(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】溶接トーチのトーチボディ保持システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20221213BHJP
B23K 9/28 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B23K9/29 E
B23K9/28 C
(21)【出願番号】P 2018092166
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
(72)【発明者】
【氏名】宮原 寿朗
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-504476(JP,A)
【文献】実開昭59-115175(JP,U)
【文献】特開2015-178152(JP,A)
【文献】特開2002-331487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B25J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチボディと、第1の圧縮ガスを供給するための第1ガス供給口と、第2の圧縮ガスを供給するための第2ガス供給口と、上記第1ガス供給口から供給される上記第1の圧縮ガスの圧力により上記トーチボディを押圧保持し、かつ上記第2ガス供給口から供給される上記第2の圧縮ガスの圧力により上記トーチボディへの押圧を解放する押圧機構と、を備える溶接トーチと、
上記溶接トーチに圧縮ガスを供給するための圧縮ガス供給源と、
上記圧縮ガス供給源から上記溶接トーチへ上記第1の圧縮ガスを供給する第1状態、および上記圧縮ガス供給源から上記溶接トーチへ上記第2の圧縮ガスを供給する第2状態に切り換え可能なガス供給切り換え手段と、
上記ガス供給切り換え手段の動作を制御する制御部と、を備え、
上記ガス供給切り換え手段は、流路切換弁と、一端が上記ガス供給源に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第1ガス流路と、一端が上記第1ガス供給口に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第2ガス流路と、一端が上記第2ガス供給口に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第3ガス流路と、備え、
上記流路切換弁は、一端が上記第1ガス流路につながり、他端が上記第2ガス流路および上記第3ガス流路のうちの一方につながる第1通路と、一端が外部に開放しており、他端が上記第2ガス流路および上記第3ガス流路のうちの他方につながる第2流路と、を有し、
上記流路切換弁は、上記第1状態にあるときに上記第1通路を介して上記第1ガス流路および上記第2ガス流路を連通させ、かつ上記第2通路を介して上記第3ガス流路を外部に開放し、上記第2状態にあるときに上記第1通路を介して上記第1ガス流路および上記第3ガス流路を連通させ、かつ上記第2通路を介して上記第2ガス流路を外部に開放
し、
上記押圧機構は、上記第1の圧縮ガスの圧力によって移動させられる第1駆動部と、上記第1駆動部の移動に伴い、上記第1駆動部が上記第1の圧縮ガスから受ける押圧力が増大されて上記トーチボディの外周面を押圧する第2駆動部と、を含み、
上記第1駆動部における上記第2駆動部との接触部は、楔形状とされており、
上記第2駆動部は、上記第1の圧縮ガスの圧力による上記第1駆動部の移動に伴い、当該第1駆動部が移動する方向と実質的に直角である方向に移動し、
上記溶接トーチは、上記トーチボディが取り付けられる支持ブロックをさらに備え、
上記支持ブロックは、上記トーチボディの基端部を挿入可能な取付穴を有し、
上記第2駆動部において上記トーチボディの上記外周面と接触する部位は、概略半円筒内面状とされ、且つ上記トーチボディの上記外周面と面的に接触する、溶接トーチのトーチボディ保持システム。
【請求項2】
上記押圧機構は、ガスを収容するためのガス収容室を有し、
上記第1駆動部は、上記ガス収容室を上記第1ガス供給口に連通する上記第1ガス収容部と上記第2ガス供給口に連通する第2ガス収容部とに区画し、かつ上記第1ガス収容部および第2ガス収容部の間のガスシール状態を維持しつつ移動可能なピストンを有する、請求項
