(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】合成繊維の製造装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/08 20060101AFI20221213BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
D01D5/08 B
D02J1/22 302A
(21)【出願番号】P 2018003344
(22)【出願日】2018-01-12
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】冨田 進之介
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-040776(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第106958062(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1497079(CN,A)
【文献】特開2015-189565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H54/00-54/553
57/00-57/28
D01D1/00-13/02
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸した合成繊維糸条を複数段の引取および延伸ロールで、多段に延伸・熱処理し、巻取機を用いて連続して合成繊維糸条を巻き取る合成繊維の製造装置において、
前記複数段の引取および延伸ロールと前記巻取機とが、該巻取機のロール回転軸方向の任意の位置に移動かつ保持できるものであり、
該複数段の引取および延伸ロールを該巻取機のロール回転軸方向に移動かつ保持できる駆動部13と、
該複数段の引取および延伸ロールの位置を検出する検出部14と、
該複数段の引取および延伸ロールを任意の位置に移動させるため、予め設定した任意の位置を記憶する記憶部11と、
前記検出部14で検出した該複数段の引取および延伸ロールの現在位置と前記記憶部11に予め設定されている位置に基づき、該複数段の引取および延伸ロールを移動かつ保持させるように前記駆動部13に指示する制御部12とを設けたことを特徴とする合成繊維の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の製造装置に関するものであり、更に詳しくは同一溶融紡糸装置で多品種の合成繊維を製造するに際し、様々な品種において良好な品質・製糸性が得られるとともに品種切り替え作業の労力低減・時間短縮を図り生産損失を減らすことができるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドやポリエステル等に代表される合成繊維、中でも衣料用合成繊維の製造においては、一般的に紡糸された糸条を複数のロールを用いて引取・延伸するとともに、それらロールの一部を加熱することで、ロール上で糸条の熱処理を実施し巻取機にて延伸・熱処理された糸条を巻き取ることで製造している。
【0003】
特にこの製造工程の中でも、熱処理工程は糸条を加熱し糸条内部の結晶構造をコントロールすることで、原糸の強度や熱収縮率等の得られる合成繊維の物性に大きな影響を与える。また、製糸性の観点では、必要以上の加熱を行うとポリマーの熱劣化や、平滑性や帯電防止性を付与する目的で糸条に付着している油剤成分の蒸発を引き起こし、糸切れなどの製糸性の悪化を招くため、各品種に合わせて適切な熱処理を実施することが重要となっている。
【0004】
次に、ロールによる糸条の熱処理について説明する。熱処理のためロール上で糸条を加熱する場合、熱処理に影響を与える因子としては、ロールの加熱温度と、ロールと糸条の接触長さにもとづいたロール上での糸条の熱処理時間の2つの因子がある。糸条の熱処理を積極的に行うには、前者については、ロールの加熱温度が使用するポリマーの融点を超えると、糸条のロールへの融着・糸切れを引き起こすことと、前述記載の通り付着している油剤成分の蒸発を引き起こすため、加熱温度の上限はポリマー種や付着油剤によって制限を受ける。また、ポリアミド繊維などはポリエステル繊維にくらべ比熱が高く、糸条温度が上がりにくいため、よりいっそう熱処理に必要な加熱量が増加する。そのため、熱処理においては加熱温度よりも熱処理時間、すなわち接触長さの適性化を図ることが物性および製糸性の面でより効果的である。
