(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ネットワーク管理装置、管理方法、管理プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
H04L 41/00 20220101AFI20221213BHJP
G05B 19/05 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H04L41/00
G05B19/05 S
(21)【出願番号】P 2019058941
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池尾 裕二
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-120884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 41/00
G05B 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ装置と、前記マスタ装置に接続されたスレーブ装置とを含むネットワークを管理する管理装置であって、
前記ネットワークの構成情報、ならびに、前記マスタ装置および前記スレーブ装置の固有パラメータを示すノード情報に基づいて、前記マスタ装置がデータの送信を開始してから前記データが全ての前記スレーブ装置を経て前記マスタ装置に戻るまでの伝送遅延時間を予測する伝送遅延時間予測部と、
前記伝送遅延時間を前記ネットワークにおいて実測する伝送遅延時間実測部と、
前記伝送遅延時間予測部によって予測された予測値および前記伝送遅延時間実測部によって実測された実測値をユーザに提示して、前記ユーザの選択操作に応じて、前記マスタ装置が前記スレーブ装置に信号を送信するタスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定する伝送遅延時間設定部と、
を備えることを特徴とする管理装置。
【請求項2】
前記伝送遅延時間設定部は、前記予測値および前記実測値のいずれかを前記周期設定用伝送遅延時間として設定することを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記周期設定用伝送遅延時間に基づいて前記タスク周期を設定する周期設定部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の管理装置。
【請求項4】
マスタ装置と、前記マスタ装置に接続されたスレーブ装置とを含むネットワークを管理する管理方法であって、
前記ネットワークの構成情報、ならびに、前記マスタ装置および前記スレーブ装置の固有パラメータを示すノード情報に基づいて、前記マスタ装置がデータの送信を開始してから前記データが全ての前記スレーブ装置を経て前記マスタ装置に戻るまでの伝送遅延時間を予測する伝送遅延時間予測ステップと、
前記伝送遅延時間を前記ネットワークにおいて実測する伝送遅延時間実測ステップと、
前記伝送遅延時間予測ステップにおいて予測された予測値および前記伝送遅延時間実測ステップにおいて実測された実測値をユーザに提示して、前記ユーザの選択操作に応じて、前記マスタ装置が前記スレーブ装置に信号を送信するタスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定する伝送遅延時間設定ステップと、
を備えることを特徴とする管理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の管理装置としてコンピュータを機能させるための管理プログラムであって、前記伝送遅延時間予測部、前記伝送遅延時間実測部および前記伝送遅延時間設定部としてコンピュータを機能させるための管理プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタ装置およびスレーブ装置等のノードを含むネットワークを管理する管理装置、管理方法および管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
FA(Factory Automation)においては、工場内に設置される生産設備のデータ収集及び制御を行う各種のスレーブ装置と、複数のスレーブ装置を集中管理するマスタ装置等とのノードから構成される産業用ネットワークにより、生産設備の制御が行われている。
