(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
C22C 1/00 20060101AFI20221212BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20221212BHJP
B23K 20/233 20060101ALI20221212BHJP
B23K 35/32 20060101ALI20221212BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20221212BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221212BHJP
B23K 35/14 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
C22C1/00 S
B23K20/00 310C
B23K20/233
B23K35/32 310B
B23K35/32 310Z
B32B15/01 H
C22C9/00
B23K35/14 D
(21)【出願番号】P 2022556677
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014440
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021112169
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 直也
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103658904(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105499833(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105855745(CN,A)
【文献】米国特許第5988488(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00
B23K 20/00
B23K 20/233
B23K 35/32
B32B 15/01
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを含みタングステンを第一成分とする第一部材と、
銅を含み銅を第一成分とし、前記第一部材に接合された第二部材と、
前記第二部材内に存在する、チタン、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属とを備え、
前記第一部材と前記第二部材とは直接接合しており、前記第一部材と前記第二部材との接合界面から前記第二部材側に5μm進んだ箇所での前記金属の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である、複合材料。
【請求項2】
前記金属はチタンである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記第一部材と前記第二部材との接合界面から前記第二部材側に5μm進んだ箇所での前記金属の濃度が0.1原子%以上である、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記第一部材と前記第二部材との接合界面から前記第二部材側に5μm進んだ箇所での前記金属の濃度が1.0原子%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記第二部材が、前記第一部材に近い側に設けられる純銅系の層と、純銅よりも強度が高く前記純銅系の層と異なる組成を有し前記第一部材から遠い側に設けられる層とを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記純銅系の層の厚みが0.2mm以上1.5mm未満である、請求項5に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、複合材料に関する。本出願は、2021年7月6日に出願した日本特許出願である特願2021-112169号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステン-銅系複合材料は、たとえば、特開昭60-187494号公報(特許文献1)、特開昭60-187640号公報(特許文献2)、および特開2020-101452号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-187494号公報
【文献】特開昭60-187640号公報
