(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒、及びこれを用いたエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/68 20060101AFI20221212BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20221212BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20221212BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20221212BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08G59/68
C08F265/06
H01L23/30 R
H01L23/12 501P
(21)【出願番号】P 2020509249
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013355
(87)【国際公開番号】W WO2019189458
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018063755
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】菅 克司
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-035056(JP,A)
【文献】特開2014-218594(JP,A)
【文献】特開平08-073566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/68
C08F 265/06
H01L 23/29
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン系硬化触媒とビニル系重合体を含むコア、
第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体または第一ビニル系単量体の重合体である第一ビニル樹脂から構成され、前記コアを被覆する内側シェル層、及び
第二ビニル系単量体と第二架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体または第二架橋性ビニル系単量体の重合体である第二ビニル樹脂から構成され、前記内側シェル層を被覆する外側シェル層、
を含む粒子からなり、
前記粒子は、平均粒径が0.01~50μmであり、
第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合は、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合よりも大きい、エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【請求項2】
第一架橋性ビニル系単量体および第二架橋性ビニル系単量体は、(メタ)アクリル基を有する、請求項1に記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【請求項3】
前記コアに含まれる前記ビニル系重合体は、架橋構造を有するビニル系重合体である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【請求項4】
第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合は、50~100重量%である、請求項1~3のいずれかに記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【請求項5】
第一ビニル樹脂100重量部に対する第二ビニル樹脂の量は、5~50重量部である、請求項1~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒を製造する方法であって、
リン系硬化触媒の存在下、乳化重合によりビニル系単量体を含む単量体成分を重合して、コアを形成する工程、
前記コアの存在下、乳化重合により、第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分、または、第一ビニル系単量体を重合して、前記コアを被覆する内側シェル層を形成する工程、
前記コアを被覆する内側シェル層の存在下、乳化重合により、第二ビニル系単量体と第二架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分、または、第二架橋性ビニル系単量体を重合して、前記内側シェル層を被覆する外側シェル層を形成する工程、
を含む方法。
【請求項7】
外側シェル層を形成する工程における乳化重合は、モノマー溶解性ラジカル重合開始剤の存在下で行なう、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エポキシ樹脂と、請求項1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒を含有する、エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のエポキシ樹脂組成物が硬化したものである硬化物。
【請求項10】
表面の凸部または凹部の大きさが10μm以下である請求項9記載の硬化物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の硬化物を封止材として含む半導体装置。
【請求項12】
前記半導体装置は、100μm以下のギャップを有し、前記封止材が前記ギャップに侵入している、請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記封止材の表面に再配線層が形成されている、請求項11又は12に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記コアに含まれる前記ビニル系重合体は、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を重合してなる重合体であり、
前記第一ビニル系単量体および前記第二ビニル系単量体は、(メタ)アクリル系単量体を含み、
第一架橋性ビニル系単量体および第二架橋性ビニル系単量体は、(メタ)アクリル基を有する、請求項1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂に配合して用いる潜在性硬化触媒、及び、これを配合してなるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、反応性の高いエポキシ基を分子中に2個以上持つ化合物であって、当該エポキシ基の反応により架橋ネットワークを形成する硬化性樹脂である。エポキシ樹脂には通常、酸無水物やポリアミンなどの硬化剤と、ホスフィンや三級アミン、イミダゾール等の硬化触媒(硬化促進剤ともいう)を配合してエポキシ樹脂組成物とし、これを加熱することで硬化を進行させる。このようなエポキシ樹脂組成物は様々な用途で広く使用されており、特に半導体装置や電子部品における封止材料として注目されている。
【0003】
一般に硬化触媒はエポキシ樹脂と接触すると容易に硬化を開始してしまうため、エポキシ樹脂組成物は、主剤と副剤を分離した二液型の組成物として保存することが広く行なわれている。しかし、二液型では使用直前に主剤と副剤それぞれの必要量を計量してから両剤を混合する必要があり、作業上煩雑であった。また、煩雑さを回避して一液型の組成物とすると、冷凍又は冷蔵で保存することによって硬化反応の進行を抑制する必要があり、コスト面で不利であった。また、使用前に冷凍又は冷蔵での保存状態から常温に戻すプロセスで、常温放置の時間が長いと硬化が進行してしまい、封止のために使用するときには、粘度上昇により流動性が低下して充填性が不良となる問題があった。
【0004】
そこで、冷凍又は冷蔵での保存状態から常温に戻し、その後封止用途として使用する間(例えば、解凍後の常温保管で24時間)に増粘しない、更には、冷凍又は冷蔵しなくとも保存が可能な一液型のエポキシ樹脂組成物を実現するための方法が検討されている。そのような方法の1つとして、硬化触媒をマイクロカプセル化する方法が提案されており(例えば、特許文献1~5を参照)、そのようなカプセル化硬化触媒は市販されているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-73566号公報
【文献】特開2012-136650号公報
【文献】特開2016-35056号公報
【文献】特開2016-35057号公報
【文献】特開2016-153475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カプセル化硬化触媒は、エポキシ樹脂と接触した状態においても、硬化反応の進行が抑制されているため、両者を混合した状態での保存が可能となる。しかしながら、市販されているカプセル化硬化触媒は、粒径が50μm程度の粗大な粒子であり、極めて狭いバンプ/バンプ間、チップ/チップ間、チップ/基板間等のギャップを有する最先端の半導体装置や電子部品における封止材用途においては、そのようなギャップへの侵入性が悪く、使用に適していないという問題があった。
【0007】
また、最先端のスマートフォンでは膨大な情報(信号)を処理する必要があるので、小型でかつ、これに対応した多数のI/O端子を備えた半導体装置であるファンアウトウエハレベルパッケージ(FO-WLP)が適用されている。FO-WLPでは、I/O端子数を増やすために、半導体チップ下面のみでなく、そこから外に張り出した封止材下面にも再配線層を形成して、バンプ(I/O端子)を配置する構造となっている。薄い再配線層形成のためには被覆面である当該チップ下面及び封止材下面の平滑性が重要であるが、市販の粗大なカプセル硬化剤を用いた封止材では、封止材表面にカプセル由来の凹凸が形成され、再配線層を形成できない問題があった。そこで、このような極めて狭いギャップを備えた半導体装置や、FO-WLPの再配線層形成にも対応できる、粒径がより小さなカプセル化硬化触媒の開発が望まれる。
【0008】
しかし、単にカプセル化硬化触媒の粒径を小さくすると、エポキシ樹脂との混和性が悪化したり、本来の目的である保存安定性が低下することがあった。また、カプセル化硬化触媒の保存安定性を高めると、エポキシ樹脂との反応性が低くなる場合があり、すなわち、エポキシ樹脂組成物の良好な硬化性を達成できないという問題もあった。
【0009】
