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  • 特許-熱転写受像シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】熱転写受像シート
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B41M5/52 400
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018172164
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020044654
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有田 傑
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281510(JP,A)
【文献】特開2004-340671(JP,A)
【文献】特開2000-289350(JP,A)
【文献】特開2009-056734(JP,A)
【文献】特開2017-211416(JP,A)
【文献】特開平07-001846(JP,A)
【文献】米国特許第05455217(US,A)
【文献】国際公開第2008/129715(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101663350(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/52
B41M 5/382
B41M 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、耐熱滑性層、および昇華性染料を含む染料層を備えるインクリボンの前記昇華性染料を、少なくとも基材と、断熱層と、断熱層の一方に形成された前記昇華性染料を受容し得る受像層を有する熱転写受像シート上に転写する熱転写方法において、
前記断熱層の熱伝導率が0.055(W/m・k)より大きく0.085(W/m・k)未満であり、かつ、合成紙または発泡ポリエチレンテレフタラートのうち、どちらか一つから形成され、
前記受像層は、有機溶剤と、
ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル系樹脂のうち、いずれか一つを含んでいる受像層塗布液から形成され、
前記染料層は、C.I.ソルベントブルー63、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂を含んでおり、
前記受像層の塗布量が2g/mであるとき、前記受像シートの受像層と前記インクリボンの染料層とを対向して重ね合わせ、圧力0,7Mpa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の、前記受像層への染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが、以下の式(1)の範囲を満たすことを特徴とする熱転写方法
I×800+17.5≧M ・・・(1)
ここで、Iは断熱層の熱伝導率(W/m・k)を、Mは染料拡散速度(%)を表す。
【請求項2】
少なくとも、基材と、断熱層と、断熱層の一方に形成された昇華性染料を受容し得る受像層を有する熱転写受像シートの製造方法において、
前記基材層上に前記断熱層を形成する工程と、
前記断熱層上に前記受像層を形成する工程とを備え、
前記断熱層の熱伝導率が0.055(W/m・k)より大きく0.085(W/m・k)未満であり、かつ、合成紙または発泡ポリエチレンテレフタラートのうち、どちらか一つから形成され、
前記受像層は、有機溶剤と、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル系樹脂のうち、いずれか一つを含む受像層塗布液を塗布乾燥することにより形成され、
さらに、前記熱転写受像シートが前記受像層の塗布量が2g/m であるとき、前記受像シートの受像層と、基材、耐熱滑性層、および染料層からなり前記染料層は、C.I.ソルベントブルー63、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂を含んでいるインクリボンの染料層とを対向して重ね合わせ、圧力0.7Mpa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の、前記受像層への染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが、以下の式(1)の範囲を満たすように設計する設計工程を備えることを特徴とする熱転写受像シートの製造方法。
I×800+17.5≧M ・・・(1)
ここで、Iは断熱層の熱伝導率(W/m・k)を、Mは染料拡散速度(%)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される熱転写受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、感熱転写記録媒体とは、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンと、被転写体である熱転写受像シートのことである。インクリボンは、基材の一方の面に染料層を設け、基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けたものである。ここで、染料層はインクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、熱転写受像シート側に転写するものである。熱転写受像シートは、基材の一方の面に受像層を設けたものであり、受像層は前述のインクリボンの染料層から転写されたインクを受け取り、画像を形成するものである。
【0003】
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。
【0004】
