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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】試料分析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20221212BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALI20221212BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/2209
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020126570
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023556
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 康晶
(72)【発明者】
【氏名】村野 孝訓
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020362(JP,A)
【文献】特開2016-215333(JP,A)
【文献】特開2006-058046(JP,A)
【文献】特開2020-098156(JP,A)
【文献】特開2018-014512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線の照射により試料から発生する特性X線を分光して取得された時系列順の複数の強度スペクトルを入力する入力手段と、
表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルを1次元マップで表し、複数の1次元マップを時系列順に配置し、これにより前記複数の強度スペクトルを表す2次元マップとしてのコンターマップを作成及び表示するコンターマップ表示手段と、
前記コンターマップにおいて前記試料の状態変化により一次元マップが時間的に変化している箇所を変化箇所として判別する判別手段と、
前記変化箇所の発生時刻よりも前に取得された強度スペクトルを分析対象とする手段と、
を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料分析装置において、
さらに、表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルにおける時間変化を1次元差分マップで表し、複数の1次元差分マップを時系列順に配置し、これにより2次元差分マップとしての時間変化のコンターマップを作成及び表示する時間変化表示手段を備える、ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試料分析装置において、
前記コンターマップ表示手段は、各時刻における前記強度スペクトルを1次元カラーマップで表し、複数の1次元カラーマップを時系列順に配置し、これにより2次元カラーマップとしての前記コンターマップを作成及び表示する、ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の試料分析装置において、
さらに、表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルの線グラフを時系列順に配置する線グラフ表示手段と、
前記コンターマップにおける選択位置に対応する前記線グラフにおける対応位置、または、前記線グラフにおける選択位置に対応する前記コンターマップにおける対応位置を表示する対応位置表示手段と、を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の試料分析装置において、
さらに、前記試料から発生する特性X線を分光する分光器、及び、前記分光器により前記強度スペクトルを取得する取得手段を備える、ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の試料分析装置において、
前記分光器は、前記特性X線の回折格子とX線用カメラを備え、
前記取得手段は、波長分散型X線分光法により前記強度スペクトルを取得する、ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の試料分析装置において、
前記判別手段は、前記コンターマップに対して前記変化箇所の発生時刻を示す位置を表示する、
を含むことを特徴とする試料分析装置。
【請求項8】
電子線の照射により試料から発生する特性X線を分光して取得された時系列順の複数の強度スペクトルを複数の1次元マップで表す工程と、