【0003】
図8は、一般的な産業用ネットワーク100の概略構成を示すブロック図である。産業用ネットワーク100は、マスタ装置1と、マスタ装置1に接続されたスレーブ装置2-1~2-3とを含んでいる。マスタ装置1とスレーブ装置2-1とは、EtherCAT通信に適合するケーブル4で接続され、スレーブ装置2-1~2-3同士もEtherCAT通信に適合するケーブル4で接続されている。各スレーブ装置2-1~2-3は、有線または無線で生産設備であるH/W装置に接続されており、マスタ装置1からの指示に応じてH/W装置を制御する。なお、以下では、スレーブ装置2-1~2-3を単にスレーブ装置2と総称することもある。
【0004】
このような産業用ネットワーク100において、例えば同一のH/W装置に対して何らかの制御を行う場合には、これらのH/W装置から状態値を同一のタイミングで取得する(同期を取る)ことが好ましい。一方、マスタ装置1とスレーブ装置2-1との間、スレーブ装置2-1~2-3間、マスタ装置1および各スレーブ装置2-1~2-3では、伝送遅延が発生するため、複数のスレーブ装置2間で同期を取るために、伝送遅延時間を考慮する必要がある。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1では、スレーブ装置の固有パラメータを示すノード情報(プロファイル)やネットワークの構成情報から算出された伝送遅延時間に基づいて、複数のスレーブ装置間で同期を取る技術が開示されている。
【0006】
図9は、特許文献1に開示の従来技術を用いて、
図8に示す産業用ネットワーク100の各スレーブ装置2間の同期を取るための処理を概略的に説明するための図である。マスタ装置1からスレーブ装置2にH/W装置の状態値の出力を指示してから、応答がマスタ装置1に返ってくるまでの流れは以下の通りである。
【0007】
(1)[アプリ実行]マスタ装置1のアプリケーションによって起動した制御部11より、各スレーブ装置2-1~2-3に対するH/W装置の状態値の出力指示を含むデータフレームを生成する。
【0008】
(2)[ネットワーク伝送]ネットワークを介し、マスタ装置1から各スレーブ装置2-1~2-3に出力指示データが配布される。具体的には、制御部11が生成したデータフレームは、マスタ装置1の通信部12における送受信バッファ処理を経た後、ケーブル4を介してスレーブ装置2-1~2-3に順次転送される。各スレーブ装置2-1~2-3は、出力指示を受信するとともに、前のタスク周期において受信した出力指示に基づいてH/W装置から取得しラッチしていた状態値(応答)をデータフレームに付加して、マスタ装置1に返送する。すなわち、この状態値は、(1)において生成された出力指示に対する状態値ではない。
【0009】
(3)[出力受付/演算]各スレーブ装置2-1~2-3は、出力指示を電文データから受け付け可能な形式に変換し、出力実行に必要なパラメータを演算する。
【0010】
(4)[出力実行]各スレーブ装置2-1~2-3は、H/W装置への出力を実行する。
【0011】
(5)[入力ラッチ]各スレーブ装置2-1~2-3は、H/W装置の現在の状態値を取得してラッチし、マスタ装置1が解釈できる形式に演算/変換を行う。
【0012】
(6)[アプリ実行](1)と同様の処理である。マスタ装置1の制御部11は、(2)において返送された状態値を受信するとともに、状態値の出力指示を含むデータフレームを生成する。なお、受信した状態値は、上述のように、(1)において生成された出力指示に対する状態値ではない。
【0013】
(7)[ネットワーク伝送](2)と同様の処理である。各スレーブ装置2-1~2-3は、マスタ装置1から送信されたデータフレームに、(5)でラッチした状態値を付加して、マスタ装置1に返送する。当該状態値は、次のアプリ実行時に、マスタ装置1に入力される。
【0014】
以上のように、産業用ネットワーク100では、(2)~(6)の処理が所定の周期で繰り返される。
【0015】
