(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B60C19/00 B
(21)【出願番号】P 2018217939
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
(72)【発明者】
【氏名】干場 崇史
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043343(JP,A)
【文献】特開2017-088171(JP,A)
【文献】特開2007-331292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0305818(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0015152(US,A1)
【文献】特表2003-507230(JP,A)
【文献】特開平08-067117(JP,A)
【文献】特開2005-233968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104044412(CN,A)
【文献】特開2016-034801(JP,A)
【文献】米国特許第05500065(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、
前記収容体は、前記センサユニットが挿入される開口部を有すると共に、前記タイヤ内表面に対して加硫接着され
、
前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、
前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、
前記収容体は、前記タイヤ内表面に積層されていて外縁部が該タイヤ内表面に対して加硫接着されたゴム層と、該ゴム層と前記タイヤ内表面との間に形成された収容部と、該収容部に連通する開口部とを有
し、
前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、
前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、
前記収容体は、前記タイヤ内表面に対して加硫接着剤を介して接合された板状の基部と、該基部から突出した筒部と、該筒部内に形成された収容部と、該収容部に連通する開口部とを有
し、
前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、
前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記収容体の固定領域における前記タイヤ内表面の粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体の底面の内幅Lc2とがLc1<Lc2の関係を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記収容体における開口部の幅Lc1及び底面の内幅Lc2と前記収容体に挿入されるセンサユニットにおける上面の幅Ls1及び下面の幅Ls2とがLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記収容体の平均厚さが0.5mm~5.0mmであることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記収容体に挿入されるセンサユニットの高さHsに対する該センサユニットが挿入された状態における前記収容体の高さHcの比が0.5~1.5の範囲であることを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記収容体が接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されていることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、センサユニットの挿入作業が容易であり、センサユニットの脱落を防止することができると共に、生産性を向上させることを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
内圧や温度等のタイヤ内部情報を取得するセンサを含むセンサユニットをタイヤ内腔に設置することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、センサユニットを収容するゴム製の収容体(コンテナ)をタイヤ内表面に取り付ける場合、一般に接着剤や粘着テープが用いられるが、タイヤ内表面に対して接着性を向上させるために予めプライマー処理(下塗り処理)が必要であり、生産性が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6272225号公報
