(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ及びマニピュレータ
(51)【国際特許分類】
G02B 21/32 20060101AFI20221213BHJP
B06B 1/06 20060101ALI20221213BHJP
H02K 7/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G02B21/32
B06B1/06 A
H02K7/00 A
(21)【出願番号】P 2018200880
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田口 俊文
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨山 功幸
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071020(JP,A)
【文献】特開2013-089914(JP,A)
【文献】特開平02-021029(JP,A)
【文献】特開2011-064264(JP,A)
【文献】特開2009-211024(JP,A)
【文献】米国特許第06661575(US,B1)
【文献】米国特許第05181907(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 - 21/36
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに回転自在に支持されるとともに操作対象を負圧で吸着する吸着用のツールが先端部に装着される回転軸と、前記ハウジングの後部に装着されて前記回転軸を回転させるモータと、前記ハウジングに内蔵されて前記回転軸を軸方向に微動ないし振動させる圧電素子と、前記回転軸が回転状態および停止状態のいずれのときでも前記ツールに負圧で吸引させるように
前記圧電素子よりも前記ツール側であって前記回転軸の途中部分に設けられた負圧吸引機構と、を有
し、
前記ハウジングは、前記回転軸を回転可能に支持する少なくとも2つの転がり軸受が内蔵されたハウジング本体と、該ハウジング本体の前端部に装着されて前記負圧吸引機構を構成するシールブロックと、を有し、
前記負圧吸引機構は、前記回転軸に軸線に沿って形成されて前記ツールの吸着部に連通する軸穴および該軸穴に連通する横穴と、前記シールブロックの内周面に前記回転軸の周囲を囲繞するように形成されるとともに前記横穴に連通する位置に形成された円環状空間と、前記シールブロックの内周面に前記回転軸の前後に離隔して前記円環状空間をシールするように設けられた2つの環状シールと、前記シールブロックに形成されて前記円環状空間に連通するとともに減圧用配管に接続される減圧路と、を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記シールブロックを通った前記回転軸の軸保持部と前記軸穴が内部を貫通する中空棒状部とが繋がる部分を覆う位置に、前記回転軸が回転した際に前記ツール先端の振れ回りを補正する
円筒状の芯出しリングが取り付けられている請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
隣り合う前記転がり軸受の内輪の間に配置される内輪間座と、
前記内輪と前記内輪間座とを前記回転軸の軸方向に動かないように固定する固定部と、
前記隣り合う転がり軸受のうちの一方の外輪に
スペーサカラーを介して間接的に当接されて前記転がり軸受の外輪に軸方向変位を付与するように前記軸方向に伸縮可能な前記圧電素子と、
前記モータの軸と前記回転軸とを接続するカップリングと、
を備え、
前記カップリングは、
前記回転軸が前記圧電素子の伸縮により軸方向に動いたときの前記回転軸の前記軸方向への変位量を吸収可能に前記モータの軸と前記回転軸とを接続している
請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータを備えるマニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ及びマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、μm単位等の微細なマテリアルハンドリングを行う装置として種々のマニピュレータが用いられている。例えば特許文献1には、負圧による吸着機構と回転機構とを組み合わせて微小部品を配置する技術が開示されている。
同文献記載の技術は、吸着ノズルと、吸着ノズルが先端に装着されるとともに軸受を介して回転駆動可能に支持された中空軸と、中空軸の側面に設けられて減圧源に接続される負圧吸引用のスイベルジョイント構造と、を有する。同文献記載の技術によれば、中空軸を回転させつつ、その先端の吸着ノズルによって微小で軽量な操作対象を吸着できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、同文献記載の技術を用い、微小で軽量な操作対象を吸着した場合、操作対象が吸着ノズルの吸着部に嵌り込んだりして、負圧を切っても操作対象が吸着ノズルから外れないおそれがある。そして、操作対象を吸着ノズルから外すために正圧をかけると操作対象が飛散してしまうという問題がある。
また、静電気等により目標以外の対象が吸着ノズルや操作対象に貼り付いてしまうという問題もある。したがって、同文献記載の技術では、所期のマテリアルハンドリングを行う上で未だ解決すべき課題が残されている。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、微小な操作対象であっても、所期のマテリアルハンドリングを行い得る圧電アクチュエータ及びマニピュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータは、ハウジングと、該ハウジングに回転自在に支持されるとともに操作対象を負圧で吸着する吸着用のツールが先端部に装着される回転軸と、前記ハウジングの後部に装着されて前記回転軸を回転させるモータと、前記ハウジングに内蔵されて前記回転軸を軸方向に微動ないし振動させる圧電素子と、前記回転軸が回転状態および停止状態のいずれのときでも前記ツールに負圧で吸引させるように設けられた負圧吸引機構と、を有することを特徴とする。
なお、本明細書において、「微動」とは、「少し動かす」ことであって、例えば操作対象の位置を微調整するような用途に用いることをいう。よって、「振動」とは用途が異なるので、これらの語を区別している。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るマニピュレータは、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、圧電素子を伸縮させれば、回転軸に微小な軸方向変位を与えることができる。また、モータを回転させれば、その回転力により回転軸を介して吸着ツールを回転させることができる。
