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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】光電変換デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
H01L31/04 124
H01L31/04 112Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021541115
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010399
(87)【国際公開番号】W WO2021181542
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-08-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/革新的新構造太陽電池の研究開発/ペロブスカイト系革新的低製造コスト太陽電池の研究開発(超軽量太陽電池モジュール技術の開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】中尾 英之
(72)【発明者】
【氏名】天野 昌朗
(72)【発明者】
【氏名】都鳥 顕司
(72)【発明者】
【氏名】藤永 賢治
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-120715(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057313(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022606(WO,A1)
【文献】特開平09-184912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078,51/42-51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の下部電極と、前記第1の下部電極上に配置され、ペロブスカイト化合物を含む第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層上に配置された第1の上部電極とを備える第1のセル領域と、
前記基板上に前記第1の下部電極と隣接するように設けられた第2の下部電極と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と隣接するように配置され、ペロブスカイト化合物を含む第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層上に前記第1の上部電極と隣接するように配置された第2の上部電極とを備える第2のセル領域と、
前記第1の下部電極と第2の下部電極とを分離するように設けられた第1の溝と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と前記第2の光電変換層とを分離するように設けられた第2の溝と、前記第2の溝内に埋め込まれた導電材料により前記第1の上部電極と前記第2の下部電極とを電気的に接続する導電部と、少なくとも前記第1の上部電極と前記第2の上部電極とを分離するように設けられた第3の溝とを備えるセル間領域と、を具備する光電変換デバイスであって、
前記第1の下部電極及び前記第2の下部電極を含む前記基板は、透光性材料により構成され、
光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が、少なくとも前記第1の溝、前記第2の溝、及び前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁を覆うように、前記基板と前記第1及び第2の下部電極との間に配置されている、光電変換デバイス。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の下部電極と、前記第1の下部電極上に配置され、ペロブスカイト化合物を含む第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層上に配置された第1の上部電極とを備える第1のセル領域と、
前記基板上に前記第1の下部電極と隣接するように設けられた第2の下部電極と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と隣接するように配置され、ペロブスカイト化合物を含む第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層上に前記第1の上部電極と隣接するように配置された第2の上部電極とを備える第2のセル領域と、
前記第1の下部電極と第2の下部電極とを分離するように設けられた第1の溝と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と前記第2の光電変換層とを分離するように設けられた第2の溝と、前記第2の溝内に埋め込まれた導電材料により前記第1の上部電極と前記第2の下部電極とを電気的に接続する導電部と、少なくとも前記第1の上部電極と前記第2の上部電極とを分離するように設けられた第3の溝とを備えるセル間領域と、を具備する光電変換デバイスであって、
前記第1及び第2の上部電極は透光性材料により構成され、かつ前記第1及び第2の上部電極上に透明樹脂層及び透明樹脂基板が設けられており、
光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が、少なくとも前記第1の溝、前記第2の溝、及び前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁を覆うように、前記透明樹脂基板上又は前記透明樹脂層と前記透明樹脂基板との間に配置されている、光電変換デバイス。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の下部電極と、前記第1の下部電極上に配置され、ペロブスカイト化合物を含む第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層上に配置された第1の上部電極とを備える第1のセル領域と、
前記基板上に前記第1の下部電極と隣接するように設けられた第2の下部電極と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と隣接するように配置され、ペロブスカイト化合物を含む第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層上に前記第1の上部電極と隣接するように配置された第2の上部電極とを備える第2のセル領域と、