カプセル化硬化触媒においては、エポキシ樹脂との混和性に優れていながら、所定の硬化温度よりも低い温度では硬化反応が進行せず、高い保存安定性を示す一方、所定の硬化温度まで加熱されると迅速に硬化反応が進行することが求められる。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、小粒径であり、エポキシ樹脂との混和性に優れ、エポキシ樹脂との組成物において高い保存安定性を有し、かつ、硬化性にも優れた、エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒、及び、それを含むエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の本発明は、リン系硬化触媒とビニル系重合体を含むコア、第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体または第一ビニル系単量体の重合体である第一ビニル樹脂から構成され、前記コアを被覆する内側シェル層、及び第二ビニル系単量体と第二架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体または第二架橋性ビニル系単量体の重合体である第二ビニル樹脂から構成され、前記内側シェル層を被覆する外側シェル層、を含む粒子からなり、前記粒子は、平均粒径が0.01~50μmであり、第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合は、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合よりも大きい、エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒に関する。
【0012】
好ましくは、第一架橋性ビニル系単量体および第二架橋性ビニル系単量体は、(メタ)アクリル基を有する。好ましくは、前記コアに含まれる前記ビニル系重合体は、架橋構造を有するビニル系重合体である。好ましくは、第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合は、50~100重量%である。好ましくは、第一ビニル樹脂100重量部に対する第二ビニル樹脂の量は、5~50重量部である。
【0013】
第二の本発明は、エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒を製造する方法であって、リン系硬化触媒の存在下、乳化重合によりビニル系単量体を含む単量体成分を重合して、コアを形成する工程、前記コアの存在下、乳化重合により、第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分、または、第一ビニル系単量体を重合して、前記コアを被覆する内側シェル層を形成する工程、前記コアを被覆する内側シェル層の存在下、乳化重合により、第二ビニル系単量体と第二架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分、または、第二架橋性ビニル系単量体を重合して、前記内側シェル層を被覆する外側シェル層を形成する工程、を含む方法に関する。好ましくは、外側シェル層を形成する工程における乳化重合は、モノマー溶解性ラジカル重合開始剤の存在下で行なう。
【0014】
第三の本発明は、エポキシ樹脂と、第一の本発明に係るエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒を含有する、エポキシ樹脂組成物に関する。
【0015】
第四の本発明は、第三の本発明に係るエポキシ樹脂組成物が硬化したものである硬化物である。好ましくは、硬化物表面の凸部または凹部の大きさが10μm以下である。
【0016】
第五の本発明は、第四の本発明に係る硬化物を封止材として含む半導体装置に関する。前記半導体装置は、100μm以下のギャップを有し、前記封止材が前記ギャップに侵入しているものであってよい。また、前記封止材の表面に再配線層が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粒径が小さく、エポキシ樹脂との混和性に優れ、エポキシ樹脂との組成物において高い保存安定性を有し、かつ、硬化性にも優れた、エポキシ樹脂用潜在性硬化触媒、当該硬化触媒を含むエポキシ樹脂組成物であって極めて挟いギャップへの侵入性が良好で、流動性に優れたエポキシ樹脂組成物、及び、当該エポキシ樹脂組成物の加熱により得られる表面平滑性に優れた硬化物を提供することができる。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物が液状の組成物である場合には、組成物作製直後の粘度が低く、かつ、作製から時間が経過した後でも粘度が上昇しにくく、また、本発明のエポキシ樹脂組成物が固形のシート状である場合には、組成物作製直後の溶融粘度が低く、かつ、作製から時間が経過した後でも溶融粘度が上昇しにくいため、液状及び固形シートのいずれの態様においても、無機フィラー等を多量に配合した場合においても、流動性が良好で、極めて狭いギャップへの侵入性が良好であるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】硬化物表面のSEM観察像を示す図面である(実施例1)。
【
図2】硬化物表面のSEM観察像を示す図面である(比較例3)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を詳述する。
本発明のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒は、コアと、当該コアを被覆する内側シェル層と、当該内側シェル層を被覆する外側シェル層という、少なくとも3層からなる層構成を持つ粒子状のものである。そして、前記コアにリン系硬化触媒を含み、これによってエポキシ樹脂用の硬化触媒として機能する。外側シェル層と内側シェル層は直接積層されていてよく、特許文献2のように両層間に硬化触媒が配置されている必要はない。
【0021】
コア、内側シェル層、外側シェル層に含まれる樹脂はいずれもビニル系のものである。一般的なエポキシ樹脂の硬化温度は、ビニル樹脂のガラス転移温度(Tg)を超えるので、前記硬化温度では、ビニル樹脂はゴム状態に変化していて、カプセルの物質透過性は大幅に向上する。そのため、エポキシ樹脂がカプセル内に流れ込み、リン系硬化触媒を溶かして外部に洗い出すことができ、または、リン系硬化触媒自身が自発的にカプセルを透過してエポキシ樹脂中へ放出されるようになる。更に、上記現象によりカプセルへの応力負荷が増加したり、加熱によりカプセルが熱分解したりすると、カプセルの崩壊が起こり、リン系硬化触媒の放出速度が著しく増加する。また、ビニル樹脂自体はエポキシ樹脂の硬化反応を阻害するものではないので、前記硬化温度でエポキシ樹脂は良好な硬化性を発現する。一方、保存温度では、ビニル樹脂はガラス状態のためカプセルの物質透過性は低く、エポキシ樹脂のカプセル内への侵入を抑制している。更に本発明の潜在性硬化触媒では、上記に加えて外側シェル層が高架橋のビニル樹脂から構成されるため、エポキシ樹脂のカプセル内への侵入の防止性が著しく高い。そのため、所定温度未満では高い保存安定性を示しながら、所定温度まで加熱すると高い硬化性を示すことができる。
【0022】
また、本発明の潜在性硬化触媒の外側シェル層は高架橋のビニル樹脂から構成されるので、潜在性硬化触媒の粒子間には分子間力による弱い凝集力が働くのみである(粒子表面から長いグラフト鎖などがでていることもないので、絡み合いに起因する凝集も起こりにくい)。したがって、当該粒子とエポキシ樹脂との配合では、粒子の凝集が解れて粒子がエポキシ樹脂と混和しやすい。特に、外側シェル層にエステル基などの官能基を有する場合には、粒子表面のエステル基とエポキシ樹脂との相互作用により、混和性は更に向上する。そのため、本発明の潜在性硬化触媒はエポキシ樹脂との混和性が高く、所定温度未満では高い保存安定性を示しながら、所定温度まで加熱されると高い硬化性を示すことができる。
【0023】
(コア)
コアに含まれるリン系硬化触媒としては、エポキシ樹脂に対する硬化触媒として使用可能な硬化触媒のうちリンを含む硬化触媒であれば、特に限定されない。好ましくは有機ホスフィン化合物であり、具体的には、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン等のアルキルホスフィン及びフェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジプロピルホスフィン、ジアミルホスフィン等のジアルキルホスフィン、ジフェニルホスフィン、メチルフェニルホスフィン、エチルフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、アルキルジフェニルホスフィン、ジアルキルフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリトリルホスフィン(トリ-o-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン)、トリ-p-スチリルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリ-4-メチルフェニルホスフィン、トリ-4-メトキシフェニルホスフィン、トリ-2-シアノエチルホスフィン等の第3ホスフィン;ホスフィノアルカン化合物、例えばビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,4-(ジフェニルホスフィノ)ブタン等;トリフェニルホスフィン-トリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられる。これらのうち、第3ホスフィンがより好ましく、トリフェニルホスフィンが特に好ましい。
【0024】
コアには、リン系硬化触媒のほか、ビニル系重合体が含まれる。コアにビニル系重合体を含ませることで、コアにリン系硬化触媒を封じ込めることが可能となり、硬化性を低下させることなく、潜在性硬化触媒の保存安定性を高めることができる。また、当該封じ込めにより、これに続く内側シェル層の形成を可能としている。この観点から、コアにおけるビニル系重合体の含有量は、リン系硬化触媒100重量部に対して50~500重量部が好ましく、100~300重量部がより好ましい。トリ-p-トリルホスフィン等の溶媒溶解性が低い硬化触媒の場合、コアにおけるビニル系重合体の含有量は、リン系硬化触媒100重量部に対して50~5000重量部であってよく、100~4000重量部であってよい。
【0025】
