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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電気自動車のパワーシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20221212BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20221212BHJP
   H02P 25/028 20160101ALI20221212BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221212BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P25/22
H02P25/028
H02M7/48 E
H02M3/155 W
H02M3/155 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020525537
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022803
(87)【国際公開番号】W WO2019244680
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/023139
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018211287
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509656(JP,A)
【文献】特開2014-204574(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098585(WO,A1)
【文献】特開2013-077452(JP,A)
【文献】特開2010-081786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 25/22
H02P 25/028
H02M 7/48
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータのダブルエンデッド3相コイルに接続される第1の3相インバータ及び第2の3相インバータからなるデュアルインバータを制御するコントローラと、前記デュアルインバータに電源電圧を印加するための直流電源とを備える電気自動車用パワーシステムにおいて、
前記第1の3相インバータの出力端子は、単相グリッド及び/又は3相グリッドに接続するためのコネクタに接続され、
前記コントローラは、前記直流電源のバッテリの電圧であるバッテリ電圧が前記グリッドの電圧であるグリッド電圧のピーク値よりも高い条件下において採用される昇圧充電モードと、前記バッテリ電圧が前記グリッド電圧のピーク値よりも低い条件下において採用される降圧充電モードとを有し、
前記第2の3相インバータは、前記昇圧充電モードにおいて前記コネクタから前記ダブルエンデッド3相コイルを通じて印加される前記グリッド電圧を整流して昇圧し、
前記第1の3相インバータは、前記降圧充電モードにおいて前記コネクタから印加される前記グリッド電圧を整流し、
前記直流電源は、前記降圧充電モードにおいて前記整流されたグリッド電圧を降圧して前記直流電源のバッテリに印加する双方向DCDCコンバータをもつことを特徴とする電気自動車用パワーシステム。
【請求項2】
前記双方向DCDCコンバータは、前記バッテリとしての2つのバッテリを直列接続するための直列トランジスタと、前記2つのバッテリを並列接続するための2つの並列トランジスタと、磁気エネルギーを蓄積するためのリアクトルと、前記2つのバッテリの電圧を出力するための出力トランジスタと、前記リアクトルを放電するための放電ダイオードとを有する請求項1記載の電気自動車用パワーシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記2つのバッテリを並列接続するための並列モード、前記2つのバッテリを直列接続するための直列モード、前記2つのバッテリの電圧和を昇圧するための昇圧モード、及び、前記デュアルインバータから印加される前記電源電圧を降圧するための降圧モードを有する請求項2記載の電気自動車用パワーシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記グリッド電圧の電圧値に応じて前記並列モード、前記直列モード、及び前記降圧モードの1つを選択する請求項3記載の電気自動車用パワーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気トラクションモータを有する車両として定義される電気自動車のパワーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、2つの星形3相コイル及び2つの3相インバータからなる車載充電器を形成することを提案する。単相グリッド電圧が2つの3相コイルの中性点に印加される。しかし、この車載充電器は、各中性点を開放するための複雑なスイッチ機構を必要とする。特許文献1は更に、3つの星形3相コイル及び3つの3相インバータからなる車載充電器を提案する。3相グリッド電圧が3つの中性点間に印加される。しかし、同相電流が各星形3相コイルの3つの相コイルを流れる。したがって、3つの相コイルにより励磁される各相磁界は互いにキャンセルされる。その結果、各星形3相コイルはそれぞれ、低いインダクタンスをもつ。
【0003】
特許文献2は、ダブルエンデッド3相コイルに接続される2つの3相インバータからなるデュアルインバータの1つの駆動方式を提案する。2つの3相インバータを相補的にPWM駆動するこの駆動方式はダブルPWM方式と呼ばれる。このデュアルインバータはダブルPWMモードに加えてパルスモードをもつ。2つの3相インバータは、ダブルPWMモードにおいて互いに反対波形の3相正弦波電圧を出力する。2つの3相インバータは、パルスモードにおいて互いに反対波形の矩形波電圧を出力する。デュアルインバータは本質的に3つのHブリッジからなる。各Hブリッジの2つのレグはそれぞれ、ダブルPWMモードにおいてPWMレグとなり、パルスモードにおいて固定電位レグとなる。PWMレグはPWM制御されるレグを意味し、固定電位レグは直流電圧を出力するレグを意味する。
【0004】
特許文献3は、リアクトル付きスイッチドバッテリからなる電圧切替式直流電源を提案する。この直流電源は、並列モード及び直列モードに加えて昇圧モードをもつ。しかし、このリアクトル付きスイッチドバッテリは、常に電力損失を発生する2つのリアクトルを必要とする。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-243868号公報
【文献】特開2006-149145号公報
【文献】特許5492040号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、性能に比べて相対的に低コストをもつ電気自動車用パワーシステムを提供することである。
【0008】
本発明の第1の様相によれば、車載充電器の少なくとも一部は、モータのダブルエンデッド3相コイルを直流電源に接続するデュアルインバータからなる。デュアルインバータの2つの3相インバータのどちらかに印加されるグリッド電圧は、2つの3相インバータのどちらかにより整流される。
【0009】
1つの態様において、グリッド電圧が2つの3相インバータの一方に印加され、他方の3相インバータはグリッド電圧を昇圧する昇圧チョッパを形成する。
【0010】
もう1つの態様において、直流電源はバッテリ電圧を昇圧する双方向DCDCコンバータをもつ。2つの3相インバータの一方により整流されたグリッド電圧は双方向DCDCコンバータにより降圧される。
