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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】エンジンの冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 11/18 20060101AFI20221213BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F01P11/18 A
F01P7/16 503
F01P7/16 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019080775
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020176579
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】横山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 貴史
(72)【発明者】
【氏名】和田 邦朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 賢宏
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183586(JP,A)
【文献】特開2015-81566(JP,A)
【文献】特開平10-220639(JP,A)
【文献】特開2015-110919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0073423(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0224883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/00
F01P 11/00
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって回転駆動されるウォータポンプを備えたエンジンの冷却装置であって、
前記ウォータポンプから吐出された冷却水を、エンジン本体を経由して循環させる冷却水経路と、
前記冷却水経路を開閉可能な流量制御弁と、
前記冷却水経路を流通する冷却水の圧力を検出する圧力センサと、
前記流量制御弁が故障しているか否かを判定する故障判定手段と、
前記流量制御弁に開閉指令を出力して当該流量制御弁を制御するバルブ制御手段とを備え、
前記故障判定手段は、
エンジン回転数が所定の基準回転数未満の場合は、前記流量制御弁を開弁状態から閉弁状態にする閉弁指令が前記バルブ制御手段から出されたときに前記圧力センサが検出した冷却水の圧力変化に基づいて前記流量制御弁の故障を判定する第1の故障判定を実施し、
エンジン回転数が前記基準回転数以上の場合は、前記流量制御弁を閉弁状態から開弁状態にする開弁指令が前記バルブ制御手段から出されたときに前記圧力センサが検出した冷却水の圧力変化に基づいて前記流量制御弁の故障を判定する第2の故障判定を実施する、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却装置において、
前記故障判定手段は、前記第1の故障判定の実施時は、前記冷却水の圧力上昇量が所定の第1判定上昇量以下の場合に前記流量制御弁が故障していると判定し、前記第2の故障判定の実施時は、前記冷却水の圧力低下量が所定の第2判定低下量以下の場合に前記流量制御弁が故障していると判定する、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンの冷却装置において、
前記バルブ制御手段は、前記冷却水経路を流通する冷却水の温度が所定の設定温度未満の場合は前記流量制御弁の開弁を禁止し、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合は前記流量制御弁の開弁を許可し、
前記故障判定手段は、前記冷却水の温度が前記設定温度未満の場合は前記第1の故障判定と前記第2の故障判定の実施を禁止し、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合は前記第1の故障判定と前記第2の故障判定の実施を許可する、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの冷却装置において、
前記バルブ制御手段は、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合、エンジン本体に形成された燃焼室の壁温が予め設定された目標温度となるように前記流量制御弁を開閉させる、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のエンジンの冷却装置において、
前記故障判定手段は、エンジンの始動後に前記第1の故障判定と前記第2の故障判定とがいずれも未実施である場合にのみ、前記第2の故障判定の実施を許可する、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンによって回転駆動されるウォータポンプを備えたエンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に設けられるエンジンは、エンジンによって回転駆動されるウォータポンプによってエンジン本体や補機類に冷却水が圧送されるように構成されている。また、冷却水が流通する経路にこれを開閉可能な流量制御弁を設けて、流量制御弁の開閉操作によって冷却水の流量を変更することも行われている。
【0003】
流量制御弁が設けられたエンジンでは、流量制御弁の故障によってエンジン本体等に適切な量の冷却水が供給されなくなるおそれがあるため、流量制御弁が故障しているか否かを判定することが求められる。これに対して、特許文献1には、冷却水が流通する経路に冷却水の温度を検出する温度センサを設けて、温度センサが検出した冷却水の温度の変化に基づいて流量制御弁が故障しているか否かを判定する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-76647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷却水の流量が変化した場合であっても、冷却水の温度は徐々にしか変化せず、冷却水の流量変化に対する冷却水の温度変化の応答性は低い。これより、特許文献1の構成、つまり、冷却水の温度の変化に基づいて流量制御弁が故障しているか否かを判定する構成では、流量制御弁が故障した場合であってもこの故障をすぐには検出できないという問題がある。そして、流量制御弁の故障の検出が遅れると、この故障への対応が遅れることでエンジン本体の温度が過度に高くなって損傷する、あるいは、エンジン本体の温度が過度に低くなってエンジン本体での燃焼が不安定になるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みて成されたものであり、より早期に且つ精度よく流量制御弁が故障しているか否かを判定できるエンジンの冷却装置を提供する、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、エンジンによって回転駆動されるウォータポンプを備えたエンジンの冷却装置であって、前記ウォータポンプから吐出された冷却水を、エンジン本体を経由して循環させる冷却水経路と、前記冷却水経路を開閉可能な流量制御弁と、前記冷却水経路を流通する冷却水の圧力を検出する圧力センサと、前記流量制御弁が故障しているか否かを判定する故障判定手段と、前記流量制御弁に開閉指令を出力して当該流量制御弁を制御するバルブ制御手段とを備え、前記故障判定手段は、エンジン回転数が所定の基準回転数未満の場合は、前記流量制御弁を開弁状態から閉弁状態にする閉弁指令が前記バルブ制御手段から出されたときに前記圧力センサが検出した冷却水の圧力変化に基づいて前記流量制御弁の故障を判定する第1の故障判定を実施し、エンジン回転数が前記基準回転数以上の場合は、前記流量制御弁を閉弁状態から開弁状態にする開弁指令が前記バルブ制御手段から出されたときに前記圧力センサが検出した冷却水の圧力変化に基づいて前記流量制御弁の故障を判定する第2の故障判定を実施する、ものである。
