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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】バッテリ式産業車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20221213BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L3/00 S
B60L15/20 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018186319
(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公開番号】P2019165615
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018050912
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】青木 翠梨
(72)【発明者】
【氏名】大和 宏樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-239629(JP,A)
【文献】特開平09-289701(JP,A)
【文献】特開平11-224697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、
前記駆動モータを駆動動作する際の電力を出力し、前記駆動モータを回生動作させた際の電力が入力されるバッテリ装置と、
前記バッテリ装置に備えられるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、
アクセルレバーの操作方向と操作量を取得するアクセルセンサと接続され、前記アクセルセンサにより取得された前記アクセルレバーの操作量に応じた走行速度となるように前記駆動モータを制御する制御装置と、を備えたバッテリ式産業車両において、
前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が予め設定された制限開始温度以上であって使用可能上限温度未満の第1高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて前記駆動モータの出力を制限し、
前記第1高温状態であるときに、前記バッテリの温度に応じて制限する前記駆動モータの出力の上限値を、前記バッテリの温度が前記制限開始温度から上昇するに従って段階的に減少させて設定するように制御し、
前記バッテリの温度が前記第1高温状態であるとき、前記駆動モータの出力の上限値は、搭乗オペレータが前記走行速度の低下や加速の遅さを体感でき、前記バッテリ装置の入出力が所定時間後に遮断されて停止する旨の遮断警告の発生前に前記バッテリの遮断状態が迫っていることを認識できるように、前記制限開始温度から所定温度ずつ上昇して設定された温度上昇時の複数の前記バッテリの温度に対応して所定の割合で多段階に順次低下することを特徴とするバッテリ式産業車両。
【請求項2】
前記制御装置から制限される前記駆動モータの出力は、前記駆動モータの回転数又は前記駆動モータのトルクであることを特徴とする請求項1記載のバッテリ式産業車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が前記制限開始温度以上の第1高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて前記駆動モータの回生動作による回生力を制限することを特徴とする請求項1記載のバッテリ式産業車両。
【請求項4】
前記バッテリ装置は、前記バッテリ温度検出手段にて検出した温度が、前記制限開始温度よりも高い温度として予め設定された規定温度以上であるとき、前記バッテリ装置からの電力の出力と前記バッテリ装置への電力の入力を遮断し、
前記制御装置には、前記制限開始温度よりも高く、且つ、前記規定温度よりも低い使用可能上限温度が予め設定されており、
前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が前記使用可能上限温度以上から前記規定温度までの第2高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて制限する前記駆動モータの出力の上限値を、最低上限値に設定するように制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のバッテリ式産業車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記バッテリの充電率に基づいて前記制限開始温度を変更することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載のバッテリ式産業車両。
【請求項6】
前記制御装置は、前記バッテリの充電率が予め設定した閾値未満のとき、前記制限開始温度を前記バッテリの充電率が前記閾値以上のときの制限開始温度よりも低くすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載のバッテリ式産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バッテリ式産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリフォークリフト等のバッテリ式産業車両では、リチウムイオン電池装置が搭載されている場合がある。一般的なリチウムイオン電池装置は、高温時では、リチウムイオン電池装置が備えるバッテリの故障等の可能性が高くなる。また、一般的なリチウムイオン電池装置は、リチウムイオン電池とコントローラを内蔵してパッケージ化されており、コントローラは、リチウムイオン電池の閾値を越える温度上昇を検出すると、リチウムイオン電池装置の入出力を遮断する。
【0003】
しかしながら、バッテリ式産業車両を稼働させている作業時に、リチウムイオン電池装置の閾値を越える温度上昇が検出されると、リチウムイオン電池装置の入出力が遮断され、バッテリ式産業車両を使用できなくなりバッテリ式産業車両による作業は中断される。そこで、バッテリ式産業車両の運転席付近に表示装置を設けておき、リチウムイオン電池装置の入出力が遮断される前に、表示装置に入出力の遮断が迫っていることを警告表示してオペレータに報知している。
【0004】
一方、バッテリ式産業車両に関する従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されたバッテリ制御装置が知られている。特許文献1に開示されたバッテリ制御装置では、バッテリ温度と、バッテリの充電率(SOC)と、モータの要求出力とに基づいて、バッテリからの出力が制御されている。バッテリ温度が閾値温度以上の場合には、バッテリが高温状態にありバッテリの故障等の可能性がある。このため、出力制御手段は、バッテリからの出力を抑制する出力抑制を行い、バッテリからの出力をバッテリの性能範囲内に制限するように制御する構成が記載されている。また、別の従来技術として特許文献2に開示された電動車両の制御装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-118789号公報