【0005】
続いて、熱処理を行うロールの構成について説明する。引取・延伸および熱処理を行うロールについては、2本のロールを対とし2本のロールの回転軸を完全な平行から微小角ずらすことで、2本のロールの異なる位置に糸条を複数回巻き付け可能とするネルソン方式が採用される場合が多い。このネルソン方式は、ロール上に糸条を複数回巻き付けるため、ロールと糸条の接触長さを長くとることができ、ロール上での糸条の熱処理時間を比較的長くすることが可能となる。
【0006】
このネルソン方式で糸道を構成する場合、2本のロールの配置と回転軸角度によってある一定の巻き付け回数を構成することができる。しかし、一度構成した巻き付け回数を変更する場合に、ロールの回転軸角度を変更することで、僅かではあるが巻き付け回数を可変できるが、大幅に変更するためにはロール配置と回転軸角度の変更すなわち設備改造が必要であった。また、回転軸角度の変更による巻き付け回数をある程度変更しても、ロール上で糸条の出入り幅が変わるため、各ロール間の糸条ガイドによる糸道の屈曲が生じ、糸条走行が不安定になったり、例えばロール間に設置している糸条ガイドでの屈曲による糸条への接触ダメージが引き起こされ、毛羽発生、強度低下等を引き起こす。更には、ロール間に設置されている他の装置に糸道が接触するなどして糸道自体を構成できない場合もある。
【0007】
このようなネルソン方式における巻き付け回数の変更や糸道ガイドによる糸道の変更に関する従来技術としては、例えば特許文献1には、円錐状に旋回するセパレーターロールを設け、延伸ロール上の糸条を延伸ロール回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする合成繊維の紡糸直接延伸方法が開示されている。そしてその効果はロール上の糸条をロール回転軸方向にトラバースさせることで、長時間運転によりロール上に蓄積する汚れおよびロールの磨耗によって発生する品質及び生産性の低下を抑制するとされている。
【0008】
また、特許文献2には、ロール間に糸条の走行位置を規制する糸道ガイドが配置され、該糸道ガイドをロールの回転軸方向に往復移動させる手段を備えていることを特徴とする紡糸巻き取り方法が開示されている。そして、その効果は特許文献1と同様にロールの汚れと摩耗防止による品質および生産性の低下を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-274475号公報
【文献】特開平8-170215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1の提案では、糸道の変更はできるものの、熱処理適性化に向けた巻き付け回数の大幅な可変は困難であることと、セパレーターロールの旋廻によるトラバースによって発生する糸道屈曲の抑制に関しては、何ら検討も示唆もなされていない。
【0011】
また、上記特許文献2の提案のように、糸道ガイドによって巻き付け回数を変更するには、大幅な糸道ガイドの移動が必要であり、その糸道の移動量に伴い屈曲程度も増加することから熱処理適性化に向けた巻き付け回数の大幅な変更は困難であることと、糸道ガイドの移動によって発生する糸道の屈曲の抑制に関しては、何ら検討も示唆もなされていないのが実情である。
【0012】
これらのことから、接触長さにもとづく熱処理適性化と糸道屈曲の抑制は溶融紡糸のなかでも、製糸性や品質に与える影響が大きいことから、各品種に合わせてそれぞれの条件を適正化することが求められてきた。
【0013】
また、その条件についても品種の高度化が進むにつれ、個々の品種に最適な微妙な条件変更が必要になるため、条件変更の微調整を可能にすることが求められていた。
【0014】
