IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JSR株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電極材料製造装置及び電極材料製造方法 図1
  • 特許-電極材料製造装置及び電極材料製造方法 図2
  • 特許-電極材料製造装置及び電極材料製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】電極材料製造装置及び電極材料製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20221213BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20221213BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221213BHJP
【FI】
H01G13/00 381
H01G11/50
H01M4/587
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019047089
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020150154
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】住谷 孝治
(72)【発明者】
【氏名】安東 信雄
(72)【発明者】
【氏名】谷頭 幸
【審査官】西間木 祐紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105700(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110797(WO,A1)
【文献】特開2005-072462(JP,A)
【文献】特開2014-123663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 11/50
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属がドープされた活物質を含む電極材料を製造する電極材料製造装置であって、
少なくとも活物質を含む集合体に前記アルカリ金属を噴射するように構成された噴射ユニットと、
前記噴射ユニットから前記集合体までの経路の少なくとも一部で前記アルカリ金属を溶融した状態とするように構成された溶融ユニットと、
前記アルカリ金属、及び前記集合体を混練、攪拌、又は混合するように構成された処理ユニットと、
を備える電極材料製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電極材料製造装置であって、
前記溶融ユニットは、温度が150℃以上300℃以下であるガスを前記経路に供給することで、前記経路の少なくとも一部で前記アルカリ金属を溶融した状態とするように構成された電極材料製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極材料製造装置であって、
前記噴射ユニットは、溶融した状態にある前記アルカリ金属を噴射するように構成された電極材料製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電極材料製造装置であって、
前記アルカリ金属を収容するように構成されたアルカリ金属収容ユニットをさらに備え、
前記溶融ユニットは、前記アルカリ金属収容ユニットに収容された前記アルカリ金属を溶融するように構成され、
前記噴射ユニットは、前記アルカリ金属収容ユニットに収容され、溶融した状態にある前記アルカリ金属を噴射するように構成された電極材料製造装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電極材料製造装置であって、
前記溶融ユニットは、前記集合体に到達したときの前記アルカリ金属を、溶融した状態とするように構成された電極材料製造装置。
【請求項6】
アルカリ金属がドープされた活物質を含む電極材料を製造する電極材料製造方法であって、
少なくとも活物質を含む集合体に前記アルカリ金属を噴射し、
噴射されてから前記集合体に到達するまでの経路の少なくとも一部で前記アルカリ金属を溶融した状態とし、
前記アルカリ金属、及び前記集合体を混練、攪拌、又は混合する電極材料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電極材料製造装置及び電極材料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化は目覚ましく、それに伴い、当該電子機器の駆動用電源として用いられる電池に対しても小型化・軽量化の要求が一層高まっている。
