(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】冷却水制御弁装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20221213BHJP
F16K 5/06 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F01P7/16 503
F01P7/16 502B
F16K5/06 C
(21)【出願番号】P 2019020883
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 亮
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157630(WO,A1)
【文献】特開昭51-123926(JP,A)
【文献】特開2017-020424(JP,A)
【文献】実開昭58-196476(JP,U)
【文献】国際公開第2017/144047(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0186870(US,A1)
【文献】特開2010-255750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F16K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(2)を流れる冷却水の流れを制御可能な冷却水制御弁装置であって、
冷却水が流通可能なバルブ開口部(12)が外壁に形成され、軸まわりに回転可能なバルブ(10)と、
リリーフ弁(26)を収容する空間を形成するリリーフ弁収容部(25)を有し、前記バルブを収容するハウジング
(24)と、
前記ハウジングと接続し、開弁時に前記バルブ開口部と連通することで内側を冷却水が流通可能なパイプ筒部
(90)と、
前記パイプ筒部の軸方向に往復移動可能な筒状部材であり、前記バルブの前記外壁に当接することで前記バルブとの間を密な状態に保持可能な環状のシート面(62)を有するシート部材(60)と、
前記シート面が前記バルブの前記外壁に押し付けられるように前記シート部材を付勢する付勢部材(71)と、
を備え、
前記パイプ筒部は、前記軸方向における前記バルブ側の端部に、外側筒部(44)と、前記外側筒部の径方向内側に同軸上に設けられる内側筒部(43)と、を形成し、
前記付勢部材と前記シート部材とは、前記外側筒部と前記内側筒部との間に環状に形成される環状収容部(47)に設けられて
おり、
前記リリーフ弁は、前記リリーフ弁収容部内の冷却水温度又は圧力が所定値より高くなったときに開弁して前記リリーフ弁収容部内に溜まっている冷却水を前記パイプ筒部へ流通させる冷却水制御弁装置。
【請求項2】
前記外側筒部は、前記シート部材の外周壁(65)の全体を覆うように形成されている請求項1に記載の冷却水制御弁装置。
【請求項3】
前記シート部材は、前記シート面の内周に連続し、前記内側筒部の前記バルブ側の端部(431)を覆うように径方向の内側に突出する凸部(63)を有する請求項1または請求項2に記載の冷却水制御弁装置。
【請求項4】
前記シート部材の外周壁(65)と前記外側筒部の内周壁(443)とのクリアランス(C1)は、前記シート部材の内周壁(66)と前記内側筒部の外周壁(432)とのクリアランス(C2)より小さく、
前記シート部材は、その前記外周壁が前記外側筒部の前記内周壁によって径方向に位置決めされている請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の冷却水制御弁装置。
【請求項5】
前記シート部材の前記内周壁と前記内側筒部の前記外周壁との間に、パッキン(75)が設けられている請求項4に記載の冷却水制御弁装置。
【請求項6】
前記パイプ筒部の前記軸方向において、前記バルブに近い方から順に、前記外側筒部の前記バルブ側の端部(441)、前記シート部材の前記バルブ側の端部(67)、前記内側筒部の前記バルブ側の端部(431)が位置している請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の冷却水制御弁装置。
【請求項7】