加えて、ネルソン方式による糸道では、2本のロールの回転軸に角度がついていることから、ロール表面上で傾斜が発生する。その傾斜により糸条がロール回転軸方向にスリップするため、互いのロール位置や回転軸角度から理論的に計算される糸道とはずれが生じる。しかし、それらロールを配置する場合、それぞれ複数あるロールは理論的に計算される糸道をもとに配置するため、理論的な糸道と実際の糸道はずれが生じ、そのずれによってロール間での糸道に屈曲が生じる。また、このスリップによるずれは、品種の繊度、単糸数、表面形態によって摩擦係数が異なることから、品種によって常に変動したずれ・屈曲が発生することとなる。糸道の屈曲は前述の通り糸条へのダメージを引き起こすことから、各品種に合わせて屈曲を無くすように糸道の微調整を実施することが製糸性の観点において重要となっていた。
【0015】
したがって、従来技術においては、品種切り替えを実施する場合、熱処理適性化に向けた巻き付け回数の変更と糸道屈曲の抑制に向けた糸道調整の実施は、大幅な設備改造を伴うため、実施することは困難であった。また、仮に設備改造を実施するとしても、作業には多くの時間や労力を要するうえ、作業を行っている間は生産ができず、生産機会損失(原料ロス・生産機会減少による損失)の発生を余儀なくされていた。
【0016】
本発明は、上記問題を解決するものであり、複雑な設備改造を伴わずに、各品種に合わせて引取および延伸ロールと巻取機の位置を容易に変更し、且つ変更位置の微調整を可能とすることで、ロール上での糸条の巻き付け回数を大幅に可変可能とし、更にはロール間の糸道に合わせ屈曲のない糸道を構成することにより、糸条ガイド等への接触ダメージの低減化を図ることで、様々な品種において良好な品質・製糸性を得られるとともに、品種切り替え作業の労力低減・時間短縮を図り生産機会の損失を減らすことができる製造装置を提供することにある。
【0017】
さらに詳しくは、単糸繊度の太細、単糸数の多少、紡糸温度の高低、引取速度の遅速、ポリマー粘度の高低、共重合の有無、添加剤の多少等の紡糸条件やポリマーの基本特性が変更されても、これらの要因に影響を受けることのない適正な巻き付け回数や糸道構成を簡単且つ調整可能な可変機構を有することで、良好な品質・製糸性が得られるのみならず、多品種を生産する際に増加する品種切り替え作業を、予め設定した条件に基づき、自動的に引取および延伸ロール・巻取機位置を変更することで、作業にかかる労力や時間をほぼなくすことができる合成繊維の製造装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の上記目的は、溶融紡糸した合成繊維糸条を複数段の引取および延伸ロールで、多段に延伸・熱処理し、巻取機を用いて連続して合成繊維糸条を巻き取る合成繊維の製造装置において、前記複数段の引取および延伸ロールと、前記巻取機をそれぞれ任意の位置に移動させるため、検出したそれぞれの現在位置と記憶部に予め設定されている位置に基づき、それぞれを移動して保持させるようにそれぞれの駆動部に同時に指示する制御部を設けるとともに、更には各ロールから導き出された糸条の位置に応じて、前記複数段の引取および延伸ロールと、前記巻取機をそれぞれ移動して保持させるようにそれぞれの駆動部に同時に指示する制御部を設けた合成繊維の製造装置により達成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の合成繊維の製造装置によれば、同一溶融紡糸装置で多品種の合成繊維を製造するに際し、糸道に屈曲がなくロール上での糸条の巻き付け回数を変更することで、様々な品種において良好な品質・製糸性を得られ、且つ品種切り替え作業の労力低減・時間短縮を図り生産機会の損失を減らすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の合成繊維の製造装置の一実施態様を示す概略斜視図である。
【
図2(c)】
図2(a)~(c)は、本発明のロール位置可変装置および巻取機位置可変装置を用いて巻き付け回数を変更する方法の一実施態様を示す概略斜視図である。
【
図3】本発明のロール位置可変装置および巻取機位置可変装置の駆動および制御方法の一実施態様を示す概略工程図である。
【
図4】本発明のロール位置可変装置構成の一実施態様を示す概略斜視図である。
【
図5】本発明の巻取機位置可変装置構成の一実施態様を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の詳細について説明する。
【0022】