前記複数の1次元マップを時系列順に配置し、これにより前記複数の強度スペクトルを表す2次元マップとしてのコンターマップを作成する工程と、
前記コンターマップにおいて前記試料の状態変化により一次元マップが時間的に変化している箇所を変化箇所として判別する工程と、
前記コンターマップにおける前記変化箇所の発生時刻よりも前に取得された強度スペクトルを分析対象とする工程と、
を備えることを特徴とする試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料分析装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子あるいはX線などを照射した場合に、試料から発生する電磁波を検出することで、試料の元素分析を行う手法が知られている。
【0003】
一例として、電子顕微鏡において、荷電粒子線である電子線を試料に照射し、試料から発生する特性X線を検出する手法が挙げられる。この手法では、電子線が試料に照射された場合に発生する反射電子、二次電子等の電子は、静電偏向板を用いて除去する。そして、X線集光ミラーを設置してX線量を確保した上で、特性X線を検出する。この手法のうち、エネルギ分散型X線分光法は、特性X線が試料を構成する元素に特有なエネルギをもつことを利用するものである。得られる強度スペクトルでは、各エネルギをもつX線が検出された回数を表しており、強度スペクトルのピークのエネルギ値から試料に含まれる元素種が求められ、強度スペクトルのピークの面積から元素種の含有量が求められる。また、波長分散型X線分光法では、回折格子によって波長毎に特性X線を分光して、強度スペクトルを取得する。さらに、回折格子で分光した特性X線を、CCDカメラを用いて一度に検出する技術も存在する。
【0004】
下記非特許文献1には、特性X線の強度スペクトルを分析する手法について記載されている。ここでは、熱処理時間が異なる複数の低炭素鋼について、特性X線の強度スペクトルを取得し、並べて表示することで比較を行っている。また、これらの強度スペクトルの差分をとって、比較の精度を高めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】二宮翔ら著、「軟X線吸収分光法によるフェライト鋼中微量固溶炭素の化学状態観察」、鉄と鋼、Vol. 104、No. 11、一般社団法人日本鉄鋼協会、2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料の分析を行う過程で、試料が状態変化を示す場合がある。例えば、試料に電子線またはX線を照射する場合、試料によっては、ダメージを受けて、分子の結合状態あるいは結晶構造などが変化する状態変化を示すことがある。特に、有機系試料は、無機系試料に比べて電子線加熱などによる熱ダメージを受けやすい傾向にある。
【0007】
試料の状態分析を精度よく行うためには、試料が状態変化を受ける前の状態で分析することが望ましい。一般に、検出される強度スペクトルは、状態変化によっても変化するため、従来は、強度スペクトルの線グラフを並べて、その強度変化を見ることで状態変化を把握していた。しかし、例えば、試料に精通していない者にとっては、この手法により状態変化を抽出することは容易ではない。
【0008】
本発明の目的は、試料から発生する電磁波の強度スペクトルを用いて、試料の状態変化の把握を容易化する新しい手法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる試料分析装置は、試料から発生する電磁波を分光して取得された強度スペクトルを入力する入力手段と、表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルを時系列順に配置し、前記強度スペクトルのコンターマップを表示するコンターマップ表示手段と、を備える。
【0010】
本発明の一態様においては、さらに、表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルにおける時間変化を時系列順に配置し、時間変化のコンターマップを表示する時間変化表示手段を備える。
【0011】
本発明の一態様においては、前記コンターマップは、各時刻における前記強度スペクトルの強度のカラーマップが時系列順に配置されて形成されている。
【0012】
本発明の一態様においては、さらに、表示対象となる各時刻の前記強度スペクトルの線グラフを時系列順に配置する線グラフ表示手段と、前記コンターマップにおける選択位置に対応する前記線グラフにおける対応位置、または、前記線グラフにおける選択位置に対応する前記コンターマップにおける対応位置を表示する対応位置表示手段と、を備える。
【0013】
