(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ロタンドンを有効成分とする飲食品の渋味増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20221212BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20221212BHJP
【FI】
A23L27/20 E
A23L27/10 C
(21)【出願番号】P 2020079989
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
(72)【発明者】
【氏名】服部 奈津
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-093962(JP,A)
【文献】特表2020-511128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/20
A23L 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(-)-ロタンドンからなる飲食品の渋味増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載の渋味増強剤を0.1ppt~1ppm含有する、飲食品の渋味増強組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の渋味増強剤を、飲食品に0.001ppt~1ppb含有させる、飲食品の渋味増強方法。
【請求項4】
渋味が増強された飲食品の製造方法であって、請求項2に記載の渋味増強組成物を、飲食品中の(-)-ロタンドン濃度が0.001ppt~1ppbとなるように飲食品に添加する、渋味が増強された飲食品の製造方法。
【請求項5】
3-エピロタンドンからなる飲食品の渋味増強剤。
【請求項6】
請求項
5に記載の渋味増強剤を0.1ppt~1ppm含有する、飲食品の渋味増強組成物。
【請求項7】
請求項
5に記載の渋味増強剤を、飲食品に0.001ppt~1ppb含有させる、飲食品の渋味増強方法。
【請求項8】
渋味が増強された飲食品の製造方法であって、請求項
6に記載の渋味増強組成物を、飲食品中の3-エピロタンドン濃度が0.001ppt~1ppbとなるように飲食品に添加する、渋味が増強された飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渋味増強剤に関する。さらに詳しくは、ロタンドンを有効成分とする飲食品の渋味増強剤、および該渋味増強剤を使用した飲食品の渋味増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
味は、主として甘味、塩味、酸味、旨味、苦味の5種のほかに、渋味、えぐ味、辛味等がある。これらの味は、飲食品に適度に存在していると、飲食品に良好な風味を付与するが、過剰に存在していると飲食品に不快味をもたらす。
【0003】
一般的に渋味は、経口物の風味を阻害するとして嫌われる傾向にあった。しかし、近年その刺激性、収斂性ならびに味によってもたらされる種々の効能が注目されている。例えば、その刺激性、収斂性は胃腸粘膜に作用して健胃、食欲増進に有効であり、疲労回復、ストレス解消に有効であると言われている。渋味を有する飲食品としては、例えば、野菜飲料、コーヒー・紅茶・茶もしくはそれらを含有する飲食品、果実酒、生薬類含有飲食品、カカオ製品などの飲食品があげられる。
【0004】
渋味物質としては、タンニンやカテキンなどが知られているが、使用する渋味物質によっては、飲食品の香気や色、安定性に悪影響を及ぼしたり、コストがかかったりするという問題が存在する。
【0005】
飲食品の渋味は、強すぎると不快感や嫌悪感を与えてしまうため、渋味をマスキングする課題についてはこれまでに多くの知見が存在する。しかしながら飲食品の渋味を増強する課題については、これまでほとんど行われてこなかった。例えば、発酵工程中または発酵工程終了後のブドウ酒に、ブドウの渋味成分を含有する部分またはブドウ酒醸造工程の廃棄物である圧搾粕を添加し渋味成分を溶出せしめることにより、渋味増強によるブドウ酒の香味を改良する方法(特許文献1)、フェノキシアルカン酸誘導体もしくはその塩の苦味及び/又は渋味増強有効量を口腔内で使用される製品又は経口的に摂取可能な製品に添加することにより苦・渋味を増強する方法(特許文献2)、果実に含まれる微量成分であるビセニン-2からなる渋味付与剤(特許文献3)などがある。しかしながら、飲食品への添加量が微量でも渋味増強効果を有する物質が求められている。
【0006】
香料化合物は嗅覚を刺激する化合物であるが、その種類は数万あるとされる。一方、食の風味は嗅覚刺激と味覚刺激が脳で統合された感覚と考えられている。すなわち、嗅覚刺激は味覚を刺激する化合物(食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウムなど)と組み合され、食全体の風味が形成されている。そこで、近年、香気を有する化合物の中から、嗅覚と同時に味覚を刺激する化合物について探索が盛んとなり、飲食品の総合的な風味の向上に用いられている。
【0007】
