(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】窒化珪素回路基板、及び、電子部品モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20221212BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20221212BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221212BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20221212BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20221212BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221212BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01L23/12 J
H01L23/12 C
H01L23/36 M
H01L21/56 R
H05K1/02 F
H05K1/03 630H
C04B37/02 B
(21)【出願番号】P 2021511912
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013619
(87)【国際公開番号】W WO2020203633
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019066151
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】矢野 清治
(72)【発明者】
【氏名】寺野 克典
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-299973(JP,A)
【文献】特開2006-128286(JP,A)
【文献】国際公開第2011/149065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H01L 23/13
H01L 23/373
H01L 21/56
H05K 1/02
H05K 1/03
C04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素基板と、
前記窒化珪素基板の一方の面に設けられた第一の銅層と、
前記窒化珪素基板の他方の面に設けられた第二の銅層と
を備える窒化珪素回路基板であって、
前記窒化珪素基板の破壊靭性値Kcが5.0MPa・m
0.5以上、10.0MPa・m
0.5以下であり、
前記窒化珪素基板の線膨張率をα
B(/℃)とし、前記窒化珪素基板のヤング率をE
B(GPa)とし、前記第一の銅層の線膨張率をα
A(/℃)、前記第二の銅層の線膨張率をα
C(/℃)としたとき、
下記式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、下記式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2が、それぞれ1.30GPa以上、
1.80GPa以下である、窒化珪素回路基板。
式(1) HS1=(α
A-α
B)×E
B×(350-(-78))
式(2) HS2=(α
C-α
B)×E
B×(350-(-78))
【請求項2】
前記第一の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が50μm以上、500μm以下である、請求項1に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項3】
前記第二の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が50μm以上、500μm以下である、請求項1又は2に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項4】
前記窒化珪素基板のヤング率E
Bが、250GPa以上、320GPa以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項5】
前記窒化珪素基板の線膨張率α
Bが、1.5×10
-6/℃以上、4.0×10
-6/℃以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項6】
封止樹脂部によって封止された形態で用いられる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項7】
前記形態は、前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、前記封止樹脂部によって覆われていない未被覆領域を有する形態である、請求項6に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項8】
前記形態は、前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、直接または接合材料層を介してヒートシンクと接合された形態である、請求項6又は7に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項9】
前記第一の銅層は、回路パターンに形成された銅層である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項10】
前記第二の銅層は、ヒートシンク接合用銅層である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の窒化珪素回路基板。
