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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】警報装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221213BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60R16/02 650A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019053109
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020154786
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】堀 寛己
【審査官】久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-019194(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0056339(KR,A)
【文献】特開2019-012322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される警報装置であって、
当該警報装置が搭載された車両である自車(100)の右後方及び左後方を探査範囲とするレーダモジュールから、前記探査範囲内で検出される少なくとも1つの反射点の位置及び挙動を含む情報である反射点情報及び前記反射点情報を用いて検出される少なくとも1つの物標の位置及び挙動を含む情報である物標情報を取得するように構成された取得部(S110,S210)と、
前記取得部により取得された前記物標情報を用いて、前記物標情報から特定される前記少なくとも1つの物標のそれぞれについて、前記自車のドライバに対する報知を要する移動体を表した前記物標である警報候補であるか否かを判定するように構成された警報判定部(S160,S260)と、
前記自車が後進する際に、前記自車のドライバに対して前記警報候補に関する報知を行うように構成された報知部(S290)と、
前記取得部により取得された前記反射点情報を用いて、前記反射点情報から特定される前記少なくとも1つの反射点のうち、静止した前記反射点である静止反射点を抽出するように構成された静止抽出部(S410)と、
前記反射点情報から特定される前記静止反射点の位置についてロバスト推定を行うことにより近似直線を算出し、前記近似直線を遮蔽境界として設定するように構成された遮蔽境界設定部(S340,S440,S450,S480,S490)と、
前記自車から見て前記遮蔽境界を挟んで反対側の領域である遮蔽領域に存在する前記警報候補に関する前記報知部による報知を抑制するように構成された抑制部(S350)と、
を備え、
前記遮蔽境界設定部は、
少なくとも1つの前記静止反射点それぞれとの位置の誤差を近似誤差として、前記近似誤差の絶対値の合計を最小にする前記近似直線である予備近似直線を算出するように構成された予備直線近似部(S630,S640)と、
前記予備近似直線との前記近似誤差が小さくなるほど大きくなる重みを前記静止反射点のそれぞれに対して設定するように構成された重み設定部(S650)と、
前記静止反射点のそれぞれに設定された前記重みの平均を重み平均として算出するように構成された重み平均算出部(S660)と、
前記重み平均算出部により算出された前記重み平均の合計を最大にする前記近似直線である本近似直線を算出するように構成された本直線近似部(S630)と、
前記本近似直線を前記遮蔽境界として設定するように構成された近似直線設定部(S470~S490)と、
を備える、警報装置。
【請求項2】
請求項1に記載の警報装置であって、
前記予備直線近似部は、前記自車の車長方向に沿った前記静止反射点それぞれと前記近似直線との距離である車長近似誤差を、前記近似誤差として用いて前記予備近似直線である横予備直線を算出し、前記自車の車幅方向に沿った前記静止反射点それぞれと前記近似直線との距離である車幅近似誤差を、前記近似誤差として用いて、前記予備近似直線である縦予備直線を算出するように構成され、
前記重み設定部は、前記重みとして、前記車長近似誤差が小さくなるほど大きくなる横重み及び前記車幅近似誤差が小さくなるほど大きくなる縦重みを算出するように構成され、
前記重み平均算出部は、前記重み平均として、前記横重みの平均値である横重み平均と前記縦重みの平均値である縦重み平均を算出するように構成され、
前記本直線近似部は、前記本近似直線として、前記横重み平均が最大となる横近似直線と、前記縦重み平均が最大となる縦近似直線とを算出するように構成され、
前記近似直線設定部は、前記横近似直線及び前記縦近似直線のうち、前記重み平均算出部により算出された前記重み平均がより大きい方を前記遮蔽境界として設定するように構成された、警報装置。
【請求項3】
請求項2に記載の警報装置であって、
前記本近似直線の方向が前記自車に対して前記車幅方向と、前記車長方向とのどちらに近いか判定する方向判定部(S470)を備え、
前記方向判定部は、前記横重み平均が前記縦重み平均以上である場合に前記本近似直線の方向は前記車幅方向に近いと判定するように構成された、警報装置。
【請求項4】
請求項2に記載の警報装置であって、
前記本近似直線の方向が前記自車に対して前記車幅方向と、前記車長方向とのどちらに近いか判定する方向判定部(S470)を備え、
前記方向判定部は、前記横重み平均が前記縦重み平均未満である場合に前記本近似直線の方向は前記車長方向に近いと判定するように構成された、警報装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の警報装置であって、
前記本近似直線の方向が前記自車に対して車幅方向と、車長方向とのどちらに近いか判定する方向判定部(S470)を備え、
前記方向判定部は、前記本近似直線と前記自車の前記車長方向とのなす角度に応じて前記近似直線の方向が前記車幅方向に近いか、前記車長方向に近いか判定する、警報装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の警報装置であって、
前記自車の車長方向又は前記自車の車幅方向に沿ってあらかじめ決められた大きさの範囲に分割された複数の分割エリアを設定するように構成された範囲設定部(S710)を更に備え、
前記範囲設定部により設定された前記分割エリアのそれぞれにおいて、検出された前記静止反射点の数があらかじめ決められた反射点閾値以上である場合に、前記遮蔽境界設定部により設定される前記遮蔽境界が遮蔽物を表している信頼度である遮蔽信頼度を加算する信頼度算出部(S330,S730,S740)を更に備え、
前記遮蔽境界設定部は、前記信頼度算出部により算出された前記遮蔽信頼度が、あらかじめ設定された遮蔽閾値以上であると判定された場合に、前記遮蔽境界を設定するように構成された、警報装置。
【請求項7】
請求項6に記載の警報装置であって、
前記信頼度算出部(S730)は、前記範囲設定部により設定された前記分割エリアのいずれかにおいて、検出された前記静止反射点の数が前記反射点閾値未満である場合に、前記遮蔽信頼度を減算するように構成された、警報装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の警報装置であって、
前記信頼度算出部は、前記範囲設定部により設定された前記分割エリアのうち、前記近似直線の両端が含まれる前記分割エリアである両端エリアのうち、一方の両端エリアに存在する前記静止反射点の点数が前記反射点閾値未満であった場合に、当該一方の両端エリア以外の前記分割エリアのそれぞれに前記反射点閾値以上の点数の前記静止反射点が存在する場合には、前記遮蔽信頼度を加算するように構成された、警報装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の警報装置であって、
前記警報候補である前記移動体が移動すると推定される軌道である推定軌道(P)を算出するように構成された軌道算出部(S130,S230)と、
前記遮蔽領域と前記推定軌道との位置関係があらかじめ決められた解除条件を満たす前記警報候補に関する報知の抑制を解除するように構成された解除部(S1040,S1050)と、
を備える、警報装置。
【請求項10】
請求項9に記載の警報装置であって、