本発明の一態様においては、前記電磁波は、電子線を照射された前記試料から発生する特性X線であり、さらに、試料から発生する特性X線を分光する分光器を備え、前記分光器により前記強度スペクトルを取得する取得手段を備える。
【0014】
本発明の一態様においては、前記分光器は、前記特性X線の回折格子とX線用カメラを備え、前記取得手段は、波長分散型X線分光法により前記強度スペクトルを取得する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、試料の状態変化の把握が容易化される。このため、例えば、測定中に試料が変化してしまう場合に、所望の状態での試料分析を行う条件を把握し、分析を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態にかかる波長分散型X線分光器10の概略的な構成図である。
図2】分析装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】強度スペクトルの表示例を示す図である。
図4】関心領域における強度スペクトルの表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。説明においては、理解を容易にするため、具体的な態様について示すが、これらは実施形態を例示するものであり、他にも様々な実施形態をとることが可能である。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる波長分散型X線分光器10の全体構成を示す図である。
【0019】
波長分散型X線分光器10は、試料の分析を行う試料分析装置の一例であり、また、電子顕微鏡の一種である。波長分散型X線分光器10には、電子光学系20、試料ステージ30、不等間隔溝回折格子40、検出装置50、及び制御分析装置60が含まれる。
【0020】
電子光学系20は、電子プローブを生成するためのシステムである。電子光学系20には、電子銃などの電子線源22が含まれており、電子線24を生成する。電子線源22では、電子を加速する加速電位を変化させて、設定したエネルギをもつ電子を発生させることが可能である。電子光学系20には、図示を省略したが、さらに、スリット、集束レンズ、走査コイル、対物レンズなどが含まれており、電子線24の絞り込み、走査などが行われる。
【0021】
試料ステージ30は、試料500を設置するための部品である。電子線24が試料に照射された場合、試料500からは特性X線32が発生する。特性X線は、試料500を構成する原子中の内殻軌道(深い軌道)の電子が電子線によって弾き飛ばされた場合に、外殻軌道(浅い軌道)の電子が内殻軌道に遷移する過程で発生するX線である。特に、軟X線領域のX線は、試料の組成、結合状態、結晶構造などを分析する上で有用である。試料500から発生した特性X線32は、図示を省略したX線集光ミラーによって集められ、不等間隔溝回折格子40に向かう。
【0022】
不等間隔溝回折格子40は、特性X線32を波長に応じた角度に分散させる光学素子(あるいは分光素子)である。すなわち、回折現象によって、入射角αに対する出射角βが波長依存性をもっており、特性X線32は波長に応じた角度で回折する。これにより、特性X線32は、波長毎に、そして波長に対応するエネルギ毎に分光される。
【0023】
検出装置50には、CCD検出部52と、CCD制御部54が含まれる。CCD検出部52は、X線を受光して電気信号に変換する受光素子が多数形成された装置である。実施形態にかかる波長分散型X線分光器10では、空間的な広がりをもつCCD検出部52を備えることで、波長の長さ(あるいはエネルギの大きさ)が設定された範囲にある特性X線を一時に受光することができる。また、CCD制御部54は、CCD検出部52を動作させるとともに、CCD検出部52から出力される電気信号を受光素子毎にカウントする。設定された時間(例えば1秒、5秒、10秒など)におけるカウント数を総計することで、特性X線32の強度スペクトルが得られる。
【0024】
制御分析装置60は、CPU(中央演算装置)、メモリなどを備えたコンピュータハードウエアを、OS(オペレーティングシステム)、アプリケーションプログラムなどのソフトウエアで制御して動作する装置である。コンピュータハードウエアは、専用のものを使用してもよいし、PC(パーソナルコンピュータ)などの汎用的なものを使用してもよい。また、コンピュータハードウエアは、単体の装置により形成されてもよいし、複数の装置によって形成されてもよい。
【0025】
制御分析装置60には、制御装置62と分析装置64が構築されている。制御装置62は、電子光学系20及び検出装置50を制御する。また、分析装置64は、CCD制御部54から出力される強度スペクトルの分析を行う装置である。
