(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221213BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 613
B41J2/14 611
(21)【出願番号】P 2018231369
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018119540
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】竹本 賢史
(72)【発明者】
【氏名】平井 栄樹
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 直人
(72)【発明者】
【氏名】外村 修
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-119267(JP,A)
【文献】特開2012-056172(JP,A)
【文献】特開2007-152802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0309259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、
前記振動板を振動させる圧電素子と、
前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、
前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ
方向から見る平面視で、長手形状をなし、
前記振動領域は、前記補強膜が配置されない第1領域と、前記第1領域よりも前記振動
領域の長手方向での中央に近い位置にあり、前記補強膜が配置される第2領域と、を含
み
、
前記第2領域は、前記振動領域の1次、2次または3次のいずれかの固有振動モードの
腹の位置に配置される、液体噴射ヘッド。
【請求項2】
液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、
前記振動板を振動させる圧電素子と、
前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、
前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ
方向から見る平面視で、長手形状をなし、
前記補強膜は、第1膜厚の第1部分と、前記第1部分よりも前記振動領域の長手方向で
の中央に近い位置に配置され、前記第1膜厚よりも厚い第2膜厚の第2部分と、を有
し、
前記第2部分は、前記振動領域の1次、2次または3次のいずれかの固有振動モードの
腹の位置に配置される、液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2部分は、前記振動領域の長手方向での中央に配置される、請求項2に記載の液
体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧電素子は、
第1電極と、
前記振動板との間に前記第1電極を挟んで配置される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される圧電体層と、を含む、請求項1ないし
3
のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記振動板が配置され、前記圧力室を構成する孔が設けられる基板を有し、
前記補強膜は、前記振動板の前記圧力室側の面と前記孔の壁面とが接続する角上に配置
される、請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧力室の壁面上に配置され、前記液体に対する耐性が前記振動板よりも高い耐蝕膜
を有し、
前記補強膜は、前記圧力室の壁面と前記耐蝕膜との間に配置される、請求項1ないし
5
のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記補強膜の構成材料は、金属である、請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の液体
噴射ヘッド。
【請求項8】
前記補強膜の構成材料は、金属酸化物である、請求項1ないし
6のいずれか1項に記載
の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、
前記振動板を振動させる圧電素子と、
前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、
前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ
方向から見る平面視で、長手形状をなし、
前記振動領域は、前記補強膜が配置されない第1領域と、前記第1領域よりも前記振動
領域の長手方向での中央に近い位置にあり、前記補強膜が配置される第2領域と、を含み
、
前記圧力室の壁面上に配置され、前記液体に対する耐性が前記振動板よりも高い耐蝕膜
を有し、
前記補強膜は、前記圧力室の壁面と前記耐蝕膜との間に配置される、液体噴射ヘッド。
【請求項10】
液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、
前記振動板を振動させる圧電素子と、
前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、
前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ
方向から見る平面視で、長手形状をなし、
前記補強膜は、第1膜厚の第1部分と、前記第1部分よりも前記振動領域の長手方向で
