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  • 特許-永久磁石及びデバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】永久磁石及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/055 20060101AFI20221212BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20221212BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20221212BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20221212BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01F1/055 170
B22F3/00 F
C22C19/07 D
C22C30/00
C22C38/00 303D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021159333
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2022-06-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】町田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 照彦
(72)【発明者】
【氏名】幕田 裕和
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-125593(JP,A)
【文献】国際公開第2015/140829(WO,A1)
【文献】特開平08-031626(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084118(WO,A1)
【文献】特開2014-192193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/055
B22F 3/00
C22C 19/07
C22C 30/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率組成で、R:23~27%(Rは少なくともSmを含む希土類元素)、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界部を有し、当該結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である、永久磁石。
【請求項2】
質量百分率組成で、更に、Cu:4.0~5.0%、Zr:1.7~2.5%を含有する、請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
焼結体密度≧8.25g/cm、残留磁束密度(Br)≧1.16T、最大エネルギー積(BH)m≧260kJ/m、保磁力をHcjとし、残留磁束密度(Br)の90%を示すときの逆磁界の大きさをHkとしたとき、角形比(Hk/Hcj)≧65%であり、
残留磁束密度(Br)の温度係数をα、前記保磁力(Hcj)の温度係数をβとしたとき、25~200℃の温度範囲においてα≦0.050%/K、且つ、β≦0.35%/Kである、請求項1又は2に記載の永久磁石。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の永久磁石を有する、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石の一つとしてサマリウムコバルト磁石等の希土類コバルト永久磁石が知られている。希土類コバルト永久磁石は、磁気特性向上など、種々の観点から、例えばFe、Cu、Zr等を添加したものが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1~3には、希土類元素と、Feと、Cuと、Coと、Zr、Ti及びHfより選択される1種以上の元素を特定量含み、ThZn17型結晶相を含む主相からなる結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とを有する組織とを備える特定の永久磁石が開示されている。
サマリウムコバルト磁石においては、更なる保磁力の向上と、良好な角形性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-100450号公報
【文献】国際公開第2016/151621号
【文献】特開2017-168827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、磁気特性の優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる永久磁石は、質量百分率組成で、R:23~27%(Rは少なくともSmを含む希土類元素)、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界部を有し、当該結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である。
