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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】水耕栽培装置、及び水耕栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20221213BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018566150
(86)(22)【出願日】2018-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2018003774
(87)【国際公開番号】W WO2018143450
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2017019906
(32)【優先日】2017-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山田 朗
(72)【発明者】
【氏名】森田 剛平
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-319047(JP,A)
【文献】特開平03-292823(JP,A)
【文献】特開2011-078332(JP,A)
【文献】特開2014-131495(JP,A)
【文献】特開2013-138615(JP,A)
【文献】特開2017-023009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培装置であって、
前記植物が栽培される栽培部と、
前記栽培部から出発して該栽培部に戻る培養液循環経路と、を有しており、
前記培養液循環経路には、前記培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分を前記培養液循環経路外に排出させる分離手段を有し、
前記分離手段が、逆浸透膜、及び/またはナノろ過膜を備え
前記培養液循環経路は、前記栽培部の上流に位置する第1循環槽と、
前記栽培部の下流であり、前記分離手段の上流に位置する第2循環槽と、を有し、
前記第2循環槽は、マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置を有しており、
前記マイクロバブル発生装置の作動中は、前記第2循環槽の中の前記培養液を前記培養液循環経路において循環させないことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
前記培養液が供給される培養液供給手段を有する請求項1に記載の水耕栽培装置。
【請求項3】
前記培養液循環経路には、温度計、pH計、及び電気伝導度計を備える請求項1または2に記載の水耕栽培装置。
【請求項4】
前記栽培部の一部が遮光されている請求項1~のいずれかに記載の水耕栽培装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の水耕栽培装置を用いる水耕栽培方法であって、
前記培養液循環経路において、前記培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分が該培養液循環経路外に排出される第1ステップと、
前記第1ステップを経た培養液に対して新たに培養液が供給される第2ステップと、を含む水耕栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培装置、及び当該装置を用いた水耕栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、安全な食材の供給、食材の通年供給を目的とした環境保全型の生産システムである植物工場が注目されている。この植物工場は、内部環境をコントロールした閉鎖的または半閉鎖的な空間で植物を計画的に生産するシステムであり、具体的には、植物を栽培床等の栽培部に配列させ、培養液を植物の根付近に流通させることで養分を供給する水耕栽培を利用し、自然光または人工光を光源として植物を成育させ、収穫させるものである。
【0003】
水耕栽培における培養液は、一般に、pH値の調整と電気伝導度(Electrical Conductivity:以下ECという)を指標にした濃度調整により管理されている。また、pH値やEC値による培養液の濃度調整と共に、培養液を植物に供給した後の排液を、例えばろ過膜でろ過することにより培養液を再利用することが行われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
