(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】KNN膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いたKNN膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20221213BHJP
H01L 41/317 20130101ALI20221213BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/317
(21)【出願番号】P 2018118737
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-03-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼内 直人
(72)【発明者】
【氏名】土井 利浩
(72)【発明者】
【氏名】曽山 信幸
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-139919(JP,A)
【文献】特開2012-121273(JP,A)
【文献】特開2012-256851(JP,A)
【文献】特開2010-206149(JP,A)
【文献】特開2018-082052(JP,A)
【文献】特開2018-082051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/317、41/187、
B41J 2/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機カリウム化合物と有機ナトリウム化合物と有機ニオブ化合物を含む有機金属化合物と溶媒を含むKNN膜形成用液組成物において、
前記有機カリウム化合物及び前記有機ナトリウム化合物がそれぞれ一般式C
nH
2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸の金属塩であり、
前記有機ニオブ化合物がニオブアルコキシド又は前記カルボン酸の金属塩であり、
前記溶媒のうち主たる溶媒が前記カルボン酸であってかつ前記液組成物100質量%に対して50質量%~90質量%含むことを特徴とするKNN膜形成用液組成物。
【請求項2】
請求項1記載のKNN膜形成用液組成物を基板の電極上に塗布した後、150℃以上350℃以下の温度で仮焼して仮焼膜を形成し、前記仮焼膜を10℃/秒以上
50℃/秒以下の速度で昇温し600℃以上800℃以下の温度で焼成して結晶化したKNN膜を形成するKNN膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含まず、緻密な膜を形成し得るKNN膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いたKNN膜の形成方法に関する。本明細書において、KNNは、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)の略称である。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータや超音波デバイスなどのMEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれる装置に搭載される圧電素子の圧電体層として、高い圧電特性を有するPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)がこれまで用いられてきた。しかし、環境面において鉛の含有量を抑えた圧電材料の開発が求められている。その一つの圧電材料として、KNNからなる圧電材料が開発されている。
【0003】
従来、この種の液組成物として、カリウム、ナトリウム、及びニオブを含む金属錯体混合物と、シリコーンオイルと、溶媒と、を含み、金属錯体混合物と溶媒との総量100容量部に対してシリコーンオイルを5容量部以下含む。所定量のシリコーンオイルを含むことにより、圧電セラミックス膜を形成する際の焼成工程における熱膨張が抑制されて、圧電セラミックス膜の残留応力を低減させることができる圧電セラミックス膜形成用組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記金属錯体混合物は、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)の各金属が所望のモル比となるようにこれらの金属錯体を溶媒に溶解・分散させることにより調製される。