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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】回転工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20221213BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20221213BHJP
   B23D 77/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 S
B23B51/00 P
B23C5/10 Z
B23D77/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019014678
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020121372
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-244412(JP,A)
【文献】特開平02-100807(JP,A)
【文献】特開2006-346832(JP,A)
【文献】特開平03-142118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23C 5/10
B23D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って延び、前記中心軸回りの周方向のうち工具回転方向に回転させられる回転工具であって、
切刃を有する刃部と、
前記刃部よりも軸方向の後端側に配置され、前記刃部の外径よりも大きな外径とされたシャンク部と、
軸方向において前記刃部と前記シャンク部との間に配置され、軸方向の後端側へ向かうに従い外径が大きくなる外径遷移部と、
少なくとも前記刃部および前記外径遷移部に配置され、軸方向に延びる切屑排出溝と、を備え、
前記切刃は、前記刃部、前記外径遷移部および前記シャンク部のうち、前記刃部にのみ形成され、
前記外径遷移部の心厚の最小値が、前記刃部の心厚の最大値よりも小さく、
前記切屑排出溝は、
前記刃部に位置する刃溝部と、
前記刃溝部と繋がり前記外径遷移部に位置する遷移溝部と、を有し、
前記遷移溝部の周方向の幅が、前記刃溝部の周方向の幅よりも大きく、
前記外径遷移部の心厚が最小となる軸方向位置における前記外径遷移部の前記中心軸に垂直な断面の面積が、前記刃部の心厚が最大となる軸方向位置における前記刃部の前記中心軸に垂直な断面の面積よりも大きい、
回転工具。
【請求項2】
前記刃部の心厚が、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い小さくなる、
請求項1に記載の回転工具。
【請求項3】
前記切屑排出溝が前記シャンク部にも配置され、
前記切屑排出溝は、前記刃溝部および前記遷移溝部と繋がり前記シャンク部に位置するシャンク溝部を有する、
請求項1または2に記載の回転工具。
【請求項4】
前記遷移溝部の軸方向の長さと前記シャンク溝部の軸方向の長さとの和が、前記刃部の外径以上である、
請求項3に記載の回転工具。
【請求項5】
前記刃溝部の溝底の形状と前記遷移溝部の溝底の形状とが、互いに異なる、
請求項1からのいずれか1項に記載の回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリル、エンドミル、リーマ等の回転工具が知られている。特許文献1に記載のドリルは、先端切刃および外周切刃が形成されるドリル本体と、ドリル本体の外径よりも大きな外径のシャンクと、ドリル本体とシャンクとの間に配置される遷移部と、を備える。