(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/20 20160101AFI20221213BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221213BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221213BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20221213BHJP
【FI】
H02P29/20
B62D6/00
B62D5/04
H02P29/028
(21)【出願番号】P 2019087443
(22)【出願日】2019-05-07
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 功一
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
(72)【発明者】
【氏名】黒田 喜英
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-050438(JP,A)
【文献】特開2017-013636(JP,A)
【文献】特開平09-160643(JP,A)
【文献】特開2018-130007(JP,A)
【文献】特開2018-129995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/20
B62D 6/00
B62D 5/04
H02P 29/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機(80)の駆動を制御する回転電機制御装置であって、
角度指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御する角度制御モード、および、トルク指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御するトルク制御モードを含む制御モードを切替可能であって、相互に通信可能な複数の制御部(150、250)を備え、
前記トルク制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスタートルク制御指令値を演算する前記制御部であるマスタートルク制御部(150)と、前記角度制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスター角度制御指令値を演算する前記制御部であるマスター角度制御部(250)とは、異なって
おり、
異常発生箇所、および、異常発生時の前記制御モードが前記トルク制御モードか前記角度制御モードかに応じ、異常時処置を異ならせ、
前記制御部は、外部制御部(700)から前記角度指令値を取得し、
前記トルク制御モード中において、前記外部制御部と一部の前記制御部との間の通信に異常が生じた場合、前記角度制御モードへの移行を禁止し、前記トルク制御モードを継続し、
前記角度制御モード中において、
前記外部制御部と前記マスター角度制御部との通信に異常が生じた場合、前記角度制御モードを中止し、前記トルク制御モードへ移行し、
前記外部制御部と前記マスター角度制御部以外の前記制御部との通信に異常が生じた場合、前記マスター角度制御部に対応する系統を用いて前記角度制御モードを継続する回転電機制御装置。
【請求項2】
回転電機(80)の駆動を制御する回転電機制御装置であって、
角度指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御する角度制御モード、および、トルク指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御するトルク制御モードを含む制御モードを切替可能であって、相互に通信可能な複数の制御部(150、250)を備え、
前記トルク制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスタートルク制御指令値を演算する前記制御部であるマスタートルク制御部(150)と、前記角度制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスター角度制御指令値を演算する前記制御部であるマスター角度制御部(250)とは、異なって
おり、
異常発生箇所、および、異常発生時の前記制御モードが前記トルク制御モードか前記角度制御モードかに応じ、異常時処置を異ならせ、
前記トルク制御モード中において、一部の前記制御部にて指令演算異常が生じた場合、正常に指令演算可能な前記制御部に対応する系統を用いて前記回転電機の駆動を継続し、
前記角度制御モード中において、
前記マスター角度制御部にて指令演算異常が生じた場合、前記角度制御モードを中止し、前記トルク制御モードへ移行し、
前記マスター角度制御部以外の前記制御部にて指令演算異常が生じた場合、前記マスター角度制御部に対応する系統を用いて前記角度制御モードを継続する回転電機制御装置。
【請求項3】
回転電機(80)の駆動を制御する回転電機制御装置であって、
角度指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御する角度制御モード、および、トルク指令値に基づいて前記回転電機の駆動を制御するトルク制御モードを含む制御モードを切替可能であって、相互に通信可能な複数の制御部(150、250)を備え、
前記トルク制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスタートルク制御指令値を演算する前記制御部であるマスタートルク制御部(150)と、前記角度制御モードにおいて複数の前記制御部にて共有されるマスター角度制御指令値を演算する前記制御部であるマスター角度制御部(250)とは、異なって
おり、
異常発生箇所、および、異常発生時の前記制御モードが前記トルク制御モードか前記角度制御モードかに応じ、異常時処置を異ならせ、
前記トルク制御モード中において、巻線(180、280)に流れる電流の通電経路を構成する駆動系の一部に異常が生じた場合、正常である駆動系に対応する系統を用いて前記回転電機の駆動を継続し、
前記角度制御モード中において、
前記マスター角度制御部に対応する駆動系に異常が生じた場合、前記角度制御モードを中止し、正常である駆動系に対応する系統での前記トルク制御モードへ移行し、
前記マスター角度制御部以外の前記制御部に対応する駆動系に異常が生じた場合、前記マスター角度制御部に対応する系統を用いて前記角度制御モードを継続する回転電機制御装置。
【請求項4】
前記マスタートルク制御部以外の前記制御部であるスレーブトルク制御部(250)は、前記トルク制御モードにおけるトルク制御指令値を演算可能であって、前記マスタートルク制御部に対応する系統に異常が生じた場合においても、前記トルク制御指令値を用いて前記トルク制御モードを実施可能である請求項1
~3のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記スレーブトルク制御部は、前記マスタートルク制御指令値を利用可能である場合、前記トルク制御指令値の演算を制限する請求項
4に記載の回転電機制御装置。
【請求項6】
前記マスター角度制御部以外の前記制御部であるスレーブ角度制御部(150)は、前記角度制御モードにおける角度制御指令値を演算可能であって、前記マスター角度制御部に対応する系統に異常が生じた場合においても、前記角度制御指令値を用いて前記角度制御モードを実施可能である請求項1~
5のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項7】