1に記載の溶接トーチのトーチボディ保持システム。
【請求項3】
上記押圧機構は、上記第1駆動部に対して上記第1の圧縮ガスの圧力によって上記第1駆動部が移動させられる方向への付勢力を付与する付勢部材を含む、請求項
1または2に記載の溶接トーチのトーチボディ保持システム。
【請求項4】
上記第2駆動部に上記トーチボディから離れる方向への付勢力を与える追加の付勢部材を備える、請求項
1ないし3のいずれかに記載の溶接トーチのトーチボディ保持システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば消耗電極式ガスシールドアーク溶接等を行うのに用いられる溶接トーチ、およびこれを備えたトーチボディ保持システムに関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式ガスシールドアーク溶接において、溶接ロボットや走行台車を用いた自動溶接や、作業者が操作する半自動溶接の手法が採用されている。これら自動溶接等の溶接作業時においては、ワイヤ送給装置により溶接トーチに向けて溶接ワイヤが送り出され、また、溶接トーチには電力およびシールドガスが供給される。
【0003】
多関節型ロボットなどのマニピュレータを備えた自動溶接を行うための溶接装置では、溶接トーチは、マニピュレータの手首部に設けられる。溶接トーチは、溶接ワイヤを通すための内部収容空間が形成されたトーチボディを備えている。溶接ワイヤは、たとえば筒状のワイヤガイドに挿通させられ、このワイヤガイドに案内されながらトーチボディの内部を進む。そして、トーチボディ(溶接トーチ)の先端に配置された給電チップを経て、溶接トーチ先端の開口から外部に送り出される。溶接トーチを備えた溶接ロボットに関する技術は、たとえば下記の特許文献1に記載にされている。
【0004】
溶接ロボットの先端に設けられた溶接トーチにおいて、トーチボディは着脱可能に取り付けられている。トーチボディは、たとえば割り形状の円筒内面を有するブロック部材に挿入し、割り形状の両端部をネジで締付けて当該円筒内面を縮径させることにより、上記ブロック部材に圧接保持される。このような構成においては、メンテンナンス等のためにトーチボディを着脱する際、工具を用いてネジを回す必要があった。また、溶接トーチの先端がワーク(被加工物)に溶着する等の不具合が生じてトーチボディを取り外す場合もあるが、この場合でも工具を用いた上記取り付け方法では迅速に取り外せないという不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、トーチボディの着脱が容易に行なえ、メンテナンス性を向上させるのに適した溶接トーチを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される溶接トーチは、トーチボディと、第1の圧縮ガスを供給するための第1ガス供給口と、第2の圧縮ガスを供給するための第2ガス供給口と、上記第1ガス供給口から供給される上記第1の圧縮ガスの圧力により上記トーチボディを押圧保持し、かつ上記第2ガス供給口から供給される上記第2の圧縮ガスの圧力により上記トーチボディへの押圧を解放する押圧機構と、を備える。
【0009】
好ましい実施の形態においては、上記押圧機構は、上記第1の圧縮ガスの圧力によって移動させられる第1駆動部と、上記第1駆動部の移動に伴い、上記第1駆動部が上記第1の圧縮ガスから受ける押圧力が増大されて上記トーチボディの外周面を押圧する第2駆動部と、を含む。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記第1駆動部における上記第2駆動部との接触部は、楔形状とされており、上記第2駆動部は、上記第1の圧縮ガスの圧力による上記第1駆動部の移動に伴い、当該第1駆動部が移動する方向と実質的に直角である方向に移動する。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記押圧機構は、ガスを収容するためのガス収容室を有し、上記第1駆動部は、上記ガス収容室を上記第1ガス供給口に連通する上記第1ガス収容部と上記第2ガス供給口に連通する第2ガス収容部とに区画し、かつ上記第1ガス収容部および第2ガス収容部の間のガスシール状態を維持しつつ移動可能なピストンを有する。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記押圧機構は、上記第1駆動部に対して上記第1の圧縮ガスの圧力によって上記第1駆動部が移動させられる方向への付勢力を付与する付勢部材を含む。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記第2駆動部に上記トーチボディから離れる方向への付勢力を与える追加の付勢部材を備える。
