長するようにして筒状部71に設けられているが、これに限らず、例えば、筒状部側リブ75は、筒状部71よりも径方向外側の位置で、側壁部65の内面に設けられても良い。
【0049】
筒状部71の車幅方向外側の端部には、車幅方向外側(クランク軸22の軸方向の外側)に向かうに従って筒状部71の内径が小径になるテーパー部71aが設けられる。
開口部73は、筒状部71のテーパー部71aの内周部からファン51に向けて車幅方向内側(クランク軸22の軸方向の内側)に延出する内側筒状部76と、網目部72とを備える。
内側筒状部76は、網目部72を支持する円筒状の枠であり、クランク軸22の軸線22cと同軸に配置される。すなわち、内側筒状部76は、筒状部71の内側に、筒状部71と同軸の位置関係で配置される。
【0050】
開口部73の網目部72は、クランク軸22の軸方向に貫通する孔72aを複数備える円板状の板部材であり、内側筒状部76に外周部を支持される。網目部72は、自動二輪車1の車両側面に位置する。
網目部72は、クランク軸22の軸線22cの延長線上に位置する中心部72bが最もクランク軸22の軸方向外側に突出するように曲面状に形成されている。網目部72は、中心部72bから径方向外側に向かうに従ってファン51側に近づくように湾曲している。すなわち、網目部72の車幅方向の内側面72cは、球体の内周の一部を構成するように曲面状に形成される。網目部72の内側面72cは、ファン51におけるクランク軸22の軸方向外側の側面に対向する面であり、トップブレード58の上面58aに対向する。トップブレード58の上面58aは、ファン51における開口部73側の一側面である。
【0051】
ファンカバー52は、開口部73からファン51に向けてクランク軸22の軸方向に延びる開口部側リブ77を備える。
開口部側リブ77は、クランク軸22の軸方向視では、クランク軸22の軸線22cと同軸に配置される円周状である。
開口部側リブ77は、クランク軸22の軸方向視では、ファン51のトップブレード58に車幅方向外側から重なる。
【0052】
開口部側リブ77は、内側筒状部76をファン51に向けてクランク軸22の軸方向に延出するようにして形成される。開口部側リブ77は、網目部72の内側面72cに対し、ファン51側に突出する。クランク軸22の軸方向視では、開口部側リブ77は、網目部72を周囲から囲む。
ファンカバー52は、クランク軸22の軸方向において、開口部側リブ77の先端とファン51との間に隙間ができるように配置される。
網目部72とファン51との間には、開口部側リブ77が配置されるため、網目部72とファン51との間隔は比較的大きくなる。詳細には、クランク軸22の軸方向において、網目部72の内側面72cとファン51の先端縁56aとの間の距離Lは、網目部72の厚みtと同等以上の大きさである。
網目部72とファン51との間には、開口部側リブ77によって囲まれる空間78が形成される。
【0053】
図4を参照し、羽部56の先端縁56aの一部56bは、空間78内に位置し、ファン51の径方向に見た場合、ファン51の先端縁56aと開口部側リブ77とは重なる。すなわち、ファン51と開口部側リブ77とは、クランク軸22の軸方向において一部が重複する。
【0054】
図2、
図6、及び
図7を参照し、ファンカバー52の上部において揺動軸28aの下方には、揺動軸28aを避けるように周壁部66及び側壁部65がファン51側に凹む逃げ部52aが設けられる。逃げ部52aが設けられることで、ファンカバー52が揺動軸28aの邪魔にならず、揺動軸28aを車幅方向外側からクランクケース23に組み付けできる。
逃げ部52aが設けられた部分では、ファンカバー52の内面とファン51の外周との距離が近くなるため、ファンカバー52内を流れる気流の圧力や速度が変化し易くなる。
【0055】
図4を参照し、ファン51のトップブレード58、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77は、ファン51の外周側から開口部73側への気流の逆流を低減するラビリンス構造80を形成する。
筒状部側リブ75は、ファン側リブ60に対しファン51の径方向外側に位置し、クランク軸22の軸方向視では、ファン側リブ60の径方向外側の位置でトップブレード58に車幅方向外側から重なる。筒状部側リブ75の先端とトップブレード58の上面58aとの間には、クランク軸22の軸方向に隙間が形成される。
【0056】
開口部側リブ77は、ファン側リブ60に対しファン51の径方向内側に位置し、クランク軸22の軸方向視では、ファン側リブ60の径方向内側の位置でトップブレード58に車幅方向外側から重なる。開口部側リブ77の先端とトップブレード58の上面58aとの間には、クランク軸22の軸方向に隙間が形成される。
筒状部側リブ75の先端は、開口部側リブ77の先端よりもクランク軸22の軸方向内側まで延びる。
