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特許7192376インクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法
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  • 特許-インクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】インクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20221213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221213BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221213BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20221213BHJP
【FI】
C09D11/54
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 112
B41M5/00 120
B41M5/00 132
C09D11/322
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018192219
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020059810
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 晴加
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 孝由
(72)【発明者】
【氏名】田郡 大隆
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127521(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069077(WO,A1)
【文献】特開2017-019252(JP,A)
【文献】特開2018-094902(JP,A)
【文献】特開2017-052930(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212848(WO,A1)
【文献】特開2019-218514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクとで構成されるインクジェット記録液セットであって、
前記インクジェット記録用前処理液が、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有し、かつ
前記インクジェットインクが、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有する
ことを特徴とするインクジェット記録液セット。
【請求項2】
前記複合樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録液セット。
【請求項3】
前記複合樹脂微粒子における前記ポリウレタン系樹脂(U)と前記ポリオレフィン系樹脂(O)との質量比(U/O)の値が、40/60~95/5の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録液セット。
【請求項4】
前記複合樹脂微粒子に含有されるウレタン系樹脂のポリオール成分が、その分子中に、カーボネート基又はエーテル結合を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【請求項5】
前記3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-ブタノールの含有量が、前記インクジェットインク全質量に対して5.0~30質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【請求項6】
前記凝集剤が、多価金属塩又は有機酸であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【請求項7】
前記インクジェットインクが、界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【化1】
〔式中、Rは、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Xは、炭素数2~6のアルキレン基を表し、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n及びmは、それぞれ繰り返し単位構造の数を表し、mは2~50の整数であり、nは0~20の整数である。〕
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを構成するインクジェット記録用前処理液を製造するインクジェット記録用前処理液の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂とを乳化分散して複合樹脂微粒子を形成する工程と、
前記複合樹脂微粒子と凝集剤を混合する工程と、
を少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録用前処理液の製造方法。
【請求項9】
インクジェットインクを用いた印刷物であって、
非吸収性基材上に、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを用いて形成された前処理層と画像層とを有することを特徴とする印刷物。
【請求項10】
インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクを用いて画像を形成するインクジェット記録方法であって、
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを用いて、
非吸収性基材上に、前記インクジェット記録用前処理液を付与して前処理層を形成する工程と、
形成した前記前処理層上に、前記インクジェットインクを用いて画像層を形成する工程と、を経て画像形成する
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法に関し、より詳しくは、非吸収性基材に対し、高速印字の際の画像品質、耐水性、画像定着性及び速乾性に優れた高品位のインクジェット画像が得られるインクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷分野ではインクジェット方式による印刷方法が発達し、広く実用化している。インクジェットインクとインクジェットプリンターを用いて印刷する際、インクジェットヘッドから吐出したインクは、記録媒体に着弾した後、浸透、定着してドットを形成し、このドットが多数集合することによって画像が形成される。このドットの形成過程は、鮮明な画像を形成する上で重要な要素となる。
【0003】
記録媒体には非塗工紙、塗工紙、延伸ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂及びナイロン等、様々な基材が用いられている。
【0004】
このうち、記録媒体として樹脂等の非吸収性基材を用いると、基材自身はほとんどインク吸収能を備えていないため、吐出されたインク液滴は、例えば、疎水性の基材表面に留まることとなるため、基材表面に色材を含むインクを均一に付与することが難しく、画像ムラ等が発生し、また、吐出したインク中の色材の基材への定着性が低下しやすいという問題もあった。加えて、高速印字を行うと、水性のインクジェットインクを用いた場合には、乾燥性も大きな問題となっている。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1には、非吸収性基材、具体的にはポリ塩化ビニル基材への印刷に用いる水性のインクジェットインクにおいて、樹脂微粒子とともに、水溶性有機溶媒成分として、3-メトキシ-1-ブタノールを含有することにより、ポリ塩化ビニル基材への印刷において、速乾性、耐水性及び画像品質が向上することが開示されている。しかしながら、上記提案されているインクジェットインクでは、高速でのインクジェット印字を行った際に得られる画像品質が低く、かつインクジェットヘッドからの射出安定性にも乏しいことが判明した。
【0006】
また、特許文献2には、非吸収性フィルム基材に対し、ノニオン性樹脂微粒子と多価金属塩を含む表面処理用液体組成物(前処理液)と、インクを付与して画像を形成することにより、画像部のラミネート強度、画像濃度、耐擦過性等が向上する画像形成方法が開示されているが、この方法で形成した画像は、非吸収性フィルム基材に対する画像定着性及び耐水性に問題を抱えていることが判明した。
【0007】
また、特許文献3には、吸収性基材(普通紙)に対し、多価金属塩と3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールとを含有する前処理液を付与した後、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含むインク組成物を付与して画像形成するインクジェット記録方法が開示されている。この方法によれば、速乾性に優れた画像を得ることができるとされているが、このインクジェット記録方法を非吸収性基材に適用した場合には、画像定着性及び耐水性が不十分であり、非吸収性基材に対する適性は有していないことが判明した。
【0008】
従って、非吸収性基材に対し、高速印字の際の画像品質、耐水性、画像定着性及び速乾性に優れた高品位のインクジェット画像が得られるインクジェット記録方法の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-44074号公報
【文献】特開2018-94902号公報
【文献】特開2009-202596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高速印字の際の画像品質、耐水性、画像定着性及び速乾性に優れた高品位のインクジェット画像が得られるインクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、インクジェット記録用前処理液中に特定の複合樹脂微粒子を含有させることにより非吸収性基材との密着性を向上させるとともに、インクジェットインク中に特定の水溶性有機溶媒を含有させることにより、前処理層中の凝集剤や複合樹脂微粒子等の成分と画像層中の色材等の構成成分との相互作用/機能を好適に発現させることにより、高速印字の際の画像品質、耐水性等に優れた高品位のインクジェット画像が得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクとで構成されるインクジェット記録液セットであって、
前記インクジェット記録用前処理液が、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有し、かつ
前記インクジェットインクが、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有する
ことを特徴とするインクジェット記録液セット。
【0014】
2.前記複合樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることを特徴とする第1項に記載のインクジェット記録液セット。
【0015】
3.前記複合樹脂微粒子における前記ポリウレタン系樹脂(U)と前記ポリオレフィン系樹脂(O)との質量比(U/O)の値が、40/60~95/5の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載のインクジェット記録液セット。
【0016】
3.前記複合樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることを特徴とする第1項又は第2項に記載のインクジェット記録液セット。
【0017】
4.前記複合樹脂微粒子に含有されるウレタン系樹脂のポリオール成分が、その分子中に、カーボネート基又はエーテル結合を有することを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【0018】
5.前記3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-ブタノールの含有量が、前記インクジェットインク全質量に対して5.0~30質量%の範囲内であることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【0019】
6.前記凝集剤が、多価金属塩又は有機酸であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【0020】
