(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】車両用開閉体制御装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/655 20150101AFI20221213BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20221213BHJP
E05F 15/41 20150101ALI20221213BHJP
【FI】
E05F15/655
B60J5/00 D
E05F15/41
(21)【出願番号】P 2019044823
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】竹中 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 康平
(72)【発明者】
【氏名】甲斐野 嵩志
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-002224(JP,A)
【文献】特開2015-168273(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044287(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0267421(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/655
B60J 5/00
E05F 15/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として車両の開閉体を作動させる駆動制御部と、
前記モータの電流値に基づいて前記開閉体による挟み込みを検知する挟み込み検知部とを備え、
前記駆動制御部は、
前記モータに駆動電力を供給するためのモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部と、
前記モータ制御信号の位相を進角させるための進角値を設定する進角値設定部とを備え、
前記進角値設定部は、前記モータの電流値が進角値増加禁止電流値に到達したとき、進角値の増加設定を禁止する進角値増加禁止部を有する、車両用開閉体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用開閉体制御装置において、
前記挟み込み検知部は、
前記モータの電流値と挟み込み検知閾値との大小関係に基づいて前記開閉体による挟み込みを検知するものであって、進角値が大きくなるほど前記挟み込み検知閾値が大きくなるように補正する挟み込み検知閾値補正部を有し、
前記進角値設定部は、
進角値が大きくなるほど前記進角値増加禁止電流値が大きくなるように補正する進角値増加禁止電流値補正部を有する、車両用開閉体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用開閉体制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワースライドドア装置等、駆動源を有して車両の開閉体を開閉作動させる車両用開閉体制御装置においては、多くの場合、その駆動源にモータが用いられている。そして、従来、モータ制御装置には、そのモータの駆動回路に出力するモータ制御信号の位相を進角させる進角制御を実行するものがある。
【0003】
すなわち、回転速度の上昇によりモータの電流位相に遅れが生ずる場合がある。しかしながら、このような場合においても、モータに駆動電力を供給するために駆動回路に出力するモータ制御信号の位相を適切に進角させることで、効率よく、そのモータを制御することができる。また、このような進角制御を実行することで、そのモータトルク(T)と回転速度(N)との関係、いわゆるN-T特性が変化する。そして、これにより、例えば、特許文献1に記載のワイパ制御装置のように、そのモータ駆動による制御対象を高速で移動させることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、進角制御を実行することで、そのモータトルク(T)とモータ電流値(I)との関係、いわゆるI-T特性も変化する。具体的には、進角制御の進角値が大きくなるほど、モータ電流値が増加する。一方、車両用開閉体制御装置においては、モータ電流値に基づいて開閉体による挟み込みを検知するものがある。