(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20221213BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20221213BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20221213BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221213BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
C04B37/02 B
H01L23/12 C
H01L23/12 D
H05K1/03 630H
H05K1/03 610D
H05K3/38 E
(21)【出願番号】P 2018227472
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018010965
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-305526(JP,A)
【文献】特開2015-224151(JP,A)
【文献】特開2012-064801(JP,A)
【文献】特開2017-183716(JP,A)
【文献】特開昭63-220987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00-37/04
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間においては、
Agが存在せず、前記セラミックス部材側に酸化マグネシウム層が形成され、この酸化マグネシウム層と前記銅部材との間にCuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されており、
前記Mg固溶層には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属が存在
しており、
前記酸化マグネシウム層のうち前記セラミックス部材との界面から前記酸化マグネシウム層の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記Mg固溶層には、Cuと前記活性金属を含む金属間化合物相が分散されていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記酸化マグネシウム層の内部に、Cu粒子が分散されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
前記セラミックス部材と前記銅部材との間において、前記セラミックス部材の接合面から前記銅部材側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項5】
前記酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項6】
アルミニウム酸化物からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間においては、
Agが存在せず、前記セラミックス基板側に酸化マグネシウム層が形成され、この酸化マグネシウム層と前記銅板との間にCuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されており、
前記Mg固溶層には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属が存在
しており、
前記酸化マグネシウム層のうち前記セラミックス基板との界面から前記酸化マグネシウム層の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項7】
前記Mg固溶層には、Cuと前記活性金属を含む金属間化合物相が分散されていることを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。
【請求項8】
前記酸化マグネシウム層の内部に、Cu粒子が分散されていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の絶縁回路基板。
【請求項9】
前記セラミックス基板と前記銅板との間において、前記セラミックス基板の接合面から前記銅板側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされていることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【請求項10】
前記酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の絶縁回路基板。
【請求項11】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体及びMg単体を配置する活性金属及びMg配置工程と、
前記銅部材と前記セラミックス部材とを、活性金属及びMgを介して積層する積層工程と、
活性金属及びMgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記活性金属及びMg配置工程では、活性金属量を0.4μmol/cm
2以上47.0μmol/cm
2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm
2以上143.2μmol/cm
2以下の範囲内とすることを特徴とする銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項12】
前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、
前記接合工程における加熱温度は、CuとMgが接触状態で積層されている場合は500℃以上850℃以下の範囲内、CuとMgが非接触状態で積層されている場合は670℃以上850℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項11に記載の銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項13】
請求項6から請求項10のいずれか一項に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体及びMg単体を配置する活性金属及びMg配置工程と、
前記銅板と前記セラミックス基板とを、活性金属及びMgを介して積層する積層工程と、
活性金属及びMgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、
を備えており、
前記活性金属及びMg配置工程では、活性金属量を0.4μmol/cm
2以上47.0μmol/cm
2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm
2以上143.2μmol/cm
2以下の範囲内とすることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、
前記接合工程における加熱温度は、CuとMgが接触状態で積層されている場合は500℃以上850℃以下の範囲内、CuとMgが非接触状態で積層されている場合は670℃以上850℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項13に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばアルミニウム酸化物などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、回路層及び金属層を構成する第一の金属板及び第二の金属板を銅板とし、この銅板をDBC法によってセラミックス基板に直接接合した絶縁回路基板が提案されている。このDBC法においては、銅と銅酸化物との共晶反応を利用して、銅板とセラミックス基板との界面に液相を生じさせることにより、銅板とセラミックス基板とを接合している。
【0004】
また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この絶縁回路基板においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【0005】
さらに、特許文献3には、高温の窒素ガス雰囲気下で銅板とセラミックス基板とを接合する際に用いられる接合用ろう材として、Cu-Mg-Ti合金からなる粉末を含有するペーストが提案されている。この特許文献3においては、窒素ガス雰囲気下にて560~800℃で加熱することによって接合する構成とされており、Cu-Mg-Ti合金中のMgは昇華して接合界面には残存せず、かつ、窒化チタン(TiN)が実質的に形成しないものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-162756号公報
【文献】特許第3211856号公報
