(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】圧延設備及び鋼板の圧延方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/22 20060101AFI20221213BHJP
C23G 3/02 20060101ALI20221213BHJP
B21B 3/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B21B1/22 J
C23G3/02
B21B3/02
(21)【出願番号】P 2018192381
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】白石 利幸
(72)【発明者】
【氏名】新國 大介
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 智
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-066040(JP,A)
【文献】特開2006-224120(JP,A)
【文献】特開平06-010171(JP,A)
【文献】特開平07-113188(JP,A)
【文献】特開2001-164318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-11/00
B21B 47/00-99/00
C23G 1/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延された鋼板
に対して張力を付与した状態で引張曲げ加工を施す前処理装置と、
前記
前処理装置により
前記引張曲げ加工が施された前記鋼板を酸洗する酸洗装置と、
前記酸洗装置により酸洗された前記鋼板を冷間圧延する冷間圧延機と、
を有
し、
前記前処理装置は、
第1の張力付与装置、曲げ伸ばし装置、及び、第2の張力付与装置を有するテンションレベラーと、加熱装置とを備え、
圧延設備の上流側から順に、前記第1の張力付与装置、前記加熱装置、前記曲げ伸ばし装置、前記第2の張力付与装置が配置されている、圧延設備。
【請求項2】
前記
前処理装置と
、前記酸洗装置と、は前記鋼板を連続して処理する、請求項1に記載の圧延設備。
【請求項3】
前記
前処理装置と
、前記酸洗装置と、前記冷間圧延機と、は前記鋼板を連続して処理する、請求項1に記載の圧延設備。
【請求項4】
前記冷間圧延機の圧延方向下流には、前記鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍装置を有し、
前記
前処理装置と
、前記酸洗装置と、前記冷間圧延機と、前記連続焼鈍装置と、は前記鋼板を連続して処理する、請求項1に記載の圧延設備。
【請求項5】
前記鋼板は、普通鋼、ハイテン鋼、電磁鋼板、またはステンレス鋼である、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧延設備。
【請求項6】
前記
前処理装置の上流には、前記鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧延設備。
【請求項7】
前記鋼板は、無方向性電磁鋼板または方向性電磁鋼板である、請求項
6に記載の圧延設備。
【請求項8】
第1の張力付与装置、曲げ伸ばし装置、及び、第2の張力付与装置を有するテンションレベラーと、加熱装置とを備え、圧延設備の上流側から順に、前記第1の張力付与装置、前記加熱装置、前記曲げ伸ばし装置、前記第2の張力付与装置が配置されている前処理装置により、熱間圧延された鋼板
に対して張力を付与した状態で引張曲げ加工を施し、
前記
前処理装置により
前記引張曲げ加工が施された前記鋼板を酸洗装置により酸洗し、
前記酸洗装置により酸洗された前記鋼板を冷間圧延機により冷間圧延する、鋼板の圧延方法。
【請求項9】
前記加熱装置により前記鋼板を加熱する温度は、前記鋼板の材質毎に予め取得された、前記テンションレベラーによる板破断が生じない加熱温度範囲に設定され、
前記テンションレベラーにより前記鋼板に与える伸び率は、前記鋼板の材質毎に予め取得された、前記加熱温度範囲における前記鋼板の伸び率と前記酸洗装置により前記鋼板のスケールが除去される酸洗速度との関係に基づいて設定される、請求項
8に記載の鋼板の圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延設備及び鋼板の圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用の鋼材として硬質脆性材料の需要が増大している。硬質脆性材料とは、電磁鋼板およびハイテン鋼に大別される。電磁鋼板には、無方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板がある。無方向性電磁鋼板は例えばハイブリッドカー用のモータ素材等として採用され、方向性電磁鋼板は、例えば発電所などの変圧器素材等として採用される。ハイテン鋼には例えばDP鋼、TRIP鋼等があり、本発明の対象とするハイテン鋼は590MPa以上の引張強度を有する。これらのハイテン鋼は、例えば自動車の骨格、外板等として採用されている。本明細書でハイテン鋼という場合にはこれらのものを指す。
【0003】
このような電磁鋼板およびハイテン鋼は、Siが成分として含まれるため、硬くて脆く、破断しやすいという特徴がある。また、電磁鋼板およびハイテン鋼は、熱間圧延後に生じるスケールが普通鋼に比べてはがれにくく、酸洗にて溶削しづらいという特徴がある。このため、例えば、ハイテン鋼を酸洗する際には、普通鋼よりも酸洗速度を遅くして溶削時間を長くすることでスケールを除去する対応を行っており、酸洗処理能力の低下を招いている。また、電磁鋼板においても、生産量向上のため、酸洗効率の向上が望まれている。なお、普通鋼においても、酸洗処理能力の向上が期待されていることは言うまでもない。
【0004】
