(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】積層体及びそれよりなる医療容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221213BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221213BHJP
A61J 1/10 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
A61J1/10 330B
A61J1/10 331C
A61J1/10 331A
(21)【出願番号】P 2018224957
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017247880
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中尾 英誉
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142390(JP,A)
【文献】特開2016-084164(JP,A)
【文献】特開2005-163021(JP,A)
【文献】国際公開第2009/014032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層、B層、C層をこの順に有する3層以上の積層体であって、前記A層が下記特性(a)~(c)を満足する高密度ポリエチレン(A-1)65~99重量部、及び下記特性(d)~(e)を満足する高密度ポリエチレン(A-2)1~35重量部((A-1)と(A-2)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物からなり、B層及びC層が熱可塑性樹脂からな
り、121℃滅菌処理40分後及び1日後の光線透過率が55%超であることを特徴とする積層体。
(a)密度が945以上960kg/m
3未満である。
(b)JIS K6922-1に準拠して測定したメルトフローレート(以下、MFRという)が0.10~15g/10分である。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~3.0である。
(d)密度が960~970kg/m
3である。
(e)MFRが0.10~40g/10分である。
【請求項2】
121℃滅菌処理40分後と1日後の光線透過率の差が2%以内である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
光線透過率が65%以上であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の積層体。
【請求項4】
B層及びC層がポリエチレンを含む樹脂組成物からなる請求項1~
3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
B層が、前記高密度ポリエチレン(A-1)10~40重量部、及び下記特性(f)~(h)を満足する直鎖状低密度ポリエチレン(B)60~90重量部((A-1)と(B)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物からなる請求項1~
4のいずれかに記載の積層体。
(f)密度が890~915kg/m
3である。
(g)MFRが0.10~15g/10分である。
(h)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~3.0である。
【請求項6】
C層が、前記高密度ポリエチレン(A-1)50~95重量部、及び下記特性(i)~(l)を満足するエチレン系重合体(C)5~50重量部((A-1)と(C)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物からなる請求項1~
5のいずれかに記載の積層体。
(i)密度が930~960kg/m
3である。
(j)MFRが0.10~15g/10分である。
(k)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~7.0の範囲である。
(l)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に
ヘキシル基以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の積層体からなり、A層を内層とする医療容器。
【請求項8】
薬液を収容する収容部を備えた医療容器であって、少なくとも前記収容部は、請求項1~
6のいずれかに記載の積層体からなり、A層を内層とすることを特徴とする医療容器。
【請求項9】
121℃で20分間滅菌処理した光線透過率が55%超であることを特徴とする請求項
7~
8のいずれかに記載の医療容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびこれを用いた医療容器に関する。さらに詳しくは、輸液バッグのような薬液、血液等を充填する医療容器に好適な積層体およびこれを用いた医療容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬液、血液等を充填する医療容器には、異物の混入や薬剤配合による変化を確認するための透明性、滅菌処理等に耐えられる耐熱性、容器の破損を防ぐための耐衝撃性、容器からの微粒子溶出の低減(低微粒子性)などが要求される。透明性に関しては、滅菌後の波長450nmの光線透過率が55%以上であることが日本薬局方で定められている。
【0003】
