(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 21/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B23B21/00 C
(21)【出願番号】P 2018203025
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100105946
【氏名又は名称】磯野 富彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 正史
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203286(JP,A)
【文献】特開2001-129701(JP,A)
【文献】特開昭59-232745(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016226(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110307(WO,A1)
【文献】特開2019-111601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 21/00、 3/16、 7/02、 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持してZ方向の軸線中心に回転する主軸を
有する機械本体部と、
前記主軸に保持されたワークを切削加工するための直線切刃を有する
複数の切削工具を直接取り付け可能又は保持可能であり、前記主軸に対して鉛直方向の上方に配置された上側プレート状刃物台と、
前記機械本体部に設けられ、前記上側プレート状刃物台を、前記Z方向、前記Z方向に直交しか
つワークに対する切削量を規定するX方向、及び前記Z方向及び前記X方向の双方に直交するY方向にそれぞれ移動させる上側移動機構と、を備え、
前記上側プレート状刃物台は、
前記Y方向及び前記Z方向に沿うYZ面に平行な平面状の下面を有し、
前記Y方向に移動することにより、前記複数の切削工具のうちのいずれかをワークの切削加工に用いる切削工具として切り替え可能であり、
前記
複数の切削工具は、前記直線切刃が前記X方向から見て前記Z方向に対して傾いた状態で前記上側プレート状刃物台
における前記下面に直接取り付けられ、又は保持されており、
前記上側プレート状刃物台が前記Y方向、又は前記Y方向と前記Z方向とを含んだ合成方向に移動することにより、前記X方向から見て前記Z方向に沿うワークの表面上の母線に対して前記直線切刃の刃先がずれか
つ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行う、工作機械。
【請求項2】
前記上側移動機構は、
前記Z方向に沿って前記機械本体部に設けられた上側Z軸ガイドと、
前記上側Z軸ガイドに沿って前記Z方向に移動可能な上側Z軸スライダと、
前記上側Z軸スライダに設けられ、前記X方向に沿う上側X軸ガイドと、
前記上側X軸ガイドに沿って前記X方向に移動可能な上側X軸スライダと、
前記上側X軸スライダに設けられ、前記Y方向に沿う上側Y軸ガイドと、
前記上側Y軸ガイドに沿って前記Y方向に移動可能な上側Y軸スライダと、を備え、
前記上側プレート状刃物台は、前記上側Y軸スライダに設けられて、前記Z方向、前記X方向、及び前記Y方向にそれぞれ移動可能である、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記主軸に対して鉛直方向の下方に配置された下側プレート状刃物台と、
前記機械本体部に設けられ、前記下側プレート状刃物台を、前記Z方向、前記X方向、及び前記Y方向にそれぞれ移動させる下側移動機構と、を備え、
切削工具は、前記直線切刃が前記X方向から見て前記Z方向に対して傾いた状態で前記下側プレート状刃物台に直接取り付けられ、又は保持されており、
前記下側プレート状刃物台が前記Y方向、又は前記Y方向と前記Z方向とを含んだ合成方向に移動することにより、前記X方向から見て前記Z方向に沿うワークの表面上の母線に対して前記直線切刃の刃先がずれか
つ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行う、請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記下側移動機構は、
前記Z方向に沿って前記機械本体部に設けられた下側Z軸ガイドと、
前記下側Z軸ガイドに沿って前記Z方向に移動可能な下側Z軸スライダと、
前記下側Z軸スライダに設けられ、前記X方向に沿う下側X軸ガイドと、
前記下側X軸ガイドに沿って前記X方向に移動可能な下側X軸スライダと、
前記下側X軸スライダに設けられ、前記Y方向に沿う下側Y軸ガイドと、
前記下側Y軸ガイドに沿って前記Y方向に移動可能な下側Y軸スライダと、を備え、
前記下側プレート状刃物台は、前記下側Y軸スライダに設けられて、前記Z方向、前記X方向、及び前記Y方向にそれぞれ移動可能である、請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記上側移動機構及び前記下側移動機構を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記上側プレート状刃物台と前記下側プレート状刃物台とを同期して移動させるように前記上側移動機構及び前記下側移動機構を制御する、請求項3又は請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記制御装置は、前記X方向から見て、前記上側プレート状刃物台と前記下側プレート状刃物台とが、ワーク
