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特許7192397リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物及びこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20221213BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221213BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221213BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018204004
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2020070205
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雄哉
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/083788(WO,A1)
【文献】特開平08-217452(JP,A)
【文献】HyukSu Han et al.,Ceramics International,2016年,42,pp.17168-17173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/00
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成式がLi(1.0+a)CoxMn(2.0-x-a)O4(但し、-0.15≦a≦0.15、0.9≦x≦1.1である)で表され、結晶構造が立方晶スピネル型構造であり、結晶子サイズが50~85nmであり、格子歪みが0.5%以下であることを特徴とするリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物。
【請求項2】
平均粒子径が1~20μmであることを特徴とする請求項1に記載のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物。
【請求項3】
空間群がFd-3mであり、格子定数aが8.03~8.07Åであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物。
【請求項4】
BET比表面積が0.05~5m/gであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかの項に記載のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物及びこれを含むリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、AV機器、および電気自動車などの電源としてリチウムイオン二次電池(LIB)が使用されている。当該二次電池の正極材料には主にLiCoOが使用されている。
【0003】
近年、携帯機器の電力需要増加、又はハイブリッド電気自動車などのLIB化に伴い、更にエネルギー密度が高く、安全性の高いリチウムイオン二次電池が求められている。そのため、新たな正極材料として、LiMnにおけるMnサイトの一部を他の遷移金属(Cr、Co、Ni、Fe、Cu)で置換した、4.5V以上で作動する立方晶スピネル型リチウム遷移金属酸化物の開発が盛んに行われている。
【0004】
Fd-3mの空間群を有する、スピネル型リチウムコバルトマンガン含有複合酸化物が知られている(特許文献1)。前記スピネル型リチウムコバルトマンガン含有複合酸化物は、リチウム源、マンガン源、及びコバルト源を混合し、噴霧熱乾燥法により湿式造粒したものを原料としており、所謂固相反応法によって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5813277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の固相反応法で得られるスピネル型リチウムコバルトマンガン含有複合酸化物については、リチウムとコバルトとマンガンが原子レベルで十分に分散されているとは言い難く、均質性に劣るため、4.5V以上の容量が十分に出し切れていないという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、高いエネルギー密度を有するリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物及びこれを含むリチウム二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は高いエネルギー密度、安全性を兼備したリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物について鋭意検討した結果、特定のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を正極に用いた電池が、4.5V以上の電圧領域で大きな充放電容量を発現することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、化学組成式がLi(1.0+a)CoMn(2.0-x-a)(4-δ)(但し、-0.15≦a≦0.15、0.9≦x≦1.1、0≦δ≦0.5である)で表され、結晶構造が立方晶スピネル型構造であり、結晶子サイズが50~100nmであり、格子歪みが0.5%以下であることを特徴とするリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物、及びこれを含むリチウム二次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、一定の平均粒子径を保ちながら、規定した結晶子サイズであることにより、4.5V以上の作動電位での容量を効率よく発揮し、さらに構造安定性に優れ、高いエネルギー密度を実現することができた。よって、本発明が提案するリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、各種リチウム二次電池の正極活物質に用いることで優れた性能を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、化学組成式がLi(1.0+a)CoMn(2.0-x-a)(但し、-0.15≦a≦0.15、0.9≦x≦1.1である)で表される。
【0012】
上記のaについては、-0.15≦a≦0.15であるが、aがこの範囲内であれば、立方晶スピネル型構造の合成が容易となる。当該aについては、-0.10≦a≦0.10であることが好ましく、-0.05≦a≦0.08であることがさらに好ましい。
【0013】
上記のxについては、0.9≦x≦1.1であるが、xがこの範囲内であれば、酸化還元反応に関与するコバルトの含有量が担保でき、5V付近(Li金属負極基準)の電池容量をより多く利用できる。なお、当該xについては、0.95≦x≦1.1であることが好ましい。
【0014】
なお、スピネル構造は一般的に酸素欠損を含むため、上記化学組成式のOは、実際には、O(4-δ)であり(0≦δ≦0.5)、酸素の一部が欠損したり、フッ素などの他の元素で置換されていてもよい。