前記スレーブ角度制御部は、前記マスター角度制御指令値を利用可能である場合、前記角度制御指令値の演算を制限する請求項
6に記載の回転電機制御装置。
【請求項8】
前記マスタートルク制御部に対応する系統、および、前記マスター角度制御部に対応する系統の少なくとも一方が異常であって、前記トルク制御モードおよび前記角度制御モードにて、1つの前記制御部にて演算された指令値を用いる場合、当該制御部における一部の演算を制限する請求項1~
7のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項9】
前記制御部間の通信に異常が生じた場合、指令値を共有せず、独立駆動にて前記トルク制御モードまたは前記角度制御モードを継続する請求項
1~
8のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項10】
異常発生により、制御に用いる指令値を演算する前記制御部を切り替える場合、切替前に指令値を演算していた前記制御部を切替前制御部、切替後に指令値を演算する前記制御部を切替後制御部とすると、
前記切替後制御部は、異常発生前に前記切替前制御部にて演算されていた指令値および積分値を引き継ぎ、その後の演算を行う請求項1~
9のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、外部制御部(700)からのモード指令に基づき、前記角度制御モードと前記トルク制御モードをと切り替える請求項1~
10のいずれか一項に記載の回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動駆動装置および操舵機構により構成される操舵装置が知られている。特許文献1の制御装置は、自動操舵を行う自動操舵制御と、運転者の操舵トルクをアシストするアシスト制御との各制御を実行する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、2つの制御装置が同じ構成であって、どちらもが自動操舵制御とアシスト制御との各制御を実行しているため、演算負荷が高い。本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、演算負荷を低減可能な回転電機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転電機制御装置は、回転電機(80)の駆動を制御するものであって、相互に通信可能な複数の制御部(150、250)を備える。制御部は、角度指令値に基づいて回転電機の駆動を制御する角度制御モード、および、トルク指令値に基づいて回転電機の駆動を制御するトルク制御モードを含む制御モードを切替可能である。
【0006】
トルク制御モードにおいて複数の制御部にて共有されるマスタートルク指令値を演算する制御部であるマスタートルク制御部(150)と、角度制御モードにおいて複数の制御部にて共有されるマスター角度指令値を演算する制御部であるマスター角度制御部(250)とは、異なっており、異常発生箇所、および、異常発生時の制御モードがトルク制御モードか角度制御モードかに応じ、異常時処置を異ならせる。
第1の態様では、制御部は、外部制御部(700)から角度指令値を取得する。トルク制御モード中において、外部制御部と一部の制御部との間の通信に異常が生じた場合、角度制御モードへの移行を禁止し、トルク制御モードを継続する。角度制御モード中において、外部制御部とマスター角度制御部との通信に異常が生じた場合、角度制御モードを中止し、トルク制御モードへ移行し、外部制御部とマスター角度制御部以外の制御部との通信に異常が生じた場合、マスター角度制御部に対応する系統を用いて角度制御モードを継続する。
第2の態様では、トルク制御モード中において、一部の制御部にて指令演算異常が生じた場合、正常に指令演算可能な制御部に対応する系統を用いて回転電機の駆動を継続する。角度制御モード中において、マスター角度制御部にて指令演算異常が生じた場合、角度制御モードを中止し、トルク制御モードへ移行し、マスター角度制御部以外の制御部にて指令演算異常が生じた場合、マスター角度制御部に対応する系統を用いて角度制御モードを継続する。
第3の態様では、トルク制御モード中において、巻線(180、280)に流れる電流の通電経路を構成する駆動系の一部に異常が生じた場合、正常である駆動系に対応する系統を用いて回転電機の駆動を継続する。角度制御モード中において、マスター角度制御部に対応する駆動系に異常が生じた場合、角度制御モードを中止し、正常である駆動系に対応する系統でのトルク制御モードへ移行し、マスター角度制御部以外の制御部に対応する駆動系に異常が生じた場合、マスター角度制御部に対応する系統を用いて角度制御モードを継続する。
これにより、同一の制御部がマスタートルク指令値およびマスター角度指令値を演算する場合と比較し、演算負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態によるステアリングシステムの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態による駆動装置の断面図である。
【
図4】第1実施形態によるECUを示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態による制御部を示すブロック図である。
【
図6】第1実施形態による系統間調停演算部の構成例を示す模式図である。
【
図7】第1実施形態による第1制御部のモード選択処理を説明するフローチャートである。
【
図8】第1実施形態による第2制御部のモード選択処理を説明するフローチャートである。
【
図9】第1実施形態によるモード切替処理を説明するフローチャートである。
【
図10】第2実施形態によるモード切替処理を説明するフローチャートである。
【
図11】第3実施形態による制御部と上位ECUとの通信を説明する模式図である。
【
図12】第3実施形態による通信異常発生時における異常時処置を説明する説明図である。
【
図13】第3実施形態による指令演算異常発生時における異常時処置を説明する説明図である。
【
図14】第3実施形態による駆動系発生時における異常時処置を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、本発明による回転電機制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1実施形態による回転電機制御装置を
図1~
図9に示す。
図1に示すように、回転電機制御装置としてのECU10は、回転電機であるモータ80の駆動を制御するモータ制御装置であって、モータ80とともに、例えば車両のステアリング操作を補助するための電動パワーステアリング装置8に適用される。
【0009】
図1は、電動パワーステアリング装置8を備えるステアリングシステム90の構成を示す。ステアリングシステム90は、操舵部材であるステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、および、電動パワーステアリング装置8等を備える。
【0010】
ステアリングホイール91は、ステアリングシャフト92と接続される。ステアリングシャフト92には、操舵トルクを検出するトルクセンサ94が設けられる。トルクセンサ94は、第1センサ部194および第2センサ部294を有しており、各々自身の故障検出ができるセンサが二重化されている。ステアリングシャフト92の先端には、ピニオンギア96が設けられる。ピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が連結される。
【0011】