前記外側筒部の外周壁(442)と前記ハウジングとの間に、シール部材(72)が設けられている請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の冷却水制御弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水制御弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関を流れる冷却水の流れを制御する冷却水制御弁装置が知られている。例えば特許文献1に記載された冷却水制御弁装置は、ハウジングと、ハウジング内に設けられるボールバルブと、ボールバルブの外壁に押し付けられるシート部材等を有している。
【0003】
シート部材は、環状のシート面を有している。このシート面は、ハウジング内部のバルブ収納空間に突き出ており、ボールバルブの球面状の外壁に当接することでボールバルブとの間を密な状態に保持することが可能である。また、シート部材は、スペ-サやスリーブ等の支持手段によってハウジングに支持されている。スペ-サは、ハウジングのアウトレット部孔の内周壁に固定される。スリーブは、スペ-サに隣接して設けられ、パイプ部の内周壁に径方向には位置決めされ軸方向には往復移動可能となっている。
【0004】
ここで、シート面をバルブ本体に対して調心させる際に、シート部材を支持する様々な部品(ハウジング、シート部材、スリーブ、及びスペーサ等)の寸法バラつきを吸収するため、スリーブの外周壁とアウトレット部孔の内周壁との間には、所定のクリアランスS1が設定されている。また、スペ-サの内周壁とスリーブの外周壁との間には、所定のクリアランスS2が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の冷却水制御弁装置では、上記クリアランスS1とクリアランスS2とで、シート面のバルブへの調心量が決定される。しかし、複数部品で構成される為、部品公差のバラつき要因が増えてしまい、クリアランスS1とクリアランスS2を大きくする必要があった。
【0007】
しかし、クリアランスS1とクリアランスS2が大きい場合は、弁部のシール性は確保できるものの、シート部材の位置自由度が大きいためにシート面の調心精度が低下し、バルブの開き始めの位置がバラつく虞れがあった。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、シート部材の周りのクリアランスのバラつきを減少させることで、バルブの開き始めの位置のバラつきを抑制し、バルブ動作の精度を向上させることが可能な冷却水制御弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の冷却水制御弁装置は、内燃機関(2)を流れる冷却水の流れを制御可能な冷却水制御弁装置である。冷却水制御弁装置は、バルブ(10)と、リリーフ弁(26)を収容する空間を形成するリリーフ弁収容部(25)を有し且つバルブを収容するハウジング(24)と、パイプ筒部(90)と、シート部材(60)と、付勢部材(71)と、を備える。
【0010】
バルブは、冷却水が流通可能なバルブ開口部(12)が外壁に形成され、軸回りに回転可能である。パイプ筒部は、ハウジングと接続し、開弁時にバルブ開口部と連通することで内側を冷却水が流通可能である。シート部材は、パイプ筒部の軸方向に往復移動可能な筒状部材であり、バルブの外壁に当接することでバルブとの間を密な状態に保持可能な環状のシート面(62)を有する。付勢部材は、シート面がバルブの外壁に押し付けられるようにシート部材を付勢する。
【0011】
パイプ筒部は、軸方向におけるバルブ側の端部に、外側筒部(44)と、外側筒部の径方向内側に同軸上に設けられる内側筒部(43)と、を形成する。付勢部材とシート部材とは、外側筒部と内側筒部との間に環状に形成される環状収容部(47)に設けられている。リリーフ弁は、リリーフ弁収容部内の冷却水温度又は圧力が所定値より高くなったときに開弁してリリーフ弁収容部内に溜まっている冷却水をパイプ筒部へ流通させる。
【0012】
本発明の構成によれば、パイプ筒部は、外側筒部と内側筒部を有しており、両筒部の間に形成される環状収容部にシート部材が収容されている。つまり、シート部材は、ハウジングに支持されるのではなく、二重管構造とされたパイプ筒部の端部に装着されることによって支持される。
【0013】
一般に、シート部材のシート面をバルブ本体に対して調心させる際に、シート部材を支持する部品の寸法バラつきを吸収するため、シート部材周辺には所定のクリアランスが設定される。本構成では、シート部材まわりのクリアランスが、シート部材とパイプ筒部との2部品のみの寸法で決定されるため、部品公差のバラつき要因が少ない。よって、クリアランスを大きくとる必要もなく、さらにハウジングにシート部材を支持させる場合には、ハウジングのアウトレット部孔に生じるバリの影響を受ける虞もあるが、本構成では、そうした虞もなく、シート部材まわりのクリアランス精度を向上させることができる。ひいては、バルブの開き始めの位置のバラつきが抑制され、バルブ動作の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態による冷却水制御弁装置を適用したエンジン冷却システムを示す模式図。