の軸線に対して互いに対称となる方向に移動するように前記上側移動機構及び前記下側移動機構を制御する、請求項5に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の1つである旋盤は、加工対象であるワークを回転軸に保持し、ワークを回転させながらバイト等の切削工具により切削加工等を行う。この旋盤では、線状(直線状)の切刃を有する切削工具を用いて、ワークの接線方向(回転軸と交差する方向)に切削工具を移動させることにより、ワークに対する切刃の切削点を移動させながらワークを切削する加工方法を採用している(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の工作機械では、加工対象のワークに合わせて切削工具を選定するため、複数の切削工具を保持可能なタレット式刃物台が用いられており、切削工具を送りながらワークを切削するために、タレット式刃物台の一部に切削工具を送るスライダが取り付けられ、このスライダに切削工具が保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークの加工時には、切削工具に対して、ワークの回転軸に沿った送り方向における送り分力と、ワークの切り込み量を規定する方向における背分力とが作用する。特許文献1に記載の工作機械では、切削工具がタレット式刃物台に保持されているので、送り分力と背分力とがタレット式刃物台の回転軸部分にかかることになる。従って、タレット式刃物台の回転軸部分の剛性が低いと、切削工具を移動させながらワークを切削する場合に、刃先の移動により刃先位置の変動が生じてしまい、高精度な切削加工を行うことができないといった問題がある。また、刃物台がワークの下方に設置されていると、切削工具によりワークを加工する際の切り屑が刃物台及びその周辺に堆積し、切削不良又は刃物台の動作不良を引き起こす場合がある。
【0005】
本発明は、刃先位置の変動を抑制してワークの高精度な切削加工を実現しつつ、切り屑の影響を抑制することが可能な工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様によれば、工作機械が提供される。工作機械は、ワークを保持してZ方向の軸線中心に回転する主軸を有する機械本体部を備える。工作機械は、主軸に保持されたワークを切削加工するための直線切刃を有する複数の切削工具を直接取り付け可能又は保持可能であり、主軸に対して鉛直方向の上方に配置された上側プレート状刃物台を備える。工作機械は、機械本体部に設けられ、上側プレート状刃物台を、Z方向、Z方向に直交しかつワークに対する切削量を規定するX方向、及びZ方向及びX方向の双方に直交するY方向にそれぞれ移動させる上側移動機構を備える。上側プレート状刃物台は、Y方向及びZ方向に沿うYZ面に平行な平面状の下面を有する。上側プレート状刃物台は、Y方向に移動することにより、複数の切削工具のうちのいずれかをワークの切削加工に用いる切削工具として切り替え可能である。複数の切削工具は、直線切刃がX方向から見てZ方向に対して傾いた状態で上側プレート状刃物台における下面に直接取り付けられ、又は保持されている。工作機械は、上側プレート状刃物台がY方向、又はY方向とZ方向とを含んだ合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークの表面上の母線に対して直線切刃の刃先がずれかつ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行う。
【0007】
また、上側移動機構は、Z方向に沿って機械本体部に設けられた上側Z軸ガイドと、上側Z軸ガイドに沿ってZ方向に移動可能な上側Z軸スライダと、上側Z軸スライダに設けられ、X方向に沿う上側X軸ガイドと、上側X軸ガイドに沿ってX方向に移動可能な上側X軸スライダと、上側X軸スライダに設けられ、Y方向に沿う上側Y軸ガイドと、上側Y軸ガイドに沿ってY方向に移動可能な上側Y軸スライダと、を備え、上側プレート状刃物台は、上側Y軸スライダに設けられて、Z方向、X方向、及びY方向にそれぞれ移動可能であってもよい。
【0008】
また、主軸に対して鉛直方向の下方に配置された下側プレート状刃物台と、機械本体部に設けられ、下側プレート状刃物台を、Z方向、X方向、及びY方向にそれぞれ移動させる下側移動機構と、を備え、切削工具は、直線切刃がX方向から見てZ方向に対して傾いた状態で下側プレート状刃物台に直接取り付けられ、又は保持されており、下側プレート状刃物台がY方向、又はY方向とZ方向とを含んだ合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークの表面上の母線に対して直線切刃の刃先がずれかつ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行ってもよい。
【0009】
また、下側移動機構は、Z方向に沿って機械本体部に設けられた下側Z軸ガイドと、下側Z軸ガイドに沿ってZ方向に移動可能な下側Z軸スライダと、下側Z軸スライダに設けられ、X方向に沿う下側X軸ガイドと、下側X軸ガイドに沿ってX方向に移動可能な下側X軸スライダと、下側X軸スライダに設けられ、Y方向に沿う下側Y軸ガイドと、下側Y軸ガイドに沿ってY方向に移動可能な下側Y軸スライダと、を備え、下側プレート状刃物台は、下側Y軸スライダに設けられて、Z方向、X方向、及びY方向にそれぞれ移動可能であってもよい。
【0010】
また、上側移動機構及び下側移動機構を制御する制御装置を備え、制御装置は、上側プレート状刃物台と下側プレート状刃物台とを同期して移動させるように上側移動機構及び下側移動機構を制御してもよい。
【0011】
また、制御装置は、X方向から見て、上側プレート状刃物台と下側プレート状刃物台とが、ワークの軸線に対して互いに対称となる方向に移動するように上側移動機構及び下側移動機構を制御してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工作機械によれば、切削工具を上側プレート状刃物台に保持可能であるため、切削工具を移動させながらワークを切削する場合に、送り分力と背分力とが上側プレート状刃物台にかかっても、刃先位置の変動を抑制できる。その結果、ワークを高精度に切削加工することができる。また、上側プレート状刃物台が主軸に対して鉛直方向の上方に配置されるため、加工時の切り屑が落下して切削工具上又は刃物台上に堆積せず、切り屑を効率的に排出可能となり、切削不良又は刃物台の動作不良を回避することができる。
【0013】
また、上側移動機構が、上側Z軸ガイドと、上側Z軸スライダと、上側X軸ガイドと、上側X軸スライダと、上側Y軸ガイドと、上側Y軸スライダと、を備え、上側プレート状刃物台が、上側Y軸スライダに設けられて、Z方向、X方向、及びY方向にそれぞれ移動可能である構成では、各方向のガイドとスライダとによって上側プレート状刃物台をZ方向、X方向、及びY方向に正確かつ安定して移動させることができる。また、下側プレート状刃物台と、下側移動機構と、を備え、直線切刃がX方向から見てZ方向に対して傾いた状態で切削工具が下側プレート状刃物台に直接取り付けられ、又は保持されており、下側プレート状刃物台が合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークの表面上の母線に対して直線切刃の刃先がずれかつ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行う構成では、上側プレート状刃物台の切削工具と、下側プレート状刃物台の切削工具とでワークを上下に挟んだ状態で加工を行うため、上側プレート状刃物台の切削工具に作用する背分力と、下側プレート状刃物台の切削工具に作用する背分力とが相殺又はほぼ相殺され、ワーク又は切削工具の背分力に起因する振動を抑制するので、ワークを高精度に切削加工することができる。
