(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20221213BHJP
B66C 13/48 20060101ALI20221213BHJP
B66C 13/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B66C13/22 Y
B66C13/48 G
B66C13/00 D
(21)【出願番号】P 2019009724
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095370(JP,A)
【文献】特開2018-095375(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208435(WO,A1)
【文献】特開平08-333086(JP,A)
【文献】特開2000-086159(JP,A)
【文献】特開2014-105091(JP,A)
【文献】特開2013-018580(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1646918(KR,B1)
【文献】特開平10-226488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66C 23/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回台に起伏自在のブームが設けられるとともに、前記ブームから吊下げられているフックブロックおよびフックが設けられるクレーンであって、
前記クレーンによる搬送対象である荷物を
上方から撮影可能な第1カメラと、
前記第1カメラとは異なる
側方から前記荷物を撮影可能な第2カメラと、
前記クレーンを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置が、前記荷物を前記第1カメラと前記第2カメラにより撮影した画像を取得し、前記画像を画像処理して前記荷物の吊り位置を算出するクレーン。
【請求項2】
キャビンを備え、
前記第1カメラが、前記ブームに設けられており、
前記第2カメラが、前記キャビン前方の前記荷物を視認できる位置に設けられている請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記第1カメラが、前記ブームに設けられており、
前記第2カメラが、前記フックブロックに設けられている請求項1に記載のクレーン。
【請求項4】
前記制御装置によって、算出した前記吊り位置まで前記フックを自動的に移動させる請求項1
~請求項
3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記吊り位置が、前記荷物に設けた吊り具の位置である請求項1~請求項
4の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項6】
前記吊り位置が、前記荷物の重心位置を通る鉛直線上において該荷物より上方に設定した位置である請求項1~請求項
5の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項7】
前記制御装置が、前記画像を画像処理して前記荷物の重心位置を算出する請求項
6に記載のクレーン。
【請求項8】
前記制御装置が、前記荷物の形状情報が記憶された記憶装置と通信可能であり、前記記憶装置から前記荷物の形状情報を取得し、前記画像を画像処理した情報と前記荷物の形状情報に基づいて前記重心位置を算出する請求項
7に記載のクレーン。
【請求項9】
前記荷物が、複数の前記荷物を組み合わせて構成された複合体である請求項1~請求項
8の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項10】
前記制御装置が、逆動力学モデルに基づく制御により、前記吊り位置まで前記フックを自動的に移動させる請求項
4~請求項
9の何れか一項に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンにおいて、吊り上げた荷物を所望の設置位置まで自動運転で搬送する技術が知られている。例えば、特許文献1の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のクレーンでは、ブーム又はジブの先端に物体の占有領域を検出するセンサを設け、所定の走査範囲に存在する物体を検出することによって、自動運転により既に据え付けてある複数の柱や構造物の間に荷物を差し込んで据え付けることを可能にしており、荷物を障害物に接触させることなく所望の設置位置に精度よく位置決めしつつ搬送することを可能にしている。
【0004】
昨今、クレーン作業の更なる自動化が期待されているが、現状のクレーンでは、荷物の吊り上げに適した位置(以下、吊り位置と呼ぶ)を検出することができないため、荷物をフックに玉掛けするときには、操縦者の操作によって荷物の近傍までフックを移動させている。即ち、特許文献1に記載されているような従来のクレーンでは、荷物の吊り位置を検出することができないため、自動的に荷物の吊り位置にフックを位置決めすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、荷物の吊り位置にフックを自動的に位置決めすることを可能にするべく、荷物の吊り位置を検出することができるクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明に係るクレーンは、旋回台に起伏自在のブームが設けられるとともに、前記ブームから吊下げられているフックブロックおよびフックが設けられるクレーンであって、前記クレーンによる搬送対象である荷物を撮影可能な第1カメラと、前記第1カメラとは異なる視点から前記荷物を撮影可能な第2カメラと、前記クレーンを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記荷物を前記第1カメラと前記第2カメラにより撮影した画像を取得し、前記画像を画像処理して前記荷物の吊り位置を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るクレーンは、キャビンを備え、前記第1カメラが、前記ブームに設けられており、前記第2カメラが、前記キャビン前方の前記荷物を視認できる位置に設けられていることを特徴とする。
