IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】剥離性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20221213BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20221213BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/26
B32B27/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018120900
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2019209675
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2017124766
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018108149
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓明
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/020673(WO,A1)
【文献】特開2003-221428(JP,A)
【文献】特開2016-190327(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078026(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136759(WO,A1)
【文献】特開2003-266604(JP,A)
【文献】特開2011-020393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09K 3/00
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、
前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)が98以上であり、
前記表面層を形成する主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)と、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)と、架橋剤(D)とを含み、
前記変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも、下記一般式(I):
【化1】
(前記一般式(I)において、R 1 は、メチル基又は水素原子を示し、R 2 は、炭素数10~18のアルキル基を示す。)
で表される構成単位を含み、
前記樹脂(B)は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
前記表面層中の前記樹脂(B)の含有量は、前記表面層を構成する前記変性アクリル系樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100質量部として、2質量部以上45質量部以下である、剥離性フィルム。
【請求項2】
基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、
前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比M C5 (atomic%)が98以上であり、
前記表面層を形成する主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)と、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)と、架橋剤(D)とを含み、
前記変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも、下記一般式(I):
【化2】
(前記一般式(I)において、R1は、メチル基又は水素原子を示し、R2は、炭素数10~18のアルキル基を示す。)
で表される構成単位を含み、
前記樹脂(B)は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、前記ポリエステル樹脂の水酸基価が10~40mgKOH/gである、剥離性フィルム。
【請求項3】
前記表面層中の前記樹脂(B)の含有量は、前記表面層を構成する前記変性アクリル系樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100質量部として、2質量部以上である、請求項2に記載の剥離性フィルム。
【請求項4】
前記表面層中の前記樹脂(B)の含有量は、前記表面層を構成する前記変性アクリル系樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100質量部として、50質量未満である、請求項2又は3に記載の剥離性フィルム。
【請求項5】
前記MC5と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC40(atomic%)との比率MC5/MC40が、1.01≦MC5/MC40≦1.10である、請求項1~4のいずれかに記載の剥離性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離性フィルム及びその製造方法に関する。特に、本発明は、医療分野及び工業分野において、例えば、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離用のフィルム等に関する。さらに詳しくは、本発明は、表面保護フィルム及び粘着テープ等に使用する剥離フィルム、剥離ライナー又はセパレータフィルム、半導体製品製造時に使用される工程(ダイシング、ダイボンディング、バックグラインド)テープのセパレータ、セラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーならびに複合材料製造時のキャリアー、保護材のセパレータフィルム等として特に有用な、剥離性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電子基板などの製造工程や、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程などの工業分野、さらには湿布、絆創膏などの医療分野などにおいて、剥離性フィルムが使用されている。
【0003】
このような剥離性フィルムとしては、例えば、表面保護フィルムや粘着テープなどとして使用されるものや、剥離ライナー、セパレータフィルムなどとして使用されるもの、半導体製品の製造工程(ダイシング、ダイボンディング、バックグラインドなど)で使用されるセパレータ、セラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーや複合材料製造時のキャリアー、保護材のセパレータフィルムなど様々なものが知られている。
【0004】
シリコーン系剥離性フィルムは、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、及び電気絶縁性に優れており、剥離性フィルムとして広く用いられている。しかしながら、シリコーン系剥離性フィルムを使用する際、当該フィルムに貼られる物品にシリコーンが転写(移行)してしまう場合がある(この問題をシリコーン移行の問題ともいう)。そこで、シリコーン系剥離性フィルム中のシリコーンの組成を改良したり、シリコーン使用量を極力抑えたり、またはシリコーンを使わないことが検討されてきた。例えば、特許文献1では、ヒドロキシ基含有長鎖アルキルポリマーを用いた剥離フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-030795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された剥離フィルムは、剥離力が大きく、しかも耐熱性が不十分である。一例として、剥離フィルムをセラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーとして用いる場合について説明する。前記未焼成シートを作製するためには、剥離フィルムの上に塗工層を設けて乾燥させる。耐熱性が不十分であると、前記未焼成シートは、前記乾燥を行った後にその乾燥の熱によって、不意に剥離フィルムから剥がれにくくなる場合がある。このような問題があるため、当該剥離フィルムは、シリコーン系剥離フィルムの代替フィルムとして使用することは困難である。そこで、剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、耐熱性に優れる(熱処理された後においても上記良好な剥離性を維持する)剥離性フィルムがなお求められている。
【0007】
本発明の課題は剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、耐熱性に優れる剥離性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)が98以上である、剥離性フィルムは、良好な剥離性を有する(即ち剥離力が軽い)とともに、耐熱性に優れることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
項1. 基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、
前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)が98以上である、剥離性フィルム。
項2. 前記表面層を形成する主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)と、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)と、架橋剤(D)とを含み、
前記変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも、下記一般式(I):
【0010】
【化1】
(前記一般式(I)において、R1は、メチル基又は水素原子を示し、R2は、炭素数10~18のアルキル基を示す。)
で表される構成単位を含む、項1に記載の剥離性フィルム。
項3. 前記表面層中の前記樹脂(B)の含有量は、前記表面層を構成する前記変性アクリル系樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100質量部として、2質量部以上である、項2に記載の剥離性フィルム。
項4. 前記表面層中の前記樹脂(B)の含有量は、前記表面層を構成する前記変性アクリル系樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計を100質量部として、50質量未満である、項2又は3に記載の剥離性フィルム。
項5. 前記MC5と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC40(atomic%)との比率MC5/MC40が、1.01≦MC5/MC40≦1.10である、項1~4のいずれかに記載の剥離性フィルム。
