IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エアバッグ 図1
  • 特許-エアバッグ 図2
  • 特許-エアバッグ 図3
  • 特許-エアバッグ 図4
  • 特許-エアバッグ 図5
  • 特許-エアバッグ 図6
  • 特許-エアバッグ 図7
  • 特許-エアバッグ 図8
  • 特許-エアバッグ 図9
  • 特許-エアバッグ 図10
  • 特許-エアバッグ 図11
  • 特許-エアバッグ 図12
  • 特許-エアバッグ 図13
  • 特許-エアバッグ 図14
  • 特許-エアバッグ 図15
  • 特許-エアバッグ 図16
  • 特許-エアバッグ 図17
  • 特許-エアバッグ 図18
  • 特許-エアバッグ 図19
  • 特許-エアバッグ 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20221213BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60R21/235
B60R21/203
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019065994
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163998
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
(72)【発明者】
【氏名】山田 正
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0111583(US,A1)
【文献】特開平11-334509(JP,A)
【文献】特開平06-340242(JP,A)
【文献】実開昭47-024736(JP,U)
【文献】登録実用新案第3035601(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に膨張用ガスを流入させて、保護対象者を保護可能に膨張する袋状として構成されるエアバッグであって、
一般膨張部と、
前記一般膨張部から連なって、少なくとも前記保護対象者を受け止める領域を構成する特定膨張部と、
を備える構成とされ、
前記特定膨張部を構成する周壁が、前記一般膨張部を構成する周壁よりも、変形時の抵抗を高く設定される素材である不織布から形成されて
前記特定膨張部が、立体的に成形されて、前記一般膨張部から部分的に突出するように膨張する構成とされていることを、特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記特定膨張部が、膨張完了時に、前記保護対象者の頭部を受止可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
前記特定膨張部が、深絞り成形によって、形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に膨張用ガスを流入させて、保護対象者を保護可能に膨張する袋状として構成されるエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグとしては、助手席に着座した乗員を保護対象者として保護するものであって、本体膨張部と、膨張完了時に本体膨張部から部分的に突出する突出膨張部と、を備える構成の助手席用エアバッグがあった。この助手席用エアバッグでは、突出膨張部は、本体膨張部において、膨張完了時に乗員側に配置される乗員側壁部の一部に、部分的に乗員側に向かって突出するように配置されるもので、乗員の頭部を受け止める構成とされていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-99010公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の助手席用エアバッグでは、突出膨張部は、本体膨張部と同一の素材から形成されて、本体膨張部から連なるように形成されていることから、乗員受止時の変形による運動エネルギーの吸収量を大きく調整することを行い難く、例えば、搭載車種等に応じて、突出膨張部の乗員保護性能を調整することが、容易ではなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、搭載車種や搭載位置等に応じて、保護対象者の保護性能を容易に調整可能なエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグは、内部に膨張用ガスを流入させて、保護対象者を保護可能に膨張する袋状として構成されるエアバッグであって、