このような小型化・軽量化の要求を満足するために、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が開発されている。また、高エネルギー密度特性及び高出力特性を必要とする用途に対応する蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタが知られている。さらに、リチウムより低コストで資源的に豊富なナトリウムを用いたナトリウムイオン型の電池やキャパシタも知られている。
【0003】
このような電池やキャパシタにおいては、様々な目的のために、予めアルカリ金属を電極にドープするプロセス(一般にプレドープと呼ばれている)が採用されている。アルカリ金属を電極にプレドープする方法としては様々な方法が知られているが、例えば、特許文献1記載の技術では、溶媒と、リチウム塩と、金属リチウムと、活物質とを含む集合体に超音波振動を加えることにより、プレドープを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5760593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術では、プレドープの工程の後、活物質にドープされずに集合体の中に残留したアルカリ金属(以下では残留アルカリ金属とする)が生じるおそれがある。本開示の1つの局面は、残留アルカリ金属の量を低減できる電極材料製造装置及び電極材料製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、アルカリ金属がドープされた活物質を含む電極材料を製造する電極材料製造装置であって、少なくとも活物質を含む集合体に前記アルカリ金属を噴射するように構成された噴射ユニットと、前記噴射ユニットから前記集合体までの経路の少なくとも一部で前記アルカリ金属を溶融した状態とするように構成された溶融ユニットと、前記アルカリ金属、及び前記集合体を混練、攪拌、又は混合するように構成された処理ユニットと、を備える電極材料製造装置である。
【0007】
本開示の1つの局面である電極材料製造装置を用いれば、アルカリ金属及び集合体を混練、攪拌、又は混合した後における残留アルカリ金属の量を低減できる。
本開示の別の局面は、アルカリ金属がドープされた活物質を含む電極材料を製造する電極材料製造方法であって、少なくとも活物質を含む集合体に前記アルカリ金属を噴射し、噴射されてから前記集合体に到達するまでの経路の少なくとも一部で前記アルカリ金属を溶融した状態とし、前記アルカリ金属、及び前記集合体を混練、攪拌、又は混合する電極材料製造方法である。
【0008】
本開示の別の局面である電極材料製造方法を用いれば、アルカリ金属及び集合体を混練、攪拌、又は混合した後における残留アルカリ金属の量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電極材料製造装置1の構成を表す説明図である。
図2】ハンドミキサー61と収容槽9とを表す説明図である。
図3】電極材料製造装置1の電気的構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.電極材料製造装置1の構成
電極材料製造装置1の構成を、図1図3に基づき説明する。電極材料製造装置1は、アルカリ金属がドープされた活物質を含む電極材料を製造する。アルカリ金属、ドープ、活物質、及び電極材料については後述する。
【0011】
図1に示すように、電極材料製造装置1は、処理室3と、噴射ユニット5と、2つの加熱ガス噴射ユニット6、7と、ヒータ8と、収容槽9と、アルカリ金属収容ユニット11と、ヒータ13と、ガス供給ユニット15と、排気ユニット17と、を備える。
【0012】
処理室3は中空の箱状部材である。処理室3は、金属等の気密の材料から成る。処理室3は、排気口19と、ガス導入口21と、を備える。
噴射ユニット5は処理室3の上部に取り付けられている。噴射ユニット5は筒状の基本形態を有する。噴射ユニット5の軸方向は上下方向である。噴射ユニット5は、第1通路23を備える。第1通路23は、噴射ユニット5を軸方向に貫通する。第1通路23の上端をアルカリ金属供給口25とする。第1通路23の下端を噴射口27とする。アルカリ金属供給口25は処理室3の外にある。噴射口27は処理室3の中にある。
【0013】
噴射ユニット5は、ガス供給口31及び第2通路29をさらに備える。ガス供給口31は噴射ユニット5の側面に開口しており、処理室3の外にある。第2通路29は、ガス供給口31から水平方向に延び、第1通路23に合流している。
【0014】