上述した用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、環境適合性、また、得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では、基材シートの同じ面の側に、印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けた、複数の染料層を備える感熱転写記録媒体が普及している。
【0005】
上記のような状況の中、用途の多様化と普及拡大に伴い、プリンタの印画速度の高速化が更に進むに従って、充分な印画濃度を得る為に、使用される被転写体である熱転写受像シートおよび転写体であるインクリボンの、感度の上昇が図られている。(特許文献1)
【0006】
しかし、これに伴い、サーマルヘッドの熱が少ない条件でも染料が転写するように感熱転写記録媒体を設計した結果、制御が難しい低エネルギー条件から発色が開始されるため、グラデーション画像を印画した印画物の低階調部において、階調変化の連続性が欠け、画像中に段が生じてしまう、トーンジャンプと呼ばれる不具合が発生しやすくなる。これは、特に人の肌や空を撮影した画像で顕著に認識される。
【0007】
また、感度の上昇に伴い、印画の際にサーマルヘッドからかけられたエネルギーの余熱により、本来着色させるつもりのない部分まで染料が転写し着色してしまう、にじみと呼ばれる不具合が発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-150956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまで、上記のような高感度な感熱転写記録媒体を用いても階調変化が連続的になり、また余熱によるにじみは発生しないよう、転写エネルギーの制御やプリンタ内における温度を始めとした印画環境の監視と制御が検討されてきたが、これらの手法では、媒体の高感度化に伴うトーンジャンプやにじみの発生を抑えるには不充分であった。
【0010】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、印画の際に生じるトーンジャンプ及びにじみを抑制しつつ、高い感度を達成することが可能な熱転写受像シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する為に、本発明に係る熱転写方法は、
基材、耐熱滑性層、および昇華性染料を含む染料層を備えるインクリボンの前記昇華性染料を、少なくとも基材と、断熱層と、断熱層の一方に形成された前記昇華性染料を受容し得る受像層を有する熱転写受像シート上に転写する熱転写方法において、
前記断熱層の熱伝導率が0.055(W/m・k)より大きく0.085(W/m・k)未満であり、かつ、合成紙または発泡ポリエチレンテレフタラートのうち、どちらか一つから形成され、
前記受像層は、有機溶剤と、
ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル系樹脂のうち、いずれか一つを含んでいる受像層塗布液から形成され、
前記染料層は、C.I.ソルベントブルー63、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂を含んでおり、
前記受像層の塗布量が2g/mであるとき、前記受像シートの受像層と前記インクリボンの染料層とを対向して重ね合わせ、圧力0,7Mpa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の、前記受像層への染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが、以下の式(1)の範囲を満たすことを特徴とする熱転写方法である
I×800+17.5≧M ・・・(1)
ここで、Iは断熱層の熱伝導率(W/m・k)を、Mは染料拡散速度(%)を表す。
【0012】
また、本発明に係る熱転写受像シートの製造方法
少なくとも、基材と、断熱層と、断熱層の一方に形成された昇華性染料を受容し得る受像層を有する熱転写受像シートの製造方法において、
前記基材層上に前記断熱層を形成する工程と、
前記断熱層上に前記受像層を形成する工程とを備え、
前記断熱層の熱伝導率が0.055(W/m・k)より大きく0.085(W/m・k)未満であり、かつ、合成紙または発泡ポリエチレンテレフタラートのうち、どちらか一つから形成され、
前記受像層は、有機溶剤と、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル系樹脂のうち、いずれか一つを含む受像層塗布液を塗布乾燥することにより形成され、
さらに、前記熱転写受像シートが前記受像層の塗布量が2g/m であるとき、前記受像シートの受像層と、基材、耐熱滑性層、および染料層からなり前記染料層は、C.I.ソルベントブルー63、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂を含んでいるインクリボンの染料層とを対向して重ね合わせ、圧力0.7Mpa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の、前記受像層への染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが、以下の式(1)の範囲を満たすように設計する設計工程を備える
ことを特徴とする熱転写受像シートの製造方法である。
I×800+17.5≧M ・・・(1)
ここで、Iは断熱層の熱伝導率(W/m・k)を、Mは染料拡散速度(%)を表す。
【発明の効果】
【0013】
熱転写受像シートが、断熱層の熱伝導率が0.055(W/m・K)より大きくかつ0.085(W/m・K)未満であり、かつ受像層の印画時における塗布量が2g/mであるとき、受像シートの受像層とインクリボンの染料層と対向して重ね合わせ、圧力0.7MPa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際に、その受像層への染料拡散速度Mと断熱層Iの熱伝導率が前記の式(1)の範囲を満たすことによって、印画の際に生じるトーンジャンプとにじみを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施に用いられる熱転写受像シートの構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の熱転写受像シートの評価に用いるインクリボンの構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(熱転写受像シートの全体構成)