一般膨張部と、
一般膨張部から連なって、少なくとも保護対象者を受け止める領域を構成する特定膨張部と、
を備える構成とされ、
特定膨張部を構成する周壁が、一般膨張部を構成する周壁よりも、変形時の抵抗を高く設定される素材から、形成されていることを、特徴とする。
【0007】
本発明のエアバッグでは、膨張完了時に、保護対象者を受け止める領域を構成する特定膨張部の周壁が、一般膨張部の周壁より変形時の抵抗を高く設定される素材から形成されていることから、特定膨張部が、保護対象者を受け止めた際に、周壁を座屈変形や曲げ変形させることとにより、保護対象者のエアバッグ側へ移動する運動エネルギーを、一般膨張部で受け止める場合と比較して、小さな受け止めストロークで、的確に吸収させることができて、保護対象者を的確に拘束することができる。また、本発明のエアバッグでは、特定膨張部を、一般膨張部と異なる素材から形成していることから、特定膨張部の周壁の長さ等を含めた形状や、素材自体を変更することにより、保護対象者受止時に特定膨張部の周壁の変形する変形量を容易に調整することができ、換言すれば、保護対象者の運動エネルギーの吸収量を容易に調整することができることから、搭載車種や配置位置等に応じて、特定膨張部による保護対象者保護性能の調整が容易である。
【0008】
したがって、本発明のエアバッグでは、搭載車種や搭載位置等に応じて、保護対象者の保護性能を容易に調整することができる。
【0009】
また、本発明のエアバッグにおいて、特定膨張部を、不織布から形成するとともに、一般膨張部から部分的に突出するように膨張する構成とすれば、不織布を立体的に成形することによって特定膨張部を形成することができ、一般膨張部から突出する構成としても、特定膨張部自体を製造するための縫合作業が不要となって、製造工数及びコストを低減でき、また、特定膨張部自体の領域に、縫合糸による縫合部位が配設されないことから、折畳形状もコンパクトにできて、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成のエアバッグにおいて、特定膨張部を、膨張完了時に、保護対象者の頭部を保護可能に、構成すれば、保護対象者の頭部を、特定膨張部によって、好適に受け止めることが可能となって、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態であるエアバッグを使用したエアバッグ装置を搭載したステアリングホイールの概略平面図である。
図2】実施形態のエアバッグ装置を搭載したステアリングホイールの縦断面図である。
図3】実施形態のエアバッグを単体で膨張させた状態の平面図である。
図4図3のIV-IV部位の断面図である。
図5図3のV-V部位の断面図である。
図6図3のエアバッグを折り畳んだ折畳体の概略斜視図である。
図7】ラッピング材に包まれた状態の折畳体の概略斜視図である。
図8】ラッピング材に包まれた状態の折畳体の概略部分断面図である。
図9】ラッピング材に包まれた状態の折畳体の概略底面図である。
図10】ラッピング材の斜視図である。
図11】ラッピング材の断面図である。
図12】実施形態のエアバッグの折り畳み工程を説明する概略断面図である。
図13】実施形態のエアバッグの折り畳み工程における小径折り工程を説明する概略平面図であり、図12の後の工程を示す。
図14】実施形態のエアバッグの折り畳み工程における小径折り工程を説明する概略平面図であり、図13の後の工程を示す。
図15】実施形態のエアバッグの折り畳み工程における圧縮工程を説明する概略断面図であり、図14の後の工程を示す。
図16】実施形態のエアバッグの折り畳み工程における圧縮工程を説明する概略断面図であり、図15の後の工程を示す。
図17】実施形態のエアバッグの折り畳み工程における圧縮工程を説明する概略断面図であり、図16の後の工程を示す。
図18】実施形態のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す概略縦断面図である。
図19】実施形態のエアバッグが膨張を完了させた状態を示す概略正面図である。
