(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】スラストフォイル軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 27/02 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
F16C27/02 A
(21)【出願番号】P 2018165317
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大森 直陸
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-134923(JP,U)
【文献】特開2018-040413(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが挿通される挿通孔を有するベースプレートと、
前記挿通孔の周囲に配置され、前記ベースプレートに支持されたバックフォイルと、
前記バックフォイルに支持されたトップフォイルと、を備え、
前記トップフォイルは、前記シャフトの回転方向の最も下流側で前記バックフォイルの山部が前記トップフォイルに接する接線の法線方向に沿って、前記接線が延びる接線方向の幅が縮小する拡張部を有し、
前記拡張部は、
前記トップフォイルの外周端と内周端を除く、前記回転方向の下流側に単一のピークを有し、前記ピークに向かって前記接線方向の幅が単調に縮小している、スラストフォイル軸受。
【請求項2】
前記ピークが、前記トップフォイルの外周側に存在する、請求項1に記載のスラストフォイル軸受。
【請求項3】
前記拡張部には、貫通孔が形成されている、請求項1または2に記載のスラストフォイル軸受。
【請求項4】
シャフトが挿通される挿通孔を有するベースプレートと、
前記挿通孔の周囲に配置され、前記ベースプレートに支持されたバックフォイルと、
前記バックフォイルに支持されたトップフォイルと、を備え、
前記トップフォイルは、前記シャフトの回転方向の最も下流側で前記バックフォイルの山部が前記トップフォイルに接する接線の法線方向に沿って、前記接線が延びる接線方向の幅が縮小する拡張部を有し、
前記拡張部には、貫通孔が形成されている、スラストフォイル軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラストフォイル軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転体用の軸受として、回転軸に設けられたスラストカラーに対向して配置されるスラストフォイル軸受が知られている。スラストフォイル軸受は、振動や衝撃によって発生する回転軸の動き(スラストカラーの軸方向変位と傾き)を吸収できるように、軸受面が柔軟なフォイル(金属製薄板)によって形成されており、軸受面の下に軸受面を柔軟に支持するためのフォイル構造を有している。
【0003】
スラストフォイル軸受には、周方向に複数のトップフォイル片とバックフォイル片が配列された形態がある。トップフォイル片は、バックフォイル片に支持されており、スラストカラーの回転により、トップフォイル片とスラストカラーとの間に空気が導入される。この空気がトップフォイル片とスラストカラーとの間に楔状の流体潤滑膜を形成し、スラストフォイル軸受の負荷能力が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記スラストフォイル軸受では、流体潤滑膜の圧力がトップフォイルに作用すると、当該圧力はトップフォイルの下流端側で最も高くなる。そのため、トップフォイルの下流端側において径方向への曲げ(撓み)が大きくなる。すなわち、トップフォイルの下流端側において、径方向外側の部位が径方向内側の部位よりベースプレートに近づくことになり、対向するスラストカラーとの間隔が広くなる。そうすると、同部位において流体潤滑膜の圧力が立ち難くなり、軸受としての負荷能力が低下することになる。