【0014】
本発明の第2の側面によって提供される溶接トーチのトーチボディ保持システムは、本発明の第1の側面に係る溶接トーチと、上記溶接トーチに圧縮ガスを供給するための圧縮ガス供給源と、上記圧縮ガス供給源から上記溶接トーチへ上記第1の圧縮ガスを供給する第1状態、および上記圧縮ガス供給源から上記溶接トーチへ上記第2の圧縮ガスを供給する第2状態に切り換え可能なガス供給切り換え手段と、上記ガス供給切り換え手段の動作を制御する制御部と、を備える。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記ガス供給切り換え手段は、流路切換弁と、一端が上記ガス供給源に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第1ガス流路と、一端が上記第1ガス供給口に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第2ガス流路と、一端が上記第2ガス供給口に接続され、かつ他端が上記流路切換弁に接続される第3ガス流路と、備え、上記流路切換弁は、上記第1状態にあるときに上記第1ガス流路および上記第2ガス流路を連通させ、かつ上記第3ガス流路を開放し、上記第2状態にあるときに上記第1ガス流路および上記第3ガス流路を連通させ、かつ上記第2ガス流路を開放する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、押圧機構は、第1ガス供給口から供給される第1の圧縮ガスの圧力によりトーチボディを押圧保持し、第2ガス供給口から供給される第2の圧縮ガスの圧力によりトーチボディへの押圧を解放する。このような構成によれば、たとえばトーチボディ(溶接トーチ)をメンテナンスする際、圧縮ガスの供給先を第1ガス供給口または第2ガス供給口のいずれかに切り換えるだけで、トーチボディの着脱を行うことが可能である。したがって、トーチボディの着脱が、工具等を用いること無く容易かつ迅速に行え、トーチボディ(溶接トーチ)のメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る溶接トーチが取り付けられた溶接ロボットを示す概略図である。
【
図2】本発明に係る溶接トーチを備えて構成された溶接トーチのトーチボディ保持システムの概略構成図である。
【
図3】流路切換弁の構成を模式的に表した図である。
【
図4】本発明に係る溶接トーチの一例を示す斜視図である。
【
図5】
図4のV-V線に沿う断面図であり、トーチボディを押圧保持する状態を表す。
【
図7】
図5のVII-VII線に沿う断面図である。
【
図8】トーチボディへの押圧を解放する状態を表す、
図5と同様の断面図である。
【
図9】トーチボディへの押圧を解放する状態を表す、
図6と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る溶接トーチが溶接ロボットに取り付けられた一例を示しており、溶接ロボットの概略図である。同図に示す溶接ロボットB1は、例えば複数のアーム1を備えた多関節型ロボットであり、先端には溶接トーチ2が取り付けられている。溶接トーチ2には、図示しないワイヤ送給装置により溶接ワイヤが供給される。溶接ワイヤは、たとえばパワーケーブル3を介して溶接トーチ2の先端側内部に設けられた給電チップに向けて送給され、溶接トーチ2先端の開口から外部に送り出される。また、溶接トーチ2には、電力およびシールドガスが供給される。電源装置から上記パワーケーブルを介して電力が供給され、この電力は、溶接トーチ2内部の給電チップを介して溶接ワイヤに供給される。シールドガスは、ガスボンベから供給され、溶接トーチ2内を流れて溶接トーチ2先端の開口から外部に噴出される。