ファン側リブ60は、ファン51の径方向において、筒状部側リブ75と開口部側リブ77との間に位置し、筒状部71と内側筒状部76との間の空間81に向けて延出する。
筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77は、それぞれ円周状であり、互いに同軸に配置される。
【0057】
ここで、送風装置50の送風による気流Wの流れについて説明する。
図4を参照し、クランク軸22と一体にファン51が回転すると、ファンカバー52の外側の空気は、気流Wとして網目部72から吸い込まれる。気流Wは、網目部72を通って車幅方向内側に流れ、開口部側リブ77によって囲まれる空間78に入り、開口部側リブ77にガイドされてファン51に吸い込まれる。
送風装置50では、網目部72の内側面72cとファン51の先端縁56aとの間に、網目部72の厚みtと同等以上の大きさの距離Lが設けられる。このため、内側面72cを通過した直後の部分で気流Wに乱流が発生したとしても、距離Lの比較的長い流路を通る際に乱流は整った流れに整流される。このため、ファン51の送風の効率が良い。
【0058】
ファン51に吸い込まれた気流Wは、ファン51の径方向外側に吹き出され、ファンカバー52の内側を通ってシリンダー部カバー53内の風路54に流れ、シリンダー部24を空冷する。
ファン51の外周側の気流Wの圧力は、開口部73側の気流Wの圧力よりも高くなることがある。この場合、気流Wの一部は、ファン51とファンカバー52との間の隙間を通って、ファン51の外周側から開口部73側に逆流することがある。
【0059】
送風装置50では、ファン51とファンカバー52との間にラビリンス構造80が設けられるため、ラビリンス構造80が逆流する気流W1の抵抗となり、逆流が低減される。
ラビリンス構造80は、トップブレード58と、トップブレード58に設けられるファン側リブ60と、クランク軸22の軸方向視でトップブレード58に重なる筒状部側リブ75及び開口部側リブ77によって形成される。このため、簡単な構造でラビリンス構造80を形成できる。
【0060】
ラビリンス構造80を、トップブレード58の上面58aに沿う向き、すなわち
図4の矢印Dの向きで、ファン51の径方向に見た場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77の3つは互いに重なる。このため、逆流する気流W1は、ラビリンス構造80を通る際、複数回屈曲するように流れ、蛇行する。このため、逆流に対する抵抗を大きくでき、ラビリンス構造80によって効果的に逆流を低減できる。
また、
図4には、トップブレード58の上面58aにおける径方向の内端58dと外端58eとを結んだ仮想の直線58fが図示される。ラビリンス構造80を、仮想の直線58fに沿う向きで、ファン51の径方向に見た場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77の3つは互いに重なる。例えば、上面58aが
図4のような平坦面ではなく、断面視で円弧状に湾曲している場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77の3つは、仮想の直線58fに沿う向きでファン51の径方向に見た場合に重なっていれば良い。
すなわち、トップブレード58の上面58a及び仮想の直線58fの少なくともいずれかに沿う向きでファン51の径方向に見た場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77は重なる。
【0061】
図8は、流体の解析プログラムにより気流の流れを解析した結果を示す図である。
図8中の矢印の方向は、気流の向きを示し、
図8中の矢印の長さは、気流の速度の大きさを示す。
図8中に符号100で示される左側の欄には、送風装置50の気流の解析結果が示される。
図8中に符号200で示される右側の欄には、送風装置50から開口部側リブ77を削除した比較例における気流の解析結果が示される。
送風装置50では、開口部側リブ77の近傍の領域A1において、比較例の対応する領域A1に対し、逆流する方向の気流が減少している。
また、送風装置50では、筒状部側リブ75の近傍の領域A2において、比較例の対応する領域A2に対し、逆流する方向の気流の速度が小さくなっている。
このように、開口部側リブ77を備えるラビリンス構造80によって気流の逆流が低減される解析結果が得られた。
【0062】
以上説明したように、本発明を適用した第1の実施の形態によれば、送風装置50は、回転するクランク軸22と、クランク軸22と一体に回転するファン51と、ファン51をクランク軸22の軸方向の外側から覆うファンカバー52とを備え、ファン51の回転によってファンカバー52を通じて吸い込んだ空気をファン51の径方向外側に吹き出し、ファンカバー52は、ファン51に対しクランク軸22の軸方向の外側で当該軸方向に延びる筒状部71と、筒状部71内に設けられ、軸方向に交差する開口部73と、開口部73からファン51に向けて軸方向に延びる開口部側リブ77とを備え、ファン51における開口部73側の一側面には、クランク軸22の軸方向に延びる円周状のファン側リブ60が設けられ、筒状部71と、ファン側リブ60と、開口部側リブ77とによって、ラビリンス構造80が形成される。