図20】実施形態のエアバッグを折り畳んだ折畳体を包むラッピング材の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、保護対象者としての運転者MDを保護するために、ステアリングホイールWに搭載されるエアバッグ装置Mに使用されるステアリングホイール用のエアバッグ20を例に採り、説明する。ステアリングホイールWは、図1に示すように、ステアリングホイール本体1と、ステアリングホイール本体1の中央のボス部Bの上部に配置されるエアバッグ装置Mと、を備えて構成される。ステアリングホイール本体1は、操舵時に把持する円環状のリング部Rと、リング部Rの略中央に配置されてステアリングシャフトSSに連結されるボス部Bと、ボス部Bとリング部Rとを連結するスポーク部Sと、を備えて構成されている。
【0013】
なお、実施形態において、前後・上下・左右の方向は、特に断らない限り、車両Vに搭載されたステアリングホイールWの直進操舵時を基準とするものであり、ステアリングホイールWを組み付けるステアリングシャフトSS(図2参照)の軸方向に沿った上下を上下方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの前後を前後方向とし、ステアリングシャフトSSの軸直交方向である車両Vの左右を左右方向として、前後・上下・左右の方向を示すものである。
【0014】
実施形態のステアリングホイールWでは、スポーク部Sは、ボス部Bの左右両側と後方側との3本、配設されている。ステアリングホイール本体1は、図1,2に示すように、リング部R、ボス部B、スポーク部Sの各部を連結するように配置されて、アルミニウム合金等の金属からなる芯金2を、備えている。芯金2におけるリング部Rの部位と、各スポーク部Sにおけるリング部R側の部位と、には、合成樹脂製の被覆層5が、被覆されている。また、芯金2におけるボス部Bの部位には、ステアリングシャフトSSを挿入させてナットN止めするための鋼製のボス4が、配設されている。さらに、ステアリングホイール本体1の下部には、ボス部Bの下方を覆う合成樹脂製のロアカバー6が、配設されている。
【0015】
エアバッグ装置Mは、図1,2に示すように、ステアリングホイールWの略中央のボス部Bに配置されるもので、折り畳まれて収納されるエアバッグ20と、エアバッグ20に膨張用ガスを供給するインフレーター11と、エアバッグ20とインフレーター11とを収納して保持するバッグホルダ12と、折り畳まれたエアバッグ20を覆うエアバッグカバー(パッド)14と、エアバッグ20とインフレーター11とをバッグホルダ12に取り付けるためのリテーナ10と、エアバッグ20を折り畳んで形成される略円柱状の折畳体50を包むラッピング材80と、を備えて構成されている。
【0016】
インフレーター11は、図2に示すように、複数のガス吐出口11bを有した略円柱状の本体部11aと、インフレーター11をバッグホルダ12に取り付けるためのフランジ部11cと、を備えて構成されている。フランジ部11cには、リテーナ10の各ボルト10aを貫通させるための図示しない貫通孔が、形成されている。
【0017】
エアバッグカバー14は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等の合成樹脂製として、図1,2に示すように、ステアリングホイールWの中央付近のボス部Bの上側に配設されている。エアバッグカバー14は、ボス部Bの内部に折り畳まれて収納されるエアバッグ20(折畳体50)の上方を覆う天井壁部15と、天井壁部15の下面から略筒状に延びる側壁部16と、を備えている。天井壁部15には、膨張するエアバッグ20に押されて前方に開く円板状のドア部15aが、形成されている。エアバッグカバー14の側壁部16における所定箇所には、バッグホルダ12に結合される係止脚部16aが、下方に延びるように形成されている。
【0018】
バッグホルダ12は、板金製として、図2に示すように、折り畳まれたエアバッグ20、インフレーター11、及び、エアバッグカバー14を保持するもので、ホーンスイッチ(図符号省略)を用いて、ステアリングホイール本体1側に取り付けられる構成である。実施形態の場合、エアバッグ20とインフレーター11とは、エアバッグ20内に配置させたリテーナ10のボルト10aを取付手段として、このボルト10aを、エアバッグ20における流入用開口24の周縁の取付孔25、バッグホルダ12、及び、インフレーター11のフランジ部11cを、貫通させて、図示しないナット止めすることにより、バッグホルダ12に取り付けられている。