ところで近年、冷間圧延設備では、板厚が規格値を外れてしまうオフゲージの発生と人件費との低減を図るために工程の連続化が行われている。例えば、特許文献1には、熱間圧延後のコイルを送り出す払い戻し機と、溶接機と、酸洗装置と、冷間圧延機と、巻き取り機と、を連続的に配備した連続圧延設備が開示されている。
【0005】
このような連続圧延設備において酸洗効率を上げる手段として、例えば特許文献2には、酸洗前にテンションレベラーを設置して、テンションレベラーにより鋼板表層のスケールにクラックを付与して、酸洗効率を上げることが開示されている。また、例えば特許文献3にはインラインミルを酸洗前に配備することで、特許文献2と同様に鋼板表層のスケールにクラックを付与して、酸洗効率を上げることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-293917号公報
【文献】特開2003-231981号公報
【文献】特開平9-164416号公報
【文献】実開平1-135119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハイテン鋼および電磁鋼板のような硬質脆性材料には、上述したように、硬くて脆く、破断しやすいという特徴がある。このため、硬質脆性材料に対してテンションレベラーにより引張り変形を与えると板破断が多発するため、硬質脆性材料にはテンションレベラーを使うことができない。よって、テンションレベラーを用いて鋼板の表面に生じたスケールにクラックを与えることができないため、酸洗効率は低下し、生産性の低下を生じさせていた。
【0008】
また、特許文献3に開示されているインラインミルを用いれば板破断の発生は抑制できるものの、インラインミルによる圧延でスケールが板に食い込む場合があった。また、ロールの摩耗により板の平坦度への影響や頻繁なロール交換が発生したり、インラインミルの設置により設備コストが増大したりするなどの課題もあった。このため、鋼板の品質面及び操業面の観点から、テンションレベラーを用いて硬質脆性材料の鋼板の表面に生じたスケールにクラックを付与できることが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、硬質脆性材料に対して板破断することなくテンションレベラーにより引張り変形を与えることが可能な、新規かつ改良された圧延設備及び鋼板の圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、熱間圧延された鋼板を加熱する加熱装置と、前記加熱装置により加熱された前記鋼板に対して曲げ伸ばしを行うテンションレベラーと、前記テンションレベラーにより曲げ伸ばしされた前記鋼板を酸洗する酸洗装置と、前記酸洗装置により酸洗された前記鋼板を冷間圧延する冷間圧延機と、を有する圧延設備が提供される。
【0011】
前記加熱装置と、前記テンションレベラーと、前記酸洗装置と、は前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0012】
前記加熱装置と、前記テンションレベラーと、前記酸洗装置と、前記冷間圧延機と、は前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0013】
前記冷間圧延機の圧延方向下流には、前記鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍装置を有し、
前記加熱装置と、前記テンションレベラーと、前記酸洗装置と、前記冷間圧延機と、前記連続焼鈍装置と、は前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0014】
前記鋼板は、普通鋼、ハイテン鋼、電磁鋼板、またはステンレス鋼であってもよい。
【0015】
前記加熱装置の上流には、前記鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有してもよい。
【0016】
前記加熱装置の代わりに、前記鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有し、前記熱処理装置と、前記テンションレベラーとは、前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0017】
前記加熱装置の代わりに、前記鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有し、前記熱処理装置と、前記テンションレベラーと、前記酸洗装置とは、前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0018】
前記加熱装置の代わりに、前記鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有し、
前記熱処理装置と、前記テンションレベラーと、前記酸洗装置と、前記冷間圧延機とは、前記鋼板を連続して処理してもよい。
【0019】
前記鋼板は、無方向性電磁鋼板または方向性電磁鋼板であってもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、熱間圧延された鋼板を加熱する加熱装置により前記鋼板を加熱し、前記加熱装置により加熱された前記鋼板を、テンションレベラーを用いて曲げ伸ばし、前記テンションレベラーにより曲げ伸ばしされた前記鋼板を酸洗装置により酸洗し、前記酸洗装置により酸洗された前記鋼板を冷間圧延機により冷間圧延する、鋼板の圧延方法が提供される。
【0021】
前記加熱装置により前記鋼板を加熱する温度は、前記鋼板の材質毎に予め取得された、前記テンションレベラーによる板破断が生じない加熱温度範囲に設定され、前記テンションレベラーにより前記鋼板に与える伸び率は、前記鋼板の材質毎に予め取得された、前記加熱温度範囲における前記鋼板の伸び率と前記酸洗装置により前記鋼板のスケールが除去される酸洗速度との関係に基づいて設定されてもよい。
【0022】