図1は、本発明の実施に用いられる熱転写受像シートの構成の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、熱転写受像シート1は、基材2と、断熱層3と、受像層4が積層されてなる。
また、図2は本発明の熱転写受像シートの評価に用いるインクリボンの構成を示す図であって、インクリボン10は染料層12、リボン基材11、耐熱滑性層13が積層されてなる。
【0017】
(基材2の構成)
基材2は、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が要求される以外の制限は無く、従来公知のものが用いられる。
【0018】
基材2の材料としては、例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、またはサイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、レジンコート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙等、セルロース繊維紙、あるいはポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等のフィルムが挙げられ、また、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムも使用でき、特に限定されない。
また、上記基材の任意の組み合わせによる積層体も使用できる。代表的な積層体の例として、セルロース繊維紙と合成紙或いはセルロース合成紙とプラスチックフィルムとの合成紙が挙げられる。
【0019】
また、基材2の厚さ(図1では、上下方向の長さ)は、熱転写受像シート1に要求される強度や耐熱性等や、基材として採用した素材の材質に応じて、適宜変更可能であり、具体的には、50μm~1000μmの範囲内であることが好ましく、100μm~300μmの範囲内であることがより好ましい。
【0020】
(断熱層3の構成)
断熱層3は、画像形成時に受像層4に加えられた熱が、基材2側への伝播によって損失されることを防ぐものである。
【0021】
断熱層3は、例えば断熱性の高いフィルムを接着性のある樹脂を介して貼りあわせる方法や、断熱層を形成するための(形成用の)塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することが可能である。
【0022】
断熱層3の材料としては、層内に断熱層の高い空気を含むものが好適に用いることができ、例えば発泡ポリプロピレンフィルムや発泡ポリエチレンテレフタレート、発泡ポリオレフィン等の発泡フィルムならびに、発泡フィルムの片面または両面にスキン層を設けた複合フィルムや、中空粒子および中空粒子と樹脂の混合体等を挙げることができる。
【0023】
断熱層3の熱伝導率は、0.055(W/m・K)より大きく、かつ0.085(W/m・K)未満であることが必要である。熱伝導率が0.055(W/m・K)以下の場合、印画時にサーマルヘッドから伝播した熱が過剰に蓄積することにより、本来意図しない部分まで発色する、いわゆるにじみと呼ばれる不具合が発生する。また、熱伝導率が0.085(W/m・K)以上の場合、印画時の環境変化による影響を受けやすくなり、媒体の感度の高さを安定して発揮できなくなる。
なお、本発明における熱伝導率とは、ISO 22007-2の手法に基づいて測定した値のことを示す。
【0024】
(受像層4の構成)
受像層4は、熱転写による画像形成時にインクリボンから転写される熱移行性染料を受
容すると共に、受容した熱移行性染料を保持することで、画像を形成かつ維持するものである。
【0025】
受像層4は、バインダ樹脂に硬化剤や離型剤等の添加剤を適宜添加し、受像層を形成するための塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することが可能である。
【0026】
受像層4に用いられるバインダ樹脂としては、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体(塩酢ビ系樹脂)、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー、ポリ酢酸ビニル・アクリル共重合体、ポリアクリル酸エステル等のビニルポリマー、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体系樹脂、アイオノマー、セルロースジアセテート等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート等、およびこれら樹脂の混合系が挙げられ、好ましくは塩化ビニル系樹脂である。その塩ビ系樹脂の中でも、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アクリル共重合体から選択される少なくとも1種類の塩化ビニル系樹脂であることがさらに好ましい。
【0027】
また、硬化剤として、バインダ樹脂に応じて適宜添加しても良い。硬化剤の一例としては、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート類、及びその誘導体等を用いることが可能である。
【0028】
また、受像層4は離型剤を適宜添加しても良い。離型剤の一例としては、アミノ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、ウレタン変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、およびアミド変性シリコーン等のシリコーンオイルが挙げられる。本発明においては、これらを混合、或いは各種の反応を用いて重合させて用いることもできる。
【0029】
シリコーン離型剤は、含有量が多くなると、地汚れが発生するため、受像層のバインダ樹脂の固形分に対して、2%以下が好ましい。
【0030】
拡散速度は、受像層材料の遷移状態における染料拡散性を示す値である。膜形成後の塗布量によっても変化するが、本発明においては塗布量が2g/mの際の染料移行率(%)の値と定義している。
【0031】
