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  • 特許-船外機の吸気装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】船外機の吸気装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/32 20060101AFI20221213BHJP
   F02M 35/16 20060101ALI20221213BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B63H20/32 553
F02M35/16 Z
F02M35/10 301V
B63H20/32 510
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018156866
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029215
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 圭祐
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137715(JP,A)
【文献】特開2015-172361(JP,A)
【文献】特開2004-338462(JP,A)
【文献】特開昭59-120598(JP,A)
【文献】特開昭60-222394(JP,A)
【文献】特開2006-182220(JP,A)
【文献】米国特許第6932662(US,B1)
【文献】阿知波哲史,植田順大,“船外機 新型「DF350A」の開発”,SUZUKI TECHNICAL REVIEW,日本,スズキ株式会社,2018年03月31日,Vol.44,p.66-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/32,
F02M 35/10,35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気吸入口を備えたアッパカバーがロアカバーに装着されることで、これらのカバーにより船外機のエンジンが覆われ、前記外気吸入口からの外気を吸気として前記エンジンへ供給する船外機の吸気装置において、
前記アッパカバーの内側には前記外気吸入口に対応する位置に、吸気通路の一部を構成する外気吸入部材が取り付けられ、
この外気吸入部材は、前記船外機の後端側に位置づけられて前記外気吸入口からの外気を吸入する外気吸入部と、この外気吸入部に連続して前記船外機の前方側に位置づけられて前記エンジンの上流側インテークパイプへ外気を送り出す外気送出部と、を有し、
前記外気吸入部の底部には、段差部が設けられ且つこの段差部と交差する排水溝が形成されたことを特徴とする船外機の吸気装置。
【請求項2】
前記排水溝は、段差部と交差する集水部分と、この集水部分に連続する排水部分とを備え、前記排水部分は、前記外気吸入部材の前記外気吸入部の底部における船外機の幅方向中央位置に、前記船外機の前後方向に沿って形成されたことを特徴とする請求項1に記載の船外機の吸気装置。
【請求項3】
前記外気吸入部材の前記外気吸入部の底部は、船外機の後方へ向って斜め下がり形状に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の船外機の吸気装置。
【請求項4】
前記外気吸入部材の前記外気送出部は、エンジンの上流側インテークパイプに突き合わせ、または嵌め合いにより接続されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機の吸気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機の吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、気化器の吸気口に吸気導入管の一端が接続され、吸気導入管の他端を上カウリングに設けた外気取入口に開口した船外機の吸気装置が開示されている。また、特許文献2には、エンジンルームに外気を吸入する吸気エアダクトを有するモールディングを、船外機のトップカウルに接着により取り付けた船外機のトップカウルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭59-120598号公報
【文献】特開2006-182220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船外機の吸気装置では、一般に、エンジン出力を上昇させる場合に吸気通路の断面積を増大する必要がある。これは、吸気通路の断面積が小さいと、吸入空気の流速が上昇して吸気抵抗が増大し、エンジン出力上不利になるからである。ところが、吸気通路の断面積が大きくなると、吸気脈動に起因する吸気振動が著しくなったり、船外機のエンジンを覆うエンジンカバーの外気吸入口(外気取入口)から侵入する水を吸気通路内に吸い込み易くなったりしてしまう。
【0005】
また、特許文献1に記載の船外機の吸気装置では、外気取入口が、上カウリングと、この上カウリングに取り付けられた別体のカバーとにより形成されるので、このカバーの取付状態によっては船外機の外観が低下してしまう。
【0006】