上記構成により、加熱装置により板温度が加熱され、テンションレベラーにより鋼鈑に対して伸び変形および張力が与えられることで、板破断を生じずに鋼板表面上のスケールにクラックが付与されるため、後の酸洗効率が上昇する。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、硬質脆性材料に対して板破断することなくテンションレベラーにより引張り変形を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る圧延設備を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る圧延設備を示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る圧延設備を示す図である。
【
図4】鋼板の板温度と板破断との関係を鋼種毎に示すグラフである。
【
図5】鋼板の伸び率と酸洗速度との関係を鋼種毎に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
<1.発明概要>
本発明は、熱間圧延後の鋼板をコイル状に巻き取った熱間圧延コイル、あるいは、熱間圧延後に熱処理された鋼板を、酸洗工程および圧延工程を含む冷間圧延設備により圧延する際の圧延設備および圧延方法に関する。
【0027】
本実施形態に係る圧延設備により処理する鋼板は、普通鋼だけでなく、硬質脆性材料も処理可能である。ここでいう硬質脆性材料は、具体的には、常温、かつ単軸引張試験から得られる0.2%耐力が300MPa以上、破断伸びが25%以下のハイテン鋼、無方向性電磁鋼板、あるいは方向性電磁鋼板、あるいは、常温、かつ単軸引張試験にて破断時の断面において脆性破断面積率が50%以上のハイテン鋼、無方向性電磁鋼板、あるいは方向性電磁鋼板をいう。該単軸引張試験は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準拠した方法を用いて測定した。
【0028】
発明者らは、鋭意研究し、熱間圧延後の鋼板をコイル状に巻き取った熱間圧延コイル、あるいは、熱間圧延後に熱処理された鋼板を、板破断なく、酸洗効率を向上させる圧延設備を想到した。本実施形態では、鋼板の酸洗を行う酸洗装置の上流に、スケールに対してクラックを付与可能なテンションレベラーを配備する。さらに、圧延対象とする鋼板が板破断しないように、また、テンションレベラーの上流には加熱装置を配備する。以下の実施形態の説明においては、加熱装置、テンションレベラーを総じて、前処理装置と称する。前処理装置を圧延設備に配置することにより、硬質脆性材料であっても板破断することなく鋼板表面に付着したスケールにクラックを生じさせることができ、酸洗工程における処理能力を向上させることができる。以下では、圧延設備の構成とこれによる鋼板の圧延方法について具体的に説明する。
【0029】
<2.第1の実施形態>
(2.1.圧延設備全体の構成順序)
まず、
図1を参照して、ハイテン鋼を圧延する圧延設備1000の各装置配置順序の一例を説明する。圧延設備1000は、前処理装置100と、酸洗装置40と、冷間圧延機50と、連続焼鈍装置60と、を有する。なお、本実施形態では、便宜上、前処理装置100の上流にて鋼板を処理する熱間圧延装置20を、圧延設備1000に包含して説明する。
【0030】
図1に示す本実施形態の圧延設備1000は、ハイテン鋼または普通鋼の圧延を行う圧延装置の一構成例である。ハイテン鋼は、例えば、重量%にて、C:0.005~0.20%、Si:0.005~1.0%、Mn:0.1~2.5%、P:0.050~0.10%、S:0.001~0.010%、Al:0.005~0.1%、N:0.0005~0.0100%、Cu:0.10~0.50%、Nb:0.01~0.05%、Mo:0.1~0.50%、Ni:0.05~0.50%、残部Feおよび不可避的不純物元素を含有する。
【0031】
熱間圧延装置20は、鋼板Sを熱間圧延する圧延装置である。熱間圧延装置20は、鋳造設備により製造された鋼板Sを熱間圧延する。熱間圧延では、粗圧延機および仕上げ圧延機等複数の圧延機を通過して、所望の板厚に圧延される。熱間圧延された鋼板Sは冷却装置(図示せず。)等により冷却され、巻取機によってコイル状に巻き取られる。コイル状に巻き取られた鋼板Sは、コイル払い出し機に供給されてから、前処理装置100に供給される。なお、コイル払い出し機に供給されるコイルは、ホットバス等で温度60℃以上に予め加熱されてもよい。
【0032】
前処理装置100では、鋼板Sを加熱した後に引張変形を施すことにより、鋼板Sの表面に形成されているスケールにクラックを付与する。前処理装置100の構成詳細は後述する。前処理装置100にて処理された鋼板Sは、次に酸洗装置40へ搬送される。鋼板Sは連続的に前処理装置100から酸洗装置40へ送り出されてもよい。あるいは、前処理装置100にて処理された後に鋼板Sをコイル状に巻き取り、酸洗工程にてコイル状の鋼板Sを払い出すことにより、不連続に前処理装置100から酸洗装置40へ搬送してもよい。
【0033】
酸洗装置40は、鋼板Sに形成されたスケールを溶削除去する。酸洗装置40の酸洗槽41には酸洗液が収容されている。酸洗液は、例えば塩酸または硫酸等の水溶液であり、スケールを溶削可能な酸洗液である。酸洗工程では、鋼板Sを酸洗槽41にて酸洗液に浸漬しながら搬送することにより、鋼板Sの表面に形成されたスケールを溶削する。また、場合によっては酸洗液に酸洗促進剤が混入されることもある。
【0034】
酸洗装置40にて酸洗された鋼板Sは、次に冷間圧延機50に送り出される。鋼板Sは連続的に酸洗装置40から冷間圧延機50へ送り出されてもよい。あるいは、酸洗装置40にて処理された後に鋼板Sをコイル状に巻き取り、冷間圧延機50にてコイル状の鋼板Sを払い出すことにより、不連続に酸洗装置40から冷間圧延機50へ搬送してもよい。
【0035】