7.前記インクジェットインクが、界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セット。
【0021】
【化1】
〔式中、Rは、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Xは、炭素数2~6のアルキレン基を表し、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n及びmは、それぞれ繰り返し単位構造の数を表し、mは2~50の整数であり、nは0~20の整数である。〕
【0022】
8.第1項から第7項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを構成するインクジェット記録用前処理液を製造するインクジェット記録用前処理液の製造方法であって、
ポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂とを乳化分散して複合樹脂微粒子を形成する工程と、
前記複合樹脂微粒子と凝集剤を混合する工程と、
を少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録用前処理液の製造方法。
【0023】
9.インクジェットインクを用いた印刷物であって、
非吸収性基材上に、第1項から第7項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを用いて形成された前処理層と画像層とを有することを特徴とする印刷物。
【0024】
10.インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクを用いて画像を形成するインクジェット記録方法であって、
第1項から第7項までのいずれか一項に記載のインクジェット記録液セットを用いて、
非吸収性基材上に、前記インクジェット記録用前処理液を付与して前処理層を形成する工程と、
形成した前記前処理層上に、前記インクジェットインクを用いて画像層を形成する工程と、を経て画像形成する
ことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の上記手段により、高速印字の際の画像品質、耐水性、画像定着性及び速乾性に優れた高品位のインクジェット画像が得られるインクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【0026】
本発明で規定するインクジェット記録用前処理液(以下、単に「前処理液」ともいう。)とインクジェットインク(以下、単に「インク」、又は「インク液」ともいう。)から構成されるインクジェット記録液セット、インクジェット記録用前処理液の製造方法、印刷物及びインクジェット記録方法により、耐水性、高速印字の際の画像品質、非吸収性基材に対する画像定着性及び速乾性に優れた画像を得ることができた効果の発現機構及び作用機構について、以下のように推測している。
【0027】
(高速印字時の画質品質の向上について)
従来、前処理液に凝集剤を含有させることにより、上部に付与するインク中の色材成分(顔料粒子)を凝集させ、基材上でのにじみを防止できることが知られている。しかし、本発明における技術課題の一つである高速印字適性を付与しようとする場合には、上記構成では、白抜けやにじみの発生により、形成された画像の品質が低下する点が問題であった。
【0028】
上記問題に対し、インク中に本発明に係る水溶性有機溶媒である3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールをインクに含有させることにより、前処理層が含有している凝集剤の、インク中の上記水溶性有機溶媒中への溶解速度が向上し、素早く色材成分を凝集させることが可能となるため、高速印字の際でも良好な画質を得ることができると推察している。
【0029】
さらに、本発明に係る3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは、主鎖のアルキル基鎖が短く、かつ分岐構造を有しているため、適度な疎水性を有している。そのため、本発明に係る比較的疎水性のオレフィン樹脂成分を含有する複合樹脂微粒子で形成された前処理層上でのインクの濡れ性が向上し、高速印字の際でも白抜けのない、良好で均一な画像を得ることができると推察している。
【0030】
(非吸収性基材に対する画像定着性について)
従来、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系の樹脂微粒子は、主に、非吸収性基材に対する画像密着性を向上させる目的で使用されていた。しかし、それらの樹脂微粒子と凝集剤を含む前処理液を用いた系では、画像の定着性(以下、密着性又は接着性ともいう。)に関して問題があった。これは、非吸収性基材上に形成した前処理層表面に存在する凝集剤が低分子であることから、インクにより形成する画像層との接着性に関して何らかの阻害をしていると推察している。これに対して、本発明に係る3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールをインク液に適用することにより、インク液が前処理層に接触した際に、前処理層表面に存在する凝集剤がインク中に拡散して、前処理層表面に凝集剤が停滞しないことから、画像層と前処理層との接着性が良好になると推察している。
【0031】
加えて、本発明で規定する複合樹脂微粒子と3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを組み合わせることによりと、インク中に存在する3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが前処理層と接触した際に、前処理層表面を構成している複合樹脂微粒子塗膜を適度に可塑化し、画像層成分が一部前処理層表面に溶解して融着すると考えられ、その結果、接着性が向上すると推察している。
【0032】
また、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子を適用することにより、ウレタン部位が、非吸収性基材、例えば、PET等の高極性基材に対する密着性を向上させ、オレフィン部位が低極性基材への密着性向上に寄与する。
【0033】
これらの効果により、非吸収性基材と前処理層界面や、凝集剤を含んだ前処理層と画像層界面の密着性が強くなり、画像定着性が向上すると考えらえる。
【0034】
(耐水性について)
本発明のインクジェット記録液セットを用いることにより、耐水性も向上する。
【0035】
本発明に係る複合樹脂微粒子を用いることにより、非吸収性基材上で形成した前処理層はその構造が海島構造を形成すると推定している。本発明において、複合樹脂微粒子と凝集剤の組み合わせにより、海島構造の海部分に相溶した凝集剤が存在することにより、塗膜形成時に複合樹脂微粒子の粒子間の相互作用を強め、凝集剤を含んだ前処理層でも、強固な前処理層を形成可能にする。このことから、水分が前処理層内に入り込みにくい塗膜構造となるため、耐水性が向上したと推定している。
【0036】
さらに、比較的低分子で適度に疎水性を備えた3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは、前述した凝集剤をインク中に取り込みやすくしている。加えて、これらの溶媒は、顔料粒子の周りに存在する顔料分散剤を適度に可塑化していると推測している。このことから、インクが乾燥する際に、顔料粒子と分散剤が融着する過程で、顔料粒子及び分散剤で構成される構造の中に凝集剤が閉じ込められ、顔料粒子と分散剤により隙間なく製膜された画像層になると推定している。これにより、親水性が高く、耐水性を低下させる機能を有している凝集剤は封止され、その結果、水分の影響を受けづらくなり、塗膜全体の水分による膨潤が抑制されるため、耐水性が向上したと推定している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明のインクジェット記録方法に適用可能な前処理液付与手段を有するインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図
図2】本発明の印刷物の構成の一例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明のインクジェット記録液セットは、インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクとで構成され、前記インクジェットインクが、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有し、かつ、前記インクジェット記録用前処理液が、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0039】
本発明に係る複合樹脂微粒子においては、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなることを特徴とし、更に好ましくは、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂微粒子であることが好ましい。これは、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有された複合樹脂微粒子は、もともと相互作用の低いポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂が強固に相互作用した状態であり、加えて、その複合樹脂微粒子により前処理層を成膜させると、相溶性の高いポリウレタン樹脂微粒子同士で融着し、微細な海島構造を形成する。これらのことにより、極性の低いポリプロピレン基材と相互作用可能なポリオレフィン系樹脂、極性の高いポリエチレンテレフタレート基材及び色材と相互作用可能なポリウレタン系樹脂が、基材上に強固に定着する。よって、極性の異なるポリオレフィン基材及びポリエチレンテレフタレート基材への画像密着性を向上させることができる。
【0040】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、複合樹脂微粒子におけるポリウレタン系樹脂(U)とポリオレフィン系樹脂(O)との質量比(U/O)の値を、40/60~95/5の範囲内とすることにより、非吸収性基材との相互作用を高めながら、複合樹脂微粒子と色材との相互作用が向上する効果が発現し、画像密着性を向上させることができる。また、ポリオレフィン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、耐水性に優れる点で好ましい。加えて、上記の質量比の範囲とすることにより、インク溶媒が前処理層の深部まで浸透すること防止することができ、速乾性が向上する点で好ましい。
【0041】
また、複合樹脂微粒子に含有されるポリウレタン系樹脂のポリオール成分が、その分子中に、カーボネート基又はエーテル結合を有することが、加水分解が生じにくく、耐水性に優れる点で好ましい。
【0042】
また、3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-ブタノールの含有量が、前記インクジェットインク全質量に対して5.0~30質量%の範囲内であることが、速乾性に優れた効果を発現でき、前処理層に対する濡れ性が確保でき、定着性及び画像品質がより向上させることができる点で好ましい。
【0043】
また、凝集剤が、多価金属塩又は有機酸であることが好ましい。例えば、カチオンポリマーのような凝集剤では凝集する力が弱く、濡れ広がりすぎてしまうため、隣接ドット同士が大きく重なり画質の劣化につながると考えられる。有機酸や多価金属塩のような、凝集する力が強い凝集剤を使用することにより、凝集と濡れ性とのバランスが良好となり、画質及び耐水性が向上するものと考えられる。
【0044】
また、インクジェットインクが、界面活性剤として、前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することが好ましい。当該シリコーン系界面活性剤は、素早く液体表面に配向しやすく、動的表面張力を大きく下げる効果がある。したがって、インクジェットインクの前処理層上への塗布性を著しく向上させることができ、形成する画像層の画質を向上させることができる。
【0045】
また、本発明のインクジェット記録用前処理液の製造方法は、ポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂とを乳化分散して複合樹脂微粒子を形成する工程と、前記複合樹脂微粒子と凝集剤を混合する工程とを少なくとも有することを特徴とする。
【0046】
また、本発明の印刷物は、非吸収性基材上に、本発明のインクジェット記録液セットを用いて形成された前処理層と画像層とを有することを特徴とする。
【0047】
また、本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクを用いて画像を形成する方法であって、本発明のインクジェット記録液セットを用いて、非吸収性基材上に、前記インクジェット記録用前処理液を付与して前処理層を形成する工程と、形成した前記前処理層上に、前記インクジェットインクを用いて画像層を形成する工程と、を経て画像形成することを特徴とする。