従来、このような性能を満たす医療容器としてガラス製容器が使用されていたが、衝撃や落下による容器の破損、薬液投与時の容器内への外気の浸入による汚染等の問題があるため、耐衝撃性に優れ、柔軟で内容液の排出が容易なプラスチック製容器が用いられるようになった。プラスチック製容器としては、軟質塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリプロピレン樹脂および高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂が用いられている。しかし、軟質塩化ビニル樹脂は可塑剤が薬液中に溶出するなど衛生面で問題があり、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は耐熱性に劣り、ポリプロピレン樹脂は柔軟性やクリーン性(低微粒子性)が課題となっている。また、ポリエチレン系樹脂においても、透明性や柔軟性を満足するために密度を低くすると耐熱性、ガスバリア性等が低下し、さらにクリーン性も悪化するなどの問題がある。
【0004】
近年、透明性に優れるシングルサイト系触媒で製造された直鎖状ポリエチレンが開発され、それらを原料としたフィルムを積層させることで前記問題を解決する方法(特許文献1~3参照)が提案されている。しかしながら、それらの積層体においても透明性がなお不十分であり、成形した容器のヒートシール部等の衝撃強度も十分とは言えないため、改良が望まれていた。また、迅速に医療容器の品質管理を行うために、滅菌直後から透明性の測定が可能であることが望まれるが、滅菌処理時に容器が微量の水分を吸収している影響により、滅菌直後に容器の透明性を評価すると透明性が低下してしまう問題があった。
【0005】
特定の物性を有するポリエチレン系樹脂を含む材料により構成された内層と中間層および外層を積層させることで、121℃滅菌処理後も変形、シワが発生せず、シール部の強度に優れた容器を得る方法(特許文献4参照)が提案されている。この方法によれば、確かに滅菌処理後も高いシール強度を保持させることは可能であるが、滅菌処理後に容器の透明性が低下する問題は解決されておらず、改良が望まれていた。
【0006】
さらに、特定の物性を有するポリエチレン系樹脂を特定量配合した樹脂組成物を内層、中間層、外層に積層させることにより、121℃で滅菌可能な耐熱性を有する輸液バッグ用積層体を得る方法(特許文献5参照)が提案されている。しかしながら、この方法においては、輸液バッグの形状が内面どうし接触しやすい場合、滅菌処理により内面どうしが密着してしまう問題があった。また、滅菌処理後数時間以内においては、滅菌処理中に吸収された微量の水分の影響により透明性が低下してしまうため、品質管理で透明性を確認するのに時間がかかる問題があり、改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-309939号公報
【文献】特開平7-125738号公報
【文献】特開平8-244791号公報
【文献】特許第3964210号公報
【文献】特開2015-096196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のプラスチック製容器の欠点である耐熱性、柔軟性、およびクリーン性(低微粒子性)に優れ、かつ121℃での滅菌処理後も変形せず、滅菌処理直後より高い透明性が保持され、バッグ内面どうしが接触しやすい形状においてもバッグ内面の密着が防止される積層体およびこれを用いた医療容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、内層が特定の物性を有するポリエチレン系樹脂である積層体とすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくともA層、B層、C層をこの順で有する3層以上の積層体であって、前記A層が下記特性(a)~(c)を満足する高密度ポリエチレン(A-1)65~99重量部、下記特性(d)~(e)を満足する高密度ポリエチレン(A-2)1~35重量部((A-1)と(A-2)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物からなり、B層及びC層が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする積層体およびこれを用いた医療容器に関するものである。
(a)密度が945以上960kg/m3未満である。
(b)JIS K6922-1に準拠して測定したメルトフローレート(以下、MFRという)が0.10~15g/10分である。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0以下である。
(d)密度が960以上970kg/m3以下である。
(e)MFRが0.10~40g/10分である。
【0011】
A層に用いる樹脂組成物の高密度ポリエチレン(A-1)及び高密度ポリエチレン(A-2)の配合割合は、高密度ポリエチレン(A)が65~99重量部、好ましくは67~99重量部、より好ましくは85~99重量部、更に好ましくは85~95重量部、最も好ましくは87~93重量部、高密度ポリエチレン(A-2)が1~35重量部、好ましくは1~33重量部、より好ましくは1~15重量部、更に好ましくは5~15重量部、最も好ましくは7~13重量部である((A-1)と(A-2)の合計は100重量部)。高密度ポリエチレン(A-1)が65重量部以上の場合は透明性が良好であり、99重量部未満の場合は滅菌処理直後の透明性や滅菌処理時の密着防止性が良好であるため好ましい。高密度ポリエチレン(A-2)が1重量部以上だと滅菌処理直後の透明性、滅菌処理時の密着防止性が良好であり、35重量部以下の場合は透明性が良好であり好ましい。 本発明の積層体は、B層において透明性に優れた樹脂を用いることが好ましく、C層において耐熱性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
【0012】
B層に用いる熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において限定されないが、ポリエチレン樹脂組成物を用いた場合、クリーン性、柔軟性、製造コストの面から好ましい。ポリエチレン樹脂組成物は、前記高密度ポリエチレン(A-1)及び下記特性(f)~(h)を満足する直鎖状低密度ポリエチレン(B)を含む樹脂組成物であることが透明性と耐熱性の観点より好ましい。高密度ポリエチレン(A-1)と直鎖状低密度ポリエチレン(B)の配合割合は、高密度ポリエチレン(A-1)が10~40重量部、好ましくは15~35重量部、より好ましくは20~30重量部、直鎖状低密度ポリエチレン(B)が60~90重量部、好ましくは65~85重量部、より好ましくは70~80重量部である((A-1)と(B)の合計は100重量部)。