項6. 前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である、項1~5のいずれか1項に記載の剥離性フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、剥離力が軽いという良好な剥離性を有するとともに、耐熱性にも優れる剥離性フィルムを提供することができる。そのため、特に、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離フィルム等として適している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る剥離性フィルムは、基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)が98以上であることを特徴としている。
【0013】
本実施形態に係る剥離性フィルムは、このような構成を備えていることにより、
(1)常温における良好な剥離性(即ち、当該剥離性フィルムの表面層に対して対象物(被着体)を貼り付け、その後に当該表面層と当該対象物との間で剥がす場合、当該表面層と当該対象物との間に剥離力を有しつつも当該剥離力が低い(剥離力が軽いともいう)性質)という効果とともに、
(2)耐熱性に優れる、即ち高温(例えば90~160℃程度)に晒された後においても、上記良好な剥離性を保持することができる、
という効果を兼ね備える。
【0014】
特に、上記(1)の効果においては、通常のシリコーン系剥離性フィルムの剥離性と同等の良好さを有する。本発明の剥離性フィルムは、上記(1)~(2)の効果を兼ね備えるため、当該剥離性フィルムは、電子部品若しくは電子基板の製造工程(一例として、セラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーとしての使用工程)、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程、さらには湿布、絆創膏などの医療分野などにおいて、好適に使用し得る。本実施形態に係る剥離性フィルムは、上記特性だけでなく、90~160℃程度といった高温に加熱される前後の剥離力の差が小さい場合、及び/又は、後述の残留接着率が大きい場合は、前記各分野において、さらに好適に使用し得る。
【0015】
以下、本実施形態に係る剥離性フィルムについて詳述する。なお、本明細書において、数値範囲の「~」とは、以上と以下とを意味する。即ち、α~βという表記は、α以上β以下、或いは、β以上α以下を意味し、範囲としてα及びβを含む。また、「(メタ)アクリル」とは「アクリル又はメタクリル」を意味し、他の類似するものも同様の意である。
【0016】
本実施形態に係る剥離性フィルムは、基材層と、該基材層の少なくとも一方側に表面層を有する積層フィルムである。
【0017】
〔基材層〕
基材層としては、樹脂を含有する層(例:樹脂製のフィルム)の他、紙、不織布、金属箔等の薄いシートが使用できる。基材層が例えば樹脂を含有する層である場合、当該樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂等を含有する層である。
【0018】
基材層が樹脂を含有する層である場合、上記樹脂の1種類のみを含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。本実施形態の剥離性フィルムにおける基材層は、表面層の加工適性の観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリスチレン系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を主成分として含有する層であることが好ましく、表面層との密着性(表面層と基材層との間に別の層が介在する場合には当該別の層との密着性も)という観点から、ポリエステル樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択された少なくとも1種を主成分として含有する層であることがより好ましい。
【0019】
ここで、本発明及び本明細書において、主成分とは50質量%以上含まれる成分を意味し、主成分の割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。なお、当該主成分の割合は、100質量%であってもよい。
【0020】
基材層には、後述する表面層と同様、添加剤が含まれていてもよい。添加剤の種類・成分については、後述する表面層の項目で説明するものと同じであり、ここでは説明を省略する。
【0021】
基材層は、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムのいずれにより構成される層であってもよい。加工適性、透明性及び寸法安定性の観点から、基材層は、二軸延伸フィルムにより構成される層であることが好ましい。
【0022】
基材層の厚みは、加工適性の観点から、好ましくは15μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。基材層の厚みは、製品使用時のハンドリング性の観点から、好ましくは125μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。基材層の厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定され、具体的には実施例に記載の方法によって測定される。
【0023】
基材層と、後述する表面層との密着性を高める目的で、所望により基材層の片面又は両面に表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、サンドブラスト処理若しくは溶剤処理等の凹凸化処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、又はオゾン・紫外線照射処理等の表面酸化処理等が挙げられる。
【0024】
〔表面層〕
本実施形態の剥離性フィルムは、基材層上に表面層を有する。表面層は、剥離性フィルムに剥離性を付与するための層である。表面層は、基材層との間に接着剤層等の各層を介して基材層の上に形成されていてもよいが、表面層の主面が基材層の主面と接するように表面層が形成されていることが好ましい。
【0025】
本実施形態に係る剥離性フィルムは、表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)が98以上(より具体的には、98.0以上)である(即ち、98≦MC5、さらには98.0≦MC5ともいえる)。上記MC5が98atomic%を下回る(即ち、MC5<98)である場合、アルキル鎖が表面層の最表面側に偏析していないこととなり、十分な剥離性を付与できなくなる虞がある。MC5の上限値については、限定的ではないが、MC5≦99(より具体的には、MC5≦99.0であり、MC5が99以下、さらには99.0以下)が好ましい。MC5を調整する手段としては、後述する変性アクリル系樹脂(A)成分の割合の調整、層の厚さの調整、等が挙げられる。
【0026】
<MC5とMC40との関係>
前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比をMC5(atomic%)とし、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比をMC40(atomic%)とすると、MC5とMC40との関係は1.01≦MC5/MC40≦1.10であることが好ましい。MC5/MC40が1.01≦MC5/MC40≦1.10である場合、よりアルキル鎖が表面層の最表面側に偏析していることを示し、十分な剥離性が得られる。
【0027】
本実施形態において、MC5とMC40との関係は、1.03≦MC5/MC40≦1.10が好ましく、1.04≦MC5/MC40≦1.10がより好ましく、1.04≦MC5/MC40≦1.09がさらに好ましい。上記MC5とMC40との関係における各好ましい態様は、良好な剥離性という観点から見出されたものである。
【0028】
ここで、MC5/MC40の技術的意義を説明する。MC5/MC40はアルキル基の鎖が最表面に偏析することの程度(度合)を示すものである。MC5/MC40値が大きいとアルキル鎖が最表面に対して、より偏析していることを示す。ここで、表面層において、1.01≦MC5/MC40≦1.10である場合、表面層の最表面にアルキル鎖が偏析するので、当該アルキル鎖以外の基や成分が基材層や基材層と隣接するその他の層と相互作用する、と考えられる。このような機構のため、本実施形態の剥離性フィルムは、前記アルキル鎖による良好な剥離性という効果と、高温下に晒された後において、表面層に貼られた対象物に対して良好な剥離性を維持するという効果を兼ね備える、と推測される。
【0029】
C5、MC40、及びMC5/MC40の値を調整する手段としては、それぞれ、後述の変性アクリル系樹脂(A)内のアルキルアクリレート成分の種類及びその含有量;後述の樹脂(B)の種類およびその含有量;などが挙げられる。一例として、本実施形態に係るフィルムにおいて、表面層が後述の変性アクリル系樹脂(A)と後述の樹脂(B)を含み、且つ前記樹脂(B)がポリエステル樹脂である場合、前記樹脂(B)の含有量が多ければ多いほど、MC5値は小さくなる傾向であり、MC5/MC40値は大きくなる傾向にある。
【0030】
本発明及び本明細書において、MC5及びMC40の値は、それぞれ実施例に記載された手法によって測定し、MC5/MC40の値は上記測定値から算出される。
【0031】
剥離性フィルムの表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC5(atomic%)は、Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、測定した値である。測定器としてX線電子分光(XPS)測定器 ESCA LAB250(Thermo VG scientific社製)を用い、測定モード:モノクロメータ、X線源:Al、測定面積:500μmφ、測定元素:炭素(C)で測定する。スパッタリングの条件は、照射イオン:アルゴン(Ar)、電流値:2.5(μA)、電圧:120(V)、スパッタレート:0.1(nm/sec)とする。
【0032】
剥離性フィルムの表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC40(atomic%)は、MC5と同様、Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、測定した値である。また、MC40の測定条件(測定器、測定モード、X線源、測定面積、測定元素等)及びスパッタリングの条件(照射イオン、電流値、電圧、スパッタレート等)については、上記MC5の測定条件のときと同様である。
【0033】