ロタンドンは香料用途として有用であり、スパイシー、コショウ様香気が特徴であるシラーズワインおよびそのワイン用のブドウの、スパイシー、コショウ様香気の原因成分であることが報告されている。また、黒コショウや白コショウには数ppm含有され、それらの重要香気成分であること、マジョラム、オレガノ、ローズマリー、バジル、タイムなどのスパイス中にも微量含まれていることが報告されている(非特許文献1)。また、柑橘香味増強剤(特許文献4)および果実香味増強剤(特許文献5)としての用途が知られている。しかしながら、ロタンドンは香料としての用途が知られているものの、飲食品に添加することにより飲食品の渋味を増強する効果については、全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭51-48494号公報
【文献】特許第3481246号公報
【文献】特開2006-238829号公報
【文献】特開2016-198025号公報
【文献】特開2016-198026号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry、2008年、56巻10号、p3738-3744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の目的は、飲食品に添加される渋味を有する物質の含量を減少させつつ、飲食品に添加することにより渋味を際立させることができ、かつ、実際に飲食品に添加する実際に飲食品に添加する濃度では香気・香味を感じにくいため、様々な飲食物に利用できる汎用性の高さ、豊富な食経験に裏打ちされた高い安全性、日常的に手軽に入手できる安価な原材料で達成可能な高いコストパフォーマンスという多くの利点を併せ持った渋味増強剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、ロタンドンを飲食品に添加することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品の渋味を増強することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
ロタンドンは前述のとおり、シラーワインやそのワイン用のブドウおよびコショウの香気成分として知られているが、飲食品の渋味を増強する効果は知られていなかった。
【0013】
コショウの香気成分であるロタンドンを単独で使用した場合、その香気特性と閾値からスパイス、コショウ様の香味を付与することが予想された。しかしながら、驚くべきことに、飲食品、例えば渋味を有する飲食品に対し極微量使用すると、ロタンドンのスパイス、コショウ様の香気は感じられず、飲食品の渋味が増強され、自然で高級感を有する香味、呈味が付与されることを見出した。
【0014】
かくして本発明は以下のものを提供する。
(1)ロタンドン[(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンおよび/または(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン]からなる飲食品の渋味増強剤。
(2)(1)に記載の渋味増強剤を0.1ppt~1ppm含有する、飲食品の渋味増強組成物。
(3)(1)に記載の渋味増強剤を、飲食品に0.001ppt~1ppb含有させる、飲食品の渋味増強方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、飲食品が有する本来の風味を損なうことなく、適切な渋味を増強することができる。微量の添加量で高い効果を発揮することができるので、飲食物本来の風味や嗜好性を損なうことがない渋味増強剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0017】
本発明において、%、ppm、ppb、pptの値は特に断りのない限り、それぞれ質量対質量の値を示す。
【0018】
本発明における渋味とは収斂味とも呼ばれ、茶類飲料や赤ワインなどに含まれるカテキン類、コーヒーなどに含まれるクロロゲン酸、柿のタンニン類などのポリフェノール類によってもたらされることが多い。また、本発明における渋味を有する飲食品とは、経口摂取時等に渋味を有する飲食品を意味し、特に、飲食品中にタンニンやカテキン等を有する飲食品が該当する。
【0019】
本発明における渋味増強とは、渋味を有する飲食品が呈する渋味が増強する(あるいは、当該渋味を増強させる)ことを意味する。なお、渋味は、タンニン等の成分が舌や口腔粘膜のタンパク質と結合して、これを変性させることにより得られる感覚であると考えられている。すなわち、渋味は厳密には味覚の一種というよりも、このタンパク変性によって生じる触覚に近い感覚だと考えられている。
【0020】
本発明の渋味増強剤は、自然で高級感を有する渋味が付与され、飲食品の風味を改善することができる。また、様々な飲食物に利用できる汎用性の高さ、豊富な食経験に裏打ちされた高い安全性、日常的に手軽に入手できる安価な原材料で達成可能な高いコストパフォーマンスという多くの利点を併せ持った渋味増強剤を提供することができる。
【0021】
ロタンドンは、一般的には(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンのことを指すが、本明細書において「ロタンドン」という場合には、これの異性体である、(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンも含める。
【0022】