(f)密度が890~915kg/m3である。
(g)MFRが0.10~15g/10分である。
(h)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0以下である。
【0013】
高密度ポリエチレン(A-1)が10重量部以上の場合(即ち、直鎖状低密度ポリエチレン(B)が90重量部以下の場合)は、耐熱性が良好であり、121℃での滅菌処理後に容器の変形が防止されるため好ましい。高密度ポリエチレン(A-1)が40重量部以下の場合(即ち、直鎖状低密度ポリエチレン(B)が60重量部以上の場合)は、得られた積層体の柔軟性や透明性が良好であり好ましい。
【0014】
C層に用いる熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において限定されないが、ポリエチレン樹脂組成物を用いた場合、クリーン性、柔軟性、製造コストの面から好ましい。ポリエチレン樹脂組成物は、前記高密度ポリエチレン(A-1)と下記特性(i)~(l)を満足するエチレン系重合体(C)を含む樹脂組成物であることが透明性と耐熱性の観点より好ましい。高密度ポリエチレン(A-1)、およびエチレン系重合体(C)の配合割合は、高密度ポリエチレン(A-1)が50~95重量部、好ましくは60~90重量部、より好ましくは70~80重量部、エチレン系重合体(C)が5~50重量部、好ましくは10~40重量部、より好ましくは20~30重量部である((A-1)と(C)の合計は100重量部)。高密度ポリエチレン(A)が50重量部以上だと耐熱性が良好であり、95重量部以下の場合は透明性が良好であり、好ましい。エチレン系重合体(C)が5重量部以上だと透明性が良好であり、50重量部以下の場合は耐熱性や得られた積層体表面の平滑性が良好なため好ましい。
(i)密度が930~960kg/m3である。
(j)MFRが0.10~15g/10分である。
(k)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~7.0の範囲である。
(l)分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有する。
【0015】
以下に、本発明に関わるポリエチレン樹脂、それらを配合してなる樹脂組成物、本発明の積層体およびそれよりなる医療容器について説明する。
[1]高密度ポリエチレン(A-1)
本発明に用いる高密度ポリエチレン(A-1)は、エチレン単独重合体、またはエチレンとα-オレフィンの共重合体である。
【0016】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-1)は、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.10~15g/10分、好ましくは0.50~10g/10分、さらに好ましくは1.0~5.0g/10分である。MFRが0.10g/10分以上だと、成形加工時に押出機の負荷が大きくならず、成形時に表面荒れが防止されるため好ましい。また、MFRが15g/10分以下の場合、溶融張力が大きく、成形安定性が良好であるため好ましい。
【0017】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-1)は、JIS K6922-1に準拠した密度が945以上960kg/m3未満、好ましくは950~955kg/m3である。密度が945kg/m3以上だと121℃滅菌処理により容器の変形が生じず耐熱性が良好であり、960kg/m3未満の場合、透明性、柔軟性が良好であり、好ましい。
【0018】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-1)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~3.0である。Mw/Mnが3.0以下の場合は、得られた積層体を121℃で滅菌処理した際に透明性の低下が小さく、Mw/Mnが2.0以上の場合は成形加工時の押出負荷が大きくならないとともに、成形時に表面荒れが防止されるため好ましい。
【0019】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-1)は、例えば、特開2009-275059号公報、特開2013-81494号公報等に記載の方法により、スラリー法、溶液法、気相法等の製造法を用いて、シクロペンタジエニル誘導体を含有する有機遷移金属化合物と、これと反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒によりエチレンを単独重合またはエチレンとα-オレフィンを共重合することにより製造することが可能である。
【0020】
α-オレフィンとしては、一般にα-オレフィンと称されているものでよく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~12のα-オレフィンであることが好ましい。エチレンとα-オレフィンの共重合体としては、例えばエチレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・オクテン-1共重合体等が挙げられる。
[2]高密度ポリエチレン(A-2)
本発明に用いる高密度ポリエチレン(A-2)は、エチレン単独重合体、またはエチレンとα-オレフィンの共重合体である。
