(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20221213BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2018233548
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
(72)【発明者】
【氏名】下村 祐二
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-75361(JP,A)
【文献】特開2016-125538(JP,A)
【文献】特開2006-242237(JP,A)
【文献】特開2004-169740(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに固定されるねじ軸、前記ねじ軸の軸方向に移動できるナット、及び前記ねじ軸と前記ナットとの間に配置される複数のボールを備えるボールねじ装置と、
前記ねじ軸の軸方向において、前記ボールねじ装置とは異なる位置に配置されるスプロケットと、
前記ねじ軸及び前記スプロケットを貫通するシャフトと、
前記シャフトと前記スプロケットとの間で回転を伝達又は遮断するクラッチと、
前記ナットと共に移動し前記クラッチを押すピストンと、
を備え、
前記ナットは、前記ボールを循環させるための複数の循環溝を内周面に備え、
前記スプロケットが回転する時に前記スプロケットが前記シャフトに加える力の方向とは反対方向を第1方向とした場合、前記ピストンが前記クラッチに接触した後にさらに所定距離だけ移動した最大負荷状態において、少なくとも1つの前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはな
く、
前記ナットは、
径方向外側に突出するフランジと、
前記フランジに設けられ、前記循環溝の目印となる切欠きと、
を備えている
動力伝達装置。
【請求項2】
前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、前記ナットの中心と1つの前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して角度をなす
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、前記ナットの中心と1つの前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して90°をなす
請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ナットの回転軸を中心とした周方向における1つの前記循環溝の位置は、他の前記循環溝の前記周方向における位置とは異なる
請求項1から3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記最大負荷状態において、複数の前記循環溝のうち前記スプロケットから最も遠い前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない
請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記最大負荷状態において、全ての前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない
請求項1から4いずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、全ての前記循環溝に関して、前記ナットの中心と前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して90°をなす
請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記ピストンが前記クラッチに接触した時から前記最大負荷状態に至るまでの間、少なくとも1つの前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない
請求項1から7のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記ピストンが前記クラッチに接触した時から前記最大負荷状態に至るまでの間、全ての前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない
請求項8に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直進運動に変換する装置としてボールねじ装置が知られている。ボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールを備えている。例えば特許文献1には、ボールねじ装置を備える動力伝達装置の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボールねじ装置を備える動力伝達装置は、モーメント荷重を受ける環境で使用されることがある。ボールねじ装置がモーメント荷重を受けると、ボールに高い圧力が加わる。これにより、ねじ軸又はナットに圧痕が発生することによって、ボールねじ装置の寿命が短くなる可能性がある。このため、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力を抑制できる動力伝達装置が望まれる。