本発明の有効成分である(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン(以下(-)-ロタンドンと記す)は、非特許文献1に記載の方法により合成するか、市販のコショウ精油から蒸留法、クロマト法を単独あるいは組み合わせる分画方法で得ることができる。
【0023】
また、本発明の有効成分である(3R,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノン(以下3-エピロタンドンと記す)は、特開2017-206451号公報に記載の方法により合成することができる。
【0024】
本発明の(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンはそれぞれ単独でまたは混合物で飲食品に添加することにより、飲食品の渋味を増強することができる。
【0025】
飲食品、例えば、渋味を有する飲食品に対し、本発明の化合物であるロタンドンを、そのまま飲食品に配合することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品の渋味を増強し、飲食品の風味を改善することができる。また、本発明の(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンを任意の割合で混合して用いることもできる。そのため、以下では(-)-ロタンドン単独、3-エピロタンドン単独および(-)-ロタンドンおよび3-エピロタンドンの混合物を単に「ロタンドン」と称する。
【0026】
本発明のロタンドンの配合量は、その目的あるいは飲食品の種類によっても異なるが、飲食品の全体質量に対して下限値としては、0.001ppt、0.002ppt、0.005ppt、0.01ppt、0.02ppt、0.05ppt、0.1ppt、0.2pptが例示でき、上限値としては、1ppb、0.5ppb、0.2ppb、0.1ppb、50ppt、20ppt、10ppt、5pptが例示でき、これら下限及び上限値の任意の組み合わせを挙げることができる。例えば、飲食品の全体重量に対して0.001ppt~1ppb、好ましくは0.005ppt~0.5ppb、さらに好ましくは0.01ppt~0.1ppb、より好ましくは0.05ppt~50ppt、特に好ましくは0.1ppt~10pptの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品に対し渋味を増強する優れた効果を有する。
【0027】
本発明の渋味増強剤は、単独で飲食品に添加することもできるが、香料成分と任意に組み合わせて、飲食品用の渋味増強組成物として使用することもできる。本発明の渋味増強剤と共に含有しうる他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第II部食品香料」または「合成香料、化学と商品知識、増補新版、化学工業日報発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料を挙げることができる。
【0028】
これらの成分として、食品用香料の素材として、例えば、リモネン、ミルセン、α-ピネン、β-ピネン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、p-シメン、カリオフィレン等の炭化水素類;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、cis-3-ヘキセノール、cis-6-ノネノール、cis,cis-3,6-ノナジエノール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、テルピネン-4-オール、メントール、チモール、オイゲノール等のアルコール類;ヘキサナール、cis-3-ヘキセナール、trans-2-ヘキセナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、10-ウンデセナール、2,6-ノナジエナール、シトラール、シトロネラール等のアルデヒド類及びそれらのアセタール類;カルボン、プレゴン、メントン、カンファー、ヌートカトン、アセトイン、ジアセチル、2-ヘプタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、p-メチルアセトフェノン、p-メトキシアセトフェノン、ラズベリーケトン、アニシルアセトン、ジンゲロン、アセチルフラン等のケトン類及びそれらのケタール類;エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソアミルアセテート、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、ゲラニルアセテート、リナリルアセテート、エチルプロピオネート、イソアミルプロピオネート、ヘキシルプロピオネート、ゲラニルプロピオネート、シトロネリルプロピオネート、エチルブチレート、イソアミルブチレート、ゲラニルブチレート、ブチルペンタノエート、メチルブチレート等のエステル類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸等の脂肪酸類;メントフラン、テアスピラン、シネオール、ローズオキサイド、アネトール等のエーテル類;インドール、スカトール、ピリジン、ピラジン、アルキル置換ピラジン、メトキシ置換ピラジン、アントラニル酸メチル等の含窒素化合物;チアゾール、プロピルメルカプタン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、メチオナール、フルフリルジスルフィド等の含硫化合物;等を挙げることができる。