【0011】
もう1つの態様において、電圧切替式直流電源が直流電源として採用される。直流電源の電源電圧は、デュアルインバータへ印加されるグリッド電圧の振幅に応じて切り替えられる。
【0012】
もう1つの態様において、デュアルインバータは、シングルPWM法により駆動される。これにより、インバータ損失が低減される。好適には、デュアルインバータは、上アーム導通式シングルPWM法により駆動される。これにより、インバータ損失及びリンギングサージ電圧が低減される。
【0013】
本発明の第2の様相によれば、パワーシステムは、リアクトル付きスイッチドバッテリ装置からなる電圧切替式の直流電源を採用する。このリアクトル付きスイッチドバッテリ装置は2つのバッテリの接続を切り替える接続切替回路をもつ。接続切替回路は、直列トランジスタ、2つの並列トランジスタ、リアクトル、出力トランジスタ、及び放電ダイオードを有する双方向DCDCコンバータからなる。リアクトルは、2つの並列トランジスタの一方と直列トランジスタとを接続する。リアクトルと直列トランジスタとを接続する接続点に接続される放電ダイオードは、直列トランジスタがオフされる時、リアクトルを放電する。これにより、バッテリ損失及びインバータ損失が低減される。好適には、この電圧切替式の直流電源は、並列モード、直列モード、昇圧モード、及び降圧モードをもつ。さらに好適には、この電圧切替式の直流電源は、過渡モードをもつ。
【0014】
1つの態様において、コントローラは、より低い電圧をもつバッテリを選択的に充電する電圧均等化モードをもつ。もう1つの態様において、コントローラは、より高い電圧をもつバッテリを選択的に放電する電圧均等化モードをもつ。電圧均等化モードは、2つのバッテリを並列接続する前に実行される。この電圧均等化モードは、従来の電圧切替式直流電源により採用されることができる。もう1つの態様において、直流電源の2つのバッテリの一方が不良である時、正常なバッテリだけを使用する並列モードが実行される。これにより、直流電源の信頼性が改善される。
【0015】
もう1つの態様において、直流電源は、サブDCDCコンバータを通じて低電圧バッテリを充電する。直流電源の2つのバッテリは、降圧変圧器の2つの一次コイルに別々に一次電流を供給する。これにより、直流電源の電圧変更にかかわらず、低電圧バッテリは安定に充電される。このサブDCDCコンバータは、従来の電圧切替式直流電源により採用されることができる。
【0016】
本発明の第3の様相によれば、ダブルエンデッド3相コイルに接続されるデュアルインバータはシングルPWM方式により駆動される。デュアルインバータの3つのHブリッジはそれぞれ、PWMレグ及び固定電位レグからなる。PWMレグ及び固定電位レグを所定期間毎に交代される。これにより、インバータ損失が低減され、デュアルインバータの各素子間の温度差が低減される。
【0017】
1つの態様において、固定電位レグの上アームスイッチは常にオンされ、PWMレグの下アームスイッチがPWM制御される。この方式は、上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。これにより、リンギングサージ電圧が低減される。その結果、インバータのスイッチング損失が低減される。
【0018】
もう1つの態様において、3つのHブリッジは空間ベクトルPWM(SVPWM)法により制御される。3つのHブリッジの電流供給期間は、できるだけオーバーラップしないように共通のPWMサイクル期間内に配置される。これにより、バッテリ損失が低減される。
【0019】
もう1つの態様において、3つの相の電流供給期間は連続的に配置される。これにより、平滑キャパシタの損失が低減される。
【0020】
もう1つの態様において、デュアルインバータは、3つのHブリッジの1つを順番に休止するダブルHブリッジモードにより駆動される。これにより、インバータ損失が低減される。
【0021】
もう1つの態様において、デュアルインバータは、バッテリ温度が低い時、新規なバッテリ加熱法を実行する。デュアルインバータは、ダブルエンデッド3相コイルの1つ又は2つの相コイルに単相AC電流を供給する。この単相AC電流はモータ内に回転磁界を形成しない。ダブルエンデッド3相コイルに接続されたデュアルインバータの代わりに、星形3相コイルに接続された1つの3相インバータを採用することも可能である。言い換えれば、このバッテリ加熱法は、従来の3相モータ駆動装置により採用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は第1実施例の車載3相充電器を示す配線図である。
図2図2は第1実施例の車載単相充電器を示す配線図である。
図3図3は電圧切替式車載充電器を示す配線図である。
図4図4は電圧切替式直流電源の電圧切替動作を示す図である。
図5図5図4に示される直流電源の昇圧モードを示す模式配線図である。
図6図6図4に示される直流電源の昇圧モードを示す模式配線図である。
図7図7図4に示される直流電源の過渡モードを示す模式配線図である。
図8図8図4に示される直流電源の過渡モードを示す模式配線図である。
図9図9図4に示される直流電源の降圧モードを示す模式配線図である。
図10図10図4に示される直流電源の降圧モードを示す模式配線図である。
図11図11は第2実施例の補助充電システムを示す配線図である。
図12図12は第3実施例で使用される単相電圧及び単相電流の波形を示す波形図である。
図13図13は第3実施例のバッテリ加熱モードを示すタイミングチャートである。
【0023】
図14図14は第4実施例のデュアルインバータを示す配線図である。
図15図15はU相電圧の基本波成分及びU相電流の波形を示す波形図である。
図16図16は正半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
図17図17は、負半波期間のPWMサイクル期間における1つのHブリッジの状態を示すタイミングチャートである。
図18図18は、デュアルインバータのトリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
図19図19は、1つのHブリッジの出力電圧の基本波成分を示す波形図である。
図20図20は、デュアルインバータの合成電圧ベクトルを示すベクトル図である。
図21図21は、デュアルインバータのダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。
図22図22は、デュアルインバータの電流分散方式を説明するためのタイミングチャートである。
図23図23は、電流分散方式を採用するパワーシステムを示すブロック回路図である。
図24図24は、トリプルHブリッジモードにおける電流分散方式を示すタイミングチャートである。
図25図25は、ダブルHブリッジモードの電流分散方式を示すタイミングチャートである。
図26図26は、Hブリッジの上アームスイッチがオフされる時に誘起されるサージ電圧を説明するための模式配線図である。
図27図27は、Hブリッジの下アームスイッチがオフされる時に誘起されるサージ電圧を説明するための模式配線図である。
図28図28は、比較例としての従来の3相インバータの等価回路図である。
図29図29は、シングルPWM方式を採用するデュアルインバータの等価回路図である。
図30図30は、従来のダブルPWM方式のデュアルインバータから出力される各相電圧を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1実施例
車載充電器として使用される電気自動車のパワーシステムが図1及び図2を参照して説明される。このパワーシステムは、直流電源100、デュアルインバータ200、オープンエンデッド3相コイル50、コントローラ9、及びコネクタ400を含む。3相コイル50はトラクションモータのステータコイルからなる。
