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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】液滴吐出装置及び液滴吐出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20221213BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20221213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221213BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
B41J2/01 403
B41J2/14 611
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019020989
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020128023
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】島添 雅紀
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174404(JP,A)
【文献】特開2011-207114(JP,A)
【文献】特開2016-055508(JP,A)
【文献】特開2018-118439(JP,A)
【文献】特開2015-044404(JP,A)
【文献】特開2014-172314(JP,A)
【文献】特開2006-035568(JP,A)
【文献】特開平11-058719(JP,A)
【文献】国際公開第2009/080684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/015
B41J 2/045
B41J 2/01
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電極及び接地された共通電極に挟まれ、前記共通電極の電位に対して電位差を有する駆動信号が、前記駆動電極に供給されることにより変形動作する圧電素子と、
圧力室を有し該圧力室の容積を前記圧電素子により膨張又は収縮させ、該圧力室内の液体をノズルから吐出させる液滴吐出ヘッドと、
前記圧力室に対応する前記圧電素子に前記駆動信号を供給する駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、
待機時には、前記共通電極の電位に対する電位差が最大であり正電位又は負電位である最高電位から、前記電位差が前記最高電位と同符号で小さく正電位又は負電位である中間電位までの間で変化し、前記ノズル内の液体の界面を振動させる揺らし波形を含んでいる第1の入力波形を、前記駆動信号として供給し、
液滴吐出を行うときには、前記最高電位から、前記最高電位に対する電位差が前記中間電位の前記最高電位に対する電位差と同符号で大きい最低電位までの間で変化し、液滴吐出を行う第2の入力波形に切替えて、前記第2の入力波形を前記駆動信号として供給し、
前記第1の入力波形と前記第2の入力波形との切替えは、これら第1及び第2の入力波形がともに前記最高電位であるときに行うことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記最高電位と前記中間電位との電位差は、前記中間電位と前記最低電位との電位差の0.2~0.4倍であることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
駆動電極及び接地された共通電極に挟まれ、前記共通電極の電位に対して電位差を有する駆動信号が、前記駆動電極に供給されることにより変形動作する圧電素子に、前記駆動信号を供給し、前記圧電素子に対応された液滴吐出ヘッドの圧力室の容積を膨張又は収縮させ、該圧力室内の液体をノズルから吐出させる液滴吐出方法であって、
待機時には、前記共通電極の電位に対する電位差が最大であり正電位又は負電位である最高電位から、前記電位差が前記最高電位と同符号で小さく正電位又は負電位である中間電位までの間で変化し、前記ノズル内の液体の界面を振動させる揺らし波形を含んでいる第1の入力波形を、前記駆動信号として供給し、
液滴吐出を行うときには、前記最高電位から、前記最高電位に対する電位差が前記中間電位の前記最高電位に対する電位差と同符号で大きい最低電位までの間で変化し、液滴吐出を行う第2の入力波形に切替えて、前記第2の入力波形を前記駆動信号として供給し、
前記第1の入力波形と前記第2の入力波形との切替えは、これら第1及び第2の入力波形がともに前記最高電位であるときに行うことを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項4】
前記最高電位と前記中間電位との電位差を、前記中間電位と前記最低電位との電位差の0.2~0.4倍とすることを特徴とする請求項3記載の液滴吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関し、詳しくは、長期間に亘って圧電素子の劣化や破壊を防止することができる液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴吐出ヘッドのノズルから液滴(インク)を吐出して記録媒体に画像形成するインクジェットプリンタ等の液滴吐出装置が知られている。
【0003】
液滴吐出装置は、複数の圧力室を有し、各圧力室の容積を圧電素子により膨張又は収縮させ、各圧力室内の液体を複数のノズルから吐出させるように構成されている。圧電素子は、駆動回路から駆動信号が供給されることによって駆動する。
【0004】
特許文献1には、ノズルからの液滴の吐出開始前(待機時)に、圧電素子に、正側の抗電界を上回る正電位部分と下回る負電位部分とを有し液滴を吐出させない駆動信号を供給しておくようにした液滴吐出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-172314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された液滴吐出装置では、待機時に正側から負側に亘って電位が変化する駆動信号を用いるため、0Vを通過するときに圧電素子の線形性が失われ、長期間に亘って圧電素子に大きな応力がかかるので、圧電素子の劣化や破壊を生ずる虞がある。圧電素子が劣化や破壊を生ずると、圧電素子の駆動効率が低下し、液滴吐出速度の低下が起こる。
【0007】
そこで、本発明は、長期間に亘って圧電素子の劣化や破壊を防止することができる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することを課題とする。
【0008】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
1.