また、植物に供給した後の培養液の排液を除菌して再利用すること(例えば、特許文献3~特許文献5)、活性炭を用いて培養液を浄化して再利用することも行われている(例えば、特許文献6、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-107826号公報
【文献】特開2011-078332号公報
【文献】特開2011-299116号公報
【文献】特開昭63-29417号公報
【文献】特開2001-346460号公報
【文献】特開昭50-18224号公報
【文献】特開平9-313055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、培養液成分には、植物の生長に有益な成分のうち植物に吸収されにくい成分と吸収されやすい成分が存在することから、培養液を長期間使用すると、植物に吸収されにくい成分が循環系内に蓄積され、植物に吸収されやすい成分が消費されることにより、培養液中のイオン成分バランスは次第に崩れる傾向にある。また、従来の培養液の再利用技術では、植物の生長に有益でない成分であるアレロパシー物質(主に有機酸)等はろ過膜を通過して培養液中に蓄積し、培養液の管理が困難になるという問題があった。これらの対策として、例えばイオンクロマトグラフィーを用いて逐一分析して、その分析結果に基づいて培養液成分を制御することは可能であるが、当該イオンクロマトグラフィーは高価であり、また、培養液成分の管理制御が煩雑となることから実用的なものではなかった。
【0007】
植物工場では、内部環境をコントロールした状態で植物を栽培しており、培養液は電気伝導度で濃度管理とpH管理を行っているが、前述の問題により栽培期間が長期にわたると植物の収量が下がったり、植物が病気にかかったりするため、定期的に培養液の交換と植物栽培部の洗浄を行わざるを得ず、この培養液の交換が廃棄物の増大に加え栽培期間を失することにより費用面及び時間面の大きなロスとなっている。
【0008】
本発明は上記の事情に着目してなされたものであって、その目的は、培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培において、培養液中のイオン成分バランスの変動を抑えると共に、培養液を容易に管理することができる水耕栽培装置、及び水耕栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討する中で、培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培装置において、培養液の水分を除く成分の合計に対して、一定の割合を超える成分を培養液循環経路外に排出させる分離手段により、培養液中のイオン成分バランスの変動を抑えると共に、培養液を容易に管理することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決し得た本発明の水耕栽培装置は、培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培装置であって、前記植物が栽培される栽培部と、前記栽培部から出発して該栽培部に戻る培養液循環経路と、を有しており、前記培養液循環経路には、前記培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分を前記培養液循環経路外に排出させる分離手段を有する点に特徴を有している。
【0011】
培養液に対して処理を行い、あえて培養液の一部を培養液循環経路から排出することによって、循環している培養液のイオン成分のバランスを植物の生育に適した条件に近づくように回復させている。培養液を一度に大量に排出して新たな培養液を大量に供給することは大きな生産ロスや経済ロスを伴うため、少量ずつ培養液を排出及び供給することが好ましい。循環している培養液と新たに供給される培養液とを少量ずつ交換することが植物の生育維持に効果的である。
【0012】
上記水耕栽培装置において、培養液循環経路は、栽培部の上流に位置する第1循環槽と、栽培部の下流であり、分離手段の上流に位置する第2循環槽と、を有していることが好ましい。
【0013】
上記水耕栽培装置において、第2循環槽は、マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置を有していることが好ましい。
【0014】
上記水耕栽培装置において、分離手段が、逆浸透膜、及び/またはナノろ過膜を備えることが好ましい。
【0015】
上記水耕栽培装置において、培養液が供給される培養液供給手段を有することが好ましい。
【0016】
上記水耕栽培装置において、培養液循環経路には、温度計、pH計、及び電気伝導度計を備えることが好ましい。
【0017】
上記水耕栽培装置において、栽培部の一部が遮光されていることが好ましい。
【0018】