前記第1の下部電極と第2の下部電極とを分離するように設けられた第1の溝と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と前記第2の光電変換層とを分離するように設けられた第2の溝と、前記第2の溝内に埋め込まれた導電材料により前記第1の上部電極と前記第2の下部電極とを電気的に接続する導電部と、少なくとも前記第1の上部電極と前記第2の上部電極とを分離するように設けられた第3の溝とを備えるセル間領域と、を具備する光電変換デバイスであって、
前記第1の下部電極及び前記第2の下部電極を含む前記基板と、前記第1の上部電極及び前記第2の上部電極の少なくとも一方は、透光性材料により構成され、
光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が、前記第1の溝、前記第2の溝、及び前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁を覆うように、前記透光性材料側に配置されており、
前記部材は、前記部材の前記第1のセル領域側の端部から前記第1の溝の前記第1のセル領域側の側壁までの距離、及び前記部材の前記第2のセル領域側の端部から前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁までの距離が、それぞれ0.1mm以上3mm以下となるように、設けられている、光電変換デバイス。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に設けられた第1の下部電極と、前記第1の下部電極上に配置され、ペロブスカイト化合物を含む第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層上に配置された第1の上部電極とを備える第1のセル領域と、
前記基板上に前記第1の下部電極と隣接するように設けられた第2の下部電極と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と隣接するように配置され、ペロブスカイト化合物を含む第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層上に前記第1の上部電極と隣接するように配置された第2の上部電極とを備える第2のセル領域と、
前記第1の下部電極と第2の下部電極とを分離するように設けられた第1の溝と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と前記第2の光電変換層とを分離するように設けられた第2の溝と、前記第2の溝内に埋め込まれた導電材料により前記第1の上部電極と前記第2の下部電極とを電気的に接続する導電部と、少なくとも前記第1の上部電極と前記第2の上部電極とを分離するように設けられた第3の溝とを備えるセル間領域と、を具備する光電変換デバイスであって、
前記第1の下部電極及び前記第2の下部電極を含む前記基板と、前記第1の上部電極及び前記第2の上部電極の少なくとも一方は、透光性材料により構成され、
光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が、前記第1の溝、前記第2の溝、及び前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁を含む領域のみを覆うように、前記透光性材料側に配置されている、光電変換デバイス。
【請求項5】
前記第1及び第2の下部電極を含む前記基板が透光性材料により構成され、
前記部材は、前記基板の前記第1及び第2の下部電極が設けられた面と反対側の面に配置されている、請求項3又は請求項4に記載の光電変換デバイス。
【請求項6】
前記光反射材料は、金属部材又は金属粉を含む樹脂ペーストの塗布層である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の光電変換デバイス。
【請求項7】
前記光散乱材料は、金属酸化物部材又は金属酸化物粉を含む樹脂ペーストの塗布層である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の光電変換デバイス。
【請求項8】
前記光吸収材料は、着色剤を含む部材又は着色材を含む樹脂ペーストの塗布層である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の光電変換デバイス。
【請求項9】
前記部材は、前記部材の前記第1のセル領域側の端部から前記第1の溝の前記第1のセル領域側の側壁までの距離、及び前記部材の前記第2のセル領域側の端部から前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁までの距離が、それぞれ0.1mm以上3mm以下となるように、設けられている、請求項1又請求項2に記載の光電変換デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光電変換デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、発光素子、光センサ等に用いられる光電変換デバイスにおいて、ペロブスカイト化合物を光電変換材料として用いた光電変換セルが高効率で低コストな次世代の光電変換セルとして期待されている。例えば、太陽電池の効率に関して、ペロブスカイト太陽電池では25.2%が報告されており、単結晶シリコン太陽電池の26.1%に迫っている。ペロブスカイト化合物を用いたセル構成としては、例えば透明基板、透明電極層、第1の中間層、ペロブスカイト化合物を含む活性層、第2の中間層、及び対向電極層の積層体を用いることが一般的である。光電変換セルの単体では、発生することができる起電力が1V程度であるため、大きな起電力(例えば100V)を取り出すために、複数の光電変換セルを直列に接続した光電変換モジュールとして用いられている。
【0003】
光電変換セルの透明電極には、導電性が十分ではない透明導電性酸化物が用いられている。このため、セル面積を大面積化するほど、透明電極層の直列抵抗成分が増加し、入射光により生成した電荷を外部に取り出す効率が低下する。そこで、透明基板上に幅が狭い短冊状の光電変換セルを複数並べて形成し、隣接するセル間を直列に接続することによって、光電変換セルの直列抵抗成分の増加を抑制することができる。このような点からも、複数の短冊状の光電変換セルを直列に接続した光電変換モジュールが期待されている。
【0004】
複数の光電変換セルを直列に接続した光電変換モジュールは、例えば以下に示す方法により作製される。まず、第1の溝(分離溝P1)で分離された複数の透明電極が形成された透明基板の全面に、光電変換層を成膜する。光電変換層に光電変換セルの設置数に応じて第2の溝(分離溝P2)を形成し、透明電極の一部を露出させる。次いで、透明基板の全面に対向電極となる電極膜を成膜する。光電変換層と電極膜との積層膜に光電変換セルの設置数に応じて第3の溝(分離溝P3)を形成し、電極膜を複数に分割して対向電極を形成する。この際、1つのセルの対向電極を隣接するセルの透明電極と電気的に接続することによって、隣接するセル同士が電気的に直列接続される。
【0005】