【0025】
バッテリ101及び双方向DCDCコンバータ102を内蔵する直流電源100は、平滑キャパシタ13が接続された+電源線81及び-電源線82を通じてデュアルインバータ200に電源電圧Vcを印加する。コントローラ9により制御されるデュアルインバータ200は2つの3相インバータ30及び40からなる。
【0026】
インバータ30は、それぞれ直列接続された上アームスイッチおよび下アームスイッチからなるU相レグ3U、V相レグ3V、及びW相レグ3Wからなる。レグ3Uは上アームスイッチ31及び下アームスイッチ32からなる。レグ3Vは上アームスイッチ33及び下アームスイッチ34からなる。レグ3Wは上アームスイッチ35及び下アームスイッチ36からなる。同様に、インバータ40は、それぞれ直列接続された上アームスイッチおよび下アームスイッチからなるU相レグ4U、V相レグ4V、及びW相レグ4Wからなる。
【0027】
レグ4Uは上アームスイッチ41及び下アームスイッチ42をもつ。レグ4Vは上アームスイッチ43及び下アームスイッチ44からなる。レグ4Wは上アームスイッチ45及び下アームスイッチ46からなる。各スイッチはIGBT及び逆並列ダイオードからなる。
【0028】
3相コイル50は、それぞれ両端が開放されたU相コイル5U、V相コイル5V、及びW相コイル5Wからなる。相コイル5Uの一端はレグ3Uに接続され、その他端はレグ4Uに接続されている。相コイル5Vの一端はレグ3Vに接続され、その他端はレグ4Vに接続されている。相コイル5Wの一端はレグ3Wに接続され、その他端はレグ4Wに接続されている。
【0029】
図1は3相グリッドに接続される車載充電器を示す。図1において、インバータ40の3つの出力端子は、コネクタ400を通じて3相グリッドに接続されている。3相グリッドはケーブル(UL、VL、及びWL)を通じて3相グリッド電圧(VU、VV、及びVW)をコネクタ400に印加する。コネクタ400は3相グリッド電圧(VU、VV、及びVW)をインバータ40の3つの出力端に印加する。
【0030】
図2は単相グリッドに接続される車載充電器を示す。図2において、インバータ40の2つの出力端子は、コネクタ400を通じて単相グリッドに接続されている。単相グリッドはケーブル(VL及びWL)を通じて単相グリッド電圧(VV及びVW)をコネクタ400に印加する。コネクタ400はこの単相グリッド電圧をインバータ40の2つの出力端に印加する。
【0031】
この車載充電器の充電モードが説明される。この充電モードは昇圧充電モード及び降圧充電モードを含む。昇圧充電モードは、バッテリ101の電圧がグリッド電圧のピーク値より高い条件下において採用される。降圧充電モードは、バッテリ101の電圧がグリッド電圧のピーク値より低い条件下において採用される。
【0032】
昇圧充電モードにおいて、3相インバータ30及び3相コイル50は昇圧チョッパとして駆動される。降圧充電モードにおいて、3相インバータ40はグリッド電圧を整流する整流器として動作する。整流電圧は、直流電源100内のコンバータ102により降圧されて直流電源100のバッテリ101を充電する。
【0033】
この充電モードは、3相中電圧モード、3相高電圧モード、及び単相モードを含む。バッテリ101の定格電圧は360Vである。3相中電圧モードは200V-250Vの3相グリッド電圧を用いる、3相高電圧モードは400V-480Vの3相グリッド電圧を用いる。単相モードは250V未満の単相グリッド電圧を用いる。
【0034】
3相中電圧モード
昇圧充電モードを採用する3相中電圧モードが説明される。3相グリッド電圧のピーク値は354Vである。インバータ40は停止される。インバータ30及び3相コイル50は、3つの昇圧チョッパを形成する。相コイル5U及びレグ3UはU相昇圧チョッパを形成する。相コイル5V及びレグ3VはV相昇圧チョッパを形成する。相コイル5W及びレグ3WはW相昇圧チョッパを形成する。
【0035】
U相昇圧チョッパの動作が説明される。下アームスイッチ32は、U相電圧VUがV相電圧VV及びW相電圧VWよりも高い期間にPWM制御される。スイッチ32がオンされる時、ケーブルULから相コイル5U、スイッチ32、及びインバータ40の下アームスイッチを通じて蓄積電流が流れ、相コイル5Uは磁気エネルギーを蓄積する。スイッチ32がオフされる時、ケーブルULから相コイル5U、上アームスイッチ31、直流電源100、及びインバータ40の下アームスイッチを通じて充電電流が流れる。これにより、バッテリ101が充電される。
【0036】
充電電流はスイッチ32のPWM制御により調節される。直流電源100の双方向DCDCコンバータ102は停止される。V相昇圧チョッパ及びW相昇圧チョッパはそれぞれ、U相昇圧チョッパと本質的に同じ動作をもつ。結局、これら3つの昇圧チョッパは電気角120度毎に順番に昇圧動作を実行し、最も低い昇圧比をもつ昇圧チョッパだけが昇圧動作を実行する。
【0037】
昇圧充電モードが実行される充電期間において、3相コイル50に流れる電流はトラクションモータ内に回転磁界を形成する。この回転磁界はグリッド電圧と同期する角速度をもつ。しかし、3相コイル50をもつ同期モータは充電期間において停止している。したがって、この同期モータの平均トルクはゼロとなる。3相コイル50をもつ誘導モータはU相昇圧チョッパだけを使用する。これにより、誘導モータの始動トルクはゼロとなる。
【0038】
3相高電圧モード
降圧充電モードを採用する3相高電圧モードが説明される。3相グリッド電圧のピーク値は676Vである。インバータ30は停止される。3相整流器として動作するインバータ40は、整流電圧をコンバータ102に印加する。コンバータ102は、この整流電圧を降圧し、バッテリ101を充電する。
【0039】
単相モード
昇圧充電モードを採用する単相モードが図2を参照して説明される。単相グリッド電圧のピーク値は177V又は354Vである。インバータ40は停止される。レグ3V及び相コイル5VはV相昇圧チョッパを形成し、レグ3W及び相コイル5WはW相昇圧チョッパを形成する。V相電圧VVがW相電圧VWよりも高い時、V相昇圧チョッパがバッテリ101に昇圧電圧を印加する。V相電圧VVがW相電圧VWよりも低い時、W相昇圧チョッパがバッテリ101に昇圧電圧を印加する。結局、インバータ30及び3相コイル50からなる単相昇圧チョッパは、単相グリッド電圧を用いてバッテリ101を充電する。
【0040】
次に、直流電源100から3相グリッドへAC電力を供給する3相放電モードが説明される。図1において、直流電源100は、グリッド電圧のピーク値よりも高い電源電圧Vcをインバータ40に印加する。インバータ30は停止される。PWM制御されるインバータ40の3つのレグ(4U、4V、及び4W)はグリッドへAC電力を供給する。
【0041】
次に、直流電源100から外部の単相グリッドへAC電力を供給する単相放電モードが説明される。図2において、直流電源100は、グリッド電圧のピーク値よりも高い電源電圧Vcをインバータ40に印加する。インバータ30は停止される。PWM制御されるインバータ40の2つのレグ(4V及び4W)はグリッドへAC電力を供給する。
【0042】
第2実施例
グリッド電圧とバッテリ電圧との差が拡大する時、第1実施例の車載充電器の電力損失は増加する。この問題は、直流電源100の電源電圧Vcを切り替えることにより改善される。
【0043】
図3は、電圧切替式の車載充電器を示す配線図である。電源電圧Vcをデュアルインバータ200へ印加する直流電源100は、バッテリ1、バッテリ2、及び接続切替回路10からなる。バッテリ1及び2の定格電圧は180Vである。接続切替回路10は、直列トランジスタ3、並列トランジスタ4及び5、出力トランジスタ6、リアクトル7、及びダイオード8からなる。トランジスタ3-6はそれぞれ、逆並列ダイオードをもつIGBTからなる。
