(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品、および、その応用
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20221212BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221212BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221212BHJP
C08L 63/04 20060101ALI20221212BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20221212BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221212BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/22
C08K3/013
C08L63/04
C08L69/00
C08K7/14
B29C65/16
(21)【出願番号】P 2022541868
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014323
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021053962
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆行
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-254252(JP,A)
【文献】特開2016-190451(JP,A)
【文献】特表2016-501921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂100質量部と、ビスマス化合物0.002~1.000質量部と、2種以上の非黒色有機顔料を合計で0.1~5.0質量部を含む、レーザーマーキング用かつレーザー溶着用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリブチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂を含む、請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、レーザー透過樹脂部材用である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記2種以上の非黒色有機顔料の含有量と前記ビスマス化合物の含有量の質量比が、1:0.05~10である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記2種以上の非黒色有機顔料の混合物の波長1064nmにおける吸光度が、1.0以下であり、波長500nmにおける吸光度が1.0以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、熱可塑性樹脂100質量部に対し、ベンゼン環および/またはベンゾ縮合環を分子量比率として、15~75質量%の割合で含む芳香環含有化合物を0.1~18質量部含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香環含有化合物がエポキシ基を含む化合物である、請求項
7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記芳香環含有化合物がノボラック型エポキシ化合物である、請求項
7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
さらにガラス繊維を含み、前記ガラス繊維の断面が円形である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材。
【請求項13】
レーザーマーキングが可能である、請求項
11に記載の成形品。
【請求項14】
レーザーマーキングが可能である、請求項
12に記載のレーザー透過樹脂部材。
【請求項15】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、
熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを
有するキット。
【請求項16】
請求項
12または
14に記載のレーザー透過樹脂部材と、
熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とのレーザー溶着品。
【請求項17】
請求項
12または
14に記載のレーザー透過樹脂部材に、レーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、
前記レーザー透過樹脂部材と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とを、レーザー溶着することを含む、レーザー溶着品の製造方法。
【請求項18】
前記レーザー溶着をガルバノスキャニング式レーザー溶着によって行う、請求項
17に記載のレーザー溶着品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着に用いることができ、かつ、レーザーマーキング可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品、キット、レーザー溶着品、レーザー透過樹脂部材、レーザー溶着品の製造方法に関する。また、レーザー溶着用樹脂組成物用のレーザーマーキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を始めとする熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的強度、耐薬品性および電気絶縁性等に優れており、また、優れた耐熱性、成形性、リサイクル性を有していることから、各種の機器部品に広く用いられている。
【0003】
最近では、生産性効率化のため溶着加工を行う例が増加してきており、なかでも電子部品への影響が少ないレーザー溶着が多用されてきている(例えば、特許文献1)。
レーザー溶着は、レーザー透過性の材料からなるレーザー透過樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光吸収性の材料からなるレーザー吸収樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」ということがある)を重ねて、透過樹脂部材側からレーザー光を照射し、吸収樹脂部材との界面を発熱させて溶着する技術である。そして、そのような用途の成形品に適用される樹脂組成物としては、レーザー光の照射によって溶着することが可能な性能(レーザー溶着性)を有することが要求される。
【0004】
一方、成形品において、完成時の意匠性、情報の表示や組立時の部品識別性等の点で、成形品表面に製品情報等の印字、描画を施す場合も多い。そして、それらが長期間にわたって視認性を維持することが求められる場合は、信頼性の観点からレーザーマーキングが用いられることがある。
さらに、近年、レーザー溶着時においてレーザー透過樹脂部材として用いることができる樹脂組成物であって、レーザーマーキング可能な樹脂組成物も検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6183822号公報
【文献】特開2020-050822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、レーザー溶着において、透過樹脂部材はできるだけレーザー光の透過率を高くすることが好ましく、逆に吸収樹脂部材はレーザー光の吸収率を高くするため顔料等で着色することが望ましい。
一方、レーザー溶着されたレーザー溶着品の意匠性の観点から、透過樹脂部材も吸収樹脂部材と同系色に着色されていることが好ましく、例えば、吸収樹脂部材および透過樹脂部材を黒色に着色することがある。
しかしながら、透過樹脂部材について、吸収樹脂部材と同様に、レーザー光の吸収率の高い顔料で着色してしまうと、レーザー光が透過しなくなってしまいレーザー溶着が不可能となってしまうことから、透過樹脂部材は、レーザー光の透過をできるだけ阻害しないような色素が用いられていた。
一方で、透過樹脂部材にレーザーマーキングを施す場合、レーザー光が透過してしまうとマーキングできない。そこで、レーザー光をある程度透過させつつ、レーザーマーキングも可能な樹脂組成物が求められる。また、レーザーマーキングおよびレーザー溶着が可能であっても、レーザー印字性が劣っていたり、透過率にムラがあると、適切なレーザーマーキングおよびレーザー溶着ができない。
かかる状況のもと、本発明は、レーザー透過性およびレーザー印字性に優れ、かつ、透過率のムラが抑制された樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法を提供することを目的とする。また、レーザー溶着用樹脂組成物用のレーザーマーキング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、熱可塑性樹脂にビスマス化合物を用い、かつ、2種以上の非黒色有機顔料を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂100質量部と、ビスマス化合物0.002~10.000質量部と、2種以上の非黒色有機顔料を合計で0.1~5.0質量部を含む、レーザーマーキング用かつレーザー溶着用樹脂組成物。
<2>前記ビスマス化合物の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002~1.000質量部である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記熱可塑性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記ポリブチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含み、かつ、ポリブチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下である、<4>に記載の樹脂組成物。
<6>前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物は、レーザー透過樹脂部材用である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記2種以上の非黒色有機顔料の含有量と前記ビスマス化合物の含有量の質量比が、1:0.05~10である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記2種以上の非黒色有機顔料の混合物の波長1064nmにおける吸光度が、1.0以下であり、波長500nmにおける吸光度が1.0以上である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>さらに、熱可塑性樹脂100質量部に対し、ベンゼン環および/またはベンゾ縮合環を有する芳香環含有化合物を0.1~18質量部含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11>前記芳香環含有化合物がエポキシ基を含む化合物である、<10>に記載の樹脂組成物。