また、本発明に係るクレーンは、前記第1カメラが、前記ブームに設けられており、前記第2カメラが、前記フックブロックに設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るクレーンは、前記制御装置によって、算出した前記吊り位置まで前記フックを自動的に移動させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るクレーンは、前記吊り位置が、前記荷物に設けた吊り具の位置であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るクレーンは、前記吊り位置が、前記荷物の重心位置を通る鉛直線上において該荷物より上方に設定した位置であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るクレーンは、前記制御装置が、前記画像を画像処理して前記荷物の重心位置を算出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るクレーンは、前記制御装置が、前記荷物の形状情報が記憶された記憶装置と通信可能であり、前記記憶装置から前記荷物の形状情報を取得し、前記画像を画像処理した情報と前記荷物の形状情報に基づいて前記重心位置を算出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るクレーンは、前記荷物が、複数の前記荷物を組み合わせて構成された複合体であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るクレーンは、前記制御装置が、逆動力学モデルに基づく制御により、前記吊り位置まで前記フックを自動的に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
本発明に係るクレーンによれば、クレーンによって荷物の吊り位置を検出することができる。これにより、検出した荷物の吊り位置にフックを自動的に位置決めすることができる。
【0019】
また、本発明に係るクレーンによれば、クレーンによって荷物の吊り具を検出することができ、検出した吊り具の位置にフックを自動的に位置決めすることができる。
【0020】
また、本発明に係るクレーンによれば、クレーンによって荷物の重心位置を算出し、その重心位置の情報に基づいて吊り位置を設定することができ、設定した吊り位置にフックを自動的に位置決めすることができる。
【0021】
また、本発明に係るクレーンによれば、荷物が、複数の荷物を組み合わせて構成された複合体である場合に、クレーンによって荷物の重心位置を算出し、その重心位置の情報に基づいて吊り位置を設定することができ、設定した吊り位置にフックを自動的に位置決めすることができる。
【0022】
また、本発明に係るクレーンによれば、フックの揺れを抑えつつ、吊り位置までフックを自動的に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】クレーン全体の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】クレーンの画像処理に関する制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】ブームカメラとフックカメラによる荷物(マーカーなし)の撮影状況と撮影した映像の表示状況を示す図であり、(A)は、ブームカメラとフックカメラによる荷物の撮影状況を示す図、(B)は、表示装置における画像の表示状況を示す図である。
【
図5】ブームカメラとフックカメラによる荷物(マーカーあり)の撮影状況と撮影した映像の表示状況を示す図であり、(A)は、ブームカメラとフックカメラによる荷物の撮影状況を示す図、(B)は、表示装置における画像の表示状況を示す図である。
【
図6】カメラ画像の画像処理結果に基づくクレーンの自動運転の制御方法を示すフローチャートである。
【
図8】クレーンの逆動力学モデルに基づく制御工程を示すフローチャートである。
【
図9】複合体たる荷物の重心位置の算出方法を示す模式図である。
【
図10】ブームカメラとフックカメラによる複合体たる荷物(マーカーなし)の撮影状況と撮影した映像の表示状況を示す図であり、(A)は、ブームカメラとフックカメラによる荷物の撮影状況を示す図、(B)は、表示装置における画像の表示状況を示す図である。
【
図11】ブームカメラとフックカメラによる複合体たる荷物(マーカーあり)の撮影状況と撮影した映像の表示状況を示す図であり、(A)は、ブームカメラとフックカメラによる荷物の撮影状況を示す図、(B)は、表示装置における画像の表示状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、
図1と
図2とを用いて、本発明の一実施形態に係るクレーン(ラフテレーンクレーン)であるクレーン1について説明する。なお、本実施形態においてはラフテレーンクレーンを例示して説明を行うが、本発明の一実施形態に係るクレーンは、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、積載型トラッククレーン等のその他の形態のクレーンであってもよい。
【0025】
図1に示すように、クレーン1は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーン1は、車両2、クレーン装置6を有する。
【0026】
車両2は、クレーン装置6を搬送する走行体である。車両2は、複数の車輪3を有し、エンジン4を動力源として走行する。車両2にはアウトリガ5が設けられている。アウトリガ5は、車両2の幅方向両側に油圧によって延伸可能な張り出しビームと地面に垂直な方向に延伸可能な油圧式のジャッキシリンダとから構成されている。
【0027】
クレーン装置6は、例えば地上に置かれている荷物Wをワイヤロープに吊持されているフックにより引掛けて吊り上げることができる作業装置である。クレーン装置6は、旋回台7、ブーム9、メインフックブロック10、サブフックブロック11、起伏用油圧シリンダ12、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16およびキャビン17等を備えている。
【0028】
旋回台7は、車両2上でクレーン装置6を旋回可能に構成する回転装置である。旋回台7は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。旋回台7は、円環状の軸受の中心を回転中心として回転自在に構成されている。旋回台7には、アクチュエータである油圧式の旋回用油圧モータ8が設けられている。旋回台7は、旋回用油圧モータ8によって前記軸受を中心に一方向と他方向とに旋回可能に構成されている。
【0029】
図1および
図2に示すように、アクチュエータである旋回用油圧モータ8は、電磁比例切換弁である旋回用バルブ23によって回転操作される。旋回用バルブ23は、旋回用油圧モータ8に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、旋回台7は、旋回用バルブ23によって回転操作される旋回用油圧モータ8を介して任意の旋回速度に制御可能に構成されている。旋回台7には、旋回用センサ27が設けられている。
【0030】
ブーム9は、荷物Wを吊り上げ可能な状態にワイヤロープを支持する可動支柱である。ブーム9は、複数のブーム部材から構成されている。ブーム9は、ベースブーム部材の基端が旋回台7の略中央に揺動可能に設けられている。ブーム9は、各ブーム部材をアクチュエータである図示しない伸縮用油圧シリンダで移動させることで軸方向に伸縮自在に構成されている。また、ブーム9には、ジブ9aが設けられている。
【0031】
アクチュエータである図示しない伸縮用油圧シリンダは、電磁比例切換弁である伸縮用バルブ24によって伸縮操作される。伸縮用バルブ24は、伸縮用油圧シリンダに供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。ブーム9には、ブーム9の長さを検出する伸縮用センサ28が設けられている。
