(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】燃料製造システム
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20221212BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20221212BHJP
C07C 29/151 20060101ALI20221212BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20221212BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20221212BHJP
C10L 1/02 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C25B1/04
C01B3/02 A
C07C29/151
C07C31/04
C10J3/00 A
C10L1/02
(21)【出願番号】P 2021094872
(22)【出願日】2021-06-07
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100224557
【氏名又は名称】奈良 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】千嶋 啓之
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-139141(JP,A)
【文献】特開2003-183202(JP,A)
【文献】特開2021-147506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/02
C25B 1/00-15/08
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
C10L 1/00-3/12
C10J 1/00-3/86
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有原料から水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する合成ガス生成装置と、
前記合成ガス生成装置により生成された合成ガスから燃料を製造する燃料製造装置と、
水を電気分解することで水素を生成する水電解装置と、
前記水電解装置により生成された水素を前記合成ガス生成装置に供給する水素供給部と、
前記炭素含有原料が有する第1エネルギーと、前記水電解装置により水素を生成するときに消費される第2エネルギーと、前記合成ガス生成装置により合成ガスを生成するときに消費される第3エネルギーと、前記燃料製造装置により燃料を製造するときに消費される第4エネルギーと、に基づいて、投入される投入エネルギーを算出するとともに、前記燃料製造装置により製造される燃料が有する第5エネルギーに基づいて、回収される回収エネルギーを算出する算出部と、
前記水電解装置の電解効率が、前記算出部により算出された前記投入エネルギー
に対する前記回収エネルギー
の割合が前記水素供給部により水素を供給しない場合よりも高くなる所定の電解効率以上となる場合に前記水電解水素を生成するように、前記水電解装置を制御する制御部と、を備えることを特徴とする燃料製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料製造システムにおいて、
前記算出部は、さらに、前記第2エネルギーと前記第3エネルギーと前記第4エネルギーとを得るために必要とされる費用を算出するとともに、前記燃料製造装置により製造される燃料によって得られる利益を算出し、
前記制御部は、さらに、前記算出部により算出された費用
に対する利益
の割合が1を超える場合に前記水電解水素を生成するように、前記水電解装置を制御することを特徴とする燃料製造システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料製造システムにおいて、
前記算出部は、前記水電解装置により生成される水素の生成量と、前記水電解装置の電解効率と、に基づいて、前記第2エネルギーを算出することを特徴とする燃料製造システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の燃料製造システムにおいて、
前記算出部は、前記水電解装置により水素を生成するときに消費された電力量に基づいて、前記第2エネルギーを算出することを特徴とする燃料製造システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料製造システムにおいて、