【文献】特開2011-239629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、運転席付近に設けた表示装置に入出力の遮断が迫っていることを警告表示しても、作業に集中しているオペレータは、その報知に気付かない場合がある。従って、リチウムイオン電池装置の温度上昇による遮断状態が迫っていることを、より確実にオペレータが認識できるようにすることが望まれている。また、温度上昇によるリチウム電池装置の遮断前に作業を中断しても、その後に温度上昇したままのバッテリの充電を行うと、充電によりバッテリ温度がさらに上昇して充電が遮断されるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載されたバッテリ制御装置では、高温時におけるバッテリの出力に対してのみ制限するとしているが、具体的なバッテリの出力に対する制限をどのように行うか不明である。また、回生や充電によるバッテリの温度上昇に対しては何ら考慮されていない。一方、特許文献2に記載された電動車両の制御装置は、バッテリの高温域にて放電電流を急激に制限するが、産業車両の場合、急激な放電電流の制限をオペレータが認識することなく、産業車両による固有の作業が突然中断されてしまうおそれがある。また、高温域では充電電流よりも先に放電電流が制限されるため、回生による制動の際に所望の制動力が不足するおそれがある。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、バッテリ装置の温度上昇による入出力の遮断状態の発生頻度を低下させるとともに、温度上昇による遮断状態が迫っていることを確実にオペレータが認識できるバッテリ式産業車両の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、駆動モータと、前記駆動モータを駆動動作する際の電力を出力し、前記駆動モータを回生動作させた際の電力が入力されるバッテリ装置と、前記バッテリ装置に備えられるバッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、アクセルレバーの操作方向と操作量を取得するアクセルセンサと接続され、前記アクセルセンサにより取得された前記アクセルレバーの操作量に応じた走行速度となるように前記駆動モータを制御する制御装置と、を備えたバッテリ式産業車両において、前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が予め設定された制限開始温度以上であって使用可能上限温度未満の第1高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて前記駆動モータの出力を制限し、前記第1高温状態であるときに、前記バッテリの温度に応じて制限する前記駆動モータの出力の上限値を、前記バッテリの温度が前記制限開始温度から上昇するに従って段階的に減少させて設定するように制御し、前記バッテリの温度が前記第1高温状態であるとき、前記駆動モータの出力の上限値は、搭乗オペレータが前記走行速度の低下や加速の遅さを体感でき、前記バッテリ装置の入出力が所定時間後に遮断されて停止する旨の遮断警告の発生前に前記バッテリの遮断状態が迫っていることを認識できるように、前記制限開始温度から所定温度ずつ上昇して設定された温度上昇時の複数の前記バッテリの温度に対応して所定の割合で多段階に順次低下することを特徴とする。
【0010】
本発明では、バッテリの温度が予め設定された制限開始温度以上の第1高温状態であるときバッテリの温度に応じて駆動モータの出力が制限される。このため、バッテリ式産業車両は駆動モータの出力の制限を受けつつ作動される。その結果、オペレータは、駆動モータの出力の制限をバッテリ式産業車両の動作から体感でき、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。また、バッテリの遮断状態が発生する前に、駆動モータの出力を制限することにより、オペレータは作業を中断することができ、バッテリの遮断状態の発生頻度を低下させることができる。
また、第1高温状態であるときに、バッテリの温度に応じて制限する駆動モータの出力の上限値が、バッテリの温度が制限開始温度から上昇するに従って段階的に減少させて設定される。このため、駆動モータの動作を段階的に低下させることができる。オペレータは、駆動モータの動作が段階的に低下することが体感でき、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0011】
また、上記のバッテリ式産業車両において、前記制御装置から制限される前記駆動モータの出力は、前記駆動モータの回転数又は前記駆動モータのトルクである構成としてもよい。
この場合、バッテリの温度が制限開始温度以上の第1高温状態であるとき、バッテリの温度に応じて駆動モータの回転数又はトルクが制限される。駆動モータが走行用の駆動源である場合では、バッテリの温度に応じて走行速度が低下したり、加速が遅くなったりする。その結果、オペレータは、走行速度の低下や加速の遅さを体感でき、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0012】
また、上記のバッテリ式産業車両において、前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が前記制限開始温度以上の第1高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて前記駆動モータの回生動作による回生力を制限する構成としてもよい。
この場合、バッテリの温度が制限開始温度以上の第1高温状態であるときバッテリの温度に応じて駆動モータの回生動作による回生力が制限される。駆動モータが走行用の駆動源である場合では、バッテリ式産業車両の制動時における制動動作が制限される。その結果、オペレータは、制動時における制動動作の制限を体感でき、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0014】
また、上記のバッテリ式産業車両において、前記バッテリ装置は、前記バッテリ温度検出手段にて検出した温度が、前記制限開始温度よりも高い温度として予め設定された規定温度以上であるとき、前記バッテリ装置からの電力の出力と前記バッテリ装置への電力の入力を遮断し、
前記制御装置には、前記制限開始温度よりも高く、且つ、前記規定温度よりも低い使用可能上限温度が予め設定されており、前記制御装置は、前記バッテリ温度検出手段によって検出された前記バッテリの温度が前記使用可能上限温度以上から前記規定温度までの第2高温状態であるとき、前記バッテリの温度に応じて制限する前記駆動モータの出力の上限値を、最低上限値に設定するように制御する構成としてもよい。
この場合、制限開始温度よりも高く、且つ、規定温度よりも低い使用可能上限温度が予め設定されている。バッテリの温度が、使用可能上限温度以上から規定温度までの第2高温状態であるとき、バッテリの温度に応じて制限する前記駆動モータの出力の上限値を、最低上限値に設定して駆動モータを駆動する。このため、第2高温状態では、バッテリ式産業車両の駆動モータの動作が最大に制限される。その結果、オペレータは、駆動モータの動作が最大に制限されることが体感でき、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0015】