<12>前記芳香環含有化合物がノボラック型エポキシ化合物である、<10>に記載の樹脂組成物。
<13>さらにガラス繊維を含み、前記ガラス繊維の断面が円形である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<14><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<15><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材。
<16>レーザーマーキングが可能である、<14>に記載の成形品。
<17>レーザーマーキングが可能である、<15>に記載のレーザー透過樹脂部材。
<18><1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、
熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを
有するキット。
<19><15>または<17>に記載のレーザー透過樹脂部材と、
熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とのレーザー溶着品。
<20><15>または<17>に記載のレーザー透過樹脂部材に、レーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、
前記レーザー透過樹脂部材と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とを、レーザー溶着することを含む、レーザー溶着品の製造方法。
<21>前記レーザー溶着をガルバノスキャニング式レーザー溶着によって行う、<20>に記載のレーザー溶着品の製造方法。
<22>熱可塑性樹脂と2種以上の非黒色有機顔料を含むレーザー溶着用樹脂組成物用のレーザーマーキング剤であって、
ビスマス化合物を含む、レーザーマーキング剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、レーザー透過性およびレーザー印字性に優れ、かつ、透過率のムラが抑制された樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品、レーザー透過樹脂部材、キット、レーザー溶着品、および、レーザー溶着品の製造方法を提供可能になった。また、レーザー溶着用樹脂組成物用のレーザーマーキング剤を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(透過樹脂部材I)を示す概略図である。
【
図2】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(吸収樹脂部材II)を示す概略図である。
【
図3】実施例のレーザー溶着強度を測定するための試験片(透過樹脂部材Iと吸収樹脂部材IIの組み合わせ)を示す概略図である。
【
図4】実施例のレーザー溶着強度の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点おける規格に基づくものとする。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部と、ビスマス化合物0.002~10.000質量部と、2種以上の非黒色有機顔料を合計で0.1~5.0質量部を含む、レーザーマーキング用かつレーザー溶着用樹脂組成物であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、レーザー透過性およびレーザー印字性に優れ、かつ、透過率のムラが抑制された樹脂組成物が得られる。
本実施形態では、ビスマス化合物を用いることにより、レーザーマーキングが可能であり、レーザー溶着が可能な樹脂組成物が得られる。すなわち、ビスマス化合物は、レーザーマーキング剤として機能する一方、樹脂組成物の透過率をあまり下げない。そのため、熱可塑性樹脂とビスマス化合物を含む樹脂組成物に、2種以上の非黒色有機顔料を配合しても、レーザー透過性の低下を効果的に抑制できる。そのため、本実施形態の樹脂組成物に色味を持たせることができる。すなわち、レーザー溶着における、透過樹脂部材と吸収樹脂部材の色味を一致させ、意匠外観を向上させることができる。
また、一般的に、樹脂組成物の成形品は反ゲート側の透過率が高くなる傾向にある。これは、ゲート側は熱履歴が高くなり、例えば、結晶化が進み透過率が低くなるためであると推測された。反ゲート側とゲート側の透過率の差が大きいと、成形品の透過率のムラが大きくなってしまう。そして、成形品の透過率のムラが大きいと、レーザー溶着ムラが生じてしまう。本実施形態においては、ビスマス化合物と2種以上の非黒色有機顔料とを配合することにより、ムラを抑制している。これは、有機顔料およびビスマス化合物が核剤として働き、結晶化を促進し、ゲート側と反ゲート側の熱履歴の差を小さくできたと推測された。
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、色素として、染料ではなく、顔料を用いているため、染料を使用しない、あるいは、染料の含有量を減らすことができるため、染料に由来する耐汚染性を効果的に抑制ないし低減できる。この結果、レーザーマーキングした文字が薄れる等の問題も回避できる。また、本実施形態の樹脂組成物はビスマス化合物を用いることにより黒色、白色でもマーキング可能であるため、黒色あるいは白色の透過樹脂部材側のレーザー溶着用樹脂組成物であって、レーザーマーキング用である樹脂組成物に好ましく用いることができる。
さらに、ビスマス化合物として酸化ビスマスを用いた場合には、熱可塑性樹脂と酸化ビスマスの溶融混練物は白色であるため、黒色に着色する場合の他、白色の成形品や有彩色色素を配合した有彩色成形品としても用いることができる。
なお、通常染料は水および/または有機溶剤に溶解するが、顔料は水および有機溶剤に溶解しない。
【0012】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂であっても、非晶性熱可塑性樹脂であってもよい。本実施形態においては、少なくとも結晶性熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂の30質量%以上が結晶性熱可塑性樹脂であることが好ましい。このような構成とすることにより、ビスマス化合物を添加する際の核剤としての効果がより効果的に発揮される。
熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等が例示され、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル系樹脂が好ましく、熱可塑性ポリエステル樹脂および/またはポリカーボネート樹脂がより好ましく、熱可塑性ポリエステル樹脂がさらに好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、その一部がエラストマーの機能を有するものであってもよい。
【0013】
熱可塑性樹脂の第一の実施形態は、熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリエステル樹脂を含むことである。
さらに、熱可塑性樹脂の第一の実施形態においては、熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
第一の実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうち熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、97質量%以上であることがさらに一層好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂の第二の実施形態は、熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリエステル樹脂を含み、さらに、ポリカーボネート樹脂を含むことである。ポリカーボネート樹脂を含むことにより、成形品のレーザー透過率が高くなる傾向にある。第二の実施形態においては、さらに、前記熱可塑性ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。第二の実施形態では、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の質量比率は、51~99:49~1であることが好ましく、60~95:40~5であることがより好ましく、70~90:30~10であることがさらに好ましく、75~85:25~15であることが一層好ましい。
第二の実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうち熱可塑性ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の合計の含有量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、97質量%以上であることがさらに一層好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂の第三の実施形態は、熱可塑性樹脂が、上記第一の実施形態または第二の実施形態において、さらに、芳香族ビニル系樹脂を含む形態である。特に、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、芳香族ビニル系樹脂(例えば、ブタジエンゴム含有ポリスチレン樹脂)を5~100質量部含む形態が例示される。
【0016】
熱可塑性樹脂の第四の実施形態は、熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む形態である。
第四の実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうちポリアミド樹脂の含有量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく97質量%以上であることがさらに一層好ましい。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66が例示される。また、6T/6I、9T、ポリアミドMXD6、ポリアミドMXD10、ポリアミドMP10(メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとセバシン酸から合成されるポリアミド)などの半芳香族ポリアミドも用いることができる。
【0017】
熱可塑性樹脂の第五の実施形態は、熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含む形態である。
第四の実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のうちポリカーボネート樹脂の含有量が80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、97質量%以上であることがさらに一層好ましい。
以下、各熱可塑性樹脂の詳細について説明する。
【0018】
<<熱可塑性ポリエステル樹脂>>