【0026】
図2は、分析装置64の機能構成を示すブロック図である。分析装置64には、表示処理部70、ディスプレイ90、操作部100、変化判別部110、分析範囲設定部120、多点分析・マッピング分析処理部130が含まれる。
【0027】
表示処理部70は、ディスプレイ90に画像を表示するための処理を行う。表示処理は、各時刻において、CCD制御部54が強度スペクトルを求める度に、リアルタイムで行うことも可能であるし、一連の検出が終了した後に、まとめて行うことも可能である。表示処理部70には、線グラフ作成部72、コンターマップ作成部74、時間変化コンターマップ作成部76、関心領域設定部78、線グラフ・コンターマップ対応部80が含まれる。
【0028】
線グラフ作成部72は、強度スペクトルの線グラフを作成する。線グラフは、多くの場合、横軸をスペクトル成分である波長、または波長に対応したエネルギ、素子番号などとし、縦軸をスペクトル強度として作成される。線グラフは、時系列順に位置をずらすことで、複数のものを表示してもよい。時系列順の複数の線グラフを線グラフ列と称してもよい。
【0029】
コンターマップ作成部74は、複数の時刻における強度スペクトルについて、コンターマップを作成する。コンターマップは、強度スペクトルのスペクトル成分に関する軸と、時系列に対応する軸で張られる2次元領域おいて、強度スペクトルの値の等しい範囲を示す図である。コンターマップは、典型的には、等高線を引くことで、または、値の等しい範囲を濃度、模様、色などで塗り分けることで、2次元の図として表示される。あるいは、スペクトル強度を第3軸方向の長さで表現することにより、疑似的な3次元の図として表示することも可能である。コンターマップの作成にあたっては、様々なアルゴリズムを採用することができる。例えば、2次元空間の強度の数値に対して等値線を引く通常のアルゴリズムを採用してもよいし、各時刻の強度スペクトルの強度をカラーで表した1次元カラーマップを時系列に並べて2次元的に作成することも可能である。その場合、コンターマップ作成部74は、時系列順の複数の強度スペクトルを複数の1次元カラーマップで表し、それらを時系列順で並べて2次元カラーマップとしてのコンターマップを作成及び表示するコンターマップ表示手段として機能する。
【0030】
時間変化コンターマップ作成部76は、強度スペクトルの時間変化を、コンターマップ(差分のコンターマップ)として作成する。すなわち、差分のコンターマップは、上記コンターマップ作成方法と同様の方法で作成される。時間変化のデータは、典型的には、時系列におけるある時刻の強度スペクトルと、一つ前の時刻の強度スペクトルの差分をとることで得られる。差分データは、各時刻における強度スペクトルの時間変化を直接的に表す。その一方で、差分データは、全体として、大きなガタつきを示す場合がある。そこで、滑らかな時間変化傾向をみるために、スペクトル成分の各時刻の強度について多項式補間を行って1階微分値を求める態様、あるいは、差分データを時間軸方向に移動平均してスムージングする態様などをとってもよい。これにより、比較的長いスケールでの時間変化傾向を捉えることが可能となる。時間変化コンターマップ作成部76は、時間変化コンターマップを作成及び表示する時間変化表示手段として機能する。
【0031】
関心領域設定部は、ユーザが操作部100から行う操作に従って、ユーザが指示した領域を関心領域として設定する。関心領域は、様々に設定可能である。例えば、ユーザは、線グラフ作成部72が作成した線グラフに対して関心領域を設定してもよいし、コンターマップ作成部74が作成したコンターマップあるいは時間変化コンターマップ作成部76が作成した時間変化のコンターマップに対して関心領域を設定してもよい。設定された関心領域は、例えば、拡大表示することが可能である。
【0032】
線グラフ・コンターマップ対応部80は、線グラフとコンターマップとの対応位置関係を管理する。例えば、線グラフに関心領域が設定された場合に、関心領域として選択された位置に対応するコンターマップ上の位置を計算する。これにより、コンターマップにおいても、対応する関心領域を抽出し表示することが可能となる。また、例えば、コンターマップの特定部分がポインタで指示された場合、指示された選択位置に対応する線グラフの位置を計算する。これにより、線グラフの対応箇所も、別のポインタで指し示す表示を行うことが可能となる。線グラフ・コンターマップ対応部80は対応位置表示手段として機能する。
【0033】
ディスプレイ90は、波長分散型X線分光器10の操作画面、あるいは、分析画面などを表示する。表示処理部70によって作成された線グラフ、コンターマップ等も、ディスプレイ90に表示することができる。
【0034】