【文献】特開2020-101452号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に従った複合材料は、タングステンを含みタングステンを第一成分とする第一部材と、銅を含み銅を第一成分とし、第一部材に接合された第二部材と、第二部材内に存在する、チタン、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属とを備え、第一部材と第二部材との接合界面から第二部材側に5μm進んだ箇所での金属の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施の形態に従った複合材料1の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1における複合材料1のせん断試験を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1における複合材料1の耐熱試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
タングステン-銅系複合材料においては、接合部の耐熱性が低いという問題点があった。
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下、本開示の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、実施の形態に従った複合材料1の断面図である。複合材料1は、タングステンを含みタングステンを第一成分とする第一部材10と、銅を含み銅を第一成分とし、第一部材に接合された第二部材20と、第二部材20内に存在する、チタン、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属(インサート金属)とを備え、第一部材10と第二部材20との接合界面30から第二部材側に5μm進んだ箇所での金属の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である。第一成分とは質量比において最も割合の多い成分をいう。
【0009】
タングステンは全金属中で最も高い融点を持ち、耐熱性が高く、放射線の遮蔽性も高い。一方で熱伝導率の観点では、実用金属中では銅系金属が最も高く、放熱材料として広く用いられている。こうした特徴を両立させ、耐熱性能と冷却性能を両立させる構造として、銅系金属などの冷却部材と耐熱性が高いタングステンとの複合構造が検討されている。
【0010】
従来、タングステンと銅系金属との複合構造は、銅系金属にタングステンをろう付けすることで作製されてきた。しかしながら、ろう付けによる接合は、母材よりも低融点な金属を溶融、凝固させるという原理上、耐熱性に関して課題がある。比較的高融点なニッケル系ろう材の使用も考えられるが、ニッケルは人体に有害であり、取り扱いが制限される。こうした課題から、タングステンと銅系金属を放電プラズマ焼結などの手法で接合する手法や、タングステンに溶融させた銅系金属を直接鋳込むことで、低融点層が生じない複合構造の製法も検討されている。しかしながら、こうした手法は、前者では形状の制限、後者では銅系金属が純銅に限定されてしまうといった課題があった。
【0011】
本開示では、適切なインサート金属を銅系金属内に導入した上で、各部材との間で生じる冶金学的な反応を利用しながら界面構造を制御することで、十分な耐熱性を有する複合構造を実現した。
【0012】
本開示による接合状態を有する本複合構造は、従来技術による複合構造に比べて、接合部の融点が高く、複合構造の耐熱性が向上する。
【0013】
複合材料1は、タングステン-銅系合金複合材料であり、タングステン部材としての第一部材10直下の接合界面30から第二部材20側に5μm進んだ箇所でのインサート金属成分の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である。インサート金属の濃度が5.0原子%を超える場合、接合部の融点が低下し、複合材の耐熱性が低下する。
【0014】
インサート金属成分の濃度測定方法は、以下の通りである。
タングステン-銅系合金複合材料の断面における、接合界面30を電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8200)で観察し、波長分散型X線分析により行う。まず、タングステンを含む層である第一部材10のある点から、銅系合金である第二部材20のある点の2点間をライン分析し、タングステンを含む層の構成元素の総和と、銅系合金の構成元素の総和が等しくなる箇所を、タングステン-銅系合金複合材料における接合界面30と定義する。その接合界面30から銅系合金側に5μm進んだ箇所で、ISO 22489:2016の要領で、スポット分析を行う。加速電圧15kV、ビーム電流50nA、スポット径10μmの電子線を照射した際の特性X線のスペクトルを分光し、ZAF法を行いて各元素の構成比を計算し、インサート金属成分の濃度を原子%で算出する。
【0015】
タングステン-銅系合金複合材料のタングステン部材としての第一部材10直下の接合界面30から第二部材20側に5μm進んだ箇所でのインサート金属成分の濃度が0.1原子%以上がより好ましい。
