(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の燃料タンク取付構造
(51)【国際特許分類】
B62J 35/00 20060101AFI20221213BHJP
B62K 19/40 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B62J35/00 B
B62K19/40
(21)【出願番号】P 2018228335
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼崎 直幸
(72)【発明者】
【氏名】下村 紘志
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246074(JP,A)
【文献】特開昭61-113577(JP,A)
【文献】特開2005-047403(JP,A)
【文献】特開2003-072635(JP,A)
【文献】特開平11-321752(JP,A)
【文献】実開平01-069029(JP,U)
【文献】実開昭52-077160(JP,U)
【文献】実開昭61-091484(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 35/00
B62K 19/40
B60K 15/00-15/10
E05D 1/00- 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに取り付けられる燃料タンクの後部に形成されて後方に延びるフランジと、
前記フランジを締付固定する締結座面部と、後部を上向きに折り返して前記フランジの締付固定解除時に前記フランジの後端部を回動自在に当接させるストッパ部と、を有する支持ブラケットと、を備え
、前記支持ブラケットの締結座面部と前記ストッパ部との間には車幅方向に延びる凹溝が形成されることを特徴とする鞍乗型車両の燃料タンク取付構造。
【請求項2】
前記フランジは、車幅方向に沿う断面が下向きに凹の逆U字形状を有するフランジ側凹部を有し、
前記支持ブラケットは、車幅方向に沿う断面が上向きに凸の逆U字形状を有するブラケット側凸部を有し、
前記フランジの前記支持ブラケットへの装着時に前記フランジ側凹部と前記ブラケット側凸部とが上下に重なる請求項
1に記載の鞍乗型車両の燃料タンク取付構造。
【請求項3】
前記車体フレームには前記フランジが前記ストッパ部から脱落するのを防止する脱落防止部が設けられる請求項1から請求項
2のいずれか1項に記載の鞍乗型車両の燃料タンク取付構造。
【請求項4】
前記脱落防止部は、前記ストッパ部の上端を前方に向けて屈曲させた鈎部、又は前記車体フレームに対して着脱自在に設けられたフレームカバー部材で形成される請求項
3に記載の鞍乗型車両の燃料タンク取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料タンク後部を中心にリフトアップ可能な鞍乗型車両の燃料タンク取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多くのオンロード車両は、燃料タンク後部にブラケットを溶接し、このブラケットに別体ブラケットを締め付けて、この別体ブラケットと車体側のブラケットとでヒンジ機構を形成させていた(例えば、引用文献1参照)。
また、燃料タンク後部のフランジを車両後方側に延長し、延長部に締付穴を設け直接車体側のブラケットに締め付ける技術も知られている。
なお、燃料タンクは、生産工場における組付時に加えて、整備士やユーザ自身による車両上方からエンジン周辺へのアクセスの際にも、着脱又はリフトアップがなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料タンク後部をヒンジ機構で固定する技術では、別体ブラケットを配置するスペースが必要となり、部品レイアウト上の制約を受けることがあるという課題があった。また、この技術では、別体ブラケットの分だけ部品点数が多くなることにもなる。
【0005】