上記したような構成を有する光電変換モジュールにおいて、ペロブスカイト化合物を光電変換材料として用いた光電変換セルは、耐久性が低いという課題を有している。耐久性の低さは、光電変換セルの商用化に向けた大きな阻害要因となる。耐久性項目は多岐にわたるが、光電変換セルは例えば光照射による動作又は光放出を伴う動作を行うため、特に耐光性が問題となる。ペロブスカイト化合物を含む光電変換セルの耐光性に関しては、ペロブスカイト化合物自体の耐光性が問題となっている。すなわち、光電変換セルにおいては、照射された光がペロブスカイト化合物を含む光電変換層に吸収され、励起された電子-正孔対が分離されて、各電極から外部回路に流れる。ペロブスカイト化合物層は一般に欠陥が多いため、光生成された電荷の一部が欠陥に捕捉され、捕捉された電荷により生じる電場によりペロブスカイト化合物を構成するペロブスカイトイオンが移動してしまう。ペロブスカイトイオンが移動することで、ペロブスカイト組成が分解し、ペロブスカイト層に孔や空隙を発生させたり、また移動したイオンが中間層や電極と反応することによって、ペロブスカイト化合物を含む光電変換セルの特性を低下させることになる。
【0006】
ペロブスカイトイオンの移動を抑制し、光電変換セルの特性低下を防ぐために、例えば歪が小さい立方晶構造をとるペロブスカイト組成を採用したり、ペロブスカイト層においてペロブスカイトイオンが移動しても電極(正極及び負極)への移動を抑制するように、バリア効果を有する中間層を選定すること等が報告されている。しかしながら、そのようなペロブスカイト化合物の光劣化を抑制する対策を施した光電変換セルを適用したとしても、上述したような複数の光電変換セルを直列に接続した光電変換モジュールにおいては、必ずしも十分な光電変換セルの特性低下の抑制効果が得られず、セル特性の経時的な劣化を十分に抑制することができないことがある。そこで、光電変換モジュール全体として、ペロブスカイト化合物の光劣化による特性低下を抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6030176号
【非特許文献】
【0008】
【文献】H.Tsai et al., Science, 360,67(2018)
【文献】T-Y.Yang et al., Adv. Sci. 6, 1900528(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、複数の光電変換セルを直列に接続してモジュールを構成するにあたって、モジュール全体としてペロブスカイト化合物の光劣化による特性低下を抑制することを可能にした光電変換デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の光電変換デバイスは、基板と、前記基板上に設けられた第1の下部電極と、前記第1の下部電極上に配置され、ペロブスカイト化合物を含む第1の光電変換層と、前記第1の光電変換層上に配置された第1の上部電極とを備える第1のセル領域と、前記基板上に前記第1の下部電極と隣接するように設けられた第2の下部電極と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と隣接するように配置され、ペロブスカイト化合物を含む第2の光電変換層と、前記第2の光電変換層上に前記第1の上部電極と隣接するように配置された第2の上部電極とを備える第2のセル領域と、前記第1の下部電極と前記第2の下部電極とを分離するように設けられた第1の溝と、前記第2の下部電極上に前記第1の光電変換層と前記第2の光電変換層とを分離するように設けられた第2の溝と、前記第2の溝内に埋め込まれた導電材料により前記第1の上部電極と前記第2の下部電極とを電気的に接続する導電部と、少なくとも前記第1の上部電極と前記第2の上部電極とを分離するように設けられた第3の溝とを備えるセル間領域と、を具備する光電変換デバイスであって、前記第1の下部電極及び前記第2の下部電極を含む前記基板と、前記第1の上部電極及び前記第2の上部電極の少なくとも一方は、透光性材料により構成され、かつ光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が、少なくとも前記第1の溝、前記第2の溝、及び前記第3の溝の前記第1のセル領域側の側壁を覆うように、前記透光性材料側に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態による光電変換デバイスの概略構成を示す断面図である。
図2図1に示す光電変換デバイスにおける光電変換セルを拡大して示す断面図である。
図3図1に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第1の例を示す断面図である。
図4図1に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第2の例を示す断面図である。
図5図1に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第3の例を示す断面図である。
図6】第2の実施形態による光電変換デバイスの概略構成を示す断面図である。
図7図6に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第1の例を示す断面図である。
図8図6に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第2の例を示す断面図である。
図9図6に示す光電変換デバイスの第1及び第2のセル領域間に存在するセル間領域の第3の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の光電変換デバイスについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、特に明記が無い場合には後述する基板の光電変換セルの形成面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の光電変換デバイス1の概略構成を示している。図1に示される光電変換デバイス1は、基板2と、基板2上に設けられた複数のセル領域3(3A、3B、3C)と、これら隣接するセル領域3間に存在するセル間領域4(4A、4B)とを具備している。光電変換セルを構成するセル領域3は、それぞれ基板2上に順に形成された、下部電極5(5A、5B、5C)、光電変換層6(6A、6B、6C)、及び上部電極7(7A、7B、7C)を備えている。第1の実施形態の光電変換デバイス1においては、基板2に透明基板を適用すると共に、下部電極5に透明電極を適用している。
【0014】
透明基板2を適用すると共に、下部電極5に透明電極を用いることによって、基板2側から光電変換層6に光を入射したり、あるいは光電変換層6から基板2を介して光を出射することができ、太陽電池、発光素子、光センサ等の光電変換デバイス1として機能させることができる。ここでは、基板2に透明基板を使用し、下部電極5に透明電極を使用すると共に、上部電極7を対向電極とする例について説明するが、実施形態の光電変換デバイスはこれに限られるものではない。後述の第2の実施形態に示すように、上部電極7に透明電極を使用し、上部電極7から光電変換層6に光を入射したり、あるいは光電変換層6から上部電極7を介して光を出射する光電変換デバイス1を構成することができる。この場合には基板2は透明基板に限らず、不透明の基板であってもよい。さらに、基板2及び下部電極5と上部電極7のそれぞれを透光性部材で構成してもよい。