図10(a)に示すように、(1)の処理で生成された出力指示は、(2)において、各スレーブ装置2に受信され、各スレーブ装置2は、出力指示に応じて(3)~(5)の処理を実行し、次の(7)において、出力指示に対する応答(状態値)をデータフレームに付加する。その結果、マスタ装置1の制御部11は、次のアプリ実行処理(11)に応答を受信する。ここで、(2)の処理にかかる時間が伝送遅延時間Tdに相当する。また、(1)の処理完了から(4)の処理完了までの時間が、制御部11から見た、出力指示に対し各スレーブ装置2が反応(動作開始)するまでにかかる時間(反応時間Tr)に相当する。また、(1)の処理完了から(11)の処理開始までの時間が、制御部11から見た、出力指示に対する応答までにかかる時間(応答時間Ta)に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1では、伝送遅延時間をスレーブ装置の固有パラメータを示すプロファイルやネットワークの構成情報から算出(予測)している。しかし、実際のネットワークでは、スレーブ装置間の距離が長い場合では、光コンバータや100mを超える長い光ケーブルを使用することもある。また、スレーブ装置が移動体の場合は、光伝送を使うこともある。この場合、実際の伝送遅延時間が伝送遅延時間の予測値よりも長くなり、スレーブ装置が期待通りに動作しないおそれがある。
【0018】
具体的には、
図10(b)に示すように、実際の伝送遅延時間Td’が
図10(a)に示す予測された伝送遅延時間Tdよりも長い場合、スレーブ装置2の出力指示に対する反応タイミングがずれて、反応時間Trも長くなる。その結果、(5)でラッチされた状態値の出力(応答)が(7)のネットワーク伝送に間に合わなくなると、状態値は、次の3サイクル目の周期のネットワーク伝送(12)のデータフレームに付加され、(15)でマスタ装置1に入力される。すなわち、
図10(a)と比較すると、応答時間Taが、2サイクル目のアプリ実行(11)から3サイクル目のアプリ実行(15)に延長されるため、黒色の双方向矢印に示すように、マスタ装置1が出力指示に対する応答を得られるタイミングが1周期遅れることになる。そうなると、スレーブ装置2が期待通りに動作しない恐れがある。
【0019】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、マスタ装置のタスク周期をフレキシブルに設定することができる管理装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明に係る管理装置は、マスタ装置と、前記マスタ装置に接続されたスレーブ装置とを含むネットワークを管理する管理装置であって、前記ネットワークの構成情報、ならびに、前記マスタ装置および前記スレーブ装置の固有パラメータを示すノード情報に基づいて、前記マスタ装置がデータの送信を開始してから前記データが全ての前記スレーブ装置を経て前記マスタ装置に戻るまでの伝送遅延時間を予測する伝送遅延時間予測部と、前記伝送遅延時間を前記ネットワークにおいて実測する伝送遅延時間実測部と、前記伝送遅延時間予測部によって予測された予測値および前記伝送遅延時間実測部によって実測された実測値をユーザに提示して、前記ユーザの選択操作に応じて、前記マスタ装置が前記スレーブ装置に信号を送信するタスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定する伝送遅延時間設定部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、上記管理装置において、前記伝送遅延時間設定部は、前記予測値および前記実測値のいずれかを前記周期設定用伝送遅延時間として設定してもよい。
【0022】
また、上記管理装置は、前記周期設定用伝送遅延時間に基づいて前記タスク周期を設定する周期設定部をさらに備えてもよい。
【0023】
本発明に係る管理方法は、マスタ装置と、前記マスタ装置に接続されたスレーブ装置とを含むネットワークを管理する管理方法であって、前記ネットワークの構成情報、ならびに、前記マスタ装置および前記スレーブ装置の固有パラメータを示すノード情報に基づいて、前記マスタ装置がデータの送信を開始してから前記データが全ての前記スレーブ装置を経て前記マスタ装置に戻るまでの伝送遅延時間を予測する伝送遅延時間予測ステップと、前記伝送遅延時間を前記ネットワークにおいて実測する伝送遅延時間実測ステップと、前記伝送遅延時間予測ステップにおいて予測された予測値および前記伝送遅延時間実測ステップにおいて実測された実測値をユーザに提示して、前記マスタ装置が前記スレーブ装置に信号を送信するタスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定する伝送遅延時間設定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0024】