また、上記のバッテリ式産業車両において、前記制御装置は、前記バッテリの充電率に基づいて前記制限開始温度を変更する構成としてもよい。
この場合、バッテリ充電率に基づいて制限開始温度を変更することにより、温度上昇したままでバッテリの充電をしても、バッテリが遮断状態となる規定温度まで上昇しないように、バッテリの特性に応じた適切な制限開始温度を設定することができる。
【0016】
また、上記のバッテリ式産業車両において、前記制御装置は、前記バッテリの充電率が予め設定した閾値未満のとき、前記制限開始温度を前記バッテリの充電率が前記閾値以上のときよりも低くする構成としてもよい。
この場合、バッテリ充電率が予め設定された閾値未満の場合には、制限開始温度、使用可能上限温度が、バッテリ充電率が閾値以上の場合よりも低く設定される。従って、駆動モータの出力の制限は、バッテリ充電率が閾値以上の場合よりも低い温度から開始される。その結果、駆動モータの出力の制限を受けた後、温度上昇したままでバッテリを充電しても、バッテリは遮断状態となる規定温度まで上昇しない。つまり、作業中断後の急速充電によってバッテリは遮断状態となることはない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、バッテリ装置の温度上昇による入出力の遮断状態の発生頻度を低下させるとともに、温度上昇による遮断状態が迫っていることを確実にオペレータが認識できるバッテリ式産業車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るリーチ式フォークリフトの側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るリーチ式フォークリフトの平面図である。
図3】本発明の実施形態に係るリーチ式フォークリフトの制御ブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係るバッテリの高温時の警告処理の手順を示すフローチャートである。
図5】高温状態におけるバッテリ温度に応じた走行用モータの上限回転数の一例を示す図である。
図6】スイッチバック操作における走行用モータの出力と回生との関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るバッテリ式産業車両としてのリーチ式フォークリフト(以下、単に「フォークリフト」と表記する)について図面を参照して説明する。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが立席運転席に搭乗して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0020】
図1に示すように、フォークリフト10は車体11および荷役装置14を備えている。図1図2に示すように、フォークリフト10の車体11の前部には、左右一対のリーチレグ12が設けられている。各リーチレグ12の先端部には、前輪13L、13Rがそれぞれ支持されている。図1では左のリーチレグ12と左の前輪13Lのみが示される。両リーチレグ12の間には、荷役装置14が備えられており、荷役装置14は前後方向へのリーチ動作を行えるように支持されている。荷役装置14のリーチ動作は、車体11の後部に設けられたリーチシリンダ(図示せず)の作動により行われる。
【0021】
荷役装置14は、左右のリーチレグ12に支持されたアウタマスト15と、アウタマスト15に昇降可能に支持されたインナマスト16とを備えている。インナマスト16には、リフトサポート17が昇降可能に支持されている。リフトサポート17の前面には、左右一対のフォーク18が支持されている。フォーク18の上端は、フォーク18のティルト動作を可能とするようにリフトサポート17に軸支されている。従って、フォーク18は前後に傾動可能である。フォーク18の上方には、リフトブラケット19が備えられている。アウタマスト15の後方にはインナマスト16を昇降させるリフトシリンダ20が固定されている。
【0022】
車体11の後部の左側には、ドライブユニット22が設けられている。ドライブユニット22は駆動モータとしての走行用モータ23と、走行用モータ23の下部に減速機構(図示せず)を介して支持された駆動輪24を備えている。走行用モータ23は駆動輪24を駆動し、フォークリフト10は駆動輪24の駆動により路面Fを走行する。また、ドライブユニット22には駆動輪24を操舵するための操舵用モータ(図示せず)が備えられている。車体11の後部右側には運転席としての立席運転席25が設けられている。車体11における立席運転席25の下方には、キャスタ輪26が支持されている。
【0023】
立席運転席25の床面には、搭乗オペレータ検知手段としてのフロアスイッチ27が備えられている。フロアスイッチ27は、搭乗オペレータの有無を検知するスイッチであり、搭乗オペレータが立席運転席25に搭乗すると搭乗オペレータの自重によりオンとなる。立席運転席25の床面には、ブレーキペダル28が備えられている。ブレーキペダル28は踏み込まれることにより制動を解除するブレーキペダルである。立席運転席25の前部には右から順番にアクセルレバー29、リフトレバー30、リーチレバー31、ティルトレバー32が備えられている。立席運転席25の左側には操舵用のノブ付のステアリングホイール33が備えられている。なお、図2に示すように、アクセルレバー29、リフトレバー30、リーチレバー31、ティルトレバー32およびステアリングホイール33は、車体11に備えられたインストルメントパネル21上に設けられている。インストルメントパネル21には、表示装置としてのモニタ34が備えられている。モニタ34には各種の情報が表示される。
【0024】
アクセルレバー29は、アクセル操作手段に相当し、フォークリフト10の走行と停止をオペレータが指示するためのものであり、操作状態に応じた走行速度を指示可能とする。オペレータがアクセルレバー29に手を触れていない場合では、アクセルレバー29は、ほぼ直立状態となった中立の状態に維持されており、中立の状態から前方に傾斜可能、または中立の状態から後方に傾斜可能である。
【0025】
車体11は、ピラー35およびヘッドガード36を備えている。車体11の前部には、左右一対のピラー35が備えられており、左右一対のピラー35はヘッドガード36を支持している。ヘッドガード36は、立席運転席25の上方に設けられており、立席運転席25に搭乗した搭乗オペレータを保護する機能を備えている。
【0026】
図3に示すように、本実施形態のフォークリフト10は、バッテリ装置40と、インバータ装置41と、コントローラ42と、アクセルセンサ43と、モニタ34と、を備えている。
【0027】
バッテリ装置40は、バッテリ制御装置45とバッテリ46を有している。バッテリ46は、遮断スイッチ47、複数の電池モジュールユニット48を備えている。電池モジュールユニット48は、複数の電池セル50を備える電池モジュール49、電池モジュール49を制御するモジュールコントローラ51、電池モジュール49の温度を検出するバッテリ温度検出手段としてのバッテリ温度検出器52を有している。モジュールコントローラ51は、電池モジュール49の温度監視や各電池セル50の状態監視や充放電制御を行う。本実施形態の電池セル50はリチウムイオン二次電池である。