【0021】
図2は、溶接トーチ2を備えて構成された溶接トーチのトーチボディ保持システムの概略構成図である。本実施形態のトーチボディ保持システムA1は、溶接トーチ2、圧縮ガス供給源4、流路切換弁5、ガス流路61~63、および制御部7を備えている。
【0022】
図4~
図7に示すように、溶接トーチ2は、支持ブロック21と、トーチボディ22と、第1ガス供給口23と、第2ガス供給口24と、押圧機構25とを備えている。支持ブロック21は、トーチボディ22が取り付けられる部材であり、溶接ロボットB1のアーム1の先端に固定されている(
図1参照)。支持ブロック21は、トーチボディ22を挿入可能な取付穴211を有する。
【0023】
トーチボディ22は、筒状であり、たとえば複数の筒状部材がろう付け、圧入またはねじ込み等の適宜手段によって接合されたものである。トーチボディ22の基端部は、取付穴211に挿入されている。
【0024】
第1ガス供給口23は、第1の圧縮ガスを導入するための開口であり、支持ブロック21に設けられている。第2ガス供給口24は、第2の圧縮ガスを導入するための開口であり、支持ブロック21に設けられている。第1ガス供給口23および第2ガス供給口24、ならびに第1および第2の圧縮ガスについて、詳細は後述する。
【0025】
図5~
図7等に示した押圧機構25は、トーチボディ22を支持ブロック21に対して着脱可能に取り付けるためのものであり、第1の圧縮ガスの圧力によりトーチボディ22を押圧保持する状態と、第2の圧縮ガスの圧力により当該トーチボディ22への押圧を解放する状態とに切り換え可能に作動する。本実施形態において、押圧機構25は、第1駆動部26と、第2駆動部27と、ガス収容室28と、付勢部材29と、を含んで構成される。
【0026】
第1駆動部26は、シャフト261と、シャフト261の基端に設けられたピストン262と、シャフト261の先端に設けられた先端部材263とを有し、圧縮ガスの圧力によって移動させられるものである。
【0027】
ピストン262は、ガス収容室28に配置されている。ガス収容室28は、支持ブロック21の内部に形成された空間であり、ピストン262によって第1ガス収容部281と第2ガス収容部282とにガスシール状態で区画される。第1ガス収容部281は第1ガス供給口23に連通しており、第2ガス収容部282は第2ガス供給口24に連通している。ピストン262は、第1ガス収容部281および第2ガス収容部282の間のガスシール状態を維持したまま、シャフト261の軸方向(
図5、
図6中の上下方向、方向X)に移動可能である。このような構成により、第1ガス供給口23を介して支持ブロック21の内部に第1の圧縮ガスが供給されると、当該第1の圧縮ガスの圧力によってピストン262(第1駆動部26)は第1ガス収容部281の容積が増加する方向(
図5、
図6中の下方、方向X一方側)に移動する。また、第2ガス供給口24を介して支持ブロック21の内部に第2の圧縮ガスが供給されると、当該第2の圧縮ガスの圧力によってピストン262(第1駆動部26)は第2ガス収容部282の容積が増加する方向(
図8、
図9参照、図中上方の方向X他方側)に移動する。
【0028】
図5に示した先端部材263は、第2駆動部27に接触する部材である。本実施形態では、当該先端部材263は、楔形状とされている。先端部材263において第2駆動部27と直接接触する部位は、第1駆動部26が移動する方向Xに対して傾斜する傾斜面264とされている。当該傾斜面264の方向Xに対する傾斜角度αは、たとえば1~10°程度であり、好ましくは3~7°程度である。
【0029】
図5、
図6に示した付勢部材29は、ガス収容室28の第1ガス収容部281に収容されており、ピストン262に当接している。付勢部材29は、第1駆動部26に対して第1の圧縮ガスの圧力によって第1駆動部26が移動させられる方向(
図5、
図6中下方)へ付勢力を与えるものであり、たとえば圧縮コイルばねである。
【0030】
第2駆動部27は、第1駆動部26の移動に伴い、トーチボディ22の外周面を押圧するものである。第2駆動部27は、支持ブロック21の内部に形成された収容空間に挿入されており、