前記水電解装置は、再生可能電力を利用して水を電気分解することを特徴とする燃料製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解を介して燃料を製造する燃料製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、バイオマスを原料としてメタノールを製造するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、太陽光発電および風力発電の電力により水を電気分解して水素を生成し、この水素を、バイオマスをガス化して得られた一酸化炭素と水素とを含むガスに補充することで、一酸化炭素と水素との割合をメタノール合成に適した割合に調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の装置のように、太陽光発電や風力発電などの再生可能電力を利用して燃料を製造する場合、炭素排出量を削減することができる反面、エネルギー損失や燃料製造コストが増大するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料製造システムは、炭素含有原料から水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する合成ガス生成装置と、合成ガス生成装置により生成された合成ガスから燃料を製造する燃料製造装置と、水を電気分解することで水素を生成する水電解装置と、水電解装置により生成された水素を合成ガス生成装置に供給する水素供給部と、炭素含有原料が有する第1エネルギーと、水電解装置により水素を生成するときに消費される第2エネルギーと、合成ガス生成装置により合成ガスを生成するときに消費される第3エネルギーと、燃料製造装置により燃料を製造するときに消費される第4エネルギーと、に基づいて、投入される投入エネルギーを算出するとともに、燃料製造装置により製造される燃料が有する第5エネルギーに基づいて、回収される回収エネルギーを算出する算出部と、水電解装置の電解効率が、算出部により算出された投入エネルギーに対する回収エネルギーの割合が前記水素供給部により水素を供給しない場合よりも高くなる所定の電解効率以上となる場合に水電解水素を生成するように、水電解装置を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、燃料製造時のエネルギー損失や燃料製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る燃料製造システムの全体構成の一例を概略的に示すブロック図。
【
図2】本発明の実施形態に係る燃料製造システムの要部構成の一例を概略的に示すブロック図。
【
図3】
図1の燃料製造システムのエネルギー収支について説明するための図。
【
図4】
図1の水電解装置の電解効率と燃料製造システムのエネルギー変換効率との関係について説明するための図。
【
図5】
図1の水素供給部による水素の供給量と燃料製造システムのエネルギー収支の評価値との関係について説明するための図。
【
図6A】
図1のガス化装置から回収される各ガス成分の回収量の一例を示す図。
【
図6B】
図1のガス化装置から回収される各ガス成分の回収量の別の例を示す図。
【
図7】
図2のコントローラにより実行される処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料製造システムは、太陽光発電や風力発電などの再生可能電力により水を電気分解して水素(水電解水素)を生成し、この水電解水素を利用して、バイオマスなどの炭素含有原料から、いわゆる電気合成燃料(e-fuel)を製造する。以下では、特に、バイオマスをガス化して水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成し、生成された合成ガスからメタノール燃料を製造する例を説明する。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料製造システム100の全体構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図1に示すように、燃料製造システム100は、発電装置1と、水電解装置2と、水素供給部3と、ガス化装置4と、燃料製造装置5とを有する。
【0010】
