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特許7192613触媒担体用炭素材料、触媒担体用炭素材料の製造方法、燃料電池用触媒層、及び燃料電池
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  • 特許-触媒担体用炭素材料、触媒担体用炭素材料の製造方法、燃料電池用触媒層、及び燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】触媒担体用炭素材料、触媒担体用炭素材料の製造方法、燃料電池用触媒層、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20221213BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221213BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221213BHJP
   C01B 32/348 20170101ALI20221213BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M8/10 101
H01M4/88 C
C01B32/348
B01J23/42 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019063554
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020166942
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】古川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正孝
(72)【発明者】
【氏名】小村 智子
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-194184(JP,A)
【文献】特開2016-126869(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131709(WO,A1)
【文献】特開2007-237182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 8/10
H01M 4/88
C01B 32/348
B01J 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池の触媒担体に用いられる触媒担体用炭素材料であって、以下の構成要件(A)、(B)、及び(C)を満たすことを特徴とする、触媒担体用炭素材料。
(A)前記触媒担体用炭素材料を構成する担体粒子の直径の平均値が50~180nmであり、前記担体粒子の長さの平均値が200~800nmである。
(B)前記担体粒子のアスペクト比が3~12である。
(C)窒素ガス吸着等温線から算出されるBET比表面積が250~1500m/gである。
【請求項2】
窒素吸着等温線をBJH法で解析することで算出される直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4~1.5cc/gであることを特徴とする、請求項1に記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項3】
前記担体粒子の直径の標準偏差を前記担体粒子の直径の平均値で除算することで得られる前記担体粒子の直径の変動係数が100以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒担体用炭素材料。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の触媒担体用炭素材料を製造する方法であって、
以下の工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、及び(f)を含むことを特徴とする、触媒担体用炭素材料の製造方法。
(a)尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を1:X:Y(Xは8以下、Yは10~300)の割合(質量比)で混合し、混合物を高圧容器内に投入し、前記高圧容器内の混合物を140~210℃で0.5~10時間加熱することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物を得る工程、
(b)前記工程(a)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を粉砕する工程、
(c)前記工程(b)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を20kPa以下の減圧下0.1~10℃/minの昇温速度で350~500℃の加熱温度まで加熱し、当該加熱温度を30分以上保持することで、炭酸マグネシウムを得る工程、
(d)前記工程(c)で得られた炭酸マグネシウムを550~1400℃で加熱することで、酸化マグネシウムを得る工程、
(e)前記工程(d)で得られた酸化マグネシウムと炭素源とを混合し、不活性ガス雰囲気下、600℃~1500℃で加熱することで、MgO-炭素複合体を得る工程、
(f)前記工程(e)で得られたMgO-炭素複合体から酸化マグネシウムを除去することで、触媒担体用炭素材料を得る工程。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の触媒担体用炭素材料を含むことを特徴とする、燃料電池用触媒層。
【請求項6】
水銀ポロシメトリ法により得られる水銀吸収量と水銀圧力PHGとの関係において、kPa単位の水銀圧力の常用対数Log(PHG)を4.2から4.4に増加させた時の水銀吸収量の増加分が0.08~0.20mL/cmであることを特徴とする、請求項5に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項7】
請求項5または6に記載の燃料電池用触媒層を含むことを特徴とする、燃料電池。
【請求項8】
前記燃料電池用触媒層は、カソード側の触媒層であることを特徴とする、請求項7に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体用炭素材料、触媒担体用炭素材料の製造方法、燃料電池用触媒層、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1~3に開示されるように、燃料電池の一種として、固体高分子形燃料電池が知られている。固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に配置される一対の触媒層と、各触媒層の外側に配置されるガス拡散層と、各ガス拡散層の外側に配置されるセパレータとを備える。一対の触媒層のうち、一方の触媒層は固体高分子形燃料電池のアノードとなり、他方の触媒層は固体高分子形燃料電池のカソードとなる。なお、通常の固体高分子形燃料電池では、所望の出力を得るために、上記構成要素を有する単位セルが複数個スタックされている。
【0003】
アノード側のセパレータには、水素等の還元性ガスが導入される。アノード側のガス拡散層は、還元性ガスを拡散させた後、アノードに導入する。アノードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料とを含む。触媒成分上では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
→2H+2e (E=0V)
【0004】
この酸化反応で生じたプロトンは、アノード内の電解質材料、及び固体高分子電解質膜を通ってカソードに導入される。また、電子は、触媒担体、ガス拡散層、及びセパレータを通って外部回路に導入される。触媒担体は、例えば炭素材料で構成される。この電子は、外部回路で仕事をした後、カソード側のセパレータに導入される。そして、この電子は、カソード側のセパレータ、カソード側のガス拡散層を通ってカソードに導入される。
【0005】
固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。固体高分子電解質膜は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードに導入する。
【0006】
カソード側のセパレータには、酸素ガスあるいは空気等の酸化性ガスが導入される。カソード側のガス拡散層は、酸化性ガスを拡散させた後、カソードに導入する。カソードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質材料とを含む。触媒担体は、例えば炭素材料で構成される。触媒成分上では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。
+4H+4e→2HO (E=1.23V)
【0007】
還元反応で生じた水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池の外部に排出される。このように、固体高分子形燃料電池では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3765999号公報
【文献】特開2006-282444号公報
【文献】特許第5854314号公報
【文献】特開2017-206794号公報
【文献】特開2006-62954号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】A.H. Chowdhury et al., ’’A facile synthesis of grainy rod-like porous MgO’’ Materials Letters vol.158 (2015) p.190-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、固体高分子形燃料電池には、高負荷特性(大電流発電時の特性)のさらなる改善が強く求められており、このような要求に応えるべく、触媒担体用炭素材料について種々の検討がなされている。しかしながら、このような要求に十分応えることができる触媒担体用炭素材料は未だ提案されていないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、固体高分子形燃料電池の高負荷特性をさらに改善することが可能な、新規かつ改良された触媒担体用炭素材料、触媒担体用炭素材料の製造方法、燃料電池用触媒層、及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
固体高分子形燃料電池の高負荷特性を改善するためには、特にカソードのガス拡散性を高めることが非常に重要である。大電流発電時にはカソード側で大量の水蒸気が発生する。カソードのガス拡散性が低いと、生成した水蒸気がカソード内に滞留しやすくなる。この結果、フラッディングが発生しやすくなる。ここで、フラッディングとは、カソード内に滞留した水蒸気が凝縮し、液体の水となり、この液体の水がカソード内の細孔を閉塞する現象である。フラッディングが発生すると、固体高分子形燃料電池の電圧が著しく低下する。すなわち、高負荷特性が低下する。したがって、固体高分子形燃料電池の高負荷特性を高めるためには、カソードのガス拡散性、より具体的にはカソードの触媒担体に使用される触媒担体用炭素材料のガス拡散性を高め、カソード内で発生した水蒸気を速やかにカソード外に排出する必要がある。
【0013】
そこで、本発明者は、触媒担体用炭素材料を構成する担体粒子の形状に着目し、担体粒子の形状を繊維状とすることを検討した。担体粒子が繊維状となることで、以下の効果が期待できるからである。すなわち、触媒層中の担体粒子同士が複雑に重なり合うことで、緻密な網目構造が形成されるので、触媒成分を高分散かつ微粒子状態で触媒担体用炭素材料に担持させつつ、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が高まると考えられる。以下、繊維状の担体粒子を「繊維状担体粒子」とも称する。