【文献】特許第4375730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、DBC法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度を1065℃以上(銅と銅酸化物との共晶点温度以上)にする必要があることから、接合時にセラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった。
【0008】
また、特許文献2に開示されているように、活性金属ろう付け法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、ろう材がAgを含有しており、接合界面にAgが存在することから、マイグレーションが生じやすく、高耐圧用途には使用することができなかった。また、接合温度が900℃と比較的高温とされていることから、やはり、セラミックス基板が劣化してしまうといった問題があった。
【0009】
さらに、特許文献3に開示されているように、Cu-Mg-Ti合金からなる粉末を含有するペーストからなる接合用ろう材を用いて窒素ガス雰囲気下で接合した場合には、接合界面にガスが残存し、部分放電が発生しやすいといった問題があった。また、合金粉を用いていることから、合金粉の組成ばらつきに応じて溶融状況が不均一となり、界面反応が不十分な領域が局所的に形成されるおそれがあった。また、ペーストに含まれる有機物が接合界面に残存し、接合が不十分となるおそれがあった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅又は銅合金からなる銅部材とアルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが確実に接合され、耐マイグレーション性に優れた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、上述の銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間においては、Agが存在せず、前記セラミックス部材側に酸化マグネシウム層が形成され、この酸化マグネシウム層と前記銅部材との間にCuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されており、前記Mg固溶層には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属が存在しており、前記酸化マグネシウム層のうち前記セラミックス部材との界面から前記酸化マグネシウム層の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
この構成の銅/セラミックス接合体においては、銅又は銅合金からなる銅部材と、アルミニウム酸化物からなるセラミックス部材との間において、前記セラミックス部材側に酸化マグネシウム層が形成されている。この酸化マグネシウム層は、セラミックス部材と銅部材の間に配設されたマグネシウム(Mg)とセラミックス部材中の酸素(O)とが反応することにより形成されるものであり、セラミックス部材が十分に反応していることになる。
そして、酸化マグネシウム層と前記銅部材との間に、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されており、このMg固溶層にCuとTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属が存在するので、セラミックス部材と銅部材の間に配設されたMgが銅部材側に十分に拡散しており、さらに、セラミックス部材と銅部材の間に配設された活性金属と銅部材中のCuとが十分に反応していることになる。
したがって、銅部材とセラミックス部材との接合界面において界面反応が十分に進行しており、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることができる。また、接合界面にAgが存在していないので、耐マイグレーション性にも優れている。
【0013】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記Mg固溶層には、Cuと前記活性金属を含む金属間化合物相が分散されている構成としてもよい。
活性金属としてTi,Zr,Hfを含む場合には、Mg固溶層において活性金属は、Cuと前記活性金属との金属間化合物相として存在する。このため、Mg固溶層にCuと前記活性金属との金属間化合物相として存在することで、セラミックス部材と銅部材の間に配設されたMgが銅部材側に十分に拡散し、Cuと活性金属とが十分に反応しており、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることができる。
【0014】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記酸化マグネシウム層の内部に、Cu粒子が分散されていることが好ましい。
この場合、銅部材のCuがセラミックス部材と十分に反応していることになり、銅部材とセラミックス部材とが強固に接合された銅/セラミックス接合体を得ることが可能となる。なお、Cu粒子は、Cu単体又はCuを含有する金属間化合物であり、前記酸化マグネシウム層が形成される際に、液相中に存在していたCuが析出することで生成されている。
【0015】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材と前記銅部材との間において、前記セラミックス部材の接合面から前記銅部材側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされていることが好ましい。
この場合、脆弱なCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下に制限されているので、例えば超音波接合等を実施した場合であっても、接合界面における割れ等の発生を抑制することが可能となる。
なお、上述のCu-Mg金属間化合物相としては、例えば、Cu2Mg相、CuMg2相等が挙げられる。
【0016】
さらに、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材側に形成された酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクルを負荷した際のセラミックス部材の割れの発生を抑制することができる。
【0017】
本発明の絶縁回路基板は、アルミニウム酸化物からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間においては、Agが存在せず、前記セラミックス基板側に酸化マグネシウム層が形成され、この酸化マグネシウム層と前記銅板との間にCuの母相中にMgが固溶したMg固溶層が形成されており、 前記Mg固溶層には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属が存在しており、前記酸化マグネシウム層のうち前記セラミックス基板との界面から前記酸化マグネシウム層の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
この構成の絶縁回路基板においては、銅板とセラミックス基板とが確実に接合されるとともに、耐マイグレーション性に優れており、高耐圧条件下においても信頼性高く使用することができる。
【0018】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記Mg固溶層には、Cuと前記活性金属を含む金属間化合物相が分散されている構成としてもよい。
活性金属としてTi,Zr,Hfを含む場合には、Mg固溶層において活性金属は、Cuと前記活性金属との金属間化合物相として存在する。このため、Mg固溶層にCuと前記活性金属との金属間化合物相として存在することで、銅板とセラミックス基板とが確実に接合された絶縁回路基板を得ることができる。
【0019】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記酸化マグネシウム層の内部に、Cu粒子が分散されていることが好ましい。
この場合、銅板のCuがセラミックス基板と十分に反応していることになり、銅板とセラミックス基板とが強固に接合された絶縁回路基板を得ることが可能となる。なお、Cu粒子は、Cu単体又はCuを含有する金属間化合物であり、前記酸化マグネシウム層が形成される際に、液相中に存在していたCuが析出することで生成されている。
【0020】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板と前記銅板との間において、前記セラミックス基板の接合面から前記銅板側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされていることが好ましい。
この場合、脆弱なCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下に制限されているので、例えば超音波接合等を実施した場合であっても、接合界面における割れ等の発生を抑制することが可能となる。