この構成によれば、筒状部71と、ファン側リブ60と、開口部側リブ77とによって形成されるラビリンス構造80によって、ファン51の径方向外側から開口部73に流れる気流が減少する。このため、気流の逆流を低減できる。
【0063】
また、開口部側リブ77は、ファン側リブ60に対し、ファン51の径方向の内側に位置する。
この構成によれば、ファン側リブ60に対しファン51の径方向の内側の位置にラビリンス構造80を形成できるため、開口部73に近い位置で効果的に逆流を低減できる。
また、クランク軸22の軸方向において、ファン51と開口部73との距離Lは、開口部73の厚みtと同等以上である。
この構成によれば、クランク軸22の軸方向において、開口部73とファン51との間に開口部73の厚みtと同等以上の大きさの空間を確保でき、開口部73を通った直後に発生する乱流をこの空間によって整流できる。このため、送風の効率が良い。
【0064】
さらに、ファン51は、ファン51の周方向に複数配置される羽部56と、複数の羽部56を周方向に接続する環状のトップブレード58とを備え、ファン側リブ60は、トップブレード58に設けられる。
この構成によれば、トップブレード58を利用して、開口部側リブ77に近い位置にファン側リブ60を簡単な構造で設けることができる。また、トップブレード58の剛性をファン側リブ60によって増加させることができる。
また、ファン51の径方向視では、ファン51と開口部側リブ77とが重なる。
この構成によれば、クランク軸22の軸方向において、開口部側リブ77をファン51に近づけて配置でき、ラビリンス構造80を狭くできる。このため、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0065】
また、ファンカバー52は、筒状部71の側からファン51に向けて軸方向に延びる筒状部側リブ75を備える。
この構成によれば、筒状部側リブ75によってラビリンス構造80を複雑な形状にでき、気流の逆流を効果的に低減できる。
さらに、トップブレード58においてファン側リブ60が設けられる面である上面58a及びトップブレード58の内端58dと外端58eとを結んだ仮想の直線58fの少なくともいずれかに沿う向きでファン51の径方向に見た場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77が重なる。
この構成によれば、ラビリンス構造80の気流の通路を複数個所で屈曲させることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
また、開口部側リブ77は、開口部73の周囲に設けられる円周状であり、開口部側リブ77とファン側リブ60とは、同軸の位置関係で配置される。
この構成によれば、ラビリンス構造80を開口部73の周囲に円周状に設けることができ、気流の逆流を効果的に低減できる。
【0066】
また、クランク軸22は、自動二輪車1のエンジン本体20の駆動軸であって、車幅方向に延び、ファンカバー52は、筒状部71がファン51に対し車幅方向外側に延出するとともに開口部73が車両側面に位置する向きで配置される。
この構成によれば、開口部73が車両側面に位置する向きで配置される場合、開口部73から空気を吸い込み難くなるが、筒状部71が車幅方向外側に延びるため、筒状部71の開口部73から効率良く空気を吸い込むことができ、気流の逆流を低減できる。
さらに、エンジン本体20は、自動二輪車1の車体フレーム12に揺動軸28aを介して接続され、揺動軸28aは、クランク軸22よりも上方に配置され、ファンカバー52は、車両側面視で、揺動軸28aを避けるようにファン51側に凹む逃げ部52aを備える。
この構成によれば、逃げ部52aが形成されると気流の通路が狭くなって気流が逆流し易くなるが、この場合であってもラビリンス構造80によって逆流を低減できる。
【0067】
なお、上記第1の実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記第1実施の形態に限定されるものではない。
上記第1の実施の形態では、駆動軸として、エンジン本体20のクランク軸22を例に挙げて説明したが、駆動軸は、ファンを一体に回動させるものであれば特に限定されない。例えば、駆動軸は、電動車両のモーターの軸や、このモーターによって回転させられる軸であっても良い。
また、上記第1の実施の形態では、