なお、トップフォイルを厚くすれば、上記曲げは小さくできる。しかし、トップフォイルが厚くなれば、周方向への傾斜変形が阻害されることになる。周方向への傾斜変形が阻害されると、適切なテーパー角が形成され難くなり、軸受負荷能力が低下する。このように、トップフォイルには、径方向の曲げに強く、周方向に柔軟な剛性(異方剛性)が求められている。
【0006】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、トップフォイルの下流端側における径方向への曲げを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示のスラストフォイル軸受は、シャフトが挿通される挿通孔を有するベースプレートと、前記挿通孔の周囲に配置され、前記ベースプレートに支持されたバックフォイルと、前記バックフォイルに支持されたトップフォイルと、を備え、前記トップフォイルは、前記シャフトの回転方向の最も下流側で前記バックフォイルに支持される仮想直線の法線方向に沿って、前記仮想直線が延びる仮想直線方向の幅が縮小する拡張部を有する。
【0008】
また、本開示においては、前記拡張部は、前記回転方向の下流側に単一のピークを有し、前記ピークに向かって前記仮想直線方向の幅が縮小していてもよい。
【0009】
また、本開示においては、前記拡張部は、前記ピークに向かって前記仮想直線方向の幅が単調に縮小していてもよい。
【0010】
また、本開示においては、前記ピークが、前記トップフォイルの外周側に存在していてもよい。
【0011】
また、本開示においては、前記拡張部には、貫通孔が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、トップフォイルの下流端側における径方向への曲げを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示のスラストフォイル軸受3が適用されるターボ機械の一例を示す側面図である。
【
図2】本開示のスラストフォイル軸受3を示す側面図である。
【
図3】本開示のスラストフォイル軸受3を示す平面図である。
【
図4】本開示のバックフォイル片21及びトップフォイル片11を示す構成図である。
【
図5】一実施例に係るトップフォイル片(拡張部無し)に作用する流体潤滑膜の圧力分布を示す解析図である。
【
図6】本開示の拡張部13を有するトップフォイル片11の作用を説明する図である。
【
図7】本開示の一変形例に係るトップフォイル片11Aを示す構成図である。
【
図8】本開示の一変形例に係るトップフォイル片11Bを示す構成図である。
【
図9】本開示の一変形例に係るトップフォイル片11C,11D,11Eを示す平面図である。
【
図10】本開示の一変形例に係るスラストフォイル軸受3Gを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明のスラストフォイル軸受を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
図1は、本開示のスラストフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図である。
図1中、符号1は回転軸(シャフト)、符号2は回転軸の先端部に設けられたインペラ、符号3は本開示に係るスラストフォイル軸受である。
【0016】
回転軸1には、円板状のスラストカラー4が固定されている。スラストカラー4は、一対のスラストフォイル軸受3に挟まれている。インペラ2は、静止側となるハウジング5内に配置されており、ハウジング5との間にチップクリアランス6を有している。回転軸1は、ラジアルフォイル軸受7に支持されている。
【0017】
図2は、本開示のスラストフォイル軸受3を示す側面図である。
図3は、本開示のスラストフォイル軸受3を示す平面図である。
図4は、本開示のバックフォイル片21及びトップフォイル片11を示す構成図である。なお、
図4(a)は、平面図を示し、
図4(b)は、
図4(a)における矢視A図を示す。すなわち、
図4(b)は、バンプフォイル片21及びトップフォイル片11を径方向外側から視た図である。
スラストフォイル軸受3は、