表面層を形成する主成分は、樹脂成分である。また、前記樹脂成分は、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)と、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)と、架橋剤(D)とを含むことが好ましい。すなわち、表面層は、樹脂成分としてアルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、及び架橋剤(D)とを含む樹脂組成物の硬化物によって構成されていることが好ましい。本実施形態の剥離性フィルムにおいて、表面層を形成する主成分が樹脂成分であって、前記樹脂成分が、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)と、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)と、架橋剤(D)とを含む場合、剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、耐熱性に優れる剥離性フィルムがより得られ易い。以下、変性アクリル系樹脂(A)、前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、及び架橋剤(D)について詳述する。
【0034】
<変性アクリル系樹脂(A)>
アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)は、主鎖であるアクリル系樹脂に対してアルキル基を側鎖として有する樹脂である。変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも下記一般式(I)で表される構成単位(後述の単量体aにより形成される)を含んでいる。
【0035】
【化2】
【0036】
一般式(I)において、R1は、メチル基又は水素原子を示し、R2は、炭素数10~18のアルキル基を示す。
【0037】
一般式(I)において、アルキル基R2の炭素数は10~18である。炭素数が9未満になると一般的に変性アクリル系樹脂(A)に離形性を発現させることが難しい。また、炭素数が18を超えると結晶性が高くなること等により剥離力が高くなり過ぎて、剥離性フィルムとしての剥離性能が劣る。変性アクリル系樹脂(A)が炭素数10~18の長鎖アルキル基を有することにより、剥離性能は優れたものとなる。なお、剥離性能を良好にするために、一般式(I)のR2は直鎖のアルキル基であることが好ましい。また、R2の炭素数は、12~18が好ましく、12~14がより好ましい。R2は、炭素数12~18の直鎖アルキル基がさらに一層好ましく、炭素数12~14の直鎖アルキル基が特に好ましい。
【0038】
変性アクリル系樹脂(A)において、架橋性官能基(反応性官能基)としては、例えば、カルボキシル基、イソシアノ基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、加水分解性シリル基等が挙げられる。架橋性官能基の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。また、架橋性官能基は、1種単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。
【0039】
変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも、単量体として、前記一般式(I)で表される構成単位を形成する単量体a(1分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合と、炭素数10~18のアルキル基を有するアクリル系単量体)を重合させることにより得られる重合体である。変性アクリル系樹脂(A)は、単量体aとともに、さらに、後述の単量体b(1分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合と架橋性官能基を有する単量体)、単量体c(1分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合と炭素数1~9または19以上のアルキル基を有するアクリル系単量体)、及び単量体d(単量体a,b,cとは異なる単量体であって、単量体a,b,cのうち少なくとも1種と共重合可能な単量体)からなる群より選択された少なくとも1種の単量体を共重合させて得られる共重合体であってもよい。特に、少なくとも単量体a及び単量体bを共重合させて得られる共重合体は、変性アクリル系樹脂(A)として好ましい。
【0040】
[単量体a]
単量体aとしては、エステル部分が炭素数10~18の長鎖アルキル基である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。具体的には、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレートともいう)、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート(ミリスチル(メタ)アクリレートともいう)、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート(パルミチル(メタ)アクリレートともいう)、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
変性アクリル系樹脂(A)における単量体aから導かれる構成単位の含有割合は、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位の合計を100質量部として、好ましくは50~99.99質量部程度、より好ましくは70~99.9質量部程度、さらに好ましくは85~99.8質量部程度、さらに好ましくは85~99.5質量部である。単量体aは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
[単量体b]
単量体bは、1分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体である。単量体bは、架橋性官能基を有していることから、後述の架橋剤(D)を介して前記変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)などと好適に結合し、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させることができる。
【0043】
架橋性官能基(反応性官能基)としては、例えば、カルボキシル基、イソシアノ基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、加水分解性シリル基等が挙げられる。単量体bは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、単量体bにおいて、架橋性官能基の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。また、架橋性官能基は、1種単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。
【0044】
カルボキシル基を有する単量体bとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸などが挙げられる。また、カルボキシル基を有する単量体bとして、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸等も挙げられる。また、カルボキシル基を有する単量体bとして、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートも挙げられる。カルボキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、1,4-ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸等が挙げられる。
【0045】
イソシアノ基を有する単量体bとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネートなどが挙げられ、また、ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等)をポリイシアネート(例えば、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等)と反応させて得られるものも挙げられる。
【0046】
エポキシ基を有する単量体bとしては、グリシジルメタクリレート、グリシジルシンナメート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド、1、3-ブタジエンモノエポキサイドなどが挙げられる。
【0047】
N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基を有する単量体bとしては、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのN-モノアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0048】
ヒドロキシ基を有する単量体bとしては、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートが主に挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、2ーヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4ーヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。その他、ヒドロキシ基を有する単量体bとして、ヒドロキシスチレン等も挙げられる。
【0049】
アミノ基を有する単量体bとしては、第1級又は第2級アミノ基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。第1級又は第2級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、アミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、エチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
チオール基を有する単量体bとしては、チオール基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。チオール基含有(メタ)アクリレートとしては、2-(メチルチオ)エチルメタクリレートが挙げられる。
【0051】
加水分解性シリル基を有する単量体bとしては、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリルオキシアルキルアルコキシシラン、(メタ)アクリルオキシアルキルアルコキシアルキルシラン、トリメトキシビニルシラン、ジメトキシエチルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシアリルシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シランなどが挙げられる。
【0052】
単量体bとしては、好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びヒドロキシスチレンからなる群より選択された少なくとも1種であり、さらに好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択された少なくとも1種である。
【0053】
単量体bが2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択された少なくとも1種である場合、変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも上記一般式(I)で表される構成単位を含むとともに、少なくとも下記一般式(II)で表される構成単位を含んでいる。