【0014】
担体粒子を繊維状とする技術は特許文献1~3の他、特許文献4にも開示されている。しかし、本発明者がこれらの技術を燃料電池の触媒層に適用してその特性を評価したところ、十分な高負荷特性を得ることができなかった。さらには、低負荷特性も十分でなかった。
【0015】
そこで、本発明者は、従来の繊維状担体粒子を用いて作製された触媒層の断面形状を顕微鏡で観察したところ、繊維状担体粒子のサイズ(具体的には長さ及び直径)が非常に小さいか、あるいは非常に大きいことが判明した。以下、繊維状の粒子(例えば繊維状担体粒子及び後述する繊維状MgO鋳型粒子等)のサイズは、当該粒子の長さ(長径)及び直径(短径)の総称とする。ここで、粒子の直径(短径)は粒子の「太さ」に相当する値である。粒子の直径は、粒子を顕微鏡観察することで得られる粒子の2次元画像の幅(長さ方向に垂直な方向の寸法)として測定される。粒子の長さは、粒子の長さ方向の先端と後端とを連結する中心軸(粒子の長さ方向の垂直断面の中心点を通る軸)の長さであり、顕微鏡観察により測定される。本発明者は、燃料電池の特性が十分でなかった理由を以下のように想定した。
【0016】
まず、繊維状担体粒子のサイズが非常に小さい(例えば繊維状担体粒子の直径が細すぎる)場合、繊維状担体粒子間に形成される空隙が小さすぎて、触媒担体用炭素材料が十分なガス拡散性を有しない。さらに、触媒層の作製時には触媒担体用炭素材料に頻繁に外力が加えられる。このような外力によって繊維状担体粒子が容易に破壊されるため、繊維状担体粒子間の空隙が潰れやすい。空隙が潰れると、触媒担体用炭素材料のガス拡散性がさらに低下する。このため、燃料電池の高負荷特性が低下したと考えられる。また、上述した観察の結果、触媒成分の凝集が確認できた。このような触媒成分の凝集によって燃料電池の低負荷特性が低下したと考えられる。
【0017】
つぎに、繊維状担体粒子のサイズが非常に大きい(例えば担体粒子が太すぎる)場合、繊維状担体粒子間に比較的大きな空隙が形成されるので、触媒担体用炭素材料のガス拡散性は大きくなると考えられる。しかし、触媒担体用炭素材料の比表面積が低下するので、触媒成分を高分散かつ微粒子状態で担持されることができない。さらに、触媒担体用炭素材料に担持可能な触媒成分の量も少なくなる。このため、低負荷特性及び高負荷特性のいずれもが低下すると考えられる。さらに、繊維状担体粒子のサイズが大きすぎる場合、均一かつ所望の(例えば数μm~数十μm程度の)厚みの触媒層を形成しにくいといった問題も生じうる。
【0018】
このため、本発明者は、繊維状担体粒子のサイズには従来よりも適切なサイズがあり、このようなサイズの繊維状担体粒子を用いて触媒層を作製した際に、繊維状担体粒子間に従来よりも適切なサイズの空隙が形成されると考えた。しかし、従来提案された製造方法では、上記以外のサイズの繊維状担体粒子を作製することができなかった。
【0019】
そこで、本発明者は、適切なサイズの繊維状担体粒子を有する触媒担体用炭素材料を作製するために、触媒担体用炭素材料の製造方法について検討した。具体的には、本発明者は、MgO鋳型を用いて触媒担体用炭素材料を作製する技術(いわゆるMgO鋳型炭素合成法)について検討した。MgO鋳型を用いて触媒担体用炭素材料を作製する技術は例えば特許文献5に開示されている。ただし、特許文献5に開示されているMgO鋳型粒子(MgO鋳型を構成する個々の粒子)は(後述するアスペクト比が3未満の)粒状であり、担体粒子も粒状である。
【0020】
そこで、本発明者は、まず、繊維状MgO鋳型粒子を作製する技術について検討した。この結果、本発明者は、繊維状の塩基性硫酸マグネシウム粒子(具体的には宇部マテリアルズ社製モスハイジ)を熱処理することで、繊維状MgO鋳型粒子を作製することに成功した。そして、本発明者は、この繊維状MgO鋳型粒子を用いて繊維状担体粒子を作製し、そのサイズを顕微鏡で観察した。しかしながら、繊維状担体粒子のサイズは非常に大きくなった。したがって、この繊維状担体粒子を用いて触媒層を作製した場合、上述した問題が生じうる。しかし、本発明者は、繊維状MgO鋳型粒子を用いて作製された繊維状担体粒子のサイズは、繊維状MgO鋳型粒子とほぼ同様であることがわかった。このような知見は従来全く知られていなかった。従来のMgO鋳型炭素合成法で使用されるMgO鋳型粒子の形状、大きさ等は非常にばらついているため、MgO鋳型を用いて作製された担体粒子の形状、大きさ等も必然的にばらつく。このため、個々の担体粒子の形状、大きさ等がMgO鋳型粒子の形状、大きさ等を反映していることに想到するのは困難である。
【0021】
そこで、本発明者は、適切なサイズの繊維状MgO鋳型粒子を作製することができれば、それを用いて適切なサイズの繊維状担体粒子を作製できると考えた。非特許文献1には、尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を出発物質として繊維状MgO鋳型粒子を作製する方法が記載されている。非特許文献1に記載された方法で作製された繊維状MgO鋳型粒子のサイズはやはり大きい。しかし、本発明者は、非特許文献1に記載された製造方法をベースとして検討を重ねた結果、従来とは異なるサイズの繊維状MgO鋳型粒子を作製することができた。そして、この繊維状MgO鋳型粒子を用いて繊維状担体粒子を作製したところ、従来とは異なるサイズの繊維状担体粒子を作製することができた。繊維状担体粒子間の空隙のサイズも従来とは異なっていた。そして、このような繊維状担体粒子からなる触媒担体用炭素材料を用いて触媒層を作製したところ、高負荷特性を大幅に改善することができた。さらには、低負荷特性も十分な値となった。したがって、繊維状担体粒子のサイズを従来よりも適切なサイズとすることができ、触媒層内で繊維状担体粒子間に従来よりも適切なサイズの空隙を形成することができたことになる。なお、具体的なサイズについては後述する。本発明は、このような知見によってなされたものである。
【0022】
本発明のある観点によれば、固体高分子形燃料電池の触媒担体に用いられる触媒担体用炭素材料であって、以下の構成要件(A)、(B)、及び(C)を満たすことを特徴とする、触媒担体用炭素材料が提供される。
(A)触媒担体用炭素材料を構成する担体粒子(繊維状担体粒子)の直径の平均値が50~180nmであり、担体粒子の長さの平均値が200~800nmである。
(B)担体粒子のアスペクト比が3~12である。
(C)窒素ガス吸着等温線から算出されるBET比表面積が250~1500m/gである。
【0023】
ここで、窒素吸着等温線をBJH法で解析することで算出される直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4~1.5cc/gであってもよい。
【0024】
また、担体粒子の直径の標準偏差を担体粒子の直径の平均値で除算することで得られる担体粒子の直径の変動係数が100以下であってもよい。
【0025】
本発明の他の観点によれば、上記の触媒担体用炭素材料を製造する方法であって、以下の工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、及び(f)を含むことを特徴とする、触媒担体用炭素材料の製造方法が提供される。
(a)尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を1:X:Y(Xは8以下、Yは10~300)の割合(質量比)で混合し、混合物を高圧容器内に投入し、高圧容器内の混合液を140~210℃で0.5~10時間加熱することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物を得る工程、
(b)工程(a)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を粉砕する工程、
(c)工程(b)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を20kPa以下の減圧下0.1~10℃/minの昇温速度で350~500℃の加熱温度まで加熱し、当該加熱温度を30分以上保持することで、炭酸マグネシウムを得る工程
(d)工程(c)で得られた炭酸マグネシウムを550~1400℃で加熱することで、酸化マグネシウムを得る工程
(e)工程(d)で得られた酸化マグネシウムと炭素源とを混合し、不活性ガス雰囲気下、600℃~1500℃で加熱することで、MgO-炭素複合体を得る工程
(f)工程(e)で得られたMgO-炭素複合体から酸化マグネシウムを除去することで、触媒担体用炭素材料を得る工程。
【0026】
本発明の他の観点によれば、上記の触媒担体用炭素材料を含むことを特徴とする、燃料電池用触媒層が提供される。
【0027】
ここで、水銀ポロシメトリ法により得られる燃料電池用触媒層の水銀吸収量と水銀圧力PHGとの関係において、kPa単位の水銀圧力の常用対数Log(PHG)を4.2から4.4に増加させた時の水銀吸収量の増加分が0.08~0.20mL/cmであってもよい。
【0028】
本発明の他の観点によれば、上記の燃料電池用触媒層を含むことを特徴とする、燃料電池が提供される。
【0029】
ここで、燃料電池用触媒層は、カソード側の触媒層であってもよい。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、触媒担体用炭素材料が上述した構成要件(A)~(C)を満たすので、繊維状担体粒子間に従来よりも適切なサイズの空隙を形成することができる。これにより、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が高まるので、固体高分子形燃料電池の高負荷特性をさらに改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る触媒担体用炭素材料(担体粒子)の概略構成を示す模式図である。
図2】触媒担体用炭素材料の製造工程を概略的に示す模式図である。
図3】本実施形態に係る燃料電池の概略構成を示す模式図である。
図4】繊維状MgO鋳型粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
<1.触媒担体用炭素材料の概要>
まず、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料の概要について説明する。以下の説明において、「触媒担体用炭素材料」は、特に説明がない限り、触媒担体用炭素材料を構成する繊維状担体粒子の集合体を意味する。
【0034】
(1-1.担体粒子の概要)
まず、図1に基づいて、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料を構成する繊維状担体粒子10の構成について説明する。図1は繊維状担体粒子10の概略構成の一例を示す模式図である。繊維状担体粒子10は、燃料電池用触媒(例えば白金等の触媒成分)を担持する粒子であり、繊維状となっている。燃料電池用触媒は、繊維状担体粒子10の表面の他、細孔12内にも担持される。多くの細孔12はいわゆるメソ孔に区分される。メソ孔が多いほど、燃料電池用触媒を高分散かつ高密度で担持することができる。細孔12の直径(球相当直径)の分布は、触媒担体用炭素材料の窒素吸着等温線をBJH法により解析することで確認できる。詳細は後述する。
【0035】
繊維状担体粒子10間には空隙13が形成される。繊維状担体粒子10の集合体である触媒担体用炭素材料内では、空隙13同士が連結することで空隙ネットワークが形成される。
【0036】