加熱ガス噴射ユニット6、7は、それぞれ、処理室3の上部に取り付けられている。加熱ガス噴射ユニット6、7は、噴射ユニット5を挟むように配置されている。加熱ガス噴射ユニット6は、筒状の基本形態を有する。加熱ガス噴射ユニット6は、通路33を備える。通路33は、加熱ガス噴射ユニット6を軸方向に貫通する。通路33の上端をガス供給口35とする。通路33の下端をガス噴射口37とする。ガス供給口35は処理室3の外にある。ガス噴射口37は処理室3の中にある。ガス噴射口37から噴射されたガスが進む方向D1は、後述する経路41と交差する。加熱ガス噴射ユニット7も、加熱ガス噴射ユニット6と同様の構成を有する。
【0015】
ヒータ8は、加熱ガス噴射ユニット6、7の外周面に取り付けられている。ヒータ8は加熱ガス噴射ユニット6、7を加熱する。
収容槽9は、上方が開口した槽である。収容槽9は処理室3の中に配置可能である。また、収容槽9は処理室3から取り出すことができる。収容槽9は噴射ユニット5の下方に配置することができる。収容槽9は集合体39を収容することができる。集合体39については後述する。噴射口27から、収容槽9に収容された集合体39までの経路を、以下では経路41とする。
【0016】
アルカリ金属収容ユニット11は、処理室3の外であって、噴射ユニット5の上方にある。アルカリ金属収容ユニット11は、中空の箱状部材である。アルカリ金属収容ユニット11は、アルカリ金属43を収容することができる。アルカリ金属43の形態は、例えば、インゴット、粉末等である。アルカリ金属収容ユニット11の底に、出口45が形成されている。出口45は、配管46により、アルカリ金属供給口25に連通している。アルカリ金属収容ユニット11の上面にガス供給口12が形成されている。
【0017】
ヒータ13は、アルカリ金属収容ユニット11の外周面に取り付けられている。ヒータ13はアルカリ金属収容ユニット11を加熱する。
ガス供給ユニット15は、希ガス供給源47と、第1ガス供給ユニット49と、第2ガス供給ユニット51と、第3ガス供給ユニット53と、第4ガス供給ユニット55と、第5ガス供給ユニット56と、を備える。
【0018】
希ガス供給源47は、第1ガス供給ユニット49、第2ガス供給ユニット51、第3ガス供給ユニット53、第4ガス供給ユニット55、及び第5ガス供給ユニット56のそれぞれに希ガスを供給する。希ガスとして、例えば、アルゴン等が挙げられる。
【0019】
第1ガス供給ユニット49は、加熱ガス噴射ユニット6におけるガス供給口35に希ガスを供給する。第2ガス供給ユニット51は、加熱ガス噴射ユニット7におけるガス供給口35に希ガスを供給する。第3ガス供給ユニット53は、ガス供給口31に希ガスを供給する。第4ガス供給ユニット55は、ガス導入口21に希ガスを供給する。第5ガス供給ユニット56は、ガス供給口12に希ガスを供給する。
【0020】
第1ガス供給ユニット49、第2ガス供給ユニット51、第3ガス供給ユニット53、第4ガス供給ユニット55、及び第5ガス供給ユニット56は、それぞれ、マスフローコントローラ(以下ではMFCとする)57と、開閉バルブ59とを備える。MFC57は、希ガスの流量を調整する流量調整器である。
【0021】
排気ユニット17は、排気口19から排気することで、処理室3の内部を減圧する。なお、ヒータ8、13、加熱ガス噴射ユニット6、7、第1ガス供給ユニット49、及び第2ガス供給ユニット51は溶融ユニットに対応する。
【0022】
図2に示すように、電極材料製造装置1は、ハンドミキサー61を備える。ハンドミキサー61は、把持部62と回転部64とを備える。把持部62はオペレータにより把持される。回転部64は回転する。収容槽9の内容物63の中に回転部64を入れ、回転部64を回転させることで、内容物63を混練、攪拌、又は混合することができる。
【0023】
内容物63は、集合体39と、後述するように噴射ユニット5から噴射されるアルカリ金属との混合物である。電極材料製造装置1は、ハンドミキサー61に代えて、攪拌羽根、攪拌子等を備えていてもよい。ハンドミキサー61、攪拌羽根、攪拌子等は処理ユニットに対応する。
【0024】
電極材料製造装置1の電気的構成を図3に示す。電極材料製造装置1は、制御部65と、操作部67と、制御対象69と、を備える。
制御部65は、CPU71と、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、メモリ73とする)と、を有するマイクロコンピュータを備える。
【0025】
制御部65の各機能は、CPU71が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ73が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。プログラムとして、例えば、後述する電極製造方法を実行するプログラムが挙げられる。
【0026】