【0032】
検知装置であるブームカメラ9bは、荷物Wおよび荷物W周辺の地物等を撮影するものである。ブームカメラ9bは、ブーム9の先端部に設けられている。ブームカメラ9bは、上方から地上を撮影可能であり、地上の状況(クレーン1周辺の地物や地形)や地上に置かれた荷物Wを撮影した画像s1を取得可能に構成されている。
【0033】
メインフックブロック10とサブフックブロック11とは、荷物Wを吊るものである。メインフックブロック10には、メインワイヤロープ14が巻き掛けられる複数のフックシーブと、荷物Wを吊るメインフック10aとが設けられている。サブフックブロック11には、荷物Wを吊るサブフック11aが設けられている。
【0034】
起伏用油圧シリンダ12は、ブーム9を起立および倒伏させ、ブーム9の姿勢を保持するアクチュエータである。起伏用油圧シリンダ12は、シリンダ部の端部が旋回台7に揺動自在に連結され、ロッド部の端部がブーム9のベースブーム部材に揺動自在に連結されている。起伏用油圧シリンダ12は、電磁比例切換弁である起伏用バルブ25によって伸縮操作される。起伏用バルブ25は、起伏用油圧シリンダ12に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。ブーム9には、起伏用センサ29が設けられている。
【0035】
メインウインチ13とサブウインチ15とは、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16との繰り入れ(巻き上げ)および繰り出し(巻き下げ)を行うものである。メインウインチ13は、メインワイヤロープ14が巻きつけられるメインドラムがアクチュエータである図示しないメイン用油圧モータによって回転され、サブウインチ15は、サブワイヤロープ16が巻きつけられるサブドラムがアクチュエータである図示しないサブ用油圧モータによって回転されるように構成されている。
【0036】
メイン用油圧モータは、電磁比例切換弁であるメイン用バルブ26mによって回転操作される。メインウインチ13は、メイン用バルブ26mによってメイン用油圧モータを制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。同様に、サブウインチ15は、電磁比例切換弁であるサブ用バルブ26sによってサブ用油圧モータを制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。メインウインチ13とサブウインチ15とには、メインワイヤロープ14とサブワイヤロープ16の繰り出し量lをそれぞれ検出する巻回用センサ30が設けられている。
【0037】
キャビン17は、操縦席を覆う筐体である。キャビン17は、旋回台7に搭載されており、図示しない操縦席が設けられている。操縦席には、車両2を走行操作するための操作具やクレーン装置6を操作するための旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21m、サブドラム操作具21s等が設けられている。旋回操作具18は、旋回用油圧モータ8を操作することができる。起伏操作具19は、起伏用油圧シリンダ12を操作することができる。伸縮操作具20は、伸縮用油圧シリンダを操作することができる。メインドラム操作具21mは、メイン用油圧モータを操作することができる。サブドラム操作具21sは、サブ用油圧モータを操作することができる。
【0038】
GNSS受信機22は、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System)を構成する受信機であって、衛星から測距電波を受信し、受信機の位置座標である緯度、経度、標高を算出するものである。GNSS受信機22は、ブーム9の先端とキャビン17とに設けられている(以下、ブーム9の先端とキャビン17とに設けられているGNSS受信機22を総称して、「GNSS受信機22」と記す)。つまり、クレーン1は、クレーン1側GNSS受信機22によって、ブーム9の先端の位置座標とキャビン17の位置座標を取得することができる。
【0039】
フックカメラ31は、荷物Wの画像を撮影する機器である。フックカメラ31は、磁石等によりメインフックブロック10とサブフックブロック11とのうち、使用するフックブロックに着脱自在に設けられている。
図1においては、一対のフックカメラ31・31を、メインフックブロック10に設けた場合を例示している。また、
図4、
図5、
図7、
図8においては、フックカメラ31を、サブフックブロック11に設けた場合を例示している。フックカメラ31は、クレーン装置6の制御信号によって撮影方向を変更可能に構成されている。なお、本実施形態では、メインフックブロック10の向きと荷物Wの位置関係によっては荷物Wを撮影できない場合があることを考慮して2個以上のフックカメラ31・31を設ける構成としているが、メインフックブロック10によって視界を妨げられない位置にフックカメラ31を1個設ける構成としてもよい。また、本実施形態では、ブームカメラ9b以外のカメラとして、メインフックブロック10に設けたカメラ(フックカメラ31)を例示しているが、異なる視点から荷物Wの画像を取得できる構成であればよく、メインフックブロック10に設けるフックカメラ31に代えて、例えば、キャビン17前方の荷物Wを視認できる位置にカメラを設ける構成としてもよい。
【0040】
なお、複数のフックカメラ31・31のうち一のフックカメラ31は、メインフックブロック10の一側の側面に配置され、地表面の荷物Wを撮影できる第1フックカメラ31として構成されている。複数のフックカメラのうち他のフックカメラ31は、メインフックブロック10の他側の側面に配置され、地表面の荷物Wを撮影できる第2フックカメラ31として構成されている。各フックカメラ31・31は、撮影した画像s2を無線通信等によって送信することができる。
【0041】
即ち、クレーン1は、荷物Wを撮影するカメラとして、ブームカメラ9bとフックカメラ31を備えており、荷物Wを異なる方向から同時に撮影した画像s1・s2を取得可能に構成されている。
【0042】
図2に示すように、通信機33は、フックカメラ31からの画像s2のデータを受信する。また、通信機33は、外部サーバ等で運用されている記憶装置たるBIM(Building Information Modeling)40から荷物Wの情報や構造物の3次元データを取得することができる。通信機33は、画像s2を受信すると図示しない通信線を介して制御装置35に転送するように構成されている。通信機33は、キャビン17に設けられている。
【0043】
BIM40は、コンピュータにて作成された3次元デジタルモデルについて、建築物を構成する各資材の3次元形状、材質、重量などの属性データを追加したデータベースであり、建築物の設計、施工から維持管理に至るあらゆる工程で、そのデータベース情報を活用することができる。荷物Wは、前記「建築物を構成する各資材」に含まれる。BIM40は、リアルタイムにアクセス可能な外部サーバ等により構成され、前記データベース情報が登録されている。なお、本実施形態では、荷物Wの情報が記憶されている記憶装置として、外部サーバにより構成されるBIM40を用いる場合を例示しているが、クレーン1に荷物W等の情報が予め記憶されている記憶装置を搭載し、外部との通信を行わずに、荷物Wの情報や構造物の3次元データを取得することができる構成としてもよい。