【0015】
基板2は、例えば光透過性と絶縁性とを有する材料により構成される。基板2の構成材料には、無アルカリガラス、石英ガラス、サファイア等の無機材料や、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー等の軟質な有機材料が用いられる。基板2は、例えば無機材料や有機材料からなるリジッドな基板であってもよいし、また有機材料や極薄の無機材料からなるフレキシブルな基板であってもよい。
【0016】
透明電極としての下部電極5は、例えば光透過性と導電性とを有する材料により構成される。下部電極5の構成材料には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)等の導電性金属酸化物材料、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)のような導電性高分子材料、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。下部電極5は、インジウム、亜鉛、及び酸化物等からなる導電性ガラスを用いて形成された酸化錫膜等で構成してもよい。下部電極5は光透過性を維持し得る範囲内で、上記した材料からなる層と金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、インジウム、アルミニウム等の金属やそれら金属を含む合金からなる金属層との積層膜であってもよい。下部電極5は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。下部電極5の厚さは、特に制限されないが、10nm以上300nm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以上150nm以下である。
【0017】
光電変換層6は、図2に示すように、活性層61と、下部電極5と活性層61との間に配置された第1の中間層62と、活性層61と上部電極7との間に配置された第2の中間層63とを有している。第1の中間層62及び第2の中間層63は、必要に応じて配置されるものであり、場合によってはそれらの全て又は一部を除いてもよい。光電変換層6を構成する各層61、62、63は、光電変換デバイス1を適用する装置(太陽電池、発光素子、光センサ等)に応じて適宜選択される。以下では光電変換デバイス1を太陽電池として用いる場合について主として述べるが、実施形態の光電変換デバイス1は発光素子や光センサ等に適用することも可能であり、その場合には適用する装置に応じて各層の材料は適宜に選択される。
【0018】
実施形態の光電変換デバイス1における活性層61には、光電変換特性を示すペロブスカイト化合物が用いられる。典型的なペロブスカイト結晶粒子は、下記の式(1)で表される組成を有し、3次元結晶構造を持つものである。
組成式:ABX …(1)
式(1)において、Aは1価の陽イオンであり、Bは2価の陽イオンであり、Xは1価の陰イオンである。これらについては、後に詳述する。
【0019】
ペロブスカイト結晶の構造は、0次元構造から3次元構造までの4種類に分類される。ABXで表される組成を有する2次元構造とABXで表される組成を有する3次元構造を備えるペロブスカイト化合物が、高効率な光電変換材料及びそれを用いた光電変換デバイス1を得る上で有利である。これらのうち、3次元構造のペロブスカイト化合物は励起子の束縛エネルギーが低いことが知られており、高効率な光電変換材料および光電変換デバイス1を得る上でより好ましく用いられる。
【0020】
Aイオンのイオン半径が大きい場合には2次元構造を取り、小さい場合には3次元構造を取ることが知られている。Aイオンがトレランスファクタt=0.75~1.1の間となるイオン半径を持つ場合に、3次元構造のペロブスカイト型結晶となることが経験的に知られている。トレランスファクタtは、下記の式(2)で表される値である。イオン半径にはいくつか種類があるが、Shannonのイオン半径を用いる。
t=(Aイオン半径+Xイオン半径)/
{21/2×(Bイオン半径+Xイオン半径)}…(2)
【0021】
上述したAイオンの条件を満足させるため、Aイオンにはアミン化合物の1価陽イオン、金属の1価陽イオン、及びこれらの混合物が用いられる。Aイオンをアミン化合物で構成する場合、メチルオンアンモニウム(CHNH)やホルムアミジニウム(NHCHNH)等の有機アミン化合物を用いることが好ましい。Aイオンを金属で構成する場合、セシウム(Cs)、ルビジウム(Rb)、カリウム(K)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)等を用いることが好ましい。Bイオンには金属の2価陽イオンが用いられる。Bイオンを構成する金属元素としては、鉛(Pb)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)等を用いることが好ましい。Xイオンにはハロゲン元素の1価陰イオンが用いられる。Xイオンを構成するハロゲン元素としては、ヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)等を用いることが好ましい。A、B、Xの各イオンは、いずれも1つの材料に限定されるものではなく、2種以上の材料の混合物であってもよい。
【0022】
活性層61の形成方法としては、上記したペロブスカイト化合物又はその前駆体(以下、ペロブスカイト材料と記す場合がある。)を真空蒸着する方法、ペロブスカイト材料を溶媒に溶かした溶液、又はペロブスカイト材料を溶媒に分散させた分散液を塗布して加熱・乾燥させる方法、が挙げられる。ペロブスカイト化合物の前駆体としては、例えばハロゲン化メチルアンモニウムとハロゲン化鉛又はハロゲン化錫との混合物が挙げられる。活性層61の厚さは特に限定されないが、10nm以上1000nm以下が好ましい。ペロブスカイト材料の溶液又は分散液に用いられる溶媒としては、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶剤は単独で又は混合して使用することができる。ペロブスカイト材料を均一に溶解又は分散できる溶媒であれば、特に制約されない。溶液又は分散液を塗布して成膜する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、グラビア・オフセット印刷法、ディスペンサ塗布法、ノズルコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法等が挙げられ、これらの塗布法を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0023】