【文献】特表2016-505438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、センサユニットの挿入作業が容易であり、センサユニットの脱落を防止することができると共に、生産性を向上させることを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、前記収容体は、前記センサユニットが挿入される開口部を有すると共に、前記タイヤ内表面に対して加硫接着され、前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、前記収容体は、前記タイヤ内表面に積層されていて外縁部が該タイヤ内表面に対して加硫接着されたゴム層と、該ゴム層と前記タイヤ内表面との間に形成された収容部と、該収容部に連通する開口部とを有し、前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とするものである。
【0007】
更に、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、前記収容体は、前記タイヤ内表面に対して加硫接着剤を介して接合された板状の基部と、該基部から突出した筒部と、該筒部内に形成された収容部と、該収容部に連通する開口部とを有し、前記収容体の開口部の幅Lc1と前記収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとが0.15≦Lc1/Lsm≦0.90の関係を満たし、前記収容体を構成するゴムの破断伸びEBが50%~900%であり、前記収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスが2MPa~15MPaであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、収容体はセンサユニットが挿入される開口部を有しているので、センサユニットを収容体に挿入する際の作業が容易であると共に、収容体の締め付けによりセンサユニットを確実に保持し、センサユニットの脱落を防止することができる。また、収容体はタイヤ内表面に対して加硫接着されているので、粘着テープ等を用いて収容体を固定する場合に必要なプライマー処理を行わずに済み、生産性を向上させることができる。
【0009】
本発明では、収容体の固定領域におけるタイヤ内表面の粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることが好ましい。これにより、タイヤ内表面と加硫接着剤との接着面積を大きくすることができ、タイヤ内表面と収容体との接着性を効果的に改善することができる。タイヤ内表面の粗さは、ISO25178に準拠して測定されるものである。算術平均高さSaは、表面の平均面に対して各点の高さの差の絶対値の平均であり、最大高さSzは、表面の最も高い点から最も低い点までの高さ方向の距離である。
【0010】
本発明では、収容体の開口部の幅Lc1と収容体の底面の内幅Lc2とはLc1<Lc2の関係を満たすことが好ましい。これにより、開口部の幅Lc1が相対的に小さくなるので、収容体に挿入されたセンサユニットの脱落を防止することができ、センサユニットの挿入時の作業性と収容体の保持性を両立することができる。
【0011】
本発明では、収容体の開口部の幅Lc1と収容体に挿入されるセンサユニットの最大幅Lsmとは0.10≦Lc1/Lsm≦0.95の関係を満たすことが好ましい。センサユニットの最大幅Lsmに対する開口部の幅Lc1の比を適度に設定することで、センサユニットの脱落を効果的に防止することができ、センサユニットの挿入時の作業性と収容体の保持性を改善することができる。
【0012】
本発明では、収容体における開口部の幅Lc1及び底面の内幅Lc2と収容体に挿入されるセンサユニットにおける上面の幅Ls1及び下面の幅Ls2とはLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことが好ましい。収容体とセンサユニットの各幅を適度に設定することで、センサユニットの脱落を効果的に防止することができる。
【0013】
本発明では、収容体の平均厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましい。これにより、センサユニットの挿入時の作業性と収容体の保持性と収容体の耐破断性とをバランス良く改善することができる。
【0014】
本発明では、収容体に挿入されるセンサユニットの高さHsに対するセンサユニットが挿入された状態における収容体の高さHcの比は0.5~1.5の範囲であることが好ましい。これにより、センサユニットの脱落を効果的に防止することができる。
【0015】
本発明では、収容体を構成するゴムの破断伸びEBは50%~900%であり、収容体を構成するゴムの300%伸張時のモジュラスは2MPa~15MPaであることが好ましい。これにより、センサユニットの挿入時の作業性及び収容体の保持性と収容体の耐破断性とをバランス良く改善することができる。なお、収容体を構成するゴムの破断伸び及び300%伸張時のモジュラスは、JIS-K6251に準拠して測定したものである。
【0016】