この場合、進角制御の実行によってモータ電流値が著しく増加すると、挟み込みとして誤検知する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、進角制御の実行時における挟み込みの誤検知を抑制できる車両用開閉体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する車両用開閉体制御装置は、モータを駆動源として車両の開閉体を作動させる駆動制御部と、前記モータの電流値に基づいて前記開閉体による挟み込みを検知する挟み込み検知部とを備え、前記駆動制御部は、前記モータに駆動電力を供給するためのモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部と、前記モータ制御信号の位相を進角させるための進角値を設定する進角値設定部とを備え、前記進角値設定部は、前記モータの電流値が進角値増加禁止電流値に到達したとき、進角値の増加設定を禁止する進角値増加禁止部を有する。
【0008】
この構成によれば、進角制御の実行時、進角値の増加に伴って増加する前記モータの電流値が前記進角値増加禁止電流値に到達すると、前記進角値設定部は、前記進角値増加禁止部において進角値の増加設定を禁止する。これにより、進角値がそれ以上に増加することがなくなり、前記モータの電流値が前記進角値増加禁止電流値を著しく超えるまで増加することもなくなる。従って、前記挟み込み検知部における前記モータの電流値に基づく挟み込みの誤検知を抑制できる。
【0009】
上記車両用開閉体制御装置について、前記挟み込み検知部は、前記モータの電流値と挟み込み検知閾値との大小関係に基づいて前記開閉体による挟み込みを検知するものであって、進角値が大きくなるほど前記挟み込み検知閾値が大きくなるように補正する挟み込み検知閾値補正部を有し、前記進角値設定部は、進角値が大きくなるほど前記進角値増加禁止電流値が大きくなるように補正する進角値増加禁止電流値補正部を有することが好ましい。
【0010】
前記開閉体による挟み込みの検知に係る前記モータのトルク(以下、「許容トルク」ともいう)が同じであれば、これに対応する前記モータの電流値は、進角値が大きくなるほど大きくなることが確認されている。この構成によれば、前記挟み込み検知部は、前記挟み込み検知閾値補正部において進角値が大きくなるほど前記挟み込み検知閾値が大きくなるように補正することで、許容トルクにより近いトルクに基づいて前記開閉体による挟み込みをより最適に検知できる。
【0011】
また、前記進角値設定部は、前記進角値増加禁止電流値補正部において、進角値が大きくなるほど前記進角値増加禁止電流値が大きくなるように補正する。つまり、前記進角値増加禁止電流値は、進角値が大きくなるほど大きくなるように補正される前記挟み込み検知閾値に追従するように補正される。従って、前記進角値設定部は、前記進角値増加禁止部において、進角値の増加設定をより最適に禁止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、進角制御の実行時における挟み込みの誤検知を抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】進角制御の実行により変化するモータのN-T特性、及びその進角値との関係を示すグラフ。
【
図6】挟み込み検知の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】進角制御の実行時、挟み込みの検知条件を変更する処理手順を示すフローチャート。
【
図8】進角制御の実行により変化するモータのI-T特性を示すグラフ。
【
図9】挟み込み検知の判定条件を変更するために用いられる補正マップの説明図。
【
図11】(a)、(b)は、進角制御における進角値の増加時のモータの電流値及び進角値の推移を示すタイムチャート。
【
図12】進角値増加禁止電流値の補正の態様を示すフローチャート。
【
図13】進角値増加禁止電流値の補正に用いられる補正マップの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、車両用開閉体制御装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両1は、車体2の側面2sに設けられたドア開口部3を開閉するスライドドア4を備えている。具体的には、この車両1には、その前後方向(
図1中、左右方向)に延びる複数のガイドレール5(5a~5c)と、これらの各ガイドレール5に連結される複数のガイドローラユニット6(6a~6c)とが設けられている。すなわち、本実施形態のスライドドア4は、これらの各ガイドレール5及び各ガイドローラユニット6を介して車体2の側面2sに支持される。また、これらの各ガイドレール5及び各ガイドローラユニット6は、各ガイドレール5の延伸方向に沿って、その各ガイドレール5に対する各ガイドローラユニット6の係合位置を移動させることが可能となっている。そして、本実施形態のスライドドア4は、これにより、その車体2の側面2sに沿う状態で車両前後方向に移動する構成になっている。