【0015】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、結晶子サイズが50~100nmである。結晶子サイズが50nm未満であると、構造不整が起こりリチウムイオンの拡散が阻害され、100nmを超えると、アニールの際の酸素吸収がされにくくなり酸素欠陥が起こり容量が低下する。充放電の際のリチウムイオンの拡散経路に影響し、4.5V以上の領域で容量をより発現しやすくなることから、シェラーの式から求められる結晶子サイズが100nm以下であることが好ましく、50~100nmであることがより好ましく、55~85nmであることがさらに好ましい。
【0016】
ここで「結晶子サイズ」とは、単結晶とみなせる最大の集まりを意味し、XRD測定で観測される回折ピークの半値全幅から求めることができる。なお特許文献1に記載のファンダメンタル法により求められる結晶子サイズとは本質的に同じパラメータであり、求め方による数値の差異はないと考えられる。
【0017】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、格子歪みが0.5%以下である。格子歪みが0.5%を超えると、結晶構造の歪みが大きくなり、リチウムイオンの挿入・脱離の際に等方的に膨張・収縮しないため、結晶構造が不安定となる。結晶構造の歪みが小さく、リチウムイオンの挿入・脱離の際に等方的に膨張・収縮するため、結晶構造がより安定となるため、0.4%以下が好ましく、0.2%以下がより好ましい。
【0018】
格子歪みは、得られたXRDパターンの回折ピークから、ウィリアムソン・ホールの式を用いることで求められる。なお特許文献1に記載のファンダメンタル法により求められる歪みとは本質的に同じパラメータであり、求め方による数値の差異はないと考えられる。
【0019】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の平均粒子径は、リチウムイオンの拡散距離に影響し、充放電容量の全体をさらに効率よく利用できるようになるため、1~20μmが好ましく、2~20μmがより好ましく、2~15μmがさらに好ましい。また上記の範囲であれば、電極を形成しやすく充填密度が高くなるという利点も併せ持つ。なお、当該平均粒子径とは、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒子径のことを表し、いわゆる凝集粒子径を表す。
【0020】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の粒子径分布は、特に限定するものではなく、例えば、単分散の粒子径分布、二峰性の粒子径分布等が挙げられる。単分散、すなわち、モノモーダルな分布を有する粒子径分布である場合には、正極とした際にも粒子径が均一であるため、その充放電反応もより均一なものとなる。
【0021】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、結晶構造が立方晶スピネル型構造である。立方晶スピネル型であることにより、CoおよびMnの元素分布が均一化され、Co-Mn規則配列が実現しやすい利点がある。また、遷移金属が三次元的に配列されるため、結晶構造が強固であり安定性に優れるという利点も併せ持つ。ここに、立方晶スピネル型構造とは、結晶格子が立方晶に分類され、結晶構造はスピネル型であるものをいい、空間群がFd-3mであることが好ましい。また、立方晶スピネル型酸化物の含有率が高く主相となるため、格子定数aが8.03~8.07Åであることが好ましく、8.03~8.06Åがより好ましい。8.03~8.06Åの場合、極めて単一結晶相に近い結晶相が得られる。また、副相として、他の結晶相が0.5質量%以下であれば含有していてもよい。この程度であれば、本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の性能に影響しないと考えられるからである。
【0022】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のBET比表面積は、特に限定するものではないが、より高い充填性が得られやすいという点で、0.05~5m/gであることが好ましく、0.05~1m/g以下であることがより好ましく、0.05~0.5m/g以下であることがさらに好ましい。一般的には、充填性とBET比表面積とは相関関係があるため、低比表面積の方が高い充填性の粉末が得られやすい。
【0023】
次に、本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0024】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、例えば、マンガン化合物及びコバルト化合物と、リチウム化合物を混合し、焼成し、アニール(熱処理)することで得ることができる。
【0025】
マンガン化合物は任意のものを用いることができる。マンガン化合物として、例えば、炭酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガン、四三酸化マンガンなどが例示できる。
【0026】
コバルト化合物は任意のものを用いることができる。例えば、塩基性炭酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、含水酸化コバルトなどが例示できる。
【0027】
なお、マンガン化合物及びコバルト化合物は形態や状態が限定されるものではなく、共沈法などにより得られる複合化合物(コバルト-マンガン系複合化合物)を原料として用いることで、より金属元素の均質性に優れたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得ることができる。
【0028】
コバルト-マンガン系複合化合物は、pH8.0~12.0の条件下、コバルト塩化合物とマンガン塩化合物を含む水溶液と酸化剤を混合することによって製造することができる。
【0029】
コバルト塩化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、コバルト硫酸塩、コバルト塩化物、コバルト硝酸塩、コバルト酢酸塩などを例示することができる。コバルト塩化合物を含む水溶液としては、特に限定するものではないが、例えば、コバルト硫酸塩、コバルト塩化物、コバルト硝酸塩、コバルト酢酸塩などを溶解させた水溶液や、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、酢酸などの酸にコバルトを溶解した水溶液等を挙げることができる。当該コバルト塩化合物としては、硫酸コバルトが好ましい。
【0030】
マンガン塩化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、マンガン硫酸塩、マンガン塩化物、マンガン硝酸塩、マンガン酢酸塩などを例示することができる。マンガン塩化合物を含む水溶液としては、特に限定するものではないが、例えば、マンガン硫酸塩、マンガン塩化物、マンガン硝酸塩、マンガン酢酸塩などを溶解させた水溶液や、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、酢酸などの酸にマンガンを溶解した水溶液等を挙げることができる。当該マンガン塩化合物としては、硫酸マンガンが好ましい。
【0031】