【0048】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0049】
[インクジェット記録液セット]
本発明のインクジェット記録液セットは、インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクとで構成され、前記インクジェットインクが、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有する構成であり、かつ、インクジェット記録用前処理液が、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有する構成であることを特徴とする。
【0050】
以下、本発明のンクジェット記録液セットを構成するインクジェット記録用前処理液とインクジェットインクの各構成要素の詳細について説明する。
【0051】
《インクジェットインク》
本発明に係るインクジェットインクは、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有する構成であることを特徴とする。
【0052】
〔顔料〕
本発明に係るインクジェットインクに含有される顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが挙げられ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが好適である。
【0053】
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0054】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0055】
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0056】
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0057】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
【0058】
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0059】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0060】
(顔料分散剤)
顔料を分散させるために用いる分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000~200000の範囲のものを好適に用いることができる。
【0061】
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げられる。
【0062】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく、中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
【0063】
高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量部の範囲内であることが好ましく、10~40質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0064】
顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。
【0065】
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、更に塩基にて樹脂中の酸性基を部分的又は完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加して分散した後、有機溶媒を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0066】
インクジェットインク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50~200nmの範囲内であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、記録インクの保存安定性を向上できる。
【0067】
顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0068】
(顔料分散方法)
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
【0069】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。サンドミル分散に使用するビーズの材質は、特に限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲内であることが好ましい。
【0070】
インクジェットインクにおける顔料の含有量は特に限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい。
【0071】
〔水溶性有機溶媒〕
本発明でいう「水溶性有機溶媒」とは、水に対する20℃における溶解度が500g/L以上である有機溶媒をいう。水溶性有機溶媒として、好ましくは20℃において水に任意の割合で均一に混和する有機溶媒である。
【0072】
本発明に係るインクジェットインクにおいては、水溶性有機溶媒として、少なくとも、3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有することを特徴とする。
【0073】
本発明に係るインクジェットインクにおいて、3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを適用することにより、前述の通り、高速印字の際でも良好な画質を得ることができる。また、本発明のインクジェット記録液セットを用いて非吸収性基材に画像形成を行うことにより、インクが前処理層に接触した際に、前処理層表面に存在する凝集剤がインク中に拡散して、前処理層表面に凝集剤が停滞しないことから、非吸収性基材と前処理層界面、あるいは凝集剤を含んだ前処理層と画像層界面の密着性を向上させることができる。更に、比較的低分子で適度に疎水性を備えた3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを用いることにより、凝集剤をインク中に取り込みやすくなり、これらの溶媒は顔料粒子の周りに存在する顔料分散剤を適度に可塑化、インクが乾燥する際に、顔料粒子と分散剤が融着する過程で、顔料粒子+分散剤の構造の中に凝集剤を閉じ込めた状態で隙間なく製膜した状態になることにより、耐水性が向上する。
【0074】
本発明に係るインクジェットインクにおける3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールの含有量は、インクジェットインク全質量に対して5.0~30質量%の範囲内であることが好ましい。含有量が5.0質量以上であれば、上記各効果を発現させることができ、30質量%以下であれば、インクジェットインクの液物性(インク粘度等)を損なうことがなく、画像形成時の射出安定性を維持することができる。
【0075】
本発明に係るインクジェットインクにおいては、本発明の目的効果を損なわない範囲で、公知の水溶性有機溶媒を用いることができる。併用が可能な水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類、炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類などが挙げられる。
【0076】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等が挙げられる。
【0077】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレンオキサイド基の数が5以上のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレンオキサイド基の数が4以上のポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等が挙げられる。
【0078】
アミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等が挙げられる。
【0079】
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0080】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0081】
炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類としては、例えば、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0082】
本発明に係るインクにおける有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、10~60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0083】
〔シリコーン系界面活性剤〕
本発明に係るインクジェットインクにおいては、界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することが好ましい。
【0084】
【化2】
【0085】
上記一般式(1)において、Rは、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Xは、炭素数2~6のアルキレン基を表し、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n及びmは、繰り返し単位構造の数を表し、mは2~50の整数であり、nは0~20の整数である。
【0086】
本発明において、「EO」は、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるエチレンオキシドが開環した構造を表す。また、「PO」は、ポリプロピレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるプロピレンオキシドが開環した構造を表す。
【0087】
ここで、「[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい」とは、一般式(1)で表される化合物構造において、母体となるシロキサン骨格に対する結合位置の順序は適宜変えて良いことをいう。
【0088】
前記一般式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
【0089】
また、前記一般式(1)において、Xは、炭素数3のアルキレン基(すなわち、プロピレン基)であることが好ましい。
【0090】
また、前記一般式(1)において、mが5~20の整数であり、nが0~6の整数であることが好ましい。
【0091】
前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤の具体例として、S-1~S-8を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0092】
(S-1):前記一般式(1)において、R=メチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0
(S-2):前記一般式(1)において、R=ブチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=25、n=6
(S-3):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=3、n=0
(S-4):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=33、n=0
(S-5):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=22、n=16
(S-6):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0
(S-7):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=12、n=3
(S-8):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=1、n=0
前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤は、インク全体に対して0.1~3質量%の範囲内であることが、保存安定性に優れ、かつ、効果的なインク濡れ性付与が可能となる点で好ましい。