図5において方向Y(同図中左右方向)にスライド移動可能とされている。第2駆動部27が移動する方向Yは、第1駆動部26が移動する方向Xに対して実質的に直角である。
図7に示すように、第2駆動部27においてトーチボディ22の外周面と接触する部位271は、概略半円筒内面状とされており、トーチボディ22の外周面と面的に接触する。
【0031】
図5~
図7から理解されるように、第2駆動部27は、当該第2駆動部27が移動する方向Yに延びる円柱形状部272と、円柱形状部272の側面から突出する一対の突出部273,273とを有する。
図5に示すように、第2駆動部27において第1駆動部26の先端部材263(傾斜面264)と直接接触する部位は、傾斜面274とされている。当該傾斜面274の方向Xに対する傾斜角度は、上記の第1駆動部26の傾斜面264の傾斜角度αと実質的に同一である。これにより、第2駆動部27の傾斜面274と第1駆動部26の傾斜面264とは、面的に接触する。
【0032】
図7に示すように、本実施形態において、支持ブロック21と第2駆動部27の突出部273,273との間には、付勢部材291,291が介装されている。付勢部材291は、第2駆動部27にトーチボディ22から離れる方向(
図7中右方)への付勢力を与えるものであり、たとえば圧縮コイルばねである。このような構成の付勢部材291は、本発明で言う「追加の付勢部材」に相当する。
【0033】
図2に戻り、圧縮ガス供給源4は、溶接トーチ2に圧縮ガス(第1および第2の圧縮ガス)を供給するためのガス源である。圧縮ガス供給源4から供給されるガスの種類は特に限定されるものではないが、たとえば窒素やアルゴン等の不活性ガス、あるいは空気等が挙げられる。コスト面から圧縮ガスは圧縮空気であることが好ましい。当該圧縮空気は、たとえば溶接ロボットB1が設置される施設等に備えられたエアコンプレッサから容易に供給可能である。
【0034】
ガス流路61~63は、流路切換弁5と、圧縮ガス供給源4や第1ガス供給口23あるいは第2ガス供給口24とを接続するものである。具体的には、ガス流路61は、一端が圧縮ガス供給源4に接続され、他端が流路切換弁5に接続される。ガス流路62は、一端が溶接トーチ2の第1ガス供給口23に接続され、他端が流路切換弁5に接続される。ガス流路62は、溶接トーチ2に第1の圧縮ガスを供給するための流路である。ガス流路63は、一端が溶接トーチ2の第2ガス供給口24に接続され、他端が流路切換弁5に接続される。ガス流路63は、溶接トーチ2に第2の圧縮ガスを供給するための流路である。
【0035】
流路切換弁5は、溶接トーチ2へ第1の圧縮ガスを供給可能な状態(第1状態)と、第2の圧縮ガスを供給可能な状態(第2状態)とを切り換えるためのものである。
図3は、流路切換弁5の構成を模式的に表したものである。流路切換弁5は、第1通路51および第2通路52を有する。第1通路51は、一端がガス流路61につながり、他端がガス流路62,63のいずれかにつながる。第2通路52は、一端が外部に開放しており、他端がガス流路62,63のいずれかにつながる。
【0036】
上記構成の流路切換弁5において、溶接トーチ2へ第1の圧縮ガスを供給する際、
図3(a)に示すように、第1通路51を介してガス流路61およびガス流路62が連通させられる。これにより、ガス流路61、流路切換弁5、ガス流路62、および第1ガス供給口23を介して溶接トーチ2(第1ガス収容部281)へ圧縮ガス(第1の圧縮ガス)が供給される。このとき、ガス流路63は第2通路52を介して外部に開放している。また、溶接トーチ2へ第2の圧縮ガスを供給する際、
図3(b)に示すように、第1通路51を介してガス流路61およびガス流路63が連通させられる。これにより、ガス流路61、流路切換弁5、ガス流路63、および第2ガス供給口24を介して溶接トーチ2(第2ガス収容部282)へ圧縮ガス(第2の圧縮ガス)が供給される。このとき、ガス流路62は第2通路52を介して外部に開放している。上記構成の流路切換弁5およびガス流路61,62、63は、本発明で言う「ガス供給切り換え手段」を構成する。なお、ガス流路61やガス流路62に圧力調整弁等を設けて、溶接トーチ2へ供給される圧縮ガス(第1の圧縮ガスあるいは第2の圧縮ガス)の圧力を適宜調整できるようにしてもよい。
【0037】