【0019】
エアバッグ20は、内部に膨張用ガスを流入させて、保護対象者としての運転者MDを保護可能に膨張する袋状として構成されるもので、実施形態の場合、一般膨張部としての本体膨張部21と、本体膨張部21から部分的に突出するように配置される特定膨張部としての突出膨張部35と、を備えている。
【0020】
一般膨張部としての本体膨張部21は、図1,2の二点鎖線及び図18,19に示すように、膨張完了形状を、リング部Rの上面を全面にわたって覆い可能な円板状として構成されるもので、外形形状を略同一の円形状とされる運転者側壁部27と車体側壁部23との周縁相互を、縫合糸を用いて縫着させることにより、袋状とされている(図4,5参照)。車体側壁部23は、膨張完了時にステアリングホイールW側に配置される部位であり、車体側壁部23の中央には、円形に開口した流入用開口24が、形成され、流入用開口24の周縁には、リテーナ10のボルト10aを貫通させるための4つの取付孔25が、形成されている(図3参照)。運転者側壁部27は、膨張完了時に保護対象者としての運転者MD側に配置される部位である。運転者側壁部27には、突出膨張部35を連通させるための連通孔28が、形成されている(図4,5参照)。この連通孔28は、運転者側壁部27の中央(後述するテザー30の連結部位)から外れた位置に、形成されている。詳細には、連通孔28は、開口形状を、上下方向側から見た状態の突出膨張部35の外形形状と略同一として、左右の中央を、運転者側壁部27の中央より前側の領域に位置させ、左右両端側を、それぞれ、運転者側壁部27の前後の略中央に位置させるように、略逆V字形状とされている。また、本体膨張部21の内部には、図4,5に示すように、運転者側壁部27の中央と車体側壁部23における流入用開口24の周縁とを連結して、膨張完了時の運転者側壁部27の車体側壁部23からの離隔距離を規制するテザー30が、配設されている。一般膨張部としての本体膨張部21(車体側壁部23,運転者側壁部27,テザー30)は、ポリアミド糸やポリエステル糸等からなるガス透過性を有した織布から形成されている。実施形態の場合、本体膨張部21を形成する織布は、曲げ弾性率を、3.4GPaに設定されている。
【0021】
特定膨張部としての突出膨張部35は、膨張完了時に、本体膨張部21の運転者側壁部27から後方に突出するように、配置されるもので、外形形状を、膨張完了時のエアバッグ20を上下方向側から見た状態で、図3に示すように、略逆V字形状とし、かつ、膨張完了時のエアバッグ20を左右方向側から見た状態で、後端側の部位を上方に突出させるような段差状として、構成されている(図4,18参照)。また、突出膨張部35は、下端35a側の領域で、全面にわたって、本体膨張部21と連通されている。この突出膨張部35は、膨張完了時に、運転者MDの頭部MHから肩部MSにかけてを拘束可能とするように、膨張完了時の本体膨張部21における前側の領域に、配置されるもので、膨張完了形状を、略左右対称形として構成されている。詳細に説明すれば、突出膨張部35は、上下方向側から見た外形形状を略逆V字形状とされるもので、頭部保護部36と、頭部保護部36の両端側に配置される肩拘束部37L,37Rと、を備える構成である。肩拘束部37L,37Rは、膨張完了形状を、頭部保護部36よりも上方に突出するとともに、軸方向を上下方向に略沿わせた略円柱状として構成されるもので、エアバッグ20の膨張完了時において、ステアリングホイールW側に向かうように前進移動する運転者MDの肩部MSを拘束可能に、構成されている(図18,19参照)。肩拘束部37L,37Rは、詳細には、膨張完了時のエアバッグ20を上下方向側から見た状態で、本体膨張部21の中央の左側と右側となる位置に、配設されている。頭部保護部36は、膨張完了形状を、上下方向側から見た状態で、各肩拘束部37L,37Rから中央側前方に向かって延びるように傾斜して形成されるもので、換言すれば、左右方向の中央を前側に位置させるように、屈曲されている。頭部保護部36は、膨張完了時における突出量を、肩拘束部37L,37Rの1/2程度とされており(図4,5参照)、エアバッグ20の膨張完了時において、肩拘束部37L,37Rによって両方の肩部MSを拘束された運転者MDの頭部MHを、受け止めて保護可能に、構成されている。具体的には、突出膨張部35は、頭部保護部36,肩拘束部37L,37Rにおいて運転者MDに側に配置される天井壁36a,37aを運転者MDを受け止める受止面とし、側壁36b,37bを座屈変形させることにより、運転者MDを保護する構成とされている(図4,5,18参照)。