【0093】
本発明に係る上記記載のシリコーン系界面活性剤S-1~S-8の合成方法を、下記に示す。
【0094】
(界面活性剤S-1の合成例)
撹拌機、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素吹き込み管を備えた5つ口フラスコに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)を450質量部と、HPt16・6HOヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(東京化成工業(株)製)を0.01質量部とを仕込み、窒素置換を行った。70℃に加熱し、ヘプタメチルトリシロキサン(アルドリッチ社製)220質量部を1時間かけて滴下したのち、反応容器を110℃まで昇温させて4時間反応させた。反応後に未反応材料を減圧留去することで、目的のシリコーン活性剤である、シリコーン系界面活性剤S-1を得た。得られたシリコーン活性剤S-1は、一般式(1)中のR=メチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0095】
(界面活性剤S-2の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニセーフPKA-5015 日油株式会社製)1600質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤S-2を得た。得られたシリコーン系界面活性剤S-2は、一般式(1)中のR=ブチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=25、n=6に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0096】
(界面活性剤S-3の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5001 日油株式会社製)200質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤3を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=3、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0097】
(界面活性剤S-4の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5005 日油株式会社製)1500質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤S-4を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=33、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0098】
(界面活性剤S-5の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニルーブPKA-5013 日油株式会社製)2000質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤5を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=22、n=16に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0099】
(界面活性剤S-6の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5003 日油株式会社製)450質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤6を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0100】
(界面活性剤S-7の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニセーフPKA-5011 日油株式会社製)750質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤7を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=12、n=3に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0101】
(界面活性剤S-8の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、エチレングリコールモノアリルエーテル(東京化成工業株式会社製)105質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤8を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=1、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0102】
〔水・その他の添加剤〕
本発明に係るインクに適用する水については、特に制限はないが、イオン交換水、蒸留水、又は純水であることが好ましい。
【0103】
本発明に係るインクには、上記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤の他に、従来公知の界面活性剤を含有させることもできる。これにより、インク出射安定性の向上や、非吸収性基材や前処理層上に着弾した液滴の広がり(ドット径)を制御することができる。
【0104】
本発明に係るインクの表面張力は、35mN/m以下が好ましく、更には、30mN/m以下に調整することがより好ましい。
【0105】
本発明に係るインクで用いることができる界面活性剤は、特に制限なく用いることができるが、インクの他の構成成分にアニオン性の化合物を含有するときは、界面活性剤のイオン性はアニオン、ノニオン又はベタイン型が好ましい。
【0106】
本発明において、好ましくは静的表面張力の低下能が高いフッ素系界面活性剤や、動的表面張力の低減能が高いジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン界面活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン界面活性剤が好ましく用いられる。フッ素系界面活性剤と、動的な表面張力の低減能が高い界面活性剤を併用して用いることも好ましい。
【0107】
本発明に係るインクにおける界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.1~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0108】
本発明に係るインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコーンオイル等の油滴微粒子、特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報、同62-261476号公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報、同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報、特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0109】
上記構成からなる本発明に係るインクの粘度としては、25℃で1~40mPa・sの範囲内であることが好ましく、より好ましくは2~10mPa・sの範囲内である。
【0110】
《インクジェット記録用前処理液》
本発明に係るインクジェット記録用前処理液は、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有することを特徴とする。
【0111】
〔複合樹脂微粒子〕
本発明に係る複合樹脂微粒子は、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有された複合樹脂微粒子であり、ポリオレフィン系樹脂が、上記親水基を有するポリウレタン系樹脂により乳化されて複合樹脂化したものであることが好ましい態様である。
【0112】
すなわち、複合樹脂微粒子において、ポリウレタン系樹脂は、水不溶性樹脂としてのポリオレフィン系樹脂と連続相である水との界面に存在して、水不溶性樹脂を保護する樹脂と異なる水不溶性樹脂層として機能している。このようにポリオレフィン系樹脂をポリウレタン系樹脂により乳化させてなる複合樹脂微粒子とすることで、ポリオレフィン系樹脂単独の場合におけるポリウレタン系樹脂や凝集剤、架橋剤との相溶性の低下を抑制することができ、又、ポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂をそれぞれ乳化させることにより、単に両者を混合する場合に比べて、塗膜物性を向上することができ、また、本発明に係る前処理液の安定性を改善することができる。
【0113】
複合樹脂微粒子におけるポリウレタン系樹脂(U)とポリオレフィン系樹脂(O)との質量比の値(U/O)は、40/60~95/5の範囲内であることが好ましく、40/60~80/20の範囲内であることが更に好ましい。ポリウレタン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、分散剤との相溶性が向上する傾向が見られ、また、耐溶媒性についても優れている。また、ポリオレフィン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、ポリオレフィン系フィルム基材に対する密着性に優れる。
【0114】
本発明に係る複合樹脂微粒子は、前処理液の全質量(100質量%)に対して、1~30質量%の範囲内で含有されていることが好ましく、2~20質量%の範囲内で含有されていることが、前処理液としての保存安定性やブルーミング(画像表面に樹脂や凝集剤が析出・結晶化する現象))を抑制する観点から好ましい。
【0115】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂(O)としては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物で変性されたポリオレフィン等の変性ポリオレフィンが挙げられる。
【0116】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の他、エチレン及び/又はプロピレンと、他のコモノマー、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンなどの炭素数2以上、好ましくは2~6のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)が挙げられる。また、これらの他のコモノマーを2種類以上共重合したものでもよい。
【0117】
また、これらのポリマーを2種以上混合して用いることもできる。
【0118】
変性ポリオレフィンとしては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物で変性されたポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0119】
不飽和カルボン酸及び酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸などの、α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。
【0120】
これらは、それぞれ単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよく、2種以上併用した場合、塗膜物性が良好になることが多い。
【0121】
上記1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミド等が挙げられる。また、スチレン系モノマーとして、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。さらに、この他に併用し得るモノマーとしては、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バーサチック酸のビニルエステル等のビニル系モノマーが挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸を示す。
【0122】
ポリオレフィンの変性は、ポリオレフィンを一旦トルエン又はキシレンのような有機溶媒に溶解させ、ラジカル発生剤の存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物で行うか、又は、ポリオレフィンの軟化温度又は融点以上まで昇温できる溶融状態で反応させることができるオートクレーブ、又は1軸又は2軸以上の多軸エクストルーダー中で、ラジカル発生剤の存在下又は不存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行う。