本発明では、収容体は接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されていることが好ましい。これにより、トレッド部の摩耗量を検出するセンサの場合、収容体に挿入されたセンサユニット内のセンサがタイヤ情報を正確に取得することができる。
【0017】
本発明において、接地端とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときのタイヤ軸方向の端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には250kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車である場合には前記荷重の80%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤに取り付けられた収容体を示す平面図である。
【
図3】
図2の収容体にセンサユニットが挿入された状態を示す斜視断面図である。
【
図4】
図2の収容体にセンサユニットが挿入された状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示す子午線断面図である。
【
図6】
図5の空気入りタイヤに取り付けられた収容体を示す平面図である。
【
図7】
図6の収容体にセンサユニットが挿入された状態を示す斜視断面図である。
【
図8】
図6の収容体にセンサユニットが挿入された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~
図4は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。なお、
図2及び
図4において、矢印Tcはタイヤ周方向、矢印Twはタイヤ幅方向を示している。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0021】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。そして、タイヤ内表面Tsにおける一対のビード部3,3間の領域にはインナーライナー層9が配置されている。このインナーライナー層9はタイヤ内表面Tsをなす。
【0022】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0023】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0024】
上記空気入りタイヤにおいて、タイヤ内表面Tsのトレッド部1に対応する領域には、少なくとも1つのゴム製の収容体10が固定されている。この収容体10は、タイヤ情報を取得するためのセンサユニット20を収容するものである。収容体10は、センサユニット20が挿入される開口部11を有しており、タイヤ内表面Tsに対して加硫接着されている。収容体10がゴム製であることで、開口部11からセンサユニット20を出し入れする際に伸び縮みするので好適である。
【0025】
収容体10の材料として、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を例示することができ、単独又は二種以上を混合したブレンド体を用いることができる。これらの材料はタイヤ内表面Tsを構成するブチルゴムとの接着性に優れているので、収容体10が上記材料から構成された場合、収容体10とタイヤ内表面Tsとの十分な接着性を確保することができる。
【0026】
収容体10A(10)は、
図2~4に示すように、タイヤ内表面Tsに積層された少なくとも1層のゴム層12を有している。このゴム層12の外縁部12aはタイヤ内表面Tsに対して加硫接着されている。ゴム層12とタイヤ内表面Tsとの間には、センサユニット20が収容される収容部13が形成され、この収容部13は円形の開口部11に連通している。収容部13は、開口部11と同心で円形の平面形状を有している。このように収容部13は、タイヤ内表面Tsを底面とし、開口部11を上面とした略台形の断面形状を有している。収容部13には、上面がテーパ状に形成された円柱状のセンサユニット20が収容されている。
【0027】
図1~4の実施形態では、収容体10Aが1層のゴム層12から構成された例を示したが、収容体10Aを複数層のゴム層12から構成することもできる。この場合、タイヤ内表面Tsに近いゴム層12ほど、そのタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対する長さが長くなるように形成され、収容体10Aが段状に形成されることが好ましい。このようにゴム層12が複数層からなる場合、ゴム層12は、全面がタイヤ内表面Tsと加硫接着されている層を含んでいても良い。また、
図1~4の実施形態では、開口部11及び収容部13がいずれも円形の平面形状を有する例を示したが、特に限定されるものではなく、収容体10Aに挿入されるセンサユニット20の形状に応じて適宜変更することができる。例えば、センサユニット20の形状が直方体や立方体である場合、開口部11及び収容部13の平面形状をそれに合わせて略四角形にすることができる。更には、ゴム層12(外縁部12a)が四角形の平面形状を有する例を示したが、特に限定されるものではなく、ゴム層12(外縁部12a)の平面形状として円形やその他の多角形等を採用することもできる。