【0028】
バッテリ制御装置45は、遮断スイッチ47および各モジュールコントローラ51と通信可能に接続されている。バッテリ制御装置45は、各モジュールコントローラ51と種々の情報を送受信するほか、遮断スイッチ47を制御する。バッテリ制御装置45は、各モジュールコントローラ51との通信により、バッテリ46の充電率(SOC:State of charge)を取得する。また、バッテリ制御装置45は、コントローラ42と通信可能であり、種々の情報をコントローラ42と送受信する。バッテリ装置40は、走行用モータ23を駆動させる場合、端子53、54から供給電力Wout1を出力する。また、走行用モータ23を回生動作させた場合は、充電電力Win2が端子53、54に入力される。供給電力Wout1および充電電力は直流電力である。
【0029】
インバータ装置41は、インバータ制御装置55とインバータ56とを有している。インバータ56は、インバータ回路57を備えている。インバータ回路57は、インバータ制御装置55と通信可能に接続されている。走行用モータ23を駆動させる場合、インバータ回路57はインバータ制御装置55からの制御信号に基づいて制御される。バッテリ装置40から入力された供給電力Wout1を駆動電力Wout2(交流電力)に変換して走行用モータ23に出力する。
インバータ回路57は、走行用モータ23を回生動作させる場合、インバータ制御装置55からの制御信号に基づいて制御される。走行用モータ23から入力された回生電力Win1(交流電力)はインバータ回路57により充電電力Win2(直流電力)に変換されてバッテリ装置40へ出力される。
【0030】
インバータ制御装置55は、コントローラ42と通信可能に接続されており、コントローラ42と種々の情報を送受信する。インバータ制御装置55は、コントローラ42から走行用モータ23の駆動の指示(例えば、走行用モータ23の回転方向など)と目標回転数等を含む駆動情報を受信すると、受信した駆動情報に基づいてインバータ回路57を制御する。
【0031】
インバータ制御装置55は、走行用モータ23の回転方向および回転数を検出するモータ回転検出器58と接続されている。インバータ制御装置55は、コントローラ42から走行用モータ23の回生動作の指示(例えば、走行用モータ23の回転方向など)と回生力等を含む回生情報を受信すると、受信した回生情報に基づいて、インバータ回路57を制御する。インバータ制御装置55には、モータ回転検出器58からの検出信号が入力され、走行用モータ23の回転軸の回転方向および回転数を検出することができる。
【0032】
走行用モータ23は、駆動される場合では、インバータ装置41からの駆動電力Wout2によって前進方向または後進方向に回転駆動される。また、走行用モータ23は、回生動作される場合、減速機構を介して駆動輪24から回転駆動され、回生電力Win1を発生する。
【0033】
コントローラ42は制御装置に相当し、バッテリ制御装置45と通信可能に接続されている。コントローラ42とバッテリ制御装置45との間では種々の情報が送受信される。例えば、コントローラ42は、バッテリ制御装置45にバッテリ情報の送信を要求する送信要求情報を送信し、バッテリ制御装置45から、バッテリ温度、バッテリ電圧、バッテリ充電率およびバッテリ状態(バッテリ異常の有無等)を含むバッテリ情報を受信する。
【0034】
また、コントローラ42は、インバータ制御装置55と通信可能に接続されている。コントローラ42とインバータ制御装置55との間では種々の情報が送受信される。例えば、コントローラ42は、インバータ制御装置55にインバータ情報の送信を要求する送信要求情報を送信し、インバータ制御装置55から、走行用モータ23の回転数および回転方向を含むインバータ情報を受信する。また、コントローラ42は、走行用モータ23を駆動させる場合、駆動動作と回転数と回転方向を含む駆動情報をインバータ制御装置55に送信する。また、コントローラ42は、走行用モータ23を回生動作させる場合、回生動作と回生力を含む回生情報をインバータ制御装置55に送信する。
【0035】
図3に示すように、コントローラ42は、アクセル操作状態検出手段に相当するアクセルセンサ43と通信可能に接続されている。アクセルセンサ43は、アクセルレバー29の前後への傾斜方向と、中立状態からの傾斜角度(アクセル開度(操作量))を検出する。本実施形態のアクセルセンサ43は、ポテンションメータを用いたアクセルセンサである。アクセルセンサ43からの検出信号はコントローラ42に伝達され、コントローラ42は、アクセルレバー29の傾斜方向、および中立状態からの傾斜角度(アクセル開度(操作量))を検出することができる。
【0036】
停止しているフォークリフト10にてオペレータがアクセルレバー29を操作して中立の状態から前方に傾斜させた場合、フォークリフト10は前進を開始し、アクセルレバー29の前方への傾斜角度に応じた速度に達するように加速する。また、停止しているフォークリフト10にてオペレータがアクセルレバー29を操作して中立の状態から後方に傾斜させた場合、フォークリフト10は後進を開始し、アクセルレバー29の後方への傾斜角度に応じた速度に達するように加速する。
【0037】
図3に示すように、コントローラ42は、モニタ34と通信可能に接続されている。モニタ34は、コントローラ42からの表示情報に基づいて種々の情報を表示する。
【0038】
次に、コントローラ42による走行用モータ23の制御の手順について図4のフローチャートを参照して説明する。まず、コントローラ42は、インバータ制御装置55からインバータ情報を取得する(ステップS01を参照)。インバータ情報は、走行用モータ23の回転数および回転方向を含む情報である。
【0039】
次に、コントローラ42は、アクセルレバー29の操作方向と操作量を取得する(ステップS02を参照)。アクセルレバー29の操作方向と操作量は、アクセルセンサ43から入力された検出信号に基づいて取得される。アクセルセンサ43は、アクセルレバー29の操作方向(前進方向、後進方向および中立位置のいずれか)と、アクセルレバー29の中立状態からの傾斜角度(前傾角度または後傾角度)を検出する。つまり、アクセルセンサ43は、アクセルレバー29の操作方向とアクセルレバー29のアクセル開度に相当する操作量とを検出する。コントローラ42は、アクセルレバー29の操作方向と操作量に基づき、走行用モータ23の仮回転方向と、仮目標回転数と、仮目標回転数に対応する仮目標トルクを取得して記憶するほか、仮目標回生力を求め、求められた仮目標回生力を記憶する(ステップS03を参照)。
【0040】
次に、コントローラ42は、バッテリ制御装置45に対して送信要求情報を送信し、バッテリ制御装置45からバッテリ電圧やバッテリ温度およびバッテリ状態等を含むバッテリ情報を受信する(ステップS04を参照)。
【0041】