上記水耕栽培装置を用いる水耕栽培方法は、培養液循環経路において、培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分が該培養液循環経路外に排出される第1ステップと、前記第1ステップを経た培養液に対して新たに培養液が供給される第2ステップと、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水耕栽培装置、及び水耕栽培方法によれば、培養液中のイオン成分バランスの変動を抑えると共に、培養液を容易に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置の概略構成図の一例である。
図2】本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置の概略構成図の他の一例である。
図3】従来の培養液中のイオン成分バランスの経緯を示した模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置を用いた場合の培養液中のイオン成分バランスの経緯を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態のみに限定されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置を示す概略構成図の一例である。図1に示すように、水耕栽培装置1は培養液2を供給し、且つ循環させて植物3を栽培するものであり、植物3が栽培される栽培部4と、栽培部4から出発して栽培部4に戻る培養液循環経路5とを備えている。また、培養液循環経路5には、培養液2の一部に対し、該培養液2中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分を培養液循環経路5外に排出させる分離手段6を有している。
【0023】
培養液2は、植物3を育成するための肥料として加えられた成分を含む液体であり、具体的には、多量成分として、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、塩素等がイオンとして含まれている。また、微量成分として、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデン、ナトリウム、ホウ素等がイオンとして含まれている。栽培育成する植物ごとに、また原水の状態、植物の育成ステージ別に適した培養液組成が考案されており、本発明の実施において、例えば、アンモニア性窒素を適度に含み、秋から春の果菜類に対応した培養液処方として、OATハウス1号、OATハウス2号、及びOATハウス8号(いずれもOATアグリオ株式会社製)等を用いることができる。
【0024】
本発明の水耕栽培装置1で栽培できる植物3は、上記培養液2の処方により、種々の果菜類、葉菜類、花き類を栽培することができるが、例えば、培養液処方としてOATアグリオ株式会社製OATハウス1号、OATハウス2号、及びOATハウス8号を用いた場合、レタスを栽培することができる。
【0025】
栽培部4は、水耕栽培で植物を成育させる場所であり、例えば、培養液2上に浮力があり苗を保持できる構造を有した水耕栽培用育成ボードと呼ばれる資材を用いることができる。具体的には、水耕栽培用育成ボードに空けられた孔に苗をセットして定植し、培養液2の満たされた浴槽上にて日光または人工光、場合によっては室温、空気中の炭酸ガス濃度等を調整した環境下で数日から数十日の栽培を行い収穫する。
【0026】
培養液循環経路5は、植物3が栽培される栽培部4から出発して該栽培部4に戻る培養液2が循環する経路である。当該経路について、始点である栽培部4と終点である栽培部4が一致していれば、途中の経路は特に限定されず、例えば、経路途中にECやpHをコントロールするバッファである第1循環槽7aを設けて、当該第1循環槽7aから栽培部4に向けて培養液が流通するようにしても良い。また、栽培部4から第1循環槽7aに至る経路の途中において、分離手段6を経由する経路と、分離手段6を経由しない経路の2つの経路を備えるようにしても良い。このように構成することで、分離手段6の運転を自由に制御できる。なお、培養液循環経路5の材質としては例えばステンレス製配管を用いることができ、耐久性や腐食性を向上させたものが用いられる。
【0027】
分離手段6について、以下詳細に説明する。
本発明の水耕栽培装置1では、培養液2中のイオン成分バランスの変動を抑えるためには、培養液2中のイオン成分をなるべく初期値に近い状態で推移させることに着目した。具体的には、本発明の水耕栽培装置1には、培養液循環経路5において、培養液2の一部に対し、該培養液2中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分を培養液循環経路5外に排出させる分離手段6を有する構成とした。従来、培養液2はそのまま培養液循環経路5に戻していたのに対して、本発明では、従来とは逆に、培養液2中の水分を除く成分のうち一部の割合の成分を廃棄(排出)させることで培養液2中のイオン成分バランスの変動を抑えている点に特徴がある。