【0008】
冷却水経路を流通する冷却水の流量が変化すると冷却水経路内の冷却水の圧力はその温度に比べて早期に変化する。これに対して、本発明では、流量制御弁の開閉に伴って生じる冷却水の圧力変化に基づいて流量制御弁が故障しているか否かを判定している。これより、流量制御弁が故障しているか否かを早期に判定できる。
【0009】
しかも、本発明では、エンジン回転数が基準回転数未満の場合とエンジン回転数が基準回転数以上の場合とで判定方法を異ならせていることで、流量制御弁が故障しているか否かを精度よく判定できる。
【0010】
具体的には、エンジン回転数が高いときはウォータポンプの吐出量が大きいので、流量制御弁を全閉から開弁させたときの冷却水の流量および圧力の変化量は大きくなる。これより、エンジン回転数が高いときは、流量制御弁が正常に全閉から開弁する場合と正常に開閉しない場合とで冷却水の圧力変化の違いが明確になる。これに対して、本発明では、エンジン回転数が基準回転数以上の場合に、前記の第2の故障判定を実施して、流量制御弁に対して閉弁状態から開弁状態にする開弁指令が出されたときの冷却水の圧力変化、すなわち、前記のように流量制御弁が正常な場合と故障している場合とで明確に違いがみられるパラメータに基づいて流量制御弁の故障を判定している。そのため、流量制御弁が故障しているか否かを精度よく判定できる。また、エンジンが暖機されていないこと等に伴って流量制御弁が閉弁している状態からエンジンの暖機が完了して流量制御弁が開弁された直後に流量制御弁の故障を判定することが可能になるので、より一層早期にこの故障を検出することが可能となる。
【0011】
ただし、エンジン回転数が低いときは、ウォータポンプの吐出量が小さいことで流量制御弁の開弁に伴う冷却水の圧力変化が小さい。そのため、エンジン回転数が低いときは、前記第2の故障判定では流量制御弁の故障を精度よく検出できないおそれがある。これに対して、流量制御弁を開弁状態から閉弁状態にしたときは、冷却水がその慣性によって流量制御弁等に衝突するいわゆるウォータハンマー現象が生じることで、冷却水の流量が小さい場合であっても冷却水経路内の圧力が大きく上昇する。つまり、流量制御弁を開弁状態から閉弁状態に操作した場合には、エンジン回転数が低いときでも、流量制御弁が正常に閉弁したときと流量制御弁が正常に開閉しないときとで、冷却水の圧力変化の違いを明確にすることができる。従って、本発明では、エンジン回転数が基準回転数未満の場合に、前記の第1の故障判定を実施して、流量制御弁に対して開弁状態から閉弁状態にする閉弁指令が出されたときの冷却水の圧力変化に基づいて流量制御弁の故障を判定していることで、エンジン回転数が低いときにも流量制御弁の故障を精度よく判定できる。これより、エンジン回転数が高いときと低いときの双方で流量制御弁の故障を精度よく判定できる。
【0012】
前記構成において、好ましくは、前記故障判定手段は、前記第1の故障判定の実施時は、前記冷却水の圧力上昇量が所定の第1判定上昇量以下の場合に前記流量制御弁が故障していると判定し、前記第2の故障判定の実施時は、前記冷却水の圧力低下量が所定の第2判定低下量以下の場合に前記流量制御弁が故障していると判定する(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、冷却水の圧力上昇量あるいは圧力低下量と所定の値との比較によって流量制御弁が故障しているか否かを容易に判定できる。
【0014】
前記構成において、好ましくは、前記バルブ制御手段は、前記冷却水経路を流通する冷却水の温度が所定の設定温度未満の場合は前記流量制御弁の開弁を禁止し、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合は前記流量制御弁の開弁を許可し、前記故障判定手段は、前記冷却水の温度が前記設定温度未満の場合は前記第1の故障判定と前記第2の故障判定の実施を禁止し、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合は前記第1の故障判定と前記第2の故障判定の実施を許可する(請求項3)。
【0015】
この構成では、冷却水の温度が設定温度未満の場合であってエンジン本体の温度が低いときに流量制御弁が全閉とされて冷却水の循環が停止されるので、冷却水によってエンジン本体が冷却されるのを回避してエンジン本体の暖機を促進できる。しかも、冷却水の温度が設定温度未満の場合には第1の故障判定と第2の故障判定の実施が禁止されるので、冷却水の温度が設定温度未満の場合に、これら故障判定の実施に伴って流量制御弁が開弁されて冷却水によってエンジン本体が冷却されるのを回避できる。また、冷却水の温度が設定温度以上の場合には、冷却水によるエンジン本体の冷却が可能となるので、冷却水およびエンジン本体の温度が過度に高くなるのを防止できる。また、第1の故障判定と第2の故障判定の実施が許可されることで、流量制御弁の故障を判定することができる。
【0016】
また、本発明では、前記のように、第2の故障判定の実施によって、流量制御弁が全閉に維持されている状態から流量制御弁に開弁指令が出された直後に流量制御弁の故障を判定することが可能になる。これより、この構成によれば、エンジン本体の早期暖機と流量制御弁の故障の早期判定とを両立させることができる。
【0017】
前記構成において、好ましくは、前記バルブ制御手段は、前記冷却水の温度が前記設定温度以上の場合、エンジン本体に形成された燃焼室の壁温が予め設定された目標温度となるように前記流量制御弁を開閉させる(請求項4)。
【0018】
この構成によれば、流量制御弁の開閉によって燃焼室の壁温を適切な温度に制御しつつ、この流量制御弁の開閉時に前記第1の故障判定あるいは第2の故障判定を実施することで流量制御弁の故障を精度よく判定することができる。
【0019】
前記構成において、好ましくは、前記故障判定手段は、エンジンの始動後に前記第1の故障判定と前記第2の故障判定とがいずれも未実施である場合にのみ、前記第2の故障判定の実施を許可する(請求項5)。
【0020】