【0014】
また、下側移動機構が、下側Z軸ガイドと、下側Z軸スライダと、下側X軸ガイドと、下側X軸スライダと、下側Y軸ガイドと、下側Y軸スライダと、を備え、下側プレート状刃物台が、下側Y軸スライダに設けられて、Z方向、X方向、及びY方向にそれぞれ移動可能である構成では、各方向のガイドとスライダとによって下側プレート状刃物台をZ方向、X方向、及びY方向に正確かつ安定して移動させることができる。
【0015】
また、下側プレート状刃物台と、下側移動機構と、を備え、直線切刃がX方向から見てZ方向に対して傾いた状態で切削工具が下側プレート状刃物台に直接取り付けられ、又は保持されており、下側プレート状刃物台が合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークの表面上の母線に対して直線切刃の刃先がずれかつ母線上の切削点がずれながらワークの切削加工を行う構成では、下側プレート状刃物台を上側プレート状刃物台と同様な動作を確保しつつ、下側プレート状刃物台で保持する切削工具によりワークを高精度に加工することができる。
【0016】
また、上側移動機構及び下側移動機構を制御する制御装置を備え、制御装置が、上側プレート状刃物台と下側プレート状刃物台とを同期して移動させるように上側移動機構及び下側移動機構を制御する構成では、ワークの加工を上側プレート状刃物台の切削工具と下側プレート状刃物台の切削工具とで同時又はほぼ同時に行うことが可能となり、ワークを効率よく加工することができる。
【0017】
また、制御装置が、X方向から見て、上側プレート状刃物台と下側プレート状刃物台とが、ワークの軸線に対して互いに対称となる方向に移動するように上側移動機構及び下側移動機構を制御する構成では、上側プレート状刃物台の切削工具と、下側プレート状刃物台の切削工具とにより、一方向に回転するワークを安定して切削加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る工作機械の一例を示す正面図である。
【
図3】上側プレート状刃物台を含む上側移動機構の一部を示す斜視図である。
【
図4】上側プレート状刃物台の一例を示す斜視図である。
【
図5】(A)は、工作機械の一部をY方向から見た図であり、(B)は、切削工具を+X側から見た場合の一例を示す図である。
【
図6】X方向から見たときの切削工具T1の動きの一例を示す平面図であり、(A)は切削加工前の図、(B)は切削加工中の図、(C)は切削加工後の図である。
【
図7】第2実施形態に係る工作機械の一例を示す正面図である。
【
図9】下側プレート状刃物台の一例を示す斜視図である。
【
図10】(A)は、工作機械の一部をY方向から見た図であり、(B)は、切削工具を+X側から見た場合の一例を示す図である。
【
図11】X方向から見たときの切削工具T2の動きの一例を示す平面図であり、(A)は切削加工前の図、(B)は切削加工中の図、(C)は切削加工後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はいかに説明する形態に限定されない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きく又は強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。以下の各図においては、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系において、水平面に平行な平面をYZ平面とする。このYZ平面において主軸7(対向軸8)の軸線AX方向をZ方向と表記し、水平面においてZ方向に直交する方向をY方向と表記する。また、YZ平面に垂直な方向はX方向と表記する。X方向は、ワークWに対する切削量を規定する方向である。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、矢印の指す方向を+方向とし、反対の方向を-方向として説明する。
【0020】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る工作機械100について、図面を用いて説明する。
図1は、第1実施形態に係る工作機械100の一例を示す正面図である。
図2は、
図1に示す工作機械100をZ方向から見た側面図である。
図1及び
図2に示す工作機械100は、旋盤である。
図1及び
図2において、工作機械100の+Y側が正面であり、-Y側が背面である。また、工作機械100の+Z側及び-Z側は側面であり、Z方向は工作機械100の左右方向である。
【0021】
工作機械100は、機械本体部であるベース1を有している。ベース1には、主軸台2と心押し台4とが設けられる。主軸台2は、不図示の軸受け等により主軸7を回転可能な状態で支持している。なお、主軸台2は、ベース1に固定されるが、Z方向、X方向、Y方向等に移動可能に形成され、モータ等の駆動によって移動する構成であってもよい。主軸7の+Z側の端部には、チャック駆動部9が設けられている。チャック駆動部9は、複数の把握爪9aを主軸7の径方向に移動させてワークWを保持させる。
図1では、主軸7の軸線AXまわりに等間隔に配置された3つの把握爪9aを用いてワークWを把持しているが、この形態に限定されず、把握爪9aの個数又は形状は、ワークWを保持可能な任意の構成が適用可能である。把握爪9aによって保持されるワークWは、例えば円柱形などに形成されており、上側表面Waを有する。
【0022】
主軸7の-Z側の端部は主軸台2から-Z方向に突出しており、この端部にプーリ11が取り付けられる。プーリ11と、ベース1に設けられたモータ12の軸線との間にはベルト13が掛け渡されている。主軸7は、モータ12の駆動によりベルト13を介して回転する。モータ12は、制御装置CONTからの指示により回転数等が制御される。モータ12としては、例えば、トルク制御機構を備えたモータが用いられる。また、主軸7は、モータ12及びベルト13によって駆動されることに限定されず、モータ12の駆動を歯車列等で主軸7に伝達する構成、又はモータ12によって直接主軸7を回転させる構成であってもよい。