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力を抑制できる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の動力伝達装置は、ハウジングと、前記ハウジングに固定されるねじ軸、前記ねじ軸の軸方向に移動できるナット、及び前記ねじ軸と前記ナットとの間に配置される複数のボールを備えるボールねじ装置と、前記ねじ軸の軸方向において、前記ボールねじ装置とは異なる位置に配置されるスプロケットと、前記ねじ軸及び前記スプロケットを貫通するシャフトと、前記シャフトと前記スプロケットとの間で回転を伝達又は遮断するクラッチと、前記ナットと共に移動し前記クラッチを押すピストンと、を備え、前記ナットは、前記ボールを循環させるための複数の循環溝を内周面に備え、前記スプロケットが回転する時に前記スプロケットが前記シャフトに加える力の方向とは反対方向を第1方向とした場合、前記ピストンが前記クラッチに接触した後にさらに所定距離だけ移動した最大負荷状態において、少なくとも1つの前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない。
【0007】
スプロケットはチェーンによって一定方向に引っ張られるので、シャフトの撓む方向も一定である。このため、シャフトが撓む時にボールねじ装置に加わるモーメント荷重の方向は一定である。具体的には、ボールねじ装置において、スプロケットがシャフトに加える力の方向とは反対方向の端部に最も大きな荷重が加わる。一方、循環溝にあるボールは、荷重を受けることができない。ボールねじ装置に加わる荷重は、循環溝にあるボールを除くボールが負担する。1つのボールが負担する荷重が増加すると、ねじ軸又はナットに圧痕が発生することによって、ボールねじ装置の寿命が短くなる可能性がある。これに対して、本実施形態においては、最大負荷状態において循環溝がナットの内周面のうち第1方向の端部には配置されない。これにより、大きな荷重を受ける第1方向の端部に、荷重を負担できるボールが存在する。このため、1つのボールが負担する荷重が低減される。したがって、本開示の動力伝達装置は、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力を抑制できる。
【0008】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、前記ナットの中心と1つの前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して角度をなす。
【0009】
これにより、最大負荷状態において、ナットの第1方向の端部に対して、循環溝が遠くに配置される。このため、最大負荷状態において、ボールねじ装置のうち循環溝が配置される部分に加わる荷重が小さくなりやすい。したがって、本開示の動力伝達装置は、ボールに加わる圧力をより抑制できる。
【0010】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、前記ナットの中心と1つの前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して90°をなす。
【0011】
これにより、最大負荷状態において、ナットの第1方向の端部に対して、循環溝がより遠くに配置される。このため、最大負荷状態において、ボールねじ装置のうち循環溝が配置される部分に加わる荷重がより小さくなりやすい。したがって、本開示の動力伝達装置は、ボールに加わる圧力をより抑制できる。
【0012】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記ナットの回転軸を中心とした周方向における1つの前記循環溝の位置は、他の前記循環溝の前記周方向における位置とは異なる。
【0013】
これにより、全ての循環溝が軸方向から見て重なるように配置される場合と比較して、ナットが軸方向に短くなる。このため、本開示の動力伝達装置は、ボールねじ装置を小型にできる。
【0014】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記最大負荷状態において、複数の前記循環溝のうち前記スプロケットから最も遠い前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない。
【0015】
ボールねじ装置が受ける荷重は、スプロケットからの距離が大きいほど大きくなる。すなわち、ボールねじ装置が受ける荷重は、スプロケットに近い方の端部で最小となり、スプロケットから遠い方の端部で最大となる。本実施形態のボールねじ装置においては、複数の循環溝のうちスプロケットから最も遠い循環溝が第1方向の端部に配置されない。これにより、ボールねじ装置のボールが配置される部分のうち、最も大きな荷重を受ける部分に循環溝が配置されない。したがって、本開示の動力伝達装置は、ボールに加わる圧力をより抑制できる。
【0016】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記最大負荷状態において、全ての前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない。
【0017】