本実施形態では、触媒担体用炭素材料が多数の繊維状担体粒子10で構成されているので、以下の効果が期待できる。すなわち、触媒担体用炭素材料内の繊維状担体粒子10同士が複雑に重なり合うことで、緻密な網目構造が形成されるので、触媒担体用炭素材料のBET比表面積を高めることができる。さらに、燃料電池用触媒を高分散かつ微粒子状態で触媒担体用炭素材料に担持させることができる。さらに、触媒担体用炭素材料を用いて触媒層を作製した場合に、触媒層内で空隙ネットワークが非常に発達するので、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が高まる。すなわち、カソード内で発生した水蒸気を速やかにカソード外に排出することができ、フラッディングを抑制することができる。これにより、高負荷特性を改善することができる。
【0037】
ここで、本実施形態では、繊維状担体粒子10のサイズが所定の要件を満たすので、触媒層内での空隙13のサイズが従来よりも適切なサイズとなる。これにより、空隙ネットワークがさらに発達するので、触媒担体用炭素材料のガス拡散性がさらに高まり、ひいては、高負荷特性をさらに改善することができる。空隙ネットワークを構成する空隙13のサイズは水銀ポロシメトリ法により定量的に評価することができる。詳細は後述する。
【0038】
<2.触媒担体用炭素材料の特性>
つぎに、触媒担体用炭素材料が有する特性について説明する。上述した繊維状担体粒子10の集合体である触媒担体用炭素材料は、少なくとも以下の構成要件(A)、(B)、及び(C)を満たす。
(A)触媒担体用炭素材料を構成する繊維状担体粒子10の直径d1の平均値が50~180nmであり、繊維状担体粒子10の長さLの平均値が200~800nmである。
(B)繊維状担体粒子10のアスペクト比が3~12である。
(C)窒素ガス吸着等温線から算出されるBET比表面積が250~1500m/gである。
【0039】
(2-1.構成要件(A))
繊維状担体粒子10の直径d1の平均値が50~180nmであり、繊維状担体粒子10の長さLの平均値が200~800nmである。このような繊維状担体粒子10のサイズは従来知見されていなかったものであり、本実施形態では、繊維状担体粒子10のサイズを上記の範囲内のサイズとすることで、高いガス拡散性を実現している。
【0040】
ここで、繊維状担体粒子10の直径(短径)d1は、繊維状担体粒子10の「太さ」に相当する値である。繊維状担体粒子10の直径d1は、繊維状担体粒子10を顕微鏡観察(より詳細には走査型電子顕微鏡(SEM)観察)することで得られる繊維状担体粒子10の2次元画像の幅(長さ方向に垂直な方向の寸法)として測定される。直径d1の平均値は、任意に選択された所定個数(例えば200個)の各々で測定された直径d1を算術平均することで測定される。繊維状担体粒子10の長さ(長径)Lは、繊維状担体粒子10の長さ方向の先端と後端とを連結する中心軸(粒子の長さ方向の垂直断面の中心点を通る軸)の長さであり、顕微鏡観察(より詳細には走査型電子顕微鏡(SEM)観察)により測定される。長さLの平均値は、任意に選択された所定個数(例えば200個)の各々で測定された長さLを算術平均することで測定される。
【0041】
直径d1の平均値が50nm未満となる場合、触媒層内で繊維状担体粒子10間の空隙13が非常に小さくなり、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が低下する。また、直径d1の平均値が50nm未満となる場合、触媒担体用炭素材料の機械的強度が低下し、塗布インクの作製時に触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。ここで、塗布インク中には触媒担持担体(燃料電池用触媒を担持した触媒担体用炭素材料)及び電解質材料等が分散しており、塗布インクを固体高分子電解質膜に塗布、乾燥することでカソード等の触媒層が作製される。塗布インクの作製時には、触媒担持担体及び電解質材料等の分散性を高めるために、高いせん断力で分散液を撹拌することがある。この際、触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。さらに、触媒層と固体高分子電解質膜との結着力を高めるために、触媒層を固体高分子電解質膜に熱圧着する。この際、触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。触媒担体用炭素材料が破壊されると、空隙13が小さくなるので、ガス拡散性が低下する。
【0042】
一方、直径d1の平均値が180nm超となる場合、触媒担体用炭素材料の比表面積が低下するので、燃料電池用触媒を高分散かつ微粒子状態で担持されることができない。さらに、触媒担体用炭素材料に担持可能な触媒成分の量も少なくなる。このため、低負荷特性及び高負荷特性のいずれもが低下すると考えられる。さらに、均一かつ所望の(例えば数μm~数十μm程度の)厚みの触媒層を形成しにくいといった問題も生じうる。
【0043】
長さLの平均値が200nm未満となる場合、触媒層内で繊維状担体粒子10同士の絡み合いが不足し、十分なサイズの空隙13を形成することができない。一方、長さLの平均値が800nmを超える場合、触媒担体用炭素材料の機械的強度が低下し、塗布インクの作製時に触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。なお、触媒担体用炭素材料が破壊された結果、長さLの平均値が800nm以下となる可能性がありうる。しかし、このような場合であっても、長さLが200nm未満となる繊維状担体粒子が多数発生するので、十分なサイズの空隙13を形成することができない。
【0044】
(2-2.構成要件(B))
繊維状担体粒子10のアスペクト比が3~12である。ここで、繊維状担体粒子10のアスペクト比は、長さLの平均値を直径d1の平均値で除算することで得られる。構成要件(A)を満たさない場合はもちろん、構成要件(A)を満たす場合であっても構成要件(B)を満たさない場合がありうる。
【0045】
アスペクト比が3未満となる場合、触媒層内で繊維状担体粒子10同士の絡み合いが不足し、十分なサイズの空隙13を形成することができない。このため、ガス拡散性が低下し、高負荷特性が低下する。一方、アスペクト比が12を超える場合、触媒担体用炭素材料の機械的強度が低下し、塗布インクの作製時に触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。なお、触媒担体用炭素材料が破壊された結果、アスペクト比が12以下となる可能性がありうる。しかし、このような場合であっても、長さLが200nm未満となる繊維状担体粒子が多数発生するので、十分なサイズの空隙13を形成することができない。
【0046】
(2-3.構成要件(C))
窒素ガス吸着等温線から算出されるBET比表面積が250~1500m/gである。固体高分子形燃料電池の高負荷特性を高める前提として、触媒担体用炭素材料が高分散かつ微粒子状態で燃料電池用触媒を担持する必要がある。本実施形態では、触媒担体用炭素材料のBET比表面積が250~1500m/gとなっているので、燃料電池用触媒を高分散かつ微粒子状態で担持することができ、ひいては、低負荷特性及び高負荷特性が向上する。窒素吸着等温線は、窒素ガス吸着測定により得られる。BET比表面積の好ましい下限値は400m/g以上であり、好ましい上限値は1200m/g以下である。この場合、燃料電池用触媒をより高分散かつ微粒子状態で担持することができ、触媒利用率を高めることができる。したがって、低負荷特性がさらに向上する。
【0047】
BET比表面積が250m/g未満となる場合、触媒担体用炭素材料が燃料電池用触媒を高分散かつ微粒子状態で担持できない可能性がある。この場合、固体高分子形燃料電池の低負荷特性及び高負荷特性が低下する可能性がある。BET比表面積が1500m/gを超える場合、触媒担体用炭素材料の炭素骨格が薄肉化してしまい、機械的強度が低下する可能性がある。このため、塗布インクの作製時に触媒担体用炭素材料が破壊される可能性がある。
【0048】
このように、本実施形態では、触媒担体用炭素材料が構成要件(A)~(C)を満たすので、触媒担体用炭素材料を用いて触媒層を作製した場合に、触媒層内により適切なサイズの空隙13を形成することができる。さらに、触媒層の作製時等に空隙13がつぶれにくい。
【0049】
つまり、触媒層では、水銀ポロシメトリ法により得られる水銀吸収量と水銀圧力PHGとの関係において、kPa単位の水銀圧力の常用対数Log(PHG)を4.2から4.4に増加させた時の水銀吸収量の増加分が0.08~0.20mL/cmとなりうる。ここで、水銀ポロシメトリ法は、空隙ネットワークを構成する空隙13のサイズ、具体的には、空隙13の直径(太さ)d2と、空隙ネットワークの発達の程度(各太さd2における空隙13の容積)を定量評価するものである。空隙13の直径d2は、空隙13の長さ方向に垂直な壁間距離である。空隙13の壁面は繊維状担体粒子10の表面で形成される。空隙13の直径d2は、より詳細には、空隙13の長さ方向の中心軸を通り、かつ壁間を連結する線分の長さとなる。
【0050】
Log(PHG)=4.2~4.4を空隙13の直径d2に換算すると概ね45~85nm程度となる。本実施形態では、常用対数Log(PHG)を4.2から4.4に増加させた時の水銀吸収量の増加分が0.08~0.20cc/gと非常に大きな値となる。したがって、空隙ネットワークは非常に発達しており、かつ空隙13が太い(多くの空隙13が45~85nmという太い径を有する)。従来の繊維状担体粒子を用いた触媒層では、このような値を実現することはできなかった。本実施形態では、触媒層内の空隙13がこのような要件を満たすので、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が高まり、ひいては、高負荷特性が改善する。
【0051】
触媒担体用炭素材料は、さらに以下の構成要件(D)及び(E)のうち少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(D)窒素吸着等温線をBJH法で解析することで算出される直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4~1.5cc/gである。
(E)繊維状担体粒子10の直径d1の標準偏差を繊維状担体粒子10の直径d1の平均値で除算することで得られる繊維状担体粒子10の直径d1の変動係数が100以下である。
【0052】
(2-4.構成要件(D))
窒素吸着等温線をBJH(Barrett,Joyner,Hallender)法で解析することで算出される直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4~1.5cc/gであることが好ましい。固体高分子形燃料電池には、高負荷特性のみならず低負荷特性が高いことも求められる。構成要件(D)は主に低負荷特性を高めるための要件である。
【0053】
固体高分子形燃料電池の低負荷特性を高めるためには、触媒担体用炭素材料が燃料電池用触媒を高分散かつ高密度で担持する必要がある。触媒利用率(触媒層中の全触媒のうち、燃料電池の反応(上述した酸化反応または還元反応)に寄与する触媒の割合)を高めるためである。構成要件(D)は、直径10~20nmの細孔容積を規定する。ここでの細孔は繊維状担体粒子10内の細孔12を意味する。直径10~20nmの細孔12はいわゆるメソ孔に区分される。つまり、構成要件(D)は、直径10~20nmのメソ孔の全容積が0.4~1.5cc/gであることを規定する。直径10~20nmのメソ孔は、燃料電池用触媒を直径2~5nm程度の微粒子として細孔内に高分散状態で担持することができる。構成要件(D)が満たされる場合、このようなメソ孔が触媒担体用炭素材料内に多数存在することになるので、燃料電池用触媒を高分散かつ高密度で担持することができる。さらに、メソ孔内に電解質材料を担持することができるので、この点でも触媒利用率を高めることができる。したがって、低負荷特性が向上する。なお、構成要件(D)に関して、細孔容積V10-20の上限値は必ずしも1.5cc/gである必要はないが、触媒担体用炭素材料に求められる物理的強度を得る観点から、細孔容積V10-20の上限値は1.5cc/g程度が実現できる上限となる。
【0054】
(2-5.構成要件(E))