操作部100は、ディスプレイ90のタッチパネル機能を利用して、あるいは、キーボードやマウスなどを利用して、ユーザが波長分散型X線分光器10の操作を行うためものである。ユーザは、ディスプレイ90に表示される操作画面、分析画面の表示を見ながら操作を行う。
【0035】
変化判別部110は、強度スペクトルが時間的に大きく変化する箇所(変化箇所)を判別する。変化判別部110は、例えば、機械学習アルゴリズムに基づいて、強度スペクトルの時間変化が大きな位置として変化箇所を判定することが可能である。例えば、コンターマップあるいは線グラフに判定した位置を表示することで、ユーザに試料500の状態変化が起こった可能性があることを知らせる。
【0036】
分析範囲設定部120は、発生した状態変化の位置すなわち時刻を踏まえて、ユーザが分析すべき範囲を設定する。例えば、ユーザによって、あるいは、変化判別部110によって、ある時刻に大きな状態変化が起きたと判定された場合、その時刻よりも前の強度スペクトルを分析対象とする分析範囲設定を行うことができる。
【0037】
多点分析・マッピング分析処理部130は、波長分散型X線分光器10において、試料500に対するスキャンが行われた場合、スキャンされた各点について、強度スペクトルの変化についての処理を行う。これにより、状態変化の空間的な広がりを把握することが可能となる。あるいは、ある点で判別された状態変化を参考に、他の点での状態変化の判定を行うこともできる。
【0038】
続いて、図3を参照して、強度スペクトルの表示の例について説明する。図3は、ある試料について波長分散型X線分光器10で強度スペクトルを取得し、ディスプレイ90に表示を行った状態を示す図である。
【0039】
ディスプレイ90には、強度スペクトルの線グラフ140と、強度スペクトルのコンターマップ160と、強度スペクトルの差分のコンターマップ180が表示されている。
【0040】
線グラフ140は、横軸が特性X線のエネルギ(eV)である。また、線グラフ140の縦軸は、強度スペクトルの強度であると同時に、複数の強度スペクトルの時間軸ともなっている。すなわち、新しい時刻の強度スペクトルほど、下側に表示されている。
【0041】
強度スペクトルのコンターマップ160では、横軸は、CCD検出部52のピクセル並びである。コンターマップ160の横軸は、線グラフ140とは異ならせているため、補助線150、152、154によって、両者の対応関係を表示している。コンターマップ160の縦軸は、強度スペクトルが得られた順番を表している。すなわち、新しい時刻の強度スペクトルほど、下側に位置している。強度スペクトルはほぼ同じ時間間隔で得られるため、縦軸は強度スペクトルを取得した時刻とみなすこともできる。コンターマップ160の右側に表示されているカラーバーは強度とカラーの関係を示すものである。
【0042】
差分のコンターマップ180は、連続する2つの時刻の強度スペクトルにおける差を表している。横軸と縦軸は、強度スペクトルのコンターマップ160と同様である。差分のコンターマップ180の右側に表示されたカラーバーは差分とカラーの関係を示すものである。
【0043】
図3に示した例では、線グラフ140には、各時刻の強度スペクトル142、144、146等が、時系列に配置されて、いわゆるウォーターフォール形式で表示されている。実施形態にかかる波長分散型X線分光器10では、CCD検出部52による有限の検出範囲を持っており、強度スペクトルを一時に取得することが可能であるため、1回の強度スペクトルの取得には十分な時間をかけることが多い。しかしながら、取得時間が長くなると、どのタイミングでダメージが入ったかを把握できない。そこで、図3に示すように、比較的短い時間サイクルに分割し、各時刻に得られた強度スペクトルを表示している。
【0044】
強度スペクトルは、3つのピークPa,Pb,Pcを有している。このピークPa,Pb,Pcはいずれの時刻にも明瞭にみられるが、時間とともに若干の変形が見られる。この変形は、主として、電子線の照射にともなう熱ダメージに起因している。
【0045】
図3の例では、ユーザは、熱ダメージを受ける前の試料について分析を行うことを想定している。このため、どの時刻において、熱ダメージを受けたのかを把握する必要がある。しかし、図3の線グラフ140からは、熱ダメージの発生を明確に把握することは難しい。
【0046】
これに対し、強度スペクトルのコンターマップ160では、マップ中に矢印で示したように、ピークPa,Pbについては、6番目に得られた強度スペクトルのあたりで、ピークの変化が明瞭に表れている。特に、ピークPbの波長帯が拡がっている様子が明瞭に示されている。また、図3はモノクロ表示されているが、実際のディスプレイ90ではカラー表示を行っているため、ピーク強度の変化も明瞭に示されている。このため、ユーザは、6番目の強度スペクトルの付近で、熱ダメージによる試料の状態変化が起きたことを容易に把握することができる。