コアにおけるビニル系重合体の含有量が少なくなると、コアを形成するための重合反応前のコア成分の調整の段階で、リン系硬化触媒がビニル系単量体に溶けきれず、粗大なリン系硬化触媒が残存することにもなり、微小なコアにリン系硬化触媒を封じ込めることが困難となる場合がある。例えば、コアを形成するための重合反応前のコア成分の調整の段階で、触媒がビニル系単量体に溶けきれず、粗大な触媒が残存することがある。この場合は、微小なコアを形成することができなくなる。逆に、コアにおけるビニル系重合体の含有量が多くなると、潜在性硬化触媒の粒径が大きくなったり、潜在性触媒粒子中のリン系硬化触媒の含有量が低下して、硬化性が低下したりする不都合がある。
【0026】
コアを形成するための重合反応前には、リン系硬化触媒はビニル系単量体に溶解した状態であるのが好ましいが、ビニル系単量体の重合によりリン系硬化触媒とビニル系重合体が、重合反応誘起相分離を起こす場合もある。本発明では、コアの内部において、リン系硬化触媒の分布状態は特に限定されない。例えば、コアは、ビニル系重合体とリン系硬化触媒が相溶して単一の相が形成されてなるものでもよい。あるいは、コアの中心部にリン系硬化触媒が偏在し、その周囲をビニル系重合体が取り囲んでいる二重構造のものであってよい。また、ビニル系重合体からなる連続相において、リン系硬化触媒が凝集してなる不連続相が分散した、いわゆる海島構造を形成している状態であってもよい。また、ビニル系重合体とリン系硬化触媒が共連続構造を形成している状態であってもよい。コアを形成するための重合反応前には、リン系硬化触媒はビニル系単量体に溶解した状態であっても、ビニル系単量体の重合によりリン系硬化触媒とビニル系重合体が、重合反応誘起相分離を起こす場合もある。
【0027】
本発明では、コアにおけるビニル系重合体としては、ラジカル重合性のビニル系単量体を含む単量体成分を重合してなる重合体であれば特に限定されない。使用できるビニル系単量体としては、(メタ)アクリル系単量体、オレフィン系単量体、スチレン系単量体(例えば、メタクロロスチレン、パラクロロスチレン、パラフロロスチレン、パラメトキシスチレン、メタターシャリーブトキシスチレン、パラターシャリーブトキシスチレン、パラビニル安息香酸、パラメチル-α-メチルスチレン、1-エチニル-4-フロロベンゼン)、ビニルエステル系単量体(式:C=C-(C=O)-O-R)、マレイン酸系単量体(無水マレイン酸系単量体を含む)、マレイミド系単量体(例えば、フェニルメタンマレイミド)、ビニルアルコールエステル系単量体(式:C=C-O-(C=O)-R)(例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル)等が挙げられる。これら単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、本願でいうビニル系単量体とは、ラジカル重合性のビニル基を1分子に1つ有する単量体である。
【0028】
これら単量体のうち、(メタ)アクリル系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の、炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これら(メタ)アクリル系単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、コアに含まれるビニル系重合体は、アリルグリシジルエーテルまたはグリシジル(メタ)アクリレートを重合してなるものではなく、グリシジル基を持たないものであってよい。
【0029】
コアに含まれるビニル系重合体は、架橋構造を有しないビニル系重合体であってもよいが、架橋構造を有するビニル系重合体(以下、架橋ビニル系重合体ともいう)であることが好ましい。前記架橋構造は低密度である(緩い架橋構造を有する)ことが好ましい。コア中のビニル系重合体が架橋構造を有することによって、より確実に、コアにリン系硬化触媒を封じ込めることが可能となり、潜在性硬化触媒の保存安定性をさらに高めることができ、また、架橋構造を低密度とすることで、硬化温度でリン系硬化触媒を放出しやすくなる。
【0030】
ビニル系重合体に架橋構造を導入するには、上記ビニル系単量体と架橋性ビニル系単量体とを重合することで前記ビニル系重合体を製造すればよい。本願でいう架橋性ビニル系単量体とは、ラジカル重合性のビニル基を1分子に2以上有し、上記ビニル系単量体とともにラジカル重合が可能な架橋性ビニル系単量体である。このような架橋性ビニル系単量体の具体例としては、後述する第一架橋性ビニル系単量体と同じ具体例が挙げられる。コアで使用する架橋性ビニル系単量体としては、第一架橋性ビニル系単量体と同じ単量体を使用してもよいし、異なる単量体を使用してもよい。後述する第一架橋性ビニル系単量体と同じ理由により、コアで使用する架橋性ビニル系単量体としては、1分子に1又は2以上の(メタ)アクリル基を有する単量体が好ましく、具体的には、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、又は、多価アルコール又は多価フェノールのジ-、トリ-、又はテトラ-(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸アリル、又は、メタクリル酸アリルが特に好ましい。
【0031】
しかし、コア中の架橋ビニル系重合体において架橋性ビニル系単量体の含有量が多くなり架橋度が高くなると、コアにリン系硬化触媒を封じ込めることが困難となったり、硬化温度でもエポキシ樹脂中にリン系硬化触媒を放出しにくくなり、硬化性が低下したりする場合がある。この観点から、コア中での架橋性ビニル系単量体の使用量は少量であることが好ましく、具体的には、コアを形成する架橋ビニル系重合体中の架橋性ビニル系単量体の重量割合(架橋ビニル系重合体全体のうち架橋性ビニル系単量体が占める重量割合)は0.01~10重量%が好ましく、0.5~5重量%がより好ましい。
【0032】
(内側シェル層)
内側シェル層は、前記コアを被覆する樹脂層であり、第一ビニル樹脂から形成される。第一ビニル樹脂は、第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体であるか、または,第一ビニル系単量体の重合体である。すなわち第一ビニル樹脂は、第一ビニル系単量体を必須の単量体とする重合体であって、任意の単量体である第一架橋性ビニル系単量体とともに重合されていてもよい。このうち、第一ビニル系単量体と第一架橋性ビニル系単量体との重合体が好ましい。第一ビニル樹脂は、酸性基を有しないビニル樹脂であってよい。
【0033】
このように、コアと、後述する外側シェル層とのあいだに内側シェル層を設けることで、外側シェル層の架橋度を高めることが可能となり、これによって高い硬化性を示しながら、潜在性硬化触媒の保存安定性を高めることができる。
【0034】
第一ビニル系単量体としては、ラジカル重合性のビニル基を1分子に1つ有する単量体である限り特に限定されず、具体的には、(メタ)アクリル系単量体、オレフィン系単量体、スチレン系単量体(例えば、メタクロロスチレン、パラクロロスチレン、パラフロロスチレン、パラメトキシスチレン、メタターシャリーブトキシスチレン、パラターシャリーブトキシスチレン、パラビニル安息香酸、パラメチル-α-メチルスチレン、1-エチニル-4-フロロベンゼン)、ビニルエステル系単量体(式:C=C-(C=O)-O-R)、マレイン酸系単量体(無水マレイン酸系単量体を含む)、マレイミド系単量体(例えば、フェニルメタンマレイミド)、ビニルアルコールエステル系単量体(式:C=C-O-(C=O)-R)(例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル)等が挙げられる。これら単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。これら単量体のうち、(メタ)アクリル系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系単量体としては、上述((コア)を詳述した箇所に具体例を記載)したものを使用できる。これら(メタ)アクリル系単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、第一ビニル樹脂は、アリルグリシジルエーテルまたはグリシジル(メタ)アクリレートを重合してなるものではなく、グリシジル基を持たないものであってよい。
【0035】
第一架橋性ビニル系単量体としては、ラジカル重合性のビニル基を1分子中に2以上有し、第一ビニル系単量体とのラジカル重合が可能な架橋性ビニル系単量体を使用できる。このような第一架橋性ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル;ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、トリビニルベンゼン等の芳香族多官能ビニル単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等の多価アルコール又は多価フェノールのジ-、トリ-、又はテトラ-(メタ)アクリル酸エステル;ジアリルフタレート、ジアリルセバケート、トリアリルトリアジン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のジ又はトリアリル化合物;メチレンビス(メタ)アクリルアミド;4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンなどのビスマレイミド系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
これらのなかでも、第一ビニル系単量体との重合性が良好であり、かつ、第一ビニル樹脂が良好なカプセル特性を示すことから、1分子に1又は2以上の(メタ)アクリル基を有する単量体が好ましく、具体的には、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、又は、多価アルコール又は多価フェノールのジ-、トリ-、又はテトラ-(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。なお、良好なカプセル特性とは、保存時にはカプセルがガラス状態で低い物質透過性を示しながら、エポキシ樹脂の硬化温度ではカプセルがゴム状態となり高い物質透過性を示し、カプセルの崩壊性が良好になることをいう。
【0037】