【0023】
心押し台4は、ベース1上に設置されたZ軸ガイド3に沿って移動可能に形成される。心押し台4は、不図示の軸受け等により対向軸8を回転可能な状態で支持している。主軸7の軸線AX方向と、対向軸8の軸線方向とはZ方向に一致した状態となっている。心押し台4の-Z側の端部には、センタ10が取り付けられている。なお、対向軸8は、心押し台4に固定され、デッドセンタとして使用されてもよい。
【0024】
ワークWが長尺である場合(Z方向に長い場合)は、ワークWの+Z側の端部を心押し台4のセンタ10で保持する。長尺のワークWは主軸7と対向軸8とに挟まれた状態で回転するため、切削加工時に安定してワークWを回転させることができる。ワークWが短尺の場合(Z方向に短い場合)、ワークWは、主軸7の把握爪9aのみにより保持されて回転する。この場合には、心押し台4を用いなくてもよい。
【0025】
上側移動機構20は、上側Z軸ガイド5と、上側Z軸スライダ17と、上側X軸ガイド18と、上側X軸スライダ15と、上側Y軸ガイド16と、上側Y軸スライダ19と、上側Z方向駆動系M1と、上側X方向駆動系M2と、上側Y方向駆動系M3とを有する。ベース1には、Z方向に配置された2本の上側Z軸ガイド5が設けられる。
図1及び
図2に示すように、2本の上側Z軸ガイド5は、上下方向(X方向)に並んで配置され、それぞれZ方向に延びて設けられる。
【0026】
なお、上側Z軸ガイド5は、図示のように上下に2本設けられることに限定されず、1本又は3本以上設けられてもよい。また、2本の上側Z軸ガイド5は、上側Z軸スライダ17の上方においてY方向に並んで配置されてもよい。上側Z軸ガイド5には、上側Z軸ガイド5に沿ってZ方向に移動可能な上側Z軸スライダ17が設けられる。上側Z軸スライダ17は、上側Z方向駆動系M1(移動装置)の駆動によりZ方向に移動し、所定位置で保持される。なお、上側Z方向駆動系M1は、例えば、電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。
【0027】
図3は、上側プレート状刃物台21を含む上側移動機構20の一部を示す斜視図である。
図1から
図3に示すように、上側Z軸スライダ17の+Y側の面には、2本の上側X軸ガイド18が形成される。2本の上側X軸ガイド18は、所定の間隔で平行するように、それぞれがX方向に延びて設けられる。上側X軸ガイド18には、2本の上側X軸ガイド18に沿って移動可能な上側X軸スライダ15が設けられる。上側X軸スライダ15は、上側X方向駆動系M2(移動装置)の駆動によりX方向に移動し、所定位置で保持される。なお、上側X方向駆動系M2は、例えば、電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。
【0028】
上側X軸スライダ15の-X側の面には、2本の上側Y軸ガイド16が形成される。2本の上側Y軸ガイド16は、所定の間隔で平行するように、それぞれがY方向に延びて設けられる。上側Y軸ガイド16には、2本の上側Y軸ガイド16に沿って移動可能な上側Y軸スライダ19が設けられる。上側Y軸スライダ19は、上側Y方向駆動系M3(移動装置)の駆動によりY方向に移動し、所定位置で保持される。上側Y方向駆動系M3は、例えば、ボールネジ機構を含む電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。なお、上記の上側Z方向駆動系M1、上側X方向駆動系M2及び上側Y方向駆動系M3は、制御装置CONTによって制御される。
【0029】
図3は、上側プレート状刃物台21の一例を示す斜視図である。
図3に示すように、上側Y軸スライダ19の-X側の面(下面)である取付面19aには、上側プレート状刃物台21が設けられる。上側プレート状刃物台21は、主軸7に対して鉛直方向の上方(+X側)に配置される。上側プレート状刃物台21は、例えば金属などの素材で板状に形成されている。上側プレート状刃物台21は、下面(-X側の面)21aに、上側ホルダ24を介して複数の切削工具T1を装着可能である。
【0030】
図4は、上側プレート状刃物台21の一例を示す斜視図である。
図4に示すように、上側プレート状刃物台21は、上側ホルダ24は、それぞれ1つの切削工具T1を保持しているが、この形態に限定されず、1つの上側ホルダ24で2つ以上の切削工具T1を保持させてもよい。上側ホルダ24は、ボルト等の締結部材によって上側プレート状刃物台21に取り付けられ、取り外し可能である。なお、上側プレート状刃物台21に取り付けられる上側ホルダ24の数は任意であり、例えば、1つの上側ホルダ24が上側プレート状刃物台21に取り付けられてもよい。
【0031】
複数の上側ホルダ24は、切削工具T1の位置が互いにY方向にずれた状態で、Z方向に並んで配置される。この構成により、いずれか1つの切削工具T1を用いてワークWの切削加工を行う場合でも、他の切削工具T1がワークWに干渉することを回避できる。このため、複数の切削工具T1を上側プレート状刃物台21に装着したまま、いずれかの切削工具T1によりワークWの切削加工を行うことが可能であり、ワークWが変わって(あるいは1つのワークWのうち加工対象面が変わって)切削工具T1を変更するときでも、上側プレート状刃物台21をY方向あるいはZ方向に移動させるだけで、ワークWの切削加工に用いる切削工具T1を容易に切り替えることができる。
【0032】
各切削工具T1は、Y方向から見て、切刃H1に沿う方向(切刃方向)がワークWの上側表面Waと平行である(
図1及び
図2参照)。切刃H1のZ方向に対する角度θ(
図6(A)参照)は任意に設定可能である。切削工具T1は、ワークWの上側表面Waにおける接線方向(軸線AXと交差する方向)に移動しながらワークWの切削加工を行う。切削工具T1は、Y方向、又はY方向とZ方向とを含んだ合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークWの上側表面Wa上の母線D1(
図6参照)に対して切刃H1がY方向ずれ、母線D1上において切削点C1(
図6参照)がZ方向にずれながらワークWの切削加工を行う。すなわち、各切削工具T1は、ワークWの切削加工を行う際に、切刃H1における切削点C1が移動する。