繊維状担体粒子10の直径d1の標準偏差を繊維状担体粒子10の直径d1の平均値で除算することで得られる繊維状担体粒子10の直径d1の変動係数が100以下である。構成要件(E)が満たされる場合、直径d1のばらつきが小さくなるので、繊維状担体粒子10の表面及び粒子内部(細孔12の内部)に担持された燃料電池用触媒金属にガスが均一に拡散しやすくなる。すなわち、触媒担体用炭素材料のガス拡散性が向上する。変動係数が100超であると、長さd1の分布に比較的大きなばらつきが生じ、繊維状担体粒子10の表面及び粒子内部(細孔12の内部)に担持された燃料電池用触媒金属へのガスの拡散性にムラが生じる可能性がある。すなわち、ガスが届きにくい燃料電池用触媒が生じる可能性がある。
【0055】
触媒担体用炭素材料は、さらに以下の構成要件(F)を満たすことが好ましい。
(F)ラマン分光スペクトルから得られるGバンドの半価幅△Gが35cm-1超85cm-1未満である。
【0056】
(2-6.構成要件(F))
ラマン分光スペクトルから得られるGバンドの半価幅△Gが35cm-1超85cm-1未満であることが好ましい。構成要件(F)は、触媒担体用炭素材料の結晶性(言い換えれば、黒鉛性)を規定する。触媒担体用炭素材料は、耐酸化消耗性の観点から、結晶性が高いことが好ましい。構成要件(F)が満たされる場合、触媒担体用炭素材料の結晶性が高まり、耐酸化消耗性が向上する。ここで、Gバンドは、1500~1700cm-1の範囲のピークを意味する。
【0057】
<3.触媒担体用炭素材料の製造方法>
つぎに、図2に基づいて、触媒担体用炭素材料の製造方法について説明する。本製造方法の概要は以下の通りである。まず、水熱合成により繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物を合成する。ついで、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物を粉砕する。粉砕後の塩基性炭酸マグネシウム五水和物に対して減圧下での加熱と酸素ガスを含む雰囲気下での加熱との2段階加熱を施す。これにより、繊維状の繊維状MgO鋳型粒子の集合体であるMgO鋳型を得る。ついで、得られたMgO鋳型を原料としたMgO鋳型炭素合成法を用いることで、繊維状かつ多孔質の触媒担体用炭素材料を得る。本製造方法によれば、繊維状MgO鋳型粒子30の集合体であるMgO鋳型を得ることができる。そして、このMgO鋳型をMgO鋳型炭素合成法の原料として使用することで、繊維状MgO鋳型粒子30の結晶子径と同等の細孔径を有し、かつ繊維状MgO鋳型粒子30と同等のサイズを有する繊維状担体粒子10(及びその集合体である触媒担体用炭素材料)を得ることができる。
【0058】
触媒担体用炭素材料の製造方法は、以下の工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、及び(f)を含む。なお、各工程における「温度」は、加熱雰囲気の温度(例えば炉内温度)を意味するものとする。
(a)尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を1:X:Y(Xは8以下、Yは10~300)の割合(質量比)で混合し、混合液を高圧容器内に投入し、高圧容器内の混合液を140~210℃で0.5~10時間加熱することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物を得る工程、
(b)工程(a)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を粉砕する工程、
(c)工程(b)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物を20kPa以下の減圧下0.1~10℃/minの昇温速度で350~500℃まで加熱し、当該加熱温度を30分以上保持することで、炭酸マグネシウムを得る工程
(d)工程(c)で得られた炭酸マグネシウムを550~1400℃で加熱することで、酸化マグネシウムを得る工程
(e)工程(d)で得られた酸化マグネシウムと炭素源とを混合し、不活性ガス雰囲気下、600℃~1500℃で加熱することで、MgO-炭素複合体を得る工程
(f)工程(e)で得られたMgO-炭素複合体から酸化マグネシウムを除去することで、触媒担体用炭素材料を得る工程。
【0059】
(3-1.工程(a):塩基性炭酸マグネシウム五水和物作製工程)
本工程では、水熱合成により図2に示す繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物(Mg(CO(OH)・5HO)20を作製する。具体的には、尿素、酢酸マグネシウム4水和物、及び水を1:X:Y(Xは8以下、Yは10~300)の割合(質量比)で混合する。
【0060】
Xを8以下とすることで、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物が得られる。なお、Xの値が極端に小さいと、回収量が低くなり実用的でなくなる可能性がある。このため、Xは0.1以上であることが好ましい。
【0061】
Xが8を超える場合、尿素が相対的に不足し、粒子径が大きな粒状の(繊維状でない)炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムなどの不純物が繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20に混在する可能性がある。理由は定かでないが、不純物が存在すると、最終的に得られる繊維状担体粒子10のサイズが肥大化する可能性がある。
【0062】
Yを10~300とすることで、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物が得られる。Yが10未満となる場合、溶液濃度が高くなるので、水熱合成により生成する塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の繊維同士が融着してしまい、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径(直径の定義は直径d1の定義と同様である)が過剰に大きくなる可能性がある。また、尿素、酢酸マグネシウムが水に全て溶けないことも生じうる。原料が水に溶けきらずに水熱合成を行った場合、生成した塩基性炭酸マグネシウム五水和物20と未反応の原料とが融着し、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が過剰に大きくなる可能性がある。
【0063】
Yは好ましくは30以上である。Yが30未満となる場合、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が凝集し、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径にばらつきが生じる可能性がある。その結果、繊維状MgO鋳型粒子30の直径d1’にばらつきが生じ、ひいては、繊維状担体粒子10の直径d1の変動係数が100を超える可能性がある。なお、繊維状MgO鋳型粒子30の直径d1’及び長さL’(これらのパラメータについては後述)の定義は繊維状担体粒子10の直径d1及び長さLと同様である。
【0064】
Yが300を超える場合、溶液濃度が非常に薄くなるので、水熱合成により生成する塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が小さくなる。この結果、繊維状MgO鋳型粒子30の直径d1’、ひいては繊維状担体粒子10の直径d1が非常に小さくなる可能性がある。塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の回収量を高めるという観点から、Yは200以下が好ましい。
【0065】
ついで、尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水の混合物を高圧容器内に投入し、高圧容器内の混合液を140~210℃で0.5~10時間加熱する(いわゆる水熱合成を行う)ことで、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を得る。本発明者は、本工程によって繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を得ることができる理由を以下のように考えている。
【0066】
尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を原料として、比較的高圧かつ高温で間加熱(水熱合成)することで、尿素が分解し、アンモニアと二酸化炭素が生成する。アンモニアは、溶液(原料の混合液)に溶解し、アンモニウムイオンとなり、溶液はアルカリ性となる。また二酸化炭素は、水に溶け、炭酸水素イオンになる。そして、酢酸マグネシウム四水和物は、アルカリ性の溶液中で、炭酸水素イオンと水と反応し、その結果、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が生成する。この反応は、常圧、低温では生じず、水熱合成環境下の特殊な高圧、高温環境でしか生じない。本手法の場合、水熱合成時の温度と原料の量にもよるが、容器内の圧力は、約0.5MPa~2MPaとなり、このような高圧は、高圧容器内で上述した温度で混合液を加熱することで得られる。塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の結晶形は、繊維状であり、水熱反応環境下での結晶成長により、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が得られる。
【0067】
そして、この水熱合成における温度によって、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が決まる。すなわち、水熱合成の温度を140~210℃とすることで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径の平均値(平均値の算出方法は繊維状担体粒子10と同様)が50~180nmとなる。なお、本実施形態の製造方法によれば、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径がほぼそのまま繊維状MgO鋳型粒子30の直径d1’となり、ひいては繊維状担体粒子10の直径d1となる。後述するように、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の長さがほぼそのまま繊維状MgO鋳型粒子30の長さL’となり、ひいては繊維状担体粒子10の長さLとなる。これは上述した通り本発明者によって初めて得られた知見であり、このために繊維状担体粒子10のサイズを所望のサイズに制御することができる。すなわち、少なくとも構成要件(A)~(C)を満たす繊維状担体粒子10が得られる。
【0068】
なお、水熱合成の温度を140~210℃とすることで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径の平均値が50~180nmとなる理由は定かではないが、本発明者はその理由を以下のように考えている。
【0069】
すなわち、上記温度範囲における低温での水熱合成では、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が細くなり、上記温度範囲よりも高温での水熱合成では、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径は太くなると考えられる。低温では、尿素の分解が比較的緩やかに生じるので、生成した塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が細い繊維のまま維持できるが、高温では、尿素の分解が比較的激しく生じ、生成した塩基性炭酸マグネシウム五水和物20同士が融着し、結果として直径が大きくなってしまうと考えられる。なお、加熱温度が140℃未満となる場合、尿素の分解が生じず、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が生成しない。一方、加熱温度が210℃を超える場合、上述したように、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が大きくなりすぎ、結果として構成要件(A)を満たす繊維状担体粒子10が得られない。