【
図2】第1実施形態による冷却水制御弁装置を示す斜視図。
【
図3】第1実施形態による冷却水制御弁装置を示す断面図。
【
図4】
図3において二点鎖線で囲んだ部分を示す拡大図。
【
図5】第2実施形態による冷却水制御弁装置を示す断面図。
【
図6】第3実施形態による冷却水制御弁装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、複数の形態による冷却水制御弁装置101,102,103を図面に基づき説明する。なお、複数の形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。また、複数の形態において実質的に同一の構成部位は、同一または同様の作用効果を奏する。
【0016】
〈第1実施形態〉
[構成]
第1実施形態の冷却水制御弁装置101は、図示しない車両の内燃機関としてのエンジン2を冷却するエンジン冷却システム1において、エンジン2を通過した冷却水をラジエータ4へ導く流路に設けられ、エンジン冷却水の流量を制御するものである。
【0017】
<冷却システム>
図1に示すように、エンジン冷却システム1は、冷却水制御弁装置101、ウォーターポンプ3、ラジエータ4、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)5等を備えている。ウォーターポンプ3は、冷却水をエンジン2のウォータージャケット6に向けて圧送する。冷却水制御弁装置101は、例えばウォータージャケット6の出口に設けられ、ラジエータ4へ送る冷却水の流量を調整する。
【0018】
ラジエータ4は、熱交換器であり、冷却水と空気との間で熱交換を行い冷却水の温度を下げる。ECU5は、冷却水制御弁装置101の作動を制御し、ラジエータ4へ送る冷却水の流量を制御可能である。
【0019】
<冷却水制御弁装置>
冷却水制御弁装置101の構成について、
図2~
図4を参照しつつ説明する。
図2、
図3に示すように、冷却水制御弁装置101は、バルブ10、ハウジング20、センサカバー30、パイプ筒部40、モータ50、シート部材60(
図3参照)、スプリング71(
図3参照)、軸受プレート76等を備えている。バルブ10、ハウジング20、センサカバー30、及びパイプ筒部40は、それぞれ、例えば樹脂等により形成されている。なお、
図3の断面図は、開弁時の状態を図示している。冷却水制御弁装置101は、バルブ10を回動操作することでエンジン冷却水の流量を制御する。
【0020】
図3に示すように、ハウジング20は、インレット21、バルブ収容部22、及びモータ収容部23等を有している。ハウジング20は、一例として、エンジン2に直接組み付けられるものである。インレット21は、エンジン2のウォータージャケット6に設けられ、冷却水をハウジング20の内部に導く入口を形成する。バルブ収容部22は、バルブ10およびパイプ筒部40の一部を収容する空間を形成し、インレット21に連通している。モータ収容部23は、バルブ収容部22とは別にモータ50を収容する空間を形成している。
【0021】
バルブ10は、全体が略ボール形状をなす筒部材である。バルブ10は、ボール面11、側面側バルブ開口部12、及び底側バルブ開口部13等を有している。ボール面11は、ボール形状をなす外壁に、凸球面状に形成されている。ボール面11は、バルブ10の回動時に、後述するシート部材60に摺接する。側面側バルブ開口部12は、略円形をなし、一部のボール面11を貫通して形成されている。底側バルブ開口部13は、バルブ10の軸受プレート76側の底部に位置している。
【0022】
バルブシャフト14は、バルブ10の中心部を通るように配置されている。
図1において、バルブシャフト14の軸方向は上下方向に一致している。バルブシャフト14は、例えば金属等により棒状に形成されている。バルブシャフト14の軸受プレート76側の端部は、軸受プレート76により回転自在に支持されている。バルブシャフト14のセンサカバー30側の端部は、ハウジング20に組み付けられたボールベアリング15を介して回転自在に支持されている。
【0023】