【0007】
上記永久磁石の一実施形態は、質量百分率組成で、更に、Cu:4.0~5.0%、Zr:1.7~2.5%を含有する。
【0008】
上記永久磁石の一実施形態は、焼結体密度≧8.25g/cm、残留磁束密度(Br)≧1.16T、最大エネルギー積(BH)m≧260kJ/m、保磁力をHcjとし、残留磁束密度(Br)の90%を示すときの逆磁界の大きさをHkとしたとき、角形比(Hk/Hcj)≧65%であり、
残留磁束密度(Br)の温度係数をα、前記保磁力(Hcj)の温度係数をβとしたとき、25~200℃の温度範囲においてα≦0.050%/K、且つ、β≦0.35%/Kである。
【0009】
また本発明にかかるデバイスは、上記永久磁石を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の課題は、磁気特性の優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本永久磁石の研磨面の一例を示す光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る永久磁石及びデバイスについて説明する。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0013】
[永久磁石]
本発明に係る永久磁石は、質量百分率組成で、R:23~27%(Rは少なくともSmを含む希土類元素)、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界部を有し、当該結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下であることを特徴とする。
【0014】
本永久磁石は、上記特定の組成を有する焼結体であり、図1の例に示されるように、ThZn17型構造の結晶相を主相とする結晶粒1と、結晶粒1の境界となる粒界部2を有する永久磁石である。本永久磁石に逆磁界を印加すると、粒界部2から逆磁区が発生する。
本永久磁石は、結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であるため、焼結体内の粒界部2の数を減らすことができる。また、当該結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下であるため、結晶粒1の粒径が比較的均一に揃い、小さい結晶粒(すなわち粒界部が密)となる部分が少なくなる。これらの結果、本永久磁石は逆磁区の発生が抑制され、角形性が良好で、特に大きな逆磁界(例えば10kOe以上)がかかっても高い残留磁化が得られるという特徴を有する。
なお、Mnを0.01~2.5%含む上記特定の組成を有する原料を後述の方法で処理することで、結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.6以下の永久磁石を製造することができる。
【0015】
本永久磁石の結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)と変動係数(C.V.)の測定方法について説明する。
まず測定対象となる永久磁石をまず耐水研磨紙で研磨する。耐水研磨紙は始め目の粗いものを使用し、徐々に細かいものに切り替える。耐水研磨紙での研磨後、バフ研磨機等を使用して鏡面研磨する。鏡面研磨後の永久磁石は、酸溶媒に含侵してエッチングする。このとき粒界部2が結晶粒1部分より速く腐食されるため、粒界がはっきりと現れ、一つ一つの結晶粒を明瞭に観察することができる。次いで純水等で洗浄して乾燥する。得られた永久磁石の処理面を光学顕微鏡で観察することで結晶粒が確認できる。
本発明において結晶粒の粒径は、最大フェレー(Feret)径を用いるものとする。フェレー径は結晶粒を挟む2本の平行線間の距離で定義され、本発明においては、その最大値を結晶粒の粒径とする。なお結晶粒の粒径は画像処理ソフトを用いるとより正確に把握することができる。
測定面積500μm×500μmとして、当該面内に存在する結晶粒の粒径を求め、これらの値から、平均結晶粒径(A.G.)と変動係数(C.V.)を算出する。
平均結晶粒径(A.G.)は100μm以上であればよく、中でも120μm以上が好ましい。一方、上限は特に限定されないが、通常は1000μm以下であり、500μm以下が好ましい。
また、変動係数(C.V.)は0.6以下であればよく、中でも0.5以下が好ましい。
【0016】
本永久磁石の組成は、質量百分率組成で、R:23~27%(Rは少なくともSmを含む希土類元素)、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する。本永久磁石は、このような組成を有し、後述する製造方法と組み合わせることにより、比較的大きな粒径で、粒径のそろった結晶粒を有する焼結体が得られやすく、磁気特性に優れた永久磁石を得ることができる。
【0017】
本実施形態において、希土類元素Rとは、Sc、Y、及びランタノイド(原子番号57~71の元素)の総称である。本永久磁石は、希土類元素Rとして少なくともSmを含む。希土類元素RはSmのみ単独で用いてもよく、Smと、1種又は2種以上の他の希土類元素との組み合わせであってもよい。他の希土類元素としては、磁気特性の観点から、中でもPr、Nd、Ce、Laが好ましい。また、磁気特性の観点から、希土類元素R全体に対してSmは80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本永久磁石中、質量百分率で希土類元素Rは23~27%含有する。上記割合で含有することにより、磁気異方性が高く、且つ、高い保磁力を有する永久磁石が得られる。中でも、磁気特性が向上する点から23.5~26.5%が好ましい。