【0054】
【化3】
【0055】
一般式(II)において、Raは、メチル基又は水素原子を示し、Rbは、-CH2CH2OH、-CH2-CHOH-CH3、-CH2CH2CH2OH、-CH2-CHOH-CH2CH3、-CH2CH2-CHOH-CH3、又は-CH2CH2CH2CH2OHを示す。
【0056】
変性アクリル系樹脂(A)が、単量体bから導かれる構成単位を含む場合、変性アクリル系樹脂(A)における単量体bから導かれる構成単位の含有割合は、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位の合計を100質量部として、0.01~20質量部程度であることが好ましく、0.1~10質量程度であることがより好ましく、0.2~5質量程度であることがさらに好ましく、0.5~3質量部程度であることがさらに好ましく、0.8~1.5質量部程度であることが特に好ましい。変性アクリル系樹脂(A)が、単量体aから導かれる構成単位を含むだけでなく、単量体bから導かれる構成単位も含む場合、その一次構造はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0057】
[単量体c]
単量体cは、1分子中に、炭素-炭素不飽和二重結合と、炭素数1~9または19以上のアルキル基を有するアクリル系単量体である。単量体cは、例えば表面層に含まれるアルキル基の濃度を調整するために使用することができ、結果として剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させることができる。
【0058】
単量体cとしては、(メタ)アクリル酸誘導体が好適に挙げられる。(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記一般式(III)で表される構成単位が導かれる単量体が好ましい。
【0059】
【化4】
【0060】
一般式(III)において、R1は、メチル基又は水素原子を示し、R3は、炭素数1~9または19以上のアルキル基を示し、該アルキル基は、フッ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、塩素原子、臭素原子、ケイ素原子等を含む変性アルキル基であってもよい。
【0061】
単量体cの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレートステアリル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。単量体cは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0062】
変性アクリル系樹脂(A)が、単量体cから導かれる構成単位を含む場合、変性アクリル系樹脂(A)における単量体cから導かれる構成単位の含有割合は、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位の合計を100質量部として、0.01~20質量部程度であることが好ましく、0.1~10質量部程度であることがより好ましい。
【0063】
[単量体d]
単量体dは、単量体a,b,cとは異なる単量体であって、単量体a,b,cのうち少なくとも1種と共重合可能な単量体である。
【0064】
単量体dの具体的な例としては、(i’)芳香族ビニル単量体、(ii’)オレフィン系炭化水素単量体、(iii’)ビニルエステル単量体、(iv’)ビニルハライド単量体、(v’)ビニルエーテル単量体などが挙げられる。単量体dは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。単量体dは、例えば表面層に含まれる種々の官能基の濃度を調整するために使用することができ、剥離性フィルムの剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させることができる。
【0065】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、クロロスチレン、一部の水素がフッ素置換されたスチレン類(例えば、モノフルオロメチルスチレン、ジフルオロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン等)などが挙げられる。
【0066】
オレフィン系炭化水素単量体としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、イソプレン、1、4-ペンタジエン等が挙げられる。
【0067】
ビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0068】
ビニルハライド単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、モノフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン等が挙げられる。
【0069】
ビニルエーテル単量体としては、ビニルメチルエーテル等が挙げられる。
【0070】
変性アクリル系樹脂(A)が、単量体dから導かれる構成単位を含む場合、変性アクリル系樹脂(A)における単量体dから導かれる構成単位の含有割合は、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位の合計を100質量部として、0.01~20質量部程度であることが好ましく、0.1~10質量部程度であることがより好ましい。
【0071】
剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は、好ましくは5×104~15×104であり、より好ましくは6×104~14×104であり、さらに好ましくは8×104~12×104である。
【0072】
表面層中の変性アクリル系樹脂(A)の含有量は特に限定的ではないが、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、表面層を構成する樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として、50質量部超えが好ましく、52質量部以上がより好ましく、55質量部以上がさらに好ましい。また、表面層中の変性アクリル系樹脂(A)の含有量は、表面層を構成する樹脂(A)と樹脂(B)の合計100質量部に対して98質量部以下であることが好ましく、97質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることがさらに好ましく、80質量部以下であることがさらに一層好ましく、70質量部以下であることが特に好ましく、60質量部以下であることが特段好ましい。ここで、前記樹脂(A)の含有量が、樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として50質量部超えであるということは、前記樹脂(A)の質量部をMA、と前記樹脂(B)の質量部をMBとした場合において、1<MA/MBであることと同義である。また、同様に、前記樹脂(A)の含有量が52質量部以上であることは1.083≦MA/MBであること、55質量部以上であることは1.222≦MA/MBであること、97質量部以下であることはMA/MB≦32.333であることと、それぞれ同義である。前記樹脂(A)の含有量が、樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として50質量部超えである場合、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させることができるとともに、加熱後と加熱前の剥離力の差が非常に少なく、残留接着率にも優れている。
【0073】
また、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、表面層中の変性アクリル系樹脂(A)の好ましい含有量(%)としては、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上などが挙げられる。
【0074】
変性アクリル系樹脂(A)を得る方法としては、前述の単量体aおよび必要に応じて単量体b、単量体c、単量体dを、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の公知の重合方法で重合して得ることができる。
【0075】
重合時には、開始剤を用いてよい。開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物等を用いることができる。なかでも重合の収率や分子量制御の容易さから、アゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)がより好ましい。重合剤の使用量は、収率や分子量制御の容易さから、変性アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位の合計を100質量部として、0.01~3質量部が好ましく、0.05~2質量部が好ましく、0.1~1.5質量部がより好ましい。
【0076】
また、変性アクリル系樹脂(A)は、少なくとも単量体b(炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体)を重合させて得られる重合体に対して、アルキル基をグラフト重合して得ても良い。すなわち、単量体bによって導かれる構成単位の前記架橋性官能基の一部または全部にアルキル基がグラフト重合した構造を備える重合体(以下、変性アクリル系樹脂(A’)と記載する)を、変性アクリル系樹脂(A)と同様に、単独もしくは変性アクリル系樹脂(A)と混合して用いることができる。
【0077】
変性アクリル系樹脂(A’)において、グラフト重合されたアルキル基の炭素数としては、好ましくは10~18程度、より好ましくは12~14程度が挙げられる。アルキル基をグラフト重合により導入する方法としては限定的ではなく、公知の導入方法が挙げられる。
【0078】
変性アクリル系樹脂(A’)においても、変性アクリル系樹脂(A)で例示した単量体bと同じものを好ましく用いることができる。単量体bの詳細については、前記の通りである。
【0079】
変性アクリル系樹脂(A’)は、単量体bとともに、さらに前記単量体c及び前記単量体dの少なくとも一方を共重合させた共重合体であってもよい。
【0080】
変性アクリル系樹脂(A’)においても、変性アクリル系樹脂(A)で例示した単量体c及び単量体dを好ましく用いることができる。単量体c及び単量体dの詳細については、前記の通りである。
【0081】
<樹脂(B)>
表面層を形成する樹脂成分は、変性アクリル系樹脂(A)とともに、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)を含んでいることが好ましい。
【0082】
表面層に当該樹脂(B)を含有することにより、変性アクリル系樹脂(A)との相溶性の違いを利用して、変性アクリル系樹脂(A)のアルキル基を表面に偏析させやすく、結果として剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる。
【0083】