【0016】
濃度が0.1原子%以上であれば、接合界面の強度がより大きくなる。なお、濃度が0.1原子%未満の場合、脆弱な金属間化合物の形成の回避や、耐熱性という観点では好ましい。
【0017】
タングステン-銅系合金複合材料のタングステン部材としての第一部材10直下の接合界面30から第二部材20側に5μm進んだ箇所でのインサート金属成分の濃度が1.0原子%以下がより好ましい。
【0018】
濃度を1.0原子%以下とすることで、接合部により高い耐熱性が得られる。また、脆弱な金属間化合物の形成を回避しつつ、銅系合金にインサート金属成分が一定量固溶することで、銅系合金の接合界面直下の領域で強度が増し、タングステン-銅系合金複合材料の強度が向上する可能性がある。
【0019】
タングステン-銅系合金複合材料のインサート金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれるいずれか1つ、または複数の元素からなる。これらの金属は、銅系金属との反応で液相が生じ、界面に広く濡れ広がることで接合に寄与する。加えて、酸素との親和性が強く、接合の障害となりうる両部材の最表面の酸化物を効果的に取り除くゲッター効果が見込まれるため好ましい。
【0020】
タングステン-銅系合金複合材料のインサート金属は、チタンが最も好ましい。チタンは銅系金属への固溶度が高いため、脆弱な金属間化合物を形成しづらく、複合材料の機械的信頼性が増す。
【0021】
中間層としてのインサート金属の導入方法としては、箔の挿入、めっき、蒸着、スパッターなどがある。
【0022】
タングステン-銅系合金複合材料の、接合時に導入するインサート金属の厚さは、50μm以下が好ましい。50μmを超える厚さの場合、接合後の界面直下の銅系金属側に脆性な金属間化合物層が生じ、タングステン-銅系合金複合材料の機械的信頼性が低下するおそれ、また接合後の界面直下の銅系金属側に残留するインサート金属濃度が5.0原子%を超え、タングステン-銅系合金複合材料の耐熱性が低下するおそれがある。なお、「おそれがある」とは、僅かながらそのようになる可能性があることを示し、高い確率でそのようになることを意味するものではない。この範囲では、脆性な金属間化合物層の形成は回避できる。
【0023】
タングステン-銅系合金複合材料の、接合時に導入するインサート金属の厚さは、25μm以下が最も好ましい。この範囲の場合、接合後の界面直下の銅系金属側に残留するインサート金属濃度が、1.0原子%以下となり、十分な耐熱性が生じるため最も好ましい。
【0024】
タングステン-銅系合金複合材料の、接合時に導入するインサート金属の厚さは、5μm以上が好ましい。5μm未満の場合、インサート金属成分が接合面全体にいきわたらず、接合が不完全となり強度が低下する可能性がある。
【0025】
タングステン-銅系合金複合材料のタングステンを含む層である第一部材10の厚さ、形状、幅、長さは用途に応じて自由に選択できる。通常、接合面の調整を行う上では、接合面の形状は平面である方が好ましい。
【0026】
タングステン-銅系合金複合材料のタングステンを含む層である第一部材10の組成は、用途に応じて自由に選択できる。耐熱性が求められる用途では、タングステンを含む層のタングステンの含有率は70質量%以上、好ましくは90質量%以上である。また、単一の組成のタングステンを含む層か、あるいは複数の組成のタングステンを含む層の組み合わせからなる部材も用いることができる。さらに場所によって材料の機能が変化する傾斜機能材料であってもよい。
【0027】
タングステン-銅系合金複合材料の銅系合金の第二部材20の厚さは、形状、幅、長さは用途に応じて自由に選択できる。通常、接合面の調整を行う上では、接合面の形状は平面である方が好ましい。
【0028】
タングステン-銅系合金複合材料の第二部材20を構成する銅系合金の組成は、用途により適宜決めることができる。本発明での銅系合金とは、銅を第一成分とする合金であり、例えば純銅(タフピッチ銅、無酸素銅、りん脱酸銅)、析出強化系銅合金(ベリリウム銅、クロム銅、クロムジルコニウム銅)、分散強化系銅合金(アルミナ分散銅等)などである。耐熱性が求められる用途の場合、融点が1000℃以上の銅合金が好ましい。また、単一の銅合金からなる部材か、あるいは複数の銅合金の組み合わせからなる部材も用いることができる。
【0029】
特に、タングステンを含む層と強度の高い銅系合金を接合する場合に、強度の低い純銅系の層を挟み込んだ3層の構造は、接合後の残留応力を軽減する効果が見込まれ、好ましい。タングステン-銅系合金複合材料の第二部材20を構成する銅系合金は、複数の銅合金の組み合わせからなる部材も用いることができる。特に、タングステンを含む層と、純銅系の層、純銅系の層よりも強度が高い銅系金属層のこの順の3層の積層構造は、強度が高い銅系合金とタングステンを含む層との接合で課題になる接合後の残留応力を軽減する効果が見込まれ、好ましい。純銅系の層の厚みは、0.2mm以上が好ましい。0.2mm未満の場合は、十分な応力緩衝効果が出ない可能性がある。純銅系の層の厚みは、1.5mm未満が好ましい。1.5mm以上の場合は、低強度の純銅系の層の比率が増えるため、複合材料全体の強度が低下するおそれがある。純銅系の層の厚みは、より好ましくは、0.5mm以上、1.0mm以下である。この範囲の厚みでは、十分な応力緩衝効果と複合材料全体の強度のバランスをとることができる。