バルブ10は、バルブシャフト14とともに、軸受プレート76とボールベアリング15により軸受けされ、バルブ収容部22においてバルブシャフト14の軸A1を中心に回転可能に支持されている。軸受プレート76は冷却水の通過を許容する開口部77を備えている。バルブ収容部22には、インレット21から、軸受プレート76の開口部77と底側バルブ開口部13とを経由してウォータージャケット6内の冷却水が流入可能である。
【0024】
モータ50は、モータシャフト51をバルブシャフト14と平行となるようにしてモータ収容部23に収容されている。モータ50は、給電されることにより回転駆動し、出力部からトルクを出力する。モータシャフト51のセンサカバー30側の出力側端部には、図示しない複数のギアで構成されるギア部が接続されている。ギア部は、バルブシャフト14のセンサカバー30側の端部に接続している。モータ50が回転駆動し出力部から出力されたトルクは、ギア部で減速されてバルブシャフト14に伝達される。これにより、バルブ10は、バルブ収容部22内において、軸A1を中心に回転する。バルブ10の回転位置により、側面側バルブ開口部12と、パイプ筒部40の後述するシート開口部61との重なり面積が変化する。
【0025】
センサカバー30は、例えば皿状に形成され、ハウジング20の軸受プレート76とは反対側を覆うようにして、ボルト78,79等によりハウジング20に取り付けられている。センサカバー30は、内部にギア部収容部31を形成している。ギア部収容部31は、モータ収容部23に接続している。
【0026】
パイプ筒部40は、管状に形成され、内側の空間に冷却水が流通する流通路41を形成している。パイプ筒部40は、そのバルブ側の開口端部に相当するシート開口部61が、バルブ10のボール面11と対向する位置となるように、ハウジング20に取り付けられている。パイプ筒部40の中心軸A2は、バルブシャフト14の軸A1と直交している。
【0027】
パイプ筒部40は、内側筒部43、外側筒部44、フランジ部45、及びアウトレット筒部46等を有している。外側筒部44及び内側筒部43は、パイプ筒部40の軸方向におけるバルブ10側の端部に設けられている。外側筒部44及び内側筒部43は、軸方向断面が円環形状をなしている。内側筒部43は、外側筒部44の径方向内側に、外側筒部44と同軸上に設けられている。すなわち、パイプ筒部40のバルブ10側は、外側筒部44と内側筒部43とで二重管構造になっている。外側筒部44の軸方向長さは、内側筒部43の軸方向長さより長い。外側筒部44の内周壁443と内側筒部43の外周壁432との間には、環状収容部47が形成されている。
【0028】
外側筒部44のフランジ部45寄りの外周壁442とハウジング20との間には、ゴム製のOリング72が取り付けられている。Oリング72は、「シール部材」に相当する。Oリング72は、外側筒部44とハウジング20とのクリアランスから冷却水が外部へ漏れ出るのを抑制する。
【0029】
アウトレット筒部46は、外側筒部44及び内側筒部43と中心軸A2を共通として、各筒部のバルブ10とは反対側の端部に接続している。アウトレット筒部46のバルブ10と反対側の端部は、ラジエータ4に接続される。アウトレット筒部46は、エンジン2を通過した冷却水をラジエータ4へ導く冷却水出口であるアウトレット48を形成する。アウトレット筒部46の内径は、外側筒部44の内径より若干小さく、内側筒部43の内径より若干大きい。
【0030】
フランジ部45は、外側筒部44のバルブ10とは反対側の端部から、径方向の外側に張り出して形成されている。このフランジ部45とハウジング20とが、ボルト73,74等により固定されることで、パイプ筒部40はハウジング20に取り付け固定されている。
【0031】
環状収容部47内には、バルブ10側から順にシート部材60とスプリング71とが設けられている。スプリング71は、「付勢部材」に相当する。シート部材60は、円筒部材であって、例えば摩擦係数が所定値以下の材料であるフッ素樹脂により形成される。シート部材60の径方向の中心部には、シート開口部61が軸方向に貫通して形成されている。シート部材60のバルブ10側の端面には、凹形球面形状であって環状をなすシート面62が形成されている。シート面62は、バルブ10のボール面11に当接することでバルブ10との間を密な状態に保持可能である。
【0032】