【0029】
これらの、合成香料に関しては、市場で容易に入手可能であり、必要により容易に合成することもできる。
【0030】
また、各種のエキスとしてハーブ・スパイス抽出物、コーヒー・緑茶・紅茶・ウーロン茶抽出物、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼ・プロテアーゼなどの酵素分解物も挙げられる。
【0031】
本発明の渋味増強組成物の素材としては、前記食品用香料の素材に加え、さらに、例えば、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸カルシウム、ピクリン酸、ブルシン;コデイン類、エフェドリン類、デオキシコール酸類、ビタミン類、ペプチド、アミノ酸、動・植物蛋白分解物;カテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレード、ガロカテキンガレード、エピガロカテキンガレート、タンニン、プロアントシアニジン、クロロゲン酸、フラボノール、フラバノン、フラバノールなどのポリフェノール類;香辛料類;ホップ、オウバク、コロンボ、リュタン、ゲンチアナ、ダイオウ、オウレン、ミズガシワ、センブリ、コウボクなどの抽出物が挙げられる。
【0032】
本発明の渋味増強剤または渋味増強組成物はそのまま飲食品に添加して使用することができるが、水混和性有機溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤などして飲食品に添加することもできる。
【0033】
本発明の渋味増強剤または渋味増強剤組成物を溶解するための水混和性有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、2-プロパノール、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノール、グリセリンまたはプロピレングリコールが特に好ましい。
【0034】
また、乳化製剤とするためには、本発明のマスキング剤またはマスキング剤組成物を乳化剤と共に乳化して得ることができる。例えば、キラヤ抽出物、酵素処理レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アラビアガムなどの乳化剤ないし安定剤の1種以上を配合して、例えば、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化することにより乳化香料製剤の形態とすることもできる。かかる乳化剤ないし安定剤の使用量は乳化剤ないし安定剤の種類などにより異なるが、例えば、乳化香料製剤の質量を基準として0.1~25質量%の範囲、好ましくは5~20質量%の範囲内を挙げることができる。
【0035】
さらに、例えば、前記乳化香料製剤に砂糖、乳糖、ブドウ糖、トレハロース、セロビオース、水飴、還元水飴などの糖類;糖アルコール類;デキストリンなどの各種デンプン分解物およびデンプン誘導体、デンプン、ゼラチン、アラビアガムなどの天然ガム類などの賦形剤を適宜配合した後、例えば、噴霧乾燥、真空乾燥などの適宜な乾燥手段により乾燥して粉末香料製剤の形態とすることもできる。これらの賦形剤の配合量は粉末香料製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0036】
本発明の渋味増強剤または渋味増強剤組成物は、渋味を有する飲食品に添加することにより渋味を有する飲食品の渋味を増強することができ、さらに自然で高級感を有する香味、呈味を付与することができる。
【0037】
かかる渋味を有する飲食品としては、例えば、緑茶、ウーロン茶、紅茶、マテ茶、麦茶、玄米茶、はとむぎ茶、どくだみ茶、くこ茶、うこん茶、ハーブティー、ジャスミンティー、ギムネマティー、ルイボスティー、スパイスティー、フレーバーリングティー、スパイスプレンドティーなどの茶系飲料;コーヒー(特にブラックコーヒー)、コーヒーエキス、ワイン、ビール、ノンアルコールビール、生薬やハーブを含む飲料などを挙げることができる。さらに、渋味を有する製品として、肉用牛肥育用配合飼料などの飼料、小鳥用ペットフードなどのペットフード、下痢止剤、含嗽剤、収斂剤、苦味健胃剤、トローチ剤など医薬品、口中清涼剤などの医薬部外品、歯磨などを挙げることができる。
【0038】
また、本発明の渋味増強剤または渋味増強剤組成物は、その他公知、市販されている各種添加剤と組み合わせて用いても良い。
【0039】
本発明のロタンドンの、渋味増強組成物への含有量は、その目的あるいは渋味増強組成物の種類によっても異なるが、渋味増強組成物の全体質量に対して下限値としては、0.1ppt、0.2ppt、0.5ppt、1ppt、2ppt、5ppt、10ppt、20pptが例示でき、上限値としては、1ppm、0.5ppm、0.2ppm、0.1ppm、50ppb、20ppb、10ppb、5ppbが例示でき、これら下限及び上限値の任意の組み合わせを挙げることができる。特に、0.1ppt~1ppm(本明細書においては「~」は上限値および下限値を含む範囲を意味する)、好ましくは0.5ppt~0.5ppm、さらに好ましくは1ppt~0.1ppm、より好ましくは5ppt~50ppb、特に好ましくは10ppt~10ppbの範囲を例示することができる。これらの範囲内では、飲食品の渋味を増強する優れた効果を有する。