また、燃料タンク後部のフランジを車両後方側に延長する技術では、ヒンジ機能を有していないため、工場での組付時に燃料タンク下の配線、配索作業が困難であるという課題があった。例えば、一人が燃料タンクを支え、一人が配線、配索作業を行う必要がある。また、ユーザが燃料タンク下を確認、あるいは燃料タンクを脱着することも困難である。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、燃料タンクの回動支軸が形成される後部取付部を小型簡素化し、かつ、組立性を向上させた鞍乗型車両の燃料タンク取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る燃料タンク取付構造は、車体フレームに取り付けられる燃料タンクの後部に形成されて後方に延びるフランジと、前記フランジを締付固定する締結座面部と、後部を上向きに折り返して前記フランジの締付固定解除時に前記フランジの後端部を回動自在に当接させるストッパ部と、を有する支持ブラケットと、を備え、前記支持ブラケットの締結座面部と前記ストッパ部との間には車幅方向に延びる凹溝が形成されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、燃料タンクの回動支軸が形成される後部取付部を小型簡素化し、かつ、組立性を向上させた鞍乗型車両の燃料タンク取付構造を提供が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る燃料タンク取付構造を適用可能な車体フレームの左側後上方から見た分解斜視図。
【
図2】
図1の車体フレームに燃料タンクを設け回転支持機構を構成させた分解斜視図。
【
図3】本発明に係る燃料タンク取付構造を構成する回転支持機構周辺の断面図。
【
図4】本発明に係る燃料タンク取付構造を構成する回転支持機構周辺の断面図であって、燃料タンクの前側を持ち上げた状態を示す図。
【
図5】燃料タンクの後端部を支軸にして燃料タンクの前端を持ち上げた状態を示す車体フレームの左側面図。
【
図7】支持ブラケットの変形例であって、支持ブラケットの固定座面部及びフランジを車幅方向に沿って切断し後方から燃料タンクを見た断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
以下の実施形態では、本発明に係る燃料タンク取付構造をツインスパータイプの車体フレームに適用した例で説明するが、車体フレームの種類はこれに限定されない。例えば、クレードルタイプ又はアンダーボーンタイプであっても燃料タンクが車体フレームに載置されるものであれば適用可能である。
【0011】
なお、以下の実施形態において、上下、左右、前後の表現は、車両乗車時の運転者(ライダー)を基準にしたものである。また、各図において、適宜、車両前方を矢印FW、車両後方を矢印BW、車両左向きを矢印L、車両右向きを矢印R、車両上向きを矢印U、車両下向きを矢印D、でそれぞれ示す。なお、各図では、簡単のため、一部の構成を適宜省略する。
【0012】
まず、
図1及び
図2を用いて、実施形態に係る燃料タンク取付構造が適用される鞍乗型車両の車体フレーム10及び燃料タンク20について概説する。
図1は、本発明に係る燃料タンク取付構造を適用可能な車体フレーム10の左側後上方から見た分解斜視図である。
図2は、
図1の車体フレーム10に燃料タンク20を設け回転支持機構11を構成させた分解斜視図である。
【0013】
実施形態に係る燃料タンク取付構造は、
図1に示されるように、例えば、メインフレーム12(13~16)と、リアフレーム17(17a)と、で構成されるいわゆるツインスパータイプの車体フレーム10に適用される。
【0014】
ツインスパータイプの車体フレーム10では、車体フレーム10の前頭部に配置されるヘッドパイプ13と、ヘッドパイプ13に接続されるフロントヘッドブロック14と、フロントヘッドブロック14から左右へ分岐し斜め後下方へ延びる左右一対のタンクフレーム15と、タンクフレーム15の後端に接続されて後端部で左右に相互に接続される屈曲して下方へ垂下するボディフレーム16と、が一体化されてメインフレーム12を構成する。
【0015】
メインフレーム12は、左右のタンクフレーム15がエンジンの横幅と同程度まで拡開し、ボディフレーム16がこれら左右のタンクフレーム15に接続されることで、平面視で環状形状を有する。ボディフレーム16の左右の屈曲部には、これらボディフレーム16を左右に接続するボディブリッジ18が架橋される。
【0016】
このボディブリッジ18及びボディフレーム16の垂下部には、左右一対のシートレール17aと、左右一対のシートレールステー(図示せず)と、で構成されるリアフレーム17が設けられる。
