(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】表示装置および表示制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 35/00 20060101AFI20221213BHJP
B60K 37/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60K35/00 Z
B60K37/00 E
(21)【出願番号】P 2019079864
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】平手 庸介
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大治
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033942(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00、37/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバによる手動操作と、自動運転機能による自動操作とを協調させて運転制御する協調運転モードを実行可能な車両に搭載される表示装置であって、
前記車両の車室内に設けられた表示器(80)と、
前記協調運転モードにて前記自動運転機能によって制御される自動操作トルクに適用される制限度合が前記ドライバの入力した手動操作量に応じて設定されると、前記制限度合を取得する取得部(120)と、
前記協調運転モードにおける前記手動操作と前記自動操作との協調割合を前記制限度合に基づいて前記表示器に表示させる表示制御部(125)と、
を備え
、
前記手動操作量は、ステアリングホイールの操舵軸に印加される印加トルクの検出値に少なくとも基づき推定された前記ドライバの入力するトルクの推定値であり、前記推定値は、前記印加トルクの前記検出値に加えて前記ステアリングホイールの操舵角とステアリングアクチュエータ(70)の回転角とに基づき推定された値であって、
前記取得部は、前記推定値に応じて設定された前記制限度合を取得する表示装置。
【請求項2】
前記表示器は、前記制限度合の変化に応じて表示領域に占める表示物の面積を変化させる請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記表示器は、前記協調運転モードと他の運転モードとで前記表示領域の表示態様を変化させる請求項2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記取得部は、
前記自動運転機能の出力可能な前記自動操作トルクの上限値を規定する値を前記制限度合として取得する請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項5】
前記取得部は、
出力される前記自動操作トルクを規定する値を前記制限度合として取得する請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項6】
ドライバによる手動操作と、自動運転機能による自動操作とを協調させて運転制御する協調運転モードを実行可能な車両に搭載された表示器(80)の表示を制御する表示制御装置であって、
前記協調運転モードにて前記自動運転機能によって制御される自動操作トルクに適用される制限度合が前記ドライバの入力した手動操作量に応じて設定されると、前記制限度合を取得する取得部(120)と、
前記協調運転モードにおける前記手動操作と前記自動操作との協調割合を前記制限度合に基づいて前記表示器に表示させる表示制御部(125)と、
を備え
、
前記手動操作量は、ステアリングホイールの操舵軸に印加される印加トルクの検出値に少なくとも基づき推定された前記ドライバの入力するトルクの推定値であり、前記推定値は、前記印加トルクの前記検出値に加えて前記ステアリングホイールの操舵角とステアリングアクチュエータ(70)の回転角とに基づき推定された値であって、
前記取得部は、前記推定値に応じて設定された前記制限度合を取得する表示制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、表示装置および表示制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動運転と協調運転との間での運転状態の切り替えをドライバに表示する車両システムが開示されている。この車両システムは、ドライバの運転操作に関する操作量と、運転状態の切り替わる操作量閾値とをインジケータ表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両システムでは、ドライバに対して表示されるのはあくまでドライバの運転操作の操作量である。しかし、ドライバの運転操作の操作量を表示するのみでは、協調運転における手動運転と自動運転との協調割合をドライバに把握させるには不十分であった。