【0044】
+電源線81は、出力トランジスタ6、バッテリ2、リアクトル7、直列トランジスタ3、及びバッテリ1を通じて-電源線82に接続されている。バッテリ2の負極とリアクトル7との接続点は、並列トランジスタ4を通じて-電源線82に接続されている。出力トランジスタ6とバッテリ2の正極との接続点は並列トランジスタ5を通じてバッテリ1の正極に接続されている。リアクトル7と直列トランジスタ3との接続点はダイオード8のカソード電極に接続されている。ダイオード8のアノード電極は-電源線82に接続されている。
【0045】
この電圧切替式の車載充電器は、接続切替回路10の動作を除いて第1実施例の車載充電器と同じである。したがって、充電モードにおける接続切替回路10の動作だけが説明される。接続切替回路10の充電モードは、並列モード、直列モード、及び降圧モードをもつ。バッテリ101が125V未満の単相グリッドに接続される時、接続切替回路10は並列モードを採用する。バッテリ101が250V未満の単相グリッド又は3相グリッドに接続される時、接続切替回路10は直列モードを採用する。バッテリ101が480V未満の3相グリッドに接続される時、接続切替回路10は降圧モードを採用する。
【0046】
並列モードにおいて、トランジスタ3はオフされ、トランジスタ4-6はオンされる。これにより、バッテリ1及び2がそれぞれデュアルインバータ200に並列接続される。電源電圧Vcは180Vとなる。インバータ30のレグ3V及び3Wは交互に昇圧動作を実行する。
【0047】
さらに、並列モードは電圧均等化モードをもつ。この電圧均等化モードにおいて、バッテリ1及び2の間の電圧差が並列モードの実行前に検出される。電圧差が所定値を超える時、より低電圧のバッテリに接続される並列トランジスタだけがオンされる。これにより、より低電圧のバッテリだけが充電される。この電圧差が所定値未満となった後、2つの並列トランジスタ4及び5がオンされ、2つのバッテリは並列に充電される。これにより、短絡電流が並列モードの開始直後にバッテリ1及び2を通じて流れることが防止される。
【0048】
直列モードにおいて、トランジスタ4及び5はオフされ、トランジスタ3及び6はオンされる。これにより、電源電圧Vcは360Vとなる。単相AC電圧が印加される時、インバータ30のレグ3V及び3Wは交互に昇圧動作を実行する。3相AC電圧が印加される時、インバータ30のレグ3U、3V及び3Wは順番に昇圧動作を実行する。
【0049】
降圧モードにおいて、トランジスタ3はオンされ、トランジスタ6はPWM制御される。これにより、接続切替回路10は、3相インバータ40から印加される整流電圧を降圧する。この降圧動作が説明される。トランジスタ6がオンされる時、充電電流が、電源線81から電源線82へトランジスタ6、バッテリ2、リアクトル7、トランジスタ3、及びバッテリ1を通じて流れ、バッテリ1及び2が直列に充電される。
【0050】
トランジスタ6がオフされる時、リアクトル7に蓄積された磁気エネルギーにより、第1のフリーホィーリング電流がリアクトル7、トランジスタ3、トランジスタ5、及びバッテリ2を通じて循環される。さらに、第2のフリーホィーリング電流が、リアクトル7、トランジスタ3、バッテリ1、及びトランジスタ4を通じて循環される。バッテリ1及び2はこれらのフリーホィーリング電流により並列に充電される。トランジスタ6のPWMデユーティ比は充電電流制御のために調節される。
【0051】
第3実施例
第2実施例の接続切替回路10は直流電源100の製造コストを増加させる。この問題は、接続切替回路10をモータ駆動のために使用することにより改善される。このモータ駆動において、接続切替回路10は、並列モードMP、直列モードMS、昇圧モードMBをもつ。さらに、接続切替回路10は、過渡モード及び回生制動モードをもつ。
【0052】
図4は、モータの逆起電力Vr、最大モータ電流Imax、モータ速度Vm、及び電源電圧Vcの間の関係を示す図である。モータ速度Vmが速度値V1未満である低速領域において、並列モードMpが採用される。モータ速度Vmが速度値V1-V2の間の中速領域において、直列モードMsが採用される。モータ速度Vmが速度値V2を超える高速領域において、昇圧モードMbが採用される。バッテリ1及び2は並列モードMpにおいて並列に接続され、直列モードMsにおいて直列に接続される。
【0053】
並列モードMPにおいて、トランジスタ3はオフされる。直列モードMSにおいて、トランジスタ4及び5はオフされ、トランジスタ3はオンされる。これにより、電源電圧Vcはバッテリ1及び2の電圧和となる。
【0054】
並列モードMPは電圧均等化モードをもつ。この電圧均等化モードにおいて、バッテリ1及び2の間の電圧差が並列モードの開始前に検出される。電圧差が所定値を超える時、より高電圧のバッテリに接続される並列トランジスタだけがオンされる。または、並列トランジスタ4及び5はオフされる。これにより、より高電圧のバッテリだけが、並列トランジスタの逆並列ダイオードを通じて放電する。電圧差が所定値未満となった後、2つのバッテリ4及び5は、並列に放電する。これにより、短絡電流が並列モードの開始直後にバッテリ1及び2を通じて流れることが防止される。
【0055】
昇圧モードMBにおいて、トランジスタ3はオンされ、トランジスタ4及び5はPWM制御される。この昇圧モードMBは、交互に実行される蓄積モード及び出力モードからなる。
【0056】
蓄積モードが図5を参照して説明される。トランジスタ6はオフされ、トランジスタ4及び5はオンされる。バッテリ1、トランジスタ3、リアクトル7、及びトランジスタ4を通じて流れる循環電流I1が増加し、リアクトル7の磁気エネルギーが増加する。同様に、バッテリ2、トランジスタ5、トランジスタ3、及びリアクトル7を通じて流れる循環電流I2が増加し、リアクトル7の磁気エネルギーが増加する。
【0057】
出力モードが図6を参照して説明される。トランジスタ4及び5はオフされる。循環電流I1及びI2の和にほぼ等しい電源電流Iがトランジスタ6を通じてインバータに供給される。電源電圧Vcは、バッテリ1、リアクトル7、バッテリ2の電圧和となる。電源電圧Vcは、トランジスタ4及び5のPWMデユーティ比を調整することにより制御される。結局、接続切替回路10は昇圧チョッパ式のDCDCコンバータとして動作する。
【0058】
過渡モードが図7及び図8を参照して説明される。トランジスタ4及び5はオフされ、トランジスタ3はPWM制御される。図7はトランジスタ3がオンされる蓄積期間を示す。この蓄積期間は直列モードと本質的に同じである。電源電圧Vcはバッテリ1、リアクトル7、及びバッテリ2の電圧和となる。リアクトル7は、電源電流Iの増加を抑制するために逆起電力を発生する。このため、電源電圧Vcは、バッテリ1及び2の電圧和より低くなる。
【0059】
図8はトランジスタ3がオフされる減磁期間を示す。リアクトル7は、ダイオード8、リアクトル7、バッテリ2、及びトランジスタ6を通じて電源電流Iを流す。リアクトル7は、電源電流Iの減少を抑制するために、リアクトル7はバッテリ2と同方向の電圧を発生する。このため、電源電圧Vcはバッテリ1の電圧又はバッテリ2の電圧よりも高くなる。
【0060】
並列モードから直列モードへの変更が指示される過渡モードにおいて、トランジスタ3のオンデユーティ比は0から1に徐々に変更される。これにより、電源電圧Vcは徐々に高くなる。直列モードから並列モードへの変更が指示される過渡モードにおいて、トランジスタ3のオンデユーティ比は1から0に徐々に変更される。これにより、電源電圧Vcは徐々に低くなる。
【0061】
降圧モードに等しい回生制動モードが図9及び図10を参照して説明される。この回生制動モードモードにおいて、トランジスタ3はオンされ、トランジスタ4及び5はオフされ、トランジスタ6はPWM制御される。トランジスタ3の逆並列ダイオードがオンされるため、トランジスタ3のオンは省略されることができる。