制御部7は、溶接トーチ2へ第1の圧縮ガスを供給可能な状態(第1状態)と、第2の圧縮ガスを供給可能な状態(第2状態)との切換えを制御するものである。たとえばオペレータの入力操作により、制御部7は流路切換弁5の切換え動作を制御する。なお、制御部7については、圧縮ガス供給源4から圧縮ガスの供給を停止する機能を持たせてもよい。
【0038】
本実施形態において、溶接ロボットB1(溶接トーチ2)を用いて溶接作業を行う際、溶接トーチ2においては、ガス流路62および第1ガス供給口23を介して第1の圧縮ガスが供給可能な状態とされる。このとき、
図5に示すように、溶接トーチ2においては、第1の圧縮ガスの圧力によって、ピストン262(第1駆動部26)は第1ガス収容部281の容積が増加する方向(
図5中の下方、方向X一方側)に移動する。そして、この第1駆動部26の移動に伴い第2駆動部27は
図5中左方に移動し、トーチボディ22の外周面を押圧する。トーチボディ22において軸線を挟んで第2駆動部27による押圧部位と軸線を挟んで反対側は、支持ブロック21によりバックアップされている。これにより、トーチボディ22は、支持ブロック21および第2駆動部27により押圧保持される。
【0039】
本実施形態において、第1駆動部26のうち第2駆動部27に接触する先端部材263は、楔形状とされている。このため、第2駆動部27においては、第1駆動部26が第1の圧縮ガスから受ける押圧力が増大されてトーチボディ22の外周面を押圧する。なお、第1の圧縮ガスによりピストン262(第1駆動部26)に加わる圧力は、たとえば0.2~0.5MPa(メガパスカル)程度である。また、第2駆動部27によりトーチボディ22の外周面を押圧する力は、たとえば3~16kN(キロニュートン)程度である。
【0040】
一方、メンテナンス時等においてトーチボディ22を取り外す際、流路切換弁5を切り換えることで、溶接トーチ2においてはガス流路63および第2ガス供給口24を介して第2の圧縮ガスが供給可能な状態とされる。ここで、
図8、
図9に示すように、溶接トーチ2においては、第2の圧縮ガスの圧力によって、ピストン262(第1駆動部26)は第2ガス収容部282の容積が増加する方向(図中上方、方向X他方側)に移動する。そうすると、押圧機構25(第1駆動部26および第2駆動部27)によるトーチボディ22外周面への押圧が解放され、トーチボディ22を取り外すことが可能となる。
【0041】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0042】
本実施形態の溶接トーチ2は、トーチボディ22、第1ガス供給口23、第2ガス供給口24、および押圧機構25を備える。押圧機構25は、第1ガス供給口23から供給される第1の圧縮ガスの圧力によりトーチボディ22を押圧保持し、第2ガス供給口24から供給される第2の圧縮ガスの圧力によりトーチボディ22への押圧を解放する。このような構成によれば、たとえばトーチボディ22(溶接トーチ2)をメンテナンスする際、圧縮ガスの供給先を第1ガス供給口23または第2ガス供給口24のいずれかに切り換えるだけで、トーチボディ22の着脱を行うことが可能である。したがって、トーチボディ22の着脱が、工具等を用いること無く容易かつ迅速に行え、トーチボディ22(溶接トーチ2)のメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0043】
押圧機構25は、第1駆動部26および第2駆動部27を含む。第1駆動部26は、第1の圧縮ガスの圧力によって移動させられる。第2駆動部27においては、第1駆動部26が第1の圧縮ガスから受ける押圧力が増大されて、トーチボディ22の外周面を押圧する。これにより、トーチボディ22の保持状態の信頼性向上を図ることができる。
【0044】
第1駆動部26において第2駆動部27と接触する先端部材263は楔形状とされており、第2駆動部27は、第1駆動部26が移動する方向Xと実質的に直角である方向Yに移動する。このような構成によれば、先端部材263(接触部)の斜面効果によって、第1駆動部26が第1の圧縮ガスから受ける押圧力は適切に増大されて、第2駆動部27によりトーチボディ22の外周面を押圧する。したがって、トーチボディ22の取付時には、圧縮ガス(第1の圧縮ガス)の圧力によって当該トーチボディ22がより的確に保持される。
【0045】