【0047】
図3の差分のコンターマップ180も、強度スペクトルの変化を明瞭に表している。特にピークPbでは、6番目付近において、ピークトップの値が減少してスペクトルの波長帯が拡がっている様子が明白に表示されている。
【0048】
このように、ユーザは、強度スペクトルのコンターマップ160または差分のコンターマップ180を見ることで、強度スペクトルの変化を明瞭に認識することができる。あるいは、図2に示した機械学習アルゴリズムによる変化判別部110が、自動認識することも容易である。こうして変化が起きた時刻が特定されると、分析範囲設定部120が変化前の時刻における強度スペクトルを分析範囲として設定する。
【0049】
ただし、強度スペクトルのコンターマップ160あるいは差分のコンターマップ180を見ただけでは、試料の状態変化の様子を理解しきれない状況も考えられる。そこで、図3に示した変分のコンターマップ180では、ユーザが、関心領域190を設定している。
【0050】
図4は、関心領域190が設定された場合のディスプレイ90の表示画面を示している。ここでは、ディスプレイ90には、関心領域190を示したウインドウ200が、全領域を示したウインドウ210の上に表示されている。
【0051】
ウインドウ200には、関心領域190が拡大された線グラフ220、強度スペクトルのコンターマップ230、及び差分のコンターマップ240が表示されている。なお、図4では省略しているが、実際には、上述した座標軸カラーバーなども表示される。
【0052】
ウインドウ200では、3つのポインタ222,224,226が表示されており、線グラフ220、強度スペクトルのコンターマップ230、及び差分のコンターマップ240の対応箇所を表示している。ポインタ222,224,226のいずれかを動かした場合には、他のものも連動して動くため、同一箇所の状態を3つの表示を見て分析することが可能となっている。
【0053】
以上の説明では、図3に示したように、ディスプレイ90には、強度スペクトルの線グラフ140と、強度スペクトルのコンターマップ160と、強度スペクトルの差分のコンターマップ180が全て同じ画面に表示されるものとした。しかし、これらの各図の対応関係が明確であれば、例えば、強度スペクトルのコンターマップ160または差分のコンターマップ180のいずれか一つのみを画面に表示し、必要に応じて、線グラフ140を呼び出すようにしてもよい。
【0054】
以上の説明では、CCD検出部52を備える波長分散型X線分光器10を例に挙げた。しかし、同様にして、CCD検出部52を備えず、検出部を移動させるタイプの波長分散型X線分光器でも本実施形態を適用することが可能である。また、エネルギ分散型X線分光器にも、本実施形態を適用することが可能である。また、軟X線領域に限らず、X線全般、さらにはX線以外の電磁波を検出する装置にも適用可能である。さらに、波長分散型X線分光器10のように、電子線照射を行う装置の他に、X線を照射する装置にも適用することができる。また、本実施形態は、特性X線を分光した強度スペクトルを取得できるのであれば、X線分光器を備えない装置であっても分析部分を実施することができる。
【0055】
以上の説明では、電子線の照射にともなう熱ダメージを想定したが、試料に対して加熱あるいは冷却などを行う場合の熱変化の状態を分析する用途にも適用可能である。同様にして、試料に対して電圧、電流、電界、磁界などを印加する場合の電気的変化の状態を分析する用途、さらには、試料に対して張力を与える、加圧をする場合の力学的変化の状態を分析する用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 波長分散型X線分光器、20 電子光学系、22 電子線源、24 電子線、30 試料ステージ、32 特性X線、40 不等間隔溝回折格子、50 検出装置、52 CCD検出部、54 CCD制御部、60 制御分析装置、62 制御装置、64 分析装置、70 表示処理部、72 線グラフ作成部、74 コンターマップ作成部、76 時間変化コンターマップ作成部、78 関心領域設定部、80 線グラフ・コンターマップ対応部、90 ディスプレイ、100 操作部、110 変化判別部、120 分析範囲設定部、130 多点分析・マッピング分析処理部、140 線グラフ、142,144,146 強度スペクトル、150,152,154 補助線、160,180 コンターマップ、190 関心領域、200,210 ウインドウ、220 線グラフ、222,224,226 ポインタ、230,240 コンターマップ、500 試料。
図1
図2
図3
図4