【請求項11】
窒化珪素回路基板と、前記窒化珪素回路基板に搭載された電子部品と、前記窒化珪素回路基板および前記電子部品を封止する封止樹脂部とを備える電子部品モジュールであって、
窒化珪素回路基板は、請求項1乃至10いずれかに記載の窒化珪素回路基板である、電子部品モジュール。
【請求項12】
前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、前記封止樹脂部よりも、前記窒化珪素基板から離れる方向に凸である、請求項11に記載の電子部品モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素回路基板、及び、電子部品モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール等に利用される回路用基板として、熱伝導率やコスト、安全性等の点から、アルミナ、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等のセラミックス基板が利用されている。これらのセラミックス基板は、銅やアルミニウム等の金属回路層や放熱層を接合し回路基板として用いられる。これらは、樹脂基板や樹脂層を絶縁材とする金属基板に対し、優れた絶縁性および放熱性等を有することから、高放熱性電子部品を搭載するための基板として使用されている。
【0003】
エレベーター、車両、ハイブリッドカー等といったパワーモジュール用途には、セラミックス基板の表面に、金属回路板をろう材で接合し、更に金属回路板の所定の位置に半導体素子を搭載したセラミックス回路基板が用いられている。近年では、半導体素子の高集積化、高周波化、高出力化等に伴う半導体素子からの発熱量の増加に対し、高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム焼結体や窒化珪素焼結体等のセラミックス基板が使用されている。この中でも特に、電子部品を搭載するためのセラミックス基板としては、機械的な信頼性が高いことが求められ、機械的強度や靭性に優れる窒化珪素基板が注目されている。
【0004】
また、電子部品モジュール等においては、セラミックス回路基板に繰り返し熱ストレスがかかるため、この熱ストレスに耐え切れなくなるとセラミックス基板に微小クラックが発生したり、この微小クラックが発生したまま熱負荷サイクルがかかり続けた場合、金属回路層がセラミックス基板から剥がれてしまったりして、接合強度不良または熱抵抗不良を招き、電子機器としての動作信頼性が低下してしまう等の問題を有する。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、窒化珪素基板の破壊靭性値を6.5MPa・m1/2以上とする技術が記載されている。特許文献1に記載された発明によれば、3点曲げ強度を500MPa以上とするとともに、破壊靭性値も6.5MPa・m1/2以上と高くした窒化珪素基板を用いることで、熱応力に対するクラックの発生を抑制することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
しかしながら、電子部品モジュール等においては、高出力化、高集積化が進行し、セラミックス回路基板に繰り返し掛かる熱ストレスが、より増大する傾向にあり、従来の技術においては、セラミックス基板が熱ストレスに耐え切れなくなり、例えば、微小クラックが発生したり、金属回路層がセラミックス基板から剥がれてしまったりすることによって、接合強度不良または熱抵抗不良が発生する場合があり、こうしたセラミックス回路基板に半導体素子等の電子部品を搭載した電子部品モジュールの信頼性は十分ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、電子部品モジュールとしての信頼性・歩留りを向上させることができる窒化珪素回路基板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す窒化珪素回路基板、および、電子部品モジュールが提供される。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
窒化珪素基板と、
前記窒化珪素基板の一方の面に設けられた第一の銅層と、
前記窒化珪素基板の他方の面に設けられた第二の銅層と
を備える窒化珪素回路基板であって、
前記窒化珪素基板の破壊靭性値Kcが5.0MPa・m0.5以上、10.0MPa・m0.5以下であり、
前記窒化珪素基板の線膨張率をαB(/℃)とし、前記窒化珪素基板のヤング率をEB(GPa)とし、前記第一の銅層の線膨張率をαA(/℃)、前記第二の銅層の線膨張率をαC(/℃)としたとき、
下記式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、下記式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2が、それぞれ1.30GPa以上、2.30GPa以下である、窒化珪素回路基板が提供される。
式(1) HS1=(αA-αB)×EB×(350-(-78))
式(2) HS2=(αC-αB)×EB×(350-(-78))
【0011】
また、本発明によれば、窒化珪素回路基板と、前記窒化珪素回路基板に搭載された電子部品と、前記窒化珪素回路基板および前記電子部品を封止する封止樹脂部とを備える電子部品モジュールであって、
窒化珪素回路基板は、上記の窒化珪素回路基板である、電子部品モジュールが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の窒化珪素回路基板は、以上のように構成されているため、熱ストレスが加わった際の接合強度不良または熱抵抗不良の発生率が低く、電子機器としての信頼性・歩留りが高い電子部品モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る窒化珪素回路基板の平面図である。