図4に示すように、シート面62の内周に連続して、環状のシート凸部63が、径方向の内側かつアウトレット48側へ傾斜して延びるように突出して形成されている。シート凸部63は、内側筒部43のバルブ10側の端部431を覆っている。シート部材60のバルブ10と反対側端部の内周壁66には、段差部64が形成されている。段差部64の径方向長さは、概ねシート部材60の厚みの半分であり、軸方向長さは、シート部材60の長さの3分の1程度である。
【0033】
段差部64には、ゴム製のVパッキン75が設けられている。Vパッキン75は、例えばEPDM等で環状に形成されるゴム部材であり、V形のリップが内圧によって変形する。これにより、シート部材60は、その内周壁66が内側筒部43の外周壁432と密に接した状態で摺動可能である。シート部材60と内側筒部43との間は密な状態に保持される。
【0034】
スプリング71は、例えばコイルスプリングである。スプリング71は、環状収容部47においてバルブ10とは反対側に設けられ、一端がシート部材60のバルブ10とは反対側の端部に当接し、他端が環状収容部47のバルブ10とは反対側に位置する閉塞端壁49に当接している。スプリング71は、シート部材60をバルブ10側に付勢している。これにより、シート部材60のシート面62は、ボール面11に押し付けられる。
【0035】
パイプ筒部40の二重管構造及びシート部材60周辺の構成についてさらに詳細に説明する。
図4に示すように、外側筒部44及び内側筒部43のバルブ10側の端部441,431は、尖っている。パイプ筒部40の軸方向において、バルブ10に近い方から、外側筒部44のバルブ10側の端部441、シート部材60のバルブ10側の端部67、内側筒部43のバルブ10側の端部431、の順に位置している。
図4において、位置P1は、外側筒部44の端部441の位置である。位置P2は、シート部材60の端部67の位置である。位置P3は、内側筒部43の端部431の位置である。外側筒部44は、軸方向においてシート部材60の外周壁65の全体を覆っている。
【0036】
シート部材60の外周壁65と外側筒部44の内周壁443とのクリアランスC1は、シート部材60の内周壁66と内側筒部43の外周壁432とのクリアランスC2より小さい。これらのクリアランスC1,C2は、バルブ10の開き始めの位置のバラつきを抑えるために部品公差のバラつきを考慮したもので、所定量に設定される。
【0037】
また、クリアランスC1<クリアランスC2の関係を有していることで、シート部材60は、その外周壁65が外側筒部44の内周壁443によって径方向に位置決めされる。そして、シート部材60の内周壁66にVパッキン75が設けられることで、シート部材60の主に内径側が軸方向に往復移動可能となっている。なお、状況によっては、シート部材60の外周壁65は外側筒部44の内周壁443に接触し得る。
【0038】
[作用]
次に、冷却水制御弁装置101の作動について説明する。本実施形態では、エンジン2のウォータージャケット6を流れて温度が上昇した冷却水は、インレット21から供給され、底側バルブ開口部13を経由してバルブ10の内側に供給される。そして、バルブ10が開弁すると、バルブ10の内側に供給された冷却水が、側面側バルブ開口部12とシート開口部61とが重なった箇所を通ってパイプ筒部40の流通路41へ導かれる。
【0039】
パイプ筒部40への冷却水の流通量は、バルブ10の回転位置により変化する側面側バルブ開口部12とシート開口部61との重なり面積に対応する。流通路41に流れた冷却水は、アウトレット48を経由してラジエータ4に導かれ、ラジエータ4を通過することで温度が低下する。ラジエータ4で温度の低下した冷却水は、エンジン2に戻され、エンジン2を冷却する。
【0040】
開弁時、パイプ筒部40の流通路41は、バルブ10内部と連通することで冷却水が流通可能である。側面側バルブ開口部12と流通路41との重なり面積が0のとき、すなわち、シート開口部61の全部がボール面11で塞がれているとき、バルブ10の内側と流通路41との間の冷却水の流れは遮断される。この状態のときが「バルブ全閉時」である。また、側面側バルブ開口部12とシート開口部61すなわち流通路41との重なり面積が0から0より大きな面積に変化するときのバルブ10の位置を「バルブ10の開き始めの位置」という。
【0041】
このように、バルブ10は、回転位置により、流通路41を流れる冷却水の流量を制御可能である。バルブ10の回転位置は、ECU5により制御される。バルブ10がモータ50の回転駆動により軸周りに回転するとき、シート面62とボール面11とは摺動しながらバルブ10の周方向に相対回転する。このとき、シート部材60は、その外周壁65が外側筒部44の内周壁443に当接した位置で、シート面62がボール面11に調心される。このとき、シート部材60の内周壁66と内側筒部43の外周壁432とは摺動し得る。また、ボール面11がずれる方向に移動しても、スプリング71により付勢されたシート部材60の主に内周壁66側が軸方向に往復移動することで、シート面62とボール面11との密な当接状態が維持される。