【0018】
本永久磁石は、Feを22~27%含有する。Feを22%以上含有することにより飽和磁化が向上する。また、Feの含有量が27%以下であることにより高い保磁力を有する永久磁石となる。磁気特性が向上する点からFeの含有割合は22.5~26.5%が好ましい。
【0019】
本永久磁石は、Mnを0.01~2.5%含有する。Mnを0.01%以上含有することにより、比較的大きな粒径で、粒径のそろった結晶粒を有する焼結体が得られやすくなる。一方、Mnが2.5%を超過するとかえって粒径が小さくなる傾向が見られる。磁気特性の点からMnは中でも0.05~1.5%が好ましい。
Mnを0.01%以上含有することで融点が低下し、焼結時に液相を多く出現させて結晶粒径が大きくなるものと推定される。また、Mnにより粒界部を非磁性化されている可能性があり、粒界部での逆磁区発生が抑制されているものと推定される。
【0020】
本永久磁石は、更に、Cu:4.0~5.0%、Zr:1.7~2.5%を含むことが好ましい。
Cuを4.0%以上含有することにより高い保磁力を有する永久磁石となる。また、Cuの含有量が5.0%以下であることにより磁化の低下が抑制される。磁気特性が向上する点からCuの含有割合は4.0~4.7%がより好ましい。
また、Zrを1.7~2.5%含有することにより、磁石が保持できる最大の静磁エネルギーである最大エネルギー積(BH)mの高い永久磁石が得られる。磁気特性が向上する点からZrの含有割合は1.9%~2.3%がより好ましい。
【0021】
また、本永久磁石は、残部がCo(コバルト)及び不可避不純物からなる。Coを含有することにより、永久磁石の熱安定性が向上する。一方、Coの含有量が過剰となると相対的にFeの含有割合が低下する。Coの含有量は、36~54.99%であればよく、40.00~50.00%が好ましい。
不可避不純物は、原料や製造工程から不可避的に混入する元素であって、具体的には、例えば、C、N、P、S、Al、Ti、Cr、Ni、Hf、Sn、Wなどが挙げられるが、これらに限定されない。本永久磁石において不可避不純物の含有割合は、本永久磁石全量に対し、質量百分率で、合計で5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましい。
【0022】
永久磁石中の各元素の含有割合は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectrometry)を用いて測定することができる。
【0023】
本永久磁石において、結晶粒はThZn17型構造の結晶相(以下、2-17相ということがある)を主相として有している。ThZn17型構造はR-3m型の空間群を有する結晶構造であり、本永久磁石においては、通常、Th部位を希土類元素及びZrが占め、Zn部位にCo、Cu、Fe、及びZrが占めている。また、本永久磁石は、粒界部はRCo型構造の結晶相(以下、1-5相ということがある)を有している。なお、当該1-5相は、通常、R部位を希土類元素及びZrが占め、Co部位にCo、Cu、Feが占めている。また、本永久磁石は、TbCu型構造の結晶相(以下、1-7相ということがある)を有していてもよい。当該1-7相は、通常、Tb部位を希土類元素及びZrが占め、Cu部位にCo、Cu、Feが占めている。結晶構造は、X線回折法により決定できる。
【0024】
本永久磁石は、特に残留磁束密度や角形などの磁気特性に優れる点から、緻密化していることが好ましく、具体的には、本永久磁石の密度(焼結体密度)が8.25g/cm以上であることが好ましい。一方、当該密度の上限は特に限定されないが、本永久磁石の組成から、通常、8.45g/cm以下となる。なお、本永久磁石の高密度化は、ポア(空隙)の存在比率を低減させることにより達成することが好ましく、後述する製造方法により上記密度を達成することができる。
【0025】
本永久磁石は上述の通り、逆磁区の発生が抑制されるため、例えば残留磁束密度(Br)が1.16T以上を達成することができる。なお、残留磁束密度は、焼結体に外部磁場をかけて完全着磁させた後、当該外部磁場を0に戻したときに残留している単位面積あたりの磁化量である。
また、本永久磁石は、保持できる最大の静磁エネルギーである最大エネルギー積(BH)mが260kJ/m以上を達成できる。
【0026】
また本永久磁石は、逆磁区の発生が抑制された結果、高い角形比を得ることができ、具体的には、保磁力(Hcj)と、残留磁束密度(Br)の90%を示すときの逆磁界の大きさ(Hk)との比(Hk/Hcj)で表される角形比が65%以上となる永久磁石を得ることができる。なお、保磁力(Hcj)は、ある方向に磁化した物質を消磁するのに必要な反対方向の磁場の大きさを示す物理量である。
【0027】
また、本永久磁石は温度変化に対する磁気特性の変化を抑制することができる。例えば、残留磁束密度(Br)の温度係数をαとしたとき、25~200℃の温度範囲においてα≦0.050%/Kを達成することができる。
また、例えば、保磁力(Hcj)の温度係数をβとしたとき、25~200℃の温度範囲においてβ≦0.35%/Kを達成することができる。
