(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20221213BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20221213BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20221213BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221213BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20221213BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221213BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20221213BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20221213BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20221213BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20221213BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/485 ZHV
B60K6/54
B60W10/06 900
B60W20/00 900
B60L50/16
B60L15/20 L
F02D29/00 D
F02D29/00 G
F02D29/02 321A
F02D41/12
F02D41/04
(21)【出願番号】P 2018107093
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 陽
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-287304(JP,A)
【文献】特開2010-208415(JP,A)
【文献】特開2014-097707(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102556047(CN,A)
【文献】特開2015-058783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0090365(US,A1)
【文献】特開2004-138030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
B60L 50/16
B60L 15/20
F02D 29/00
F02D 29/02
F02D 41/12
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の駆動を補助することが可能な電動機と、
前記内燃機関の駆動力および前記電動機の駆動力を変速して車輪へ伝達する変速機と、
前記内燃機関と前記変速機との間、かつ前記電動機と前記変速機との間に設けられて前記内燃機関の駆動力および前記電動機の駆動力の伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、
前記クラッチが切断されて前記内燃機関から前記変速機への駆動力および前記電動機から前記変速機への駆動力のいずれも遮断されている場合、または、前記変速機が前記車輪への前記駆動力の非伝達状態である場合には、前記内燃機関への燃料の供給を停止させ、かつ前記内燃機関の回転数がアイドル回転数になるように前記電動機の出力トルクを制御する電動アイドル制御を実行する制御部と、を備え
るハイブリッド車両であって、
前記制御部は、
前記ハイブリッド車両の車速がアイドルストップ閾値以下であり、かつアイドルストップ制御の実行条件を満たしている場合には、前記電動機を回生状態またはトルクを出力しない状態にして前記内燃機関を停止させる前記アイドルストップ制御を実行し、
前記車速が前記アイドルストップ閾値以下であり、かつ前記アイドルストップ制御の前記実行条件を満たしていない場合には、前記電動アイドル制御を実行し、
前記車速が前記アイドルストップ閾値より大きい場合には、前記電動アイドル制御を実行し、
前記電動アイドル制御の実行開始から所定時間後に前記電動アイドル制御を解除するハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御部は、
前
記回転数が前記アイドル回転数より大きい所定値以上
であり、かつフューエルカット制御の実行条件を満たしている場合には、前記電動機を回生状態またはトルクを出力しない状態にして前記内燃機関への燃料の供給を停止する
前記フューエルカット制御を実行し、