【0030】
純銅系の層として、たとえば、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅がある。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0031】
(1)サンプルの作成
表1から5で示す、比較例である試料番号1から7のサンプル、および、実施例である試料番号11から36のサンプルを作成した。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
表1から5におけるC18150はUNS規格における銅の合金番号を表す。C1020は、JIS H3100(2012)における銅の合金番号を示す。
【0038】
(1-1)試料番号11から31(実施例1から21):タングステン-銅系合金複合材料の製造
(1-1-1)被接合材の調製工程
タングステンを含む層の原料としては、アルキメデス法による密度測定で相対密度99.5%以上、厚さが50mm、外径20mmの丸棒状のタングステン鍛伸材を用意した。
【0039】
このタングステン鍛伸材の接合面となる端面を平面研磨した。
基材となる銅系合金には、厚さが50mm、外径20mmの丸棒状のクロムジルコニウム銅を用意した。クロムジルコニウム銅丸棒の接合面となる端面を平面研磨した。
【0040】
インサート金属としては、厚さ25μm、純度99.6質量%以上の純チタン箔を用いた。
【0041】
上記3つの部材を、上からタングステン鍛伸材、純チタン箔、クロムジルコニウム銅丸棒の順に積層した後、固定のためこれらの積層物をC/Cコンポジット製の板、ボルト、ナットからなる治具で、両端面をネジで押さえることで固定した。
【0042】
被接合材の固定は、C/Cコンポジット製のボルト、ナットでの固定以外に、両部材の嵌めあいや、バネによる固定でも可能である。
【0043】
その後接合工程を経て、下記タングステン-銅系合金複合材を得ることができる。
(1-1-2)接合工程
固定した被接合材を雰囲気制御炉中で加熱することで接合した。アルゴン雰囲気で、昇温速度20℃毎分で950℃まで加熱、300分間保持した。接合工程により、直径20mm×長さ100mmのタングステン-銅系合金の複合材を得た。得られた複合材から、以降に示す、断面観察用に厚さ1mm×幅10mm×長さ10mm(タングステン部5mm、銅系合金部5mm)の寸法で1個、および、耐熱性評価用に厚さ1mm×幅10mm×長さ6mm(タングステン部1mm、銅系合金部5mm)の寸法で1個切り出した。また、せん断試験用サンプルとして、厚さ1mm×幅10mm×長さ6mm(タングステン部1mm、銅系合金部5mm)寸法に1個切り出した。
【0044】
接合工程での加熱中の雰囲気はアルゴン雰囲気の他に、真空、あるいは水素雰囲気のような還元雰囲気または窒素などの不活性雰囲気が好ましい。大気中加熱では、タングステン、インサート金属、銅系合金の酸化を引き起こし、接合が困難になるため不適切である。
【0045】
加熱温度は、920℃以上が好ましい。920℃未満であると、インサート金属と銅系合金との間の反応が不十分となり、界面の接合がおこらないおそれがある。
【0046】
加熱温度は、1050℃以下が好ましい。1050℃を超えると、銅系合金が溶融して接合できないおそれがある。
【0047】
保持時間は、180分以上が好ましい。180分未満では、インサート金属成分の拡散が不十分で、脆弱な金属間化合物が接合界面に生じやすく、また接合後の界面直下の銅系金属側に残留するインサート金属濃度が5.0原子%を超え、タングステン-銅系合金複合材料の耐熱性が低下するおそれがある。
【0048】
(1-1-3)断面評価
得られたサンプルを切り出し、断面を耐水ペーパー#500による粗研磨、ダイヤモンド懸濁液を用いたバフ研磨を行い鏡面とした後、電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8200)を用いて断面観察を行った。断面の微細構造は、反射電子像により観察し、タングステンを含む層としての第一部材10と銅系合金により構成される第二部材20が直接接合している様相を示しており、第3層としてのインサート金属は接合界面には見られなかった。接合界面直下のインサート金属成分の分析は、波長分散型X線分析により行った。タングステンを含む層のある点から、銅系合金のある点の2点間をライン分析し、タングステンを含む層の構成元素の総和と、銅系合金の構成元素の総和が等しくなる箇所を、タングステン-銅系合金複合材料における界面と定義した。その界面から銅系合金側に5μm進んだ箇所で、ISO 22489:2016の要領でスポット分析を行った。加速電圧15kV、ビーム電流50nA、スポット径10μmの電子線を照射した際の特性X線のスペクトルを分光した。ZAF法を行いて各元素の構成比を計算し、インサート金属成分の濃度を原子%で算出した。上記評価から、インサート金属成分が0.51原子%残部がCu、Cr,Zrの母材成分が検出された。このことから、インサート金属成分が薄く分布していることを確認した。