運転者がステアリングホイール91を回転させると、ステアリングホイール91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換される。一対の車輪98は、ラック軸97の変位量に応じた角度に操舵される。
【0012】
電動パワーステアリング装置8は、モータ80、モータ80の回転を減速してステアリングシャフト92に伝える動力伝達部としての減速ギア89、および、ECU10等を備える。すなわち、本実施形態の電動パワーステアリング装置8は、所謂「コラムアシストタイプ」であるが、モータ80の回転をラック軸97に伝える所謂「ラックアシストタイプ」等としてもよい。本実施形態では、ステアリングシャフト92が「駆動対象」に対応する。
【0013】
図1、
図2、
図3および
図4に示すように、モータ80は、操舵に要するトルクの一部または全部を出力するものであって、電源としてのバッテリ101、201から電力が供給されることにより駆動され、減速ギア89を正逆回転させる。モータ80は、3相ブラシレスモータであって、ロータ860およびステータ840を有する。
【0014】
モータ80は、巻線組としての第1モータ巻線180および第2モータ巻線280を有する。モータ巻線180、280は電気的特性が同等であり、共通のステータ840に、互いに電気角30[deg]ずらしてキャンセル巻きされる。これに応じて、モータ巻線180、280には、位相φが30[deg]ずれた相電流が通電されるように制御される。通電位相差を最適化することで、出力トルクが向上する。また、6次のトルクリプルを低減することができ、騒音、振動の低減することができる。以下適宜、騒音および振動を「NV」とする。また、電流も分散されることで発熱が分散、平準化されるため、各センサの検出値やトルク等、温度依存の系統間誤差を低減可能であるとともに、通電可能な電流量を増やすことができる。モータ巻線180、280の電気的特性は異なっていてもよい。
【0015】
以下、第1モータ巻線180の通電制御に係る第1インバータ部120および第1制御部150等の組み合わせを第1系統L1、第2モータ巻線280の通電制御に係る第2インバータ部220および第2制御部250等の組み合わせを第2系統L2とする。また、第1系統L1に係る構成を主に100番台で付番し、第2系統L2に係る構成を主に200番台で付番する。また、第1系統L1および第2系統L2において、同様または類似の構成には、下2桁が同じとなるように付番する。以下適宜、「第1」を添え字の「1」、「第2」を添え字の「2」として記載する。
【0016】
駆動装置40は、モータ80の軸方向の一方側にECU10が一体的に設けられており、いわゆる「機電一体型」であるが、モータ80とECU10とは別途に設けられていてもよい。ECU10は、モータ80の出力軸とは反対側において、シャフト870の軸Axに対して同軸に配置されている。ECU10は、モータ80の出力軸側に設けられていてもよい。機電一体型とすることで、搭載スペースに制約のある車両において、ECU10とモータ80とを効率的に配置することができる。
【0017】
モータ80は、ステータ840、ロータ860、および、これらを収容するハウジング830等を備える。ステータ840は、ハウジング830に固定されており、モータ巻線180、280が巻回される。ロータ860は、ステータ840の径方向内側に設けられ、ステータ840に対して相対回転可能に設けられる。
【0018】
シャフト870は、ロータ860に嵌入され、ロータ860と一体に回転する。シャフト870は、軸受835、836により、ハウジング830に回転可能に支持される。シャフト870のECU10側の端部は、ハウジング830からECU10側に突出する。シャフト870のECU10側の端部には、マグネット875が設けられる。
【0019】
ハウジング830は、リアフレームエンド837を含む有底筒状のケース834、および、ケース834の開口側に設けられるフロントフレームエンド838を有する。ケース834とフロントフレームエンド838とは、ボルト等により互いに締結されている。リアフレームエンド837には、リード線挿通孔839が形成される。リード線挿通孔839には、モータ巻線180、280の各相と接続されるリード線185、285が挿通される。リード線185、285は、リード線挿通孔839からECU10側に取り出され、基板470に接続される。
【0020】
ECU10は、カバー460、カバー460に固定されているヒートシンク465、ヒートシンク465に固定されている基板470、および、基板470に実装される各種の電子部品等を備える。
【0021】
カバー460は、外部の衝撃から電子部品を保護したり、ECU10の内部への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー460は、カバー本体461、および、コネクタ部103、203が一体に形成される。コネクタ部103、203は、カバー本体461と別体であってもよい。コネクタ部103、203の端子463は、図示しない配線等を経由して基板470と接続される。コネクタ数および端子数は、信号数等に応じて適宜変更可能である。コネクタ部103、203は、駆動装置40の軸方向の端部に設けられ、モータ80と反対側に開口する。
【0022】
基板470は、例えばプリント基板であり、リアフレームエンド837と対向して設けられる。基板470には、2系統分の電子部品が系統ごとに独立して実装されており、完全冗長構成をなしている。本実施形態では、1枚の基板470に電子部品が実装されているが、複数枚の基板に電子部品を実装するようにしてもよい。
【0023】
基板470の2つの主面のうち、モータ80側の面をモータ面471、モータ80と反対側の面をカバー面472とする。
図3に示すように、モータ面471には、インバータ部120を構成するスイッチング素子121、インバータ部220を構成するスイッチング素子221、角度センサ126、226、カスタムIC135、235等が実装される。角度センサ126、226は、マグネット875の回転に伴う磁界の変化を検出可能なように、マグネット875と対向する箇所に実装される。
【0024】
カバー面472には、コンデンサ128、228、インダクタ129、229、および、制御部150、250を構成するマイコン等が実装される。
図3では、制御部150、250を構成するマイコンについて、それぞれ「150」、「250」を付番した。コンデンサ128、228は、バッテリ101、201から入力された電力を平滑化する。また、コンデンサ128、228は、電荷を蓄えることで、モータ80への電力供給を補助する。コンデンサ128、228、および、インダクタ129、229は、フィルタ回路を構成し、バッテリを共用する他の装置から伝わるノイズを低減するとともに、駆動装置40からバッテリを共用する他の装置に伝わるノイズを低減する。なお、
図3中には図示を省略しているが、電源リレー122、222、モータリレー125、225、および、電流センサ127、227等についても、モータ面471またはカバー面472に実装される。
【0025】
図4に示すように、ECU10は、インバータ部120、220、および、制御部150、250等を備える。図中等、適宜、「制御部」を、「マイコン」と記載する。ECU10には、コネクタ部103、203が設けられる。第1コネクタ部103には、第1電源端子105、第1グランド端子106、第1IG端子107、第1通信端子108、および、第1トルク端子109が設けられる。
【0026】