本実施形態で用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂は、その種類について特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂が例示され、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、酸成分の主成分としてテレフタル酸を、ジオール成分の主成分として1,4-ブタンジオールを重縮合させて得られる樹脂である。酸成分の主成分がテレフタル酸であるとは、酸成分の50質量%以上がテレフタル酸であることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。ジオール成分の主成分が1,4-ブタンジオールであるとは、ジオール成分の50質量%以上が1,4-ブタンジオールであることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂が、他の酸成分を含む場合、イソフタル酸、ダイマー酸が例示される。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂が他のジオール成分を含む場合、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が例示される。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂として、ポリテトラメチレングリコールを共重合したものを用いる場合は、共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性と耐熱性とのバランスにより優れる傾向となり好ましい。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂として、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるダイマー酸成分の割合は、カルボン酸基として0.5~30モル%であることが好ましく、1~20モル%がより好ましく、3~15モル%がさらに好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、長期耐熱性および靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0022】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂が、イソフタル酸に由来する単位を含む場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂のジカルボン酸成分に由来する全単位中、イソフタル酸に由来する単位が0.5モル%以上15モル%以下であることが好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、耐熱性、射出成形性および靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0023】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、酸成分の90質量%以上がテレフタル酸であり、ジオール成分の90質量%以上が1,4-ブタンジオールである樹脂(ポリブチレンテレフタレートホモポリマー)、または、ポリテトラメチレングリコールを共重合した共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5~2dL/gであるものが好ましい。成形性および機械的特性の点からして、0.6~1.5dL/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dL/g以上のものを用いることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、固有粘度が2dL/g以下のものを用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性が向上し、成形性が向上し、レーザー溶着性がより向上する傾向にある。
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定される値である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂を2種以上含む場合、固有粘度は混合物の固有粘度とする。
【0025】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシ基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。末端カルボキシ基量を50eq/ton以下とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融成形時のガスの発生をより効果的に抑制できる。また、末端カルボキシ基量の下限値は特に定めるものではないが、通常、5eq/tonである。
ポリブチレンテレフタレート樹脂を2種以上含む場合、末端カルボキシ基量は混合物の末端カルボキシ基量とする。
【0026】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシ基量は、ベンジルアルコール25mLにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求められる値である。末端カルボキシ基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法が挙げられる。
【0027】
本実施形態で用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂は、酸成分の主成分としてテレフタル酸とジオール成分の主成分としてエチレングリコールを重縮合させて得られる樹脂である。酸成分の主成分がテレフタル酸であるとは、酸成分の50質量%以上がテレフタル酸であることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。ジオール成分の主成分がエチレングリコールであるとは、ジオール成分の50質量%以上がエチレングリコールであることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。
【0028】
ポリエチレンテレフタレート樹脂が他の酸成分を含む場合、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸およびこれらの構造異性体、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸およびその誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸、グリコール酸等のオキシ酸またはその誘導体が挙げられる。
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂が他の酸成分を含む場合、他のジオール成分として、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族ジヒドロキシ化合物誘導体等が挙げられる。
【0029】
さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメリシン酸、トリメリット酸等の如き三官能、もしくはピロメリット酸の如き四官能のエステル形成能を有する酸またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の如き三官能もしくは四官能のエステル形成能を有するアルコールを1.0モル%以下、好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下を共重合せしめたものであってもよい。
【0030】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、好ましくは0.3~1.5dL/gであり、より好ましくは0.3~1.2dL/gであり、さらに好ましくは0.4~0.8dL/gである。
なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0031】
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシ基の濃度は、好ましくは3~60eq/tonであり、より好ましくは5~50eq/tonであり、さらに好ましくは8~40eq/tonである。末端カルボキシ基濃度を60eq/ton以下とすることで、樹脂材料の溶融成形時にガスが発生しにくくなり、得られる成形品の機械的特性が向上する傾向にあり、逆に末端カルボキシ基濃度を3eq/ton以上とすることで、得られる成形品の耐熱性、滞留熱安定性や色相が向上する傾向にあり、好ましい。
なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシ基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定することにより、求められる値である。
【0032】
<<ポリカーボネート樹脂>>
本実施形態で用いられるポリカーボネート樹脂は、公知のポリカーボネート樹脂を用いることができる。ポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体または共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができるが、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂が、レーザー透過性、レーザー溶着性の点から好ましい。
【0033】
原料のジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ちビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0034】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、または、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーとの共重合体等の共重合体であってもよい。さらには、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、5,000~30,000であることが好ましく、10,000~28,000であることがより好ましく、14,000~24,000であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が5,000以上のものを用いることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、粘度平均分子量が30,000以下のものを用いることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、成形性やレーザー溶着性がより向上する傾向にある。
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算される粘度平均分子量[Mv]である。
【0036】
<<芳香族ビニル系樹脂>>
本実施形態で用いられる芳香族ビニル系樹脂は、スチレン系樹脂が好ましい。
本実施形態で用いられるスチレン系樹脂は、スチレン骨格を有する化合物を主成分とする重合体である。スチレン骨格を有する化合物を主成分とするとは、原料モノマーの50質量%以上がスチレン骨格を有する化合物であることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。
