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  • 特許-制御装置及び、制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】制御装置及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20221213BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F02D29/00 F
F02D29/00 G
F02D45/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018026479
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019143503
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】大下 ワサンタ
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267144(JP,A)
【文献】特開2016-035211(JP,A)
【文献】特開2017-057976(JP,A)
【文献】特開2008-286087(JP,A)
【文献】特開2016-118162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力がクラッチ装置を介して変速機に伝達される車両の制御装置であって、
前記エンジンの実回転数を取得する回転数取得手段と、
前記車両の車速を取得する車速取得手段と、
少なくとも、前記実回転数、前記車速及び、前記変速機のシフトアップ後のギヤ比に基づいて、シフトアップ後の前記エンジンの推定回転数を演算する回転数演算手段と、
前記推定回転数と前記実回転数との回転数差が所定の閾値回転数以上の場合に、前記エンジンの回転数を低下させて吸気流量を増加させる回転数低下制御を実施し、前記回転数差が前記閾値回転数よりも小さい場合に、前記回転数低下制御を実施しない制御手段と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記回転数演算手段は、少なくとも前記車両の走行状態及び、又は前記エンジンの運転状態に基づいて、前記変速機がシフトアップ操作されるか否かを判定すると共に、シフトアップ操作されると判定すると前記推定回転数を演算し、
前記制御手段は、前記推定回転数が演算されると、該推定回転数と前記実回転数との差が前記閾値回転数以上か否かを判定する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記クラッチ装置の少なくとも断接を取得可能な断接取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記断接取得手段により前記クラッチ装置の断が取得されると前記回転数低下制御を開始する
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記断接取得手段により前記クラッチ装置の接又は半クラッチ状態が取得されると前記回転数低下制御を終了する
請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記エンジンが、吸気スロットルバルブ、可変容量型過給機及び、圧縮開放ブレーキ装置の少なくとも何れかを備えており、
前記制御手段は、前記回転数低下制御として、前記吸気スロットルバルブの開度を全開にする制御、前記可変容量型過給機のノズルベーンの開度を閉側に絞る制御及び、前記圧縮開放ブレーキ装置を作動させる制御の少なくとも何れかを実施する
請求項1から4の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記閾値回転数が、前記変速機のシフトアップ時に変速ショックを生じさせ得る前記クラッチ装置の入出力回転数差を基準に設定されている
請求項1から5の何れか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
エンジンの動力がクラッチ装置を介して変速機に伝達される車両の制御方法であって、
前記エンジンの実回転数及び、前記車両の車速を取得すると共に、少なくとも、前記実回転数、前記車速及び、前記変速機のシフトアップ後のギヤ比に基づいて、シフトアップ後の前記エンジンの推定回転数を演算し、前記推定回転数と前記実回転数との回転数差が所定の閾値回転数以上の場合に、前記エンジンの回転数を低下させて吸気流量を増加させる回転数低下制御を実施し、前記回転数差が前記閾値回転数よりも小さい場合に、前記回転数低下制御を実施しない