次に、インクリボン10から受像層4に画像を熱転写する場合の受像シート1の要件を説明する。
受像層4の印画時における塗布量が2g/mであるとき、前記受像シート1の受像層4とインクリボン10の染料層12とを対向して重ね合わせ、圧力0.7MPa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の前記受像層への染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが、下記の式(1)の範囲を満たすことが必要である。
I×800+17.5≧M ・・・(1)
ここで、Iは断熱層の熱伝導率(W/m・K)、Mは染料拡散速度(%)を表す。
【0032】
受像層4への染料拡散速度と断熱層3の熱伝導率が前記の式(1)の範囲を満たすことで、画像形成時にかけられる熱による温度上昇と染料の受像シート1への移行量を制御することができ、連続した階調変化を持つ画像を印画する際に、低階調部におけるトーンジャンプとにじみの発生を防ぐことが可能となる。
【0033】
なお、この場合の染料移行率とは、インクリボン染料層12の最大吸収波長における加圧加熱前の吸光度をAα、加圧加熱後の吸光度をAβとした際に、染料移行率=1-Aα/Aβで表される、加圧加熱前後におけるインクリボン染料層12の吸光度の変化量から算出される、受像シート側への染料の転写量を表す値のことを示す。
【0034】
また、受像層4の印画時における塗布量が2g/mであるとき、前記受像シートの受像層4とインクリボンの染料層12と対向して重ね合わせ、圧力0.7MPa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した際の前記受像層4への染料拡散速度M(W/m・K)と断熱層3の熱伝導率I(%)が下記の式(2)の範囲を満たすことが、さらに望ましい。
I×650-25≦M ・・・(2)
【0035】
すなわち、染料拡散速度Mと断熱層の熱伝導率Iが前記の式(2)の範囲も満たすことにより、同時に転写感度をより向上させ、プリンタの一層の高速化を達成することが可能となる。
【0036】
染料拡散速度の評価に用いられるインクリボンの染料層は一般公知のもので構わないが、例えば、熱移行性染料、バインダ、溶剤などを配合して染料層を形成するための(形成用の)塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成することが可能である。
【0037】
熱移行性染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料である。
熱移行性染料のうち、イエロー成分としては、例えば、C.I.ソルベントイエロー56,16,30,93,33、C.I.ディスパースイエロー201,231,33等を用いることが可能である。
【0038】
また、熱移行性染料のうち、マゼンタ成分としては、例えば、C.I.ディスパースバイオレット26,31、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ソルベントレッド19,27等を用いることが可能である。
【0039】
また、熱移行性染料のうち、シアン成分としては、例えば、C.I.ディスパースブルー24,257,354、C.I.ソルベントブルー36,63,266等を用いることが可能である。
【0040】
なお、墨の染料としては、上述した各染料を組み合わせて調色するのが一般的である。
【0041】
インクリボン染料層12のバインダに用いられる樹脂としては、従来公知の樹脂バインダがいずれも使用可能であり、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂やポリエステル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を用いることが可能である。
【0042】
また、染料層12の乾燥後の塗布量は、0.1g/m以上2.0g/m以下程度が適切である。
【0043】
また、基材2と断熱層3、および/または断熱層3と受像層4の接着性を改善する目的で、それぞれの層間に接着層(図示せず)を設けても良い。
接着層を構成する材料としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。また、接着
層を形成する材料には、必要に応じてフィラーや帯電防止剤等の公知の添加剤を添加しても良い。
【0044】
また、基材2の受像層とは反対側の面に、プリンタ内での搬送性の向上や保存時の受像層との間のブロッキング防止、筆記性の向上などを目的として、裏面層(図示せず)を設けても良い。
裏面層を構成する材料としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。また、裏面層を形成する材料には、必要に応じて、フィラーや帯電防止剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
【実施例
【0045】
以下、図1を参照しつつ、以下の実施例(実施例1~8、比較例1~6)を用いて、本発明の熱転写受像シートの効果を検証する。なお、以降の説明で「部」と記載されている場合、特に断りのない限りは、質量基準を示す。
以下に説明する、実施例及び比較例においては、熱転写受像シートおよび評価用インクリボンを、以下に示す方法で作製した。
但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
・評価用インクリボンの作製
リボン基材11として、厚さ4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に、下記に示す組成の耐熱滑性層形成用塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.5g/mになるように塗布し、温度100℃で1分間乾燥することで、耐熱滑性層13を形成した。
耐熱滑性層13を形成した基材の易接着処理面に、下記に示す組成の染料層塗布液(染料層12を形成するための塗布液、以下、「染料層塗布液」と記載する)を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.80g/mになるように塗布し、温度90℃で1分間乾燥することで、染料層12を形成し、評価用インクリボンを得た。