【
図2】本実施形態に係る窒化珪素回路基板の断面図である。
【
図3】本実施形態に係る電子部品モジュールの断面図である。
【
図4】本実施形態に係る電子部品モジュールの一部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
まず、本実施形態の窒化珪素基板の構成について説明する。
【0015】
<本実施形態の窒化珪素回路基板の構成>
本実施形態の窒化珪素回路基板について、
図1、及び、
図2を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る窒化珪素回路基板の平面図であり、
図2は本実施形態に係る窒化珪素回路基板の断面図である。
図2に示されるように、本実施形態に係る窒化珪素回路基板100は、窒化珪素基板10と、第一の銅層30と、第二の銅層20とを備えている。また、窒化珪素基板10と、第二の銅層20とは、ろう材層12を挟んで積層状態を構成しており、窒化珪素基板10と第一の銅層30とは、ろう材層13を挟んで積層状態を構成している。
【0016】
なお、本実施形態において、「窒化珪素-銅複合体」とは、第一の銅層30と、ろう材層13と、窒化珪素基板10と、ろう材層12と、第二の銅層20とが積層した状態であって、回路パターンが形成される前の状態を意味する。また、「窒化珪素回路基板」とは、「窒化珪素-銅複合体」に回路パターンが形成された状態を意味し、回路パターンが形成された銅層の一部には、電子部品40等の電子部品が実装された状態であってもよい。
【0017】
本実施形態に係る窒化珪素回路基板は、上記のように、窒化珪素基板10と、窒化珪素基板10の一方の面に設けられた第一の銅層30と、前記窒化珪素基板の他方の面に設けられた第二の銅層20とを備える窒化珪素回路基板であって、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kcが5.0MPa・m0.5以上、10.0MPa・m0.5以下であり、窒化珪素基板10の線膨張率をαB(/℃)とし、窒化珪素基板10のヤング率をEB(GPa)とし、第一の銅層30の線膨張率をαA(/℃)、第二の銅層20の線膨張率をαC(/℃)としたとき、下記式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、下記式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2が、それぞれ1.30GPa以上、2.30GPa以下に設定される。
式(1) HS1=(αA-αB)×EB×(350-(-78))
式(2) HS2=(αC-αB)×EB×(350-(-78))
【0018】
上記の式において、HS1及びHS2は、積層される窒化珪素基板10及び第二の銅層20、窒化珪素基板10及び第一の銅層30の線膨張率の差と、窒化珪素基板10のヤング率と、温度の積であり、窒化珪素基板10と第二の銅層20の間、及び、窒化珪素基板10と第一の銅層30の間に蓄積され得る熱応力に関連するパラメーターとなる。
例えば、窒化珪素基板10として、線膨張率αB=4.0×10-6(/℃)、ヤング率EB=250(GPa)の窒化珪素基板を用い、第一の銅層30の線膨張率αA=17.3×10-6(/℃)、第二の銅層20の線膨張率αC=17.3×10-6(/℃)としたとき、HS1=(αA-αB)×EB×(350-(-78))=1.42(GPa)、HS2=(αC-αB)×EB×(350-(-78))=1.42(GPa)となる。
【0019】
窒化珪素基板10の破壊靭性値Kcは、5.5MPa・m0.5以上、9.0MPa・m0.5以下であることがより好ましい。また、式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2は、1.30GPa以上、1.80GPa以下であることがより好ましい。
式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2、並びに、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kcは、窒化珪素回路基板の製造に用いる各構成材料の種類、製造条件等を制御することによって調整することができる。
本実施形態によれば、上記のヒートショックパラメーターHS1、及び、HS2、並びに、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kcを上記数値範囲内に設定し、窒化珪素回路基板に蓄積される残留応力と、窒化珪素基板のクラックの進展の程度を特定の範囲とすることで、クラックの進展等により生じる破壊やはがれの発生を防ぐことができ、電子部品モジュールとした際の接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる窒化珪素回路基板となる。
後述の実施例の結果から理解されるように、式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2を1.80GPa以下とした場合、特に、信頼性・歩留りを向上させることができる窒化珪素回路基板を得ることができる。
【0020】
なお、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kcは、JIS R 1607に基づき、IF法で測定することができる。すなわち、窒化珪素基板の表面にビッカース圧子を2kgfで押し込み、ビッカース圧痕の対角線の長さ、各端部から伸びるクラックの長さにより窒化珪素基板の破壊靱性値を評価する。
【0021】