【0028】
収容体10Aをタイヤ内表面Tsに備える空気入りタイヤを製造する場合、グリーンタイヤの成形工程においてタイヤ最内面に位置するインナーライナー層9に対してゴム層12を積層し、そのグリーンタイヤを加硫機で加硫することにより、タイヤ内表面Tsに対して一体的に接合された収容体10Aを形成することができる。例えば、インナーライナー層9(タイヤ内表面Ts)に対してゴム層12を積層する際、タイヤ内表面Tsとゴム層12との間に、ゴム層12よりもタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対する長さが短く、ゴム組成物と接着しない非接着材料からなる部材(以下、非接着部材という)を挿入し、そのようなグリーンタイヤを加硫することで、タイヤ内表面Tsに対して一体的に接合された収容体10Aを形成することができる。グリーンタイヤを加硫した後に必ずしも非接着部材を除去する必要はないが、非接着部材を除去することにより収容体10Aがセンサユニット20を挿入可能な状態となる。また、開口部11については、開口部11に対応する凸部を有する非接着部材を用いる、或いは、加硫済みの空気入りタイヤのゴム層12に穴を開けて形成することができる。
【0029】
センサユニット20は、
図4に示すように、筐体21と電子部品22とを含むものである。筐体21は中空構造を有し、その内部に電子部品22を収容する。電子部品22は、タイヤ情報を取得するためのセンサ23、送信機、受信機、制御回路及びバッテリー等を適宜含むように構成される。センサ23により取得されるタイヤ情報としては、空気入りタイヤの内部温度や内圧やトレッド部1の摩耗量等を挙げることができる。例えば、内部温度や内圧の測定には温度センサや圧力センサが使用される。トレッド部1の摩耗量を検出する場合、センサ23として、タイヤ内表面Tsに当接する圧電センサを用いることができ、その圧電センサが走行時のタイヤ変形に応じた出力電圧を検出し、その出力電圧に基づいてトレッド部1の摩耗量を検出する。それ以外に、加速度センサや磁気センサを使用することも可能である。また、センサユニット20は、センサ23により取得されたタイヤ情報をタイヤ外部に送信するよう構成されている。更に、センサユニット20を把持し易くするため、筐体21から突出したつまみ部24(不図示)を設けても良く、このつまみ部24にアンテナの機能を担持させることができる。なお、
図4に示すセンサユニット20の内部構造はセンサユニットの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0030】
上述した空気入りタイヤでは、タイヤ内表面Tsに、センサユニット20を収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体10A(10)を備え、収容体10Aは、タイヤ内表面Tsに積層されていて外縁部12aがタイヤ内表面Tsに対して加硫接着されたゴム層12と、ゴム層12とタイヤ内表面Tsとの間に形成された収容部13と、収容部13に連通する開口部11とを有しているので、センサユニット20を収容体10Aに挿入する際の作業が容易であると共に、収容体10Aの締め付けによりセンサユニット20を確実に保持し、センサユニット20の脱落を防止することができる。また、収容体10Aはタイヤ内表面Tsに対して加硫接着されているので、粘着テープ等を用いて収容体を固定する場合に必要なプライマー処理を行わずに済み、生産性を向上させることができる。
【0031】
図5は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示すものである。
図5に示すように、収容体10B(10)は、加硫接着剤14を介してタイヤ内表面Tsに接合されている。
図6~8に示すように、収容体10Bは、タイヤ内表面Tsに対して接合された板状の基部15と、基部15から突出した円筒状の筒部16と、筒部16内に形成された収容部17とを有している。この収容部17は円形の開口部11に連通している。このように収容部17は、基部15を底面とし、開口部11を上面とした略四角形の断面形状を有している。収容部17には、上面がテーパ状に形成された円柱状のセンサユニット20が収容されている。なお、基部15、筒部16及び収容部17の形状は、特に限定されるものではなく、収容体10Bに挿入されるセンサユニット20の形状に応じて適宜変更することができる。
【0032】
加硫接着剤14は、特に限定されるものではなく、ゴム組成物を接着することができるものであれば良い。例えば、自然加硫する(常温で加硫可能な)接着剤や、空気入りタイヤがパンクした場合の応急処置として用いられるパンク修理剤を例示することができる。
【0033】