第1の中間層62及び第2の中間層63は、必要に応じて設けられる。活性層61で生じた電子と正孔のうち、電子を下部電極5で捕集する場合、第1の中間層62は正孔をブロックし、電子を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。電子輸送層として機能する第1の中間層62の構成材料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ガリウム等の無機材料、ポリエチレンイミンやその誘導体等の有機材料、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン、フラーレンの炭素原子の少なくとも一部が酸化された酸化フラーレン、C6036やC7036のような水素化フラーレン、フラーレン金属錯体、[6,6]フェニルC61ブチル酸メチルエステル(60PCBM)、[6,6]フェニルC71ブチル酸メチルエステル(70PCBM)、ビスインデンC60(60ICBA)等のフラーレン誘導体等の炭素材料が挙げられ、特に限定されない。
【0024】
正孔を下部電極5で捕集する場合、第1の中間層62は電子をブロックし、正孔を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。正孔輸送層として機能する第1の中間層62の構成材料としては、酸化ニッケル、酸化銅、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化モリブデン等の無機材料、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンポリピロール、ポリアニリン、及びそれらの誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)等の有機材料が挙げられ、特に限定されない。
【0025】
活性層61で生じた電子と正孔のうち、正孔を上部電極7で捕集する場合、第2の中間層63は電子をブロックし、正孔を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。正孔輸送層として機能する第2の中間層63の構成材料は、第1の中間層62の正孔輸送層としての構成材料と同様である。電子を上部電極7で捕集する場合、第2の中間層63は正孔をブロックし、電子を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。電子輸送層として機能する第2の中間層63の構成材料は、電子輸送層としての第1の中間層62の構成材料と同様である。
【0026】
第1の中間層62及び第2の中間層63は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。第1の中間層62及び第2の中間層63の厚さは、それぞれ1nm以上200nm以下が好ましい。第1の中間層62及び第2の中間層63は、それぞれ複数の層を積層した構造を有していてもよいし、目的に応じて別の第3の中間層を適用してもよい。
【0027】
上部電極7は、透明電極としての下部電極5の対向電極として機能するものである。上部電極7は、導電性を有し、場合によっては光透過性を有する材料により構成される。上部電極7の構成材料としては、例えば銀、金、アルミニウム、銅、チタン、白金、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、タングステン、ジルコニウム、スズ、亜鉛、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、サマリウム、テルビウムのような金属、それらを含む合金、ITOやインジウム-亜鉛酸化物(IZO)のような導電性金属酸化物、PEDOT:PSSのような導電性高分子、グラフェン、カーボンナノチューブのような炭素材料等が用いられる。上部電極7は、用いられる材料に応じて適当な方法、例えば真空蒸着法やスパッタ法のような真空成膜法、ゾルゲル法、塗布法等により形成される。上部電極7の厚さは、特に制限されないが、1nm以上1μm以下が好ましい。
【0028】
第1の実施形態の光電変換デバイス1において、隣接する第1のセル領域3Aと第2のセル領域3Bとの間及び第2のセル領域3Bと第3のセル領域3Cとの間にそれぞれ存在するセル間領域4A、4Bは、それぞれ隣接するセル領域3間を分離する分離溝や隣接するセル領域3間を電気的に接続する導電部、さらにセル間領域4A、4Bへの光照射等を防ぐ遮光部を有している。セル間領域4について、図3ないし図5を参照して、第1のセル領域3Aと第2のセル領域3Bとの間にそれぞれ存在するセル間領域4Aを代表例として主として説明する。セル間領域4Aは、図3に示すように、第1の下部電極5Aと第2の下部電極5Bとを分離する第1の溝(分離溝P1)8と、第1の光電変換層6Aと第2の光電変換層6Bとを分離する第2の溝(分離溝P2)9と、第1の上部電極7Aと第2の上部電極7Bとを分離する第3の溝(分離溝P3)10とを有している。
【0029】
第1の溝8は、第1の下部電極5Aと第2の下部電極5Bの隣接する端部間を物理的に分離するように、下部電極5A、5Bの上面から基板2の表面に達するように設けられている。第1の下部電極5Aと第2の下部電極5Bの隣接する端部間において、基板2の表面は第1の溝8内に露出している。第1の溝8内には第1の光電変換層6Aの構成材料が充填される。下部電極5A、5Bをパターニングして形成する場合、パターニングされた下部電極5A、5B間の隙間が第1の溝8となる。下部電極5A、5Bのパターニング法としては、マスクを用いてスパッタリング法や真空蒸着法等により成膜する方法が挙げられる。下部電極5A、5Bは、電極膜を基板2上にベタ膜として形成した後、第1の溝8を形成することによりパターニングしてもよい。第1の溝8は、メカニカルスクライブやレーザスクライブ等により形成される。スクライブに代えて、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法等により成膜した後に、フォトリソグラフィ法等によりパターニングする方法を適用してもよい。他の層のパターニングも同様である。
【0030】
第2の溝9は、第1の光電変換層6Aと第2の光電変換層6Bの隣接する端部間を物理的に分離するように、光電変換層6A、6Bの上面から第2の下部電極5Bの表面に達するように設けられている。第2の溝9は、第1の溝8の形成位置と重複しないように、第1の溝8から第2のセル領域3B側にずらした位置に設けられている。第1の光電変換層6Aと第2の光電変換層6Bの隣接する端部間において、第2の下部電極5Bは第2の溝9内に露出している。第2の溝9内には、第1の上部電極7Aの構成材料の一部が充填されて導電部11を形成しており、導電部11により第1の上部電極7Aと第2の下部電極5Bとが電気的に直列に接続されている。すなわち、隣接する第1のセル領域3Aと第2のセル領域3Bとは、導電部11により電気的に直列に接続されている。光電変換層6A、6Bは、光電変換膜を下部電極5A、5Bを含む基板2上にベタ膜として形成した後、第2の溝8を形成することによりパターニングされている。第2の溝9は、例えばメカニカルスクライブやレーザスクライブ等により形成される。