冷間圧延機50は、酸洗された鋼板Sを冷間圧延する圧延機である。冷間圧延機50は、酸洗された鋼板Sを冷間圧延する。冷間圧延では、例えば、鋼板Sを、複数のスタンドを有するタンデム圧延機に連続的に通過させたり、またはリバース圧延機等により鋼板Sを往復させたりすることで、所望の板厚に圧延される。
【0036】
なお、例えば、タンデム圧延機またはリバース圧延機であれば、各スタンドまたはリバース圧延機の入側および出側では、圧延潤滑油を水に混入させたエマルションが圧延潤滑剤として供給されている。供給されたエマルションは、タンクに回収されて、再び各スタンドに供給される。このようにエマルションを回収し再度供給する潤滑手法をリサーキュレーション潤滑と称する。
【0037】
冷間圧延機50にて処理された鋼板Sは、次に連続焼鈍装置60へ搬送される。鋼板Sは連続的に冷間圧延機50から連続焼鈍装置60へ送り出されてもよい。あるいは、冷間圧延機50にて処理された後に鋼板Sをコイル状に巻き取り、連続焼鈍工程にてコイル状の鋼板Sを払い出すことにより、不連続に冷間圧延機50から連続焼鈍装置60へ搬送してもよい。連続焼鈍装置60は、冷間圧延された鋼板Sを焼鈍して、圧延などの加工により生じたひずみ等を除去する。
【0038】
連続焼鈍装置60の下流には、鋼板Sを切断する切断機(図示せず。)が配置されている。また、切断機の下流には、鋼板Sを巻き取るカローゼルリール(図示せず。)が配置されている。カローゼルリールにて巻き取られたコイル状の鋼板Sは、ロールから払い出されて、コンベア等に積載されて次工程へ搬出される。
【0039】
このような順序で鋼板Sは圧延される。例えば、このような順序で各装置が配置されて連続的に鋼板Sの処理が行われる場合には、圧延設備1000は以下の構成を有していてもよい。
【0040】
(2.2.連続化された圧延設備例)
圧延設備1000の前処理装置100から連続焼鈍装置60までを鋼板Sが連続的に処理される場合、前処理装置100の上流では、コイル払い出し機が、2以上のコイル払い出し機を有してよく、コイル状に巻き取られている鋼板Sを、コイル毎に順次圧延方向下流に送り出す。コイル状の鋼板Sの一つのコイルの払い出しが終了すると、他のコイルの鋼板Sが順次圧延方向下流に送り出される。また、コイル払い出し機の下流で前処理装置100の上流には、溶接機(図示せず。)が配備される。溶接機では、先行コイルの尾端と後行コイルの先端とが溶接されて、連続化された鋼板Sが形成される。
【0041】
溶接機の下流および前処理装置100の上流には、さらにルーパー(図示せず。)が配備されてもよい。ルーパーは、複数のローラーを有しており、ローラーの位置が変化することで、ルーパーを介した鋼板Sの搬送方向長さが可変となる。ルーパーでは、ローラーの位置が変化することで、鋼板Sの搬送方向長さを変えて、下流工程で鋼板Sの供給に停滞が発生しないように制御する。つまり、溶接機にて先行コイルと後行コイルの接合中にコイルの払い出しが滞り、鋼板Sの送り出しが停止している時でも、ルーパーの位置が変化することにより、鋼板Sを送り出すために、圧延設備1000では、下流工程で連続して鋼板Sを処理できる。
【0042】
鋼板Sが連続的に処理される場合、具体例として例えば、
図1に示すように、冷間圧延機50は、第1スタンド51と、第2スタンド52と、第3スタンド53と、第4スタンド54と、第5スタンド55と、第6スタンド56と、を有するタンデム圧延機であってよい。第1スタンド51は、上ワークロール51aと下ワークロール51bと、を有し、さらにワークロールを支持する上バックアップロール51cと下バックアップロール51dとを有する4重圧延機であってよい。冷間圧延機50は、第2スタンド52から第5スタンド55にかけて、第1スタンドと同様に、4重圧延機であってよい。最終スタンドの第6スタンド56は、上ワークロール56aおよび下ワークロール56bと、上中間ロール56cおよび下中間ロール56dと、ワークロールを支持する上バックアップロール56eおよび下バックアップロール56fと、を有する6重圧延機であってよい。
【0043】
冷間圧延機50では、最終スタンドの板厚が所望の板厚となるように、各スタンドにて目標板厚が制御される。具体的には、例えば、板厚2.8mmおよび板幅1200mmのハイテン鋼は、最終スタンドまでに、板厚1.2mmに圧延される。
【0044】
以上までで、第1の実施形態にかかる圧延設備1000の装置配置の一構成例、および、鋼板Sが連続して処理される場合を説明した。また、第1の実施形態にかかる圧延設備1000は変形例として、連続焼鈍装置60による熱処理の後に、鋼板Sに対して調質圧延を行ってもよい。調質圧延により、鋼板Sの平坦形状の修正、表面粗さの調整等が行われる。
【0045】
また、他の変形例として、圧延設備1000の冷間圧延機は、2回冷間圧延を行う設備であってもよい。2回冷間圧延では、鋼板Sの板厚を段階的に変更する。1回目の冷間圧延では、所定の板厚まで冷間圧延を行い、連続焼鈍する。2回目の冷間圧延では、1回目の冷間圧延にて連続焼鈍した鋼板Sをさらに最終板厚まで冷間圧延した後、連続焼鈍する。このようにして、鋼板Sが圧延設備1000にて圧延されてもよい。なお、場合によっては1回目の冷間圧延後の連続焼鈍は省略しても良いし、連続焼鈍はバッチ焼鈍もよい。
【0046】
(2.3.前処理装置)
次に、硬質脆性材料であっても板破断することなく鋼板表面に付着したスケールにクラックを生じさせる前処理装置に関して詳しく説明する。
【0047】
前処理装置100は、加熱装置120と、テンションレベラー130と、を有する。テンションレベラー130は、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cと、曲げ伸ばし装置130bと、を含む。第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cは、隣接した複数のローラーを有し、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cの各ローラーの回転速度を変化させることにより、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cの間で、鋼板Sに張力を与える。第1の張力付与装置130aは、曲げ伸ばし装置130bの入側で鋼板Sに対して張力を付与する。第2の張力付与装置130cは、曲げ伸ばし装置130bの出側で鋼板Sに対して張力を付与する。