収容体10Bをタイヤ内表面Tsに備える空気入りタイヤを製造する場合、加硫済みの空気入りタイヤに対して切削加工(所謂、バフ)、レーザー処理、プラズマ処理等のいずれかの処理を施した上で、その処理したタイヤ内表面Tsに加硫接着剤14を塗布し、加硫接着剤14の上に収容体10Bを配置する。上述した処理はプライマー処理とは異なるものであり、プライマー処理に比べて所要時間が短い処理である。
【0034】
上述した空気入りタイヤでは、タイヤ内表面Tsに、センサユニット20を収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体10B(10)を備え、収容体10Bは、タイヤ内表面Tsに対して加硫接着剤14を介して接合された板状の基部15と、基部15から突出した筒部16と、筒部16内に形成された収容部17と、収容部17に連通する開口部11とを有しているので、センサユニット20を収容体10Bに挿入する際の作業が容易であると共に、収容体10Bの締め付けによりセンサユニット20を確実に保持し、センサユニット20の脱落を防止することができる。また、収容体10Bはタイヤ内表面Tsに対して加硫接着されているので、粘着テープ等を用いて収容体を固定する場合に必要なプライマー処理を行わずに済み、生産性を向上させることができる。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、収容体10Bの固定領域におけるタイヤ内表面Tsの粗さとして、算術平均高さSaが0.3μm~15.0μmの範囲であると共に、最大高さSzが2.5μm~60.0μmの範囲であることが好ましい。このようにタイヤ内表面Tsの粗さとして算術平均高さSaと最大高さSzを適度に設定することで、タイヤ内表面Tsと加硫接着剤14との接着面積を大きくすることができ、タイヤ内表面Tsと収容体10Bとの接着性を効果的に改善することができる。算術平均高さSaが15.0μmを超えると共に、最大高さSzが60.0μmを超えると、加硫接着剤14がタイヤ内表面Tsの凹凸に追従することができず、接着性が低下する傾向がある。なお、算術平均高さSa及び最大高さSzは、ISO25178に準拠して測定される値であり、市販の表面性状測定機(例えば、形状解析レーザー顕微鏡や3D形状測定機)を利用して測定することができる。測定方法は接触式と非接触式のいずれであっても良い。
【0036】
図1及び
図5において、収容体10A,10B(10)は接地端よりタイヤ幅方向内側に配置されている。トレッド部1の摩耗量を検出するセンサ23の場合、収容体10に挿入されたセンサユニット20内のセンサ23がタイヤ情報を正確に取得することができる。
【0037】
上記空気入りタイヤにおいて、収容体10は以下のような寸法に設定すると良い。収容体10の開口部11の幅Lc1と、収容体10の底面の内幅Lc2とはLc1<Lc2の関係を満たすことが好ましい。このように収容体10の底面の内幅Lc2より開口部11の幅Lc1を狭くすることで、収容体10の上面側の拘束力を強くし、収容体10に挿入されたセンサユニット20の脱落を効果的に防止することができる。これにより、センサユニット20の挿入時の作業性と収容体10の保持性を両立することができる。なお、収容体10における開口部11の幅Lc1及び底面の内幅Lc2は、いずれも収容体10にセンサユニット20が挿入されていない状態で測定されたものである。
【0038】
また、収容体10の平均厚さは0.5mm~5.0mmであることが好ましい。このように収容体10の平均厚さを適度に設定することで、センサユニット20の挿入時の作業性と収容体10の保持性と収容体10の耐破断性とをバランス良く改善することができる。ここで、収容体10の平均厚さが0.5mmより薄くなるとセンサユニット20の挿入時に収容体10が破断し易くなり、収容体10の平均厚さが5.0mmより厚くなると収容体10の剛性が過度に大きくなり、センサユニット20を容易に挿入することができない。なお、収容体10の平均厚さは、収容体10を構成するゴムの厚さを測定したものである。収容体10Aが複数層のゴム層12からなる場合にはそれらゴム層12の総厚さを測定したものである。
【0039】
特に、収容体10とセンサユニット20とは以下の寸法の関係を満たすことが望ましい。収容体10の開口部11の幅Lc1と、収容体10に挿入されるセンサユニット20の最大幅Lsmとは0.10≦Lc1/Lsm≦0.95の関係を満たすことが好ましく、0.15≦Lc1/Lsm≦0.80の関係を満たすことがより好ましく、0.15≦Lc1/Lsm≦0.65の関係を満たすことが最も好ましい。このようにセンサユニット20の最大幅Lsmに対する収容体10の開口部11の幅Lc1の比を適度に設定することで、センサユニット20の脱落を効果的に防止することができ、センサユニット20の挿入時の作業性と収容体10の保持性を改善することができる。なお、
図4及び
図8のセンサユニット20において、最大幅Lsmは下面の幅Ls2に相当する。
【0040】
また、収容体10における開口部11の幅Lc1及び底面の内幅Lc2と、収容体10に挿入されるセンサユニット20における上面の幅Ls1及び下面の幅Ls2とはLc1<Ls1≦Ls2≦Lc2の関係を満たすことが好ましい。更に、センサユニット20の上面がテーパ状に形成されていて、Ls1<Ls2の関係を満たすことがより好ましい。このように収容体10とセンサユニット20の各幅を適度に設定することで、センサユニット20の脱落を効果的に防止することができる。