さらに、前記1分子に1又は2以上の(メタ)アクリル基を有する単量体のなかでも、(メタ)アクリル系単量体との重合性が高い二重結合と該重合性が比較的低い二重結合を併せ持つ単量体は、前者の二重結合と(メタ)アクリル系単量体との重合反応によって、後者の二重結合をグラフト鎖として有する直鎖状の重合体が形成された後、後者の二重結合が架橋形成に寄与しやすく、配合設計どおりに架橋度を達成できる。この観点から、前記1分子に1又は2以上の(メタ)アクリル基を有する単量体のなかでも、アクリル酸アリル、又は、メタクリル酸アリルが特に好ましい。このように、重合体に二重結合を導入することにより、架橋に寄与しない副反応(分子内反応による環化形成など)を抑制し、配合設計どおりの架橋度を達成することができる。
【0038】
内側シェル層を形成する第一ビニル樹脂において、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合(第一ビニル樹脂全体のうち第一架橋性ビニル系単量体が占める重量割合)は10~60重量%が好ましく、15~40重量%がより好ましく、20~30重量%が更に好ましい。また、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合は、コアを形成するビニル系重合体中の架橋性ビニル系単量体の重量割合より大きいものであることが好ましい。
【0039】
(外側シェル層)
外側シェル層は、前記内側シェル層を被覆する樹脂層であり、第二ビニル樹脂から形成される。第二ビニル樹脂は、第二ビニル系単量体と第二架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分の重合体であるか、または、第二架橋性ビニル系単量体の重合体である。すなわち第二ビニル樹脂は、第二架橋性ビニル系単量体を必須の単量体とする重合体であって、第二ビニル系単量体が任意の単量体として第二架橋性ビニル系単量体と一緒に重合(共重合)されていてもよいし、重合(共重合)されていなくともよい。第二ビニル樹脂は、酸性基を有しないビニル樹脂であってよい。
【0040】
このように外側シェル層を形成する第二ビニル樹脂は、架橋構造を有するので、コアのリン系硬化触媒が粒子の外部に漏出するのを防止でき、また、エポキシ樹脂が粒子の内部に浸透するのを抑制することができる。これにより、潜在性硬化触媒の保存安定性を高めることができる。
【0041】
第二ビニル系単量体としては、ラジカル重合性のビニル基を1分子に1つ有し、かつ、第二架橋性ビニル系単量体とのラジカル重合が可能な単量体である限り特に限定されず、具体的には、(メタ)アクリル系単量体、オレフィン系単量体、スチレン系単量体(例えば、メタクロロスチレン、パラクロロスチレン、パラフロロスチレン、パラメトキシスチレン、メタターシャリーブトキシスチレン、パラターシャリーブトキシスチレン、パラビニル安息香酸、パラメチル-α-メチルスチレン、1-エチニル-4-フロロベンゼン)、ビニルエステル系単量体(式:C=C-(C=O)-O-R)、マレイン酸系単量体(無水マレイン酸系単量体を含む)、マレイミド系単量体(例えば、フェニルメタンマレイミド)、ビニルアルコールエステル系単量体(式:C=C-O-(C=O)-R)(例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル)等が挙げられる。これら単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。これら単量体のうち、(メタ)アクリル系単量体が好ましい。(メタ)アクリル系単量体としては、上述したものを使用できる。これら(メタ)アクリル系単量体は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、第二ビニル樹脂は、アリルグリシジルエーテルまたはグリシジル(メタ)アクリレートを重合してなるものではなく、グリシジル基を持たないものであってよい。
【0042】
第二架橋性ビニル系単量体としては、ラジカル重合性のビニル基を1分子中に2以上有する単量体を使用できる。第二架橋性ビニル系単量体の具体例としては、前述した第一架橋性ビニル系単量体と同様の単量体が挙げられ、第一架橋性ビニル系単量体と同じ単量体を使用してもよいし、異なる単量体を使用してもよい。前述した第一架橋性ビニル系単量体と同じ理由により、第二架橋性ビニル系単量体としては、1分子に1又は2以上の(メタ)アクリル基を有する単量体が好ましく、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、又は、多価アルコール又は多価フェノールのジ-、トリ-、又はテトラ-(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、アクリル酸アリル、又は、メタクリル酸アリルが特に好ましい。
【0043】
外側シェル層を形成する第二ビニル樹脂において、第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合(第二ビニル樹脂全体のうち第二架橋性ビニル系単量体が占める重量割合)は60~100重量%が好ましく、80~100重量%がより好ましく、90~99.9重量%が更に好ましい。
【0044】
さらに、第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合は、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合より大きいものであることが好ましい。このように外側シェル層において架橋性ビニル系単量体を多く使用し、その内側に架橋性ビニル系単量体の使用量が比較的少ない又は架橋性ビニル系単量体を使用しない内側シェル層を設けることで、架橋度の高いシェル層を粒子の最も外側に形成することが可能となり、これによって、前述したようにリン系硬化触媒の漏出およびエポキシ樹脂の浸透を抑制し、潜在性硬化触媒の保存安定性を高めることができる。
【0045】
本発明において特に好ましくは、コア、内側シェル層、外側シェル層の順で架橋度が高くなるように構成することであり、すなわち、コアを形成するビニル系重合体中の架橋性ビニル系単量体の重量割合、第一ビニル樹脂中の第一架橋性ビニル系単量体の重量割合、第二ビニル樹脂中の第二架橋性ビニル系単量体の重量割合の順序で、架橋性ビニル系単量体の重量割合が大きくなるように構成することである。これにより、リン系硬化触媒をコアに確実に封じ込めながら、かつ、架橋度が十分に高い外側シェル層を形成することができ、硬化温度ではリン系触媒をエポキシ樹脂中へ放出しやすくすることができる。
【0046】
以上説明したコアと、内側シェル層を形成する第一ビニル樹脂と、外側シェル層を形成する第二ビニル樹脂の重量割合は特に限定されないが、硬化性の低下を抑制する観点から、架橋度の高い外側シェル層は内側シェル層よりも薄膜とすることが好ましい。この観点から、第一ビニル樹脂100重量部に対する第二ビニル樹脂の量は、5~50重量部であることが好ましく、10~30重量部であることがより好ましい。
【0047】
本発明の実施形態に係る潜在性硬化触媒では、リン系硬化触媒を含む低架橋密度又は未架橋のコア、中架橋密度で厚い内側シェル層、高架橋密度で薄い外側シェル層の順に、粒子の中心であるコアから外に向かって複数のシェル層が構成されることが好ましい。このように架橋密度のグラデーションを設けていて、かつ、内側シェル層が厚く、外側シェル層が薄い構造が好ましい。このような構造によって保存時の優れた安定性と、硬化時の優れた硬化性の両立を高めることができる。
【0048】
すなわち、保存時には、高架橋密度で薄い外側シェル層(薄い硬い壁)と、適度な架橋密度で厚い内側シェル層(厚い壁)によって、リン系硬化触媒がカプセル外に漏れることと、エポキシ樹脂がカプセル内部に侵入するのを抑制するが、エポキシ樹脂の硬化温度では、硬くて脆く薄い外側シェル層は、カプセル内外の圧力差、熱膨張差、物質移動による応力増加などのサーマルショックに起因して崩壊しやすい。外側シェル層が崩壊すると、それに誘起されて内側シェル層、コアへと崩壊が連鎖する。つまり、クラックが伝搬し、粒子全体が崩壊することとなる。また、内側シェル層が崩壊しなくとも、中架橋密度である内側シェル層は、架橋鎖がフレキシブルに動き(ゴム状態)、リン系硬化触媒を放出しやすい物性を示す。
【0049】
前記実施形態に係る潜在性硬化触媒の最大の特徴は、外側シェル層が高架橋密度で、かつ薄いことにある。高架橋密度による架橋鎖の運動性は極めて低いので、高架橋密度の外側シェル層は物質を透過しにくく、保存時には非常に高い安定性を示す。一方、エポキシ樹脂の硬化温度では、外側シェル層は薄くて非常に脆いので、サーマルショックにより崩壊しやすく、それによって良好な硬化性が発揮される。
【0050】
このように、外側シェル層が高架橋密度で、かつ薄いことが、保存安定性と硬化性の両立に大きく寄与している。また、内側シェル層は外側シェル層の機能を高める役割を果たしている。すなわち、内側シェル層は中程度の架橋密度で比較的厚いので、仮に保存時にエポキシ樹脂が薄い外側シェル層を透過してしまったとしても、内側シェル層は、エポキシ樹脂がコアに含まれるリン系硬化触媒に到達するのを抑制でき、この構造により保存時の安定性を高めている。また、内側シェル層は中程度の架橋密度のため、硬化時の外側シェル層の崩壊を抑制する効果は低く、硬化性の低下を招くこともない。しかし、内側シェル層が高架橋密度のものであれば、硬化時の外側シェル層の崩壊を抑制してしまう可能性が高い。
【0051】
(粒径)
本発明の潜在性硬化触媒は、粒子状のものであり、その平均粒径(D50(累積体積50%))は0.01~50μmである。好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~3μmであり、さらに好ましくは0.3~2μmであり、特に好ましくは0.3~1μmである。このように平均粒径が小さいため、本発明の潜在性硬化触媒は、極めて狭いギャップ等への侵入性を有しており、そのように狭いギャップ等を有する半導体装置や電子部品に対して使用する封止材において好適に使用することができる。
【0052】
(製法)
本発明のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒は、以下の工程を実施することにより製造することができる。まず、リン系硬化触媒の存在下、乳化重合によりビニル系単量体と、場合により架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分を重合して、コアを形成する。次いで、前記コアの存在下、乳化重合により、第一ビニル系単量体と、場合により第一架橋性ビニル系単量体とを含む単量体成分を重合して、前記コアを被覆する内側シェル層を形成する。さらに、前記コアを被覆する内側シェル層の存在下、乳化重合により、第二架橋性ビニル系単量体と、場合により第二ビニル系単量体とを含む単量体成分を重合して、前記内側シェル層を被覆する外側シェル層を形成する。