【0062】
図9はトランジスタ6がオンされる蓄積期間を示す。電源電圧Vcが、バッテリ2、リアクトル7、及びバッテリ1に印加される。バッテリ1及び2が回生電流Irにより直列に充電され、リアクトル7は磁気エネルギーを蓄積する。電源電圧Vcとバッテリ1及び2の電圧和との間の電圧差はリアクトル7により吸収される。
【0063】
図10はトランジスタ6がオフされるフリーホィーリング期間を示す。リアクトル7によりフリーホィーリング電流(I1、I2)は循環される。リアクトル7、トランジスタ3、バッテリ1、及びトランジスタ4を通じて流れるフリーホィーリング電流I1はバッテリ1を充電する。リアクトル7、トランジスタ3、トランジスタ5、及びバッテリ2を通じて流れるフリーホィーリング電流I2は、バッテリ2を充電する。フリーホィーリング電流I1及びI2は、トランジスタ4及び5の逆並列ダイオードを通じて流れる。トランジスタ4及び5をオンすることも可能である。結局、接続切替回路10は降圧チョッパとなる。
【0064】
接続切替回路10は、バッテリ1及び2の故障対策モードをさらに実行する。接続切替回路10は、バッテリ1及び2の一方が不良であり、他方が正常である時、不良なバッテリを切り離す。バッテリ1が不良である時、トランジスタ3及び5がオフされ、トランジスタ4がオンされる。同様に、バッテリ2が不良である時、トランジスタ3及び4がオフされ、トランジスタ5がオンされる。結局、接続切替回路10は、正常なバッテリだけを並列モードで運転する。これにより、たとえ2つのバッテリ1及び2の一方が故障しても、トラクションモータの駆動を実現することができる。
【0065】
この実施例の電圧切替式直流電源によれば、バッテリの等価抵抗は並列モードにおいて直列モードと比べて1/4となる。これにより、バッテリ損失を低減することができる。昇圧モードはモータの巻数増加を可能とする。これにより、インバータの電力損失を低減することができる。リアクトル7は並列モードにおいて電力損失を発生しない。1つのリアクトルだけを使用するこの電圧切替式直流電源は、2つのリアクトルを用いる従来の電圧切替式直流電源と比べてリアクトルの銅損を低減する。
【0066】
第4実施例
第2実施例及び第3実施例は、電源電圧Vcが変化する電圧切替式直流電源を使用する。しかし、電気自動車は、この直流電源により充電される低電圧のサブバッテリをもつ。このサブバッテリは、電源電圧Vcの変化にもかかわらず、安定な充電電圧値で充電される必要がある。一般に、サブバッテリは約14.4Vの電圧をもつ。
【0067】
図11は、サブバッテリ29を充電するための降圧DCDCコンバータ300を示す配線図である。降圧DCDCコンバータはステップダウンDCDCコンバータを意味し、昇圧コンバータはステップアップDCDCコンバータを意味する。コンバータ300は、トランジスタ11及び12、変圧器20、及び整流器30からなる。変圧器20は2つの一次コイル(21及び22)及び2つの二次コイル(23及び24)をもつ。一次コイル21及び22の巻き方向は互いに反対である。二次コイル23及び24の巻き方向は互いに反対である。
【0068】
整流器30は、2つの整流ダイオード(25及び26)、平滑キャパシタ27、及びインダクタ28からなる。平滑キャパシタ27及びインダクタ28からなる平滑回路は、整流ダイオード(25及び26)から出力される整流電圧を平滑する。平滑された整流電圧はサブバッテリ29に印加される。二次コイル23はダイオード25に接続され、二次コイル24はダイオード26に接続される。トランジスタ11はバッテリ2から一次コイル21に印加される入力電圧を制御する。トランジスタ12はバッテリ1から一次コイル22に印加される入力電圧を制御する。トランジスタ11及び12は交互にPWM制御される。
【0069】
トランジスタ11がオンされる期間に二次コイル23に誘導される二次電圧はダイオード25を通じて平滑キャパシタ27を充電する。トランジスタ12がオンされる期間に二次コイル24に誘導される二次電圧はダイオード26を通じて平滑キャパシタ27を充電する。この実施例の降圧DCDCコンバータ300は、接続切替回路10の接続切替動作の影響を受けない。
【0070】
第5実施例
第1実施例のバッテリ101として好適に採用されるリチウムイオンバッテリは低温環境下において急速充電により劣化する。この実施例において、パワーシステムは低温のバッテリを加熱するバッテリ加熱モードをもつ。このバッテリ加熱モードは電気自動車の停車中においてバッテリ温度が所定値未満になる時に実行される。これにより、バッテリ101は急速充電により充電されることができる。
【0071】
このバッテリ加熱モードが、図1を参照して説明される。デュアルインバータ200は、単相AC電圧を3相コイル50に印加する。この単相AC電圧の基本波成分はたとえば60Hzの周波数をもつ。3相コイル50の電気抵抗は無視され、3相コイル50は誘導性負荷と見做される。レグ3U及び4UからなるU相Hブリッジは相コイル5Uに相電圧VUを印加し、相電流IUが相コイル5Uを流れる。相電圧VUの基本波成分は、鉄損低減のために正弦波波形をもつ。
【0072】
図12は相電圧VUの基本波成分及び相電流IUの波形を示す。相コイル5Uのインダクタンスにより、相電流IUと相電圧VUとの間の位相差はほぼ電気角90度となる。相電圧VUの1周期(=電気角360度)は正半波期間PAと負半波期間PBとに分割される。期間PAは位相期間P1及びP2に分割される。期間PBは位相期間P3及びP4に分割される。位相期間P1及びP3において、相電流IUは相コイル3Uから直流電源100へ流れる。位相期間P2及びP4において、相電流IUは直流電源100から相コイル3Uへ流れる。
【0073】
言い換えれば、相コイル5Uのインダクタンスに蓄積された磁気エネルギーが減少する減磁期間P1、P3において、この磁気エネルギーはバッテリを充電する。相コイル5Uの磁気エネルギーが増加する励磁期間P2、P4において、バッテリは放電される。この充放電電流は、デュアルインバータ200及び3相コイル50と比べて相対的に高い抵抗値をもつ低温バッテリを加熱する。この加熱はレグ3U及び4UのPWM制御により制御される。
【0074】
図13は、レグ3U及び4Uの1つのPWM制御方式を示すタイミングチャートである。この方式は上アーム導通式シングルPWMと呼ばれる。U相電圧VUの1サイクル期間は、正半波期間PAと負半波期間PBからなり、正半波期間PAは位相期間P1及びP2からなり、負半波期間PBは位相期間P3及びP4からなる。
【0075】
位相期間P1において、相電圧VU及び相電流IUは互いに反対方向をもつ。上アームスイッチ31はオン状態となり、レグ4UはPWM制御される。上アームスイッチ41がオフされ、下アームスイッチ42がオンされる期間に、直流電源100は相電流IUにより充電される。上アームスイッチ41がオンされ、下アームスイッチ42がオフされるフリーホィーリング期間に、相電流IUは上アームスイッチ31及び41を通じて循環する。
【0076】
位相期間P2において、相電圧VU及び相電流IUは互いに同じ方向をもつ。上アームスイッチ31はオン状態となり、レグ4UはPWM制御される。上アームスイッチ41がオフされ、下アームスイッチ42がオンされる期間に、直流電源100は放電される。上アームスイッチ41がオンされ、下アームスイッチ42がオフされるフリーホィーリング期間に、相電流IUは上アームスイッチ31及び41を通じて循環する。
【0077】
位相期間P3において、相電圧VU及び相電流IUは互いに反対方向をもつ。上アームスイッチ41はオン状態となり、レグ3UはPWM制御される。上アームスイッチ31がオフされ、下アームスイッチ32がオンされる期間に、直流電源100は相電流IUにより充電される。上アームスイッチ31がオンされ、下アームスイッチ32がオフされるフリーホィーリング期間に、相電流IUは上アームスイッチ31及び41を通じて循環する。