前記回転数が前記所定値以上であり、かつ前記フューエルカット制御の前記実行条件を満たしていない場合には、前記電動アイドル制御を実行し、
前
記回転数が前記所定値未満の場合には、前記電動アイドル制御を実行する請求項
1に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
変速時のエンジンの回転数をアイドル回転数以上に保ち、エンジンの回転数を安定させるハイブリッド車が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、クラッチが切断される都度、エンジンの回転数をアイドル回転数以上に保つよう、エンジンを制御する場合には、エンジンの回転数を目標回転数に追従させるために、燃料の供給量(つまり、燃料の噴射量、燃料の消費量)が増加する可能性がある。このような、燃料の過剰な供給は、燃費を低下させる。
【0005】
そこで、本発明は、クラッチが切断された場合に、エンジンの回転数をアイドル回転数以上に保ちつつ、燃料の消費を抑制可能なハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため本発明に係るハイブリッド車両は、内燃機関と、前記内燃機関の駆動を補助することが可能な電動機と、前記内燃機関の駆動力および前記電動機の駆動力を変速して車輪へ伝達する変速機と、前記内燃機関と前記変速機との間、かつ前記電動機と前記変速機との間に設けられて前記内燃機関の駆動力および前記電動機の駆動力の伝達と遮断とを切り替えるクラッチと、前記クラッチが切断されて前記内燃機関から前記変速機への駆動力および前記電動機から前記変速機への駆動力のいずれも遮断されている場合、または、前記変速機が前記車輪への前記駆動力の非伝達状態である場合には、前記内燃機関への燃料の供給を停止させ、かつ前記内燃機関の回転数がアイドル回転数になるように前記電動機の出力トルクを制御する電動アイドル制御を実行する制御部と、を備えるハイブリッド車両である。前記制御部は、前記ハイブリッド車両の車速がアイドルストップ閾値以下であり、かつアイドルストップ制御の実行条件を満たしている場合には、前記電動機を回生状態またはトルクを出力しない状態にして前記内燃機関を停止させる前記アイドルストップ制御を実行し、前記車速が前記アイドルストップ閾値以下であり、かつ前記アイドルストップ制御の前記実行条件を満たしていない場合には、前記電動アイドル制御を実行し、前記車速が前記アイドルストップ閾値より大きい場合には、前記電動アイドル制御を実行し、前記電動アイドル制御の実行開始から所定時間後に前記電動アイドル制御を解除する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クラッチが切断された場合に、エンジンの回転数をアイドル回転数以上に保ちつつ、燃料の消費を抑制可能なハイブリッド車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のブロック図。
【
図2】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御のアルゴリズム(算法)を表現したフローチャート。
【
図3】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御における各判断条件の対応表。
【
図4】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御を表現したタイミングチャート。
【
図5】電動アイドル制御を実施しない、従来の制御を表現したタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両の実施形態について
図1から
図5を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号が付されている。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両のブロック図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、複数の動力源、つまり内燃機関2(以下「エンジン2」という。)と、電動発
電機3(Motor Generator、MG、以下「モータージェネレーター3」という。)と、を備えている。ハイブリッド車両1は、運転条件に応じてエンジン2とモータージェネレーター3とを複合的に用いて走行する。ハイブリッド車両1は、例えば、発進時や加速時には、モータージェネレーター3を力行させてエンジン2の駆動力を補助する一方、慣性走行時や制動時には、モータージェネレーター3を回生させて発電を行い、余剰の運動エネルギーを電力に変換する。ハイブリッド車両1は、例えば、普通乗用車、バス、トラックなどを含む。
【0012】