圧力室を有し該圧力室の容積を圧電素子により膨張又は収縮させ、該圧力室内の液体をノズルから吐出させる液滴吐出ヘッドと、
前記圧力室に対応する圧電素子に駆動信号を供給する駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、待機時の中間電位及び最高電位を含む第1の入力波形と、前記最高電位及び液滴吐出を行う最低電位を含む第2の入力波形とを、これら第1及び第2の入力波形がともに前記最高電位であるときに切替えることによって前記駆動信号を生成し、
前記中間電位の絶対値は、前記最高電位の絶対値よりも低電位であって、前記中間電位と前記最高電位とは同符号の電位であることを特徴とする液滴吐出装置。
2.
前記第1の入力波形は、前記ノズル内の液体の界面を振動させる揺らし波形を含んでいることを特徴とする前記1記載の液滴吐出装置。
3.
前記最高電位と前記中間電位との電位差は、前記中間電位と前記最低電位との電位差の0.2~0.4倍であることを特徴とする前記1又は2記載の液滴吐出装置。
4.
液滴吐出ヘッドの圧力室に対応する圧電素子に駆動信号を供給し該圧力室の容積を膨張又は収縮させ、該圧力室内の液体をノズルから吐出させる液滴吐出方法であって、
待機時の中間電位及び最高電位を含む第1の波形と、前記最高電位及び液滴吐出を行う最低電位を含む第2の波形とを、これら第1及び第2の波形がともに前記最高電位であるときに切替えることによって前記駆動信号を生成し、
前記中間電位の絶対値を、前記最高電位の絶対値よりも低電位とし、前記中間電位と前記最高電位とを同符号の電位とすることを特徴とする液滴吐出方法。
5.
前記第1の波形には、前記ノズル内の液体の界面を振動させる揺らし波形を含ませることを特徴とする前記4記載の液滴吐出方法。
6.
前記最高電位と前記中間電位との電位差を、前記中間電位と前記最低電位との電位差の0.2~0.4倍とすることを特徴とする前記4又は5記載の液滴吐出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期間に亘って圧電素子の劣化や破壊を防止することができる液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の液滴吐出装置を示す概略構成図
図2】前記液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドの断面図
図3】前記液滴吐出装置の電気的構成のブロック図
図4】第1実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャート
図5】第1実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャート
図6】第2実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャート
図7】第2実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャート
図8】第3実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャート
図9】第3実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
本発明の実施形態に係る液滴吐出方法は、実施形態に係る液滴吐出装置の駆動回路により実施されるので、駆動回路の動作の説明をもって液滴吐出方法の説明とする。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の実施形態の液滴吐出装置を示す概略構成図である。
【0015】
実施形態の液滴吐出装置1は、図1に示すように、例えば4つの液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dを備える。各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは、それぞれが複数の圧力室を有し、各圧力室の容積を圧電素子により膨張又は収縮させ、複数の圧力室内の液体を複数のノズルから吐出させる。
【0016】
本実施形態では、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは、例えばY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色インク用のインクジェットヘッドであり、主走査方向(図1中X方向)に並設されている。ただし本発明において、液滴はインクに限定されず、液滴吐出ヘッドの数は4つに限定されない。また、液滴吐出ヘッドにおける圧力室及びノズルの数は複数に限定されず、それぞれが単一であってもよい。
【0017】