【0005】
開示される目的は、協調運転における手動運転と自動運転との協調割合を把握可能に表示する表示装置および表示制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
開示された表示装置のひとつは、ドライバによる手動操作と、自動運転機能による自動操作とを協調させて運転制御する協調運転モードを実行可能な車両に搭載される表示装置であって、車両の車室内に設けられた表示器(80)と、協調運転モードにて自動運転機能によって制御される自動操作トルクに適用される制限度合がドライバの入力した手動操作量に応じて設定されると、制限度合を取得する取得部(120)と、協調運転モードにおける手動操作と自動操作との協調割合を制限度合に基づいて表示器に表示させる表示制御部(125)と、を備え、手動操作量は、ステアリングホイールの操舵軸に印加される印加トルクの検出値に少なくとも基づき推定されたドライバの入力するトルクの推定値であり、推定値は、印加トルクの検出値に加えてステアリングホイールの操舵角とステアリングアクチュエータ(70)の回転角とに基づき推定された値であって、取得部は、推定値に応じて設定された制限度合を取得する。
【0008】
開示された表示制御装置のひとつは、ドライバによる手動操作と、自動運転機能による自動操作とを協調させて運転制御する協調運転モードを実行可能な車両に搭載された表示器(80)の表示を制御する表示制御装置であって、協調運転モードにて自動運転機能によって制御される自動操作トルクに適用される制限度合がドライバの入力した手動操作量に応じて設定されると、制限度合を取得する取得部(120)と、協調運転モードにおける手動操作と自動操作との協調割合を制限度合に基づいて表示器に表示させる表示制御部(125)と、を備え、手動操作量は、ステアリングホイールの操舵軸に印加される印加トルクの検出値に少なくとも基づき推定されたドライバの入力するトルクの推定値であり、推定値は、印加トルクの検出値に加えてステアリングホイールの操舵角とステアリングアクチュエータ(70)の回転角とに基づき推定された値であって、取得部は、推定値に応じて設定された制限度合を取得する。
【0009】
これらの開示によれば、協調運転モードにて自動操作トルクに適用される制限度合に基づいて、手動操作と自動操作との協調割合が表示器にて表示される。故に、協調運転モードにおける協調割合の表示が可能となる。以上により、協調運転における手動運転と自動運転との協調割合を把握可能に表示する表示装置および表示制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る表示装置を含む車載システムの全体像を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態における操舵トルクの演算処理を説明するブロック図である。
【
図3】車両に搭載された表示器を示す概略図である。
【
図4】運転モードと表示器における表示態様との対応を示す表である。
【
図5】第1実施形態における表示処理の一例を示すフローチャートであ
【
図6】第2実施形態における操舵トルクの演算処理を説明するブロック図である。
【
図7】第3実施形態における操舵トルクの演算処理を説明するブロック図である。
【
図8】他の実施形態における表示器の表示態様を示す模式図である。
【
図9】他の実施形態における表示器の表示態様を示す模式図である。
【
図10】他の実施形態における表示器の表示態様を示す模式図である。
【
図11】他の実施形態における表示器の表示態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態の表示装置1について、
図1~
図6を参照しながら説明する。表示装置1は、ドライバによる加速、制動および操舵といった運転操作を代行可能な自動運転機能を備えた車両に搭載されている。第1実施形態の表示装置1は、ドライバによる手動操舵と自動運転機能による自動操舵とが協調して実行される協調運転において、手動操舵と自動操舵との協調割合をドライバに対して表示する協調割合表示を実施する。なお、協調割合は、手動操舵と自動操舵との操作負担割合と表現することもできる。表示装置1は、自動運転ECU100と、表示器80とを備えている。
【0012】
自動運転ECU100は、挙動センサ11、操作状態センサ、自動運転スイッチ20、外界センサ30、GNSS受信機40、地図データベース(以下、DBと表記)50、車両制御ECU60、および表示器80と、直接的または間接的に電気接続されている。