【0033】
図5(A)は、工作機械100の一部をY方向から見た図である。
図5(A)に示すように、切削工具T1には、軸線AXまわりに回転するワークWを切削加工した場合に、切削工具T1の送り方向(+Z方向又は-Z方向)と反対の方向(-Z方向又は+Z方向)の送り分力F1が作用し、ワークWに対して切込み量を規定する向き(-X方向)と逆向きの上向き(+X方向)に背分力F2が作用し、
図1の紙面と垂直の方向(+Y方向)に主分力が作用する。
【0034】
図5(B)は、切削工具T1を+X側から見た場合の一例を示す図である。
図5(B)に示すように、切削工具T1を-Y方向に移動させつつ-Z方向に移動させてワークWの切削加工を行う場合(
図5(B)の黒矢印参照)、切削工具T1には、+Y方向に主分力FY1が作用し、+Z方向に送り分力F1が作用する。本実施形態の工作機械100では、
図5(A)に示すように、切削工具T1が、2本の上側Y軸ガイド16のスパンの間、及び2本の上側X軸ガイド18のスパンの間に配置される。この構成により、送り分力、背分力、主分力は、2本の上側Y軸ガイド16及び2本の上側X軸ガイド18に適切に分散されて、バランスよく受け止められる。その結果、切削工具T1は、ワークWを切削加工する場合であっても、切刃H1の刃先位置の変動が抑制される。
【0035】
工作機械100は、
図1及び
図2に示すように、主軸7に対して鉛直方向の下方(-X側)に、切り屑回収容器22と、切り屑搬送ライン23とが配置される。切り屑回収容器22は、切削工具T1によりワークWが切削される場合に生じる切り屑を収容する。ワークWが切削される場合に生じる切り屑は、ワークWの位置から落下する場合が多い。従って、切り屑の落下位置に切り屑回収容器22を配置することにより、効率よく切り屑を回収可能である。切り屑搬送ライン23は、切り屑回収容器22に収容された切り屑を所定の排出先に搬送する。切り屑搬送ライン23としては、例えばコンベア機構等を用いることができる。
【0036】
次に、以上のように構成された工作機械100の動作について説明する。以下の説明に際して、適宜
図1から
図5の内容を参照する。なお、以下の説明では、3つの切削工具T1のうち1つを用いてワークWを加工する場合を説明するが、他の切削工具を用いて説明する場合も同様である。
図6は、X方向からワークWを見たときの切削工具T1の動きの一例を示す平面図であり、(A)は切削加工前の図、(B)は切削加工中の図、(C)は切削加工後の図である。
【0037】
先ず、加工対象であるワークWを主軸7に保持させる。ワークWを把持した後、モータ12を駆動して主軸7を回転させることにより、ワークWを軸線AXまわりに回転させる。なお、主軸7と対向軸8とでワークWを把持する場合には、主軸7と対向軸8とを同期させて回転させる。また、ワークWの回転数は、加工処理に応じて適宜設定される。
【0038】
続いて、切削工具T1のX方向の位置が調整される。この調整では、切刃H1がワークWの上側表面Waに対応するように、上側X方向駆動系M2によって上側プレート状刃物台21をX方向に移動させる。切刃H1のX方向の位置は、ワークWの上側表面Waに対する切削量を規定する。切削量は、制御装置CONTによって予め設定された値に設定されてもよく、また、作業者のマニュアル操作によって設定されてもよい。
【0039】
続いて、ワークWの回転が安定した段階で、切削工具T1のY方向及びZ方向の位置合わせを行う。切削工具T1のY方向及びZ方向の位置合わせ、並びに後述する合成方向P1への移動は、上側Z軸スライダ17のZ方向への移動、及び上側Y軸スライダ19(上側プレート状刃物台21)のY方向への移動によって行われる。切削工具T1は、ワークWの切削範囲Lに応じて位置合わせされる。
図6(A)に示すように、切削工具T1の切刃H1の-Y側の端部H1aが、ワークWの母線D1の+Y側近傍であって切削範囲Lの+Z側に配置される。このとき、他の切削工具T1及び上側ホルダ24は、ワークWに対してY方向にずれて位置するため、加工動作においてワークWと干渉することはない。
【0040】
続いて、
図6(A)に示すように、切刃H1を、-Y方向と-Z方向とを合成した合成方向P1に移動させる。合成方向P1は、例えば、切刃H1の刃先に沿った長さと、ワークWの切削範囲Lとに応じて設定される。すなわち、切削工具T1が母線D1の+Y側から-Y側に抜けた際に(1回のパスで)切削範囲Lを切刃H1で切削加工するような合成方向P1に設定されている。ただし、合成方向P1に代えてY1方向(
図6(A)の一点鎖線矢印参照)に切削工具T1を移動させてもよいし、合成方向P1として複数回のパスで切削範囲Lを切削加工するような方向に設定されてもよい。
【0041】
続いて、切削工具T1の切刃H1を、合成方向P1に移動させることによりワークWの上側表面Waに対して切削加工を行う。切削工具T1の切刃H1は、ワークWの上側表面Wa上のZ方向の母線D1に対して+Y側から-Y側に移動し、切刃H1の-Y側の端部H1aが先にワークWに当接し、この端部H1aにおいて上側表面Waの切削を行う。続いて、切削工具T1は、合成方向P1に移動しながらワークWの切削加工を行う。なお、合成方向P1は、ワークWの上側表面Waに対する接平面に沿った方向である。また、切削工具T1は、切刃H1の刃先に沿った方向が、母線D1と平行を保ちながら合成方向P1に移動する。
【0042】
切刃H1は、
図6(B)に示すように、上側表面Waに沿って合成方向P1に移動することにより、ワークWへの切削部分が端部H1aから端部H1bに向けて徐々にずれていく。さらに、切刃H1が合成方向P1に向けて移動する間に、ワークWの上側表面Waにおいて母線D1上の切削点C1は、母線D1に沿って-Z方向に進んでいく。すなわち、切削工具T1は、ワークWの切削加工を行う際に、切刃H1における切削点C1が移動する。
【0043】
その後、