【0042】
[効果]
(1)本実施形態では、外側筒部44と内側筒部43とを設けており、両者の間に形成される環状収容部47にシート部材60を収容している。つまり、シート部材60は、ハウジング20に支持されているのではなく、二重管構造とされたパイプ筒部40の端部に装着されることによって支持されている。
【0043】
例えば、比較例として、特許文献1に記載されるバルブ装置のように、ハウジング20のアウトレット部孔にシート部材を支持させる場合、シート部材を支持する様々な部品(ハウジング、スリーブ、及びスペーサ等)の寸法バラつきを吸収するために、クリアランスを大きくとる必要があった。しかし、クリアランスを大きくとるとシート部材の位置自由度が大きいために、今度はシート面の調心精度が低下するという虞があった。
【0044】
その点、本実施形態によれば、シート部材60の寸法とパイプ筒部40の寸法だけでクリアランスC1,C2が決定され、部品公差のバラつき要因が少ない。よって、クリアランスC1,C2を大きくとる必要もなく、さらにアウトレット部孔のバリの影響も受けないため、シート部材60まわりのクリアランス精度を向上させることができる。ひいては、バルブ10の開き始めの位置のバラつきを抑制し、バルブ動作の精度を向上させることができる。
【0045】
(2)また、シート部材60は、変形しやすい材質であり、薄いシートでは剛性がなく変形しすぎるため、例えば、比較例の構成では、剛性の高い金属スリーブにて変形量を抑えるなどの構成を採る必要があった。しかし、本実施形態のように、パイプ筒部40を二重管構造としてそのスペースである環状収容部47にシート部材60を配置することで、シート部材60は、シートの厚みと軸方向長さが確保される。よって、シート部材60の剛性がアップするとともに、シート部材60は外側筒部44により径方向の変形が抑制されるため、スリーブを廃止することが可能となり、部品点数を削減することができる。
【0046】
(3)また、シート部材60の外周壁65全体は、外側筒部44に覆われており、組み付け時にシート部材60が傷付いたり破損したりすることを回避することができる。
【0047】
(4)本実施形態では、バルブ10に近い方から順に、外側筒部44のバルブ10側の端部441、シート部材60のバルブ10側の端部67、内側筒部43のバルブ10側の端部431が位置している。このため、クリアランスC1,C2へ鋳砂等の異物が侵入することを抑制することができる。
【0048】
(5)さらに、本実施形態では、シート面62の内周に連続するシート凸部63が内側筒部43の端部431を覆うように設けられているため、クリアランスC2への異物侵入をより確実に抑制することができる。また、シート凸部63を設けることでシート部材60が変形しやすく、シート部材60の内径側でシールしやすい構成にできる。
【0049】
(6)本実施形態では、内側筒部43とシート部材60との間にVパッキン75を設けているため、シート部材60とパイプ筒部40間の冷却水漏れを抑制することができる。また、外側筒部44の内周壁443とシート部材60の外周壁65との接触面積は、内側筒部43の外周壁432とシート部材60の内周壁66との接触面積より大きい。本実施形態では、シート部材60の外周側で動きを規制し、内周側でシールする構成であるため、シート面62の調心時におけるシート部材60の傾きを抑制することができ、調心精度を向上させることができる。
【0050】
〈第2実施形態〉
次に、第2実施形態の冷却水制御弁装置102について、
図5を参照して説明する。なお、第1実施形態と実質同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。第2実施形態では、第1実施形態の冷却水制御弁装置101に対し、パイプ筒部の構成が異なる。第2実施形態のパイプ筒部80は、別部材で構成されるアウトレット筒部材81とスペーサ82とを有している。アウトレット筒部材81は、アウトレット筒部83とフランジ部84とが一体化されて構成されている。スペーサ82は、外側筒部44と内側筒部43とが一体化されて構成されている。すなわち、スペーサ82は二重管構造となっている。フランジ部84とハウジング20との間にはガスケット87が設けられている。