【0123】
該変性反応に用いられるラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシエチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドのようなパーオキサイド類や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらの過酸化物を使用してグラフト共重合させる場合、その過酸化物量はポリオレフィン100質量部に対して0.1~50質量部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5~30質量部の範囲内である。
【0124】
以上の乳化原料としてのポリオレフィン系樹脂は、公知の方法で製造されたものでよく、それぞれの製造方法や変性度合については特に限定されない。
【0125】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が20000~100000の範囲内であることが好ましい。20000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性や耐溶媒性(耐ガソホール性)のような塗膜物性が向上する。100000以下であると、有機溶媒に対する溶解性がよく、乳化分散体の粒子径の微小化が促進される。
【0126】
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
【0127】
また、本発明では市販のポリオレフィン系樹脂を用いることもでき、ポリオレフィン構造を有する樹脂からなる樹脂微粒子として、日本製紙社製「アウローレン150A」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、「スーパークロンE-415」(ポリプロピレン樹脂微粒子)、「アウローレンAE-301」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、東洋化成社製「ハードレンNa-1001」等の市販品を用いることができる。
【0128】
(ポリウレタン系樹脂)
ポリウレタン系樹脂(U)としては、親水基を有するものが用いられる。親水基を導入することで、ポリオレフィン系樹脂に対する乳化剤としての機能を、ポリウレタン系樹脂に付与することができ、ポリオレフィン系樹脂の乳化分散体である複合樹脂微粒子を得ることができる。
【0129】
このような親水基としては、カルボキシ基(-COOH)及びその塩、スルホン酸基(-SOH)及びその塩などが挙げられる。
【0130】
上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩などが挙げられる。これらの中でも、親水基としては、カルボキシ基又はその塩が好ましい。
【0131】
複合樹脂微粒子に使用し得るポリウレタン系樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン系樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得られるものである。
【0132】
ポリウレタン系樹脂水分散体の調製に使用し得るポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのいずれも使用することができる。中でも、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いて、ウレタン系樹脂中に、カーボネート基又はエーテル結合を有する構造とすることが、凝集剤との相溶性に優れる点で好ましい。
【0133】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物を挙げることができる。
【0134】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのような各種のポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0135】
ポリカーボネートポリオールは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。そのようなジオールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。これらのうちで、1,6-ヘキサンジオールを用いたポリカーボネートポリオールが、耐候性及び耐溶媒性の観点から好ましい。
【0136】
有機ポリイソシアネートとしては、ウレタン工業分野において公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートなどを挙げることができる。これらのうち、脂肪族イソシアネート及び/又は脂環族イソシアネートを用いることが好ましい。また、無黄変性を要求される場合には、脂肪族イソシアネートではHMDI、脂環族イソシアネートではIPDI、H12MDI、芳香族イソシアネートではXDI、TMXDIを使用することが好ましい。
【0137】
これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0138】
親水基含有化合物としては、分子内に1個以上の活性水素原子と上記親水基とを有する化合物が挙げられる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体、タウリン(すなわち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体などを挙げることができる。
【0139】
本発明に係るポリウレタン系樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物とを混合し、公知の方法により、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、まずウレタンプレポリマーが得られる。
【0140】
得られたウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン系樹脂が得られる。
【0141】
鎖伸長剤としては、水又はアミン化合物が好ましく用いられる。鎖伸張剤として水やアミンを用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
【0142】
鎖伸長剤としてのアミンとしては、ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジノ化合物などが用いられる。アミンには、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
【0143】
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートに対し不活性で、かつ、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶媒を用いてもよい。これらの溶媒として、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶媒は、最終的に除去されるのが好ましい。
【0144】
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
【0145】
ポリウレタン系樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000であることが好ましい。分子量を大きくして溶媒に不溶とした方が、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。
【0146】
また、本発明では、市販のポリウレタン系樹脂を用いることもでき、例えば、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子を好ましく用いることができる。
【0147】
カチオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」及び「スーパーフレックス650」(「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUC-20」(「パーマリン」は同社の登録商標)、大原パラヂウム化学株式会社製の「パラサーフUP-22」などを挙げることができる。
【0148】
ノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス500M」及び「スーパーフレックスE-2000」などを挙げることができる。
【0149】
(複合樹脂微粒子の調製)
本発明に係る複合樹脂微粒子は、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂が、上記親水基を有するポリウレタン系樹脂により乳化されて複合樹脂化したものである形態が好ましい。
【0150】
乳化により複合樹脂微粒子を調製する際には、上記ポリウレタン系樹脂とともに、乳化剤として界面活性剤を用いることもできる。すなわち、本発明に係る複合樹脂微粒子においては、更に界面活性剤を乳化剤として含有してもよい。界面活性剤を添加することにより、複合樹脂微粒子の貯蔵安定性を更に向上することができる。
【0151】
このような界面活性剤としては、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤のいずれか一方、又は両方を用いることが好ましい。これらのアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤は、全樹脂質量100質量部に対して、両活性剤の合計で1~20質量部配合することが好ましい。配合量が20質量部以下であれば、耐水性や耐溶媒性が優れる傾向となる。
【0152】
また、アニオン界面活性剤(X)とノニオン界面活性剤(Y)の配合質量比(X/Y)の値は、100/0~50/50の範囲内であることが好ましい。アニオン界面活性剤の配合量を上記範囲内とすることにより、乳化性や貯蔵安定性をより向上することができる。
【0153】
(複合樹脂微粒子の製造方法)
次いで、複合樹脂微粒子の具体的な製造方法について説明する。
【0154】
上述した複合樹脂微粒子は、下記(I)又は(II)の製造方法により調製することができる。
【0155】
(I)ポリオレフィン系樹脂を、親水基を有するウレタンプレポリマーにより水に乳化させ、次いで、鎖伸長剤としてのアミン又はその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長(高分子量化)する方法。
【0156】
(II)親水基を有するウレタンプレポリマーを水に乳化し、更に鎖伸長剤としてのアミン又はその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長させてポリウレタン系樹脂の水分散体を調製し、次いで、ポリオレフィン系樹脂をポリウレタン系樹脂の水分散体で乳化する方法。
【0157】
まず、上記(I)の製造方法について説明する。
【0158】
この方法では、まず、ポリオレフィン系樹脂を溶媒に溶解して得られた樹脂溶液と、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液とを混合し、混合物に水を添加して撹拌することにより乳化させる。
【0159】
上記溶媒としては、ヘキサン、イソヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、ベンゼンなどの有機溶媒、及び、超臨界状態にある二酸化炭素などの水以外の溶媒が挙げられる。
【0160】
これらは、単独、又は2種以上混合して用いることができる。
【0161】
また、乳化方法は、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、撹拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独撹拌、及びこれらを組み合わせた複合撹拌、サンドミル、多軸押出機の使用が可能である。また、該乳化に際して、ウレタンプレポリマーとともに、上記界面活性剤を混合してもよい。
【0162】
次いで、上記乳化液を水で希釈した後に、鎖伸長剤としてのアミンを添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を該鎖伸長剤により架橋させ、ポリウレタン系樹脂を高分子量化する。その後、有機溶媒を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリオレフィン系樹脂を含有する複合樹脂微粒子分散体(すなわち、水不溶性樹脂微粒子が分散された分散体)が得られる。
【0163】