【0044】
表示装置34は、ブームカメラ9bで撮影した画像s1、およびフックカメラ31で撮影した画像s2を表示するとともに、これらの画像s1・s2を画像処理して算出した情報を重畳して表示可能に構成された出力装置である。また、表示装置34は、吊り位置を取得したい(即ち、画像処理の対象たる)荷物を操縦者が指示するための入力装置としての機能を有している。表示装置34は、画面上に表示された荷物の画像をタップすることで、画像処理の対象たる荷物を指示することができるタッチパネルや、図示しないマウス等の操作具を備えている。表示装置34は、キャビン17内に設けられている。
【0045】
制御装置35は、各操作弁を介してクレーン1の各アクチュエータを制御する。また、制御装置35は、ブームカメラ9bやフックカメラ31で撮影した画像s1・s2の画像処理を行う。制御装置35は、キャビン17内に設けられている。制御装置35は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置35は、各アクチュエータや切換え弁、センサ等の動作を制御したり画像データを処理したりするために種々のプログラムやデータが格納されている。
【0046】
制御装置35は、旋回用センサ27、伸縮用センサ28、起伏用センサ29,起伏用センサ29および巻回用センサ30に接続され、旋回台7の旋回角度θz、伸縮長さLb、起伏角度θxおよびワイヤロープの繰り出し量lを取得することができる。
【0047】
制御装置35は、
図3に示すように、ブームカメラ9bに接続され、ブームカメラ9bで撮影した画像s1を取得し、表示装置34に画像s1を表示することができる。また、制御装置35は、通信機33、表示装置34に接続され、フックカメラ31で撮影した画像s2を取得し、表示装置34に画像s2を表示することができる。
【0048】
また、制御装置35は、旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sに接続されている。そして、操縦者の手動操作によってクレーン1を運転する場合、制御装置35は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sのそれぞれの操作量を取得し、各種操作具の操作により生成されるサブフック11aの目標速度信号Vdを生成する。
【0049】
そして、制御装置35は、旋回操作具18、起伏操作具19、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21sの操作量(即ち、上記目標速度信号Vd)に基づいて各操作具に対応したアクチュエータ姿勢信号Adを生成する。さらに、制御装置35は、ブームカメラ9bで撮影した画像s1と、フックカメラ31で撮影した画像s2の画像処理結果に基づいて、アクチュエータ姿勢信号Adを生成する。
【0050】
制御装置35は、旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mおよびサブ用バルブ26sに接続され、旋回用バルブ23、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mおよびサブ用バルブ26sにアクチュエータ姿勢信号Adを伝達することができる。
【0051】
制御装置35は、目標位置算出部35a、フック位置算出部35b、姿勢信号生成部35cを有している。
【0052】
目標位置算出部35aは、制御装置35の一部であり、画像s1・s2を画像処理してサブフック11aの移動目標である目標位置Pdを算出する。また、フック位置算出部35bは、制御装置35の一部であり、ブームカメラ9bで撮影した映像の画像処理結果より、サブフック11aの現在位置情報であるフック位置Pを算出する。また、姿勢信号生成部35cは、クレーン1への指令信号であるアクチュエータ姿勢信号Adを算出する。
【0053】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、起伏操作具19の操作によって起伏用油圧シリンダ12でブーム9を任意の起伏角度θxに起立させて、伸縮操作具20の操作によってブーム9を任意のブーム9長さに延伸させたりすることでクレーン装置6の揚程や作業半径を拡大することができる。また、クレーン1は、サブドラム操作具21s等によってサブフック11aを上下に移動させ、旋回操作具18の操作によって旋回台7を旋回させることで、サブフック11aを任意の位置に移動させることができる。
【0054】
また、クレーン1は、各操作具の操作によらず、制御装置35によって、サブフック11aを所定位置に自動的に移動させることができる。ここでいう所定位置は、荷物Wを玉掛けするのに適したサブフック11aの位置であり、例えば、荷物Wに付設された吊り具の位置や、荷物Wの重心の上方の位置である。以下では、このような所定位置を、吊り位置Agと呼ぶ。そして、クレーン1は、荷物Wを搬送する前の時点で、自動運転によって、サブフック11aを荷物Wの吊り位置Agまで移動させることができる。
【0055】
制御装置35は、
図3に示すように、ブームカメラ9bおよびフックカメラ31で撮影した画像s1・s2を画像処理部35dが取得し画像処理を行うことで、画像処理部35dが、荷物Wの3次元形状に係る情報である3次元形状情報Jaを生成する。制御装置35は、生成した3次元形状情報Jaに基づいて、荷物Wの状態(重心位置、設置位置、姿勢等)に対応したアクチュエータ姿勢信号Adを生成する。
【0056】
このように構成されるクレーン1は、制御装置35による荷物Wに係る画像s1・s2の画像処理結果に基づいて、自動的に起伏用油圧シリンダ12でブーム9を任意の起伏角度θxに起立させるとともに、自動的にブーム9を任意のブーム9長さに延伸させたりすることができる。また、クレーン1は、制御装置35による荷物Wに係る画像の画像処理結果に基づいて、自動的にサブフック11aを上下の任意の位置に移動させたり、自動的に旋回台7を任意の旋回角度に旋回させたりすることで、自動的にサブフック11aを任意の位置に移動させることができる。
【0057】
なお、クレーン1は、自動運転によって、荷物Wを所定の位置に設置したときの該荷物Wの直上の位置にサブフック11aを移動させることによって、荷物Wを自動運転で所定位置に設置する用途にも活用できる。BIM40に登録されている荷物Wの情報に、荷物Wの設置位置に係る情報が含まれている場合には、クレーン1は、荷物Wの設置位置まで、自動的に荷物Wを搬送することも可能になる。
【0058】
次に、クレーン1の自動運転を実現するための構成について、さらに詳細に説明する。ここではまず、クレーン1における荷物Wを検出するための構成について説明する。
【0059】
制御装置35は、荷物Wをブームカメラ9bで撮影した画像s1と、それと同時に同じ荷物Wをフックカメラ31で撮影した画像s2を画像処理部35dで取得する。画像処理部35dは、各画像s1・s2からステレオカメラの原理に基づいて画像処理を行い、サブフック11aと荷物Wとの距離の情報や、荷物Wの3次元形状に係る情報(以下、3次元形状情報Jaと呼ぶ)を算出する。3次元形状情報Jaは、荷物Wの外形形状に係る情報であり、寸法情報を含んでいる。