窒化珪素基板10、第二の銅層20及び第一の銅層30の線膨張率(αB、αC、αA、)は、JIS R 1618に基づき、熱機械分析装置(TMA:thermomechanical analyzer)で、求めることができる。なお、本発明において、線膨張率(αB、αC、αA、)は各銅板、及び、各窒化珪素基板の25℃~400℃における線膨張率(線膨張係数)を示すものとする。
【0022】
窒化珪素基板10のヤング率(EB)は、JIS R1602に基づき、静的撓み法で測定することができる。
以下、本実施形態に係る窒化珪素回路基板の各構成についてより詳細に説明する。
【0023】
<窒化珪素基板>
本実施形態に係る窒化珪素基板10は、第一の銅層30及び第二の銅層20を支持する機能を有する。ここで、窒化珪素基板10は、その厚み方向から見て矩形とされている。また、窒化珪素基板10の厚みは、0.2mm以上、1.5mm以下の範囲に設定され、本実施形態では、0.32mmとされている。なお、窒化珪素基板10の形状等は、本実施形態における一例であり、本発明に係る機能を発揮すれば本実施形態の場合と異なっていてもよい。
【0024】
上記したように、本実施形態に係る窒化珪素基板10は、破壊靭性値Kcが5.0MPa・m0.5以上、10.0MPa・m0.5以下であり、5.5MPa・m0.5以上、9.0MPa・m0.5以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る窒化珪素基板10は、そのヤング率EBが、250GPa以上、320GPa以下であることが好ましく、250GPa以上、300GPa未満であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る窒化珪素基板10は、その線膨張率αBが、1.5×10-6/℃以上、4.0×10-6/℃以下であることが好ましく、1.5×10-6/℃以上、2.5×10-6/℃未満であることがより好ましい。
窒化珪素基板10の物性を上記態様に調整することで、ヒートショックパラメーターHS1、及び、HS2を上記数値範囲内に調整しやすくなり、また、より接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる。
【0025】
なお、窒化珪素基板10は、公知の方法で製造することができ、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kc、ヤング率EB、線膨張率αBは、窒化珪素基板10の製造方法、具体的には原料の配合や、焼成条件(昇温速度、保持温度、保持時間、冷却速度等)等を制御することによって調整することができる。窒化珪素基板10の製造方法は後述の通りである。
【0026】
<第一の銅層及び第二の銅層>
第一の銅層30及び第二の銅層20は、その厚み方向から見て多角形とされている。第一の銅層30及び第二の銅層20の厚みは、0.5mm以上2.0mm以下の範囲に設定され、さらに好ましくは、0.8mm以上、1.2mm以下である。本実施形態では、一例として、0.8mmとされる。なお、第一の銅層30及び第二の銅層20の形状等は、本実施形態における一例であり、本発明に係る機能を発揮すれば本実施形態の場合と異なっていてもよい。
本実施形態に係る第一の銅層30及び第二の銅層20の線膨張率は銅の種類により変化するが、大きく変化することはないため、本実施形態においては、銅層の線膨張率は17.3×10-6(/℃)とする。
第一の銅層30及び第二の銅層20の物性を上記態様に調整することで、ヒートショックパラメーターHS1、及び、HS2を上記数値範囲内に調整しやすくなり、より接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる。
【0027】
第一の銅層30における銅結晶の平均結晶粒径は、50μm以上、500μm以下であることが好ましく、100μm以上、300μm以下であることがより好ましい。
後述のように本実施形態に係る窒化珪素回路基板を電子部品モジュールとした場合、第一の銅層30上にはんだ層31等の接合層を介し、電子部品40が搭載され、第一の銅層30は、はんだ層及び電子部品と、窒化珪素基板10に挟まれ、これらの材料との熱膨張率差等により生じる熱ストレスが加わることとなるが、第一の銅層30における銅結晶の平均結晶粒径を上記数値範囲内とすることによって、より接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる。上記のメカニズムは明らかではないが、第一の銅層30における銅結晶の平均結晶粒径を上記数値範囲内とすることによって、第一の銅層30において、銅結晶が適度に粒界すべりを起こす等して応力が適度に緩和されるためと推測される。
【0028】
第二の銅層20における銅結晶の平均結晶粒径は、50μm以上、500μm以下であることが好ましく、100μm以上、300μm以下であることがより好ましい。
後述のように本実施形態に係る窒化珪素回路基板を電子部品モジュールとした場合、第二の銅層20にはんだ層等の接合層を介し、ヒートシンクが接合され、第二の銅層20は、はんだ層及びヒートシンクと、窒化珪素基板10に挟まれ、これらの材料との熱膨張率差等により生じる熱ストレスが加わることとなるが、第二の銅層20における銅結晶の平均結晶粒径を上記数値範囲内とすることによって、より接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる。上記のメカニズムは明らかではないが、第二の銅層20における銅結晶の平均結晶粒径を上記数値範囲内とすることによって、第二の銅層20において、銅結晶が適度に粒界すべりを起こす等して応力が適度に緩和されるためと推測される。
【0029】
なお、第一の銅層30及び第二の銅層20における平均結晶粒径は、銅層を構成する銅板の種類、および、窒化珪素回路基板の製造条件等を制御することで調整できる。