なお、上述のCu-Mg金属間化合物相としては、例えば、Cu2Mg相、CuMg2相等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の絶縁回路基板においては、前記酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板側に形成された酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクルを負荷した際のセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0022】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法は、上述した銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体及びMg単体を配置する活性金属及びMg配置工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材とを、活性金属及びMgを介して積層する積層工程と、活性金属及びMgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記活性金属及びMg配置工程では、活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内とすることを特徴としている。
【0023】
この構成の銅/セラミックス接合体の製造方法によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に活性金属の単体及びMg単体を配置し、これらを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理するので、接合界面にガスや有機物の残渣等が残存することがない。また、活性金属の単体及びMg単体を配置しているので、組成のばらつきがなく、均一に液相が生じることになる。
そして、活性金属及びMg配置工程では、活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内としているので、界面反応に必要な液相を十分に得ることができるとともに、セラミックス部材の必要以上の反応を抑制することができる。
よって、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることができる。また、接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた銅/セラミックス接合体を得ることができる。
【0024】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法においては、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、前記接合工程における加熱温度は、CuとMgが接触状態で積層されている場合は500℃以上850℃以下の範囲内、CuとMgが非接触状態で積層されている場合は670℃以上850℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0025】
この場合、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされているので、セラミックス部材と銅部材と活性金属及びMgとを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。
そして、前記接合工程における加熱温度が、CuとMgが接触状態で積層されている場合はCuとMgの共晶温度よりも高い500℃以上とし、CuとMgが非接触状態で積層されている場合にはMgの融点よりも高い670℃以上としているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。
また、前記接合工程における加熱温度が850℃以下とされているので、Cuと活性金属との共晶反応の発生を抑制することができ、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス部材への熱負荷が小さくなり、セラミックス部材の劣化を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述した絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体及びMg単体を配置する活性金属及びMg配置工程と、前記銅板と前記セラミックス基板とを、活性金属及びMgを介して積層する積層工程と、活性金属及びMgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記活性金属及びMg配置工程では、活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内とすることを特徴としている。
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、銅板とセラミックス基板とが確実に接合された絶縁回路基板を得ることができる。また、接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板を得ることができる。
【0027】
ここで、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされ、前記接合工程における加熱温度は、CuとMgが接触状態で積層されている場合は500℃以上850℃以下の範囲内、CuとMgが非接触状態で積層されている場合は670℃以上850℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0028】
この場合、前記接合工程における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされているので、セラミックス基板と銅板と活性金属及びMgとを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。
そして、前記接合工程における加熱温度が、CuとMgが接触状態で積層されている場合はCuとMgの共晶温度よりも高い500℃以上とし、CuとMgが非接触状態で積層されている場合にはMgの融点よりも高い670℃以上としているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。
また、前記接合工程における加熱温度が850℃以下とされているので、Cuと活性金属との共晶反応の発生を抑制することができ、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス基板への熱負荷が小さくなり、セラミックス基板の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、銅又は銅合金からなる銅部材とアルミニウム酸化物からなるセラミックス部材とが確実に接合され、耐マイグレーション性に優れた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、上述の銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板の回路層(銅部材)及び金属層(銅部材)とセラミックス基板(セラミックス部材)との接合界面の模式図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示す説明図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板の回路層(銅部材)とセラミックス基板(セラミックス部材)との接合界面の模式図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示すフロー図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板の製造方法を示す説明図である。
【
図9】本発明例3の銅/セラミックス接合体における銅板とセラミックス基板の接合界面の観察結果である。
【
図10】実施例2におけるプル強度の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0032】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、
図1から
図4を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、銅部材である銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板10とされている。
図1に本発明の第1の実施形態である絶縁回路基板10及びこの絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0033】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(
図1において上側)に第1はんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に第2はんだ層8を介して接合されたヒートシンク51と、を備えている。
【0034】
絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、アルミニウム酸化物の一種であるアルミナで構成されている。なお、ここで、セラミックス基板11の厚さは、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0035】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板22として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面されている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0036】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成する銅板23として、無酸素銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層13の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0037】
ヒートシンク51は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、本実施形態においては、熱伝導性が良好な材質で構成された放熱板とされている。本実施形態においては、ヒートシンク51は、熱伝導性に優れた銅又は銅合金で構成されている。なお、ヒートシンク51と絶縁回路基板10の金属層13とは、第2はんだ層8を介して接合されている。
【0038】
ここで、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)、及び、セラミックス基板11と金属層13(銅板23)とは、
図4に示すように、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属からなる活性金属膜24及びMg膜25を介して接合されている。本実施形態では、活性金属としてTiを用いており、活性金属膜24はTi膜とされている。
そして、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)との接合界面及びセラミックス基板11と金属層13(銅板23)との接合界面においては、
図2に示すように、セラミックス基板11側に形成された酸化マグネシウム層31と、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層32と、が積層された構造とされている。
【0039】
ここで、Mg固溶層32には、上述の活性金属が含まれている。本実施形態においては、Mg固溶層32には、Cuと活性金属を含む金属間化合物相33が分散されている。本実施形態では、活性金属としてTiを用いており、CuとTiを含む金属間化合物相33を構成する金属間化合物としては、例えばCu4Ti,Cu3Ti2,Cu4Ti3,CuTi,CuTi2,CuTi3等が挙げられる。
このMg固溶層32におけるMgの含有量は、0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされている。なお、Mg固溶層32の厚さは、0.1μm以上80μm以下の範囲内とされている。
【0040】
また、本実施形態では、酸化マグネシウム層31の内部に、Cu粒子35が分散している。
酸化マグネシウム層31内に分散するCu粒子35の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。また、酸化マグネシウム層31のうちセラミックス基板11との界面から酸化マグネシウム層31の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。
ここで、酸化マグネシウム層31の厚さは、50nm以上1000nm以下の範囲内とされている。なお、酸化マグネシウム層31の厚さは、50nm以上400nm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0041】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との間において、セラミックス基板11の接合面から回路層12(金属層13)側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされている。
上述のCu-Mg金属間化合物相としては、例えばCu2Mg相、CuMg2相等が挙げられる。
なお、本実施形態では、上述のCu-Mg金属間化合物相は、電子線マイクロアナライザー(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)のMgの元素MAPを取得し、Mgの存在が確認された領域内での定量分析の5点平均で、Cu濃度が5原子%以上、かつ、Mg濃度が30原子以上70原子%以下を満たした領域をCu-Mg金属間化合物相とした。
【0042】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0043】
図4に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、それぞれTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体(本実施形態ではTi単体)及びMg単体を配置する(活性金属及びMg配置工程S01)。本実施形態では、活性金属(Ti)及びMgを蒸着することによって、活性金属膜24(Ti膜)及びMg膜25が形成されており、Mg膜25は銅板22(銅板23)とは非接触状態で積層されている。
ここで、この活性金属及びMg配置工程S01では、活性金属量を0.4μmol/cm
2以上47.0μmol/cm
2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm
2以上143.2μmol/cm
2以下の範囲内としている。
なお、活性金属量の下限は2.8μmol/cm
2以上とすることが好ましく、活性金属量の上限は18.8μmol/cm
2以下とすることが好ましい。また、Mg量の下限は8.8μmol/cm
2以上とすることが好ましく、Mg量の上限は37.0μmol/cm
2以下とすることが好ましい。
【0044】
次に、銅板22とセラミックス基板11と銅板23とを、活性金属膜24(Ti膜)及びMg膜25を介して積層する(積層工程S02)。
【0045】
次に、積層された銅板22、セラミックス基板11、銅板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11と銅板23を接合する(接合工程S03)。
ここで、接合工程S03における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされている。
また、接合工程S03における加熱温度は、CuとMgが非接触状態で積層されていることから、Mgの融点以上の670℃以上850℃以下の範囲内とされている。なお、加熱温度の下限は700℃以上とすることが好ましい。
さらに、接合工程S03における真空度は、1×10-6Pa以上1×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
また、加熱温度での保持時間は、5min以上360min以下の範囲内とすることが好ましい。なお、上述のCu-Mg金属間化合物相の面積率を低くするためには、加熱温度での保持時間の下限を60min以上とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間の上限は240min以下とすることが好ましい。
【0046】
以上のように、活性金属及びMg配置工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0047】
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク51を接合する(ヒートシンク接合工程S04)。
絶縁回路基板10とヒートシンク51とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、第2はんだ層8を介して絶縁回路基板10とヒートシンク51とをはんだ接合する。
【0048】
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する(半導体素子接合工程S05)。
以上の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0049】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、無酸素銅からなる銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とアルミニウム酸化物の一種であるアルミナからなるセラミックス基板11とが、活性金属膜24(Ti膜)及びMg膜25を介して接合されており、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)及びセラミックス基板11と金属層13(銅板22)の接合界面には、セラミックス基板11側に形成された酸化マグネシウム層31と、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層32と、が積層されている。