シートレール17aは、ボディブリッジ18に接続されて下面を補強部材19で補強されながら斜め上後方に延びる。そして、シートレール17aは、ボディフレーム16の中間部から上後方へ延びるシートレールステーに後端部で接合される。左右のシートレール17aの前側部分には、後部架設ステー26が左右に架設される。この後部架設ステー26には、支持ブラケット27が、ボルトとナット等の留具25で2点で固定される。
また、左右のタンクフレーム15の前端上面には前部架設ステー21が架設される。
【0017】
前部架設ステー21には、
図2に示されるように、左右2つの固定ブロック22aを有する燃料タンク固定台22が固定される。そして、左右の固定ブロック22aに、燃料タンク20の前端が、ボルトとナット等などの固定具23で固定される。一方、左右のシートレール17aでは、燃料タンク20の後端部に設けられたフランジ24が、支持ブラケット27に固定ボルト31で締付固定される。
【0018】
次に、
図3~
図5を用いて、本発明に係る燃料タンク取付構造について詳述する。
図3及び
図4は、本発明に係る燃料タンク取付構造を構成する回転支持機構11周辺の断面図である。
図4では、
図3において、支持ブラケット27から固定ボルト31を取り外し燃料タンク20の前側を持ち上げた状態を示している。
また、
図5は、燃料タンク20の後端部を支軸にして燃料タンク20の前端を持ち上げた状態を示す車体フレーム10の左側面図である。
【0019】
支持ブラケット27は、
図3に示されるように、燃料タンク20の後端部から後方に延びるフランジ24を締付固定する締付座面部28と、後部(折り上げ部)29を上向きに折り返して、フランジ24の締付固定解除時にフランジ24の後端部を回動自在に当接させるストッパ部30と、を有する。
燃料タンク20の固定時には、フランジ24が締付座面部28に面接触して、この締付座面部28に固定ボルト31及びナット32で締付固定される。燃料タンク20の前側持ち上げ時には、
図4に示されるように、支持ブラケット27から固定ボルト31が取り外され、燃料タンク20前端の固定ブロック22aから固定具23が取り外される。
【0020】
固定具23が固定ブロック22aから取り外されることで、燃料タンク20の前側部分は自由端となる。
この状態で燃料タンク20の前側部分を持ち上げると、燃料タンク20は、
図5に示されるように、フランジ24のみで車体フレーム10に支持されることになる。よって、フランジ24には下後方に向けて燃料タンク20の荷重がかかるため、フランジ24の後端部は、支持ブラケット27に当接されたまま、回動しながら後方にスライドしてストッパ部30の折り上げ部29に突き当る。つまり、燃料タンク20は、自重によってフランジ24の後端部を支持ブラケット27に当接された状態を維持して前側部分が持ち上げられることになる。
【0021】
なお、燃料タンク20が支持ブラケット27から脱落することを防止するために、支持ブラケット27の締付座面部28とストッパ部30との間に、凹溝36を車幅方向に延ばして設けるのが好ましい。
このようなストッパ部30に連続する凹溝36によって、燃料タンク20の前側持ち上げ時には、燃料タンク20の荷重によりフランジ24の後端部が凹溝36に嵌り込む。そして、フランジ24の後端部は、この凹溝36の内側で当接しながら回転し、支持される。凹溝36の底部は、締付座面部28の座面部よりも車両側面視で低いため、凹溝36の前側表面が壁面となってフランジ24の前方へのスライドは阻止される。また、凹溝36は車幅方向に延びて設けられるため、凹溝36に嵌り込んだフランジ24は左右の回転(鉛直方向に回転中心軸を有する回転)が阻止される。
【0022】
また、支持ブラケット27には、車体フレーム10にも、フランジ24がストッパ部30から脱落するのを防止する脱落防止部33が設けられることが望ましい。
脱落防止部33は、例えば、ストッパ部30の後方から折り上げ部29の上方を覆うように折り上げ部29の前方に突出するレクチファイヤーカバー等のフレームカバー部材33aである。
通常、リアフレーム17には、バッテリ等の電装類が収納され、この電装類をレクチファイヤーカバーで覆っている。このレクチファイヤーカバーの前端を延長することで、この前端で燃料タンク20が過度に回転することを阻止して、燃料タンク20が車両から脱落することを防止する。
なお、フレームカバー部材33aは、車体フレーム10に対して着脱自在に設けられたカバー部材であれば、レクチファイヤーカバーに限定されない。
【0023】
このような構成により、燃料タンク20は、フランジ24を支持ブラケット27に当接された状態を維持して、あたかもヒンジ機構があるように回動する。