【0022】
この突出膨張部35は、本体膨張部21を構成する基材よりも、変形時の抵抗を高く設定される素材から、構成されている。実施形態の場合、突出膨張部35は、不織布製として、深絞り成形によって、厚みを略均一にしつつ、立体的に成形されている。具体的には、突出膨張部35を構成する不織布は、曲げ弾性率を、本体膨張部21を構成する織布の曲げ弾性率(3.4GPa)よりも大きく設定されている。
【0023】
また、突出膨張部35は、下端35a側を、全周にわたって、本体膨張部21における運転者側壁部27の連通孔28の周縁28aに、結合されるもので、実施形態の場合、縫合糸を用いて、縫着されている。
【0024】
エアバッグ20を折り畳んで形成される折畳体50は、図6~9に示すように、底面部51と、底面部51と対向して配置される天井部54と、底面部51と天井部54との間の側面部55と、を備えた略円柱状の立体形状としている。折畳体50は、図12に示すように、内部にリテーナ10を配置させつつ、平らに展開した折畳準備体45から、小径折り工程(図13,14参照)と、圧縮工程(図15~17参照)と、を経て折り畳まれている。また、折畳体50は、底面部51の中央に、インフレーター11の円柱状の本体部11aの上部側の領域を収納できるように、この上部側の領域に対応する凹部52を、配設させている。さらに、折畳体50における底面部51の外周縁側には、リテーナ10の外方を凹ませた凹部53が、配設されている。
【0025】
折畳体50を包む(覆う)ラッピング材80は、図10,11に示すように、下端側を開口させた略円筒状とされるもので、略円形状として折畳体50の天井部54を覆う天井カバー部81と、天井カバー部81の周縁から略円筒状に延びて折畳体50の側面部55を覆う側面カバー部82と、側面カバー部82の先端側から部分的に突出するように形成される取付片83と、を、備えるとともに、側面カバー部82の下端側を、折畳体50を挿入させるための挿入用開口82aとしている。取付片83は、折畳体50から突出しているリテーナ10のボルト10aに係止される係止孔83aを、有するもので、ボルト10aに対応して、4個配設されている。天井カバー部81と側面カバー部82との境界部位には、エアバッグ20の展開膨張時に破断可能な破断予定部84が、一部を除いて断続的に、天井カバー部81の周縁に略沿うようなスリット84aを設けることにより、形成されている。すなわち、破断予定部84は、スリット84aと、スリット84a,84a間の連結部84bと、から構成されている。この破断予定部84の端部間の部位が、エアバッグ20の膨張時における破断予定部84の破断時に、天井カバー部81の開き時の回転中心となるヒンジ部85を、構成することとなる。ラッピング材80は、側面カバー部82の内径寸法を、折畳体50を挿入可能に、折畳体50の外径寸法よりも若干大きく設定されるとともに、側面カバー部82の長さ寸法を、折畳体50の周囲への巻付け時(係止孔83aへのボルト10aの挿入時)に、折畳体50を上下方向側で若干圧縮可能な寸法に、設定されている。このラッピング材80は、不織布製として、深絞り成形によって、厚みを略均一にしつつ、立体的に成形されている。このラッピング材80を構成する不織布は、曲げ弾性率を、本体膨張部21を構成する織布の曲げ弾性率(3.4GPa)よりも大きく設定されている。
【0026】
次に、エアバッグ装置Mの車両への搭載について説明をする。まず、エアバッグ20を、折り畳む。エアバッグ20を折り畳んで形成される折畳体50は、小径折り工程と圧縮工程とを、経て、形成される。
【0027】
小径折り工程においては、まず、図12のA,Bに示すように、各ボルト10aを取付孔25から突出させるようにして、エアバッグ20の内部にリテーナ10を配設させ、車体側壁部23と運転者側壁部27とを重ねて本体膨張部21を平らに展開し、また、運転者側壁部27上に、突出膨張部35を押しつぶすようにして平らにしつつ重ねて、エアバッグ20を平らに展開した折畳準備体45を形成する。次いで、図12のCに示すように、折畳準備体45を、バッグ折り機60にセットし、そして、図13,14に示すように、外周縁45a側を流入用開口24の上方に集めて、小径とするように、折り畳む。
【0028】