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置及び、制御方法に関し、特に、手動変速機を搭載した車両の制御装置及び、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、手動変速機を搭載した車両においては、エンジンの動力がクラッチ装置を介して手動変速機に伝達され、手動変速機にて所定のギヤ比で変速された後に、プロペラシャフトやファイナルギヤを経由して駆動輪に伝達されるようになっている(例えば、特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-35211号公報
【文献】特開2017-57976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような車両においては、変速機がシフトアップ操作された場合に、シフトアップ前のギヤ段に応じたエンジン回転数に対して、シフトアップ後のギヤ段に応じたエンジン回転数が大きく乖離すると、クラッチ装置を断から接に切り替えた際に大きな変速ショックを生じる可能性がある。このような変速ショックは、ドライバビリティの悪化を招くといった課題がある。
【0005】
本開示の技術は、シフトアップ時のドライバビリティを効果的に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の装置は、エンジンの動力がクラッチ装置を介して変速機に伝達される車両の制御装置であって、前記エンジンの実回転数を取得する回転数取得手段と、前記車両の車速を取得する車速取得手段と、少なくとも、前記実回転数、前記車速及び、前記変速機のシフトアップ後のギヤ比に基づいて、シフトアップ後の前記エンジンの推定回転数を演算する回転数演算手段と、前記推定回転数と前記実回転数との差が所定の閾値回転数以上の場合に、前記エンジンの回転数を低下させる回転数低下制御を実施する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記回転数演算手段は、少なくとも前記車両の走行状態及び、又は前記エンジンの運転状態に基づいて、前記変速機がシフトアップ操作されるか否かを判定すると共に、シフトアップ操作されると判定すると前記推定回転数を演算し、前記制御手段は、前記推定回転数が演算されると、該推定回転数と前記実回転数との差が前記閾値回転数以上か否かを判定することが好ましい。
【0008】
また、前記クラッチ装置の少なくとも断接を取得可能な断接取得手段をさらに備え、前記制御手段は、前記断接取得手段により前記クラッチ装置の断が取得されると前記回転数低下制御を開始することが好ましい。
【0009】
また、前記制御手段は、前記断接取得手段により前記クラッチ装置の接又は半クラッチ状態が取得されると前記回転数低下制御を終了することが好ましい。
【0010】
また、前記エンジンが、吸気スロットルバルブ、可変容量型過給機及び、圧縮開放ブレーキ装置の少なくとも何れかを備えており、前記制御手段は、前記回転数低下制御として、前記吸気スロットルバルブの開度を全開にする制御、前記可変容量型過給機のノズルベーンの開度を閉側に絞る制御及び、前記圧縮開放ブレーキ装置を作動させる制御の少なくとも何れかを実施することが好ましい。
【0011】
また、前記閾値回転数が、前記変速機のシフトアップ時に変速ショックを生じさせ得る前記クラッチ装置の入出力回転数差を基準に設定されていることが好ましい。
【0012】
本開示の方法は、エンジンの動力がクラッチ装置を介して変速機に伝達される車両の制御方法であって、前記エンジンの実回転数及び、前記車両の車速を取得すると共に、少なくとも、前記実回転数、前記車速及び、前記変速機のシフトアップ後のギヤ比に基づいて、シフトアップ後の前記エンジンの推定回転数を演算し、前記推定回転数と前記実回転数との差が所定の閾値回転数以上の場合に、前記エンジンの回転数を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、シフトアップ時のドライバビリティを効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る制御装置を搭載した車両の模式的な全体構成図である。
図2】本実施形態の車両に搭載されたエンジンの模式的な全体構成図である。
図3】本実施形態に係る制御装置を示す機能ブロック図である。
図4】本実施形態に係る回転数低下制御の処理を説明するフローチャート図である。
図5】(A)は、本実施形態に係る回転数低下制御を実施した場合のエンジン回転数の推移を模式的に示すタイミングチャート図であり、(B)は、回転数低下制御を実施しない場合のエンジン回転数の推移を模式的に示すタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る制御装置及び、制御方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[駆動系]
図1は、本実施形態に係る制御装置を搭載した車両1の模式的な全体構成図である。エンジン10のクランクシャフト11には、クラッチ装置40を介して手動変速機(以下、単に変速機という)80のインプットシャフト82が断接可能に接続されている。変速機80は、運転室内に設けられた変速操作装置89と不図示のリンク機構等を介して接続されており、変速操作装置89の操作に応じてシフトチェンジされるようになっている。