【0047】
・耐熱滑性層形成用塗布液
アセタール樹脂 5.0部
マイカ 0.5部
水酸化マグネシウム 0.1部
リン酸エステル 0.9部
トルエン 5.5部
MEK 13.0部
【0048】
・染料層塗布液
C.I.ソルベントブルー63 6.3部
ポリビニルアセタール樹脂 2.9部
ポリ酢酸ビニル樹脂 0.8部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
【0049】
(熱転写受像シートの作製)
(実施例1)
基材として、190μmの両面レジンコート紙を使用し、その一方の面に、熱伝導率0.057(W/m・K)の合成紙-1をポリエチレンにて貼り合わせることにより断熱層3を形成した。断熱層3の上面に、下記に示す組成の受像層塗布液(受像層4を形成するための塗布液、以下、「受像層塗布液-1」と記載する)を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が2.0g/mになるように塗布し、温度100℃で2分間乾燥することで、熱転写受像シートAを作製した。
・受像層塗布液-1
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体1 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0050】
(実施例2)
前述の熱転写受像シートの作製において、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-2」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートBを得た。
・受像層塗布液-2
ポリエステル樹脂1 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0051】
(実施例3)
前述の熱転写受像シートの作製において、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-3」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートCを得た。
・受像層塗布液-3
ポリスチレン樹脂 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0052】
(実施例4)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートDを得た。
【0053】
(実施例5)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とし、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-4」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートEを得た。
・受像層塗布液-4
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体2 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0054】
(実施例6)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とし、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-5」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートFを得た。
・受像層塗布液-5
ポリエステル樹脂2 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0055】
(実施例7)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とし、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-6」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートGを得た。
・受像層塗布液-6
ポリエステル樹脂3 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 1.0部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0056】
(実施例8)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とし、受像層4を、「受像層塗布液-2」とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートHを得た
【0057】
(比較例1)
前述の熱転写受像シートの作製において、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-7」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートIを得た。
・受像層塗布液-7
塩化ビニル-アクリル共重合体 19.9部
アミノ変性シリコーンオイル 0.1部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0058】
(比較例2)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.053(W/m・K)の合成紙-2とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートJを得た。
【0059】
(比較例3)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.053(W/m・K)の合成紙-2とし、受像層4を、前記「受像層塗布液-B」とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートKを得た。
【0060】