【0031】
第3の溝10は、図3に示すように、第1の上部電極7Aと第2の上部電極7Bの隣接する端部間を物理的に分離するように、上部電極7A、7Bの上面から第2の下部電極5Bの表面に達するように設けられている。第3の溝10は、図4に示すように、上部電極7A、7Bの上面から第2の光電変換層6Bに達するように設けてもよい。第1の上部電極7Aと第2の上部電極7Bの隣接する端部間において、第2の下部電極5B又は第2の光電変換層6Bの表面は第3の溝10内に露出している。第3の溝10内には絶縁樹脂等からなる封止材料を充填してもよい。上部電極7A、7Bをパターニングして形成する場合、パターニングされた上部電極7A、7B間の隙間が第3の溝10となる。この場合、第3の溝10の形状は図4に示すような形状となる。上部電極7A、7Bは、電極膜を光電変換層6A、6B上にベタ膜として形成した後、第3の溝10を形成することによりパターニングしてもよい。第3の溝10は、例えばメカニカルスクライブやレーザスクライブ等により形成される。この場合、第3の溝10の深さに基づいて、第3の溝10は図3に示すような形状、又は図4に示すような形状を有するようになる。
【0032】
第1のセル領域3Aと第2のセル領域3Bとの間に存在するセル間領域4Aには、第1の溝8、第2の溝9、及び第3の溝10の第1のセル領域3A側の側壁を覆うように、遮光部(遮光部材)12が設けられている。遮光部12は、セル間領域4A内に存在する光電変換層6A、6Bに含まれるペロブスカイト化合物の光劣化を抑制するものである。図3では基板2の下部電極5の形成面とは反対側の面(外表面)に遮光部12が設けられている。第1の溝8内に存在する第1の光電変換層6A、第2の溝9の両側に存在する第1及び第2の光電変換層6A、6B、及び第3の溝10の片側(第1のセル領域3A側)に存在する第2の光電変換層6Bに含まれるペロブスカイト化合物への光照射を、遮光部12により妨げている。これによって、これら光電変換層6A、6Bに含まれるペロブスカイト化合物の光劣化を抑制することができる。
【0033】
ここで、従来の光電変換セルにおいては、光電変換反応を主として担う部分(例えば、セル領域3)に存在するペロブスカイト化合物の光劣化を抑制する対策が採られてきた。この部分への光照射を妨げることはできないため、従来はペロブスカイト化合物を含む層自体やそれに接する層に対して対策を施してきた。これらの対策は一定の効果を示すが、本発明者等はさらなる光劣化抑制を目指し、鋭意研究及び調査したところ、従来の重視されてこなかったセル間領域4においても光劣化が生じていることを新たに見出した。セル間領域4は、光電変換デバイス1に占める面積比率が小さく、発電等への寄与が極めて小さいため、注目されにくい部分である。本発明者等の研究及び調査によりペロブスカイト化合物の光劣化に対する寄与が無視できないことが分かった。例えば、ペロブスカイト化合物を含む太陽電池以外の太陽電池、例えばシリコン型太陽電池では、光電変換層であるシリコン自体が光に対して安定であるため、このような事象は発生しない。これに対し、ペロブスカイト化合物は前述したように光に対して不安定であるため、セル部(発電部)のみならず、セル間領域においても光劣化を抑制することが重要となる。
【0034】
第1の実施形態による光電変換デバイス1においては、透光性材料で構成された基板2及び下部電極5側に、第1の溝8、第2の溝9、及び第3の溝10の第1のセル領域3A側の側壁を覆うように遮光部12を設けている。これによって、セル間領域4に存在するペロブスカイト化合物の光劣化を抑制することができる。第1の実施形態では基板2及び下部電極5に透光性材料を適用しているため、遮光部12は基板2側に設けられている。図3では基板2の外表面に遮光部12を設けた状態を示している。遮光部12は図5に示すように、基板2と第1及び第2の下部電極5A、5Bとの間に配置してもよい。この場合、遮光部12は絶縁材料により構成される。基板2の外表面に遮光部12を設ける場合、遮光部12は導電材料及び絶縁材料のいずれで構成してもよいが、遮光部12の形成位置に応じて適宜選択される。
【0035】
遮光部12の形成範囲は、セル領域3への光照射を妨げないようにしつつ、セル間領域4に存在するペロブスカイト化合物に対する光照射を防ぐように設定することが好ましい。具体的には、遮光部12の第1のセル領域3A側の端部から第1の溝8の第1のセル領域3A側の側壁までの距離(第1の距離d1)が0.1mm以上3mm以下となるように、遮光部12の形成範囲を設定することが好ましい。また、遮光部12の第2のセル領域3B側の端部から第3の溝10の第1のセル領域3A側の側壁までの距離(第2の距離d2)が0.1mm以上3mm以下となるように、遮光部12の形成範囲を設定することが好ましい。第1及び第2の距離d1、d2は0.5mm以下がより好ましい。
【0036】
遮光部12には、光反射材料、光散乱材料、及び光吸収材料からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む部材が適用される。光反射材料としては、例えば金属材料が挙げられる。そのような金属材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、金、銀、銅、ステンレス鋼、クロム、ニッケル、亜鉛、チタン、タンタル、モリブデン、クロム-モリブデン合金、ニッケル-モリブデン合金等が用いられる。遮光部12は板状の部材に限らず、金属材料の粉末を含む樹脂ペースト等の塗布層等であってもよい。遮光部12の形態は、光を反射することが可能であれば特に限定されるものではない。
【0037】
光散乱材料としては、例えば金属酸化物材料が挙げられる。そのような金属酸化物材料としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ステアリン酸バリウム等が挙げられる。ただし、光の散乱効果が得られれば、金属酸化物材料以外の材料を適用してもよい。遮光部12は板状の部材に限らず、金属酸化物材料の粉末を含む樹脂ペースト等の塗布層等であってもよい。遮光部12の形態は、光を散乱することが可能であれば特に限定されるものではない。
【0038】
光吸収材料としては、例えば着色剤が挙げられる。着色剤としては、黒色着色剤や、赤、緑、青、白等の有彩色着色剤が挙げられる。黒色着色剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄等の黒色系金属酸化物、硫化ビスマス等の金属硫化物等の無機顔料や、フタロシアニンブラック、ニグロシン、アニリンブラック、ペリレンブラック等の有機顔料が挙げられる。有彩色着色剤としては、有彩色無機顔料や有彩色有機顔料が挙げられる。これらの着色剤を含む遮光部12は、着色剤を含む樹脂ペーストの塗布層、着色剤を含む樹脂体(例えば板材)等として用いられる。
【0039】