【0028】
上記で説明したように培養液中のイオン成分は多種存在し、且つ複雑に混在するため、ここでは主なイオン成分(窒素、リン酸、カリウム)を例にして、図3図4に基づき以下説明する。
【0029】
図3は、従来のEC値計測による培養液中のイオン成分バランスの経緯を模式的に示したものである。図3(a)に示すように、初期状態において培養液中のイオン成分バランスは整っており、この状態における窒素、リン酸、カリウムの構成値は、窒素:リン酸:カリウム=1:1:1であると仮定する。
【0030】
次に、図3(b)に示すように、水耕栽培装置で植物をある程度栽培させた状態において、EC計による計測で培養液全体のEC値が初期3であったものが、2.1に減少したと感知する。EC計による計測では培養液中の各成分のEC値をそれぞれ計測することができないため、この状態における窒素、リン酸、カリウムの構成値は、窒素:リン酸:カリウム=0.7:0.7:0.7である。
【0031】
ここで、植物の生長に消費される各イオン成分の割合が各々異なることから、実際の培養液中のイオン成分バランスは、図3(c)に示すように、各成分の構成値の減少はそれぞれ異なり、窒素:リン酸:カリウム=1:0.7:0.4であると仮定する。
【0032】
次に、図3(d)に示すように、上記EC計で感知した値に基づき、減少した肥料成分(3-2.1=0.9)を補充するための追肥として、培養液の補充(窒素:リン酸:カリウム=0.3:0.3:0.3)が行われる。
【0033】
さらに、図3(e)に示すように、図3(c)の状態に図3(d)の状態が補充されることにより、窒素:リン酸:カリウム=1.3:1:0.7の状態となり、過剰成分の窒素は初期状態よりも過剰になり、不足成分のカリウムは初期状態よりも不足した状態となる。
【0034】
図4は、本発明の水耕栽培装置を用いた場合の培養液中のイオン成分バランスの経緯を模式的に示したものである。図4(a)、図4(b)で示すように、初期状態、及び培養液中のイオン成分が消費された状態は、図3(a)、図3(c)と同様である。
【0035】
次に、図4(c)に示すように、図4(b)で示す培養液中のイオン成分が消費された状態において、培養液の水分を除く成分の合計100質量%に対して、半分の成分(窒素:リン酸:カリウム=0.5:0.35:0.2)を培養液循環経路外に排出させる。
【0036】
次に、図4(d)に示すように、図4(c)で示す培養液の排出により減少した肥料成分(3-1.05=1.95)を補充するための追肥として、培養液の補充(窒素:リン酸:カリウム=0.65:0.65:0.65)が行われる。
【0037】
さらに、図4(e)に示すように、図4(c)の状態に図4(d)の状態が補充されることにより、窒素:リン酸:カリウム=1.15:1:0.85の状態となり、図4(b)で生じた培養液中のイオン成分バランスの崩れを改善することができる。なお、図4(b)から図4(e)に至る一連の流れを繰返すことにより、培養液中のイオン成分バランスは初期の状態に限りなく近づけることができる。
【0038】
なお、培養液経路外に排出する割合は、培養液の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超えるものであれば良いが、水耕栽培装置の稼動時間、培養液の排出量及び補充量のバランスを考慮すると、60質量%であれば好ましく、75質量%であればより好ましく、90質量%であればさらに好ましく、99質量%であれば最も好ましい。培養液の一部であっても定期的に処理することで、少しずつ改善された環境を提供でき、植物の生育に有利となる。
【0039】
ここで、培養液の水分を除く成分とは、例えば、培養液の培養成分である窒素、リン酸イオン、鉄イオン、錫イオン、亜鉛イオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のことである。
【0040】