の中央に近い位置に配置され、前記第1膜厚よりも厚い第2膜厚の第2部分と、を有し、
前記圧力室の壁面上に配置され、前記液体に対する耐性が前記振動板よりも高い耐蝕膜
を有し、
前記補強膜は、前記圧力室の壁面と前記耐蝕膜との間に配置される、液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1ないし
10のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを有する、液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、圧力室の壁面の一部を構成する振動板を圧電素子により振動させることで圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体噴射ヘッドにおいて、一般に、ノズルから液体を効率的に噴射する観点から、圧電素子による圧力室内の圧力は、圧力室の長手方向での中央に向かうに従い高くなる。このため、振動板が圧力室内の液体から受ける反力は、振動板の長手方向での中央に向かうに従い大きくなる。特許文献1に記載の液体噴射ヘッドは、振動板が前述の反力を受ける影響について何ら考慮がないため、振動板の長手方向での中央部が前述の反力により過大に変形して損傷する可能性がある。近年、ノズルの狭ピッチ化に伴って振動板の幅が狭くなり、これに伴い、振動板の薄膜化が要求されるため、前述の可能性が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体噴射ヘッドは、液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、前記振動板を振動させる圧電素子と、前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ方向から見る平面視で、長手形状をなし、前記補強膜は、第1膜厚の第1部分と、前記第1部分よりも前記振動領域の長手方向での中央に近い位置に配置され、前記第1膜厚よりも厚い第2膜厚の第2部分と、を有する。
【0006】
本発明の他の好適な態様に係る液体噴射ヘッドは、液体を収容する圧力室の壁面の一部を構成する振動板と、前記振動板を振動させる圧電素子と、前記振動板の前記圧力室側の面上に配置される補強膜と、を有し、前記振動板の領域であって前記圧電素子により振動する振動領域は、前記振動板の厚さ方向から見る平面視で、長手形状をなし、前記振動領域は、前記補強膜が配置されない第1領域と、前記第1領域よりも前記振動領域の長手方向での中央に近い位置にあり、前記補強膜が配置される第2領域と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態における液体噴射ヘッドの振動板を示す平面図である。
【
図8】第1実施形態における補強膜の厚さと振動領域の1次の固有振動モードとの関係を示す図である。
【
図9】圧力室の製造工程の流れを例示するフローチャートである。
【
図15】補強膜形成工程の第1工程を示す断面図である。
【
図16】補強膜形成工程の第2工程を示す断面図である。
【
図17】第2実施形態における圧力室を示す横断面図である。
【
図18】第3実施形態における圧力室を示す横断面図である。
【
図19】第4実施形態における圧力室を示す縦断面図である。
【
図20】第4実施形態における補強膜の厚さと振動領域の1次の固有振動モードとの関係を示す図である。
【
図21】第5実施形態における補強膜の厚さと振動領域の2次の固有振動モードとの関係を示す図である。
【
図22】第6実施形態における補強膜の厚さと振動領域の3次の固有振動モードとの関係を示す図である。
【0008】
1.第1実施形態
1-1.液体噴射装置の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体噴射装置100を模式的に示す構成図である。第1実施形態の液体噴射装置100は、液体の例示であるインクを媒体12に噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。
図1に例示される通り、液体噴射装置100には、インクを貯留する液体容器14が設置される。例えば液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成される袋状のインクパック、またはインクを補充可能なインクタンクが液体容器14として利用される。
【0009】
図1に例示される通り、液体噴射装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体噴射ヘッド26とを具備する。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体噴射装置100の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY方向に搬送する。
【0010】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体噴射ヘッド26をX方向に往復させる。X方向は、媒体12が搬送されるY方向に交差する方向であり、典型的にはY方向に直交する。第1実施形態の移動機構24は、液体噴射ヘッド26を収容する略箱型の搬送体であるキャリッジ242と、キャリッジ242が固定される搬送ベルト244とを具備する。なお、複数の液体噴射ヘッド26をキャリッジ242に搭載する構成、または、液体容器14を液体噴射ヘッド26とともにキャリッジ242に搭載する構成も採用され得る。
【0011】
液体噴射ヘッド26は、液体容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルから媒体12に噴射する。搬送機構22による媒体12の搬送とキャリッジ242の反復的な往復とに並行して各液体噴射ヘッド26が媒体12にインクを噴射することで、媒体12の表面に所望の画像が形成される。