これにより、本開示の動力伝達装置は、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力をより抑制できる。
【0018】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記最大負荷状態において、前記軸方向から見た場合、全ての前記循環溝に関して、前記ナットの中心と前記循環溝の中心とを通る直線は、前記ナットの中心と前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部とを通る直線に対して90°をなす。
【0019】
これにより、ボールねじ装置のうち1つの循環溝が配置される部分に加わる荷重と、ボールねじ装置のうち他の循環溝が配置される部分に加わる荷重との間の差が低減される。したがって、本開示の動力伝達装置は、一部のボールに大きな圧力が加わることを抑制できる。
【0020】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記ピストンが前記クラッチに接触した時から前記最大負荷状態に至るまでの間、少なくとも1つの前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない。
【0021】
これにより、最大負荷状態に限らず、ボールねじ装置がモーメント荷重を受けている間は、第1方向の端部に荷重を負担できるボールが存在する。したがって、本開示の動力伝達装置は、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力を抑制できる。
【0022】
上記の動力伝達装置の望ましい態様として、前記ピストンが前記クラッチに接触した時から前記最大負荷状態に至るまでの間、全ての前記循環溝は、前記ナットの内周面のうち前記第1方向の端部にはない。
【0023】
これにより、本開示の動力伝達装置は、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力をより抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の動力伝達装置によれば、モーメント荷重を受ける環境においてボールに加わる圧力を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【
図2】
図2は、チェーンによって引っ張られた状態のシャフトを示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態のボールねじ装置の断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態のボールねじ装置の斜視図である。
【
図7】
図7は、ピストンがクラッチに接する前における動力伝達装置の断面図である。
【
図8】
図8は、ピストンがクラッチに接した後における動力伝達装置の断面図である。
【
図11】
図11は、第1変形例のボールねじ装置の断面図である。
【
図12】
図12は、第2変形例のボールねじ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0027】
(実施形態)
図1は、実施形態の動力伝達装置の断面図である。
図2は、チェーンによって引っ張られた状態のシャフトを示す模式図である。
図3は、実施形態のボールねじ装置の断面図である。
図4は、実施形態のボールねじ装置の斜視図である。
図5は、実施形態のねじ軸の断面図である。
図6は、実施形態のナットの断面図である。
図7は、ピストンがクラッチに接する前における動力伝達装置の断面図である。
図8は、ピストンがクラッチに接した後における動力伝達装置の断面図である。
図9は、
図8のA-A断面図である。
図10は、
図8のB-B断面図である。
図9及び
図10は、ボール25の軌道に沿う曲面で切った断面である。
【0028】
本実施形態の動力伝達装置10は、駆動源から出力部材へ動力を伝達する装置である。動力伝達装置10は、駆動源の動力を伝達する出力部材を切り替える装置でもある。例えば、動力伝達装置10は、四輪駆動車に設けられるトランスファである。動力伝達装置10は、駆動源の動力を前輪及び後輪のいずれか一方に伝達する状態と、駆動源の動力を前輪及び後輪の両方に伝達する状態と、を切り替える。
【0029】
図1に示すように、動力伝達装置10は、ハウジング11と、ボールねじ装置20と、スプロケット30と、シャフト40と、軸受15と、軸受17と、クラッチ60と、ピストン50と、軸受13と、を備える。ハウジング11は、車体に固定される部材である。
【0030】
図1に示すように、ボールねじ装置20は、ねじ軸21と、ナット23と、複数のボール25と、を備える。以下の説明において、ねじ軸21の軸方向(ナット23の軸方向)は、単に軸方向と記載される。軸方向に対する直交方向は、径方向と記載される。ナット23の回転軸を中心とした周方向は、単に周方向と記載される。
【0031】
図1に示すように、ねじ軸21は、ハウジング11に固定される。ねじ軸21は、回転せず且つ軸方向に移動しない。ねじ軸21は、中空の部材である。より具体的には、ねじ軸21は、円筒状に形成されている。
図3に示すように、ねじ軸21は、ねじ溝211と、切欠き219と、を備える。ねじ溝211は、ねじ軸21の外周面に設けられる螺旋状の溝である。
図4に示すように、切欠き219は、ねじ軸21の端面に設けられる溝である。切欠き219は、キー溝とも呼ばれる。