樹脂(B)としては、特に限定されないが、好ましくはポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。なかでも、樹脂(B)としてポリエステル樹脂がより好ましい。また、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂としては、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂として知られている公知のものの中から適宜選択して用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂として、(i)多価アルコールと多塩基酸との縮合反応によって得られる樹脂であって、二塩基酸と二価アルコールとの縮合物又は不乾性油脂肪酸等で変性したものである不転化性ポリエステル樹脂、(ii)二塩基酸と三価以上のアルコールとの縮合物である転化性ポリエステル樹脂などが挙げられる。本実施形態において、ポリエステル樹脂(B)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0084】
ポリエステル樹脂の原料として用いられる多価アルコールとしては、具体的には、二価アルコール、三価アルコール、四価以上の多価アルコールなどが挙げられる。二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。四価以上の多価アルコールとしては、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニット、ソルビット等が挙げられる。これら多価アルコールは、一種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
また、ポリエステル樹脂の原料として用いられる多塩基酸としては、具体的には、芳香族多塩基酸、脂肪族飽和多塩基酸、脂肪族不飽和多塩基酸、ディールス・アルダー反応による多塩基酸などが挙げられる。芳香族多塩基酸としては、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメット酸等が挙げられる。脂肪族飽和多塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。脂肪族不飽和多塩基酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。ディールス・アルダー反応による多塩基酸としては、シクロペンタジエン-無水マレイン酸付加物、テルペン-無水マレイン酸付加物、ロジン-無水マレイン酸付加物等が挙げられる。これら多塩基酸は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
変性剤である不乾性油脂肪酸等としては、具体的には、オクチル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エレオステアリン酸、リシノレイン酸、脱水リシノレイン酸、またはヤシ油、アマニ油、キリ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、大豆油、サフラワー油、及びこれらの脂肪酸等が挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ポリエステル樹脂としても、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0087】
また、アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂として、より具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。アクリル樹脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0088】
変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)は、後述する架橋剤(D)と反応するために、反応性官能基を有することが好ましい。特に、当該反応性官能基としては、カルボキシル基及びヒドロキシ基からなる群から選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。樹脂(B)がヒドロキシ基を有する場合、その樹脂(B)の水酸基価は、5~500mgKOH/gであることが好ましく、10~300mgKOH/gであることがより好ましく、10~100mgKOH/gであることがさらに好ましく、10~40mgKOH/gが特に好ましい。樹脂(B)の水酸基価が前記各好ましい範囲内である場合、後述の架橋剤(D)による架橋網目構造の密度が適度になるため剥離力がより軽くなる。特に、樹脂(B)が、水酸基価が前記各好ましい範囲内のポリエステル樹脂である場合、上記傾向が強いものとなる。
【0089】
樹脂(B)の数平均分子量は、500~30000程度であることが好ましく、1000~20000程度であることがより好ましい。樹脂(B)は、数平均分子量が上記範囲であることにより、表面層が架橋剤(D)で架橋されたときの網目構造が密になりやすく、アルキル成分及び架橋性官能基を有する変性アクリル系樹脂(A)の剥離面への偏析が起こりやすくなる。
【0090】
表面層中の前記樹脂(B)は、ガラス転移温度(Tg)が55℃以上であることが好ましい。また、前記ガラス転移温度は58℃以上がより好ましい。表面層中の前記樹脂(B)のガラス転移温度が上記各好ましい範囲内である場合、より剥離力が軽くなり、かつ耐熱性が向上する。特に、樹脂(B)が、ガラス転移温度が前記各好ましい範囲内のポリエステル樹脂である場合、上記傾向が強いものとなる。表面層中の前記樹脂(B)のガラス転移温度は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、70℃以下が特に好ましい。
【0091】
表面層中の樹脂(B)の含有量は限定的ではないが、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、表面層を構成する樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として、2質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以上であることがさらに一層好ましく、30質量部以上であることが特に好ましく、40質量部以上であることが特段好ましい。また、同様の観点から、表面層を構成する樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として、50質量部未満が好ましく、48質量部以下がより好ましく、45質量部以下であることがさらに好ましい。ここで、前記樹脂(B)の含有量が、樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として50質量部未満であるということは、前記樹脂(B)の質量部をMA、と前記樹脂(B)の質量部をMBとした場合において、1<MA/MBであることと同義である。また、同様に、前記樹脂(B)の含有量が48質量部以下であることは1.083≦MA/MBであること、45質量部以下であることは1.222≦MA/MBであること、3質量部以上であることはMA/MB≦32.333であることと、それぞれ同義である。前記樹脂(B)の含有量が、樹脂(A)と樹脂(B)の合計を100質量部として50質量部未満である場合、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させることができるとともに、加熱後と加熱前の剥離力の差が非常に少なく、残留接着率にも優れている。
【0092】
<架橋剤(D)>
表面層を形成する樹脂成分は、変性アクリル系樹脂(A)及び樹脂(B)とともに、架橋剤(D)を含んでいることが好ましい。架橋剤(D)は、変性アクリル系樹脂(A)同士、樹脂(B)同士、または変性アクリル系樹脂(A)と樹脂(B)とを架橋する機能を有する。架橋剤(D)は、一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0093】
本実施形態において、架橋剤(D)は、限定的ではないが、例えば、多官能アミノ化合物、イソシアネート化合物(モノイソシアネート、ジイソシアネート、多官能イソシアネート等を包含する)、多官能エポキシ化合物、多官能金属化合物又はジアルデヒドであることが好ましい。本実施形態において、架橋剤(D)は多官能アミノ化合物が好ましく、メラミン化合物であることがさらに好ましい。前記メラミン化合物は、アミノ基の水素原子が全てアルコキシアルキル基及びアルカノール基の少なくとも一方で置換された構造を有しているメラミン化合物が特に好ましい。前記特に好ましいとされるメラミン化合物は、アルコキシアルキル基及びアルカノール基からなる群より選択された少なくとも1種のみをアミノ基の置換基として備えているともいえる。また、前記特に好ましいとされるメラミン化合物は、トリアジン環に3つのアミノ基が結合した構成単位を有しており、本実施形態において、3つのアミノ基に結合する合計6つの置換基は、アルコキシアルキル基及びアルカノール基からなる群より選択された少なくとも1種のみであり、水素原子などの他の置換基を有していないともいえる。
【0094】
より具体的には、前記特に好ましいとされるメラミン化合物は、下記一般式(IV)で表すことができる。
【0095】
【化5】
【0096】
一般式(IV)において、トリアジン環に結合した3つのアミノ基が有している合計6つの置換基Rは、それぞれ、アミノ基の水素原子が置換された基である。6つ置換基Rは、それぞれ独立に、アルコキシアルキル基又はアルカノール基である。また、nは、1以上の数であり、メラミン化合物の平均n量数を示している。
【0097】
アルコキシアルキル基とは、例えば、メトキシメチル基、1-エトキシエチル基などのC1-6アルキルオキシC1-6アルキル基を意味する。また、アルカノール基とは、例えば、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシ-n-プロピル基(-CH2-CHOH-CH3)、2-ヒドロキシ-1-メチルエチル基など、直鎖状又は分岐状のアルキル基の末端のメチル基上の水素原子が、ヒドロキシ基で置換された基を意味する。ここでC1-6とは、炭素数が1~6を意味する。
【0098】
本実施形態において、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、前記特に好ましいとされるメラミン化合物は、一般式(IV)において、6つの置換基Rのうち、少なくとも1つがアルコキシアルキル基であることが好ましく、3つ以上がアルコキシアルキル基であることがより好ましく、6つ全てがアルコキシアルキル基であることが特に好ましい。また、一般式(IV)において、6つの置換基Rのうち、アルカノール基は、5つ以下であることが好ましく、3つ以下であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。即ち、メラミン化合物としては、構成単位あたり3つ結合しているアミノ基の置換基R(6つのアミノ基の置換基R)の全てが、メトキシメチル基又はメチロール基のいずれかであり、且つ、前記置換基Rの1つ以上がメチロール基であるメラミン化合物は好ましい態様である。
【0099】