本発明の分離手段の具体的構成としては、膜を用いて分離を行う膜分離法を挙げることができる。膜分離法は分離対象物質の大きさ順に、精密ろ過法、限外ろ過法、イオン透過法、ナノろ過法、逆浸透法、ガス分離法と分類され、それぞれの方法に使用する膜は、精密ろ過膜、限外ろ過膜、イオン透過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、ガス分離膜である。上記分離膜のうち、本発明の実施においては、培養液の分離手段として使用する分離膜の孔径が10nm以下のものを用いることが好ましく、より好ましくは5nm以下のものが好ましく、さらに好ましくは2nm以下のものが好ましく、より一層好ましくは1nm以下のものが良い。より詳細には、水分とナトリウムイオン、塩素イオンを通過させ、2nmより小さいアミノ酸やタンパク質等の高分子の通過を阻止するナノろ過膜を用いることが好ましく、より好ましくは、水のみを通過させ、イオンや塩類等の水以外の成分は通過させない逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane、以下RO膜という)を用いることが良い。また、ナノろ過膜、及びRO膜を併用しても良い。
【0041】
ろ過水量と回収率を維持するために、原水を加温して原水温度を一定にし、透過水量を一定にする方法があるが、この場合、原水を加温するための設備と大きなエネルギーとを必要とする。特に、この種のろ過膜装置では一定の濃縮水排水が必要であり、この濃縮水排水の加熱に供したエネルギーについては有効利用されることなく廃棄されることになる。また、原水を加温するこの方法では、ろ過膜の閉塞による透過水量の減少については排除することが出来ないという問題もある。
【0042】
供給水量や供給水圧を一定にするために、ろ過水供給ポンプの吐出量、圧力を制御する方法がある。具体的には、原水供給ポンプの回転数を制御する方法や、原水供給ポンプの出口側に制御弁を設け、吐出量を制御する方法である。
【0043】
本発明の実施においては、分離手段のろ過膜への供給液量を一定とすることと、ろ過時に発生する濃縮液量を一定にすることで、培養液の温度変動に影響されず、ろ過液量と回収率を一定にし得る装置を用いても良い。具体的には、培養液を供給し、且つ循環させて植物を栽培する水耕栽培装置において、分離手段に通じる培養液循環経路に培養液供給ポンプを設け、上記分離手段のろ過液経路に流量発信器を設け、上記流量発信器から送信される流量信号に基づいて上記培養液供給ポンプの回転数を制御し、ろ過液流量を一定にするろ過液流量制御手段と、上記分離手段の濃縮液経路に濃縮液流量を一定にする濃縮液定流量弁を設け、上記分離手段と上記濃縮液定流量弁との間に介設され、濃縮液圧力を減圧する減圧弁と、上記減圧弁と上記濃縮液定流量弁との間に介設される圧力指示器とを備える構成にしても良い。
【0044】
分離手段による培養液の処理は、植物の生育中に連続して行われていてもよいが、生産ロスや経済ロスを低減させるために、間欠的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、植物の生育期間の1週間に1回以上、より好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上、分離手段を作動させる等の定期運転を行えば良い。
【0045】
以上のように本発明の水耕栽培装置1を構成することで、培養液中のイオン成分バランスの変動を抑え、培養液の管理を容易に行うことができる。
【0046】
培養液循環経路5は、栽培部4の上流に位置する第1循環槽7aと、栽培部4の下流であり、分離手段6の上流に位置する第2循環槽7bと、を有していることが好ましい。つまり、培養液循環経路5は、ECやpHをコントロールするバッファである第1循環槽7a、及び培養液を部分処理するバッファである第2循環槽7bを有していることが好ましい。培養液循環経路5が第1循環槽7a及び第2循環槽7bを有していることにより、分離手段6の運転を自由に制御できる。
【0047】
図2は、本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置を示す概略構成図の他の一例である。図2に示すように、培養液循環経路5は、栽培部4から排出された培養液2が、第2循環槽7bを経由する経路と、第2循環槽7bを経由しない経路の2つの経路を備えていても良い。培養液循環経路5をこのように構成することによって、分離手段6の運転を自由に制御できる。
【0048】
培養液循環経路5が第1循環槽7a及び第2循環槽7bを有する場合、分離手段6は第2循環槽7bに貯蔵されている培養液2を処理して、分離手段6によって得られた水を培養液循環経路5に供給し、第1循環槽7aに培養液2を貯蔵することが好ましい。培養液循環経路5がこのように構成されていることにより、水耕栽培装置1から排出される排液の量を減らすことができる。
【0049】
分離手段6によって得られた水は、培養液循環経路5に供給され、第1循環槽7aに貯蔵されることが好ましいが、具体的には、図1に示すように、培養液2が第2循環槽7bに戻されてから第1循環槽7aに貯蔵されても良く、図2に示すように、培養液2が第2循環槽7bから第1循環槽7aに向かう経路に供給されて第1循環槽7aに貯蔵されても良い。