次に、コントローラ42は、バッテリ情報に含まれているバッテリ46の充電率(バッテリ充電率)を読み出し、バッテリ充電率が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS05を参照)。本実施形態では、バッテリ充電率が満充電の状態を100%とするとき、例えば、バッテリ充電率80%(第1閾値)およびバッテリ充電率50%(第2閾値)を閾値としている。コントローラ42は、第1閾値以下であるバッテリ充電率が80%未満であるとき、制限開始温度T11(℃)を変更し、第2閾値以下であるバッテリ充電率が50%以下であるとき、制限開始温度T11を変更する(ステップS06を参照)。制限開始温度T11は、例えば、50℃~53℃である。
【0042】
ここで、制限開始温度T11を示す「バッテリ・上限回転数情報」について図5を参照して説明する。「バッテリ温度・上限回転数情報」は、バッテリ温度と走行用モータ23の上限回転数との関係を示す情報であり、予めコントローラ42に記憶されている。バッテリ温度には、制限開始温度T11から所定温度ずつ(例えば、1℃~4℃ずつ)上昇した各バッテリ温度T12、T13、T14、T15、T2(℃)が設定されている。バッテリ温度の使用可能上限温度T2は、バッテリ46の警告・入出力遮断が行われる規定温度T3よりも少し低い温度に設定されている。例えば、バッテリ46の規定温度T3が、60℃である場合には、使用可能上限温度T2は、55℃~58℃に設定される。
【0043】
バッテリ温度が制限開始温度T11よりも低い温度の場合には、走行用モータ23の上限回転数は、通常の上限の回転数である上限回転数N1(rpm)に設定してもよいし、制限無しとしてもよい。一方、バッテリ温度が制限開始温度T11以上の第1高温状態である場合には、走行用モータ23の上限回転数は、バッテリ温度が上昇する毎に、段階的に順次低下した上限回転数に設定され、制限される。具体的には、各バッテリ温度T12、T13、T14、T15、T2に上昇する毎に、通常の上限回転数N1から約10%~15%ずつ段階的に順次低下した各上限回転数N2、N3、N4、N5、N6、N7(rpm)に設定され、制限される。上限回転数N1~N7は、バッテリ46の温度に応じて制限する駆動モータの出力の上限値に相当する。
【0044】
例えば、バッテリ温度が使用可能上限温度T2まで上昇した場合には、走行用モータ23の上限回転数は、通常の上限回転数N1の約30%~40%に低下した最低上限回転数N7(最低上限値)に設定され、制限される。そして、バッテリ温度が使用可能上限温度T2以上となる第2高温状態に上昇した場合には、走行用モータ23の上限回転数は、最低上限回転数N7(最低上限値)に設定され、制限される。なお、制限開始温度T11は、規定温度T3よりも低い温度として設定されている。そして、規定温度T3と制限開始温度T11の間に、使用可能上限温度T2が設定されており、制限開始温度T11と使用可能上限温度T2の間に、T12~T15が設定されている。規定温度T3、使用可能上限温度T2、制限開始温度T11および図5に示す上限回転数情報は、コントローラ42に予め記憶されている。また、バッテリ制御装置45は、後述するように、バッテリ温度が規定温度T3以上になると、遮断スイッチ47を用いて、バッテリ46への電力の入出力を遮断する。
【0045】
つまり、バッテリ温度が使用可能上限温度T2から規定温度T3に上昇して、バッテリ装置40による電力の入出力遮断が行われるまで、走行用モータ23の上限回転数は、最低上限回転数N7(最低上限値)に設定される。従って、コントローラ42は、バッテリ温度が使用可能上限温度T2から規定温度T3に上昇するまで、走行用モータ23を最低上限回転数N7(最低上限値)で駆動させることができる。
【0046】
図4に戻るが、ステップS05においてバッテリ充電率が第1閾値である80%以上と判定されるとき、コントローラ42は制限開始温度T11を変更しない。因みに、リチウムイオン二次電池の場合、制限開始温度T11は、バッテリ充電率が80%以上のとき、例えば、53℃である。バッテリ充電率が第2閾値である50%以上で第1閾値である80%未満となり、ステップS05にて制限開始温度T11が変更される場合、制限開始温度T11は、例えば、53℃から2℃低い51℃に変更される。
【0047】
本実施形態では、バッテリ充電率に応じた制限開始温度T11の変更とともに、使用可能上限温度T2が変更される。例えば、バッテリ46の規定温度T3が60℃である場合には、変更前の使用可能上限温度T2は、例えば、58℃に設定されるが、制限開始温度T11の変更とともに、使用可能上限温度T2は、例えば、58℃から2℃低い56℃に変更される。低下分の温度は、使用可能上限温度T2まで温度上昇したバッテリ46を急速充電したとしても、バッテリ46の温度が急速充電によって規定温度T3を超えない範囲で設定される。また、上限回転数が制限される各バッテリ温度T12~T15は、制限開始温度T11および使用可能上限温度T2と同様に、バッテリ充電率に応じて変更される。
【0048】
バッテリ充電率が第2閾値である50%未満となり、ステップS05にて制限開始温度T11が変更される場合、制限開始温度T11は、例えば、53℃から3℃低い50℃に変更される。また、本実施形態では、制限開始温度T11の変更とともに、使用可能上限温度T2が変更される。例えば、バッテリ46の規定温度T3が60℃である場合には、バッテリ充電率が50%未満となると、制限開始温度T11の変更とともに、使用可能上限温度T2は、例えば、58℃から3℃低い55℃に変更される。上限回転数が制限される各バッテリ温度T12~T15は、制限開始温度T11および使用可能上限温度T2と同様に、バッテリ充電率に応じて変更される。
【0049】
次に、コントローラ42は、バッテリ情報に含まれているバッテリ温度を読み出し、バッテリ温度が、走行用モータ23の上限回転数に対して制限を開始する制限開始温度T11以上に上昇しているか否かを判定する(ステップS07を参照)。制限開始温度T11以上の温度は、第1高温状態に相当する。
【0050】
バッテリ温度が制限開始温度T11以上に上昇しているとコントローラ42が判定した場合には、バッテリ温度に基づいて上限回転数を算出する(ステップS08を参照)。バッテリ温度が制限開始温度T11よりも低い温度であると判定した場合には、高温警告を解除し、停止警告を解除する(ステップS09を参照)。
【0051】
コントローラ42は、図5に示す「バッテリ温度・上限回転数情報」に基づいて、バッテリ温度に対応する走行用モータ23の上限回転数を求め、記憶する(ステップS07を参照)。ステップS08にてバッテリ温度に基づいて上限回転数が算出された後、コントローラ42は、ステップS03にて求めた仮目標回転数が、ステップS07にて算出した上限回転数よりも大きいか否かを判定する(ステップS10を参照)。
【0052】
ステップS10において、仮目標回転数が走行用モータ23の上限回転数以下であると判定した場合には、コントローラ42は、後述するステップS12に進む。一方、ステップS10において、仮目標回転数が走行用モータ23の上限回転数よりも大きいと判定した場合には、コントローラ42は、バッテリ温度に基づいて算出した走行用モータ23の上限回転数を仮目標回転数として記憶する(ステップS11を参照)。このとき、コントローラ42は、バッテリ温度に基づいて段階的に低下した上限回転数を仮目標回転数として記憶するほか、バッテリ温度に基づいて段階的に低下した上限回転数に対応する走行用モータ23のトルクを求めて仮目標トルクとして記憶する。