【0053】
各乳化重合は常法に従うことができる。具体例を説明すると、まず、コア粒子を形成するために、重合開始剤と乳化剤を水と混合、撹拌してミセルを形成する。別途、リン系硬化触媒とコアの単量体成分を均一に混合した後、該ミセルに添加し、両者を混合、必要に応じて水を加えて、その後撹拌して乳化液を形成する。なお、撹拌の回転数や乳化剤の種類の選択、添加量の調整等によって、乳化液中の油滴の粒径は適宜調整することが可能である。その後、不活性雰囲気下で昇温して、所定の温度で加熱重合反応を進行させ、コア粒子の乳化液を得る。反応温度は、特に限定されないが、60~100℃程度が好ましく、反応時間は1~10時間程度が好ましい。
【0054】
乳化重合で使用可能な重合開始剤としては、一般的に乳化重合で使用可能な熱ラジカル重合開始剤や光ラジカル重合開始剤などのラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェート二水和物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス-[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス-[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)等の水溶性アゾ化合物や、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)等の油溶性アゾ化合物等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸系化合物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物(ハイドロパーオキサイド);過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド);前記過硫酸系化合物又は前記有機過酸化物にFe2+やCu+イオンを加えたレドックス系開始剤等が挙げられる。
【0055】
これらの重合開始剤のうち、水に溶けやすい重合開始剤が好ましく、例えば、水溶性アゾ化合物や過硫酸塩類等が挙げられる。熱重合開始剤の10時間半減期温度は、一般的に40~90℃の間が好ましく、これより低いと常温での仕込みの間に分解が進み、これより高いと重合反応に長時間を要する。前記の有機過酸化物では、10時間半減期温度が前記範囲を超えるものが多く、一般的な乳化重合の温度でのラジカル生成速度が遅い。そのため、これに低価数の金属イオン(Fe2+、Cu+など)を加えてフェントン反応(レドックス反応)により、前記温度範囲でのラジカル生成速度を向上させている。したがって、前記有機過酸化物のレドックス系開始剤は、一般的な乳化重合の温度範囲で利用できるので好ましい。
【0056】
これらの重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の併用の場合には、水溶性ラジカル重合開始剤のみでもよく、水溶性ラジカル重合開始剤と油溶性ラジカル重合開始剤の任意の組み合わせでもよく、油溶性ラジカル重合開始剤のみでもよい。重合開始剤の使用量は適宜設定できるが、例えば、単量体成分100重量部に対し0.01~1.00重量部であってよい。また水溶性ラジカル重合開始剤とその他の重合開始剤(例えば、油溶性ラジカル重合開始剤)を併用する場合は、例えば、単量体成分100重量部に対し、重合体の総量で0.01~2.00重量部であってもよい。
【0057】
乳化重合で使用可能な乳化剤としては、不均化ロジン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤を挙げることができる。アニオン系乳化剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなど)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムなど)、反応型陰イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムなど)等が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としても特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなど)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなど)、反応型非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなど)等が挙げられる。
【0058】
乳化剤のなかでも、得られる重合体中の金属イオンの低減を図るため、金属イオンが含まれていない、アンモニウム塩型アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が好ましい。具体的には、アンモニウム塩型アニオン系乳化剤としては、乳化重合の安定性を図るため、ラウリル硫酸アンモニウム、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸アンモニウムが好ましく、ノニオン系乳化剤としては、乳化重合の安定性を図るため、ポリオキシエチレンモノテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルが好ましい。また、工業的に入手しやすい観点では、ナトリウム塩型アニオン系乳化剤が好ましい。ナトリウム塩型アニオン系乳化剤としては、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムが好ましい。乳化剤の使用量は適宜設定できるが、例えば、単量体成分100重量部に対し0.01~10.00重量部であってよい。
【0059】
次に内側シェル層を形成するために、まず、重合開始剤と乳化剤とを水に混合、撹拌してミセルを形成する。別途、内側シェル層の単量体成分を均一に混合した後、該ミセルに添加し、両者を混合、撹拌して内側シェル層用乳化液を形成する。次いで、前記コア粒子の乳化液を不活性雰囲気下で所定の温度とした後、これに内側シェル層用乳化液を滴下し、これらを混合、撹拌しつつ、所定の温度で加熱重合反応を進行させ、一重シェル化粒子の乳化液を得る。反応温度や反応時間などは上述した範囲を参照して適宜調節することができる。
【0060】
そして、外側シェル層を形成するために、まず、乳化剤と水とを混合、又は乳化剤と重合開始剤と水とを混合、撹拌してミセルを形成する。別途、外側シェル層の単量体成分を均一に混合、又は外側シェル層の単量体成分と重合開始剤を均一に混合した後、該ミセルに添加し、両者を混合、撹拌して外側シェル層用乳化液を形成する。次いで、前記一重シェル化粒子の乳化液を不活性雰囲気下で所定の温度とした後、これに外側シェル層用乳化液を滴下し、これらを混合、撹拌しつつ、所定の温度で加熱重合反応を進行させ、二重シェル化粒子の乳化液を得る。反応温度や反応時間などは上述した範囲を参照して適宜調節することができる。
【0061】
外側シェル層を形成する乳化重合の際には、重合開始剤は、該ミセルに加える単量体成分にのみに予め溶解させて用いるか、又は、該ミセル形成前の水に予め溶解させ、その後、前記ミセルに加える単量体成分にも予め溶解させて用いることが好ましい。前者の場合では、重合開始剤として、モノマー溶解性ラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、後者の場合では、重合開始剤として、水と溶解させるときには水溶性ラジカル重合開始剤を用いて、かつ、単量体成分と溶解させるときにはモノマー溶解性ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。すなわち、外側シェルの重合では、前者の場合では単量体成分内でラジカル重合開始反応が起こるが、後者の場合では、単量体成分内と水相内の両方でラジカル重合開始反応が起こる。ここでのモノマー溶解性ラジカル重合開始剤とは、アリルメタクリレート(AMA)100重量部に対して、25℃で均一に溶解する重量が0.50重量部以上であるラジカル重合開始剤をいう。一般的に、多くの油溶性ラジカル重合開始剤が該当する。また、重合開始剤は、該ミセル形成前の水にのみ予め溶解させて用いてもよく、この場合の重合開始剤として、水溶性ラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。前記の場合は、水相内でラジカル重合開始反応が起こる。
【0062】
モノマー溶解性ラジカル重合開始剤としては、前述した油溶性ラジカル重合開始剤等が挙げられ、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)等の油溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド)等が挙げられる。このように、モノマー溶解性のラジカル重合開始剤を用いることで、外側シェル層における第二架橋性ビニル系単量体による架橋反応の進行を促進し、外側シェル層の架橋度を高めるのに好ましい。また、モノマー溶解性ラジカル重合開始剤と水溶性ラジカル重合開始剤の併用も外側シェル層の架橋度を高めるのに好ましい。一方、コアおよび内側シェル層を形成する乳化重合の際には、水溶性ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
【0063】
すべての重合反応が終了した後、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、凝固法により、本発明の潜在性硬化触媒を得ることができる。あるいは、乳化液から粒子を遠心分離またはろ過により分離した後、必要に応じて水洗を行い、常法により乾燥することでも本発明の潜在性硬化触媒を得ることができる。これらのうち、得られる粉末がエポキシ樹脂中での分散性に優れることから、噴霧乾燥法を用いることが好ましい。
【0064】
本明細書に記載の水は、明記がなければ、イオン交換水を用いるが、これに限定されるものではない。
【0065】
(エポキシ樹脂組成物)
【0066】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも、エポキシ樹脂と、以上で説明した潜在性硬化触媒を含有するものである。上記エポキシ樹脂組成物は、硬化前の状態にあるものを指し、液状のものであってもよいし、ゲル状で一定の形状を有する成形体であってもよい。そのような成形体の形状は特に限定されず、用途に応じて適宜設計できるが、例えば、シート状、フィルム状、タブレット状等が挙げられる。