前記のように、第2の故障判定によれば、流量制御弁が全閉に維持されている状態から流量制御弁に開弁指令が出された直後に流量制御弁の故障を判定することができる。そのため、この構成によれば、エンジンの始動後に記第1の故障判定と第2の故障判定とがいずれも未実施である場合に第2の故障判定の実施が許可されることで、エンジン始動後のより早いタイミングで流量制御弁の故障を判定することが可能になる。ここで、第1の故障判定と第2の故障判定が既に実施されて流量制御弁が故障しているか否かの判定が既に実施された後では、流量制御弁の故障を再度早期に判定する必要性は小さい。これに対して、この構成では、第1の故障判定あるいは第2の故障判定が既に実施された後は第2の故障判定の実施が停止されるので、前記のように流量制御弁の故障の効果的な早期判定を実現しながら、制御構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明のエンジンの冷却装置によれば、より早期に且つ精度よく流量制御弁が故障しているか否かを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明が適用されるエンジンの全体構成を概略的に示すシステム図である。
図2】エンジンの冷却装置の全体構成を概略的に示す回路図である。
図3】エンジン本体の要部を示す概略断面図である。
図4】流量制御弁の概略断面図である。
図5】流量制御弁の開度変化およびこれに伴う冷却水の圧力変化を示した図である。
図6】エンジンの制御系統を示すブロック図である。
図7】流量制御弁の初回の故障判定の手順を示すフローチャートである。
図8】流量制御弁の通常の故障判定の手順を示すフローチャートである。
図9】エンジン回転数が低いときの流量制御弁の開度と冷却水の圧力を示した図である。
図10】エンジン回転数が高いときの流量制御弁の開度と冷却水の圧力を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用エンジン(以下、単にエンジンという)の好ましい実施形態を示す図である。図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50とを備えている。
【0025】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒2を有する多気筒型のものであるが、ここでは簡略化のため、1つの気筒2のみに着目して説明を進める。
【0026】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復運動する。
【0027】
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、コネクティングロッド8を介してピストン5と連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0028】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1が組付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転数(エンジン回転数)を検出する。
【0029】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0030】
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と吸入空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。
【0031】
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。
【0032】
過給機33は、電磁クラッチ34を介してエンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33としては、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを用いることができる。
【0033】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0034】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0035】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51を開閉するEGR弁53と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガスを熱交換により冷却する。
【0036】
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、13以上30以下、好ましくは14以上18以下の高圧縮比に設定される。
【0037】
本実施形態では、エンジン回転数が所定の回転数以下の低速領域において、混合気の一部を圧縮着火させるSPCCI燃焼が実施されるようになっている。これより、混合気の圧縮着火が適切に実現されるように、気筒2の幾何学的圧縮比が前記のような比較的高い値とされている。
【0038】
SPCCI燃焼とは、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼である。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮等により十分に高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、このSI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる燃焼形態である。つまり、低速領域では、燃料と空気とを予め混合しておき、この混合気の一部を点火プラグ16からの点火によって強制的に燃焼させて、この燃焼による熱エネルギーによって残りの混合気を圧縮着火させる。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。一方、本実施形態では、前記低速領域よりもエンジン回転数が高い高速領域では、一般的なSI燃焼が実施される。
【0039】
(2)冷却装置の全体構成
図2は、エンジンの冷却装置60の全体構成を示す回路図である。同図に示すように、冷却装置60は、ウォータポンプ(W/P)61と、ラジエータ(RAD)71と、冷却水を循環させるための複数の冷却水経路62~66(メイン冷却水経路62、EGR用冷却水経路63、ATF用冷却水経路64、連絡経路65、バルブ用経路66)とを備えている。
【0040】
ウォータポンプ61は、冷却水を吐出するためのポンプであり、シリンダブロック3の一側面に組付けられている。ウォータポンプ61は、エンジン本体1によって回転駆動される。具体的には、ウォータポンプ61は、ベルトを介してクランク軸7と連結されており、クランク軸7によって回転駆動されて冷却水を吐出する。
【0041】
ラジエータ71は、冷却水を冷却するための熱交換器であり、冷却水はラジエータ71を通過した際に車両の走行風等によって冷却される。
【0042】
(メイン冷却水経路)
図2の実線矢印で示すように、メイン冷却水経路62は、ウォータポンプ61から吐出される冷却水を、シリンダブロック3に形成されたブロック側ウォータジャケット62a、シリンダヘッド4に形成された燃焼室側ウォータジャケット62b、およびラジエータ71を経由してウォータポンプ61に戻すように循環させる経路である。
【0043】
燃焼室側ウォータジャケット62bは、図3に示すように、シリンダヘッド4のうちの燃焼室6の近傍であって吸気ポート9および排気ポート10の各バルブシート部の周辺に形成されたウォータジャケットである。
【0044】
メイン冷却水経路62におけるラジエータ71とウォータポンプ61との間の位置、詳細には、図2の実線矢印で示す冷却水の流れ方向について、ラジエータ71よりも下流側で且つウォータポンプ61よりも上流側となる位置には、第1サーモスタットバルブ72が設けられている。