【0078】
位相期間P4において、相電圧VU及び相電流IUは互いに同じ方向をもつ。上アームスイッチ41はオン状態となり、レグ3UはPWM制御される。上アームスイッチ31がオフされ、下アームスイッチ32がオンされる期間に、直流電源100は放電される。上アームスイッチ31がオンされ、下アームスイッチ32がオフされるフリーホィーリング期間に、相電流IUは上アームスイッチ31及び41を通じて循環する。結局、このバッテリ加熱モードによれば、バッテリ101は、相電圧VUの2倍の周波数で充放電される。
【0079】
相電流IUはモータ内に交番磁界を形成する。この交番磁界は本質的に逆方向に回転する2つの単相回転磁界からなる。停止中の3相モータのロータはこの交番磁界により始動トルクを発生しない。バッテリ温度に応じて相電流IUの振幅及び/又は周波数を制御することにより、バッテリ温度は好適範囲に維持される。結局、このバッテリ加熱モードによれば、モータ始動トルクを発生することなくバッテリを加熱することができる。
【0080】
第1の変形態様が説明される。レグ3Vはレグ3Uと同じPWM制御を実行し、レグ4Vはレグ4Uは同じPWM制御を実行する。これにより、U相電流IUがV相コイル5Vを通してさらに流れる。その結果、デュアルインバータ200及び3相コイル50の損失が低減される。しかし、同位相の相電流を3つの相コイル5U、5V、及び5Wに流すことは好ましくない。これは相コイル5U、5V、及び5Wにより形成される3つの相磁界は互いに打ち消し合うからである。
【0081】
第2の変形態様が説明される。この変形態様によれば、デュアルインバータ200及び3相コイル50の代わりに、従来の3相インバータおよび中性点付きの星形3相コイルが採用される。この従来の3相インバータは、U相レグ、V相レグ、及びW相レグからなる。この従来の中性点付き星形3相コイルはU相コイル、V相コイル、及びW相コイルからなる。
【0082】
この従来の3相インバータのU相レグ及びV相レグをPWM制御することにより、正弦波形を基本波成分をもつ単相AC電圧が、直列接続されたU相コイル及びV相コイルに印加される。したがって、直列接続されたU相コイル及びV相コイルは単なる誘導性負荷と見做されることができる。この3相インバータのU相レグは、図1に示されるデュアルインバータ200のレグ3Uに相当する。同様に、この3相インバータのV相レグは、図1に示されるデュアルインバータ200のレグ4Uに相当する。したがって、U相レグ及びV相レグをPWM制御することにより、直列接続されたU相コイル及びV相コイルに単相AC電流を供給することができる。
【0083】
第6実施例
第1実施例で採用されるデュアルインバータは、星形3相コイルに接続される従来の3相インバータと比べて2倍のスイッチ数を必要とする。デュアルインバータのメリットを改善することにより、このデメリットは抑制される。この実施例は、損失低減が可能なデュアルインバータの新規な運転方式を開示する。
【0084】
図14は、ダブルエンデッド3相コイル50に接続されるデュアルインバータ200を示す。このデュアルインバータ200は、電気自動車の3相トラクションモータを駆動する。このデュアルインバータ200は、図1に示される第1実施例のデュアルインバータ200と同じである。このため、デュアルインバータ200及び3相コイル50の説明は省略される。
【0085】
レグ3UはU相電圧VU1を相コイル5Uに印加し、レグ4UはU相電圧VU2を相コイル5Uに印加する。U相電圧VU(=VU1-VU2)が相コイル5Uに印加される。レグ3VはV相電圧VV1を相コイル5Vに印加し、レグ4VはU相電圧VV2を相コイル5Vに印加する。V相電圧VV(=VV1-VV2)が相コイル5Vに印加される。レグ3WはW相電圧VW1を相コイル5Wに印加し、レグ4WはW相電圧VW2を相コイル5Wに印加する。W相電圧VW(=VW1-VW2)が相コイル5Wに印加される。3つの相電圧(VU、VV、及びVW)の間の位相差は電気角120度である。
【0086】
レグ3U及び4Uは、相電圧VUを相コイル5Uに印加するU相のHブリッジを形成する。レグ3V及び4Vは、相電圧VVを相コイル5Vに印加するV相のHブリッジを形成する。レグ3W及び4Wは、相電圧VWを相コイル5Wに印加するW相のHブリッジを形成する。上アーム導通式シングルPWM法と呼ばれるデュアルインバータ200の新規なPWM駆動方式が説明される。互いに電気角120度の位相差をもつこれら3つのHブリッジの動作は本質的に同じである。このため、U相HブリッジのPWM制御だけが説明される。
【0087】
図15は、相電圧VUの基本波成分及び及び相電流IUを示す波形図である。図15は、図13と本質的に同じである。相電圧VUの1周期(=電気角360度)は正半波期間PAと負半波期間PBとに分割される。期間PAは位相期間P1及びP2に分割される。期間PBは位相期間P3及びP4に分割される。位相期間P1及びP3は相コイル5Uから直流電源へ相電流IUを戻す期間である。位相期間P2及びP4は直流電源から相コイル5Uへ相電流IUを供給する期間である。
【0088】
この上アーム導通式シングルPWM法において、レグ3U及び4Uはパルス幅変調(PWM)により交互に制御される。各相のHブリッジはそれぞれ、固定電位レグ及びPWMレグからなる。固定電位レグの上アームスイッチは定常的にオンされる。期間PAにおいて、レグ3Uは固定電位レグとなり、レグ4UはPWMレグとなる。期間PBにおいて、レグ3UはPWMレグとなり、レグ4Uは固定電位レグとなる。固定電位レグ及びPWMレグは電気角180度毎に交代される。各PWMサイクル期間TC内に電流供給期間を自由に配置可能な空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM)法がPWMレグの制御に好適である。
【0089】
このSVPWM法において、コントローラ9は、各PWMサイクル期間TC毎に電流供給期間TXを形成する。PWMデユーティ比は比率(TX/TC)に等しい。電流供給期間TXを除く他のPWMサイクル期間TCはフリーホィーリング期間TFと呼ばれる。直流電源は、電流供給期間TXにおいて相コイル5Uへ相電流IUを供給する。フリーホィーリング電流は、フリーホィーリング期間TFにおいてデュアルインバータ200と3相コイル50との間を循環する。
【0090】
図16は、期間PAにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ3Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ4Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0091】
図17は、期間PBにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。固定電位レグであるレグ4Uはハイレベル(1)を出力する。PWMレグであるレグ3Uは電流供給期間TXにおいてローレベル(0)を出力し、フリーホィーリング期間TFにおいてハイレベル(1)を出力する。
【0092】
まず、3つのHブリッジが同時にPWM制御されるトリプルHブリッジモードが説明される。図18は、トリプルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。図19は、トリプルHブリッジモードにおける相電圧VU1及びVU2の各基本波成分を示す波形図である。トリプルHブリッジモードにおいて、合成回転電圧ベクトルが、3相コイル50に印加される3つの相電圧ベクトルにより合成される。この合成回転電圧ベクトルは、ロータ磁界と同期する。
【0093】