【0015】
すなわち、本実施形態のスライドドア4は、車両前方側(
図1中、左側)に移動することにより、そのドア開口部3を閉塞する全閉状態となり、車両後方側(同図中、右側)に移動することにより、そのドア開口部3を介して車両1の乗員が乗降可能な全開状態となる。そして、このスライドドア4には、当該スライドドア4を開閉操作するためのアウトサイドドアハンドル又はインサイドドアハンドルドアなどのドアハンドル10が設けられている。
【0016】
また、
図2に示すように、このスライドドア4には、複数のロック装置11が設けられている。なお、このスライドドア4には、当該スライドドア4を全閉位置で拘束する全閉ロックとしてのフロントロック11a及びリアロック11bが設けられている。さらに、このスライドドア4には、当該スライドドア4を全開位置で拘束するための全開ロック11cが設けられている。そして、本実施形態のスライドドア4において、これらの各ロック装置11は、リモコン12を介してドアハンドル10に連結されている。
【0017】
すなわち、本実施形態のスライドドア4は、そのドアハンドル10を操作することで、各ロック装置11による拘束状態が解除されるようになっている。なお、このスライドドア4は、車室内に設けられた操作スイッチ、或いは携帯機等を乗員が操作することにより、遠隔操作によっても、その各ロック装置11による拘束状態を解除することが可能になっている。そして、このスライドドア4は、そのドアハンドル10を把持部として、手動により開閉作動させることが可能となっている。
【0018】
また、本実施形態のスライドドア4には、モータ20を駆動源とするドアアクチュエータ21が設けられている。さらに、このドアアクチュエータ21のモータ20は、ドアECU25から駆動電力の供給を受けることにより回転する。すなわち、ドアECU25は、モータ20に対する駆動電力の供給を通じてドアアクチュエータ21の作動を制御する。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、そのモータ20の駆動力に基づきスライドドア4を開閉作動させることが可能な車両用開閉体制御装置としてのパワースライドドア装置30が形成されている。
【0019】
詳述すると、本実施形態のドアアクチュエータ21は、モータ20の駆動力に基づき図示しない駆動ケーブルを介してスライドドア4を開閉駆動する開閉駆動部31を備えている。
【0020】
また、本実施形態のドアアクチュエータ21には、その開閉駆動部31の作動に同期したパルス信号Spを出力するパルスセンサ32が設けられている。そして、本実施形態のドアECU25は、このパルスセンサ32のパルス出力に基づいて、そのドアアクチュエータ21に駆動されたスライドドア4の移動位置X及び移動速度Vdrを検出する。
【0021】
さらに、本実施形態のドアECU25には、ドアハンドル10や車室内、或いは携帯機等に設けられた操作入力部33の出力信号(操作入力信号Scr)が入力されるようになっている。すなわち、本実施形態のドアECU25は、この操作入力信号Scrに基づいて、利用者によるスライドドア4の作動要求を検知する。そして、その要求された作動方向にスライドドア4を移動させるべく、ドアアクチュエータ21の作動を制御する構成になっている。
【0022】
さらに詳述すると、
図3に示すように、本実施形態のドアECU25は、スライドドア4を開閉作動させるべく、その駆動源となるモータ20の制御目標εを演算する制御目標演算部41を備えている。また、ドアECU25は、この制御目標εに基づいてモータ制御信号Smcを出力するモータ制御信号出力部43を備えている。さらに、ドアECU25は、このモータ制御信号Smcに基づいてモータ20に駆動電力を出力する駆動回路45を備えている。そして、ドアECU25は、これにより、そのモータ20に対する駆動電力の供給を通じてドアアクチュエータ21の作動を制御する構成になっている。
【0023】
具体的には、本実施形態の制御目標演算部41は、利用者の作動要求を示す操作入力信号Scr、並びにスライドドア4の移動位置X及び移動速度Vdr、或いは、例えば車速等、各種の車両状態量に基づいて、そのモータ20の制御目標εを演算する。なお、本実施形態のドアECU25において、この制御目標演算部41の出力する制御目標εは、モータ20の回転方向、及びそのデューティ(オンデューティ比)を示すものとなっている。また、本実施形態のモータ20には、ブラシレスモータが採用されており、モータ制御信号出力部43には、回転角センサ47により検出されたモータ20の回転角(電気角)θが入力される。そして、本実施形態のモータ制御信号出力部43は、これにより、そのモータ20の回転角θに応じて位相が変化するモータ制御信号Smcを出力する構成になっている。
【0024】