前記解除条件には、前記推定軌道と前記推定軌道に最も近い前記静止反射点との前記近似直線に沿った距離である静止物距離(H)が、あらかじめ決められた距離である通過閾値以上であることが含まれる、警報装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の警報装置であって、
前記遮蔽境界の方向が前記自車に対して車幅方向と、車長方向とのどちらに近いか判定する方向判定部(S470)を備え、
前記方向判定部により前記遮蔽境界の方向が前記車長方向に近いと判定した場合において、
前記解除部は、前記解除条件を満たす前記警報候補に関する報知の抑制を解除するように構成された、警報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が後進する際に当該後進する車両(以下、自車という)の後方に接近する他の車両(以下、他車という)を、自車の後方部分に配置されたレーダを用いて検知し、自車のドライバに対して検知した結果の報知を行うRCTAという技術が知られている。なお、RCTAとは、Rear Cross Traffic Alertの略である。
【0003】
ここで、自車の後方にガードレール、柵等の車両の通行の妨げとなる遮蔽物が存在し、更に、自車に対して遮蔽物を挟んで反対側に存在する他車が検出された場合にも、従来の警報装置では当該検出された他車の存在に基づいた報知が行われる。
【0004】
当該報知は、他車が自車に接触する可能性がないにもかかわらず行われるため、自車のドライバに対して不要な報知がなされていた。
特許文献1には、自車に接近する他の車両と、自車の後方に設置された遮蔽物との距離を比較し、遮蔽物との距離よりも遠くに他車が存在する場合に、当該他車に対する警報を停止する技術が提案されている。
【0005】
ここで、当該特許文献1に記載の警報装置は、静止物標を表した反射点が複数検出された場合、当該複数の反射点の間に遮蔽物が存在すると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-13756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の方法では、例えば、異なる複数の静止物標が検出された場合、当該複数の静止物標の間に、遮蔽物が存在すると判定される。仮に複数の遮蔽物が離間して配置されていたとしても、その離間して配置された遮蔽物の間の実際に遮蔽物が存在しない位置にも遮蔽物が存在すると判定されるという課題が見出された。
【0008】
本開示の1つの局面は、遮蔽物の存在する領域の推定精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、車両に搭載される警報装置であって、取得部(S110,S210)と、警報判定部(S160,S260)と、報知部(S290)と、静止抽出部(S410)と、遮蔽境界設定部(S340,S440,S450,S480,S490)と、抑制部(S350)と、を備える。取得部は、当該警報装置が搭載された車両である自車(100)の右後方及び左後方を探査範囲とするレーダモジュールから、探査範囲内で検出される少なくとも1つの反射点の位置及び挙動を含む情報である反射点情報及び反射点情報を用いて検出される少なくとも1つの物標の位置及び挙動を含む情報である物標情報を取得するように構成される。警報判定部は、取得部により取得された物標情報を用いて、物標情報から特定される少なくとも1つの物標のそれぞれについて、自車のドライバに対する報知を要する移動体を表した物標である警報候補であるか否かを判定するように構成される。報知部は、自車が後進する際に、自車のドライバに対して警報候補に関する報知を行うように構成される。静止抽出部は、取得部により取得された反射点情報を用いて、反射点情報から特定される少なくとも1つの反射点のうち、静止した反射点である静止反射点を抽出するように構成される。遮蔽境界設定部は、反射点情報から特定される静止反射点の位置についてロバスト推定を行うことにより近似直線を算出し、近似直線を遮蔽境界として設定するように構成される。抑制部は、自車から見て遮蔽境界を挟んで反対側の領域である遮蔽領域に存在する警報候補に関する報知部による報知を抑制するように構成される。
【0010】
このような構成によれば、ロバスト推定により、遮蔽物が存在する位置を表す近似直線を遮蔽境界として設定し、自車から見て遮蔽境界を挟んで反対側の領域である遮蔽領域に存在する警報候補に関する報知を抑制する。ロバスト推定では、近似直線の算出において、重み平均が用いられる。重み平均は、各反射点に設定される重みの平均値である。また、重みは0から1までの正の値をとり、近似直線から離れるほど小さくなる値である。さらに、近似直線からあらかじめ決められた距離以内の範囲である許容範囲を外れた静止反射点には重みが0に設定される。
【0011】
このため、近似直線に対応した遮蔽物が存在する位置から遠い物標を表した静止反射点が検出されたとしても、その静止反射点の位置により、遮蔽物の位置を表す近似直線である遮蔽境界を算出する精度が低下することを抑制することができる。すなわち、遮蔽物が存在する位置を表す近似直線を算出する精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】警報システムの構成を表したブロック図である。
図2】警報システムの各構成の配置を表した図である。
図3】左照射範囲及び右照射範囲を表した図である。
図4】スレーブ警報処理を表したフローチャートである。
図5】後方範囲を表した図である。
図6】マスタ警報処理を表したフローチャートである。
図7】警報除外処理を表したフローチャートである。
図8】遮蔽算出処理を表したフローチャートである。
図9】横近似処理を表したフローチャートである。
図10】xy平面を表した図である。
図11】信頼度算出処理を表したフローチャートである。
図12】横分割エリアを表した図である。
図13】縦分割エリアを表した図である。
図14】算出された横近似直線の例を表した図である。
図15】静止反射点数が反射点閾値以上検出されていない横分割エリアを有する横近似直線を表した図である。
図16】除外フラグ設定処理を表したフローチャートである。
図17】横除外処理を表したフローチャートである。
図18】縦除外処理を表したフローチャートである。
図19図19(A)は、縦近似直線に対して推定軌道が交差する場合を示した図であり、図19(B)は、図19(A)の縦近似直線と推定軌道が交差する部分を拡大した図である。
図20】変形例における警報システムの構成を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.構成]
図1に示すように警報システム1は、検知ユニット10、報知ユニット20及びレーダユニット30を備える。警報システム1が搭載された車両を以下では自車100という。なお、自車100において、各構成が搭載される位置の例を図2に示す。なお、自車100の各構成が搭載される位置は、図2に示すような位置に限られるものではなく、各構成の機能を発揮することができる位置であれば、図2に示すような位置以外に配置されてもよい。
【0014】
検知ユニット10は、自車100の進行方向及び進行速度を検知する。検知ユニット10は、ステアリングセンサ11と、車速センサ12とを備える。
ステアリングセンサ11は、自車100のステアリングホイールの操舵角を測定し出力する。ステアリングセンサ11は、例えば自車100のステアリングホイールの近傍に設置される。
【0015】
車速センサ12は、自車100の車速を測定し出力する。車速センサ12は、例えば前輪の近傍に設置され、前輪の回転速度から車速を測定する。
報知ユニット20は、レーダユニット30による発報制御に従って自車100のドライバに対する視覚的及び聴覚的な報知を行う。
【0016】
報知ユニット20は、ディスプレイ21、インジケータ22、メータ表示装置23及びブザー24を備える。
ディスプレイ21は、画像を表示する。ディスプレイ21は、自車100の運転席付近であって、自車100のドライバが視認できる位置に搭載される。なお、ディスプレイ21は、自車100のカーナビゲーションシステムの画面とは独立して設置されてもよく、自車100のカーナビゲーションシステムの画面と共用されてもよい。
【0017】
インジケータ22は、自車100の両側のサイドミラーの先端に設置されるランプであり、ランプの点灯及び点滅による報知を行う。
メータ表示装置23は、自車100のインストルメンタルパネルにおいて表示による報知を行う。メータ表示装置23が行う表示による報知は、あらかじめ決められたアイコンを表示するものであってもよい。
【0018】
ブザー24は、音による報知を行う。ブザー24は、例えば車両の後部座席付近に設置される。