また、上記管理装置としてコンピュータを機能させるための管理プログラムであって、前記伝送遅延時間予測部、前記伝送遅延時間実測部および前記伝送遅延時間設定部としてコンピュータを機能させるための管理プログラム、および、当該管理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明の技術的範囲に属する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、マスタ装置のタスク周期をフレキシブルに設定することができる管理装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る産業用ネットワーク、およびこれを管理する管理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】ネットワーク構成図およびノード情報の一例である。
【
図3】伝送遅延時間の予測値をユーザに提示するためのダイアログの一例である。
【
図4】ユーザに実ネットワーク構成の確認を促すためのメッセージボックスの一例である。
【
図5】伝送遅延時間の予測値および実測値をユーザに提示するためのダイアログの一例である。
【
図6】タスク周期を補正した場合の、マスタ装置からスレーブ装置に与えられた出力指示の流れを概略的に説明するための図である。
【
図7】マスタ装置およびスレーブ装置を含むネットワークを管理する管理方法における処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】一般的な産業用ネットワークの概略構成を示すブロック図である。
【
図9】従来技術を用いて、
図8に示す産業用ネットワークの各スレーブ装置間の同期を取るための処理を概略的に説明するための図である。
【
図10】(a)は、
図9に示す処理をさらに概略的に説明した図であり、(b)は、実際の伝送遅延時間が理論上の伝送遅延時間よりも長い場合に、マスタ装置からスレーブ装置に与えられた出力指示の流れを概略的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。以下の実施形態ではEtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology:登録商標)の規格に即したネットワークシステムにおける管理装置について説明するが、本発明の対象はこれに限られない。1台以上のノードを備えたネットワークシステムであれば、本発明を適用することができる。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る産業用ネットワーク100、およびこれを管理する管理装置3の構成を示すブロック図である。産業用ネットワーク100は、
図8に示すものと同様であり、マスタ装置1と、マスタ装置1に接続されたスレーブ装置2-1~2-3とを含んでいる。マスタ装置1とスレーブ装置2-1とは、EtherCAT通信に適合するケーブル4で接続され、スレーブ装置2-1~2-3同士もEtherCAT通信に適合するケーブル4で接続されている。マスタ装置1と管理装置3とは、有線または無線によるEthernet(登録商標)通信またはUSB通信で接続されている。
【0029】
以下では、スレーブ装置2-1~2-3を単にスレーブ装置2と称することもある。また、マスタ装置1およびスレーブ装置2をノードと称することもある。本実施形態では、説明の簡略化のため、スレーブ装置2が3つ設けられているが、マスタ装置1に接続可能なスレーブ装置2の台数およびトポロジは特に限定されない。本実施形態では、1台のマスタ装置1に最大512台のスレーブ装置2が接続可能であり、スレーブ装置2間の連携や配線の都合に応じて、直列状、リング状、ツリー状またはスター状など、あらゆるトポロジを適用可能である。
【0030】
マスタ装置1は、スレーブ装置2を集中管理する装置であり、例えばPLC(Programmable Logic Controller)で構成されている。マスタ装置1は、シーケンス制御を行うための制御命令をスレーブ装置2へ送信することでスレーブ装置2を制御するとともに、スレーブ装置2から各種データを受け取ることで、スレーブ装置2の状態監視を行う。
【0031】