図2に示すように、スラストカラー4を挟んでその両側に一対で設けられている。これら一対のスラストフォイル軸受3は、共に同じ構成となっている。スラストフォイル軸受3は、トップフォイル10と、バックフォイル20と、ベースプレート30と、を備える。ベースプレート30は、
図3に示すように、回転軸1が挿通される挿通孔30aを有する。
【0018】
なお、以下の説明においては、挿通孔30aを基準に各部材の位置関係を説明することがある。具体的に、「軸方向」とは、挿通孔30aが延びる方向(回転軸1が挿通される方向)を言う。また、「径方向」とは、挿通孔30aの径方向を言う。また、「周方向」とは、挿通孔30aの内周面に沿った周方向を言う。あるいは、挿通孔30aに挿通された回転軸1の軸心を基準に、当該軸心から視た「径方向」及び「周方向」ともいえる。
【0019】
ベースプレート30は、軸方向におけるスラストフォイル軸受3の最外部(反スラストカラー側)を構成する円板状の部材である。ベースプレート30には、挿通孔30aが形成されている。すなわち、本開示のベースプレート30は、円環状の部材である。ベースプレート30は、スラストカラー4と対向して配置される平坦面を備える。ベースプレート30の平坦面の挿通孔30a(開口)の周囲には、バックフォイル20、トップフォイル10が配置されている。具体的に、バックフォイル20は、ベースプレート30に支持され、トップフォイル10は、バックフォイル20に支持されている。なお、本開示のベースプレート30は、挿通孔30aを備える円板状の部材である。しかし、挿通孔30aを有すれば、ベースプレート30は、円板状以外の部材(例えば矩形板状)であってもよい。また、挿通孔30aについても、必ずしも厳密な円筒形状である必要はない。
【0020】
図2に示すように、一対のスラストフォイル軸受3のそれぞれのベースプレート30の間には、二点鎖線で示す円筒状の軸受スペーサ40が挟持されている。そして、これらベースプレート30は、締結ボルト41によって軸受スペーサ40を介して連結されている。なお、これらベースプレート30のうちの一方は、締結ボルト41によってハウジング5に固定されている。
【0021】
ベースプレート30は、例えば、厚さ数mm程度の金属板から形成されている。ベースプレート30の外周部には、
図3に示すように、締結ボルト41を挿通するための貫通孔42が複数形成されている。ベースプレート30は、スラストカラー4に対向する側の面に、バックフォイル20、トップフォイル10を支持している。本開示では、後述するようにバックフォイル20、トップフォイル10がいずれも複数枚(6枚)のバックフォイル片21、トップフォイル片11によって形成されている。本開示のベースプレート30は、スラストカラー4に対向する側の面の周方向において等間隔に6つに分けた領域のそれぞれに、バックフォイル片21、トップフォイル片11を支持している。
【0022】
図3に示すように、バンプフォイル20は、周方向に配列された6枚のバンプフォイル片21によって形成されている。本開示では、これらバンプフォイル片21は、
図3に示す平面視で、後述するトップフォイル片11よりも小さく形成されている。したがって、バンプフォイル片21は、軸方向から視て、
図3に示すように、ベースプレート30上で、トップフォイル片11に覆われている。また、本開示において、各トップフォイル片11は、周方向に離隔している。また、周方向に隣接するトップフォイル片11の周方向の間隔は、内周側から外周側に向かい広くなっている。
【0023】
これらバンプフォイル片21は、波型のフォイル(薄板)である。各バンプフォイル片21は、トップフォイル片11を弾性的に支持している。このようなバックフォイル20としては、例えば、バンプフォイル、特開2006-57652号公報や特開2004-270904号公報などに記載されているスプリングフォイル、特開2009-299748号公報などに記載されているバックフォイルなどが用いられる。なお、特開2006-57652号公報や特開2004-270904号公報に記載されているスプリングフォイル、特開2009-299748号公報に記載されているバックフォイルは、ラジアル軸受に用いられるフォイルであるが、これらを平面状に展開して円環板状に形成すれば、スラストフォイル軸受3に用いられるフォイルとなる。