【0048】
曲げ伸ばし装置130bは、鋼板Sに対して引張曲げ加工を施して伸び変形を与える装置であり、例えば
図1に示すように鋼板Sを上下から交互に挟むように配置されたローラーにより構成される。このようなテンションレベラー130には、特許文献4に記載されるような公知のテンションレベラーが適用されてもよい。第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cにより鋼板Sに張力を付与した状態で、曲げ伸ばし装置130bにより鋼板Sに対して引張曲げ加工を施すことにより、鋼板Sの表面に形成されているスケールにクラックが付与される。このようにスケールにクラックを付与することで、後の酸洗装置にて、鋼板Sの酸洗処理効率を向上させることができる。すなわち、鋼板Sにクラックが付与されることにより、鋼鈑からスケールがはがれやすくなったり、酸洗液がスケールと接触する表面積が拡大してスケールを溶削しやすくなったりするため、酸洗装置40にて効率的に鋼板Sを酸洗できる。
【0049】
上述した第1の張力付与装置130aと曲げ伸ばし装置130bとの間には、加熱装置120が配置されている。なお、
図1に示す圧延設備1000では、第1の張力付与装置130aと曲げ伸ばし装置130bとの間に加熱装置120が配置されているが、加熱装置120は第1の張力付与装置130aよりも上流に配置されてもよい。
【0050】
加熱装置120は、鋼板Sを所望の板温度に加熱する。加熱装置120は、鋼板Sが加熱できれば、加熱形態は限られず、例えば、加熱装置として誘導加熱装置を用いてもよい。
【0051】
また、加熱装置120とテンションレベラー130との間には、鋼板Sの温度を測定する温度計(図示せず。)が配置される。この温度計から得られる温度に基づき、加熱装置120による鋼板Sの板温度の制御が行われる。
【0052】
前処理装置100は、上記の加熱装置120およびテンションレベラー130を制御する演算制御部を有する。演算制御部は、上記温度計から板温度を取得して、該板温度に基づいて、加熱装置120の制御を行う。また、演算制御部は、鋼板Sに付与される伸び変形量、張力および荷重に基づいて、伸び率を演算し、該伸び率に基づいて、テンションレベラー130の制御を行う。
【0053】
鋼板Sに対する伸び変形量は、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cの各ローラーの回転速度の検出値に基づき算出可能である。また、鋼板Sにかかる張力は、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cのモータ電流から演算されて算出される。あるいは、鋼板Sにかかる張力は、曲げ伸ばし装置130b内に設置された荷重測定装置(図示せず。)から演算されて、算出されてもよい。これらの伸び変形量および張力を使用して、演算制御部では、鋼板の伸び率を算出することができる。
【0054】
以上までで、前処理装置100の具体的な説明を行った。なお、圧延装置1000は、前処理装置100の下流に、鋼板Sの板端部を切断するトリム装置(図示せず。)を有してもよい。前処理装置100による処理の後、冷間圧延機50にて処理される前にトリム装置により鋼板Sの板端部を除去することにより、冷間圧延時の板破断の発生を抑制することができる。これは、加熱された鋼板Sの板端部を切断することにより、加熱せずに鋼板Sの板端部を切断した場合に発生していたエッジクラックの発生が低減され、冷間圧延時に板破断が生じにくくなるためである。また、加熱された鋼板Sは材料硬度が低下するため、トリム装置の刃の摩耗を低減することができる。このように、加熱装置120の下流にトリム装置を配置することで、製造コストを低減できる。
【0055】
<3.第2の実施形態>
次に、
図2を参照して、無方向性電磁鋼板を圧延する圧延設備の各装置配置の一例を説明する。圧延設備2000は、ホットコイル焼鈍装置30と、前処理装置100と、酸洗装置40と、冷間圧延機50と、連続焼鈍装置60と、を有する。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、便宜上、前処理装置100の上流にて鋼板を処理する熱間圧延装置20を、圧延設備2000に包含して説明する。
【0056】
図2に示す本実施形態の圧延設備2000は、無方向性電磁鋼板の圧延を行う圧延装置の一構成例である。無方向性電磁鋼板は、例えば、質量%で、2.5%≦Si≦5.0%、0.1%≦Al≦2.0%、0.1%≦Mn≦2.0%、P≦0.02%、0.001%≦C≦0.005%、0.001%≦N≦0.005%、S≦0.005%、並びに、残部としてFeおよび不純物元素を含有する。ただし、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、P、S、Cu、Niの各元素を含まない鋼板Sも含む。また、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、Si、Al、Mn、P、C、N、S、Cu、およびNiを上記範囲で含有し、かつ残部Feおよび不純物元素からなる鋼板Sであることがよい。
【0057】
本実施形態の圧延設備2000では、第1の実施形態の圧延設備1000に加えて、熱間圧延装置20と前処理装置100との間に、ホットコイル焼鈍装置30を有する。ホットコイル焼鈍装置30では、熱間圧延装置20にてコイル状に巻き取られた鋼板Sを、巻き戻して焼鈍することにより、鋼板Sに所望の性質を与える。鋼板Sは連続的にホットコイル焼鈍装置30から前処理装置100へ送り出されてもよい。あるいは、ホットコイル焼鈍装置30にて処理された後に鋼板Sをコイル状に巻き取り、前処理装置100にてコイル状の鋼板Sを払い出すことにより、不連続にホットコイル焼鈍装置30から前処理装置100へ搬送してもよい。