スレーブ装置2は、生産設備のデータ収集および制御を行う装置であり、マスタ装置1からの制御命令に応じた生産設備の制御動作や、受信した制御命令の書き換えおよび返送処理を行う。スレーブ装置2としては、スレーブターミナル、NXユニット、CJユニット、IO-Linkデバイス、電源ユニット、モータユニット、カウンタユニット、画像ユニット、通信ユニット、I/Oユニット等が含まれる。スレーブ装置2は有線または無線で生産設備であるH/W装置に適宜接続されている。H/W装置としては、センサ、押しボタン、リミットスイッチなどの入力装置やランプなどの出力装置が含まれる。
【0032】
(管理装置)
管理装置3は、産業用ネットワーク100を管理するコンピュータであり、例えば汎用のパーソナルコンピュータで構成することができる。管理装置3は、ハードウェア構成として、例えば、CPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスク、SSDなど)、表示装置および入力装置(キーボード、マウスなど)を備えている。
【0033】
また管理装置3は、機能ブロックとして、通信部31、記憶部32およびネットワーク設定部33を備えている。
【0034】
通信部31は、管理装置3がマスタ装置1と通信を行うための通信ユニットである。
【0035】
記憶部32には、ネットワーク構成情報D1およびノード情報D2が格納されている。ネットワーク構成情報D1は、ユーザにより作成された設計上のネットワーク構成を示すプロジェクトファイルである。ノード情報D2は、マスタ装置1およびスレーブ装置2の各ノードの固有パラメータを示す情報である。ノード情報D2には、マスタ装置1の通信部12における送受信バッファ処理の時間や、スレーブ装置2におけるデータフレームの転送時間などが含まれる。
【0036】
ネットワーク設定部33は、産業用ネットワーク100に関する各種パラメータを設定する機能ブロックであり、記憶部32に格納されている管理プログラム(図示省略)がCPUによって実行されることによって実現される。管理プログラムは、CD-ROMなどの非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよく、当該記録媒体を管理装置3に読み取らせることにより、管理プログラムを管理装置3にインストールしてもよい。あるいは、インターネット等の通信ネットワークを介して管理プログラムのコードを管理装置3にダウンロードしてもよい。
【0037】
本実施形態では、ネットワーク設定部33は、主に、マスタ装置1がスレーブ装置2に信号を送信するタスク周期を設定する機能を有している。この機能を実現するために、ネットワーク情報表示部331と、伝送遅延時間予測部332と、伝送遅延時間実測部333と、伝送遅延時間設定部334と、周期設定部335とを備えている。
【0038】
ネットワーク情報表示部331は、マスタ装置1およびスレーブ装置2の接続関係を示すネットワーク構成図、および、マスタ装置1およびスレーブ装置2のノード情報を表示する機能ブロックである。ユーザが管理プログラムを起動して所定の操作を行うことにより、ネットワーク情報表示部331は、ネットワーク構成情報D1を参照して、
図2に示すネットワーク構成図を表示する。
【0039】
ネットワーク構成図では、マスタ装置1およびスレーブ装置2の接続関係がグラフィカルに示される。さらに、ネットワーク構成図において、アイコンが選択されると、ネットワーク情報表示部331は、選択されたアイコンに対応するノード情報を表示する。
【0040】
図2では、マスタ装置1に対応するアイコンが選択されており、ネットワーク構成図の右側領域にマスタ装置1のノード情報(プロパティ)が表示されている。
【0041】
マスタ装置1のノード情報において、「PDO通信周期」は、マスタ装置1がスレーブ装置2に信号を送信するタスク周期に相当する。なお、「PDO通信」とは、EtherCAT通信の一種で、定周期でリアルタイムの情報交換を行うプロセスデータオブジェクト(Process Data Objects:PDO)を使用した通信であり、「プロセスデータ通信」とも呼ばれる。
【0042】
また、マスタ装置1のノード情報では、タスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定することができ、「設定の編集」ボタンB1を押下すると、
図4に示す伝送遅延時間予測部332が、ネットワーク構成情報D1およびノード情報D2に基づいて、マスタ装置1がデータの送信を開始してから前記データが全てのスレーブ装置2を経てマスタ装置1に戻るまでの伝送遅延時間を予測する。
【0043】