図1は、本発明の合成繊維の製造装置の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0023】
図1において本発明の合成繊維の製造装置は、第1ロール(上)1a、第1ロール(下)1b、第1ロールユニット2、第1ロールユニット位置可変装置3、第2ロール(上)4a、第2ロール(下)4b、第2ロールユニット5、第2ロールユニット位置可変装置6、糸条位置センサー7、糸道ガイド8、巻取機9および巻取機位置可変装置10を備えている。また、Yは溶融紡糸された糸条を示している。
【0024】
本発明の装置は、溶融紡糸された糸条Yを、第1ロール(上)1aおよび第1ロール(下)1bにて、ネルソン方式で複数回糸条を巻き付けながら引き取り、加熱された第2ロール(上)4aと第2ロール(下)4bにてネルソン方式で複数回糸条を巻き付けながら延伸・熱処理し、導き出された糸条を巻取機9にて連続して巻き取る装置において、第1ロールユニット2、第2ロールユニット5および巻取機9をロール回転軸方向にスライドさせる第1ロールユニット位置可変装置3、第2ロールユニット位置可変装置6および巻取機位置可変装置10を設け、ロール巻き付け回数の変更や糸道ガイド8に対して糸条Yの接触が最も少ないロール軸回転軸に垂直となる糸道、すなわち屈曲の無い糸道を調整できるようにしたものである。
【0025】
さらに本発明の合成繊維の製造装置は各ロールから導出された糸条位置を検出できる糸条位置センサー7を設けている。この糸条位置センサー7によってそれぞれのロールから導出された糸条がロール回転軸に垂直となる屈曲の無い糸道となっているかを検出することが可能となる。
【0026】
図2(a)~(c)は、本発明のロール位置可変装置および巻取機位置可変装置を用いて巻き付け回数および糸道を変更する方法の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0027】
図2において、第1、第2ロールへの巻き付け回数を仮に4回(
図2(a))から2回(
図2(b))にする場合、
図2(b)に示すとおり第2ロールユニット位置可変装置6を用いて、第2ロールユニット5をロール回転軸方向に後退させる。この際、後退させる位置は、第1ロールユニット2の2回目の巻き付け位置から導き出された糸条が、ロール回転軸方向に垂直となるような屈曲の無い糸道を構成できる巻き付け位置に後退させる。また、同様に巻取機位置可変装置10を用いて、巻取機9をロール回転軸方向に後退させる。この際、後退させる位置は、第2ロールユニット2の2回目の巻き付け位置から導き出された糸条が、ロール回転軸方向に垂直となるように、すなわち屈曲の無い糸道を構成できる巻取位置に後退させる。このように、第2ロールユニット5および巻取機9の位置をそれぞれ可変することで、巻き付け回数を変更しつつ、屈曲の無い糸道を容易に変更することが可能となる。また、仮に巻き付け回数を4回(
図2(a))から1回(
図2(c))に変更する場合も、
図2(c)で示すとおり、第2ロールユニット5と巻取機9をロール回転軸方向に更に後退させることで、同様に巻き付け回数を4回から1回へ変更することが可能となる。
【0028】
このように本発明のロール位置可変装置6および巻取機位置可変装置10を用いることで、各ロールへの巻き付け回数の増減を自由に変更し、且つ屈曲の無い糸道を構成することができる。巻き付け回数の可変範囲については、例えば1~10回の範囲で可変可能であり、いずれの巻き付け回数に変更しても、各ロールから導き出された糸条は屈曲されること無く巻取機9まで導くことが可能である。
続いて、本発明の特徴であるロール位置可変装置および巻取機位置可変装置の駆動および制御方法について説明する。
【0029】
図3は、ロール位置可変装置および巻取機位置可変装置の駆動および制御方法の一実施態様を示す概略工程図である。
【0030】
図3において、本発明の合成繊維の製造装置は、記憶部(ロール位置可変装置)11、制御部(ロール位置可変装置)12、駆動部(ロール位置可変装置)13、検出部(ロール位置可変装置)14、共通制御部15、記憶部(巻取機位置可変装置)16、制御部(巻取機位置可変装置)17、駆動部(巻取機位置可変装置)18および検出部(巻取機位置可変装置)19を備えている。
【0031】