【0070】
なお、昇温速度は、特に制限はされないが、あまりに遅い昇温だと、設定温度に到達するまでに塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が生成してしまい、得られる塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径にばらつきが生じ、結果として、繊維状担体粒子10の直径d1の変動係数が100を超える場合がありうる。このため、昇温速度は0.1℃/min以上であることが好ましい。また、昇温速度の上限は特に制限されないが、水熱合成時に使用する炉(水熱合成用のオーブンやオートクレーブ)の温度の制御性や昇温速度の上限の制約が必然的に生じる。例えば昇温速度が高すぎると炉がオーバーシュートし、一定時間、設定温度を超えてしまう可能性がある。この結果、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径にばらつきが生じる可能性がある。このため、昇温速度は10℃/min以下であることが好ましい。
【0071】
また、水熱合成の温度保持時間は、0.5~10時間である。温度保持時間が0.5時間未満となる場合、水熱合成が完全には進行せず、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の直径が細くなりすぎてしまい、結果として、繊維状担体粒子10の直径d1が非常に小さく(50nm未満に)なってしまう。一方、温度保持時間が10時間を超えた場合、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20が生成する反応が過剰に進行し、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20のサイズが過剰に大きくなる。
【0072】
(3-2.工程(b):粉砕工程)
工程(b)では、工程(a)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を粉砕する。すなわち、工程(a)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物20は長過ぎるため、これをそのまま使用したのでは繊維状担体粒子10の長さLの平均値が800nmを超えてしまう。そこで、本工程では、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を粉砕し、長さを短くする。本工程によって、長さの短くなった塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aを得る。
【0073】
粉砕方法は、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の長さをなるべく均一にできる方法であることが好ましいが、特に制限されない。例えば、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20は比較的やわらかいため、乳鉢で混合しても、塩基性炭酸マグネシウム五水和物は十分に短くなる。塩基性炭酸マグネシウム五水和物をより均一に粉砕できる例としては、乾式または湿式のボールミルによる混合が挙げられる。粉砕の程度(例えば、ボールのサイズ、ボールミルの回転速度、回転時間等)を調整することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20の長さを調製することができる。つまり、塩基性炭酸マグネシウム五水和物の長さの平均値を繊維状担体粒子10と同様の方法で測定し、その結果が200~800nmとなるように、粉砕の程度を調整すればよい。なお、粉砕を行うに際しては、アスペクト比が3未満とならないように粉砕の程度を調整する必要もある。
【0074】
ここで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を湿式で粉砕してもよいが、この場合、溶媒は塩基性炭酸マグネシウム五水和物が溶解しないものであることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、エタノールなどのアルコールが挙げられる。また、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20を湿式で混合した後は、混合物を十分に乾燥させた後、次の工程を行う。
【0075】
(3-3.工程(c):炭酸マグネシウム作製工程)
工程(c)では、工程(b)で得られた塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aを20kPa以下の減圧下0.1~10℃/minの昇温速度で350~500℃の加熱温度まで加熱し、当該加熱温度を30分以上保持することで、炭酸マグネシウム25を得る。
【0076】
塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aを減圧下で加熱することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aが分解し、さらにこの分解によって放出される水を速やかに系外に排出することができる。したがって、生成される炭酸マグネシウム25の粒子形状を繊維状に維持することができる。つまり、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aの長さ及び直径をほぼ維持した繊維状の炭酸マグネシウム25を生成することができる。減圧時の圧力が20kPaを超える場合、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aの分解により発生する水等のガス成分が系外に速やかに排出されない。この結果、系内に残留したガス成分が生成した炭酸マグネシウム25と反応し、繊維状の炭酸マグネシウム25同士が融着する。このため、炭酸マグネシウム25の繊維形状が崩れ、繊維状の炭酸マグネシウム25が得られないか、得られたとしてもそのサイズが過剰に大きくなる。
【0077】
また、昇温速度が10℃/minを超える場合、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aの分解が急速になり、分解ガスが系外に排出される前に、炭酸マグネシウム25と反応してしまう。この結果、炭酸マグネシウム25同士が融着し、繊維形状が崩れてしまう。すなわち、繊維状の炭酸マグネシウム25が得られないか、得られたとしてもそのサイズが過剰に大きくなる。
【0078】
一方、昇温速度が遅い分には、繊維状の炭酸マグネシウム25を得るのに問題はない。しかし、昇温速度が0.01℃/min未満だと、昇温に時間がかかりすぎて、実用的ではない。
【0079】
また、加熱温度が500℃を超える場合、生成した炭酸マグネシウム25が分解し、酸化マグネシウムに変化する。その際、炭酸マグネシウム25が急激に分解し、二酸化炭素を放出する。このとき、減圧環境下のため、二酸化炭素の系外への輸送と共に、炭酸マグネシウム25及び酸化マグネシウムが系外あるいは炉の均熱帯外に流出する恐れがある。なお、これによって得られる酸化マグネシウム(MgO鋳型)の物性は問題ないが、上記の問題が生じることから実用的ではない。加熱温度が350℃未満となる場合、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aの分解が十分に進まず、次の工程(d)で20kPaを超える雰囲気で500℃を超える加熱を行った場合、炭酸マグネシウム25が酸化マグネシウム(すなわちMgO鋳型)に変化する時に、そのサイズが過剰に大きくなる可能性がある。
【0080】
また、温度保持時間が30分未満となる場合、未反応の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aが反応物内に残る。このため、次の工程(d)で、繊維状の塩基性炭酸マグネシウム五水和物20a同士が融着し、繊維状の酸化マグネシウムが得られないか、得られたとしてもそのサイズが過剰に大きくなる可能性がある。一方、塩基性炭酸マグネシウム五水和物20aが分解する反応は概ね3時間もあればほぼ終了するので、温度保持時間の上限値は3時間程度とされてもよい。
【0081】
(3-4.工程(d):酸化マグネシウム(MgO鋳型)作製工程)
工程(d)では、工程(c)で得られた炭酸マグネシウム25を550~1400℃で加熱することで、酸化マグネシウム、すなわちMgO鋳型を得る。ここで、MgO鋳型は多数の繊維状MgO鋳型粒子30の集合体となっている。
【0082】
加熱雰囲気は特に制限されないが、大気、酸素、希薄酸素、または空気フローが好ましい。炭酸マグネシウム25の加熱温度が550℃未満となる場合、反応物中に未分解の炭酸マグネシウム25が残留してしまい、次の工程(e)で、繊維状の炭酸マグネシウム25同士が融着する。この結果、繊維状MgO鋳型粒子30の繊維形状が崩れてしまい、繊維状MgO鋳型粒子30が得られないか、得られたとしてもそのサイズが過剰に大きくなる。一方、炭酸マグネシウム25の加熱温度が1500℃を超える場合、繊維状MgO鋳型粒子30が得られるが、結晶子32が大きくなり過ぎてしまい、最終的に得られる繊維状担体粒子10の細孔12が大きくなりすぎてしまう。つまり、構成要件(D)が満たされなくなる可能性がある。さらに、触媒担体用炭素材料のBET比表面積が構成要件(A)を満たさなくなる可能性がある。
【0083】
加熱温度の下限値は、好ましくは800℃であり、上限値は、好ましくは1200℃である。加熱温度が800~1200℃となる場合、繊維状MgO鋳型粒子30内の多くの結晶子の直径(球相当直径。いわゆる結晶子径)が10~20nmとなる。この結果、最終的に得られる繊維状担体粒子10内で多くの細孔12の直径が10~20nmとなる。すなわち、構成要件(D)がより確実に満たされるようになる。なお、おおよその結晶子径はX線回折測定結果から見積もることができる。
【0084】
ここで、MgO鋳型について説明する。MgO鋳型は、図2に示す繊維状MgO鋳型粒子30の集合体となっている。繊維状MgO鋳型粒子30は、触媒担体用炭素材料の繊維状担体粒子10に類似する形状を有する。言い換えれば、MgO鋳型を用いて触媒担体用炭素材料を作製することで、MgO鋳型の形状を反映した触媒担体用炭素材料を作製することができる。
【0085】
繊維状MgO鋳型粒子30は繊維状となっている。そして、その直径d1’及び長さL’は繊維状担体粒子10の直径d1及び長さLとほぼ同程度となっている。すなわち、繊維状MgO鋳型粒子30の直径d1’の平均値は50~180nm程度であり、繊維状MgO鋳型粒子30の長さL’の平均値は200~800nm程度である。さらに、繊維状MgO鋳型粒子30のアスペクト比は3~12程度である。ここで、平均値及びアスペクト比の算出方法は繊維状担体粒子10と同様である。繊維状MgO鋳型粒子30は多数の結晶子32の集合体となっており、結晶子32の多くはメソ孔に相当する大きさを有する。具体的には、結晶子32の直径(球相当直径)は概ね10~20nm程度となっている。結晶子32の直径は、例えばX線回折法により測定することができる。作製された繊維状MgO鋳型粒子30のSEM写真の一例を図4に示す。
【0086】
(3-5.工程(e):MgO-炭素源混合工程及びMgO-炭素複合体作製工程)
本工程では、工程(d)で得られた酸化マグネシウムと炭素源とを混合し、不活性ガス雰囲気下、600℃~1500℃で加熱することで、MgO-炭素複合体を得る。本工程はMgO-炭素源混合工程及びMgO-炭素複合体作製工程に区分される。