制御部65は、制御対象69を制御することで、後述する電極材料製造方法を実行する。制御対象69として、例えば、第1ガス供給ユニット49、第2ガス供給ユニット51、第3ガス供給ユニット53、第4ガス供給ユニット55、及び第5ガス供給ユニット56のそれぞれにおけるMFC57、及び開閉バルブ59が挙げられる。また、制御対象69として、例えば、加熱ガス噴射ユニット6、7のそれぞれにおけるヒータ8、ヒータ13、排気ユニット17が挙げられる。
【0027】
操作部67はオペレータの操作を受け付ける。オペレータの操作として、例えば、電極材料製造装置1を操作するためのコマンドの入力等が挙げられる。操作部67は、例えば、キーボード、タッチパネル、ディスプレイ等を備える。
【0028】
2.アルカリ金属、ドープ、活物質、電極材料、及び集合体について
アルカリ金属として、例えば、リチウム、ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属のドープとは、アルカリ金属を、金属、イオン、化合物等の各種の状態で吸蔵、インターカレーション、挿入、担持、合金化された状態とすることを総称するものである。
【0029】
活物質は、アルカリ金属イオンの挿入/脱離を利用する蓄電デバイスに適用可能な電極活物質であれば特に限定されない。活物質は、負極活物質であってもよいし、正極活物質であってもよい。
【0030】
負極活物質は特に限定されない。負極活物質として、例えば、炭素材料等が挙げられる。炭素材料として、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、又は黒鉛粒子をピッチや樹脂の炭化物で被覆した複合炭素材料等が挙げられる。炭素材料の具体例として、特開2013-258392号公報に記載の炭素材料が挙げられる。
【0031】
負極活物質として、例えば、金属若しくは半金属又はこれらの酸化物を含む材料(以下では金属等含有材料とする)等が挙げられる。金属等含有材料が含む金属若しくは半金属として、例えば、リチウムと合金化が可能なSi、Sn等が挙げられる。金属等含有材料の具体例として、特開2005-123175号公報、特開2006-107795号公報に記載の材料が挙げられる。
【0032】
正極活物質として、例えば、遷移金属酸化物、硫黄系活物質、アルカリ金属遷移金属複合酸化物等が挙げられる。遷移金属酸化物として、例えば、マンガン酸化物、バナジウム酸化物等が挙げられる。硫黄系活物質として、例えば、硫黄単体、金属硫化物等が挙げられる。アルカリ金属遷移金属複合酸化物として、例えば、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、ナトリウムコバルト酸化物、ナトリウムニッケル酸化物、ナトリウムマンガン酸化物等が挙げられる。
【0033】
正極活物質、及び負極活物質のいずれにおいても、単一の物質から成るものであってもよいし、2種以上の物質を混合して成るものであってもよい。本開示の電極材料製造方法は、負極活物質にアルカリ金属をドープする場合に適しており、特に、負極活物質が金属等含有材料である場合に一層適している。
【0034】
電極材料は、電極の製造に使用される材料である。電極材料は、例えば、集電体の表面に形成される電極材料層の材料となる。電極材料は、アルカリ金属がドープされた活物質を含む。電極材料は、アルカリ金属がドープされた活物質に加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。電極材料は、例えば、後述する集合体を含む。電極材料は、集合体のみから成っていてもよいし、集合体に加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0035】
集合体は、少なくとも活物質を含む。集合体は、活物質に加えて、他の成分をさらに含む混合物であってもよい。他の成分として、例えば、溶媒、電解液、導電助剤等が挙げられる。
【0036】
溶媒として、例えば、アルカリ金属イオン伝導性を有する溶媒が挙げられる。溶媒として、有機溶媒が好ましく、特に非プロトン性の有機溶媒が好ましい。非プロトン性の有機溶媒として、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。有機溶媒は、単一の成分から成るものであってもよいし、2種以上の成分の混合溶媒であってもよい。
【0037】
電解液は、溶媒にアルカリ金属塩が溶解した液である。電解液が含む溶媒として、例えば、上述した溶媒が挙げられる。アルカリ金属塩として、例えば、リチウム塩又はナトリウム塩等が挙げられる。
【0038】
アルカリ金属塩を構成するアニオン部として、例えば、PF 、PF(C 、PF(CF 、等のフルオロ基を有するリンアニオン;BF 、BF (CF) 、BF(CF、B(CN) 等のフルオロ基又はシアノ基を有するホウ素アニオン;N(FSO 、N(CFSO 、N(CSO 等のフルオロ基を有するスルホニルイミドアニオン;CFSO 等のフルオロ基を有する有機スルホン酸アニオンが挙げられる。溶媒には、単一のアルカリ金属塩が溶解していてもよいし、2種以上のアルカリ金属塩が溶解していてもよい。