ドリル本体にはねじれ溝が形成され、シャンクには前記ねじれ溝に連続する他のねじれ溝が形成され、他のねじれ溝の底部がねじれ溝と同形同大とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-346832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転工具では、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性を高める点において改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性が高められる回転工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、中心軸に沿って延び、前記中心軸回りの周方向のうち工具回転方向に回転させられる回転工具であって、切刃を有する刃部と、前記刃部よりも軸方向の後端側に配置され、前記刃部の外径よりも大きな外径とされたシャンク部と、軸方向において前記刃部と前記シャンク部との間に配置され、軸方向の後端側へ向かうに従い外径が大きくなる外径遷移部と、少なくとも前記刃部および前記外径遷移部に配置され、軸方向に延びる切屑排出溝と、を備え、前記切刃は、前記刃部、前記外径遷移部および前記シャンク部のうち、前記刃部にのみ形成され、前記外径遷移部の心厚の最小値が、前記刃部の心厚の最大値よりも小さく、前記切屑排出溝は、前記刃部に位置する刃溝部と、前記刃溝部と繋がり前記外径遷移部に位置する遷移溝部と、を有し、前記遷移溝部の周方向の幅が、前記刃溝部の周方向の幅よりも大きく、前記外径遷移部の心厚が最小となる軸方向位置における前記外径遷移部の前記中心軸に垂直な断面の面積が、前記刃部の心厚が最大となる軸方向位置における前記刃部の前記中心軸に垂直な断面の面積よりも大きい
【0007】
本発明の回転工具は、切刃が刃部にのみ形成されており、例えば外径遷移部に面取り刃(切刃)が形成された段付きドリル等とは異なる。
本発明の回転工具は、切屑排出溝が、少なくとも刃部および外径遷移部にわたって延びており、外径遷移部の心厚の最小値が、刃部の心厚の最大値よりも小さい。つまり、切屑排出溝のうち、刃部に位置する刃溝部の溝底の径方向位置に比べて、外径遷移部に位置する遷移溝部の溝底の径方向位置が、径方向内側であり、遷移溝部の溝深さが深い。このため、切削加工時に生じた切屑が、切屑排出溝内を軸方向の後端側へ向けて安定して流れ、切屑排出性が高められる。
【0008】
また切屑排出溝のうち、刃溝部の周方向の幅(溝幅)よりも、遷移溝部の周方向の幅が大きい。このため、切屑排出溝内を軸方向の後端側へ向かう切屑の流れがより安定し、切屑排出性が向上する。
外径遷移部の外径は刃部の外径よりも大きいため、上述のように、外径遷移部の心厚が刃部の心厚より小さくても、また遷移溝部の周方向の幅が刃溝部の周方向の幅より大きくても、外径遷移部の剛性は確保される。
したがって本発明によれば、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性が高められる。
また、前記外径遷移部の心厚が最小となる軸方向位置における前記外径遷移部の前記中心軸に垂直な断面の面積が、前記刃部の心厚が最大となる軸方向位置における前記刃部の前記中心軸に垂直な断面の面積よりも大きい。
この場合、外径遷移部の剛性を安定して確保できる。
【0009】
上記回転工具において、前記刃部の心厚が、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い小さくなることが好ましい。
【0010】
この場合、刃溝部の溝底が、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い径方向内側に位置する。つまり、刃溝部の溝深さが、軸方向後端側へ向かうに従い深くなる。このため、刃溝部内を軸方向後端側へ向かう切屑の流れが良好に維持され、切屑排出性がより高められる。
【0011】
上記回転工具において、前記切屑排出溝が前記シャンク部にも配置され、前記切屑排出溝は、前記刃溝部および前記遷移溝部と繋がり前記シャンク部に位置するシャンク溝部を有することが好ましい。
【0012】
この場合、シャンク溝部内まで切屑を流すことができ、切屑排出性がより高められる。
【0013】
上記回転工具において、前記遷移溝部の軸方向の長さと前記シャンク溝部の軸方向の長さとの和が、前記刃部の外径以上であることが好ましい。
【0014】
この場合、遷移溝部およびシャンク溝部の軸方向長さを大きく確保でき、切屑排出性がより安定して高められる。
【0017】
上記回転工具において、前記刃溝部の溝底の形状と前記遷移溝部の溝底の形状とが、互いに異なることが好ましい。
【0018】