【0049】
実施例2から26(試料番号12から36)についても、第一部材10を構成するタングステンを含む層の組成、形状、寸法を様々に変化させ、かつ、第二部材20を構成する銅系合金の組成、形状、寸法を様々に変化させ、かつ、インサート金属の組成および厚みを様々に変化させて接合構造を作成した。
【0050】
(1-2)試料番号1から7(比較例1から7):タングステン-銅系合金複合材料の製造
試料番号1(比較例1)として、実施例1と同様の手法で、インサート金属を挟まずにタングステン-銅系合金接合品の製作を試みた。タングステン丸棒とクロムジルコニウム銅同士を重ね合わせ、C/Cコンポジット製の治具で固定した。その後、アルゴン雰囲気中で、950℃まで加熱、300分間保持したが、両部材の接合は起こらなかった。
【0051】
試料番号2(比較例2)として、ろう付けによるタングステン-銅系合金接合品を製作し、同様に電子線マイクロアナライザーを用いて断面評価を行った。タングステンを含む層の原料として、アルキメデス法による密度測定で相対密度99.5%以上、厚さが50mm、外径20mmの丸棒状のタングステン鍛伸材を用いた。銅合金としては、厚さが50mm、外径20mmの丸棒状のクロムジルコニウム銅を用いた。ろう材の選定は、接合の耐熱性を鑑みた際には液相出現温度が高いろう材を選定し、液相出現温度より十分高い温度でろう付けする。しかしながら同時に、母材を保護するため、母材の融点とろう付け時の温度が近接することは避けなければならない。比較例2では、市販の銅マンガンろう材(Cu-33原子%Mn、液相出現温度880℃)でろう付けすることで製作した。
【0052】
タングステン鍛伸材とクロムジルコニウム銅丸棒の表面を#180、#800の耐水ペーパーで研磨した後に、タングステン鍛伸材/銅マンガンろう材/クロムジルコニウム銅丸棒の順に積層した。接合工程は、積層した状態で上部に1kgfの荷重をかけた状態で真空中にて加熱し、ろう材の液相出現温度よりも十分高い960℃で150分間保持したのち、炉冷した。
【0053】
接合したサンプルは切り出した後、断面を耐水ペーパー#500による粗研磨、ダイヤモンド懸濁液を用いたバフ研磨を行い鏡面とした後、実施例1と同じ評価を行った(電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8200)。その結果、タングステンを含む層と銅系合金との間に、ろう材の凝固した層が見られた。接合界面から5μm銅合金側の箇所のインサート金属成分の分析では、Mnが10.1原子%、残部がCu、Cr,Zrの母材成分が検出された。
【0054】
試料番号3(比較例3)として、実施例1と同様の手法で、インサート金属として厚み100μmのチタン箔を使用し、タングステン-銅系合金接合品を作製した。タングステン丸棒とクロムジルコニウム銅同士を重ね合わせ、C/Cコンポジット製の治具で固定した。その後、アルゴン雰囲気中で、920℃まで加熱、170分間保持し接合した。接合したサンプルを実施例1と同様の手法で断面観察を行い、接合界面から5μm銅合金側の箇所でのインサート金属成分の分析では、10.2原子%のチタンが検出された。
【0055】
以上から、本実施例は、比較例に比べた場合、タングステンを含む層と銅系金属の間が連続的に接合されている、疑似的に直接接合がなされている事が認められた。
【0056】
比較例4から7(試料番号4から7)についても、第一部材10を構成するタングステンを含む層の組成、形状、寸法を様々に変化させ、かつ、第二部材20を構成する銅系合金の組成、形状、寸法を様々に変化させ、かつ、インサート金属の組成および厚みを様々に変化させて接合構造を作成した。
【0057】
なお、試料番号4(比較例4)は従来技術のろう付けによる接合で保持時間を変えた例である。
【0058】
試料番号5から7(比較例5から7),および試料番号12から29(実施例2から19)は、実施例1と同様の接合方法で、タングステンを含む層の組成や形状、インサート金属の厚さ及び組成、銅系合金の組成や形状、および接合温度や保持時間を変えた例である。
【0059】
試料番号30(実施例20)は、実施例1と同様の接合方法で、0.5mmの厚みの無酸素銅とクロムジルコニウム銅との間にも純チタン箔を導入して接合し、タングステン/チタン/無酸素銅―クロムジルコニウム銅の構造を作製した例である。なお、この構造の場合、無酸素銅―クロムジルコニウム銅間の接合は、ろう付けや圧着等の他の方法であっても構わない。試料番号32から36は、同様の方法で無酸素銅の厚さを変えて作製した例である。