第1電源端子105は、図示しないヒューズを経由して第1バッテリ101に接続される。第1電源端子105を経由して第1バッテリ101の正極から供給された電力は、電源リレー122、インバータ部120、および、モータリレー125を経由して、第1モータ巻線180に供給される。第1グランド端子106は、ECU10の内部の第1系統のグランドである第1グランドGND1と、ECU10の外部の第1系統のグランドである第1外部グランドGB1とに接続される。車のシステムにおいては金属ボデーが共通のGNDプレーンとなっており、第1外部グランドGB1はGNDプレーン上の接続ポイントの1つを示し、第2バッテリ201の負極もこのGNDプレーン上の接続ポイントに接続される。
【0027】
第1IG端子107は、イグニッションスイッチ等である車両の始動スイッチと連動してオンオフ制御される第1スイッチを経由して第1バッテリ101の正極と接続される。第1IG端子107を経由して第1バッテリ101から供給された電力は、第1カスタムIC135に供給される。第1カスタムIC135には、第1ドライバ回路136、第1回路電源137、図示しないマイコン監視モニタ、および、図示しない電流モニタアンプ等が含まれる。
【0028】
第1通信端子108は、第1車両通信回路111と、第1車両通信網195とに接続される。第1車両通信網195と第1制御部150とは、第1車両通信回路111を経由して、送受信が可能に接続される。また、第1車両通信網195と第2制御部250とは、受信のみ可能に接続され、第2制御部250が故障しても、第1制御部150を含む第1車両通信網195に影響がないように構成される。
【0029】
第1トルク端子109は、トルクセンサ94の第1センサ部194と接続される。第1センサ194部の検出値は、第1トルク端子109および第1トルクセンサ入力回路112を経由して、第1制御部150に入力される。ここで第1センサ部194および第1制御部150は、このトルクセンサ入力回路系の故障が検出されるように構成される。
【0030】
第2コネクタ部203には、第2電源端子205、第2グランド端子206、第2IG端子207、第2通信端子208、および、第2トルク端子209が設けられる。第2電源端子205は、図示しないヒューズを経由して第2バッテリ201の正極に接続される。第2電源端子205を経由して第2バッテリ201から供給された電力は、電源リレー222、インバータ部220、および、モータリレー225を経由して、第2モータ巻線280に供給される。
【0031】
第2グランド端子206は、ECU10の内部の第2系統のグランドである第2グランドGND2と、ECU10の外部の第2系統のグランドである第2外部グランドGB2とに接続される。車のシステムにおいては金属ボデーが共通のGNDプレーンとなっており、第2外部グランドGB2はGNDプレーン上の接続ポイントの1つを示し、さらに、第2バッテリ201の負極もこのGNDプレーン上の接続ポイントに接続される。ここで、少なくとも異なった系統は、GNDプレーン上の同一の接続ポイントに接続しないよう構成される。
【0032】
第2IG端子207は、車両の始動スイッチと連動してオンオフ制御される第2スイッチを経由して第2バッテリ201の正極と接続される。第2IG端子207を経由して第2バッテリ201から供給された電力は、第2カスタムIC235に供給される。第2カスタムIC235には、第2ドライバ回路236、第2回路電源237、図示しないマイコン監視モニタ、および、図示しない電流モニタアンプ等が含まれる。
【0033】
第2通信端子208は、第2車両通信回路211と、第2車両通信網295とに接続される。第2車両通信網295と第2制御部250とは、第2車両通信回路211を経由して、送受信が可能に接続される。また、第2車両通信網295と第1制御部150とは、受信のみ可能に接続し、第1制御部150が故障しても、第2制御部250を含む第2車両通信網295に影響がないように構成される。
【0034】
第2トルク端子209は、トルクセンサ94の第2センサ部294と接続される。第2センサ部294の検出値は、第2トルク端子209および第2トルクセンサ入力回路212を経由して、第2制御部250に入力される。ここで第2センサ部294および第2制御部250は、このトルクセンサ入力回路系の故障が検出されるように構成される。
【0035】
図4では、通信端子108、208は、それぞれ別途の車両通信網195、295に接続されているが、同一の車両通信網に接続されてもよい。また、
図4では、車両通信網195、295として、CAN(Controller Area Network)を例示しているが、CAN-FD(CAN with Flexible Data rate)やFlexRay等、どのような規格のものでもよい。
【0036】
第1インバータ部120は、スイッチング素子121を有する3相インバータであって、第1モータ巻線180の電力を変換する。第2インバータ部220は、スイッチング素子221を有する3相インバータであって、第2モータ巻線280の電力を変換する。
【0037】
第1電源リレー122は、第1電源端子105と第1インバータ部120との間に設けられる。第1モータリレー125は、第1インバータ部120と第1モータ巻線180との間の各相に設けられる。第2電源リレー222は、第2電源端子205と第2インバータ部220との間の各相に設けられる。第2モータリレー225は、第2インバータ部220と第2モータ巻線280との間に設けられる。
【0038】
本実施形態では、スイッチング素子121、221、電源リレー122、222、および、モータリレー125、225は、いずれもMOSFETであるが、IGBT等の他の素子を用いてもよい。第1電源リレー122をMOSFETのように寄生ダイオードを有する素子で構成する場合、寄生ダイオードの向きが逆向きとなるように2つの素子を直列に接続することが望ましい。第2電源リレー222も同様である。これにより、バッテリ101、201が誤って逆向きに接続された場合に、逆向きの電流が流れるのを防ぐことができる。電源リレー122、222は、メカリレーであってもよい。
【0039】
第1スイッチング素子121(
図3参照)、第1電源リレー122および第1モータリレー125は、第1制御部150によりオンオフ作動が制御される。第2スイッチング素子221(
図3参照)、第2電源リレー222および第2モータリレー225は、第2制御部250によりオンオフ作動が制御される。
【0040】
第1角度センサ126は、モータ80の回転角を検出し、検出値を第1制御部150に出力する。第2角度センサ226は、モータ80の回転角を検出し、検出値を第2制御部250に出力する。ここで、第1角度センサ126と第1制御部150、および第2角度センサ226と第2制御部250は、各々の角度センサ入力回路系の故障が検出されるように構成される。
【0041】
第1電流センサ127は、第1モータ巻線180の各相に通電される電流を検出する。第1電流センサ127の検出値は、カスタムIC135内の増幅回路にて増幅され、第1制御部150に出力される。第2電流センサ227は、第2モータ巻線280の各相に通電される電流を検出する。第2電流センサ227の検出値は、カスタムIC235内の増幅回路にて増幅され、第2制御部250に出力される。
【0042】
第1ドライバ回路136は、第1制御部150からの制御信号に基づき、第1スイッチング素子121、第1電源リレー122および第1モータリレー125を駆動する駆動信号を各素子に出力する。第2ドライバ回路236は、第2制御部250からの制御信号に基づき、第2スイッチング素子221、第2電源リレー222および第2モータリレー225を駆動する駆動信号を各素子に出力する。
【0043】
制御部150、250は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部150、250における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。ここで、第1制御部150、および第2制御部250は、例えばロックドステップデュアルマイコン等を使用し、各々の自身の故障が検出されるように構成される。