【0087】
MgO-炭素源混合工程では、工程(d)で得られた酸化マグネシウムと炭素源とを混合する。炭素源は、特に制限されず、例えば従来の鋳型法に使用される炭素源であってもよい。例えば、炭素源は、各種の有機物であってもよい。炭素源の例としては、具体的には、ポリビニルアルコール、脂肪族系もしくは芳香族系のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリブタジエンやポリイソプレン等を主体とするエラストマー、天然ゴム、石油樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、ポリイミド等が挙げられる。炭素源は、これらの例のうち、実質的に炭素、水素、酸素のみで構成されるもの、すなわち、ポリビニルアルコール、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、石油樹脂などであることが好ましい。これらの炭素前駆体は、粉末状、ペレット状、塊状など任意の形状であってもよく、有機溶剤に溶解あるいは分散されていても良い。また、上記で挙げた例は室温で固体の有機物であるが、炭素源は、室温で液体の有機物であってもよい。このような例としては、フルフリルアルコール、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。炭素源は、上記で列挙された樹脂のうち、熱可塑性樹脂であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の例としては、上述したポリビニルアルコール等が挙げられる。炭素源に熱可塑性樹脂を用いると、後述するMgO-炭素複合体作製工程の際に、炭素源が溶融するので、結晶子の表面に炭素源が均一に被覆しやすくなる。この結果、結晶子の表面に炭素層が均一に形成されるので、より均質な炭素材料を得ることができる。
【0088】
触媒担体用炭素材料を均質にするという観点から、炭素源とMgO鋳型とは、均一に(つまり、成分の偏りがなるべく少なくなるように)混合されることが好ましい。混合方法は、炭素源とMgO鋳型とを均一に混合できる方法であることが好ましいが、特に制限されない。混合方法の例としては、乾式または湿式のボールミルによる混合が挙げられる。この混合方法によれば、炭素源とMgO鋳型とを均一に混合することができる。
【0089】
ここで、炭素源とMgO鋳型とを湿式で混合する場合、溶媒はMgO鋳型を溶解しないものであることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、エタノールなどのアルコールが挙げられる。また、炭素源とMgO鋳型とを湿式で混合した後は、混合物を十分に乾燥させた後、次の工程を行う。
【0090】
炭素源とMgO鋳型との混合比は炭素源中の炭素分CとMgO成分との質量比C/MgOが、0.1超5未満であることが好ましい。質量比C/MgOがこの範囲内の値である場合、繊維状MgO鋳型粒子30に炭素源が十分に被覆することができるため、繊維状MgO鋳型粒子30のサイズを反映した触媒担体用炭素材料を容易に作製することが可能になる。
【0091】
MgO-炭素複合体作製工程では、上記混合工程で得られた混合物を不活性ガス雰囲気下、600℃~1500℃で加熱することで、MgO-炭素複合体を得る。この工程において、炭素源が繊維状MgO鋳型粒子30の結晶子32間の隙間に入り込み、かつ繊維状MgO鋳型粒子30の表面を覆う。さらに、炭素源が炭素化される。
【0092】
具体的には、本工程では、炭素源とMgO鋳型との混合物を不活性雰囲気下で加熱(焼成)する。これにより、炭素源は分解しながら繊維状MgO鋳型粒子30を覆う。具体的には、分解物の一部(具体的には、揮発性の高い成分)が繊維状MgO鋳型粒子30の結晶子32間の隙間に入り込み、結晶子32間に吸着し、揮発性の低い成分が繊維状MgO鋳型粒子30の表面を覆う。そして、揮発性の高い成分は、結晶子32間で重合が進み、揮発性を失い、結晶子32を覆う。そして、繊維状MgO鋳型粒子30の表面および結晶子32間に付着した炭素源(具体的には、揮発性の低い成分および揮発性を失った成分)が炭素化する。これにより、MgO-炭素複合体40を作製する。
【0093】
混合物の加熱は、600~1500℃で30分以上行うことが好ましい。これにより、上述した炭素源の被覆及び炭素源の炭素化を十分に進行させることができる。昇温速度には制限がないが、5~30℃/min程度とすればよい。加熱時間の上限値は特に制限されないが、3時間程度であればよい。本工程によって作製されるMgO-炭素複合体40は、繊維形状である。繊維形状のMgO-炭素複合体40内には繊維状MgO鋳型粒子30由来の結晶子32が分散している。これらの結晶子32が次工程のMgO除去工程により除去されることとで、結晶子32の存在箇所に細孔12が形成される。
【0094】
(3-6.工程(f):MgO除去工程)
本工程では、MgO-炭素複合体40を酸洗することで、繊維状MgO鋳型粒子30を酸洗液中に溶解する。これにより、MgO-炭素複合体40から繊維状MgO鋳型粒子30を除去する。本工程後の炭素材料に残留するMgO成分は、炭素材料の総質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。これにより、固体高分子形燃料電池の特性をさらに向上させることができる。炭素材料中のMgO成分の残存量は、炭素材料を酸化雰囲気で燃焼させた後、残存した灰分を、王水などの酸で溶解させ、その溶液をICP発光分光分析法などの成分分析法を行うことで、定量できる。酸洗に用いる酸は、MgOが可溶であればよく、好ましい例としては、希硫酸が挙げられる。酸洗後、炭素材料を水洗し、乾燥させる。以上の工程により、少なくとも構成要件(A)~(C)、さらには構成要件(D)及び(E)を満たす触媒担体用炭素材料が作製される。つまり、触媒担体用炭素材料を構成する繊維状担体粒子10は、繊維状MgO鋳型粒子30のサイズ(長さL’及び直径d1’)と同程度のサイズ(長さL及び直径d1)を有し、繊維状担体粒子10内の細孔12の直径は繊維状MgO鋳型粒子30の結晶子32の直径とほぼ同程度となる。
【0095】
(3-7.高結晶化処理工程)
MgO除去工程を行った段階での触媒担体用炭素材料も十分な発電性能を発揮するが、触媒担体用炭素材料の耐久性をさらに高めるために、高結晶化処理工程を行ってもよい。本工程では、触媒担体用炭素材料の結晶性を向上させることで、触媒担体用炭素材料の耐久性を高めることができる。
【0096】
具体的には、MgO除去工程後の触媒担体用炭素材料を不活性雰囲気下の加熱炉に投入し、1200~2600℃で30分以上焼成(加熱)する。加熱時間の上限値は特に制限されないが、例えば3時間程度であればよい。
【0097】
このように、本実施形態に係る製造方法によれば、構成要件(A)~(F)を満たす触媒担体用炭素材料を容易に作製することができる。
【0098】
<4.固体高分子形燃料電池の構成>
本実施形態に係る触媒担体用炭素材料は、例えば図3に示す固体高分子形燃料電池100に適用可能である。固体高分子形燃料電池100は、セパレータ110、120、ガス拡散層130、140、触媒層150、160、及び電解質膜170を備える。
【0099】
セパレータ110は、アノード側のセパレータであり、水素等の還元性ガスをガス拡散層130に導入する。セパレータ120は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散層140に導入する。セパレータ110、120の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0100】
ガス拡散層130は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ110から供給された還元性ガスを拡散させた後、触媒層150に供給する。ガス拡散層140は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ120から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層160に供給する。ガス拡散層130、140の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層130、140の例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質炭素材料、金属メッシュや金属ウール等の多孔質金属材料等が挙げられる。なお、ガス拡散層130、140の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0101】
触媒層150は、いわゆるアノードである。触媒層150内では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
→2H+2e (E=0V)
【0102】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層150、及び電解質膜170を通って触媒層160に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層150、ガス拡散層130、及びセパレータ110を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ120に導入される。その後、電子は、セパレータ120、ガス拡散層140を通って触媒層160に到達する。
【0103】
アノードとなる触媒層150の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層150の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層160と同様の構成であってもよいし、触媒層160よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0104】
触媒層160は、いわゆるカソードである。触媒層160内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに固体高分子形燃料電池100の外部に排出される。
+4H+4e→2HO (E=1.23V)
【0105】
このように、固体高分子形燃料電池100では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0106】
触媒層160には、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料が含まれていることが好ましい。すなわち、触媒層160は、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料と、電解質材料と、触媒成分とを含む。これにより、触媒層160のガス拡散性を高めることができ、上述した還元反応により生じた水(水蒸気)を速やかに外部に排出することができる。これにより、フラッディングを抑制することができ、ひいては、固体高分子形燃料電池100の高負荷特性を向上させることができる。
【0107】
具体的には、触媒層160では、水銀ポロシメトリ法により得られる水銀吸収量と水銀圧力PHGとの関係において、kPa単位の水銀圧力の常用対数Log(PHG)を4.2から4.4に増加させた時の水銀吸収量の増加分△VHg:4.2-4.4(mL/cm)が0.08~0.20mL/cmであることが好ましい。本実施形態の触媒担体用炭素材料を使用することで、このような特性を有する触媒層160を作製することができる。そして、このような触媒層160を用いた燃料電池は、優れた高負荷特性を有する。
【0108】
なお、触媒層160における触媒担持率は特に制限されないが、20質量%以上70質量%未満であることが好ましい。ここで、触媒担持率は、触媒担持粒子(触媒担体用炭素材料に触媒成分を担持させた粒子)の総質量に対する触媒成分の質量%であることが好ましい。この場合、触媒利用率がさらに高くなる。