【0050】
ここで、酸化マグネシウム層31は、セラミックス基板11と銅板22、23の間に配設されたMgとセラミックス基板11の酸素とが反応することにより形成されるものであり、接合界面においてセラミックス基板11が十分に反応している。また、酸化マグネシウム層31に積層するように、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層32が形成されており、このMg固溶層32に、上述の活性金属が含まれており、本実施形態においてはMg固溶層31にCuと活性金属(Ti)を含む金属間化合物相33が分散されているので、セラミックス基板11と銅板22,23との間に配設されたMgが銅板22,23側に十分に拡散しており、さらに、Cuと活性金属(Ti)とが十分に反応している。
【0051】
よって、セラミックス基板11と銅板22,23との接合界面において十分に界面反応が進行しており、回路層12(銅板22)とセラミックス基板11、金属層13(銅板23)とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。また、接合界面にAgが存在していないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
【0052】
特に、本実施形態においては、酸化マグネシウム層31の内部に、Cu粒子35が分散しているので、銅板22,23のCuがセラミックス基板11の接合面で十分に反応していることになり、銅板22,23とセラミックス基板11とが強固に接合された絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)の製造方法によれば、銅板22,23とセラミックス基板11との間に活性金属(Ti)の単体(活性金属膜24)及びMg単体(Mg膜25)を配置する活性金属及びMg配置工程S01と、これら活性金属膜24及びMg膜25を介して銅板22、23とセラミックス基板11とを積層する積層工程S02と、積層された銅板22、セラミックス基板11、銅板23を、積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程S03と、を備えているので、接合界面にガスや有機物の残渣等が残存することがない。また、活性金属(Ti)の単体及びMg単体を配置しているので、組成のばらつきがなく、均一に液相が生じることになる。
【0054】
そして、活性金属及びMg配置工程S01では、活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内としているので、界面反応に必要な液相を十分に得ることができるとともに、セラミックス基板11の必要以上の反応を抑制することができる。
よって、銅板22,23とセラミックス基板11とが確実に接合された絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。また、接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板10を得ることができる。
【0055】
ここで、活性金属量が0.4μmol/cm2未満、及び、Mg量が7.0μmol/cm2未満の場合には、界面反応が不十分となり、接合率が低下するおそれがあった。また、活性金属量が47.0μmol/cm2を超える場合には、活性金属が多く比較的硬い金属間化合物相33が過剰に生成してしまい、Mg固溶層32が硬くなり過ぎて、セラミックス基板11に割れが生じるおそれがあった。また、Mg量が143.2μmol/cm2を超える場合には、セラミックス基板11の分解反応が過剰となり、Alが過剰に生成し、これらとCuや活性金属(Ti)やMgの金属間化合物が多量に生じ、セラミックス基板11に割れが生じるおそれがあった。
以上のことから、本実施形態では、活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内としている。
【0056】
さらに、本実施形態においては、接合工程S03における加圧荷重が0.049MPa以上とされているので、セラミックス基板11と銅板22,23と活性金属膜24(Ti膜)及びMg膜25とを密着させることができ、加熱時にこれらの界面反応を促進させることができる。また、接合工程S03における加圧荷重が3.4MPa以下とされているので、セラミックス基板11の割れ等を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、CuとMgが非接触状態で積層されており、接合工程S03における加熱温度が、Mgの融点以上である670℃以上とされているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。一方、接合工程S03における加熱温度が850℃以下とされているので、Cuと活性金属(Ti)との共晶反応の発生を抑制することができ、液相が過剰に生成することを抑制できる。また、セラミックス基板11への熱負荷が小さくなり、セラミックス基板11の劣化を抑制することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、
図5から
図8を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板111と、銅部材である銅板122(回路層112)とが接合されることにより構成された絶縁回路基板110とされている。
図5に、本発明の第2の実施形態である絶縁回路基板110及びこの絶縁回路基板110を用いたパワーモジュール101を示す。
【0059】
このパワーモジュール101は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方側(
図5において上側)の面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板110の他方側(
図5において下側)に配置されたヒートシンク151と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。
【0060】
絶縁回路基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(
図5において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(
図5において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、アルミニウム酸化物の一種であるアルミナで構成されている。ここで、セラミックス基板111の厚さは、0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0061】
回路層112は、
図8に示すように、セラミックス基板111の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板122が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112を構成する銅板122として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層112には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図5において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面されている。ここで、回路層112の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0062】
金属層113は、
図8に示すように、セラミックス基板111の他方の面にアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。なお、このアルミニウム板123は、0.2%耐力が30N/mm
2以下とされている。ここで、金属層113(アルミニウム板123)の厚さは0.5mm以上6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。なお、金属層113は、
図8に示すように、アルミニウム板123がAl-Si系ろう材128を用いてセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
【0063】
ヒートシンク151は、前述の絶縁回路基板110を冷却するためのものであり、本実施形態においては、熱伝導性が良好な材質で構成された放熱板とされている。本実施形態においては、ヒートシンク151は、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。本実施形態においては、このヒートシンク151は、絶縁回路基板110の金属層113に、例えばAl-Si系ろう材を用いて接合されている。
【0064】
ここで、セラミックス基板111と回路層112(銅板122)とは、
図8に示すように、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属からなる活性金属膜124及びMg膜125を介して接合されている。本実施形態では、活性金属としてZr及びHfを用いており、活性金属膜124は、ZrとHfとを共蒸着することで成膜されたものとされている。