ハイブリッド車両1は、一対の駆動輪6と、エンジン2と、エンジン2の駆動を補助することが可能なモータージェネレーター3と、エンジン2の駆動力およびモータージェネレーター3の駆動力を変速して駆動輪6へ伝達する変速機7と、エンジン2と変速機7との間、かつモータージェネレーター3と変速機7との間に設けられて内燃機関2の駆動力およびモータージェネレーター3の駆動力の伝達と遮断とを切り替えるクラッチ8と、変速機7からそれぞれの駆動輪6へ駆動力を振り分けて伝達する差動歯車9と、を備えている。
【0013】
また、ハイブリッド車両1は、モータージェネレーター3の力行で消費される電力を蓄え、かつモータージェネレーター3の回生で発電した電力を蓄える高電圧バッテリー11と、エンジン2、およびモータージェネレーター3の運転制御を行う制御部12と、を備えている。
【0014】
エンジン2は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンである。エンジン2は、1つ以上の気筒内で燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生させ、この熱エネルギーでクランクシャフト15を回転駆動させる。つまり、エンジン2の駆動力は、クランクシャフト15から出力される。
【0015】
モータージェネレーター3は、クランキングを行う機能も有している。なお、エンジン2の駆動を補助する限りにおいて、ハイブリッド車両1は、モータージェネレーター3に代えて、発電機としての機能のない電動機(Motor、モーター)を備えていても良い。
【0016】
エンジン2とモータージェネレーター3との間には、動力伝達機構16が設けられている。動力伝達機構16は、エンジン2とモータージェネレーター3との間で相互に駆動力を伝える。動力伝達機構16は、モータージェネレーター3の出力軸17に設けられる第一プーリー21と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフト15に設けられる第二プーリー22と、第一プーリー21と第二プーリー22との間に架け渡される無端状のベルト23と、を備えている。ベルト23は、エンジン2の駆動を補助するモータージェネレーター3の駆動力(出力トルク、力行トルク)をエンジン2へ伝達することが可能な一方で、ハイブリッド車両1の慣性走行時や制動時には、エンジン2側からモータージェネレーター3へ駆動力を伝えてモータージェネレーター3を回生させることが可能である。
【0017】
なお、動力伝達機構16は、2つのプーリー21、22、およびベルト23の代わりに、互いに噛み合わされる複数のギヤを有するギヤボックスなどを用いて動力を伝達しても良い。また、動力伝達機構16は、エンジン2とモータージェネレーター3との間で駆動力を伝達、または遮断する第二クラッチ(図示省略)を備えていても良い。
【0018】
クランクシャフト15の一方の端部には第二プーリー22が設けられ、クランクシャフト15の他方の端部にはクラッチ8が設けられている。
【0019】
モータージェネレーター3は、エンジン2から駆動輪6へ伝達される駆動力の向き、およびモータージェネレーター3から駆動輪6へ伝達される駆動力の向きにおいて、エンジン2より上流側に配置されている。
【0020】
なお、モータージェネレーター3は、クラッチ8越しに変速機7に接続されているのであれば、エンジン2とクラッチ8との間に設けられていても良い。換言すると、モータージェネレーター3は、エンジン2から駆動輪6へ伝達される駆動力の向き、およびモータージェネレーター3から駆動輪6へ伝達される駆動力の向きにおいて、クラッチ8よりも上流側に配置されているのであれば、エンジン2とクラッチ8との間に設けられていても良い。この場合、エンジン2、モータージェネレーター3、クラッチ8、および変速機7は、この順に直列に接続され、かつエンジン2とモータージェネレーター3との間に追加のクラッチ(第二クラッチ)が設けられていても良い。
【0021】
変速機7は、エンジン2およびモータージェネレーター3の駆動力をトルクや回転数、回転方向を変えて差動歯車9へ伝達する。変速機7は、例えばオートメイテッドマニュアルトランスミッションである。変速機7は、減速比が異なる複数の歯車の組を備えている。また、変速機7は、エンジン2の駆動力およびモータージェネレーター3の駆動力を駆動輪6へ伝達しない状態、つまり中立(ニュートラル)状態をとることができる。なお、変速機7は、ハイブリッド車両1の慣性走行時や制動時には、駆動輪6側からエンジン2およびモータージェネレーター3へ駆動力を伝達する。
【0022】
クラッチ8は、エンジン2の出力軸、つまりクランクシャフト15の一方の端部に接続されている。クラッチ8は、変速機7の自動変速制御に応じて接続されたり切断されたりする。
【0023】