【0013】
挙動センサ11は、車両の挙動に関する物理状態量を検出する複数のセンサを含んでいる。例えば、挙動センサ11は、車両の走行速度を検出する車速センサ、車両の加速度を検出する加速度センサ、および車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサを含む。
【0014】
操作状態センサは、車両の操作状態を検出する複数のセンサである。操作状態センサは、操舵トルクセンサ14、舵角センサ15、モータ回転角センサ16、およびペダルセンサ17を含む。
【0015】
操舵トルクセンサ14は、ステアリングシャフトに印加される印加トルクである操舵トルクを検出するセンサである。操舵トルクセンサ14は、例えばステアリングシャフト上に設けられたトーションバーのねじれ角に基づいて、当該トーションバーに加えられるトルクを操舵トルクとして検出する。舵角センサ15は、操舵角を検出するセンサであり、例えばステアリングシャフトを内包するステアリングコラムに設置されている。モータ回転角センサ16は、後述のEPS(Electric Power Steering)モータ70の回転角を検出するセンサである。
【0016】
自動運転スイッチ20は、自動運転機能の作動(ON)状態と停止(OFF)状態とを切り替えるスイッチである。自動運転スイッチ20は、ステアリングホイールのスポーク部分等に設けられている。
【0017】
外界センサ30は、車両の周囲環境を監視するセンサである。外界センサ30は、車両の周囲の歩行者及び他の車両等の移動物体、さらに路上の縁石、道路標識、道路標示、および区画線等の静止物体を検出する。外界センサ30は、例えば前方カメラ、LIDAR、ミリ波レーダ、ソナーまたはそれらの組み合わせにより提供される。
【0018】
GNSS受信機40は、GNSSを構成する測位衛星から送信される航法信号を受信することで、当該GNSS受信機の現在位置を逐次検出する。
【0019】
地
図DB50は、不揮発性メモリを主体に構成されており、自動運転のために整備された高精度な地図データ(以下、高精度地図データ)を記憶している。高精度地図データには、交差点を含む道路の3次元形状情報、レーン数情報、各レーンに許容された進行方向を示す情報、および横断歩道および自転車レーン等の敷設情報等が含まれている。地
図DB50は、自動運転ECU100からの要求に基づき、車両の周囲の高精度地図データを自動運転ECU100に提供する。
【0020】
車両制御ECU60は、車載アクチュエータ群と直接的又は間接的に電気接続されている。車載アクチュエータ群は、車両の加速、制動および操舵等の制御を実行する。車載アクチュエータ群には、例えば、駆動用および回生用のモータジェネレータ駆動用モータ、ブレーキアクチュエータ、並びにEPSモータ70等が含まれている。
【0021】
車両制御ECU60は、プロセッサ、RAM、メモリ装置および入出力インターフェースを有する制御回路を主体に構成された車載コンピュータである。車両制御ECU60は、車両の加速、制動および操舵等の制御指令を自動運転ECU100から取得する。車両制御ECU60は、取得した制御指令に基づいて車載アクチュエータ群を作動させ、車両の挙動を制御する。
【0022】
一例として車両制御ECU60は、車両の操舵制御のために、アシストトルクおよび自動操舵トルクを合算した総トルクをEPSモータ70に発生させるための電流指令値(以下、総トルク指令値)を算出し、EPSモータ70に出力する。ここでアシストトルク指令値は、路面反力(路面負荷)に応じた伝達感や、操舵状態に応じたフィールが実現されるようにドライバの操舵操作をアシストするアシストトルクを発生させるための電流指令値である。また自動操舵トルク指令値は、自動運転機能による操舵に必要な自動操舵トルクを発生させるための電流指令値である。
【0023】
車両制御ECU60は、プロセッサのRAMへのアクセスにより、メモリ装置に記憶された総トルク算出プログラムを実行することで、総トルク算出のための複数の機能部を実装する。
図2に示すように、複数の機能部には、アシスト制御部61、減算部66、追従制御部67、制限演算部68、および加算部69を含んでいる。
【0024】
アシスト制御部61は、まず操舵トルクTsおよび車速に基づき路面反力に応じた伝達感を得るための基本アシスト量を演算する。加えてアシスト制御部61は、操舵トルクTsおよびモータ回転角速度に基づいて操舵状態に応じたアシスト補償量を演算する。アシスト制御部61は、車速に応じたゲインをアシスト補償量に乗じたものを基本アシスト量に加算することで、アシストトルク指令値を生成する。アシスト制御部61は、生成したアシストトルク指令値を加算部69に出力する。