伝送遅延時間は、以下のように算出される。
伝送遅延時間=[マスタ装置1の通信部処理時間]+[ネットワーク巡回(I/O交換)時間]+[マージン(定数)]
【0044】
マスタ装置1の通信部処理時間は、通信部12の送受信バッファ処理にかかる時間であり、送受信データの容量に依存する。具体的には、以下の計算式で算出される。
通信部処理時間=[通信データ1byteあたりの送受信処理時間]×[通信データサイズ]
通信データ1byteあたりの送受信処理時間:定数
通信データサイズ:ネットワーク構成情報D1より取得
【0045】
ネットワーク巡回(I/O交換)時間は、送信データが全スレーブ装置2を巡回しマスタ装置1に返ってくるのにかかる時間であり、スレーブ装置2の台数およびネットワークの距離に依存する。以下の計算式で算出される。
ネットワーク巡回(I/O交換)時間=([スレーブ装置1台あたりの遅延時間]×[スレーブ装置の台数])+([ケーブル1mあたりの遅延時間]×[ケーブル長])
スレーブ装置1台あたりの遅延時間:定数
スレーブ装置の台数:ネットワーク構成情報D1より取得
ケーブル1mあたりの遅延時間:定数
ケーブル長:ネットワーク構成情報D1より取得
【0046】
このようにして伝送遅延時間が予測されると、
図3に示すダイアログが表示され、伝送遅延時間の予測値(ネットワーク構成設定からの算出結果)がユーザに提示される。
【0047】
さらに本実施形態では、
図1に示す伝送遅延時間実測部333によって、実際の伝送遅延時間を産業用ネットワーク100において実測することができる。
【0048】
図3に示すダイアログにおいて、「伝送遅延時間の実測値を取得する」ボタンB2が押下されると、
図4に示すように、ユーザに実ネットワーク構成の確認を促すメッセージボックスが表示される。このメッセージボックスにおいてOKボタンB3が押下されると、伝送遅延時間実測部333が伝送遅延時間の実測をマスタ装置1に指示する。伝送遅延時間の実測には、例えば、分散クロックの補正の仕組みを利用することができる。具体的には、以下のようにして伝送遅延時間を実測する。
1.マスタ装置1がポートにブロードキャストライトを送信する。
2.各スレーブ装置2は、フレームのイーサネット(登録商標)プリアンブルの第1のビットが受信された時のそのローカルクロックの時間を、それぞれ個別に格納する。
3.マスタ装置1が全てのタイムスタンプを読み出し、トポロジについての遅延時間を算出する。
【0049】
このようにしてマスタ装置1は伝送遅延時間を実測すると、実測値を管理装置3に返送する。これにより、
図1に示す伝送遅延時間設定部334は、伝送遅延時間の予測値および実測値をユーザに提示して、マスタ装置1がスレーブ装置2に信号を送信するタスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間を設定する。本実施形態では、伝送遅延時間設定部334は、
図5に示すダイアログを表示して、伝送遅延時間の実測値を伝送遅延時間の予測値とともにユーザに提示する。このダイアログでは、伝送遅延時間の予測値および実測値にラジオボタンが対応付けられており、ユーザは、ラジオボタンによって、伝送遅延時間の予測値および実測値のいずれかを、タスク周期を設定するための周期設定用伝送遅延時間として選択することができる。伝送遅延時間設定部334は、ユーザの選択操作に応じて、周期設定用伝送遅延時間を設定する。
【0050】
図1に示す周期設定部335は、伝送遅延時間設定部334によって設定された周期設定用伝送遅延時間に基づいてタスク周期を設定する。
図5に示すように、伝送遅延時間の実測値に対応するラジオボタンが選択された状態でOKボタンB4が押下されると、周期設定部335は、伝送遅延時間の実測値に基づいてタスク周期を設定する。例えば、
図6に示すように、実測された伝送遅延時間Td’が予測された伝送遅延時間Tdよりも長い場合、マスタ装置1が出力指示に対する応答を得られるタイミングが1周期遅れない程度にタスク周期を補正する。これにより、ユーザは、スレーブ装置2が期待通りに動作しない事態を回避することができる。
【0051】
なお、
図6では、入力ラッチ(5)の完了後にアプリ実行(6)が開始されているが、入力ラッチ(5)でラッチされた状態値が、ネットワーク伝送(7)におけるデータフレームに付加できるのであれば、入力ラッチ(5)の完了前にアプリ実行(6)が開始されてもよい。
【0052】
伝送遅延時間の実測値に基づいて設定されたタスク周期が実用性の観点から長すぎる場合は、ユーザは、