スチレン骨格を有する化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等を挙げることができ、好ましくは、スチレンである。スチレン骨格を有する化合物としては、ポリスチレン(PS)が代表的なものである。
また、スチレン系樹脂としては、スチレン骨格を有する化合物に他の単量体を共重合させた共重合体も用いることができる。代表的なものとしては、スチレンとアクリロニトリルを共重合させたアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレンと無水マレイン酸を共重合させた無水マレイン酸-スチレン共重合体(無水マレイン酸変性ポリスチレン樹脂)が挙げられる。
【0037】
スチレン系樹脂としては、ゴム成分を共重合またはブレンドしたゴム含有スチレン樹脂も好ましく使用することができる。ゴム成分の例としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン系炭化水素が挙げられるが、本実施形態においてはブタジエン系ゴム(ブタジエンゴム含有ポリスチレン樹脂)が好ましく用いられる。
ゴム成分を共重合またはブレンドする場合、ゴム成分の量は、スチレン系樹脂の全セグメント中の通常1質量%以上50質量%未満であり、好ましくは3~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
ゴム成分含有スチレン系樹脂としては、ゴム含有ポリスチレンが好ましく、ブタジエンゴム含有ポリスチレンがより好ましく、靱性の点から、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が特に好ましい。
【0038】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエンゴム含有ポリスチレンおよび無水マレイン酸変性ポリスチレンが好ましく、中でも、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)が好ましい。
【0039】
芳香族ビニル系樹脂としては、GPCにより測定した重量平均分子量が50000~500000であることが好ましく、中でも100000~400000、特に150000~300000が好ましい。重量平均分子量を50000以上とすることにより、成形品のブリードアウトをより効果的に抑制でき、また、成形時に分解ガスが発生しにくくなり、ウエルド強度が高くなる傾向にある。また、重量平均分子量を500000以下とすることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、レーザー溶着強度がより向上する傾向にある。
【0040】
本実施形態では、樹脂組成物が熱可塑性樹脂を10~90質量%含むことが好ましい。前記熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であってもよく、さらには、50質量%以上であってもよい。また、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下、75質量%以下、72質量%以下であってもよい。
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<ビスマス化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、ビスマス化合物を、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.002~10.000質量部含む。ビスマス化合物を含むことにより、レーザーマーキングが可能であり、かつ、レーザー溶着も可能な樹脂組成物が得られる。また、ビスマス化合物は、熱可塑性樹脂と2種以上の非黒色有機顔料を含むレーザーマーキング用かつレーザー溶着用樹脂組成物の光線透過率減少抑制剤としての機能を果たす。
ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、次没食子酸ビスマス、輝蒼鉛鉱、塩化酸化ビスマス、次硝酸ビスマス、次サリチル酸ビスマス、炭酸酸化ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウムおよびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。中でも酸化ビスマスが安定性の点から好ましい。酸化ビスマスは、通常、Bi2O3で表されるものである。
ビスマス化合物は、比表面積が、10~35m2/gの比表面積であることが好ましい。
また、ビスマス化合物の平均粒子径は、500nm~5μmであることが好ましく、500nm~2μmであることがより好ましい。ビスマス化合物は通常、一次粒子の凝集体であるが、その凝集体の数平均粒子が前記範囲となることが好ましい。ビスマス化合物の平均粒子径を前記範囲の粒子径とすることにより、レーザーの透過率をより高めることができる。
また、ビスマス化合物は金属比熱が小さいため、熱を吸収しやすくレーザーマーキング性を高めると推測される。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物のビスマス化合物の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.002質量部以上であり、0.010質量部以上であることが好ましく、0.100質量部以上であることがさらに好ましく、0.150質量部以上であることが一層好ましく、0.200質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、レーザーマーキング性がより向上する傾向にある。また、前記ビスマス化合物の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、10.000質量部以下であり、6.000質量部以下であることが好ましく、2.000質量部以下であることがさらに好ましく、1.500質量部以下であることが一層好ましく、1.000質量部以下であることがより一層好ましく、0.8質量部以下、0.5質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品のレーザー透過率がより向上する傾向にある。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、ビスマス化合物以外のレーザー吸収剤(特に、無機化合物であるレーザー吸収剤)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本実施形態の樹脂組成物が、光透過性樹脂組成物(レーザー透過樹脂部材用)して用いられる場合、ビスマス化合物以外のレーザー吸収剤を実質的に含まない方が好ましい。実質的に含まないとは、他のレーザー吸収剤の含有量が、ビスマス化合物の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であってもよい。また、樹脂組成物の0.01質量%未満であることが好ましく、さらには、0.005質量%未満であってもよい。ビスマス化合物以外のレーザー吸収剤としては、マイカ、酸化鉄、酸化チタン、アンチモンドープ錫、酸化錫、酸化インジウム、三酸化ネオジム、ガドリウムおよびネオジムから選択される少なくとも1つの金属の酸化物が例示される。
また、ビスマス化合物以外のレーザー吸収剤を実質的に含まない構成とすることにより、透過率減少量を好ましくは5%以下、特に、3%以下、1%以下、0.5%以下とすることができる。透過率減少量は、実施例の記載に従って測定される。
【0044】
<有機顔料>
本実施形態の樹脂組成物は、2種以上の非黒色有機顔料を含む。
本実施形態の樹脂組成物が2種以上の非黒色有機顔料を含むことにより、光透過性樹脂組成物から形成される透過樹脂部材と光吸収性樹脂組成物から形成される吸収樹脂部材の色味を統一することができ、意匠性が向上する傾向にある。
【0045】
本実施形態で用いる有機顔料は、レーザー溶着のための光透過性樹脂組成物として用いる場合、レーザーを一定割合以上透過する有機顔料(光透過性顔料)であることが好ましい。
光透過性顔料とは、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(例えば、ノバデュラン(登録商標)5008)と、ガラス繊維(例えば、日本電気硝子社製、商品名:T-127)30質量%と、顔料(光透過性顔料と思われる顔料)0.2質量%を合計100質量%となるように配合し、後述する実施例に記載の測定方法(反ゲート側透過率の測定)で光線透過率を測定したときに、透過率が20%以上となる顔料を含む。また、本実施形態における光透過性顔料を配合することにより、例えば、本実施形態の樹脂組成物を1.5mmの厚さに成形したときの波長1064nmにおける透過率が20%以上とすることができる。
【0046】
本実施形態で用いる有機顔料は、その用途に応じて適宜選択することができ、その色も特に定めるものではない。本実施形態で用いる有機顔料は、2~10種の有機顔料の混合物であることが好ましく、2~5種の有機顔料の混合物であることが好ましい。本実施形態で用いる有機顔料は、有彩色顔料であることが好ましい。特に、本実施形態における有機顔料は黒色顔料混合物であることが好ましい。黒色顔料混合物とは、赤、青、緑等の有彩色有機顔料が2種以上組み合わさって、黒色を呈する顔料混合物を意味する。
本実施形態においては、2種以上の非黒色有機顔料の混合物の波長1064nmにおける吸光度が、1.0以下であることが好ましい。レーザー透過率と黒色度のバランスを考慮すると、非黒色の有機顔料の大半は上記要件を満たす。
より好ましくは、本実施形態で用いる2種以上の非黒色有機顔料の混合物の波長1064nmにおける吸光度が、0.8以下であり、波長1064nmにおける吸光度が、0.6以下であり、かつ、波長1064nmにおける吸光度が0.01以上である。
【0047】
黒色顔料組成物の第一の実施形態は、緑色有機顔料と赤色有機顔料を含む形態である。黒色顔料組成物の第二の実施形態は、赤色有機顔料と青色有機顔料と黄色有機顔料を含む形態である。
有機顔料の具体例としては、アゾ系、キナクリドン系、ペリレン系、フタロシアニン系等の有機系顔料であることが好ましい。色調は、黄色、橙色、赤色、紫色、青色および緑色等があり、これらを組み合わせて配合し、所望の色調に樹脂を着色することができる。具体的には、上記アゾ系顔料の具体例としては、例えば、PVファーストイエローHG(クラリアント社製、ピグメントイエロー180)、PVファーストイエローH3R(クラリアント社製、ピグメントイエロー181)、クロモフタールオレンジK2960(BASF社製、ピグメントオレンジ64)、クロモフタールレッドK3890FP(BASF社製、ピグメントレッド144)、クロモフタールスカーレットK3540(BASF社製、ピグメントレッド166)、クロモフタールレッドK3900(BASF社製、ピグメントレッド214)、クロモフタールレッドK4035(BASF社製、ピグメントレッド221)等が挙げられる。
上記キナクリドン系顔料の具体例としては、例えば、PVファーストレッドE4G(クラリアント社製、ピグメントバイオレット19)、PVファーストピンクE-01(クラリアント社製、ピグメントレッド122)等が挙げられる。
上記ペリレン系顔料の具体例としては、例えば、パリオゲンレッドK3580(BASF社製、ピグメントレッド149)、パリオゲンレッドK3911(BASF社製、ピグメントレッド178)等が挙げられる。