そしてKを含む金属錯体としては、例えば2-エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウム、カリウムアセチルアセトナート、カリウムエトキシドなどが挙げられ、Naを含む金属錯体としては、例えば2-エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムアセチルアセトナート、ナトリウムエトキシドなどが挙げられ、Nbを含む金属錯体としては、例えばニオブエトキシド、2-エチルヘキサン酸ニオブ、ニオブペンタエトキシドなどが挙げられる。また上記溶媒としては、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水、等の様々な溶媒が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-169467(要約、段落[0023]、段落[0025])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、KNN膜は、この種の液組成物を、化学溶液堆積(CSD:chemical solution deposition)法で、基板の電極上に塗布乾燥し、仮焼した後、焼成することにより、形成されてきた。しかし、特許文献1に示される、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2-メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水を溶媒として用いて、KNN膜を形成する場合、緻密な膜を得ることが難しい課題があった。
【0007】
本発明の目的は、鉛を含まず、緻密な膜を形成し得るKNN膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いたKNN膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、CSD法において、KNN膜形成用液組成物の溶媒として、液組成物の金属化合物に特定のカルボン酸塩を用いることに加えて、溶媒についても特定のカルボン酸を主溶媒とした場合、液組成物の分解時に発熱反応のピークが大きくなり、上記課題を解決できることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の第1の観点は、有機カリウム化合物と有機ナトリウム化合物と有機ニオブ化合物を含む有機金属化合物と溶媒を含むKNN膜形成用液組成物において、前記有機カリウム化合物及び前記有機ナトリウム化合物がそれぞれ一般式CnH2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸の金属塩であり、前記有機ニオブ化合物がニオブアルコキシド又は前記カルボン酸の金属塩であり、前記溶媒のうち主たる溶媒が前記カルボン酸であってかつ前記液組成物100質量%に対して50質量%~90質量%含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づくKNN膜形成用液組成物を基板の電極上に塗布した後、150℃以上350℃以下の温度で仮焼して仮焼膜を形成し、前記仮焼膜膜を10℃/秒以上50℃/秒以下の速度で昇温し600℃以上800℃以下の温度で焼成して結晶化したKNN膜を形成するKNN膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の観点のKNN膜形成用液組成物は、原料種である金属化合物に特定のカルボン酸を用い、更に溶媒についてもこの特定のカルボン酸を主溶媒とすることにより、液組成物の分解時に発熱反応ピークが大きくなり、液組成物が一気に焼成され、残留カーボンが少なく、緻密なKNN膜を形成することができる。
【0012】
本発明の第2の観点のKNN膜の形成方法では、KNN膜形成用液組成物を塗布した後、所定の温度で仮焼して仮焼膜を形成し、この仮焼膜を10℃/秒以上の速度で昇温し600℃以上800℃以下の温度で一括焼成する。この方法では、所定の温度で仮焼し、所定の昇温速度で焼成したときに、液組成物の分解時に発熱反応ピークが大きくなり、液組成物が一気に焼成され、残留カーボンが少なく、緻密なKNN膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】合成実施例4及び合成比較例1の液組成物を大気圧下、10℃/秒で室温から800℃まで昇温したときのDTA測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
〔KNN膜形成用液組成物〕