そして、本発明によれば、回転軸が回転状態および停止状態のいずれのときでも吸着ツールに負圧で吸引させるように負圧吸引機構が設けられている。そのため、回転軸先端の吸着用のツールは、負圧吸引により操作対象を吸着保持しつつ、圧電素子により軸方向に微動ないし振動できる。同時に、回転軸は、モータの駆動により回転して、操作対象を位置決めしたり、操作対象を連続して回転させたりすることができる。
よって、本発明によれば、吸着用のツールによる操作対象の吸着、及び、吸着用のツールの回転による操作対象の向きや姿勢の変更、並びに、圧電素子による微小な振動により操作対象の開放が可能になる。したがって、微小な操作対象であっても、所期のマテリアルハンドリングを行うことができる。
【0009】
ここで、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータにおいて、前記回転軸は、先端部に、前記ツールが着脱可能に取り付けられるツール取付部を有し、前記ツールは、前記ツール取付部に着脱可能に設けられることは好ましい。
このような構成によれば、吸着用のツールは、ツール取付部に着脱可能に設けられるので、回転軸から容易に取り外すことができる。したがって、圧電アクチュエータの用途に応じて吸着用のツールを他のツールに交換したり、吸着用のツールの劣化に応じてツールを交換したりすることが容易となる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータにおいて、前記ハウジングは、前記回転軸を回転可能に支持する少なくとも2つの転がり軸受が内蔵されたハウジング本体と、該ハウジング本体の前端部に装着されて前記負圧吸引機構を構成するシールブロックと、を有し、前記負圧吸引機構は、前記回転軸に軸線に沿って形成されて前記ツールの吸着部に連通する軸穴および該軸穴に連通する横穴と、前記シールブロックの内周面に前記回転軸の周囲を囲繞するように形成されるとともに前記横穴に連通する位置に形成された円環状空間と、前記シールブロックの内周面に前記回転軸の前後に離隔して前記円環状空間をシールするように設けられた2つの環状シールと、前記シールブロックに形成されて前記円環状空間に連通するとともに減圧用配管に接続される減圧路と、を有して構成されていることは好ましい。
このような構成であれば、回転軸が回転状態および停止状態のいずれのときでもツールに負圧で吸引させる構成として好適である。
【0011】
また、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータにおいて、前記回転軸が回転した際に前記ツール先端の振れ回りを補正する振れ回り補正手段を更に有することは好ましい。
このような構成であれば、回転軸が回転した際に、ツール先端の振れ回りを補正できるので、微小な操作対象に、所期のマテリアルハンドリングを行う上でより好適である。
【0012】
また、本発明の一態様に係る圧電アクチュエータにおいて、隣り合う前記転がり軸受の内輪の間に配置される内輪間座と、前記内輪と前記内輪間座とを前記回転軸の軸方向に動かないように固定する固定部と、前記隣り合う転がり軸受のうちの一方の外輪に直接または間接的に当接されて前記軸方向に伸縮可能な前記圧電素子と、前記モータの出力軸と前記回転軸とを接続するカップリングと、を備え、前記カップリングは、前記回転軸の前記軸方向への変位量を吸収可能に前記モータの軸と前記回転軸とを接続していることは好ましい。
【0013】
このような構成であれば、カップリングが、回転軸の軸方向への変位量を吸収可能にモータの出力軸と回転軸とを接続するので、回転軸が圧電素子の伸縮により軸方向に動いたときに、モータにかかる軸方向の負荷が低減されるので好適である。さらに、モータの出力軸と回転軸の後端とをカップリングにより接続することにより、モータの選択幅が広がるので好適である。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明によれば、微小な操作対象であっても、所期のマテリアルハンドリングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムを示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すマニピュレータシステムの概略構成を示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムに装備された圧電アクチュエータを示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す圧電アクチュエータの正面図である。
【
図5】
図3に示す圧電アクチュエータを側面視にて軸線に沿った縦断面の図(a)および先端のツールを換装した例を示す図(b)である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムの制御ブロック図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムにより操作対象をハンドリングする一例を説明する図であり、同図は、ツールで操作対象を保持する前の状態を斜視図で示している。
【
図8】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムにより操作対象をハンドリングする一例を説明する模式図((a)~(c))である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るマニピュレータシステムにより操作対象をハンドリングする一例を説明する模式図((a)~(e))である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0017】
図1および
図2に示すように、本実施形態のマニピュレータシステム10は、微小な操作対象Pに人工操作を施すためのシステムである。
このマニピュレータシステム10は、微小な操作対象Pが載置されるテーブル20と、テーブル20の上方中央に対向配置された顕微鏡ユニット12と、テーブル20の右上側方に配置された第一マニピュレータ14と、テーブル20の左上側方に配置された第二マニピュレータ16と、を備える。
図2に示すように、本実施形態のマニピュレータシステム10は、コントローラ18によって制御される。
【0018】
顕微鏡ユニット12は、
図2に示すように、顕微鏡22と、カメラ24とを有する。顕微鏡22は、テーブル20の直上に配置されている。カメラ24は、顕微鏡22と一体に設けられている。テーブル20の上に置かれた操作対象Pは、顕微鏡22で拡大されるとともに、カメラ24で撮影されるようになっている。
第一マニピュレータ14は、顕微鏡ユニット12の右側(
図2における右側)に設けられた第一駆動装置30と、アーム状の圧電アクチュエータ50と、を有する。圧電アクチュエータ50は、第一駆動装置30に基端側が支持されて中央のテーブル20の側に斜めに張り出すように設けられている。第一駆動装置30は、コントローラ18に接続され、コントローラ18からの制御信号を受けて、圧電アクチュエータ50を、
図1に示すX、YおよびZの各軸方向に3次元的に移動可能に構成されている。
【0019】