【0024】
本開示のバックフォイル20は、
図2に示すように、バンプフォイルから形成されている。バックフォイル片21は、
図3に示すように、全体が扇形の頂点側を切り欠いて、内周側、外周側をそれぞれ円弧状とした、略台形状に形成されている。すなわち、バンプフォイル片21は、周方向に離隔し、内周側から外周側に延びる2つの端縁と、2つの端縁を内周側で接続する内周側の端縁と、2つの端縁を外周側で接続する2つの端縁を備えている。本開示のバンプフォイル片21は、周方向一方側の端縁である第一の側端と、周方向他方側の端縁である第二の側端と、第一、第二の側端それぞれの外周側の端部を繋ぐ円弧状の外周端と、第一、第二の側端それぞれの内周側の端部を繋ぐ円弧状の内周端とを備える。ここで、スラストカラー4は、周方向他方側に回転している。
【0025】
バンプフォイル片21の第一の側端は、内周側から外周側に分離した複数の端縁で形成される。すなわち、バンプフォイル片21には、第一の側端から第二の側端に向かい延伸する複数のスリット24が形成されている。バンプフォイル片21は、
図4(b)に示すように、谷部22と山部23とが交互に配置されて形成されている。すなわち、バンプフォイル片21のスリット24により分岐した各部位には、周方向一方側から周方向他方側に向かい谷部22と山部23が連なっている。谷部22と山部23は、スリット24を介し直線状に延伸している。本開示の谷部22は、平坦面を備えベースプレート30に対向している。また、山部24は、隣接する谷部22を繋ぐアーチ状の部位となっている。バンプフォイル片21は、ベースプレート30に支持されている。そのため、谷部22は、ベースプレート30と当接可能である。
【0026】
本開示のバンプフォイル片21において、谷部22は、内周端もしくは外周端のいずれかまで延伸している。バンプフォイル片21の周方向他方側の位置は、ベースプレート30に対してスポット溶接(点付溶接)されている。つまり、この溶接位置が、ベースプレート30に対するバンプフォイル片21の取付位置となっている。また、バンプフォイル片21の取付位置は、谷部22となっている。本開示において、バンプフォイル片21の取付位置は、最も周方向他方側に位置する谷部22となっている。また、バンプフォイル片21の周方向一方側は、自由端となっている。すなわち、バンプフォイル片21に荷重が作用すると、周方向一方側の端縁が、周方向一方側に向かって移動することが可能である。なお、ベースプレート30に対するバンプフォイル片21の取り付けについては、スポット溶接以外にも、例えばネジ止めなどによっても行うことができる。
【0027】
谷部22及び山部23は、バンプフォイル片21の周方向他方側の端辺21a(固定端)と直交する方向(交差する方向)に交互に配列されている。すなわち、谷部22、山部23は、上記固定端と平行に延びている。これら谷部22及び山部23は、それぞれほぼ等ピッチで形成されている。また、山部23の高さは、端辺21aと反対側から端辺21a側に向かって、すなわち
図3中に矢印で示す回転軸1(スラストカラー4)の回転方向の下流側(周方向一方側から他方側)に向かうに連れて、
図4(b)に示すように順に高くなるように形成されている。
【0028】
このため、バックフォイル片21に支持されるトップフォイル片11は、谷部22、山部23の配列方向に沿って、その固定辺12側からバックフォイル片21の端辺21a側に向かうに連れて、ベースプレート30から漸次遠ざかるように初期傾斜角で傾斜して配置されている。ここで、初期傾斜角とは、荷重がゼロのときのベースプレート30に対するトップフォイル片11の傾斜角を意味する。
【0029】
バンプフォイル片21は、
図4(a)に示すように、周方向における一方側(回転方向の上流側)が、径方向において複数(本開示では4つ)の端辺25に分割されている。4つの端辺25は、それぞれ周方向において変位可能となっている。4つの端辺25の間には、スリット24が形成されている。本開示のスリット24は、挿通孔30aと同心円の一部を形成する円弧状に形成されている。また、本開示のスリット24は、ベースプレート30に対するバンプフォイル片21の取付位置と隣接する山部23まで延伸している。つまり、バンプフォイル片21の取付位置と、当該取付位置の周方向一方側に隣接する谷部22との間の位置までスリット24が延伸している。