上記フタロシアニン系顔料の具体例としては、例えば、リオノールブルーCB7801(トーヨーカラー社製、ピグメントブルー15:1)、リオノールブルーFG7351(トーヨーカラー社製、ピグメントブルー15:3)、リオノールグリーンY-102(トーヨーカラー社製、ピグメントグリーン7)、リオノールグリーン6Y-501(トーヨーカラー社製、ピグメントグリーン36)、スミトーン シアニンブルーGH(住化カラー社製、ピグメントブルー15:3)等が挙げられる。これらの色素は1種単独で用いても良く、2種以上を用いてもよい。
中でも黒色調色の観点から、PVファーストイエローHG、パリオゲンレッドK3911、スミトーン シアニンブルーGHの組み合わせがより好ましい。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物における有機顔料の含有量(総量)は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.1~5.0質量部である。前記下限値以上とすることにより、成形品が着色され、意匠性が高まる。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の透過率の低下を効果的に抑制できる。前記含有量の下限値は、0.2質量部以上であることが好ましい。また、前記含有量の上限値は、3.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましく、0.8質量部以下であることが一層好ましく、0.7質量部以下であることがより一層好ましい。
【0049】
本実施形態においては、有機色素は、特に、以下のブレンド比が好ましい。
(1)熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料を0.1~5.0質量部含む樹脂組成物であって、ビスマス化合物以外の無機顔料を実質的に含まない樹脂組成物。ビスマス化合物以外の無機顔料を実質的に含まないとは、ビスマス化合物以外の無機顔料の含有量が、例えば、ビスマス化合物の含有量の10質量%未満であることをいい、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
(2)熱可塑性樹脂100質量部に対して、顔料を0.1~5.0質量部含む樹脂組成物であって、さらに、有機染料等の染料を含み、有機顔料と染料の質量比率は、1:10~10:1が好ましい。
本実施形態においては、ビスマス化合物を配合しても、黒くならず、白い色を呈するため、2種以上の有機顔料を配合して、種々の色味の成形品を製造することができる。
また、本実施形態の樹脂組成物における、前記2種以上の非黒色有機顔料の含有量質量とビスマス化合物の含有量の質量比が、1:0.05~10であることが好ましく、1:0.1~5であることがより好ましく、1:0.1~3であることがさらに好ましく、1:0.1~2であることが一層好ましく、1:0.1~1.5であることがより一層好ましい。
【0050】
<有機染料>
本実施形態の樹脂組成物は、有機染料を含んでいてもよい。
本実施形態で用いる有機染料は、その用途に応じて適宜選択することができ、その色も特に定めるものではない。本実施形態で用いる有機染料は、1種の有機染料であってもよいし、2種以上の有機染料の混合物であってもよい。特に、上記2種以上の有機顔料と併せて、黒色を呈する着色剤混合物となるものが好ましい。
樹脂組成物が有機染料を含有する場合、その有機染料の含有量は、有機顔料100質量部に対し、10~90質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態においては、樹脂組成物が有機染料を含む場合、2種以上の有機顔料と有機染料の混合物の波長1064nmにおける吸光度が、1.0以下であり、波長500nmにおける吸光度が1.0以上であることが好ましい。好ましくは、前記混合物の波長1064nmにおける吸光度が、0.08以下であり、波長500nmにおける吸光度が1.20以上である。
【0052】
有機染料の具体例としては、ニグロシン、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリノン、ペリレン、クオテリレン、アゾ、アゾメチン、アントラキノン、ピラゾロン、スクエア酸誘導体、ペリレン、クロム錯体、インモニウム、イミダゾール(特に、ベンズイミダゾール)、シアニン等が挙げられ、アゾメチン、アントラキノン、ペリノンが好ましく、その中でもアントラキノン、ペリノン、ペリレン、イミダゾール(特に、ベンズイミダゾール)、シアニンがより好ましい。
【0053】
市販品としては、オリエント化学工業社製の有機染料であるe-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701H、有本化学社製の有機染料であるPlast Yellow 8000、Plast Red M 8315、Plast Red 8370、Oil Green 5602、LANXESS社製の有機染料であるMacrolex Yellow 3G、Macrolex Red EG、Macrolex Green 5B、 紀和化学工業社製のKP Plast HK、KP Plast Red HG、KP Plast Red H2G、KP Plast Blue R、KP Plast Blue GR、KP Plast Green G、BASF社製、Lumogenシリーズ等が例示される。また、特許第4157300号公報に記載の有機染料、特許第4040460号公報に記載の有機染料も採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0054】
<芳香環含有化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、ベンゼン環および/またはベンゾ縮合環を含む芳香環含有化合物(以下、単に、「芳香環含有化合物」ということがある)を含むことが好ましい。芳香環含有化合物は、レーザー吸収能が高いため、有機顔料を配合したことによる透過率の低下を補い、レーザー溶着およびレーザーマーキングを可能にする。さらに、芳香環含有化合物を用いることにより、耐熱特性も向上させることができる。
前記芳香環含有化合物としては、数平均分子量が8000以下である芳香環含有化合物が挙げられる。芳香環含有化合物の数平均分子量は5000以下であることが好ましく、3000以下であることがさらに好ましく、2000以下であることがより好ましく、1000以下であることが特に好ましく、500以下であってもよい。下限値については、特に定めるものではないが、数平均分子量が100以上であることが好ましく、300以上であることがさらに好ましく、400以上であることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、本実施形態の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
また、芳香環含有化合物は、ベンゼン環および/またはベンゾ縮合環を、分子量比率として15~75質量%含むものが好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含むことが好ましく、また、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下、特に好ましくは60質量%以下含むことが好ましい。分子量比率は、芳香環含有化合物の分子量に対する該芳香環含有化合物中のベンゼン環および/またはベンゾ縮合環の総分子量の割合である。
【0055】
ここで、ベンソ縮合環とは、ベンゼン環を含んでいる縮合環を指し、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられる。本実施形態では、芳香環含有化合物はベンゼン環を分子量比率として、15~75質量%含む化合物が好ましく、15~70質量%含む化合物がより好ましい。
【0056】
芳香環含有化合物は、反応性基(好ましくは、エポキシ基)を含む化合物である。反応性基を含む芳香環含有化合物を用いることにより、レーザー溶着する際の溶着強度が高くなる傾向にある。
反応性基を含む芳香環含有化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端に存在するカルボキシ基やヒドロキシ基と化学反応し、架橋反応や鎖長延長が生じ得る化合物が好ましい。反応性基を含む芳香環含有化合物は、具体的には、エポキシ化合物(エポキシ基を含む化合物)、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基(環)を含む化合物、オキサジン基(環)を含む化合物、カルボキシ基を含む化合物、およびアミド基を含む化合物からなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましく、エポキシ化合物およびカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、エポキシ化合物を含むことがさらに好ましい。特に、本実施形態においては、芳香環含有化合物の90質量%以上、さらには95質量%以上、特には99質量%以上がエポキシ化合物であることが好ましい。
エポキシ化合物は、芳香環を所定の割合で含み、一分子中に一個以上のエポキシ基を含む化合物であれば特に定めるものではなく、公知のエポキシ化合物を広く採用することができる。エポキシ化合物を含むことにより、レーザー照射条件幅が広がる傾向にある。
【0057】
芳香環含有化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物(ビスフェノールAジグリシジルエーテルを含む)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(ビスフェノールFジグリシジルエーテルを含む)、ビフェニル型エポキシ化合物(ビス(グリシジルオキシ)ビフェニルを含む)、レゾルシン型エポキシ化合物(レゾルシノールジグリシジルエーテルを含む)、ノボラック型エポキシ化合物、安息香酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステルが挙げられる。
中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物等が好ましく、特にオルソクレゾール/ノボラック型エポキシ化合物(O-クレゾール・ホルムアルデヒド重縮合物のポリグリシジルエーテル化合物)がより好ましく、ノボラック型エポキシ化合物がさらに好ましい。
市販のものとしては、「Joncryl ADR4368C」(商品名:BASF社製)、「YDCN704」(商品名:新日鉄住金化学社製)、「EP-17」(商品名:ADEKA社製)、「CNE220」(商品名:長春社製)および「JER1003」(商品名:三菱ケミカル社製)などが挙げられる。
【0058】
芳香環含有化合物がエポキシ化合物である場合、そのエポキシ当量が100g/eq以上であることが好ましく、より好ましくは150g/eq以上である。また、前記エポキシ当量が1500g/eq以下であることが好ましく、900g/eq以下であることがより好ましく、800g/eq以下であることがさらに好ましい。ここで、エポキシ当量とは、エポキシ化合物の分子量を、エポキシ化合物中に存在するエポキシ基の数で除した値である。