圧電アクチュエータ50は、第一駆動装置30に接続された基端部側を中心として、先端側が上下に揺動可能となっている。圧電アクチュエータ50の基端部側を中心とした揺動は作業者により手動で行われる。但し、これに限らず、後述する情報入力部140への操作に基づくコントローラ18からの制御信号により揺動可能に構成してもよい。
また、圧電アクチュエータ50は、コントローラ18に接続され、コントローラ18からの制御信号を受けて、後述する回転軸54の微動ないし回転駆動、および、吸着ツール120による吸着およびその解放作動が可能に構成されている。
【0020】
第二マニピュレータ16は、顕微鏡ユニット12の左側(
図2における左側)に設けられた第二駆動装置34と、アーム状の支持ツール32と、を有する。支持ツール32は、第二駆動装置34に基端側が支持されて中央のテーブル20の側に斜めに張り出すように設けられている。
第二駆動装置34は、コントローラ18に接続され、コントローラ18からの制御信号を受けて、支持ツール32を、
図1に示すX、YおよびZの各軸方向に3次元的に移動可能に構成されている。
【0021】
支持ツール32は、第二駆動装置34に接続された基端部側を中心として、先端側が上下に揺動可能となっている。支持ツール32の基端部側を中心とした揺動は作業者により手動で行われる。但し、これに限らず、後述する情報入力部140への操作に基づくコントローラ18からの制御信号により揺動可能に構成してもよい。
なお、本実施形態においては、テーブル20も後述する情報入力部140への操作に基づくコントローラ18からの制御信号によってX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に3次元的に移動可能に構成される。但し、これに限らず、テーブル20は固定式のものであってもよく、作業者により手動で動かすものであってもよい。
【0022】
次に、上記圧電アクチュエータ50について、
図3から
図5を適宜参照しつつ説明する。なお、以下において、
図4および
図5における左側(
図3における左下側)を先端側(前側)といい、
図4および
図5における右側(
図3における右上側)を後端側(後側)という。
本実施形態の圧電アクチュエータ50は、略角柱状のハウジング52を有する。ハウジング52には、回転軸54が回転自在に支持されている。ハウジング52の内部には、
図5に示すように圧電素子68が内蔵され、回転軸54を軸方向に微動ないし振動可能になっている。
【0023】
回転軸54は、その先端に吸着ツール120が装着される。ハウジング52の後部には、回転軸54を回転駆動するモータ72が設けられる。本実施形態において、モータ72はステッピングモータが用いられている。但し、これに限らず、回転軸54を回転可能であれば、その他の構造によるモータやその他の駆動源であってもよい。
本実施形態のハウジング52は、ハウジング本体80と、ハウジング本体80の前端側に設けられたシールブロック82とを有して構成される。
シールブロック82は、ハウジング本体80の前端部に装着されて負圧吸引機構100を構成する。負圧吸引機構100は、微小な操作対象Pを吸着ツール120に負圧で吸引させるように設けられる。
【0024】
以下、本実施形態の圧電アクチュエータ50について
図5を参照しつつ、より詳しく説明する。
ハウジング本体80は、内周面が円筒面状に形成され、先端側と後端側とが開口しているブロック状部材である。
図5に示すように、ハウジング本体80には、2つの転がり軸受60,62が内蔵されている。回転軸54は、2つの転がり軸受60,62を介してハウジング52に回転自在に支持される。
【0025】
シールブロック82は、ハウジング本体80の内周面よりも小径で軸保持部56の外径よりも僅かに大径な軸挿通孔82aを有する。シールブロック82は、ハウジング本体80の前端側に、ネジ84(締結具)によって取り付けられる(
図3、
図4参照)。
ハウジング本体80は、先端側の開口部がシールブロック82によって塞がれ、後端側の開口部が間座70によって塞がれる。モータ72は、ハウジング52の後端側に間座70を介して設けられる。
この際、転がり軸受60の外輪端面とハウジング本体80の端面との間に適切な差幅が生じるように、各要素の軸方向寸法を設定する。これにより、転がり軸受60と転がり軸受62に適切な予圧が付与される。
【0026】
本実施形態では、各転がり軸受60,62は、内輪60a,62aと、外輪60b,62bと、内輪60a,62aと外輪60b,62bとの間に挿入された転動体60c,62cと、をそれぞれ有する。
各転がり軸受60,62は、それぞれの内輪60a,62aが、回転軸54の基端側に設けられた軸保持部56の外周面に嵌合される。また、各転がり軸受60,62は、それぞれの外輪60b,62bが、ハウジング本体80の内周面に嵌合され、回転軸54をハウジング52に対して回転自在に支持している。
【0027】
回転軸54は、先端側に設けられた小径中空円柱状の中空棒状部58と、中空棒状部58の後端部に一体且つ同軸に設けられた大径中実円柱状の軸保持部56と、軸保持部56の後端部に一体に設けられた二面幅部59と、を有する。回転軸54と、ハウジング本体80の内周面と、軸挿通孔82aとは同軸となっている。
回転軸54は、軸保持部56および二面幅部59がハウジング52に挿通され、シールブロック82が装着後に、ハウジング52の先端側から中空棒状部58が延出するように設けられる。
中空棒状部58の先端の拡径部分には、吸着ツール120が着脱可能に装着されるツール取付部54aが形成されている。ツール取付部54aの内面には、軸穴53と同軸に雌ねじ54bが形成されている。
【0028】
さらに、本実施形態の回転軸54は、基端側に軸保持部56を一体に有する。軸保持部56の外周面の先端側と後端側とにはネジ加工が施されている。本実施形態の軸固定構造としてロックナット90,96が用いられている。
内輪60a,62aと内輪間座64との、回転軸54への軸方向位置の固定は、回転軸54の軸保持部56の外周面先端側と後端側とにネジ加工を施し、この軸保持部56のネジ加工にロックナット90,96を螺合させて内輪60a,62aと内輪間座64とが固定される。
【0029】
つまり、回転軸54は、ロックナット90,96により、転がり軸受60,62の内輪及び内輪間座64を保持している。これにより、先端側のネジ加工と後端側のネジ加工とに、ロックナット90,96がそれぞれ螺合し、ロックナット90とロックナット96との間には、転がり軸受60の内輪60a、内輪間座64、転がり軸受62の内輪62aが、先端側からこの順に配置される。
内輪60aと内輪間座64と内輪62aとは、隣接する部材同士が互いに当接した状態となっている。そして、2つのロックナット90,96によって、回転軸54の軸保持部56に対して、内輪60aと内輪間座64と内輪62aとが、回転軸54の軸方向に動かないように固定される。
【0030】
なお、回転軸54を固定する構造は、これに限定されない。例えば、内輪60a,62a及び内輪間座64と回転軸54との間に、回転軸54に対して軸方向に動かないように固定する固定部材として、別箇の部品からなる中空円筒状の軸ホルダを介在させてもよい。