【0030】
トップフォイル10も、
図3に示すように、周方向に配列された6枚のトップフォイル片11によって形成されている。これらトップフォイル片11は、金属製の薄板(フォイル)により、扇形の頂点側を切り欠いて内周側、外周側をそれぞれ円弧状とした、略台形状に形成されている。すなわち、トップフォイル片11は、周方向に離隔し、内周側から外周側に延びる2つの端縁と、2つの端縁を内周側で接続する内周側の端縁と、2つの端縁を外周側で接続する2つの端縁を備えている。本開示のトップフォイル片11は、周方向一方側の端縁である第一の側端と、周方向他方側の端縁である第二の側端と、第一、第二の側端それぞれの外周側の端部を繋ぐ円弧状の外周端と、第一、第二の側端それぞれの内周側の端部を繋ぐ円弧状の内周端とを備える。このトップフォイル片11は、周方向における他方側(回転方向の下流側)に拡張部13を有している。拡張部13は、トップフォイル片11のうち、軸方向にバックフォイル片21と重ならない部位である。本開示のバックフォイル片21は、周方向他方側の直線状の領域が谷部22となっており、当該谷部22がベースプレート30にスポット溶接された端辺21aとなっている。また、スポット溶接された谷部22(端辺21a)の周方向一方側には山部23があり、トップフォイル片11を支持している。そのため、拡張部13は、トップフォイル片11のうちバックフォイル片21に支持されていない領域であるともいえる。このような形状のトップフォイル片11は、ベースプレート30上にてバンプフォイル片21を覆って全体として略円環板状に配置されて、トップフォイル10を形成している。
【0031】
トップフォイル片11の周方向一方側の位置は、ベースプレート30に対してスポット溶接(点付溶接)されている。本開示においては、同一直線上の複数の点がスポット溶接されており、挿通孔30aの軸心から径方向に延伸する直線上でベースプレート30にスポット溶接されている。つまり、この溶接位置が、ベースプレート30に対するトップフォイル片11の取付位置(固定辺12)となっている。また、トップフォイル片11の取付位置は、バンプフォイル片21よりも周方向一方側に離間して配置されている。また、トップフォイル片11の周方向他方側は、自由端となっている。すなわち、トップフォイル片11に荷重が作用すると、周方向他方側の端縁が、周方向他方側に向かって移動することが可能である。なお、ベースプレート30に対するトップフォイル片11の取り付けについては、スポット溶接以外にも、例えばネジ止めなどによっても行うことができる。
【0032】
トップフォイル片11は、
図4(b)に示すように、固定辺12側が曲げ加工されており、固定辺12側の曲げ部より周方向他方側に、バンプフォイル片21に形成された山部23の配列に沿って周方向他方側に向かい高さが漸増する部位を備える。本開示の固定端12側の曲げ部は、第1の屈曲と、第1の屈曲の周方向他方側に位置する第2の屈曲とで構成される。第1の屈曲は、トップフォイル片11のベースプレート30に対向する面の背面側に屈曲している。第2の屈曲は、トップフォイル片11のベースプレート30に対向する面側に屈曲している。つまり、固定端12側の曲げ部は、階段状となっている。なお、第1の屈曲、第2の屈曲とも鈍角となっている。この固定辺12よりも周方向他方側(拡張部13側)が山部23上に載せられている。一方、拡張部13(トレーリングエッジ)は、固定されることなく自由端となっている。拡張部13は、バックフォイル片21の最も固定端(端辺21a)側でトップフォイル片11を支持する山部23より、トップフォイル片11の自由端側(周方向他方側)に延伸した部分である。また、本開示では、バックフォイル片21の最も固定端(端辺21a)側でトップフォイル片11を支持する山部23の周方向他方側にある谷部22(端辺21a)より、トップフォイル片11の自由端側まで、拡張部13が延伸している。