発電装置1は、例えば、半導体素子により太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電装置や、風車により風力エネルギーを電気エネルギーに変換する風力発電装置として構成され、再生可能電力を生成する。発電装置1により生成された再生可能電力は、水電解装置2、水素供給部3、ガス化装置4、および燃料製造装置5に供給される。
【0011】
水電解装置2は、発電装置1により生成された再生可能電力により水を電気分解することで水電解水素を生成する。水電解装置2には、水電解装置2の電解電圧、水電解装置2により消費される電力量、水電解水素の生成量(例えば、質量流量)などを測定するセンサが設けられる。
【0012】
水素供給部3は、水電解装置2により生成された水電解水素を貯留する水素タンク3aと、水素タンク3aとガス化装置4との間の配管に設けられた流量調整弁3bとを有する。水素供給部3は、水素タンク3aに貯留された水電解水素の圧力、すなわち水素タンク3aの内圧により、水素タンク3aからガス化装置4に水電解水素を供給する。流量調整弁3bは、水素タンク3aからガス化装置4に供給される水電解水素の供給量(例えば、質量流量)mを調整する。
【0013】
水素供給部3には、水素タンク3aの内圧、水素タンク3aからガス化装置4に供給される水電解水素の供給量mなどを測定するセンサも設けられる。水素タンク3aの内圧が貯留量の下限に対応する下限値を下回ると、水素タンク3aからガス化装置4に水電解水素を供給できなくなる。また、水素タンク3aの内圧が貯留量の上限に対応する上限値を超えると、水素タンク3aに水電解水素を貯留できなくなる。水素供給部3には、水素タンク3aの貯留量が上限を超え、水電解装置2による水電解水素の生成が停止されるまでの間、一時的に水電解水素の過剰分を貯留するバッファタンクも設けられる。
【0014】
水素タンク3aは、水素ガスを気体のまま貯留可能なガスタンクとして構成される。貯留量の上限圧力が高いほど、高い体積効率で水電解水素を貯留することができる。水素タンク3aは、水素ガスを液体として貯留可能な液体タンクとして構成してもよく、この場合、水素供給部3として、さらに水素ガスを気体から液体にするための冷却装置を設ける必要がある。水素ガスを液体として貯留する場合、冷却および冷却状態の維持にエネルギーを要するが、気体として貯留する場合の約800倍の体積効率で水電解水素を貯留することができる。水素タンク3aは、水素ガスを吸蔵する水素吸蔵合金により構成してもよく、この場合、水素供給部3として、さらに水素ガスを取り出すための加熱装置を設ける必要がある。水素ガスを吸蔵して貯留する場合、気体として貯留する場合の約1000倍の体積効率で水電解水素を貯留することができる。
【0015】
ガス化装置4は、主にガス化炉を有し、発電装置1により生成された再生可能電力によりガス化炉を加熱することでガス化を行い、合成ガスを生成する。ガス化装置4のガス化炉には、乾燥、粉砕などの前処理がされた籾殻、バガス、木材などのバイオマス、酸素、および水(水蒸気)が供給され、下式(i)~(v)の反応により水素と一酸化炭素とを含む合成ガスが生成される。ここで、下式(ii)~(v)の反応は、平衡反応である。
C+O2→CO2 ・・・(i)
C+H2O→CO+H2 ・・・(ii)
C+2H2→CH4 ・・・(iii)
C+CO2→2CO ・・・(iv)
CO+H2O→CO2+H2 ・・・(v)
【0016】
ガス化装置4のガス化炉には、さらに、水素供給部3を介して、水電解装置2により生成された水電解水素が供給される。ガス化装置4には、ガス化装置4により消費される電力量、ガス化炉内の合成ガスの温度、圧力、合成ガスの生成量(例えば、質量流量)、および各ガス成分の分圧(濃度)などを測定するセンサが設けられる。これらのセンサの測定値に基づいて、ガス化炉に供給されるバイオマス、酸素、水、および水電解水素の供給量を調整することができる。
【0017】
水電解水素を利用することで、式(v)の平衡反応(シフト反応)が、一酸化炭素の生成を促進し、二酸化炭素の生成を抑制する方向にシフトする。また、水電解装置2により生成され、水素供給部3により供給される水電解水素の供給量mを調整することで、合成ガスを後段の燃料製造に適した組成に調整することができる。例えば、後段の燃料製造装置5でメタノール燃料を製造する場合、下式(vi)のメタノール合成反応に合わせて、合成ガス中の一酸化炭素に対する水素の割合(分圧比)が"2"となるように調整することができる。
CO+2H2→CH3OH ・・・(vi)
【0018】