【0021】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-2)は、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート(以下、MFRという)が0.10~40g/10分、好ましくは0.50~35g/10分、さらに好ましくは1.0~30g/10分である。MFRが0.10g/10分以上だと、成形加工時の押出負荷が大きくならないとともに、成形時に表面荒れが防止されるため好ましい。また、MFRが40g/10分以下の場合、成形安定性が低下するため好ましくない。
【0022】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-2)は、JIS K6922-1に準拠した密度が960以上970kg/m3以下、好ましくは965~970kg/m3である。密度が960kg/m3以上だと121℃滅菌処理直後の透明性が良好であり、121℃滅菌処理後にバッグ内面の密着が防止されるため好ましい。密度が970kg/m3以下の場合、透明性や柔軟性が低下しないため好ましい。
【0023】
本発明に関わる高密度ポリエチレン(A-2)は、市販品として入手したものであってもよく、例えば、東ソー(株)製(商品名)ニポロンハード 10S01A、東ソー(株)製(商品名)ニポロンハード 2500、東ソー(株)製(商品名)ニポロンハード 1000等を挙げることができる。
[3]直鎖状低密度ポリエチレン(B)
本発明に用いる直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、エチレンとα-オレフィンの共重合体である。
【0024】
本発明に関わる直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.10~15g/10分、好ましくは0.50~10g/10分、さらに好ましくは1.0~5.0g/10分である。MFRが0.10g/10分以上だと、成形加工時の押出負荷が大きくならないとともに、成形時に表面荒れが防止されるため好ましい。また、MFRが15g/10分以下の場合、溶融張力が大きいために、成形安定性が良好なため好ましい。
【0025】
本発明に関わる直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、JIS K6922-1に準拠した密度が890~915kg/m3、好ましくは895~910kg/m3である。密度が890kg/m3以上だと耐熱性良好であり、915kg/m3以下の超える場合は、透明性、柔軟性が良好なため好ましい。
【0026】
本発明に関わる直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~3.0である。Mw/Mnが3.0以下の場合は、得られた医療容器を121℃で滅菌処理した際に、薬液中の微粒子数が少なく、Mw/Mnが2.0以上の場合は押出時の負荷が小さいため好ましい。
【0027】
本発明に関わる直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、例えば、特開2009-275059号公報、特開2013-81494号公報等に記載の方法により、高圧法、溶液法、気相法等の製造法を用いて、シクロペンタジエニル誘導体を含有する有機遷移金属化合物と、これと反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒によりエチレンとα-オレフィンを共重合することにより製造することが可能である。
【0028】
α-オレフィンとしては、一般にα-オレフィンと称されているものでよく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~12のα-オレフィンであることが好ましい。エチレンとα-オレフィンの共重合体としては、例えばエチレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・オクテン-1共重合体等が挙げられる。
[4]エチレン系重合体(C)
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重2.16kgで測定したMFRが0.10~15g/10分、好ましくは0.50~10g/10分、より好ましくは1.0~5.0g/10分である。MFRが0.10g/10分以上だと、成形加工時の押出負荷が大きくなると共に、成形時に表面荒れが生じないため好ましい。また、MFRが15g/10分以下の場合、成形時の加工安定性が良好であり好ましい。
【0029】
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、JIS K6922-1に準拠した密度が930~960kg/m3の範囲であり、好ましくは935~955kg/m3、特に好ましくは940~950kg/m3の範囲である。密度が930kg/m3以上だと耐熱性が良好であり、960kg/m3未満の場合は透明性、柔軟性が良好なため好ましい。
【0030】
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCという。)による分子量測定において2つのピークを示す。ピークトップ分子量(Mp)はGPC測定によって得られた分子量分布曲線を後述の方法で2個のピークに分割し、高分子量側のピークと低分子量側のピークのトップ分子量を評価し、その差が100,000以上である場合を2つのMpを有するとした。100,000未満である場合は、実測された分子量分布曲線のトップ分子量を1つのMpとした。
【0031】
分子量分布曲線の分割方法は以下のとおりに行った。GPC測定によって得られた、分子量の対数であるLogMに対して重量割合がプロットされた分子量分布曲線のLogMに対して、標準偏差が0.30であり、任意の平均値(ピークトップ位置の分子量)を有する2つの対数分布曲線を任意の割合で足し合わせることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された分子量分布曲線と合成曲線との同一分子量(M)値に対する重量割合の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して0.5%以下にした。偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られた時に、2つの対数正規分布曲線に分割して得られるそれぞれの対数分布曲線のピークトップの分子量をMpとした。