各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは、複数のノズルが形成されたノズル面を記録媒体50に対向させて、共通のキャリッジ20に搭載されている。各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは、それぞれフレキシブルケーブル30を介して、液滴吐出装置1に設けられた駆動回路に電気的に接続されている。駆動回路は、液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの複数の圧力室に対応する各圧電素子のそれぞれに駆動信号を供給する。
【0018】
キャリッジ20は、ガイドレール40に沿って主走査方向に、主走査モータによって往復移動操作される。記録媒体50は、主走査方向に直交する副走査方向(図1中Y方向)に、副走査モータによって所定量ずつ間欠搬送される。
【0019】
各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは、主走査方向に移動操作されながら、複数のノズルから記録媒体50に向けてインクを吐出する。各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの主走査方向の移動と記録媒体50の副走査方向の間欠的搬送との協働により、記録媒体50上に所定の画像が印画される。
【0020】
図2は、前記液滴吐出装置の液滴吐出ヘッド10Aの断面図である。各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dは同一構成であるため、図2では、代表して液滴吐出ヘッド10Aの構成を示している。
【0021】
液滴吐出ヘッド10Aは、図2に示すように、ヘッド基板11と、配線基板12と、接着樹脂層13とを備えて構成されている。ヘッド基板11と配線基板12とは、接着樹脂層13を挟んで、図2中下層側から順に積層されている。配線基板12の図2中上面には、インクマニホールド14が接合されている。インクマニホールド14の内部は、配線基板12上にインクが貯留される共通インク室14aとなっている。
【0022】
ヘッド基板11は、Si(シリコン)基板によって形成されたノズルプレート11aと、ガラス基板によって形成された中間プレート11bと、Si(シリコン)基板によって形成された圧力室プレート11cと、SiO薄膜によって形成された振動板11dとにより構成されている。これらノズルプレート11a、中間プレート11b、圧力室プレート11c及び振動板11dは、図2中下層側から順に積層されている。ノズルプレート11aには複数のノズル11eが形成されている。各ノズル11eは、ノズルプレート11a及び中間プレート11bを貫通して形成されている。
【0023】
圧力室プレート11cには、それぞれにインクが収容される複数の圧力室15が、貫通孔として形成されている。各圧力室15は、中間プレート11bが下壁となり、振動板11dが上壁となることにより、閉塞された空間となっている。各圧力室15には、中間プレート11bを貫通するノズル11eが連通されている。ノズル11eは、1つの圧力室15あたりに1本が形成されている。
【0024】
振動板11dの上面には、各圧力室15に対応して、圧電素子16が積層されている。圧電素子16は、薄膜PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等であり、駆動電極としての上部電極と下部電極(いずれも図示略)とにより挟まれて配置されている。上部電極は、各圧電素子16ごとに分離した電極であり、各圧電素子16の駆動電極となる。下部電極は、振動板11dの上面全面に広がっており、全ての圧電素子16に共通の共通電極となる。共通電極は、接地されている。
【0025】
配線基板12には、配線パターンが形成されている。この配線は、液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dごとに設けられた駆動回路からの駆動信号を、各圧電素子16の駆動電極に供給する。
【0026】
接着樹脂層13は、例えば熱硬化性の感光性接着樹脂シートによって形成され、ヘッド基板11及び配線基板12を接着させている。ヘッド基板11と配線基板12との間には、接着樹脂層13の厚み分の間隔が形成されている。接着樹脂層13は、圧電素子16及びその周囲に相当する領域が、露光及び現像工程によって除去され開口部となっている。各圧電素子16は、接着樹脂層13の開口部内にそれぞれ配置されている。
【0027】
配線基板12及び接着樹脂層13には、上下に貫通するインク供給路12a及び貫通孔13aが、各圧力室15に対応して形成されている。インク供給路12a及び貫通孔13aは、互いに連通している。各インク供給路12aの上端は共通インク室14aに連通し、各貫通孔13aの下端は、各圧力室15内に連通している。共通インク室14aは、インク供給路12a及び貫通孔13aを通して、各圧力室15に連通している。
【0028】