燃料製造装置5は、主に反応器と蒸留塔とを有する。燃料製造装置5の反応器には、ガス化装置4により生成され、洗浄による灰分除去、脱硫などの後処理がされた合成ガスが供給され、式(vi)の発熱反応によりメタノール燃料が生成される。より具体的には、発電装置1により生成された再生可能電力により蒸留塔を加熱することで生成ガスが蒸留され、メタノール燃料が得られる。燃料製造装置5の反応器および蒸留塔には、温度、圧力、メタノール燃料の生成量(例えば、質量流量)および濃度などを測定するセンサが設けられる。
【0019】
燃料製造システム100には、さらに、ガス化装置4と燃料製造装置5との間にコンプレッサが設けられ、発電装置1により生成された再生可能電力によりガス化装置4から燃料製造装置5に合成ガスを送給する。燃料製造システム100には、コンプレッサにより消費される電力量を測定するセンサも設けられる。
【0020】
このように、燃料製造システム100は、再生可能エネルギーを利用することで、全体として二酸化炭素の排出量を抑制することができる。しかしながら、再生可能エネルギーの変換過程でエネルギー損失が大きくなると、システム全体としてのエネルギー損失や燃料製造コストが増大するおそれがある。そこで、本実施形態では、システム全体のエネルギー収支に着目することで、燃料製造時の二酸化炭素の排出量を抑制しつつエネルギー損失や燃料製造コストを抑制できるよう、以下のように燃料製造システムを構成する。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る燃料製造システム100の要部構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、燃料製造システム100は、コントローラ10を有し、コントローラ10には、上述したセンサを含むセンサ群6と、水電解装置2と、水素供給部3とが接続される。コントローラ10は、センサ群6からの信号に基づいて所定の処理を行うことで、水電解装置2および水素供給部3の動作を制御する。
【0022】
コントローラ10は、CPUなどの演算部11と、ROM,RAMなどの記憶部12と、I/Oインターフェースなどの図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。記憶部12には、各種制御のプログラムやプログラムで用いられる閾値などの情報が記憶される。演算部11は、機能的構成として、算出部13と、制御部14とを有する。
【0023】
図3は、燃料製造システム100のエネルギー収支について説明するための図であり、バイオマスを原料としてメタノール燃料を製造するときの、単位原料量あたりに投入されるエネルギーおよび回収されるエネルギーの一例を示す。投入されるエネルギーには、単位量のバイオマスが有するエネルギー(発熱量)E1、原料のガス化(ガス化炉の加熱)、燃料の蒸留、合成ガスの送給、および水の電気分解にそれぞれ必要なエネルギーE2~E5が含まれる。回収されるエネルギーには、単位量のバイオマスから生成されたメタノール燃料が有するエネルギー(発熱量)E6が含まれる。
【0024】
図3では、水電解水素を利用しない場合のエネルギーE(0)を破線、水電解水素を利用する場合のエネルギーE(m)を実線で、それぞれ示す。
図3に示すように、水電解水素を利用する場合、水電解水素の供給量mに応じて電気分解に必要なエネルギーE5(m)が投入されるとともに、ガス化、蒸留、および送給に必要なエネルギーE2(m)~E4(m)が増加する。一方、メタノール燃料として回収されるエネルギーE6(m)が増加する。
【0025】
算出部13は、下式(vii),(viii)により、水電解水素を利用しない場合、利用する場合、それぞれのエネルギーE1(0)~E4(0),E1(m)~E5(m)の和を、基準投入エネルギーEin(0)、投入エネルギーEin(m)としてそれぞれ算出する。また、下式(ix),(x)のように、水電解水素を利用しない場合、利用する場合、それぞれのエネルギーE6(0),E6(m)を、基準回収エネルギーEout(0)、回収エネルギーEout(m)としてそれぞれ算出する。
Ein(0)=E1(0)+E2(0)+E3(0)+E4(0) ・・・(vii)
Ein(m)=E1(m)+E2(m)+E3(m)+E4(m)+E5(m)…(viii)
Eout(0)=E6(0) ・・・(ix)
Eout(m)=E6(m) ・・・(x)
【0026】
原料のガス化に必要なエネルギーE2は、標準反応エンタルピーと、単位量のバイオマスから生成された合成ガスの生成量とに基づいて算出することができるが、ガス化装置4により消費される電力量に基づいて算出することもできる。燃料の蒸留に必要なエネルギーE3は、単位量のバイオマスから生成されたメタノール燃料の生成量および濃度に基づいて算出することができるが、燃料製造装置5により消費される電力量に基づいて算出することもできる。合成ガスの送給に必要なエネルギーE4は、単位量あたりの圧縮仕事と、単位量のバイオマスから生成された合成ガスの生成量とに基づいて算出することができるが、コンプレッサにより消費される電力量に基づいて算出することもできる。