また、第一の銅層30及び第二の銅層20における銅結晶の平均結晶粒径は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0030】
<ろう材層>
本実施形態に係るろう材層12及びろう材層13は、窒化珪素基板10と第一の銅層30、窒化珪素基板10と第二の銅層20の間にそれぞれ配置され、第一の銅層30、又は、第二の銅層20を窒化珪素基板10に接合させている。ろう材層12及びろう材層13の厚みは、典型的には3μm以上40μm以下の範囲に設定され、さらに好ましくは、4μm以上25μm以下である。
【0031】
なお、本実施形態に係る窒化珪素回路基板は、第一の銅層30及び第二の銅層20の上にメッキ層を有していてもよい。メッキ層は公知の材料で形成することができるが、例えば、Ag、Ni-Pとすることができる。
【0032】
ろう材層12及びろう材層13の組成は、ろう材中にチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、アルミニウム、錫から選択される少なくとも一種の活性金属を含有する銀-銅系ろう材で構成されることとすることができる。Agと、Cu、SnまたはInの配合比は、Ag:85.0質量部以上95.0質量部以下、Cu:5.0質量部以上13.0質量部以下、SnまたはIn:0.4質量部以上3.5質量部以下からなるものが好ましく挙げられる。上記数値範囲内とすることで、ろう材の融解温度が過度に上昇することを防ぎ、適度な温度での接合が可能となり、接合時の熱膨張率差に由来する熱ストレスを低下させることができ、耐熱サイクル性を向上することができる。
チタン等の活性金属の添加量は、例えば、Agと、Cuと、SnまたはInの合計100質量部に対して、1.5質量部以上5.0質量部以下とすることができる。活性金属の添加量を適切に調整することで、セラミックス板に対する濡れ性を一層高めることができ、接合不良の発生を一層抑えることができる。
【0033】
続いて、
図3、及び、
図4を用いて、本実施形態に係る窒化珪素回路基板の実施形態についてさらに説明する。
図3は、本実施形態に係る電子部品モジュールの断面図である。また、
図4は、本実施形態に係る電子部品モジュールの一部の拡大断面図である。
【0034】
上記したように、本実施形態に係る窒化珪素回路基板100は、窒化珪素基板10と、窒化珪素基板10の一方の面に設けられた第一の銅層30と、窒化珪素基板10の他方の面に設けられた第二の銅層20とを備える窒化珪素回路基板であって、
図3に示すように、封止樹脂部50によって封止された形態で用いられる。
【0035】
また、本実施形態において、第二の銅層20の窒化珪素基板10が設けられた面と反対側の面は、封止樹脂部50によって覆われていない未被覆領域を有する。
本実施形態において、窒化珪素回路基板は、第二の銅層20の窒化珪素基板10が設けられた面と反対側の面が、直接または接合材料層を介してヒートシンクと接合された形態とすることができ、
図3に示す本実施形態の一例では、第二の銅層20は、接合材料層21を介しヒートシンク60と接合されている。
すなわち、本実施形態においては、第二の銅層20は、接合材料層21を介しヒートシンク60と接合されており、第二の銅層20のヒートシンク60と対抗する面は、封止樹脂部50によって覆われていない未被覆領域を有する。
本実施形態によれば、窒化珪素回路基板が、さらに、線膨張率の異なる封止樹脂部50に覆われている部分、及び、覆われていない未被覆領域を有する形態で用いられた場合であっても、また、窒化珪素回路基板における第二の銅層20が、さらに、線膨張率の異なるヒートシンク60と接合された形態で用いられた場合であっても、ヒートショックパラメーターHS1、及び、HS2、並びに、窒化珪素基板10の破壊靭性値を調整することによって、接合強度不良または熱抵抗不良を低減することができる。
【0036】
本実施形態において、第一の銅層30は、回路パターンに形成された銅層である。なお、第一の銅層30の上には、電子部品40がはんだ層31を介し、接合されており、第一の銅層30や、電子部品40に、外部接続用のリードフレームやワイヤーボンディング71によって、外部接続端子70と接続されている。本実施形態においては、一例として、ワイヤーボンディング71によって外部接続端子70に接続されている例を示す。また、外部接続端子70は、ワイヤーボンディング71を介さず、直接基板に接続することも可能である。この場合、外部接続端子70は、たとえば、はんだ、又は、超音波接合で接合することができる。
【0037】
なお、電子部品40は半導体素子等の電子部品であり、所望する機能に応じて、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の種々の半導体素子を選択することができる。
また、電子部品40を接合するはんだ層31は、例えばSn‐Sb系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐In系、もしくはSn‐Ag‐Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とすることができる。
また、外部接続端子70は、例えば銅又は銅合金により形成され、ワイヤーボンディング71は例えば銅、銅合金、アルミニウム、金等により形成される。
封止樹脂部50は、封止樹脂部形成用樹脂組成物を硬化させることによって形成することができる。
封止樹脂部形成用樹脂組成物の種類は特に限定されず、トランスファーモールド用樹脂組成物、コンプレッション成形用樹脂組成物、液状封止材等、当該技術分野で通常使用される樹脂組成物を使用することができる。