すなわち、本実施形態の駆動回路45には、複数のスイッチング素子(図示略)をブリッジ状に接続してなる適宜のPWMインバータが用いられている。また、モータ制御信号出力部43が出力するモータ制御信号Smcは、駆動回路45の各スイッチング素子について、そのモータ20の回転角θに応じたオン/オフパターンの組み合わせとともに、制御目標演算部41が出力する制御目標εに示されたオンデューティ比に対応したオン/オフタイミングを規定するPWM制御信号となっている。そして、本実施形態のドアECU25は、これにより、その駆動回路45を介して三相(U,V,W)の駆動電力をモータ20に出力する構成になっている。
【0025】
また、本実施形態のドアECU25は、モータ制御信号Smcの位相を進角させるための進角値αを設定する進角値設定部51を備えている。すなわち、本実施形態のモータ制御信号出力部43には、モータ20の回転角θとともに、この進角値設定部51の出力する進角値αが入力される。そして、本実施形態のドアECU25は、これにより、モータ制御信号出力部43が、その進角値αにより位相を進めたモータ制御信号Smcによって、そのモータ20に対する駆動電力の供給を実行可能な構成になっている。つまり、ドアECU25は、いわゆる進角制御を実行可能な構成になっている。
【0026】
具体的には、
図4のフローチャートに示すように、本実施形態のドアECU25は、ステップ101においてモータ20の回転速度N(例えば、回転数/分)を取得し、ステップ102においてその回転速度Nが所定速度N1以上であるかを判定する。そして、モータ20の回転速度Nが所定速度N1以上である場合には、ステップ103において進角制御を実行し、その回転速度Nが所定速度N1に満たない場合には、ステップ104において進角制御を実行しない。
【0027】
すなわち、
図5に示すように、進角制御の実行により、そのモータトルクTと回転速度Nとの関係を示すN-T特性が高回転・低トルク型に変化する。この点を踏まえ、本実施形態のパワースライドドア装置30においては、予めシミュレーション等によって、同図に示されるように、その進角制御の実行によりモータ20の回転速度Nを増速させることが可能な当該回転速度NとモータトルクTとの関係が求められている。そして、本実施形態のドアECU25は、その進角制御の実行によりモータ20を増速させることのできる回転速度Nの下限値を所定速度N1に設定する、つまりは、その進角制御によって、回転速度Nを増速させる余力を残してモータ20が回転している低負荷領域においてのみ、その進角制御を実行する構成になっている。
【0028】
また、
図5中、破線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α1」である場合におけるモータ20のN-T特性を表している。同様に、同図中、一点鎖線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α2」である場合のN-T特性、同じく二点鎖線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α3」である場合のN-T特性を表している。そして、同図中、実線に示す波形は、その進角制御の進角値αが「α0=0°」、つまりは進角制御を実行しない場合におけるモータ20のN-T特性を表している。これらの各波形に示す進角値α0~α3は、その番号が大きいもの程、より大きな値に設定されている(α0<α1<α2<α3)。すなわち、進角制御を実行することによるモータ20の増速作用は、その進角値αが大きくなるに従って、より顕著なものとなる。
【0029】
この点を踏まえ、本実施形態のドアECU25において、進角値設定部51は、基本的にモータ20の回転速度Nが上昇するに従って、より大きな進角値αを設定する。そして、本実施形態のドアECU25においては、これにより、進角制御の実行時、基本的にモータ20の回転速度Nに応じた進角値αで、そのモータ制御信号Smcの位相が進められる構成になっている。
【0030】
また、
図3に示すように、本実施形態のドアECU25は、例えば、乗員の手や足等の異物が、スライドドア4の前端部4fとドア開口部3の前縁部3fとの間に挟み込まれた場合等、そのスライドドア4に生じた挟み込みの検知を実行する挟み込み検知部55を備えている。具体的には、本実施形態のドアECU25においては、電流センサ57により検出された車載電源60から駆動回路45に流れ込む電流の値、即ちモータ20の電流値Imが、この挟み込み検知部55に入力される。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、このモータ20の電流値Imに基づいて、その挟み込み検知を実行する構成になっている。
【0031】
具体的には、