【0017】
変速機80のミッションケース81内には、インプットシャフト82、アウトプットシャフト83、カウンタシャフト84、これらシャフト82~84に設けられた複数の変速ギヤ列85、図示しないシンクロメッシュ機構等が配置されている。変速機80のアウトプットシャフト83には、プロペラシャフト87、何れも図示しないファイナルギヤ、左右のドライブシャフト等を介して左右の駆動輪が接続されている。
【0018】
また、車両1には、クランクシャフト11からエンジン回転数Neを取得するエンジン回転数センサ(回転数取得手段の一例)90、アウトプットシャフト83又はプロペラシャフト87から車両1の車速Vを取得する車速センサ(車速取得手段の一例)91、クラッチ装置40の断/接を取得するストロークセンサ(断接取得手段の一例)92等の各種センサ類が設けられている。これら各種センサ類90~92のセンサ値は、電気的に接続された電子制御ユニット(以下、ECU)100に出力される。
【0019】
クラッチ装置40は、例えば、乾式・単板式のクラッチ装置であって、クラッチハウジング41内には、クランクシャフト11の出力側端及び、インプットシャフト82の入力側端が配置されている。クラッチ装置40は、運転者によるクラッチペダル67の踏込み操作に応じて、これらクランクシャフト11及び、インプットシャフト82を断接する。具体的には、運転者がクラッチペダル67を踏み込むと、クランクシャフト11及び、インプットシャフト82が「接」から「断」に切り替えられ、運転者がクラッチペダル67を解放すると、クランクシャフト11及び、インプットシャフト82が「断」から「接」に切り替えられるようになっている。
【0020】
[エンジン]
次に、図2に基づいて、本実施形態の車両に搭載されたエンジン10の詳細について説明する。エンジン10は、主として、シリンダブロックCBと、シリンダブロックCBの上部に設けられたシリンダヘッドCHとを備えている。シリンダブロックCBには、ピストンPを往復移動可能に収容したシリンダCが設けられている。なお、図2中には一気筒のみが示されているが、エンジン10は多気筒エンジン又は単気筒エンジンの何れであってもよい。
【0021】
シリンダヘッドCHには、シリンダC内に吸気を導入する吸気ポート12及び、シリンダC内から排気を導出する排気ポート13が設けられている。吸気ポート12には、動弁機構により開閉作動される吸気バルブ14が設けられ、排気ポート13には、動弁機構により開閉作動される排気バルブ15が設けられている。また、シリンダヘッドCHには、燃焼室内に燃料を直接噴射するインジェクタ16が設けられている。さらに、シリンダヘッドCHの上部には、圧縮開放ブレーキ装置30が設けられている。
【0022】
シリンダヘッドCHの排気側には排気マニホールド17が取り付けられ、排気マニホールド17には排気通路18が接続されている。排気通路18には、可変容量型過給機20のタービン21及び、不図示の排気浄化装置等が設けられている。
【0023】
シリンダヘッドCHの吸気側には吸気マニホールド24が取り付けられ、吸気マニホールド24には吸気通路25が接続されている。吸気通路25には、上流側から順に、エアクリーナ26、可変容量型過給機20のコンプレッサ23、インタークーラ27、吸気スロットルバルブ28等が設けられている。吸気スロットルバルブ28の開閉は、ECU100からの指令に応じて不図示のアクチェータが作動することにより制御される。
【0024】
可変容量型過給機20は、排気により回転駆動するタービン21と、タービン21に設けられたノズルベーン22と、タービン21と同軸に設けられて吸気を圧送するコンプレッサ23とを備えている。ノズルベーン22の開閉は、ECU100からの指令に応じて不図示のアクチェータが作動することにより制御される。
【0025】
EGR装置34は、エンジン10の排気系17,18から吸気系24,25に排気を還流させるEGR通路35と、EGRガスを冷却するEGRクーラ36と、EGR率(還流率)を調整するEGRバルブ37とを備えている。
【0026】
圧縮開放ブレーキ装置30は、圧縮行程時に排気バルブ15を開弁すると共に、ピストンPが上死点を通過した膨張工程にて排気バルブ15を閉弁することにより、エンジンブレーキ力を高めるものである。具体的には、圧縮開放ブレーキ装置30は、ECU100から電磁ソレノイド31に作動信号が入力され、油圧により通常のカム(不図示)をブレーキ用カム32に切り替えると、ブレーキ用カム32がロッカアーム33を揺動させて圧縮行程時に排気バルブ15を強制的に開弁する。これにより、圧縮行程時にシリンダC内の空気が排気ポート13に排出され、シリンダC内で空気の圧縮が行なわれずピストンPの運動エネルギが失われるようになる。次いで、ピストンPが上死点を通過した膨張工程にて排気バルブ15を閉弁する。これにより、シリンダC内が負圧となり、ピストンPを押し下げる力の発生が抑制されることで、エンジンブレーキ力が効果的に高められるようになっている。
【0027】
[ECU]