【0067】
本発明で使用できるエポキシ樹脂としては、エポキシ基を分子中に2個以上持つ化合物であれば特に限定されず、一般に知られているものを使用することができる。具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールフェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールクレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、エチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オクチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂、4,4’-ビフェニルフェノール型エポキシ樹脂、テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂、ジメチル-4,4’-ビフェニルフェノール型エポキシ樹脂、1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[4-(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン型エポキシ樹脂、2,2’―メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)型エポキシ樹脂、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ピロガロール型エポキシ樹脂、ジイソプロピリデン型エポキシ樹脂、1,1-ジ-4-ヒドロキシフェニルフルオレン型エポキシ樹脂、フェノール化ポリブタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-シクロヘキシルカルボキシレート型エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオール型エポキシ樹脂、1,6-ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂、キシリレングリコール誘導体型エポキシ樹脂、イソシアヌル環型エポキシ樹脂、ヒダントイン環型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、トルイジン型エポキシ樹脂、p-フェニレンジアミン型エポキシ樹脂、m-フェニレンジアミン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン誘導体型エポキシ樹脂、ジアミノメチルベンゼン誘導体型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。エポキシ樹脂は、所望の特性や性状(液状または固状)に応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、以上の具体例のうち、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系エポキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂が好ましい。
【0068】
エポキシ樹脂に対する本発明の潜在性硬化触媒の使用量は特に限定されず、所望の硬化速度や硬化物の物性に応じて適宜決定できる。具体的には、本発明の潜在性硬化触媒は、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.05~50重量部、より好ましくは0.1~40重量部、さらに好ましくは0.5~30重量部、特に好ましくは1.0~20重量部である。また、本発明の潜在性硬化触媒に含まれるリン系硬化触媒が、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01~20重量部、より好ましくは0.05~15重量部、さらに好ましくは0.1~10重量部となるように配合することもできる。
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂硬化剤を含有することができる。このような硬化剤としては特に限定されず、エポキシ樹脂に配合する硬化剤として一般に知られているものを用いることができる。具体的には、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾール、三フッ化ホウ素-アミン錯体、グアニジン誘導体、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンにより合成されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドとから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトールフェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトールクレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性ナフトール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂等が挙げられる。硬化剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。硬化剤は、所望の特性や性状(液状または固状)に応じて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、以上の具体例のうち、耐熱性、耐薬品性の観点からは酸無水物系硬化剤が好ましく、低温硬化性、高接着性の観点からはアミン系硬化剤が好ましく、また硬化時の低アウトガス性、耐湿性、耐ヒートサイクル性などの観点からは、フェノール系硬化剤が好ましく用いられる。
【0070】
エポキシ樹脂に対する硬化剤の使用量は特に限定されず、一般的な使用量であってよく、所望の硬化速度や硬化物の物性に応じて適宜決定できる。具体的には、硬化剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは1~300重量部、より好ましくは5~200重量部である。
【0071】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、さらに、エポキシ樹脂組成物における公知の添加剤を適宜配合することができる。そのような添加剤としては、例えば、カーボンブラック等の充填剤、接着性付与剤、溶剤、反応性希釈剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、顔料等が挙げられる。
【0072】
充填剤としては特に限定されず、公知の充填剤を用いることができ、例えば、無機酸化物、無機塩、ガラス、窒化物、金属粉等からなる充填剤が挙げられる。前記無機酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。前記無機塩としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。前記窒化物としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化インジウム、窒化ケイ素等が挙げられる。前記金属粉としては、例えば、銀粉、銅粉、銀メッキ銅粉、スズメッキ銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉等が挙げられる。充填剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
接着性付与剤としては、例えば、カップリング剤、フェノール樹脂、有機ポリイソシアネート等が挙げられる。接着性付与剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
前記カップリング剤としては、例えば、シラン系、アルミニウム系、ジルコアルミネート系、チタン系等の各種カップリング剤や、これらの部分加水分解縮合物等が挙げられる。これらのカップリング剤の中では、シラン系カップリング剤およびその部分加水分解縮合物が、接着性付与効果が高いことから好ましい。なお、カップリング剤の部分加水分解縮合物は、同種のカップリング剤の部分加水分解縮合物であってもよいし、2種以上のカップリング剤の部分加水分解縮合物であってもよい。
【0075】
前記シラン系カップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有する化合物等が挙げられる。
【0076】
溶剤としては特に限定されず、例えば、N-メチルピロリドン;N,N-ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及び上記グリコールエーテル類のエステル化物等のエステル類;エタノール、プロパノール、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤等が挙げられる。溶剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
反応性希釈剤としては特に限定されず、例えば、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート、ビス-(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、(2,3-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等が挙げられる。反応性希釈剤は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂用潜在性硬化触媒はこれ自体がエポキシ樹脂組成物をゲル化する作用を持ち得るため、シート化剤として作用することができる。そのため、追加成分としてシート化剤を配合しなくとも、本発明のエポキシ樹脂組成物をシート状等の成形体とすることができる。しかし、本発明のエポキシ樹脂組成物がシート状等の成形体である場合には、熱可塑性樹脂パウダーなどのシート化剤を上記エポキシ樹脂組成物に別途配合してもよい。該熱可塑性樹脂パウダーは、エポキシ樹脂または他の成分を吸収・膨潤して組成物をゲル状にし得る、または、エポキシ樹脂または他の成分と相溶して組成物をゲル状にし得るものである。
【0079】