エポキシ当量を上記下限値以上とすることにより、溶着強度や溶着品の耐加水分解性がより高くなる傾向にある。上記上限値以下とすることにより、流動性が高くなり成形しやすくなる傾向にある。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物が、芳香環含有化合物を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、溶着強度が高くなる傾向にある。また、前記芳香環含有化合物の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、18質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、さらには、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、流動性がより高くなり成形性が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、芳香環含有化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0060】
<無機充填剤>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、無機充填剤を含むことが好ましい。無機充填剤、特に、繊維状の無機充填剤、好ましくはガラス繊維を含むことにより、機械的強度を向上させると共に、耐熱強度高くなり、レーザー溶着品の耐久性がより向上する傾向にある。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物で用いる含有され得る無機充填剤としては、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物の機械的性質を向上させる効果を有するものであり、常用のプラスチック用無機充填剤を用いることができる。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の無機充填剤を用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填剤;タルク等の板状の充填剤;ガラスフレーク、マイカ、グラファイト等の鱗片状の無機充填剤を用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の充填剤、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。ガラス繊維としては、丸型断面形状または異型断面形状のいずれをも用いることができる。
無機充填剤は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0062】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシランカップリング剤が好ましく挙げられる。これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0063】
また、その他の表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂系表面処理剤、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂系表面処理剤等も好ましく挙げられ、特にノボラック型エポキシ樹脂系表面処理剤による処理が好ましい。
シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂系表面処理剤は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい。本実施形態におけるガラス繊維とは、繊維状のガラス材料を意味し、より具体的には、1,000~10,000本のガラス繊維を集束し、所定の長さにカットされたチョップド形状が好ましい。
本実施形態におけるガラス繊維は、数平均繊維長が0.5~10mmのものが好ましく、1~5mmのものがより好ましい。このような数平均繊維長のガラス繊維を用いることにより、機械的強度をより向上させることができる。数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、ガラス繊維の断面は、円形、楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等いずれの形状であってもよいが、円形が好ましい。ここでの円形は、幾何学的な意味での円形に加え、本実施形態の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。断面が円形であるガラス繊維を用いることにより、本来ガラス繊維を添加することでレーザー透過率が低下するが、その低下率を小さくすることができる傾向にある。ガラス繊維の数平均繊維径は、下限が、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。ガラス繊維の数平均繊維径の上限は、15.0μm以下であることが好ましく、14.0μm以下であることがより好ましい。このような範囲の数平均繊維径を有するガラス繊維を用いることにより、より機械的強度に優れた成形品が得られる傾向にある。なお、ガラス繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維径を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出し、中央部に近いところで繊維径を測定し、得られた測定値から算出する。観察の倍率は1,000倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。円形以外の断面を有するガラス繊維の数平均繊維径は、断面の面積と同じ面積の円に換算したときの数平均繊維径とする。
【0064】
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラス(Electricalglass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)、Dガラス、Rガラスおよび耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本実施形態では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0065】
本実施形態で用いるガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0066】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、T-286H、T-756H、T-127、T-289H、オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540、日東紡社製、CSG3PA820等が挙げられる。
【0067】
本実施形態の樹脂組成物における無機充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが一層好ましく、30質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、レーザー溶着品の母材強度が高くなり、また、レーザー溶着品の耐熱性が高くなる傾向にある。また、前記無機充填剤の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、界面部分の溶着強度が高くなる傾向にある。
【0068】
また、本実施形態の樹脂組成物における無機充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物の20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。また、前記無機充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填剤(好ましくはガラス繊維)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0069】
<安定剤>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
【0070】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
これらの詳細は、国際公開第2020/013127号の段落0105~0111の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0071】
安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1.0質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることで、安定剤としての効果をより効果的に得ることができる。また、安定剤の含有量を前記範囲の上限値以下にすることにより、効果が頭打ちになることなく、経済的である。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0072】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤(滑剤)を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ワックス、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
これらの詳細は、国際公開第2020/013127号の段落0112~0121の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0073】
離型剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることにより離型性の効果が十分に得られやすく、離型剤の含有量が前記範囲の上限値以下とすることにより、十分な耐加水分解性が得られ、また射出成形時の金型汚染などが生じにくくなる。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0074】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
具体的には、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、ビスマス化合物以外のレーザーマーキング剤などが挙げられる。
【0075】
本実施形態では、熱可塑性樹脂、ビスマス化合物、2種以上の非黒色有機顔料、ならびに、必要に応じて配合される成分(例えば、無機充填剤、安定剤、離型剤、有機染料)の合計が、本実施形態に含まれる熱可塑性樹脂成分の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることが好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。上限は、100質量%である。
