(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂組成物、架橋体および架橋体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/02 20060101AFI20221212BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20221212BHJP
C08F 8/00 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
C08L33/02
C08K5/11
C08F8/00
(21)【出願番号】P 2020556737
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041185
(87)【国際公開番号】W WO2020100531
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018214427
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 知正
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/022810(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/022780(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/031101(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/210415(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有するアクリル系樹脂と、多官能ビニル化合物とを含み、
該アクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6
~6.0mmol/g含み、
該多官能ビニル化合物は、
ジアルキルメチレンマロネートと分子量が400以下の2価のアルコールとをエステル交換させて得られる多価メチレンマロネートであり且つ下記式(1)で表される構造単位を1分子あたり2以上含む、樹脂組成物。
【化1】
(式における*印は、それぞれ独立に、式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位に含まれる原子を表し、式(1)で表される構造単位には含まれない。式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または1~15個の炭素原子を有する炭化水素基である。)
【請求項2】
カルボキシ基を有するアクリル系樹脂と、多官能ビニル化合物と、塩基とを接触させて得られる架橋体であって、
該アクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6
~6.0mmol/g含み、
該多官能ビニル化合物は、
ジアルキルメチレンマロネートと分子量が400以下の2価のアルコールとをエステル交換させて得られる多価メチレンマロネートであり且つ下記式(1)で表される構造単位を1分子あたり2以上含む、架橋体。
【化2】
(式における*印は、それぞれ独立に、式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位に含まれる原子を表し、式(1)で表される構造単位には含まれない。式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または1~15個の炭素原子を有する炭化水素基である。)
【請求項3】
カルボキシ基を有するアクリル系樹脂と、多官能ビニル化合物と、塩基とを接触させる工程を含み、
該アクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6
~6.0mmol/g含み、
該多官能ビニル化合物は、
ジアルキルメチレンマロネートと分子量が400以下の2価のアルコールとをエステル交換させて得られる多価メチレンマロネートであり且つ下記式(1)で表される構造単位を1分子あたり2以上含む、架橋体の製造方法。
【化3】
(式における*印は、それぞれ独立に、式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位に含まれる原子を表し、式(1)で表される構造単位には含まれない。式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または1~15個の炭素原子を有する炭化水素基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アクリル系樹脂および多官能ビニル化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸基、カルボキシ基などの活性水素基を含む樹脂と、活性水素基と反応する官能基を有する架橋剤とからなる架橋システムは、接着剤、粘着剤、塗料など、多くの用途で利用されている。古くから利用されている架橋システムとしては、例えば、ポリオール-多価イソシアネートの組合せ、ポリカルボン酸-多価エポキシの組合せが挙げられるが、近年、比較的温和な条件で架橋できるシステムとして、ポリオールとメチレンマロネート基を分子内に複数有する化合物(多価メチレンマロネート)との組合せが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、種々の架橋システムが知られているが、樹脂設計の自由度が高く、温和な温度条件において効率よく架橋する架橋システムの要望があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、設計した樹脂の特性を架橋硬化物の要求される物性に反映させやすく、かつ温和な温度条件でも効率よく架橋することが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行い、温和な条件で効率よく架橋することが可能な樹脂組成物に想到した。
すなわち、本開示の樹脂組成物は、カルボキシ基を有するアクリル系樹脂と、多官能ビニル化合物とを含み、該アクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6mmol/g以上含み、該多官能ビニル化合物は、下記式(1)で表される構造単位を1分子あたり2以上含む、樹脂組成物である。