本発明のロール位置可変装置とは、ネルソン方式で構成されるそれぞれ複数段の引取および延伸ロールの位置を、ロール回転軸方向に予め設定された条件位置と検出した現状位置に基づき、連動制御させながら自動的に任意に可変する装置である。
【0032】
まず、ロール位置を可変する手段について一例を挙げると、ネルソン方式の2対のロールをボックスに組み込むことでユニット化し、電動シリンダーを有したスライドレールに、前記のロールユニットを係合させ電動シリンダーを駆動させることで、ロール位置を可変可能にしたものがある。また一例を挙げたもの以外でも可変する手段として、駆動源としてサーボモータとボールネジを用いる方法や、ラックと電動モータによって回転駆動するピニオンギアを用いる方法などでもよい。したがって、上記の一例であげたものに限定されるものではない。
【0033】
また、駆動制御としては、予め記憶部(ロール位置可変装置)11には各品種に合わせて最適なロール巻き付け回数や屈曲の無い糸道を構成できるロール位置を記録しておき、電動シリンダーやスライドレールを取り付けられたセンサー等を利用した現状の位置を検出する検出部(ロール位置可変装置)14を設け、記憶されている最適位置と検出した現状の位置をもとに、最適位置までロール位置をコントロールする制御部(ロール位置可変装置)12を設けている。このようにして、現状の位置を正確に検出し、それに基づき駆動部(ロール位置可変装置)13をコントロールすることで、ロール位置の微調整および自動的な可変を行う。
【0034】
次に巻取機位置可変装置の可変機構および駆動制御について説明する。巻取機位置を可変する手段について一例をあげると、ロール位置可変装置と同様に、電動シリンダーを有したスライドレールに、巻取機を係合させ電動シリンダーを駆動させることで、巻取機位置を可変可能にしたものがある。また一例を挙げたもの以外でも可変する手段として、駆動源としてサーボモータとボールネジを用いる方法や、ラックと電動モータによって回転駆動するピニオンギアを用いる方法などでもよい。したがって、上記の一例であげたものに限定されるものではない。
【0035】
また、駆動制御としては、ロール位置可変装置と同様に、予め記憶部16(巻取機位置可変装置)には各品種に合わせて屈曲の無い糸道を構成できる巻取機位置を記録しておき、電動シリンダーやスライドレールを取り付けられたセンサー等を利用した現状の位置を検出する検出部(巻取機位置可変装置)19を設け、記憶されている最適位置と検出した現状の位置をもとに、最適位置まで巻取機をコントロールする制御部(巻取機位置可変装置)17を設けている。このようにして、現状の位置を正確に検出し、それに基づき駆動部(巻取位置可変装置)18をコントロールすることで、巻取機位置の微調整および自動的な可変を行う。
【0036】
さらに、上記のロール位置可変装置および巻取機位置可変装置を連動して移動させるための共通制御部15を設けている。加えて、共通制御部15には、糸条位置センサー7から検出された糸条位置情報に従い、それぞれのロール位置および巻取機位置を微調整することが可能となっている。このように実際の生産時に各ロールから導出される糸条位置を直接検出することで、理論的な糸道と各品種によって異なるスリップによる糸道のずれを把握し、より精度の高い屈曲の無い糸道を構成することが可能となる。この糸条位置センサー7には、レーザー変位計を用いてセンサーと糸条間の距離をもとに糸条の屈曲角度を求める方法や、高精度カメラを用いて糸条の動画を撮影し、撮影した動画情報をもとに糸条の屈曲角度を計算する方法などが挙げられるが、上記の一例であげたものに限定されるものではない。
【0037】
このようなロール位置と巻取機位置を連動制御することで、大幅な設備改造を伴うこと無く、熱処理適性化に向けた巻き付け回数の変更と糸道屈曲の抑制に向けた糸道調整の実施が可能となり、また、記憶部11、15に入力されている各品種の条件に合わせて一括で自動的にロール位置と巻取機位置が変更されるため、作業に人手や労力を要さない。更には品種切り替え作業に伴った生産運転を停止させることなく、生産損失(原料ロス・生産機会減少による損失)を低減することが可能となる。
次に、本発明の特徴であるロール位置可変装置および巻取機位置可変装置の構成について詳細を説明する。
【0038】