【0032】
GPCによる分子量測定においてピークが1つのエチレン系重合体は、本発明のポリエチレン樹脂組成物を得るための一成分に使用しても、2つのピークを有するエチレン系重合体(C)を配合した場合のように透明性が高く、かつ滅菌処理後も透明性を維持した医療容器が得られない。
【0033】
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2.0~7.0、好ましくは2.5~6.5、さらに好ましくは3.0~6.0である。Mw/Mnが2.0以上の場合は、成形加工時の押出負荷が小さく、得られた医療容器の外観(表面肌)も良好なため好ましい。Mw/Mnが7.0以下の場合は得られた医療容器の強度が強く、医療容器として使用した際に、充填した薬液中の微粒子数も少ないため好ましい。
【0034】
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)が15,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは15,000~100,000、特に15,000~50,000が好ましい。Mnが15,000以上である場合、得られた医療容器の強度が高くなる。
【0035】
本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個以上である。Mnが10万以上のフラクションの長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個以上の場合、透明性が良好なため好ましい。
【0036】
また、本発明に関わるエチレン系重合体(C)は、分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(C)全体の40%未満であることが好ましい。分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(C)全体の40%未満である場合、成形加工時の押出負荷が小さく、得られた医療容器の外観(表面肌)が良好である。
【0037】
以上、本発明の積層体のC層に、エチレン系重合体(C)を前記範囲内で配合した場合は、積層体を製造する際の成形安定性が向上すると共に、得られた医療容器は、ガスバリア性、クリーン性(低微粒子性)に優れ、121℃での滅菌処理後も高いレベルの透明性を維持できる。
【0038】
本発明の医療容器に関わるエチレン系重合体(C)は、例えば、特開2012-126862号公報、特開2012-126863号公報、特開2012-158654号公報、特開2012-158656号公報、特開2013-28703号公報等に記載の方法により得ることができる。又、市販品として、(商品名)TOSOH-HMS CK37、CK47(以上、東ソー(株)製)等を用いることができる。
[5]樹脂組成物
本発明に用いる樹脂組成物は、前述の高密度ポリエチレン(A-1)、高密度ポリエチレン(A-2)、直鎖状低密度ポリエチレン(B)およびエチレン系重合体(C)を、従来公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合する方法、あるいはこのような方法で得られた混合物をさらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒することによって得ることができる。
【0039】
本発明の積層体を構成するA層に用いる樹脂組成物は、MFRが1.0~10g/10分、密度が950~960kg/m3の範囲にある場合は、成形安定性が良く、121℃での滅菌処理直後の透明性、フィルムの密着防止性が特に優れるため、より好ましい。また、本発明の積層体を構成するB層の製造に用いる樹脂組成物は、MFRが1.0~5.0g/10分、密度が910~925kg/m3の範囲にある場合は、成形安定性が良く、柔軟性と透明性のバランスが特に優れるため、より好ましい。本発明の積層体を構成するC層に用いる樹脂組成物は、MFRが1.0~5.0g/10分、密度が930~955kg/m3の範囲にある場合は、成形安定性が良く、耐熱性とフィルム外観のバランスが特に優れるため、より好ましい。
【0040】
本発明に用いる樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、通常用いられる公知の添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、有機系あるいは無機系の顔料、紫外線吸収剤、分散剤等を適宜必要に応じて配合することができる。樹脂組成物に前記の添加剤を配合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0041】
また、本発明に用いる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、ポリ-1-ブテン等の他の熱可塑性樹脂を配合して用いることもできる。
[6]積層体
本発明の積層体は、少なくともA層、B層、C層をこの順に有する3層以上の積層体であって、前記A層が下記特性(a)~(c)を満足する高密度ポリエチレン(A-1)65~99重量部、下記特性(d)~(e)を満足する高密度ポリエチレン(A-2)35~1重量部((A-1)と(A-2)の合計は100重量部)を含む樹脂組成物からなり、B層及びC層が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする積層体に関するものである。
(a)密度が945以上960kg/m3未満である。
(b)MFRが0.10~15g/10分である。
(c)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0以下である。
(d)密度が960以上970kg/m3以下である。