ここで、温度係数とは、1℃の温度変化に対する、Br又はHcjの変化量を示す係数であり、上記α及びβは値が小さいほど、温度変化に対する磁気特性の変化が抑制されることを示している。
なお各種磁気特性は、永久磁石を所定の形状に加工し、B-Hトレーサーにより測定できる。
直流B-Hトレーサーを使用する場合は予測するHcjよりも3~4倍程度高い磁界をかけて着磁し、その後、装置の使用方法に沿って測定する。パルス式B-Hトレーサーを使用する場合は着磁の必要はなく、装置の使用方法に沿って測定する。
温度係数の測定にはB-Hトレーサーの試料設置箇所にヒーターや温風不活性ガスを流して試料を所定の温度まで温めて上記と同様に測定する。
【0028】
このように、本永久磁石は、一例として、焼結体密度≧8.25g/cm、残留磁束密度(Br)≧1.16T、最大エネルギー積(BH)m≧260kJ/m、保磁力をHcjとし、残留磁束密度(Br)の90%を示すときの逆磁界の大きさをHkとしたとき、角形比(Hk/Hcj)≧65%であり、
残留磁束密度(Br)の温度係数をα、前記保磁力(Hcj)の温度係数をβとしたとき、25~200℃の温度範囲においてα≦0.050%/K、且つ、β≦0.35%/Kである、優れた磁気特性が達成可能である。
【0029】
<永久磁石の製造方法>
上記本永久磁石は、Mnを含有する合金を準備し、主に熱処理条件を調整することにより得ることができる。
以下、一例を挙げて具体的に説明する。
【0030】
まず、質量百分率組成で、希土類元素R:23~27%、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%、残部がCo及び不可避不純物からなる合金を準備する。当該合金の準備方法は、所望の組成を有する合金の市販品を入手することにより準備してもよく、各元素を所望の組成となるように配合することにより合金を準備してもよい。
以下、各元素を配合する具体例について説明するが、本発明はこの方法に限定されるものではない。
まず原料として、所望の希土類元素、Fe、Mn、Coの各金属元素と、母合金を準備する。ここで、母合金として共晶温度の低い組成のものを選択することが、得られる合金の組成の均一化を図りやすい点から好ましい。本発明においては、母合金として、FeZr又はCuZrを選択して用いることが好ましい。FeZrとしては、一例としてFe20%Zr80%前後のものが好適である。また、CuZrとしては、一例としてCu50%Zr50%前後のものが好適である。
これらの原料を所望の組成となるように配合し、アルミナ等の坩堝にいれ、1×10-2torr以下の真空中または不活性ガス雰囲気において高周波溶解炉により溶解することで、均一化した合金が得られる。更に、本発明においては当該溶解した合金を金型により鋳造して合金インゴットとする工程を含んでいてもよい。また、別法として、溶解した合金を銅ロールに滴下することにより1mm厚程度のフレーク上の合金を製造してもよい(ストリップキャスト法)。
また前記鋳造により合金インゴットとした場合、当該合金インゴットの溶体化温度で1~20時間熱処理してもよい。なお、合金インゴットの溶体化温度は、合金の組成等に応じて適宜調整すればよい。
【0031】
次に、合金を粉砕して粉体とする。合金の粉砕方法は特に限定されず、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。一例として、まず、合金インゴット又はフレーク状の合金を、公知の粉砕機により100~500μm程度の大きさに粗粉砕し、次いで、ボールミルやジェットミルなどで微粉砕する方法などが好適に挙げられる。粉体の平均粒径は特に限定されないが、後述する焼結工程の焼結時間を短縮することを可能とし、また、均一な永久磁石を製造する点から、平均粒径が1μm以上10μm以下、好ましくは平均粒径が6μm以下、更に好ましくは粒径8μm以下のものが60質量%以上の粉体とする。
【0032】
次に、得られた粉体を、加圧成形して所望の形状の成形体とする。本製造方法においては、粉体の結晶方位を揃えて磁気特性を向上する点から、一定の磁場中で加圧成形することが好ましい。磁場の方向と、プレス方向との関係は特に限定されず、製品の形状等に応じて適宜選択すればよい。例えば、リング磁石や、薄板状の磁石を製造する場合には、プレス方向に対して、平行方向に磁場を印加する並行磁場プレスとすることができる。一方、磁気特性に優れる点からは、プレス方向に対して、直角に磁場を印加する直角磁場プレスとすることが好ましい。
【0033】
磁場の大きさは特に限定されず、製品の用途等に応じて、例えば15kOe以下の磁場であってもよく、15kOe以上の磁場であってもよい。中でも磁気特性に優れる点からは、15kOe以上の磁場中で加圧成形することが好ましい。また、加圧成形の際の圧力は、製品の大きさ、形状等に応じて適宜調整すればよい。一例として、0.5~2.0ton/cmの圧力とすることができる。すなわち本発明の永久磁石の製造方法においては、磁気特性の観点から、前記粉体を15kOe以上の磁場中で、磁場に垂直に0.5~2.0ton/cm以下の圧力で加圧成形することが特に好ましい。
【0034】
次に、前記成形体を加熱することにより焼結体とする。本製造方法において、焼結条件は得られる焼結体の緻密化が充分に行われればよく、公知の条件とすることができる。焼結体の緻密化の点から、焼結温度は1170~1215℃が好ましく、1180~1205℃がより好ましい。1215℃以下とすることで、希土類元素、特にSmの蒸発が抑制されて、磁気特性に優れた永久磁石を製造することができる。また、本発明においてはMnを有することで融点が低下する傾向があるため、1215℃以下で十分な焼結が可能である。