図6のフローチャートに示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、ステップ201においてモータ20の電流値Imを取得すると、ステップ202においてその挟み込み検知に用いる挟み込み検知閾値Ithを設定する。さらに、挟み込み検知部55は、ステップ203においてこの挟み込み検知閾値Ithとモータ20の電流値Imとを比較し、その電流値Imが挟み込み検知閾値Ithを超える場合(Im>Ith、ステップ203:YES)に、ステップ204においてそのスライドドア4の挟み込みが発生していると判定する。そして、モータ20の電流値Imが挟み込み検知閾値Ith以下である場合(Im≦Ith、ステップ203:NO)には、ステップ205においてスライドドア4の挟み込みは発生していないものと判定する。
【0032】
すなわち、挟み込みの発生によりモータ20の回転が拘束されることで、そのモータ20の電流値Imがいわゆる拘束電流として上昇する。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、このモータ20に生ずる電流変化を監視することにより、そのスライドドア4の挟み込みを検知する構成になっている。
【0033】
また、
図3に示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、進角値αが大きくなるほど挟み込み検知閾値Ithが大きくなるように補正する挟み込み検知閾値補正部55aを有する。具体的には、
図7のフローチャートに示すように、挟み込み検知部55は、この挟み込み検知の挟み込み検知閾値Ithを設定する際(
図6参照、ステップ202)、ステップ301においてその基準値I0をドアECU25の記憶領域25mから読み出すと、続いて、ステップ302において進角制御の実行中であるか否かを判定する。そして、進角制御の実行中である場合(ステップ302:YES)には、進角制御が実行されていない場合(ステップ302:NO)よりも高い挟み込み検知閾値Ithを設定する構成になっている(ステップ303~305)。
【0034】
詳述すると、
図2及び
図9に示すように、本実施形態のドアECU25は、挟み込み検知に用いる挟み込み検知閾値Ithを補正するための補正マップ61を記憶領域25mに保持する。具体的には、本実施形態のドアECU25において、この補正マップ61は、その実行中の進角制御における進角値αと補正値βとの関係を規定するものとなっている。そして、本実施形態の補正マップ61は、その実行中の進角制御に設定された進角値αが大きいほど、より大きな補正値βが演算される構成になっている。
【0035】
すなわち、
図7のフローチャートに示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、進角制御の実行中である場合(ステップ302:YES)、ステップ303においてその進角制御の進角値αを取得する。さらに、挟み込み検知部55は、補正マップ61を用いることにより、ステップ304においてその進角値αに応じた補正値βを演算する。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、ステップ305においてこの補正値βを基準値I0に加えた値を、その挟み込み検知に用いる挟み込み検知閾値Ithに設定する構成になっている。
【0036】
一方、進角制御が実行されていない場合(ステップ302:NO)、挟み込み検知部55は、ステップ306において読み出した基準値I0をそのまま挟み込み検知閾値Ithに設定する。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、これにより、その進角制御を実行しない場合との比較において、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、進角制御の実行時の判定条件を変更する構成になっている。
【0037】
すなわち、
図8に示すように、進角制御の実行によりモータ20のI-T特性が変化することで、同じモータトルクT、例えば許容トルクを発生させるために必要な電流値Imが増大することになる。そして、同じモータトルクTを発生させるために必要な電流値Imは、その進角値が大きくなるに従って、より顕著なものとなる。この点を踏まえ、本実施形態の挟み込み検知部55は、進角制御の実行時には、上記のように、予め、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、その挟み込み検知の判定条件を変更する。そして、これにより、実際には挟み込みが発生していないにも関わらず、モータ20の電流値Imが挟み込み検知閾値Ithを超えないようにすることで、その誤判定を抑制する構成になっている。
【0038】