封止樹脂部形成用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、少なくともエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
封止樹脂部形成用樹脂組成物は、硬化剤、充填材等を更に含んでいてよい。
充填材としては、溶融シリカ(球状シリカ)、結晶シリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア等の粉体又はこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが挙げられる。充填材は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。封止樹脂部形成用樹脂組成物としては、例えばSiO2フィラー入りのエポキシ系樹脂等を用いることができる。
【0038】
また、本実施形態において、第二の銅層20は、ヒートシンク接合用銅層である。
本実施形態において、第二の銅層20は、接合材料層21を介し、ヒートシンク60と接合されている。
なお、ヒートシンク60は、例えば、アルミニウムや銅、これらの合金等の高熱伝導率を有する材料によって形成され、アルミニウム、又は、アルミニウム合金で形成されることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る電子部品モジュールは、上記の窒化珪素回路基板を含む。すなわち、本実施形態に係る電子部品モジュールは、窒化珪素回路基板と、窒化珪素回路基板に搭載された電子部品40と、窒化珪素回路基板100および電子部品40を封止する封止樹脂部50とを備える。
【0040】
また、本実施形態に係る電子部品モジュールは、第二の銅層20の窒化珪素基板10が設けられた面と反対側の面が、封止樹脂部50よりも、窒化珪素基板10と離れる方向に凸である。すなわち、
図4に示されるように、封止樹脂部50の、ヒートシンク60と対向する面を封止樹脂部下面51とし、第二の銅層20のヒートシンク60と対抗する面を第二の銅層下面22としたとき、封止樹脂部下面51と接合材料層21の間には段差があり、第二の銅層下面22は封止樹脂部下面51に対し、凸となるよう設計されている。このように設計することで、窒化珪素回路基板100と、ヒートシンク60とを接合する工程において、すなわち、第二の銅層下面22(封止樹脂部50で覆われていない未被覆領域)と、ヒートシンク60とを接合する工程において、窒化珪素回路基板100と、ヒートシンク60を押し当て接触させた際、ヒートシンク60と最初に接するのは第二の銅層下面22となるため、封止樹脂部50が接合の邪魔をすることなく、スムーズに第二の銅層下面22とヒートシンク60とを接合することができ、かつ、第二の銅層20と、ヒートシンク60との接合の信頼性を向上させることができる。
【0041】
<窒化珪素回路基板の製造方法>
本実施形態に係る窒化珪素回路基板は以下の方法で製造することができる。
まず、所望の物性を有する窒化珪素基板10を準備する。窒化珪素基板10は、以下の製造方法で得ることができる。すなわち、窒化珪素粉末、Y2O3、MgO等の焼結助剤を含む原料粉末と、有機溶剤と、必要に応じて有機バインダー、可塑剤等を、ボールミルで均一に混合して原料スラリーとする。得られた原料スラリーを脱泡・増粘した後、ドクターブレード法でシート成形して成形体を得る。得られたシート成形体を切断後、400~800℃で脱脂し、更に、焼成炉内で1700~1900℃で、1~10時間窒素雰囲気中で焼成することにより窒化珪素基板10を得ることができる。
ここで、窒化珪素基板10の破壊靭性値Kc、ヤング率EB、線膨張率αBは、窒化珪素基板10の製造方法、具体的には原料の配合や、焼成条件等の製造条件を制御することによって調整することができる。原料の配合や、他の製造条件との兼ね合いにもよるが、破壊靭性値Kcは、例えば、焼成条件(昇温速度、保持温度、保持時間、冷却速度等)を調整することで制御することができ、一例として、焼成温度を高くすれば破壊靭性値Kcは高くなり、焼成温度を低くすれば破壊靭性値Kcは低くなる。また、ヤング率EBは、例えば、焼成条件(昇温速度、保持温度、保持時間、冷却速度等)を調整することで制御することができ、一例として、焼成温度を高くすればヤング率EBが低くなり、焼成温度を低くすればヤング率EBが高くなる。また、他の製造条件との兼ね合いにもよるが、線膨張率αBは、例えば、焼結助剤の添加量を多くすれば小さくなり、焼結助剤の添加量を少なくすれば大きくなる。
【0042】
次に窒化珪素基板10の両面に活性金属を含むろう材として、例えば、活性金属であるTiが添加されたAg-Cu系合金ペーストを印刷形成し、窒化珪素基板10とほぼ同じ長方形状の銅板を両面に600℃~900℃の温度で加熱接合する。ここで、銅板としては、無酸素銅板を用いることが好ましく、圧延銅板を用いることがより好ましい。窒化珪素基板10の両面にろう材を介し銅板を接合することによって、窒化珪素-銅複合体を得ることができる。
【0043】
つづいて、第一の銅層30をエッチング処理して回路パターンを形成する。30の上面にフォトレジスト(図示省略)をラミネートする。この場合、液状のフォトレジストを塗布してもよい。
次いで、フォトレジストに回路パターンを形成するため、回路パターンに準じたパターンの露光をする。この場合、回路パターンのネガ画像が形成されているフィルムをフォトレジストに密着させていわゆる一括露光によりフォトレジストを感光させても、いわゆる直描型露光装置を用いて(上記フィルムを用いずに)フォトレジストを感光させてもよい。
次いで、回路パターンに準じて感光したフォトレジストをエッチングする。
次いで、残ったフォトレジストを除去する。
この時、第二の銅層20については、エッチング処理無しとすることもできるし、同様にパターンを形成してもよい。さらに回路パターン形成後の第二の銅層20及び第一の銅層30にメッキを施すこともできる。