(比較例4)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.082(W/m・K)の発泡PET-1とし、受像層4を、下記に示す組成の塗布液(以下「受像層塗布液-8」と記載する)とした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートLを得た。
・受像層塗布液-8
塩化ビニル樹脂 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0061】
(比較例5)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.088(W/m・K)の発泡PET-2とし、受像層4を、前記「受像層塗布液-4」と同一のものとした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートMを得た。
【0062】
(比較例6)
前述の熱転写受像シートの作製において、断熱層3を、熱伝導率0.088(W/m・K)の発泡PET-2とし、受像層4を、前記「受像層塗布液-2」と同一のものとした以外は、熱転写受像シートAと同様にして、熱転写受像シートNを得た。
【0063】
[評価]
以下、熱転写受像シートA~Nに関して、50℃に10日おいて保存しエージングを行った後、それぞれ表1に記載の通り実施例1~8、および比較例1~6の水準として、以下の評価を実施した。
【0064】
・熱伝導率
熱転写受像シートA~Nに関して、断熱層に使用した材料の熱伝導率を、京都電子工業(株)製 TPS 2500Sを用いて測定した。
【0065】
・染料拡散速度
熱転写受像シートA~Nに関して、受像シートと評価用インクリボンの染料層とを対向して重ね合わせ、圧力0.7MPa、温度100℃の条件で30s加圧加熱した後、加圧加熱の前後でインクリボンの吸光度を測定し、インクリボン染料層の最大吸収波長における加圧加熱前の吸光度をAα、加圧加熱後の吸光度をAβとして、以下の式(3)から染料移行率を算出し、これを染料拡散速度とした。
染料移行率=1-Aα/Aβ ・・・(3)
【0066】
・トーンジャンプ
熱転写受像シートA~Nに関して、以下の条件で300ドット(主走査方向)×1800ドット(副走査方向)の面積で、副走査方向に0/255階調から255/255階調へ均等な割合で変化する黒のグラデーション画像を印画し、画像に見られるトーンジャンプの度合いを目視評価した。
印画環境:25℃、湿度50%RH
印画機器:評価用サーマルプリンタ(300×300DPI)
印加電圧:29V
ライン周期:0.9msec
【0067】
作製した印画物を目視で観察し、トーンジャンプを下記の基準により評価した。
○:実用上問題になるレベルのトーンジャンプは発生せず
×:明らかにトーンジャンプが発生し、実用上問題あり
【0068】
・にじみ
熱転写受像シートA~Nに関して、以下の条件で300ドット(主走査方向)×2ドット(副走査方向)の最高階調の線が3本、それぞれ副走査方向に2ドットの間隔を空けて並んでいる画像を印画し、にじみの度合いを目視評価した。
印画環境:25℃、湿度50%RH
印画機器:評価用サーマルプリンタ(300×300DPI)
印加電圧:29V
ライン周期:0.9msec
【0069】
にじみを下記の基準により評価した。
○:にじみは見られなかった
△:にじみはやや見られるが、実用上問題無いレベル
×:にじみが見られ、実用上問題あり
【0070】
・低階調部感度
熱転写受像シートA~Nに関して、以下の条件で印画物の中心に100ドット(主走査方向)×100ドット(副走査方向)の26/255階調のパッチが存在する画像を印画し、その濃度を以下の条件で測定した。
印画環境:25℃、湿度50%RH
印画機器:評価用サーマルプリンタ(300×300DPI)
印加電圧:29V
ライン周期:0.9msec
濃度測定条件
光源:D65
照明視野角:2°
濃度計算:ISO Status A フィルター無し
【0071】
低階調部感度を下記の基準により評価した。
○:OD=0.1以上
△:OD=0.07以上、0.1未満
×:OD=0.07未満
【0072】
・環境印画時感度安定性
熱転写受像シートA~Nに関して、以下の条件で印画物の中心に100ドット(主走査方向)×100ドット(副走査方向)の26/255階調のパッチが存在する画像を印画し、その濃度を以下の条件で測定した。
印画環境:5℃、湿度20%RH
印画機器:評価用サーマルプリンタ(300×300DPI)
印加電圧:29V
ライン周期:0.9msec
色相測定条件
上記の低階調感度の濃度測定条件と同じ。
【0073】
環境印画時感度安定性を下記の基準により評価した。
○:OD=0.1以上
△:OD=0.07以上、0.1未満
×:OD=0.07未満
【0074】
・結果一覧
表1に、各水準の評価結果を一覧にして示す。
【0075】
【表1】
【0076】
・評価結果
表1の結果より、請求項1に記載の熱伝導率と染料拡散速度の組み合わせの範囲内にある、実施例1~8の熱転写受像シートは、トーンジャンプ、にじみともに問題がないこと
がわかった。
実施例1,2と実施例3、実施例4~6と実施例7,8との低階調感度・環境印画の結果の比較により、染料拡散速度がある程度まで低下すると低階調感度が低下し、その度合は断熱層の熱伝導率により変化することがわかった。
一方で、比較例1および4の結果より、染料拡散速度がある程度まで上昇し範囲から外れるとトーンジャンプが悪化し、印画物として問題が生じる。さらに、比較例2,3の結果より、断熱層熱伝導率が0.057(W/m・K)未満まで低下し範囲から外れるとにじみが悪化し、印画物として問題が生じる。
また、比較例5,6の結果より、断熱層熱伝導率が0.082(W/m・K)を超え範囲から外れると環境印画時に低階調感度が低下し、印画物として問題が生じることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により得られる熱転写受像シートは、昇華転写方式のプリンタに使用することが可能であり、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等に、広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 熱転写受像シート
2 基材
3 断熱層
4 受像層
10 インクリボン
11 リボン基材
12 染料層
13 耐熱滑性層
図1
図2