この場合、切屑の性状や排出量等に応じて、刃溝部の溝底の形状と遷移溝部の溝底の形状とを個別に設定でき、切削用途等に応じた切屑排出溝の形状の自由度が増す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一つの態様の回転工具によれば、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態の回転工具を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態の回転工具を示す側面図である。
図3】本発明の一実施形態の回転工具を示す正面図である。
図4図2のIV-IV断面を示す断面図である。
図5図2のV-V断面を示す断面図である。
図6図4および図5の各断面図を重ねて示す図である。
図7図2の回転工具の心厚を可視化して説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態の回転工具10について、図面を参照して説明する。
本実施形態の回転工具10は、ドリルである。
【0022】
図1図3に示すように、本実施形態の回転工具10は、中心軸Oを有する略円柱状である。回転工具10は、中心軸Oに沿って延びる。回転工具10は、切刃11を有する刃部1と、刃部1の外径よりも大きな外径とされたシャンク部2と、刃部1とシャンク部2との間に配置される外径遷移部3と、少なくとも刃部1および外径遷移部3に配置される切屑排出溝4と、を備える。
シャンク部2は、例えば工作機械の主軸やボール盤のチャック等(以下、工作機械の主軸等と省略)に着脱可能に取り付けられる。
【0023】
〔方向の定義〕
本実施形態では、回転工具10の中心軸Oが延びる方向(中心軸Oに沿う方向)を、軸方向と呼ぶ。軸方向において、刃部1とシャンク部2とは互いに異なる位置に配置される。軸方向のうち、シャンク部2から刃部1へ向かう方向を先端側と呼び、刃部1からシャンク部2へ向かう方向を後端側と呼ぶ。
中心軸Oに直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Oに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Oから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
中心軸O回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。周方向のうち、切削加工時に工作機械の主軸等により回転工具10が回転させられる向きを工具回転方向Tと呼び、これとは反対の回転方向を、工具回転方向Tとは反対方向(反工具回転方向)と呼ぶ。
本実施形態の回転工具10は、工具回転方向Tに回転させられ、軸方向の先端側へ送られることにより、被削材に切削加工(穴あけ加工)を施す。
【0024】
〔切屑排出溝〕
切屑排出溝4は、回転工具10の外周面から径方向内側に窪み、軸方向に延びる。本実施形態では切屑排出溝4が、軸方向の先端から後端側へ向かうに従い工具回転方向Tとは反対方向へ向けて、螺旋状に延びる。
【0025】
切屑排出溝4は、回転工具10に少なくとも1つ設けられる。本実施形態では、回転工具10がツイストドリルであり、切屑排出溝4が2つ設けられる。なお切屑排出溝4は、回転工具10に3つ以上設けられてもよい。複数の切屑排出溝4は、周方向に互いに間隔をあけて配置される。本実施形態では複数の切屑排出溝4が、中心軸Oに関して回転対称位置となるように、回転工具10の外周において周方向に等間隔をあけて(等ピッチで)配置されている。なお、複数の切屑排出溝4は、回転工具10の外周において周方向に不等間隔をあけて(不等ピッチで)配置されてもよい。
【0026】
本実施形態では切屑排出溝4が、刃部1、外径遷移部3およびシャンク部2に配置される。切屑排出溝4は、回転工具10の軸方向の先端から後端側へ向かって、刃部1の軸方向の全域、外径遷移部3の軸方向の全域、およびシャンク部2の軸方向の先端側の部分にわたって延びる。
【0027】
切屑排出溝4は、刃溝部4aと、遷移溝部4bと、シャンク溝部4cと、を有する。刃溝部4a、遷移溝部4bおよびシャンク溝部4cは、軸方向の先端から後端側へ向けて、この順に並ぶ。刃溝部4a、遷移溝部4bおよびシャンク溝部4cは、互いに繋がり連通している。刃溝部4aと遷移溝部4bとは、互いの接続部分に段差が形成されることなく、滑らかに接続する。遷移溝部4bとシャンク溝部4cとは、互いの接続部分に段差が形成されることなく、滑らかに接続する。
【0028】