【0025】
減算部66は、走行計画部130から目標舵角を取得し、舵角センサ15から実舵角を取得する。減算部66は、目標舵角と実舵角との偏差(以下、舵角偏差)を算出し、追従制御部67へと出力する。
【0026】
追従制御部67は、入力された舵角偏差に基づき、目標舵角に追従するために必要な追従トルク指令値を算出する。追従制御部67は、PID制御等のフィードバック制御により、追従トルク指令値を算出する。
【0027】
制限演算部68は、追従制御部67にて算出した追従トルク指令値に対して制限をかける制限演算を実行する。制限演算部68は、追従トルク指令値の上限値を設定することで、追従トルク指令値に制限をかける。制限演算部68は、追従トルク指令値が上限値を下回る場合には追従トルク指令値を自動操舵トルク指令値として算出し、追従トルク指令値が上限値を上回る場合には上限値を自動操舵トルク指令値として算出する。例えば制限演算部68は、上記の上限値を、予め設定された閾値に、後述の介入係数αを乗算することで算出する。制限演算部68は、算出した自動操舵トルク指令値を加算部69へと出力する。
【0028】
加算部69は、アシスト制御部61にて算出されたアシストトルク指令値と、制限演算部68にて算出された自動操舵トルク指令値とを加算することにより、総トルク指令値を算出する。加算部69は、総トルク指令値を、EPSモータ70へと出力する。
【0029】
EPSモータ70は、ステアリング機構に印加される操舵力および保舵力を調整することで車両の挙動を制御するステアリングアクチュエータである。EPSモータ70は、ステアリングコラムやピニオン、ラック等のステアリング機構に取り付けられ、総トルクを発生する。
【0030】
表示器80は、介入情報に基づいて自動運転と手動運転との協調割合をドライバに表示する構成である。表示器80は、LED等の複数の発光素子を有して構成され、発光部分を表示物として表示する。表示器80は、協調割合の大きさを表示領域に占める発光部分の面積として表示する。表示器80は、例えば
図3に示すように車両のダッシュボード上面に設けられ、表示領域を車幅方向に延びる線状に呈している。第1実施形態において表示器80は、協調割合が大きくなるほど発光面積を大きくすることで、協調割合表示を実施する。
【0031】
図1に戻り、自動運転ECU100は、車両の自動運転機能を制御する車載コンピュータである。自動運転ECU100は、プロセッサ101、RAM102、メモリ装置103および入出力インターフェース104を有する制御回路を主体に構成されている。プロセッサは、RAM102へのアクセスにより、後述する各機能部の機能を実現するための種々の処理を実行する。メモリ装置103は、不揮発性の記憶媒体を含む構成であり、プロセッサにて実行される種々のプログラムを格納している。
【0032】
自動運転ECU100は、メモリ装置103に記憶されたプログラムをプロセッサによって実行することで、環境認識部110、走行計画部130、および運転モード管理部120を機能部として実装する。
【0033】
環境認識部110は、外界センサ30の検出情報、GNSS受信機40の現在位置情報および地
図DB50の地図情報を組み合わせて、車両の走行環境を認識する。一例として環境認識部110は、車の周囲の物体の位置、形状、および移動状態を認識し、実際の走行環境を再現した仮想空間を生成する。環境認識部110は、認識した走行環境に関する情報を、運転モード管理部120および走行計画部130へと出力する。
【0034】
走行計画部130は、運転モード管理部120からの運転モード情報(後述)および環境認識部110からの周囲環境情報等に基づいて、自動運転機能によって車両を走行させるための走行計画を生成する。例えば、走行計画部130は、中長期の走行計画として、車両を目的地へと向かわせるための推奨経路を生成する。加えて走行計画部130は、中長期の走行計画に沿った走行を行うための短期の走行計画として、車線変更や右左折のための操舵、速度調整のための加減速、および障害物回避のための操舵および制動等の制御指令を生成する。走行計画部130は、生成したこれらの走行計画を車両制御ECU60へと逐次出力する。
【0035】
運転モード管理部120は、各種センサの検出情報、自動運転スイッチ20の作動情報、および環境認識部110からの走行環境情報等に基づき、予め設定された複数の運転モードの中から車両の実行する運転モードを選択する。一例として、複数の運転モードには、手動運転モード、自動運転モード、および協調運転モードが含まれている。
【0036】