図5の距離L1は、切欠き219から直近のねじ溝211までの軸方向の距離である。
【0032】
図3に示すように、ナット23は、ねじ軸21の外周に配置される。ねじ軸21が、ナット23を貫通する。ナット23の内周面は、ねじ軸21の外周面に面する。ナット23は、フランジ237と、複数のねじ溝231と、切欠き239と、複数の循環溝235と、を備える。フランジ237は、径方向に突出する円盤状の部材である。ねじ溝231は、内周面に設けられる螺旋状の溝である。ねじ溝231は、ねじ軸21のねじ溝211に面する。ねじ軸21のねじ溝211とナット23のねじ溝231とによって形成される転動路を、複数のボール25が転がる。ナット23は、ねじ軸21に対して回転する。ナット23は、例えば電動モータ等によって回転させられる。ナット23は、回転すると、軸方向に移動する。ナット23は、回転可能であり且つ軸方向に移動可能である。ナット23の軸方向の移動量をSとし、ねじ溝231のリード(軸方向に隣接するねじ溝231同士の間隔)をLとし、ナット23の回転角度をθとした場合、S=L×θ/360が成り立つ。
図4に示すように、切欠き239は、フランジ237に設けられる溝である。切欠き239は、キー溝とも呼ばれる。
図6の距離L2は、切欠き239から直近の循環溝235までの軸方向の距離である。
【0033】
循環溝235は、ねじ溝231の一端と他端とを繋ぐ溝である。循環溝235は、ボール25を循環させる。本実施形態において、循環溝235の数は2つである。例えば、循環溝235は、ナット23を塑性変形させることによって形成される。なお、循環溝235は、除去加工によって形成されてもよい。
【0034】
図1に示すように、スプロケット30は、軸方向においてボールねじ装置20とは異なる位置に配置される。スプロケット30は、ナット23の回転軸と同じ回転軸を中心に回転する。スプロケット30は、ナット23と同軸に配置される。
図2に示すように、スプロケット30には、チェーン19が巻きかけられる。スプロケット30は、外周面にチェーン19に噛み合う複数の歯を備える。チェーン19は、スプロケット30の回転軸とは異なる回転軸を中心に回転する出力部材に取り付けられる。スプロケット30の回転は、チェーン19を介して出力部材に伝達される。
【0035】
図1に示すように、シャフト40は、ねじ軸21及びスプロケット30を貫通する。シャフト40は、駆動源の動力によって回転する。シャフト40は、入力軸である。軸受15は、シャフト40とねじ軸21との間に配置される。軸受15によって、シャフト40は、ねじ軸21に対して回転できる。軸受17は、シャフト40とスプロケット30との間に配置される。軸受17によって、シャフト40は、スプロケット30に対して回転できる。軸受15及び軸受17は、例えばニードルベアリングである。
【0036】
クラッチ60は、シャフト40とスプロケット30との間で回転を伝達又は遮断する装置である。
図1に示すように、クラッチ60は、第1取付部61と、複数の第1摩擦板63と、第2取付部65と、複数の第2摩擦板67と、を備える。第1取付部61は、シャフト40と接続されており、シャフト40と共に回転する。第1取付部61は、略円筒状である。第1摩擦板63は、第1取付部61の内周面に固定される。第1摩擦板63は、円盤状である。複数の第1摩擦板63は、軸方向に間隔を空けて並べられる。第2取付部65は、スプロケット30と接続されており、スプロケット30と共に回転する。第2取付部65は、略円筒状である。第2摩擦板67は、第2取付部65の内周面に固定される。第2摩擦板67は、円盤状である。複数の第2摩擦板67は、軸方向に間隔を空けて並べられる。第1摩擦板63及び第2摩擦板67は、軸方向に交互に配置される。
【0037】
ピストン50は、クラッチ60を押す部材である。
図1に示すように、ピストン50は、軸受13を介してナット23と接続される。軸受13は、スラスト軸受である。軸受13は、ピストン50とナット23のフランジ237との間に配置される。軸受13によってピストン50は、ナット23に対して回転できる。ピストン50のナット23とは反対側の端面は、クラッチ60の第1摩擦板63に面する。
【0038】
図7に示すように、第1摩擦板63及び第2摩擦板67が接していない状態においては、シャフト40とスプロケット30との間における回転の伝達が遮断される。ナット23が回転すると、ピストン50は、ナット23と共に軸方向に移動する。
図8に示すように、ピストン50は、第1摩擦板63に接し、第1摩擦板63を押す。第1摩擦板63が第2摩擦板67に押し付けられることによって、第1摩擦板63と第2摩擦板67との間の摩擦が大きくなる。これにより、シャフト40の回転がクラッチ60を介して、スプロケット30に伝達される。第1摩擦板63及び第2摩擦板67が接した状態においては、第1摩擦板63と第2摩擦板67との間の摩擦によって、シャフト40の回転がスプロケット30に伝達される。
【0039】
さらにピストン50が移動すると、ナット23がピストン50を押す力と、ピストン50がクラッチ60から受ける反力とが釣り合う。このため、ピストン50が停止する。ピストン50が停止した状態において、ボールねじ装置20に加わる荷重が最大となる。ボールねじ装置20に加わる荷重が最大となる状態を、最大負荷状態と呼ぶ。最大負荷状態は、ピストン50がクラッチ60に接した後にさらに軸方向に所定距離移動した状態であるといえる。
【0040】