バッグ折り機60は、図13に示すように、底側基板61と、底側基板61の上方で上下に移動可能に配設される天井側基板64と、底側基板61上で、底側基板61の中央側に移動する8個ずつの2種類の押し込み具67,68と、を備えて構成されている。底側基板61の上面側の中央には、折畳準備体45から突出したリテーナ10の各ボルト10aを嵌めるセット部62が、配設されている。底側基板61の上面側におけるセット部62の部位には、折畳体50の凹部52,53を形成可能な小さな凹凸が形成されている。また、セット部62の部位は、底側基板61から上方に移動可能に構成されている(図15のC参照)。セット部62の部位を上方に移動させることにより、小径折り工程後の折畳体50(予備折畳体49)を、圧縮工程に移行させるように、押し出して取り出すことができる。押し込み具67は、折畳準備体45の外周縁における8つの箇所を、把持でき、かつ、中央側に押し込み可能に、構成されている(図13参照)。この押し込み具67のセット部62側には、折畳体の円柱状の側面部における円弧状の曲面に対応する型面67aが、形成されている。押し込み具68は、セット部62側を先細りとした略三角板形状とされている。
【0029】
小径折り工程では、まず、図12のA,Bに示すように、各ボルト10aをセット部62にセットするようにして、折畳準備体45を底側基板61上に載置させ、次いで、図12のCに示すように、底側基板61のセット部62から、所定高さ(折畳体50の底面部51から天井部54までの高さ寸法と同等)となる位置に、天井側基板64を、配置させる。その後、図13に示すように、各押し込み具67,68を、セット部62側に移動させるとともに、折畳準備体45の外周縁45aの所定の8箇所を、押し込み具67に把持させる。その後、図14のAに示すように、まず、各押し込み具68をセット部62側(流入用開口24側)に移動させて、折畳準備体45における押し込み具67のセット部62側の領域を残して、折畳準備体45の外周縁45aの8個の押し込み箇所47を、セット部62側に押し込む。その後、各押し込み具67における外周縁45aの把持箇所46の把持を解除し、各押し込み具67をセット部62側に移動させて、8個の箇所46を、図14のBに示すようにセット部62側に押し込む。このようにして、小径折りすれば、図14のB及び図15のAに示すように、略円柱状の折畳体50と同等とした略円柱状の予備折畳体49が、形成される。
【0030】
小径折り工程を経た後には、圧縮工程を行えるように、天井側基板64を、チューブ治具70を設けた天井側基板64に取り替える。チューブ治具70は、予備折畳体49を挿通可能な円筒状の筒部70aと、天井側基板64に形成される挿通孔の周縁に組み付け可能なフランジ部70bと、を備えている。また、筒部70aには、ラッピング材80の側面カバー部を係止可能な係止ピン70cが、配設されている。このチューブ治具70に、図15のCに示すように、ラッピング材80を被せ、セット部62を、予備折畳体49ごと押し上げて、予備折畳体49を、チューブ治具70の筒部70a内に移動させる。
【0031】
次いで、予備折畳体49を収納させたチューブ治具70を、図16のAに示すように、圧縮工程を行うバッグプレス機72の固定側部73のセット部73aに、セットする。
【0032】
バッグプレス機72は、図16に示すように、固定側部73と可動側部76とを備えている。固定側部73は、ラッピング材80を組み付けたチューブ治具70を収納可能な凹部を、備えている。可動側部76は、折畳体50におけるインフレーター11の収納用の凹部52を形成する押し治具77を下端側に有して、上下動可能に配設されるもので、押し治具77の上縁側には、折畳体50の底面部51に当接される鍔部78が、形成されている。鍔部78には、各ボルト10aを貫通可能な図示しない貫通孔が形成されている。
【0033】
そして、図16のAに示すように、予備折畳体49を収納させたチューブ治具70を、固定側部73の凹部内に挿入させるようにセットし、次いで、図16のBに示すように、可動側部76を下降させて、押し治具77により、凹部52を賦形すれば、折畳体50を形成することができる。圧縮工程を経た後には、図17のAに示すように、チューブ治具70を抜くとともに、可動側部76を復帰させ、ラッピング材80の各取付片83を、係止孔83aを利用して、所定のボルト10aに係止させれば(図17のB参照)、折畳体50をラッピング材80により包んだバッグ組付体90を得ることができる。
【0034】