レーダユニット30は、スレーブレーダ31とマスタレーダ32とを備える。
【0019】
スレーブレーダ31は、スレーブレーダモジュール311とスレーブ処理部312とを備える。
スレーブレーダモジュール311は、自車100の左後方部分に搭載され、左照射範囲R311に向かってレーダ波を出力し、物標に反射したレーダ波を受信することにより左照射範囲R311に存在する物標を表した反射点を検出する。ここでいう、左照射範囲R311は、例えば図3に示すように自車100の左前方から右後方にかけてあらかじめ決められた範囲である。また、スレーブレーダモジュール311は、物標を表した反射点を時系列的に追跡するトラッキング処理を行うことにより、反射点が表す物標の自車100に対する位置、進行方向及び速度を測定する。以下では、測定された複数の反射点が表す物標の自車100に対する位置、進行方向及び速度を含む反射点に関する情報を反射点情報ともいう。また、スレーブレーダモジュール311は、自車100に対する位置及び速度の近い複数の反射点を同一の物標を表していると推定するセグメント化処理を行う。複数の物標に関する情報を物標情報ともいう。ここで、物標情報には、自車100に対する反射点及び物標の位置、進行方向及び速度が含まれる。また、物標それぞれの位置、進行方向及び速度は、当該物標それぞれを構成する複数の反射点の情報に基づいて、例えば平均化することにより算出されてもよい。
【0020】
スレーブ処理部312は、スレーブCPU312aと、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、スレーブメモリ312b)と、を有するマイクロコンピュータである。スレーブ処理部312は、後述するスレーブ警報処理を実行する。
【0021】
マスタレーダ32は、基本的な構成はスレーブレーダ31と同様である。
マスタレーダ32は、マスタレーダモジュール321とマスタ処理部322とを備える。
スレーブレーダモジュール311は、自車100の左後方部分に搭載されるのに対して、マスタレーダモジュール321は、自車100の右後方部分に搭載される。
【0022】
また、図3に示すように、スレーブレーダモジュール311は左照射範囲R311に対してレーダ波を照射する。また、マスタレーダモジュール321は、右照射範囲R321にレーダ波を照射する。ここで、右照射範囲R321は、自車100の右前方から左後方にかけてのあらかじめ決められた範囲である。なお、スレーブレーダモジュール311とマスタレーダモジュール321とは、自車100の中心線Mに対して、左照射範囲R311と右照射範囲R321とが左右対称となるように設置される。ここで、自車100の中心線Mとは、自車100の車幅方向の中心を表し自車100の車長方向に沿って設定された仮想的な線をいう。なお、当該左照射範囲R311及び右照射範囲R321が探査範囲に相当する。
【0023】
マスタ処理部322はマスタCPU322aとマスタメモリ322bとを備える。
スレーブ処理部312がスレーブ警報処理を実行するのに対して、マスタ処理部322はマスタ警報処理を実行する。マスタ警報処理は、スレーブレーダ31及びマスタレーダ32により検出された反射点情報及び物標情報を取得する点についてはスレーブ警報処理と同様である。なお、スレーブ警報処理では、取得した反射点情報及び物標情報はマスタレーダ32に出力される。これに対して、マスタ警報処理では、スレーブレーダ31及びマスタレーダ32により取得された反射点情報及び物標情報に基づいて報知ユニット20に対して発報制御を行う。
【0024】
なお、警報システム1を構成する各構成は、例えば、CAN(登録商標)を構成する伝送線路で接続されてもよい。すなわち、警報システム1を構成する各構成は、CANプロトコルに従った通信を実行してもよい。なお、CANとは、Controller Area Networkの略である。
【0025】
また、レーダユニット30が警報装置に相当する。
[2.処理]
<スレーブ警報処理>
次に、スレーブCPU312aが実行するスレーブ警報処理を図4のフローチャートを用いて説明する。なお、スレーブ警報処理は、自車100が後進する際に実行される。すなわち、スレーブ警報処理は、例えば、自車100に搭載されたシフトレバーが「R」の位置に設定されている場合に実行される。ここでいう「R」の位置とは、リバースレンジであって、自車100を後進させる際にシフトレバーを移動させる位置である。
【0026】
S110で、スレーブCPU312aは、スレーブレーダモジュール311により検出された左照射範囲R311に存在する反射点に関する情報である反射点情報及び物標情報を取得する。なお、ここで、スレーブCPU312aは、例えば、スレーブレーダモジュール311においてトラッキング処理によりあらかじめ決められた回数以上同じ位置に検出された反射点に関する反射点情報及び当該反射点に対応付けられた物標を表した物標情報のみを取得してもよい。
【0027】
S120で、スレーブCPU312aは、ステアリングセンサ11により出力されるステアリングホイールの舵角及び車速センサ12により出力される車速から自車100が走行する進行方向及び車速を表す自車100の走行状態を算出する。
【0028】
S130で、スレーブCPU312aは、S110で取得された物標情報を用いて、物標情報により特定される複数の物標それぞれの推定軌道Pを算出する。推定軌道Pは、例えば、検出された物標の自車100に対する相対的な速度及び進行方向と、S120で取得された自車100の速度及び進行方向とに基づいて算出される。具体的には、スレーブレーダモジュール311のトラッキング処理により得られる各反射点の自車100に対する相対的な速度及び進行方向を表した反射点ベクトルから、自車100の速度及び進行方向を表した自車ベクトルを差し引いたものを推定軌道Pとして算出する。なお、以下では推定軌道Pを表したベクトルを軌道ベクトルともいう。
【0029】
S140で、スレーブCPU312aは、S110で取得された物標情報により特定される物標から、自車100の周囲に存在する車両を抽出車両として抽出する。ここで、抽出車両の抽出は、軌道ベクトルの大きさが走行閾値より大きい物標を抽出車両として抽出することにより行われてもよい。また、例えば、走行閾値の大きさは0に設定され、軌道ベクトルがゼロベクトルではない物標、すなわち移動する物標を抽出車両として抽出してもよい。なお、設定される走行閾値の大きさは0に限定されるものではなく、軌道ベクトルの測定誤差を考慮した大きさに設定されてもよい。
【0030】
S150で、スレーブCPU312aは、S140で抽出された抽出車両の推定交錯時間を算出する。推定交錯時間とは、自車100の後方に設定される後方範囲Arに、抽出車両が到達するまでの時間をいう。後方範囲Arは、図5に示すように、自車100の車幅に相当する横幅Drを自車100の後方の端部から長さLrだけ伸ばした範囲をいう。なお、長さLrは、あらかじめ設定された長さであり、スレーブレーダ31の製造時点において、設定されてもよい。なお、長さLrは、スレーブレーダ31を含む警報システム1が搭載された車両が使用される地域の車線の幅に相当する値にあらかじめ設定されてもよい。推定交錯時間は、抽出車両の位置から延びた推定軌道Pが後方範囲Arに交差する位置までの距離を抽出車両の速度で除算することにより得られる。
【0031】
S160で、スレーブCPU312aは、S140で抽出された抽出車両のうち、S150で算出された推定交錯時間があらかじめ決められた警報閾値以下である抽出車両に警報フラグを設定する。すなわち、自車100が後進した際に衝突することが予測される抽出車両に警報フラグを設定する。警報閾値は、例えば3.5秒に設定される。なお、警報フラグは、例えば、スレーブ警報処理が実行される毎にリセットされてもよい。また、リセットされる間隔は1回実行される毎に限定されるものではなく、数回実行される毎にリセットされてもよい。また、例えば、S110でトラッキング処理を行い、警報フラグを設定した抽出車両と同一物標であると判定された物標に対して、警報フラグを設定してもよい。
【0032】
なお、警報フラグが設定された抽出車両を警報候補ともいう。
S170で、スレーブCPU312aは、S160で抽出された抽出車両に関する情報をスレーブ抽出情報としてマスタレーダ32に出力する。スレーブ抽出情報には、抽出車両に関する物標情報及び抽出車両それぞれに対してS160で設定された警報フラグの情報も含まれる。すなわち、マスタレーダ32に出力される抽出車両には警報候補が含まれる。スレーブCPU312aはスレーブ抽出情報をマスタレーダ32に出力すると、S110に移行し以降の処理を実行する。すなわち、スレーブ処理部312は、S110からS170までの処理を繰り返し実行する。