【0076】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物を光透過性樹脂組成物として用いる場合、透過率に優れていることが好ましい。具体的には、本実施形態の光透過性樹脂組成物は、1.5mm厚に成形したときの透過率(波長:1064nm)が10.0%以上超であることが好ましく、15.0%以上であることがより好ましい。上限値は特に定めるものではないが、90%以下が実際的であり、50%以下であっても十分に性能要求を満たす。また、本実施形態の光透過性樹脂組成物は、1.5mm厚に成形したときの波長800nmおよび1900nmにおける透過率が、それぞれ、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、黒色の成形品に使用する場合には、厚さ1.5mmに成形したときのISO7724/1に準拠したL値が45以下であることが好ましく、さらには40以下、特には35以下であることが好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物は、白色の成形品に使用する場合には、上記L値が75以上であることが好ましく、さらには80以上、特には85以上であることが好ましい。
【0077】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の調製の常法によって製造できる。通常は各成分および所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸または二軸押出機で溶融混練する。また、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本実施形態の樹脂組成物を調製することもできる。顔料等の一部の成分を熱可塑性樹脂と溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、無機充填剤を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0078】
<成形品および成形品の製造方法>
本形態の樹脂組成物は、公知の方法に従って成形される。
成形品の製造方法は、特に限定されず、樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
射出成形の詳細は、特許第6183822号公報の段落0113~0116の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。本実施形態の成形品は、レーザー溶着の際のレーザー透過樹脂部材として用いられてもよいし、レーザー吸収樹脂部材として用いられてもよいが、レーザー透過樹脂部材として用いられることが好ましい。さらに、本実施形態の樹脂組成物から形成された樹脂部材(特に、レーザー透過樹脂部材)は、レーザーマーキングが可能である。
【0079】
<レーザー溶着品の製造方法>
次に、レーザー溶着方法について説明する。本実施形態では、透過樹脂部材と吸収樹脂部材をレーザー溶着させてレーザー溶着品とすることができる。レーザー溶着することによって透過樹脂部材と吸収樹脂部材を、接着剤を用いずに、強固に溶着することができる。
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とは、公知のいずれのレーザー溶着法によって、レーザー溶着されてもよいが、ガルバノスキャニング式レーザー溶着に適している。ガルバノスキャニング式レーザー溶着とは、準同時溶着(Quasi-simultaneous welding)とも呼ばれ、内蔵のガルバノミラーでレーザー光を走査する方式である。ガルバノスキャニング式レーザー溶着を用いることにより、溶着部全体がほぼ同時に加熱されるため、得られるレーザー溶着品の残留応力が小さくなる傾向にある。
【0080】
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、光吸収性色素の光の吸収波長に応じて定めることができ、波長800~1100nmの範囲のレーザーが好ましく、940~1100nmの範囲のレーザーがより好ましい。照射するレーザー光の種類としては、例えば固体レーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザー、気体レーザー、液体レーザー等を挙げることができる。例えばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)レーザー(波長1064nm、1070nm)、LD(レーザーダイオード)レーザー(波長808nm、840nm、940nm、980nm)等を好ましく用いることができる。中でも、波長940nm、980nm、1064nm、1070nmのレーザー光が好ましく、1064nmのレーザー光がより好ましい。
【0081】
レーザー焦点径は、直径0.1mm以上であることが好ましく、直径0.2mm以上がより好ましく、直径0.5mm以上が一層好ましい。前記上限値以下にすることによって、レーザー溶着部の溶着強度をより高めることができる。また、レーザー照射径は直径30mm以下であることが好ましく、10mm以下がより好ましく、3.0mm以下が一層好ましい。前記下限値以上にすることによって、溶着幅をより効果的に制御することができる。
なお、溶着面の幅、高さに合わせて、レーザー光の焦点径を選択することができる。
また、レーザー光は、接合面にフォーカスしてもよいしデフォーカスしてもよく、求める溶着品体に応じて適宜選択することが好ましい。
【0082】
レーザー出力は、1W以上であることが好ましく、10W以上がより好ましい。前記下限値以上にすることによって、溶着時間が短くてもより十分な溶着強度を得ることができる。また、レーザー出力は1000W以下が好ましく、500W以下がより好ましく、400W以下がさらに好ましく、300W以下が一層好ましい。前記上限値以下にすることによってレーザー溶着設備費用を効果的に抑えることができる。
レーザー照射速度は、10mm/s以上が好ましく、30mm/s以上がより好ましく、50mm/s以上がさらに好ましく、500mm/s以上が一層好ましい。前記下限値以上にすることによって、レーザー溶着品の残留応力をより効果的に低減することができる。また、レーザー照射速度は20000mm/s以下が好ましく、10000mm/s以下がより好ましく、5000mm/s以下がさらに好ましく、3000mm/s以下がより一層好ましい。前記上限値以下にすることによって、溶着品についてより十分な溶着強度を得ることができる。また、レーザー走査方法に関しては、溶着効率、溶着強度、溶着外観および装置負荷の観点から、接合面の形状に合わせて、レーザーの出力、溶着予定ライン、走査速度、および/または走査方法を調整することが好ましい。
【0083】
レーザー溶着は、より具体的には、透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着する場合、通常、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または、平面と曲面の組み合わせであってもよい。重ね合わされた状態を維持する際、透過樹脂部材の上、つまりレーザー照射側にガラス板、石英板、アクリル板などの透明板材を配置して加圧してもよい。特にガラス板、または石英板を配置する場合は、レーザー溶着時に発生する熱の放熱を促進し、良好な外観を得るのに適している。また、透過樹脂部材の溶着予定部周辺を囲う金属板で加圧してもよい。
次いで、透過樹脂部材側からレーザー光を照射する。この時、必要によりレンズを利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、透過樹脂部材中を透過し、吸収樹脂部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって透過樹脂部材にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして透過樹脂部材と吸収樹脂部材とのレーザー溶着品は、高い溶着強度を有する。なお、本実施形態におけるレーザー溶着品とは、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0084】
<キット、および、レーザーマーキングされたレーザー溶着品>
本実施形態のキットは、本実施形態の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有する。前記キットにおいては、本実施形態の樹脂組成物が、光透過性樹脂組成物としての役割を果たす。このようなキットはレーザー溶着性に優れたものとなり、レーザー溶着による成形品(レーザー溶着品)の製造のためのキットとして好ましく用いられる。さらに、レーザーマーキングも行うことができる。
すなわち、キットに含まれる本実施形態の樹脂組成物は、光透過性樹脂組成物としての役割を果たし、かかる光透過性樹脂組成物から形成された成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する透過樹脂部材となる。一方、光吸収性樹脂組成物から形成された成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する吸収樹脂部材となる。また、本実施形態のキットは、本実施形態の樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材と熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有するキットであってもよい。
また、本実施形態のレーザー溶着品は、本実施形態の樹脂組成物から形成されたレーザー透過樹脂部材(または、本実施形態のレーザー透過樹脂部材)にレーザーを照射してレーザーマーキングすること、および、レーザー透過樹脂部材と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成されたレーザー吸収樹脂部材とをレーザー溶着することを含む製造方法によって製造できる。本実施形態のレーザー溶着品を製造する場合、レーザー溶着とレーザーマーキングはいずれを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。通常、透過樹脂部材はレーザーマーキングが可能である。また、本実施形態の樹脂組成物が、光吸収性色素を含む、光吸収性樹脂組成物である場合、吸収樹脂部材が、レーザーマーキングが可能であってもよい。さらに、透過樹脂部材および吸収樹脂部材について、それぞれ、本実施形態の樹脂組成物を用い、透過樹脂部材および吸収樹脂部材のそれぞれについて、レーザーマーキング可能な構成にしてもよい。
【0085】
上記キットは、本実施形態の樹脂組成物中の色素および無機充填剤を除く成分と、光吸収性樹脂組成物中の色素および無機充填剤を除く成分の70質量%以上が共通することが好ましく、80質量%以上が共通することがより好ましく、95~100質量%が共通することが一層好ましい。
【0086】
本実施形態でレーザー溶着して得られた成形品は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、車載用電子部品・センサー部品(ミリ波レーダー、LiDAR、ECUケース、ソナーセンサーなどの筐体)、電子制御スロットルボディ、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物およびキットは、車載カメラ部品および車載カメラ部品を含む車載カメラモジュールやミリ波レーダーモジュール、センサーモジュール、電動パーキングブレーキ(EPB)部品、に適している。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0088】
1.原料
下記表1、表2に示す原料を用いた。
【表1】
【表2】
【0089】
<染料の調整>