手動運転モードは、自動運転機能を停止しドライバの運転操作による手動走行を実施する運転モードである。自動運転モードは、自動運転機能の実行によりドライバの運転操作によらない自律走行を実施する運転モードである。協調運転モードは、自動運転機能による走行制御を実行しつつ、ドライバの運転操作による介入も許可することで、自動運転機能による走行制御とドライバによる運転操作とを協調させる運転モードである。
【0037】
運転モード管理部120は、運転モードの切り替えを、ドライバによるステアリングホイールへの入力トルクに基づいて実行する。例えば運転モード管理部120は、入力トルクを後述の方法により推定し、自動運転モード時に入力トルクが第1閾値を上回ると協調運転モードに切り替える。運転モード管理部120は、協調運転モード時に入力トルクが第1閾値よりも大きい第2閾値を上回ると手動運転モードへと切り替える。運転モード管理部120は、現在の車両の運転モードに関する運転モード情報を、走行計画部130へと出力する。
【0038】
運転モード管理部120は、上述のドライバ入力トルクThを算出し、運転モードの選択に利用する。また運転モード管理部120は、算出したドライバ入力トルクThに基づいて、協調運転モードにおける自動運転機能とドライバとの協調割合を介入係数αとして算出し、表示指示部125および車両制御ECU60へと出力する。
【0039】
次に、運転モード管理部120によるドライバ入力トルクThの推定方法について説明する。操舵角値をθh、操舵トルクセンサ14にて検出された操舵トルクの検出値をTsとすると、ドライバ入力トルクThは、外乱オブザーバの考え方に基づき以下の数式(1)にて算出される。
【数1】
【0040】
ただし、数式(1)において、Iはステアリングホイール周りの慣性モーメント、Cはステアリングホイール周りの粘性摩擦係数、Kはトーションバーの剛性である。これらの値は、車両の物理特性を示すパラメータであり、予めメモリ装置等に記憶されている値である。また、τtは時定数である。
【0041】
ここで、ドライバ入力トルクThを、タイヤ反力によりステアリング回転軸に発生するトルクと分けて精度良く推定するためには、操舵角の検出精度を向上させる必要がある。そこで運転モード管理部120は、舵角センサ15にて検出された操舵角の検出値θhdと、モータ回転角センサ16の検出したモータ回転角の検出値θmとを用いて、操舵角の推定値θh^を算出する。より具体的には、運転モード管理部120は、相補フィルタを利用した以下の数式(2)に基づいて、推定値θh^を算出する。
【数2】
【0042】
数式(2)の右辺第1項により、運転モード管理部120は、舵角センサ15の検出値θhdをローパスフィルタに通した値を算出する。これにより、運転モード管理部120は、一般的にモータ回転角センサ16よりも分解能の低い舵角センサ15の検出値θhdに関して、信頼性の比較的高い低周波成分のみを利用する。
【0043】
また数式(2)の右辺第2項により、運転モード管理部120は、モータ回転角の検出値θmにトーションバーの捻じれ角分(操舵トルクTsとトーションバー剛性Kから計算)を加算した操舵角相当値をハイパスフィルタに通した値を算出する。操舵角相当値は、分解能の高い反面定常的な誤差が発生し得る。運転モード管理部120は、操舵角相当値をハイパスフィルタに通すことで、操舵角相当値に関して信頼性の比較的高い高周波成分のみを利用する。
【0044】
運転モード管理部120は、数式(2)に基づいて算出した操舵角の推定値θh^を数式(1)における操舵角値θhとして利用する。これにより、運転モード管理部120は、舵角センサ15の検出値θhdをそのまま操舵角値θhとして使用する場合よりも、ドライバ入力トルクThの精度を向上させることが可能となる。
【0045】
運転モード管理部120は、ドライバ入力トルクThに基づいて介入係数αを算出する。介入係数αは、ドライバ入力トルクThに応じて自動運転機能の発揮する自動操舵トルクを制限する制限度合である。介入係数αは、ドライバ入力トルクThと予め規定された相関関係にある。介入係数αは、ドライバ入力トルクThが大きくなるほど小さくなる値であり、例えばドライバ入力トルクThに対して非線形的に変化する。この相関関係は、マップやテーブル、関数等のデータとしてメモリ装置に予め記憶されている。運転モード管理部120は、記憶された相関関係のデータを参照し、算出したドライバ入力トルクThに対応する介入係数αの値を取得する。すなわち運転モード管理部120は、自動操舵トルクを制限する制限度合として介入係数αを取得する取得部の機能を有する。運転モード管理部120は、取得した介入係数αの値を表示指示部125および車両制御ECU60へと出力する。なお、介入係数αは、ステアリングホイールの切り込み時と切り返し時とでドライバ入力トルクThに対して異なる相関関係を規定されていてもよい。
【0046】