【0060】
制御装置35は、重心設定部35eによって、算出した3次元形状情報Jaと、BIM40に登録されている荷物Wの3次元形状に係る情報(以下、マスター情報Jmと呼ぶ)とを照合し、3次元形状情報Jaに外形形状および寸法が一致するマスター情報Jmを探索する。そして、重心設定部35eは、3次元形状情報Jaに一致するマスター情報Jmを検出したときに、そのマスター情報Jmを、画像s1・s2に係る荷物Wの情報として紐付けする。
【0061】
マスター情報Jmは、BIM40に登録されている情報であり、荷物Wの3次元形状、重量、重心位置、等に関する情報が、荷物Wの種類ごとに準備されている。マスター情報Jmは、クレーン1によって搬送することが予定されている各荷物Wについて、BIM40に予め入力しておくことにより準備される。
【0062】
次に、検出した荷物Wを表示する表示装置34の構成について、さらに詳細に説明する。
【0063】
図3に示すように、クレーン1は、表示装置34を備えている。表示装置34は、ブームカメラ9bで撮影した画像s1を表示可能なディスプレイ34a(
図4(B)参照)を備えており、各カメラ9b・31によって荷物Wを上方からリアルタイムで撮影した画像s1・s2を表示することができる。また、表示装置34は、重心設定部35eで設定した荷物Wの重心位置Gに係る情報を画像変換部35fで画像に変換し、画像s1・s2に重畳させて表示することができる。このような構成により、操縦者は、荷物Wの重心位置Gを表示装置34のディスプレイ34a上で確認することができる。
【0064】
図4(B)に示すように、クレーン1では、表示装置34に、荷物Wの画像s1・s2および重心位置Gが表示されている。制御装置35は、算出した荷物Wの重心位置Gに基づいて、荷物Wの吊り位置Agを設定する。制御装置35は、
図4(B)に示すように、設定した吊り位置Agとサブフック11aのフック位置Pを、マーカーMを含む画像s1・s2に重畳させて表示装置34のディスプレイ34aに表示する。操縦者は、表示装置34によって、サブフック11aのフック位置Pと吊り位置Agとの位置関係を的確に把握することができる。また、操縦者は、ディスプレイ34aに表示されている画像を見ながら、吊り位置Ag(重心位置G)にサブフック11aの位置が一致するように操作を行って、サブフック11aを吊り位置Agに配置することも可能である。
【0065】
また、表示装置34は、
図4(B)に示すように、ディスプレイ34a上に吊り位置Agに対するサブフック11aの距離が、XYZの各軸方向の距離として数値で表示されるように構成されており、操縦者がこの数値を見ることで、例えば、高さ方向におけるサブフック11aと吊り位置Agとの距離を把握することができるように構成されている。
【0066】
なお、表示装置34は、フックカメラ31が荷物Wに対して所定の距離未満に接近したときには、ブームカメラ9bが撮影した画像s1に代えて、フックカメラ31で撮影した画像s2を表示することができるように構成されている。フックカメラ31は、ブームカメラ9bに比して、荷物Wにより接近した位置で該荷物Wを撮影でき、荷物Wのより詳細(高精細)な画像を取得することができる。このため、各カメラ9b・31と荷物Wとの距離に応じて、表示するカメラ画像を切り替えることで、フックカメラ31が荷物Wに接近するほど画像処理による重心位置Gの算出精度が向上し、ひいては、サブフック11aの位置決め精度を向上させることができる。
【0067】
次に、クレーン1における荷物Wの重心位置Gを検出するための構成について説明する。
【0068】
制御装置35は、算出した3次元形状情報Jaから、荷物Wの姿勢に係る情報(以下、姿勢情報Jbと呼ぶ)を特定する。姿勢情報Jbは、荷物Wの姿勢(どのような向きで配置されているか)に係る情報である。また、制御装置35は、紐付けされたマスター情報Jmから、荷物Wの重心位置Gを取得し、姿勢情報Jbと重心位置Gとに基づいて、荷物Wの重心位置Gの3次元座標を特定する。
【0069】
なお、上記説明は、
図4に示すように、制御装置35によって、荷物Wをブームカメラ9bで撮影した画像s1と、それと同時に同じ荷物Wをフックカメラ31で撮影した画像s2から、ステレオカメラの原理に基づいて画像処理を行い荷物Wの3次元形状情報Jaを算出する構成を示したが、荷物Wの3次元形状情報Jaの算出方法はこれに限定されない。
【0070】
あるいは、クレーン1は、
図5(A)に示すように、荷物Wの表面に複数のマーカーMを設けて、ブームカメラ9bとフックカメラ31でマーカーMを読み取ることによって、荷物Wの3次元形状情報Jaおよび姿勢情報Jbを取得する構成としてもよい。例えば、荷物Wの各側面(例えば各コーナー部)に、それぞれ種類(色・形状・模様等)が異なるマーカーMを配置しておき、3個以上のマーカーMをブームカメラ9bおよびフックカメラ31で撮影することによって、その3個以上のマーカーMの相対的な位置関係から姿勢情報Jbを取得する。クレーン1は、マーカーMより荷物Wのマスター情報Jmを特定して、3次元形状情報Jaを取得することができ、さらに、各マーカーMの位置関係より姿勢情報Jbを取得することができる。なお、荷物Wに対してどのようなマーカーMをどのような配置で設けているかに係る情報は、BIM40あるいは制御装置35に予め登録しておく。
【0071】
次に、クレーン1における荷物Wの吊り位置Agを設定するための構成について説明する。
【0072】
制御装置35は特定した重心位置Gに基づいて、その直上に吊り位置Agを設定する。吊り位置Agは、荷物Wの重心位置Gを通る鉛直線上の位置であり、
図4(A)に示すように、重心位置Gから鉛直上方に所定の距離Hだけ離間した位置である。距離Hは、荷物Wの大きさや玉掛けに用いる吊ワイヤーの長さ等を考慮して設定される。吊り位置Agは、3次元座標として設定される。
【0073】
なお、例えば、アイボルト等の吊り具が荷物Wに付設されており、当該アイボルトが荷物Wの吊り位置Agとなる場合には、画像s1・s2に基づく画像処理結果によって、吊り具の存在およびその吊り具位置を特定して吊り位置Agを設定したり、あるいは、荷物Wに係る吊り具の情報を予めBIM40に登録しておき、BIM40に登録されている吊り具の情報(吊り具位置)から吊り位置Agを設定したりすることができる。
【0074】
あるいは、制御装置35は、
図5(B)に示すように、設定した吊り位置Agとサブフック11aのフック位置Pを、マーカーMを含む画像s1・s2に重畳させて表示装置34のディスプレイ34aに表示する。操縦者は、表示装置34によって、サブフック11aのフック位置Pと吊り位置Agとの位置関係を的確に把握することができる。
【0075】
次に、サブフック11aを吊り位置Agに移動させる制御方法について説明する。ここではまず、サブフック11aを吊り位置Agに移動させる第1の制御方法について説明する。
【0076】