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
本発明における(-)-ロタンドンは、非特許文献1に記載されている方法に従って合成した。また、本発明における3-エピロタンドンは、特開2017-206451号公報に記載の方法に従って合成した。
【0042】
実施例1:渋味増強の効果
0.01質量%のエピカテキンガレート水溶液(コントロール)、および、0.01質量%のエピカテキンガレート水溶液に(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表1に示す濃度に溶解させた溶液を調製した。それぞれの溶液をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、渋味の増強についての官能評価を行った。
【0043】
渋味の評点は、0.01質量%のエピカテキンガレート水溶液をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに渋味を感じる、2:コントロールと比べ渋味を感じる、3:コントロールと比べ強い渋味を感じる、4:コントロールと比べ非常に強い渋味を感じる、として採点した。そのパネリスト10名の平均点を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独でエピカテキンガレート水溶液に添加した場合に、その水溶液はエピカテキンガレート水溶液と比較して渋味を有していた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内で渋味が増強されることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、渋味は増強するが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性により、呈味バランスが崩れ、また、渋味以外の他の呈味が強調され、1ppbの添加濃度と比較して渋味が抑えられるとの結果であった。
【0046】
実施例2:緑茶の渋味増強効果
市販の緑茶飲料に(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表2に示す濃度となるように添加し、それぞれの緑茶飲料をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、緑茶の渋味についての官能評価を行った。
【0047】
渋味の評点は、無添加の市販の緑茶飲料をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに渋味を感じる、2:コントロールと比べ渋味を感じる、3:コントロールと比べ強い渋味を感じる、4:コントロールと比べ非常に強い渋味を感じる、として採点した。
【0048】
【0049】
表2に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独で市販の緑茶飲料に添加した場合に、その飲料はコントロールと比較して渋味を有していた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内で渋味が増強されることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、渋味は増強するが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性により、呈味バランスが崩れ、緑茶の風味を損なうという結果であった。
【0050】
参考例1:緑茶水蒸気抽出エキスの調製方法
市販の煎茶5kgを内径27cm、高さ57cmの三連のステンレス製カラムのそれぞれに充填し、100~105℃で2~3時間、水蒸気蒸留を行い、留出液30kgを得た。次にそれぞれのカラムに50℃軟水15kgを加え、50~55℃で30分間の抽出を行い、濾過することにより抽出液36kg(Bx7.48°)を得た。上記の留出液7.5kgに抽出液9kgを加え、重曹にてpH5.01としたものをRO膜濃縮機NTR-759HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPaで約3時間の処理後、遠沈処理(20℃、800×G、5分間)を行い、Bx20°に調整し、200メッシュ濾過を行い、濃縮液3.35kgを得た(比較品1)。
【0051】
実施例3:渋味増強組成物の渋味増強効果
参考例1で調製した比較品1に、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表3に示す濃度で添加し、緑茶の渋味増強用緑茶エキスとした。これらの渋味増強用緑茶エキスを市販の緑茶飲料に0.1%添加し、それぞれの飲料を訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、渋味の増強についての官能評価を行った。
【0052】
渋味の評点は、比較品1を0.1%添加した緑茶飲料をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに渋味を感じる、2:コントロールと比べ渋味を感じる、3:コントロールと比べ強い渋味を感じる、4:コントロールと比べ非常に強い渋味を感じる、として採点した。