次に、2つのHブリッジが同時にPWM制御されるダブルHブリッジモードが説明される。図20は、ダブルHブリッジモードにおける合成回転電圧ベクトルの存在領域を示すベクトル図である。ダブルHブリッジモードにおいて、3つのHブリッジの1つは電気角60度毎に順番に休止され、残りの2つのHブリッジがPWM制御される。図20において、電気角0度は合成回転電圧ベクトルの方向がU相電圧VUの方向に一致する位相角度を示し、電気角60度は合成回転電圧ベクトルの方向が-W相電圧-VWの方向に一致する位相角度を示す。電気角120度は合成電圧ベクトルの方向がV相電圧VVの方向に一致する位相角度を示し、電気角180度は合成回転電圧ベクトルの方向が-U相電圧-VUの方向に一致する位相角度を示す。電気角240度は合成回転電圧ベクトルの方向がW相電圧VWの方向に一致する位相角度を示し、電気角300度は合成回転電圧ベクトルの方向が-V相電圧-VVの方向に一致する位相角度を示す。この合成回転電圧ベクトルは、2つ又は3つの相電圧ベクトルのベクトル和である。
【0094】
レグ3U及び4UからなるU相Hブリッジは相電圧VU及び-VUを交互に出力する。レグ3V及び4VからなるV相HブリッジはV相電圧VV及び-VVを交互に出力する。レグ3W及び4WからなるW相HブリッジはW相電圧VW及び-VWを交互に出力する。図20において、6つの相電圧ベクトル(VU、-VW、VV、-VU、VW、-VV)は最大振幅値をもつ。言い換えれば、図20に示される破線円は、合成回転電圧ベクトルの振幅が1つの相電圧ベクトルの最大振幅値に等しい状態を示す。ダブルHブリッジモードがこの破線円の内側にて実行される。トリプルHブリッジモードがこの破線円の外側にてが実行される。
【0095】
図20において、合成回転電圧ベクトルが回転可能な領域は12個の位相領域(Z1-Z12)に分割される。6つの位相領域(Z1-Z6)において、合成回転電圧ベクトルは互いに隣接する2つの相電圧ベクトルのベクトル和により形成される。この隣接する2つの相電圧ベクトルの各振幅値はそれぞれPWM法により調節される。
【0096】
相電圧ベクトルVUはU相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。相電圧ベクトルVVはV相の電流供給期間TXに相当する。相電圧ベクトルVWはW相Hブリッジの電流供給期間TXに相当する。たとえば、位相領域Z1内の合成回転電圧ベクトルは、相電圧ベクトルVU及び-VWのベクトル和により形成される。
【0097】
結局、ダブルHブリッジモードにおいて、1つのHブリッジが休止され、デュアルインバータ200の電力損失が低減される。合成回転電圧ベクトルが破線円の外側に達する時、トリプルHブリッジモードが実行される。
【0098】
図21は、ダブルHブリッジモードを示すタイミングチャートである。好適には、3つのHブリッジはそれぞれ、上アーム導通式シングルPWMにより制御される。U相レグ3U及び4Uは電気角60度-120度及び電気角240度-300度の期間において休止される。V相レグ3V及び4Vは電気角0度-60度及び電気角180度-240度の期間において休止される。W相レグ3W及び4Wは電気角120度-180度及び電気角300度-0度の期間において休止される。これにより、デュアルインバータ200の電力損失が低減される。各レグの休止のための上アームスイッチのオフは、フリーホィーリング電流が流れるフリーホィーリング期間に実施されることが好適である。これにより、リンギングサージ電圧が低減される。
【0099】
電流分散方式が図22を参照して説明される。この電流分散方式は、空間ベクトルPWM(SVPWM)により駆動されるデュアルインバータが、共通のPWMサイクル期間TC内に3つのHブリッジの電流供給期間を自由に配置できる利点を利用する。図22は、トリプルHブリッジモードにおける1つのPWMサイクル期間TCを示すタイミングチャートである。3つのHブリッジの電流供給期間TXは共通のPWMサイクル期間TC内に配置される。3つの電流供給期間TXの重なりはできるだけ回避される。同様に、この電流分散方式によれば、ダブルHブリッジモードの2つのHブリッジの電流供給期間TXはできるだけ互いに重ならないようにPWMサイクル期間TC内に配置される。
【0100】
この電流分散方式の効果が図23を参照して説明される。SVPWM法で駆動されるデュアルインバータ200は、相コイル5Uに相電源電流IUPを供給し、相コイル5Vに相電源電流IVPを供給し、相コイル5Wに相電源電流IWPを供給する。電源抵抗値(r)をもつ直流電源100は、+電源線81及び-電源線82を通じてデュアルインバータ200へパルス形状の電源電流IPを供給する。電源電流IPは3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)の和に等しい。3相コイル50を流れるフリーホィーリング電流は無視される。
【0101】
3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重なる時、直流電源100の抵抗損失は、値(r)(IUP+IVP+IWP)(IUP+IVP+IWP)となる。3つの相電源電流(IUP、IVP、及びIWP)が互いに重ならない時、直流電源100の抵抗損失は、値(r)((IUP)(IUP)+(IVP)(IVP)+(IWP)(IWP)となる。
【0102】
たとえば、相電源電流IVP及び相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもち、相電源電流IUPが相対振幅値(2)をもつことが仮定される。相電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源100の抵抗損失は値(16r)となる。相電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源100の抵抗損失は値(6r)となる。したがって、この電流分散方式は部分負荷領域において直流電源100の抵抗損失を大幅に低減する。
【0103】
たとえば、相電源電流IUPの相対振幅値がゼロである時、相電源電流IVP及び相電源電流IWPはそれぞれ相対振幅値(1)をもつ。電源電流IUP、IVP、及びIWPが互いに重なる時、直流電源100の抵抗損失は値(4r)となる。電源電流UP、IVP、及びIWPが互いに重ならない時、直流電源4の抵抗損失は値(2r)となる。
【0104】
しかし、モータ電流が増加する時、複数相の電流供給期間TXは互いに重なる。好適には、トリプルHブリッジモードにおいて相対的に短い2つの電流供給期間TXが優先的にオーバーラップされる。これは、相対的に長い電流供給期間TXは、相電流の振幅が高いことを意味するからである。これにより、直流電源100の抵抗損失を低減することができる。好適には、一つの相の電流供給期間TXの終了は、もう1つの相の電流供給期間TXの開始と重なる。これにより、電源電流IPのリップルが低減される。好適には、2つ乃至3つの相の電流供給期間TXは連続的に配置される。これにより、電源電流IPのリップルが低減される。
【0105】
好適には、トリプルHブリッジモードにおいて、1つの相の最も長い電流供給期間TXは、他の2つの相の電流供給期間TXにより挟まれる。これにより、+電源線81に生じるリンギングサージ電圧を低減することができる。図24において、最長のW相の電流供給期間TXWは、V相の電流供給期間TXVの終了時点から開始される。同様に、U相の電流供給期間TXUは、W相電流供給期間TXWの終了時点から開始される。これにより、電源電流IPの高周波成分を低減することができる。
【0106】
好適には、ダブルHブリッジモードにおいて、より長い電流供給期間TXは、他の1つの電流供給期間TXの直前に配置される。これにより、+電源線81に生じるリンギングサージ電圧を低減することができる。図25において、より長いW相電流供給期間TXWの終了は、U相電流供給期間TXUの開始とオーバーラップする。これにより、電源電流IPの高周波成分を低減することができる。