液滴吐出ヘッド10Aにおいては、共通インク室14aからインク供給路12a及び貫通孔13aを通じて、各圧力室15にインクが供給される。駆動回路からは、各圧電素子16の駆動電極に、膨張パルス及び収縮パルスを含む駆動信号が供給される。駆動信号により圧電素子16が変形動作すると、振動板11dが変位し、対応する圧力室15の容積が膨張又は収縮する。圧力室15内のインクは、圧力室15の膨張又は収縮により圧力が変化され、ノズル11eから記録媒体50に向けて吐出される。
【0029】
図3は、前記液滴吐出装置の電気的構成のブロック図である。
【0030】
液滴吐出装置1は、図3に示すように、通信回線を介してホストコンピュータ200に接続されて使用される。液滴吐出装置1は、前述した液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dと、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dに対応する駆動回路60A,60B,60C,60Dと、ホストコンピュータ200に接続される制御装置100とを備えて構成されている。
【0031】
制御装置100は、インターフェースコントローラ101、画像メモリ102、転送部103、CPU(Central Processing Unit)104、主走査モータ105、副走査モータ106、入力操作部107、駆動信号発生回路108等を有する。
【0032】
インターフェースコントローラ101は、ホストコンピュータ200から、記録媒体50に印画すべき画像情報を受信する。
【0033】
画像メモリ102は、インターフェースコントローラ101を介して受信された画像情報を、一時的に記憶する。画像メモリ102に記憶された画像情報は、駆動回路60A,60B,60C,60Dに入力される。
【0034】
転送部103は、タイミング発生回路103a及びメモリ制御回路103bを有している。タイミング発生回路103aは、例えば不図示のエンコーダセンサ等により、キャリッジ20の位置情報を求める。メモリ制御回路103bは、キャリッジ20の位置情報から、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dごとに必要とされる部分画像情報のアドレスを求める。メモリ制御回路103bは、部分画像情報のアドレスを用いて、画像メモリ102から、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの複数ノズル11eからの一回の吐出により記録される部分画像情報を読み出し、各駆動回路60A,60B,60C,60Dに転送する。
【0035】
CPU104は、液滴吐出装置1を統括制御する制御部であり、記録媒体50の搬送、キャリッジ20の移動、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dからのインクの吐出等を制御する。
【0036】
主走査モータ105は、図1に示すキャリッジ20を主走査方向に移動させるためのモータである。副走査モータ106は、記録媒体50を副走査方向に搬送するためのモータである。これら主走査モータ105及び副走査モータ106の駆動は、CPU104によって制御される。
【0037】
入力操作部107は、CPU104がオペレータによる各種の入力操作を受け付ける部分であり、例えばタッチパネルやキーボード等である。
【0038】
駆動信号発生回路108は、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dからインクを吐出させるための駆動信号の信号波形を生成する。この信号波形は、タイミング発生回路103aの画像情報のラッチ信号に同期し、ラッチ信号ごとに生成され、各駆動回路60A,60B,60C,60Dに入力される。
【0039】
各駆動回路60A,60B,60C,60Dは、それぞれ電圧設定部61A,61B,61C,61Dを有する。電圧設定部61A,61B,61C,61Dは、駆動信号発生回路108から入力される駆動信号の信号波形に基づく所定の電圧を設定する。駆動回路60A,60B,60C,60Dは、電圧設定部61A,61B,61C,61Dによって電圧設定された駆動信号を、画像メモリ102から送られる画像情報に基づいて、対応する液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの各圧電素子16の駆動電極に供給する。電圧設定部61A,61B,61C,61Dによって設定される電圧値は、CPU104によって駆動回路60A,60B,60C,60Dごとに独立して制御可能としてもよい。
【0040】
図4は、第1実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャートである。
【0041】
駆動信号発生回路108から各駆動回路60A,60B,60C,60Dに入力される信号波形は、図4に示すように、待機時の中間電位(Vref)及び最高電位(Vh)を含む第1の入力波形(COM1)と、最高電位(Vh)及び液滴吐出を行う最低電位(Vlx)を含む第2の入力波形(COM2)である。第2の入力波形(COM2)は、中間電位(Vref)と、中間電位(Vref)及び最低電位(Vlx)の間の低電位(Vlo)も含んでいる。