【0033】
トップフォイル片11は、
図4(a)に示すように、内周側の端辺11cと、外周側の端辺11dと、を有する。本開示の内周側の端辺11cは、挿通孔30aと同心円の一部を形成する円弧状に形成されている。また、外周側の端辺11dは、挿通孔30aと同心円(端辺11cが形成する同心円よりも径が大きい同心円)の一部を形成する円弧状に形成されている。
【0034】
拡張部13は、内周側の端辺11cの下流端11c1と、外周側の端辺11dの下流端11d1と、を結ぶ仮想側端Lに対して、回転軸1の回転方向の下流側に拡張している。ここで、内周側の端辺11cの下流端11c1とは、端辺11cの周方向他方側において、トップフォイル片11の周方向他方側の端辺の内周端と接続されることで曲率が変わる変曲点を意味する。また、外周側の端辺11dの下流端11d1とは、端辺11cの周方向他方側において、トップフォイル片11の周方向他方側の端辺の外周端と接続されることで曲率が変わる変曲点を意味する。
【0035】
拡張部13は、バックフォイル片21の最も周方向他方側に位置する山部23に支持される仮想直線Xの法線方向(
図4(a)に示す白抜き矢印方向)に沿って、仮想直線Xが延びる仮想直線方向の幅Wが縮小している。ここで、仮想直線Xとは、回転軸1の回転方向の最も下流側で、バックフォイル片21がトップフォイル片11に接する接線(なお、バックフォイル20が泡型などの場合、最も下流側でトップフォイル10に接する接点を結ぶ直線)である。本開示の拡張部13は、仮想直線Xの法線方向に沿って下流側に向かい、仮想直線方向の幅Wが単調減少しているが、必ずしも幅Wが単調減少しなくてはならないわけではない。この拡張部13は、回転軸1の回転方向の下流側に単一のピークPを有し、ピークPに向かって仮想直線方向の幅Wが単調に縮小した形状を有する。つまり、本開示のトップフォイル片11の周方向他方側の端縁は、バックフォイル片21の最も周方向他方側に位置する山部23と周方向に見たときの間隔が、径方向に変動する。この周方向に見たときの間隔がピークPでピークとなる。また、拡張部13は、平面視でピークPとは異なる位置に角度のピークを持つ。
図4(a)に示す例では、この角度のピークは、トップフォイル片11の周方向他方側の端辺の内周端と外周端の中間の径方向位置より外周側に位置する。なお、ピークPは、頂点だけでなく、ある程度の幅を有した辺(線状ピーク)であってもよい。すなわち、拡張部13のピークPとは、回転軸1の回転方向の最も下流側に位置する部分のことで、頂点や辺となるトップフォイル片11の自由端側は、当該自由端に向かい仮想直線方向の幅Wが縮小している。
【0036】
拡張部13のピークPは、
図4(a)に示すように、トップフォイル片11の外周側に存在している。ここで、トップフォイル片11の外周側とは、トップフォイル片11を径方向において3分割したときの最も径方向外側の領域を意味する。拡張部13は、
図4(b)に示すように、バックフォイル片21の端辺21aよりも回転方向の下流側に延びており、バックフォイル片21の山部23に支持されていない。また、拡張部13は、拡張部13以外のトップフォイル片11の部位と同一の厚みを有する。
【0037】
次に、このような構成からなるスラストフォイル軸受3の作用について説明する。
スラストフォイル軸受3は、
図2に示すように、スラストカラー4を挟んだ両側に設けている。そのため、回転軸1のスラスト方向両側の移動を抑制できる。
【0038】
このような状態で回転軸1が回転し、スラストカラー4が回転を始めると、スラストカラー4とトップフォイル片11は擦れ合いつつ、両者の間に形成されたくさび形の空間に周囲流体が押し込まれる。そして、スラストカラー4が一定の回転速度に達すると、両者の間に流体潤滑膜が形成される。この流体潤滑膜の圧力によってトップフォイル片11(トップフォイル10)はバックフォイル片21(バックフォイル20)側へ押し付けられ、スラストカラー4はトップフォイル片11との接触状態を脱し、非接触で回転するようになる。
【0039】