【0058】
本実施形態の圧延設備2000では、無方向性電磁鋼板の圧延を対象としており、板厚2.3mm、板幅1200mmの鋼板Sは、冷間圧延機50で、板厚0.3mmまで圧延される。
【0059】
<4.第3の実施形態>
次に、
図3を参照して、方向性電磁鋼板を圧延する圧延設備の各装置配置の一例を説明する。圧延設備3000は、ホットコイル焼鈍装置30と、前処理装置100と、酸洗装置40と、冷間圧延機50と、連続焼鈍装置60と、バッチ焼鈍装置70と、を有する。なお、本実施形態では、便宜上、第1の実施形態と同様に、前処理装置100の上流にて鋼板を処理する熱間圧延装置20を、圧延設備3000に包含して説明する。
【0060】
図3に示す本実施形態の圧延設備3000は、方向性電磁鋼板の圧延を行う圧延装置の一構成例である。方向性電磁鋼板は、例えば、重量%にて、C:0.005~0.20%、Si:2.5~5.0%、Mn:0.1~2.5%、P:0.050~0.10%、S:0.001~0.010%、Al:0.005~0.1%、N:0.0005~0.0100%、残部Fe及び不可避的不純物を含有する。
【0061】
本実施形態の圧延設備3000は、第2の実施形態の圧延設備2000の連続焼鈍装置60の後にさらに、バッチ焼鈍装置70を有する。バッチ焼鈍装置70では、連続焼鈍装置60にてコイル状に巻き取られた鋼板Sをコイル状のまま焼鈍する。バッチ焼鈍装置70では、連続焼鈍装置60にて焼鈍された鋼板Sに対して、さらに焼鈍することで、二次再結晶を生じさせて特定方位をもった結晶だけを大きく成長させて方向性電磁鋼板を形成する。
【0062】
本実施形態の圧延設備3000では、方向性電磁鋼板の圧延を対象としており、板厚2.3mm、板幅1200mmの鋼板Sは、冷間圧延機50で板厚0.3mmまで圧延される。
【0063】
以上、圧延設備1000、圧延設備2000、および圧延設備3000における各装置の配置の一例に関して説明を行った。
【0064】
<5.加熱温度と伸び率>
発明者らは、上述した第1、第2および第3の圧延設備において、板破断なく、クラックを与えて酸洗効率を上昇させるために、板破断を発生しない板温度と、酸洗効率を上昇可能な伸び率と、を鋭意研究した。
【0065】
本研究では、上述した第1、第2および第3の実施形態にかかる圧延設備を用いて、前処理装置100の加熱装置120およびテンションレベラー130にて必要な加熱温度および伸び率の範囲を調査した。具体的は、加熱温度については、加熱装置120の温度を変化させて、上述した圧延設備にて鋼板を圧延し板破断率を調査した。伸び率については、テンションレベラー130にて与える伸び率を変化させて、酸洗装置40における酸洗速度を調査した。
【0066】
(5.1.鋼板の板温度と板破断との関係)
図4を参照して、鋼板の板温度と板破断との関係を説明する。
図4は、鋼種別の板温度と板破断との関係を示した図である。横軸には、板温度を示し、縦軸には板破断発生回数比を示した。板破断発生回数比とは、各温度にて板破断が発生した回数を常温にて板破断が発生した回数で除した値である。各温度および常温でそれぞれ鋼板50枚に対して伸び率を与えた。なお、本調査では、曲げ伸ばし装置および張力付与装置にて伸び率1%で鋼板に対して伸び変形および張力を与えた。
【0067】
ハイテン鋼では、板破断発生回数比は、板温度が50℃を越えると減少し始めた。ハイテン鋼では、板温度が120℃以上となると板破断は発生しなかった。
【0068】
無方向性電磁鋼板は、板破断発生回数比は、板温度が100℃を越えると減少し始めた。無方向性電磁鋼板では、板温度が150℃以上となると板破断は発生しなかった。
【0069】
方向性電磁鋼板は、板破断発生回数比は、板温度が50℃を越えると減少し始めた。方向性電磁鋼板では、140℃以上となると板破断は発生しなかった。
【0070】
以上より、鋼種によって違いはあるが、板破断発生回数比は、板温度がある温度以上になると急激に減少して、さらにある温度以上になると飽和する傾向があることがわかった。これらの結果より、曲げ伸ばし装置の入側の板温度が、ハイテン鋼は120℃以上、無方向性電磁鋼板は150℃以上、方向性電磁鋼板は140℃以上あれば、板破断を防止できることがわかった。これらの温度の違いの一つとして、Si含有量の違いが考えられる。よって、このように鋼板の材質毎に鋼板の板温度と板破断との関係を予め取得して、材質毎に板破断が発生しない板温度に加熱装置を制御することができる。
【0071】
(5.2.鋼板の伸び率と酸洗速度との関係)
次に、
図5を参照して、鋼板の伸び率と酸洗速度との関係を説明する。
図5は、鋼種別の鋼板の伸び率と酸洗速度との関係を示した図である。横軸には、テンションレベラーにて付与される伸び率を示し、縦軸には酸洗速度比を示した。酸洗速度とは、鋼板が酸洗装置にてスケールを溶削されてスケールが残らない程度の搬送速度であり、酸洗速度比とは、各伸び率における酸洗速度を、常温で伸び率を与えない場合の酸洗速度で除した値である。なお、本研究では、曲げ伸ばし装置の入側で、ハイテン鋼は120℃、無方向性電磁鋼板は150℃、方向性電磁鋼板は140℃を示す鋼板を使用した。
【0072】
図5に示すように、伸び率と酸洗速度比との関係についてはハイテン鋼、無方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板に大きな差異はみられず、伸び率1.0%付近から1.8%付近まで酸洗速度比が急激に上昇し、伸び率2.0%付近で酸洗速度比の上昇は収束した。これらの結果より、酸洗速度比は鋼種にあまり依存せず、ある伸び率以上になると急激に上昇し、さらにある伸び率以上になると飽和する傾向があることがわかる。また、
図5の結果より、テンションレベラーで鋼板に与える伸び率を1.0%以上とすることで、酸洗速度を高めることができることがわかった。
【0073】