【0033】
S110が取得部、S130が軌道算出部、S160が警報判定部としての処理に相当する。
<マスタ警報処理>
次にマスタCPU322aが実行するマスタ警報処理を図6のフローチャートを用いて説明する。なお、左照射範囲R311及び右照射範囲R321での物標の検出が同時となるように、マスタ警報処理は、スレーブ警報処理と同様のタイミングで、同期して実行される。マスタ警報処理は、例えば、自車100に搭載されたシフトレバーが「R」の位置に設定されている場合に実行される。また、スレーブ警報処理が一度行われるごとに、マスタ警報処理が一度行われてもよい。
【0034】
マスタ警報処理におけるS210からS260までの処理は、スレーブ警報処理におけるS110からS160までの処理と基本的には同様である。なお、スレーブ警報処理におけるスレーブレーダモジュール311、スレーブCPU312a、スレーブメモリ312b及び左照射範囲R311がそれぞれ、マスタ警報処理におけるマスタレーダモジュール321、マスタCPU322a、マスタメモリ322b及び右照射範囲R321に対応する。
【0035】
S270で、マスタCPU322aは、S260で抽出された抽出車両に関する情報をマスタ抽出情報として取得する。マスタ抽出情報には、S260で抽出された抽出車両に関する物標情報及び抽出車両それぞれに対してS260で設定された警報フラグの情報も含まれる。すなわち、マスタ抽出情報には、警報候補に関する情報が含まれる。
【0036】
また、マスタCPU322aはスレーブ警報処理のS170で出力されたスレーブ抽出情報を取得する。以下では、スレーブ抽出情報及びマスタ抽出情報をまとめて抽出車両情報ともいう。
【0037】
S280で、マスタCPU322aは、警報除外処理を実行する。警報除外処理は、S270で取得した抽出車両情報により特定される抽出車両の中から除外対象である抽出車両に対して、除外対象であることを表す除外フラグを設定する処理をいう。警報除外処理の詳細は後述する。
【0038】
S290で、マスタCPU322aは、S160又はS260で警報フラグが設定され、かつ、S280で、除外フラグが設定されなかった抽出車両を警報対象として出力する発報制御を行う。言い換えると、除外フラグが設定されなかった警報候補を警報対象として出力する発報制御を行う。また、マスタCPU322aは、S210に戻り、以降の処理を実行する。すなわちマスタCPU322aはS210からS290までの処理を繰り返し実行する。
【0039】
また、発報制御は、報知ユニット20を用いてドライバに報知する制御である。ここで、ドライバに対する報知は、報知ユニット20に含まれるディスプレイ21、インジケータ22、メータ表示装置23及びブザー24のうち、少なくとも1つを用いて行われる。
【0040】
なお、報知ユニット20を用いた報知の態様は、例えば、警報対象が検出された位置が、左照射範囲R311及び右照射範囲R321のいずれであるかによって変更してもよい。具体的には、例えばインジケータ22を用いた報知を行う場合において、左照射範囲R311において警報対象が検出されたときには、左側のサイドミラーに設置されたインジケータ22を点灯又は点滅することによる報知がなされてもよい。右照射範囲R321において警報対象が検出されたときには、右側のサイドミラーに設置されたインジケータ22を点灯又は点滅することによる報知がなされてもよい。ディスプレイ21又はメータ表示装置23を用いて報知する場合には、警報対象が存在する方位を表した表示による報知を行ってもよい。
【0041】
S210が取得部、S230が軌道算出部、S260が警報判定部、S290が報知部としての処理に相当する。
<警報除外処理>
次にマスタCPU322aがS280で実行する警報除外処理を図7のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
S310でマスタCPU322aは、遮蔽算出処理を実行する。遮蔽算出処理の詳細は後述するが、遮蔽算出処理は、自車100の周辺に存在する静止物標を表した反射点である静止反射点の位置に基づいて遮蔽物の位置を表す近似直線を算出する処理である。静止反射点であるか否かの判定は、例えば、マスタCPU322aは、反射点の動きを表したベクトルである反射点ベクトルが自車ベクトルと逆ベクトルである反射点、すなわち、反射点ベクトルから自車ベクトルを差し引いた軌道ベクトルがゼロベクトルである反射点を静止反射点と判定することにより行われてもよい。また、ここでいう遮蔽物とは、車両の通行の妨げとなる物標をいう。遮蔽物の例としては、例えば自車100が存在する地面に立設される物標をいう。遮蔽物は、例えば、地面に対して上側から見たときに一方向に延出されるガードレールや壁などである。また、以下では、地面に対して上側から見たときに、遮蔽物が延出される方向を単に遮蔽物の方向ともいう。
【0043】
S320で、マスタCPU322aは、S310での遮蔽算出処理の算出結果に基づいて、遮蔽物を検出したか否かを判定する。
マスタCPU322aは、S320で、遮蔽物を検出しなかったと判定した場合には、警報除外処理を終了する。
【0044】
一方、マスタCPU322aは、S320で、遮蔽物を検出したと判定した場合には、S330に処理を移行する。
S330で、マスタCPU322aは、信頼度算出処理を実行する。信頼度算出処理の詳細は後述するが、信頼度算出処理は、S310で算出された近似直線が表す遮蔽物の信頼度を表す遮蔽信頼度を算出する処理である。ここでいう遮蔽信頼度は、検出された遮蔽物が存在する確からしさを表す。
【0045】
S340で、マスタCPU322aは、S330で算出した遮蔽信頼度があらかじめ設定された値である遮蔽閾値以上であるか否かを判定する。遮蔽閾値は、遮蔽物の遮蔽信頼度に対応した値であり、遮蔽物が存在すると判定できる値に設定される。例えば5に設定されてもよい。
【0046】
マスタCPU322aは、S340で、遮蔽信頼度が遮蔽閾値未満であると判定した場合には、警報除外処理を終了する。
一方、マスタCPU322aは、S340で、遮蔽信頼度が遮蔽閾値以上であると判定した場合には、S350に処理を移行する。
【0047】
S350で、マスタCPU322aは、除外フラグ設定処理を実行し、警報除外処理を終了する。除外フラグ設定処理の詳細は後述するが、抽出車両のうち、あらかじめ設定された除外条件を満たす抽出車両に対して除外フラグを設定する処理をいう。
【0048】
S330が信頼度算出部としての処理に相当する。S350が抑制部としての処理に相当する。
<遮蔽算出処理>
次にマスタCPU322aがS310で実行する遮蔽算出処理の詳細を図8のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
S410で、マスタCPU322aは、S110及びS210で取得された反射点情報により特定される反射点のうち、静止反射点を抽出する。
S420で、マスタCPU322aは、S410で抽出された静止反射点の数を静止反射点数として算出する。
【0050】
S430で、マスタCPU322aは、S420で算出された静止反射点数があらかじめ決められた近似閾値以上であるか否かを判定する。近似閾値は、静止反射点の位置の分布を表した近似直線を算出するために必要な静止反射点の点数をいう。近似閾値は、例えば、8点に設定されてもよい。
【0051】
マスタCPU322aは、S430で、静止反射点数が近似閾値未満であると判定した場合、遮蔽算出処理を終了する。
一方、マスタCPU322aは、S430で、静止反射点数が近似閾値以上であると判定した場合、S440に処理を移行する。
【0052】
S440で、マスタCPU322aは、横近似直線WLを算出する処理である横近似処理を実行する。横近似処理の詳細は後述する。横近似直線WLは横重み平均が最大となるように算出された近似直線である。横重み平均は、横近似直線WLと静止反射点との車長方向に沿った距離に対応する近似誤差である車長近似誤差が小さいほど大きくなる値である。すなわち、横重み平均は、横近似処理により算出された横近似直線WLが、静止反射点の分布に沿っている程度を表す。また、横重み平均は、0から1までの正の値で表される。
【0053】
S450で、マスタCPU322aは、縦近似直線LLを算出する処理である縦近似処理を実行する。縦近似処理の詳細は後述する。縦近似直線LLは、縦重み平均が最大となるように算出された近似直線である。縦重み平均は、縦近似直線LLと静止反射点との車幅方向に沿った距離に対応する近似誤差である車幅近似誤差が小さいほど大きくなる値である。すなわち、縦重み平均は、縦近似処理により算出された縦近似直線LLが、静止反射点の分布に沿っている程度を表す。また、縦重み平均は、0から1までの正の値で表される。