【0045】
第1サーモスタットバルブ72は、メイン冷却水経路62を開閉する弁本体72a(以下、TSバルブ本体72aという)であって、TSバルブ本体72aを通過する冷却水の温度が所定の開弁温度以上のときに開弁して(全開となって)冷却水の温度が開弁温度未満のときに閉弁する(全閉となる)TSバルブ本体72aを備える。第1サーモスタットバルブ72は、前記の開弁温度を変更可能な可変式のサーモスタットバルブであり、開弁温度を変更するためのサーモスタットヒータ72bを備える。サーモスタットヒータ72bは通電されることで発熱する。サーモスタットヒータ72bへの通電量が大きいほど開弁温度は低くなる。つまり、サーモスタットヒータ72bへの通電量が大きくサーモスタットヒータ72bの温度が高いときの方が、サーモスタットヒータ72bへの通電量が小さくサーモスタットヒータ72bの温度が低いときよりも、冷却水の温度がより低いタイミングでTSバルブ本体72aは開弁する。サーモスタットヒータ72bへの通電量は、後述するPCM100によって制御される。
【0046】
冷却水の温度が前記の開弁温度以上であって第1サーモスタットバルブ72(TSバルブ本体72a)が開弁しているときは、冷却水はメイン冷却水経路62内を流通してラジエータ71によって冷却される。一方、第1サーモスタットバルブ72が閉弁しているときは、冷却水のメイン冷却水経路62内の流通は停止され、ラジエータ71による冷却水の冷却は停止される。
【0047】
メイン冷却水経路62には、これを流通する冷却水の温度を検出する第1水温センサSN3と第2水温センサSN4とが設けられている。第1水温センサSN3は、ウォータポンプ61とシリンダブロック3との間の位置、詳細には、図2の実線矢印で示す冷却水の流れ方向についてウォータポンプ61よりも下流側で且つシリンダブロック3よりも上流側となる位置に、設けられており、この位置を通過する冷却水の温度を検出する。第2水温センサSN4は、シリンダヘッド4とラジエータ71との間の位置、詳細には、図2の実線矢印で示す冷却水の流れ方向についてシリンダヘッド4よりも下流側で且つラジエータ71よりも上流側となる位置に、設けられており、この位置を通過する冷却水の温度を検出する。以下では、適宜、第1水温センサSN3により検出された冷却水の温度をエンジン水温という。ここで、第1サーモスタットバルブ72のTSバルブ本体72aを通過する冷却水の温度は第1水温センサSN3により検出されるエンジン水温とほぼ同じであり、このエンジン水温に応じて第1サーモスタットバルブ72は開閉する。
【0048】
(EGR用冷却水経路)
EGR用冷却水経路63は、メイン冷却水経路62の一部をバイパスする経路である。
【0049】
図2の一点鎖線矢印で示すように、EGR用冷却水経路63には、メイン冷却水経路62に含まれるブロック側ウォータジャケット62aを流通する冷却水の一部が導入される。ブロック側ウォータジャケット62aからEGR用冷却水経路63に導入された冷却水は、EGRクーラ(EGR/C)52、空調用のヒータコア74、シリンダヘッド4に形成された排気ポート側ウォータジャケット63bを経由してウォータポンプ61に戻る。
【0050】
排気ポート側ウォータジャケット63bは、図3に示すように、燃焼室側ウォータジャケット62bよりも下流側(排気ガスの流動方向における下流側)の位置で排気ポート10の周囲に形成されたウォータジャケットである。
【0051】
このように、本実施形態では、ブロック側ウォータジャケット62aを含むメイン冷却水経路62の一部とEGR用冷却水経路63とによって、メイン冷却水経路62とは別の経路で、ウォータポンプ61とエンジン本体1とを経由して冷却水を循環させる経路160が形成されている。本実施形態では、このブロック側ウォータジャケット62aを含むメイン冷却水経路62の一部とEGR用冷却水経路63とによって形成される冷却水の流通経路160が、請求項の「冷却水経路」に相当する。
【0052】
EGR用冷却水経路63におけるシリンダヘッド4とウォータポンプ61との間の位置、詳細には、図2の一点鎖線矢印で示す冷却水の流れ方向について、シリンダヘッド4よりも下流側且つウォータポンプ61よりも上流側の位置に、流量制御弁(S/V)75が介設されている。
【0053】
図4は、流量制御弁75の概略断面図である。図5は、流量制御弁75の開度(図4の上側のグラフ)と、EGR用冷却水経路63内の冷却水の圧力であって後述する圧力センサSN5で検出された圧力(図4の下側のグラフ)とを示した図である。なお、図4の下側のグラフでは、冷却水の圧力の変化が模式的に示されている。
【0054】
流量制御弁75は、ソレノイド式の開閉弁であって、EGR用冷却水経路63を開閉する弁本体75aと、電力の供給を受けて弁本体75aを駆動する駆動部75bとを備える。流量制御弁75は、ノーマルオープンタイプであり、駆動部75bに対する電力供給が停止されると弁本体75aは全開になる。
【0055】
駆動部75bは、弁本体75aが所定の周波数で開閉するようにこれをデューティ駆動する。つまり、流量制御弁75は、DUTYコントロールバルブであり、図5に示すように、弁本体75aは全開と全閉とを繰り返すように駆動される。そして、1回の通電停止期間つまり弁本体75aの開弁期間T1と、1回の通電期間つまり弁本体75aの閉弁期間T2と、を合わせた期間(1周期)T、に対する1回の通電期間つまり1回の閉弁期間T2の割合であるDUTY比が変更されることで、弁本体75aを通過する冷却水の流量が変更される。流量制御弁75の駆動部75bに供給される電力は、流量制御弁75に併設されたCSV制御装置110と後述するPCM100とにより制御される。CSV制御装置110は、後述するPCM100からの指令を受けて、指令された周期および指令されたDUTY比で駆動部75bに電力を供給する。以下では、適宜、流量制御弁75の1周期Tに対する通電期間つまり閉弁期間T2の割合を単に流量制御弁75のDUTY比という。
【0056】
前記のように、流量制御弁75がノーマルオープンタイプであることから、流量制御弁75のDUTY比が0%とされて駆動部75bに対する電力供給が停止されると流量制御弁75の弁本体75aは全開になる。一方、流量制御弁75のDUTY比が100%とされて駆動部75bに対して連続して電力が供給されると、弁本体75aは全閉に維持される。
【0057】
詳細には、駆動部75bは、電力の供給を受けて電磁力を発生させるコイル171と、コイル171で発生した電磁力により磁化される固定コア172と、固定コア172に対して接離する方向に移動可能な可動コア173と、可動コア173に連結されてこれと一体に移動するドライブピン174と、ドライブピン174の先端に取り付けられるリテーナー175と、固定コア172とリテーナー175との間に配置されるスプリング176とを有する。弁本体75aは、ドライブピン174と連結されており、ドライブピン174および可動コア173と一体に移動する。スプリング176は、図4の上方であって弁本体75aが開弁する方向にリテーナー175を付勢するように配設されている。コイル171に電力が供給されると、図4に示すように可動コア173が固定コア172に吸引されて弁本体75aは全閉になる。一方、コイル171への電力供給が停止されると、スプリング176の付勢力によってリテーナー175および弁本体75aは図4における上側に移動し、弁本体75aは全開となる。
【0058】