【0027】
水の電気分解に必要なエネルギーE5は、標準反応エンタルピーと、単位量のバイオマスから生成された水電解水素の生成量と、水電解装置2の電解効率pとに基づいて、下式(xi)により算出することができる。水電解装置2の電解効率pは、電解効率100%での電解電圧(例えば、1.48[V])と、水電解装置2の電解電圧とに基づいて、下式(xii)により算出することができる。水の電気分解に必要なエネルギーE5は、水電解装置2により消費される電力量に基づいて算出することもできる。なお、太陽光発電や風力発電などの再生可能電力を利用して水を電気分解する場合、気象条件などによっては電力が不足し、水電解装置2を定格運転できないことがある。このような場合は、水電解装置2の電解効率pが低下する。
E5=(標準反応エンタルピー)×(水電解水素の生成量)/p ・・・(xi)
p=1.48/(電解電圧) ・・・(xii)
【0028】
算出部13は、下式(xiii),(xiv)により、基準投入エネルギーEin(0)と投入エネルギーEin(m)との差分ΔEin(m)、および基準回収エネルギーEout(0)と回収エネルギーEout(m)との差分ΔEout(m)を算出する。また、下式(xv)により燃料製造システム100のエネルギー変換効率を算出する。さらに、下式(xvi)によりエネルギー収支の評価値を算出する。
ΔEin(m)=Ein(m)-Ein(0) ・・・(xiii)
ΔEout(m)=Eout(m)-Eout(0) ・・・(xiv)
(エネルギー変換効率)=Eout/Ein
=E6/(E1+E2+E3+E4+E5) ・・・(xv)
(エネルギー収支の評価値)=ΔEout(m)/ΔEin(m) ・・・(xvi)
【0029】
図4は、水電解装置2の電解効率pと、燃料製造システム100のエネルギー変換効率との関係について説明するための図である。
図4では、水電解水素を利用しない場合のエネルギー変換効率Eout(0)/Ein(0)を破線、水電解水素を利用する場合のエネルギー変換効率Eout(m)/Ein(m)を実線で、それぞれ示す。
図4に示すように、水電解水素を利用する場合の燃料製造システム100のエネルギー変換効率Eout(m)/Ein(m)は、水電解装置2の電解効率pが高くなるほど向上する。このため、所定の電解効率p0以上の運転条件では、水電解水素を利用することで利用しない場合よりもエネルギー変換効率が向上するが、所定の電解効率p0未満の運転条件では、水電解水素を利用することで利用しない場合よりもエネルギー変換効率が低下する。水電解水素を利用する場合のエネルギー変換効率Eout(m)/Ein(m)が水電解水素を利用しない場合のエネルギー変換効率Eout(0)/Ein(0)よりも高くなる電解効率pの閾値(所定の電解効率p0)は、水電解水素の生成量に応じて変化する。記憶部12には、予め測定された所定の電解効率p0の情報が記憶される。
【0030】
図5は、水素供給部3による水電解水素の供給量mと、燃料製造システム100のエネルギー収支の評価値との関係について説明するための図であり、
図4の電解効率p1に対応する運転条件で水電解水素の供給量mを変化させたときの評価値の一例を示す。
図5に示すように、水電解水素の供給量mには、電解効率pなどの運転条件に応じた最適量m1が存在する。水電解水素の供給量mを、エネルギー収支の評価値が1以上となる適正範囲m1a~m1bに調整することで、水電解水素を利用しない場合よりもエネルギー変換効率を向上することができる。一方、適正範囲m1a~m1bを超える過剰量m2(例えば、最適量m1の1.5倍)の水電解水素を供給すると、エネルギー収支の評価値が1を下回り、水電解水素を利用しない場合よりもエネルギー変換効率が低下する。
【0031】
図6Aおよび
図6Bは、ガス化装置4から回収される各ガス成分の回収量(例えば、質量流量)の一例を示す図であり、水電解水素を利用しない場合の回収量を破線、水電解水素を利用する場合の回収量を実線で、それぞれ示す。
図6Aは、
図5において水電解水素の供給量mが最適量m1のときの各ガス成分の回収量の一例を示し、
図6Bは、水電解水素の供給量mが過剰量m2のときの各ガス成分の回収量の一例を示す。
【0032】
図6Aの例では、水電解水素の供給量mが最適量m1に調整され、メタノール燃料の製造量に対応する一酸化炭素の回収量が、水電解水素を利用しない場合の1.5倍に増加している。一方、