【0107】
上アーム導通式シングルPWMを採用するデュアルインバータ200のリンギングサージ電圧低減効果が図26及び図27を参照して説明される。図26において、U相上アームスイッチ31がオフされる。図27において、U相下アームスイッチ42がオフされる。U相Hブリッジの上アームスイッチ31及び41は、インバータ内部の+バスバー810により互いに接続されている。同様に、下アームスイッチ32及び42は、インバータ内部の-バスバー820により互いに接続されている。+バスバー810は+電源線81を通じて直流電源100の正極に接続され、-バスバー820は-電源線82を通じて直流電源100の負極に接続されている。
【0108】
相コイル5Uは、U相ケーブル61を通じてレグ3Uに接続され、U相ケーブル71を通じてレグ4Uに接続される。+電源線81はラインインダクタンス81Lをもち、-電源線82はラインインダクタンス82Lをもつ。+電源線81の両端は寄生容量C1及びC2を通じて個別に接地され、-電源線82の両端は寄生容量C3及びC4通じて個別に接地されている。U相ケーブル61は寄生容量C5を通じて接地され、U相コイル5Uは寄生容量C6を通じて接地され、U相ケーブル71は寄生容量C7を通じて接地されている。
【0109】
上アームスイッチ31がオフされる図26において、ラインインダクタンス81Lはサージ電圧を誘起する。このサージ電圧は、寄生キャパシタC2及びC1、及びラインインダクタンス81Lからなる直列共振回路を通じてサージ電流ISUを供給する。これにより、高いリンギングサージ電圧Vrが上アームスイッチ31に印加される。
【0110】
下アームスイッチ42がオフされる図27において、ラインインダクタンス81Lはサージ電圧を発生する。このサージ電圧は、寄生キャパシタC5-C7及びC1、及びラインインダクタンス81Lからなる直列共振回路を通じてサージ電流ISUを供給する。しかし、上アームスイッチ31がオンされているため、リンギングサージ電圧Vrは低減される。結局、デュアルインバータにより採用される上アーム導通式シングルPWMはリンギングサージ電圧を低減することができる。
【0111】
次に、固定電位レグのリンギングサージ電圧が説明される。上アーム導通式シングルPWMにおいて、固定電位レグが切替えられる時に上アームスイッチはオフされる。この上アームスイッチのオフ動作はリンギングサージ電圧を誘起する。けれども、この実施例は、固定電位レグからPWMレグへの切替のための上アームスイッチのオフ動作をフリーホィーリング期間TF又はその直後に実行する。言い換えれば、上アームスイッチはフリーホィーリング電流Ifを遮断する。このフリーホィーリング電流Ifは、+バスバー810を流れるが、+電源線81を流れない。+バスバー810は、+電源線81と比べて低いラインインダクタンス値をもつ。その結果、リンギングサージ電圧は低くなる。
【0112】
この実施例のデュアルインバータの効果が説明される。第1に、上アーム導通式シングルPWM方式を採用するこのデュアルインバータは、常時導通される上アームスイッチをもつ。これにより、+電源線81のリンギングサージ電圧を低減することができる。第2に、電流分散法を採用するデュアルインバータは、直流電源の抵抗損失を大幅に低減する。第3に、ダブルHブリッジモードを採用するデュアルインバータは、インバータ損失をさらに低減する。
【0113】
第4に、このデュアルインバータ及び従来の3相インバータが図28及び図29を参照して比較される。図28は、U相レグ3U、V相レグ3V、及びW相レグ3Wからなる従来の3相インバータを示す。この3相インバータは、星形3相コイルからなる従来のステータコイルに接続されている。このステータコイルの3つの相コイル(5U、5V、及び5W)はそれぞれ、並列接続された2つのコイルユニット(C)からなる。3相インバータの各アームスイッチはそれぞれ、並列接続された2つのトランジスタ(T)をもつ。しかし、図28は、U相レグの下アームスイッチ、V相レグの上アームスイッチ、及びW相レグの上アームスイッチを図示しない。
【0114】
図29は、この実施例のシングルPWM方式で駆動されるデュアルインバータを示す。このデュアルインバータは、ダブルエンデッド3相コイルに接続されている。ダブルエンデッド3相コイルの3つの相コイル(5U、5V、5W)はそれぞれ、直列接続された2つのコイルユニット(C)からなる。デュアルインバータの各スイッチはそれぞれ、1つのトランジスタ(T)をもつ。U相電流IUがスイッチ31及び42を通じて相コイル5Uに供給されている。V相電流IVがスイッチ43及び34を通じて相コイル5Vに供給されている。W相電流IWがスイッチ45及び36を通じて相コイル5Wに供給されている。図29は、デュアルインバータの他のスイッチを図示しない。
【0115】
このデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べて2倍の電圧利用率をもつことができる。このため、ダブルエンデッド3相コイルの各相コイルはそれぞれ、図28に示される星形3相コイルの各相コイルと比べて2倍の巻数をもつことができる。したがって、図29に示されるデュアルインバータは図28に示される従来の3相インバータと同じ回路規模をもつ。
【0116】
図28及び図29に示される2つのインバータの損失が比較される。これら2つのインバータの導通損失は等しい。しかし、シングルPWM方式のデュアルインバータは従来の3相インバータと比べてPWM制御されるトランジスタ数を半減することができる。その結果、シングルPWM法で駆動されるデュアルインバータは、従来の3相インバータと比べて半分のスイッチング損失及びリカバリ損失をもつ。結局、スイッチング損失及びリカバリ損失が主要成分であるインバータ損失が大幅に低減される。
【0117】
第5に、この実施例のシングルPWM法は、従来のダブルPWM方式と比べてデュアルインバータの損失を低減する。図30は、従来のダブルPWM方式の1つのPWMサイクル期間TCにおける6つのレグの出力電位を示す。図示しない3つのコンパレータは、PWMキャリヤ信号SCと3つの相制御信号(SU、SV、及びSW)とを比較する。従来のダブルPWM方式によれば、6つのPWMレグは比較結果に基づいてレグ電圧(VU1、VU2、VV1、VV2、VW1、VW2)を出力する。各レグ電圧はそれぞれ、ハイレベル(H)とローレベル(L)とからなるパルス電圧である。U相コイル5Uに印加されるU相電圧VUは、U相電圧差(VU1-VU2)となる。V相コイル5Vに印加されるV相電圧VVは、V相電圧差(VV1-VV2)となる。W相コイル5Wに印加されるW相電圧VWは、W相電圧差(VW1-VW2)となる。
【0118】
このダブルPWM方式によれば、各レグは、既述されたフリーホィーリング期間(TF)の代わりに逆電圧が相コイル印加される逆電圧印加期間(Tr)をもつ。その結果、直流電源は、電流供給期間(TX)において各相コイルのインダクタンスに磁気エネルギーを蓄積する。この蓄積された磁気エネルギーは、各逆電圧印加期間(Tr)に各相コイルから直流電源にデュアルインバータを通じて回生される。
【0119】
したがって、直流電源、デュアルインバータ、及びステータコイルは、ダブルPWM方式の運転により無駄な高周波PWM損失及び高周波ノイズを発生する。各PWMレグが逆電圧印加期間(Tr)の代わりにフリーホィーリング期間(TF)をもつシングルPWM方式によれば、この無駄な高周波PWM損失及び高周波ノイズは大幅に低減される。ダブルPWM方式とシングルPWM方式の重要な違いは、HブリッジのAC出力電圧がゼロとなる運転領域において顕れる。シングルPWM方式はこの運転領域においてPWM制御を停止する。このため、高周波電力損失を発生しない。
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