表示指示部125は、運転モード管理部120から取得した介入係数αおよび運転モード情報に基づいて表示器80の表示態様を決定し、表示器80に対して表示指示を出力する。具体的には、表示指示部125は、運転モードに応じて表示領域の発光色を変化させ、介入係数αの大きさに対応した発光面積にて表示領域を発光させる。表示指示部125は、表示制御部の一例である。
【0047】
ここで介入係数αは、上述したように出力可能な自動操舵トルクの上限値を規定する値であるので、表示指示部125は、潜在的に出力し得る自動操舵トルクの絶対量を表示器80に表示させることになる。すなわち、実際に出力されている自動操舵トルクの大きさに変化がない場合であっても、表示指示部125は、表示器80の発光面積を変化させ得る。
【0048】
運転モードに応じた表示器80の表示態様の変化の一例について、
図4の表を参照しながら説明する。手動運転モードの場合、表示器80における表示領域の全域が消灯状態となり、自動運転機能がオフの手動運転状態であることが提示される。自動運転モードの場合には、表示領域の全域が発光状態となり、ドライバの運転操作の介入なしで車両の挙動が制御される自動運転状態であることが提示される。
【0049】
協調運転モードの場合には、発光色が自動運転モードは異なる表示色に変更される。そして、介入係数αが大きくなるほど、発光面積が大きく発光表示される。これにより、運転モードが協調運転モードであることと、現在の自動運転と手動運転との協調割合が提示される。介入係数αが大きくなるほど、発光面積は、表示領域の車幅方向中央付近から車幅方向両側へと広がっていくように大きくなる。発光部分における消灯部分との境界は、消灯部分に向かうにつれて発光輝度が漸減するグラデーション状に表示される。
【0050】
以上により、例えば自動運転中にドライバがステアリングホイールの操舵を行った場合、発光部分は、表示領域の全域から、表示領域の中央へ向かって縮小していくように変化する。また、協調運転中にドライバがステアリングホイールから手を離して操舵を中止した場合、発光部分は、表示領域の中央に縮小した状態から両側へと広がっていくように変化する。なお、表示器80は、介入係数αが小さくなり発光部分が縮小する場合と、介入係数αが大きくなり発光部分が拡大する場合とで、表示色を変更して表示してもよい。
【0051】
次に、これまで説明した協調割合の表示を実行するために、自動運転ECU100にて実行される処理を
図5のフローチャートを参照して説明する。自動運転ECU100は、まずステップS10にて、センサ情報を取得し、ステップS20へと進む。ステップS20では、入力トルクを推定し、ステップS20へと進む。ステップS30では、予め記憶された入力トルクと介入係数αとの対応関係に基づいて介入係数αを算出し、ステップS40へと進む。
【0052】
ステップS40では、現在の運転モードを取得し、ステップS50へと進む。ステップS50では、現在の運転モードと、介入係数αとに基づいて、表示器80における表示態様、すなわち表示色と発光部分の大きさとを決定する。ステップS50の処理を実行するとステップS60へと進み、決定した表示態様を実現させるための表示指令を表示器80へと出力したのち、一連の処理を終了する。
【0053】
次に第1実施形態の表示装置1の構成および作用効果について説明する。
【0054】
表示装置1は、車両の車室内に設けられた表示器80と、ドライバの入力した手動操作量に応じて自動運転機能の出力する自動操作トルクに対して設定される、自動操舵トルクの制限度合である介入係数αを取得する運転モード管理部120とを備える。さらに表示装置1は、介入係数αを協調運転モードにおける手動操作と自動操作との協調割合として表示器80に表示させる表示指示部125を備える。
【0055】
これによれば、表示装置1は、表示器80にて介入係数αを協調運転モードにおける協調割合として表示する。したがって、協調運転モードにおける手動運転と自動運転との協調割合を把握可能に表示する表示装置1を提供することができる。また、これにより表示装置1は、ドライバの運転操作に対応して自動運転機能の発揮する自動操作トルクがどの程度制限された状態で出力され得るのかを表示可能となる。したがって、ドライバは、協調割合をより正確に把握し得る。
【0056】
表示器80は、介入係数αの変化に応じて表示領域に占める発光部分の面積を変化させることで、協調割合を表示する。これにより表示器80は、より直感的な協調割合表示を提供できる。
【0057】
また、第1実施形態の表示器80は、ダッシュボードの上面に設けられ、車幅方向の両側に広がるように延びる発光部分により協調割合の大きさを表示するので、フロントウインドシールドに近接した位置にて協調割合を表示可能となる。このため、表示装置1は、ドライバが前景から視線を外す必要性を低減した協調割合表示が可能となる。