図6(C)に示すように、切刃H1の端部H1bが母線D1から-Y側に離れた段階で、切削工具T1による上側表面Waの切削加工が終了する。上記した切削動作では、切削工具T1の切刃H1において端部H1aから端部H1bまでの全体を用いて上側表面Waの切削加工を行っているが、この形態に限定されず、切刃H1の一部を用いて上側表面Waの切削範囲Lを切削加工してもよい。切削工具T1によりワークWが切削される場合には、切り屑が生じる。この切り屑は、ワークWから落下し、切り屑回収容器22に収容される。切削工具T1によるワークWの切削中、あるいは切り屑回収容器22内に所定量以上の切り屑が収容されると、切り屑搬送ライン23を駆動することにより、切り屑を所定の排出先に搬送する。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る工作機械100によれば、切削工具T1を上側プレート状刃物台21に保持しているため、切削工具T1を移動させながらワークWを切削する場合に、送り分力と背分力とが上側プレート状刃物台21にかかっても、刃先位置の変動を抑制できる。その結果、ワークWを高精度に切削加工することが可能となる。また、上側プレート状刃物台21が主軸7に対して鉛直方向の上方に配置されるため、加工時の切り屑が切削工具T1又は上側プレート状刃物台21に堆積せず、切り屑を効率よく排出できるので、ワークWの切削不良又は上側プレート状刃物台21の動作不良を回避することができる。
【0045】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る工作機械200について、図面を用いて説明する。
図7は、第2実施形態に係る工作機械200の一部を示す側面図である。
図8は、
図7に示す工作機械200をZ方向から見た側面図である。また、以下の説明において、第1実施形態と同一又は同等の構成部分については同一符号を付けて説明を省略又は簡略化する。
【0046】
図7及び
図8に示すように、主軸7に対して鉛直方向の上側には、第1実施形態において説明した上側移動機構20及び上側プレート状刃物台21がベース1に配置される。また、主軸7に対して鉛直方向の下側には、下側移動機構40及び下側プレート状刃物台41がベース1に配置される。下側移動機構40は、下側Z軸ガイド25と、下側Z軸スライダ37と、下側X軸ガイド38と、下側X軸スライダ35と、下側Y軸ガイド36と、下側Y軸スライダ39と、下側Z方向駆動系M11と、下側X方向駆動系M12と、下側Y方向駆動系M13とを有する。
【0047】
ベース1において主軸7の-X側には、Z方向に配置された2本の下側Z軸ガイド25が設けられる。2本の下側Z軸ガイド25は、上下方向(X方向)に並んで配置され、それぞれZ方向に延びて設けられる。なお、下側Z軸ガイド25は、図示のように上下に2本設けられることに限定されず、1本又は3本以上設けられてもよい。また、2本の下側Z軸ガイド25は、下側Z軸スライダ37の下方においてY方向に並んで配置されてもよい。下側Z軸ガイド25には、下側Z軸ガイド25に沿ってZ方向に移動可能な下側Z軸スライダ37が設けられる。下側Z軸スライダ37は、下側Z方向駆動系M11(移動装置)の駆動によりZ方向に移動し、所定位置で保持される。なお、下側Z方向駆動系M11は、例えば、電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。
【0048】
下側Z軸スライダ37の+Y側の面には、2本の下側X軸ガイド38が形成される。2本の下側X軸ガイド38は、所定の間隔で平行するように、それぞれがX方向に延びて設けられる。下側X軸ガイド38には、2本の下側X軸ガイド38に沿って移動可能な下側X軸スライダ35が設けられる。下側X軸スライダ35は、下側X方向駆動系M12(移動装置)の駆動によりX方向に移動し、所定位置で保持される。なお、下側X方向駆動系M12は、例えば、電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。
【0049】
下側X軸スライダ35の+X側の面には、2本の下側Y軸ガイド36が形成される。2本の下側Y軸ガイド36は、所定の間隔で平行するように、それぞれがY方向に延びて設けられる。下側Y軸ガイド36には、2本の下側Y軸ガイド36に沿って移動可能な下側Y軸スライダ39が設けられる。下側Y軸スライダ39は、下側Y方向駆動系M13(移動装置)の駆動によりY方向に移動し、所定位置で保持される。下側Y方向駆動系M13は、例えば、ボールネジ機構を含む電気モータ又は油圧装置等の駆動装置が用いられる。なお、下側Z方向駆動系M11、下側X方向駆動系M12及び下側Y方向駆動系M13は、上側Z方向駆動系M1、上側X方向駆動系M2及び上側Y方向駆動系M3と同様に、制御装置CONTによって制御される。1つの制御装置CONTで制御されることにより、上側の駆動系(M1、M2、M3)と下側の駆動系(M11、M12、M13)との駆動を容易に同期させることができる。
【0050】
図9は、下側プレート状刃物台41の一例を示す斜視図である。
図9に示すように、下側Y軸スライダ39の+X側の面(上面)である取付面39aには、下側プレート状刃物台41が設けられる。下側プレート状刃物台41は、主軸7に対して鉛直方向の下方(-X側)に配置される。下側プレート状刃物台41は、例えば金属などの素材で板状に形成されている。下側プレート状刃物台41は、上面(-X側の面)41aに、下側ホルダ44を介して複数の切削工具T2を装着可能である。
【0051】
下側ホルダ44は、それぞれ1つの切削工具T2を保持しているが、この形態に限定されず、1つの下側ホルダ44で2つ以上の切削工具T2を保持させてもよい。下側ホルダ44は、ボルト等の締結部材によって下側プレート状刃物台41に取り付けられ、取り外し可能である。なお、下側プレート状刃物台41に取り付けられる下側ホルダ44の数は任意であり、例えば、1つの下側ホルダ44が下側プレート状刃物台41に取り付けられてもよい。
【0052】
複数の下側ホルダ44は、切削工具T2の位置が互いにY方向にずれた状態で、Z方向に並んで配置される。この構成により、いずれか1つの切削工具T2を用いてワークWの切削加工を行う場合でも、他の切削工具T2がワークWに干渉することを回避できる。このため、複数の切削工具T2を下側プレート状刃物台41に装着したまま、いずれかの切削工具T2によりワークWの切削加工を行うことが可能であり、ワークWが変わって(あるいは1つのワークWのうち加工対象面が変わって)切削工具T2を変更するときでも、下側プレート状刃物台41をY方向あるいはZ方向に移動させるだけで、ワークWの切削加工に用いる切削工具T2を容易に切り替えることができる。
【0053】
各切削工具T2は、Y方向から見て、切刃H2に沿う方向(切刃方向)がワークWの下側表面Wbと平行である(
図7及び
図8参照)。切刃H2のZ方向に対する角度θ1(
図11(A)参照)は任意に設定可能である。角度θ1は、切刃H1の角度θ(
図6(A)参照)と同一であってもよいし、異なってもよい。切削工具T2は、ワークWの下側表面Wbにおける接線方向(軸線AXと交差する方向)に移動しながらワークWの切削加工を行う。切削工具T2は、Y方向、又はY方向とZ方向とを含んだ合成方向に移動することにより、X方向から見てZ方向に沿うワークWの下側表面Wb上の母線D2(