EGR用冷却水経路63には、これを流通する冷却水の圧力を検出する圧力センサSN5が設けられている。圧力センサSN5は、シリンダヘッド4と流量制御弁75との間の位置、詳細には、図2の一点鎖線矢印で示す冷却水の流れ方向についてシリンダヘッド4よりも下流側で且つ流量制御弁75よりも上流側となる位置に、設けられており、この位置を通過する冷却水の圧力を検出する。
【0059】
EGR用冷却水経路63は、ヒータコア74と流量制御弁75との間の位置で、連絡経路65を介してメイン冷却水経路62に接続されている。具体的には、シリンダヘッド4には、燃焼室側ウォータジャケット62bと排気ポート側ウォータジャケット63bとをつなぐ連絡経路65が形成されている。シリンダヘッド4内において、この連絡経路65によってEGR用冷却水経路63とメイン冷却水経路62とは接続されている。
【0060】
バルブ用経路66は、燃焼室側ウォータジャケット62bと、EGR用冷却水経路63のうちのヒータコア74と排気ポート側ウォータジャケット63bとの間の部分とをつなぐ経路である。燃焼室側ウォータジャケット62b内の冷却水の一部は、バルブ用経路66を通って、スロットル弁(ETB)32およびバイパス弁(ABV)39を経由してEGR用冷却水経路63に合流する。
【0061】
(ATF用冷却水経路)
ATF用冷却水経路64は、EGR用冷却水経路63とは別に、メイン冷却水経路62の一部をバイパスする経路であり、ブロック側ウォータジャケット62aとウォータポンプ61とをつないでいる。図2中の破線矢印で示すように、ブロック側ウォータジャケット62a内の冷却水の一部は、メイン冷却水経路62から分流して、ATFウォーマ(ATF/W)76およびオイルクーラ(O/C)77を経由した後ウォータポンプ61に戻る。ATFウォーマ76は、ATF(オートマチックトランスミッションフルード)つまりトランスミッションで利用される液体を温めるための装置であり、オイルクーラ77は、エンジン本体1等に供給される潤滑油を冷却するための装置である。
【0062】
ATF用冷却水経路64のうち、ATFウォーマ76とメイン冷却水経路62(ブロック側ウォータジャケット62a)との接続部分との間の部分には、この部分を開閉する第2サーモスタットバルブ(T/S)78が介設されている。第2サーモスタットバルブ78は、開弁温度が固定されたサーモスタットバルブである。
【0063】
(3)制御系統
図6は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0064】
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、前述のクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、第1水温センサSN3、第2水温センサSN4、圧力センサSN5と電気的に接続されている。PCM100には、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、吸気流量、エンジン水温、シリンダヘッド4の出口における冷却水の温度、冷却水の圧力)が逐次入力される。また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサSN6が設けられており、アクセルペダルセンサSN6による検出信号もPCM100に逐次入力される。
【0065】
PCM100は、各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。PCM100は、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、EGR弁53、ウォータポンプ61、サーモスタットヒータ72b(第1サーモスタットバルブ72)およびCSV制御装置110(流量制御弁75)等と電気的に接続されており、前記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0066】
PCM100は、所定のプログラムが実行されることによって、燃焼制御部101、冷却水制御部102、および故障判定部103を機能的に具備する。冷却水制御部102は、請求項の「バルブ制御手段」に相当し、故障判定部103は請求項の「故障判定手段」に相当する。
【0067】
(燃焼制御部)
燃焼制御部101は、燃焼室6での混合気の燃焼を制御する制御モジュールである。燃焼制御部101は、エンジン出力がドライバーの要求に応じた適切な値となるようにエンジンの各部(インジェクタ15、点火プラグ16‥‥等)を制御する。具体的には、燃焼制御部101は、アクセルペダルセンサSN6で検出されたアクセルペダルの開度とエンジン回転数等に基づいてエンジン出力の要求値である要求出力を算出し、この要求出力に基づいて燃焼室6に導入すべき空気の量および燃料の量を算出する。そして、算出した空気量と燃料量とが燃焼室6に導入されるようにスロットル弁32およびインジェクタ15を駆動する。また、燃焼制御部101は、低速領域においてSPCCI燃焼が実現され、高速領域においてSI燃焼が実現されるように、点火プラグ16の点火時期や、EGR弁53の開度等を変更する。
【0068】
(冷却水制御部)
冷却水制御部102は、冷却装置60を制御する制御モジュールである。ここでは、冷却水制御部102により行われる第1サーモスタットバルブ72および流量制御弁75の制御について説明する。
【0069】
冷却水制御部102は、第1サーモスタットバルブ72の開弁温度を決定して第1サーモスタットバルブ72のサーモスタットヒータ72bへの通電量を変更する。
【0070】
冷却水制御部102は、燃焼室6の壁温に応じて、第1サーモスタットバルブ72の開弁温度を、第1温度とこれよりも低い第2温度とに切り替える。具体的には、燃焼室6の壁温が所定の基準壁温未満のときは、冷却水制御部102は、第1サーモスタットバルブ72の開弁温度を第1温度に設定し、サーモスタットヒータ72bの温度がこれに対応した温度となるようにサーモスタットヒータ72bへの通電量を調整する。一方、燃焼室6の壁温が基準壁温以上のときは、冷却水制御部102は、第1サーモスタットバルブ72の開弁温度を第2温度に設定し、サーモスタットヒータ72bの温度がこれに対応した温度となるようにサーモスタットヒータ72bへの通電量を調整する。これにより、エンジン水温が第1温度未満であってエンジン本体1の暖機が完了していないときは、ラジエータ71によって冷却された冷却水がエンジン本体1に供給されるのが禁止され、エンジン本体1の暖機が促進される。これに対して、エンジン水温が第1温度以上に上昇してエンジン本体1の暖機が完了すると、ラジエータ71によって冷却された冷却水のエンジン本体1への供給が開始されて、冷却水によるエンジン本体1の冷却が開始される。ただし、燃焼室6の壁温が基準壁温以上のときは、エンジン水温が第1温度未満であっても第2温度以上であれば第1サーモスタットバルブ72は開弁され、ラジエータ71によって冷却された冷却水のエンジン本体1への供給が実施される。
【0071】
第1温度と第2温度とは予め設定されてPCM100に記憶されている。例えば、第1温度は90℃程度に設定され、第2温度は80℃程度に設定される。また、基準壁温は、SPCCI燃焼が適切に実現される温度であって、エンジン水温が120℃程度、例えば116℃となるときの燃焼室6の壁温に設定される。
【0072】
第1サーモスタットバルブ72の開弁温度の切替の基準となる燃焼室6の壁温には、推定値が用いられる。冷却水制御部102は、第2水温センサSN4で検出された冷却水の温度に基づいて燃焼室6の壁温を推定する。