遮光部12の厚みとしては、光を完全に遮る厚みが好ましいが、一部の光を遮るものであってもよい。遮光部12の厚みは特に限定されるものではなく、遮光部12の形成材料等に応じて適宜選択される。なお、基板2上に遮光部12を形成する場合、遮光部12の厚みは、下部電極5の厚みと同程度、あるいは下部電極5の厚みより薄いことが好ましい。これによって、遮光部12及び下部電極5上にペロブスカイト化合物を含む光電変換層6を均一な連続膜として形成することができる。
【0040】
遮光部12の形成方法は、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層6への光照射の少なくとも一部を遮ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、遮光部12の形成材料に応じて適宜選択される。遮光部12は、マスクを用いたスパッタリング法や真空蒸着法等により成膜する方法、スパッタリング法や真空蒸着法等により成膜した後にフォトリソグラフィ法等によりパターニングする方法、印刷法、インクジェット法、転写法、電界めっき法、無電界めっき法等の膜形成法により形成してもよいし、遮光部12の形成材料の板材やフィルム等を貼り付けて形成してもよい。
【0041】
セル間領域4に遮光部12を設けることによって、以下に示すような効果が期待できる。第1の溝8、第2の溝9、及び第3の溝10の第1のセル領域3A側の側壁を覆うように、遮光部12を設けることによって、セル間領域4に存在するペロブスカイト化合物の耐光性が改善される。遮光部12を設けずに、ペロブスカイト化合物を含む光電変換1に対して光照射を行ったときのセル間領域4における光劣化は、以下の通りになる。
【0042】
まず、第1の溝(分離溝P1)8における光劣化は以下のようになる。入射光がペロブスカイト化合物を含む層で吸収され、励起された電子-正孔対の分離が起こる。片方の電荷は上部電極(対向電極)7を流れるが、もう一方の電荷は第1の溝8により下部電極(透明電極)5が存在しないため、第1の溝8の基板2との界面(ペロブスカイト化合物を含む層側)付近に溜まり、この溜まった電荷による電荷強度が大きくなる。これによって、ペロブスカイト化合物を含む層を構成するペロブスカイトイオンが移動してしまい、ペロブスカイト化合物を含む層に孔や空隙が発生する。このため、ハロゲン(例えばヨウ素)が上部電極7と反応し、上部電極7が劣化してしまう。
【0043】
第2の溝(分離溝P2)9においては、ペロブスカイト化合物を含む層中のハロゲンが光電変換層6(例えば第2の中間層63)で被覆されていない第2の溝9における上部電極7の構成材料と反応し、上部電極7が劣化してしまう。さらに、光照射によりイオン移動が促進されることによって、この反応が加速される。第3の溝(分離溝P2)10においては、不安定なペロブスカイト化合物を含む層がむき出しになるため、光劣化が起きやすい。さらに、光照射によりイオン移動が促進されることによって、この反応が加速される。これらセル間領域4に存在するペロブスカイト化合物の光劣化を遮光部12により抑制することによって、ペロブスカイト化合物を含む光電変換デバイス1の特性劣化、すなわち電気的に直列に接続された複数のセル領域(光電変換セル)3を有する光電変換デバイス1の特性劣化を抑制することができる。従って、経時的に特性を維持することを可能にした光電変換デバイス1を提供することが可能になる。
【0044】
(第2の実施形態)
図6は第2の実施形態の光電変換デバイス21の概略構成を示している。図6に示される光電変換デバイス1は、基板2と、基板2上に設けられた絶縁層22と、絶縁層22上に設けられた複数のセル領域3(3A、3B、3C)と、これら隣接するセル領域3間に存在するセル間領域4(4A、4B)とを具備している。光電変換セルを構成するセル領域3は、それぞれ絶縁層22を有する基板2上に順に形成された、下部電極5(5A、5B、5C)、光電変換層6(6A、6B、6C)、及び上部電極7(7A、7B、7C)を備えている。セル領域3及びセル間領域4の上部電極7上には、封止層23及び封止基板24が配置されている。第2の実施形態の光電変換デバイス21においては、上部電極7に透光性材料、すなわち透明電極を適用している。このため、封止層23及び封止基板24にも透光性材料が適用されている。
【0045】
上部電極7に透明電極を用いると共に、封止層23や封止基板24にも透光性材料を適用することによって、上部電極7側から光電変換層6に光を入射したり、あるいは光電変換層6から上部電極7、封止層23、及び封止基板24を介して光を出射することができ、太陽電池、発光素子、光センサ等の光電変換デバイス21として機能させることができる。上部電極7に透明電極を適用するにあたって、その構成材料には第1の実施形態の光電変換デバイス1における下部電極5と同様な構成材料が適用される。光電変換層6の構成材料や構成層等は、第1の実施形態の光電変換デバイス1と同様である。
【0046】
基板2は、例えば非光透過性材料で構成してもよいし、光透過性材料で構成してもよい。光透過性材料の具体例は、第1の実施形態で説明した通りである。非光透過性材料としては、例えばアルミニウムシートのような金属シート、一般的な基板に用いられる樹脂シート等が挙げられる。樹脂シートの構成例は、第1の実施形態と同様である。基板2を非光透過性材料で構成する場合、図6に示すように、基板2上に非導電性樹脂層等の絶縁層22が配置される。下部電極5を対向電極とするにあたって、その構成材料には第1の実施形態の光電変換デバイス1における上部電極7と同様な構成材料が適用される。
【0047】
封止層23は、上部電極7に透明電極を用いるにあたって、上部電極7や光電変換層6等を保護するものである。封止層23には、一般的な電子デバイスと同様に、透明樹脂材料が用いられ、その材料は特に限定されるものでない。封止基板24も同様であり、上部電極7や光電変換層6等を保護材として機能するものである。封止基板24には、透明基板が適用され、例えばPETフィルムのような透明樹脂フィルムが用いられる。封止基板24の構成材料は、第1の実施形態における基板(透明基板)2と同様な材料及び形態を適用することができる。
【0048】
第2の実施形態の光電変換デバイス21において、隣接する第1のセル領域3Aと第2のセル領域3Bとの間及び第2のセル領域3Bと第3のセル領域3Cとの間にそれぞれ存在するセル間領域4A、4Bは、第1の実施形態と同様に、それぞれ隣接するセル領域3間を分離する分離溝8、9、10、隣接するセル領域3間を電気的に接続する導電部11、さらにセル間領域4A、4Bへの光照射等を防ぐ遮光部12を有している。セル間領域4における第1の溝8、第2の溝9、第3の溝10、及び導電部11の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0049】
セル間領域4に設けられる遮光部12は、上部電極7、封止層23、及び封止基板24を介して照射される光がセル間領域4に存在するペロブスカイト化合物に到達しないように、上部電極7側に設けられている。図7は封止基板24上に遮光部12を配置した状態を示している。図8は封止層23と封止基板24との間に遮光部12を配置した状態を示している。これらの場合の遮光部12は、導電材料及び絶縁材料のいずれで構成してもよい。図9は遮光部12を上部電極7上から第3の溝10のセル領域3A側の側壁を覆うように設けた状態を示している。この場合の遮光部12は、絶縁材料で構成される。遮光部12の形成材料、形成範囲、厚み、形成方法等の構成は、第1の実施形態と同様であることが好ましい。