【0050】
第2循環槽7bは、マイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生装置11を有していることが好ましい。第2循環槽7bがマイクロバブル発生装置11を有していることにより、栽培部4において植物3の生育中に植物3から培養液2に放出されたアレロパシー物質(詳細は後述する)をマイクロバブルによって効果的に消去することができ、培養液2の循環による培養液2中のアレロパシー物質の蓄積によって植物3の生育が妨げられないようにすることができる。
【0051】
マイクロバブルとは、気泡径が100μm以下の微細な気泡を指す。マイクロバブルによるアレロパシー物質の消去は、マイクロバブルの圧壊時にラジカルが生成され、このラジカルによってアレロパシー物質が分解されるためであると考えられる。
【0052】
マイクロバブル発生装置の種類としては、装置内にポンプによって圧力水を送り込んで旋回流を発生させてマイクロバブルを生成する旋回流式、ノズルから液体を高速に噴出させてマイクロバブルを生成するエジェクター式等があるが、マイクロバブル発生装置の小型化のために、スクリューを高速回転させることによってマイクロバブルを生成する回転式であることが好ましい。
【0053】
培養液中にマイクロバブルが残存していると、植物の根等を傷めてしまい、植物の生育を妨げたり、植物が枯れたりする場合がある。そのため、マイクロバブルを含む培養液が栽培部に供給されないように、マイクロバブル発生装置の作動中は第2循環槽の中の培養液を培養液循環経路において循環させないことが好ましい。図1を例に具体的に説明すると、第2循環槽7bのマイクロバブル発生装置11を作動させて、第2循環槽7b中の培養液2にマイクロバブルを発生させているときは、第2循環槽7bと第1循環槽7aとの間のポンプ10を停止させて、第2循環槽7b内の培養液2が第1循環槽7a内に供給されないようにすることが好ましい。
【0054】
また、マイクロバブルによる植物への悪影響を防ぐために、マイクロバブル発生装置の作動中だけでなく、マイクロバブル発生装置の作動を停止させてから発生させたマイクロバブルが全て消滅するまでの一定時間が経過するまでも、第2循環槽の中の培養液を培養液循環経路において循環させないことがより好ましい。つまり、第2循環槽7bのマイクロバブル発生装置11の作動中及び作動停止後の一定時間の間は、第2循環槽7bと第1循環槽7aとの間のポンプ10を停止させて、第1循環槽7aへ第2循環槽7bの培養液2が供給されないようにすることがより好ましい。このように培養液を培養液循環経路で循環させることにより、培養液中のアレロパシー物質を除去し、且つマイクロバブルが植物へ悪影響を与える可能性を低下させ、植物の収量を高めることができる。なお、マイクロバブル発生装置11の作動中に、第1循環槽7aと栽培部4との間のポンプを作動させることにより、栽培部4にマイクロバブルを含まない培養液2を供給することが可能となり、植物3を十分に生育することができる。
【0055】
また、培養液の供給を定期的、且つ定量的に行う観点から、本発明の水耕栽培装置1には、図1に示すように培養液が供給される培養液供給手段8を有することが好ましい。具体的には、栽培部に供給する以前に所望の培養液成分に調整された培養液貯蔵槽9を設けておき、当該貯蔵槽からポンプ10により定量的に培養液を供給するようにしても良い。
【0056】
また、培養液の管理の精度を向上させる観点から、本発明の水耕栽培装置の培養液循環経路には、温度計、pH計、及び電気伝導度計を備えることが好ましい。より好ましくは、栽培部に供給する前後において培養液の温度、pH、及び電気伝導度を計測できるようにすることが良い。
【0057】
さらに、本発明の水耕栽培装置の栽培部の一部が遮光されていることが好ましい。具体的には、栽培部が苗を栽培するための定植孔を有する水耕栽培用育成ボードを有しており、当該ボードが第1層(上部)及び第2層(下部)を有する積層構造であり、第1層が第2層よりも明度が高い構成とすることが好ましい。このような構成にすることで、上記水耕栽培用育成ボードからの反射光を利用し農作物の光合成に必要な光を増加させることによって農作物の育成を促進させ、また、水耕栽培用育成ボードからの透過光を減少させることで水耕栽培用育成ボードの培養液と接する面に藻が発生することを抑制することができる。
【0058】
栽培部において、生育中の植物の葉が折れたり根が切れたりすることがある。この葉や根の破片を放置すると、葉や根の破片からアレロパシー物質が放出されたり、葉や根の破片が培養液循環経路や培養液の分離手段である分離装置等で詰まったりという問題が発生するおそれがある。これらの問題の発生を防ぐため、栽培部において、植物の葉や根の破片等の異物を除去する異物除去手段を有していることが好ましい。異物除去手段としては、歯を粗い櫛状に並べた熊手状物を栽培部に備える、栽培部中の培養液を培養液循環経路に排出する排出口にメッシュ状物を配置する等が挙げられる。