そして、セラミックス基板111と回路層112(銅板122)との接合界面においては、
図6に示すように、セラミックス基板111側に形成された酸化マグネシウム層131と、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層132と、が積層されている。
【0065】
Mg固溶層132には、上述の活性金属が含まれている。本実施形態においては、Mg固溶層132には、Cuと活性金属(Zr及びHf)を含む金属間化合物相133が分散されている。本実施形態では、活性金属としてZr及びHfを用いており、CuとZr及びHfを含む金属間化合物相133を構成する金属間化合物としては、例えばCu5Zr,Cu51Zr14,Cu8Zr3,Cu10Zr7,CuZr,Cu5Zr8,CuZr2,Cu51Hf14,Cu8Hf3,Cu10Hf7,CuHf2等が挙げられる。
このMg固溶層132におけるMgの含有量は、0.01原子%以上3原子%以下の範囲内とされている。ここで、Mg固溶層132の厚さは、0.1μm以上80μm以下の範囲内とされている。
【0066】
また、本実施形態では、酸化マグネシウム層131の内部に、Cu粒子135が分散している。
酸化マグネシウム層131内に分散するCu粒子135の粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされている。また、酸化マグネシウム層131のうちセラミックス基板111との界面から酸化マグネシウム層131の厚さの20%までの界面近傍領域におけるCu濃度が0.3原子%以上15原子%以下の範囲内とされている。
ここで、酸化マグネシウム層131の厚さは、50nm以上1000nm以下の範囲内とされている。なお、酸化マグネシウム層131の厚さは、50nm以上400nm以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0067】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板111と回路層112との間において、セラミックス基板111の接合面から回路層112側へ50μmまでの領域におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率が15%以下とされている。
上述のCu-Mg金属間化合物相としては、例えばCu2Mg相、CuMg2相等が挙げられる。
なお、本実施形態では、上述のCu-Mg金属間化合物相は、電子線マイクロアナライザー(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)のMgの元素MAPを取得し、Mgの存在が確認された領域内での定量分析の5点平均で、Cu濃度が5原子%以上、かつ、Mg濃度が30原子以上70原子%以下を満たした領域をCu-Mg金属間化合物相とした。
【0068】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法について、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0069】
図8に示すように、回路層112となる銅板122とセラミックス基板111との間に、それぞれTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の単体(本実施形態ではZr単体及びHf単体)及びMg単体を配置する(活性金属及びMg配置工程S101)。本実施形態では、活性金属(Zr及びHf)とMgを蒸着することによって、活性金属膜124及びMg膜125が形成されており、銅板122に接触するようにMg膜125が形成されている。
ここで、この活性金属及びMg配置工程S101では、活性金属量を0.4μmol/cm
2以上47.0μmol/cm
2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm
2以上143.2μmol/cm
2以下の範囲内としている。
【0070】
ここで、活性金属量が0.4μmol/cm2未満、及び、Mg量が7.0μmol/cm2未満の場合には、界面反応が不十分となり、接合率が低下するおそれがある。また、活性金属量が47.0μmol/cm2を超える場合には、活性金属が多く比較的硬い金属間化合物相133が過剰に生成してしまい、Mg固溶層132が硬くなり過ぎて、セラミックス基板111に割れが生じるおそれがある。また、Mg量が143.2μmol/cm2を超える場合には、セラミックス基板111の分解反応が過剰となり、Alが過剰に生成し、これらとCuや活性金属(Ti)やMgの金属間化合物が多量に生じ、セラミックス基板111に割れが生じるおそれがある。
なお、活性金属量の下限は2.8μmol/cm2以上とすることが好ましく、活性金属量の上限は18.8μmol/cm2以下とすることが好ましい。また、Mg量の下限は8.8μmol/cm2以上とすることが好ましく、Mg量の上限は37.0μmol/cm2以下とすることが好ましい。
【0071】
次に、銅板122とセラミックス基板111とを、活性金属膜124及びMg膜125を介して積層する(積層工程S102)。
なお、本実施形態では、
図8に示すように、セラミックス基板111の他方の面側に、Al-Si系ろう材128を介して、金属層113となるアルミニウム板123を積層する。
【0072】
次に、積層された銅板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板122とセラミックス基板111とアルミニウム板123を接合する(接合工程S103)。
ここで、接合工程S103における加圧荷重が0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とされている。
【0073】
また、接合工程S103における加熱温度は、CuとMgが接触状態で積層されていることから、MgとCuの共晶温度以上である500℃以上、かつ、Cuと活性金属(Zr及びHf)の共晶温度以下とする。なお、加熱温度の下限は700℃以上とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、アルミニウム板123をAl-Si系ろう材128を用いて接合するため、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内としている。
さらに、接合工程S103における真空度は、1×10-6Pa以上1×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
また、加熱温度での保持時間は、5min以上360min以下の範囲内とすることが好ましい。なお、上述のCu-Mg金属間化合物相の面積率を低くするためには、加熱温度での保持時間の下限を60min以上とすることが好ましい。また、加熱温度での保持時間の上限は240min以下とすることが好ましい。
【0074】
以上のように、活性金属及びMg配置工程S101と、積層工程S102と、接合工程S103とによって、本実施形態である絶縁回路基板110が製造される。
【0075】
次に、絶縁回路基板110の金属層113の他方の面側に、ヒートシンク151を接合する(ヒートシンク接合工程S104)。
絶縁回路基板110とヒートシンク151とを、ろう材を介して積層し、積層方向に加圧するとともに真空炉内に装入してろう付けを行う。これにより、絶縁回路基板110の金属層113とヒートシンク151とを接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20~110μmのAl-Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は、接合工程S103における加熱温度よりも低温に設定することが好ましい。
【0076】
次に、絶縁回路基板110の回路層112の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する(半導体素子接合工程S105)。
以上の工程により、
図5に示すパワーモジュール101が製出される。
【0077】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)によれば、銅板122(回路層112)とアルミナからなるセラミックス基板111とが、活性金属膜124及びMg膜125を介して接合されており、セラミックス基板111と回路層112(銅板122)の接合界面には、セラミックス基板111側に形成された酸化マグネシウム層131と、Cuの母相中にMgが固溶したMg固溶層132と、が積層され、このMg固溶層132内に活性金属が存在しており、本実施形態では、Mg固溶層132内にCuと活性金属を含む金属間化合物相133が分散しているので、第1の実施形態と同様に、回路層112(銅板122)とセラミックス基板111とが確実に接合された絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。また、接合界面にAgが存在していないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。