前記特に好ましいとされるメラミン化合物において、アルコキシアルキル基の炭素数は2~5が好ましく、2がさらに好ましい。アルコキシアルキル基の好ましい具体例としては、プロポキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシメチル基などが挙げられ、これらの中でも特にメトキシメチル基が好ましい。また、アルカノール基の炭素数は1~3が好ましく、1がさらに好ましい。アルカノール基の好ましい具体例としては、プロパノール基(3-ヒドロキシプロピル基)、エチロール基(2-ヒドロキシエチル基)、メチロール基(ヒドロキシメチル基)などが挙げられ、これらの中でも特にメチロール基が好ましい。
【0100】
メラミン化合物の平均n量数としては、好ましくは1.0~3.0程度、より好ましくは1.1~2.0程度、さらに好ましくは1.2~1.5程度が挙げられる。架橋剤(D)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0101】
本実施形態において、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、メラミン化合物は、一般式(V)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0102】
【化6】
[ここでMeはメチル基を示す。]
【0103】
一般式(V)において、メラミン化合物の平均n量数は、前記の範囲である。
【0104】
なお、本実施形態において、表面層を形成する樹脂成分には、架橋剤(D)として前記特に好ましいとされるメラミン化合物とは異なる他の架橋剤が含まれていてもよい。
当該樹脂成分に含まれる架橋剤は、架橋剤(D)として前記特に好ましいとされるメラミン化合物のみであることが好ましい。
【0105】
他の架橋剤としては、限定的ではないが、例えば、前記特に好ましいとされるメラミン化合物とは異なる多官能アミノ化合物、イソシアネート化合物(モノイソシアネート、ジイソシアネート、多官能イソシアネート等を包含する)、多官能エポキシ化合物、多官能金属化合物又はジアルデヒドなどが挙げられる。
【0106】
前記特に好ましいとされるメラミン化合物とは異なる多官能アミノ化合物としては、尿素化合物、ベンゾグアナミン化合物、ジアミン類などが挙げられる。尿素化合物としては、アルキル化尿素化合物(例えば、日本カーバイド工業(株)製 ニカラックMX-270)が挙げられる。ベンゾグアナミン化合物としては、ベンゾグアナミン、メチル化ベンゾグアナミン等が挙げられる。ジアミン類としては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジフェニルエチレンジアミン、p-キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0107】
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリメチロールプロパン(TMP)アダクトTDI、TMPアダクトHDI、TMPアダクトIPDI 、TMPアダクトXDI等が挙げられる。
【0108】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0109】
多官能金属化合物としては、アルミキレート化合物、チタンキレート化合物、トリメトキシアルミニウム等が挙げられる。アルミキレート化合物としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート等が挙げられる。チタンキレート化合物としては、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、テトライソプロポキシチタン、テトラメトキシチタン等が挙げられる。
【0110】
表面層において、架橋剤(D)の含有量は、剥離力を軽くし、さらに耐熱性を向上させる観点から、変性アクリル系樹脂(A)及び変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)の合計100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、変性アクリル系樹脂(A)及び変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)の合計100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0111】
<その他の成分>
[添加剤]
表面層及び基材層には、それぞれ、主成分である樹脂成分に加えて、さらに、必要に応じて少なくとも1種の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、酸触媒、酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、着色剤及びアンチブロッキング剤等が挙げられる。このような添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で基材層及び表面層に添加してよい。少なくとも1種の添加剤を、基材層及び表面層のいずれかにのみ含有させてもよいし、基材層及び表面層の全ての層に含有させてもよい。また、基材層及び表面層は、互いに同一又は異なる添加剤を含有してよい。
【0112】
「酸触媒」は、架橋反応により塗膜の緻密性が向上し、オリゴマーの析出を抑制することができる。この架橋反応の酸触媒として、例えばパラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸nブチル、ベンゼンスルホン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸等の酸性触媒を好適に使用できる。酸触媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。酸触媒の使用量は、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。また、酸触媒の使用量は、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0113】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(一般名称:BHT)や、フェノール系、ヒンダードアミン系、ホスファイト系、ラクトン系及びトコフェロール系の酸化防止剤が挙げられる。具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4ヒドロキシ)ベンゼン及びトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等を挙げることができる。
【0114】
「塩素吸収剤」としては、特に限定されないが、例えばステアリン酸カルシウム等の金属石鹸が挙げられる。
【0115】
「紫外線吸収剤」としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール(BASF製Tinuvin328等)、ベンゾフェノン(Cytec製Cysorb UV-531等)及びハイドロキシベンゾエート(Ferro製UV-CHEK-AM-340等)等が挙げられる。
【0116】
「可塑剤」としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸エステル、フタル酸ジブチル、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコール類、グリセリンなどが挙げられる。
【0117】
「難燃化剤」としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸塩、ボレート及びアンチモン酸化物等が挙げられる。
【0118】
「帯電防止剤」としては、特に限定されないが、例えば、グリセリンモノエステル(グリセリンモノステアレート等)、及びエトキシル化された第二級アミン等が挙げられる。
【0119】
「着色剤」としては、各種有色染料や有色顔料、蛍光染料が挙げられる。
【0120】
「アンチブロッキング剤」は、ブロッキング防止のために添加され、核剤としての効果を発現しない限り特に限定されない。アンチブロッキング剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、(合成)ゼオライト、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、石英、炭酸マグネシウム、硫酸パリウム及び二酸化チタン等の無機粒子、並びにポリスチレン粒子、ポリアクリル系粒子、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系粒子、架橋ポリエチレン粒子、ポリエステル粒子、ポリアミド粒子、ポリカーボネート粒子、ポリエーテル粒子、ポリエーテルスルホン粒子、ポリエーテルイミド粒子、ポリフェニレンスルフィド粒子、ポリエーテルエーテルケトン粒子、ポリアミドイミド粒子、(架橋)メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、アミノ樹脂粒子、フラン樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、不飽和ポリエステル樹脂粒子、ビニルエステル樹脂粒子、ジアリルフタレート樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、脂肪酸アミド粒子及び脂肪酸グリセリンエステル化合物粒子等の有機粒子が挙げられる。アンチブロッキング剤は、0.1μm~10μmの粒子径を有する粒子であることが好ましく、PMMA及びシリカ粒子が、耐ブロッキング性及び滑り性付与に優れるためより好ましい。例えば前述の基材層にこのような粒子を含有させることにより、基材層の表裏面の滑り性が向上し、ブロッキングを抑制することができる。
【0121】
また、本実施形態において、電気部品等に悪影響を及ぼさないように、表面層にシリコーン化合物を実質的に含有しないことが好ましい。なお、シリコーン化合物を実質的に含有しないとは、シリコーン化合物の量が、好ましくは、500μg/g以下、より好ましくは、100μg/g以下のことをいう。
【0122】
表面層の厚みは、剥離性を高めやすい観点から、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.05μm以上であり、さらに好ましくは0.1μm以上であり、特に好ましくは0.18μmである。表面層の厚みは、ポリマー成分の基材層への移行の観点から、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。表面層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)(例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製「HT7700型」)を用いて観測され、具体的には実施例に記載の方法によって測定される。
【0123】
〔表面層の作製方法〕
表面層は、基材層上に、表面層を形成する樹脂成分を積層することにより形成することができる。表面層の作製方法の好適な態様として、変性アクリル系樹脂(A)、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、及び架橋剤(D)、さらには必要に応じてその他の成分等と、少なくとも1種の溶媒とを含有する塗工液を基材層の上に塗工し、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)とを架橋させ、且つ、前記塗工により得られた塗工層から溶媒を除去することにより形成される。