図4は、本発明のロール位置可変装置構成の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0039】
図4において、本発明のロール位置可変装置は、ロールユニット20、ベースプレート(ロールユニット)21、ベースプレート(ロール位置可変装置)22、スライドレール23(ロール位置可変装置)および電動シリンダー24(ロール位置可変装置)を備えている。
【0040】
ロール位置可変装置の構成としては、ネルソン方式の2対のロールをボックスに組み込むことでロールユニット20を構成すると共にベースプレート(ロールユニット)21に固定されている。ベースプレート(ロールユニット)21下部のスライダー用のベースプレート(ロール位置可変装置)22は電動シリンダー24と係合されている。続いて、ロール位置可変装置のベースプレート(ロール位置可変装置)22の上部に2本のスライドレール(ロール位置可変装置)23が配置されている。このスライドレール(ロール位置可変装置)23を介して、ロールユニット20のベースプレート(ロールユニット)21が係合されているため、ロールユニット20はスライドレール(ロール位置可変装置)23上をロール軸回転方向に自由に往復することが可能となる。また、電動シリンダー(ロール位置可変装置)24を駆動することで、ロールユニット20を自動的に駆動させることが可能となる。このロール位置可変装置のロール軸回転方向へのスライド量範囲は、ロールの長さと同じ距離をスライドできるようにする必要があり、一般的なロールの最大長さは500mm程度なので、スライド量範囲は0~500mmの範囲で可変とすることが好ましい。
【0041】
図5は、本発明の巻取機位置可変装置構成の一実施態様を示す概略斜視図である。
【0042】
図5において、本発明の巻取機位置可変装置は、ベースプレート(巻取機位置可変装置)25、スライドレール(巻取機位置可変装置)26および電動シリンダー(巻取機位置可変装置)27を備えている。
【0043】
巻取機位置可変装置の構成としては、巻取機9下部のスライダー用のベースプレート(巻取位置可変装置)25に電動シリンダー27が係合されている。続いて、巻取機位置可変装置のベースプレート(巻取位置可変装置)25には、上部に2本のスライドレール(巻取位置可変装置)26が配置されている。このスライドレール(巻取位置可変装置)26を介して、巻取機9が係合されているため、巻取機9はスライドレール(巻取位置可変装置)26上をロール軸回転方向に自由に往復することが可能となる。また、電動シリンダー(巻取位置可変装置)27を駆動することで、巻取機9を自動的に駆動させることが可能となる。この巻取機位置可変装置のロール軸回転方向へのスライド量範囲は、第1ロール、第2ロールそれぞれの最大長が500mm程度であることから合算して0~1000mmの範囲である。
【0044】
このようなロール位置と巻取機位置を可変可能かつ連動制御させることで、大幅な設備改造を伴うこと無く、熱処理適性化に向けた巻き付け回数の変更と糸道屈曲の抑制に向けた糸道調整の実施が可能となり、各品種の条件に合わせて一括で自動的にロール位置と巻取機位置を変更できるため、作業に関する人手や労力をほぼ無くすことができる。これにより品種切り替え作業に伴った生産運転を停止させることなく、生産損失(原料ロス・生産機会減少による損失)を低減することが可能となる。
【0045】
さらには、ポリマー種、ポリマー粘度、総繊度、単糸繊度、フィラメント数など、品種高度化に伴う製糸条件変更の微調整が容易に実施することができる。
【0046】
総繊度であれば、熱処理や糸道屈曲の影響を受けやすい細繊度品種についても延伸糸換算で6デシテックス~40デシテックスの範囲で好ましく製造できる。
【0047】
本発明で製造し得る合成繊維は、ポリアミドやポリエステルなどの溶融紡糸可能な合成繊維であれば、特に、限定されるものではない。また、例えば、ホモポリマー、共重合ポリマー、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等を含んでいてもよい。
【0048】
また、本発明で用いられる合成繊維は、単成分紡糸でも、複合紡糸でもよく、複数成分紡糸の場合には、例えば、芯鞘、サイドバイサイド、海島複合、混繊等の構成が挙げられる。また繊維の断面形状は、丸、三角、扁平等の異形状や中空であってもよい。