第1の制御方法による吊り位置Agへのサブフック11aの自動移動方法では、まず、クレーン1の操縦者が、表示装置34のディスプレイ34aの表示を見ながら、搬送対象たる荷物Wをブームカメラ9bによって撮影できる状態とするようにクレーン1を操作する。そして、操縦者は、ディスプレイ34aに表示されている荷物Wのうち、搬送対象の荷物Wを指定する(例えば、画面をタップする)。クレーン1は、操縦者によって、搬送対象たる荷物Wを指定する操作を行うことによって、以下の自動運転が開始される。
【0077】
自動運転が開始されると、
図6に示すように、制御装置35の目標位置算出部35aは、各カメラ9b・31から画像s1・s2を単位時間t毎に取得し、画像s1・s2を画像処理して得た3次元形状情報Jaおよび姿勢情報Jbから荷物Wの種類を特定するとともに、目標位置Pdを算出する。そして、目標位置算出部35aは、BIM40に登録されている荷物Wのマスター情報Jmに基づいて目標位置Pdを算出する。目標位置Pdは、荷物Wの重心位置Gおよび吊り位置Agに係る情報を含んでいる。
【0078】
次に、フック位置算出部35bは、ブームカメラ9bで撮影した画像s1の画像処理結果より、サブフック11aの現在位置情報であるフック位置Pを算出する。
【0079】
次に、姿勢信号生成部35cは、現在のフック位置Pと設定した目標位置Pdとの相対距離Dpを算出する。ここで、姿勢信号生成部35cは、ブームカメラ9bとフックカメラ31によって撮影した画像の画像処理結果から相対距離Dpを算出する。
【0080】
次に、姿勢信号生成部35cは、算出した相対距離Dpに基づいて逆モデル計算を行い、フック位置Pを目標位置Pdに一致させるためのブーム姿勢角(旋回角度θz、伸縮長さlb、起伏角度θx)とワイヤロープの繰り出し量lのフィードフォワード量(FF量とも呼ぶ)を算出する。なお、逆モデル計算とは、望ましい運動結果から、それを実現するために必要な運動司令を計算するものである。
【0081】
これと同時に、姿勢信号生成部35cは、各センサが検出したクレーン情報より現在のフック位置Pをフィードバックして、目標位置Pdとの差分に基づいて逆モデル計算を行い、フック位置Pを目標位置Pdに一致させるためのブーム姿勢角(旋回角度θz、伸縮長さlb、起伏角度θx)とワイヤロープの繰り出し量lのフィードバック量(FB量とも呼ぶ)を算出する。
【0082】
次に、姿勢信号生成部35cは、FF量とFB量を合算して、クレーン1への指令信号であるアクチュエータ姿勢信号Adを算出する。
【0083】
このように構成される制御装置35を備えたクレーン1では、制御装置35によって、算出したアクチュエータ姿勢信号Adを各バルブに出力することによって、フック位置Pを目標位置Pdに近づけていく。そして、制御装置35は、フック位置Pと目標位置Pdが一致するまで、所定の周期にてアクチュエータ姿勢信号Adの算出を繰り返し実行する。なお、制御装置35は、フック位置Pと目標位置Pdとの距離が所定の閾値以下となったときにフック位置Pと目標位置Pdが一致したものと判断する。最終的なフック位置Pは、アクチュエータ姿勢信号Adに基づくクレーン1の動作に、外乱Dの影響が加わった結果として定められる。
【0084】
このような制御方法を採用したクレーン1では、ブームカメラ9bとフックカメラ31で撮影した画像に基づいて目標位置Pdを算出しており、距離情報から位置制御を実施するようにしているため、速度制御による位置合わせに比べて、位置合わせの誤差を小さくすることができる。
【0085】
次に、サブフック11aを吊り位置Agに移動させるための第2の制御方法について説明する。なお、自動運転が開始されるまでの手順は、上述した第1の制御方法の場合と同様とすることができる。そして、自動運転が開始されると、以下に示す制御方法が実行される。
【0086】
クレーン1において、サブフック11aを吊り位置Agに移動させるための第2の制御方法では、
図8に示すように、クレーン1の逆動力学モデルを定める。逆動力学モデルは、グローバル座標系であるXYZ座標系に定義され、原点Oをクレーン1の旋回中心とする。原点Oのグローバル座標は、GNSS受信機22から取得するものとする。qは、例えばブーム9先端の現在位置座標q(n)を示し、pは、例えばサブフック11aの現在位置座標p(n)を示す。lbは、例えばブーム9の伸縮長さlb(n)示し、θxは、例えば起伏角度θx(n)を示し、θzは、例えば旋回角度θz(n)を示す。lは、例えばワイヤロープの繰り出し量l(n)を示し、fはワイヤロープの張力fを示し、eは、例えばワイヤロープの方向ベクトルe(n)を示す。
【0087】
このように定まる逆動力学モデルにおいてブーム9の先端の目標位置qとサブフック11aの目標位置pとの関係が、サブフック11aの目標位置pとサブフック11aの質量mとワイヤロープのばね定数kfとから式(1)によって表され、ブーム9の先端の目標位置qが、サブフック11aの時間の関数である式(2)によって算出される。
【数1】
【数2】
f:ワイヤロープの張力、kf:ばね定数、m:サブフック11aの質量、q:ブーム9の先端の現在位置または目標位置、p:サブフック11aの現在位置または目標位置、l:ワイヤロープの繰り出し量、e:方向ベクトル、g:重力加速度
【0088】
ローパスフィルタLpは、所定の周波数以上の周波数を減衰させるものである。目標位置算出部35aは、目標位置Pdの信号にローパスフィルタLpを適用することにより微分操作による特異点(急激な位置変動)の発生を防止している。本実施形態において、ローパスフィルタLpは、ばね定数kfの算出時における四階微分に対応するため四次のローパスフィルタLpを用いているが、所望する特性に合わせた次数のローパスフィルタLpを適用することができる。式(3)におけるa、bは係数である。
【0089】
【0090】
ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、以下の式(4)から算出される。
ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、ブーム9の先端位置であるブーム9の現在位置座標q(n)とサブフック11aの位置であるサブフック11aの現在位置座標p(n)の距離で定義される。つまり、ワイヤロープの繰り出し量l(n)は、玉掛け具の長さを含んでいる。
【0091】
【0092】
ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、以下の式(5)から算出される。
ワイヤロープの方向ベクトルe(n)は、ワイヤロープの張力f(式(1)参照)の単位長さのベクトルである。ワイヤロープの張力fは、サブフック11aの現在位置座標p(n)と単位時間t経過後のサブフック11aの目標位置座標p(n+1)から算出されるサブフック11aの加速度から重力加速度を減算したものである。
【0093】
【0094】
単位時間t経過後のブーム9先端の目標位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)は、以下の式(1)をnの関数で表した式(6)から算出される。ここで、αは、ブーム9の旋回角度θz(n)を示している。
ブーム9の目標位置座標q(n+1)は、逆動力学を用いてワイヤロープの繰り出し量l(n)とサブフック11aの目標位置座標p(n+1)と方向ベクトルe(n+1)とから算出される。
【0095】