【0054】
すなわち、横近似処理で算出される横近似直線WLと縦近似処理で算出される縦近似直線LLとでは、近似直線を算出する際に最大とする重み平均が横重み平均であるか、縦重み平均であるかが異なる。
【0055】
S460で、マスタCPU322aは、横重み平均及び縦重み平均の少なくとも一方が、あらかじめ決められた重み閾値以上であるか否かを判定する。重み閾値は、例えば0.9に設定される。すなわち、S460では、横近似直線WL及び縦近似直線LLの少なくとも一方が、静止反射点の位置の分布に適合しているか否かが判定される。
【0056】
マスタCPU322aは、S460で、横重み平均及び縦重み平均いずれもが、あらかじめ決められた重み閾値未満であると判定した場合、横近似直線WL及び縦近似直線LLのいずれも各静止反射点の位置の分布に適合していないと判定して、遮蔽算出処理を終了する。
【0057】
一方、マスタCPU322aは、S460で、横重み平均及び縦重み平均いずれかが、あらかじめ決められた重み閾値以上であると判定した場合、S470に処理を移行する。
S470で、マスタCPU322aは、横重み平均が縦重み平均以上であるか否かを判定する。すなわち、横近似直線WLと縦近似直線LLとを比べて、横近似直線WLの方が縦近似直線LLより各静止反射点の位置の分布に適合しているかを判定する。
【0058】
マスタCPU322aは、S470で、横重み平均が縦重み平均以上であると判定した場合、S480に処理を移行する。
S480で、マスタCPU322aは、横近似直線WLは遮蔽物を表した複数の静止反射点の位置の分布を表した近似直線であると判定して、当該横近似直線WLを遮蔽境界に設定し、遮蔽算出処理を終了する。
【0059】
一方、マスタCPU322aは、S470で、横重み平均が縦重み平均未満であると判定した場合、S490に処理を移行する。
S490で、マスタCPU322aは、縦近似直線LLは遮蔽物を表した複数の静止反射点の位置の分布を表した近似直線であると判定して、当該縦近似直線LLを遮蔽境界に設定し、遮蔽算出処理を終了する。
【0060】
なお、S410が静止抽出部としての処理に相当する。S470~S490が近似直線設定部としての処理に相当する。S470が方向判定部としての処理に相当する。S440、S450、S480及びS490が遮蔽境界設定部としての処理に相当する。
【0061】
<横近似処理>
次にマスタCPU322aがS440で実行する横近似処理の詳細を図9のフローチャートを用いて説明する。なお、横近似処理は、車幅方向に沿った方向に存在する近似直線を算出する処理がロバスト推定により反射点の位置を表した横近似直線WLを算出するための処理である。
【0062】
横近似処理は、図10に示すように設定されたxy平面を基準として行われる。xy平面は、自車100の直上から見て、自車100の車幅方向をx軸、車長方向をy軸、自車100の車幅方向の中央かつ自車100の車体の後端の位置を原点Oとする平面である。また、xy平面は、左照射範囲R311及び右照射範囲R321の範囲を含む大きさに設定される。
【0063】
横近似処理は、当該xy平面において、y軸に沿った方向の各静止反射点の位置の近似誤差dに基づいて、静止反射点の位置を表した横近似直線WLをロバスト推定により算出する処理である。
【0064】
具体的な処理をステップに分けて以下の通り説明する。
S610で、マスタCPU322aは、重みを初期化する。具体的にはマスタCPU322aは、各静止反射点に設定される重みを1に設定する。ここで、重みの算出方法についてはS650で詳述するが、ロバスト推定により算出される重みは、0から1までの正の値が設定され、近似直線と静止反射点との近似誤差dの小ささと対応する値である。すなわち、算出された近似直線に近い静止反射点ほど重みの値は大きくなる。初期では、すべての静止反射点に対して均等に重みを1に設定する。
【0065】
S620で、マスタCPU322aは、ロバスト推定に用いられる許容範囲Wを許容範囲の上限値Wmaxに設定する。ここで許容範囲Wとは、近似直線の算出に用いる静止反射点の範囲を表し、算出される近似直線からの距離が設定される。許容範囲の最大値Wmaxは例えば15mが設定される。
【0066】
S630で、マスタCPU322aは、近似直線の算出を行う。
近似直線はxy平面において直線の式y=ax+bで表される。ここで、aは近似直線の傾き、bは近似直線のy切片を表す。
【0067】
また、重みを1に設定した場合においては、近似直線の傾きa及び近似直線のy切片bは、最小二乗法の式である下記(1)式を解くことにより算出される。
すなわち、近似直線の傾きa及び近似直線のy切片bは、下記(2)式により求められる。
【0068】
【数1】
なお、xが各静止反射点のx座標の値、yが各静止反射点のy座標の値、添え字iが静止反射点それぞれに割り振られる番号を表す。
【0069】
つまり、各反射点と近似直線との近似誤差dを二乗した値の合計が最小となる直線を算出する。これにより、近似誤差dの絶対値の合計が最小となる近似直線が算出される。
ここで、S630で各静止反射点の重みに1を設定して算出される近似直線である予備近似直線が、横予備直線に相当する。
【0070】
S640で、マスタCPU322aは、S630で算出された近似直線と静止反射点それぞれとの近似誤差dを算出する。ここで、近似直線と静止反射点それぞれとの近似誤差dは、静止反射点それぞれと近似直線との車長方向の距離、すなわち、y軸方向の距離が算出される。
【0071】
S650で、マスタCPU322aは、近似直線と各静止反射点との近似誤差dに応じて、各静止反射点に設定された重みを更新する。
各静止反射点に設定される重みは、下記(3)式で表される。
【0072】
【数2】
具体的には、静止反射点の近似誤差dの絶対値が許容範囲Wよりも大きい場合、すなわち、静止反射点が近似直線から車長方向に許容範囲Wで設定された距離よりも離れている場合には、当該静止反射点に設定される重みは0となる。
【0073】
静止反射点の近似誤差dの絶対値が許容範囲W以内である場合、すなわち、静止反射点が近似直線から車長方向に許容範囲Wで設定された距離よりも離れていない場合には、重みとして、近似誤差dと許容範囲Wの大きさに応じた正の値が設定される。
【0074】
ここで、静止反射点の位置が許容範囲W内の場合に設定される重みは、近似直線との近似誤差dが小さい静止反射点ほど大きい重みが設定される。すなわち、近似直線に近い静止反射点ほど大きい重みが設定される。なお、当該算出により得られる近似誤差dが車長近似誤差に相当する。
【0075】
S660で、マスタCPU322aは、各静止反射点において算出された重みの平均値である重み平均を算出する。ここで、横近似処理において算出される重み平均を横重み平均という。
【0076】
S670で、マスタCPU322aは、許容範囲Wが許容範囲の下限値Wminであるか否かを判定する。ここで、許容範囲Wの幅の下限値Wminは、例えば10mが設定される。
【0077】
マスタCPU322aは、S670で、許容範囲Wが許容範囲の下限値Wminではないと判定した場合には、S680に処理を移行する。
S680で、マスタCPU322aは、許容範囲Wの値を1だけ減算し、S630に処理を戻し、以降の処理を実行する。すなわち、許容範囲Wを狭めて、再度近似直線の算出を行う。
【0078】
ここで、近似直線は、2回目以降は各静止反射点に設定された重みを用いて算出される。すなわち、1つ前のS650で許容範囲W内に存在する静止反射点の位置に基づいて近似直線が算出される。具体的には、下記(4)式を解くことにより算出される。近似直線の傾きa及び近似直線のy切片bは、下記(5)式のように表される。
【数3】
【0079】
そして、S640で、当該算出された傾きa及びy切片bで表される近似直線と各静止反射点との近似誤差dが算出される。
さらに、S650で、S640で算出された近似誤差dを元に重みが更新され、S660で、更新された各静止反射点の重みの平均値である横重み平均が算出される。
【0080】
S670で、許容範囲Wが許容範囲の下限値Wminと同一になるまで、近似直線y=ax+bが算出される。
一方、マスタCPU322aは、S670で、許容範囲Wが許容範囲の下限値Wminであると判定した場合、横近似処理を終了する。
【0081】
ここで、横近似処理を終了するときに、S630において各静止反射点の重みを算出し、算出した重みを用いて算出される近似直線である本近似直線が横近似直線WLに相当する。