【0042】
第1の入力波形(COM1)は、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの待機時に選択されて各圧電素子16に供給される。第2の入力波形(COM2)は、各液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dからの液滴吐出時に選択されて各圧電素子16に供給される。
【0043】
第1及び第2の入力波形(COM1、COM2)において、中間電位(Vref)の絶対値は、最高電位(Vh)の絶対値よりも低電位であって、中間電位(Vref)と最高電位(Vh)とは同符号の電位である。中間電位(Vref)と最高電位(Vh)とは、ともに正電位であってもよいし、ともに負電位であってもよい。
【0044】
この実施形態では、最高電位(Vh)は、例えば30~36V程度である。中間電位(Vref)は、例えば15~20V程度である。低電位(Vlo)は、例えば0V程度である。最低電位(Vlx)は、例えば-15~-20V程度である。
【0045】
中間電位(Vref)の絶対値が最高電位(Vh)の絶対値よりも低電位で、中間電位(Vref)と最高電位(Vh)とが同符号の電位であることにより、待機時には、中間電位(Vref)と異なる符号の電位を使用せず、0Vを通過しないので圧電素子の線形性が維持される。また、中間電位(Vref)の絶対値が低いので、長期間に亘って圧電素子16に大きな応力がかかることがない。これらにより、この液滴吐出装置においては、圧電素子16の駆動効率の劣化を抑制することができ、長期間に亘って圧電素子16の劣化や破壊を防止することができる。
【0046】
最高電位(Vh)と中間電位(Vref)との電位差(V2)は、中間電位(Vref)と最低電位(Vlx)との電位差(V1)の0.2~0.4倍であることが好ましい。電位差(V1、V2)をこのような比率とすることにより、中間電位(Vref)を抑制しつつ(圧電素子16の劣化を抑制しつつ)引き打ちにより十分な駆動力が得られるので、圧電素子16の駆動効率を高くすることができる。ここで引き打ちとは、ノズル11e内のインクを圧力室15の膨張により圧力室15側に一旦引き込み、次いで圧力室15の収縮によりインクを吐出することである。
【0047】
この実施形態では、第1の入力波形(COM1)は、中間電位(Vref)と最高電位(Vh)とが周期的に切替わるパルス波形であって、ノズル11e内の液体の界面(メニスカス)を振動させる揺らし波形を含んだ波形となっている。揺らし波形とは、液滴吐出を行う収縮のパルスより弱い駆動パルスで、圧力波しか生じない範囲で圧力室15の容積を収縮又は膨張させる収縮又は膨張のパルスであり、ノズル11e付近の液体(インク)が乾燥して粘度増加することによる目詰まり(デキャップ)の抑制を目的として、ノズル11e内の液体の界面を揺らすための波形である。第1の入力波形(COM1)は、揺らし波形を含むことにより、デキャップを抑制することができる。
【0048】
この実施形態では、第2の入力波形(COM2)は、中間電位(Vref)から開始し、最高電位(Vh)と低電位(Vlo)又は最低電位(Vlx)とが周期的に切替わるパルス波形であって、ノズル11e内の液体を吐出させる吐出波形を含んだ波形となっている。最高電位(Vh)に至るパルスは、圧力室15の容積を収縮させる収縮パルス(吐出パルス)であり、低電位(Vlo)に至るパルス及び最低電位(Vlx)に至るパルスは、圧力室15の容積を膨張させる膨張パルスである。第2の入力波形(COM2)は、複数の収縮パルス(吐出パルス)を含んでおり、いわゆるマルチ駆動による階調制御を行うことができる。
【0049】
この実施形態では、各パルスの立ち上がり及び立ち下がりを傾斜状のスロープ波形としている。スロープ波形とすることにより、サテライト、速度異常、曲がり等の不安定吐出を抑制することができ、本発明において好ましい態様である。
【0050】
図5は、第1実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャートである。
【0051】
各駆動回路60A,60B,60C,60Dは、図5(a)~(c)に示すように、第1及び第2の入力波形(COM1、COM2)がともに最高電位(Vh)であるとき(Q)に切替えることによって駆動信号を生成し、対応する液滴吐出ヘッド10A,10B,10C,10Dの各圧電素子16に供給する。
【0052】
図5(a)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で3回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に最低電位(Vlx)(膨張パルス)、最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0053】