【0039】
電解液は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1-フルオロエチレンカーボネート、1-(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン、ジエチルスルホン等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0040】
電解液におけるアルカリ金属イオンの濃度は、好ましくは0.1モル/L以上であり、より好ましくは0.5モル/L以上1.5モル/L以下の範囲内である。電解液におけるアルカリ金属イオンの濃度がこの範囲内である場合、活物質に対するアルカリ金属のドープが効率よく進行する。
【0041】
導電助剤として、例えば、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、アルカリ金属以外の金属粉末等が挙げられる。集合体中に導電助剤を含有せしめることにより、ドープ速度を高めることができる。
【0042】
集合体における活物質の含有割合は、活物質が炭素材料である場合、溶媒を除く全成分に対して好ましくは90質量%以上である。集合体における活物質の含有割合は、活物質が金属等含有材料である場合、溶媒を除く全成分に対して好ましくは50質量%以上である。なお、集合体におけるバインダーの含有割合は、活物質に対して通常5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下であり、集合体がバインダーを含まないことが最も好ましい。
【0043】
集合体の形態は不定形である。不定形とは、集合体全体の形状が可変であることを意味する。活物質を含む不定形の集合体は、例えば、電極の状態に成形されたものではない。不定形の集合体の形態として、例えば、粉体、粉粒体、スラリー、ケーキ等が挙げられる。粉体又は粉粒体である集合体は、活物質の粒子から成るものであってもよいし、活物質の粒子に加えて、他の成分の粒子をさらに含むものであってもよい。他の成分の粒子として、例えば、導電助剤の粒子等が挙げられる。
【0044】
3.電極材料製造方法
電極材料製造装置1を用いて電極材料製造方法を実施することができる。電極材料製造方法として、例えば、以下の第1~第3の方法がある。
【0045】
(3-1)第1の方法
収容槽9に集合体39を収容する。次に、収容槽9を処理室3の中に設置する。アルカリ金属収容ユニット11にアルカリ金属を収容する。ヒータ13を用いてアルカリ金属収容ユニット11を加熱し、アルカリ金属を溶融する。第5ガス供給ユニット56によってガス供給口12に希ガスを供給することで、アルカリ金属収容ユニット11の内部を加圧する。溶融した状態のアルカリ金属は、アルカリ金属収容ユニット11から、配管46を経て、噴射ユニット5に送られる。第3ガス供給ユニット53によって、ガス供給口31に希ガスを供給する。その結果、溶融した状態のアルカリ金属が、噴射口27から噴射される。噴射されたアルカリ金属は、経路41を通り、集合体39に到達する。すなわち、集合体39にアルカリ金属が噴射される。
【0046】
アルカリ金属の噴射と同時に、第1ガス供給ユニット49により、加熱ガス噴射ユニット6におけるガス供給口35に希ガスを供給する。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット6を加熱する。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット6の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射される。
【0047】
また、アルカリ金属の噴射と同時に、第2ガス供給ユニット51により、加熱ガス噴射ユニット7におけるガス供給口35に希ガスを供給する。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット7を加熱する。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット7の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射される。
【0048】
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスは、経路41上にあるアルカリ金属を加熱する。
第1の方法では、溶融した状態にあるアルカリ金属を噴射口27から噴射する。集合体39に到達したときのアルカリ金属は、溶融した状態であってもよいし、固化した状態であってもよい。
【0049】
ヒータ13及びヒータ8の温度を高くするほど、集合体39に到達したときのアルカリ金属の状態は、溶融した状態になり易い。