既述のように、本実施形態のドアECU25においては、進角制御の実行時、進角値設定部51により設定される進角値αで、そのモータ制御信号Smcの位相が進められる構成になっている。進角値αは、基本的にモータ20の回転速度Nが上昇するに従ってより大きく設定される。ただし、進角値設定部51は、進角値αを徐々に増加又は減少するように構成されている。また、
図3に示すように、進角値設定部51は、電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxに到達したとき、進角値αの増加設定を禁止する進角値増加禁止部51aを有する。具体的には、本実施形態のドアECU25においては、モータ20の電流値Imが、この進角値設定部51に入力される。そして、本実施形態の進角値設定部51は、この電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxに到達したとき、進角値増加禁止部51aにおいて進角値αの増加設定を禁止する構成になっている。
【0039】
具体的には、
図10のフローチャートに示すように、本実施形態の進角値設定部51は、ステップ401において現在の進角値αを取得することにより、ステップ402において進角値増加禁止電流値Imaxを設定する。そして、進角値αを増加させる場合(ステップ403:YES)には、進角値設定部51は、ステップ404において進角値増加禁止電流値Imaxとモータ20の電流値Imとを比較する。そして、進角値設定部51は、その電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを超える場合(ステップ404:NO)に、ステップ405において現在の進角値αをそのまま進角値αとして設定する。また、進角値設定部51は、その電流値Imが進角値増加禁止電流値Imax以下の場合(ステップ404:YES)に、ステップ406において進角値αを増加設定するべく、微小な所定値Δαを現在の進角値αに加えた値を、新たな進角値αとして設定する。
【0040】
一方、進角値αを減少させる場合(ステップ403:NO)には、進角値設定部51は、ステップ407において進角値αを増加設定するべく、所定値Δαを現在の進角値αから減じた値を、新たな進角値αとして設定する。
【0041】
このように、進角値αを増加させる場合にあっても、進角値設定部51は、電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを超える場合には進角値αの増加設定を禁止する。
これは、
図8に示すように、進角制御を実行することで、そのモータトルク(T)とモータ電流値(I)との関係、いわゆるI-T特性が変化するためである。具体的には、進角制御の非実行の通常制御時に比べて、進角制御の実行時には、電流値Imが増加し、またその増加量も進角値αの増加に伴って増加する。この場合、相対的大きな進角値αが設定されることで電流値Imが著しく増加すると、その電流値Imが挟み込み検知閾値Ithに近付いて挟み込みを誤検知する可能性が高くなる。この点を踏まえ、本実施形態の進角値設定部51は、進角値増加禁止部51aにおいて電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを超える場合には進角値αの増加設定を禁止している。
【0042】
図11(a)、(b)に一例を示すように、進角制御における進角値αの増加中、時刻t1において電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを超えると、進角値αのそれ以上の増加が禁止される。これにより、電流値Imの増加が抑えられ、電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを大きく超えることのないことが確認される。
【0043】
また、
図12のフローチャートに示すように、進角値増加禁止電流値Imaxを設定する際(
図10参照、ステップ402)、進角値設定部51は、ステップ501においてその基準値Imax0をドアECU25の記憶領域25mから読み出すと、ステップ502においてその進角値αに応じた補正値γを演算する。そして、進角値設定部51は、ステップ503においてこの補正値γを基準値Imax0に加えた値を、進角値増加禁止電流値Imaxに設定する構成になっている。
【0044】
詳述すると、
図2及び
図13に示すように、本実施形態のドアECU25は、進角値増加禁止電流値Imaxを補正するための補正マップ71を記憶領域25mに保持する。具体的には、本実施形態のドアECU25において、この補正マップ71は、その実行中の進角制御における進角値αと補正値γとの関係を規定するものとなっている。そして、本実施形態の補正マップ71は、その実行中の進角制御に設定された進角値αが大きいほど、より大きな補正値γが演算される構成になっている。そして、進角値設定部51は、これにより、