【0050】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、セル間領域4に存在するペロブスカイト化合物の光劣化を遮光部12により抑制することによって、ペロブスカイト化合物を含む光電変換デバイス1の特性劣化、すなわち電気的に直列に接続された複数のセル領域(光電変換セル)3を有する光電変換デバイス1の特性劣化を抑制することができる。従って、複数のセル領域(光電変換セル)3を直列に接続することにより大きな起電力を取り出すことを可能にすると共に、生成電荷の外部への取り出し効率を高めた上で、経時的な特性維持を可能した光電変換デバイス21を提供することが可能になる。
【実施例
【0051】
次に、実施例及びその評価結果について述べる。
【0052】
(実施例1)
厚さが0.7mmのガラス基板上に、透明電極として厚さが150nmのITO膜を複数形成してITO基板を作製した。ITO膜は、光電変換セルの設置数に対応させて8個形成した。すなわち、8直列のモジュールに対応するように形成した。ITO基板の表面に紫外線オゾン(UV-O3)を照射し、ITO基板の表面の有機物汚染を除去した。次いで、正孔輸送層(第1の中間層)用の形成溶液を、PEDOT:PSS1mLに純水1mLを加えて調製した。この正孔輸送層溶液をITO基板上に塗布した後、大気中140℃で10分加熱して、過剰な溶媒を除去し、正孔輸送層を形成した。正孔輸送層の膜厚は約50nmである。PEDOT:PSSは、ヘレウス株式会社製AI4083(商品名)を用いた。
【0053】
次に、ペロブスカイト材料溶液を以下のようにして調製した。第1のペロブスカイト材料溶液として、ヨウ化鉛(PbI)461mgにジメチルホルムアミド(DMF)0.91mLとジメチルスルホキシド(DMSO)0.09mLを加えて調製した。第2ペロブスカイト材料溶液として、ヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI(MAI))900mgにイソプロピルアルコール12.33mLを加えて調製した。第1ペロブスカイト材料溶液を塗布し、PbI膜を成膜した。このPbI膜を窒素雰囲気下で自然乾燥後、PbI膜上に第2ペロブスカイト材料溶液を塗布した後、窒素雰囲気下120℃で10分加熱して、過剰な溶媒を除去すると共に、PbIとMAIの反応を促進させ、MAPbI膜を得た。MAPbI層の膜厚は約350nmである。
【0054】
第1の電子輸送層(第2の中間層)の溶液を、60PCBM20mgにモノクロロベンゼン1mLを加えて調製した。この溶液をペロブスカイト層上に塗布し、窒素雰囲気下100℃で10分加熱して、過剰な溶媒を除去し、60PCBM層を成膜した。60PCBM層の膜厚は約100nmである。次に、メカニカルスクライブでP2スクライブを行った。スクライブツールとして、先端が矩形で幅が80μmの刃物を用いた。スクライブツールをバネを用いたサスペンション機構で押し当て、ITO膜の長手方向と平行に走査することによってP2メカニカルスクライブを行い、60PCBM層、ペロブスカイト層、正孔輸送層層の3層を削り取り、ITO膜を露出させた。
【0055】
次に、第2の電子輸送層(第3の中間層)としてBCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)を真空蒸着して成膜した。BCP層の膜厚は約20nmである。続けて、対向電極としてAgを真空蒸着して成膜した。Ag層の膜厚は約150nmである。BCP層とAg層は両層とも共通の蒸着マスクを用いて、光電変換セルの設置数に対応させて8個形成した。これによって、8直列のモジュール構造を形成した。1つの光電変換セルの面積は約2.8cmである。
【0056】
このようにして作製したペロブスカイト太陽電池モジュールに対して、遮光部を設けた。以下にその手順を示す。セル間領域(スクライブ部)に相当する位置を覆うように、厚さ0.3mmの黒色ステンレス鋼板をガラス基板の外側に取り付けた。ステンレス鋼板の遮光範囲は、分離溝P1の左端から0.5mm外側の位置を起点とし、分離溝P3の右端から0.5mm外側までとした。遮光部であるステンレス鋼板の黒色処理方法には、黒色無電解ニッケルめっき法を使用した。黒色皮膜の膜厚は約10μmである。
【0057】
次に、光照射試験を行った。ペロブスカイト太陽電池モジュールに対して、100mW/cmの放射強度に設定したメタルハライドランプ光を500h照射し、光照射試験前後の効率変化を調べた。光照射試験後のペロブスカイト太陽電池モジュールの効率維持率は58%だった。
【0058】
(実施例2)
遮光部の設置箇所をガラス基板の外側からガラス基板上に変更した以外は、実施例1と同様なペロブスカイト太陽電池モジュールを作製した。遮光部の形成手順は以下の通りである。セル間領域(スクライブ部)に相当する位置に、スクリーン印刷法により厚さ100nmのカーボンブラックペーストを塗布した。遮光部であるカーボンブラックペーストの遮光範囲は、分離溝P1の左端から0.5mm外側の位置を起点とし、分離溝P3の右端から0.5mm外側までとした。
【0059】
次に、光照射試験を行った。ペロブスカイト太陽電池モジュールに対して、100mW/cmの放射強度に設定したメタルハライドランプ光を500h照射し、光照射試験前後の効率変化を調べた。光照射試験後のペロブスカイト太陽電池モジュールの効率維持率は50%だった。
【0060】
(比較例1)
遮光部を設けなかった以外は、実施例1と同様なペロブスカイト太陽電池モジュールを作製した。次に、光照射試験を行った。ペロブスカイト太陽電池モジュールに対して、100mW/cmの放射強度に設定したメタルハライドランプ光を500h照射し、光照射試験前後の効率変化を調べた。光照射試験後のペロブスカイト太陽電池モジュールの効率維持率は27%だった。
【0061】
実施例1、2及び比較例1に示したように、遮光部を設けることで耐光性が改善されたモジュールが得られることが分かる。また、遮光部を設けなかったモジュールでは、分離溝P1から分離溝P3までの範囲が変色していたが、遮光部を設けたモジュールは、分離溝P1から分離溝P3までの範囲に変色は認められなかった。このように、遮光部を設けることで耐光性が改善された光電変換モジュールを得ることができる。
【0062】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1,21…光電変換デバイス、2…基板、3,3A,3B,3C…セル領域、4,4A,4B…セル間領域、5,5A,5B,5C…下部電極、6,6A,6B,6C…光電変換層、61…活性層、7,7A,7B,7C…上部電極、8…第1の溝、9…第2の溝、10…第3の溝、11…接続部、12…遮光部、22…絶縁層、23…封止層、24…封止基板。
図1
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