【0007】
【0008】
(式における*印は、それぞれ独立に、式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位に含まれる原子を表し、式(1)で表される構造単位には含まれない。式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または1~15個の炭素原子を有する炭化水素基である。)
【発明の効果】
【0009】
本開示の樹脂組成物は、温和な条件でも効率よく架橋することが可能である。よって、例えば、温和な条件で効率よく架橋すること等が要求される種々の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
<多官能ビニル化合物>
本開示の樹脂組成物の必須成分である多官能ビニル化合物(以下、「本開示の多官能ビニル化合物」という)は、下記式(1)で表される構造単位を、本開示の多官能ビニル化合物1分子あたり2以上含む。本開示の多官能ビニル化合物1分子あたりに含まれる下記式(1)で表される構造単位の上限は、特に制限は無いが、好ましくは、20以下であり、より好ましくは10以下である。
【0012】
【0013】
式における*印は、それぞれ独立に、式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位に含まれる原子を表し、式(1)で表される構造単位には含まれない。
【0014】
上記*で表される原子としては、特に制限されないが、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、酸素原子、から選択される原子であることが好ましく、酸素原子であることがより好ましい。
【0015】
式(1)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、1~15個の炭素原子を有する炭化水素基であり、好ましくは、いずれか一方が水素原子であり、更に好ましくは、両方が水素原子である。
【0016】
R1及びR2の炭化水素基の炭素数としては、1~10個が好ましく、1~5個がより好ましい。R1及びR2の具体例としては、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、イソプロピル基、2-メチルブチル基、イソアミル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、ネオノニル基、2-エチルヘプチル基、2-プロピルヘキシル基、2-ブチルペンチル基、イソデシル基、ネオデシル基、2-エチルオクチル基、2-プロピルヘプチル基、2-ブチルヘキシル基、イソウンデシル基、ネオウンデシル基、2-エチルノニル基、2-プロピルオクチル基、2-ブチルヘプチル基、2-ペンチルヘキシル基、イソドデシル基、ネオドデシル基、2-エチルデシル基、2-プロピルノニル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルヘプチル基、イソトリデシル基、ネオトリデシル基、2-エチルウンデシル基、2-プロピルデシル基、2-ブチルオクチル基、2-ペンチルオクチル基、2-ヘキシルヘプチル基、イソテトラデシル基、ネオテトラデシル基、2-エチルドデシル基、2-プロピルウンデシル基、2-ブチルデシル基、2-ペンチルノニル基、2-ヘキシルオクチル基、イソペンタデシル基、ネオペンタデシル基、シクロヘキシルメチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0017】
式(1)で表される構造単位は、それぞれ連結基を介して多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位と結合している。すなわち、式(1)で表される構造単位は、通常1または2の連結基と結合しており、少なくとも1の連結基と結合している。
【0018】
式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位としては、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、連結基から選択される基であることが好ましく、これらの基は置換基を有していても良い。
【0019】
上記連結基としては、通常は、2以上の式(1)で表される構造単位を間接的に結合させる構造の基である。連結基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、複素環基等、及びエーテル結合、エステル結合、アミド結合、単結合等によりこれらが2以上結合した及び/又は式(1)で表される構造単位と結合している基(ただし式(1)で表される構造単位は上記連結基には含めない)が例示される。連結基は、1または2以上の置換基を有しても良い。上記置換基としては、アルキル基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アミド基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられ、これらはさらに置換基を有していても良い。さらに具体的な連結基としては、ジオール等のポリオールの残基や、ポリエステルの残基等が例示される。ここで残基とは、元の分子等の化学種から少なくとも1の原子を取り除いた残りの基を言う。連結基の分子量は特に制限は無いが、多官能ビニル化合物全体が下記の分子量の範囲となるように設定することが好ましい。
【0020】
本開示の多官能ビニル化合物に含まれる式(1)で表される構造単位の含有量は、架橋効率を向上させる観点から、1.0mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは1.5mmol/g以上、さらに好ましくは2.0mmol/g以上、よりさらに好ましくは2.5mmol/g以上である。また後述する本開示のアクリル樹脂との相溶性を向上させる観点から、6.0mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは5.6mmol/g以下、さらに好ましくは5.2mmol/g以下である。
【0021】