図5に示すダイアログにおいて、伝送遅延時間の予測値を周期設定用伝送遅延時間として選択することも可能である。この場合、マスタ装置1が出力指示に対する応答を得られるタイミングが1周期遅れないように、ユーザは、ノードのチューニングや配線の交換等により実際の伝送遅延時間を短縮するといった対策を講じることができる。なお、伝送遅延時間の実測値が伝送遅延時間の予測値より短い場合も、伝送遅延時間の予測値を周期設定用伝送遅延時間として選択することが好ましい。
【0053】
また、ノードのチューニング等によっても、実際の伝送遅延時間を予測値に一致させることが難しい場合、
図5に示すダイアログにおいて、伝送遅延時間の数値入力欄を設け、ユーザが任意の時間を周期設定用伝送遅延時間として選択できるようにしてもよい。これによりユーザは、チューニング等によって実際に短縮可能と見込まれる伝送遅延時間を選択することで、可能な限り短いタスク周期を設定することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る管理装置3は、伝送遅延時間の予測値および実測値に基づき、マスタ装置1のタスク周期をフレキシブルに設定することができる。
【0055】
(管理方法)
図7は、マスタ装置1およびスレーブ装置2を含むネットワークを管理する管理方法における処理の流れを示すフローチャートである。同図では、管理装置3およびマスタ装置1における処理手順が示されている。
【0056】
まず、ユーザが管理装置3において管理プログラムを起動させると、ネットワーク設定部33が起動する(S1)。続いて、ユーザが所定の操作を行うことにより、ネットワーク情報表示部331が、記憶部32に格納されているネットワーク構成情報D1およびノード情報D2を読み出して、
図2に示すネットワーク構成図およびノード(マスタ装置1)のノード情報を表示する(ステップS2)。
【0057】
続いて、ユーザが
図2の「設定の編集」ボタンB1を押下することにより、伝送遅延時間の設定が開始される(ステップS3)。まず、伝送遅延時間予測部332が、ネットワーク構成情報D1およびノード情報D2に基づいて伝送遅延時間を予測し(ステップS4、伝送遅延時間予測ステップ)、
図3に示すダイアログが表示される。このダイアログにおいて、ユーザが「伝送遅延時間の実測値を取得する」ボタンB2を押下することにより、伝送遅延時間の実測を指示すると(ステップS5)、伝送遅延時間実測部333が伝送遅延時間の実測をマスタ装置1に指示する(ステップS6)。これに応じて、マスタ装置1は、産業用ネットワーク100における伝送遅延時間を実測し(ステップS7、伝送遅延時間実測ステップ)、実測値を管理装置3に返送する。
【0058】
続いて、管理装置3の伝送遅延時間設定部334は、
図5に示すダイアログを表示して、伝送遅延時間の予測値および実測値をユーザに提示する(ステップS8)。このダイアログにおけるユーザの選択操作に応じて、伝送遅延時間設定部334は、周期設定用伝送遅延時間を設定する(ステップS9、伝送遅延時間設定ステップ)。このとき、ユーザは、予測値および実測値のいずれかを周期設定用伝送遅延時間として選択することができる。
【0059】
続いて、周期設定部335は、設定された周期設定用伝送遅延時間に基づいてタスク周期を設定する(ステップS10、周期設定ステップ)。設定された新たなタスク周期が従前のタスク周期と異なる場合は、管理装置3は新たなタスク周期をマスタ装置1に送信し、これに応じて、マスタ装置1は、タスク周期を変更する(ステップS11)。
【0060】
(付記事項)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であり、例えば、上記実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0061】
1 マスタ装置
11 制御部
12 通信部
2 スレーブ装置
2-1~2-3 スレーブ装置
3 管理装置
31 通信部
32 記憶部
33 ネットワーク設定部
331 ネットワーク情報表示部
332 伝送遅延時間予測部
333 伝送遅延時間実測部
334 伝送遅延時間設定部
335 周期設定部
4 ケーブル
100 産業用ネットワーク(ネットワーク)
D1 ネットワーク構成情報(ネットワークの構成情報)
D2 ノード情報
Ta 応答時間
Td 伝送遅延時間(予測値)
Td’ 伝送遅延時間(実測値)
Tr 反応時間