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスの温度は、経路41上において、例えば、150℃以上300℃以下である。希ガスの温度がこの範囲内である場合、経路41においてアルカリ金属は溶融した状態を維持し易い。次に、アルカリ金属及び集合体を混練、攪拌、又は混合する。
【0050】
(3-2)第2の方法
収容槽9に集合体39を収容する。次に、収容槽9を処理室3の中に設置する。アルカリ金属収容ユニット11にアルカリ金属の粉末を収容する。第5ガス供給ユニット56によってガス供給口12に希ガスを供給することで、アルカリ金属収容ユニット11の内部を加圧する。アルカリ金属の粉末は、アルカリ金属収容ユニット11から、配管46を経て、噴射ユニット5に送られる。第3ガス供給ユニット53によって、ガス供給口31に希ガスを供給する。その結果、アルカリ金属の粉末が、噴射口27から噴射される。噴射されたアルカリ金属の粉末は、経路41を通り、集合体39に向かう。
【0051】
アルカリ金属の粉末の噴射と同時に、第1ガス供給ユニット49により、加熱ガス噴射ユニット6におけるガス供給口35に希ガスを供給する。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット6を加熱する。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット6の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射される。
【0052】
また、アルカリ金属の噴射と同時に、第2ガス供給ユニット51により、加熱ガス噴射ユニット7におけるガス供給口35に希ガスを供給する。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット7を加熱する。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット7の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射される。
【0053】
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスは、経路41上にあるアルカリ金属の粉末を加熱する。その結果、経路41の途中で、アルカリ金属の粉末は、溶融した状態に変化する。
【0054】
集合体39に到達したときのアルカリ金属は、溶融した状態であってもよいし、固化した状態であってもよい。ヒータ8の温度を高くするほど、集合体39に到達したときのアルカリ金属の状態は、溶融した状態になり易い。
【0055】
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスの温度は、経路41上において、例えば、150℃以上300℃以下である。希ガスの温度がこの範囲内である場合、経路41においてアルカリ金属の粉末は溶融した状態に変化し易い。次に、アルカリ金属、及び集合体を混練、攪拌、又は混合する。
【0056】
(3-3)第3の方法
第3の方法は、基本的には第1の方法と同様である。ただし、第3の方法では、加熱ガス噴射ユニット6、7から希ガスを噴射しない。第3の方法では、溶融した状態にあるアルカリ金属を噴射口27から噴射する。集合体39に到達したときのアルカリ金属は、溶融した状態であってもよいし、固化した状態であってもよい。
【0057】
ヒータ13及びヒータ8の温度を高くするほど、集合体39に到達したときのアルカリ属の状態は、溶融した状態になり易い。
4.電極材料製造装置1及び電極材料製造方法が奏する効果
電極材料製造装置1及び電極材料製造方法によれば、集合体とアルカリ金属とを混練、攪拌、又は混合した後おける残留アルカリ金属の量を低減できる。
【0058】
5.実施例
(5-1)電極材料の製造
以下の方法で、実施例1~4及び比較例1の電極材料を製造した。実施例1~4では、電極材料製造装置1を使用した。
【0059】
(実施例1)
収容槽9に集合体39を収容した。集合体39は、6時間真空乾燥させた黒鉛粉360mgに電解液360mgを入れて良く撹拌したものとした。黒鉛粉は負極活物質に対応する。黒鉛粉の50%体積累積径D50は20μmであった。そして、収容槽9を処理室3の中に設置した。
【0060】
アルカリ金属収容ユニット11にリチウム金属のインゴットを収容した。インゴットの直径は15mmであり、インゴットの質量は10.8gであった。ヒータ13を用いてアルカリ金属収容ユニット11を加熱し、アルカリ金属収容ユニット11の内部の温度を200℃とした。このとき、リチウム金属のインゴットは溶融した。
【0061】