【0012】
1-2.液体噴射ヘッドの全体構成
図2は、第1実施形態に係る液体噴射ヘッド26の分解斜視図である。
図3は、
図2のIII-III線の断面図、すなわちX-Z平面に平行な断面図である。
図2に例示される通り、X-Y平面に垂直な方向を以下ではZ方向と表記する。各液体噴射ヘッド26によるインクの噴射方向、典型的には鉛直方向がZ方向に相当する。
【0013】
図2および
図3に例示される通り、液体噴射ヘッド26は、Y方向に長尺な略矩形状の流路基板32を具備する。流路基板32のうちZ方向における負側の面上には、圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子38と筐体部42と封止体44とが設置される。他方、流路基板32のうちZ方向における正側の面上には、ノズル板46と吸振体48とが設置される。液体噴射ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32と同様にY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤を利用して相互に接合される。
【0014】
図2に例示される通り、ノズル板46は、Y方向に配列する複数のノズルNが形成される板状部材である。各ノズルNは、インクが通過する貫通孔である。なお、流路基板32と圧力室基板34とノズル板46とは、例えばシリコン(Si)の単結晶基板をエッチング等の半導体製造技術により加工することで形成される。ただし、液体噴射ヘッド26の各要素の材料や製法は任意である。Y方向は、複数のノズルNが配列する方向とも換言され得る。
【0015】
流路基板32は、インクの流路を形成するための板状部材である。
図2および
図3に例示される通り、流路基板32には、開口部322と供給流路324と連通流路326とが形成される。開口部322は、複数のノズルNにわたり連続するように、Z方向からの平面視でY方向に沿う長尺状をなす貫通孔である。他方、供給流路324および連通流路326は、ノズルN毎に個別に形成される貫通孔である。また、
図3に例示される通り、流路基板32のうちZ方向における正側の表面には、複数の供給流路324にわたる中継流路328が形成される。中継流路328は、開口部322と複数の供給流路324とを連通させる流路である。なお、以下では、Z方向からの平面視を単に「平面視」とも言う。
【0016】
筐体部42は、例えば樹脂材料の射出成形で製造される構造体であり、流路基板32のうちZ方向における負側の表面に固定される。
図3に例示される通り、筐体部42には収容部422と導入口424とが形成される。収容部422は、流路基板32の開口部322に対応する外形の凹部であり、導入口424は、収容部422に連通する貫通孔である。
図3から理解される通り、流路基板32の開口部322と筐体部42の収容部422とを相互に連通させる空間がリザーバーである液体貯留室Rとして機能する。液体容器14から供給されて導入口424を通過するインクが液体貯留室Rに貯留される。
【0017】
吸振体48は、液体貯留室R内の圧力変動を吸収するための要素であり、例えば弾性変形が可能な可撓性のシート部材であるコンプライアンス基板を含んで構成される。具体的には、流路基板32の開口部322と中継流路328と複数の供給流路324とを閉塞して液体貯留室Rの底面を構成するように、流路基板32のうちZ方向における正側の表面に吸振体48が設置される。
【0018】
図2および
図3に例示される通り、圧力室基板34は、相異なるノズルNに対応する複数の圧力室Cが形成される板状部材である。複数の圧力室Cは、Y方向に沿って配列する。各圧力室Cは、圧力室基板34の両面に開口する孔341を用いて構成されるキャビティであり、平面視でX方向に沿う長尺状をなす。X方向の正側における圧力室Cの端部は平面視で流路基板32の1個の供給流路324に重なり、X方向の負側における圧力室Cの端部は平面視で流路基板32の1個の連通流路326に重なる。
【0019】
圧力室基板34のうち流路基板32とは反対側の表面には振動板36が設置される。振動板36は、弾性的に変形可能な板状部材である。
図3に例示される通り、第1実施形態の振動板36は、第1層361と第2層362との積層で構成される。第2層362は、第1層361からみて圧力室基板34とは反対側に位置する。第1層361は、酸化シリコン(SiO
2)等の弾性材料で形成される弾性膜であり、第2層362は、酸化ジルコニウム(ZrO
2)等の絶縁材料で形成される絶縁膜である。第1層361および第2層362は、それぞれ、熱酸化またはスパッタリング等の公知の成膜技術により形成される。なお、所定の板厚の板状部材のうち圧力室Cに対応する領域について板厚方向の一部を選択的に除去することで、圧力室基板34と振動板36の一部または全部とを一体に形成することも可能である。
【0020】
図3から理解される通り、流路基板32と振動板36とは、各圧力室Cの内側で相互に間隔をあけて対向する。圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置し、当該圧力室C内に充填されるインクに圧力を付与するための空間である。液体貯留室Rに貯留されるインクは、中継流路328から各供給流路324に分岐して複数の圧力室Cに並列に供給および充填される。以上の説明から理解される通り、振動板36は、圧力室Cの壁面の一部、具体的には、圧力室Cの一面である上面を構成する。
【0021】
図2および
図3に例示される通り、振動板36のうち圧力室Cとは反対側の表面、すなわち第2層362の表面には、相異なるノズルNまたは圧力室Cに対応する複数の圧電素子38が設置される。各圧電素子38は、駆動信号の供給により変形するアクチュエーターであり、平面視でX方向に沿う長尺状をなす。複数の圧電素子38は、複数の圧力室Cに対応するようにY方向に配列する。圧電素子38の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、インクがノズルNから噴射される。