本開示の多官能ビニル化合物は、特に限定されないが、重量平均分子量(以下、Mwともいう)が、300以上10000以下であることが好ましく、300以上5000以下であることがより好ましく、更に400以上3000以下であることがより好ましい。
【0022】
本開示における多官能ビニル化合物の重量平均分子量は、通常はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)の測定装置として、東ソー(株)製、品番:HLC-8220GPC、分離カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel Super MultiporeHZ-Nを用い、標準ポリスチレン〔東ソー(株)製〕によって換算した値である。上記の条件で測定することが妥当でない多官能ビニル化合物については、上記条件を適宜、最小限の変更を加えて測定しても良い。
【0023】
本開示の多官能ビニル化合物としては、例えば、国際公開第2017/210415号、特表2015-517973号公報、特表2018-502852号公報、または国際公開第2018/031101号公報に記載のものが挙げられる。また、本開示の多官能ビニル化合物は、本明細書に記載の多官能ビニル化合物であれば、特に制限はないが、本明細書に記載の2以上の式(1)で表される構造単位がエステル結合により連結した多価メチレンマロネートが好ましく、上記記載のジアルキルメチレンマロネートと分子量が400以下の多価アルコールとから得られる多価メチレンマロネートがより好ましく、温和な条件で効率よく架橋することが可能になる傾向にあることから、ジアルキルメチレンマロネートと分子量が400以下の2価のアルコールとをエステル交換させて得られる多価メチレンマロネートが特に好ましい。
【0024】
上記ジアルキルメチレンマロネートの具体例としては、メチレンマロン酸メチルプロピル、メチレンマロン酸ジヘキシル、メチレンマロン酸ジシクロヘキシル、メチレンマロン酸ジイソプロピル、メチレンマロン酸ブチルメチル、メチレンマロン酸エトキシエチルエチル、メチレンマロン酸メトキシエチルメチル、メチレンマロン酸ヘキシルエチル、メチレンマロン酸ジペンチル、メチレンマロン酸エチルペンチル、メチレンマロン酸メチルペンチル、メチレンマロン酸エチルエチルメトキシル、メチレンマロン酸エトキシエチルメチル、メチレンマロン酸ブチルエチル、メチレンマロン酸ジブチル、メチレンマロン酸ジエチル(DEMM)、メチレンマロン酸ジエトキシエチル、メチレンマロン酸ジメチル、メチレンマロン酸ジ-N-プロピル、メチレンマロン酸エチルヘキシル、メチレンマロン酸フェンキルメチル、メチレンマロン酸メンチルメチル、メチレンマロン酸2-フェニルプロピルエチル、メチレンマロン酸3-フェニルプロピル、及びメチレンマロン酸ジメトキシエチル等が挙げられる。
【0025】
上記多価アルコールとしては2価のアルコールおよび3価以上のアルコールが例示される。多価アルコールの価数の上限に特に制限は無い。上記多価アルコールは、複数種が組み合されて使用されても良い。2価のアルコールとしては、炭素数2~20のアルキレングリコールが挙げられ、具体的には、
一般式;HO-CmH2m+1-OH(mは、2~15の整数であり、2~10が好ましく、2~6が好ましい。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0026】
また、2価のアルコールとしては、
一般式;HO-(CrH2r+1-O)s-H(rは、2~5の整数であり、2~3であることが好ましく、sは、2~100の整数であり、10~80が好ましく、20~50がより好ましい。)で表されるポリアルキレングリコールであってもよい。
【0027】
3価以上のアルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリスリトール等の化合物が挙げられる。
【0028】
<アクリル系樹脂>
本開示の樹脂組成物の必須成分である、カルボキシ基を有するアクリル系樹脂(以下、「本開示のアクリル系樹脂」という)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドから選ばれる1種以上の(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位(以下、「(メタ)アクリル系構造単位」とも称する)を、(メタ)アクリル系構造単位と後述するその他の単量体構造単位の合計に対し、5質量%以上含む共重合体または単独重合体であることが好ましい。(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸および/またはアクリル酸を意味する。(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位とは、(メタ)アクリル系単量体がラジカル重合して形成される構造と同じ構造を有する構造単位を言い、構造が同じであれば、実際に(メタ)アクリル系単量体がラジカル重合する方法以外の方法で形成された構造単位も含む。例えば、アクリル酸、CH2=CH(COOH)、由来の構造単位であれば-CH2-CH(COOH)-で表すことができる。本開示のアクリル系樹脂は、樹脂設計の自由度が高いため、本開示の樹脂組成物は様々な用途に適用可能となる。
【0029】
本開示のアクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6mmol/g以上含む。なお、本開示において、上記カルボキシ基は、カルボキシ基の塩を含む。カルボキシ基の塩も架橋に寄与する。ポットライフ等の所望に応じてカルボキシ基の塩を含めても良い。塩としては、制限されないが、例えばアンモニウム塩、有機アミン塩、金属塩等が例示され、アルカリ金属塩、または有機アミンの塩が好ましい。カルボキシ基は、重合体鎖のどこかに共有結合で結合していればよく、例えば主鎖に結合してもいてもよいしグラフト鎖に結合していてもよい。また重合体鎖の中央に結合していてもよいし末端に結合していてもよい。カルボキシ基含有量としては、架橋効率を向上させる観点から0.6mmol/g以上が必要であるが、好ましくは0.8mmol/g以上、より好ましくは1.0mmol/g以上、さらに好ましくは1.2mmol/g以上である。
【0030】