また、コバルト-マンガン系複合化合物の製造において、コバルトとマンガンの割合は、目的とするコバルト-マンガン系複合化合物のコバルト:マンガンの割合となるようにすることが好ましい。
【0032】
金属塩水溶液中のコバルト、マンガンの合計濃度(金属濃度)は任意であるが、生産性に優れるという点で、1.0mol/L以上が好ましく、2.0mol/L以上がより好ましい。
【0033】
pH8.0~12.0の反応条件を維持するためには、酸や塩基を適宜添加混合することが好ましい。当該酸については、特に限定するものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、又は酢酸などを挙げることができる。当該塩基については、特に限定するものではないが、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸ソーダ、重炭酸ソーダ等を挙げることができる。
【0034】
当該酸や塩基を添加する際、酸や塩基については、直接添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液として添加する場合、その濃度については、特に限定するものではないが、例えば、1mol/L以上を例示することができる。
【0035】
pH8.0~12.0の反応条件を維持するためには、苛性ソーダ水溶液を添加することが好ましく、苛性ソーダ水溶液としては、例えば、固形状水酸化ナトリウムを水溶させたものや食塩電解から生成した水酸化ナトリウム水溶液を濃度調製したもの等を用いることができる。
【0036】
コバルト-マンガン系複合化合物の製造において、pHを制御するために酸や塩基を添加混合する方法としては、特に限定するものではなく、例えば、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0037】
酸化剤は、特に限定するものではないが、例えば、有酸素ガス又は過酸化水素水を挙げることができる。有酸素ガスとしては、特に限定するものではないが、例えば、空気、酸素等を例示することができる。経済上、空気が最も好ましい。空気や酸素などのガスはバブラーなどを用いてバブリングさせることで添加する。一方、過酸化水素水は金属塩水溶液や苛性ソーダ水溶液と同様に混合することができる。
【0038】
コバルト塩化合物とマンガン塩化合物を含む水溶液に酸化剤を添加するときの温度は、特に限定するものではないが、通常、40℃以上であることが好ましい。
【0039】
コバルト-マンガン系複合化合物の製造方法については、特に雰囲気制御は必要なく、通常の大気雰囲気下で行うことが可能である。
【0040】
コバルト-マンガン系複合化合物の製造方法については、バッチ式、連続式のどちらでも可能である。バッチ式の場合、混合時間は任意である。例えば、3~48時間が挙げられる。
【0041】
コバルト-マンガン系複合化合物の製造方法によって析出したコバルト-マンガン系複合化合物については、濾過などの操作によって単離することができ、さらに、取り扱い上、さらに洗浄を行って、乾燥することが好ましい。
【0042】
洗浄によって、コバルト-マンガン系複合化合物に付着、吸着した不純物を除去することができる。洗浄方法としては、特に限定するものではないが、例えば、水(例えば、純水、水道水、河川水等)にコバルト-マンガン系複合化合物を添加し、不純物を水に溶解させる方法が例示できる。
【0043】
乾燥によって、コバルト-マンガン系複合化合物の水分を除去することができる。乾燥方法としては、特に限定するものではないが、例えば、コバルト-マンガン系複合化合物を110~150℃で2~15時間で加熱乾燥する等が挙げられる。
【0044】
コバルト-マンガン系複合化合物の製造では、洗浄し、乾燥した後に、粉砕を行ってもよい。
【0045】
粉砕では、用途に適した平均粒子径の粉末とする。所望の平均粒子径となれば粉砕条件は任意であり、例えば、湿式粉砕、乾式粉砕等の方法で粉砕することが例示できる。
【0046】
以上の方法で得られたコバルト-マンガン系複合化合物は、リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の製造に使用することができる。
【0047】
コバルト-マンガン系複合酸化物を原料として、本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を製造する場合、その製造方法は、コバルト-マンガン系複合酸化物とリチウム化合物とを混合する混合工程と、焼成工程と、アニール工程を有するものである。
【0048】
混合工程において、リチウム化合物は任意のものを用いることができる。リチウム化合物として、例えば、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム及びアルキルリチウムの群から選ばれる1種以上が例示できる。好ましいリチウム化合物として、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムの群から選ばれるいずれか1種以上が例示できる。
【0049】
焼成工程では、混合工程で得られた混合物を焼成することによってリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を製造することができる。焼成は、特に限定するものではないが、通常、500~1000℃の温度範囲で行うことができるが、結晶成長を促進させるためにも700~1000℃の温度範囲で行うことが好ましい。当該焼成については、空気中、酸素中など各種の雰囲気で行うことができる。
【0050】
アニール工程では、500~800℃の温度範囲が好ましく、600~750℃の温度範囲がより好ましく、例えば、大気や酸素の雰囲気下に0.5~300時間置くことで、酸素を取り込みやすくすることが好ましい。アニール工程を行わない場合、酸素の欠損量が大きくなり、充放電容量が低下する。
【0051】
リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の製造では、洗浄し、乾燥した後に、粉砕を行ってもよい。粉砕では、用途に適した平均粒子径の粉末とする。所望の平均粒子径となれば粉砕条件は任意であり、例えば、湿式粉砕、乾式粉砕等の方法で粉砕することが例示できる。
【0052】
このように得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質として用いられる。
【0053】
本発明のリチウム二次電池に用いる負極活物質としては、金属リチウムおよびリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離することができる炭素材料が例示され、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離することができる炭素材料が安全性および電池の特性の面から特に好適である。
【0054】
本発明のリチウム二次電池で用いる電解質としても特に制限はなく、例えば、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル顆等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質を用いることができる。
【0055】
本発明のリチウム二次電池で用いるセパレーターとしては、特に制限はないが、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製の微細多孔膜等を用いることができる。
【0056】