焼結工程における昇温条件は、成形体に含まれる吸着ガスを取り除く観点から、まず室温において真空引きを開始し、1~10℃/分で昇温することが好ましい。当該昇温過程においては真空引きの代わりに水素雰囲気下としてもよい。この場合も、1150℃以下の範囲で真空雰囲気に切り替えることが好ましい。
焼結時間は、Smの蒸発を抑制しながら、緻密化を充分に行う点から、20~210分が好ましく、30~150分がより好ましい。また、酸化を抑制する観点から、上記焼結工程は1000Pa以下の真空中または不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、更に、焼結体の密度を大きくする点から100Pa以下の真空中で行うことがより好ましい。
【0035】
焼結後、溶体化温度まで降温して溶体化処理を行う。結晶粒の粒径の変動係数(C.V.)の上昇を抑える点から、当該溶体化温度までの降温速度を0.01~3℃/minとすることが好ましい。
溶体化処理は、2-17相と1-5相へ分離させるための前駆体である1-7相(TbCu型構造)を形成させるための工程である。溶体化温度は、均質化の点から、1110~1165℃が好ましく、1120~1160℃がより好ましい。また溶体化時間は、均質化の点から5~150時間が好ましく、10~100時間がより好ましい。溶体化は1000Pa以下の真空中、もしくは不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0036】
溶体化処理後は、少なくとも600℃以下まで急冷することが好ましい。急冷速度は80℃/min以上が好ましい。急冷を行うことで、1-7相の結晶構造が維持される。一方、冷却速度の上限は、成形体の形状にもよるが、一例として250℃/min以下が好ましい。
【0037】
次に、急冷工程後の成形体を時効処理して、2-17相と1-5相とを形成する。時効温度は特に限定されないが、2-17相を主相とし、2-17相と1-5相とを均質に有する永久磁石を得るために、700~900℃の温度で2~20時間保持し、その後、少なくとも400℃まで冷却するまでの間、冷却速度を2℃/min以下とする方法とすることが好ましい。700℃~900℃の温度で2~20時間保持することにより、2-17相と1-5相とを均質に形成することができる。中でも800~850℃の温度範囲で時効処理することが好ましい。また、良好な磁気特性を得る点から、冷却速度を2℃/min以下とすることが好ましく、0.5℃/min以下とすることがより好ましい。
【0038】
上記の製造方法により、複数の結晶粒と粒界部を有し、当該結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である、前記永久磁石を得ることができる。
【0039】
[デバイス]
本発明は、更に前記本永久磁石を有するデバイスを提供することができる。このようなデバイスの具体例としては、例えば、時計、電動モータ、各種計器、通信機、コンピューター端末機、スピーカー、ビデオディスク、センサなどが挙げられる。また本永久磁石は、前述のとおり、高残留磁束密度、低保磁力で、高い角形比を有することから、中でも、可変磁界モータに好適に適用することができ、低速から高速まで高効率を実現する可変磁界モータを得ることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0041】
(実施例1~3)
表1の実施例1~3の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1200℃で80分焼結した後、1135℃で50時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。得られた永久磁石の磁気特性を測定し、次いで組織観察を行った。得られた永久磁石の、結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)、結晶粒径の変動係数(C.V.)、密度、Br、[BH]m、Hcj、Hk/Hcj、Brの25~200℃の温度係数(α)、Hcjの25~200℃の温度係数(β)を各々上述の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1~2)
組成を表1の比較例1~2のように変更した以外は、前記実施例1~3と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表1に示す。
【0043】
(実施例4~6)
表2の実施例4~6の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において表2に示す各温度で180分焼結した後、1130℃で30時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表2に示す。
【0044】
(比較例3~4)
焼結温度を表2の比較例3~4のように変更した以外は、前記実施例4~6と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表2に示す。
【0045】
(実施例7~9)