【0051】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、パイプ筒部80を、アウトレット筒部材81とスペーサ82とに分割することで、アウトレット筒部材81とスペーサ82とを異なる材料で形成することができる。そして、例えば、精度を要するスペーサ82は高価な樹脂材料を使用し、アウトレット筒部材81は安価な材料で製作することでコストを低減することができる。アウトレット筒部材81の材料としては例えばPPSを用いることができ、スペーサ82の材料としては例えばPA66を用いることができる。
【0052】
〈第3実施形態〉
次に、第3実施形態の冷却水制御弁装置103について、
図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と実質同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。なお、
図6では閉弁時を図示している。
【0053】
第3実施形態の冷却水制御弁装置103が備えるハウジング24は、バルブ収容部22とモータ収容部23(図示略)の他に、リリーフ弁収容部25を内部に形成している。リリーフ弁収容部25は、パイプ筒部90の外側筒部44のセンサカバー30側に位置している。リリーフ弁収容部25は、リリーフ弁26を収容する空間を形成し、バルブ収容部22に連通している。
【0054】
パイプ筒部90内には、側面側バルブ開口部12を経由した冷却水が流通するメイン流通路91と、リリーフ弁側流通路92とが形成されている。リリーフ弁側流通路92は、下流でメイン流通路91と合流している。リリーフ弁26は、リリーフ弁収容部25内の冷却水温度や圧力が所定値より高くなったときに開弁することで、リリーフ弁収容部25内に溜まっている冷却水をアウトレット48へ流通させる。シート部材60は、上記各実施形態と同様に、パイプ筒部90の外側筒部44と内側筒部43との間に装着されている。
【0055】
例えば、特許文献1に記載されるバルブ装置のように、ハウジングでシート部材を支持させる場合には、円筒形状をなすバルブ収容部の近傍でシート部材を支持する必要がある。このため、バルブ収容部の近傍までハウジングの肉部を形成する必要があり、バルブ収容部の周囲にリリーフ弁を配置可能なスペースを形成することができなかった。すなわち、ハウジングによりシート部材を支持する構成であるために、ハウジングの内部形状が制限されていた。
【0056】
その点、本実施形態では、シート部材60は、パイプ筒部90の外側筒部44と内側筒部43との間に装着されており、ハウジング24で支持する必要がないため、ハウジング24の内部形状が限定されず、所定の空間を形成することができる。
第3実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、上記のように、例えばリリーフ弁26を収容するスペースをハウジング24内に形成することができ、ハウジング24の形状の設計自由度を向上させることができる。
【0057】
〈他の実施形態〉
上記各実施形態において、外側筒部44は、シート部材60の外周壁65の全体を覆っているものとしたが、シート部材60の一部を覆っている形態としても良い。
【0058】
上記各実施形態において、シート部材60の内周側でシールするようにしているが、外周側でシールするようにしても良い。その場合、Vパッキン75は、シート部材60の外周壁65と外側筒部44の内周壁443との間に設けるように構成される。
【0059】
上記各実施形態において、パイプ筒部40,80,90の中心軸A2と、バルブシャフト14の軸A1と直交するものとしたが、パイプ筒部40,80,90がバルブ10に対して斜めであっても良い。
【0060】
上記各実施形態の冷却水制御弁装置101,102,103では、ラジエータ4を経由してエンジン2に戻される冷却水の流量を制御するものとした。その他、冷却水制御弁装置は、ヒータ、スロットルバルブ、及びオイルクーラ等に流れる冷却水の流量を制御するものとして構成しても良い。
【0061】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0062】
2 ・・・エンジン(内燃機関)
10 ・・・バルブ
12 ・・・側面側バルブ開口部(バルブ開口部)
20 ・・・ハウジング
40 ・・・パイプ筒部
43 ・・・内側筒部
44 ・・・外側筒部
47 ・・・環状収容部
60 ・・・シート部材
62 ・・・シート面
71 ・・・スプリング(付勢部材)
101 ・・冷却水制御弁装置