【0059】
次に、本発明の水耕栽培装置を用いた水耕栽培方法について説明する。
【0060】
本発明の水耕栽培装置を用いて植物を水耕栽培するには、まず、水耕栽培装置の培養液循環経路において、培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除いた成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える成分を培養液循環経路外に排出させる(第1ステップ)。具体的には、例えば、培養液の水分を除く成分として、培養成分である窒素、リン酸イオン、鉄イオン、錫イオン、亜鉛イオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の成分の合計100質量%に対して、99質量%の成分を培養液循環経路外に排出することが好ましい。このようにすることで、培養液中のイオン成分の大部分の割合の成分が培養液循環経路外に排出されることになる。
【0061】
さらに、第1ステップを経た培養液の水分に対して新たに培養液が供給される(第2ステップ)。具体的には、例えば、第1ステップの培養液中の成分濃度が低下した状態で新たに培養液が供給されることになり、培養液中で不足するイオン成分が補充されると共に、培養液中のイオン成分バランスの再生を行うことができる。
【0062】
なお、第1ステップと第2ステップは、複数回繰返すことがより好ましい。このように行うことで、培養液中のイオン成分バランスの崩れをより一層改善することができる。また、第1ステップを経た培養液の水分に対してさらに水を追加しても良い。このようにすることで、培養液をほぼ真水の状態にすることができ、第2ステップにおける培養液の供給による培養液中のイオン成分バランスの再生をより促進できる。
【0063】
水耕栽培は土耕栽培とは異なり、培地として土を用いずに、植物の成育に必要な養水分に関して、水に肥料を溶かした液状肥料(培養液)として与えて栽培する方法であり、培養液を循環させる構成の違いにより噴射式、薄膜流水式(Nutrient Film Technique、以下NFTという。)と潅水式(Deep Flow Technique、以下DFTという。)に分類される。噴射式は、霧状または水滴状の培養液を植物の根に噴霧または滴下するものである。また、NFTは、培養液を浅い水深で流すものであり、DFTは、培養液を浴槽に貯め、より深い水深に漬けるものである。多くの植物工場では、植物生産管理のしやすさからDFTが採用されているが、本発明の水耕栽培装置、及び水耕栽培方法においては、上記噴射式、NFT、DFTのいずれの方法も用いることが可能である。
【0064】
また、水耕栽培において培養液を長期間使用すると、培養液中のイオン成分バランスの崩れの他に、植物の根、種子の殻等の腐敗により、植物が他の植物の生長を抑える物質(アレロケミカル)を放出したり、動物や微生物を引き寄せたりする効果があり、これらの効果を総称してアレロパシーと定義されている。水耕栽培の培養液中には、このアレロパシー物質(主に有機酸)の溶出や、ウイルス、バクテリア等の病原菌の繁殖により、植物の生長にとって有害となる成分が蓄積する。本発明の水耕栽培装置、及び水耕栽培方法によれば、上記有害な成分を含む培養液のうち、水分を除く成分の半分以上を培養液循環経路外に排出させ、その後、新たに培養液が補充されることから、培養液中のアレロパシー物質についても除去することができる。
【0065】
以上のように、本発明の水耕栽培装置、及び水耕栽培方法は、培養液の一部に対し、該培養液中の水分を除く成分の合計100質量%に対して、50質量%を超える該成分を前記培養液循環経路外に排出させる分離手段を有することにより、培養液中のイオン成分バランスの変動を抑えると共に、培養液を容易に管理することができ、さらにpH自動制御装置を加えることにより、水耕栽培における培養液管理のフリーメンテナンス化を可能にする。
【0066】
本願は、2017年2月6日に出願された日本国特許出願第2017-019906号に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年2月6日に出願された日本国特許出願第2017-019906号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0067】
1 水耕栽培装置
2 培養液
3 植物
4 栽培部
5 培養液循環経路
6 分離手段
7a 第1循環槽
7b 第2循環槽
8 培養液供給手段
9 培養液貯蔵槽
10 ポンプ
11 マイクロバブル発生装置
図1
図2
図3
図4