以上のようなリチウム二次電池の構成の一例として、例えば、導電剤との混合物をペレット状に成型した後、100~200℃で減圧乾燥して得られる成形物を電池用正極とし、金属リチウム箔からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを溶解した電解液を用いたもの等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】実施例1のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図2】実施例1のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例2のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図4】実施例3のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図5】実施例4のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図6】比較例1のリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図7】比較例1のリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】比較例2のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンである。
図9】比較例2のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真である。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0059】
<粉末X線回折測定>
X線回折装置(商品名:Ultima4、リガク製)を使用し、得られた試料の粉末X線回折測定を行った。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件はサンプリング幅2θ=0.04°、計測時間は4秒、測定範囲は2θとして10°から90°の範囲で測定した。
【0060】
<結晶構造の解析と格子定数の測定>
上記の条件のXRD測定で得られたXRDパターンにおいて、立方晶スピネル型結晶相の構造精密化をRietveld法で行った。X線回折装置に付属の解析ソフトウェアPDXL-2を用いてパターンフィッティングすることにより、格子定数aを求めた。
【0061】
<化学組成の測定>
得られた試料の組成分析は誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。すなわち、試料粉末と過酸化水素水と塩酸水溶液とを加熱酸溶解することで、測定溶液を調製した。一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用い、得られた測定溶液を測定することで、得られた試料の化学組成を分析した。
【0062】
<平均粒子径の測定>
得られた試料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラックベル製)を使用してHRAモードで測定した。
【0063】
<比表面積の測定>
流動式比表面積自動測定装置(商品名:フローソーブ3-2305、Micrometrics社製)を用い、得られた複合酸化物1.0gを窒素気流中150℃、1時間前処理した後、BET1点法にて吸脱着面積を測定した後、重量で除することで比表面積(m/g)を求めた。
【0064】
<電池性能評価>
リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の正極としての電池特性試験を行った。
【0065】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の粉末(正極活物質)と、導電助剤としてアセチレンブラック、結着剤としてPVDFを質量比で88:6:6で混合し、NMPを加えてペースト状に調整した。このペーストを厚さ10.7μmのAl箔集電体に塗布し、150℃で減圧乾燥させた。その後、φ13mmの大きさに切りだし、2t/mでプレスして正極とした。得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解した電解液を用いて電池を構成した。当該電池を用いて定電流で電池電圧が5.4Vから3.0Vの間、室温下で充放電させた。電流密度10mA/gで充放電し、それぞれの比容量(mAh/g)を測定した。
【0066】
実施例1
硫酸コバルト及び硫酸マンガンを純水に溶解し、1.0mol/L(リットル)の硫酸コバルト及び1.0mol/Lの硫酸マンガンを含む水溶液(金属塩水溶液)を得た。金属塩水溶液中の全金属の合計濃度は2.0mol/Lであった。
【0067】
また、内容積1Lの反応容器に純水300gを入れた後、これを60℃まで昇温し、維持した。
【0068】
得られた金属塩水溶液を供給速度0.46g/minで反応容器に連続供給した。また、酸化剤として、空気を供給速度1L/minで反応容器中にバブリングした。さらに、金属塩水溶液及び空気供給の際、pHが8.5となるように、2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ水溶液)を断続的に添加しながら連続的に反応を進行させた(反応時の酸化還元電位は0.08Vであった)。前記反応により、かかる反応容器中で、コバルト-マンガン系複合化合物が析出し、スラリーが得られた。反応容器内のスラリーをろ過し、純水で洗浄することによって、ウェットケーキを得た。当該ウェットケーキを110℃で15時間乾燥することで、コバルト-マンガン系複合化合物を得た。
【0069】
得られたコバルト-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し、空気流中、900℃で12時間焼成した後、700℃で24時間、650℃で24時間、600℃で150時間アニールすることにより、リチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li1.01Co1.01Mn0.99と表すことができた。
【0072】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図1に示す。図1からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造であることがいえた。
【0073】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0074】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。表3から、4.7V以上の放電容量が大きく、高エネルギー密度を有していることが示された。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例2
実施例1と同様な方法で得たコバルト-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し、900℃で12時間焼成した後、700℃で24時間、650℃で24時間、600℃で24時間アニールした以外は実施例1と同様の方法でリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0079】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li0.97Co1.01Mn0.99と表すことができた。