高電圧バッテリー11は、例えば電圧48ボルトのリチウムイオンバッテリーやニッケル水素バッテリーである。高電圧バッテリー11の負荷側には、モータージェネレーター3の他に、DC/DCコンバーター26を介して負荷としての車両電装品27、低電圧バッテリー28、およびスターターモーター29が接続されている。高電圧バッテリー11の電力は、DC/DCコンバーター26で降圧されて、車両電装品27、低電圧バッテリー28、およびスターターモーター29へ供給される。
【0024】
車両電装品27は、例えば、電動エアコンディショナーや、電動油圧ポンプである。
【0025】
低電圧バッテリー28は、例えば電圧12ボルトの鉛蓄電池である。
【0026】
制御部12は、いわゆるECM(Engine Control Module)である。制御部12は、信号線31を介してエンジン2、モータージェネレーター3、高電圧バッテリー11、低電圧バッテリー28、スターターモーター29に接続されている。制御部12は、モータージェネレーター3の運転を制御するMGコントローラー32を含んでいる。
【0027】
制御部12は、発進時や加速時には、高電圧バッテリー11からモータージェネレーター3へ電力を供給させ、モータージェネレーター3を力行させてエンジン2の駆動力を補助する。また、制御部12は、慣性走行時や制動時には、モータージェネレーター3を回生させて発電を行い、余剰の運動エネルギーを電力に変換して高電圧バッテリー11を充電する。
【0028】
制御部12は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit、CPU、図示省略)、中央処理装置で実行(処理)される各種演算プログラム、パラメータなどを記憶する補助記憶装置(例えば、Read Only Memory、ROM、図示省略)、プログラムの作業領域が動的に確保される主記憶装置(例えば、Random Access Memory、RAM、図示省略)を備えている。
【0029】
制御部12で実行されるプログラムとして、アイドルストップ(アイドリングストップ、停車時エンジン停止、no idling、idle reduction、とも呼ばれる。)制御が例示される。アイドルストップ制御は、エンジン2への燃料の供給を停止し、かつモータージェネレーター3を力行以外の状態にして、つまり高電圧バッテリー11からモータージェネレーター3への電力供給を遮断するか、モータージェネレーター3が回生トルクを出力して高電圧バッテリー11を充電するか、いずれかの動作を行いつつエンジン2を停止させる。制御部12は、駐停車時や、信号待ち時などにアイドルストップ制御を実行する。
【0030】
次に、制御部12で実行されるプログラムとして、電動アイドル制御について詳しく説明する。なお、電動アイドル制御は、エンジン2が始動した後に開始される。
【0031】
図2は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御のアルゴリズム(算法)を表現したフローチャートである。
【0032】
図3は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御における各判断条件の対応表である。
【0033】
図2および
図3に示すように、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御部12は、クラッチ8が切断されてエンジン2から変速機7への駆動力およびモータージェネレーター3から変速機7への駆動力のいずれも遮断されている場合、または、変速機7が駆動輪6への駆動力の非伝達状態(いわゆるニュートラル状態)である場合には、エンジン2への燃料の供給を停止させ、かつエンジン2の回転数がアイドル回転数になるようにモータージェネレーター3の出力トルクを制御する電動アイドル制御を実行する。
【0034】
また、制御部12は、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値以下である場合には、モータージェネレーター3を力行以外の状態にしてエンジン2を停止させるアイドルストップ制御を実行し、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値より大きい場合には、電動アイドル制御の実行条件を満足していることを条件として電動アイドル制御を実行する。
【0035】
さらに、制御部12は、エンジン2の回転数がアイドル回転数より大きい所定値以上の場合には、モータージェネレーター3を力行以外の状態にしてエンジン2への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行し、エンジン2の回転数が所定値未満の場合には、電動アイドル制御の実行条件を満足していることを条件として電動アイドル制御を実行する。
【0036】
具体的には、制御部12は、エンジン2が始動すると、ハイブリッド車両1の車速と予め定められるアイドルストップ閾値とを比較する(ステップS1)。制御部12は、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値より大きいか否かを判断する(ステップS1)。