【0053】
【0054】
表3に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを比較品1に添加した、渋味増強用緑茶エキスを、市販の緑茶飲料に添加した場合に、その飲料はコントロールと比較して渋味を有していた。ただし、10ppmの添加濃度では、渋味は増強するが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性により、呈味バランスが崩れ、緑茶の風味を損なうという結果であった。
【0055】
実施例4:コーヒーの渋味増強効果
市販のブラックコーヒー飲料(無糖)に(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表4に示す濃度となるように添加し、それぞれのコーヒー飲料をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、コーヒーの渋味についての官能評価を行った。
【0056】
渋味の評点は、無添加の市販のコーヒー飲料をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに渋味を感じる、2:コントロールと比べ渋味を感じる、3:コントロールと比べ強い渋味を感じる、4:コントロールと比べ非常に強い渋味を感じる、として採点した。
【0057】
【0058】
表4に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独で市販のコーヒー飲料に添加した場合に、その飲料はコントロールと比較して渋味を有していた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内で渋味が増強されることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、渋味は増強するが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性により、呈味バランスが崩れ、コーヒーの風味を損なうという結果であった。
【0059】
実施例5:紅茶の渋味増強効果
市販のストレート紅茶飲料(無糖)に(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを表5に示す濃度となるように添加し、それぞれの紅茶飲料をよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、紅茶の渋味についての官能評価を行った。
【0060】
渋味の評点は、無添加の市販の紅茶飲料をコントロールとして、0:コントロールと差なし、1:コントロールと比べわずかに渋味を感じる、2:コントロールと比べ渋味を感じる、3:コントロールと比べ強い渋味を感じる、4:コントロールと比べ非常に強い渋味を感じる、として採点した。
【0061】
【0062】
表5に示した通り、(-)-ロタンドンまたは3-エピロタンドンを単独で市販の紅茶飲料に添加した場合に、その飲料はコントロールと比較して渋味を有していた。また、その濃度としては、質量を基準として、0.001ppt~1ppbの範囲内で渋味が増強されることが認められた。ただし、10ppbの添加濃度では、渋味は増強するが、ロタンドンが有するスパイシー様の香気特性により、呈味バランスが崩れ、紅茶の風味を損ない、むしろ1ppb添加時と比較して渋味が減少している印象があるとの評価であった。
【0063】
実施例6:ウーロン茶の渋味増強効果
市販のウーロン茶飲料に(-)-ロタンドンを飲料中に10pptの濃度となるように添加し、無添加のウーロン茶飲料をコントロールとして、よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、ウーロン茶の渋味についての官能評価を行った。その結果、10名のパネリスト全員が、無添加のウーロン茶飲料と比較して、(-)-ロタンドンを添加したウーロン茶飲料のほうが、渋味が増強され、ウーロン茶固有の芳醇な香りが引き立てられたという評価であった。
【0064】
実施例7:ワインの渋味増強効果
市販の赤ワインに(-)-ロタンドンを赤ワイン中に10pptの濃度となるように添加し、無添加の赤ワインをコントロールとして、よく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、赤ワインの渋味についての官能評価を行った。その結果、10名のパネリスト全員が、無添加の赤ワインと比較して、(-)-ロタンドンを添加した赤ワインのほうが、渋味が増強され、赤ワイン特有のエステル由来の芳醇な香りが強まったという評価であった。
【0065】
実施例8:紅茶風味キャンディーの渋味増強効果
表6の処方が示す割合で基材を混合し、定法によりキャンディーを調製した(比較品2)。
【0066】
【0067】
表6の処方に、(-)-ロタンドンを水に1ppmの濃度となるように添加し、比較品2の処方に前記(-)-ロタンドン水溶液を1質量部混合し、比較品2と同様の方法でキャンディーを調製した。それぞれのキャンディーをよく訓練された10名のパネリストにより味わうことにより、渋味増強についての官能評価を行った。
【0068】
その結果、その結果、10名のパネリスト全員が、比較品2と比較して、(-)-ロタンドンを添加したキャンディーのほうが、渋味が増強されたという評価であった。