【0080】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図3に示す。図3からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造であることがいえた。
【0081】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0082】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。
【0083】
実施例3
実施例1と同様な方法で得たコバルト-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し、900℃で12時間焼成した後、700℃で12時間アニールした以外は実施例1と同様の方法でリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0084】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li0.94Co1.02Mn0.98と表すことができた。
【0085】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図4に示す。図4からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造であることがいえた。
【0086】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0087】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。
【0088】
実施例4
実施例1と同様な方法で得たコバルト-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し、850℃で12時間焼成した後、700℃で24時間、650℃で24時間、600℃で24時間アニールした以外は実施例1と同様の方法でリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0089】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li0.94Co1.01Mn0.99と表すことができた。
【0090】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図5に示す。図5からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造であることがいえた。
【0091】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0092】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。
【0093】
比較例1
硫酸ニッケル及び硫酸マンガンを純水に溶解し、0.5mol/L(リットル)の硫酸ニッケル及び1.5mol/Lの硫酸マンガンを含む水溶液(金属塩水溶液)を得た。金属塩水溶液中の全金属の合計濃度は2.0mol/Lであった。
【0094】
また、内容積1Lの反応容器に純水300gを入れた後、これを80℃まで昇温し、維持した。
【0095】
得られた金属塩水溶液を供給速度0.46g/minで反応容器に連続供給した。また、酸化剤として、空気を供給速度1L/minで反応容器中にバブリングした。さらに、金属塩水溶液及び空気供給の際、pHが9.25となるように、2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ水溶液)を断続的に添加しながら連続的に反応を進行させた(反応時の酸化還元電位は0.08Vであった)。前記反応により、かかる反応容器中で、ニッケル-マンガン系複合化合物が析出し、スラリーが得られた。反応容器内のスラリーをろ過し、純水で洗浄することによって、ウェットケーキを得た。当該ウェットケーキを110℃で15時間乾燥することで、ニッケル-マンガン系複合化合物を得た。
【0096】
得られたニッケル-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し空気流中、900℃で12時間焼成した後、700℃で48時間アニールしたことにより、リチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0097】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li0.91Ni0.50Mn1.50と表すことができた。
【0098】
得られたリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図6に示す。図6からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造であることがいえた。
【0099】
得られたリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0100】
得られたリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0101】
得られたリチウム-ニッケル-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。
【0102】
比較例2
実施例1と同様な方法で得たコバルト-マンガン系複合化合物と炭酸リチウムを混合し、900℃で12時間焼成した後、アニールを行うことなくリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を得た。製造条件を表1に示す。
【0103】
化学組成分析の結果から、化学組成式Li1.00Co1.01Mn0.99と表すことができた。
【0104】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物のXRDパターンを図8に示す。図8からは、空間群Fd-3mに帰属される立方晶スピネル型構造に加え、2θ=20~23°近傍に複数のピークが確認できることからLiMnOに分相していることが分かった。
【0105】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の走査型電子顕微鏡写真を図9に示す。
【0106】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の測定結果を表2に示す。
【0107】
得られたリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物の電池性能評価の結果を表3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質として使用することができ、そのリチウム-コバルト-マンガン系複合酸化物を電池用正極として使用した高エネルギー密度で高性能なリチウム二次電池を構成することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9