以上により、回路パターンが形成された状態の窒化珪素回路基板100が製造される。
【0044】
次に、第一の銅層30上にはんだ層31を介し電子部品40を搭載する。本実施形態では、例えばSn‐Sb系、Sn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材を用いて、第一の銅層30と電子部品40とをはんだ接合する。
【0045】
次に、電子部品モジュールを、封止樹脂によって樹脂封止し、封止樹脂部50を形成する。樹脂封止は、公知の方法を用いることができるが、例えば、トランスファーモールドによって樹脂封止することができる。また、樹脂封止工程においては、例えば、電子部品モジュールの、第二の銅層下面22をあらかじめ可塑性のある材料に押し当てた状態で樹脂封止を行うことによって、第二の銅層20の窒化珪素基板10が設けられた面と反対側の面、すなわち、第二の銅層下面22に、封止樹脂部50によって覆われていない未被覆領域を残すことができ、かつ、第二の銅層下面22を封止樹脂部下面51に対し凸とすることができる。
以上のようにして、電子部品モジュールが作製される。
【0046】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 窒化珪素基板と、
前記窒化珪素基板の一方の面に設けられた第一の銅層と、
前記窒化珪素基板の他方の面に設けられた第二の銅層と
を備える窒化珪素回路基板であって、
前記窒化珪素基板の破壊靭性値Kcが5.0MPa・m
0.5
以上、10.0MPa・m
0.5
以下であり、
前記窒化珪素基板の線膨張率をα
B
(/℃)とし、前記窒化珪素基板のヤング率をE
B
(GPa)とし、前記第一の銅層の線膨張率をα
A
(/℃)、前記第二の銅層の線膨張率をα
C
(/℃)としたとき、
下記式(1)で表されるヒートショックパラメーターHS1、及び、下記式(2)で表されるヒートショックパラメーターHS2が、それぞれ1.30GPa以上、2.30GPa以下である、窒化珪素回路基板。
式(1) HS1=(α
A
-α
B
)×E
B
×(350-(-78))
式(2) HS2=(α
C
-α
B
)×E
B
×(350-(-78))
2. 前記第一の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が50μm以上、500μm以下である、1.に記載の窒化珪素回路基板。
3. 前記第二の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が50μm以上、500μm以下である、1.又は2.に記載の窒化珪素回路基板。
4. 前記窒化珪素基板のヤング率E
B
が、250GPa以上、320GPa以下である、1.乃至3.のいずれか一つに記載の窒化珪素回路基板。
5. 前記窒化珪素基板の線膨張率α
B
が、1.5×10
-6
/℃以上、4.0×10
-6
/℃以下である、1.乃至4.のいずれか一つに記載の窒化珪素回路基板。
6. 封止樹脂部によって封止された形態で用いられる、1.乃至5.のいずれか一つに記載の窒化珪素回路基板。
7. 前記形態は、前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、前記封止樹脂部によって覆われていない未被覆領域を有する形態である、6.に記載の窒化珪素回路基板。
8. 前記形態は、前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、直接または接合材料層を介してヒートシンクと接合された形態である、6.又は7.に記載の窒化珪素回路基板。
9. 前記第一の銅層は、回路パターンに形成された銅層である、1.乃至8.のいずれか一つに記載の窒化珪素回路基板。
10. 前記第二の銅層は、ヒートシンク接合用銅層である、1.乃至9.のいずれか一つに記載の窒化珪素回路基板。
11. 窒化珪素回路基板と、前記窒化珪素回路基板に搭載された電子部品と、前記窒化珪素回路基板および前記電子部品を封止する封止樹脂部とを備える電子部品モジュールであって、
窒化珪素回路基板は、1.乃至10.いずれかに記載の窒化珪素回路基板である、電子部品モジュール。
12. 前記第二の銅層の前記窒化珪素基板が設けられた面と反対側の面が、前記封止樹脂部よりも、前記窒化珪素基板から離れる方向に凸である、11.に記載の電子部品モジュール。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下の方法で、HS1、HS2、及び破壊靭性値KCの異なる複数の窒化珪素回路基板を準備し、後述するヒートサイクル試験を行った。
【0048】
<窒化珪素基板>
原料の配合や、焼成条件を調整することによって、各種の線膨張率αB、ヤング率EB、破壊靭性値KCを有する窒化珪素基板B-1~B-10(148mm×200mm×0.32mm)を準備した。
【0049】
<第一の銅層及び第二の銅層用銅板>
線膨張率が17.3×10-6/℃、厚み0.8mmの圧延銅板を準備した。
【0050】
<窒化珪素回路基板の製造方法>
表1に示す組み合わせの窒化珪素基板と銅板を用いて窒化珪素回路基板1~10を製造した。
まず、ろう材(活性金属を含む)として、Ag粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Ag-HWQ 2.5μm)89.5質量部、Cu粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Cu-HWQ 3μm)9.5質量部、Sn粉末(福田金属箔粉工業株式会社製:Sn-HPN 3μm)1.0質量部の合計100質量部に対して、水素化チタン粉末(トーホーテック株式会社製:TCH-100)を3.5質量部含むろう材を準備した。