このようなパウダーを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、合成ゴム(ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン共重合体)、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリル酸アミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロース系樹脂、ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどがあげられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちではポリメタクリル酸メチルなどのポリメタクリル酸エステルが、シート化性の点から好ましい。
【0080】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物がシート状等の成形体である場合、シート化剤として作用する光重合性化合物およびラジカル発生剤を上記エポキシ樹脂組成物に配合することもできる。この場合には、まず、エポキシ樹脂組成物および他の成分と、光重合性化合物およびラジカル発生剤の混合物を調製し、得られた混合物をシート状にした後、光を照射し、光重合性化合物を重合させたものが、ゲル状硬化性シートとして使用される。
【0081】
前記光重合性化合物としては、例えば、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する化合物、具体的には、(メタ)アクリル酸と、アルキルアルコール、アルキレンジオール、多価アルコールなどとのエステルや、特開平11-12543号公報の[0009]~[0012]に記載の化合物等が挙げられる。
【0082】
前記ラジカル発生剤は、紫外線、電子線などの活性光線の照射を受けてラジカルを発生する化合物であり、従来から使用されている各種のものを使用でき、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾイン、アセトフェノン等を使用できる。
【0083】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と本発明の潜在性硬化触媒、更には硬化剤や他の添加剤を混合することにより得ることができる。これらを混合する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、撹拌機を用いて撹拌する方法、3本ロールミル、及びボールミルを用いて混練する方法等を用いることができる。
【0084】
本発明のエポキシ樹脂組成物をシート状等の成形体とする場合には、上述のように各成分を混合した後、加熱成形のような通常の方法により成形すればよい。また、必要により加熱して液状にしたエポキシ樹脂組成物を、ロールコーターなどにより膜厚を制御した塗工物とし、60~150℃で0.5~30分、さらには80~120℃で1~10分乾燥させることによりシート状とすることもできる。
【0085】
上記エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。硬化させる方法としては、一般的なエポキシ樹脂組成物を硬化させる条件であってよく、特に限定されないが、例えば、加熱装置を用いて、100℃にて1時間、その後180℃にて4時間加熱する方法等が挙げられる。ただし、具体的な硬化条件はエポキシ樹脂組成物の用途に応じて適宜決定することができる。上記加熱装置としては、特に限定されず、例えば、送風定温乾燥器、定温恒温乾燥器等を用いることができる。
【0086】
また、本発明の硬化物の表面形状は、表面の凸部または凹部の大きさが10μm以下であることが好ましい。表面形状は、硬化物表面に金を蒸着した後、日本電子社製走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-6390LVを用いて、加速電圧15kV、観察角度45°、倍率400倍(観察エリア:300μm×200μm)又は2000倍(観察エリア:60μm×40μm)でのSEM観察により確認できる。前記SEM観察像から凸部または凹部の大きさを求めることができる。前記SEM観察像は、特に平面内の任意の方向の凹凸領域の大きさを評価できる。なお、平面内の任意方向とはSEM写真面内の任意の方向である。
【0087】
表面形状は、触針式表面形状測定器DEKTAK 150を用いて、走査速度:1,000μm/60s、走査距離:1.0mm、測定箇所:5箇所、及び計測値:段差の条件にて観察できる。触針式表面形状測定器は、特に面に垂直な方向の凹凸の大きさを評価できる。面垂直方向とはSEM写真面の任意の位置で写真面に垂直な方向のことである。
【0088】
(用途)
本発明のエポキシ樹脂組成物の用途は特に限定されないが、封止材または接着剤として好適に用いることができる。なかでも、本発明の潜在性硬化触媒は小粒径のものであり、極めて狭いギャップ等にも侵入できることから、そのような狭いギャップを有する半導体装置または電子部品に対して用いる封止材として特に好適に用いることができる。ギャップとしては、例えば、基板とチップ間のギャップ、チップとチップ間のギャップ、はんだバンプとはんだバンプ間のギャップが挙げられる。ギャップの幅としては、100μm以下であっても良く、さらに50μm以下であっても良く、さらに30μm以下であってもよい。
【0089】
また、本発明の潜在性硬化触媒を含むエポキシ樹脂組成物から形成された硬化物の表面は凹凸がなく平滑となるため、平滑性が求められる用途に好適である。例えば、封止材としての具体的な用途は、封止材下面への再配線層の形成が可能であることからFO-WLP用途の封止材や、封止材上面へのアンテナ等の回路形成が可能であることから、アンテナと半導体装置を一体化したAntenna-on-Package(AoP)用途の封止材、または、封止全面あるいは一部での金属メッキが可能であるので、半導体装置の電磁波シールド用途の封止材として好適に用いることができる。
【0090】
そのような封止材の一例として、大面積の半導体パッケージであるウエハレベルチップサイズパッケージの封止を、オーバーモールド成型法によって行なう際に使用される半導体封止材が挙げられる。当該封止材は、半導体ウエハ基板の上に配置された、端子、素子電極、及び、半導体ベアチップを封止するオーバーモールド材となるものである。オーバーモールド成型としては、例えば、トランスファー成型や圧縮成型等が挙げられる。なかでも、圧縮成型が好ましい。オーバーモールド成型は、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~175℃で、1~15分間行う。必要に応じて、100~200℃、30分~24時間のポストキュアを行うことができる。このような加熱によってエポキシ樹脂組成物は硬化してオーバーモールド材を形成する。このような封止材として液状の本発明のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0091】
また、封止材の別の一例として、配線パターンが形成された基板上に弾性表面波チップが実装された弾性表面波デバイスであって、弾性表面波チップの電極面と配線パターンがバンプで接続されているが、該電極面と配線パターンは直接的には接触しておらず、基板とチップの間に中空構造を有する弾性表面波デバイスにおいて、弾性表面波チップの封止を行なうための封止材が挙げられる。このような封止材としては、一定の形状を有する成形体である本発明のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0092】
該エポキシ樹脂組成物を用いて弾性表面波チップの封止を行なう際には、例えばシート状のエポキシ樹脂組成物を、弾性表面波チップを被覆するように配置したうえで、ヒートプレスを実施することで、上記中空構造を保持したまま、エポキシ樹脂組成物が硬化してチップの保護層を形成することができる。このようなヒートプレスの条件は適宜決定できるが、例えば、圧力としては100Pa~10MPa、好ましくは0.01~2MPa、温度としては250℃以下、好ましくは60~180℃、時間としては5秒~3時間、好ましくは1~15分であってよい。
【0093】
以上、本発明のエポキシ樹脂組成物を好適に使用できる具体的な封止材用途を詳述した。これらの用途では極めて狭いギャップに対して封止材が侵入して硬化することが求められるので、本発明のエポキシ樹脂組成物を適用する意義は極めて大きい。しかし、本発明のエポキシ樹脂組成物の用途がこれらに限定されるわけではない。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
<コア粒子の合成>
[コア成分からなる乳化液の調製]
(原料)
(1)乳化剤
非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンジスチレン化フェ二ルエーテル(花王社製 商品名「エマルゲンA-90」)
陰イオン性界面活性剤ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(新日本理化社製商品名「リカサーフP-10」)
(2)ラジカル重合開始剤
水溶性ラジカル重合開始剤2,2’-アゾビス-[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン](和光純薬社製 製商品名「VA-057」、10時間半減期温度57℃)
(3)アクリルモノマー
メチルメタクリレート(三菱ケミカル社製 商品名「アクリルエステルM」)
アリルメタクリレート(三菱ガス化学社製 商品名「AMA」)
(4)水
イオン交換水(Deionized Water:DW)
(5)内包用触媒
硬化触媒トリフェニルホスフィン(北興化学社製 商品名「TPP」)
【0097】
(乳化液の調製方法)
乳化剤及びラジカル重合開始剤をイオン交換水に溶解し、回転速度1500rpmで15分間高速撹拌してミセルを作製した。内包触媒とアクリルモノマーを均一に溶解した後、前記ミセルに加えて混合し、さらに水を添加して、回転速度2000rpmで20分間高速撹拌して乳化液を調製した。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0098】
[乳化液の加熱によるコア粒子の合成]
前記乳化液を窒素雰囲気下、75℃で2h加熱して、ラジカル重合(乳化重合)によりコア粒子を合成した。
【0099】
<一重シェル化粒子の合成>
[内層シェル成分からなる乳化液の調製]
(原料)
前記「コア粒子の合成」中の「コア成分からなる乳化液の調製」で用いた原料(1)乳化剤、(2)ラジカル重合開始剤、(3)アクリルモノマー、及び(4)水を用い、(3)アクリルモノマーは前記以外に以下を追加して用いた。