押圧機構25はガス収容室28を有しており、第1駆動部26は、ガス収容室28に配置されたピストン262を有する。ピストン262は、ガス収容室28を、第1ガス供給口23に連通する第1ガス収容部281と第2ガス供給口24に連通する第2ガス収容部282とに区画している。そして、ピストン262は、第1ガス収容部281および第2ガス収容部282の間のガスシール状態を維持しつつ移動可能である。このような構成によれば、往復動するピストン262を挟んだ両側に第1および第2の圧縮ガスの圧力が作用するので、押圧機構25の構造が複雑になるのを回避し、当該押圧機構25の小型化を図ることができる。
【0046】
本実施形態において、押圧機構25は付勢部材29を含む。付勢部材29は、第1駆動部26に対して第1の圧縮ガスの圧力によって第1駆動部26が移動させられる方向へ付勢力を与える。このような構成によれば、第1ガス供給口23を介しての第1の圧縮ガスの供給が不意に停止する場合でも、付勢部材29によって第1駆動部26が押されてトーチボディ22が保持されることとなり、安全性が高められる。
【0047】
本実施形態の溶接トーチは、
図7に示した付勢部材291,291を含む。各付勢部材291は、第2駆動部27にトーチボディ22から離れる方向への付勢力を与える。このような構成によれば、トーチボディ22を押圧保持する状態から当該トーチボディ22への押圧を解放する状態に切り換えられると、第2駆動部27はトーチボディ22から的確に離間させられる。これにより、トーチボディ22を取り外す際の作業性向上を図ることができる。
【0048】
本実施形態のトーチボディ保持システムA1において、押圧機構25へ供給される圧縮ガス(第1および第2の圧縮ガス)は、共通の圧縮ガス供給源4から供給される。圧縮ガス供給源4から供給される圧縮ガスは、流路切換弁5により、押圧機構25へ第1の圧縮ガスを供給する状態と第2の圧縮ガスを供給する状態とに切り換え可能である。そして、流路切換弁5は、制御部7によって動作が制御される。このような構成によれば、トーチボディ保持システムA1の全体構成が複雑になるのを回避しつつ、第1および第2の圧縮ガスのいずれかを押圧機構25に適切に供給することができる。
【0049】
本実施形態において、
図3を参照して上記したように、溶接トーチ2へ第1の圧縮ガスを供給する際、溶接トーチ2へ第2の圧縮ガスを供給するためのガス流路63は、流路切換弁5を介して外部に開放している。また、溶接トーチ2へ第2の圧縮ガスを供給する際、溶接トーチ2へ第1の圧縮ガスを供給するためのガス流路62は、流路切換弁5を介して外部に開放している。このような構成によれば、第1および第2の圧縮ガスそれぞれのガス供給の停止時に、各圧縮ガスの収容空間に残圧が生じるのを防止することができる。これにより、溶接トーチ2の押圧機構25(第1駆動部26および第2駆動部27)はスムーズかつ適切に駆動し、トーチボディ22(溶接トーチ2)のメンテナンス性をより向上させることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0051】
上記実施形態において、第1駆動部26に対して第1の圧縮ガスの圧力によって第1駆動部26が移動させられる方向へ付勢力を与える付勢部材29が組み込まれた場合について説明したが、このような付勢部材29を具備しない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
A1 トーチボディ保持システム
B1 溶接ロボット
X 方向
Y 方向
1 アーム
2 溶接トーチ
21 支持ブロック
211 取付穴
212 キー溝
213 キー部材
22 トーチボディ
221 キー溝
23 第1ガス供給口
24 第2ガス供給口
25 押圧機構
26 第1駆動部
261 シャフト
262 ピストン
263 先端部材(接触部)
264 傾斜面
27 第2駆動部
271 トーチボディの外周面と接触する部位
272 円柱形状部
273 突出部
274 傾斜面
28 ガス収容室
281 第1ガス収容部
282 第2ガス収容部
29 付勢部材
291 付勢部材(追加の付勢部材)
3 パワーケーブル
4 圧縮ガス供給源
5 流路切換弁
51 第1通路
52 第2通路
61 ガス流路(第1ガス流路)
62 ガス流路(第2ガス流路)
63 ガス流路(第3ガス流路)
7 制御部