【0124】
前記溶媒としては、上記塗工液中の溶媒以外の成分を溶解及び/又は均一に分散させることができれば特に限定されない。前記溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)及び酢酸エチル等のケトン/エステル系の有機溶媒、並びにn-ヘプタン及びメチルシクロへキサン等の脂肪族炭化水素等の有機溶媒が挙げられる。溶媒の沸点は、塗工液のハンドリング性と剥離性フィルムの製造効率を高めやすい観点から、好ましくは10~150℃であり、より好ましくは20~120℃である。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0125】
塗工液中の溶媒以外の成分の濃度(いわゆる、溶媒を除去した後に表面層に残る固形分成分の濃度であり、例えば、変性アクリル系樹脂(A)、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、及び架橋剤(D)、さらには必要に応じて配合されるその他の成分の合計濃度)は、限定的ではないが、塗工液の安定性及び塗工適性の観点から、塗工液の総量に対して1~24質量%であることが好ましく、1~19質量%であることがより好ましく、2~14質量%であることがさらに好ましく、2~10質量%が特に好ましい。塗工方法は特に限定されず、例えば、ブレードコータ、エアナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、ダイコータ、カーテンコータ、又は印刷機等を用いた方法が挙げられる。
【0126】
塗工層中の前記樹脂(A)と前記樹脂(B)とを架橋させる方法としては、前記架橋剤(D)の存在下、塗工層を加熱することが挙げられる。例えば、塗工層に熱風を当てて加熱する方法、及び塗工層を赤外線等の電磁波で加熱すること、等が挙げられる。
塗工層から溶媒を除去する方法は、溶媒を揮発させることができれば特に限定されない。なお、溶媒を除去するとは、溶媒を完全に取り除くことのみを意味するのではなく、層が形成される程度に溶媒を取り除くことも含む。溶媒を除去する方法としては、例えば塗工層に風を当てて乾燥させる方法、及び塗工層を加熱することにより乾燥させる方法、等が挙げられる。
溶媒除去と架橋反応の促進を両立しやすい観点から、風による乾燥温度、又は加熱温度は、70~170℃が好ましく、90~150℃がより好ましい。また、乾燥時間又は加熱時間は、10~300秒が好ましく、15~90秒がより好ましく、20~50秒がよりさらに好ましい。
【0127】
本実施形態の剥離性フィルムは、延伸されても延伸されなくてもよいが、良好な軽い剥離性を得やすい観点から、表面層は無延伸であることが好ましい。
【0128】
〔剥離性フィルム表面の粗面化〕
本実施形態において、剥離性フィルムの表面に、剥離性フィルムとして用いる場合の貼り合わせ等に支障が無い範囲で、巻き適性を向上させる微細な表面粗さを付与してもよい。剥離性フィルム表面に微細な凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法等、及び公知の各種粗面化方法を採用することができる。
【0129】
本実施形態の剥離性フィルムは、T字ピール剥離力が非常に軽い(非常に低い)。剥離性フィルムの被着体に対する密着性を高めやすい観点から、本実施形態の剥離性フィルムのT字ピール剥離力は、好ましくは0.01N/25mm以上、より好ましくは0.02N/25mm以上、さらに好ましくは0.05N/25mm以上である。また、本実施形態の剥離性フィルムのT字ピール剥離力は、剥離性を高めやすい観点から、好ましくは0.40N/25mm以下であり、より好ましくは0.30N/25mm以下であり、さらに好ましくは0.25N/25mm以下であり、特に好ましくは0.22N/25mm以下である。剥離性フィルムのT字ピール剥離力は、下記方法により測定される。本実施形態の剥離性フィルムの後述する加熱後のT字ピール剥離力の好ましい範囲は、前記加熱前の前記T字ピール剥離力の各好ましい範囲と同様である。
【0130】
〔T字ピール剥離力〕
常温(25℃)環境において、剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に、幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付する。得られたフィルムを、160℃で90秒間加熱処理した後、温度70℃、湿度50%の環境下で20時間静置する。次に、常温環境(25℃)において、得られたフィルムから25mm幅に切り出した試料を測定試料とし、引っ張り試験機(例えば、ミネベア株式会社製 万能引張試験機 テクノグラフTGI-1kN)を用いて1000mm/分の速度でT字ピール剥離を行い、その際の剥離力を測定する。このように測定される値を、T字ピール剥離力(加熱前T字ピール剥離力)とする。
【0131】
また、本実施形態の剥離性フィルムの加熱後T字ピール剥離力は、加熱前T字ピール剥離力との差が少ないことが好ましく、(加熱後T字ピール剥離力)-(加熱前T字ピール剥離力)の値は、-0.20~+0.20が好ましく、-0.10~+0.10がより好ましく、-0.08~+0.05がさらに好ましく、-0.04~+0.02が特に好ましい。剥離性フィルムの加熱後T字ピール剥離力は、下記方法により測定される。
【0132】
〔加熱後T字ピール剥離力〕
常温(25℃)環境において、剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付し、処理前貼付品を得る。次いで、当該貼付品に対して160℃で90秒間の加熱処理をする。なお、当該加熱処理においては、熱風乾燥機を使用する。ここで、160℃で90秒間の加熱処理とは、160℃に設定された熱風乾燥機中に当該貼付品を載置したことを意味する。次いで、当該貼付品に対して、5KPaの荷重となるように錘を載せ、70℃で湿度50%の環境下で、20時間静置する。次に、常温環境(25℃)において、得られたフィルムから25mm幅に切り出した試料を測定試料とし、引っ張り試験機(例えば、ミネベア株式会社製 万能引張試験機 テクノグラフTGI-1kN)を用いて1000mm/分の速度でT字ピール剥離を行い、その際の剥離力を測定する。このように測定される値を、加熱後T字ピール剥離力とする。
【0133】
〔剥離性フィルムの厚み〕
剥離性フィルムの厚みは、剥離性フィルムとしての取り扱い性の観点から、好ましくは18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。剥離性フィルムの厚みは、剥離性フィルムとしての取り扱い性の観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。本実施形態の剥離性フィルムの厚みはマイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定される。
【0134】
本実施形態の剥離性フィルムは、良好な剥離性を有すると共に、熱処理された後においても上記良好な剥離性を維持するため、剥離用のフィルムとして優れている。本実施形態の剥離性フィルムは、工業分野及び医療分野などにおいて広く使用することができ、例えば、表面保護フィルム及び粘着テープ等に使用する剥離フィルム、剥離ライナー又はセパレータフィルム、半導体製品製造時に使用される工程(ダイシング、ダイボンディング、バックグラインド)テープのセパレータフィルム、セラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーならびに複合材料製造時のキャリアー、保護材のセパレータフィルム等として好適に使用される。本実施形態の剥離性フィルムは、テープ又はシート;電気機器、電子機器、ウェアラブル機器、医療機器及び建材等の樹脂部材;上記半導体製品製造時の工程において製造される中間部材;各種電気部品(ハードディスク、モータ、コネクタ、スイッチ等);上記キャリアーとして使用する場合のその対象物;ドライフィルムレジスト;等の被着体に対し貼り付けて使用される。なお、上述の被着体が接着剤層(一例として、溶剤系、エマルション系、ホットメルト系の感圧性接着剤層)を有する場合、本実施形態の剥離性フィルムの表面層と当該接着剤層とが貼り合わされるように本実施形態の剥離性フィルムが被着体に対して貼り付けて使用されてもよい。本実施形態の剥離性フィルムを対象物に貼り付ける方法は、特に限定されない。本実施形態の剥離性フィルムは対象物に、例えば、貼り付ける面積に応じて剥離性フィルムを適宜切断して貼り付けてもよいし、本実施形態の剥離性フィルムもそれを貼り付ける対象物もそれぞれロール状に捲回されている場合はロールツーロールで貼り合わせてもよい。
【実施例
【0135】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0136】
〔測定方法及び評価方法〕
実施例及び比較例における、各種測定方法及び評価方法は、次のとおりである。
【0137】
〔表面層の厚み〕
試料を切り出し後、試料表面にOsコーティングを施し、樹脂包埋した。次にダイヤモンドナイフ装着のウルトラミクロトームでトリミング・面出し及び超薄切片作製後、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行なった。
切片作成装置:ウルトラミクロトーム(ライカ株式会社製LEICA EM UC7)
ナイフ;DIATOME社製ULTRADRY
観察装置:TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製HT7700型)
加速電圧:100kV
写真倍率:×300,000倍
【0138】
〔基材層及び剥離性フィルムの厚み〕
剥離性フィルム及び基材層の厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定した。
【0139】
〔X線電子分光(XPS)分析〕
Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、剥離性フィルムの表面層から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する、当該位置に存在する炭素の含有量の比Mc5(atomic%)を下記の条件で測定した。
測定器:X線電子分光(XPS)測定器 ESCA LAB250(Thermo VG scientific社製)
測定モード:モノクロメータ、X線源:Al、測定面積:500μmφ
測定元素:炭素(C)
スパッタリングの条件は以下の通りで実施した。
照射イオン:アルゴン(Ar)、電流値:2.5(μA)、電圧:120(V)、スパッタレート:0.1(nm/sec)
【0140】
〔XPS深さ方向分析〕
Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量比MC40(atomic%)を測定した。XPSの測定条件は、上記MC5の測定条件のときと同様である。
【0141】
〔T字ピール剥離力〕
剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付し、処理前貼付品を得た。
次いで、当該貼付品に対して、5KPaの荷重となるように錘を載せ、70℃で湿度50%の環境下で、20時間静置した。