【0022】
図2および
図3の封止体44は、複数の圧電素子38を保護するとともに圧力室基板34および振動板36の機械的な強度を補強する構造体であり、振動板36の表面に例えば接着剤で固定される。封止体44のうち振動板36との対向面に形成される凹部の内側に複数の圧電素子38が収容される。
【0023】
図3に例示される通り、振動板36の表面または圧力室基板34の表面には、例えば配線基板50が接合される。配線基板50は、制御ユニット20と液体噴射ヘッド26とを電気的に接続するための複数の配線が形成される実装部品である。例えばFPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板が配線基板50として好適に採用される。圧電素子38を駆動するための駆動信号が配線基板50から各圧電素子38に供給される。
【0024】
1-3.圧力室および振動板の詳細
図4は、第1実施形態における液体噴射ヘッド26の振動板36を示す平面図である。
図5は、
図4のV-V線の断面図である。
図6は、
図4のVI-VI線の断面図である。
図7は、
図4のVII-VII線の断面図である。
図4に示すように、振動板36は、平面視で複数の圧力室Cにそれぞれ対応する形状の複数の振動領域Vを有する。振動領域Vは、振動板36の領域であって圧電素子38により振動する振動領域である。換言すると、振動領域Vは、振動板36の領域のうち圧力室基板34に接触せずに振動可能な領域である。
【0025】
ここで、前述のように、各圧力室Cは、平面視で第1方向であるX方向に沿う長尺状をなす。したがって、各振動領域Vは、平面視でX方向に沿って延びる長手形状をなす。また、各圧力室Cは、例えば、板面が(110)面であるシリコン単結晶基板を異方性エッチングすることで形成される。このため、各圧力室Cまたは各振動領域Vの平面視形状は、当該単結晶基板の(111)面に沿う形状である。なお、各圧力室Cまたは各振動領域Vの平面視形状は、図示の形状に限定されない。
【0026】
圧力室Cの壁面上には、当該壁面をインクから保護する耐蝕膜35が配置される。耐蝕膜35は、圧力室C内のインクに対する耐性が振動板36よりも高い。耐蝕膜35の構成材料としては、圧力室C内のインクに対する耐性を有する材料であればよく、特に限定されないが、例えば、酸化シリコン(SiO2)等のシリコン酸化物、酸化タンタル(TaOX)および酸化ジルコニウム(ZrO2)等の金属酸化物、ニッケル(Ni)およびクロム(Cr)等の金属等が挙げられる。耐蝕膜35は、単一材料の単層で構成されてもよいし、互いに異なる材料の複数層の積層体で構成されてもよい。耐蝕膜35の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。なお、耐蝕膜35は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。また、耐蝕膜35の一部は、後述する補強膜37とともに振動領域Vを補強する機能を有するとも言える。
【0027】
図5に示すように、振動板36の振動領域Vの圧力室C側の面上には、振動領域Vを補強する補強膜37が配置される。本実施形態では、前述の耐蝕膜35上に補強膜37が配置される。また、補強膜37は、振動領域Vの長手方向での中央寄りに偏在する。すなわち、振動領域Vは、補強膜37が配置されない第1領域V1と、第1領域V1よりも振動領域Vの長手方向での中央に近い位置にあり、補強膜37が配置される第2領域V2と、を含む。
図5に示す振動領域Vは、2つの第1領域V1と、2つの第1領域V1間に位置する第2領域V2と、を含む。
【0028】
ここで、前述のように、液体噴射ヘッド26は、振動板36が配置される基板である圧力室基板34を有する。
図5、
図6および
図7に示すように、圧力室基板34は、圧力室Cを構成する孔341が設けられる。
図6および
図7に示すように、圧力室基板34の隣り合う2つの圧力室Cの間には、X方向に沿って延びる壁状の隔壁部342が設けられる。
図7に示すように、補強膜37は、振動板36の圧力室C側の面と孔341の壁面とが接続する角上に配置される。当該角では、振動板36に最も応力が生じやすい。このため、当該角上に補強膜37を配置することで、振動板36を効果的に補強できる。また、補強膜37は、平面視で圧電素子38と圧力室Cの外縁との間の領域に配置されることが好ましい。当該領域では、振動板36が圧電素子38により補強されないため、振動板36が損傷しやすいと言える。このため、当該領域を補強膜37により補強することは、振動板36の損傷を防止する上で効果的である。
【0029】
なお、補強膜37は、圧力室Cの壁面のうち前述した領域以外の面上に配置されてもよい。例えば、
図7では、補強膜37が振動領域VのY方向での両端側に偏在して配置されるが、補強膜37が振動領域VのY方向での中央に配置されてもよい。ただし、補強膜37が振動領域VのY方向での両端側に偏在して配置されることでY方向での中央に補強膜37が形成されない場合は、補強膜37が振動領域VのY方向での中央に配置される場合に比べて、振動領域Vの損傷を低減する効果が高く、かつ、振動領域Vの必要な変形を得やすいという利点があり好ましい。
【0030】
補強膜37の構成材料としては、特に限定されず、各種有機材料または各種無機材料が挙げられる。当該有機材料としては、例えば、レジスト材料等の樹脂材料が挙げられる。当該無機材料としては、例えば、金属または金属酸化物等が挙げられる。補強膜37は、単一材料の単層で構成されてもよいし、互いに異なる材料の複数層の積層体で構成されてもよい。補強膜37の構成材料は、前述の耐蝕膜35の構成材料と同一でも異なってもよいが、補強膜37の補強効果を高める観点から、前述の耐蝕膜35よりもヤング率の高い材料であることが好ましい。また、補強膜37の構成材料は、本実施形態の場合、補強膜37がインクに晒されるため、インクに対する耐性を有することが好ましい。