本開示のアクリル系樹脂に含まれるカルボキシ基は、一部又は全部が中和されてもよく、その中和度は用途によって要求される硬化条件を満たすように選択すればよい。例えば、可使時間の確保を重視する場合は、本開示のアクリル系樹脂に含まれるカルボキシ基の内、中和度は50mol%以下が好ましく、より好ましくは20mol%以下、更により好ましくは10mol%以下である。また例えば、硬化の迅速性を重視する場合は、中和度は50mol%以上が好ましく、より好ましくは80mol%以上、更により好ましくは90mol%以上である。また、カルボキシ基の含有量の上限は、本開示の多官能ビニル化合物との良好な相溶性を確保する観点から、6.0mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは5.0mmol/g以下であり、さらに好ましくは3.5mmol/g以下である。
【0031】
本開示のアクリル系樹脂は、ラジカル重合法により種々の組成や分子量のものを容易に得ることができる観点から、(メタ)アクリル系構造単位を10質量%以上100質量%以下含むことがより好ましく、さらに好ましくは20質量%以上100質量%以下、よりさらに好ましくは30質量%以上100質量%以下、特に好ましくは40質量%以上100質量%以下である。
【0032】
(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されず、本開示の架橋性樹脂組成物の用途に応じて適宜選択すればよいが、具体的に例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウムなどの(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル類;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本開示のアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体以外の単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)に由来する構造単位(以下、「その他の単量体構造単位」ともいう)を含んでいても良い。その他の単量体としては、例えば、クロトン酸、けい皮酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル類;シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド等のN置換マレイミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;n-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のN-ビニルアミド類;1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;エチレン、プロピレン、1-ブテンなどのα-オレフィン類が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。その他の単量体は、本開示の架橋性樹脂組成物の用途に応じて適宜使用すれば良い。
【0034】
本開示のアクリル系樹脂におけるその他の単量体構造単位の含有量は、(メタ)アクリル系構造単位とその他の単量体構造単位の合計に対し、好ましくは0質量%以上95質量%以下、より好ましくは0質量%以上90質量%以下含むことが好ましく、さらに好ましくは0質量%以上80質量%以下、よりさらに好ましくは0質量%以上70質量%以下、特に好ましくは0質量%以上60質量%以下である。
【0035】
本開示の(メタ)アクリル系単量体を重合させる際には、連鎖移動剤を用いてもよく、連鎖移動剤の量を調整することによって重合体の分子量を調節することができる。連鎖移動剤の例として、例えば、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレートなどのチオール化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタンなどのハロゲン化物;イソプロパノールなどの第2級アルコール;亜リン酸及びその塩、次亜リン酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、亜硫酸水素及びその塩、亜二チオン酸及びその塩、メタ重亜硫酸及びその塩などが挙げられる。
【0036】
また、(メタ)アクリル系単量体を重合させる際には、溶媒を用いてもよく、溶媒の例として、n-ヘキサン、n-ヘプタなどの脂肪族炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物;イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコールなどのアルコール;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン;ジメチルホルムアミドなどのアミドなどの有機溶媒が挙げられるが、本開示は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
本開示のアクリル系樹脂の分子量は、本発明の架橋性樹脂組成物の用途に応じて適宜調整すればよいが、架橋効率の観点から500以上が好ましく、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上である。また作業性や多官能ビニル化合物との相溶性の観点から1000000以下が好ましく、より好ましくは500000以下、さらに好ましくは300000以下である。本開示における分子量は、通常はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)の測定装置として、東ソー(株)製、品番:HLC-8220GPC、分離カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel Super HZM-Mを用い、標準ポリスチレン〔東ソー(株)製〕によって換算した値である。上記の条件で測定することが妥当でないアクリル系樹脂については、上記条件を適宜、最小限の変更を加えて測定しても良い。
【0038】
<樹脂組成物>