【0044】
制御部150、250は、マイコン間通信にて相互に情報を送受信可能である。また、制御部150、250は、車両通信網195、295を経由して、外部制御部としての上位ECU700から舵角指令θs
*を含む自動運転指令を取得する。上位ECU700は、例えば自動運転制御を司るADSECU等である。
図4では上位ECU700を1つのブロックで記載しているが、上位ECU700は複数であってもよい。制御部150、250は、上位ECU700からの指令等に応じ、制御モードを切り替える。制御モードには、運転者の操舵のトルクに応じてモータ80を制御する操舵アシストモード、運転者の操舵によらず舵角θsを自動制御する自動運転モード、ならびに、操舵アシストモードおよび自動運転モードの一方から他方へ移行するときの移行モードが含まれる。以下適宜、操舵アシストモードを「EPSモード」、自動運転モードを「ADSモード」とする。
【0045】
図5に示すように、第1制御部150は、フェイルセーフ演算部151、基本アシスト演算部152、アシスト補償制御演算部153、EPSアシスト演算部154、角度指令演算部155、ADS補償制御演算部156、ADSアシスト演算部157、系統内調停演算部158、系統間調停演算部159、および、電流フィードバック演算部160等を備える。
【0046】
第2制御部250は、フェイルセーフ演算部251、基本アシスト演算部252、アシスト補償制御演算部253、EPSアシスト演算部254、角度指令演算部255、ADS補償制御演算部256、ADSアシスト演算部257、系統内調停演算部258、系統間調停演算部259、および、電流フィードバック演算部260等を備える。第1系統L1に係る構成や値と第2系統L2に係る構成や値とを読み替えることで同様と見なせる点については、第2制御部250に係る説明を適宜省略し、第1制御部150を中心に説明する。
【0047】
フェイルセーフ演算部151は、インバータ部120等、自系統の故障を監視する。また、フェイルセーフ演算部151は、第2制御部250との通信状態、および、第2系統L2の動作状態を監視する。第2系統L2の動作状態の監視方法として第2系統L2の異常を検出したときに自系統を停止する回路(例えば、第2インバータ部220、第2電源リレー222、および第2モータリレー225)または信号線302のうち、少なくとも1つの状態を監視し、非常停止しているか否かを判断する。本実施形態では、第2ドライバ回路236から第2電源リレー222に出力される第2リレーゲート信号Vrg2を取得する他系統リレー監視回路139が設けられ、第2リレーゲート信号Vrg2に基づいて第2電源リレー222の状態を監視する。フェイルセーフ演算部151は、自系統および他系統のグランド電位の状態を監視する。
【0048】
フェイルセーフ演算部151の監視結果は、自系統の系統内調停演算部158および他系統の系統間調停演算部259に送信される。なお、自系統の系統内調停演算部158に送信される情報と、他系統の系統間調停演算部259に送信される情報とは、例えば一部の情報を省略する等、異なっていてもよい。
【0049】
基本アシスト演算部152は、操舵トルクや車速等に基づき、基本アシスト指令値を演算する。アシスト補償制御演算部153は、基本アシスト指令値を補償するアシスト補償量を演算する。アシスト補償量は、例えばNV低減や、操舵感を向上させるように演算される値である。EPSアシスト演算部154は、アシスト指令値およびアシスト補償量に基づき、EPS電流指令値I_eps1*を演算する。
【0050】
角度指令演算部155は、上位ECU700から取得される舵角指令θs*に基づき、角度指令値を演算する。ADS補償制御演算部156は、角度指令値を補償するADS補償量を演算する。ADS補償量は、例えば車両の挙動安定性を向上させるように演算される値である。ADSアシスト演算部157は、角度指令値およびADS補償量に基づき、ADS電流指令値I_ads1*を演算する。
【0051】
系統内調停演算部158は、フェイルセーフ演算部151の監視結果、EPS電流指令値I_eps1*、および、ADS電流指令値I_ads1*に基づき、系統内調停電流指令値I_a1*を演算する。本実施形態では、第1制御部150は、EPSマスターとして用いるので、通常時、EPS電流指令値I_eps1*を系統内調停電流指令値I_a1*とする。演算された系統内調停電流指令値I_a1*は、自系統の系統間調停演算部159に出力される。また、系統内調停電流指令値I_a1*は、マイコン間通信により、他系統の系統間調停演算部259に出力される。ここでは、電流指令値にて調停を行う例を記載しているが、トルク指令値や舵角指令値を用いて調停してもよい。また、系統内調停演算部158は、フェイルセーフ演算部151の監視結果に応じてフェイルセーフ処置を行う場合、アシスト停止や漸減等の処置を適宜行う。
【0052】
系統内調停演算部258は、フェイルセーフ演算部251の監視結果、EPS電流指令値I_eps2*、および、ADS電流指令値I_ads2*に基づき、系統内調停電流指令値I_a2*を演算する。本実施形態では、第2制御部250は、ADSマスターとして用いるので、通常時、ADS電流指令値I_ads2*を系統内調停電流指令値I_a2*とする。フェイルセーフ処置等は、系統内調停演算部158と同様である。以下適宜、簡略化のため、EPS電流指令値I_eps1*が、系統内調停演算部158から系統間調停演算部159、259に出力されるものとして説明する。また、ADS電流指令値I_ads2*が系統内調停演算部258から系統間調停演算部159、259に出力されるものとして説明する。
【0053】
系統間調停演算部159は、自系統の系統内調停電流指令値I_a1*、他系統の系統内調停電流指令値I_a2*、および、フェイルセーフ演算部151、251の監視結果に基づき、系統間調停電流指令値I1*を演算する。系統間調停演算部259は、自他系統の系統内調停電流指令値I_a2*、他系統の系統内調停電流指令値I_a1*、および、フェイルセーフ演算部151、251の監視結果に基づき、系統間調停電流指令値I2*を演算する。
【0054】
系統間調停演算部159では、
図6(a)に示すように、制御モードに応じて、EPS電流指令値I_eps1
*、または、ADS電流指令値I_ads2
*を系統間調停電流指令値I1
*として選択する。また例えば、制御モードの切り替え時等、
図6(b)に示すように、電流指令値I_eps1
*、I_ads2
*を加算した値を系統間調停電流指令値I1
*としてもよいし、
図6(c)に示すように、ゲインに応じて重み付けをして加算した値を系統間調停電流指令値I1
*としてもよい。
【0055】
図5に戻り、電流フィードバック演算部160は、系統間調停電流指令値I1
*に基づく電流フィードバック演算を行い、スイッチング素子121のオンオフ作動を制御する制御信号を生成する。
【0056】
ここで、基本アシスト演算部152、252、アシスト補償制御演算部153、253、および、EPSアシスト演算部154、254は、主にEPSモードでの制御演算に用いられる。角度指令演算部155、255、ADS補償制御演算部156、256、および、ADSアシスト演算部157、257は、主にADSモードでの制御演算に用いられる。フェイルセーフ演算部151、251は、EPSモードおよびADSモードにて共通の演算が行われる。
【0057】