【0060】
試料番号31(実施例21)は、実施例1と同様の接合方法で、タングステンを含む層に設けられた丸穴の内面に対し、無酸素銅の丸棒を接合した例である。
【0061】
これらの接合構造の詳細を表1から表5において示す。
(2)室温接合強度評価
各サンプルの接合強度の評価は、せん断強度試験で行った。
図2は、
図1における複合材料1のせん断試験を示す図である。厚さ1mm×幅10mm×長さ10mm(タングステン部1mm、銅系合金部9mm)で試験片を切り出した。その試験片を、表面のタングステンを含む層(第一部材10)の厚さ分だけ治具110から突き出した状態にセットし、タングステンを含む層に圧子120を当てて、万能試験機(インストロン社製 5985型)を用い、試験片が破断するまで圧縮方向(矢印130で示す方向)に加重を加えた。試験片が破断した際の荷重を試験片の断面積で除した値をせん断強度とした。実施例1で作製したサンプルのせん断強度が181MPaであり、試験片の破断箇所は、タングステンを含む層中での破壊で、接合強度としては母材のタングステンの強度と同等以上であると認められた。試料番号2-3(比較例2-3)のサンプルでも同様の評価を行った結果、それぞれ130MPa、131MPaでタングステン直下の接合界面で破断した。試料番号1から7および11から36(比較例1-7および実施例1-26)の結果を表6から表10に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
(3)耐熱性評価
本開示においては、母材の銅の絶対温度での融点(1357K)に対して95%の温度にあたる1289K以上の温度での再溶融の有無により耐熱性を評価した。
図3は、
図1における複合材料1の耐熱試験を示す図である。耐熱性評価用に厚さ1mm×幅2mm×長さ10mm(タングステン部5mm、銅系合金部5mm)の寸法で切り出した試験片としての複合材料1を、治具110に固定し、真空炉中で、1020℃(1293K)で熱処理した。再溶融の有無の確認は、熱処理前にマイクロスコープで試験片を撮影した画像と、熱処理後の試験片の画像とを比較して行い、液相の染み出しの有無や、接合界面での溶け落ち等を比較確認した。試料番号11(実施例1)の試験片は、1020℃においても溶融しない結果で、原形をとどめていることを確認した。試料番号2(比較例2)のサンプルについても同様の評価を行った結果、接合界面で再溶融し、所望の構造が得られなかった。
【0068】
以上の結果から、実施例は、比較例と比べた場合、耐熱性を有する接合がなされていることを確認した。
【0069】
試料番号3(比較例3)のサンプルについても同様の評価を行った結果、接合界面で再溶融し、所望の構造が得られなかった。
【0070】
接合構造を維持していた試料番号11(実施例1)のサンプルについては、後述する耐熱性評価後の接合強度試験を行った。
【0071】
(4)耐熱性評価後の接合強度評価
実施例1(試料番号11)については、耐熱性評価後のサンプルを、「(2)室温接合強度評価」と同様の要領でせん断試験を行った。試験の結果、183MPaでタングステンを含む層で母材破断した。このことから、高温にさらされたのちにも接合強度がほとんど変化しないことを確認した。
【0072】
上記以外の実施例も合わせて、表6から10に実施例と比較例の評価結果を示す。
耐熱性評価後の接合強度評価は、試料番号11(実施例1)の他に、試料番号17(実施例7)、試料番号24(実施例14)に対して行い確認した。
【0073】
これらの記載から、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むインサート金属の濃度は、第一部材10と第二部材20との接合界面30から第二部材20側に5μm進んだ箇所でのインサート金属の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である必要があることが分かった。当該箇所でのインサート金属の濃度は、0.1原子%以上5.0原子%以下が好ましい。当該箇所でのインサート金属の濃度は、0原子%を超え1.0原子%以下が好ましい。当該箇所でのインサート金属の濃度は、0.1原子%以上1.0原子%以下が最も好ましい。
【0074】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 複合材料 10 第一部材、20 第二部材、30 界面、110 治具、120 圧子。
【要約】
複合材料は、タングステンを含みタングステンを第一成分とする第一部材と、銅を含み銅を第一成分とし、第一部材に接合された第二部材と、第二部材内に存在する、チタン、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属とを備え、第一部材と第二部材との接合界面から第二部材側に5μm進んだ箇所での金属の濃度が0原子%を超え、5.0原子%以下である。