本開示の樹脂組成物は、本開示のアクリル系樹脂と、本開示の多官能ビニル化合物とを含むことにより、本開示のアクリル系樹脂の特性を架橋硬化物の物性に反映させることができ、本開示のアクリル系樹脂を設計することで架橋硬化物の物性改良が可能であり、良好な架橋効率を発現するものである。本観点から、本開示の多官能ビニル化合物1に対して本開示のアクリル系樹脂の質量比は、0.5以上100以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上5以下が更により好ましい。上記範囲内であれば、設計した樹脂の特性を架橋硬化物の要求される物性に反映させやすくなる傾向にある。
【0039】
本開示の樹脂組成物は、貯蔵安定性を向上させる観点から、アニオン重合禁止剤、ラジカル重合禁止剤および酸化防止剤から選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。アニオン重合禁止剤としては水中での酸解離定数が2以下である酸が好ましく、具体的には例えば、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、亜硫酸、リン酸、トルフルオロ酢酸などが挙げられる。アニオン重合禁止剤を含む場合、その含有量は酸性度に応じて適宜調整すればよいが貯蔵安定性と反応性のバランスを取る観点から、多官能ビニル化合物に対して0.1~2000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは1~1000質量ppm、さらに好ましくは3~500質量ppmである。ラジカル重合禁止剤または酸化防止剤としては、着色抑制の観点からヒンダードフェノール類、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましく、具体的には例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアレート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、テトラキス(メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)フロピオネート)メタン、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン等のヒンダードフェノール類;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等のイオウ系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト等のリン系酸化防止剤などが挙げられる。ラジカル重合禁止剤または酸化防止剤を含む場合、その含有量は貯蔵安定性と反応性のバランスを取る観点から、多官能ビニル化合物に対して50~5000質量ppmであることが好ましく、より好ましくは100~3000質量ppm、さらに好ましくは200~2000質量ppmである。
【0040】
本開示の樹脂組成物は、粘度が高くなり過ぎることを避け、取扱いの容易さを担保して作業性を向上させる観点から、非反応性あるいは反応性の希釈剤を含んでいてもよい。ここで反応性希釈剤とは、本開示の多官能ビニル化合物とアニオン重合機構により共重合することが可能な官能基を有する希釈剤のことを指す。希釈剤としてそのような反応性希釈剤のみを用いると、反応性希釈剤が高分子量化しながら架橋に取り込まれるため、揮発性溶剤を除去する工程を必要としない架橋性樹脂組成物を構成することができる。一方、非反応性の希釈剤とは、本開示の多官能ビニル化合物とアニオン重合機構により共重合する官能基を有さない希釈剤のことを指す。
【0041】
非反応性の希釈剤としては、水あるいは有機溶剤が挙げられ、用途に応じて適宜選択すればよいが、水の水酸基は比較的連鎖移動を起こし易く本発明の架橋性樹脂組成物の架橋を阻害する傾向にあるため、有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては揮発性があり本開示のアクリル系樹脂と本開示の多官能ビニル化合物とを均一溶解できるものが好ましい。具体的には例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
反応性希釈剤としては、単官能性1,1-二置換ビニル化合物すなわち、式(I)で表される構造を分子内に一個だけ有するビニル化合物を挙げることができる。そのような化合物としては、例えば、ジメチルメチレンマロネート、ジエチルメチレンマロネート、ジn-ブチルメチレンマロネート、ジn-ヘキシルメチレンマロネート、ジシクロヘキシルメチレンマロネート、メチルシクロヘキシルメチレンマロネート、2-エチルヘキシルメチルメチレンマロネートなどが具体的に挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本開示の樹脂組成物は、非反応性の希釈剤を、例えば0質量%以上50質量%以下含んでいても良く、反応性の希釈剤を、例えば0質量%以上50質量%以下含んでいても良い。
【0044】
架橋効率向上の観点から、本開示の樹脂組成物に含まれる水の量を、本開示の多官能ビニル化合物の含有量1質量部に対して、水の含有量を2質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましく、0.5質量部以下とすることが好ましい。本開示の樹脂組成物に含まれる水の量の好ましい下限については、0質量部以上である。
【0045】
粘度を下げる等の取扱い性の観点から、本開示の樹脂組成物に含まれる上記有機溶剤の量を、本開示のアクリル系樹脂の含有量1質量部に対して、有機溶剤の含有量を0.1質量部以上とすることが好ましく、0.3質量部以上とすることがより好ましく、0.5質量部以上とすることが好ましい。本開示の樹脂組成物に含まれる有機溶剤の量の好ましい上限については、架橋効率向上の観点から本開示のアクリル系樹脂の含有量1質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
本開示の樹脂組成物は、必要に応じて、本開示のアクリル系樹脂以外の樹脂または多官能カルボン酸、本開示の多官能ビニル化合物以外の多官能ビニル化合物等を含んでいても良い。本開示のアクリル系樹脂以外の樹脂としては、アクリル系以外の重合体鎖からなるポリカルボン酸、カルボキシ基含有量が0.6mmol/g未満のポリカルボン酸、本開示のアクリル系樹脂以外のポリカルボン酸としては、カルボキシ基を分子内に2個以上有する低分子化合物等が例示される。
【0047】