【0053】
次に、コントローラ42は、ステップS04にて取得したバッテリ温度を読み出し、このバッテリ温度が使用可能上限温度T2以上であるか否かを判定する(ステップS12を参照)。そして、バッテリ温度が、制限開始温度T11よりも高く、かつ、使用可能上限温度T2よりも低い第1高温状態であるとコントローラ42が判定した場合には、コントローラ42は、高温警告を報知する(ステップS13を参照)。この場合、コントローラ42は、バッテリ46のバッテリ温度が制限開始温度T11以上の高温になった旨を警告する「高温警告」をモニタ34に表示してオペレータに報知する。モニタ34に表示する警告表示は、例えば、「バッテリ温度が上昇しています。」とする。
【0054】
バッテリ温度が使用可能上限温度T2以上の第2高温状態であるとコントローラ42が判定した場合には、コントローラ42は、停止警告を報知する(ステップS14を参照)。コントローラ42は、バッテリ46のバッテリ温度が使用可能上限温度T2以上の高温になっており、このままだと、バッテリ装置40の入出力が遮断されて停止する旨の「停止警告」をモニタ34に表示し、オペレータに報知する。高温警告および停止警告による「報知」は、モニタ34への表示に限定されず、ブザーやランプ等にて報知するようにしてもよい。
【0055】
続いて、コントローラ42は、仮回転方向に記憶されている回転方向を最終回転方向に記憶し、仮目標回転数に記憶されている回転数を最終目標回転数に記憶し、仮目標トルクに記憶されているトルクを最終目標トルクに記憶し、仮目標回生力に記憶されている回生力を最終目標回生力に記憶する(ステップS15を参照)。
【0056】
次に、コントローラ42は、最終回転方向、最終目標回転数、最終目標トルクおよび最終目標回生力を含むモータ制御情報をインバータ制御装置55に送信する(ステップS16を参照)。最終回転方向、最終目標回転数、最終目標トルクおよび最終目標回生力は、ステップS15においてコントローラ42に記憶された情報である。インバータ制御装置55は、モータ制御情報に基づいて走行用モータ23を制御する。
【0057】
次に、コントローラ42は、バッテリ制御装置45から、X秒後に入出力遮断を行う旨、つまり、バッテリ装置40の電力供給をX秒後に遮断する旨を表す遮断メッセージ情報が入力されたか否かを判定する(ステップS17を参照)。コントローラ42がバッテリ制御装置45から遮断メッセージ情報が入力されている判定した場合には、バッテリ装置40の入出力がX秒後に遮断されて停止する旨を示す「遮断警告」がモニタ34に表示される(ステップS18を参照)。モニタ34に表示される「遮断警告」としては、例えば、「X秒後に停止します。」である。一方、コントローラ42は、バッテリ制御装置45から遮断メッセージ情報が入力されていないと判定した場合には、遮断警告を解除する(ステップS19を参照)。コントローラ42は、「遮断警告」がモニタ34に表示されている場合、モニタ34の「遮断警告」の表示を解除(消去)する。一連のステップS01~S19を経ることにより図4に示すフローの処理を終了する。
【0058】
次に、本実施形態に係るフォークリフト10の作動について説明する。オペレータはアクセルレバー29の操作によりフォークリフト10を加速させたり制動させたりする。
【0059】
フォークリフト10の加速時には、バッテリ46の直流電力がインバータ56により交流電力に変換され、交流電力により走行用モータ23の回転数が上昇する。バッテリ充電率が第1閾値である80%以上の場合、バッテリ46の放電等によりバッテリ温度が、制限開始温度T11よりも高く、かつ、使用可能上限温度T2よりも低い第1高温状態であると、走行用モータ23は上限回転数の制限を受ける。このため、オペレータは意図する加速が得られないことを体感し、モニタ34に表示される高温警告の表示とともに、バッテリ46の温度(バッテリ温度)が上昇していることを認識する。また、バッテリ温度が、規定温度T3より低く、使用可能上限温度T2よりも高い第2高温状態であると、走行用モータ23は上限回転数が最大の制限を受ける。このため、オペレータは意図する加速が得られないことを強く体感し、モニタ34に表示される停止警告の表示とともに、バッテリ46の温度が規定温度T3付近まで上昇していることを認識する。
【0060】
フォークリフト10の制動時には、走行用モータ23の回生動作により回生力が生じる。走行用モータ23に生じた回生電力Win1をインバータ56により直流電力の充電電力Win2に変換され、バッテリ46に充電される(図3を参照)。バッテリ温度が、制限開始温度T11よりも高く、かつ、使用可能上限温度T2よりも低い第1高温状態であると、走行用モータ23は上限回転数の制限を受ける。上限回転数の制限を受けた状態にて回生により得られた充電電力は、制限を受けている上限回転数に対応する回生力から得られる電力であり、制限のない回転数に対応する回生力から得られる充電電力よりも少ない。つまり、バッテリ46の温度に応じた走行用モータ23の回転数の制限に伴って走行用モータ23の回生動作による回生力は制限される。従って、バッテリ温度は、制限を受けている上限回転数に対応する回生による充電によって、規定温度T3まで上昇することはない。また、バッテリ温度が、規定温度T3より低く、使用可能上限温度T2よりも高い第2高温状態であると、走行用モータ23は上限回転数が最大の制限を受ける。このため、制限された上限回転数に対応する回生力から得られる充電電力は、制限のない回転数に対応する回生力から得られる充電電力よりもより少なくなる。従って、バッテリ温度は最大制限の上限回転数に対応する回生による充電により規定温度T3まで上昇することはない。
【0061】
一方、バッテリ充電率が第2閾値である50%以上で第1閾値である80%未満の場合、制限開始温度T11、使用可能上限温度T2が、バッテリ充電率が80%以上の場合よりも低く設定される。また、バッテリ充電率が第2閾値である50%未満の場合、制限開始温度T11、使用可能上限温度T2が、バッテリ充電率が50%以上で80%未満の場合よりも低く設定される。また、制限開始温度T11から所定温度ずつ(例えば、1℃~4℃ずつ)上昇した各バッテリ温度T12、T13、T14、T15、T2も、バッテリ充電率の閾値(第1閾値、第2閾値)に応じて低く設定される。走行用モータ23の回転数の制限が、バッテリ充電率が80%以上の場合よりも低い温度で開始される。このため、走行用モータ23の回転数の制限を受けた後、フォークリフト10による作業を中断して、バッテリ46の温度が下がらない状態のバッテリ46を直ちに急速充電しても、バッテリ46は規定温度T3まで上昇しない。
【0062】
次に、フォークリフト10の前進(後進)走行中に、前方(後方)に傾斜されているアクセルレバー29を後方(前方)へ傾斜させるスイッチバック操作が行われる場合について説明する。スイッチバック操作が行われる場合、フォークリフト10は、前傾(後傾)状態のアクセルレバー29を中立位置に戻す操作によるアクセルオフ制動よりも大きな制動が得られる。したがって、スイッチバックの操作を行ったとき、走行用モータ23の回生動作により大きな回生力が生じ、フォークリフト10はアクセルオフ制動よりも短い距離で停止する。走行用モータ23に生じた回生電力Win1はインバータ56により直流電力の充電電力Win2に変換され、バッテリ46に充電される。