本実施形態のKNN膜形成用液組成物は、有機カリウム化合物と有機ナトリウム化合物と有機ニオブ化合物を含む有機金属化合物と溶媒を含む。この液組成物から形成されるKNN膜は、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)のペロブスカイト型構造の有機金属化合物の複合酸化物により構成される。本実施形態にかかる複合酸化物は、Aサイトに、カリウム(K)及びナトリウム(Na)を含み、Bサイトにニオブ(Nb)を含む。このペロブスカイト型のABO3型構造では、Aサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)を形成しており、このAサイトにカリウム及びナトリウムが、Bサイトにニオブが位置している。
【0016】
本実施形態にかかる有機金属化合物、即ち複合酸化物の金属モル比は、特に限定されるものではないが、K:Na:Nbは、x:1-x:y(ただし、0.1≦x≦0.7、0.7≦y≦1.4)とすることが好ましい。なお、yが0.7未満ではNb源が少な過ぎて異相を生じるおそれがあり、yが1.4を超えるとNb源が多過ぎて異相を生じるおそれがある。
【0017】
本実施形態の有機カリウム化合物及び有機ナトリウム化合物は、それぞれ一般式CnH2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸の金属塩である。nが4未満では膜が緻密にならず、8を超えると主溶媒が固体となり溶媒として適さない。nは6~8の範囲が好ましい。また本実施形態の有機ニオブ化合物はニオブアルコキシド又は上記一般式で表されるカルボン酸の金属塩である。このカルボン酸は、具体的には、次の表1に示される化合物である。有機カリウム化合物及び有機ナトリウム化合物がカルボン酸の金属塩でなく、例えばカリウムアルコキシド又はナトリウムアルコキシドである場合には、液組成物から膜が形成される過程で、異相を生じる。有機ニオブ化合物がカルボン酸の金属塩でなく、ニオブアルコキシドであっても差し支えない。
【0018】
【0019】
本実施形態のKNN膜形成用液組成物に含まれる溶媒のうち、主たる溶媒は上記一般式で示されるカルボン酸であって、上記液組成物100質量%に対して50質量%~90質量%、好ましくは70質量%~80質量%含まれる。主溶媒のカルボン酸が50質量%未満では液組成物の調製途中で沈殿を生じる不具合があり、90質量%を超えると形成できる膜が薄すぎて生産性が低下する不具合がある。上記一般式で示されるカルボン酸以外の溶媒としては、アルコール、酢酸、水等が挙げられる。ここで、有機金属化合物であるカルボン酸の金属塩が、例えば2-エチルヘキサン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸ニオブ等の2-エチルヘキサン酸の金属塩であれば、主たる溶媒も2-エチルヘキサン酸であることが溶液中に多種の副生成物を生じないため、好ましい。即ち金属塩を構成するカルボン酸と、主たる溶媒のカルボン酸は同種であることが好ましい。ニオブアルコキシドとしては、ペンタエトキシニオブ(別名、エトキシニオブ)等を用いることができる。
【0020】
〔KNN膜形成用液組成物の調製方法〕
本実施形態のKNN膜形成用液組成物は、KNNの金属源である上述した有機カリウム化合物(K源)と有機ナトリウム化合物(Na源)と有機ニオブ化合物(Nb源)とを上述した溶媒に溶解して調製される。具体的には、先ず容器に上述したカルボン酸等の有機溶媒と有機ナトリウム化合物を入れ、130℃~170℃のオイルバスで30分~60分間還流することにより、赤褐色の懸濁液を得る。そこに有機カリウム化合物及び有機ニオブ化合物を加えて、同一の温度のオイルバスで30分~60分間還流を続けて、合成液を調製する。ここで上記有機カリウム化合物(K源)、上記有機ナトリウム化合物(Na源)及び上記有機ニオブ化合物(Nb源)は、金属モル比(K:Na:Nb)がx:1-x:y(ただし、0.1≦x≦0.7、0.7≦y≦1.4)になるようにそれぞれ秤量する。
【0021】
続いて減圧蒸留して合成液から溶媒を脱離して、有機溶媒及び反応副生成物を除去する。得られた溶液に、アルコール、水等を添加し、液を酸化物換算で6質量%~20質量%まで希釈する。得られた液をフィルターでろ過することにより残留物を取り除き、液組成物を得る。酸化物換算で6質量%未満では、良好な膜は得られるものの、膜厚が薄すぎるため、所望の厚さを得るまでに生産性が悪くなる。20質量%を超えると、液組成物に沈殿が生じやすい。
【0022】
〔KNN膜の形成方法〕