また、支持棒37で燃料タンク20の前端部を支持すると、燃料タンク20は、車体フレーム10に面接触する後端部及び前端部の2個所で支持されてタンクフレーム15上部に空間を有して自立する。
【0024】
次に、
図6及び
図7を用いて、回転支持機構11の変形例について説明する。
図6は、支持ブラケット27の変形例を示す左断面図である。
脱落防止部33は、
図6に示されるように、例えば、フレームカバー部材33aに代えて、ストッパ部30の上端を前方に向けて屈曲させた鈎部33bで形成されてもよい。
つまり、折り上げ部29の上端をさらに前方に屈曲させて鈎形状を形成させることで、フランジ24の上面が鈎部33bの前端に突き当り、燃料タンク20の回転が制限される。
【0025】
また、
図7は、支持ブラケット27の締付座面部28及びをフランジ24を車幅方向に沿って切断し後方から燃料タンク20を見た断面図である。
図7では、締付座面部28の上面及び左右の側面をフランジ24が覆い、固定ボルト31で固定されている状態を示している。
【0026】
図7に示される変形例では、フランジ24は、車幅方向に沿う断面が下向きに凹の逆U字形状を有するフランジ側凹部34を有する。
また、支持ブラケット27は、車幅方向に沿う断面が上向きに凸の逆U字形状を有するブラケット側凸部35を有する。そして、フランジ24の支持ブラケット27への装着時にフランジ側凹部34とブラケット側凸部35とが、上下に重なる。つまり、ブラケット側凸部35がフランジ側凹部34に嵌り込むような形状に形成されることで、フランジ24が車幅方向にスライドしようとすると、ブラケット側凸部35がフランジ側凹部34の起立面に当たり、フランジ24のスライドを阻止される。
【0027】
以上のように、実施形態に係る燃料タンク取付構造によれば、以下の効果を奏することができる。
【0028】
(1) 支持ブラケット27の後部に、ストッパ部30を設けた。
よって、燃料タンク20の回転支持機構11が、回転シャフト周りを回転するヒンジ機構と比較して構造が簡素化された。
また、ストッパ部30により、燃料タンク20を持ち上げる際の突き当て位置の規制が可能となる。つまり、燃料タンク20後端を支軸に燃料タンク20をリフトアップすることができる。よって、ユーザは、例えば、エアークリーナーボックスなどタンクフレーム15周辺の機器を単独でメンテナンスすることができる。
さらに、燃料タンク20の着脱の際に回転シャフトを装着する必要がないため、燃料タンク20の車両からの着脱が容易になる。
【0029】
(2)支持ブラケット27に凹溝36を形成した。
燃料タンク20の前部を持ち上げる際、フランジ24が前後に位置ずれシフトすることを防止して燃料タンク20を安定した姿勢でリフトアップさせることができる。
【0030】
(3)フランジ24にフランジ側凹部34、支持ブラケット27にブラケット側凸部35を設け、フランジ側凹部34とブラケット側凸部35とを上下に重らせた。
よって、フランジ24の車幅方向の移動を規制し、燃料タンク20が左右方向に位置ずれすることを防止できる。従って、燃料タンク20の着脱が容易になる。
【0031】
(4)フレームカバー部材33aを利用して又は支持ブラケット27自体を変形させて脱落防止部33を形成した。
よって、燃料タンク20を持ち上げた際のリフトアップ角度が規制され、燃料タンク20のフランジ24を安定して支持することができる。
また、リフトアップ角度が規制されることで、ホース、リード線の突っ張りを防止することができる。
特に、フレームカバー部材33aは、燃料タンク20の着脱時には、燃料タンク20よりも先に取り外すことができるため、燃料タンク20の着脱を阻害しない。
【0032】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
10…車体フレーム、11…回転支持機構、12…メインフレーム、13…ヘッドパイプ、14…フロントヘッドブロック、15…タンクフレーム、16…ボディフレーム、17(17a)…リアフレーム(シートレール)、18…ボディブリッジ、19…補強部材、20…燃料タンク、21…前部架設ステー、22(22a)…燃料タンク固定台(固定ブロック)、23…固定具、24…フランジ、25…留具、26…後部架設ステー、27…支持ブラケット、28…締付座面部、29…折り上げ部、30…ストッパ部、31…固定ボルト、32…ナット、33(33a,33b)…脱落防止部(フレームカバー部材,鈎部)、34…フランジ側凹部、35…ブラケット側凸部、36…凹溝、37…支持棒。