表3の実施例7~9の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1185℃で表3に示す時間焼結した後、1125℃で100時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表3に示す。
【0046】
(比較例5~6)
焼結時間を表3の比較例5~6のように変更した以外は、前記実施例7~9と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表3に示す。
【0047】
(実施例10~13)
表4の実施例10~13の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1190℃で150分焼結した後、表4に示す温度で80時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表4に示す。
【0048】
(比較例7~9)
組成及び溶体化温度を表4の比較例7~9のように変更した以外は、前記実施例10~13と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表4に示す。
【0049】
(実施例14~17)
表5の実施例14~17の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1205℃で100分焼結した後、1145℃で表5に示す時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し、永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表5に示す。
【0050】
(比較例10~12)
組成及び溶体化時間を表5の比較例10~12のように変更した以外は、前記実施例14~17と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表5に示す。
【0051】
(実施例18)
表6の実施例18の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1210℃で120分焼結した後、1150℃で60時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表6に示す。
【0052】
(比較例13~17)
組成を表6の比較例13~17のように変更した以外は、前記実施例18と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表6に示す。
【0053】
(実施例19)
表7の実施例19の組成になるように、各々Fe20%Zr80%の母合金及び各原料を調整し、高周波溶解炉により溶解し、鋳造して、合金インゴットを得た。
得られた母合金を不活性ガス中で平均約100~500μmになるように粗粉砕し、次いでボールミルを用いて不活性ガス中で平均約6μmになるように微粉砕を行った。
これらの粉末を各々15kOeの磁場中で1ton/cmの圧力でプレスすることにより成形体を得た。
この成形体を1000Pa未満の真空中において1195℃で135分焼結した後、1140℃で75時間溶体化を行い、1000~600℃までを80℃/minの冷却速度で急冷した。急冷後、850℃で12時間保持し、続いて0.5℃/minの冷却速度で350℃まで徐冷する条件で時効し永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表7に示す。
【0054】
(比較例18~20)
組成を表7の比較例18~20のように変更した以外は、前記実施例19と同様にして永久磁石を得た。実施例1~3と同様に各物性の測定を行った結果を表7に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1~7に示されるようにMnを含有し所定の組成を有する実施例1~19の永久磁石は、適した熱処理条件で製造することにより、結晶粒の粒径がA.G≧100μm、C.V.≦0.60を満たすことが示された。また当該実施例1~19の永久磁石は、密度≧8.25g/cm、Br≧1.16T、[BH]m≧260kJ/m、Hcj≧1600A/m、Hk/Hcj≧65%、α≦0.050%/℃、β≦0.40/℃を満たし優れた磁気特性を有することが示された。
一方、組成が範囲外であるか、または熱処理条件が適していない比較例1~12及び比較例18~20の永久磁石は、A.GまたはC.V.のいずれかが本発明と相違し、密度、Br、[BH]m、Hcj、Hk/Hcj、α、βの少なくともいずれかが実施例よりも劣ることが示された。また組成が本発明の範囲外である比較例13~17の永久磁石は、結晶粒の粒径が適した範囲であっても、本発明の永久磁石よりも磁気特性が劣っていることが示された。
【符号の説明】
【0059】
1 結晶粒
2 粒界部
【要約】
【課題】磁気特性の優れた永久磁石、及び、当該永久磁石を備えるデバイスを提供すること。
【解決手段】質量百分率組成で、R:23~27%(Rは少なくともSmを含む希土類元素)、Fe:22~27%、Mn:0.01~2.5%を含み、残部がCo及び不可避不純物からなる組成を有する焼結体であって、
複数の結晶粒と粒界部を有し、当該結晶粒の平均結晶粒径(A.G.)が100μm以上であり、且つ、結晶粒径の変動係数(C.V.)が0.60以下である、永久磁石である。
【選択図】図1
図1