【0073】
冷却水制御部102は、流量制御弁75のDUTY比を決定して、流量制御弁75(弁本体75a)がこのDUTY比で開閉されるように、CSV制御装置110に指令を出す。
【0074】
エンジン水温が第1温度未満であってエンジン本体1の暖機が完了していないときは、冷却水制御部102は、流量制御弁75の開弁を禁止し、そのDUTY比を100%にして流量制御弁75を全閉に維持する。このように、本実施形態では、エンジン水温が第1温度未満のときに流量制御弁75の開弁が禁止されるようになっており、この第1温度が、請求項の「設定温度」に相当する。
【0075】
一方、エンジン水温が第1温度以上のときは、流量制御弁75の開閉が許容され、冷却水制御部102は、燃焼室6の壁温がその目標値である目標壁温となるように流量制御弁75のDUTY比を決定する。この燃焼室6の壁温にも、推定値が用いられる。目標壁温は予め設定されて冷却水制御部102に記憶されている。本実施形態では、目標温度は前記の基準壁温以下の温度に設定されている。
【0076】
具体的には、燃焼室6の壁温が目標壁温よりも高いときは、冷却水制御部102は、流量制御弁75のDUTY比を小さくして流量制御弁75の開弁期間T1を長くする。流量制御弁75の開弁期間T1が長くなると、流量制御弁75が配設されたEGR用冷却水経路63に含まれるブロック側ウォータジャケット62aおよび排気ポート側ウォータジャケット63bを流通する冷却水の流量は多くなる。これにより、エンジン本体1の冷却が促進されて燃焼室6の壁温は低下する。一方、燃焼室6の壁温が目標壁温よりも低いときは、冷却水制御部102は、流量制御弁75のDUTY比を大きくして流量制御弁75の開弁期間T1を短くして、ブロック側ウォータジャケット62aおよび排気ポート側ウォータジャケット63bを流通する冷却水の流量を低下させる。これにより、エンジン本体1の冷却が抑制されて燃焼室6の壁温は上昇する。
【0077】
ここで、前記のように、第2サーモスタットバルブ78の開弁温度は固定されており、エンジンの運転状態に関わらずエンジン水温が所定の温度以上になると第2サーモスタットバルブ78は開弁する。第2サーモスタットバルブ78の開弁温度は、第1温度よりも低い温度、例えば、50℃に設定されている。
【0078】
前記の構成により、エンジン水温が第2サーモスタットバルブ78の開弁温度よりも低い状態でエンジンが始動された場合、つまり、エンジンが冷間始動された場合は、始動直後において、第1、第2サーモスタットバルブ78および流量制御弁75は全て閉弁状態に維持される。これにより、冷却水によるエンジン本体1の冷却は行われずエンジン本体1の暖機が促進される。エンジン本体1の暖機が進んでエンジン水温が第2サーモスタットバルブ78の開弁温度以上になると、第2サーモスタットバルブ78が開弁する。これにより、ATF用冷却水経路64を冷却水が流通するようになり、ブロック側ウォータジャケット62a内で昇温された冷却水がATFウォーマ76に導入されてATFが温められる。冷却水がさらに昇温して第1温度以上になると、つまり、エンジン本体1の暖機が完了すると、第2サーモスタットバルブ78が開弁する。これにより、前記のようにラジエータ71による冷却水の冷却が開始し、この冷却された冷却水によるエンジン本体1の冷却が開始される。また、冷却水が第1温度以上になると、流量制御弁75の開弁が許可されるようになり、燃焼室6の壁温が目標壁温となるように流量制御弁75が開閉される。
【0079】
(故障判定部)
故障判定部103は、流量制御弁75が故障しているか否かを判定する制御モジュールである。故障判定部103により実施される流量制御弁75の故障判定の手順について、図7図8のフローチャートを用いて説明する。図7は、エンジン始動後に最初に実施される故障判定(初回の故障判定)の手順を示しており、図8は、エンジン始動後で且つ初回の故障判定が終了した後に実施される故障判定の手順を示している。
【0080】
まず、ステップS1にて、故障判定部103は、各センサの検出値を読み込む。故障判定部103は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転数、第1水温センサSN3により検出された冷却水の温度つまりエンジン水温、圧力センサSN5で検出された冷却水の圧力等を読み込む。
【0081】
次に、ステップS2にて、故障判定部103は、故障判定許可条件が成立しているか否かを判定する。故障判定許可条件が非成立のときは、故障判定部103はステップS3以降の故障判定を行わずに処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、故障判定許可条件が成立しているときは、故障判定部103はステップS3に進む。本実施形態では、エンジン回転数がアイドル回転数よりも低い所定の回転数以上であってエンジンの始動が完了しており、且つ、各センサが故障していないときに故障判定許可条件が成立していると判定される。
【0082】
ステップS3にて、故障判定部103は、エンジン水温が第1温度以上であるか否かを判定する。ステップS3の判定がNOであってエンジン水温が第1温度未満である、つまり、エンジン本体1の暖機が完了していないときは、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0083】
一方、ステップS3の判定がYESであってエンジン水温が第1温度以上でありエンジン本体1の暖機が完了しているときは、ステップS4に進む。ステップS4にて、故障判定部103は、流量制御弁75の初回の故障判定が未完了であるか否かを判定する。つまり、エンジンが始動されてから流量制御弁75の故障判定が1度も実施されていないか否かを判定する。
【0084】
ステップS4の判定がNOであって流量制御弁75の初回の故障判定が完了している場合は、図8に示すフローチャートのステップS21に進む。
【0085】
一方、ステップS4の判定がYESであって流量制御弁75の初回の故障判定が未完了である場合は、ステップS5に進む。ステップS5にて、故障判定部103は、現在のエンジン回転数が予め設定された基準回転数未満であるか否かを判定する。基準回転数は、予め設定されてPCM100に記憶されている。基準回転数は、例えば、2000rpm程度に設定される。
【0086】
ステップS5の判定がYESであってエンジン回転数が基準回転数未満のときは、ステップS6に進む。
【0087】
ステップS6にて、故障判定部103は、流量制御弁75に対して開弁状態から閉弁状態にする閉弁指令が出されたか否かを判定する。前記のように、エンジン水温が第1温度以上のときは、流量制御弁75のDUTY比は燃焼室6の壁温に基づいて決定されるようになっている。また、流量制御弁75は、そのDUTY比が100%とされると全閉に維持され、0%とされると全開に維持されるようになっている。また、流量制御弁75は、そのDUTY比が0%以上且つ100%未満とされると開閉を繰り返す、つまり、周期的に開弁状態から閉弁状態への切替が行われるようになっている。これより、ステップS6にて、故障判定部103は、冷却水制御部102によって、流量制御弁75のDUTY比が、0%から100%に変更される、あるいは、100%よりも小さく且つ0%よりも大きい値に決定されると、流量制御弁75に対して前記の閉弁指令が出されたと判定する。ステップS6の後はステップS7に進む。
【0088】