図6Bの例では、水電解水素の供給量mが最適量m1の1.5倍の過剰量m2に調整され、一酸化炭素の回収量が水電解水素を利用しない場合の1.7倍に増加している。
図6Aの例と
図6Bの例とを比較すると、投入エネルギーに対応する水電解水素の供給量mが1.5倍に増加しているのに対し、回収エネルギーに対応する一酸化炭素の回収量は約1.1倍の増加に止まっている。このように、適正範囲を超えて水電解水素の供給量mを増加すると、水電解水素を利用しない場合よりも、かえってエネルギー変換効率が低下する。
【0033】
算出部13は、さらに、水電解水素を利用することで発生する費用Cと、得られる利益Bとを算出するとともに、下式(xvii)により水電解水素を利用することによるコストメリットの評価値ε(m)を算出する。
ε(m)=C/B ・・・(xvii)
【0034】
水電解水素を利用することで発生する費用Cは、例えば、水を電気分解する水電解装置2、バイオマスをガス化するガス化装置4、メタノール燃料を蒸留する燃料製造装置5、および合成ガスを送給するコンプレッサにより消費される電力量に基づいて算出できる。この場合、水電解水素を利用しない場合、利用する場合、それぞれの電力量と、電力単価とに基づいて、水電解水素を利用することで発生する費用Cを算出することができる。
【0035】
水電解水素を利用することで得られる利益Bは、具体的には、メタノール燃料の生成量の増加による利益として算出することができる。この場合、水電解水素を利用しない場合、利用する場合、それぞれのメタノール燃料の生成量と、メタノール燃料の燃料単価とに基づいて、水電解水素を利用することで得られる利益Bを算出することができる。
【0036】
制御部14は、算出部13により算出された水電解装置2の電解効率p、コストメリットの評価値ε(m)、およびセンサ群6により検出された水素タンク3aの内圧に基づいて、水電解装置2および水素供給部3の流量調整弁3bの動作を制御する。より具体的には、水電解装置2の電解効率pに基づいて、水電解水素を利用しない場合よりもエネルギー変換効率が向上する場合に限って水電解水素を生成するように水電解装置2のオンオフ動作を制御する。また、コストメリットの評価値ε(m)に基づいて、水電解水素を利用することでコストメリットが生じる場合に限って水電解水素を生成するように水電解装置2のオンオフ動作を制御する。さらに、水素タンク3aの内圧に基づいて、水素供給部3に貯留される水電解水素の貯留量が下限から上限までの間の適正量に維持されるように流量調整弁3bの動作を制御する。
【0037】
図7は、コントローラ10の演算部11により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図7の処理は、例えば燃料製造システム100に電源が投入されると開始され、所定周期で繰り返される。
図7の処理では、先ずステップS1で、水電解装置2の電解効率pが、現在の水電解水素の生成量に応じた所定の電解効率p0(
図4)以上であるか否かを判定する。
【0038】
ステップS1で肯定されると、水電解水素を利用することでエネルギー変換効率が向上する運転条件であると判定してステップS2に進み、水素タンク3aの貯留量が上限以上であるか否かを判定する。ステップS2で肯定されると、ステップS3に進み、水電解装置2による水電解を継続できるよう、水素タンク3aからガス化装置4への水電解水素の供給量mが最適量m1よりも大きくなるように調整する。水電解装置2による水電解を停止し、発電装置1により生成された再生可能電力を商用電力系統に売電してもよい。ステップS2で否定されると、ステップS4に進み、水素タンク3aの貯留量が下限以下であるか否かを判定する。ステップS4で否定されると、ステップS5に進み、水電解水素の供給量mを最適量m1として水電解装置2による水電解を継続する。ステップS4で肯定されると、ステップS6に進み、水電解水素の供給を継続できるよう、水電解水素の供給量mが最適量m1よりも小さくなるように調整する。商用電力系統から買電することで水電解装置2に供給される電力量を補ってもよい。
【0039】
ステップS1で否定されると、水電解水素を利用することでエネルギー変換効率が低下する運転条件であると判定してステップS7に進み、水電解水素を利用することによるコストメリットの評価値ε(m)が1を超えるか否かを判定する。ステップS7で肯定されると、エネルギー変換効率は低下するもののコストメリットがある運転領域であると判定してステップS2に進む。一方、ステップS7で否定されると、水電解水素を利用することでエネルギー変換効率が低下し、コストメリットもない運転領域であると判定してステップS8に進む。