この駆動信号において、第1の入力波形(COM1)が中間電位(Vref)から最高電位(Vh)となったとき(Q)に、第2の入力波形(COM2)に切替えられる。第2の入力波形(COM2)への切替えの後、膨張パルスによって、共通インク室14aから圧力室15内に液体(インク)が流れ込む。この膨張状態は一定期間維持される。次の収縮パルスによって、膨張状態にあった圧力室15の容積が収縮する。圧力室15の容積の収縮により、圧力室15内に正の圧力波が発生する。この圧力波により、液体がノズル11eから押し出され、液滴が吐出される。この収縮状態は一定期間維持される。次の膨張パルスによって、圧力室15の容積は再び膨張し始め、圧力室15の容積は、待機状態に戻る。圧力室15の容積が膨張することにより、圧力室15内に負の圧力波が発生する。この圧力波は、収縮パルスによって圧力室15内に発生した正の圧力波との合成波を発生させる。
【0054】
図5(b)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で2回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0055】
図5(c)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で1回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0056】
これらの駆動波形では、第1及び第2の入力波形(COM1、COM2)がともに最高段位(Vh)であるときに入力波形の切替えを行うので、その後に低電位(Vlo)又は最低電位(Vlx)に至る膨張パルスを、大きな電位差を有するパルスとすることができ、液滴吐出速度を高速化することができる。また、吐出パルスを最高段位(Vh)に至るパルスとすることができるので、液滴吐出量を制御できる範囲を広くすることができる。制御できる範囲が広いとは、1回の最小吐出量と1回の最大吐出量との差が大きいということである。
【0057】
〔第2実施形態〕
液滴吐出装置の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明を援用して記載を省略する。
【0058】
図6は、第2実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャートである。
【0059】
この実施形態では、第1の入力波形(COM1)は、図6に示すように、第1実施形態の第1の入力波形(COM1)と同様である。第2の入力波形(COM2)は、中間電位(Vref)から開始し、最高電位(Vh)と低電位(Vlo)又は最低電位(Vlx)とが周期的に切替わるパルス波形であって、ノズル11e内の液体を吐出させる吐出波形を含んだ波形となっている。最低電位(Vlx)に至るパルスからは、最高電位(Vh)に至らずに、中間電位(Vref)に戻る。
【0060】
図7は、第2実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャートである。
【0061】
図7(a)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で3回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に最低電位(Vlx)(膨張パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に中間電位(Vref)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0062】
図7(b)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で2回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるとき及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に中間電位(Vref)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0063】
図7(c)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)における揺らし波形で1回目に最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるとき及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に中間電位(Vref)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0064】