図11参照)に対して切刃H2がY方向ずれ、母線D2上において切削点C2(
図11参照)がZ方向にずれながらワークWの切削加工を行う。すなわち、各切削工具T2は、ワークWの切削加工を行う際に、切刃H2における切削点C2が移動する。
【0054】
なお、上側移動機構20を構成する部材、上側プレート状刃物台21、上側ホルダ24、及び切削工具T1と、下側移動機構40を構成する部材、下側プレート状刃物台41、下側ホルダ44、及び切削工具T2との全部又は一部が同一であってもよい。このように共通部品を用いることにより装置コストの増加を回避できる。また、
図8に示すように、上側プレート状刃物台21は、工作機械200の前面側(+Y側、紙面左側)が原点位置であり、この原点位置から矢印で示すように-Y方向(あるいは-Y方向と-Z方向との合成方向)に移動する。下側プレート状刃物台41は、工作機械200の後面側(-Y側、紙面右側)が原点位置であり、この原点位置から矢印で示すように+Y方向(あるいは+Y方向と-Z方向との合成方向)に移動する。
【0055】
図10(A)は、工作機械200の一部をY方向から見た図である。
図10(A)に示すように、切削工具T2には、軸線AXまわりに回転するワークWを切削加工した場合に、切削工具T2の送り方向(+Z方向又は-Z方向)と反対の方向(-Z方向又は+Z方向)の送り分力F3が作用し、ワークWに対して切込み量を規定する向き(+X方向)と逆向きの下向き(-X方向)に背分力F4が作用し、
図10(A)の紙面と垂直の方向(-Y方向)に主分力が作用する。
【0056】
図10(B)は、切削工具T2を+X側から見た場合の一例を示す図である。
図10(B)に示すように、切削工具T2を+Y方向に移動させつつ-Z方向に移動させてワークWの切削加工を行う場合(
図10(B)の黒矢印参照)、切削工具T2には、-Y方向に主分力FY2が作用し、+Z方向に送り分力F3が作用する。本実施形態の工作機械200では、
図10(A)に示すように、切削工具T2が、主軸7の-X側において、2本の下側Y軸ガイド36のスパンの間、及び2本の下側X軸ガイド38のスパンの間に配置される。この構成により、送り分力、背分力、主分力は、2本の下側Y軸ガイド36及び2本の下側X軸ガイド38に適切に分散されて、バランスよく受け止められる。その結果、切削工具T2は、ワークWを切削加工する場合であっても、切刃H2の刃先位置の変動が抑制される。
【0057】
工作機械200は、上側の切削工具T1の切刃H1の刃先位置の変動が抑制され、さらに、下側の切削工具T2の切刃H2の刃先位置の変動が抑制されるので、各切削工具T1、T2によりワークWを高精度に加工することができる。また、切削工具T1に作用する背分力F2(
図5(A)参照)と、切削工具T2に作用する背分力F4(
図10(A)参照)とが相殺又はほぼ相殺されるので、加工時にワークW及び切削工具T1、T2の背分力に起因する振動を抑制できる。
【0058】
次に、以上のように構成された工作機械200の動作について説明する。なお、以下の説明では、ワークWの上側、下側について、それぞれ1つずつの切削工具T1、T2を用いてワークWを加工する場合を説明する。なお、他の切削工具T1、T2を用いて説明する場合も同様である。以下の説明に際して、適宜
図7から
図9の内容を参照する。
図11は、+X方向から(上方から)ワークWを見たときの切削工具T2の動きの一例を示す平面図であり、(A)は切削加工前の図、(B)は切削加工中の図、(C)は切削加工後の図である。なお、
図11において、下側の切削工具T2を破線で示している。
【0059】
本実施形態において、制御装置CONTは、上側プレート状刃物台21と下側プレート状刃物台41とを同期して移動させるように上側移動機構20及び下側移動機構40を制御する。まず、第1実施形態と同様に、加工対象であるワークWを主軸7に保持させ、ワークWを軸線AXまわりに回転させる。その後、上側プレート状刃物台21と下側プレート状刃物台41とを同期して移動させることで、切削工具T1、T2のX方向の位置が調整される。
【0060】
ワークWの回転が安定した段階で、上側プレート状刃物台21と下側プレート状刃物台41とを同期して移動させることで、切削工具T1、T2のY方向及びZ方向の位置合わせを行う。切削工具T1のY方向及びZ方向の位置合わせ、並びに合成方向P1への移動は、上側Z軸スライダ17の-Z方向への移動、及び上側Y軸スライダ19(上側プレート状刃物台21)の-Y方向への移動によって行われる。また、切削工具T2のY方向及びZ方向の位置合わせ、並びに後述する合成方向P2への移動は、下側Z軸スライダ37の-Z方向への移動、及び下側Y軸スライダ39(下側プレート状刃物台41)の+Y方向への移動によって行われる。以下、切削工具T1のY方向及びZ方向の位置合わせ、並びに合成方向P1への移動については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略又は簡略化し、切削工具T2のY方向及びZ方向の位置合わせ、並びに合成方向P2への移動について説明する。
【0061】
切削工具T1は、第1実施形態と同様に、ワークWの切削範囲Lに応じて位置合わせされる。切削工具T2は、この切削工具T1の位置合わせの動作に同期して、ワークWの切削範囲Lに応じて位置合わせされる。
図11(A)に示すように、切削工具T2の切刃H2の+Y側の端部H2aが、ワークWの母線D2の+Y側近傍であって切削範囲Lの-Z側に配置される。このとき、他の切削工具T2及び下側ホルダ44は、ワークWに対してY方向にずれているため、加工動作においてワークWと干渉することはない。
【0062】
続いて、
図11(A)に示すように、切刃H1を、第1実施形態と同様に-Y方向と-Z方向とを合成した合成方向P1に移動させる。また、この切刃H1の移動に同期して、切刃H2を、+Y方向と-Z方向とを合成した合成方向P2に移動させる。合成方向P1と合成方向P2とは、X方向から見て軸線AXに対して対称となる方向である。合成方向P2は、例えば、切刃H2の刃先に沿った長さと、ワークWの切削範囲Lとに応じて設定される。すなわち、切削工具T2が母線D2の-Y側から+Y側に抜けた際に(1回のパスで)切削範囲Lを切刃H2で切削加工するような合成方向P2に設定されている。ただし、合成方向P2に代えてY2方向(