【0037】
制御部12は、ステップS1の判断が肯定された場合、つまり、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値より大きい場合(ステップS1 Yes)には、エンジン2の回転数とエンジン2のアイドル回転数より大きい所定値とを比較する(ステップS2)。制御部12は、エンジン2の回転数が所定値より小さいか否かを判断する(ステップS2)。
【0038】
制御部12は、ステップS2の判断が肯定された場合、つまり、エンジン2の回転数が所定値より小さい場合(ステップS2 Yes)には、クラッチ8の状態、および変速機7の状態を確認する(ステップS3)。制御部12は、クラッチ8が切られているか否か、または変速機7が駆動力の非伝達状態か否かを判断する(ステップS3)。ステップS3の判断は、論理和である。つまり、クラッチ8が切られている(切断されている)場合には、ステップS3の判断は肯定される。また、変速機7が駆動力の非伝達状態の場合には、ステップS3の判断は肯定される。
【0039】
制御部12は、ステップS3の判断が肯定された場合、つまり、クラッチ8が切られている場合、または変速機7が駆動力の非伝達状態の場合(ステップS3 Yes)には、電動アイドル制御の実行条件が満足されているか否かを判断する(ステップS4)。ここで、ステップS4における、電動アイドル制御の実行条件には、例えば、次のような7つの条件が含まれている。
【0040】
第一条件は、モータージェネレーター3の状態が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第一条件は、モータージェネレーター3の温度が闘値以下である場合には、成立する。
【0041】
第二条件は、高電圧バッテリー11の状態が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第二条件は、高電圧バッテリー11の温度が闘値以内であり、高電圧バッテリー11の充電状態(State Of Charge、SOC)が闘値以上であり、かつ高電圧バッテリー11の出力可能な電力が闘値以上である場合には、成立する。なお、高電圧バッテリー11の温度が閾値以内という条件は、高電圧バッテリー11の温度が下限値以上かつ上限値以下であることを示す。この温度に関する条件は、高電圧バッテリー11の温度が高すぎる場合または低すぎる場合は、いずれもバッテリーを使用することに適していないためである。
【0042】
第三条件は、エンジン2の状態が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第三条件は、エンジン2の冷却水温が闘値以内であり、エンジン2の回転数が所定値よりさらに大きい第二所定値以下であり、かつ電動アイドルの実施に必要な要求トルクが閾値以下である場合には、成立する。なお、エンジン2の冷却水温が閾値以内という条件は、エンジン2の冷却水温が下限値以上かつ上限値以下であることを示す。この温度に関する条件は、エンジン2の冷却水温が高すぎる場合はエンジン2の保護のため、またエンジン2の冷却水温低すぎる場合はエンジン2の暖機を優先して燃料噴射を行うことが望ましいためである。
【0043】
第四条件は、電動アイドルの実行を阻害する電動アイドル以外の制御要求の有無である。第四条件は、例えば、横滑り防止装置(Electronic Stability Program、ESP)からトルク要求がある場合には、不成立になる。また、第四条件は、例えば、エアコン(Air Conditioner、AC)からエンジン2の始動要求がある場合には、不成立になる。
【0044】
第五条件は、エンジン2とモータージェネレーター3との間の動力伝達機構16の状態が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第五条件は、ベルト23が正常に機能している場合には、成立し、ベルトスリップやベルト切れなど、ベルト23に異常がある場合には、不成立になる。
【0045】
第六条件は、ハイブリッド車両1の車速が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第六条件は、ハイブリッド車両1が始動から現在まで経験した車速の最大値(以下、「経験車速」という。)が予め設定された電動アイドル用の経験車速閾値よりも大きい閾値以上であり、かつハイブリッド車両1の現在の車速が予め設定された電動アイドル用の車速条件閾値以内である場合には、成立する。ここで、電動アイドル用の経験車速閾値は、適合試験や実験等で求められる値であり、例えばアイドルストップの許可条件に用いられるアイドルストップ用の経験車速閾値と同値としてもよい。これにより、経験車速がアイドルストップの条件の1つを満たすと同時に電動アイドルの経験車速の条件も満たすこととなる。また、電動アイドル用の車速条件閾値は、適合試験や実験等で求められる値であり、上限値と下限値とを含む値である。ハイブリッド車両1の現在の車速がこの上限値と下限値との間である場合に、現在の車速の条件を満たしたものとして第六条件の成否に影響する。ここで、上限値は、電動アイドル用の経験車速閾値よりも大きな値であることが望ましい。