(e)MFRが0.10~40g/10分である。
【0042】
本発明の積層体は医療容器に用いることができるが、医療容器として用いる場合、121℃で20分間滅菌処理を行う場合があるが、積層体の光線透過率は65%以上である場合が好ましく、68%以上である場合は更に好ましく、滅菌処理を行い透明性が低下しても、滅菌後の光線透過率が55%を上回るため好ましい。
【0043】
本発明の積層体は、C層とB層とA層(A層がヒートシール層)をこの順に有するものであれば、その他の層構成については特に限定されない。層の数については、前記C層/B層/A層からなる三層が最も好ましいが、それに限らず、C層/B層/A層におけるB層の中にさらに層を構成させたC層/B層/中心層/B層/A層という層構成や、C層とB層、またはB層とA層の間に、必要に応じて適宜他の層を設けることができる。そのような他の層としては、接着層、ガスバリア層、紫外線吸収層等が挙げられる。例えば、C層/ガスバリア層/B層/接着層/A層といった五層構造をとることもできる。また、C層のさらに外側に新たな層を設けることもできる。なお、層の間の記号/は、隣接する層であることを表している。
【0044】
尚、接着層を構成する接着剤としては、ポリウレタン系接着剤、酢酸ビニル接着剤、ホットメルト接着剤、あるいは無水マレイン酸変性ポリオレフィン、アイオノマー樹脂等の接着性樹脂が挙げられる。層構成に接着層を含める場合は、C層、B層、A層等の必須構成層を、これらの接着剤とともに共押出することにより積層することができる。
【0045】
本発明における積層体の全体厚みは特に限定されず、必要に応じて適宜決定することができるが、好ましくは0.01~1mm、より好ましくは0.1~0.5mmである。
【0046】
各層の厚み比は特に限定されないが、滅菌処理等による変形や融着を防ぐため密度を高めたC層やA層は厚みを薄くし、透明性を高めるため密度を低くしたB層の厚みは厚くした方が、透明性と耐熱性のバランスが良くなるため好ましい。各層の厚み比としては、C層:B層:A層=1~30:40~98:1~30程度(但し、全体の合計を100とする)がよい。
【0047】
本発明の積層体の製造方法は特に限定されないが、水冷式または空冷式共押出多層インフレーション法、共押出多層Tダイ法、ドライラミネーション法、押出ラミネーション法等により多層フィルムまたはシートとする方法が挙げられる。これらの中で、水冷式共押出多層インフレーション法または共押出多層Tダイ法を用いるのが好ましい。特に、水冷式共押出多層インフレーション法を用いた場合、透明性、衛生性等の点で多くの利点を有する。
[7]医療容器
本発明の医療容器は、前記積層体からなり、A層を内層とするものである。また、薬液を収容する収容部を備えた医療容器であって、少なくとも収容部が前記積層体からなるものである。
【0048】
本発明の医療容器は、121℃で20分間滅菌処理を行った、滅菌後の光線透過率が55%であることが透明性の観点から好ましい。
【0049】
前記積層体を、水冷式または空冷式共押出多層インフレーション法、共押出多層Tダイ法、ドライラミネーション法、押出ラミネーション法等によりフィルム状に成形した場合は、得られたフィルムを2枚重ね合わせて、周辺部をヒートシールすることで、袋状の収容部を成形することができる。また、得られたフィルムを真空成形、圧空成形などの熱板成形により、収容部となる凹部を成形した後、凹部同士が対向するように重ね合わせて、周辺部をヒートシールすることで収容部を成形することもできる。この際、薬液の注出入口となるポート部は、前記収容部の成形時に同時にヒートシールして形成させてもよいし、収容部の形成とポート部の形成を別工程で行なうことも可能である。
【0050】
本発明の医療容器の用途としては、医療関係全般に用いることができ、例えば血液バッグ、血小板保存バッグ、輸液(薬液)バッグ、医療用複室容器、人工透析用バッグ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の積層体は、透明性、耐熱性、密着防止性、柔軟性、バリアー性およびクリーン性(低微粒子性)に優れ、さらに121℃での滅菌処理後も透明性を維持できるため、高い透明性が求められる医療用の輸液バッグのような医療容器に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0053】
実施例、比較例に用いた樹脂の諸性質は下記の方法により評価した。
【0054】
<分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)およびピークトップ分子量(Mp)は、GPCによって測定した。GPC装置(東ソー(株)製(商品名)HLC-8121GPC/HT)およびカラム(東ソー(株)製(商品名)TSKgel GMHhr-H(20)HT)を用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0055】
<分子量分別>
分子量分別は、カラムとしてガラスビーズ充填カラム(直径:21mm、長さ:60cm)を用い、カラム温度を130℃に設定して、サンプル1gをキシレン30mLに溶解させたものを注入する。次に、キシレン/2-エトキシエタノールの比率が5/5のものを展開溶媒として用い、留出物を除去する。その後、キシレンを展開溶媒として用い、カラム中に残った成分を留出させ、ポリマー溶液を得る。得られたポリマー溶液に5倍量のメタノールを添加しポリマー分を沈殿させ、ろ過および乾燥することにより、Mnが10万以上である成分を回収した。
【0056】
<長鎖分岐>
長鎖分岐数は、日本電子(株)製JNM-GSX400型核磁気共鳴装置を用いて、13C-NMRによってヘキシル基以上の分岐数を測定した。溶媒はベンゼン-d6/オルトジクロロベンゼン(体積比30/70)である。主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1,000個当たりの個数として、α-炭素(34.6ppm)およびβ-炭素(27.3ppm)のピークの平均値から求めた。
【0057】