図11(A)の一点鎖線矢印参照)に切削工具T2を移動させてもよいし、合成方向P2として複数回のパスで切削範囲Lを切削加工するような方向に設定されてもよい。
【0063】
続いて、第1実施形態と同様に、切削工具T1の切刃H1を、合成方向P1に移動させることによりワークWの上側の上側表面Waに対して切削加工を行う。また、切刃H1の移動に同期して、切削工具T2の切刃H2を合成方向P2に移動させることによりワークWの下側表面Wbに対して切削加工を行う。切削工具T2の切刃H2は、ワークWの下側表面Wb上のZ方向の母線D2に対して-Y側から+Y側に移動し、切刃H2の+Y側の端部H2aが先にワークWに当接し、この端部H2aにおいて下側表面Wbの切削を行う。切削工具T1によるワークWの切り込み量と、切削工具T2によるワークWの切り込み量とは同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、目標となる切削量の一部(例えば半分)を切削工具T1により加工し、残りの切削量を切削工具T2により加工するようにしてもよい。
【0064】
続いて、切削工具T1は、第1実施形態と同様に、合成方向P1に移動しながらワークWの切削加工を行う。また、この切削工具T1の移動と同期して、切削工具T2は、合成方向P2に移動しながらワークWの切削加工を行う。なお、合成方向P2は、ワークWの下側表面Wbに対する接平面に沿った方向である。また、切削工具T2は、切刃H2の刃先に沿った方向が、母線D2と平行を保ちながら合成方向P2に移動する。
【0065】
図11(B)に示すように、切刃H1の合成方向P1への移動に同期して切刃H2が下側表面Wbに沿って合成方向P2に移動することにより、ワークWへの切削部分が端部H2aから端部H2bに向けて徐々にずれていく。さらに、切刃H1の移動に同期して、切刃H2が合成方向P2に向けて移動する間に、ワークWの下側表面Wbにおいて母線D2上の切削点C2は、母線D2に沿って-Z方向に進んでいく。すなわち、切削工具T1、T2がワークWの切削加工を行う際には、切刃H1における切削点C1と切刃H2における切削点C2とが、X方向から見て重なった状態又はほぼ重なった状態で-Z方向に移動する。
【0066】
また、制御装置CONTは、X方向から見て、上側プレート状刃物台21と下側プレート状刃物台41とが互いにY方向について反対方向に移動するように上側移動機構20及び下側移動機構40を制御する。すなわち、上側プレート状刃物台21の切削工具T1と、下側プレート状刃物台41の切削工具T2とにより、一方向に回転するワークWを安定して切削加工することができる。
【0067】
その後、
図11(C)に示すように、切刃H1の端部H1bが母線D1から-Y側に離れた段階で、切削工具T1による上側表面Waの切削加工が終了する。また、この切削工具T1と同期して、切刃H2の端部H2bが母線D2から+Y側に離れた段階で、切削工具T2による下側表面Wbの切削加工が終了する。従って、切削工具T1による切削加工と切削工具T2による切削加工とは、同時又はほぼ同時に終了する。上記した切削動作では、切削工具T1、T2の切刃H1、H2において端部H1a、H2aから端部H1b、H2bまでの全体を用いて上側表面Wa及び下側表面Wbの切削加工を行っているが、この形態に限定されず、切刃H1、H2の一部を用いて上側表面Wa及び下側表面Wbの切削範囲Lを切削加工してもよい。
【0068】
以上のように、第2実施形態に係る工作機械200によれば、上側プレート状刃物台21に保持された切削工具T1と、下側プレート状刃物台41に保持された切削工具T2とによりワークWを切削するので、切削工具T1、T2に作用する背分力とが互いに相殺又はほぼ相殺され、ワークW又は切削工具T1、T2の背分力に起因する振動を抑制することにより、ワークWを高精度に切削加工することができる。なお、切削工具T1の切刃H1の角度θ(
図6(A)参照)と、切削工具T2の切刃H2の角度θ1(
図11(A)参照)とが異なる場合、例えば、角度θ1が角度θより大きい場合には、切削工具T1の切刃H1より長い切刃H2を持つ切削工具T2を用い、Y方向から見た切刃H2の長さを切刃H1の長さと同じ又はほぼ同じにする、あるいは、切削工具T1及び切削工具T2のY方向及びZ方向の送りの比を変えて、切削工具T1及び切削工具T2による1回のパスで、同一又はほぼ同一の切削範囲Lを加工するように、上側プレート状刃物台21及び下側プレート状刃物台41の移動を制御する。その結果、切刃H1における切削点C1と切刃H2における切削点C2とが、X方向から見て重なった状態又はほぼ重なった状態で-Z方向に移動するので、上記と同様に、切削工具T1、T2の背分力に起因する振動を抑制し、ワークWを高精度に切削加工することができる。また、角度θが角度θ1より大きい場合についても、上記と同様の対応により、ワークWを高精度に切削加工することができる。
【0069】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記した第2実施形態において、上側プレート状刃物台21と下側プレート状刃物台41とを同期して移動させる場合を例に挙げて説明したが、この形態に限定されない。例えば、上側プレート状刃物台21及び下側プレート状刃物台41の一方のみを移動させて切削加工を行ってもよいし、上側プレート状刃物台21の移動と下側プレート状刃物台41の移動とをタイミングをずらして行ってもよい。
【符号の説明】
【0070】
AX・・・軸線
CONT・・・制御装置
C1、C2・・・切削点
D1、D2・・・母線
H1、H2・・・切刃(直線切刃)
L・・・切削範囲
M1・・・上側Z方向駆動系
M2・・・上側X方向駆動系
M3・・・上側Y方向駆動系
M11・・・下側Z方向駆動系
M12・・・下側X方向駆動系
M13・・・下側Y方向駆動系
P1、P2・・・合成方向
T1、T2・・・切削工具
W・・・ワーク
Wa・・・上側表面
Wb・・・下側表面
1・・・ベース(機械本体部)
5・・・上側Z軸ガイド
7・・・主軸
15・・・上側X軸スライダ
16・・・上側Y軸ガイド
17・・・上側Z軸スライダ
18・・・上側X軸ガイド
19・・・上側Y軸スライダ
20・・・上側移動機構
21・・・上側プレート状刃物台
24・・・上側ホルダ
25・・・下側Z軸ガイド
35・・・下側X軸スライダ
36・・・下側Y軸ガイド
37・・・下側Z軸スライダ
38・・・下側X軸ガイド
39・・・下側Y軸スライダ
40・・・下側移動機構
41・・・下側プレート状刃物台
44・・・下側ホルダ
100、200・・・工作機械