また、軸ホルダのような別箇の部品を介在させずに、内輪60a,62a及び内輪間座64を回転軸54に直接嵌合させてもよい。また、例えばロックナット90,96のみを固定部材として使用してもよく、その他の方法により内輪60a,62aと内輪間座64とを、回転軸54の軸方向に動かないように固定してもよい。
【0031】
後側の転がり軸受62には、その外輪62bの軸方向後端側に、略円筒状のスペーサカラー66が転がり軸受60,62と同軸に配置されている。スペーサカラー66は、ハウジング本体80の内周面に正の隙間を持って嵌合している。また、スペーサカラー66は、先端側の内径が後端側の内径よりも大きくなっており干渉が防止されている。
スペーサカラー66の軸方向後端側には、転がり軸受60,62及びスペーサカラー66と同軸に、略円筒状の圧電素子68が配置されている。外輪62bとスペーサカラー66と圧電素子68とは、隣接する部材同士が互いに当接した状態となっている。換言すると、圧電素子68は、スペーサカラー66を介して間接的に外輪62bと当接している。圧電素子68の後端側には、間座70が配置されている。
【0032】
本実施形態では、モータ72は間座70に取り付けられ、カップリング74を介して回転軸54に結合されている。モータ72の出力軸72aの回転は、カップリング74を介して回転軸54に伝達される。出力軸72aが回転すると回転軸54が回転する。
詳しくは、間座70は、その中央部に、モータ72の出力軸72aが挿通される軸挿通孔70aを有する。間座70は、ハウジング52の後端面側を覆う蓋としても機能し、ハウジング本体80の後端に、ハウジング本体80の後側の開口を塞ぐように取り付けられる。
【0033】
本実施形態では、間座70は、
図3ないし
図4に示すネジ(締結具)85によりハウジング本体80の後端面に固定される。なお、間座70は、ハウジング本体80の軸方向後端側及び間座70にねじ加工を施して、両者を螺合することにより固定してもよい。この場合、圧電素子68にねじりモーメントが生じる可能性がある。このため、間座70は、ネジ等により締結固定されることが好ましい。
間座70に対して、締結具としてのネジ102,102によって、モータ72が取り付けられる。これにより、モータ72がハウジング52に固定される。モータ72の出力軸72aは、間座70の軸挿通孔70aに挿通される。
【0034】
モータ72の出力軸72aは、カップリング74を介して回転軸54の二面幅部59に接続される。本実施形態では、カップリング74は、例えばオルダムカップリングが用いられている。
カップリング74の先端側の内面に、回転軸54の二面幅部59が軸方向にスライド移動可能に嵌合している。カップリング74の後端側の内周面には、モータ72の出力軸72aが嵌合している。回転軸54の後端面と、モータ72の出力軸72aの先端面との間には、所定の隙間Gが形成される。
【0035】
これにより、カップリング74と、回転軸54と、出力軸72aとはオルダムカップリングの作用により軸心が調整された状態で回転力が伝達可能となる。また、カップリング74は、圧電素子68が伸びる際に伸びの1/2分、回転軸54が反モータ側に移動する移動量を吸収してモータ72に軸方向負荷を与えない効果がある。
つまり、回転軸54は、後述するように軸方向に変位するところ、カップリング74は、この変位量を吸収可能に、モータ72の出力軸72aと回転軸54とを接続している。
【0036】
換言すれば、カップリング74は、回転軸54が軸方向に変位した際に、モータ72の出力軸72aが軸方向に負荷を受けないように、出力軸72aと回転軸54とを接続している。このような変位量の吸収は、オルダムカップリングに限定されず、軸方向に変形ないしスライド移動可能なカップリングを用いることで実現される。
具体的には、カップリング74として、例えば、軸方向への弾性を有するカップリングを用いることで実現される。このような構成によれば、回転軸54がモータ72側およびモータ72とは逆側に向けて変位した際に、カップリング74が軸方向に弾性変形することにより、回転軸54の変位量を吸収できる。
【0037】
以上のように、ハウジング本体80には、転がり軸受60,62、スペーサカラー66、圧電素子68が収容され、転がり軸受60と転がり軸受62の外輪は、ハウジング本体80に保持されるとともに、スペーサカラー66を介して圧電素子68と接している。
ハウジング本体80の両端は、シールブロック82と間座70とによって塞がれている。間座70には、圧電素子68の後端面が当接している。シールブロック82には、転がり軸受60の外輪60bの前端面が当接している。また、シールブロック82は、転がり軸受60の内輪60aおよび回転軸54の軸保持部56には接しないようになっている。
【0038】
ハウジング本体80への各部材の収容においては、後側から間座70、圧電素子68、スペーサカラー66、転がり軸受62、転がり軸受60と並べられた状態で、転がり軸受60の外輪60bの前端面とハウジング本体80の前端面との間に適切な差幅が生じるように各要素の軸方向寸法を設定する。
これにより、シールブロック82を固定したときに、転がり軸受60と転がり軸受62とに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、圧電素子68にも予圧が付与される。そのため、転がり軸受60,62及び圧電素子68に所定の予圧が付与され、外輪60bと外輪62bとの間に軸方向間の距離としての隙間Tが形成される。
【0039】
なお、転がり軸受60,62に付与する予圧は、回転軸54の回転を阻害しない程度の強さに設定される。予圧(差幅)の調整は、例えば、スペーサカラー66等の長さを調整することにより行ってもよく、適当な厚さのシムを挿入することにより行ってもよい。
このように、本実施形態では、高剛性のばね要素である転がり軸受60、62で予圧を付与できるので、圧電素子68の予圧調整が容易であり、高い応答性を達成できる。
また、本実施形態では、圧電素子68は、スペーサカラー66を介して転がり軸受62の外輪62bと接しているので、外輪62bと同じ径の圧電素子や、所定の予圧を付与可能な寸法の圧電素子といった、特別な形状の圧電素子を用いる必要がない。
【0040】
すなわち、
図5の例では略円筒状とした圧電素子68を、棒状または角柱状としてスペーサカラー66の周方向に略等配となるように並べてもよく、回転軸54を挿通する孔部を有した角筒状等としてもよい。
スペーサカラー66の形状を高精度とすれば、ハウジング52の内周面は、転がり軸受60、62と嵌合する程度の精度で形成されているので、圧電素子68の個体差がある場合にも、転がり軸受62を均等に押圧可能となる。なお、圧電素子68と、外輪62bとは、スペーサカラー66を介さずに直接当接していてもよい。
【0041】
次に、上記圧電素子68の駆動による微動ないし振動作動について詳しく説明する。なお、以下で「圧電素子が(略)同軸である」とは、単に円環状の圧電素子がある軸と中心軸を共有する場合のみを示すのではなく、圧電素子がある軸を中心とした円周上に略均等に配置されている場合や、ある軸が角筒の圧電素子の中心を通る場合等を含む。