【0031】
ここで、補強膜37の剛性を高めやすいという観点から、補強膜37の構成材料のヤング率は、10GPa以上であることが好ましく、50GPa以上であることがより好ましい。この観点から、補強膜37の構成材料は、金属または金属酸化物であることが好ましい。
【0032】
金属は、一般に、有機材料に比べてヤング率が高く、かつ、シリコンおよび金属酸化物等に比べて、靭性に優れる。このため、補強膜37を金属で構成することで、補強膜37が損傷し難く、この結果、振動領域Vのクラック等の損傷を効果的に防止できる。特に、本実施形態では、補強膜37がインクに晒されることから、補強膜37を構成する金属としては、化学的に安定な金属が好ましく、具体的には、例えば、金(Au)、白金(Pt)またはニッケル(Ni)等を用いることが好ましい。ここで、ニッケルは、金および白金に比べてヤング率が高いため、補強膜37の剛性を高めやすい点で好ましい。金および白金は、ニッケルに比べて化学的に安定である点で好ましい。
【0033】
金属酸化物は、一般に、金属に比べて、ヤング率が高い。このため、補強膜37を金属酸化物で構成することで、補強膜37の剛性を高めやすく、この結果、振動領域Vのクラック等の損傷を効果的に防止できる。特に、本実施形態では、補強膜37がインクに晒されることから、補強膜37を構成する金属酸化物としては、化学的に安定な金属酸化物が好ましく、具体的には、例えば、アルミナ(Al2O3)、酸化ケイ素(SiOX)、窒化珪素(SiNX)、酸化タンタル(TaOX)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)またはジルコニア(ZrO2)等が挙げられる。
【0034】
また、振動板36の圧力室Cとは反対側の面上には、圧電素子38が配置される。
図5、
図6および
図7に例示される通り、圧電素子38は、概略的には、第1電極381と圧電体層383と第2電極382との積層で構成される。第1電極381、圧電体層383および第2電極382は、それぞれ、例えば、スパッタリング等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。なお、この積層の層間および圧電素子38と振動板36との間のそれぞれには、密着性を高める層等の他の層が適宜介在してもよい。
【0035】
第1電極381は、振動板36の面上、具体的には第2層362の第1層361とは反対側の面上に配置される。第1電極381は、圧電素子38毎に相互に離間して配置される個別電極である。具体的には、X方向に延びる複数の第1電極381が、相互に間隔をあけてY方向に配列される。各圧電素子38の第1電極381には、当該圧電素子38に対応するノズルNからインクを噴射するための駆動信号が配線基板50を介して印加される。
【0036】
圧電体層383は、第1電極381の面上に配置される。圧電体層383は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY方向に延びる帯状をなす。図示しないが、圧電体層383のうち相互に隣合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域には、圧電体層383を貫通する貫通孔がX方向に延びて設けられる。圧電体層383の構成材料は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の圧電材料である。
【0037】
第2電極382は、圧電体層383の面上に配置される。具体的には、第2電極382は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY方向に延在する帯状の共通電極である。第2電極382には所定の基準電圧が印加される。
【0038】
以上のように、圧電素子38は、振動板36の面上に配置される第1電極381と、振動板36との間に第1電極381を挟んで配置される第2電極382と、第1電極381と第2電極382との間に配置される圧電体層383と、を含む。このように、圧電素子38が振動板36に直接的に配置される。このため、圧電素子38が他の部材を介して振動板36に配置される場合に比べて、圧電素子38からの駆動力を振動板36に効率的に伝達できる。
【0039】
以上の液体噴射ヘッド26は、液体の一例であるインクを収容する圧力室Cの壁面の一部を構成する振動板36と、振動板36を振動させる圧電素子38と、振動板36の圧力室C側の面上に配置される補強膜37と、を有する。ここで、振動板36の領域であって圧電素子38により振動する振動領域Vは、振動板36の厚さ方向から見る平面視で、長手形状をなす。振動領域Vは、補強膜37が配置されない第1領域V1と、第1領域V1よりも振動領域Vの長手方向での中央に近い位置にあり、補強膜37が配置される第2領域V2と、を含む。
【0040】
このように、補強膜37は、振動領域Vのうち、第2領域V2には配置されるが、第1領域V1には配置されない。このため、振動領域Vの全体に必要な変形量を確保しつつ、振動領域VのX方向での中央が圧力室C内のインクからの反力により損傷することを低減できる。
【0041】
より具体的に説明すると、補強膜37が第2領域V2に配置されるため、第2領域V2が変形し難くなる。このため、補強膜37が振動領域Vに配置されない場合に比べて、振動領域VのX方向での中央が圧力室C内のインクからの反力により変形することを低減できる。一方、補強膜37が振動領域Vの第1領域V1に配置されないことで、第1領域V1が第2領域V2よりも変形しやすくなる。このため、振動領域Vの全体の振動に必要な変形量を確保できる。