【0046】
第七条件は、ハイブリッド車両1の姿勢が電動アイドルを実施可能な状態か否かである。第七条件は、ハイブリッド車両1が走行中の路面の勾配が閾値以下である場合には、成立する。
【0047】
ハイブリッド車両1は、これら7つの条件を判断するために必要となる種々の検知器類(図示省略)、例えば車速センサ、エンジン2の回転数センサ、クラッチ8の状態を検知するクラッチセンサ、変速機7の状態を検知するギヤポジションセンサ、モータージェネレーター3の温度センサ、高電圧バッテリー11の温度センサ、高電圧バッテリー11の充電状態(State Of Charge、SOC)を算定するセンサ群、高電圧バッテリー11の出力可能な電力を算定するセンサ群、エンジン2の冷却水温センサ、ベルト23の張力センサ、およびハイブリッド車両1の姿勢センサを備えている。これら検知機類の出力信号は、制御部12へ入力される。
【0048】
これら第一条件から第七条件が全て成立した場合には、電動アイドル制御の実行条件が満足される(ステップS4 Yes)。制御部12は、ステップS4の判断が肯定された場合、つまり、電動アイドル制御の実行条件が満足された場合(ステップS4 Yes)には、電動アイドルを実行して(ステップS5、
図3のエンジン回転数-低、車速-高のマス目、セルにあたる。)、一旦制御を終え、再び制御を開始する。
【0049】
なお、電動アイドル、または電動アイドリングとは、エンジン2への燃料の供給を停止させた状態で、高電圧バッテリー11からモータージェネレーター3へ電力を供給させ、モータージェネレーター3を力行させてエンジン2の回転数をアイドリング回転数に維持することをいう。つまり、電動アイドル、または電動アイドリングは、エンジン2に燃料を供給し、気筒内で燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生させ、この熱エネルギーでエンジン2の回転数をアイドリング回転数に維持するアイドリング(これを便宜的に「燃料アイドル」または「燃料アイドリング」という。)とは異なる。
【0050】
また、電動アイドルは、復帰条件が満たされた場合には、エンジン2への燃料の供給を再開すると同時に解除される。電動アイドルからの復帰条件は、例えばクラッチ8が再接続され、かつ変速機7が駆動力を伝達する状態、つまりいずれかの変速段が選択された状態になることである。換言すると、電動アイドルからの復帰条件は、ステップS3の不成立に相当する。また、例えば上述の第一条件から第七条件のいずれかが不成立になる等、電動アイドル制御の実行条件が満足しない状態になった場合、すなわちステップS4の不成立も電動アイドルの復帰条件に該当する。この他、ステップS1が不成立になるとアイドルストップ制御に移行するため電動アイドルは解除される。また、ステップS2が不成立になると、フューエルカット制御に移行するため電動アイドルは解除される。
【0051】
電動アイドルは、復帰条件が満たされない場合であっても、実行から所定時間後、例えば10秒後に、解除されることが好ましい。クラッチ8が切られた状態や、変速機7の非伝達状態(ステップS3 Yes)が、例えば故障によって長時間継続したとしても、高電圧バッテリー11の過剰な消費が抑制できる。
【0052】
また、制御部12は、ステップS1の判断が否定された場合、つまり、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値以下の場合(ステップS1 No)には、アイドルストップ制御の実行条件を満足しているか否かを判断する(ステップS6)。ステップS6が肯定された場合、アイドルストップ制御を実行して(ステップS7、
図3のエンジン回転数-低および高、車速-低のマス目、セルにあたる。)、一旦制御を終え、再び制御を開始する。ステップS6が否定された場合は、アイドルストップ制御を実行できないため、ステップS2に進む。なお、アイドルストップ制御の実行条件は、ステップS1の車速条件の他、経験車速や高電圧バッテリー11の状態、アクセルやブレーキ等の運転操作部材や補機負荷の状態等に基づいて設定される。
【0053】
さらに、制御部12は、ステップS2の判断が否定された場合、つまり、ハイブリッド車両1の車速がアイドルストップ閾値より大きい場合(ステップS1 Yes)、またはアイドルストップ制御の実行条件を満足されず(ステップS6 No)かつエンジン2の回転数が所定値以上の場合(ステップS2 No)には、フューエルカット制御の実行条件を満足しているか否かを判断する(ステップS8)。ステップS8が肯定された場合、フューエルカット制御を実行して(ステップS9、