圧電素子は、ピエゾ素子ともいわれ、一般に、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する一方、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する。すなわち、圧電素子は、電圧を加えることで伸縮する一方、圧力を加えることで電圧を発生する。
【0042】
本実施形態においては、圧電素子68は、リード線を介して制御回路としてのコントローラ18に接続され、コントローラ18からの印加電圧に応じて回転軸54の長手方向(軸方向)に沿って伸縮可能に構成されている。すなわち、圧電素子68は、コントローラ18からの印加電圧に応答して、回転軸54の軸方向に沿って伸縮し、回転軸54をその軸方向に沿って微動あるいは振動させるようになっている。
圧電素子68に印加する電圧の電圧波形としては、例えば、正弦波、矩形波、三角波などを用いることができる。また圧電素子68に電圧を印加する方法としては、作業者が後述する操作ボタン144を押している間、信号波形を連続して出力する等してもよいし、バースト波形を使用してもよい。
【0043】
本実施形態においては、転がり軸受60、62のうち、転がり軸受60の内輪60aと外輪60bとの相対的な変位量であって、圧電素子68の伸縮量の半分が回転軸54の変位量に設定されている。そのため、圧電素子68には変位量の2倍の変位を与えるための制御電圧と初期設定電圧とを加算した駆動用電圧を印加することになる。
例えば、圧電素子68に2xの伸びが生じたときには、この伸びによる押圧力は微動ないし振動制御を行う前の予圧荷重に加えて転がり軸受62の外輪62bを押圧し、転がり軸受62の外輪62bを軸方向に2xだけ移動させる。
【0044】
この際、外輪60b,62b間の隙間Tが2x分狭くなって圧電素子68の軸方向の伸びを吸収する。そして、この隙間Tの変位に伴って転がり軸受60、62が弾性変形し、転がり軸受60の内輪60aが外輪60bに対してxだけ変位するとともに、転がり軸受62の内輪62aが外輪62bに対して-x(マイナスx)だけ変位する。
逆に、圧電素子68が2x縮む(-2x変位する)と、転がり軸受62の外輪62bへの押圧力が減少し、転がり軸受62の外輪62bが-2xだけ変位する。この際、外輪60b,62b間の隙間Tが2x分広くなる。そうすると、転がり軸受60、62の弾性変形がそれぞれxずつ減少するように、内輪60aと内輪62aとが、外輪60bと外輪62bとのそれぞれに対して変位する。
【0045】
このように、隙間Tの変位2xを二つの転がり軸受60、62がxずつ分けて吸収するので、転がり軸受60、62を互いに押圧する力がバランスしたときに、転がり軸受60、62の内輪60a、62aは、回転軸54とともに軸方向にx変位する。つまり、圧電素子68の伸縮量2xの半分が回転軸54の微動変位量xとなる。
なお、回転軸54のわずかな変位量は、例えば、数μm~数十μmとすることが考えられるが、圧電アクチュエータ50の用途に応じて圧電素子68及び印加電圧を選択し、サブミクロンオーダー等で動かすようにしてもよい。
【0046】
また、内輪間座64を介して前後に配置される転がり軸受60、62は、それぞれ、本実施形態のように1つずつに限らず、複数であってもよい。また、必ずしも同種の転がり軸受や、同じ剛性の転がり軸受のみを圧電アクチュエータ50に用いなくてもよい。
例えば、転がり軸受60の剛性を転がり軸受62の剛性よりも小さくすることで、圧電素子68の伸縮量に対する回転軸54のわずかな変位量を大きくできる。また、逆に、転がり軸受60の剛性を転がり軸受62の剛性よりも大きくすることで、圧電素子68の伸縮量に対する回転軸54のわずかな変位量を小さくできる。
【0047】
次に、本実施形態の負圧吸引機構100について詳しく説明する。
本実施形態では、回転軸54には、回転軸54の軸線に沿って軸穴53が先端から途中部分まで形成されている。軸穴53の先端は、吸着ツール120のノズル先端121sまで連通している。軸穴53の基端部には、横穴55が軸直方向に形成されている。
そして、シールブロック82には、回転軸54が回転状態および停止状態のいずれのときでも、吸着ツール120に負圧で吸引させるように、軸内の負圧用管路を吸引できるスイベルジョイント構造が設けられている。
【0048】
詳しくは、シールブロック82の内周面には、回転軸54の外周面を囲繞するように円環状空間83が形成されている。円環状空間83は、回転軸54の横穴55に連通する位置に形成されている。
さらに、シールブロック82には、継手78を有する減圧用ホルダ75が、シールブロック82の厚肉部分に付設されている。シールブロック82の厚肉部分と減圧用ホルダ75には、円環状空間83に連通する減圧路86が形成されている。
また、シールブロック82の内周面には、回転軸54の前後に離隔して円環状空間83をシールする2つの環状シール77が、回転軸54の外周面に摺接するように設けられている。本実施形態では、環状シール77として、Oリングが介装されている。
【0049】
2個の環状シール77に挟まれて円環状空間83が確実にシールされ、この円環状空間83の内部が、継手78に接続される減圧用配管(不図示)に減圧路86を介して連通している。減圧用配管は減圧装置(
図6の符号76参照)に接続される。
これにより、後述する、
図6に示すコントローラ18の制御に応じて減圧装置76が稼動されると、減圧用配管に連通する減圧路86により円環状空間83が減圧される。これにより、円環状空間83に連通する横穴55および軸穴53を順に介し、吸着ツール120の先端に設けられた吸着ノズル121により、操作対象Pが負圧で吸引されるようになっている。
【0050】
特に、本実施形態の負圧吸引機構100では、回転軸54の軸穴53およびこれにつながる横穴55と、シールブロック82の内面に形成された円環状空間83および2つの環状シール77とが組み合わされて、スイベルジョイント構造が構成されている。これにより、この負圧吸引機構100により、回転軸54が回転状態および停止状態のいずれのときでも、吸着ツール120により負圧で吸引することができる。
また、本実施形態の負圧吸引機構100であれば、回転軸54の途中部分を囲繞する円環状空間83と、円環状空間83の両側をシールする2つの環状シール77によりスイベルジョイント構造が構成されるので、極めて簡素に且つ安価にスイベルジョイント構造を設けることができる。
【0051】
また、本実施形態の負圧吸引機構100であれば、回転軸54の途中部分にスイベルジョイント構造を設けているので、回転軸54の後端にスイベルジョイント構造を設ける構成と比べて、回転軸54の後端部分のレイアウトや設計自由度が向上する。そのため、モータの出力軸と回転軸の後端とをカップリングにより接続する上で、モータの選択幅が広がるのでより好適である。
さらに、本実施形態では、シールブロック82を通った回転軸54の軸保持部56と中空棒状部58とが繋がる部分を覆う位置に、円筒状の芯出しリング92が取り付けられる。芯出しリング92は、回転軸54が回転した際に、吸着ツール120の先端が振れ回るのを補正する「振れ回り補正手段」として機能する。