アクリル系以外の重合体鎖からなるポリカルボン酸としては具体的に例えば、ポリエステル鎖からなるポリカルボン酸、ポリエーテル鎖からなるポリカルボン酸、ポリウレタン鎖からなるポリカルボン酸、ポリシロキサン鎖からなるポリカルボン酸、ポリアミド鎖からなるポリカルボン酸などが挙げられる。カルボキシ基を分子内に2個以上有する低分子化合物としては具体的に例えば、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0048】
本開示の樹脂組成物は、用途に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、赤外線吸収剤、架橋促進剤、顔料、染料、分散剤、離型剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、フィラー、難燃剤、粘着付与剤、ワックス、導電剤、可塑剤、改質剤、チクソトロピック付与剤など前述した以外の成分を含んでいてもよい。
【0049】
本開示の樹脂組成物は、本開示のアクリル系樹脂を含む組成物と、本開示の多官能ビニル化合物を含む組成物の2つに分けて、流通させてもよい。
【0050】
本開示の樹脂組成物の好ましい形態として、
(I)カルボキシ基を有するアクリル系樹脂と、多官能ビニル化合物とを含み、該アクリル系樹脂は、カルボキシ基を0.6mmol/g以上含み、該多官能ビニル化合物は、上記式(1)で表される構造単位を1分子あたり2以上含む、樹脂組成物。
(II)多官能ビニル化合物が、式(1)で表される構造単位を1.0mmol/g以上、好ましくは1.5mmol/g以上、より好ましくは2.0mmol/g以上、さらに好ましくは2.5mmol/g以上含む(I)に記載の樹脂組成物。
(III)多官能ビニル化合物に含まれる、式(1)で表される構造単位が、6.0mmol/g以下であり、好ましくは5.6mmol/g以下であり、さらに好ましくは5.2mmol/g以下である(I)または(II)に記載の樹脂組成物。
(IV)上記式(1)における*で表される原子が、炭素原子、窒素原子、酸素原子、から選択される原子であり、好ましくは酸素原子である、(I)~(III)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(V)式(1)で表される構造単位が結合する、該多官能ビニル化合物に含まれる他の構造単位として、多官能ビニル化合物が、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、連結基から選択される基(これらの基は置換基を有していても良い)をさらに含む、(I)~(IV)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(VI)アクリル系樹脂が、カルボキシ基を0.8mmol/g以上、好ましくは1.0mmol/g以上、より好ましくは1.2mmol/g以上含む、(I)~(V)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(VII)アクリル系樹脂に含まれるカルボキシ基が、6.0mmol/g以下、好ましくは5.0mmol/g以下、より好ましくは3.5mmol/g以下である、(I)~(VI)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(VIII)アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル系構造単位を5質量%以上、好ましくは10質量%以上、100質量%以下、より好ましくは20質量%以上、100質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上、100質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以上、100質量%以下含む、(I)~(VII)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(IX)多官能ビニル化合物に対するアクリル系樹脂の質量比が、多官能ビニル化合物1に対して、0.5以上100以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上5以下が更により好ましい、(I)~(VIII)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(X)上記多官能ビニル化合物の重量平均分子量が、300以上、好ましくは400以上である、(I)~(IX)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(XI)上記多官能ビニル化合物の重量平均分子量が、10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下である、(I)~(X)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(XII)樹脂組成物に含まれる水の量が、本開示の多官能ビニル化合物の含有量1質量部に対して、2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である、(I)~(XI)に記載の樹脂組成物。
(XIII)樹脂組成物に含まれる有機溶剤の含有量が、本開示のアクリル系樹脂の含有量1質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは、0.5質量部以上である、(I)~(XII)に記載の樹脂組成物。
(XIV)樹脂組成物に含まれる有機溶剤の含有量が、本開示のアクリル系樹脂の含有量1質量部に対して、50質量部以下、好ましくは10質量部以下である、(I)~(XIII)に記載の樹脂組成物。
【0051】
なお、上記(I)~(XIV)においてカルボキシ基の記載がある場合は、カルボキシ基の塩を含んでもよい。
【0052】
<架橋体>
本開示の架橋体は、本開示のアクリル系樹脂、本開示の多官能ビニル化合物、および塩基を接触させて得られる架橋体である。好ましくは、本開示の架橋体は、本開示の樹脂組成物と塩基とを接触させて得られる架橋体である。好ましい塩基については、後述のとおりである。
【0053】
<架橋体の製造方法>