本実施形態では、1つの制御部にて演算された指令値を共有して複数系統を制御する「マスタースレーブ方式」にて、モータ80の駆動を制御する。以下、指令値の演算を行う制御部および対応する構成を「マスター」、マスターから受信した指令値を用いて制御を行う制御部および対応する構成を「スレーブ」とする。マスタースレーブ方式とすることで、複数系統を協調させてモータ80の駆動を制御することができる。その反面、マスタースレーブ方式では、マスター制御部への依存度が高く、マスター制御部の演算負荷が高くなる。さらに、本実施形態の制御部150、250は、運転者の操舵に応じたアシストトルクを出力するアシスト制御演算に加え、制御部150、250間の通信および調停、上位ECU700からの舵角指令や操舵介入等、高機能化に伴い、演算負荷が増加傾向にある。また、車載、セキュリティおよび機能安全等の要件から、使用できるマイコンの制約があり、演算負荷の低減が望まれる。
【0058】
そこで本実施形態では、EPSモードにおけるマスターと、ADSモードにおけるマスターを異なる制御部としている。本実施形態では、第1制御部150を、EPSモードにおけるマスター、ADSモードにおけるスレーブとする。また、第2制御部250を、ADSモードにおけるマスター、EPSモードにおけるスレーブとする。
【0059】
第1制御部150は、ADSモードでの指令演算を行う角度指令演算部155、ADS補償制御演算部156およびADSアシスト演算部157の機能を有しているが、第2系統L2が正常であって、ADS電流指令値I_ads2*が利用可能であれば、角度指令演算部155、ADS補償制御演算部156およびADSアシスト演算部157での演算を制限する。具体的には、角度指令演算部155、ADS補償制御演算部156およびADSアシスト演算部157の一部または全部の演算を停止してもよいし、演算周期を長くすることで、演算頻度を下げてもよい。
【0060】
第2制御部250は、EPSモードでの指令演算を行う基本アシスト演算部252、アシスト補償制御演算部253およびEPSアシスト演算部254の機能を有しているが、第1系統L1が正常であって、EPS電流指令値I_eps1*が利用可能であれば、基本アシスト演算部252、アシスト補償制御演算部253およびEPSアシスト演算部254での演算を制限する。具体的には、基本アシスト演算部252、アシスト補償制御演算部253およびEPSアシスト演算部254の一部または全部の演算を停止してもよいし、演算周期を長くすることで、演算頻度を下げてもよい。
【0061】
本実施形態のモード選択処理を
図7および
図8のフローチャートに基づいて説明する。
図7は第1制御部150の処理であり、
図8は第2制御部250の処理であって、それぞれ自系統が正常である場合に所定の周期で実行される。以下、ステップS101のステップを省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
【0062】
EPSマスターであり、ADSスレーブである第1制御部150での処理を
図7に基づいて説明する。S101では、第1制御部150は、自動運転中か否かを判断する。ここでは、いわゆる運転支援についても自動運転の概念に含め、肯定判断するようにしてもよい。S201も同様である。自動運転中ではないと判断された場合(S101:NO)、S105へ移行する。自動運転中であると判断された場合(S101:YES)、S102へ移行する。
【0063】
S102では、第1制御部150は、他系統が異常か否か判断する。他系統が異常であると判断された場合(S102:YES)、S103へ移行し、他系統が正常であると判断された場合(S102:NO)、S104へ移行する。
【0064】
S103では、第1制御部150は、ADSモードからEPSモードに切り替える。この場合、EPS電流指令値I_eps1*を用いてモータ80の駆動を制御する。または、第1制御部150は、自身がADSマスターとしてADS制御を継続してもよい。この場合、ADS電流指令値I_ads1*を用いてモータ80の駆動を制御する。第1制御部150をADSマスターとする場合、第1制御部150がEPSモードおよびADSモードのマスターとなり、演算負荷が増加するため、少なくとも一部(例えばアシスト補償制御演算部153およびADS補償制御演算部156等)の演算を停止したり、演算周期を長くしたりすることで、演算負荷の増加を抑制するようにしてもよい。
【0065】
S104では、第1制御部150は、ADSスレーブとして、ADSモードを継続する。この場合、第1制御部150は、第2制御部250から送信されるADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御する。
【0066】
自動運転中ではないと判断された場合(S101:NO)に移行するS105では、第1制御部150は、他系統が異常か否か判断する。他系統が異常であると判断された場合(S105:YES)、S106へ移行し、他系統が正常であると判断された場合(S105:NO)、S107へ移行する。
【0067】
S106では、第1制御部150は、EPS電流指令値I_eps1*を用いて、片系統駆動にてEPSモードを継続する。なお、EPSスレーブが複数ある場合、異常である系統を除いた複数系統でのEPSモードを継続する。S107では、第1制御部150では、EPSマスターとして、EPS電流指令値I_eps1*を第2制御部250に送信し、EPS電流指令値I_eps1*を用いたEPSモードを継続する。
【0068】
ADSマスターであり、EPSスレーブである第2制御部250での処理を
図8に基づいて説明する。S201では、第2制御部250は、自動運転中か否か判断する。自動運転中であると判断された場合(S201:YES)、S205へ移行し、自動運転中ではないと判断された場合(S202:NO)、S203へ移行する。
【0069】
S202では、第2制御部250は、他系統が異常か否か判断する。他系統が異常であると判断された場合(S202:YES)、S203へ移行し、他系統が正常であると判断された場合(S202:NO)、S204へ移行する。
【0070】
S203では、第2制御部250は、自身がEPSマスターとしてEPSモードを継続する。この場合、EPS電流指令値I_eps2*を用いてモータ80の駆動を制御する。また、制御モードをEPSモードからADSモードに切り替え、ADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御するようにしてもよい。なお、日本の現行法規では、車両側の判断にて自動運転に切り替えることはできないが、例えば運転者が気を失った場合等、車両側の判断にて自動運転に切り替えて路肩で自動停止させる等の制御が可能になった場合に適用可能である。
【0071】
S204では、第2制御部250は、EPSスレーブとして、EPSモードを継続する。この場合、第2制御部250は、第1制御部150から送信されるEPS電流指令値I_eps1*を用いてモータ80の駆動を制御する。
【0072】
自動運転中であると判断された場合(S201:YES)に移行するS205では、第2制御部250は、他系統が異常か否か判断する。他系統が異常であると判断された場合(S205:YES)、S206へ移行し、他系統が正常であると判断された場合(S205:NO)、S207へ移行する。
【0073】
S206では、第2制御部250は、ADS電流指令値I_ads2*を用いて、片系統駆動にてADSモードを継続する。なお、ADSスレーブが複数ある場合、異常である系統を除いた複数系統でのADSモードを継続する。S207では、第2制御部250は、ADSマスターとして、ADS電流指令値I_ads2*を第1制御部150に送信し、ADS電流指令値I_ads2*を用いたADSモードを継続する。
【0074】
モード切替処理を