なお、縦近似処理と、横近似処理とは、基本的に実行する処理は同様である。但し、近似直線との近似誤差dを算出するに当たって、横近似処理では、車長方向(すなわち、y軸に沿った方向)の近似誤差dを算出していたのに対して、縦近似処理では、車幅方向(すなわち、x軸に沿った方向)の近似誤差dを算出する点が異なる。また、縦近似処理における近似誤差を車幅近似誤差ともいう。なお、縦近似処理において算出される予備近似直線を縦予備直線ともいう。
【0082】
また、S660が重み平均算出部としての処理に相当する。S630が予備直線近似部及び本直線近似部としての処理に相当する。S630において、各静止反射点に設定される重みを1に設定して近似直線である予備近似直線を算出する処理が予備直線近似部としての処理に相当する。また、S630において、予備近似直線と各静止反射点との近似誤差dに基づいて算出された重みを用いて近似直線を算出する処理が本直線近似部としての処理に相当する。
【0083】
<信頼度算出処理>
次にマスタCPU322aがS330で実行する信頼度算出処理の詳細を図11のフローチャートを用いて説明する。
【0084】
S710で、マスタCPU322aは、エリア設定を行う。ここで、エリア設定は以下のように行う。S310の遮蔽算出処理において、横近似直線WLが設定された場合には、図12に示すようにxy平面をy軸方向に沿って分割する複数の横分割エリアが設定される。横分割エリアごとに、自車100の左側から順にx1~x5とエリア番号が設定される。x3のエリアの車幅方向の中心位置は、自車100の車幅方向の中心と一致するように設定され、各エリアの車幅方向の長さは、12mに設定される。
【0085】
一方、S310の遮蔽算出処理において、縦近似直線LLが設定された場合には、図13に示すようにxy平面をx軸方向に沿って分割する複数の縦分割エリアが設定される。縦分割エリアごとに、自車100の後方側から順にy1~y4とエリア番号が設定される。y3のエリアの車長方向の中心位置は、自車100の後端と一致するように設定される。各エリアの車長方向の長さは12mに設定される。
【0086】
なお、以下では、設定された横分割エリア又は縦分割エリアを単に分割エリアともいう。
S720で、マスタCPU322aは、S710で設定した各分割エリアに反射点閾値以上の数の静止反射点が存在するか否か判定する。ここで、反射点閾値は例えば1に設定される。すなわち、S720では、各分割エリアに静止反射点が存在するか少なくとも1つ存在するか否かが判定されてもよい。
【0087】
具体的には、S710で横分割エリアが設定された場合、横近似直線WLが図14に示すように表された例について説明する。ここで、各横分割エリアにおいて横近似直線WLに含まれる静止反射点の数が算出される。
【0088】
マスタCPU322aは、S720で、反射点閾値以上の数の静止反射点が存在しない分割エリアが存在すると判定した場合には、S730に処理を移行する。
S720で、反射点閾値以上の数の静止反射点が存在しない分割エリアが存在すると判定した場合とは、具体的には、例えば図15に示すように分割エリアx2に反射点閾値以上の数の静止反射点が存在しない場合などをいう。
【0089】
S730で、マスタCPU322aは、遮蔽信頼度をあらかじめ決められた減算値だけ減算し、信頼度算出処理を終了する。ここで、減算値は、1に設定されてもよい。
一方、マスタCPU322aは、S720で、静止反射点の数が反射点閾値未満の分割エリアが1つも存在しない、すなわち分割エリアすべてにおいて、静止反射点が反射点閾値以上存在すると判定した場合には、S740に処理を移行する。
【0090】
S740で、マスタCPU322aは、遮蔽信頼度をあらかじめ決められた加算値だけ加算し、信頼度算出処理を終了する。ここで、加算値は、1に設定されてもよい。
すなわち、遮蔽信頼度は、信頼度算出処理が行われる毎に加算又は減算される。なお、遮蔽信頼度は、マスタ警報処理が開始されたタイミングで0にリセットされてもよい。
【0091】
S710が範囲設定部としての処理に相当する。
<除外フラグ設定処理>
次にマスタCPU322aがS350で実行する除外フラグ設定処理の詳細を図16のフローチャートを用いて説明する。
【0092】
S810で、マスタCPU322aは、遮蔽物の方向が車長方向よりも車幅方向に近いか否か判定する。ここで、遮蔽物の方向が車幅方向であるとは、S470において、横重み平均が縦重み平均以上であると判定され、S480において静止反射点の分布を表した近似直線として横近似直線WLが遮蔽境界に設定されたことをいう。
【0093】
マスタCPU322aは、S810で、遮蔽物の方向が車長方向よりも車幅方向に近いと判定された場合には、S820に処理を移行する。
S820で、マスタCPU322aは、横除外処理を実行し、除外フラグ設定処理を終了する。横除外処理の詳細は後述するが、横除外処理は、横近似直線WLの位置に基づいて、自車100からみて、横近似直線WLよりも遠くに存在する抽出車両に対して除外フラグを設定し、警報対象から除外する処理をいう。
【0094】
一方、マスタCPU322aは、S810で、遮蔽物の方向が車長方向よりも車幅方向に近くはないと判定した場合には、S830に処理を移行する。
S830で、マスタCPU322aは、遮蔽物の方向が車幅方向よりも車長方向に近いか否か判定する。ここで、遮蔽物の方向が車幅方向よりも車長方向に近いとは、S470において、横重み平均が縦重み平均未満であると判定され、S490において静止反射点の分布を表した近似直線として縦近似直線LLが遮蔽境界に設定されたことをいう。
【0095】
マスタCPU322aは、S830で、遮蔽物の方向が車幅方向よりも車長方向に近いと判定した場合には、S840に処理を移行する。
S840で、マスタCPU322aは、縦除外処理を実行し、除外フラグ設定処理を終了する。縦除外処理の詳細は後述するが、縦除外処理は、縦近似直線LLの位置に基づいて、自車100からみて、縦近似直線LLよりも遠くに存在する抽出車両に対して除外フラグを設定し、警報対象から除外する処理をいう。
【0096】
一方、S830で、遮蔽物の方向が車幅方向よりも車長方向に近いと判定されなかった場合、すなわち、遮蔽境界として、横近似直線WLも縦近似直線LLも設定されず、探査範囲に遮蔽物が検出されなかった場合には、除外フラグ設定処理を終了する。
【0097】
<横除外処理>
次にマスタCPU322aがS820で実行する横除外処理の詳細を図17のフローチャートを用いて説明する。
【0098】
S910で、マスタCPU322aは、判定式の設定を行う。ここで、判定式とは、各抽出車両が横近似直線WLに対して遠くに位置するか否かを判定するための式であり、下記(6)式又は(7)式で表される。
【0099】
【数4】
ここで、aが傾き、bがy切片、yjが選択抽出車両のy座標、xjが選択抽出車両のx座標、Dが位置の測定誤差を加味した定数である。ここで、傾きaは、x軸方向の変化量に対するy軸方向の変化量をいう。また、y切片bは、定数Dを加味しない場合、すなわちDが0である場合の近似式が表す直線とy軸との交わる点のyの値、すなわち、Dが0かつxが0の時のyの値をいう。また、選択抽出車両とは後述するS920で選択された抽出車両をいう。
【0100】
横近似直線WLを表す近似式に対応した遮蔽物が自車100の前方にある場合には(6)式が用いられ、当該遮蔽物が自車100の後方にある場合には(7)式が用いられる。なお、当該遮蔽物が自車100の前方に存在するか否かは近似式である(6)式及び(7)式のy切片bの値に基づいて判定される。すなわち、近似式である(6)式及び(7)式のy切片bが、正の値である場合には当該遮蔽物は自車100の前方に存在すると判定され、負の値である場合には当該遮蔽物は自車100の後方に存在すると判定される。
【0101】
S920で、マスタCPU322aは、S260で、取得した抽出車両のうち、まだ選択されていない抽出車両を選択する。
S930で、マスタCPU322aは、S920で選択された抽出車両がS910で設定された判定式を充足するか否かを判定する。
【0102】
マスタCPU322aは、S930で、S920で選択された抽出車両が判定式を充足しないと判定した場合、すなわち、抽出車両が自車100に対して遮蔽物と反対側に存在しないと判定した場合にはS950に処理を移行する。
【0103】
一方、マスタCPU322aは、S930で、S920で選択された抽出車両が判定式を充足すると判定した場合、すなわち、抽出車両が自車100に対して遮蔽物と反対側に存在すると判定した場合にはS940に処理を移行する。
【0104】
S940で、マスタCPU322aは、S920で選択された抽出車両に対して除外フラグを設定する。