【0058】
表示器80は、協調運転モードと他の運転モードとで協調割合の表示色を変化させ。るこれによれば、表示器80は、現在の運転モードを協調割合の表示領域と同一の領域にて表示可能である。したがって、表示装置1は、協調割合と現在の運転モードとを合わせた情報をより直感的にドライバに提示することができる。
【0059】
運転モード管理部120は、ドライバ入力トルクThを、操舵トルクの検出値、操舵角、およびEPSモータ70の回転角から推定する。運転モード管理部120は、この推定値に基づいて介入係数αを算出するので、検出値をドライバ入力トルクとする場合に比べてより正確なドライバ入力トルクThを取得できる。表示装置1は、この推定値を反映した介入係数αを協調割合として表示するので、結果として手動操舵の自動操舵への介入度合をより正確に表示内容に反映し得る。
【0060】
運転モード管理部120は、自動運転機能の出力可能な自動操舵トルクの上限値を規定する値を介入係数αとして算出し、表示器80に出力する。これにより、表示装置1は、潜在的に出力し得る自動操舵トルクの絶対量を表示できる。このため表示装置1は、自動運転機能の操舵意図とドライバの操舵意図との差が小さく、実際に出力される自動操舵トルクが実質的に変化していないような場合でも、ドライバ入力トルクThの変化に応じて、表示する協調割合の大きさを変化させることができる。したがって、表示装置1は、ドライバの操舵意図が車両へ確実に伝わっていることを、ドライバに表示することができる。以上により、表示装置1は、車両操作の主権がドライバにあることを表示でき、ドライバの心理的な安心感を高めることができる。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態における表示装置1の変形例について説明する。
図6において第1実施形態の図面中と同一符号を付した構成要素は、同様の構成要素であり、同様の作用効果を奏するものである。
【0062】
第2実施形態の表示装置1は、自動操舵トルクの算出方法が第1実施形態と相違する。
【0063】
第2実施形態の車両制御ECU60は、第1実施形態の制限演算部68の代わりに係数乗算部268を有する。係数乗算部268は、取得した介入係数αを、追従トルク指令値に直接乗算し、その算出結果を自動操舵トルクとして出力する。すなわち、係数乗算部268は、追従トルクに対する自動操舵トルクの値の抑制比率を設定することで、自動操舵トルクの出力を制限する。
【0064】
以上により、出力される自動操舵トルクは、第1実施形態に比して、介入係数αの変化に対してより鋭敏に変化する値となる。言い換えると、第2実施形態における介入係数αは、発揮される自動操舵トルクの大きさそのものに対応する値となる。第2実施形態における表示器80は、この介入係数αに基づく協調割合を表示するので、ドライバが実際に感じる自動操舵トルクの大きさの変化に対応した協調割合表示を実行することができる。
【0065】
(第3実施形態)
第3実施形態では、第1実施形態における表示装置1の変形例について説明する。
図7において第1実施形態の図面中と同一符号を付した構成要素は、同様の構成要素であり、同様の作用効果を奏するものである。
【0066】
第3実施形態の車両制御ECU60は、制限演算部68の代わりに、第1乗算部63、第2乗算部64、および制限値加算部65を備える。
【0067】
第1乗算部63は、目標舵角を取得し、この目標舵角に介入係数αを乗算する。第1乗算部63は、算出した値を制限値加算部65へと出力する。第2乗算部64は、実舵角を取得し、この実舵角に1-αを乗算する。第2乗算部64は、算出した値を制限値加算部65へと出力する。
【0068】
制限値加算部65は、第1乗算部63および第2乗算部64から出力された同士を加算し、減算部66へと出力する。したがって、第2実施形態における減算部66は、制限値加算部65から出力された値と実舵角との偏差を算出することになる。
【0069】
第3実施形態では、介入係数αが0のとき、目標舵角と実舵角とが等しくなる。この場合、減算部66にて偏差が0となり、結果的に出力される自動操舵トルクは0になる。この場合、ドライバがステアリングホイールから手を離して徐々に介入係数αが増加すると、目標舵角が、実舵角と同等の大きさから徐々に本来の目標舵角の大きさに移行するようになる。したがって、上述の実施形態と比較して、自動操舵が緩やかに復帰する傾向になる。
【0070】
(他の実施形態)
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0071】
上述の実施形態において、表示器80の表示制御は自動運転ECU100にて実行されるとした。これに代えて、他の車載ECUが、自動運転ECU100から送信された介入情報を取得し、この介入情報に基づき表示器の表示制御を実行する構成であってもよい。