図9のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、制御部150、250のそれぞれで実施される。なお、系統L1、L2が共に正常であるものとして説明する。本実施形態では、制御モードの選択を制御部150、250内にて行っているが、例えば上位ECU700等、外部の制御部にて制御モードを選択し、外部から取得したモード指令に基づいてEPSモードとADSモードとの切り替えを行うようにしてもよい。
【0075】
S301では、制御部150、250は、制御モードがEPSモードか否かを判断する。制御モードがEPSモードであると判断された場合(S301:YES)、S302へ移行し、制御部150、250は、電流指令値I1*、I2*としてEPS電流指令値I_eps1*を選択する。制御モードがADSモードであると判断された場合(S301:NO)、S303へ移行し、制御部150、250は、電流指令値I1*、I2*としてADS電流指令値I_ads2*を選択する。
【0076】
以上説明したように、ECU10は、モータ80の駆動を制御するものであって、相互に通信可能な複数の制御部150、250を備える。制御部150、250は、舵角指令θs*に基づいてモータ80の駆動を制御するADSモード、および、トルク指令値に基づいてモータ80の駆動を制御するトルク制御モードを含む制御モードを切替可能である。
【0077】
本実施形態では、第1制御部150が、EPSモードにおいて複数の制御部150、250にて共有されるEPS電流指令値I_eps1*を演算し、第2制御部250が、ADSモードにおいて複数の制御部150、250にて共有されるADS電流指令値I_ads2*を演算する。すなわち、マスタートルク制御指令値であるEPS電流指令値I_eps1*を演算する制御部と、マスター角度制御指令値ADS電流指令値I_ads2*を演算する制御部とが異なっている。換言すると、マスタートルク制御部とマスター角度制御部とが別の制御部により構成されているということである。
【0078】
本実施形態では、第1制御部150をEPSマスター、第2制御部250をADSマスターとすることで、同一の制御部がEPSマスターおよびADSマスターを担う場合と比較し、演算負荷を低減することができる。ここで、「マスタートルク制御部とマスター角度制御部とが異なっている」とは、マスタートルク制御部とマスター角度制御部とが別のマイコンである、別のECUである、或いは、同一のパッケージ内であってもCPU等の機能が明確に独立していることを意味する。本実施形態では、マスタートルク制御部である第1制御部150と、マスター角度制御部である第2制御部250とが、別のマイコンにて構成される。
【0079】
第2制御部250は、EPS電流指令値I_eps2*を演算可能であって、第1系統L1に異常が生じた場合においても、EPS電流指令値I_eps2*を用いたEPSモードを実施可能である。これによりEPSマスター系統(本実施形態では第1系統L1)に異常が生じた場合であってもEPSモードにてモータ80の駆動制御を行うことができる。
【0080】
第2制御部250は、EPS電流指令値I_eps1*を利用可能である場合、EPS電流指令値I_eps2*の演算を制限する。これにより、ADSマスターである第2制御部250の演算負荷を低減することができる。
【0081】
第1制御部150は、ADS電流指令値I_ads1*を演算可能であって、第2系統L2に異常が生じた場合においても、ADS電流指令値I_ads1*を用いたADSモードを実施可能である。これによりADSマスター系統(本実施形態では第2系統L2)に異常が生じた場合であってもADSモードにてモータ80の駆動制御を行うことができる。
【0082】
第1制御部150は、ADS電流指令値I_ads2*を利用可能である場合、ADS電流指令値I_ads2*の演算を制限する。これにより、EPSマスターである第1制御部150の演算負荷を低減することができる。
【0083】
EPSマスター系統およびADSマスター系統の少なくとも一方が異常であって、EPSモードおよびADSモードにて、1つの制御部にて演算された指令値を用いる場合、当該制御部における一部の演算を制限する。例えば、舵角フィードバック制御、操舵協調制御および電流フィードバック制御以外の演算周期を長くする。これにより、1つの制御部がEPSマスターおおよびADSマスターを担う場合であっても、演算負荷の増大を抑制することができる。
【0084】
第1制御部150に異常が生じ、EPSマスターを第2制御部250に切り替える場合、第2制御部250は、異常発生前に第1制御部150にて演算されていたEPS電流指令値I_eps1*および積分値を引き継ぎ、その後のEPS電流指令値I_eps2*を行う。この場合、第1制御部150が「切替前制御部」に対応し、第2制御部250が「切替後制御部」に対応する。
【0085】
また、第2制御部250に異常が生じ、ADSマスターを第1制御部150に切り替える場合、第1制御部150は、異常発生前に第2制御部250にて演算されていたADS電流指令値I_ads2*および積分値を引き継ぎ、その後のADS電流指令値I_ads1*を行う。この場合、第2制御部250が「切替前制御部」に対応し、第1制御部150が「切替後制御部」に対応する。これにより、異常発生前、スレーブ側での演算が制限されていた場合であっても、指令演算をマスター側からスレーブ側へ適切に移行させることができる。
【0086】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図10に示す。本実施形態では、モード切替処理が上記実施形態と異なるので、この点を中心に説明する。本実施形態では、系統間調停演算部159、259を
図6(c)の構成とし、モードを切り替える際、ゲインを徐変させることで、EPSモードとADSモードとを徐々に切り替える。
【0087】
モード切替処理を
図10のフローチャートに基づいて説明する。以下、前回値を(n-1)、今回値を(n)とする。S351は、
図9中のS301と同様である。制御モードがEPSモードである場合に移行するS352では、制御部150、250は、EPSゲインKeの前回値が1か否か判断する。EPSゲインKeの前回値が1であると判断された場合(S352:YES)、S353へ移行し、制御部150、250は、電流指令値I1
*、I2
*をEPS電流指令値I_eps1
*とし、EPSモードを継続する。EPSゲインKeの前回値が1ではないと判断された場合(S352:NO)、S354へ移行する。
【0088】
S354では、制御部150、250は、EPSゲインKeを増加させ、ADSゲインKaを減少させるように、EPSゲインKeおよびADSゲインKaを演算する(式(1)、(2)参照)。なお、式中のα1を一定とすれば、線形的にゲインが増減する。また、ゲインを非線形で増減させるように、α1を設定してもよいし、LPF等を用いてもよい。また、ゲインKe、Kaは、0以上、1以下であって、和が1となるようにする。ゲインKe、Kaが1より大きくなった場合は1、0より小さくなった場合は0とする。S358も同様である。S355では、制御部150、250は、EPSゲインKeおよびADSゲインKaを用いて、電流指令値I1*、I2*を演算する(式(3)参照)。
【0089】
Ke(n)=Ke(n-1)+α1 ・・・(1)
Ka(n)=Ka(n-1)-α1 ・・・(2)
I1*=I2*=Ke×I_eps1*+Ka×I_ads2* ・・・(3)
【0090】
制御モードがADSモードである場合に移行するS356では、制御部150、250は、ADSゲインKaの前回値が1か否か判断する。ADSゲインKaの前回値が1であると判断された場合(S356:YES)、S357へ移行し、制御部150、250は、電流指令値I1*、I2*をADS電流指令値I_ads2*とし、ADSモードを継続する。ADSゲインKaの前回値が1ではないと判断された場合(S356:NO)、S358へ移行する。