本開示の架橋体の製造方法は、本開示のアクリル系樹脂、本開示の多官能ビニル化合物、および塩基を接触させる工程を含む。本開示のアクリル系樹脂の存在下で、本開示の多官能ビニル化合物と塩基とを接触させることが好ましく、本開示のアクリル系樹脂と本開示の多官能ビニル化合物を接触させてから塩基と接触させる方法、本開示のアクリル系樹脂と塩基とを接触させてから、本開示の多官能ビニル化合物と接触させる方法などが例示される。上記接触させる工程は、必要に応じて他の成分の存在下で行っても良く、例えば本開示の樹脂組成物の任意成分などが例示される。本開示のアクリル系樹脂と本開示の多官能ビニル化合物の好ましい使用割合は、本開示の樹脂組成物における本開示のアクリル系樹脂と本開示の多官能ビニル化合物の含有割合と同様である。上記接触させる工程の好ましい温度条件としては、本開示の樹脂組成物と塩基とを接触させる工程と同様である。上記接触させる工程で使用する塩基およびその使用割合については、好ましくは本開示の樹脂組成物と塩基とを接触させる工程と同様である。
【0054】
本開示のアクリル系樹脂の存在下で、本開示の多官能ビニル化合物と塩基とを接触させる際に、本開示の多官能ビニル化合物の含有量1質量部に対して、水の存在する量を2質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましく、0.5質量部以下とすることが好ましい。上記接触する際の水の存在量は、0質量部以上であってよい。
【0055】
本開示の架橋体の製造方法は、本開示の樹脂組成物と塩基とを接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう)を含むことが好ましい。上記接触工程において、塩基と本開示の樹脂組成物とを接触させる方法としては、例えば、塩基を本開示の樹脂組成物に添加して混合する、表面に塩基を含む基材上に本開示の樹脂組成物を塗布する、本開示の樹脂組成物を基材上に塗布した後その上に塩基を塗布するなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
塩基を本開示の樹脂組成物に添加して混合する場合、その添加量は塩基の種類、本開示のアクリル系樹脂の構造等に応じて適宜選択すればよい。また添加する塩基がカルボキシ基と反応してカルボン酸塩を形成する低分子化合物であれば、架橋システムの効率性の観点で好ましい。そのような塩基を添加して混合する形態は、本開示のアクリル系樹脂と本開示の多官能ビニル化合物との混合物を調製する形態とも言える。
【0057】
本開示の架橋体の製造方法で使用できる塩基としては、塩基として作用するものであれば特に制限されず、アルカリ金属、塩基性の低分子化合物から高分子化合物、塩基性表面を有する固体状物質まで種々のものを適用できる。塩基性の低分子化合物としては、入手性や取扱い性の観点から、金属酸化物、水酸化物塩、アルコキシド化合物、カルボン酸塩、アミン類などが好ましく挙げられる。
【0058】
金属酸化物としては塩基性の金属酸化物が挙げられ、例えば、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)などが挙げられる。
【0059】
水酸化物塩としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化銅、水酸化亜鉛などの金属水酸化物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウムヒドロキシド類;が挙げられる。
【0060】
アルコキシド化合物としては式(R5O)m1Mで表される化合物が挙げられ(式中、R5は、置換基を有していてもよいアルキル基又はアリール基であり、より具体的には、1~10個の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基であってよく、Mは、m1価のカチオンを表し、m1は1~4の整数である)、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシドなどの金属アルコキシド類が挙げられる。
【0061】
カルボン酸塩としては、モノカルボン酸、又はジカルボン酸の塩が挙げられ、脂肪族カルボン酸及び芳香族カルボン酸の塩のいずれであってもよい。当該カルボン酸の炭素数は、1~10個であってよく、1~6個であってもよい。カルボン酸塩としては、より具体的には、例えば、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸とトリエチルアミンからなる塩などのカルボン酸塩類が挙げられる。
【0062】
アミン類はR1R2R3N(R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素、または置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基であり、それぞれ結合して環状構造を形成していてもよい)と表すことができ、例えばアンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、1-メチルピペリジン、モルホリン、4-メチルモルホリン、ピリジン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、テトラメチルグアニジンなどが具体的に挙げられる。
【0063】
塩基性の高分子化合物としては上述した塩基性の低分子化合物と同等の構造を有する高分子化合物を挙げることができ、具体的には例えば、(メタ)アクリル酸共重合体のナトリウム塩、(メタ)アクリル酸共重合体のアミン塩、(メタ)アクリル酸系共重合体以外のカルボン酸塩を有する重合体、ビニルピリジン共重合体、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0064】
これらの塩基性化合物は、何らかの材料でカプセル化され、外部刺激によって放出されるものであってもよい。
【0065】
使用する塩基の使用量は、用途によって要求される硬化条件を満たすように選択すればよい。例えば、可使時間の確保を重視する場合は、本開示のアクリル系樹脂に含まれるカルボキシ基の内、中和度は50mol%以下が好ましく、より好ましくは20mol%以下、更により好ましくは10mol%以下である。また例えば、硬化の迅速性を重視する場合は、中和度は50mol%以上が好ましく、より好ましくは80mol%以上、更により好ましくは90mol%以上である。
【0066】
なお、塩基性化合物のモル数は、塩基性化合物を化学量論的に完全に中和するのに必要な一価の強酸のモル数とする。
【0067】