【0072】
上述の実施形態において、表示器80は、協調割合を車幅方向に中央から左右に延びる表示領域により表示するとした。これに代えて、表示器80は、他の表示態様により協調割合を表示してもよい。例えば、表示器は、
図8に示すように、上下方向に延びる表示領域により表示してもよい。また、表示器は、協調割合の大小を、表示領域の一方の端部からもう一方の端部へと延びる領域の大きさで表示してもよい。
【0073】
また、表示器は、
図9または
図10に示すように、ステアリングホイールに設けられていてもよい。
図9に示す実施形態の場合、表示器は、ステアリングホイールのリム部分に設けられている。表示器は、リム部分の全周にわたって設けられている。表示器は、発光表示において、リム部分の上部を常に発光させるように、ステアリングホイールの回転に合わせて発光部分を移動させる。すなわち、表示器は、ステアリングホイールの回転方向と反対の方向に、同じ回転角だけ発光部分を移動させる。この実施形態では、表示器は、協調割合の変化を発光面積の変化と表示色の変化によって表示する。具体的には、表示器は、協調運転モードにおける協調割合の変化を、発光部分の周方向の長さの変化によって表示する。
図9に示す例では、ステアリングホイールをドライバが操作すると、自動運転モードから協調運転モードへの切り替わりによって表示色が変化し、手動操舵の介入度合の増加により、発光部分がリム部分の最上点に向かってその両端から縮小するように短くなる。
図10に示す実施形態の場合、表示器は、ステアリングホイールのハブ部分に設けられている。この実施形態では、表示器は、協調割合の変化を中央から円形状に広がる表示面積の大小により表示する。
【0074】
また、表示器は、
図11に示すように、協調割合を数値によってデジタル表示してもよい。
図11に示す実施形態の場合、表示器は、協調割合をパーセンテージで表示する。なおこの実施形態において、表示器は、運転モードを協調割合の表示領域とは別の表示領域により表示する。
【0075】
上述の実施形態において、表示器80は、車両のダッシュボードに設けられた発光素子を有して構成されているとした。これに代えて表示器80は、ナビゲーション装置、ヘッドアップディスプレイ、車両用計器等により提供されてもよい。
【0076】
上述の実施形態において、表示装置1は、操舵操作における手動運転と自動運転との協調割合を表示するとした。これに代えて、表示装置1は、加速操作や制動操作等の他の運転操作における協調割合を表示する構成であってもよい。
【0077】
上述の実施形態のプロセッサは、1つまたは複数のCPU(Central Processing Unit)を含む処理部である。こうしたプロセッサは、CPUに加えて、GPU(Graphics Processing Unit)およびDFP(Data Flow Processor)等を含む処理部であってよい。さらにプロセッサは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、並びにAIの学習および推論等の特定処理に特化したIPコア等を含む処理部であってもよい。こうしたプロセッサの各演算回路部は、プリント基板に個別に実装された構成であってもよく、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)およびFPGA等に実装された構成であってもよい。
【0078】
制御プログラムを記憶するメモリ装置には、フラッシュメモリおよびハードディスク等の種々の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)が採用可能である。こうした記憶媒体の形態も、適宜変更されてよい。例えば記憶媒体は、メモリカード等の形態であり、車載ECUに設けられたスロット部に挿入されて、制御回路に電気的に接続される構成であってよい。
【0079】
本開示に記載の制御部およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置およびその手法は、専用ハードウエア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置およびその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと1つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 表示装置、 70 EPSモータ(ステアリングアクチュエータ)、 80 表示器、 100 自動運転ECU(表示制御装置) 120 運転モード管理部(取得部)、 125 表示指示部(表示制御部)。