n-ブチルアクリレート(三菱ケミカル社製 商品名「アクリル酸ブチル」)
【0100】
(乳化液の調製方法)
乳化剤及びラジカル重合開始剤をイオン交換水に溶解し、回転速度1500rpmで15分間高速撹拌してミセルを作製した。アクリルモノマーを均一混合した後、前記ミセルに加えて、回転速度2000rpmで20分間高速撹拌して内層シェル成分からなる乳化液を調製した。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0101】
[内層シェル成分からなる乳化液の滴下による一重シェル化粒子の合成]
前記「コア粒子」の乳化液を窒素雰囲気下加熱して75℃とした。その後、前記「内層シェル成分からなる乳化液」を滴下して、75℃で1h、ラジカル重合(乳化重合)により内側シェル層を形成して、一重シェル化粒子を合成した。
【0102】
<二重シェル化粒子の合成>
[外層シェル成分からなる乳化液の調製]
(原料)
前記「コア粒子の合成」中の「コア成分からなる乳化液の調製」で用いた原料(1)乳化剤及び(4)水の他に、(2)ラジカル重合開始剤、及び(3)アクリルモノマーは以下を用いた。
(2)ラジカル重合開始剤
脂溶性ラジカル重合開始剤ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(和光純薬社 製商品名「V-601」、10時間半減期温度66℃)
(3)アクリルモノマー
アリルメタクリレート(三菱ガス化学社製 商品名「AMA」)を単独使用
【0103】
(乳化液の調製方法)
乳化剤をイオン交換水に溶解し、回転速度1500rpmで5分間高速撹拌してミセルを作製した。ラジカル重合開始剤をアクリルモノマーに溶解した後、前記ミセルに加えて、回転速度2000rpmで25分間高速撹拌して外層シェル成分からなる乳化液を調製した。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0104】
[外層シェル成分からなる乳化液の滴下による二重シェル化粒子の合成]
前記「一重シェル化粒子」の乳化液を窒素雰囲気下加熱して75℃とした。その後、前記「外層シェル成分からなる乳化液」を滴下して、75℃で1h、ラジカル重合(乳化重合)により外側シェル層を形成させて二重シェル化粒子を合成した。
【0105】
【0106】
[乾燥]
合成後、乳化液をスプレードライにより乾燥して、実施例1の二重シェル化粒子を得た。
【0107】
[実施例2]
実施例1記載の「二重シェル化粒子の合成」において、「外層シェルの原料」である「(3)アクリルモノマー」として、アリルメタクリレート(三菱ガス化学社製 商品名「AMA」)の他に、メチルメタクリレート(三菱ケミカル社製 商品名「アクリルエステルM」)を少量加えた以外は、実施例1の手順に従って二重シェル化粒子を合成して、乾燥させた。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0108】
[実施例3,4]
実施例1記載の「コア成分からなる乳化液の調製」において、「コア成分の原料」である「(5)内包用触媒」を、所定量(表1に記載)の硬化触媒トリ-p-トリルホスフィン(北興化学社製 商品名「TPTP」)に代えた以外は、実施例2の手順に従って二重シェル化粒子を合成して、乾燥させた。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0109】
[実施例5]
実施例1記載の「二重シェル化粒子の合成」において、「外層シェルの原料」である「(2)ラジカル重合開始剤」として、水溶性ラジカル重合開始剤2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェート二水和物(和光純薬社製 商品名「VA-046B」、10時間半減期温度46℃)、及び油溶性ラジカル重合開始剤ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(和光純薬社製 商品名「VE-073」、10時間半減期温度73℃)を用い;「(3)アクリルモノマー」として、アリルメタクリレート(三菱ガス化学社製 商品名「AMA」)の他に、メチルメタクリレート(三菱ケミカル社製 商品名「アクリルエステルM」)を少量加え;並びに、実施例1記載の「外層シェル成分からなる乳化液の滴下による二重シェル化粒子の合成」を下記のように変更した;以外は、実施例1の手順に従って二重シェル化粒子を合成して、乾燥させた。各成分の配合量は表1に記載のとおりである。
【0110】
[外層シェル成分からなる乳化液の滴下による二重シェル化粒子の合成]
前記「一重シェル化粒子」の乳化液を窒素雰囲気下加熱して65℃とした。その後、前記「外層シェル成分からなる乳化液」を滴下して、65℃で1h、ラジカル重合(乳化重合)を行った後、90℃に昇温して、90℃で1h、ラジカル重合(乳化重合)により外側シェル層を形成させて二重シェル化粒子を合成した。
【0111】
[比較例1]
実施例1の二重シェル化粒子作製途中で得られる「一重シェル化粒子」の乳化液をスプレードライにより乾燥して、比較例1の一重シェル化粒子を得た。なお、比較例1は実施例1とは別ロットである。
【0112】
[比較例2]
実施例1の二重シェル化粒子作製途中で得られる「コア粒子」の乳化液をスプレードライにより乾燥して、比較例2のコア粒子を得た。なお、比較例2は実施例1及び比較例1とは別ロットである。
【0113】
[比較例3]
市販の粗大粒子触媒(日本化薬製EP-CAT-T)を用いた。
【0114】
<粒子の評価方法>
[粒径:粒度分布]
Microtrac社製レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置BlueRaytracを用いて、実施例1~5または比較例1~3の粒子を含むイオン交換水中で、体積基準での粒度分布曲線、及び累積体積曲線を測定し、小粒径側から積算して累積体積50%となる粒径D50を求めた。
【0115】
[シェルの熱安定性]
エスアイアイ・ナノテクノロジ―社(現在、日立ハイテク社)製示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)ExstarTG/DTA7200を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分にて、実施例1~5または比較例1、3の粒子を測定した。内包触媒の熱分解に起因する重量減少後(TPP及びTPTPの場合、150℃位から重量減少が起こり300℃未満まで続く)、300℃付近にアクリル樹脂に起因する重量減少が確認できる。アクリル樹脂に起因する重量減少速度が2%/分(サンプルが5.00mgのときは100ng/分)になった温度をシェルの熱分解温度とした。
【0116】
[反応率評価]
ThermoFisherScientific社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)Nicolet iS50又は/及びiS5を用いて、波数分解能4cm-1の条件で実施例1~5または比較例1、3の粒子をATR法にて測定した。C=Cに由来する1650cm-1のピークと、内部標準であるC-H由来の2950cm-1付近のピークとの高さ比(n(C=C)/n(C-H))を評価した。
【0117】
<エポキシ樹脂組成物の評価>
[保存安定性評価 シェルの浸透性]
液状脂環式エポキシ樹脂(ダイセル社製 商品名セロキサイド2021P(エポキシ当量 138g/eq))と同重量の実施例1~5または比較例3の粒子を加え、ロールミル(ボールミル)にて分散した後、TAインスツルメント社製応力制御型レオメーターAR G2を用いて、20~100℃の間で、昇温速度10℃/分の条件で加熱しながら粘度を測定した。温度上昇に伴う粘度低下後、粒子へのエポキシ樹脂の浸透に伴う粘度上昇が観察された。なお、実施例1,3及び5はロールミル、実施例2,4及び比較例3はボールミルでの分散である。
【0118】
粘度上昇の開始時点の温度(極小粘度での温度)を評価した。また、粘度上昇の開始時点の粘度(極小粘度)を評価した。前記測定で得た25℃の粘度を初期粘度として評価した。以上の結果を表2に示す。
【0119】
[表面凹凸の評価]
・平面内の任意方向(平面方向)の凹凸の評価
液状脂環式エポキシ樹脂(ダイセル社製 商品名セロキサイド2021P(エポキシ当量 138g/eq)) 100重量部、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(日立化成株式会社製、酸無水物当量164g/eq) 100重量部、及び実施例1~5または比較例1~3の粒子 100重量部を加え、ロールミル(ボールミル)にて分散して樹脂組成物を調製した。各樹脂組成物を、加熱装置を用いて、100℃にて1時間、その後180℃にて4時間加熱して硬化物を得た。
【0120】
得られた各硬化物の表面形状を次のとおり観察し評価した。硬化物表面に金を蒸着した後、日本電子社製走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-6390LVを用いて、加速電圧15kV、観察角度45°、倍率400倍(観察エリア:300μm×200μm)でのSEM観察により確認した。
【0121】
凸部又は凹部の大きさが10μm以下である場合をA、10μmを超える場合をCとした。結果を表2に示す。また、実施例1の粒子を加えた樹脂組成物の硬化物表面のSEM観察像を
図1に、比較例3の粒子を加えた樹脂組成物の硬化物表面のSEM観察像を
図2に示す。
【0122】
・面垂直方向の凹凸の評価
さらに、実施例1の粒子を加えた樹脂組成物の硬化物については、触針式表面形状測定器DEKTAK 150を用いて、走査速度:1,000μm/60s、走査距離:1.0mm、測定箇所:5箇所、及び計測値:段差の条件にて観察した。
【0123】
その結果、測定箇所:5箇所のうち、各箇所における段差の最大値は次のとおりであった。第1の箇所:0.41μm、第2の箇所:0.46μm、第3の箇所:0.87、第4の箇所:0.74μm、及び第5の箇所:0.55μm。したがって、実施例1の粒子を加えた樹脂組成物の硬化物の表面の面垂直方向の凹凸は10μm以下であることがわかった。
【0124】
[狭ギャップ侵入性評価]
上記「表面凹凸の評価」と同様にして、実施例1~5または比較例1~3の粒子を加えた各樹脂組成物を、バンプ付きダミーチップ(バンプ高さ:50μm)を実装したガラス基板を90℃ホットプレートに載置し、当該樹脂組成物をディスペンサーで塗工して、5分後の侵入性を評価した。
【0125】
チップ下に樹脂組成物がボイド等なく侵入ができているものをA、侵入ができているがボイド等があるものをB、侵入ができていないものをCとした。結果を表2に示す。
【0126】