シャフト40の回転がスプロケット30に伝達されている時、スプロケット30に巻きかけられたチェーン19が駆動する。
図2に示すように、スプロケット30には、チェーン19の張力T1が作用する。このため、スプロケット30は、シャフト40に対して張力T1と同じ方向の力を加える。シャフト40は、スプロケット30から受ける力によって撓む(変形する)。スプロケット30がシャフト40に加える力の方向とは反対方向を第1方向D1とする。
【0041】
図2に示すようにシャフト40が撓むと、ボールねじ装置20がクラッチ60に対して傾斜する。ボールねじ装置20がクラッチ60から受ける反力は、均一荷重ではなく、偏荷重となる。このため、ボールねじ装置20は、モーメント荷重を受けることになる。また、ボールねじ装置20が受けるモーメント荷重は、ナット23(ピストン50)がスプロケット30に近付くほど増加する。
【0042】
図9及び
図10に示すように、最大負荷状態において、循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。最大負荷状態において、軸方向から見て、循環溝235は、端部E1に重ならない。また、ピストン50がクラッチ60に接した時から最大負荷状態に至るまでの間、ナット23の回転量に応じて、ナット23の端部E1に対する循環溝235の相対的な位置が変化する。ピストン50がクラッチ60に接触した時から最大負荷状態に至るまでの間、循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。1つの循環溝235の周方向の位置は、他の循環溝235の周方向における位置とは異なる。本実施形態においては、最大負荷状態において、全ての循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0043】
図9に示すように、最大負荷状態において、軸方向から見た場合、ねじ軸21の中心Cとスプロケット30に最も近い循環溝235の中心P1とを通る直線は、ねじ軸21の中心Cと端部E1とを通る直線に対して90°をなす。
図10に示すように、最大負荷状態において、軸方向から見た場合、ねじ軸21の中心Cとスプロケット30から最も遠い循環溝235の中心P2とを通る直線は、ねじ軸21の中心Cと端部E1とを通る直線に対して90°をなす。
図9及び
図10に示すように、スプロケット30から最も遠い循環溝235は、スプロケット30に最も近い循環溝235に対して、中心Cを挟んだ反対側に配置される。
【0044】
ねじ軸21及びナット23は、最大負荷状態において循環溝235がナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1に位置しないように組み立てられる。ねじ軸21に対するナット23の初期位置は、予め決まっている。このため、最大負荷状態でのナット23の位置から初期位置までの軸方向の距離は、予め決まる。当該距離と、上述した数式S=L×θ/360とに基づいて、初期位置における循環溝235の周方向の位置が算出される。ねじ軸21及びナット23は、循環溝235の周方向の位置が、算出された位置になるように組み立てられる。ねじ軸21及びナット23を組み立てる時に、ねじ軸21の切欠き219とナット23の切欠き239が目印として使用される。例えば、ねじ軸21及びナット23は、切欠き219の周方向の位置と切欠き239の周方向の位置とが同じになるように組み立てられる。
図5に示す距離L1、及び
図6に示す距離L2は、切欠き219の周方向の位置と切欠き239の周方向の位置とが同じ状態が適切な初期位置の状態となるように、設定される。また、ナット23が適切な初期位置にあるか否かは、ねじ軸21の端面からナット23の端面までの軸方向の距離によっても判断される。
【0045】
なお、循環溝235は、必ずしも
図9及び
図10に示すように配置されなくてもよい。
図9及び
図10に示す循環溝235の配置は、一例である。最大負荷状態において、軸方向から見た場合、ねじ軸21の中心Cと循環溝235の中心とを通る直線と、ねじ軸21の中心Cと端部E1とを通る直線とがなす角度は、90°より大きくてもよいし小さくてもよい。例えば、当該角度は、45°、135°又は180°等であってもよい。循環溝235の数は、必ずしも2つでなくてもよく、3つ以上であってもよい。また、最大負荷状態において、少なくとも1つの循環溝235が、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1に配置されなければよい。すなわち、ねじ軸21は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1に配置される循環溝235を含んでいてもよい。
【0046】
以上で説明したように、動力伝達装置10は、ハウジング11と、ボールねじ装置20と、スプロケット30と、シャフト40と、クラッチ60と、ピストン50と、を備える。ボールねじ装置20は、ハウジングに固定されるねじ軸21、ねじ軸21の軸方向に移動できるナット23、及びねじ軸21とナット23との間に配置される複数のボール25を備える。スプロケット30は、ねじ軸21の軸方向において、ボールねじ装置20とは異なる位置に配置される。シャフト40は、ねじ軸21及びスプロケット30を貫通する。クラッチ60は、シャフト40とスプロケット30との間で回転を伝達又は遮断する。ピストン50は、ナット23と共に移動しクラッチ60を押す。ナット23は、ボール25を循環させるための複数の循環溝235を内周面に備える。スプロケット30が回転する時にスプロケット30がシャフト40に加える力の方向とは反対方向を第1方向D1とする。ピストン50がクラッチ60に接触した後にさらに所定距離だけ移動した最大負荷状態において、少なくとも1つの循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0047】