そして、このようにして形成したバッグ組付体90を、エアバッグカバー14における側壁部16の内周面側に嵌め、エアバッグカバー14の各係止脚部16aを、バッグホルダ12に挿入させて、エアバッグカバー14をバッグホルダ12に取り付ける。その後、バッグホルダ12から突出している各ボルト10aを、インフレーター11の図示しない貫通孔に貫通させて、各ボルト10aに、図示しないナットを締結して、エアバッグカバー14を取付済みのバッグホルダ12に、バッグ組付体90とインフレーター11とを取付固定すれば、エアバッグ装置Mを組み立てることができる。このエアバッグ装置Mは、予めステアリングシャフトSSに締結しておいたステアリングホイール本体1に対して、ホーンスイッチ機構(図符号省略)の図示しない取付基板を利用して、取り付ければ、車両Vに搭載することができる。
【0035】
実施形態のエアバッグ装置Mでは、インフレーター11のガス吐出口11bから膨張用ガスが吐出されれば、折り畳まれたエアバッグ20が、内部に膨張用ガスを流入させて膨張し、ラッピング材80に設けられる破断予定部84を破断させて天井カバー部81を開き、さらに、エアバッグカバー14における天井壁部15のドア部15aを押し開いて、ドア部15aの開いた開口から突出して、図1,2の二点鎖線及び図18,19に示すように、ステアリングホイールWの上面を略全面にわたって覆うように、膨張を完了させることとなる。
【0036】
そして、実施形態のエアバッグ装置Mに使用されるエアバッグ20では、膨張完了時に、一般膨張部としての本体膨張部21と特定膨張部としての突出膨張部35とが膨張を完了させて、突出膨張部35が、運転者MDを受け止めることとなる。実施形態では、保護対象者としての運転者MDを受け止める領域を構成する特定膨張部としての突出膨張部35の周壁が、一般膨張部としての本体膨張部21の周壁より変形時の抵抗を高く設定される素材から形成されていることから、突出膨張部35が、運転者MDを受け止めた際に、周壁を座屈変形や曲げ変形させることとにより、運転者MDのエアバッグ20側へ移動する(前進移動する)運動エネルギーを、一般膨張部(本体膨張部21)で受け止める場合と比較して、小さな受け止めストロークで、的確に吸収させることができて、運転者MDを的確に拘束することができる。また、実施形態のエアバッグ20では、特定膨張部としての突出膨張部35を、一般膨張部としての本体膨張部21と異なる素材から形成していることから、突出膨張部35の周壁の長さを含めた形状や素材自体を変更することにより、運転者MDの受止時に突出膨張部35の周壁の変形する変形量を容易に調整することができ、換言すれば、運転者MDの運動エネルギーの吸収量を容易に調整することができることから、搭載車種等に応じて、突出膨張部35による乗員保護性能の調整が容易である。
【0037】
したがって、実施形態のエアバッグ20では、搭載車種や搭載位置等に応じて、保護対象者保護性能を容易に調整することができる。
【0038】
また、実施形態のエアバッグ20では、特定膨張部としての突出膨張部35が、不織布から形成されるとともに、一般膨張部としての本体膨張部21から部分的に突出するように膨張する構成とされている。そのため、突出膨張部35を、不織布を立体的に成形することによって形成することができて、本体膨張部21から部分的に突出する構成としても、突出膨張部35自体を製造するための縫合作業が不要となって、製造工数及びコストを低減でき、また、突出膨張部35自体の領域に、縫合糸による縫合部位が配設されないことから、折畳形状もコンパクトにできる。特に、実施形態のエアバッグ20では、突出膨張部35は、運転者側壁部27から突出する頭部保護部36と、頭部保護部36よりもさらに大きく上方に突出する2つの肩拘束部37L,37Rと、を有して、複雑な形状とされているが、不織布を立体的に成形して構成されていることから、製造工数及びコストの増大を、的確に抑制することができる。そして、実施形態のエアバッグ20では、不織布製とされる突出膨張部35における頭部保護部36と肩拘束部37L,37Rと、が、それぞれ、運転者MD側に配置される天井壁36a,37aによって運転者MDの肩部MS若しくは頭部MHを受け止めた際に、側壁36b,37bを座屈変形させることにより、運転者MDの運動エネルギーを吸収しつつ運転者MDを受け止める構成であることから、運転者MDを安定して保護することができる。
【0039】