また、塩基性表面を有する固体状物質としては上記の塩基性の低分子化合物と同等の構造を表面に有する固体状物質を挙げることができ、具体的には例えば、塩基性アルミナ、ソーダライムガラス、モルタル、コンクリートなどが挙げられる。
【0068】
本開示の樹脂組成物を架橋させる際の温度条件としては、使用する塩基との接触方法、塩基の種類、塩基の添加量、本発明の架橋性組成物の用途などに応じて適宜選択すればよいが、架橋プロセスで使用するエネルギーを抑制できる観点から、120℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。また周囲環境温度以上で架橋させることが好ましく、具体的には-20℃以上、より好ましくは-10℃以上、さらに好ましくは0℃以上である。
【0069】
<樹脂組成物の用途>
本開示の樹脂組成物およびその架橋体は温和な温度条件での架橋を必要とする種々の用途に好適に用いることができる。したがって本発明の架橋性樹脂組成物およびその架橋体は、接着剤、粘着剤、インク、プライマー、保護コーティング剤、シーリング剤、建築塗料、自動車塗料など、種々の用途・分野において幅広く使用できる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
<合成例1>
WO2018/031101号公報の例4に従ってペンタンジオールとジエチルメチレンマロネートのエステル交換反応を行った後、反応液を高真空下(1torr)でジエチルメチレンマロネートを留去して1%未満とし、ペンタンジオールとジエチルメチレンマロネートのエステル交換で得られる多官能メチレンマロネート(PD-PES)を得た。1H-NMRによりメチレンマロネート基の含有量を測定したところ、3.6mmol/gであった。
<実施例1>
表2に示すような共重合組成を有するカルボキシ基(COOH)含有量1.78mmol/g、重量平均分子量が8000のアクリル系ポリカルボン酸(主剤樹脂)の40%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、合成例1で得たPD-PESの50%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、ジメチルベンジルアミンの10%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用意した。
【0071】
主剤樹脂の溶液2.00gを10mlスクリュー管に秤量した後、ジメチルベンジルアミンの溶液0.19gを添加し、スパチュラでよく掻き混ぜた。そこへPD-PESの溶液0.80gを添加し、スパチュラでよく掻き混ぜた後、蓋を閉め室温で静置した。
【0072】
内容液は徐々に増粘しPD-PESの溶液を添加してから55分後には流動性がなくなった。この時間をゲル化時間とした。なお、架橋密度が一定以上に高くならないと流動性がなくならないことから、ゲル化時間を架橋効率の指標とする。
【0073】
また、PD-PESの溶液を添加してから8時間後の外観を観察したところ均一透明であった。なお、活性水素基とメチレンマロネート基の結合が効率よく生成せずメチレンマロネート基どうしの結合が多く生成すると、十分に架橋に組み込まれていない主剤樹脂が凝集、分離し透明性や均一性が低下する傾向があるため、外観の透明性や均一性は架橋効率を評価するうえで指標となる。
【0074】
表1には化合物名の略号と化合物名を、表2には結果をまとめた。
<比較例1>
主剤樹脂として、表2に組成を示すように、水酸基(OH)含有量1.67mmol/g、COOH含有量0.11mmol/g(活性水素基の合計含有量が実施例1で用いた樹脂と同量)で、活性水素基以外の共重合組成が実施例1で用いた樹脂と類似であり、重量平均分子量が33000のアクリル系樹脂を使用したこと以外は、実施例1と同様の条件で架橋性樹脂組成物を調製し、室温で静置した。
【0075】
ゲル化時間は110分であり、8時間後の外観は白濁していた。
【0076】
表1には化合物名の略号と化合物名を、表2には結果をまとめた。
<実施例2>
主剤樹脂として表2に示したものを使用したこと以外は、実施例1と同様の条件で架橋性樹脂組成物を調製し、室温で静置した。
【0077】
ゲル化時間は40分であり、8時間後の外観は均一透明であった。
【0078】
表1には化合物名の略号と化合物名を、表2には結果をまとめた。
<実施例3>
塩基の溶液として10%水酸化ナトリウム水溶液を用い、塩基の溶液の添加量を0.06gとしたこと以外は実施例2と同様の条件で架橋性樹脂組成物を調製し、室温で静置した。
【0079】
ゲル化時間は13分であり、8時間後の外観は均一透明であった。
【0080】
表1には化合物名の略号と化合物名を、表2には結果をまとめた。
<実施例4>
主剤樹脂として表2に示したものを用い樹脂濃度を35%とし、樹脂溶液の添加量を2.29g、PD-PESの溶液の添加量を1.19gとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で架橋性樹脂組成物を調製し、室温で静置した。
【0081】
ゲル化時間は36分であり、8時間後の外観は均一透明であった。
<実施例5>
主剤樹脂として表2に示したものを用い、樹脂溶液の添加量を1.97g、PD-PESの溶液の添加量を0.40gとしたこと以外は、実施例1と同様にして架橋性樹脂組成物を調製し、室温で静置した。
【0082】
ゲル化時間は43分であり、8時間後の外観は均一透明であった。
【0083】
表2に結果をまとめた。
【0084】
表1には化合物名の略号と化合物名を、表2には結果をまとめた。
【0085】
【0086】
【0087】
実施例1と比較例1を対比すると、実施例1で用いた主剤樹脂は、分子量が低く架橋効率の点で不利であるにもかかわらず比較例1よりも短時間でゲル化し8時間後の外観も均一透明であった。それに対し比較例1で用いた主剤樹脂は、実施例1で用いた樹脂よりはるかに高分子量で架橋効率が良いはずのところ、実施例1より長いゲル化時間を要し、8時間後の外観が白濁していた。したがって、カルボキシ基は水酸基より連鎖移動効率が高く、ポリカルボン酸を主剤樹脂として用いると温和な温度条件のもと多価メチレンマロネートで効率的に架橋できることが分かる。
【0088】
以上より、本開示の樹脂組成物は、設計した樹脂の特性を架橋硬化物の要求される物性に反映させやすく、かつ温和な温度条件でも効率よく架橋することが可能であることが明らかとなった。