【0063】
本実施形態では、スイッチバック操作が行われる場合についても、バッテリ46の温度によって走行用モータ23の出力および回生動作による回生力は制限される。ここでは、前方に傾斜されているアクセルレバー29を後方へ傾斜させ、前進から後進へ切り換えるスイッチバック操作の場合について説明する。
【0064】
図6に示すように、バッテリ充電率が第1閾値である80%以上であってバッテリ温度が、制限開始温度T11以下であるとき、走行用モータ23は上限回転数の制限および回生力は制限されない。よって、スイッチバック操作前の前進走行では、オペレータの意図するとおりの加速が得られ、スイッチバック操作後は、オペレータの意図するとおりの制動力が得られる。
【0065】
バッテリ充電率が第1閾値である80%以上の場合、バッテリ46の放電等によりバッテリ温度が、制限開始温度T11よりも高く、かつ、使用可能上限温度T2よりも低い第1高温状態であると、走行用モータ23は上限回転数および回生力の制限を受ける。このため、スイッチバック操作前の前進走行では、オペレータは意図する加速が得られないことを体感し、モニタ34に表示される高温警告の表示とともに、バッテリ46の温度(バッテリ温度)が上昇していることを認識する。また、スイッチバック操作後は、オペレータは意図する制動力が得られないことを体感する。
【0066】
スイッチバック操作によって得られた充電電力は、スイッチバック操作前の走行用モータ23の制限を受けている上限回転数に対応する回生力から得られる電力であり、制限のない回転数に対応する回生力から得られる充電電力よりも少ない。つまり、スイッチバック操作後の走行用モータ23の回生動作による回生力は、スイッチバック操作前のバッテリ46の温度に応じた走行用モータ23の回転数の制限に伴って制限される。従って、図6に示すように、走行用モータ23の上限回転数および回生力の制限を受けるスイッチバック操作では、上限回転数の制限および回生力は制限されないスイッチバック操作の場合と同様に、走行用モータ23の出力と回生とのバランスが保たれている。このため、走行用モータ23の上限回転数および回生力の制限を受けるスイッチバック操作では、スイッチバック操作によるフォークリフト10の制動距離は、上限回転数の制限および回生力が制限されないスイッチバック操作の制動距離と同じ制動距離とすることができる。
【0067】
因みに、第1高温状態にて走行用モータ23の出力を制限せず、回生のみを制限する制御を行う場合を仮に考えると、この場合、スイッチバック操作前の走行用モータ23の出力は制限されないので、オペレータは意図する加速が得られる。しかしながら、スイッチバック操作後では回生の制限によりオペレータは意図する制動力が得られない。図6に示すように、走行用モータ23が上限回転数の制限を受けず、回生力の制限を受ける場合のスイッチバック操作では、走行用モータ23の出力と回生とのバランスが保たれていない。このため、走行用モータ23が上限回転数の制限を受けずに回生力のみ制限を受けるスイッチバック操作では、スイッチバック操作によるフォークリフト10の制動距離は、上限回転数の制限および回生力は制限されないスイッチバック操作の制動距離よりも長くなり、オペレータの意図する制動距離にてフォークリフト10を停止させることができない。
【0068】
本実施形態では、走行用モータ23の上限回転数および回生力の制限を受けるものの、走行用モータ23の出力と回生とのバランスが保たれている。つまり、走行用モータ23出力だけでなく回生が制限を受けることから、通常の制限前と比べて制動力の低下を生じるものの、通常の制動時の制動距離と同じ距離にて停止でき、制動距離の増加は生じない。したがって、スイッチバック操作によるフォークリフト10の制動距離は、上限回転数の制限および回生力は制限されないスイッチバック操作の制動距離と同じ制動距離とすることが可能である。よって、オペレータは、スイッチバック操作によって意図する制動距離にてフォークリフト10を停止させることができる。なお、後方に傾斜されているアクセルレバー29を前方へ傾斜させ、後進から前進へ切り換えるスイッチバック操作についても、前進から後進へ切り換えるスイッチバック操作の場合と同様に、走行用モータ23の出力と回生とのバランスが保たれる。
【0069】
本実施形態のフォークリフト10は、以下の作用効果を奏する。
(1)バッテリ46の温度が制限開始温度T11以の第1高温状態であるときバッテリ46の温度に応じて走行用モータ23の出力が制限される。このため、フォークリフト10は走行用モータ23の出力の制限を受けつつ作動される。その結果、オペレータは、走行用モータ23の出力の制限をフォークリフト10の動作から体感でき、バッテリ46の遮断状態が迫っていることを認識することができる。また、バッテリ46の遮断状態が発生する前に、走行用モータ23の出力を制限することにより、オペレータは作業を中断することができ、バッテリ46の遮断状態の発生頻度を低下させることができる。
【0070】
(2)コントローラ42から制限される走行用モータ23の出力は、走行用モータ23の回転数であり、バッテリ46の温度が制限開始温度T11以上の第1高温状態であるときバッテリ46の温度に応じて走行用モータ23の回転数が制限される。走行用モータ23の回転数が制限されることから、バッテリ46の温度に応じて走行速度が低下したり、加速が遅くなったりする。その結果、オペレータは、走行速度の低下や加速の遅さを体感でき、バッテリ46の遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0071】
(3)バッテリ温度検出器52が検出したバッテリ46の温度が、制限開始温度T11以上の第1高温状態であるとき、コントローラ42は、バッテリ46の温度に応じて走行用モータ23の回転数が制限される。バッテリ46の温度に応じた走行用モータ23の回転数の制限に伴って走行用モータ23の回生動作による回生力は制限される。このため、バッテリ46の温度が制限開始温度T11以上の第1高温状態であるとき、バッテリ46の温度に応じて走行用モータ23の回生動作による回生力が制限される。
【0072】
(4)バッテリ46の温度が第1高温状態であるときに、バッテリ46の温度に応じて制限する走行用モータ23の出力の上限値が、バッテリ46の温度が制限開始温度T11から上昇するに従って段階的に減少させて設定される。このため、走行用モータ23の動作を徐々に低下させることができる。オペレータは、走行用モータ23の動作が段階的に低下することが体感でき、バッテリ46の遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0073】
(5)バッテリ46の温度が、制限開始温度T11よりも高い使用可能上限温度T2以上から規定温度T3までの第2高温状態であるとき、バッテリ46の温度に応じて制限する走行用モータ23の出力の上限値を、最低上限値に設定して走行用モータ23を駆動する。このため、第2高温状態では、フォークリフト10の走行用モータ23の動作が最大に制限される。その結果、オペレータは、走行用モータ23の動作が最大に制限されることが体感でき、バッテリ46の遮断状態が迫っていることを認識することができる。
【0074】