<密度>
密度は、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0058】
<MFR>
MFR(メルトフローレート)は、JIS K6922-1に準拠して測定を行った。
【0059】
<溶融張力>
溶融張力の測定用試料は、サンプルに耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0060】
溶融張力の測定は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。
【0061】
実施例、比較例では、下記の方法により製造した樹脂および市販品を用いた。
(1)高密度ポリエチレン(A-1)
HD-1
[変性粘土の調製]
脱イオン水4.8L、エタノール3.2Lの混合溶媒に、ジメチルベヘニルアミン;(C22H45)(CH3)2N 354gと37%塩酸83.3mLを加え、ジメチルベヘニルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液に合成ヘクトライト1,000gを加え終夜撹拌し、得られた反応液をろ過した後、固体分を水で十分洗浄した。固体分を乾燥させたところ、1,180gの有機変性粘土化合物を得た。赤外線水分計で測定した含液量は0.8%であった。次に、この有機変性粘土化合物を粉砕し、平均粒径を6.0μmに調製した。
[重合触媒の調製]
5Lのフラスコに、[変性粘土化合物の調製]の項で得た有機変性粘土化合物450g、ヘキサン1.4kgを加え、その後トリイソブチルアルミニウムのヘキサン20重量%溶液1.78kg(1.8モル)、ビス(n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド7.32g(18ミリモル)を加え、60℃に加熱して1時間撹拌した。反応溶液を45℃に冷却し、2時間静置した後に傾斜法で上澄液を除去した。次に、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン1重量%溶液1.78kg(0.09モル)を添加し、45℃で30分間反応させた。反応溶液を45℃で2時間静置した後に傾斜法で上澄液を除去し、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン20重量%溶液0.45kg(0.45モル)を加え、ヘキサンで再希釈して全量を4.5Lとし重合触媒を調製した。
[HD-1の製造]
内容量300Lの重合器に、ヘキサンを135kg/時、エチレンを20.0kg/時、ブテン-1を0.3kg/時、水素5NL/時および[重合触媒の調製]の項で得られた重合触媒を連続的に供給した。また、助触媒として液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を0.93ミリモル/kgヘキサンとなるように、それぞれ連続的に供給した。重合温度は85℃に制御した。得られた高密度ポリエチレン(HD-1)はMFR=1.0g/10分、密度952kg/m3であった。HD-1の基本特性評価結果を表1に示す。
【0062】
HD-2:下記市販品を用いた。
【0063】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 06S81K(MFR=5.0g/10分、密度=958kg/m3)
HD-2の基本特性評価結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
(2)高密度ポリエチレン(A-2)
HD-3:下記市販品を用いた。
【0066】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 10S01A(MFR=30g/10分、密度=967kg/m3)
HD-3の基本特性評価結果を表2に示す。
【0067】
HD-4:下記市販品を用いた。
【0068】
東ソー(株)製、(商品名)ニポロンハード 2500(MFR=7.9g/10分、密度=961kg/m3)
HD-4の基本特性評価結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
(3)直鎖状低密度ポリエチレン
LL-1
[変性粘土の調製]
水1,500mlに37%塩酸30mlおよびN,N-ジメチル-ベヘニルアミンを106g加え、N,N-ジメチル-ベヘニルアンモニウム塩酸塩水溶液を調製した。平均粒径7.8μmのモンモリロナイト300g(クニミネ工業製、商品名クニピアFをジェット粉砕機で粉砕することによって調製した)を上記塩酸塩水溶液に加え、6時間反応させた。反応終了後、反応溶液を濾過し、得られたケーキを6時間減圧乾燥し、変性粘土化合物370gを得た。
[重合触媒の調製]
窒素雰囲気下の20Lステンレス容器にヘプタン3.3L、トリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(20wt%希釈品)をアルミニウム原子当たり1.13mol(0.9L)および上記で得られた変性粘土化合物50gを加えて1時間撹拌した。そこへジフェニルメチレン(4-フェニル-インデニル)(2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライドをジルコニウム原子当たり1.25mmol加えて12時間撹拌した.得られた懸濁系に脂肪族系飽和炭化水素溶媒(出光石油化学製、商品名IPソルベント2835)5.8Lを加えることにより、触媒を調製した。(ジルコニウム濃度0.125mmol/L)
[LL-1の製造]
高温高圧重合用に装備された槽型反応器を用い、エチレンおよび1-ヘキセンを連続的に反応器に圧入して、全圧を90MPa、1-ヘキセン濃度を18mol%、水素濃度を7mol%になるように設定した。そして反応器を1,500rpmで撹拌し、上記により得られた重合触媒を反応器の供給口より連続的に供給し、平均温度を200℃に保ち重合反応をいった。得られた直鎖状低密度ポリエチレン(LL-1)はMFR=3.5g/10分、密度910kg/m3であった。(B1)-1の基本特性評価結果を表3に示す。