図3は、本実施形態に係る制御装置を示す機能ブロック図である。ECU100は、エンジン10や車両1の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。また、ECU100は、エンジン回転数演算部(回転数演算手段)110と、変速ショック判定部(制御手段)120と、回転数低下制御部(制御手段)130とを一部の機能要素として有している。これら各機能要素は、一体のハードウェアであるECU100に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0028】
エンジン回転数演算部110は、車両走行中に変速機80が運転者によって現在のギヤ段からシフトアップされると想定される場合に、シフトアップ後のギヤ段(ギヤ比)に応じたエンジン回転数Ne_Calを推定演算する。具体的には、エンジン回転数演算部110は、現在のギヤ段Gと、車速センサ91により取得される車両1の現車速V_Actと、シフトアップ後のギヤ段Gn+1に応じたギヤ比とに基づいて、シフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calを演算する。
【0029】
現在のギヤ段Gは、クラッチ装置40が接の状態で取得されるエンジン回転数センサ90のセンサ値(変速機入力回転数)と、車速センサ91のセンサ値(変速機出力回転数)とに基づいて判別すればよい。或いは、車両1が不図示のシフトポジションセンサを備えていれば、現在のギヤ段Gはシフトポジションセンサのセンサ値から判別してもよい。シフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calは、予めECU100に記憶した各ギヤ段のギヤ比や車速等を入力値として含む演算式又はマップ等に基づいて演算すればよい。シフトアップの前後で車速が略一定と仮定すれば、これら演算式やマップを簡素化することができる。
【0030】
変速ショック判定部120は、エンジン回転数センサ90により取得される現在のエンジン回転数Ne_Actと、エンジン回転数演算部110により推定演算されたシフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calとに基づいて、シフトアップ時のクラッチ接により変速ショックが生じ得るか否かを判定する。具体的には、ECU100には、変速ショックを生じさせ得るクラッチ装置40の入出力回転数差が判定閾値Ne_Maxとして記憶されている。判定閾値Ne_Maxは、変速機80の各ギヤ段のギヤ比の設定や仕様等に応じて適宜に設定すればよい。変速ショック判定部120は、シフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calと現在のエンジン回転数Ne_Actとの回転数差ΔNeが判定閾値Ne_Max以上であれば、変速ショックが生じ得ると判定する。
【0031】
回転数低下制御部130は、変速ショック判定部120により変速ショックが生じ得ると判定されると、エンジン回転数を低下させる回転数低下制御を実施する。本実施形態において、回転数低下制御は、吸気側の圧力を排気側の圧力よりも上昇させて、エンジン10のポンピングロスを増加させることにより実施される。具体的には、以下の(1)~(3)の何れか一つ、或いは、これら(1)~(3)を選択的に組み合わせることにより実行される。
【0032】
(1)吸気スロットルバルブ28の開度を開側(好ましくは、全開)に制御して、吸気流量を増加させる。(2)可変容量型過給機20のノズルベーン22の開度を閉側に絞って、タービン21の回転速度を増加させることによりブースト圧(過給圧)を上昇させる。(3)圧縮開放ブレーキ装置30を作動させて、エンジン10のポンピングロスを増加させる。なお、回転数低下制御を実施する際は、好ましくは、EGRバルブ37も全閉に制御する。
【0033】
回転数低下制御は、好ましくは、ストロークセンサ92によりクラッチ装置40の「断」が取得されると開始される。これにより、運転者による変速操作(クラッチペダル67の踏み込み)と同時に、エンジン回転数を急速に低下させることが可能になる。また、回転数低下制御は、好ましくは、ストロークセンサ92によりクラッチ装置40の「接」が取得されると終了される。すなわち、回転数低下制御をクラッチ装置40が「断」から「接」となるまでの期間に亘って継続実施することで、シフトアップ完了の直後までブースト圧の高い状態が保持されるようになる。これにより、シフトアップ後の加速応答性を効果的に向上することが可能になる。また、吸気流量を増加させる回転数低下制御の実施を、回転数差ΔNeが判定閾値Ne_Maxよりも小さい場合には禁止(不実施)することで、排気温度の過度な低下が抑制されるようになり、排気エミッションの悪化も効果的に防止することができる。なお、回転数低下制御は、クラッチ装置40の半クラッチ状態を検出した時点で終了させてもよい。
【0034】
次に、図4のフローチャート図に基づいて、本実施形態に係る回転数低下制御の処理について説明する。
【0035】