【0052】
本実施形態では、芯出しリング92の装着は、まず、芯出しリング92を装着しない状態で回転軸54を回転させ、その時の振れ幅が最大となる位相を見つけて、適所に印を付ける。次いで、芯出しリング92を仮装着し、回転軸54を回転させた時の振れ幅が最大となる位相の反対方向に振れ幅補正ねじ93を締め付ける。
これにより、回転軸54を弾性変形させて振れ幅を小さくする効果がある。次いで、固定ねじ95により芯出しリング92の基端側を軸保持部56の先端外周面に固定する。なお、固定ねじ95は、周方向に90°の位相に離隔した位置に2本設けられている。
この状態で、回転軸54を再び回転させて振れの状態を確認する。振れ幅が許容以内であれば、振れ幅補正が完了したと判断して、止めねじ94、固定ねじ95を本締めすることで固定する。
【0053】
次に、本実施形態の吸着ツール120の部分について詳しく説明する。
回転軸54の先端部にはツール取付部54aが形成されている。本実施形態では、ツール取付部54aには、操作対象に対して負圧により直接吸着作用するツールとして、操作対象Pを負圧で吸着するための吸着ツール120が着脱可能に装着される。
吸着ツール120は、ツール本体部120hの基端側に、鍔部120bが設けられるとともに、鍔部120bから後方に延びる装着部120aの外周面に雄ねじが形成されている。ツール本体部120hの先端側は円錐台状に徐々に縮径しており、その先端に中空円筒状の吸着ノズル121が同軸に設けられている。
【0054】
吸着ノズル121は中空円筒状のノズルであり、その先端121sは、
図7に拡大図示するように、45°の角度で斜めにカットされて注射針状の吸着面121mが設けられている。但し、吸着ツール120およびその吸着ノズル121の形状は、これに限定されず、操作対象によってパット状やノズル状等、様々な形状とすることができる。これにより、微小な操作対象のピッキング,組立等が実現可能となる。
本実施形態の吸着ツール120は、拡径部となっているツール取付部54aの雌ねじ54bに装着部120aが締め込まれ、鍔部120bが中空棒状部58の先端面に当接する位置で、回転軸54の先端部に着脱可能に装着される。
【0055】
なお、ツール取付部54aへの吸着ツール120の取り付け機構については、本実施形態のようにねじにて着脱可能に組みつけられる他、各種の工具等において従来から用いられている機構から、用途に応じて適宜選択できる。
また、吸着ツール120は、
図5(b)に示すように、吸着ツール120に替えて、加工ツール120Bに交換することにより、切削,切断等の用途にも使用できる。つまり、吸着ツール120は、吸着用としてのノズルの他、加工ツール120Bとして、例えば、刃や、針や、ドリル、砥石、フライス(エンドミル)等を換装できる。つまり、吸着ツール120や加工ツール120Bは、圧電アクチュエータ50の用途に応じて適宜選択できる。
【0056】
なお、吸着ツール120と回転軸54とは、着脱可能な構成に限定されず、一体に構成されていてもよい。一体に構成することで、回転軸54の先端部や吸着ツール120の耐久性を高めることができる。
また、このような構成においても、回転軸54は、軸保持部56から取り外し可能な構成を採用すれば、用途の変化や回転軸54の劣化等に応じて回転軸54を容易に交換できる。その際、回転軸54についても種々の態様のものを用いることができる。例えば、
図5(b)に示す例では、回転軸54についてもねじ径が大型なものを装着して、その大型のねじに対応する加工ツール120Bに換装した例を示している。
【0057】
次に、コントローラ18によるマニピュレータシステム10の制御について
図6を参照しつつ説明する。
コントローラ18は、演算手段としてのCPU(Central Processing Unit)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのハードウエア資源を備え、所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って各種の制御を行うように駆動指令を出力する。
【0058】
コントローラ18には、
図6に示すように、情報入力部140として、ジョイスティック142、および、操作ボタン144を含むキーボード、マウス等が接続される。情報入力部140は、作業者からの操作に応じた入力信号をコントローラ18に入力し、コントローラ18は、情報入力部140に対する作業者からの操作に応じた制御信号を、駆動装置30、34や圧電アクチュエータ50に出力する。
コントローラ18は、第一マニピュレータ14及び第二マニピュレータ16を所定のシーケンスで自動的に駆動することも可能になっている。かかるシーケンス駆動は、コントローラ18が、所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて、それぞれに駆動指令を順次に出力することで行われる。
【0059】
情報入力部140は、マニピュレータシステム10の各種装置を操作するためのもので、作業者によって操作される。例えば、ジョイスティック142は、第一マニピュレータ14と第二マニピュレータ16とのそれぞれに対して1つずつ設けられる。
また、ジョイスティック142に対応して、複数の操作ボタン144が設定される。例えば、圧電素子68の駆動に割り当てられた操作ボタン144を押すことで圧電素子68を伸縮させ、モータ72の駆動に割り当てられた操作ボタン144を押すことでモータ72を回転可能に構成される。
【0060】
コントローラ18は、第一マニピュレータ14の第一駆動装置30、圧電素子68、モータ72および減圧装置76、並びに、第二マニピュレータ16の第二駆動装置34等を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動指令を出力する。
例えば、圧電素子68は、コントローラ18により制御される信号発生器130から発せられてアンプ132で増幅された電圧信号により駆動される。圧電素子68には、圧電素子68の駆動時にアンプ132から信号電圧が印加される一方、圧電素子68で発生する電圧に関する情報がコントローラ18に入力されるようになっている。
【0061】
本実施形態では、圧電素子68は、吸着ツール120の微動ないし振動駆動のために設けられているが、吸着ツール120が、例えば後述する操作対象Pに接触したとき、その接触による外力が圧電アクチュエータ50の回転軸54、転がり軸受60、62、スペーサカラー66等を介して圧電素子68に加わることにより発生する電圧に関する情報がコントローラ18に送られるようになっている。
そして、コントローラ18は、圧電素子68に発生した電圧が例えば所定のレベルや電圧差以上となったときに、警告ランプ(不図示)を光らせたりスピーカー(不図示)から警告音を発したりして作業者に報知したり、吸着ツール120の駆動を停止するように制御したりする。
【0062】
また、コントローラ18には、液晶パネル等の表示部146が接続されている。表示部146には、カメラ24で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面等が表示されるようになっている。