【0096】
ここで、上述した第2の制御方法を実現する制御装置35の構成について説明する。目標位置算出部35aは、各カメラ9b・31から画像s1・s2を単位時間t毎に取得することができ、画像s1・s2を画像処理して得た3次元形状情報Jaおよび姿勢情報Jbから荷物Wの種類を特定するとともに、目標位置Pdを算出する。
【0097】
フック位置算出部35bは、ブームカメラ9bで撮影した画像s1の画像処理結果より、サブフック11aの現在位置情報であるフック位置Pを算出する。また、フック位置算出部35bは、ブーム9の姿勢情報からブーム9の先端の位置座標を算出するとともに、巻回用センサ30からメインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16(以下、単に「ワイヤロープ」と記す)の繰り出し量l(n)を取得し、サブフック11aの位置座標としてフック位置Pを算出してもよい。この場合、フック位置算出部35bは、旋回用センサ27から旋回台7の旋回角度θz(n)を取得し、伸縮用センサ28から伸縮長さlb(n)を取得し、起伏用センサ29から起伏角度θx(n)を取得する。
【0098】
そして、フック位置算出部35bは、取得した現在のフック位置Pであるサブフック11aの現在位置座標p(n)を算出し、取得した旋回角度θz(n)、伸縮長さlb(n)、起伏角度θx(n)からブーム9先端の現在位置であるブーム9の先端(ワイヤロープの繰り出し位置)の現在位置座標q(n)(以下、単に「ブーム9の現在位置座標q(n)」と記す)を算出することができる。
【0099】
また、フック位置算出部35bは、サブフック11aの現在位置座標p(n)とブーム9の現在位置座標q(n)とからワイヤロープの繰り出し量l(n)を算出することができる。さらに、フック位置算出部35bは、サブフック11aの現在位置座標p(n)と単位時間t経過後のサブフック11aの目標位置であるサブフック11aの目標位置座標p(n+1)とからサブフック11aが吊り下げられているワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)を算出することができる。フック位置算出部35bは、逆動力学を用いてサブフック11aの目標位置座標p(n+1)と、ワイヤロープの方向ベクトルe(n+1)とから単位時間t経過後のブーム9先端の目標位置であるブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出するように構成されている。
【0100】
姿勢信号生成部35cは、単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)からアクチュエータ姿勢信号Adを生成する。姿勢信号生成部35cは、フック位置算出部35bから単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を取得することができる。姿勢信号生成部35cは、旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mまたはサブ用バルブ26sへのアクチュエータ姿勢信号Adを生成するように構成されている。
【0101】
ここで、
図8を用いて、制御装置35におけるアクチュエータ姿勢信号Adを生成するためのサブフック11aの目標位置Pdの算出およびブーム9の先端の目標位置座標q(n+1)の算出工程について記載する。
【0102】
図8に示すように、ステップS100において、制御装置35は、目標位置算出工程Aを開始する。制御装置35は、取得した荷物Wの重心位置Gより吊り位置Agを単位時間t毎に算出して目標位置算出工程Aが終了するとステップをステップS200に移行させる。
【0103】
ステップ200において、制御装置35は、フック位置算出工程Bを開始する。制御装置35は、サブフック11aの現在位置座標p(n)、ブーム9の現在位置座標q(n)からブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出してフック位置算出工程Bが終了するとステップをステップS300に移行させる。
【0104】
ステップ300において、制御装置35は、作動信号生成工程Cを開始する。制御装置35は、旋回台7の旋回角度θz(n+1)、伸縮長さLb(n+1)、起伏角度θx(n+1)、ワイヤロープの繰り出し量l(n+1)から旋回用バルブ23、伸縮用バルブ24、起伏用バルブ25、メイン用バルブ26mまたはサブ用バルブ26sのアクチュエータ姿勢信号Adをそれぞれ生成し、作動信号生成工程Cを終了してステップをステップS100に移行させる。
【0105】
制御装置35は、目標位置算出工程Aとフック位置算出工程Bと作動信号生成工程Cとを繰り返すことで、ブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出し、単位時間t経過後に、ワイヤロープの繰り出し量l(n+1)とサブフック11aの現在位置座標p(n+1)とサブフック11aの目標位置座標p(n+2)からワイヤロープの方向ベクトルe(n+2)を算出し、ワイヤロープの繰り出し量l(n+1)とワイヤロープの方向ベクトルe(n+2)とから、更に単位時間t経過後のブーム9の目標位置座標q(n+2)を算出する。つまり、制御装置35は、ワイヤロープの方向ベクトルe(n)を算出し、逆動力学を用いてサブフック11aの現在位置座標p(n+1)とサブフック11aの目標位置座標p(n+1)とワイヤロープの方向ベクトルe(n)とから単位時間t後のブーム9の目標位置座標q(n+1)を順次算出する。制御装置35は、ブーム9の目標位置座標q(n+1)に基づいてアクチュエータ姿勢信号Adを生成するフィードフォワード制御によって各アクチュエータを制御している。
【0106】
このような制御方法を採用することで、クレーン1は、ブームカメラ9bとフックカメラ31で撮影した画像に基づいて目標位置Pdを算出しているので、距離情報から位置制御を実施するようにしているため、従来行われていた速度制御による位置合わせに比べて、位置合わせの誤差を小さくすることができる。また、クレーン1は、目標位置Pdとフック位置Pの距離を基準としてブーム9の制御信号を生成するとともに、操縦者の意図する目標軌道に基づいてブーム9の制御信号が生成されるフィードフォワード制御が適用されている。このため、クレーン1は、操作信号に対する応答遅れが小さく、応答遅れによる荷物Wの揺れを抑制している。また、逆動力学モデルを構築し、ワイヤロープの方向ベクトルe(n)とサブフック11aの現在位置座標p(n+1)とサブフック11aの目標位置座標p(n+1)とからブーム9の目標位置座標q(n+1)が算出されるので加減速等による過渡状態の誤差が生じない。更に、ブーム9の目標位置座標q(n+1)を算出する際の微分操作によって生じる特異点を含む周波数成分が減衰されるので、ブーム9の制御が安定する。これにより、サブフック11aを目標位置たる吊り位置Agに移動させる際に、サブフック11aの揺れを抑制させることができる。
【0107】
次に、
図9を用いて、荷物Wが複数の荷物を結合した複合体である場合の重心位置Gの算出方法について説明する。ここでは、荷物Wが、二つの荷物Waと荷物Waが地組みされた(結合された)複合体である場合の重心位置Gの算出方法を例示して説明する。