スプロケット30はチェーン19によって一定方向に引っ張られるので、シャフト40の撓む方向も一定である。このため、シャフト40が撓む時にボールねじ装置20に加わるモーメント荷重の方向は一定である。具体的には、ボールねじ装置20において、スプロケット30がシャフト40に加える力の方向とは反対方向の端部E1に最も大きな荷重が加わる。一方、循環溝235にあるボール25は、荷重を受けることができない。ボールねじ装置20に加わる荷重は、循環溝235にあるボール25を除くボール25が負担する。1つのボール25が負担する荷重が増加すると、ねじ軸21又はナット23に圧痕が発生することによって、ボールねじ装置20の寿命が短くなる可能性がある。これに対して、本実施形態においては、最大負荷状態において循環溝235がナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1には配置されない。これにより、大きな荷重を受ける第1方向D1の端部E1に、荷重を負担できるボール25が存在する。このため、1つのボール25が負担する荷重が低減される。したがって、動力伝達装置10は、モーメント荷重を受ける環境においてボール25に加わる圧力を抑制できる。
【0048】
動力伝達装置10では、最大負荷状態において、軸方向から見た場合、ナット23の中心Cと1つの循環溝235の中心P1とを通る直線は、ナット23の中心Cとナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1とを通る直線に対して角度をなす。
【0049】
これにより、最大負荷状態において、ナット23の第1方向D1の端部E1に対して、循環溝235が遠くに配置される。このため、最大負荷状態において、ボールねじ装置20のうち循環溝235が配置される部分に加わる荷重が小さくなりやすい。したがって、動力伝達装置10は、ボール25に加わる圧力をより抑制できる。
【0050】
動力伝達装置10では、最大負荷状態において、軸方向から見た場合、ナット23の中心Cと1つの循環溝235の中心P1とを通る直線は、ナット23の中心Cとナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1とを通る直線に対して90°をなす。
【0051】
これにより、最大負荷状態において、ナット23の第1方向D1の端部E1に対して、循環溝235がより遠くに配置される。このため、最大負荷状態において、ボールねじ装置20のうち循環溝235が配置される部分に加わる荷重がより小さくなりやすい。したがって、動力伝達装置10は、ボール25に加わる圧力をより抑制できる。
【0052】
動力伝達装置10では、ナット23の回転軸を中心とした周方向における1つの循環溝235の位置は、他の循環溝235の周方向における位置とは異なる。
【0053】
これにより、全ての循環溝235が軸方向から見て重なるように配置される場合と比較して、ナット23が軸方向に短くなる。このため、動力伝達装置10は、ボールねじ装置20を小型にできる。
【0054】
動力伝達装置10では、最大負荷状態において、複数の循環溝235のうちスプロケット30から最も遠い循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0055】
ボールねじ装置20が受ける荷重は、スプロケット30からの距離が大きいほど大きくなる。すなわち、ボールねじ装置20が受ける荷重は、スプロケット30に近い方の端部で最小となり、スプロケット30から遠い方の端部で最大となる。本実施形態のボールねじ装置20においては、複数の循環溝235のうちスプロケット30から最も遠い循環溝235が第1方向D1の端部E1に配置されない。これにより、ボールねじ装置20のボール25が配置される部分のうち、最も大きな荷重を受ける部分に循環溝235が配置されない。したがって、動力伝達装置10は、ボール25に加わる圧力をより抑制できる。
【0056】
動力伝達装置10では、最大負荷状態において、全ての循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0057】
これにより、動力伝達装置10は、モーメント荷重を受ける環境においてボール25に加わる圧力をより抑制できる。
【0058】
動力伝達装置10では、最大負荷状態において、軸方向から見た場合、全ての循環溝235に関して、ナット23の中心Cと循環溝235の中心P1とを通る直線は、ナット23の中心Cとナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1とを通る直線に対して90°をなす。
【0059】
これにより、ボールねじ装置20のうち1つの循環溝235が配置される部分に加わる荷重と、ボールねじ装置20のうち他の循環溝235が配置される部分に加わる荷重との間の差が低減される。したがって、動力伝達装置10は、一部のボール25に大きな圧力が加わることを抑制できる。
【0060】