【0109】
触媒層160における電解質材料の質量I(g)と触媒担体用炭素材料の質量C(g)との質量比I/Cは特に制限されないが、0.2超3.0未満であることが好ましい。この場合、気孔ネットワークと電解質材料ネットワークとが両立でき、触媒利用率が高くなる。
【0110】
また、触媒層160の厚さは特に制限されないが、5μm超20μm未満であることが好ましい。この場合、触媒層160内に酸化性ガスが拡散しやすく、かつ、フラッディングが生じにくくなる。
【0111】
電解質膜170は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜170は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層160に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機-有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、固体高分子形燃料電池100は、常温~150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【0112】
<5.固体高分子形燃料電池の製造方法>
固体高分子形燃料電池100の製造方法は特に制限されず、従来と同様の製造方法であればよい。ただし、カソード側の触媒担体には本実施形態に係る触媒担体用炭素材料を用いることが好ましい。
【実施例
【0113】
<1.触媒担体用炭素材料の評価方法>
つぎに、本実施形態の実施例について説明する。まず、各パラメータの測定方法について説明する。
【0114】
(1-1.窒素吸着等温線と窒素脱着等温線の測定方法)
マイクロトラック・ベル社製のBELSORPminiを用いて窒素ガス吸着測定を行い、窒素吸着等温線および窒素脱着等温線を得た。測定温度は77Kとした。窒素吸着等温線は、相対圧0~0.995の範囲で測定した。
【0115】
(1-2.BET比表面積の測定方法)
BELSORPminiに付属の解析ソフトにより、窒素吸着等温線をBET法により解析し、BET比表面積を算出した。
【0116】
(1-3.直径10~20nmの細孔容積V10-20の測定方法)
BELSORPminiに付属の解析ソフトにより、窒素吸着等温線をBJH法により解析し、直径10~20nmの細孔容積V10-20を算出した。
【0117】
(1-4.水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分△VHg:4.2-4.4(mL/cm)の測定)
空隙評価用の触媒層を測定装置(島津製作所株式会社製オートポアIV9520)のサンプル容器内に装填し、導入初期圧力5kPa及び最高圧入圧力は400MPaの条件で水銀を圧入し、その時の水銀圧力(PHg:kPa)の常用対数(LogPHg)と単位質量当たりの水銀吸収量との関係から、単位体積当たりの水銀吸収量VHgの増加分(VHg:mL/cm)を求めた。ここで、測定に用いる触媒層は、MEAを作製する際と同じ温度と圧力で、プレスしたものを用いた。また、水銀吸収量の測定前に、触媒層の質量と厚さを測定し、得られた単位質量当たりの水銀吸収量を単位体積当たりの水銀吸収量に換算した。
【0118】
(1-5.触媒担体用炭素材料を構成する担体粒子のサイズ(直径及び長さ)、及びアスペクト比の測定)
SEM(走査型電子顕微鏡:JSM-6700F、日本電子株式会社製)を用いて、倍率0.5万倍または1万倍、加速電圧5kVの条件で触媒担体用炭素材料を撮影し、任意に選んだ200個の繊維状担体粒子の直径及び長さを測定し、これらの平均値を算出した。さらに、長さの平均値を直径の平均値で除算することでアスペクト比を算出した。
【0119】
(1-6.繊維状担体粒子の直径の変動係数)
SEM(走査型電子顕微鏡:JSM-6700F、日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧5kVの条件で触媒担体用炭素材料を撮影し、任意に選んだ200個の繊維状担体粒子の直径を測定した。さらに、直径の平均値を算出し、以下の数式により変動係数を算出した。
(変動係数)=[(直径の標準偏差)÷(直径の平均値)]×100
【0120】
<2.触媒担体用炭素材料の作製>
(2-1.塩基性炭酸マグネシウム五水和物原料を用いた触媒担体炭素材料の作製(実施例1~32、比較例1~19))
実施例1~32、比較例1~19では、以下の手順でMgO鋳型を調製し、得られたMgO鋳型を原料に用いてMgO鋳型炭素合成法を行い、実施例1~32、比較例1~19に係る触媒担体用炭素材料を作製した。
【0121】
(2-1-1.塩基性炭酸マグネシウム五水和物の作製工程(実施例1~32、比較例1~19))
尿素、酢酸マグネシウム四水和物、及び水を1:X:Yの割合(質量比)で混合し、混合液を高圧容器内に投入し、高圧容器内の混合液を加熱した。より具体的には、尿素(和光純薬工業社製、特級)、酢酸マグネシウム四水和物(関東化学社製、鹿特級)及び水を、1:X:Yの割合(質量比)で混合し、混合液を高圧容器に投入した。なお、X、Yの値は、表1-1、1-2記載の混合比(質量比)とした。ついで、電気炉に高圧容器をセットし、表1-1、1-2記載の昇温速度にて昇温し、表1-1、1-2記載の加熱温度(水熱合成温度)に到達後、表1-1、1-2記載の保持時間加熱した。
【0122】
電気炉の内温が40℃以下に冷えてから、高圧容器を取り出し、高圧容器の内容物をろ過し、回収物を50℃にて5時間、真空乾燥することで、塩基性炭酸マグネシウム五水和物を得た。ただし比較例4のみ、水熱合成による粉末が得られず、これ以降の工程は行わなかった。
【0123】
(2-1-2.粉砕工程(実施例1~32、比較例1~3、5~19))
粉砕工程は、粉砕機(フリッチュ社製、遊星型ボールミルPremium Line)を用いて行った。具体的には、ジルコニア製の粉砕用ポッドに、塩基性炭酸マグネシウム五水和物10g、およびジルコニア製の表1-1、1-2記載のサイズの粉砕用ボールを80g容器入れた。ついで、公転数150rpmをセットし、ポッドの自転有りの条件で、粉砕を表1-1、1-2記載の時間だけ行った。粉砕後、粉砕用ポットから粉砕用ボールと試料を取り出した。その後、篩を用いて粉砕用ボールを取り除き、粉砕後の塩基性炭酸マグネシウム五水和物のみを回収した。
【0124】
(2-1-3.炭酸マグネシウム作製工程(実施例1~32、比較例1~3、5~19))
粉砕後の塩基性炭酸マグネシウム五水和物を3g秤量し、石英製のサンプル管に投入した。ついで、サンプル管を電気炉にセットし、表1-1、1-2記載の加熱雰囲気で、電気炉内の温度を表1-1、1-2に記載の熱処理1の加熱温度まで表1-1、1-2に記載の昇温速度で昇温した。ついで、電気炉内の温度を当該加熱温度に1時間保持した。その後、炉内が室温まで冷えてから、サンプル管に入った炭酸マグネシウムを回収した。
【0125】
(2-1-4.酸化マグネシウム(MgO鋳型)作製工程(実施例1~32、比較例1~3、5~19))
ついで、炭酸マグネシウムをサンプル管に入れ、サンプル管を電気炉にセットした。その後、アルゴンガス100mL/minフロー下で、表1-1、1-2に記載の熱処理2の加熱温度まで表1-1、1-2に記載の昇温速度で昇温した。ついで、電気炉内の温度を当該加熱温度に表1-1、1-2に記載の保持時間保持した。その後、炉内が室温まで冷えてから、サンプル管に入った酸化マグネシウム(MgO鋳型)を回収した。
【0126】
(2-1-5.MgO-炭素源混合工程及びMgO-炭素複合体作製工程(実施例1~32、比較例1~3、5~19))
炭素源としてポリビニルアルコール粉末(電気化学工業社製、デンカポバール)(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びポリ塩化ビニル(和光純薬)(PVC)を準備した。そして、表1-1、1-2記載の炭素源と、MgO鋳型とを表1-1、1-2記載の混合比(質量比)で混合し、混合物を石英製の坩堝に入れた。ついで、坩堝を電気炉に挿入し、電気炉内にアルゴンガスを100mL/minで流通させた。ついで、電気炉内の温度を表1-1、1-2に記載した熱処理3の加熱温度まで10℃/minで昇温し、その後、炉内の温度を当該加熱温度に1時間保持した。自然放冷後、MgO-炭素複合体を取り出した。
【0127】
(2-1-6.MgO除去工程(実施例1~32、比較例1~3、5~19))
上記で作製されたMgO-炭素複合体をナスフラスコに投入し、さらにMgO-炭素複合体に対し質量比で100倍量の1M希硫酸をナスフラスコに投入した。ついで、ナスフラスコ中の混合液を、60℃に温度保持したオイルバス中で3時間撹拌した。これにより、MgO鋳型を混合液中に溶出させた。その後、混合液を室温まで冷却させた。ついで、混合液をろ過することで、触媒担体用炭素材料を単離した。ついで、触媒担体用炭素材料を純水で洗浄し、濾過後、乾燥した。以上の工程により、実施例1~32、比較例1~3、5~19に係る触媒担体用炭素材料を得た。
【0128】
(2-2.その他の合成法、または市販の触媒担体用炭素材料(比較例20~26))
(2-2-1.マリモカーボンの合成(比較例20))
特許文献3を参考に、繊維状のカーボンであるマリモカーボンを合成した。触媒担体には、450℃で0.5時間熱酸化処理したダイヤモンド粉体(O-Dia)を用いた。O-Diaに含浸法によりNiを担持することで、触媒(Ni/O-dia)を得た。担体へのNi担持量は、3質量%とした。マリモカーボンの合成には、固定床流通式反応装置を用いた。反応装置に、アセチレンガスを30mL/minでフローし、反応温度を500℃、反応時間を300分とし、マリモカーボンを得た。
【0129】
(2-2-2.市販の繊維状塩基性硫酸マグネシウムを原料としたMgO鋳型炭素(比較例21))
繊維状の塩基性硫酸マグネシウム(モスハイジ、宇部マテリアルズ社製)を原料にMgO鋳型炭素合成法を行った。
炭素源であるポリビニルアルコール粉末(電気化学工業社製デンカポバール)(PVA)、とモスハイジを2:1の質量比で混合した。ついで、混合物を3g秤量し、石英サンプル管に投入した。ついで、石英サンプル管を電気炉にセットし、電気炉内にアルゴンガスを100mL/minで流通させた。ついで、電気炉内の温度を800℃まで昇温速度10℃/minで昇温させ、電気炉内の温度を800℃に1時間保持した。
【0130】
炉内が室温まで冷えた後、MgO-炭素複合体を取り出し、ナスフラスコに投入した。さらに、MgO-炭素複合体に対し質量比で100倍量の1M希硫酸をナスフラスコに投入した。ついで、ナスフラスコ中の混合液を、60℃に温度保持したオイルバス中で3時間撹拌した。これにより、MgO鋳型を混合液中に溶出させた。その後、混合液を室温まで冷却させた。ついで、混合液をろ過することで、触媒担体用炭素材料を単離した。ついで、触媒担体用炭素材料を純水で洗浄し、濾過後、乾燥した。以上の工程により、比較例21に係る触媒担体用炭素材料を得た。
【0131】
(2-2-3.従来のMgO鋳型炭素合成法を用いた触媒担体用炭素材料の作製(比較例22))
炭素源であるポリビニルアルコール粉末(電気化学工業社製デンカポバール)(PVA)、及びMgO鋳型であるMgOナノパウダー(スターマグR、神島化学工業社製)を3:1の質量比で混合した。ついで、混合物を3g秤量し、石英サンプル管に投入した。ついで、石英サンプル管を電気炉にセットし、電気炉内にアルゴンガスを100mL/minで流通させた。ついで、電気炉内の温度を800℃まで昇温速度10℃/minで昇温させ、電気炉内の温度を900℃に1時間保持した。
【0132】
炉内が室温まで冷えた後、MgO-炭素複合体を取り出し、ナスフラスコに投入した。さらに、MgO-炭素複合体に対し質量比で100倍量の1M希硫酸をナスフラスコに投入した。ついで、ナスフラスコ中の混合液を、60℃に温度保持したオイルバス中で3時間撹拌した。これにより、MgO鋳型を混合液中に溶出させた。その後、混合液を室温まで冷却させた。ついで、混合液をろ過することで、触媒担体用炭素材料を単離した。ついで、触媒担体用炭素材料を純水で洗浄し、濾過後、乾燥した。以上の工程により、比較例22に係る触媒担体用炭素材料を得た。