このとき、バックフォイル片21は、ベースプレート30側へ押し付けられ、トップフォイル片11の傾斜角は、初期傾斜角よりも浅く(小さく)なる。バンプフォイル片21は、回転軸1の回転方向の上流側を径方向にて4つ(複数)に分割しているので、それぞれの端辺25(分割片)が独立に動くことができる。すなわち、それぞれの端辺25がそれぞれ異なる変形量となりうる。これにより、バンプフォイル片21の周方向における変形が滑らかになる。
【0040】
図5は、一実施例に係るトップフォイル片(拡張部無し)に作用する流体潤滑膜の圧力分布を示す解析図である。
図5においては、圧力の高低を、ドットの濃淡で示している。
トップフォイル片の下流端側は、上記くさび形の空間の最も狭まった部分になるため、
図5に示すように、流体潤滑膜による高い圧力が作用することになる。なお、流体潤滑膜による高い圧力は、
図5では、トップフォイル片の外周側に作用しているが、バックフォイル片の支持剛性によっては、その位置は径方向に変化し得る。しかし、トップフォイル片の外周側では、その内周側よりもスラストカラーの周速が速いので、トップフォイル片の外周側に、流体潤滑膜による高い圧力が作用しやすい傾向がある。
【0041】
図6は、本開示の拡張部13を有するトップフォイル片11の作用を説明する図である。なお、
図6(a)は、平面図を示し、
図6(b)は、
図6(a)における矢視B図を示す。
上述したように、トップフォイル片11の下流端側は、流体潤滑膜による高い圧力が作用するため、径方向に湾曲(撓む)するような力を受けることになる。ここで、本開示のトップフォイル片11は、
図6(a)に示すように、その内外周の下流端11c1,11d1を結ぶ仮想側端Lに対して、回転軸1の回転方向の下流側に拡張した拡張部13を有する。拡張部13は、
図4(a)に示すように、バックフォイル片21の最も周方向他方側に位置する山部23に支持される仮想直線Xの法線方向に沿って、仮想直線Xが延びる仮想直線方向の幅Wが縮小している。
【0042】
この構成によれば、トップフォイル片11の下流端側が、拡張部13によって長く伸ばされているので、トップフォイル片11の径方向における曲げに対する剛性(断面二次モーメント)を高めることができる。このため、トップフォイル片11の下流端側において、流体潤滑膜による高い圧力が作用しても、トップフォイル片11の下流端側がベースプレート30側に落ち込むことが抑制される。さらに、拡張部13では、トップフォイル片11上において潤滑流体が周方向に長く保持されるので、流体潤滑膜による高い圧力が広範囲に形成される。これらの複合作用により、トップフォイル片11上では、強い流体潤滑膜が形成され、高負荷時においてもスラストカラー4との非接触状態が維持されることとなる。
【0043】
また、本開示では、拡張部13は、
図4(a)に示すように、回転方向の下流側に単一のピークPを有し、ピークPに向かって仮想直線方向の幅Wが縮小している。この構成によれば、流体潤滑膜による圧力が
図5の解析図のトップフォイル片11の下流端の外周側より比較的小さい部位(トップフォイル片の内周側の端辺、及び外周側の端辺の近傍)において、潤滑流体を周方向に長く保持しなくて済む。これにより、トップフォイル片11上において圧縮され、高温となった潤滑流体が、トップフォイル片11の内外周の下流端11c1,11d1からベースプレート30側に流れて冷却され易くなり、スラストフォイル軸受3が効率よく冷却される結果、強い流体潤滑膜が形成され、スラストフォイル軸受3の軸受負荷能力を向上させることができる。
【0044】
また、本開示では、拡張部13のピークPが、
図6(a)に示すように、トップフォイル片11の外周側に存在しているため、上述した
図5及び
図6(b)に示すように、流体潤滑膜による高い圧力が作用しやすく、径方向の撓みが最大になりやすい箇所において、トップフォイル片11の径方向の曲げ剛性を高めることができる。このため、トップフォイル10の下流端側における径方向への曲げを効果的に抑制することができる。
【0045】
以上、図面を参照しながら本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0046】
例えば、本開示のスラストフォイル軸受3は、
図7~