第5ガス供給ユニット56によってガス供給口12に希ガスを供給することで、アルカリ金属収容ユニット11の内部を、0.1MPaの圧力で加圧した。溶融した状態のリチウム金属は、アルカリ金属収容ユニット11から、配管46を経て、噴射ユニット5に送られた。また、第3ガス供給ユニット53によって、ガス供給口31に希ガスを供給した。その結果、溶融した状態のリチウム金属が、噴射口27から噴射された。噴射されたリチウム金属は、経路41を通り、集合体39に到達した。
【0062】
リチウム金属の噴射と同時に、第1ガス供給ユニット49により、加熱ガス噴射ユニット6におけるガス供給口35に希ガスを供給した。供給した希ガスの圧は0.3MPaであった。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット6を加熱した。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット6の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射された。
【0063】
また、リチウム金属の噴射と同時に、第2ガス供給ユニット51により、加熱ガス噴射ユニット7におけるガス供給口35に希ガスを供給した。供給した希ガスの圧は0.3MPaであった。また、ヒータ8により、加熱ガス噴射ユニット7を加熱した。希ガスは、加熱ガス噴射ユニット7の通路33を通りながら加熱され、ガス噴射口37から、方向D1に噴射された。
【0064】
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスは、経路41上にあるリチウム金属を加熱した。加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスの温度は、200℃であった。噴射ユニット5から噴射されたリチウム金属は、少なくとも、噴射ユニット5から噴射された直後は溶融した状態であり、霧状となって、収容槽9内の集合体39に溶射された。
【0065】
次に、ハンドミキサー61を用いて、回転速度30rpmの条件で10分間、集合体39とリチウム金属とを混練混合する工程を6回繰り返すことで、スラリーを得た。スラリーは電極材料に対応する。
【0066】
(実施例2)
基本的には実施例1と同様にしてスラリーを得た。ただし、実施例2では、加熱ガス噴射ユニット6、7から希ガスを噴射しなかった。噴射ユニット5から噴射されたリチウム金属は、少なくとも、噴射ユニット5から噴射された直後は溶融した状態であり、直径0.3mmのワイヤー状となって、収容槽9内の集合体39に溶射された。
【0067】
(実施例3)
基本的には実施例1と同様にしてスラリーを得た。ただし、実施例3では、加熱ガス噴射ユニット6、7におけるガス供給口35に供給する希ガスの圧を0.15MPaとした。噴射ユニット5から噴射されたリチウム金属は、少なくとも、噴射ユニット5から噴射された直後は溶融した状態であり、粒径0.3μmの粒状となって、収容槽9内の集合体39に溶射された。
【0068】
(実施例4)
基本的には実施例1と同様にしてスラリーを得た。ただし、実施例4では、アルカリ金属収容ユニット11に、リチウム金属のインゴットではなく、リチウム金属の粉末を収容した。リチウム金属の粉末の質量は10.8gであった。また、実施例4では、アルカリ金属収容ユニット11を加熱しなかった。
【0069】
実施例4では、リチウム金属の粉末が、アルカリ金属収容ユニット11から、配管46を経て、噴射ユニット5に送られ、さらに、噴射口27から噴射された。
加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスは、経路41上にあるリチウム金属の粉末を加熱した。加熱ガス噴射ユニット6、7から噴射された希ガスの温度は、200℃であった。噴射ユニット5から噴射されたリチウム金属の粉末は、少なくとも、経路41の一部では溶融した状態となり、さらに、粒径0.3μmの粒状となって、収容槽9内の集合体39に溶射された。
【0070】
(比較例1)
6時間真空乾燥させた黒鉛粉360mgと、電解液360mgと、リチウム金属片10.8mgとを混合して混合物を生成した。黒鉛粉は負極活物質に対応する。黒鉛粉の50%体積累積径D50は20μmであった。リチウム金属片は、厚さ100μm、重量10.8mgのリチウム金属板を切り分けて4等分にしたものである。リチウム金属片は、混合物中で、できるだけ均等に配置されるようにした。
【0071】
混合物をサンプル管に投入し、ハンドミキサーを用いて、回転速度30rpmの条件で10分間、混練混合した。さらに混合物に対し、ハンドミキサーによる混練混合を6回繰り返すことで、スラリーを得た。
【0072】
各実施例及び各比較例における電極材料の製造条件を表1に示す。
【0073】
【表1】