作業者は、テーブル20上に置かれた操作対象を表示部146で観察しながら、所望するハンドリング作業を行うことができるようになっている。なお、表示部146を介さず、顕微鏡22で拡大された操作対象を直接観察する構成としてもよい。また、表示部146をタッチパネルとし、情報入力部140としても機能する構成としてもよい。
【0063】
なお、本実施の形態のマニピュレータシステム10においては、吸着ツール120の回転量や微動量は、作業者が表示部146を介して目で確認しながら、ボタン等の情報入力部を操作して適宜調整するようになっている。
具体的には、例えば、作業者が操作ボタン144を押下している間、モータ72が回転し、作業者が操作ボタン144の押下をやめるとモータ72の回転が停止するようになっている。しかし、例えば、吸着ツール120を所定角度回転させるためのプログラムや、吸着ツール120を所定長さ微動させるためのプログラムをコントローラ18等に記憶しておき当該プログラムに基づいて吸着ツール120を動かすように構成してもよい。
【0064】
次に、マニピュレータシステム10の活用例として、マニピュレータシステム10を操作対象の姿勢調整に用いる場合について
図7~
図9を参照して説明する。
本実施形態では、マニピュレータシステム10においては、回転軸54のツール取付部54aには、吸着用のツールとして吸着ツール120が取り付けられる。
準備として、まず、テーブル20上に操作対象Pを載置し、操作対象Pが表示部146に表示されるように、操作対象Pの配置や顕微鏡ユニット12の設定を調整する。また、圧電アクチュエータ50及び支持ツール32をその基端部を中心に揺動させ、操作対象Pに対する角度を調整する。準備が完了したら、操作対象Pへのハンドリングを開始する。作業者は、基本的に表示部146を見ながらハンドリング操作を行う。
【0065】
本実施形態の例では、
図7に示すように、操作対象Pは、微小な角柱形状をしておりテーブル20の載置面上に載置される。吸着ツール120の先端が例えば45°の角度でカットされている場合、載置面に対して、回転軸54の先端に設けられた吸着ツール120の、吸着ノズル121の吸着面121mの角度も45°となるように圧電アクチュエータ50の角度を調整し、回転軸54を回転させることで、吸着ツール120を操作対象Pを吸着するのに適した角度に調整する。これにより、吸着ツール120の先端121sの吸着面121mが載置面と平行にされる。
【0066】
まず、この初期姿勢の状態から、
図8(a)に矢印を示すように、マニピュレータシステム10のZ軸を下降させる。そして、同図(b)に示すように、吸着ツール120の先端121sを操作対象Pの上面に密着させる。次いで、減圧装置76の稼動により、エア吸引することで操作対象Pを吸着する。なお、吸着と解除が可能なツールであるならエア吸引方式に限定するものではない。
次いで、操作対象Pを吸着後に、
図8(c)に示すように、マニピュレータシステム10のZ軸を上昇させて、操作対象Pを吸着状態で上方に持ち上げることができる。所望の位置に移動後、減圧装置76を停止し、操作対象を吸着ノズルから外すためにエア吸引を停止する。
【0067】
ここで、微小で軽量な操作対象Pを吸着した場合、操作対象Pが吸着ノズルの吸着部に嵌り込んだりして、負圧を切っても操作対象Pが吸着ノズルから外れないおそれがある。そして、操作対象Pを吸着ノズルから外すために正圧をかけると操作対象が飛散してしまうという問題がある。また、静電気等により目標以外の対象が吸着ノズルや操作対象に貼り付いてしまうという問題もある。
これに対し、本実施形態の圧電アクチュエータ50では、圧電素子68を伸縮させ、回転軸54に微小な軸方向変位を与えることができる。これにより、吸着ツール120は、負圧吸引により操作対象Pを吸着保持およびその解放が可能であり、さらに、圧電素子68による軸方向変位により軸方向に微動ないし振動できる。
【0068】
そのため、減圧装置76を停止して負圧を切れば、正圧をかけることなく、操作対象Pが吸着ノズル121の吸着面121mから容易に外れる。また、静電気等により目標以外の対象が吸着ノズルや操作対象に貼り付いてしまうという問題も防止または抑制される。したがって、微小な操作対象Pであっても、所期のマテリアルハンドリングを行うことができる。
なお大抵は、負圧吸引を止めれば、操作対象Pは吸着ノズル121の吸着面121mから外れるので、毎回振動させて振り落とす必要はない。換言すれば、負圧吸引を止めても操作対象Pが吸着ノズル121の吸着面121mから外れない場合に限り、圧電素子68を駆動させればよい。
【0069】
以上のように、第一駆動装置30は、吸着ツール120としての吸着ツール120を粗動させる粗動機構として機能し、また、圧電アクチュエータ50は、吸着用のツールとしての吸着ツール120を微動及び回転させる微動機構及び回転機構として機能している。
さらに、通常、操作対象Pを90°起き上がらせる必要がある場合、吸着ツール120ごと90°傾けなければならないが、例えば特許文献1に記載の技術では、
図7に示す初期姿勢からではそのような操作は困難である。
これに対し、本実施形態のマニピュレータシステム10では、圧電アクチュエータ50の特徴である回転機能を使い、操作対象Pを吸着後に、マニピュレータシステム10のZ軸を上昇させ、その後に、吸着ツール120を180°回転することで、所期の姿勢に操作対象Pの姿勢を変更することが実現可能となる。また、これを繰り返すことで操作対象Pの姿勢(位相)を90°毎に変えることが容易に行える。
【0070】
すなわち、
図8(c)に示した状態からモータ72を駆動して、
図9(a)~(b)~(c)に示すように、吸着ツール120を180°(
図9(a)、(b)に示すR方向へ)回転させる。これにより、回転軸54の先端に設けられた吸着ツール120を180°回転させて姿勢を変更することができる。
次いで、第一駆動装置30を駆動させ、吸着ノズル121の先端をテーブル20側に移動して、操作対象Pの下面の極近傍にテーブル20の載置面が位置するように、圧電アクチュエータ50を下方に移動させる。
【0071】
次いで、操作対象Pを吸着ノズル121の吸着面121mから外すために減圧装置76によるエア吸引を停止する。負圧吸引を止めても操作対象Pが外れない場合には、圧電素子68を駆動して、吸着ツール120を回転軸54の軸方向(
図9(d)に示すS方向)に吸着面121mを振動させる。
次いで、第一駆動装置30を駆動させ、
図9(e)に示すように、テーブル20から吸着ツール120を遠ざける。これにより、操作対象Pが吸着ツール120から解放されて、操作対象Pを所期の姿勢にてテーブル20の載置面上に載置させることができる(
図9(d)から(e)参照)。
【0072】
このように、本実施形態の圧電アクチュエータ50によれば、モータ72を回転させれば、その回転力により回転軸54を介して吸着ツール120を回転させることができる。このとき、回転軸54は転がり軸受60,62の内輪60a,62aに固定されるので、回転軸54が回転したときに転がり軸受60,62の外輪60b,62bは回転しない。したがって、回転軸54が回転しても、外輪60b,62bを直接または間接的に押圧する圧電素子68にはこの回転力は伝わらない。