更に、特許文献2に記載の船外機のトップカウルでは、吸気振動低減対策として、トップカウルに接着される、吸気エアダクトを備えるモールディングに、リブとしての凸形状部が形成されてモールディングが補強されている。しかしながら、この凸形状部は、板状のモールディングに対して設けられたものである。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、吸気脈動に起因する振動を抑制して吸気騒音を低減でき、且つ排水性能及び外観を向上できる船外機の吸気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る船外機の吸気装置は、外気吸入口を備えたアッパカバーがロアカバーに装着されることで、これらのカバーにより船外機のエンジンが覆われ、前記外気吸入口からの外気を吸気として前記エンジンへ供給する船外機の吸気装置において、前記アッパカバーの内側には前記外気吸入口に対応する位置に、吸気通路の一部を構成する外気吸入部材が取り付けられ、この外気吸入部材は、前記船外機の後端側に位置づけられて前記外気吸入口からの外気を吸入する外気吸入部と、この外気吸入部に連続して前記船外機の前方側に位置づけられて前記エンジンの上流側インテークパイプへ外気を送り出す外気送出部と、を有し、前記外気吸入部の底部には、段差部が設けられ且つこの段差部と交差する排水溝が形成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外気吸入部材の外気吸入部の底部に段差部が設けられて外気吸入部の剛性が確保されるので、吸気脈動に起因する外気吸入部材の振動を抑制でき、吸気騒音を低減できる。更に、外気吸入部材の外気吸入部の底部に、段差部と交差する排水溝が形成されたので、外気と共に流入する水を効果的に排水できる。また、外気吸入部材がアッパカバーの内側に取り付けられたので、船外機の外観を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る船外機の吸気装置における一実施形態を示す船外機の平面図。
図2図1のII-II線に沿う断面図。
図3図1のIII-III線に沿う断面図。
図4図1の外気吸入部材を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る船外機の吸気装置における一実施形態を示す船外機の平面図であり、図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。これらの図1及び図2に示す船外機10はエンジンホルダ12を備え、このエンジンホルダ12にエンジン11が搭載される。このエンジン11は、クランクシャフト18を略垂直に配置したエンジンである。
【0012】
つまり、エンジン11は、船外機10の前方から後方へ向かってクランクケース13、シリンダブロック14、シリンダヘッド15、ヘッドカバー16が順次配設されてなる。シリンダブロック14に、ピストン(不図示)が往復移動するシリンダ14が、略水平方向に複数(本実施形態では4個)形成される。また、クランクケース13とシリンダブロック14との間にクランクシャフト18が略鉛直方向に配置される。エンジン11は、このようにシリンダ17が略水平方向に、クランクシャフト18が略垂直方向にそれぞれ配置されて構成された4サイクル4気筒エンジンである。
【0013】
上述のエンジン11、エンジンホルダ12、及びエンジンホルダ12の下方に設置されたオイルパン19は、エンジンカバー20によって覆われる。このエンジンカバー20は、ロアカバー20Bと、このロアカバー20Bに離脱可能に装着されるアッパカバー20Aとを有して構成される。ロアカバー20Bの下方に、ドライブシャフトハウジング、ギアケース(共に図示せず)が順次配置されている。
【0014】
また、船外機10は、パイロットシャフト21がスイベルブラケット22に回転可能に支持されることで、水平方向に回転自在に支持され、このスイベルブラケット22がスイベルシャフト23を介してクランプブラケット24に鉛直方向に回転自在に支持され、クランプブラケット24が船体25のトランサム25Aに取り付けられる。これにより、船外機10は、船体25に対して、水平方向(操作方向)及び鉛直方向(トリム&チルト方向)に旋回可能に設けられる。
【0015】
エンジン11のクランクシャフト18に発生する駆動力は、ドライブシャフトハウジング及びギアケース内を略鉛直方向に配置されたドライブシャフト26に伝達され、ギアケース内に配置された図示しないシフト機構及びプロペラシャフト介してプロペラ(図示せず)に伝達されて、このプロペラを正転または逆転させる。これにより、船外機10は、船体25を前進または後進させる。なお、図1及び図2に示す符号27は、クランクシャフト18の回転により発電機として機能するフライホイールマグネット装置(図示せず)を覆うフライホイールマグネットカバーである。
【0016】
図1及び図3に示すように、エンジン11の右側面に吸気装置30が配置される。この吸気装置30は、アッパカバー20Aの後上部に形成された外気吸入口31からの外気を、吸気としてシリンダヘッド15の吸気ポート37へ供給するものであり、外気吸入部材32、上流側インテークパイプ33、エアボックス34、スロットルボディ35及び下流側インテークパイプ36が順次接続されて構成される。
【0017】