【0108】
荷物Waは、BIM40に登録された情報により重量Aと重心位置Gaが既知である。また、荷物Wbは、BIM40に登録された情報により重量Bと重心位置Gbが既知である。荷物Waと荷物Wbを結合して荷物Wを形成した場合、荷物Wの重量は(A+B)である。また、荷物Wの重心位置Gは、重心位置Gaと重心位置Gbとを結ぶ直線Xg上に位置することとなる。そして、荷物Wの重心位置Gが直線Xg上のどの位置となるかは、荷物Waと荷物Waの重量比により定まる。
【0109】
クレーン1では、各荷物Wa・Wbに係る情報をBIM40から取得することができるため、制御装置35が、BIM40から各荷物Wa・Wbの情報(重量、重心位置、姿勢、結合後の形状)を取得し、上記演算を行うことによって結合体たる荷物Wの重心位置Gを算出することができる。なお、荷物Wが3個以上の荷物からなる複合体である場合には、上記計算の応用により、荷物Wにおける重心位置Gを算出することができる。なお、荷物Waと荷物Wbを地組みしてからクレーン1による楊重を行う予定が予め判っている場合には、BIM40に、複合体たる荷物Wの情報(重量、重心位置、姿勢、形状)を予め登録しておいて、この複合体たる荷物Wの情報を直接利用する構成としてもよい。
【0110】
次に、複合体たる荷物Wを検出するための構成について説明する。ここでは、荷物Wが、3つの荷物W1、W2、W3の複合体である場合を例示して説明する。
【0111】
制御装置35は、
図10(A)に示すように、3つの荷物W1、W2、W3からなる荷物Wをブームカメラ9bで撮影した各画像s1・s1・s1と、それと同時に同じ荷物Wをフックカメラ31で撮影した画像s2・s2・s2を画像処理部35dで取得する。画像処理部35dは、各画像s1・s2からステレオカメラの原理に基づいて画像処理を行い、荷物Wの3次元形状情報Jaを算出する。
【0112】
制御装置35は、3次元形状情報Jaに基づいて、荷物Wが3つの荷物W1、W2、W3から構成されていることを検出する。そして、制御装置35は、3つの荷物W1、W2、W3のそれぞれについて、個別の3次元形状情報Ja1、Ja2、Ja3を算出する。
【0113】
制御装置35は、重心設定部35eによって、算出した各3次元形状情報Ja1、Ja2、Ja3と、BIM40に登録されているマスター情報Jmとを照合し、各3次元形状情報Ja1、Ja2、Ja3に外形形状および寸法が一致するマスター情報Jm1、Jm2、Jm3を探索する。そして、重心設定部35eは、各3次元形状情報Ja1、Ja2、Ja3に一致する各マスター情報Jm1、Jm2、Jm3を検出したときに、その各マスター情報Jm1、Jm2、Jm3を、画像s1・s2に係る各荷物W1、W2、W3の情報としてそれぞれに紐付けする。
【0114】
次に、複合体たる荷物Wの重心位置Gを検出するための構成について説明する。
【0115】
制御装置35は、算出した各3次元形状情報Ja1、Ja2、Ja3から、荷物Wを構成する各荷物W1、W2、W3の姿勢に係る姿勢情報Jb1、Jb2、Jb3を特定する。また、制御装置35は、紐付けされたマスター情報Jmから、各荷物Wの重心位置G1、G2、G3を取得し、各姿勢情報Jb1、Jb2、Jb3と重心位置G1、G2、G3とに基づいて、荷物Wの重心位置Gの3次元座標を特定する。
【0116】
そして、制御装置35は、算出した荷物Wの重心位置Gに基づいて、荷物Wの吊り位置Agを設定する。制御装置35は、
図10(B)に示すように、荷物Wに設定した吊り位置Agとサブフック11aのフック位置Pを、画像s1・s2に重畳させて表示装置34のディスプレイ34aに表示する。操縦者は、表示装置34によって、サブフック11aのフック位置Pと吊り位置Agとの位置関係を的確に把握することができる。
【0117】
なお、上記説明は、制御装置35によって、荷物W1、W2、W3を個別に捉えて、複合体たる荷物Wの重心位置Gを算出する場合を例示しているが、複合体たる荷物Wとして3次元形状情報JaがBIM40に登録されている場合には、荷物Wを一体として捉えて、BIM40の3次元形状情報Jaを利用して複合体たる荷物Wの姿勢情報Jbを算出し、制御装置35によって、3次元形状情報Jaと姿勢情報Jbから複合体たる荷物Wの重心位置Gを直接算出する構成としてもよい。
【0118】
あるいは、荷物Wが、3つの荷物W1、W2、W3の複合体である場合において、クレーン1は、各荷物W1、W2、W3に設けたマーカーMに基づいて、荷物Wの3次元形状情報Jaや姿勢情報Jbを取得して、荷物Wの重心位置Gを算出し、吊り位置Agを設定する構成としてもよい。
【0119】
クレーン1は、
図11(A)に示すように、荷物Wの表面に設けた複数のマーカーMをブームカメラ9bとフックカメラ31で読み取ることによって、荷物Wの3次元形状情報Jaおよび姿勢情報Jbを取得することができる。
【0120】
この場合、制御装置35は、荷物W1、W2、W3を個別に捉えて、各重心位置G1、G2、G3を算出してから荷物Wの重心位置Gを算出してもよいし、複合体たる荷物Wの3次元形状情報JaがBIM40に登録されている場合には、荷物Wを一体として捉えて、制御装置35によって、マーカーMを読み取った情報に基づいて3次元形状情報Jaと姿勢情報Jbを取得し、複合体たる荷物Wの重心位置Gを直接算出してもよい。
【0121】
そして、制御装置35は、算出した荷物Wの重心位置Gに基づいて、荷物Wの吊り位置Agを設定する。制御装置35は、
図11(B)に示すように、設定した吊り位置Agとサブフック11aのフック位置Pを、マーカーMを含む画像s1・s2に重畳させて表示装置34のディスプレイ34aに表示する。操縦者は、表示装置34によって、サブフック11aのフック位置Pと吊り位置Agとの位置関係を的確に把握することができる。
【0122】
なお、本実施形態においては、移動式クレーンであるクレーン1を例示して説明したが、本発明に係るフックの自動運転の手法は、荷物Wをフックで吊り上げるように構成した種々の装置に適用することが可能である。また、クレーン1は、荷物Wの移動方向を傾倒方向で指示し、荷物Wの移動速度を傾倒角度で指示する操作スティックを有る遠隔操作端末によって遠隔操作する構成でもよい。この際、クレーン1は、遠隔操作端末にフックカメラが撮影した画像を表示することで、操縦者が遠隔地からでも荷物Wの周辺の状況を的確に把握することができる。また、クレーン1は、フックカメラが撮影した画像に基づく荷物Wの現在位置情報をフィードバックすることによりロバスト性を向上させることができる。このように、クレーン1は、荷物Wの重量や外乱による特性の変化を意識することなく荷物Wを安定して移動させることができる。
【0123】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0124】
1 クレーン
7 旋回台
9 ブーム
9b ブームカメラ(第1カメラ)
10 メインフックブロック(フックブロック)
10a メインフック(フック)
11 サブフックブロック(フックブロック)
11a サブフック(フック)
31 フックカメラ(第2カメラ)
35 制御装置
s1 (第1カメラの)画像
s2 (第2カメラの)画像
W 荷物
G (荷物の)重心位置