【0042】
しかも、第2領域V2が第1領域V1よりも振動領域Vの長手方向での中央に近い位置にある。すなわち、補強膜37が振動領域Vの長手方向での中央寄りに偏在する。このため、補強膜37が振動領域Vの長手方向での端寄りに偏在する場合に比べて、振動領域Vの全体に必要な変形量を確保しつつ、振動領域VのX方向での中央が圧力室C内のインクからの反力により変形することを低減しやすい。
【0043】
前述の複数のノズルNが300dpi以上の高密度で配置される場合、振動領域Vの幅Wが極めて小さくなる。この場合、振動領域Vの必要な変形量を確保するには、振動領域Vの厚さを薄くする必要があり、振動領域Vのクラック等の損傷が生じやすくなる。本実施形態では、この場合においても、振動領域Vの全体に必要な変形量を確保しつつ、振動領域VのX方向での中央が圧力室C内のインクからの反力により損傷することを低減できる。
【0044】
また、このような効果を奏する液体噴射ヘッド26を有する液体噴射装置100は、高精細な液体噴射を長期にわたり安定して実現できる。また、複数のノズルNを高密度に配置することで、液体噴射ヘッド26の小型化を図り、これに伴って、液体噴射ヘッド26を有する液体噴射装置100の小型化を図ることもできる。
【0045】
液体噴射ヘッド26の前述の効果を容易に得る観点から、X方向に沿う振動領域Vの長さをLとし、X方向に沿う第2領域V2または補強膜37の長さをL2とするとき、L2/Lは、0.1以上0.5以下の範囲内であることが好ましく、0.1以上0.3以下の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
図8は、第1実施形態における補強膜37の厚さTと振動領域Vの1次の固有振動モードとの関係を示す図である。振動領域Vは、複数の固有振動モードを有する。この複数の固有振動モードのうち、振動領域Vの長手方向での両端VRおよびVLを固定端とする1次~3次の固有振動モードは、他の固有振動モードに比べて振幅が大きく、振動領域Vの損傷の原因になりやすい。特に、1次の固有振動モードは、他の固有振動モードに比べて振幅が大きい。そこで、
図8に示すように、補強膜37は、1次の固有振動モードの腹の位置、すなわち振動領域Vの長手方向での中央VCを含む。このため、補強膜37が振動領域Vの中央VCを含まない場合に比べて、振動領域Vの損傷を効果的に低減できる。
【0047】
本実施形態では、
図8に示すように、補強膜37の厚さTは、第2領域V2において厚さT2で一定である。補強膜37の厚さTは、特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。厚さTがこの範囲内であることにより、補強膜37の形成を容易としつつ、前述の補強膜37の必要な剛性を得ることができる。なお、Y方向に沿う補強膜37の厚さTは、第2領域V2側から第1領域V1側に向かうに従い、連続的に小さくなってもよい。この場合、第1領域V1と第2領域V2との間に生じる応力集中を低減することができる。
【0048】
1-4.圧力室の製造方法
図9は、圧力室Cの製造工程の流れを例示するフローチャートである。
図9に示すように、圧力室Cの製造工程は、マスク形成工程S1とエッチング工程S2とマスク除去工程S3と耐蝕膜形成工程S4と補強膜形成工程S5とを含む。以下、各工程の概略を順次説明する。
【0049】
図10は、マスク形成工程S1を示す断面図である。
図10に示すように、マスク形成工程S1において、まず、板面が(110)面となるシリコン単結晶基板である基板340が準備される。基板340は、前述の圧力室基板34となる基板である。基板340の
図10中上側の面上には、開口M11を有するマスクM1が形成される。ここで、基板340の
図10中下側の面上には、振動板36が形成される。
図10に示す例では、振動板36上には、圧電素子38が形成される。
【0050】
より具体的に説明すると、まず、基板340の
図10中下側の面上に、第1層361および第2層362がこの順で順次形成される。これにより、振動板36が形成される。第1層361は、例えば、酸化シリコンで構成される場合、基板340の
図10中下側の面の熱酸化により形成される。第2層362は、例えば、酸化ジルコニウムで構成される場合、第1層361上にスパッタリング等の公知の成膜技術によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することで形成される。
【0051】
振動板36の形成後、振動板36上に、第1電極381、圧電体層383および第2電極382がこの順で形成される。これにより、圧電素子38が形成される。第1電極381、圧電体層383および第2電極382は、それぞれ、例えば、スパッタリング等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。圧電素子38の形成後、必要に応じて、基板340の
図10中上側の面がCMP(chemical mechanical polishing)等により研削され、当該面の平坦化または基板340の厚さ調整が行われる。
【0052】
圧電素子38の形成後、基板340の
図10中上側の面上に、開口M11を有するマスクM1が形成される。マスクM1は、例えば、スパッタリング等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。ここで、マスクM1は、後述のエッチング工程S2に用いるエッチング液に対する耐性を有する材料、例えば、窒化シリコン(SiN)で構成される。
【0053】
図11は、エッチング工程S2を示す断面図である。
図11に示すように、エッチング工程S2において、基板340がマスクM1の開口M11を介して異方性エッチングされる。当該異方性エッチングにより、孔341が形成される。当該異方性エッチングのエッチング液には、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。