また、本実施形態の圧電アクチュエータ50によれば、圧電素子68が伸縮すると、転がり軸受62の外輪62bに加わる圧電素子68からの押圧力の変化により転がり軸受60,62が変形し、回転軸54が軸方向にわずかに変位する。また、モータ72が回転すると、この回転力が回転軸54を介して吸着ツール120に伝わり、吸着ツール120を回転させることができる。
【0073】
特に、本実施形態の圧電アクチュエータ50によれば、回転軸54は、転がり軸受60,62の内輪60a,62aと固定されているので、回転軸54が回転したときに、転がり軸受60,62の外輪60b,62bは回転しない。したがって、外輪62bにスペーサカラー66を介して間接的に当接する圧電素子68には、回転軸54が回転してもこの回転力が伝わらない。
また、カップリング74は、回転軸54の軸方向への変位量を吸収可能に、モータ72の出力軸72aと回転軸54とを接続しているので、回転軸54が圧電素子68の伸縮により軸方向に動いた場合に、モータ72に軸方向の負荷がかからない。さらに、モータ72と回転軸54とをカップリング74により接続しているので、モータ72や回転軸54の選択の幅が広がる。
【0074】
また、回転軸54は、カップリング74によりモータ72と軸方向に挿抜可能に接続されているので、圧電アクチュエータ50から容易に取り外すことができる。したがって、圧電アクチュエータ50の用途に応じて回転軸54を交換したり、回転軸54の劣化に応じて回転軸54を交換したりするメンテナンスが容易となる。
そして、本実施形態の圧電アクチュエータ50によれば、回転軸54が回転状態および停止状態のいずれのときでも吸着ツール120に負圧で吸引させるように負圧吸引構造が設けられているので、回転軸54先端の吸着ツール120は、負圧吸引により操作対象を吸着保持しつつ、圧電素子68による転がり軸受の軸方向変位により軸方向に微動ないし振動できる。同時に、回転軸54は、モータ72により回転して、操作対象Pを位置決めしたり、操作対象Pを連続して回転させたりすることができる。
【0075】
よって、本実施形態の圧電アクチュエータ50によれば、吸着ツール120による操作対象Pの吸着、及び、吸着ツール120の回転による操作対象Pの向きや姿勢の変更、並びに、微小振動による操作対象Pの開放が可能になる。したがって、微小な操作対象Pであっても、所期のマテリアルハンドリングを行うことができるのである。
また、吸着ツール120は、ツール取付部54aに着脱可能に設けられるので、回転軸54から容易に取り外すことができる。したがって、圧電アクチュエータ50の用途に応じて吸着ツール120を他のツールとして加工ツール120Bに交換したり、吸着ツール120の劣化に応じて吸着ツール120を交換したりすることが容易となる。
【0076】
以上説明したように、本発明は、吸着ツール120を取付けるとともに圧電素子68による微小振動を付与可能に回転軸54を設け、さらに、回転軸54の内部管路を負圧で吸引可能な負圧吸引機構100をシールブロック82の部分に装備しているので、圧電素子68による微小振動を吸着ツール120に与えることができる。
つまり、回転軸54は、吸着ツール120での負圧吸引により操作対象Pを吸着保持しつつ、圧電素子68による転がり軸受60,62の軸方向変位により軸方向に微動ないし振動する。これと同時に、回転軸54は、モータ72により回転して、位置決めおよび連続回転が可能である。
【0077】
これにより、吸着ツール120に貼り付いたり、吸着ツール120の吸着部に嵌り込んだりした操作対象Pをふるい落とすことができる。よって、微小な操作対象Pであっても、所期のマテリアルハンドリングを行うことができる。
なお、本発明に係る圧電アクチュエータおよびこれを備えるマニピュレータは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、マニピュレータ及びマニピュレータシステムは、上記実施形態の構成に限らず、主には吸着ツール120を適宜選択することで他の用途に用いることが可能である。
【0078】
例えば、吸着ツール120に替えて、砥石やフライス等の加工ツール120Bを装着し、操作対象を研削したり切削したりする用途に用いてもよい。また、加工ツール120Bをドリルとし、穴あけ加工に用いてもよい。また、加工ツール120Bを円板状のブレードとし、操作対象の切断に用いてもよい。
また、これらの場合に、圧電素子68は、微細な位置調整に用いてもよく、超音波振動を与えながら超音波加工をするのに用いてもよい。また、加工ツール120Bをホーンとし、操作対象のホーンが接する部分に圧電素子68の振動による超音波振動を与え、超音波溶着をするのに用いてもよい。
【0079】
すなわち、吸着ツール120を加工ツール120Bに換装した場合、マニピュレータは、コントローラ18からの制御信号に基づいて圧電アクチュエータ50を制御し、回転軸54を軸方向に微動または振動させ、回転軸54を回転させることができる。また、回転軸54の軸方向への微動または振動と、回転軸54の回転とは、それぞれ独立して行われるようになっていてもよく、連動して行われるようになっていてもよい。
また、テーブル20の形態や、顕微鏡22の配置等は、マニピュレータ及びマニピュレータシステムの用途に応じて適宜選択できる。例えば穴あけ加工に用いる加工ツール120Bを装着する場合には、圧電アクチュエータ50の先端が下方を向くように配置し、顕微鏡が斜め下を向くように配置できる。また、圧電アクチュエータ50のX-Y-Z軸方向における可動範囲は、マニピュレータ及びマニピュレータシステムの用途に応じて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0080】
10 マニピュレータシステム
12 顕微鏡ユニット
14 第一マニピュレータ
16 第二マニピュレータ
18 コントローラ
20 テーブル
22 顕微鏡
24 カメラ
30 第一駆動装置
32 支持ツール
34 第二駆動装置
50 圧電アクチュエータ
52 ハウジング
53 軸穴
54 回転軸
54a ツール取付部
55 横穴
56 軸保持部
58 中空棒状部
59 二面幅部
60,62 転がり軸受
60a,62a 内輪
60b,62b 外輪
60c,62c 転動体
64 内輪間座
66 スペーサカラー
68 圧電素子
70 間座
70a 軸挿通孔
72 モータ
72a 出力軸
74 カップリング
76 減圧装置
77 環状シール
78 継手
80 ハウジング本体
82 シールブロック
82a 軸挿通孔
83 円環状空間
84、85 ネジ
86 減圧路
92 芯出しリング
90,96 ロックナット
94 止めねじ
100 負圧吸引機構
120 吸着ツール
120B 加工ツール
120a 装着部
120b 鍔部
120h ツール本体部
121 吸着ノズル
121s (吸着ノズルの)先端
121m (吸着ノズルの)吸着面
130 信号発生器
132 アンプ
140 情報入力部
142 ジョイスティック
144 操作ボタン
146 表示部
G 隙間
T 隙間
P 操作対象