【0078】
また、本実施形態においては、酸化マグネシウム層131の内部に、Cu粒子135が分散しているので、銅板122のCuがセラミックス基板111の接合面で十分に反応していることになり、回路層112(銅板122)とセラミックス基板111とが強固に接合された絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)を得ることが可能となる。
【0079】
また、本実施形態の絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)の製造方法によれば、第1の実施形態と同様に、回路層112(銅板122)とセラミックス基板111との接合界面において、液相を適度に出現させて十分に界面反応させることができ、銅板122とセラミックス基板111とが確実に接合された絶縁回路基板110(銅/セラミックス接合体)を得ることができる。また、接合にAgを用いていないので、耐マイグレーション性に優れた絶縁回路基板110を得ることができる。
【0080】
また、本実施形態では、CuとMgが接触状態で積層されており、接合工程S103における加熱温度が、CuとMgの共晶温度以上である500℃以上とされているので、接合界面において十分に液相を生じさせることができる。
さらに、本実施形態では、積層工程S102において、セラミックス基板111の他面側にアルミニウム板123をAl-Si系ろう材128を介して積層し、銅板122とセラミックス基板111、セラミックス基板111とアルミニウム板123とを同時に接合しているので、銅からなる回路層112とアルミニウムからなる金属層113とを備えた絶縁回路基板110を効率良く製造することができる。また、絶縁回路基板110における反りの発生を抑制することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層又は金属層を構成する銅板を、無酸素銅の圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、他の銅又は銅合金で構成されたものであってもよい。
【0082】
また、第2の実施形態において、金属層を構成するアルミニウム板を、純度99.99mass%の純アルミニウムの圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、純度99mass%のアルミニウム(2Nアルミニウム)等、他のアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されたものであってもよい。
【0083】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板を、アルミニウム酸化物の一種であるアルミナからなるものとして説明したが、これに限定されることはなく、ジルコニア等を含む強化アルミナ等であってもよい。
【0084】
さらに、ヒートシンクとして放熱板を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、ヒートシンクの構造に特に限定はない。例えば、冷媒が流通する流路を有するものや冷却フィンを備えたものであってもよい。また、ヒートシンクとしてアルミニウムやアルミニウム合金を含む複合材(例えばAlSiC等)を用いることもできる。
また、ヒートシンクの天板部や放熱板と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
【0085】
さらに、本実施形態では、活性金属及びMg配置工程において、活性金属膜及びMg膜を成膜するものとして説明したが、これに限定されることはなく、活性金属とMgを共蒸着してもよい。この場合においても、成膜された活性金属膜及びMg膜は、合金化されておらず、活性金属の単体及びMg単体が配置されることになる。なお、共蒸着によって活性金属及びMg膜を成膜した場合には、MgとCuとが接触状態となるため、接合工程における加熱温度の下限を500℃以上とすることができる。
【0086】
また、本実施形態では、活性金属としてTi、又は、Zr及びHfを用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、活性金属として、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上を用いてもよい。
なお、活性金属としてZrを用いた場合には、Mg固溶層において、Zrは、Cuとの金属間化合物相として存在する。この金属間化合物相を構成する金属間化合物としては、例えばCu5Zr,Cu51Zr14,Cu8Zr3,Cu10Zr7,CuZr,Cu5Zr8,CuZr2等が挙げられる。
活性金属としてHfを用いた場合には、Mg固溶層において、Hfは、Cuとの金属間化合物相として存在する。この金属間化合物相を構成する金属間化合物としては、例えばCu51Hf14,Cu8Hf3,Cu10Hf7,CuHf2等が挙げられる。
活性金属としてTi及びZrを用いた場合には、Mg固溶層において、Ti及びZrは、Cuと活性金属を含む金属間化合物相として存在する。この金属間化合物相を構成する金属間化合物としては、Cu1.5Zr0.75Ti0.75等が挙げられる。
また、活性金属としてNbを用いた場合には、NbはMg固溶層に固溶して存在することになる。
【0087】
さらに、活性金属及びMg配置工程においては、接合界面における活性金属量を0.4μmol/cm2以上47.0μmol/cm2以下の範囲内、Mg量を7.0μmol/cm2以上143.2μmol/cm2以下の範囲内とされていればよく、例えばMg膜/活性金属膜/Mg膜のように活性金属膜とMg膜を多層に積層してもよい。あるいは、活性金属膜とMg膜の間にCu膜を成膜してもよい。
なお、活性金属の単体及びMg単体は、箔材を配置してもよいし、スパッタリングによって成膜してもよい。
また、活性金属の単体やMg単体を積層したクラッド材を用いてもよいし、活性金属の単体やMg単体を含むペースト等を印刷してもよい。
【0088】
また、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【実施例】
【0089】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
【0090】
<実施例1>
表1に示す構造の銅/セラミックス接合体を形成した。詳述すると、40mm角のアルミナからなるセラミックス基板の両面に、表1に示すように、活性金属の単体及びMg単体を成膜した銅板を積層し、表1に示す接合条件で接合し、銅/セラミックス接合体を形成した。なお、セラミックス基板としての厚さは0.635mmとした。また、接合時の真空炉の真空度は5×10-3Paとした。
【0091】
このようにして得られた銅/セラミックス接合体について、接合界面を観察して酸化マグネシウム層、Mg固溶層、金属間化合物相、酸化マグネシウム層中のCu粒子の有無及びCu濃度、を確認した。また、銅/セラミックス接合体の初期接合率、冷熱サイクル後のセラミックス基板の割れ、マイグレーション性を、以下のように評価した。
【0092】
(Mg固溶層)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、EPMA装置(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)を観察し、セラミックス基板表面(酸化マグネシウム層表面)から銅板側に向かって10μm間隔の10点で定量分析を行い、Mg濃度が0.01原子%以上である領域をMg固溶層とした。
【0093】
(Mg固溶層における活性金属の有無(金属間化合物相の有無))
銅板とセラミックス基板との接合界面を、電子線マイクロアナライザー(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率2000倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(400μm×600μm)の活性金属の元素MAPを取得し、活性金属の有無を確認した。また、活性金属の存在が確認された領域内での定量分析の5点平均で、Cu濃度が5原子%以上、かつ、活性金属濃度が16原子以上90原子%以下を満たした領域を金属間化合物相とした。
【0094】
(酸化マグネシウム層)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、走査型透過電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM(EDS検出器付き))を用いて、倍率115000倍、加速電圧200kVの条件で観察を行い、エネルギー分散型X線分析法(サーモサイエンティフィック社製NSS7)を用いてマッピングを行い、Mg、Oの元素マッピングを取得し、MgとOが重なる領域において、1nm程度に絞った電子ビームを照射すること(NBD(ナノビーム回折)法)で電子回折図形を得て、酸化マグネシウム層の有無を確認した。なお、酸化マグネシウム層は、マグネシア(MgO)、スピネル(MgAl2O4)のいずれかを含有していてもよい。
また、酸化マグネシウム層と確認された領域におけるCu粒子の有無を確認し、この領域における定量分析の5点平均から得られたCu濃度を、酸化マグネシウム層内に分散されたCuの平均濃度とした。