【0054】
当該異方性エッチングでは、基板340の(110)面に対するエッチングレートに比べて、基板340の(111)面に対するエッチングレートが極めて小さい。このため、基板340の厚さ方向にエッチングが進み、(111)面を壁面とする孔341が形成される。ここで、振動板36は、当該異方性エッチングを停止させる停止層として機能する。ただし、振動板36は、当該異方性エッチングの停止後、当該エッチング液に晒され、若干量、当該エッチング液により等方性エッチングされる。
【0055】
図12は、マスク除去工程S3を示す断面図である。
図12に示すように、マスク除去工程S3において、マスクM1が除去される。マスクM1の除去には、マスクM1を溶解可能な液体、例えば、マスクM1が窒化シリコンで構成される場合、フッ化水素酸(HF)が除去液として用いられる。
【0056】
図13は、耐蝕膜形成工程S4を示す断面図である。
図13に示すように、耐蝕膜形成工程S4において、耐蝕膜35が形成される。例えば、耐蝕膜35は、スパッタリング等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。なお、
図13では、基板340の隔壁部342の振動板36とは反対側の端面には、耐蝕膜35が形成されないが、当該端面にも耐蝕膜35が形成されてもよい。この場合、スパッタリング等により成膜するだけで耐蝕膜35を形成できる。
【0057】
図14は、補強膜形成工程S5を示す断面図である。
図14に示すように、補強膜形成工程S5において、補強膜37が形成される。例えば、補強膜37は、スパッタリング等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。また、補強膜37は、以下のように、マスクを用いて物理蒸着または化学蒸着の蒸着による成膜を行うことによっても形成できる。
【0058】
図15は、補強膜形成工程S5の第1工程を示す断面図である。
図16は、補強膜形成工程S5の第2工程を示す断面図である。
図15に示す第1工程では、マスクM2を用いて成膜することで補強膜37の一部を形成し、その後、
図16に示す第2工程で、マスクM2を用いて補強膜37の残部を形成する。
【0059】
具体的に説明すると、
図15に示すように、第1工程では、まず、基板340に対して
図15中上側に、開口M21を有するマスクM2が配置される。マスクM2は、開口M21を有する基板である。開口M21は、補強膜37を形成すべき領域に対応して配置される。第1工程では、基板340の法線方向に対して傾斜する方向α1から蒸着材料を蒸着させる。このため、開口M21は、方向α1に応じて配置が決定される。マスクM2の構成材料としては、例えば、金属、ガラスまたはシリコン等が挙げられる。中でも、マスクM2の構成材料としては、基板340の構成材料との線膨張係数差ができるだけ小さいことが好ましく、具体的には、シリコンが好ましい。マスクM2と基板340との線膨張係数差を小さくすることで、基板340に対する開口M21の位置ずれを低減することができる。以上の第1工程の後、
図16に示すように、第2工程では、マスクM2の配置を必要に応じて変更し、基板340の法線方向に対して方向α1とは反対側に傾斜する方向α2から蒸着材料を蒸着させる。
【0060】
第1工程および第2工程に用いる蒸着は、物理蒸着または化学蒸着のいずれでもよいが、簡便さの観点から、物理蒸着が好ましく、より具体的には、真空蒸着に比べて緻密な膜が得られるという観点から、イオンビームアシスト蒸着またはイオンプレーティング等が好ましい。
【0061】
2.第2実施形態
本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0062】
図17は、第2実施形態における圧力室Cを示す横断面図である。
図17に示す本実施形態においても、圧力室Cの壁面上には、耐蝕膜35が配置される。ただし、本実施形態では、圧力室Cの壁面と耐蝕膜35との間に、補強膜37が配置される。ここで、耐蝕膜35は、圧力室C内のインクに対する耐性が振動板36よりも高い。このため、補強膜37の構成材料は、圧力室C内のインクに対する耐性の有無を問わない。この結果、補強膜37の構成材料の選択の幅が広がり、補強膜37の設計の自由度を高めたり、補強膜37の成膜を簡単化したりすることが可能となる。また、本実施形態においても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0063】
3.第3実施形態
本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0064】
図18は、第3実施形態における圧力室Cを示す横断面図である。
図18に示す本実施形態では、圧力室Cの壁面上には、耐蝕膜35および補強膜37が配置される。補強膜37は、振動板36の圧力室C側の面と孔341の壁面とが接続する角上に配置される。耐蝕膜35は、補強膜37が配置される領域以外において、圧力室Cの壁面の全域にわたって配置される。
【0065】
補強膜37の構成材料は、耐蝕膜35の構成材料と同一でも異なってもよい。ただし、第1実施形態と同様、本実施形態の補強膜37は、圧力室C内のインクに晒されるため、インクに対する体制を有することが好ましい。また、補強膜37の構成材料は、耐蝕膜35の構成材料と異なる場合、耐蝕膜35の構成材料よりもヤング率が高い材料であることが好ましい。この場合、補強膜37は、例えば、耐蝕膜35の一部をイオンビーム等により変質させることで形成される。なお、補強膜37は、耐蝕膜35とは別々の成膜により形成してもよい。
【0066】