これらの駆動波形では、第1及び第2の入力波形(COM1、COM2)がともに最高段位(Vh)であるときに入力波形の切替えを行うので、その後に低電位(Vlo)又は最低電位(Vlx)に至る膨張パルスを、大きな電位差を有するパルスとすることができ、液滴吐出速度を高速化することができる。また、吐出パルスを最高段位(Vh)に至るパルスとすることができるので、液滴吐出量を制御できる範囲を広くすることができる。
【0065】
〔第3実施形態〕
液滴吐出装置の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明を援用して記載を省略する。
【0066】
図8は、第3実施形態の液滴吐出装置の駆動回路に入力される入力波形を示すタイミングチャートである。
【0067】
この実施形態では、第1の入力波形(COM1)は、図8に示すように、中間電位(Vref)及び最高電位(Vh)を含み、揺らし波形を含まない波形となっている。第2の入力波形(COM2)は、第1実施形態の第2の入力波形(COM2)と同様である。
【0068】
図9は、第3実施形態の液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドに供給される駆動信号を示すタイミングチャートである。
【0069】
図9(a)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)において最高電位(Vh)が所定の長時間維持された後(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に最低電位(Vlx)(膨張パルス)、最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0070】
図9(b)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)において最高電位(Vh)が所定の短時間維持された後(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0071】
図9(c)に示す波形は、第1の入力波形(COM1)において最高電位(Vh)となったとき(Q)に、最高電位(Vh)である第2の入力波形(COM2)に切替え、その後に低電位(Vlo)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)が繰り返され、最低電位(Vlx)(膨張パルス)及び最高電位(Vh)(吐出パルス)を経て中間電位(Vref)に戻る駆動信号である。低電位(Vlo)及び最低電位(Vlx)(膨張パルス)の後に最高電位(Vh)となるときに、液滴吐出が行われる。
【0072】
これらの駆動波形では、第1及び第2の入力波形(COM1、COM2)がともに最高段位(Vh)であるときに入力波形の切替えを行うので、その後に低電位(Vlo)又は最低電位(Vlx)に至る膨張パルスを、大きな電位差を有するパルスとすることができ、液滴吐出速度を高速化することができる。また、吐出パルスを最高段位(Vh)に至るパルスとすることができるので、液滴吐出量を制御できる範囲を広くすることができる。
【0073】
〔各実施形態について〕
上述の各実施形態では、単板型の圧電素子を用いているが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、積層型の圧電素子を用いてもよいし、せん断モードで変形するせん断モード型の圧電素子等、別の形態の圧電素子を用いることができる。せん断モード型の圧電素子では、矩形波の駆動波形をより効果的に利用することができ、駆動電圧が下げられ、より効率的な駆動が可能となるため好ましい。
【0074】
また、以上の説明では、液滴吐出ヘッドとして画像記録を行うためのインクジェットヘッドを用いたが、これに限らず、液滴を吐出するためのノズルと、このノズルに連通する圧力室と、この圧力室内の圧力を変化させる圧電素子とを備えたものであれば同様に適用できる。
【0075】
さらに、以上の実施形態における液滴吐出装置1を構成する各部の細部構成及び細部動作に関して、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 液滴吐出装置
10A,10B,10C,10D 液滴吐出ヘッド
11 ヘッド基板
11a ノズルプレート
11b 中間プレート
11c 圧力室プレート
11d 振動板
11e ノズル
12 配線基板
13 接着樹脂層
14 インクマニホールド
15 圧力室
16 圧電素子
50 記録媒体
100 制御装置
101 インターフェースコントローラ
102 画像メモリ
103 転送部
103a タイミング発生回路
103b メモリ制御回路
104 CPU
105 主走査モータ
106 副走査モータ
107 入力操作部
108 駆動信号発生回路
60A,60B,60C,60D 駆動回路
61A,61B,61C,61D 電圧設定部
200 ホストコンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9