ステップS100では、車速センサ91等の各種センサ値から取得される車両1の走行状態、エンジン回転数センサ90や不図示のアクセル開度センサ等により取得されるエンジン10の運転状態、ストロークセンサ92(又は、アクセルペダルセンサ)により取得されるクラッチペダル67の操作状態(アクセルペダル開放)、不図示のブレーキペダルセンサにより取得されるブレーキペダルの操作状態(ブレーキペダル開放)等に基づいて、運転者により変速機40がシフトアップ操作され得る状態にあるか否かを判定する。シフトアップ操作され得る状態にあると判定した場合(肯定)は、ステップS110に進む。
【0036】
ステップS110では、現在のギヤ段G、車速センサ91により取得される車両1の現車速V_Act及び、シフトアップ後のギヤ段Gn+1に基づいて、シフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calを推定演算する。
【0037】
ステップS120では、シフトアップ後のエンジン回転数Ne_Calと現在のエンジン回転数Ne_Actとの回転数差ΔNeが判定閾値Ne_Max以上にあるか否かを判定する。回転数差ΔNeが判定閾値Ne_Max以上であれば(肯定)、シフトアップ時に変速ショックが生じ得る可能性が高いため、本制御はステップS130に進む。
【0038】
ステップS130では、運転者によるシフトアップ操作が開始されたか否かを判定する。すなわち、シフトストロークセンサ92のセンサ値に基づいて、クラッチ装置40が「接」から「断」に切り替わった場合(肯定)には、運転者によるシフトアップ操作が開始されたと判定し、本制御はステップS140に進む。
【0039】
ステップS140では、ポンピングロスを増加させてエンジン回転数を低下させる回転数低下制御が開始される。
【0040】
ステップS150では、シフトストロークセンサ92のセンサ値に基づいて、クラッチ装置40が「断」から「接」(又は、半クラッチ状態)に切り替わったか否かを判定する。肯定の場合、本制御はステップS160に進み、回転数低下制御を終了してリターンされる。一方、否定の場合、本制御はステップS140に戻される。すなわち、クラッチ装置40が「接」となるシフトアップ完了まで、回転数低下制御が継続して実施される。
【0041】
以上詳述した本実施形態に係る制御装置及び、制御方法の作用効果を図5に示すタイミングチャート図を参照しながら説明する。なお、図5(A)は、回転数低下制御を実施した場合のエンジン回転数の推移を模式的に示し、図5(B)は、回転数低下制御を実施しない場合のエンジン回転数の推移を模式的に示している。
【0042】
図5(B)に示すように、シフトアップ時に回転数低下制御を実施しない場合は、シフトアップ前のエンジン回転数(時刻t1参照)と、シフトアップ後のエンジン回転数(時刻t2参照)との回転数差が大きく乖離するため、クラッチ接続時に変速ショックが大きくなり、ドライバビリティの悪化を招く可能性がある。
【0043】
一方、図5(A)に示すように、クラッチが断となる変速操作開始(時刻t1)と同時に、ポンピングロスを増加させる回転数低下制御を実施すると、エンジン回転数は急速に低下されるようになる。すなわち、シフトアップ前のエンジン回転数(時刻t1参照)と、シフトアップ後のエンジン回転数(時刻t2参照)との回転数差を小さく抑える(或は、回転数差を略ゼロの状態にする)ことが可能になる。これにより、クラッチ接続時に変速ショックの発生が効果的に抑制されるようになり、ドライバビリティを確実に向上することができる。
【0044】
また、回転数低下制御をクラッチ装置40が断となる時刻t1から接となる時刻t2の期間に亘って継続して実施することで、シフトアップ完了の直後までブースト圧の高い状態が保持されるようになり、シフトアップ後の加速応答性を効果的に向上することができる。
【0045】
また、シフトアップ時のクラッチ接によるクラッチ装置40の吸収エネルギが減少することで、クラッチフェーシングの早期摩耗等も効果的に抑止することが可能になる。
【0046】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態において、クラッチ装置40の断接は、ストロークセンサ92により判別するものとして説明したが、クラッチ接の状態で取得されるエンジン回転数センサ90、車速センサ91及び、変速機80のギヤ比等に基づいて判別してもよい。また、車両1の車速は、車速センサ91により取得するものとして説明したが、車両1が不図示の車輪速センサを備えていれば、該車輪速センサを用いてもよい。また、エンジン回転数は、変速機80が入力回転数センサを備えていれば、該入力回転数センサがクラッチ接の状態で取得するセンサ値により代用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
10 エンジン
20 可変容量型過給機
22 ノズルベーン
28 吸気スロットルバルブ
30 圧縮開放ブレーキ装置
40 クラッチ装置
80 変速機
90 エンジン回転数センサ
91 車速センサ
92 ストロークセンサ
100 ECU
110 エンジン回転数演算部
120 変速ショック判定部
130 回転数低下制御部
図1
図2
図3
図4
図5