動力伝達装置10において、ピストン50がクラッチ60に接触した時から最大負荷状態に至るまでの間、少なくとも1つの循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0061】
これにより、最大負荷状態に限らず、ボールねじ装置20がモーメント荷重を受けている間は、第1方向D1の端部E1に荷重を負担できるボール25が存在する。したがって、動力伝達装置10は、モーメント荷重を受ける環境においてボール25に加わる圧力を抑制できる。
【0062】
動力伝達装置10において、ピストン50がクラッチ60に接触した時から最大負荷状態に至るまでの間、全ての循環溝235は、ナット23の内周面のうち第1方向D1の端部E1にはない。
【0063】
これにより、動力伝達装置10は、モーメント荷重を受ける環境においてボール25に加わる圧力をより抑制できる。
【0064】
(第1変形例)
図11は、第1変形例のボールねじ装置の断面図である。
図11は、ピストン50がクラッチ60に接触する前の状態を示す。すなわち、
図11は、最大負荷状態を示す図ではない。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0065】
図11に示すように、第1変形例のボールねじ装置20Aは、ナット23Aを備える。ナット23Aは、4つの循環溝235を備える。最大負荷状態において、循環溝235は、ナット23Aの内周面のうち第1方向D1の端部E1には配置されない。最大負荷状態において、軸方向から見て、循環溝235は、端部E1に重ならない。ボールねじ装置20Aにおいては、最大負荷状態において、全ての循環溝215は、ナット23Bの内周面のうち第1方向D1の端部E1には配置されない。
【0066】
図11に示すように、スプロケット30から2番目に近い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から最も近い循環溝235の周方向の位置の反対側である。スプロケット30から3番目に近い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から2番目に近い循環溝235の周方向の位置の反対側である。スプロケット30から最も遠い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から3番目に近い循環溝235の周方向の位置の反対側である。
【0067】
(第2変形例)
図12は、第2変形例のボールねじ装置の断面図である。
図12は、ピストン50がクラッチ60に接触する前の状態を示す。すなわち、
図12は、最大負荷状態を示す図ではない。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0068】
図12に示すように、第2変形例のボールねじ装置20Bは、ナット23Bを備える。ナット23Bは、4つの循環溝235を備える。最大負荷状態において、循環溝235は、ナット23Bの内周面のうち第1方向D1の端部E1には配置されない。最大負荷状態において、軸方向から見て、循環溝235は、端部E1に重ならない。ボールねじ装置20Bにおいては、最大負荷状態において、全ての循環溝215は、ナット23Bの内周面のうち第1方向D1の端部E1には配置されない。
【0069】
図12に示すように、スプロケット30から2番目に近い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から最も近い循環溝235の周方向の位置と同じである。スプロケット30から3番目に近い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から2番目に近い循環溝235の周方向の位置の反対側である。スプロケット30から最も遠い循環溝235の周方向の位置は、スプロケット30から3番目に近い循環溝235の周方向の位置と同じである。
【0070】
(第3変形例)
図13は、第3変形例のねじ軸の側面図である。
図14は、第3変形例のねじ軸の正面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0071】
図13及び
図14に示すように、第3変形例のねじ軸21Cは、第1ピン216と、第2ピン217と、第3ピン218と、を備える。第1ピン216、第2ピン217、及び第3ピン218は、ねじ軸21Cの端面に設けられた突起である。第1ピン216、第2ピン217、及び第3ピン218は、周方向で等間隔に配置される。第1ピン216の直径は、第2ピン217及び第3ピン218の直径よりも大きい。第1ピン216、第2ピン217、及び第3ピン218は、上述した切欠き219と同様に、ねじ軸21C及びナット23を組み立てる時の目印として使用される。
【符号の説明】
【0072】
10 動力伝達装置
11 ハウジング
13、15、17 軸受
19 チェーン
20、20A、20B ボールねじ装置
21、21C ねじ軸
23、23A、23B ナット
25 ボール
30 スプロケット
40 シャフト
50 ピストン
60 クラッチ
61 第1取付部
63 第1摩擦板
65 第2取付部
67 第2摩擦板
211 ねじ溝
215 循環溝
216 第1ピン
217 第2ピン
218 第3ピン
219 切欠き
231 ねじ溝
235 循環溝
237 フランジ
239 切欠き
C 中心
E1 端部
P1、P2 中心
T1 張力