【0040】
ステップS8では、水素タンク3aの貯留量が上限以上であるか否かを判定する。ステップS8で肯定されると、ステップS9に進み、水電解装置2による水電解を停止するとともに、水素供給部3のバッファタンクに一時的に貯留された水電解水素の過剰分をガス化装置4に供給する。この場合、発電装置1により生成された再生可能電力を商用電力系統に売電してもよい。ステップS8で否定されると、ステップS10に進み、水電解装置2による水電解を停止するとともに、水素タンク3aからガス化装置4への水電解水素の供給を停止する。この場合、発電装置1により生成された再生可能電力を商用電力系統に売電してもよい。
【0041】
このように、水電解装置2の電解効率pやコストメリットの評価値ε(m)の監視結果に応じて水電解装置2のオンオフを切り替えることで(ステップS1,S7)、エネルギー損失や燃料製造コストが抑制される領域で燃料製造システム100を運転できる。すなわち、エネルギー変換効率が向上する場合やコストメリットが生じる場合に限って水電解水素を利用するように水電解装置2を制御することで、エネルギー損失や燃料製造コストを抑制することができる(ステップS3,S5,S6,S9,S10)。
【0042】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料製造システム100は、バイオマスから水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成するガス化装置4と、ガス化装置4により生成された合成ガスからメタノール燃料を製造する燃料製造装置5と、水を電気分解することで水素を生成する水電解装置2と、水電解装置2により生成された水素をガス化装置4に供給する水素供給部3と、バイオマスが有するエネルギーE1と、水電解装置2により水素を生成するときに消費されるエネルギーE5と、ガス化装置4により合成ガスを生成するときに消費されるエネルギーE2と、燃料製造装置5によりメタノール燃料を製造するときに消費されるエネルギーE3とに基づいて投入エネルギーEin(m)を算出するとともに、燃料製造装置5により製造されるメタノール燃料が有するエネルギーE6に基づいて回収エネルギーEout(m)を算出する算出部13と、算出部13により算出された投入エネルギーEin(m)と回収エネルギーEout(m)とに基づいて水電解装置2を制御する制御部14とを備える(
図1~
図3)。
【0043】
すなわち、投入エネルギーEin(m)に対する回収エネルギーEout(m)の割合を示すエネルギー変換効率Eout(m)/Ein(m)が、水電解水素を利用しない場合のエネルギー変換効率Eout(0)/Ein(0)よりも高くなるように、運転条件を監視する。例えば、水電解装置2の電解効率pについて、水電解水素を利用しない場合よりもエネルギー変換効率Eout/Einが高くなる所定の電解効率p0以上であるか否かを監視する。このように、投入エネルギーEin(m)および回収エネルギーEout(m)を介して燃料製造システム100全体でのエネルギー変換効率を監視することで、燃料製造時のエネルギー損失や燃料製造コストを抑制することができる。すなわち、気象条件などに応じて再生可能エネルギーの変換過程でのエネルギー損失が大きくなると、システム全体としてのエネルギー損失や燃料製造コストが増大する。このため、エネルギー変換効率の監視結果に応じ、例えば水電解水素を利用しない場合よりもエネルギー変換効率が向上する場合に限って水電解水素を生成するように水電解装置2を制御することで、エネルギー損失や燃料製造コストを抑制することができる。
【0044】
(2)算出部13は、さらに、エネルギーE5とエネルギーE2とエネルギーE3とを得るために必要とされる費用Cを算出するとともに、燃料製造装置5により製造されるメタノール燃料によって得られる利益Bを算出する。制御部14は、さらに、算出部13により算出された費用Cと利益Bとに基づいて水電解装置2を制御する。例えば、費用Cに対する利益Bの割合を示すコストメリットの評価値ε(m)が1を超える場合に限って水電解水素を生成するように水電解装置2を制御する。このように、水電解水素を利用することでコストメリットが生じる場合に限って水電解水素を生成するように水電解装置2を制御することで、燃料製造システム100による燃料製造コストを抑制することができる。
【0045】
(3)算出部13は、水電解装置2により生成される水素の生成量と、水電解装置2の電解効率pとに基づいて、水電解装置2により水素を生成するときに消費されるエネルギーE5を算出する。この場合、実際に測定された電解電圧に基づいて電解効率pを算出し、水電解装置2により水素を生成するときに消費されるエネルギーE5を算出することができる。