次に、室温の環境下で、得られた各処理後貼付品を25mm幅に切り出した試料を各測定試料とし、剥離試験機(ミネベア株式会社製 万能引張試験機 テクノグラフTGI-1kN)を用いて、1000mm/分の速度でT字ピール剥離試験を行い、その際の剥離力を計測した。測定は、それぞれ3回行い、その平均値を各剥離性フィルムのT字ピール剥離力(加熱前T字ピール剥離力)とした。結果を表1に示す。
【0142】
〔加熱後T字ピール剥離力(耐熱性評価)〕
剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付し、処理前貼付品を得た。
次いで、当該貼付品に対して160℃で90秒間の加熱処理をした。なお、当該加熱処理においては、熱風乾燥機を使用した。ここで、160℃で90秒間の加熱処理とは、160℃に設定された熱風乾燥機中に当該貼付品を載置したことを意味する。
次いで、当該貼付品に対して、5KPaの荷重となるように錘を載せ、70℃で湿度50%の環境下で、20時間静置した。次に、前記の〔T字ピール剥離力〕におけるT字ピール剥離力の測定方法及び算出方法と同様の方法により、加熱後T字ピール剥離力を得た。結果を表1に示す。
【0143】
〔残留接着率評価〕
前記の〔T字ピール剥離力〕において、各剥離性フィルムの表面層側のT字ピール剥離力を測定した際に使用したポリエステル粘着テープ(前記測定の際に剥離した後のポリエステル粘着テープ)を、それぞれ、ステンレス鋼板(SUS板)上に2kgのローラーを2往復させることにより貼付した。次に、前記貼付して得られたステンレス鋼板を有する貼付品に対して、1000mm/分の速度でT字ピール剥離試験を行い、その際の剥離力(X)を計測した。
一方、前記の〔T字ピール剥離力〕において、剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面の代わりに、テフロン(登録商標)シート(中興化成工業株式会社製 スカイブドテープMSF-100 厚み100μm)の表面にポリエステル粘着テープを貼付したこと以外は、同様にして、T字ピール剥離試験を行い、さらに当該剥離試験によって剥離した後のポリエステル粘着テープを、ステンレス鋼板(SUS板)上に2kgのローラーを2往復させることにより貼付した。次に、前記貼付して得られたステンレス鋼板を有する貼付品に対して、1000mm/分の速度でT字ピール剥離試験を行い、その際の剥離力(Y)を計測した。
次いで、下記式によって残留接着率を求めた。残留接着率が小さいほど、剥離性フィルムの表面層の成分が、ポリエステル粘着テープに移行しやすいと評価される。残留接着率が100%である場合、テフロン(登録商標)シートの表面の成分がポリエステル粘着テープに移行しない程度と同程度に、剥離性フィルムの表面層の成分もポリエステル粘着テープに移行していないことを意味する。
結果を表1に示す。
残留接着率(%)=(X)/(Y)×100
残留接着率は、84%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、93%以上がよりさらに好ましく、97%以上が特に好ましい。残留接着率は100%であってよい。
【0144】
<実施例1>
攪拌機、窒素導入管、温度計及び冷却管を備えた1リットルのフラスコに、単量体aとしてラウリルアクリレート(LA)99質量部、単量体bとして2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部、トルエン100質量部、酢酸エチル100質量部を添加した。次に、前記フラスコ内において、窒素気流下、80℃で2時間重合反応を行い、さらにアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を加えた上で2時間重合を行い、変性アクリル系樹脂(A)含有溶液(固形分30質量%)を得た。得られた変性アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は10.5×104であった。
また、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)としてポリエステル樹脂α(バイロン(登録商標)M802(東洋紡績社製、数平均分子量(Mn):3×103、水酸基価:37mgKOH/g 固形分70質量%、 Tg=60℃)、メラミン架橋剤(D)として構成単位あたり3つ結合しているアミノ基の置換基R(即ち6つのアミノ基の置換基R)の全てが、メトキシメチル基又はメチロール基のいずれかであり、且つ、前記置換基Rの1つ以上がメチロール基であるメラミン化合物であるニカラック(登録商標)MS-11(日本カーバイド工業株式会社製、平均1.8量体 60質量%)、酸触媒(E)としてドライヤー900(日立化成株式会社製 pトルエンスルホン酸50質量%)を、それぞれ用意した。
次に、変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、及びメラミン架橋剤(D)を、トルエン:メチルエチルケトン(MEK)=30:70(質量比)の混合溶媒に混合し攪拌した後、さらに酸触媒(E)を混合し攪拌した。ここで、前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、変性アクリル系樹脂(A)とは異なる樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)56質量部、前記ポリエステル樹脂44質量部、前記メラミン架橋剤6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌した。これにより、固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%の塗工液1を得た。
次に、基材層として、厚さ38μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(二軸延伸PETフィルム、東洋紡株式会社製「E5100」)を用意した。
次いで、マイヤーバー(株式会社安田精機製作所製シャフト直径:6.35mmφ、ROD No.4)を用いて、当該基材層の上に前記塗工液1を塗工し、防爆型乾燥機中150℃で60秒間乾燥させた。これにより、基材層及び表面層(表面層の厚み:0.2μm)を有する実施例1の剥離性フィルムを得た。
【0145】
<実施例2>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)75質量部、前記ポリエステル樹脂(B)25質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.1質量部となるように混合し攪拌して塗工液2(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、実施例2の剥離性フィルムを得た。
【0146】
<実施例3>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)95質量部、前記ポリエステル樹脂(B)5質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌して塗工液3(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、実施例3の剥離性フィルムを得た。
【0147】
<実施例4>
樹脂(B)としてポリエステル樹脂(バイロン(登録商標)M802)に代えて、アクリル樹脂(アクリディック(登録商標)WMG-521、DIC株式会社製、Tg=30℃、酸価:6.5mgKOH/g 固形分60質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の剥離性フィルムを得た。
【0148】
<比較例1>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)32質量部、前記ポリエステル樹脂(B)68質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌して塗工液4(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例1の剥離性フィルムを得た。
【0149】
<比較例2>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)10質量部、前記ポリエステル樹脂(B)90質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌して塗工液5(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例2の剥離性フィルムを得た。
【0150】
<比較例3>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)0質量部、前記ポリエステル樹脂(B)100質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌して塗工液6(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例3の剥離性フィルムを得た。
【0151】
<比較例4>
前記変性アクリル系樹脂(A)含有溶液、樹脂(B)、メラミン架橋剤(D)、及び酸触媒(E)について、それぞれ固形分換算で、前記変性アクリル系樹脂(A)46質量部、前記ポリエステル樹脂(B)54質量部、前記メラミン架橋剤(D)6質量部、前記酸触媒(E)1.2質量部となるように混合し攪拌して塗工液7(固形分濃度4.4質量%、酸触媒濃度0.05質量%)を得た。その他の操作については、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例4の剥離性フィルムを得た。
【0152】
実施例1~4並びに比較例1~4で得たフィルムの、
(i) MC5/MC40(ここで、MC5は表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ5nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量の比率を示す。MC5は単に深さ5nmの炭素元素比ともいう。また、MC40は表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ40nmの位置に存在する全元素含有量に対する炭素の含有量の比率を示す。MC40は単に深さ40nmの炭素元素比ともいう。)
(ii) MA/MB(ここで、MAは、表面層中に含まれる、上記構造式(I)で表される構成単位を含む変性アクリル系樹脂(A)の質量部であり、MBは表面層中に含まれるポリエステル樹脂(B)の質量部である。上記MA及びMBはいずれも固形分換算である。)
(iii) T字ピール剥離力、
(iv) 耐熱性評価(加熱後T字ピール剥離力)
(v) 剥離力差(加熱後T字ピール剥離力-加熱前T字ピール剥離力)
(vi) 残留接着率、
の結果を表1に示す。なお、上記(v)剥離力差は、上記(iv)と上記(iii)との差で算出される。
【0153】
【表1】
【0154】
実施例1~4の剥離性フィルムは、上記の通り、(加熱前の)T字ピール剥離力が低く、且つ、加熱後のT字ピール剥離力が低い。さらには、実施例1~4の剥離性フィルムは、加熱後と加熱前の剥離力の差が非常に少なく、残留接着率にも優れていることがわかった。そのため、実施例1~4を包含する本実施形態に係るフィルムは、特に、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離フィルム等として好適に使用できる。