【0133】
(2-2-4.市販の触媒担体用炭素材料(比較例23~26))
比較例23~26に係る触媒担体用炭素材料として、東洋炭素社製クノーベルMH、クノーベルMJ4010、クノーベルMJ4030)、カーボンブラック(ライオン社製EC300JD)を準備した。
【0134】
実施例1~32及び比較例1~19の合成条件を表1-1、1-2に、得られた触媒担体用炭素材料の物性値を表2-1、2-2に示す。また、他の合成法で得られた(または市販の)触媒担体用炭素材料の物性値を表3に示す。
【0135】
<3.燃料電池の調整とその電池性能の評価>
(3-1.Pt触媒の作製)
実施例1~32、比較例1~3、5~26に係る触媒担体用炭素材料のいずれかを蒸留水中に分散させた。ついで、この分散液にホルムアルデヒドを加え、40℃に設定したウォーターバスにセットした。分散液の温度がバスと同じ40℃になった後、撹拌下の分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。その後、約2時間撹拌を続けた。ついで、分散液を濾過し、得られた固形物を洗浄した。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕した。ついで、水素を5体積%含むアルゴン雰囲気内に粉砕物を設置し、200℃で1時間熱処理した。これにより、白金担持炭素材料(Pt触媒)を作製した。
【0136】
なお、この白金担持炭素材料の白金担持率は、触媒担体用炭素材料と白金粒子の合計質量に対して40質量%とした。ここで、白金担持率は、ジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液の滴下量によって調整した。また、白金担持率は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)により測定して確認した。
【0137】
(3-2.触媒層の作製)
以上のようにして作製された白金担持炭素材料(Pt触媒)に、Ar雰囲気下でエタノールを加え、超音波でPt触媒を解砕し、その後、電解質材料であるDupont社製ナフィオン(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂)を加え、混合した。ここで、ナフィオン固形分の質量はPt触媒中の触媒担体用炭素材料の質量の1.0倍(すなわち同量、I/C=1.0)とした。またここでのエタノールの混合量は、Pt触媒と電解質材料とを合わせた合計の固形分濃度が2.0質量%となるように調整した。これにより、Pt触媒と電解質材料とが混合した触媒層インクを作製した。
【0138】
作製された固形分濃度2.0質量%の触媒層インクに更にエタノールを加え、白金濃度が0.25質量%のスプレー塗布用触媒層インク(塗布インク)を作製した。ついで、白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量」という。)が0.2mg/cmとなるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行った。以上の工程により、触媒層を作製した。
【0139】
(3-3.MEAの作製)
作製した上記の触媒層を用いて、以下の方法でMEA(膜電極複合体)を作製した。ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺5cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺3cmの正方形状に切り出した。
【0140】
このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込んだ。ついで、作製された積層体を120℃、100kg/cmで10分間プレスした。プレス後の積層体を室温まで冷却した後、アノード及びカソード共にテフロンシートのみを注意深く剥ぎ取った。これにより、アノード及びカソードの各触媒層が電解質膜に定着した触媒層-電解質膜接合体を調製した。
【0141】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺3cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出した。ついで、これらのカーボンペーパーの間に、アノード及びカソードの各触媒層が一致してずれが無いように、上記触媒層-電解質膜接合体を挟みこんだ。ついで、積層体を120℃、50kg/cmで10分間プレスすることでMEAを作製した。触媒担体用炭素材料を変更して同様の工程を繰り返して行うことで、実施例1~32、比較例1~3、5~26に係るMEAを作製した。
【0142】
なお、作製された各MEAにおける白金目付量を以下のように確認した。すなわち、プレス前の触媒層付テフロンシートの質量とプレス後に剥がしたテフロンシートの質量との差からナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より白金目付量を確認した。
【0143】
(3-4.空隙評価用の触媒層の作製)
上述した(3-1.Pt触媒の作製)及び(3-2.触媒層の作製)と同様の工程によりスプレー塗布用触媒層インク(塗布インク)を作製した。ついで、ついで、白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量」という。)が0.2mg/cmとなるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクを事前に厚みと重量を測定した一辺1.0cmの正方形状のSUS箔上にスプレーした後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行った。作製された積層体の表面(触媒層側の表面)にテフロン(登録商標)シートを重ね、積層体を120℃、100kg/cmで10分間プレスした。これにより、空隙評価用の触媒層を作製した。空隙評価用の触媒層に対して上述した(1-4.水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分△VHg:4.2-4.4(mL/cm)の測定)を行った。ここで、空隙評価用の触媒層(SUS箔+プレス済みの触媒層)の質量と厚さを測定し、SUS箔の質量と厚みを差し引き、プレス済みの触媒層のみの質量と厚さを算出した。なお、質量の測定は、電子天秤を、厚さの測定にはマイクロメータを使用した。ついで、空隙評価用の触媒層に対し、水銀ポロシメトリを測定し、単位質量当たりの水銀吸収量を評価した。そして、測定したプレス済みの触媒層の重さと厚さから、触媒層のみの単位体積当たりの水銀圧入量を算出した。
【0144】
(3-4.燃料電池の発電性能評価試験)
各MEAを燃料電池セルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて燃料電池セルの発電性能を評価した。ここで、カソードに空気、アノードに純水素を、それぞれ利用率が30%と70%となるように供給した。また、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で0.12MPaに設定した。また、セル温度は80℃に設定し、燃料電池セルに供給する反応ガス(すなわち空気及び純水素)には予め水蒸気を含ませた。すなわち、これらの反応ガスを加湿器中で80℃に保温された蒸留水に通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、これらのガスに水蒸気を含ませた。その後、水蒸気が飽和した状態のこれらのガスを燃料電池セルに供給した。
【0145】
このような設定の下で負荷を徐々に増やし、電流密度100mA/cmまたは1000mA/cmでそれぞれ燃料電池セルを2時間保持した。その後、セル端子間電圧を各電流時の出力電圧として測定し、記録した。そして、出力電圧に基づいて燃料電池セルの発電性能を評価した。具体的には、以下の判定基準に基づいて燃料電池セルの発電性能を評価した。評価結果を表2-1、表2-2、及び表3に示す。
【0146】
[合格ランク]
S:100mA/cmにおける出力電圧が0.86V以上であって、1000mA/cmにおける出力電圧が0.60V以上であるもの。
A:100mA/cmにおける出力電圧が0.85V以上であって、1000mA/cmにおける出力電圧が0.60V以上であるもの。
B:100mA/cmにおける出力電圧が0.84V以上であって、1000mA/cmにおける出力電圧が0.60V以上であるもの。
[不合格ランク]
C:合格ランクBに満たないもの。
【0147】
【表1-1】
【0148】
【表1-2】
【0149】
【表2-1】
【0150】
【表2-2】
【0151】
【表3】
【0152】
表1-1~3から明らかな通り、本実施形態の要件を満たす実施例1~32では、いずれも電流密度100mA/cmまたは1000mA/cmでそれぞれ燃料電池セル電圧が高く、ガス拡散性が高く、高負荷特性(大電流発電時の特性)に優れた。具体的には、いずれもBランク以上の結果が得られた。これに対し、本実施形態の要件を満たさない比較例1~26では、発電性能が不合格ランクとなった。いずれの比較例においても、本実施形態の構成要件(A)、(B)、及び(C)の1つ以上を満たしていなかった。特に、比較例1~16、19~26では、繊維状担体粒子が本実施形態の構成要件(A)または(B)を満たさないので、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分△VHg:4.2-4.4(mL/cm)の値が本実施形態の要件を満たさず(すなわち、空隙のサイズが適切ではなく)、高負荷特性が低くなった。特に、比較例19では、MgO-炭素複合体作製工程における加熱温度が低く、炭素化が十分に進行しなかった。このため、高負荷特性及び低負荷特性の電圧値がいずれも0となった。比較例17、18では、BET比表面積が本実施形態の構成要件(C)を満たさなかった。この結果、比較例17では高負荷特性及び低負荷特性の値が著しく悪くなり、比較例18では高負荷特性の値が著しく悪くなった。したがって、燃料電池としての評価は不合格レベルとなった。
【0153】
特に、比較例20~26から明らかな通り、市販のMgO鋳型を用いて触媒担体用炭素材料を作製しても、本実施形態に係る触媒担体用炭素材料を作製することができないことが明らかとなった。
【0154】
実施例1~32をさらに検討すると、変動係数が100を超える実施例5、12では低負荷特性が若干低下し、Aランクとなった。実施例5では塩基性炭酸マグネシウム五水和物を作製する際の条件の1つであるYの値(水の混合比)が30未満となるため、変動係数が100を超えたと考えられる。実施例12では塩基性炭酸マグネシウム五水和物を作製する際の条件の1つである昇温速度が0.1℃未満となるため、変動係数が100を超えたと考えられる。直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4未満となる実施例23、24、30では低負荷特性が若干低下し、Bランクとなった。実施例23、24ではMgO-炭素複合体作製工程の加熱温度が800℃未満または1200℃超であるため、直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4未満となったと考えられる。実施例30では、MgO鋳型に対して炭素源リッチとなっているため、直径10~20nmの細孔容積V10-20が0.4未満となったと考えられる。
【0155】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0156】
10 繊維状担体粒子
12 細孔
13 空隙
20 塩基性炭酸マグネシウム五水和物
25 炭酸マグネシウム
30 繊維状MgO鋳型粒子
32 結晶子
40 MgO-炭素複合体
図1
図2
図3
図4