刃溝部4aは、切屑排出溝4のうち刃部1に位置する部分である。刃溝部4aは、回転工具10の軸方向の先端側を向く端面(先端面)に開口する。図4に示すように、刃溝部4aは、刃部1の外周面から径方向内側に向けて窪む凹曲面状である。図4に示す刃部1の中心軸Oに垂直な断面視で、刃溝部4aの溝底は、凹曲線状である。図4において刃溝部4aの溝底は、例えば、曲率半径が互いに異なる複数の凹曲線同士を繋げることにより構成される。
【0029】
遷移溝部4bは、切屑排出溝4のうち外径遷移部3に位置する部分である。遷移溝部4bの軸方向先端側の部分(先端部)は、刃溝部4aの軸方向後端側の部分(後端部)に接続する。図5に示すように、遷移溝部4bは、外径遷移部3の外周面から径方向内側に向けて窪む凹曲面状である。図5に示す外径遷移部3の中心軸Oに垂直な断面視で、遷移溝部4bの溝底は、凹曲線状である。図5において遷移溝部4bの溝底は、例えば、曲率半径が互いに異なる複数の凹曲線同士を繋げることにより構成される。
【0030】
図6は、図4に示す刃部1の断面(中心軸Oに垂直な横断面)と、図5に示す外径遷移部3の断面(横断面)とを、重ねて示す図である。図6に示すように、遷移溝部4bの周方向の幅(溝幅)は、刃溝部4aの周方向の幅よりも大きい。遷移溝部4bの径方向の長さ(溝深さ)は、刃溝部4aの径方向の長さよりも大きい。遷移溝部4bにおいて最も径方向内側に位置する最内端部は、刃溝部4aにおいて最も径方向内側に位置する最内端部よりも、径方向内側に配置される。
本実施形態では、刃溝部4aの溝底の形状と、遷移溝部4bの溝底の形状とが、互いに異なる。
【0031】
図1および図2に示すように、シャンク溝部4cは、切屑排出溝4のうちシャンク部2に位置する部分である。シャンク溝部4cの先端部は、遷移溝部4bの後端部に接続する。本実施形態ではシャンク溝部4cが、シャンク部2の先端部にのみ配置される。シャンク溝部4cは、シャンク部2の外周面から径方向内側に向けて窪む凹曲面状である。シャンク溝部4cの溝深さは、軸方向の後端側へ向かうに従い小さくなる。シャンク溝部4cの周方向の溝幅は、軸方向の後端側へ向かうに従い小さくなる。
【0032】
遷移溝部4bの軸方向の長さとシャンク溝部4cの軸方向の長さとの和は、刃部1の外径以上である。すなわち、遷移溝部4bの軸方向の長さとシャンク溝部4cの軸方向の長さとの和は、刃径の1倍以上である。本実施形態では、遷移溝部4bの軸方向の長さとシャンク溝部4cの軸方向の長さとの和が、刃部1の外径の2倍以上である。また、遷移溝部4bの軸方向の長さが、刃部1の外径以上である。
【0033】
〔刃部〕
図1図3に示すように、刃部1は、少なくとも1つの切刃11を有する。本実施形態では、回転工具10がツイストドリルであり、刃部1が2つの切刃11を有する。なお刃部1は、3つ以上の切刃11を有していてもよい。
切刃11は、刃部1、外径遷移部3およびシャンク部2のうち、刃部1にのみ形成される。
【0034】
切刃11は、先端刃11aと、外周刃11bと、を有する。
先端刃11aは、刃溝部4aの工具回転方向Tを向く壁面のうち先端部と、刃部1の先端面と、の交差稜線に形成される。先端刃11aは、径方向外側へ向かうに従い軸方向の後端側へ向けて傾斜して延びる。
【0035】
外周刃11bは、刃溝部4aの工具回転方向Tを向く壁面のうち外周部と、刃部1の外周面と、の交差稜線に形成される。外周刃11bの軸方向先端は、先端刃11aの径方向外端に接続する。外周刃11bは、先端刃11aとの接続部分から軸方向の後端側へ向かうに従い、工具回転方向Tとは反対方向へ向けて、螺旋状に延びる。
【0036】
刃部1は、ランド部5を有する。ランド部5は、刃部1の外周のうち、周方向に隣り合う刃溝部4a(切屑排出溝4)同士の間に配置される。本実施形態では、回転工具10がツイストドリルであり、刃部1が2つのランド部5を有する。なおランド部5の数は、1つまたは3つ以上でもよい。
【0037】
図3および図4に示すように、ランド部5は、第1マージン部5aと、第2マージン部5bと、二番取り面5cと、を有する。すなわち、本実施形態では回転工具10がダブルマージンタイプのドリルであり、ランド部5が2つのマージン部5a,5bを有する。なおランド部5は、1つまたは3つ以上のマージン部を有していてもよい。
【0038】