図3のエンジン回転数-高、車速-高のマス目、セルにあたる。)、一旦制御を終え、再び制御を開始する。ステップS8が否定された場合には、フューエルカット制御を実行できないため、ステップS3に進む。なお、フューエルカット制御の実行条件は、ステップS2のエンジンの回転数の条件の他、現在の車速やエンジンの暖機状態、運転操作部材や補機負荷、および変速機の状態等に基づいて設定される。
【0054】
なお、フューエルカットとは、モータージェネレーター3を力行以外の状態にしてエンジン2への燃料の供給を停止することを言う。換言すると、フューエルカット制御とは、エンジン2への燃料の供給を停止させた状態を示す。このとき、モータージェネレーター3の動作は、高電圧バッテリー11からモータージェネレーター3への電力の供給を遮断してモータージェネレーター3の出力トルクを零値化するか、またはモータージェネレーター3が回生トルクを出力して高電圧バッテリー11に電力を充電するかいずれかに制御される。
【0055】
アイドルストップ制御では、エンジン2への燃料の供給を停止させた後、エンジン2の回転数が零値になるまで、エンジン2への燃料の供給を停止させ続ける一方、フューエルカット制御では、エンジン2への燃料の供給を停止させた後、エンジン2の回転数が零値になる以前に、少なくともエンジン2の回転数がアイドル回転数より大きくなるように電動アイドル制御へ移行する場合と、エンジン2への燃料の供給を復帰させる場合とがある。フューエルカット制御では、エンジン2へ混合気を供給するスロットルバルブ(図示省略)を開けておいて、ポンピングロスを低減させても良い。
【0056】
また、制御部12は、ステップS3の判断が否定された場合、つまり、クラッチ8が接続され、かつ変速機7が駆動力の伝達状態の場合(ステップS3 No)には、電動アイドル制御を実行せず(不実行して、実施を回避して、ステップS10)、一旦制御を終え、再び制御を開始する。
【0057】
さらに、制御部12は、ステップS4の判断が否定された場合、つまり、電動アイドル制御の実行条件が満足されずに不成立になった場合(ステップS4 No)には、電動アイドル制御を実行せず(不実行して、実施を回避して、ステップS10)、一旦制御を終え、再び制御を開始する。
【0058】
図4は、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両が実行する電動アイドル制御を表現したタイミングチャートである。
【0059】
図5は、電動アイドル制御を実施しない、従来の制御を表現したタイミングチャートである。
【0060】
なお、
図4および
図5の区間Aでは、車両(本実施形態に係るハイブリッド車両1、および従来例の)は、アイドルストップ閾値より大きい車速で走行しているものとする(
図2のステップS1 Yes)。また、エンジンへの燃料の供給はなく、モータージェネレーターは力行以外の状態にあって、回生状態またはトルクを出力していない状態のいずれかである。
【0061】
そして、エンジンの回転数は、クラッチが切られると下がり始める(
図4、および
図5のタイミングT1)。
【0062】
図5に示すように、従来の車両は、エンジンの回転数が燃料復帰回転数まで低下すると(
図5のタイミングT2)、燃料の噴射を再開する(
図5の実線矢印a)。従来の車両は、燃料を供給してエンジンを燃料アイドリングさせ、アイドル回転数を維持する(
図5の区間C)。
【0063】
一方、
図4に示すように、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、エンジン2の回転数が所定値(従来の車両における燃料復帰回転数に相当する。)以上の期間(
図2のステップS2 No、
図4の区間B)、燃料の供給を停止させたまま、かつモータージェネレーター3を力行以外の状態にする。この区間Bにおいて、ハイブリッド車両1は、フューエルカット制御を実行している(
図2のステップS9)。
【0064】
そして、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、エンジン2の回転数が所定値(従来の車両における燃料復帰回転数に相当する。)まで低下すると(
図2のステップS2 Yes)、燃料の供給を停止させたまま、高電圧バッテリー11からモータージェネレーター3へ電力を供給させ、モータージェネレーター3を力行させてエンジン2の回転数をアイドリング回転数に維持する(
図2のステップS5、
図4の区間C)。
【0065】
つまり、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、区間Cにおいて従来の車両のようにエンジン2へ燃料を供給せず、電動アイドリングを行っている。つまり、ハイブリッド車両1は、燃料の供給を停止させ、モータージェネレーター3を力行させてエンジン2の回転数をアイドリング回転数に維持することで、