本実施形態のKNN膜は、基板上に形成される。この基板は、シリコン製又はサファイア製の耐熱性のある基板本体を有する。シリコン製の基板本体の場合、この基板本体上にSiO2膜が設けられ、このSiO2膜上にPt、TiOx、Ir、Ru等の導電性を有し、かつKNN膜と反応しない材料からなる下部電極が設けられる。例えば、下部電極を、基板本体側から順にTiOx膜及びPt膜の2層構造にすることができる。上記TiOx膜の具体例としては、TiO2膜が挙げられる。更に上記SiO2膜は密着性を向上するために形成される。Pt膜は、例えばスパッタリング法により(111)面に配向して形成される。
【0023】
この下部電極のPt膜上にCSD法により上述した液組成物を塗布し、仮焼し、焼成してKNN膜を形成する。この液組成物の塗布は、スピンコーティング、ディップコーティング、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法などにより、仮焼した後で50nm以上150nm以下の厚さを有する塗膜(ゲル膜)になるように行われる。仮焼した後の膜厚が50nm未満では良好な膜は得られるものの、膜厚が薄すぎるため、所望の厚さを得るまでに生産性が悪くなる不具合があり、150nmを超えると、焼成後のKNN膜中にクラックが発生し易くなる。
【0024】
上記液組成物を塗布した後の仮焼は、例えば、ホットプレート又は赤外線急速加熱炉(RTA)により、150℃以上400℃以下、好ましくは200℃以上350℃以下の温度で行われる。仮焼する温度が150℃未満では、ゲル状にならない不具合がある。400℃を超えると、KNN膜が結晶化しにくくなる。また仮焼した後の仮焼膜の厚さが50nm未満では良好な膜は得られるものの、膜厚が薄すぎるため、所望の厚さを得るまでに生産性が悪くなる不具合があり、150nmを超えると、焼成後のKNN膜中にクラックが発生し易くなる。
【0025】
仮焼膜を作製した後、この仮焼膜を焼成する。この焼成は、酸素(O2)が含まれる雰囲気中で、仮焼膜をRTAで10℃/秒以上の速度で600℃以上800℃以下の温度まで昇温し、0.5分以上5分以下の時間保持することにより行われる。好ましい昇温速度は40℃/秒以上60℃/秒以下であり、好ましい焼成温度は650℃以上750℃以下である。昇温速度が10℃/秒未満、焼成温度が600℃未満では、作製されるKNN膜の結晶化度が十分でなく、その密度が低くなる。焼成温度が800℃を超えると、基板等にダメージが生じる。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0027】
<合成実施例1>
フラスコに、溶媒としてのαーメチル酪酸と、添加剤としての無水酢酸と、有機ナトリウム化合物としてのαーメチル酪酸ナトリウム(Na源)と、安定化剤としてのコハク酸ジメチルとを、5:3:1:4のモル比になるように加えて懸濁液を調製した。次いでフラスコ内の得られた懸濁液を150℃のオイルバスで150℃で30分間還流を行った。還流後、還流した液に有機カリウム化合物としてのαーメチル酪酸カリウム(K源)と、有機ニオブ化合物としてのニオブペンタエトキシド(Nb源)を加え、150℃のオイルバスで150℃で30分間還流することにより合成液を調製した。ここで上記αーメチル酪酸カリウム(K源)、上記αーメチル酪酸ナトリウム(Na源)及び上記ニオブペンタエトキシド(Nb源)は、金属モル比(K:Na:Nb)が50:50:100になるようにそれぞれ秤量した。還流後、還流した液に水とエタノールを加え、再び150℃のオイルバスで150℃で30分間還流を行った。還流後、アスピレータで0.015MPaまで減圧蒸留した。これにより未反応生成物を除去して、KNN前駆体である液組成物を得た。この液組成物中に占める金属酸化物の濃度が10質量%になるように、液組成物に溶媒としてのαーメチル酪酸を加えて液組成物を希釈した。希釈した液組成物100質量%に対して主溶媒としてのαーメチル酪酸の含有割合は70質量%であった。希釈液をフィルタでろ過することにより残留物を除去した。
【0028】
合成実施例1の液組成物を調製した有機金属化合物(有機カリウム化合物、有機ナトリウム化合物及び有機ニオブ化合物)の種類及び液組成物中の金属モル比(K:Na:Nb)、並びに主溶媒の種類、主溶媒がカルボン酸である場合、上述した一般式におけるnの数及び液組成物100質量%に対する上記主溶媒の含有量(質量%)を、表2にそれぞれ示す。
【0029】
【0030】
<合成実施例2~8及び合成比較例1~5>
表2に示される有機金属化合物である有機カリウム化合物、有機ナトリウム化合物及び有機ニオブ化合物を用い、これらの有機金属化合物を表2に示される金属モル比になるように秤量し、主溶媒の含有量を表2に示すように変更した。それ以外は合成実施例1と同様にして、合成実施例2~8及び合成比較例1~5の液組成物をそれぞれ調製した。合成比較例4では、有機カリウム化合物としてカリウムアルコキシドを用いた。また合成比較例5では、有機ナトリウム化合物としてナトリウムアルコキシドを用いた。