S950で、マスタCPU322aは、S920において未だ選択されていない抽出車両が存在するか否か判定する。
【0105】
マスタCPU322aは、S950で、S920において未だ選択されていない抽出車両が存在すると判定した場合には、S920に戻り以降の処理を実行する。すなわち、抽出車両のすべてがS920で選択されるまで、S920からS940までの処理が繰り返される。
【0106】
一方、マスタCPU322aは、S950で、S920において未だ選択されていない抽出車両が存在しない、すなわち、すべての抽出車両を選択し終わったと判定した場合には、横除外処理を実行する。
【0107】
なお、判定式で示される領域が遮蔽領域に相当する。
<縦除外処理>
次にマスタCPU322aがS840で実行する縦除外処理の詳細を図18のフローチャートを用いて説明する。
【0108】
なお、縦除外処理の各ステップは横除外処理を基本的には同じであり、S910~S930の処理がS1010~S1030の処理に相当し、S940~S950の処理がS1060~S1070の処理に相当する。
【0109】
以下では、横除外処理との相違点を中心に説明する。
縦除外処理は横除外処理に対して、S1040とS1050との処理が挿入される点と判定式の内容とが異なる。
【0110】
具体的な縦除外処理の各ステップについて以下の通り説明する。
S1010で、マスタCPU322aは、判定式を設定する。ここで、設定される判定式は、縦除外処理では、(8)式又は(9)式が設定される。
【0111】
【数5】
ここで、aが傾き、bがx切片、yjが選択抽出車両のy座標、xjが選択抽出車両のx座標、Dが位置の測定誤差を加味した定数である。ここで、傾きaは、y軸方向の変化量に対するx軸方向の変化量をいう。また、x切片bは、定数Dを加味しない場合、すなわちDが0である場合の近似式が表す直線とx軸との交わる点のxの値、すなわち、Dが0かつxが0の時のxの値をいう。また、選択抽出車両とは後述するS1020で選択された抽出車両をいう。
【0112】
縦近似直線LLを表す近似式に対応した遮蔽物が自車100の右側にある場合には、(8)式が用いられ、当該遮蔽物が自車100の左側にある場合には(9)式が用いられる。なお、当該遮蔽物が自車100の右側に存在するか否かは近似式である(8)式及び(9)式のx切片bの値に基づいて判定される。すなわち、近似式である(8)式及び(9)式のx切片bが、正の値である場合には当該遮蔽物は自車100の右側に存在すると判定され、負の値である場合には当該遮蔽物は自車100の左側に存在すると判定される。
【0113】
すなわち、横除外処理では、判定式が横近似直線WLを基準とするのに対して、縦除外処理では、判定式が縦近似直線LLを基準とする点が異なる。また、判定式により判定される向きが異なる。すなわち、横除外処理では、横近似直線WLより前方又は後方にあることを判定したが、縦除外処理では、縦近似直線LLより右方又は左方にあることを判定する点が異なる。
【0114】
S1020で、マスタCPU322aは、S260で、抽出車両のうち、まだ選択されていない抽出車両を選択する。
S1030で、マスタCPU322aは、S1020で選択された抽出車両がS1010で設定された判定式を充足するか否かを判定する。
【0115】
マスタCPU322aは、S1030で、S1020で選択された抽出車両がS1010で設定された判定式を充足しないと判定した場合、すなわち、抽出車両が自車100に対して遮蔽物と反対側に存在しないと判定した場合にはS1070に処理を移行する。
【0116】
一方、マスタCPU322aは、S1030で、S1020で選択された抽出車両がS1010で設定された判定式を充足すると判定した場合、すなわち、抽出車両が自車100に対して遮蔽物と反対側に存在すると判定した場合にはS1040に処理を移行する。
【0117】
S1040で、マスタCPU322aは、静止物距離Hを算出する。ここで、図19(A)に示すように、縦近似直線LLに対して推定軌道Pが交差する場合を例に説明する。
図19(A)の縦近似直線LLに対して推定軌道Pが交差する部分を拡大した図である図19(B)に示すように静止物距離Hとは選択された抽出車両の推定軌道Pに最も近い静止反射点の推定軌道Pまでの距離をいう。
【0118】
S1050で、マスタCPU322aは、静止物距離Hが通過閾値よりも小さいか否か判定する。通過閾値は、車幅の半分程度の長さに設定され、例えば、1m程度の長さが設定される。
【0119】
S1050で、マスタCPU322aは、静止物距離Hが通過閾値以上であると判定した場合には、S1070に処理を移行する。
一方、S1050で、マスタCPU322aは、静止物距離Hが通過閾値よりも小さいと判定した場合には、S1060に処理を移行する。
【0120】
S1060で、マスタCPU322aは、S1020で選択された抽出車両に対して除外フラグを設定する。
S1070で、マスタCPU322aは、S1020において未だ選択されていない抽出車両が存在するか否か判定する。
【0121】
マスタCPU322aは、S1070で、S1020において未だ選択されていない抽出車両が存在すると判定した場合には、S1020に戻り以降の処理を実行する。すなわち、抽出車両のすべてがS1020で選択されるまで、S1020からS1060までの処理が繰り返される。
【0122】
一方、マスタCPU322aは、S1070で、S1020において未だ選択されていない抽出車両が存在しない、すなわち、すべての抽出車両を選択し終わったと判定した場合には、縦除外処理を実行する。
【0123】
なお、S1040及びS1050が解除部としての処理に相当し、静止物距離Hが通過閾値よりも小さいことが解除条件に相当する。判定式で示される領域が遮蔽領域に相当する。
【0124】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態によれば、横近似処理及び縦近似処理において、静止反射点の位置に基づいてロバスト推定により遮蔽物が存在する位置を縦近似直線LL、横近似直線WLとして推定するため、遮蔽物の位置を推定する推定精度を向上させることができる。
【0125】
(2)また、上記実施形態によれば、推定精度が向上した遮蔽物の位置に基づいて、抽出車両が表す物標が自車100に衝突するか否かを判定するため、抽出車両が表す物標が自車100に衝突するか否かを判定する判定精度を向上させることができる。
【0126】
(3)さらに、静止反射点の位置と近似直線との近似誤差dから、遮蔽物が存在する向きが自車100に対して車幅方向に沿った向きと車長方向に沿った向きとどちらに近いかを判定する。そして、判定した向きに応じて、異なる判定式を用いて、遮蔽物を挟んで自車100と反対側に抽出車両である物標が存在するか否かを判定する。これにより、遮蔽物が存在する向きが自車100の車幅方向に沿った向きと自車100の車長方向に沿った向きとのいずれに近いかによって、抽出車両である物標が遮蔽物を挟んで自車100と反対側にあるか否かを使い分けることができる。
【0127】
(4)上記実施形態によれば、縦方向に沿った向きに近い向きに遮蔽物の向きが存在する場合に、抽出車両の推定軌道Pを算出する。そして、算出された抽出車両の推定軌道Pと、当該推定軌道Pに最も近い静止反射点との距離があらかじめ決められた通過閾値以上である場合には、当該抽出車両が自車100に接近又は衝突する可能性があると判定する。このため、抽出車両となる物標が存在する位置が遮蔽物を挟んで反対側であったとしても、遮蔽物の間をすり抜けて自車100に接近又は衝突する可能性がある抽出車両を抽出することができる。
【0128】
(5)上記実施形態では、ロバスト推定により、静止反射点の位置に基づいて近似直線を求める。ロバスト推定では、近似直線と各静止反射物との距離が重みとして算出される。これにより、近似直線が遮蔽物の位置と適合するか否かを重み平均があらかじめ決められた重み閾値以上であるか否かにより計算により判定することができる。
【0129】
(6)上記実施形態では、設定された分割エリアのいずれかにおいて、静止反射点の数が反射点閾値未満である場合には、近似直線が遮蔽物を表している信頼性が低いと判定する。これにより、反射点閾値よりも少ない数の静止反射点しか存在しない分割エリアが存在するにもかかわらず、静止反射点の位置に基づいて近似直線が算出されることを抑制することができる。その結果、遮蔽物を検出する精度を向上させることができる。
【0130】