染料は、各有機染料を秤量し、5時間撹拌したものを用いた。
【0090】
<2種以上の非黒色有機顔料の混合物の吸光度の測定>
ポリカーボネート樹脂(ユーピロン「H4000」)と各種非黒色有機顔料をステンレ製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。得られた混合物を、30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、ペレットを得た。得られたペレットを、120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)を用いてシリンダー温度260℃、金型温度60℃、および、以下の射出条件で、透過率測定用の60mm×60mm×厚さ1.5mmのプレートを射出成形した。上記で得られたプレートについて、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長1064nmにおける透過率(%)を求めた。
【0091】
2.実施例1~12、比較例1~8
<光透過性樹脂組成物(ペレット)の製造>
表3~6に示すように、ガラス繊維以外の成分をステンレ製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。表3~6の各成分は質量部表記である。得られた混合物を、30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、ガラス繊維(GF)はホッパーから7番目のサイドフィーダーより供給し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0092】
<光吸収性樹脂組成物(ペレット)の製造>
表7に示すように、ガラス繊維以外の成分をステンレ製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。表7の各成分は質量部表記である。得られた混合物を、30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)のメインホッパーに投入し、ガラス繊維(GF)はホッパーから7番目のサイドフィーダーより供給し、押出機バレル設定温度C1~C15を260℃、ダイを250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/時間の条件で混練してストランド状に押し出し、光吸収性樹脂組成物のペレットを得た。
【0093】
<色調測定、透過率測定用プレートの成形(透過樹脂部材)>
上記で得られた光透過性樹脂組成物ペレットを、120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)を用いてシリンダー温度260℃、金型温度60℃、および、以下の射出条件で、透過率測定用の60mm×60mm×厚さ1.5mmの色調測定と透過率測定用(透過樹脂部材)プレートを射出成形した。
(射出条件)
保圧時間:10sec
冷却時間:10sec
射出速度:90mm/sec
背圧:5MPa
スクリュー回転数:100rpm
【0094】
<レーザーマーキング特性>
上記で得られた色調測定用プレート(透過樹脂部材)の中央部に、以下の条件で10mm×10mm四方のサイズでレーザーマーキングをした。以下に示すA~Dの4段階で評価した。また、プレートの色とレーザーマーキング(印字)の色を示した。
レーザーマーキング装置:Panasonic社製 LP-Z310
レーザーの種類:Ybファイバーレーザー(波長1064nm)
レーザーパワー:30W
スキャンスピード:600mm/s
印字パルス周期:50μs
<<評価>>
レーザーマーキング後、目視観察により、非マーキング部に対するマーキング部の視認性を確認し、以下評価基準で評価した。評価は5人の専門家が行い多数決で判断した。
A:特に明瞭な視認性が得られている
B:目視によりマーキング部と非マーキング部が容易に識別できる程度の視認性が得られている
C:目視によりマーキング部と非マーキング部が識別できる程度の視認性が得られている
D:視認性が得られていない
【0095】
<<ΔEの評価>>
上記で得られたプレートのレーザーマーキング部、非レーザーマーキング部の色差ΔEを測定した。測定は、ISO7724/1に準拠した分光測色色差計を用い、D65/10(反射照明・10°方向受光)、SCE(正反射光除去)測色法にて、ターゲットマスクSAV(φ4mm)を用いて測定した。
分光測色色差計は、コニカミノルタオプティクス社製、CM-3600d)を用いた。
【0096】
<1.5mmt 透過率>
上記で得られた透過率測定用プレート(60mm×60mm×厚さ1.5mm)のうち、ゲート側より45mmの地点から、かつ、試験プレートの幅の中心部(非レーザーマーキング部)において、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長1064nmにおける透過率(%)を求めた(反ゲート側の透過率、G)。また、ゲート側の地点においても、波長1064nmにおける透過率(%)を求めた(反ゲート側の透過率、G’)。透過率さ(ΔG-G’)を算出した。
紫外可視近赤外分光光度計は、島津製作所社製「UV-3100PC」積分球付きを用いた。
【0097】
<色調L*a*b*(SCE)(透過樹脂部材、非レーザーマーキング部)>
上記で得られた色調測定用プレート(透過樹脂部材)中央部の色調L*a*b*(SCE)をそれぞれ測定した。測定は、ISO7724/1に準拠した分光測色色差計を用い、D65/10(反射照明・10°方向受光)、SCE(正反射光除去)測色法にて、ターゲットマスクSAV(φ4mm)を用いて測定した。
分光測色色差計は、コニカミノルタオプティクス社製、CM-3600d)を用いた。
【0098】
<耐汚染性>
<<白色のPBTプレートの製造>>
ポリブチレンテレフタレートペレット(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ノバデュラン 5010G30 NA)を120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80-9E」)を用いてシリンダー温度260℃、金型温度60℃、および、以下の射出条件で、60mm×60mm×厚さ1.5mmの白色のPBTプレートを射出成形した。
<<色移り試験>>
上記で得られた評価用プレート(透過樹脂部材)(60mm×60mm×厚さ1.5mm)と、白色のPBTプレートを用いて、両プレートをクリップで挟み、120℃に設定された恒温槽に12時間入れ、白色PBTプレートへの色移り(汚染性)を以下評価基準で調べた。評価は5人の専門家が行い多数決で判断した。
<<評価>>
A:全く色移りしていない
B:若干色移り跡が認められる
C:明確に色移りが認められる
【0099】
<黒色度>
上記で得られた評価用プレート(透過樹脂部材)(60mm×60mm×厚さ1.5mm)の目視での色合い(黒、濃グレー、グレー、薄グレー、白)を評価した。評価は5人の専門家が行い多数決で判断した。
【0100】
<溶着強度(コップ)>
<<透過樹脂部材の作製>>
上記で得られた光透過性樹脂組成物(ペレット)を120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で成形して、
図1に示すような、厚さ1.5mmの成形品(透過樹脂部材I)を作製した。
【0101】
<<吸収樹脂部材の作製>>
上記で得られた光吸収性樹脂ペレットを120℃で7時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55」)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で成形して、
図2に示すような成形品(吸収樹脂部材II)を作製した。
【0102】
透過樹脂部材と吸収樹脂部材とを、
図3に示すように、箱状の吸収樹脂部材IIに蓋状の透過樹脂部材Iを重ね、透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIの重なり部分である鍔部の垂直上方位置にレーザー光源を配置し、ガラス板を用いて透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIの重なり部分に厚み方向両側から内側方向に4.92N/mmの押し力(溶着時押し出し力)を掛けつつ、下記条件にて、レーザーを照射してレーザー溶着品を得た。
溶着装置は以下の通りである。
【0103】
<<ガルバノスキャニング式レーザー溶着>>
レーザー装置:IPG社製 YLR-300-AC-Y14
波長:1070nm
コリメータ:7.5mm
レーザータイプ:ファイバー
レーザー出力:150W
ガルバノスキャナ:ARGES社製 Fiber Elephants21
アパーチャー:21mm
レーザー照射速度:900mm/s
レーザー照射周数:30周
溶着部円周:137mm
溶着面に照射されるスポット径が直径2mmになるように、レーザー光をデフォーカスしてレーザースキャナの位置調整をした。
【0104】
<<レーザー溶着強度の測定>>
図4に示すように、それぞれ穴21、22をあけて、溶着力測定用の冶具23、24を内部に入れた状態で、上記で作製した透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIからなる箱体の上面および下面からそれぞれに測定用冶具25、26を挿入して、内部に収納した冶具23、24とそれぞれ結合させ、上下に引っ張って(引張速度:5mm/min)、透過樹脂部材Iおよび吸収樹脂部材IIが離れる強度(溶着強度)を測定した。単位は、Nで示した。
尚、装置はORIENTEC社製、1tテンシロンの万能型試験機(ロードセル10kN)を使用した。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、レーザー透過性およびレーザー印字性に優れ、かつ、透過率のムラが抑制されていた。レーザー印字性が優れることは、上記ΔEが大きいことから読み取れる。
また、本発明の樹脂組成物は、色素として、染料ではなく、顔料を配合することができるため、染料由来の耐汚染性を抑制できた。また、色素として、有機顔料に加えて、有機染料を併用した場合においても、透過率の低下をより抑えつつ、耐汚染性もバランスよく抑制できることが分かった。
さらに、本発明の樹脂組成物は、レーザーマーキング剤として機能するビスマス化合物を配合しても、その透過率があまり低下しないため、2種以上の非黒色顔料との併用が可能になった。そのため、本実施形態の樹脂組成物から形成される成形品には、色味を持たせることができ、意匠性が向上する。特に、酸化ビスマスを配合しても、そのことによって成形品が黒くならないため、白い成形品や有彩色の色味のある成形品が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0111】
21、22 穴
23、24 測定用の冶具
25、26 測定用治具
【要約】
レーザー透過性およびレーザー印字性に優れ、かつ、透過率のムラが抑制された樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品、レーザー透過樹脂部材、キット、レーザー溶着品、レーザー溶着品の製造方法、および、レーザー溶着用樹脂組成物用のレーザーマーキング剤の提供。熱可塑性樹脂100質量部と、ビスマス化合物0.002~10.000質量部と、2種以上の非黒色有機顔料を合計で0.1~5.0質量部を含む、レーザーマーキング用かつレーザー溶着用樹脂組成物。