第1マージン部5aは、外周刃11bの工具回転方向Tとは反対方向に隣り合って配置され、外周刃11bに周方向から接続する。第1マージン部5aは、外周刃11bに沿って延びる。第1マージン部5aは、軸方向の後端側へ向かうに従い工具回転方向Tとは反対方向へ向けて、螺旋状に延びる。第1マージン部5aは、中心軸Oを中心に外周刃11bを回転させて得られる円筒状の回転軌跡上に配置される。
【0039】
第2マージン部5bは、第1マージン部5aよりも工具回転方向Tとは反対方向に、第1マージン部5aとの間に周方向に間隔をあけて配置される。第2マージン部5bは、刃溝部4aに沿って延びる。第2マージン部5bは、軸方向の後端側へ向かうに従い工具回転方向Tとは反対方向へ向けて、螺旋状に延びる。第2マージン部5bは、中心軸Oを中心に外周刃11bを回転させて得られる円筒状の回転軌跡上に配置される。
【0040】
二番取り面5cは、周方向において第1マージン部5aと第2マージン部5bとの間に配置される。二番取り面5cは、第1マージン部5aおよび第2マージン部5bよりも径方向内側に窪んで形成される。
【0041】
図7は、回転工具10の心厚(ウェブの心厚)を可視化して説明する図である。図7に示すように、刃部1の心厚WT1は、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い小さくなる。言い換えると、刃部1の刃溝部4aの溝深さは、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い深くなる。
【0042】
〔外径遷移部〕
図1および図2に示すように、外径遷移部3は、軸方向において刃部1とシャンク部2との間に配置され、軸方向の後端側へ向かうに従い外径が大きくなる。本実施形態では、外径遷移部3(の外周面)は、軸方向の単位長さあたりの径方向へ向けた変位量(つまり中心軸Oに対する傾き)が、外径遷移部3の軸方向の全長にわたって略一定である。すなわち、特に図示しないが、中心軸Oを含む回転工具10の縦断面視において、外径遷移部3の外周面は、中心軸Oに対して傾斜して延びる直線状である。ただしこれに限らず、例えば外径遷移部3は、軸方向の単位長さあたりの径方向へ向けた変位量が、外径遷移部3の軸方向の先端から後端側へ向かうに従い徐々に大きくなってもよい。この場合、回転工具10の縦断面視において、外径遷移部3の外周面は、凹曲線状である。
外径遷移部3の外径は、刃部1の外径よりも大きい。外径遷移部3の軸方向の長さは、刃部1の軸方向の長さよりも小さい。
【0043】
図2および図7に示すように、外径遷移部3の心厚WT2は、外径遷移部3における刃部1との接続部分から、軸方向後端側へ向かうに従い小さくなる。また、外径遷移部3の心厚WT2は、外径遷移部3におけるシャンク部2との接続部分から、軸方向先端側へ向かうに従い小さくなる。このため、外径遷移部3の心厚WT2は、外径遷移部3のうち軸方向の両端部間に位置する中間部分において、最小値となる。
【0044】
ここで、図4は、刃部1の心厚WT1が最大値となる刃部1の軸方向の先端部付近の横断面を示しており、図5は、外径遷移部3の心厚WT2が最小値となる外径遷移部3の軸方向の中間部分の横断面を示している。図4および図5の各横断面を重ねて示す図6において、外径遷移部3の心厚WT2の最小値は、刃部1の心厚WT1の最大値よりも小さい。また、外径遷移部3の心厚WT2が最小となる軸方向位置における外径遷移部3の中心軸Oに垂直な断面の面積(第1の断面積)は、刃部1の心厚WT1が最大となる軸方向位置における刃部1の中心軸Oに垂直な断面の面積(第2の断面積)よりも大きい。
【0045】
〔シャンク部〕
図1図3に示すように、シャンク部2は、刃部1よりも軸方向の後端側に配置される。本実施形態ではシャンク部2の外径が、刃部1の外径の略2倍である。シャンク部2の軸方向の長さは、刃部1の軸方向の長さよりも大きい。本実施形態ではシャンク部2の軸方向の長さが、刃部1の軸方向の長さと外径遷移部3の軸方向の長さとの和よりも大きい。
【0046】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の回転工具10は、切刃11が刃部1にのみ形成されており、例えば外径遷移部に面取り刃(切刃)が形成された段付きドリル等とは異なる。
本実施形態の回転工具10は、切屑排出溝4が、少なくとも刃部1および外径遷移部3にわたって延びており、外径遷移部3の心厚WT2の最小値が、刃部1の心厚WT1の最大値よりも小さい。つまり、切屑排出溝4のうち、刃部1に位置する刃溝部4aの溝底の径方向位置に比べて、外径遷移部3に位置する遷移溝部4bの溝底の径方向位置が、径方向内側であり、遷移溝部4bの溝深さが深い。このため、切削加工時に生じた切屑が、切屑排出溝4内を軸方向の後端側へ向けて安定して流れ、切屑排出性が高められる。