図5に破線のハッチング領域FRで表される燃料の消費を抑えることができる。
【0066】
本実施形態に係るハイブリッド車両1は、クラッチ8が切断されてエンジン2から変速機7への駆動力およびモータージェネレーター3から変速機7への駆動力のいずれも遮断されている場合、または、変速機7が駆動輪6への駆動力の非伝達状態である場合には、エンジン2への燃料の供給を停止させ、かつエンジン2の回転数がアイドル回転数になるようにモータージェネレーター3の出力トルクを制御する電動アイドル制御を実行する。そのため、ハイブリッド車両1は、変速機7の変速にともなうクラッチ8の切断時や、慣性走行の際に、駆動輪6の回転に影響を与えることなくエンジン2のストールを防止し、かつ燃費を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、車速がアイドルストップ閾値以下であって、アイドルストップ制御の実行条件を満たしている場合にはモータージェネレーター3を力行以外の状態にしてエンジン2を停止させるアイドルストップ制御を実行する。車速がアイドルストップ閾値より大きい場合には、電動アイドル制御の実行条件を満足していれば電動アイドル制御を実行する。つまり、ハイブリッド車両1は、アイドルストップ制御の条件が成立しない高車速時であっても、エンジン2への燃料の供給を停止させて、燃料アイドルに代えて、電動アイドルを行う。そのため、ハイブリッド車両1は、アイドルストップ制御の条件が成立しない高車速時であっても、駆動輪6の回転に影響を与えることなく燃費を向上させることができる。また、車速がアイドルストップ閾値以下であっても、アイドルストップ制御の実行条件を満たしておらず、電動アイドル制御の実行条件を満足している場合は電動アイドル制御を実行する。つまり、アイドルストップ制御が実行できず、従来燃料消費を行っていた状態でも電動アイドル制御を実行する場合があり、このような場合には燃料消費を抑制して燃費を向上させることができる。
【0068】
さらに、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、エンジン2の回転数がアイドル回転数より大きい所定値以上の場合には、フューエルカット制御の実行条件を満たしている場合にはモータージェネレーター3を力行以外の状態にしてエンジン2への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行する。エンジン2の回転数が所定値未満の場合には、電動アイドル制御の実行条件を満足していれば電動アイドル制御を実行する。つまり、ハイブリッド車両1は、エンジン2の回転数が所定値以上の場合には、エンジン2を停止させ、モータージェネレーター3への電力の供給も遮断して慣性走行する。そして、ハイブリッド車両1は、エンジン2の回転数が所定値未満になると電動アイドルを実行する。そのため、ハイブリッド車両1は、高電圧バッテリー11の不要な消費を抑制しつつ、走行に影響を与えることなく燃費を向上させることができる。また、エンジン2の回転数がアイドル回転数より大きい所定値以下であっても、フューエルカット制御の実行条件を満たしておらず、電動アイドル制御の実行条件を満足している場合は電動アイドル制御を実行する。つまり、フューエルカット制御が実行できず、従来燃料消費を行っていた状態でも電動アイドル制御を実行する場合があり、このような場合には燃料消費を抑制して燃費を向上させることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、
図3に示した各判断表は、それぞれ対応する制御の実行条件が満足していると仮定した場合に実行される制御を記載しており、必ずしも各判断表に記載された制御が実行されるわけではない。例えば、車速が低い(アイドルストップ閾値以下)場合であってもアイドルストップ制御の実行条件が満足されていない場合は電動アイドル制御が実行される場合がある。また、例えば車速が高く(アイドルストップ閾値より大)、かつエンジン回転数が大(所定値以上)であっても、フューエルカット制御の実行条件が満足されていない場合は電動アイドル制御が実行される場合がある。
【0070】
したがって、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、クラッチ8が切断された場合に、エンジン2の回転数をアイドル回転数以上に保ちつつ、燃料の消費を抑制できる。
【符号の説明】
【0071】
1…ハイブリッド車両、2…内燃機関、エンジン、3…電動発動機、モータージェネレーター、6…駆動輪、7…変速機、8…クラッチ、9…差動歯車、11…高電圧バッテリー、12…制御部、15…クランクシャフト、16…動力伝達機構、17…出力軸、21…第一プーリー、22…第二プーリー、23…ベルト、25…高電圧バッテリー、26…DC/DCコンバーター、27…車両電装品、28…低電圧バッテリー、29…スターターモーター、31…信号線、32…MGコントローラー。