図3に示す進角値増加禁止電流値補正部51bにおいて進角値αが大きくなるほど大きくなるように補正される挟み込み検知閾値Ithに追従するように進角値増加禁止電流値Imaxを補正する。
【0045】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、ドアECU25は、駆動源となるモータ20の電流値Imに基づいて、車両1のドア開口部3に設けられた開閉体としてのスライドドア4の挟み込みを検知する挟み込み検知部55を備える。また、駆動制御部70としてのドアECU25は、モータ20に駆動電力を供給するためのモータ制御信号Smcを出力するモータ制御信号出力部43と、そのモータ制御信号Smcの位相を進角させるための進角値αを設定する進角値設定部51とを備える。進角値設定部51は、モータ20の電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxに到達したとき、進角値αの増加設定を禁止する進角値増加禁止部51aを有する。
【0046】
この構成によれば、進角制御の実行時、進角値αの増加に伴って増加するモータ20の電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxに到達すると、進角値設定部51は、進角値増加禁止部51aにおいて進角値αの増加設定を禁止する。これにより、進角値αがそれ以上に増加することがなくなり、モータ20の電流値Imが進角値増加禁止電流値Imaxを著しく超えるまで増加することもなくなる。従って、挟み込み検知部55におけるモータ20の電流値Imに基づく挟み込みの誤検知を抑制できる。
【0047】
(2)本実施形態では、挟み込み検知部55は、モータ20の電流値Imと挟み込み検知閾値Ithとの大小関係に基づいてスライドドア4による挟み込みを検知するものであって、進角値αが大きくなるほど挟み込み検知閾値Ithが大きくなるように補正する挟み込み検知閾値補正部55aを有する。進角値設定部51は、進角値αが大きくなるほど進角値増加禁止電流値Imaxが大きくなるように補正する進角値増加禁止電流値補正部51bを有する。
【0048】
スライドドア4による挟み込みの検知に係る許容トルクが同じであれば、これに対応するモータ20の電流値Imは、進角値αが大きくなるほど大きくなることが確認されている。この構成によれば、挟み込み検知部55は、進角値増加禁止部51aにおいて進角値αが大きくなるほど挟み込み検知閾値Ithが大きくなるように補正することで、許容トルクにより近いトルクに基づいてスライドドア4による挟み込みをより最適に検知できる。
【0049】
また、進角値設定部51は、進角値増加禁止電流値補正部51bにおいて、進角値αが大きくなるほど進角値増加禁止電流値Imaxが大きくなるように補正する。つまり、進角値増加禁止電流値Imaxは、進角値αが大きくなるほど大きくなるように補正される挟み込み検知閾値Ithに追従するように補正される。従って、進角値設定部51は、進角値増加禁止部51aにおいて、進角値αの増加設定をより最適に禁止できる。
【0050】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・前記実施形態において、進角制御時の進角値αの変更に係る所定値Δαは、例えば進角値αに応じて変更してもよい。
【0051】
・前記実施形態において、補正値γは、現在の進角値αの数値範囲に応じて段階的に変化してもよい。
・前記実施形態において、進角値増加禁止電流値Imaxは、進角値αに関わらず、例えば基準値Imax0などの一定値に固定してもよい。
【0052】
・前記実施形態において、補正値βは、現在の進角値αの数値範囲に応じて段階的に変化してもよい。
・前記実施形態においては、車両1の側面2sに設けられたスライドドア4を開閉体とするパワースライドドア装置30に具体化した。しかし、これに限らず、駆動源となるモータ20を進角制御しつつ、その電流値Imに基づいた挟み込み検知を行うものであれば、その開閉体は、車両後部に設けられたバックドアやスイング式のサイドドア等であってもよい。そして、例えば、車両の窓ガラスを昇降させるウィンドレギュレータやサンルーフ装置等、ドア以外の開閉体を対象とする車両用開閉体制御装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
α…進角値、β,γ…補正値、Im…電流値、Ith…挟み込み検知閾値、Smc…モータ制御信号、Imax…進角値増加禁止電流値、1…車両、20…モータ、43…モータ制御信号出力部、51…進角値設定部、51a…進角値増加禁止部、51b…進角値増加禁止電流値補正部、55…挟み込み検知部、55a…挟み込み検知閾値補正部、70…駆動制御部。