図4の矢印Dの向き及び仮想の直線58fに沿う向きの少なくともいずれかの向きで、ファン51の径方向に見た場合、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77の3つは互いに重なるものとして説明したが、本発明はこれに限定されない。筒状部側リブ75、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77は、少なくとも2つが重なっていれば良く、例えば、ファン側リブ60と開口部側リブ77とが重なる構成としても良い。
また、上記第1の実施の形態では、鞍乗り型車両として自動二輪車1を例に挙げて説明したが、鞍乗り型車両は、前輪または後輪を2つ備える3輪の鞍乗り型車両、または、4輪以上を備える鞍乗り型車両であっても良い。
また、上記第1の実施の形態では、開口部側リブ77と筒状部側リブ75とは軸線22cを中心に全周に亘って形成されているが、開口部側リブ77及び筒状部側リブ75の軸心が軸線22cからファン51の径方向にオフセットしたり、開口部側リブ77及び筒状部側リブ75の円周上において開口部側リブ77及び筒状部側リブ75が一部形成されない箇所が複数あったりしてもよい。
【0068】
[第2の実施の形態]
以下、
図9を参照して、本発明を適用した第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
本第2の実施の形態は、筒状部側リブ75が設けられていない点が、上記第1の実施の形態と異なる。
【0069】
図9は、第2の実施の形態において
図2のIV-IV断面図に対応する図である。
図9及び
図4を参照し、第2の実施の形態の筒状部271は、
図4のファンカバー52の側壁部65において筒状部71の外周に接続される部分65aを、
図4の筒状部側リブ75の形状の先端に接続するようにして形成されている。
図9の矢印Dの向き及び仮想の直線58fに沿う向きの少なくともいずれかの向きで、ファン51の径方向に見た場合、筒状部271の基端部、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77の3つは互いに重なる。ラビリンス構造280は、筒状部271の基端部、ファン側リブ60、開口部側リブ77、及びトップブレード58によって構成される。
なお、
図9の矢印Dの向き及び仮想の直線58fに沿う向きの少なくともいずれかの向きで、ファン51の径方向に見た場合、筒状部271、ファン側リブ60、及び開口部側リブ77は、少なくとも2つが重なっていれば良く、例えば、ファン側リブ60と開口部側リブ77とが重なる構成としても良い。
また、上記第2の実施の形態では、開口部側リブ77は軸線22cを中心に全周に亘って形成されているが、開口部側リブ77の軸心が軸線22cからファン51の径方向にオフセットしたり、開口部側リブ77の円周上において開口部側リブ77及び筒状部側リブ75が一部形成されない箇所が複数あったりしてもよい。
【0070】
[第3の実施の形態]
以下、
図10を参照して、本発明を適用した第3の実施の形態について説明する。この第3の実施の形態において、上記第1の実施の形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
本第3の実施の形態は、開口部側リブ377の形状が、上記第1の実施の形態の開口部側リブ77と異なる。
【0071】
図10は、第3の実施の形態において
図2のIV-IV断面図に対応する図である。
ファンカバー52は、開口部73からファン51に向けてクランク軸22の軸方向に延びる開口部側リブ377を備える。
開口部側リブ377は、上記第1の実施の形態の開口部側リブ77の先端部から径方向外側に延びて筒状部71の内周部に接続されるリブ底壁377aを備える。リブ底壁377aは、開口部側リブ377の先端及び筒状部側リブ75の先端よりも開口部73側に凹む凹部377bを形成する。凹部377bは、ファン側リブ60に対向する。
ラビリンス構造380は、筒状部側リブ75、ファン側リブ60、開口部側リブ377、及びトップブレード58によって構成される。
また、上記第3の実施の形態では、開口部側リブ377と筒状部側リブ75とは軸線22cを中心に全周に亘って形成されているが、開口部側リブ377及び筒状部側リブ75の軸心が軸線22cからファン51の径方向にオフセットしたり、開口部側リブ377及び筒状部側リブ75の円周上において開口部側リブ377及び筒状部側リブ75が一部形成されない箇所が複数あったりしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
12 車体フレーム(車体)
20 エンジン本体(動力発生装置)
22 クランク軸(駆動軸)
28a 揺動軸(連結部)
50 送風装置
51 ファン
52 ファンカバー
52a 逃げ部
56 羽部
58 トップブレード
58a 上面(開口部側の一側面、ファン側リブが設けられる面)
58d 内端
58e 外端
58f 仮想の直線
60 ファン側リブ
71,271 筒状部
73 開口部
75 筒状部側リブ
77,377 開口部側リブ
80,280,380 ラビリンス構造
L 距離
t 厚み