本発明において対象とする合成繊維、単繊維繊度、フィラメント数は、目的に応じて適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。
【0050】
(1)毛羽数:
図1に示す第2ロール(下)4bと巻取機9間にレーザー式毛羽検知器を設置し、糸長1万km当たりの毛羽数を測定した。
【0051】
(2)糸切れ回数:巻取機9で巻き取った合成繊維1トン当たりの糸切れ回数を測定した。
【0052】
[実施例1]
ナイロン6チップを溶融し、1糸条あたり単糸5本の糸を口金から8糸条(糸条Y)同時に紡糸した後、吐出糸条に冷風を吹き付けて冷却固化させ、給油ガイドで紡糸油剤を付与した(
図1には図示せず)。その後、
図1に示す第1ネルソンロールユニット位置可変装置3において、ロール径220mm、ロール温度50℃、巻き付け数5回で引き取り、第2ネルソンロールユニット可変装置6において、ロール径220mm、ロール温度170℃、巻き付け数5回で、2.7倍延伸し、巻取機位置可変装置10の巻取機で連続的に巻き取り、基準繊度40dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。このとき第1ロール(下)1b-第2ロール(上)4a間および第2ロール(下)4b-糸条位置センサー7間に糸道の屈曲を生じさせることなく、第2ロールユニット位置可変装置6、巻取機位置可変装置10の位置を設定し、この位置を基準位置とした。得られた糸の毛羽数は、1.1個/1万km、糸切れ回数は、0.2回/tonと良好であった。
【0053】
次に第1ネルソンロールユニット位置可変装置3において、巻き付け回数10回で引き取り、第2ネルソンロールユニット可変装置6において、巻き付け回数10回となるように、上記基準位置に対して第2ロールユニット位置可変装置6をロール先端側に向かって250mm、巻取機位置可変装置10を500mmスライドさせたこと以外、上記と同様の方法で基準繊度40dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。上記スライド量は、事前に第1ロール(下)1b-第2ロール(上)4a間および第2ロール(下)4b-糸条位置センサー7間に糸道の屈曲がないことを確認して設定した。得られた糸の毛羽数は、1.3個/1万km、糸切れ回数は、0.3回/tonと良好であった。
【0054】
前記したように、本発明の合成繊維の製造装置を用いることで、品種に最適な巻き付け回数を容易に変更できる。また糸道を屈曲させること無く構成することができ、かつ糸道に糸道ガイドがないので毛羽が少なく製糸性が良好で、品種に最適な巻き付け回数が採用できるので良好な糸品質の糸条を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の合成繊維の製造装置は、同一溶融紡糸装置で多品種の合成繊維を製造するに際し、様々な品種において良好な品質の繊維を製糸性良く得られるとともに、品種切り替え作業の労力低減・時間短縮を図るとともに生産機会の損失を減らすことができるので合成繊維の製造において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1a:第1ロール(上)
1b:第1ロール(下)
2:第1ロールユニット
3:第1ロールユニット位置可変装置
4a:第2ロール(上)
4b:第2ロール(下)
5:第2ロールユニット
6:第2ロールユニット位置可変装置
7:糸条位置センサー
8:糸道ガイド
9:巻取機
10:巻取機位置可変装置
11:記憶部(ロール位置可変装置)
12:制御部(ロール位置可変装置)
13:駆動部(ロール位置可変装置)
14:検出部(ロール位置可変装置)
15:共通制御部
16:記憶部(巻取機位置可変装置)
17:制御部(巻取機位置可変装置)
18:駆動部(巻取機位置可変装置)
19:検出部(巻取機位置可変装置)
20:ロールユニット
21:ベースプレート(ロールユニット)
22:ベースプレート(ロール位置可変装置)
23:スライドレール(ロール位置可変装置)
24:電動シリンダー(ロール位置可変装置)
25:ベースプレート(巻取機位置可変装置)
26:スライドレール(巻取機位置可変装置)
27:電動シリンダー(巻取機位置可変装置)
Y:糸条