上記ろう材と、バインダー樹脂と、溶剤とを混合し、ろう材ペーストを得た。このろう材ペーストを、窒化珪素基板の両面に、各面での乾燥厚みが約10μmとなるように、スクリーン印刷法で塗布した。
その後、窒化珪素基板の両面に銅板を重ね、1.0×10-3Pa以下の真空中にて780℃、30分の条件で加熱し、窒化珪素基板と銅板をろう材で接合した。これにより、窒化珪素基板と銅板とがろう材で接合された窒化珪素-銅複合体を得た。さらに、得られた窒化珪素-銅複合体銅層にエッチングレジストを印刷し、塩化第二鉄溶液でエッチングして回路パターンを形成し、窒化珪素回路基板を得た。
窒化珪素回路基板1について、下記の方法で銅の平均結晶粒径を評価したところ、第一の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が250μm、第二の銅層における銅結晶の平均結晶粒径が255μmであった。
【0051】
<銅板及び窒化珪素基板の評価方法>
(1)銅板及び窒化珪素基板の線膨張率(αB)
JIS R 1618に基づき、熱機械分析装置(TMA:thermomechanical analyzer)で、各銅板、及び、各窒化珪素基板の25℃~400℃における線膨張率(線膨張係数)を測定した。
(2)窒化珪素基板のヤング率(EB)
JIS R1602に基づき、静的撓み法で測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mmとした。
(3)窒化珪素基板の破壊靭性値(KC)
JIS R 1607に基づき、IF法で測定した。すなわち、窒化珪素基板の表面にビッカース圧子を2kgfで押し込み、ビッカース圧痕の対角線の長さ、各端部から伸びるクラックの長さにより窒化珪素基板の破壊靱性値を評価した。
【0052】
<銅の平均結晶粒径の評価方法>
窒化珪素回路基板における第一の銅層及び第二の銅層の銅の平均結晶粒径を以下の方法で求めた。
【0053】
まず、以下手順で、測定用の「断面」を得た。
(1)各実施例および比較例で得られたセラミックス回路基板を、主面に垂直で、かつ、基板の重心を通る断面で切断した。切断にはコンターマシンを用いた。
(2)切断した窒化珪素回路基板を樹脂包埋し、樹脂包埋体を作成した。
(3)作成した樹脂包埋体中の複合体断面を、ダイヤモンド砥粒を用いてバフ研磨した。
【0054】
上記で研磨された窒化珪素回路基板断面について、電子後方散乱回折法による測定を行った。
具体的には、まず、上記で研磨された第一の銅層又は第二の銅層のほぼ中心付近で、加速電圧15kVの条件で、50倍の観察視野において、電子線後方散乱回折(EBSD)法による分析を行い、データを取得した。EBSD法には、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のSU6600形電界放出形走査顕微鏡、および、株式会社TSLソリューションズ製の解析装置を用いた。
【0055】
測定データを、株式会社TSLソリューションズ製のソフトウェア:OIM Data Analysis 7.3.0により可視化して結晶方位マップを作成した。この結晶方位マップを、画像処理ソフトウェアで解析することで、銅層における銅結晶の平均結晶粒径を求めた。
【0056】
上記で、画像処理ソフトウェアとしては、Media Cybernetics社製のImage-Pro Plus Shape Stack バージョン6.3を用いた。なお、平均結晶粒径の算出には、インターセプト法を用い、1つの観察画像上に所定長さの直線を10本以上平行に引き、銅結晶粒子を上記直線が横切った部分の直線の長さの平均値を、銅結晶の平均結晶粒径として得た(これらはソフトウェアが自動的に処理して値を算出した)。
【0057】
<熱サイクル試験、及び、信頼性評価>
まず、常温(一例として20℃)の試験対象の接合基板を150℃の環境内に移動し、150℃の環境内で15分間保持する(第1工程)。
次いで、接合基板を150℃の環境内から-55℃の環境内に移動し、-55℃の環境内で15分間保持する(第2工程)。
そして、第1工程と第2工程とを交互に2000回繰り返す。
次いで、超音波探傷測定により、銅層の剥離の有無を観察する。
評価基準を以下に示す。
○:剥離の発生がなかった。
△:剥離が少し発生した。
具体的には、剥離が発生した窒化珪素回路基板2を基準とし、剥離の発生が見られたが窒化珪素回路基板2と同程度であった、又は、剥離の発生が見られたが窒化珪素回路基板2よりも程度が軽かったものを△とした。
×:剥離が多く発生した。
具体的には、剥離の発生が見られた窒化珪素回路基板2を基準とし、剥離の発生が見られ、窒化珪素回路基板2よりも多くの剥離が発生したものを×とした。
【0058】
評価結果等をまとめて表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示されるように、破壊靭性値、並びに、HS1及びHS2が本発明で規定する範囲内に収まっていた実施例に係る窒化珪素回路基板においては、剥がれの発生が少なく、特にHS1及びHS2が1.80GPa以下である実施例に係る窒化珪素回路基板においては、剥がれの発生がなかった。
【0061】
上記から、信頼性の高い窒化珪素回路基板を安定的に得るためには、銅層を構成する材料、窒化珪素基板の材料の選択が重要であることが理解される。
【0062】
この出願は、2019年3月29日に出願された日本出願特願2019-066151号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0063】
10 窒化珪素基板
12 ろう材層
13 ろう材層
20 第二の銅層
21 接合材料層
22 第二の銅層下面
30 第一の銅層
31 はんだ層
40 電子部品
50 封止樹脂部
51 封止樹脂部下面
60 ヒートシンク
70 外部接続端子
71 ワイヤーボンディング
100 窒化珪素回路基板