ステップS7にて、故障判定部103は、流量制御弁75の閉弁に伴うEGR用冷却水経路63内の冷却水の圧力の上昇量を算出して、後述するステップS10で用いる判定量に設定する。
【0089】
流量制御弁75が閉弁すると、冷却水は流量制御弁75により堰き止められる。このとき、EGR用冷却水経路63内の冷却水はその慣性によって流量制御弁75や配管等に衝突し、いわゆるウォータハンマー現象が生じることになる。これより、図5に示すように、流量制御弁75が閉弁すると(時刻t1等において)、EGR用冷却水経路63内の圧力はP1からP2に急上昇する。ステップS7では、この圧力の上昇量を算出する。具体的には、流量制御弁75が閉弁しているタイミングで圧力センサSN5により検出された圧力から、流量制御弁75が閉弁する直前のタイミングで圧力センサSN5により検出された圧力を差し引いた値を、前記の圧力の上昇量として算出する。そして、この算出値を判定量に決定する。ステップS7の後はステップS10に進む。
【0090】
一方、ステップS5の判定がNOであってエンジン回転数が基準回転数以上のときは、ステップS8に進む。ステップS8にて、故障判定部103は、流量制御弁75に対して閉弁状態から開弁状態にする開弁指令が出されたか否かを判定する。具体的には、故障判定部103は、冷却水制御部102によって流量制御弁75のDUTY比が、100%からそれ以外の値に変更される、あるいは、100%よりも小さく且つ0%よりも大きい値に決定されると、前記の開弁指令が出されたと判定する。ステップS8の後はステップS9に進む。
【0091】
ステップS9にて、故障判定部103は、流量制御弁75の開弁に伴うEGR用冷却水経路63内の冷却水の圧力の低下量を算出して、後述するステップS10で用いる判定量に設定する。図5に示すように、流量制御弁75が開弁すると(時刻t11等において)、冷却水の流路面積が増大することでEGR用冷却水経路63内の冷却水の圧力はP11からP1に低下する。ステップS9では、この圧力の低下量を算出する。具体的には、流量制御弁75が閉弁しているタイミングで圧力センサSN5により検出された圧力から、流量制御弁75が開弁した後のタイミング(続いて流量制御弁75が閉弁するときはこの閉弁前のタイミング)で圧力センサSN5により検出された圧力を差し引いた値を、前記の圧力の低下量として算出する。そして、この算出値を判定量に決定する。ステップS9の後はステップS10に進む。
【0092】
ステップS10にて、故障判定部103は、ステップS7あるいはステップS9で決定した判定量(圧力上昇量あるいは圧力低下量)が予め設定された判定閾値よりも大きいか否かを判定する。この判定がYESであって判定量が判定閾値よりも大きい場合は、ステップS11に進み、故障判定部103は、流量制御弁75が正常であると判定する。一方、この判定がNOであって判定量が判定閾値以下の場合は、ステップS12に進み、故障判定部103は、流量制御弁75が異常である、つまり、故障していると判定する。判定閾値は0より大きい値に予め設定されて故障判定部103に記憶されている。前記の判定閾値は、請求項の「第1判定上昇量」および「第2判定低下量」に相当する。
【0093】
このように、初回の故障判定においてエンジン回転数が基準回転数未満のときは、流量制御弁75に閉弁指令が出されたときの冷却水の圧力上昇量に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定する第1の故障判定が実施される。一方、初回の故障判定においてエンジン回転数が基準回転数以上のときは、流量制御弁75に閉弁指令が出されたときの冷却水の圧力低下量に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定する第2の故障判定が実施される。
【0094】
次に、ステップS4の判定がNOの場合に進むステップS21以降の処理について説明する。
【0095】
ステップS21にて、故障判定部103は、ステップS6と同様に、流量制御弁75に対して閉弁指令が出されたか否かを判定する。この判定がNOであって流量制御弁75に対して閉弁指令が出されなかった場合は、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、この判定がYESであって流量制御弁75に対して閉弁指令が出された場合は、ステップS22に進む。ステップS22にて、故障判定部103は、ステップS7と同様に、圧力センサSN5の検出値に基づいて、流量制御弁75の閉弁に伴うEGR用冷却水経路63内の冷却水の圧力の上昇量を算出して、判定量に設定する。ステップS22の後は、ステップS23に進む。ステップS23にて、故障判定部103は、ステップS10と同様に、判定量が判定閾値より大きいか否かを判定する。
【0096】
ステップS23の判定がYESであって判定量が判定閾値よりも大きい場合は、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。つまり、初回の故障判定の結果を維持する。一方、ステップS23の判定がNOであって判定量が判定閾値以下の場合は、ステップS24に進む。ステップS24では、異常カウンタをカウントアップする。異常カウンタは、ステップS23の判定がNOになると1ずつ加算されるカウンタであり、エンジンが停止すると0にリセットされる。ステップS24の後はステップS25に進む。
【0097】
ステップS25にて、故障判定部103は、異常カウンタが予め設定された異常判定回数より大きいか否かを判定する。ステップS25の判定がYESであって異常カウンタが異常判定回数よりも大きい場合は、故障判定部103は、ステップS26に進み、流量制御弁75が異常であると判定して処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、ステップS25の判定がNOであって異常カウンタが異常判定回数以下の場合は、故障判定部103は、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、異常判定回数は、0より大きい値に予め設定されて故障判定部103に記憶されている。
【0098】
このように、初回の故障判定が終了した後は、エンジン回転数に関わらず、流量制御弁75に閉弁指令が出されたときの冷却水の圧力上昇量に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定するとともに、この圧力上昇量が判定閾値以下となった回数が異常判定回数よりも大きいときに流量制御弁75が異常であると判定する。
【0099】
(4)作用等
以上のように、本実施形態では、流量制御弁75が配設されたEGR用冷却水経路63内に生じる流量制御弁75の開閉時(開閉指令時)の圧力変化に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定している。図5に示すように、冷却水の圧力は流量制御弁75の開閉に伴って敏感に変換する。そのため、冷却水の圧力変化に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定するように構成されていることで、本実施形態によれば、早期に且つ精度よくこの判定を行うことができる。
【0100】
さらに、本実施形態では、流量制御弁75の初回の故障判定時に、エンジン回転数が基準回転数未満の場合とエンジン回転数が基準回転数以上の場合とで判定方法を異ならせている。そのため、流量制御弁75が故障しているか否かをより精度よく判定できる。