このようにして得られる複合樹脂微粒子分散体において、上記ポリオレフィン系樹脂が変性ポリオレフィンである場合、塩基性物質を加えることによりポリマー中に導入された酸成分を中和してもよい。中和により同部分を電離させることで、ポリマー分子が伸長されて系全体が粘度上昇を起こすため、複合樹脂微粒子分散体はより安定性を増すことができる。この場合、塩基性物質の添加量によって、所望のpHに調整することができる。
【0164】
適用可能な塩基性物質としては、ポリオレフィン系樹脂中の酸部分を中和できるものであれば特に限定されず、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミン-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン等の有機の塩基物質、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の無機の塩基性物質等を挙げることができる。これらの塩基性物質を用いる際、1種類でもよいし、また2種類以上の塩基性物質を併用してもよい。なお、塩基性物質としてアミンを用いる場合、ウレタンプレポリマーを鎖伸張させる前に添加するものとしては、遊離イソシアネートと反応しないように3級アミンが用いられる。一方、鎖伸張後に変性ポリオレフィンを中和する場合、1級、2級、3級アミンのいずれも用いることができる。
【0165】
中和するのに用いられる塩基性物質の量は、変性ポリオレフィンの変性度合いによっても異なるが、変性ポリオレフィン100質量部に対して0.1~10質量部の範囲内であることが好ましい。塩基性物質の量が0.1質量部以上では、pHが中性になり、そのため複合樹脂微粒子分散体の保存性が向上する。一方、塩基性物質の量が10質量部以下であれば、複合樹脂微粒子分散体の保存安定性が良好となり、塩基性が強くなく親水性物質が多量に塗膜中に導入されないため、同塗膜の耐水性が向上する。
【0166】
次に、(II)の製造方法について説明する。
【0167】
この方法では、まず、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液に水を添加して乳化させ、次いで、得られた乳化液に、鎖伸長剤としてのアミンを添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を該鎖伸長剤により架橋させ、高分子量化したポリウレタン系樹脂の水分散体を調製する。
【0168】
その後、ポリオレフィン系樹脂を溶媒に溶解して得られた樹脂溶液と、上記で得られた親水基を有するポリウレタン系樹脂の水分散体とを混合して、該親水基を有するポリウレタン系樹脂によりポリオレフィン系樹脂を乳化させ、次いで、水で希釈した後に、有機溶媒を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリオレフィン系樹脂を含有する複合樹脂微粒子分散体(すなわち、水不溶性樹脂微粒子が分散された分散体)が得られる。
【0169】
(II)の製造方法における溶媒及び乳化方法は、前記(I)の製造方法で記載した内容と同様である。また、(II)の製造方法においても、ポリオレフィン系樹脂の乳化に際し、上記ポリウレタン系樹脂とともに、界面活性剤を混合してもよい。さらに、得られた複合樹脂微粒子分散体において、塩基性物質により変性ポリオレフィンを中和してもよいのも、上記(I)の製造方法と同様である。
【0170】
複合樹脂微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、10~500nmの範囲内であることが好ましく、10~300nmの範囲内であることがより好ましく、10~200nmの範囲内であることが更に好ましい。
【0171】
平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0172】
(複合樹脂微粒子のその他の添加剤)
本発明に係る複合樹脂微粒子には、他に酸化防止剤、耐光剤、可塑剤、発泡剤、増粘剤、着色剤、難燃剤、他の水性樹脂、各種フィラーを本発明の効果を阻害しない範囲において添加することができる。
【0173】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系又はセミカルバジド系などの酸化防止剤の溶液又はエマルションが挙げられる。
【0174】
耐光剤としては、ヒンダードアミン(HALS)系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの耐光剤の溶液又はエマルションが挙げられる。
【0175】
〔凝集剤〕
本発明のインクジェット記録用前処理液には、インクジェットインクと接触したときにインクが含有する顔料粒子等を凝集させる材料、すなわち凝集剤が含有されている。これにより、インクジェットインクとの相互作用が大きくなり、水溶性インクのドットをより固定化することができる。
【0176】
凝集剤は、カチオン性樹脂、金属キレート剤、多価金属塩及び有機酸のいずれかを含有することが好ましく、多価金属塩又は有機酸であることがより好ましい。
【0177】
カチオン性樹脂及び多価金属塩は、塩析によってインクジェットインク中のアニオン性の成分(通常は色材、具体的には顔料等)を凝集させることができる。
【0178】
上記有機酸は、pH変動によってインクジェットインク中のアニオン性の成分を凝集させることができる。
【0179】
カチオン性樹脂としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
【0180】
金属キレート剤としては、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、スズ等の金属に窒素含有基を有するアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物などが挙げられる。
【0181】
多価金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などの水溶性の塩が挙げられる。
【0182】
前処理液が含有する有機酸は、インクジェットインク中に含まれる顔料を凝集させるものであり、第1解離定数が3.5以下であることが好ましく、1.5~3.5の範囲内であることが好ましい。当該範囲内であると印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善される。
【0183】
有機酸は、塩基により完全には中和されていないものを用いることが好ましい。塩基による中和とは、これらの酸の酸性基と、正に帯電した他の元素又は化合物(例えば、金属などの無機化合物)と、がイオン結合していることを意味する。また、完全には中和されていないとは、有機酸が有する酸性基のうち、上記イオン結合を形成していない酸性基が存在することを意味する。イオン結合を形成していない酸性基を有する有機酸を用いることで、前処理液に含まれるポリウレタン構造を有する複合樹脂微粒子との相溶性が高くなり、透明な前処理層を形成することができることから、多価金属塩などを用いる場合よりも、形成された画像の色調が鮮やかになると考えられる。また、有機酸を用いることで前処理液の保存安定性を維持しやすく、前処理液を塗布、乾燥した後にブロッキングが起きにくい。
【0184】
上記観点から好ましい有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、又は、アクリルアミド及びその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、又は、リン酸及びその誘導体などが挙げられる。
【0185】
前処理液における有機酸の含有量は、前処理液のpHを有機酸の第1解離定数未満に調整する量であればよい。処理液のpHが有機酸の第1解離定数未満となる量の有機酸を前処理液に含有させることにより、高速プリント時の滲みを効果的に抑制できる。
【0186】
本発明に係る前処理液に含まれる凝集剤である有機酸とポリウレタン構造を有する複合樹脂微粒子により、インクで形成する画像層の滲み抑制と密着性を両立することが可能である。この理由について明確ではないが、以下のように推測している。
【0187】
本発明において、前処理液により形成された前処理液層上にインクジェットインクをプリントすることにより、前処理液層かインクに有機酸が溶解・拡散して、顔料を凝集、固定化することで滲みや密着不良が抑制されるものと考えている。したがって、特にプリント速度が高速なほど、有機酸のインク中への溶解・拡散速度を高めることが好ましい。有機酸の溶解・拡散速度を高めるためには、前処理液層を構成する樹脂がインクにより膨潤又は溶解する特性を有していることが好ましい。一方で、膨潤性又は溶解性が高すぎると均一な皮膜が形成できず密着性が得られないと推定している。ポリウレタン構造を有する複合樹脂微粒子は、その構造中に有するポリオール成分が、インク中に含まれる有機溶媒により適度に膨潤して有機酸の拡散を促進し、イソシアネート成分のハードセグメントにより均一な皮膜状態を維持できることで密着性も確保できるものと考えている。また、ポリオール成分は、ポリカーボネート構造又はポリエーテル構造を有することが、前処理液の保存安定性において特に好ましい。
【0188】
凝集剤は、前処理液中に0.1~20質量%の範囲内で存在することが、インクジェットインク中のアニオン性の成分を効果的に凝集させることができる点で好ましい。
【0189】
水溶性中の凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。例えば、凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で、凝集剤が酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で含有量を測定することができる。
【0190】
なお、有機酸を用いる場合、有機酸の付量は、インクに含まれるアニオン成分の中和当量以下に前処理液のpHを調整する量であることが好ましい。また、上記アニオン成分がカルボキシ基を有する化合物である場合、画像の滲みをより生じにくくする観点からは、上記有機酸の第1解離定数は3.5以下であることが好ましい。
【0191】
本発明に係る前処理液を構成する凝集剤の付量は、特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、凝集剤が多価金属塩である場合は、多価金属塩の付量が0.1~20g/mの範囲内とすることが好ましい。また、凝集剤が有機酸である場合、有機酸の付量は、水溶性インク中のアニオン成分の中和当量以下とすることが好ましい。
【0192】
〔水、その他の添加剤〕
本発明のインクジェット記録用前処理液に含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であることが好ましい。
【0193】
また、本発明のインクジェット記録用前処理液の調製には、溶媒として、水の他に有機溶媒を含有することができる。溶媒は後段の前処理液の乾燥時除去することができる。
【0194】
前処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等、他の成分を適宜配合することができる。
【0195】
〔インクジェット記録用前処理液の製造方法〕
本発明のインクジェット記録用前処理液の製造方法では、少なくとも、上記で説明したポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂とを乳化分散して複合樹脂微粒子を形成する工程と、前記複合樹脂微粒子と凝集剤を混合する工程とを経て、インクジェット記録用前処理液を調製しすることを特徴とする。
【0196】
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録用前処理液とインクジェットインクより構成されるインクジェット記録液セットを用い、非吸収性基材上にインクジェット記録用前処理液を付与して前処理層を形成し、次いで、形成した前記前処理層上に、インクジェットインクを用いて画像層を形成して画像記録を行うことを特徴とする。
【0197】
本発明の前処理液を非吸収性基材上に付与する方法としては、特に限定されないが、そのあとに付与するインクとの良好な密着性を得るためには、前処理液に含まれる複合樹脂微粒子の総付与量を、非吸収性基材に対して0.3g/m以上、更には、0.8g/m以上とすることが好ましい。非吸収性基材上への前処理液の付与方法は格別限定されないが、例えば、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット印刷法等の湿式塗布法を好ましく挙げることができる。
【0198】
また、前処理層上にインクジェットインクを付与して画像層を形成する方法としては、主に、インクジェット印刷法を適用する。
【0199】
本発明に好適なインクジェット印刷法において使用できるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもかまわない。また、吐出方式としては、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等などいずれの吐出方式を用いてもかまわない。