【0041】
更に、収容体10に挿入されるセンサユニット20の高さ(最大高さ)Hsに対するセンサユニット20が挿入された状態における収容体10の高さHcの比は、0.5~1.5の範囲であることが好ましく、0.6~1.3の範囲であることがより好ましく、0.7~1.0の範囲であることが最も好ましい。このようにセンサユニット20の高さHsに対する収容体10の高さHcの比を適度に設定することで、センサユニット20の脱落を効果的に防止することができる。なお、センサユニット20の高さHsは、センサユニット20につまみ部24が設けられている場合、つまみ部24を含む高さである(
図8参照)。また、収容体10Aの場合、その高さHcはタイヤ内表面Tsとそれに隣接するゴム層12のタイヤ径方向外側に位置する端部との間の高さである(
図4参照)。一方、収容体10Bの場合、その高さHcは、基部15の高さを含まず、筒部16の高さである(
図8参照)。
【0042】
上記空気入りタイヤにおいて、収容体10を構成するゴムは以下の物性を有すると良い。破断伸びEBは50%~900%であり、300%伸張時のモジュラス(M300)は2MPa~15MPaであることが好ましい。このように破断伸びEB及びモジュラス(M300)を適度に設定することで、センサユニット20の挿入時の作業性及び収容体10の保持性と収容体10の耐破断性とをバランス良く改善することができる。
【実施例】
【0043】
タイヤサイズ275/40R21で、タイヤ内表面に、タイヤ情報を取得するセンサを含むセンサユニットを収容するための少なくとも一つのゴム製の収容体を備え、収容体の構造、収容体のタイヤ内表面に対する接着構造、センサユニットの最大幅Lsmに対する開口部の幅Lc1の比(Lc1/Lsm)を表1のように設定した実施例1~7のタイヤを製作した。本明細書において、実施例1~3,7は参考例である。
【0044】
比較のため、タイヤ内表面に収容体が設けられていない従来例のタイヤを用意した。また、タイヤ内表面に
図8の構造を有する収容体が設けられているが、タイヤ内表面に収容体を固定する前にプライマー処理がなされ、実施例1~7とは異なる接着構造を有する比較例1~3のタイヤを用意した。具体的に、比較例1のタイヤは収容体が両面テープを介して固定され、比較例2のタイヤは収容体が瞬間接着剤を介して固定され、比較例3のタイヤは収容体が反応硬化型接着剤を介して固定されている。
【0045】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、生産性、センサユニットの挿入時の作業性及び耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0046】
生産性:
各試験タイヤについて、成形、加硫、収容体の設置及び検査を含む製造工程の所要時間を測定した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど生産性が優れていることを意味する。なお、上記所要時間は、タイヤ内表面に設けられた収容体にセンサユニットを挿入する作業時間を含まない。
【0047】
センサユニットの挿入時の作業性:
従来例のタイヤを除く各試験タイヤについて、タイヤ内表面に設けられた収容体にセンサユニットを挿入する作業の所要時間を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、比較例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどセンサユニットの挿入作業が容易であることを意味する。
【0048】
耐久性:
各試験タイヤをそれぞれリムサイズ21×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧120kPa、最大負荷荷重に対して102%、走行速度81km、走行距離10000kmの条件でドラム試験機にて走行試験を実施した後、収容体の破損又はセンサユニットの脱落の発生を目視で確認した。評価結果は、収容体の破損の有無及びセンサユニットの脱落の有無を示した。
【0049】
【0050】
この表1から判るように、実施例1~7の空気入りタイヤは、従来例に比して、生産性が維持されていた。実施例3~7の空気入りタイヤは、比較例1に比して、センサユニットの挿入時の作業性が改善されていた。実施例3~6の空気入りタイヤは、収容体の破損及びセンサユニットの脱落がなかった。
【0051】
一方、比較例1~3においては、収容体をタイヤ内表面に固定する前にプライマー処理がなされたため生産性が悪化した。
【符号の説明】
【0052】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
10 収容体
11 開口部
12 ゴム層
13 収容部
14 加硫接着剤
15 基部
16 筒部
17 収容部
20 センサユニット
Ts タイヤ内表面
CL タイヤ中心線