(6)バッテリ充電率が50%以上、80%未満の場合およびバッテリ充電率が50%未満の場合には、制限開始温度T11、使用可能上限温度T2が、バッテリ充電率が80%以上の場合よりも低く設定される。走行用モータ23の回転数の制限や回生力の制限は、バッテリ充電率が80%以上の場合よりも低い温度から開始される。このため、走行用モータ23の回転数の制限や回生力の制限を受けた後、フォークリフト10による作業を中断して、バッテリ46を直ちに急速充電しても、バッテリ46は規定温度T3まで上昇しない。つまり、作業中断後の急速充電によってバッテリ46は遮断状態となることはない。
【0075】
(7)スイッチバック操作において走行用モータ23は上限回転数および回生力の制限を受けるものの、走行用モータ23の出力と回生とのバランスが保たれている。このため、スイッチバック操作によるフォークリフト10の制動距離は、上限回転数の制限および回生力は制限されないスイッチバック操作の制動距離と同じ制動距離とすることが可能である。つまり、走行用モータ23の回生が制限を受けることから制限前と比べて制動力の低下を生じるものの、通常の制動時の制動距離と同じ距離にて停止でき、制動距離の増加は生じず、また、急制動による衝撃を緩和することができる。オペレータは、上限回転数の制限および回生力は制限されないスイッチバック操作と同様に、スイッチバック操作によって意図する制動距離にてフォークリフト10を停止させることができる。また、オペレータは、走行用モータ23は上限回転数および回生力の制限を受けている状態でも通常のスイッチバック操作における制動と同じ感覚でアクセルレバー29を操作することができる。
【0076】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0077】
○ 上記の実施形態では、駆動モータとして走行用モータの制御を例示したが、駆動モータは走行用モータに限定されない。駆動モータは、荷役用モータであってもよい。駆動モータが荷役用モータの場合、荷役動作に必要な荷役用モータの出力がバッテリ温度上昇により制限を受けて、オペレータはバッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。
○ 上記の実施形態では、バッテリ充電率が80%未満(50%以上)の場合に、第1高温状態を規定する制限開始温度を低くし、バッテリ充電率が50%未満の場合に制限開始温度さらに低くするようにしたが、この限りではない。また、バッテリ充電率に応じて充電による温度上昇を考慮して、制御装置は制限開始温度を変更するようにしてもよい。また、バッテリ充電率の閾値は、諸条件の異なるバッテリ毎の特性に応じて設定すればよく、上記の実施形態に記載した閾値に限定されない。
○ 上記の実施形態では、バッテリはリチウムイオン二次電池としたが、バッテリはリチウムイオン電池に限定されない。バッテリは、例えば、バッテリの状態を監視してバッテリを制御することができるバッテリ制御装置を備えたニッケル水素電池等の二次電池であってもよい。
○ 上記の実施形態では、バッテリ温度の上昇時において駆動モータの回転数を制限する制御としたが、駆動モータの回転数の制御に限定されない。例えば、制御装置は、駆動モータの回転数に代えて回生力を制限するようにしてもよい。この場合、バッテリの温度が制限開始温度よりも高くなり、制限開始温度よりも高く、かつ、使用可能上限温度よりも低い第1高温状態であると、駆動モータの回生力は予め設定されている上限回生力に制限されてもよい。バッテリ温度の上昇により回生力が制限を受けるので、オペレータは回生力の制限により意図する制動動作が行い辛くなることを体感し、モニタに表示される高温警告の表示とともに、バッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。さらに、バッテリ温度が、規定温度より低く、使用可能上限温度よりも高い第2高温状態であると、走行用モータの回生力は最大の制限を受けるようにしてもよい。この場合、オペレータは回生力の制限により意図する制動動作が行い辛くなることを強く体感し、モニタに表示される停止警告の表示とともに、バッテリの温度が規定温度付近まで上昇していることを認識する。また、回生力の制限は、回転数の制限と同様に、バッテリの温度上昇とともに段階的に低下させてもよい。さらに、バッテリの充電率が予め設定した閾値未満のとき、制限開始温度をバッテリの充電率が前記閾値以上のときよりも低くしてもよい。
○ 上記の実施形態では、バッテリ温度の上昇時において駆動モータの回転数を制限する制御としたが、駆動モータの回転数の制御に限定されない。例えば、駆動モータの回転数に代えて、アクセルレバーの開度を制限するようにしてもよい。この場合、バッテリの温度が制限開始温度よりも高くなり、制限開始温度よりも高く、かつ、使用可能上限温度よりも低い第1高温状態であると、アクセルレバーの開度は予め設定されている上限開度に制限されてもよい。アクセルレバーの開度がバッテリ温度の上昇により制限を受けるので、オペレータはバッテリの遮断状態が迫っていることを認識することができる。例えば、前方にアクセルレバーを100%倒しても、アクセルレバーを前方に80%倒したことに相当する制限を受ける。さらに、バッテリ温度が、規定温度より低く、使用可能上限温度よりも高い第2高温状態であると、アクセルレバーの開度は最大の制限を受けるようにしてもよい。この場合、オペレータはアクセルレバーの開度の制限により意図する動作が行い辛くなることを強く体感し、モニタに表示される停止警告の表示とともに、バッテリの温度が規定温度付近まで上昇していることを認識する。また、アクセルレバーの開度の制限は、回転数の制限と同様に、バッテリの温度上昇とともに段階的に低下させてもよい。さらに、バッテリの充電率が予め設定した閾値未満のとき、制限開始温度をバッテリの充電率が前記閾値以上のときよりも低くしてもよい
上記の実施形態では、アクセル操作手段として手で操作するアクセルレバーを例示したが、アクセル操作手段はアクセルレバーに限定されない。アクセル操作手段は、例えば、踏む込みにより操作されるアクセルペダルであってもよい。
○ 上記の実施形態では、バッテリ式産業車両としてリーチ型フォークリフトについて例示したが、バッテリ式産業車両はリーチ型フォークリフトに限定されない。例えば、カウンタウエイト型のバッテリフォークリフトや電動式の牽引車であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 フォークリフト(バッテリ式産業車両)
11 車体
14 荷役装置
22 ドライブユニット
23 走行用モータ
24 駆動輪
29 アクセルレバー
40 バッテリ装置
41 インバータ装置
42 コントローラ(制御装置)
43 アクセルセンサ
45 バッテリ制御装置
46 バッテリ
47 遮断スイッチ
48 電池モジュールユニット
49 電池モジュール
51 モジュールコントローラ
52 バッテリ温度検出器
55 インバータ制御装置
56 インバータ
57 インバータ回路
58 モータ回転検出器
59 アクセルセンサ
T11 バッテリ温度(制限開始温度)
T12、T13、T14、T15 バッテリ温度
T2 バッテリ温度(使用可能上限温度)
T3 バッテリ温度(規定温度)
N1、N2、N3、N4、N5、N6 上限回転数
N7 上限回転数(最低上限値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6