【0095】
(初期接合率)
銅板とセラミックス基板との接合率は、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて以下の式を用いて求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち銅板の接合面の面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)
【0096】
(セラミックス基板の割れ)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、気相で、-50℃×10分←→150℃×10分の250サイクルを実施した。
上述の冷熱サイクルを負荷した後のセラミックス基板の割れの有無を評価した。
【0097】
(マイグレーション)
回路層の回路パターン間距離0.8mm、温度60℃、湿度60%RH、電圧DC1000Vの条件で、2000時間放置後に、回路パターン間の電気抵抗を測定し、抵抗値が1×106Ω以下となった場合を短絡したと判断し、「×」とした。
【0098】
評価結果を表2に示す。また、本発明例3の観察結果を
図9に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
活性金属及びMg配置工程においてMg量が本発明よりも少ない比較例1においては、Mg固溶層及び酸化マグネシウム層が形成されず、初期接合率が低くなった。界面反応が不十分だったためと推測される。
活性金属及びMg配置工程においてMg量が本発明よりも多い比較例2においては、セラミックス基板の割れが確認された。このため、銅/セラミックス接合体を得ることができなかった。セラミックス基板の分解反応が過剰となり、Alが過剰に生成し、これらとCuや活性金属やMgの金属間化合物が多量に生じたためと推測される。
【0102】
活性金属及びMg配置工程において活性金属量が本発明の範囲よりも少ない比較例3においては、初期接合率が低くなった。Mg固溶層に活性金属が存在しておらず、界面反応が不十分だったためと推測される。
活性金属及びMg配置工程において活性金属量が本発明の範囲よりも多い比較例4においては、セラミックス基板の割れが確認された。このため、銅/セラミックス接合体を得ることができなかった。Mg固溶層に活性金属が多く存在し、Mg固溶層が硬くなり過ぎたためと推測される。
【0103】
Ag-Cu-Tiろう材を用いてセラミックス基板と銅板を接合した従来例においては、マイグレーションが「×」と判断された。接合界面にAgが存在するためと推測される。
【0104】
これに対して、本発明例1~12においては、初期接合率も高く、セラミックス基板の割れも確認されなかった。また、マイグレーションも良好であった。
また、
図9に示すように、接合界面を観察した結果、酸化マグネシウム層、Mg固溶層が観察され、このMg固溶層の内部に活性金属(金属間化合物相)分散していることが観察された。
【0105】
<実施例2>
表3に示す構造の絶縁回路基板を形成した。詳述すると、40mm角のアルミナからなるセラミックス基板の両面に、表3に示すように、活性金属の単体及びMg単体を成膜した銅板を積層し、表3に示す接合条件で接合し、回路層を有する絶縁回路基板を形成した。なお、セラミックス基板の厚さは0.635mmとした。また、接合時の真空炉の真空度は5×10-3Paとした。
【0106】
このようにして得られた絶縁回路基板について、セラミックス基板と回路層との接合界面におけるCu-Mg金属間化合物相の面積率、及び、回路層に超音波接合した端子のプル強度を、以下のようにして評価した。
【0107】
(Cu-Mg金属間化合物相の面積率)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、電子線マイクロアナライザー(日本電子株式会社製JXA-8539F)を用いて、倍率750倍、加速電圧15kVの条件で接合界面を含む領域(120μm×160μm)のMgの元素MAPを取得し、Mgの存在が確認された領域内での定量分析の5点平均で、Cu濃度が5原子%以上、かつ、Mg濃度が30原子以上70原子%以下を満たした領域をCu-Mg金属間化合物相とした。
そして、観察視野内において、セラミックス基板の接合面とセラミックス基板の接合面から銅板側へ50μmまでの領域の面積Aを求める。この領域内においてCu-Mg金属間化合物相の面積Bを求め、Cu-Mg金属間化合物相の面積率B/A×100(%)を求めた。上述のようにCu-Mg金属間化合物相の面積率を5視野で測定し、その平均値を表3に記載した。
【0108】
(プル強度)
図10に示すように、絶縁回路基板の回路層の上に、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製60C-904)を用いて、銅端子(幅5mm×厚さ1.0mm)を、コプラス量0.3mmの条件で超音波接合した。
そして、ツール速度0.5mm/s,ステージ速度0.5mm/sの条件で銅端子をプルしたときの破断荷重を接合面積で割った値をプル強度として表3に記載した。
【0109】
【0110】
本発明例21~32を比較すると、Cu-Mg金属間化合物相の面積率が低いほど、プル強度が高くなることが確認される。よって、超音波接合性を向上させる場合には、Cu-Mg金属間化合物相の面積率を低く抑えることが効果的であることが確認された。
【0111】
<実施例3>
表4に示す構造の銅/セラミックス接合体を形成した。詳述すると、40mm角のアルミナからなるセラミックス基板の両面に、表4に示すように、活性金属の単体及びMg単体を成膜した銅板を積層し、表4に示す接合条件で接合し、銅/セラミックス接合体を形成した。なお、セラミックス基板としての厚さは0.635mmとした。また、接合時の真空炉の真空度は5×10-3Paとした。
【0112】
このようにして得られた銅/セラミックス接合体について、接合界面を観察して、酸化マグネシウム層の厚さ、Mg固溶層、金属間化合物相、酸化マグネシウム層中のCu粒子の有無及びCu濃度、を確認した。また、銅/セラミックス接合体の初期接合率、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板の割れを、評価した。
なお、Mg固溶層、金属間化合物相、酸化マグネシウム層中のCu粒子の有無及びCu濃度、及び、銅/セラミックス接合体の初期接合率については、実施例1と同様の方法で評価した。
【0113】
(酸化マグネシウム層の厚さ)
銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan
ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で観察し、得られた元素マッピングにおいて、MgとOが共存する領域が存在した場合を、酸化マグネシウム層と同定した。なお、酸化マグネシウム層は、マグネシア(MgO)、スピネル(MgAl2O4)のいずれかを含有していてもよい。
そして、観察視野内において、酸化マグネシウム層の面積を観察幅で割ることによって、酸化マグネシウム層の厚さを算出した。
【0114】
(冷熱サイクル試験)
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-72ES)を使用し、気相で、-50℃×10分←→175℃×10分の250サイクルを実施した。
10サイクル毎にセラミックス基板の割れの有無を確認した。なお、セラミックス割れの有無は、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ製FineSAT200)による界面検査から判定した。なお、表5において、「>250」は250サイクル後に割れが確認されなかったことを示す。
【0115】
【0116】
【0117】
酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上1000nm以下の範囲内とされた本発明例41~52においては、-50℃から175℃の過酷な冷熱サイクル試験を実施した場合であっても、セラミックス割れが発生した冷熱サイクルが180回以上であり、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認された。特に、酸化マグネシウム層の厚さが50nm以上400nm以下の範囲内とされた本発明例41,42,44,50~52においては、冷熱サイクルを250サイクル負荷後においてもセラミックス基板の割れが確認されておらず、冷熱サイクル信頼性に特に優れていることが確認された。
以上のことから、さらに冷熱サイクル信頼性が必要な場合には、酸化マグネシウム層を50nm以上1000nm以下の範囲内、さらには50nm以上400nm以下の範囲内、とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0118】
10、110 絶縁回路基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
13、113 金属層
22、23、122 銅板
31、131 酸化マグネシウム層
32、132 Mg固溶層
33、133 金属間化合物相
35、135 Cu粒子