表1の「リチウム供給(溶射)」の列における「使用」とは、スラリーを製造するとき、電極材料製造装置1を使用してリチウム金属を噴射したことを意味する。表1の「リチウム供給(溶射)」の列における「未使用」とは、スラリーを製造するとき、電極材料製造装置1を使用しなかったことを意味する。
【0074】
表1の「リチウム形態」の列における「溶融」とは、噴射ユニット5から噴射された直後においてリチウム金属が溶融した状態であったことを意味する。表1の「リチウム形態」の列における「粉末」とは、噴射ユニット5から噴射された直後においてリチウム金属が粉末であったことを意味する。表1の「加熱ガス吹き付け」の列の数値は、加熱ガス噴射ユニット6、7のガス供給口35に供給する希ガスの圧を意味する。
【0075】
(5-2)電極材料の評価方法
各実施例及び各比較例の電極材料に対し、以下の評価を行った。
<OCV測定>
電極材料を用いて作用極を作成した。また、リチウム金属から成る対極及び参照極を作成した。作用極、対極、及び参照極を用いて3極セルを組み立てた。この3極セルに電解液を注液した。注液した電解液の組成は、電極材料の製造に用いた電解液の組成と同じであった。電解液の注液の直後に、リチウム金属に対する作用極の電位を測定した。リチウム金属に対する作用極の電位はOCVに対応する。
<残留Li量の確認方法>
電極材料に、同じ質量のジメチルカーボネートを添加してスラリーを調製した。次に、スラリーを吸引濾過した。さらに、吸引濾過後のスラリーに対し、同じ質量のジメチルカーボネートを添加してから吸引濾過する工程を3回繰り返した。
【0076】
得られたスラリーを、光学顕微鏡を用い、倍率500倍で観察した。観察の結果、スラリー中に微小なリチウム片が残留していることが確認された。微小なリチウム片は残量アルカリ金属に対応する。
次に、得られたスラリーに対してジメチルカーボネートを添加した。次に、マグネチックスターラーを用いて、回転速度30rpmの条件で、スラリーを10分間攪拌した。次に、スラリーを10分間静置した。次に、スラリーの表層部分を、ポリスポイトを用いて採取した。表層部分は、スラリーの表面に浮遊したリチウム金属片を選択的に含む部分であった。採取した表層部分に含まれるリチウム金属片の質量W2を測定した。電極材料の製造時に投入したリチウム金属片の質量W1に対するW2の割合(以下では残留Li量(%)とする)を算出した。
<粉体抵抗測定>
電極材料の粉体抵抗を、粉体抵抗測定システムMCP‐PD51型(三菱化学アナリテック)を用いて測定した。粉体抵抗を測定するとき、電極材料に0.02MPaの圧力をかけた。0.02MPaの圧力をかけたとき、電極材料の厚みは2mmであった。
<負極の体積抵抗測定>
直径10μmの穴を複数備え、開口率が40%である銅箔を用意した。この銅箔の表面のうち、直径15mmの円の範囲に電極材料を均一に載せ、真空濾過することで負極を作成した。
【0077】
負極が備える電極材料の体積抵抗を、粉体抵抗測定システムMCP‐PD51型(三菱化学アナリテック)を用いて測定した。体積抵抗を測定するとき、電極材料に0.02MPaの圧力をかけた。0.02MPaの圧力をかけたとき、電極材料の厚みは200μmであった。
(5-3)電極材料の評価結果
各実施例及び各比較例の電極材料における評価結果を表1に示す。
【0078】
実施例1~4における残留Li量は、比較例1における残留Li量に比べて顕著に少なかった。
6.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0079】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0080】
(2)上述した電極材料製造装置1の他、当該電極材料製造装置1を構成要素とするシステム、制御部65としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、蓄電デバイス、蓄電デバイスの製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0081】
1…電極材料製造装置、3…処理室、5…噴射ユニット、6、7…加熱ガス噴射ユニット、8…ヒータ、9…収容槽、11…アルカリ金属収容ユニット、12…ガス供給口、13…ヒータ、15…ガス供給ユニット、17…排気ユニット、19…排気口、21…ガス導入口、23…第1通路、25…アルカリ金属供給口、27…噴射口、29…第2通路、31…ガス供給口、33…通路、35…ガス供給口、37…ガス噴射口、39…集合体、41…経路、43…アルカリ金属、45…出口、46…配管、47…希ガス供給源、49…第1ガス供給ユニット、51…第2ガス供給ユニット、53…第3ガス供給ユニット、55…第4ガス供給ユニット、56…第5ガス供給ユニット、57…MFC、59…開閉バルブ、61…ハンドミキサー、62…把持部、63…内容物、64…回転部、65…制御部、67…操作部、69…制御対象、71…CPU、73…メモリ
図1
図2
図3