【0046】
(4)算出部13は、水電解装置2により水素を生成するときに消費された電力量に基づいて、水電解装置2により水素を生成するときに消費されるエネルギーE5を算出する。この場合、実際に測定された電力量に基づいて、水電解装置2により水素を生成するときに消費されるエネルギーE5を算出することができる。
【0047】
(5)水電解装置2は、再生可能電力を利用して水を電気分解する。太陽光発電や風力発電などの再生可能電力を利用する場合、気象条件などによっては電力が不足し、水電解装置2を定格運転できないことがある。このような場合、水電解装置2の電解効率pが低下し、水電解水素を利用することで、かえって燃料製造システム100全体でのエネルギー変換効率が低下することがある。投入エネルギーEin(m)および回収エネルギーEout(m)を介して燃料製造システム100全体でのエネルギー変換効率を監視することで、燃料製造時のエネルギー損失を適切に抑制することができる。
【0048】
上記実施形態では、
図1などでガス化装置4がバイオマスから合成ガスを生成する例を説明したが、炭素含有原料から水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成する合成ガス生成装置は、このようなものに限らない。例えば、DAC(Direct Air Capture)により工場排ガスなどから二酸化炭素を分離、回収し、回収された二酸化炭素と水電解水素とから式(v)の逆の平衡反応(逆シフト反応)により一酸化炭素と水とを生成してもよい。
【0049】
上記実施形態では、
図1などで燃料製造装置5がメタノール燃料を製造する例を説明したが、合成ガスから燃料を製造する燃料製造装置は、このようなものに限らない。例えば、MTG(methanol-to-gasoline)法によりメタノールからさらにガソリン燃料を合成してもよく、FT(Fischer-Tropsch)法により合成ガスから軽油燃料を合成してもよい。
【0050】
上記実施形態では、原料のガス化(ガス化炉の加熱)や燃料の蒸留に再生可能電力を利用する例を説明したが、これらに廃熱などの熱源を利用する構成であってもよい。この場合、合成ガス生成装置により合成ガスを生成するときに消費される第3エネルギーや燃料製造装置により燃料を製造するときに消費される第4エネルギーは、ガス化や蒸留に要した熱量と熱単価とに基づいて算出することができる。
【0051】
上記実施形態では、
図3などで燃料製造システム100に投入されるエネルギー、回収されるエネルギーの具体例を示して説明したが、投入されるエネルギーおよび回収されるエネルギーは、このようなものに限らない。
【0052】
上記実施形態では、
図1などで水電解装置2により生成された水電解水素の全量をガス化装置4に供給する例を説明したが、水電解装置により生成された水素を合成ガス生成装置に供給する水素供給部の構成は、このようなものに限らない。例えば、水電解水素を貯留する水素タンクやガス化装置への水電解水素の流量を調整する流量調整弁などを有するものでもよい。また、気象条件などにより水電解装置2の電解効率pが所定の電解効率p0を下回る場合には水電解装置2の運転を停止してもよい。
【0053】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0054】
1 発電装置、2 水電解装置、3 水素供給部、3a 水素タンク、3b 流量調整弁、4 ガス化装置、5 燃料製造装置、6 センサ群、10 コントローラ、11 演算部、12 記憶部、13 算出部、14 制御部、100 燃料製造システム
【要約】
【課題】燃料製造時のエネルギー損失や燃料製造コストを抑制する。
【解決手段】燃料製造システム100は、炭素含有原料から水素と一酸化炭素とを含む合成ガスを生成するガス化装置と、生成された合成ガスから燃料を製造する燃料製造装置と、水を電気分解することで水素を生成する水電解装置2と、生成された水素をガス化装置4に供給する水素供給部3と、炭素含有原料が有する第1エネルギーと水素を生成するときに消費される第2エネルギーと合成ガスを生成するときに消費される第3エネルギーと燃料を製造するときに消費される第4エネルギーとに基づいて投入される投入エネルギーを算出するとともに、製造される燃料が有する第5エネルギーに基づいて回収される回収エネルギーを算出する算出部13と、算出された投入エネルギーと回収エネルギーとに基づいて水電解装置2を制御する制御部14とを備える。
【選択図】
図2