以上の補強膜37を用いる本実施形態においても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
4.第4実施形態
本発明の第4実施形態について説明する。なお、以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0068】
図19は、第4実施形態における圧力室Cを示す縦断面図である。
図19に示す液体噴射ヘッド26は、液体の一例であるインクを収容する圧力室Cの壁面の一部を構成する振動板36と、振動板36を振動させる圧電素子38と、振動板36の圧力室C側の面上に配置される補強膜37と、を有する。ここで、振動板36の領域であって圧電素子38により振動する振動領域Vは、振動板36の厚さ方向から見る平面視で、長手形状をなす。補強膜37は、第1膜厚T1の第1部分371と、第1部分371よりも振動領域Vの長手方向での中央に近い位置に配置され、第1膜厚T1よりも厚い第2膜厚T2の第2部分372と、を有する。
【0069】
このような第1部分371および第2部分372という互いに膜厚の異なる2つの部分を補強膜37が有することにより、前述の第1実施形態と同様、振動領域Vの全体に必要な変形量を確保しつつ、振動領域VのX方向での中央が圧力室C内のインクからの反力により損傷することを低減できる。
【0070】
第1膜厚T1および第2膜厚T2の比T1/T2は、特に限定されないが、0.1以上0.5以下の範囲内であることが好ましい。比T1/T2がこの範囲内であることにより、補強膜37の形成を容易としつつ、前述の補強膜37の必要な剛性を得ることができる。
【0071】
図20は、第4実施形態における補強膜37の厚さTと振動板36の1次の固有振動モードとの関係を示す図である。本実施形態では、第2部分372は、振動領域Vの長手方向での中央VCに配置される。振動領域Vの長手方向での中央VCは、前述のように振動領域Vの1次の固有振動モードの腹の位置である。このため、第2部分372が振動領域Vの中央VCに配置されない場合に比べて、振動領域Vの損傷を効果的に低減できる。
【0072】
本実施形態では、
図20に示すように、補強膜37の厚さTは、第2領域V2側から第1領域V1側に向かうに従い、連続的に小さくなる。このため、補強膜37の厚さTが第1領域V1と第2領域V2との間で急激に変化する場合に比べて、第1領域V1と第2領域V2との間に生じる応力集中を低減することができる。なお、Y方向に沿う補強膜37の厚さTの変化は、
図20に示す変化に限定されず、例えば、第2領域V2側から第1領域V1側に向かうに従い、段階的に小さくなってもよい。
【0073】
5.第5実施形態
本発明の第5実施形態について説明する。なお、以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0074】
図21は、第5実施形態における補強膜37の厚さTと振動領域Vの2次の固有振動モードとの関係を示す図である。補強膜37は、3つの第1部分371および2つの第2部分372を有する。2つの第2部分372は、振動領域Vの2次の固有振動モードの腹の位置である。このため、振動領域Vの2次の固有振動モードに起因する損傷を効果的に低減できる。以上の補強膜37を用いる本実施形態においても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、第1部分371を省略してもよい。
【0075】
6.第6実施形態
本発明の第6実施形態について説明する。なお、以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0076】
図22は、第6実施形態における補強膜37の厚さTと振動領域Vの3次の固有振動モードとの関係を示す図である。補強膜37は、4つの第1部分371および3つの第2部分372を有する。3つの第2部分372は、振動領域Vの3次の固有振動モードの腹の位置である。このため、振動領域Vの3次の固有振動モードに起因する損傷を効果的に低減できる。以上の補強膜37を用いる本実施形態においても、前述の第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、第1部分371を省略してもよい。
【0077】
<変形例>
以上の例示における各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択される2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0078】
(1)前述の各形態では、第1電極381が個別電極であり第2電極382が共通電極である構成を例示するが、第1電極381を、複数の圧電素子38にわたり連続する共通電極とし、第2電極382を圧電素子38毎に個別の個別電極としてもよい。また、第1電極381および第2電極382の双方を個別電極としてもよい。
【0079】
(2)前述の各形態では、液体噴射ヘッド26を搭載するキャリッジ242を往復させるシリアル方式の液体噴射装置100を例示するが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体噴射装置にも本発明を適用することが可能である。
【0080】
(3)前述の各形態で例示する液体噴射装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴射する液体噴射装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0081】
26…液体噴射ヘッド、34…圧力室基板、35…耐蝕膜、36…振動板、37…補強膜、38…圧電素子、100…液体噴射装置、341…孔、371…第1部分、372…第2部分、381…第1電極、382…第2電極、383…圧電体層、C…圧力室、T1…第1膜厚、T2…第2膜厚、V…振動領域、V1…第1領域、V2…第2領域。