以上より、鋼板の板温度と板破断との間、および鋼板の伸び率と酸洗速度との間には一定の関係があることがわかる。これらの関係に基づき、上記実施形態に係る圧延設備では、酸洗処理前の前処理装置による前処理にて、加熱装置により板温度を制御し、テンションレベラーにより伸び率を制御することで、硬質脆性材料であっても板破断することなく鋼板に生じたスケールにクラックを発生させ、酸洗装置にてスケールを除去することができる。
【0074】
(5.3.加熱温度および伸び率の制御)
以下、上記実施形態に係る圧延設備による鋼板の圧延方法について説明する。ここでは、第1の実施形態にかかる圧延設備1000を用いた場合について説明する。第1の実施形態にかかる圧延設備1000では、ハイテン鋼を圧延する。鋼板の圧延方法を実施するに当たっては、
図4および
図5に示したような、ハイテン鋼に関する、鋼板の板温度と板破断との関係および鋼板の伸び率と酸洗速度との関係が予め取得されているものとする。
【0075】
まず、熱間圧延された鋼板Sが前処理装置100に搬送される。まず前処理装置100では、加熱装置120と曲げ伸ばし装置130bとの間に設けられる温度計から、演算制御部が板温度を取得する。
【0076】
次いで、演算制御部では、板温度が予め取得されたハイテン鋼の板温度目安120℃以上となるように、加熱装置120を制御する。加熱装置120による制御温度(目標温度)は、加熱装置120からテンションレベラー130で伸び率が与えられるまでの冷却分を適宜見積もり、120℃よりも高く制御してもよい。
【0077】
さらに、演算制御部では、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cの各ローラーの回転速度を検出して、演算することで伸び変形量を算出する。また、演算制御部では、第1の張力付与装置130aおよび第2の張力付与装置130cのモータ電流から、鋼板にかかる張力を算出する。あるいは、演算制御部では、曲げ伸ばし装置130b内に設置された荷重測定装置(図示せず。)から、鋼板Sにかかる張力を算出する。これらの伸び変形量および張力を使用して、演算制御部では、鋼板の伸び率を算出する。
【0078】
演算制御部では、算出された伸び率が、1.0%以上となるように、テンションレベラー130を制御する。また、演算制御部は、適宜必要とされる酸洗効率に応じて、1.0%以上の伸び率となるように、テンションレベラー130を制御してもよい。例えば、連続操業中に酸洗速度が低下してきたら、テンションレベラー130にて付与される伸び率をより高くして、酸洗効率を上昇させてもよい。
【0079】
次いで、前処理装置100にて曲げ伸ばされた鋼板Sは酸洗装置40に搬送される。酸洗装置40では、鋼板Sのスケール溶削、つまり酸洗が行われる。
【0080】
次いで、酸洗された鋼板Sは、冷間圧延機50により冷間圧延される。例えば、6スタンドを有するタンデム圧延機にて、所望の板厚に冷間圧延される。
【0081】
上記で説明したような圧延設備の構成、該圧延設備による鋼板の加熱および伸び率の制御を用いた圧延方法により、硬質脆性材料であっても板破断無くテンションレベラー130で引張り変形を与えて、鋼板のスケールにクラックを付与できる。なお、第2の実施形態および第3の実施形態においても同様に加熱温度および伸び率が制御され得る。
【0082】
<6.圧延設備の装置構成および連続性>
以上、第1~第3の実施形態を代表例として、硬質脆性材料であっても板破断の発生を防止する圧延設備の構成および圧延方法を説明した。圧延設備の各装置構成および各装置間の連続性は、多様な形態を示し得る。以下では、表1を参照して、圧延設備の各装置構成および各装置間の連続性の具体例を説明する。表1は、圧延設備の各装置構成および各装置間の連続性の具体例を示している。なお、表1において、太枠内に示す装置群は、鋼板を連続的に処理することを示している。
【0083】
Case1の圧延設備は、鋼板を熱間圧延した後に、鋼板を加熱する加熱装置と、加熱装置により加熱された鋼板に対して曲げ伸ばしを行うテンションレベラーと、テンションレベラーにより曲げ伸ばしされた鋼板を酸洗する酸洗装置と、酸洗装置により酸洗された鋼板を冷間圧延する冷間圧延機と、を有する。Case1の圧延設備では、加熱装置とテンションレベラーと酸洗装置と、が鋼鈑を連続して処理する。なお、鋼板を連続して処理する、とは、鋼板が切断されたり、コイル状に巻き取られてから再度巻き戻されて新たに供給されたりすることなく、各装置が連続的に鋼板を処理することを言う。
【0084】
Case2の圧延設備は、Case1と同様の装置構成を有する。Case2の圧延設備では、加熱装置とテンションレベラーと酸洗装置と冷間圧延機と、が鋼鈑を連続して処理する。
【0085】
Case3の圧延設備は、Case1の圧延設備の冷間圧延機の圧延方向下流に鋼板を連続焼鈍する連続焼鈍装置を有し、加熱装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、冷間圧延機と、連続焼鈍装置と、が鋼板を連続して処理する。
【0086】
Case1からCase3までの圧延設備が圧延する鋼板は、普通鋼、ハイテン鋼、電磁鋼板、またはステンレス鋼であってよい。特に、普通鋼では、鋼板と鋼板の接合部分に対して、加熱が行われてもよい。ハイテン鋼では全長に亘って加熱が行われてもよい。電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板であり、全長に亘って加熱が行われてもよい。ステンレス鋼も、全長に亘って加熱が行われてもよい。
【0087】
Case4の圧延設備は、Case1の圧延設備の熱間圧延後で加熱装置の圧延方向上流に、鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有する。熱処理とは、例えば焼鈍であってよく、熱処理装置は焼鈍装置であってよい。Case4の圧延設備では、加熱装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、が鋼鈑を連続して処理する。
【0088】