(7)上記実施形態では、遮蔽信頼度は信頼度算出処理において実行される毎に1ずつ加算又は減算される。また、マスタ警報処理が開始された時点で0にリセットされ、遮蔽閾値は、5に設定される。このため、最初の数回は、信頼度算出処理が行われ、遮蔽物が検出されたとしても、遮蔽信頼度は遮蔽閾値以上とならないため、当該遮蔽物を元にして抽出車両に対して除外フラグが設定されることはない。これにより、マスタ警報処理を開始してから、数回遮蔽物が検出されたと判定されるまでは遮蔽物の信頼度が低いと判定される。このため、開始してすぐの十分に遮蔽物が検出されていない段階で、当該遮蔽物に基づいて抽出車両が警報対象から除外されることを抑制することができる。
【0131】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0132】
(1)上記実施形態では、信頼度算出処理において、各エリアに静止反射点が無い場合には、遮蔽信頼度を減算した。しかしながら、信頼度算出処理において、各エリアに静止反射点が検出されなかった場合に、遮蔽信頼度を必ずしも減算しなくてもよい。例えば、分割エリアの両端のエリアである両端エリアの一方又は両方において、静止反射点が存在しない場合には、遮蔽信頼度を減算しない構成としてもよい。
【0133】
このような、構成によれば、遮蔽物が存在する場合で、両端エリアの一方又は両方に遮蔽物の端部が属する場合であっても、遮蔽物の信頼度を減算することなく、存在する遮蔽物の位置に基づいて抽出車両を警報対象から除外するか否かを判定することができる。
【0134】
(2)また、当該静止反射点が検出されなかった一方又は両方の両端エリア以外の分割エリアのそれぞれにおいて遮蔽閾値以上の数の静止反射点が検出された場合には、当該静止反射点が検出されなかった一方又は両方の両端エリア以外の分割エリアの位置に遮蔽物が存在すると判定してもよい。
【0135】
このような構成によれば、遮蔽物が存在する場合で、両端エリアの一方又は両方に遮蔽物の端部が属する場合であっても当該遮蔽物を認識することができ、当該遮蔽物と抽出車両の位置に基づいて、抽出車両を警報対象から除外する処理を行うことができる。
【0136】
(3)上記実施形態のスレーブ警報処理及びマスタ警報処理の反射点の取得において、例えば、取得される反射点は、スレーブレーダモジュール311及びマスタレーダモジュール321により外挿が行われた反射点を含めてもよい。ここでいう外挿とは、繰り返し反射点の認識を行い、過去の反射点認識において数回検出された反射点の情報に基づいて、認識できなかった反射点を認識したものと判定する処理をいう。
【0137】
また、外挿中の反射点を元にして遮蔽算出処理がなされないように構成されていてもよい。具体的には、例えば、遮蔽算出処理のS420で静止反射点を抽出する際に、外挿中の反射点を、抽出する静止反射点から除外してもよい。
【0138】
なお、外挿中の反射点であるか否かは、各反射点の情報としてマスタCPU322aがスレーブレーダモジュール311又はマスタレーダモジュール321から取得する構成であってもよい。
【0139】
外挿中の反射点が表す物標が実際に存在する可能性は、実際に検出された物標に比べて低い。このため、外挿中の反射点が表す物標を元に実際に存在する物標が遮蔽物の外側であると判定され、警報対象から除外されることを抑制することができる。その結果、自車100に接近する抽出車両の検出精度を向上させることができる。
【0140】
(4)上記実施形態では、スレーブレーダモジュール311及びマスタレーダモジュール321が搭載される位置は、スレーブレーダモジュール311が自車100の左後方部分であり、マスタレーダモジュール321が自車100の右後方部分である。しかし、スレーブレーダモジュール311及びマスタレーダモジュール321が搭載される位置は、このような位置に限定されるものではない。例えば、スレーブレーダモジュール311が搭載される位置が自車100の右後方部分であり、マスタレーダモジュール321が搭載される位置が自車100の左後方部分であってもよい。すなわち、自車100において、スレーブレーダモジュール311とマスタレーダモジュール321とが搭載される位置が反対であってもよい。
【0141】
(5)上記実施形態で設定される各閾値は、あらかじめ実施された実験により算出された値に基づいて設定されてもよい。また、各判定を行う際の近似誤差dを考慮して設定されてもよい。
【0142】
(6)上記実施形態では、スレーブレーダ31及びマスタレーダ32のそれぞれにマイコンであるスレーブ処理部312及びマスタ処理部322がそれぞれ搭載されていた。しかし、マイコンはスレーブレーダ31及びマスタレーダ32にそれぞれ搭載される構成に限定されるものではない。具体的には、図20に示すように、スレーブレーダ31及びマスタレーダ32に含まれるスレーブレーダモジュール311及びマスタレーダモジュール321に対応する左レーダモジュール40及び右レーダモジュール50と、スレーブ処理部312及びマスタ処理部322に対応する処理部60とにより構成されていてもよい。処理部60は、スレーブCPU312a及びマスタCPU322aに相当する構成であるCPU61とスレーブメモリ312b及びマスタメモリ322bに相当する構成であるメモリ62を備えていてもよい。すなわち、レーダモジュールとマイコンとが別体として構成されていてもよい。
【0143】
(7)上記実施形態では、車長方向の静止反射点の位置の近似誤差dに基づいて横近似直線WLを算出し、車幅方向の静止反射点の位置の近似誤差dに基づいて縦近似直線LLを算出した。そして、いずれの近似誤差dが小さいかによって、近似直線の方向が車長方向に近いか、車幅方向に近いかを判定した。しかし、近似直線の方向が車長方向に近いか、車幅方向に近いかはこのような方法で判定するものに限定されるものではない。例えば、xy平面において、近似直線に対して垂直方向の静止反射点の位置の近似誤差dを算出し、位置の近似誤差dが小さくなるように近似直線を算出し、算出された近似直線の傾きが1よりも大きいか否かによって近似直線の向きを判定してもよい。すなわち、近似直線の自車100の車長方向又は車幅方向に対する角度に応じて判定してもよい。
【0144】
(8)上記実施形態では、除外フラグ設定処理において各抽出車両に対して除外フラグを設定するか否かを判定したが、除外フラグを設定するか否かを判定する対象は、抽出車両に限定されるものではない。例えば、警報フラグが設定された抽出車両である警報候補について除外フラグを設定するか否かを判定してもよい。
【0145】
(9)本開示に記載のスレーブ処理部312、マスタ処理部322及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のスレーブ処理部312、マスタ処理部322及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のスレーブ処理部312、マスタ処理部322及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。スレーブ処理部312、マスタ処理部322に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0146】
(10)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0147】
(11)上述した警報システムの他、当該警報システムを構成要素とするシステム、当該警報システムとしてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、警報方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0148】
1…警報システム、10…検知ユニット、11…ステアリングセンサ、12…車速センサ、20…報知ユニット、21…ディスプレイ、22…インジケータ、23…メータ表示装置、24…ブザー、30…レーダユニット、31…スレーブレーダ、32…マスタレーダ、40…左レーダモジュール、50…右レーダモジュール、60…処理部、61…CPU、62…メモリ、100…自車、311…スレーブレーダモジュール、312…スレーブ処理部、312a…スレーブCPU、312b…スレーブメモリ、321…マスタレーダモジュール、322…マスタ処理部、322a…マスタCPU、322b…マスタメモリ、Ar…後方範囲、H…静止物距離、P…推定軌道、WL…横近似直線、LL…縦近似直線、M…中心線、O…原点、R311…左照射範囲、R321…右照射範囲、W…許容範囲、d…近似誤差、x1~x5,y1~y5…分割エリア。
図1
図2
図3
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