【0047】
また切屑排出溝4のうち、刃溝部4aの周方向の幅(溝幅)よりも、遷移溝部4bの周方向の幅が大きい。このため、切屑排出溝4内を軸方向の後端側へ向かう切屑の流れがより安定し、切屑排出性が向上する。
外径遷移部3の外径は刃部1の外径よりも大きいため、上述のように、外径遷移部3の心厚WT2が刃部1の心厚WT1より小さくても、また遷移溝部4bの周方向の幅が刃溝部4aの周方向の幅より大きくても、外径遷移部3の剛性は確保される。
したがって本実施形態によれば、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性が高められる。
【0048】
また本実施形態では、刃部1の心厚WT1が、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い小さくなる。
この場合、刃溝部4aの溝底が、軸方向の先端部から後端側へ向かうに従い径方向内側に位置する。つまり、刃溝部4aの溝深さが、軸方向後端側へ向かうに従い深くなる。このため、刃溝部4a内を軸方向後端側へ向かう切屑の流れが良好に維持され、切屑排出性がより高められる。
【0049】
また本実施形態では、切屑排出溝4が、刃溝部4aおよび遷移溝部4bと繋がりシャンク部2に位置するシャンク溝部4cを有する。
この場合、シャンク溝部4c内まで切屑を流すことができ、切屑排出性がより高められる。
【0050】
また本実施形態では、遷移溝部4bの軸方向の長さとシャンク溝部4cの軸方向の長さとの和が、刃部1の外径(刃径)以上である。
この場合、遷移溝部4bおよびシャンク溝部4cの軸方向長さを大きく確保でき、切屑排出性がより安定して高められる。
【0051】
また本実施形態では、外径遷移部3の心厚WT2が最小となる軸方向位置における外径遷移部3の中心軸Oに垂直な断面の面積(第1の断面積)が、刃部1の心厚WT1が最大となる軸方向位置における刃部1の中心軸Oに垂直な断面の面積(第2の断面積)よりも大きい。
この場合、外径遷移部3の剛性を安定して確保できる。
【0052】
また本実施形態では、刃溝部4aの溝底の形状と遷移溝部4bの溝底の形状とが、互いに異なる。
この場合、切屑の性状や排出量等に応じて、刃溝部4aの溝底の形状と遷移溝部4bの溝底の形状とを個別に設定でき、切削用途等に応じた切屑排出溝4の形状の自由度が増す。
【0053】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0054】
前述の実施形態では、回転工具10が、2枚刃のツイストドリルであるが、これに限定されない。回転工具10は、1枚刃または3枚刃以上のドリルでもよい。
また回転工具10は、ドリルに限らない。回転工具10は、例えばエンドミルやリーマ等の回転工具(転削工具)でもよい。
【0055】
また、前述の実施形態では、切屑排出溝4がねじれ溝である例を挙げたが、これに限らない。切屑排出溝4は、例えば中心軸Oと平行に延びる直溝でもよい。
【0056】
また回転工具10が、図示しないクーラント孔を備えていてもよい。クーラント孔は、回転工具10の内部を軸方向に延びる。クーラント孔は、例えば、回転工具10の内部を切屑排出溝4に沿って延びる。クーラント孔は、刃溝部4a内または刃部1の先端面に開口する。クーラント孔内には、工作機械の主軸等を通して、油性または水溶性の切削液剤、圧縮エア等のクーラントが供給される。クーラントは、クーラント孔を通して、刃部1および被削材の加工部位等に流出する。
【0057】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の回転工具によれば、工具の剛性を確保しつつ切屑排出性が高められる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0059】
1…刃部
2…シャンク部
3…外径遷移部
4…切屑排出溝
4a…刃溝部
4b…遷移溝部
4c…シャンク溝部
10…回転工具
11…切刃
O…中心軸
T…工具回転方向
WT1…刃部の心厚
WT2…外径遷移部の心厚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7