【0071】
【0072】
(4)エチレン系重合体
EP-1
[変性粘土の調製]
1Lのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製(商品名)エキネンF-3)300mL及び蒸留水300mLを入れ、濃塩酸17.5g及びジメチルベヘニルアミン(ライオン株式会社製(商品名)アーミンDM22D)49.4g(140mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(Rockwood Additives社製(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mLで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより132gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を15μmとした。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後に[変性粘土の調製]で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチルインデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mLのヘキサンにて5回洗浄後、ヘキサンを200ml加えて触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.4wt%)。
[EP-1の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を52mg(固形分6.4mg相当)加え、70℃に昇温後、1-ブテンを17.6g加え、分圧が0.80MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:590ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.8gのポリマーを得た。得られたポリマーのMFRは1.6g/10分、密度は930kg/m3であった。また、数平均分子量は17,600、重量平均分子量は86,700であり、分子量30,500および155,300の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.27個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの20.1wt%であった。また、溶融張力は75mNであった。評価結果を表4に示す。
【0073】
【0074】
<積層体および医療容器の製造>
三層水冷インフレーション成形機(プラコー社製)を用いて、シリンダ温度180℃、水槽温度15℃、引取速度4m/分でフィルム幅135mm、フィルム厚みがA層20μm、B層210μm、C層20μm、合計250μmの三層フィルムを成形した。次いで、前記三層フィルムから長さ195mmのサンプルを切出し、一方の端をヒートシールして袋状にした後、超純水を300ml充填し、ヘッドスペースを50ml設けてヒートシールして医療容器を作製した。密着防止性の評価用には、超純水を充填せず、フィルム内面が接した状態でヒートシールし、中身が空の医療用容器を作製した。
【0075】
<滅菌処理>
前記医療容器を、蒸気滅菌装置((株)日阪製作所製)を用いて、温度121℃で20分間滅菌処理を行なった。
【0076】
実施例、比較例に用いた積層体および医療容器の諸性質は下記の方法により評価した。
【0077】
<成形安定性>
三層水冷インフレーション成形機による、成膜時のフィルム(バブル)の安定性を目視により観察、評価した。
【0078】
○:バブル安定性良好
×:バブル変動大
<表面平滑性>
前記成形フィルムの表面状態を目視により観察、評価した。
【0079】
○:表面平滑性良好
×:表面荒れ大
<滅菌後外観>
滅菌処理後のフィルム表面のシワ、変形およびA層間の融着等を目視により評価し、シワ、変形が見られない場合を4点、若干のシワ、変形が見られる場合を3点、顕著なシワ、変形が見られる場合を2点、A層同士が融着した場合を1点とした。
【0080】
<透明性>
前記三層フィルムおよび滅菌処理後の医療容器から、幅10mm×長さ50mmの試験片を切出し、紫外可視分光光度計(型式220A、日立製作所製)を用いて、純水中で波長450nmにおける光線透過率を測定した。滅菌処理40分後及び滅菌処理1日後の光線透過率が55%以上であり、滅菌処理後40分後と1日後の光線透過率の差が2%以内である場合を滅菌処理直後においても、滅菌処理経時後においても透明性が良好な医療容器の目安とした。
【0081】
<密着防止性>
滅菌24時間後の中身が空の医療容器から、フィルム2枚が重なった状態で幅15mm×長さ100mmの試験片を切り出し、引張試験機(オリエンテック社製テンシロンRTG-1210)により引張速度200mm/分で2枚のフィルムを剥離し、密着強度を測定した。密着強度が0.5N/15mm未満であった場合を密着防止性が良好なフィルムの目安とした。
【0082】
実施例1
表5~7に示す樹脂組成物を用いて、水冷インフレーション成形機により三層フィルムを成形し、成形安定性およびフィルムの表面平滑性、透明性を評価した。尚、フィルムの厚みは250μmとした。次いで、得られたフィルムをヒートシールし、超純水を充填した医療容器または空の医療容器を作製して、121℃で高圧蒸気滅菌を行い、滅菌後のフィルム外観、透明性、柔軟性、透湿度およびクリーン性を評価した。結果を表8に示す。
【0083】
実施例2~4、比較例1~4
A層に用いる樹脂組成物を表8および表9に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして三層フィルムおよび医療容器を作製し、評価を行った。結果を表8および表9に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】