【0200】
特に、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう。)が好適である。
【0201】
一般的な基材の多くがロール形態で流通していることに鑑みて、シングルパス方式のインクジェット記録方法を用いることが好ましい。本発明の効果は、特にシングルパス方式のインクジェット記録方法において顕著になる。すなわち、シングルパス方式のインクジェット記録方法を用いた場合、高精細な画像を形成できる。
【0202】
シングルパス方式のインクジェット記録方法とは、基材が一つのインクジェットヘッドユニットの下を通過した際に、一度の通過でドットの形成されるべき全ての画素にインク滴を付与するものである。
【0203】
シングルパス方式のインクジェット記録方法を達成する手段として、ラインヘッド型のインクジェットヘッドを使用することが好ましい。
【0204】
ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことを指す。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。
【0205】
また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くすることも好ましい。
【0206】
基材である非吸収性基材の搬送速度は、例えば、1~120m/minの範囲内で設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な線速50~120m/minの範囲内という非常に速い線速でもインク滲みの発生をより抑制し、かつ、インク密着性の高い画像を得ることができる。
【0207】
非吸収性基材上に前処理液及びインクを付与して印刷物を作製した後には、印刷物を乾燥させてもよい。乾燥は、赤外線ランプ乾燥、熱風乾燥、バックヒート乾燥、減圧乾燥などの公知の方法で行うことができる。乾燥の効率をより高める観点からは、これらの乾燥方法のうち2種以上を組み合わせて印刷物を乾燥させることが好ましい。
【0208】
以下、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について好ましい一例を下記に示す。
【0209】
図1は、本発明のインクジェット記録方法に適用可能な前処理液付与手段を有するインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図である。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図1に示す前処理液付与手段を有するインクジェット記録装置(1)において、第1乾燥部(14)は省略することも可能である。
【0210】
前処理液付与手段を有するインクジェット記録装置(1)は、主に、プレコート部(10、前処理層(C)の形成部)、IJプリント部(20、画像層(R)の形成部)から構成されている。プレコート部(10)において、非吸収性基材(F)上に前処理層(C)が形成され、IJプリント部(20)によって画像層(R)が形成される。
【0211】
具体的には、送り出しローラー(30)から繰り出された非吸収性基材(F)上に、ロールコーター(11)によってノズル(12)から吐出された前処理液滴(13)が塗布され、前処理層(C)が形成される。続けて、第1乾燥部(14)によって前処理層(C)が乾燥される。図1においては、前処理層(C)の形成方法として、ロールコーター方式の例を示したが、その他に、インクジェットヘッドを用いて、インク液滴として付与する方法も好適に用いることができる。
【0212】
次いで、前処理層(C)上に、インクジェットヘッド(21)からインク液滴(22)が吐出されて、画像層(R)が形成され、第2乾燥部(23)によって乾燥後、巻取りローラー(40)によって、非吸収性基材(F)上に前処理層(C)と画像層(R)とが形成された印刷物が巻き取られる。
【0213】
《印刷物》
本発明の印刷物は、非吸収性基材上に、本発明のインクジェット記録用前処理液を用いて形成された前処理層と、前記前処理層上に、インクジェット記録液インクを用いて形成された画像層とを有することを特徴とする。
【0214】
図2は、本発明の印刷物の構成の一例を示す概略断面図である。
【0215】
図2に示すとおり、印刷物(P)は、非吸収性基材(F)上に、本発明のインクジェット記録用前処理液を、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット印刷法等を用いて前処理層(C)を形成し、当該前処理液層(C)を定着した位置に、インクジェットインクを、インクジェット印刷法を用い、インクジェットヘッドから吐出、定着して画像層(R)を形成するものである。
【0216】
上記構成は最小構成を示すものであり、記録媒体と前処理液層との層間に他の機能性層を形成してもよく、また、画像層の上層に、例えば、ラミネート接着層を介して非吸収性のフィルム基材等を貼合してもよい。少なくとも、前処理液層と画像層は接する構成は必須である。
【0217】
〈非吸収性基材〉
本発明の印刷物の形成や、インクジェット記録方法に適用する記録媒体としては、非吸収性基材を用いることを特徴とする。
【0218】
本発明でいう非吸収性基材とは、インクを吸収しない基材であり、本発明においては、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.51-87紙または板紙の液体吸収性試験方法(ブリストウ法)に準じて測定したインク転移量が0.1ml/mm2未満であり、実質的に0ml/mm2であるようなものを非吸収性記録媒体と定義する。
【0219】
非吸収性基材としては、特に好ましくは非吸収性フィルムである。このような非吸収性基材において、本発明のインクジェット記録用前処理液を塗布することによって、インクジェットインクを十分にピニングさせて、滲みの少ない高画質な画像を形成することができる。
【0220】
非吸収性フィルムの例には、公知のプラスチックフィルムが含まれる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、高密度ポリエチレンフィルム及び低密度ポリエチレンフィルムなどを含むポリエチレンフィルム(PE)、ポリプロピレンフィルム(PP)、ナイロン(NY)などのポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、及びポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。
【0221】
ガスバリアー性、防湿性、及び保香性などを付与するために、フィルムの片面又は両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電及びオゾン処理などが施されていてもよい。
【0222】
フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0223】
また、フィルムは、紙などの吸収性の基材の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の基材でもよい。
【0224】
上記フィルムの厚さは、10~120μmの範囲内であることが好ましい。
【実施例
【0225】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0226】
《前処理液の調製》
〔前処理液1の調製〕
下記に示す各添加剤を撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過して前処理液1を得た。なお、濾過前後で、実質的な組成変化はなかった。
【0227】
複合樹脂微粒子:HUX-2520(ADEKA社製 ウレタン系樹脂)
15.0質量部
凝集剤:酢酸ジルコニウム(IV) 5.0質量部
イオン交換水 全量が100質量部となる量
なお、本実施例において、前処理液組成における水不溶性樹脂微粒子、界面活性剤及び凝集剤の配合量(質量部)は、固形分換算した値である。
【0228】
〔前処理液2~23の調製〕
上記前処理液1の調製において、樹脂微粒子の種類と添加量、凝集剤の種類を、表Iの組み合わせに変更した以外は同様にして、前処理液2~23を調製した。
【0229】
表Iに各前処理液の構成を示す。
【0230】
【表1】
【0231】
上記表Iに略称で記載した各添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0232】
〔樹脂微粒子〕
(単一構成樹脂微粒子)
ペスレジンA-645GEX:ポリエステル樹脂、ユニチカ社製
スーパーフレックス650:ポリウレタン樹脂、第一工業社製
スーパークロンE-415:ポリオレフィン樹脂、日本製紙社製
(複合樹脂微粒子)
HUX2520:ポリウレタン系樹脂/ポリアクリル系樹脂、ADEKA社製
アクリットWEM-506:ポリカーボネート系 ポリウレタン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂=50/50、大成ファイン社製
U1A:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=97/3
U1B:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=35/65
U1C:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=95/5
U1D:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=90/10
U1E:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=80/20
U1F:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=70/30
U1G:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=60/40
U1H:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=50/50
U1J:ポリエステル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=40/60
U2:ポリカーボネート系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=50/50
U3:ポリエーテル系 ポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=50/50
上記複合樹脂微粒子U1A~U1J、U2、U3は、下記の方法に従って合成した。
【0233】
(複合樹脂微粒子U1Aの調製)
〈1〉ウレタンプレポリマー溶液U1の調製
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(商品名テスラック 2461、日立化成(株)製)を182質量部と、ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、商品名PEG600、第一工業製薬(株))を22.0質量部と、トリメチロールプロパンを5.6質量部と、N-メチル-N,N-ジエタノールアミンを43.8質量部と、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを204質量部と、メチルエチルケトン(MEK)216質量部を反応容器にとり(3級アミンの添加量9.6質量%、PEGの添加量4.8質量%)、75℃に保ちながら反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液U1を得た。
【0234】
〈2〉複合樹脂微粒子の調製
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリオレフィン系樹脂(商品名:アウローレン150S、日本製紙(株)製)を3.0質量部、メチルシクロヘキサンを240.0質量部及びメチルエチルケトンを48.0質量部、それぞれ投入し、80℃に昇温して加熱溶解させた。溶解後、内温を40℃に保ち、上記の方法で調製したウレタンプレポリマー溶液U1(不揮発分約50%)の194質量部を添加し、混合した。この溶液に58.0質量部の水を加え、ホモジナイザーを使用して乳化した後、260質量部の水を徐々に加え希釈し、これにエチレンジアミン1.0質量部と水12質量部とを混合した水溶液を徐々に添加し、1時間撹拌してポリマー化を行った。これを50℃減圧下、脱溶媒を行い、不揮発分(粒子としての固形分)約30質量%のポリウレタン系樹脂(U)/ポリオレフィン系樹脂(O)=97/3の複合樹脂微粒子U1Aの分散液を調製した。
【0235】
(複合樹脂粒子散体U1B~U1Jの調製〉
複合樹脂粒子分散体U1Aの調製において、上記ウレタンプレポリマー溶液U1及びポリオレフィン系樹脂(O)の固形分の含有質量比率(U/O)の値を表Iに記載のとおりに変更した以外は同様にして、不揮発分(粒子としての固形分)約30質量%の複合樹脂微粒子U1B~U1Jを調製した。