特定膨張部の形成材料は、不織布に限定されるものではなく、例えば、実施形態で用いられる不織布と同等の物性を有した合成樹脂製のシート体等から形成してもよい。また、上記点を考慮しなければ、一般膨張部を構成する織布よりも変形時の抵抗を高く設定される織布を用いて、特定膨張部を形成してもよい。また、実施形態では、特定膨張部が、一般膨張部から部分的に突出するように膨張する構成とされているが、特定膨張部は、一般膨張部から突出させず、一般膨張部から連なるように配置される一部の領域を、特定膨張部とするように、構成してもよい。
【0040】
さらに、実施形態のエアバッグ20では、突出膨張部35が、膨張完了時に、運転者MDの頭部MHを保護可能な頭部保護部36を備える構成とされていることから、運転者MDの頭部MHを、突出膨張部35によって、安定して受け止めることができる。
【0041】
なお、実施形態のエアバッグ20では、特定膨張部としての突出膨張部35は、不織布製として、厚さを一定として構成されているが、部分的に厚さを異ならせる構成としてもよい。例えば、肩拘束部37L,37Rの領域を厚肉とし、頭部保護部36の領域を相対的に薄肉とする構成とすれば、厚肉の肩拘束部37L,37Rによって運転者MDの肩部MSを、大きな運動エネルギーを吸収しつつ的確に拘束することができ、逆に、薄肉の頭部保護部36によって、進入してくる運転者MDの頭部MHをソフトに受け止めることができる。不織布を使用すれば、部分的に厚さを変更することも容易であり、また、形状や素材の物性を変更したり、成形後の表面にコーティング剤等を塗布することにより、特定膨張部による保護対象者保護性能の調整を、容易に行うことができる。実施形態では、不織布製の突出膨張部35を、縫合糸を用いた縫着により、本体膨張部21に結合させているが、両者を結合させている縫合部位に、ガス漏れ防止用のシール剤を塗布する構成としてもよい。なお、実施形態では、突出膨張部35における頭部保護部36と肩拘束部37L,37Rと、が、それぞれ、運転者MD側に配置される天井壁36a,37aによって運転者MDの肩部MS若しくは頭部MHを受け止めた際に、側壁36b,37bを座屈変形させることにより、運転者MDの運動エネルギーを吸収しつつ運転者MDを受け止める構成であるが、天井壁36a,37a自体を変形させることにより、運転者MDの運動エネルギーを吸収する構成としてもよい。
【0042】
また、実施形態のエアバッグ装置Mでは、エアバッグ20を折り畳んだ折畳体50を包むラッピング材80も、不織布製とされていることから、エアバッグを構成する基布と同一の素材から形成されるラッピング材と比較して、伸び難く、包んだ後の折畳体50の圧縮状態を維持することができて、スプリングバックの発生を抑制でき、折畳体50のコンパクトな状態を安定して維持することができる。そのため、搭載スペースが小さなステアリングホイールに、好適である。なお、ラッピング材80の形状は、実施形態に限られるものではなく、例えば、図20のAに示すラッピング材80Aや、図20のBに示すラッピング材80Bのごとく、天井カバー部81A,81Bの領域に、十字形状のスリット92Aや円弧状のスリット92Bを設け、スリット92A,92Bに囲まれる領域を扉部93A,93Bとして、エアバッグの膨張時に開かせる構成としてもよい。また、図20のCに示すラッピング材80Cのごとく、天井カバー部81Cに、裏面側から凹部を設け、この凹部の配置される薄肉の領域を、破断予定部84Cとしてもよい。さらに、ラッピング材として不織布を利用する場合、一般膨張部としての本体膨張部21を構成する周壁と比較して伸びが小さければよく、変形抵抗は、必ずしも高くなくともよい。
【0043】
なお、実施形態では、保護対象者としての運転者を保護するためのステアリングホイール用のエアバッグを例に採り、説明しているが、本発明を適用可能なエアバッグは、これに限られるものではなく、助手席前方に搭載される助手席用エアバッグや、窓の車内側を覆うように膨張して乗員の頭部を保護する頭部保護用エアバッグ、歩行者を保護するための歩行者用エアバッグ等に、適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…リテーナ、11…インフレーター、12…バッグホルダ、14…エアバッグカバー、20…エアバッグ、21…本体膨張部(一般膨張部)、27…運転者側壁部、35…突出膨張部(特定膨張部)、36…頭部保護部、37L,37R…肩拘束部、MD…運転者(保護対象者)、H…頭部、W…ステアリングホイール、M…ステアリングホイール用エアバッグ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20