図11に示すような形態を採用し得る。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0047】
図7は、本開示の一変形例に係るトップフォイル片11Aを示す構成図である。なお、
図7(a)は、平面図を示し、
図7(b)は、
図7(a)における矢視C図を示す。
トップフォイル片11A(トップフォイル10A)は、
図7(a)に示すように、トップフォイル片11Aの径方向の中間部に、拡張部13のピークPを有している。ここで、トップフォイル片11Aの径方向の中間部とは、トップフォイル片11Aを径方向において3分割したときの真ん中の領域を意味する。この構成によれば、バックフォイル片21の支持剛性によって、
図7(b)に示すように、トップフォイル片11Aの下流端側の径方向の曲げが、当該中間部で最大になる場合に、その曲げを効果的に抑制することができる。
【0048】
図8は、本開示の一変形例に係るトップフォイル片11Bを示す構成図である。なお、
図8(a)は、平面図を示し、
図8(b)は、
図8(a)における矢視C図を示す。
トップフォイル片11B(トップフォイル10B)は、
図8(a)に示すように、トップフォイル片11Bの内周側に、拡張部13のピークPを有している。ここで、トップフォイル片11Bの内周側とは、トップフォイル片11Bを径方向において3分割したときの最も径方向内側の領域を意味する。この構成によれば、バックフォイル片21の支持剛性によって、
図8(b)に示すように、トップフォイル片11Bの下流端側の径方向の曲げが、当該内周側で最大になる場合に、その曲げを効果的に抑制することができる。
このように、拡張部13のピークPの径方向位置を変化させることで、バンプフォイル片21の設計自由度が向上する。
【0049】
図9は、本開示の一変形例に係るトップフォイル片11C,11D,11Eを示す平面図である。
図9(a)に示すトップフォイル片11C(トップフォイル10C)は、複数の貫通孔14が形成された拡張部13Cを有する。この構成によれば、トップフォイル片11上において圧縮され、高温となった潤滑流体が、拡張部13Cの貫通孔14からベースプレート30側に流れて冷却され易くなる。なお、貫通孔14は、トップフォイル片11Cの曲げ剛性の観点から、トップフォイル片11Cの径方向と直交する方向において連続しないように、例えば千鳥状に配置することが好ましい。
【0050】
また、
図9(b)に示すトップフォイル片11D(トップフォイル10D)のように、その下流端側から部分的に拡張した拡張部13Dを有してもよい。
さらに、
図9(c)に示すトップフォイル片11E(トップフォイル10E)のように、その内外周の下流端11c1,11d1から異形(例えば平面視クローバー形)に拡張した拡張部13Eを有してもよい。
【0051】
図10は、本開示の一変形例に係るスラストフォイル軸受3Gを示す平面図である。
図10に示すスラストフォイル軸受3Gは、特開2014-145388号公報に開示されているように、トップフォイル片11の固定辺12Gが、その内周側から外周側に向かうに連れて回転軸1の回転方向の下流側に近づくように、回転軸1を中心としてその半径方向に延びる直線に対して傾斜して形成されている。この構成によれば、回転方向の下流側のトップフォイル片11と干渉しないで(重ならないで)、拡張部13を回転方向の下流側に伸ばしやすくできるので、スラストフォイル軸受3の軸受負荷能力を向上させることができる。
【0052】
また、例えば、上記実施形態では、トップフォイル10を複数のトップフォイル片11から形成し、バックフォイル20を複数のバックフォイル片21から形成したが、トップフォイル10及びバックフォイル20は、それぞれ周方向に連なって単一のフォイルから形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 回転軸(シャフト)
3 スラストフォイル軸受
10 トップフォイル
11 トップフォイル片
11c1 下流端
11d1 下流端
13 拡張部
14 貫通孔
20 バックフォイル
21 バックフォイル片
30 ベースプレート
30a 挿通孔
P ピーク
X 仮想直線