Case5の圧延設備は、Case1の圧延設備の熱間圧延後で加熱装置の圧延方向上流に、鋼板に対して熱処理を行う熱処理装置を有する。Case5の圧延設備では、加熱装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、冷間圧延機と、が鋼鈑を連続して処理する。
【0089】
Case6の圧延設備は、Case4の圧延設備の加熱装置に代わって、熱処理装置が加熱の役割を担っており、加熱装置が配備されない圧延設備である。Case6の圧延設備は、具体的には、鋼板を熱間圧延した後に、鋼板を熱処理する熱処理装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、冷間圧延機と、を有する。Case6の圧延設備は、熱処理装置と、テンションレベラーとが、鋼板を連続して処理する。このようなCase6の圧延設備では、熱処理装置の余熱を用いるため、加熱装置が配備されていない。
【0090】
Case7の圧延設備は、Case6と同様の装置構成を有する。Case7の圧延設備は、熱処理装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、が鋼鈑を連続して処理する。
【0091】
Case8の圧延設備は、Case6と同様の装置構成を有する。Case7の圧延設備は、熱処理装置と、テンションレベラーと、酸洗装置と、冷間圧延機と、が鋼鈑を連続して処理する。
【0092】
Case4からCase8までの圧延設備は、圧延する鋼板が無方向性電磁鋼板または方向性電磁鋼板であってよい。また、Case4からCase8までの圧延設備が圧延する鋼板は、ハイテン鋼の中でも、ゲージハンティングが生じるハイテン鋼であってよい。具体的には、60k鋼以上のハイテン鋼であってよい。ゲージハンティングとは、熱間圧延された鋼板がコイル状に巻き取られて冷却される過程において冷却にムラが生じることで、コイルの長手方向に周期的な変形抵抗のバラツキが発生することを言う。ゲージハンティングは、鋼板の硬さが増すほど発生しやすい。Case4からCase8までの圧延設備により、ゲージハンティングが生じるハイテン鋼を圧延することで、コイルの長手方向に発生する周期的な変形抵抗のバラツキを抑制できる。
【0093】
以上で説明したように、圧延設備の各装置構成および各装置間の連続性は、多様な形態を示し得る。
【0094】
【実施例】
【0095】
本実施例では、本発明の効果を確認するために、第1、第2、および第3の実施形態に示した圧延設備を用いて、ハイテン鋼、無方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板を圧延した。無方向性電磁鋼板はSiを3.2%含有し、方向性電磁鋼板はSiを3.0%含有していた。また、ハイテン鋼は1200MPaの引張強度を示すハイテン鋼を使用した。
【0096】
比較例1では、第2の実施形態にて示した圧延設備2000において、無方向性電磁鋼板を加熱装置で加熱することなく、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。
【0097】
比較例2では、第3の実施形態にて示した圧延設備3000において、方向性電磁鋼板を加熱装置で加熱することなく、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。
【0098】
比較例3では、第1の実施形態にて示した圧延設備1000において、ハイテン(1000MPa)鋼を加熱装置で加熱することなく、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。
【0099】
実施例1では、第2の実施形態にて示した圧延設備2000において、無方向性電磁鋼板を加熱装置で150℃の板温度にして、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。
【0100】
実施例2では、第3の実施形態にて示した圧延設備3000において、方向性電磁鋼板を加熱装置で140℃の板温度にして、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。
【0101】
実施例3では、第1の実施形態にて示した圧延設備1000において、ハイテン(1200MPa)鋼を加熱装置で120℃の板温度にして、テンションレベラー130にて1.5%の伸び率を与えた。なお、比較例1から実施例3までの結果を表2にまとめた。
【0102】
比較例1では、板破断率が98%であった。比較例2では、板破断率が78%であった。比較例3では、板破断率が91%であった。
【0103】
実施例1、実施例2、および実施例3については、いずれも板破断率は0%であり、板破断が発生しなかった。また、酸洗効率は、板温度を加熱しない場合と比較して、実施例1では酸洗速度を50%、実施例2では46%、実施例3では48%向上させることができた。
【0104】
以上より、本発明が適用された圧延設備により上述した圧延方法を実施することで、硬質脆性材料であっても、板破断を発生させずにテンションレベラーにて鋼板に伸びひずみを与えることができるため、酸洗速度を向上させることができる。これにより、生産性が向上する。
【0105】
【0106】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0107】
例えば、上記実施形態では、鋼板がハイテン、無方向性電磁鋼板、および方向性電磁鋼板としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、鋼板が普通鋼であってもよい。普通鋼の場合、鋼板の接合部において板破断が生じやすい。よって、加熱装置により普通鋼を加熱してすることで、板破断を抑制することができる。
【0108】
20 熱間圧延装置
40 酸洗装置
50 冷間圧延機
60 連続焼鈍装置
70 バッチ焼鈍装置
100 前処理装置
120 加熱装置
130 テンションレベラー
130a、130c 張力付与装置
130b 曲げ伸ばし装置