【0101】
図9図10を用いて具体的に説明する。図9は、エンジン回転数が高いときに流量制御弁75を開閉させたときの流量制御弁75の開度と、冷却水の圧力の時間変化を示したグラフである。図10は、エンジン回転数が低いときのこれらの時間変化を示したグラフである。エンジン回転数が高いときはウォータポンプ61の吐出量が大きい。そのため、図9に示すように、エンジン回転数が高いときは、流量制御弁75が正常に開閉すれば、流量制御弁75を時刻t21にて全閉から全開にしたときの冷却水の流量の変化が大きくなり、これに伴って冷却水の圧力の変化量dP1も大きくなる。ここで、流量制御弁75が正常に開閉しなければ冷却水の流量変化はなく、冷却水の圧力の変化量はほとんどゼロになる。これより、エンジン回転数が高いときは、流量制御弁75が正常に全閉から開弁した場合と正常に開閉しない場合とで冷却水の圧力変化の違いが明確になる。
【0102】
これに対して、本実施形態では、エンジン回転数が基準回転数以上の場合に、流量制御弁75に対して閉弁状態から開弁状態にする開弁指令が出されたときの冷却水の圧力変化に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定している。そのため、この判定を精度よく行うことができる。また、前記のように、エンジンの始動後、エンジン水温が第1温度に到達しておらずエンジンの暖機が完了していないときは、流量制御弁75は閉弁状態に維持され、エンジンの暖機が完了した後にはじめて流量制御弁75の開閉が許可される。例えば、図9の例では、エンジンの暖機が完了してから所定の時間が経過した時刻t21にて、流量制御弁75の開閉が開始される。そのため、エンジンの始動後において、流量制御弁75は、開弁状態から閉弁状態にではなく閉弁状態から開弁状態にまず切り替えられる。そのため、流量制御弁75を閉弁状態から開弁状態に切り替えるときに流量制御弁75の故障を判定することで、エンジンの始動後のより早いタイミングでこの判定を実施することができる。
【0103】
一方、エンジン回転数が低いときは、ウォータポンプ61の吐出量が小さい。そのため、図10に示すように、時刻t21における流量制御弁75の開弁に伴う冷却水の圧力の変化量dP1が小さく抑えられて、流量制御弁75が正常に開閉しないときの圧力の変化量との差が小さくなる。これより、エンジン回転数が低いときは、開弁指令が出されたときの冷却水の圧力変化に基づく判定では流量制御弁75の故障を精度よく検出できないおそれがある。これに対して、本実施形態では、エンジン回転数が低いときは、流量制御弁75を開弁状態から閉弁状態に切り替える閉弁指令時の冷却水の圧力変化に基づいて流量制御弁75の故障を判定している。
【0104】
前記のように、流量制御弁75を開弁状態から閉弁状態にしたときは(図10の時刻t22において)、流量制御弁75が正常に開閉すれば、冷却水の圧力が急上昇することになり、エンジン回転数が低いとであっても冷却水の圧力の変化量dP2は大きくなる。従って、本実施形態によれば、エンジン回転数が基準回転数未満のときに閉弁指令時の冷却水の圧力の上昇量に基づいて流量制御弁75の故障を判定していることで、エンジン回転数が低いときにも流量制御弁75の故障を精度よく判定でき、エンジン回転数が高いときと低いときの双方で流量制御弁75の故障を精度よく判定できる。
【0105】
また、本実施形態では、前記のように、エンジン水温が第1温度未満のときは、流量制御弁75を閉弁状態に維持している。そのため、エンジン水温が第1温度未満のときに、冷却水がEGR用冷却水経路63を通過してエンジン本体1を循環するのを停止することができ、冷却水によるエンジン本体1の冷却を抑制してエンジン本体1の暖機を促進することができる。
【0106】
ここで、エンジンの始動後、1度でも流量制御弁75が故障しているか否かの判定が実施されていれば、その後に、流量制御弁75の故障を再度早期に判定する必要性は小さい。これに対して、本実施形態では、初回の故障判定が終了している場合は、エンジン回転数に関わらず、流量制御弁75に閉弁指令が出されたときの冷却水の圧力上昇量に基づいて流量制御弁75が故障しているか否かを判定している。そのため、前記のように流量制御弁75の故障判定の早期実施を実現しながら、エンジン回転数に応じて故障判定の手順を切り替える機会を大幅に低減でき、制御構成を簡素化することができる。
【0107】
また、本実施形態では、冷却水の圧力の低下量が判定閾値よりも大きいときに(エンジン回転数が高い状態で初回の故障判定が実施された場合)、また、冷却水の圧力の上昇量が判定閾値よりも大きいときに(エンジン回転数が低いときに初回の故障判定が実施された場合および初回以外の故障判定が実施された場合)、流量制御弁75が故障していると判定している。つまり、冷却水の圧力低下量あるいは圧力上昇量と所定値との比較によって流量制御弁75の故障を判定している。そのため、容易にこの判定を行うことができる。
【0108】
特に、本実施形態では、圧力低下量と比較する所定値と、圧力上昇量と比較する所定値とが同じ値に設定されている。そのため、制御構成を簡素化することができる。
【0109】
また、本実施形態では、流量制御弁75のDUTY比を燃焼室6の壁温が目標壁温となるように設定して、燃焼室6の壁温が目標壁温となるように流量制御弁75を開閉させている。そのため、より確実に燃焼室6の壁温を燃焼に適した温度にすることができる。特に、SPCCI燃焼では、一部の混合気を圧縮着火させる必要があり、燃焼室6の壁温を精度よく制御することが求められる。これに対して、本実施形態によれば、燃焼室6の壁温を適切な温度に精度よく制御することができ、適切なSPCCI燃焼を実現できる。
【0110】
(5)変形例
前記実施形態では、初回の故障判定時にのみエンジン回転数に応じて故障判定の手順を異ならせる場合について説明したが、初回以降の故障判定時においてもエンジン回転数に応じて故障判定の手順を異ならせてもよい。
【0111】
また、前記実施形態では、流量制御弁75の故障判定時において、冷却水の圧力低下量と比較する所定値と、圧力上昇量と比較する所定値とを同じ値に設定した場合について説明したが、これら所定値を異なる値に設定してもよい。
【0112】
前記の実施形態では、第2水温センサSN4からの情報に基づき、燃焼室6の壁温が推定される場合について説明したが、燃焼室6の壁温を取得する構成はこれに限定されない。例えば、燃焼室6の壁温を直接検出するセンサをエンジン本体1に設けてもよい。
【0113】
前記実施形態中で示している第1温度、第2温度などの具体的な数値はあくまでも例示である。これらの温度は、エンジン本体1や冷却装置60の具体的な構成に応じて適宜変更可能である。
【0114】
前記実施形態では、部分圧縮着火燃焼(SPCCI燃焼)が可能なエンジンに冷却装置60が適用された例について説明したが、この冷却装置60が適用されるエンジンの燃焼形態はこれに限らない。例えば、全運転領域の燃焼形態がSI燃焼となるように制御されるエンジンについても、前記の冷却装置60は適用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 エンジン本体
6 燃焼室
60 冷却装置
61 ウォータポンプ
75 流量制御弁
100 PCM
102 冷却水制御部(バルブ制御手段)
103 故障判定部(故障判定手段)
160 冷却水経路
SN5 圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10