【0236】
(複合樹脂微粒子U2の調製)
上記複合樹脂微粒子U1Hの調製において、上記ウレタンプレポリマー溶液U1に代えて、下記に示すウレタンプレポリマー溶液U2を用いた以外は同様にして、複合樹脂粒子U2を調製した。
【0237】
〈ウレタンポリマー溶液U2の調製〉
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリカーボネートポリオール(分子量1000、商品名ニッポラン981、日本ポリウレタン工業(株))を182質量部と、ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、商品名PEG600、第一工業製薬(株))を22.0質量部と、トリメチロールプロパンを5.6質量部と、N-メチル-N,N-ジエタノールアミンを43.8質量部と、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを204質量部と、メチルエチルケトン(MEK)216質量部を反応容器にとり(3級アミンの添加量9.6質量%、PEGの添加量4.8質量%)、75℃に保ちながら反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液U2を得た。
【0238】
(複合樹脂微粒子U3の調製)
上記複合樹脂微粒子U1Hの調製において、上記ウレタンプレポリマー溶液U1に代えて、下記に示すウレタンプレポリマー溶液U3を用いた以外は同様にして、複合樹脂粒子U3を調製した。
【0239】
〈ウレタンポリマー溶液U3の調製〉
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリエーテルポリオール(PolyTHF2000、BASF(株))を182質量部と、ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、商品名PEG600、第一工業製薬(株))を22.0質量部と、トリメチロールプロパンを5.6質量部と、N-メチル-N,N-ジエタノールアミンを43.8質量部と、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを204質量部と、メチルエチルケトン(MEK)216質量部を反応容器にとり(3級アミンの添加量9.6質量%、PEGの添加量4.8質量%)、75℃に保ちながら反応を行い、ウレタンプレポリマー溶液U3を得た。
【0240】
(凝集剤)
PAS-1:カチオンポリマー、ニットーボーメディカル(株)
《インクの調製》
〔インク1の調製〕
(1)顔料分散液の調製
顔料(ピグメントブルー15:3)の18.0質量部に、顔料分散剤(水酸化ナトリウムで中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20質量%)を31.5質量部と、エチレングリコール20.0質量部と、イオン交換水30.5質量部を加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料の含有量が18.0質量%の顔料分散液を調製した。
【0241】
この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒子径は、109nmであった。なお、平均粒子径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザー1000HS」により行った。
【0242】
(2)インクの調製
上記調製した顔料分散液を撹拌しながら、顔料固形分が5.0質量部、分散剤固形分が1.5質量部となるように下記に示す各添加剤を順次添加して、インク組成物を調製した後、0.8μmのフィルターにより濾過してインク1を得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0243】
顔料固形分 5.0質量部
分散剤組成物 1.5質量部
プロピレングリコール 5.0質量部
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール 40.0質量部
界面活性剤 オルフィンE1010(日信化学社製) 1.0質量部
イオン交換水 全量が100質量部となる量
なお、実施例において、インク組成における架橋剤配合量(質量部)は、固形分換算した値である。
【0244】
〔インク2~15の調製〕
上記インク1の調製において、インク溶媒の種類と添加量、界面活性剤の種類を、表IIに記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、インク2~15を調製した。
【0245】
【表2】
【0246】
表IIに略称で記載した添加剤の詳細を、以下に示す。
【0247】
(インク溶媒)
MB:3-メトキシ-1-ブタノール
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
DGME:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
(界面活性剤)
インク8の調製で用いた界面活性剤S-7は、下記の方法で合成した。
【0248】
撹拌機、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素吹き込み管を備えた5つ口フラスコに、アリル化ポリエーテル(ユニセーフPKA-5011 日油株式会社製)を750質量部、HPt16・6HOヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(東京化成工業(株)製)を0.01質量部仕込み、窒素置換を行った。70℃に加熱し、ヘプタメチルトリシロキサン(アルドリッチ社製)220質量部を1時間かけて滴下したのち、反応容器を110℃まで昇温させて4時間反応させた。反応後に未反応材料を減圧留去することで、目的のシリコーン活性剤である、シリコーン系界面活性剤S-1を得た。得られたシリコーン活性剤S-7は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=12、n=3に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0249】
《印刷物の作製》
[印刷物1の作製]
上記調製した前処理液1とインク1によりインク記録液セット1を構成し、下記の方法に従って、印刷物1を作製した。
【0250】
〔前処理層の形成〕
非吸収性基材として、下記に示す2種のフィルム基材を用い、それぞれに、上記調製した前処理液1をバーコーター#10を用いて、乾燥後の樹脂固形分量1.5g/mとなる条件で塗布し、その後60℃で5分環乾燥させ、前処理層1を各非吸収性基材上に形成した。
【0251】
(非吸収性基材)
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム(E5102 東洋紡社製)
OPP:延伸ポリプロピレンフィルム(FOS-AQ 50μm、フタムラ社製)
〔画像層の形成〕
コニカミノルタ社製の独立駆動インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)2つを、ノズルが互い違いになるように並設して、720dpi×720dpiの画像をシングルパス方式で印刷できるヘッドモジュールを用い、各インクジェットヘッドには、インク1を充填した。かかるヘッドモジュールを2つ用意し、非吸収性基材を搬送する搬送ステージの搬送方向に沿って並設した。各ヘッドモジュールは、搬送方向(搬送ステージの移動軸)と交差するように設置した。このようにして、前処理層を有する非吸収性基材を1回パスさせる際に、インク1を、印字率200%、即ち2色分のインク付量(22.5cc/m)を印刷できるようにした。
【0252】
搬送ステージ上に、前処理層1が上になるように非吸収性基材を張付け、60m/minの高速で搬送を行い、非吸収性基材がヘッド下を通過する際にシングルパス方式で、インク1を吐出して、高速印字条件で画像層を形成した。画像としては、インク付量22.5cc/mの7cm四方のベタ中に、サイズ6ポイントの文字を抜き文字として配置した画像を印刷した。
【0253】
インクジェット法による画像層を形成した後、印刷物をホットプレート上に載置し、70℃、15分間乾燥し、前処理層1とインク層1とを有する印刷物1を得た。
【0254】
[印刷物2~32の作製]
上記印刷物1の作製において、前処理液とインクを、表IIIに記載の組み合わせに変更して調製したインク記録液セット2~32を用いた以外は同様にして、印刷物2~32を作製した。
【0255】
《印刷物の評価》
上記作製した印刷物(非吸収性基材:PET、OPP)について、下記の各評価を行った。
【0256】
〔画質の評価〕
上記作製した各印刷物の画像層(基材:PET、OPP)について、ベタ画像の埋まり及びインク滲みの状態を目視観察し、以下の基準に従って画質を評価した。
【0257】
◎:PET及びOPPを用いた印刷物は、いずれも形成したベタ画像に、白筋の発生はなく、ベタ画像が均一に埋まっている。また、6ポイントの抜き文字が細部の潰れやにじみがなく、良好な再現性を示している
○:PET及びOPPを用いた印刷物では、いずれも形成したベタ画像に、1~2本の白筋が見られるが、ベタ画像の埋まりは良好で、6ポイントの抜け文字も細部の潰れなく、良好な再現できている
△:PET及びOPPを用いた印刷物のいずれか一方で、形成したベタ画像に、3~5本の白筋が見られ、6ポイントの抜け文字も一部で弱い潰れの発生が認められるが、実用上許容される品質である
×:PET及びOPPを用いた印刷物では、いずれも形成したベタ画像に、多数の強い白筋が発生し、かつ6ポイントの抜け文字の細部にわたり明らかな潰れの発生が認められ、実用上問題となる品質である
〔密着性の評価:PET及びOPP〕
上記形成したベタ画像(非吸収性基材:PET、OPP)について、JIS K 5600に準拠し、ベタ画像表面に、1mm間隔でカッターにより切れ込みを入れ、5×5の碁盤目(碁盤目数:25)を作成し、碁盤目状にセロハンテープを貼り付けた後、45°方向に引っ張り、ベタ画層が剥離した碁盤目数を計測し、下記の基準に従って、非吸収性基材としてPETとOPPを用いた水準における密着性をそれぞれ評価した。
【0258】
◎:テープ剥離試験による碁盤目の剥離は、全く発生していない
○:テープ剥離試験による碁盤目の剥離数が、1以上、3以下であり、良好な品質である
△:テープ剥離試験による碁盤目の剥離数が、4以上、6以下であり、実用上許容される品質である
×:テープ剥離試験による碁盤目の剥離数が、7以上であり、実用上問題となる品質である
〔速乾性の評価〕
上記非吸収性基材としてPETを用いて形成したベタ画像を、25℃で、乾燥時間として15分、30分、60分にて乾燥させた。次いで、各乾燥時間で乾燥させた後のベタ画像部に濾紙を押し当て、濾紙へのインク転写の有無を目視観察し、下記の基準に従って速乾性を評価した。
【0259】
◎:25℃、15分の乾燥条件で、濾紙へのインク転写は認められなかった
〇:25℃、30分の乾燥条件で、濾紙へのインク転写がなくなる
△:25℃、60分の乾燥条件で、濾紙へのインク転写がなくなる。
【0260】
×:25℃、60分の乾燥条件でも、濾紙へのインク転写が認められる
〔耐水性の評価〕
上記非吸収性基材としてPETを用いて形成したベタ画像を、40℃、25%RHの環境下で3日保管したのち、ベタ画像が切断端面となるようにして、10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を圧力鍋で30分煮沸した後、試験片の端部等を目視観察し、下記の基準に従って、各ベタ画像の耐水性を評価した。
【0261】
◎:試験片の端部及びベタ画像に全く剥がれが認められない
○:試験片のベタ画層内側に一部微細な剥がれが生じているが、切断端面には剥がれの発生が全くない
△:試験片の切断端面に弱い剥がれが生じているが、実用上許容される品質である
×:ベタ画像の大部分が、PET基材から完全に剥離している
以上により得られた結果を、表IIIに示す。
【0262】
【表3】
【0263】
表IIIに記載の結果よりから明らかなように、本発明のインクジェット記録液セットを用いて作製した本発明の印刷物は、高速印字で画像形成を行っても、比較例に対し、形成したインク画像品質、非吸収性基材、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムや延伸ポリプロピレンフィルムと形成したインク画像との定着性(密着性)、形成したインク画像の速乾性(乾燥性)及び耐水性に優れ、高品質の画像を非吸収性基材上に形成することができた。
【符号の説明】
【0264】
1 前処理液付与手段を有するインクジェット記録装置
10 プレコート部
11 ロールコーター
12 ノズル
13 前処理液滴
14 第1乾燥部
20 インクジェットプリント部
21 インクジェットヘッド
22 インク液滴
23 第2乾燥部
30 送り出しローラー
40 巻取りローラー
C 前処理層
F 非吸収性基材
P 印刷物
R 画像層
図1
図2