【0031】
<実施例1>
次に、評価のため基板上に、合成実施例1で得られた液組成物を用いてKNN膜を形成した。基板は4インチのSi基板を用いた。Si基板は熱酸化により500nmの酸化膜を形成した。酸化膜上にTiをスパッタリング法により20nm堆積させ、その上にスパッタリング法により厚さ100nmの(111)配向のPt下部電極を形成した。得られた基板上に合成実施例1で得られた液組成物を0.5ml滴下し、5000rpmで15秒間スピンコートを行い、スピンコートされた液を乾燥した。更に、300℃のホットプレートで5分間仮焼を行った。そのあと、RTAにて700℃、酸素雰囲気、昇温速度50℃/秒、保持時間1分で焼成を行った。これにより実施例1のKNN膜を下部電極上に形成した。
【0032】
実施例1で用いた液組成物を得た合成実施例の種類(合成実施例1)、仮焼温度、昇温速度、焼成温度及び保持時間を表3にそれぞれ示す。
【0033】
【0034】
<実施例2~12及び比較例1~9>
表3に示される合成実施例2~9及び合成比較例1~5、7で得られた液組成物を用いて、実施例1と同様に、それぞれ液組成物をスピンコートし、乾燥した後、仮焼温度、昇温速度、焼成温度及び保持時間を表3に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2~13及び比較例1~9のKNN膜を下部電極上に形成した。なお、比較例2では、液に沈殿が生じたため、また比較例3では、液組成物を均一に塗布することができなかったため、それぞれ膜を形成することができなかった。
【0035】
<比較試験その1>
合成実施例4と合成比較例1、2で合成した液組成物をアルミナバンにそれぞれ20mgずつ採取し、これらの液を別々に熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)(Mac Science
社製、TG-DTA)を用いて、大気圧下、10℃/秒の速度で室温から800℃まで昇温し、示差熱分析を行った。これらの測定結果を
図1に示す。
【0036】
<評価結果その1>
図1から明らかなように、合成比較例1の液組成物に比べ、合成実施例4の液組成物は380℃付近で、急激に分解と酸化による発熱反応が生じていることが判った。また合成実施例4で用いたカルボン酸以外にも、一般式C
nH
2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸を用いた場合でも、合成実施例4と同様に、急激な発熱反応が生じた。
【0037】
<比較試験その2>
実施例1~13及び比較例1、比較例4~9で得られた20種類のKNN膜の緻密性を調べた。このKNN膜の緻密性は、KNN膜の密度を測定することにより調べた。具体的には、18種類のKNN膜の断面をSEMにて観察し、その断面像を画像解析することにより膜の面積及び膜中のボイド部分の面積を算出し、[(膜の面積-ボイド部分の面積)/膜の面積]×100という計算を行うことにより膜密度(%)を算出した。膜密度が98%を超える場合を「優秀」と判定し、90%~97%の範囲にある場合を「良好」と判定し、90%未満である場合を「不良」と判定した。
【0038】
<評価結果その2>
表3から明らかなように、比較例1、比較例4~5では、主溶媒として、一般式CnH2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸を用いることなく、150℃以上350℃以下の温度で仮焼して仮焼膜を形成し、前記仮焼膜を10℃/秒以上の速度で昇温し600℃以上800℃以下の温度で焼成する条件から外れる条件で膜を形成した。このため、昇温中に急激な発熱反応が起こらなかった。これは、残留カーボンが多くなったため、緻密な膜にならなかったと考えられる。
【0039】
一方、実施例1~13においては、主溶媒として、一般式CnH2n+1COOH(ただし、4≦n≦8)で表されるカルボン酸を用い、150℃以上350℃以下の温度で仮焼して仮焼膜を形成し、前記仮焼膜を10℃/秒以上の速度で昇温し600℃以上800℃以下の温度で焼成した。このため、昇温中に急激な発熱反応が生じ、これにより、緻密な膜が得られた。これは、昇温中に急激な発熱反応が生じるため、残留カーボンが減少したため、膜が緻密になったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のKNN膜は、アクチュエータ、超音波デバイス、振動発電素子、焦電センサ、インクジェットヘッド、オートフォーカス等のMEMSアプリケーションの圧電体膜に用いることができる。