外気吸入口31は、アッパカバー20Aにおける船外機10の後端部に1カ所、またはアッパカバー20Aにおける船外機10の後端部の幅方向両側に合計2カ所(本実施形態では後者の2カ所)形成されている。
【0018】
外気吸入部材32は、後に詳説するが、アッパカバー20Aの外気吸入口31からの外気を吸気として矢印Aのように吸入し、矢印Bのように上流側インテークパイプ33へ送り出してエアボックス34へ導く。このエアボックス34に導入された吸気は、スロットルボディ35により流量が調整された後、本実施形態では4本の下流側インテークパイプ36を経て、シリンダヘッド15の吸気ポート37へ供給される。
【0019】
外気吸入部材32は、図1及び図4に示すように、アッパカバー20Aの内側で外気吸入口31に対応する位置に、ねじまたはスクリュー38を用いて固定して取り付けられる。この外気吸入部材32の取り付けは、外気吸入部材32の取付片部39にねじまたはスクリュー38が挿入され、このねじまたはスクリュー38がアッパカバー20Aにねじ込まれることでなされる。そして、外気吸入部材32は、外気吸入口31及び吸気通路のそれぞれの一部として、外気吸入口31からの外気を上流側インテークパイプ33へ導く。
【0020】
この外気吸入部材32は、外気吸入部32Aと外気送出部32Bとが一体に成形されて構成される。外気吸入部32Aは、船外機10の後端側に位置づけられてアッパカバー20Aの外気吸入口31から外気を吸入する部分であり、高さHよりも横幅W(船外機10の幅方向と一致)が大きな箱型形状で、その底部40が平坦形状に形成された吸気通路である。更に、外気吸入部32Aの底部40は、図2に示すように、船外機10の後方へ向かって斜め下がり形状に形成されている。
【0021】
外気送出部32Bは、図1及び図4に示すように、外気吸入部32Aに連続して設けられ、外気吸入部32Aよりも船外機10の前方側に位置づけられて、エンジン11側に取り付けられた上流側インテークパイプ33へ外気(吸気)を送り出す部分である。特に図3に示すように、アッパカバー20Aがロアカバー20Bに装着されるとき、外気送出部32Bは、上流側インテークパイプ33の上流側に突き合わせ、または嵌め合い(差し込み)により接続されて、所謂、セミダイレクト吸気構造に構成されている。
【0022】
また、外気吸入部32Aは、図1及び図4に示すに、底部40にリブ等の段差部41が複数本形成されて底部40が補強され、外気吸入部32Aの剛性が高められている。
【0023】
更に、外気吸入部32Aの底部40には、段差部41と交差する排水溝42が形成されている。この排水溝42は、段差部41と交差する集水部分42Aと、この集水部分42Aに連続する排水部分42Bとを備える。集水部分42Aは、段差部41と交差することで、複数本の段差部41間に溜まった水を集水する。また、排水部分42Bは、外気吸入部32Aの底部40における外気吸入部32Aの横幅W方向略中央位置に、船外機10の前後方向に沿って形成される。これにより、排水溝42の排水部分42Bは、外気吸入部32Aの底部40の斜め後下がりの傾斜を利用して、集水した水を排水する。
【0024】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)~(4)を奏する。
(1)図1及び図4に示すように、吸気通路の一部を構成する外気吸入部材32では、エンジンカバー20のアッパカバー20Aの外気吸入口31からの外気を吸入する外気吸入部32Aは、その底部40が平坦形状の箱型形状に形成されている。このため、外気吸入部材32における吸気通路の断面積が増大して吸気抵抗が減少し、エンジン14の出力を向上させることができる。
【0025】
(2)外気吸入部材32の外気吸入部32Aの底部40に段差部41が設けられて外気吸入部32Aの剛性が確保されている。このため、外気吸入部32Aの底部40が平坦形状に形成されている場合であっても、吸気脈動に起因する外気吸入部材32の振動を抑制でき、吸気騒音を低減できる。また、外気吸入部材32の外気送出部32Bが上流側インテークパイプ33に突き合わせまたは嵌め合いにより接続される接続部分においても、外気吸入部材32の振動が抑制されることで、吸気騒音を低減できる。
【0026】
(3)図1図2及び図4に示すように、外気吸入部材32の外気吸入部32Aの底部40には、段差部41と交差する集水部分42Aと、この集水部分42Aに連続する排水部分42Bと、を備えてなる排水溝42が形成されている。外気吸入部32Aの底部40が、船外機10の後方へ向かって斜め下がり形状に設けられ、排水溝42の排水部分42Bが、船外機10の前後方向に沿って底部40に形成されている。この結果、外気と共に流入して複数本の段差部41間に溜まった水を排水溝42の集水部分42Aが集水し、この集水した水を、排水部分42Bが、外気吸入部32Aの底部40の傾斜を利用して効果的に排水できる。
【0027】
(4)外気吸入部材32がアッパカバー20Aの内側に取り付けられたので、船外機10の外観を損なうことなく、船外機10の外観を向上させることができる。
【0028】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
10…船外機、11…エンジン、20…エンジンカバー、20A…アッパカバー、20B…ロアカバー、30…吸気装置、31…外気吸入口、32…外気吸入部材、32A…外気吸入部、32B…外気送出部、33…上流側インテークパイプ、37…吸気ポート、40…底部、41…段差部、42…排水溝
図1
図2
図3
図4