【0091】
S358では、制御部150、250は、EPSゲインKeを減少させ、ADSゲインKaを増加させるように、EPSゲインKeおよびADSゲインKaを演算する(式(4)、(5)参照)。なお、式中のα2は、α1と同じでもよいし、異なっていてもよい。S359の処理は、S355の処理と同様である。
【0092】
Ke(n)=Ke(n-1)-α1 ・・・(4)
Ka(n)=Ka(n-1)+α1 ・・・(5)
【0093】
本実施形態では、EPSモードとADSモードとを徐々に切り替えるので、制御モードに切り替えによるトルクの急変等を防ぐことができる。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0094】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図11~
図14に示す。本実施形態では、異常箇所に応じたモード切り替えの詳細を説明する。EPSモードとADSモードを切り替える際、第1実施形態のように速やかに切り替えてもよいし、第2実施形態のように徐々に切り替えてもよい。
【0095】
図11に示すように、本実施形態では、制御部150、250は、それぞれ車両通信網195、295を経由して上位ECU700から情報を送受信している。また、制御部150、250は、マイコン間通信により情報を送受信している。ここで、通信異常が生じた場合の異常時処置を
図12に示す。
【0096】
以下、EPSマスターである第1制御部150と上位ECU700との通信を「(C1)EPSマスター/上位ECU」、ADSマスターである第2制御部250と上位ECU700との通信を「(C2)ADSマスター/上位ECU」、制御部150、250間のマイコン間通信を「(C3)マイコン間通信」とし、正常時を「○」、異常時を「×」とする。
【0097】
通信C1、C2、C3がいずれも正常である場合、異常時処置を行わない。制御モードがEPSモードであれば、EPS電流指令値I_eps1*を用いてモータ80の駆動を制御し、制御モードがADSモードであれば、ADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御する。また、通信C1、C2が共に異常である場合、すなわち制御部150、250がいずれも上位ECU700と正常な通信ができない場合、マイコン間通信の異常の有無によらず、モータ80の駆動を停止し、アシスト停止とする。
【0098】
制御モードがEPSモードである場合について説明する。制御部150、250と上位ECU700との通信が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、異常時処置として、独立駆動に移行し、第1制御部150はEPS電流指令値I_eps1*を用いて、第2制御部250はEPS電流指令値I_eps2*を用いて、モータ80の駆動を制御する。
【0099】
制御部150、250の一方と上位ECU700との通信が正常であって、他方と上位ECU700との通信が異常である場合、ADSモードを開始せず、EPSモードを継続する。
【0100】
なお、第1制御部150と上位ECU700との通信およびマイコン間通信が正常であって、第2制御部250と上位ECU700との通信が異常である場合、第1制御部150にて上位ECU700から受信した情報をマイコン間通信にて第2制御部250に送信し、ADSモードを実施してもよい。また、第1制御部150をADSマスターに切り替えて、ADSモードを実施してもよい。
【0101】
また、第1制御部150と上位ECU700との通信が異常であって、第2制御部250と上位ECU700との通信およびマイコン間通信が正常である場合、マイコン間通信にて、第2制御部250から第1制御部150に必要な情報を送信することで、ADSモードを実施してもよい。
【0102】
制御モードがADSモードである場合について説明する。制御部150、250と上位ECU700との通信が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、異常時処置として、独立駆動でのADSモードを継続する。すなわち、第1制御部150はADS電流指令値I_ads1*を用いてモータ80の駆動を制御し、第2制御部20はADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御する。
【0103】
第1制御部150と上位ECU700との通信が正常であって、第2制御部250と上位ECU700との通信が異常である場合、ADSモードを中止し、EPSモードに移行する。このとき、マイコン間通信が正常であれば、協調駆動によるモータ80の駆動制御が可能であり、マイコン間通信が異常であれば、独立駆動または片系統駆動にてモータ80の駆動を制御する。また、マイコン間通信が正常であれば、第1制御部150をADSマスターに切り替えてADSモードを継続してもよい。
【0104】
第1制御部150と上位ECU700との通信が異常であって、第2制御部250と上位ECU700との通信が正常である場合、第1系統L1を停止し、第2系統L2にてADSモードを継続する。また、マイコン間通信が正常であれば、マイコン間通信にて、第2制御部250から第1制御部150に必要な情報を送信することで、両系統でのADSモードを継続してもよい。
【0105】
指令演算異常が生じた場合の異常時処置を
図13に示す。
図13では、第1制御部150における指令演算を「(E1)EPSマスター指令演算」、第2制御部250における指令演算を「(E2)ADSマスター指令演算」とする。本実施形態では、フェイルセーフ演算部151、基本アシスト演算部152、アシスト補償制御演算部153、EPSアシスト演算部154、角度指令演算部155、ADS補償制御演算部156、ADSアシスト演算部157、系統内調停演算部158、系統間調停演算部159、および、電流フィードバック演算部160が、第1制御部150における指令演算を構成する機能ブロックである。また、フェイルセーフ演算部251、基本アシスト演算部252、アシスト補償制御演算部253、EPSアシスト演算部254、角度指令演算部255、ADS補償制御演算部256、ADSアシスト演算部257、系統内調停演算部258、系統間調停演算部259、および、電流フィードバック演算部260が、第2制御部250における指令演算を構成する機能ブロックである。ここでは、制御部150、250において、指令演算以外は正常であるものとする。
【0106】
制御部150、250の指令演算およびマイコン間通信が、いずれも正常である場合、異常時処置を行わない。制御モードがEPSモードであれば、EPS電流指令値I_eps1*を用いてモータ80の駆動を制御し、制御モードがADSモードであれば、ADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御する。また、制御部150、250にて共に指令演算異常が生じている場合、マイコン間通信の異常の有無によらず、モータ80の駆動を停止し、アシスト停止する。
【0107】
制御モードがEPSモードである場合について説明する。制御部150、250における指令演算が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、独立駆動に移行し、第1制御部150はEPS電流指令値I_eps1*を用い、第2制御部250はEPS電流指令値I_eps2*を用いて、モータ80の駆動を制御する。
【0108】
第1制御部150の指令演算が正常であり、第2制御部250の指令演算が異常である場合、第1系統L1を用いた片系統駆動によりEPSモードを継続する。第2制御部250の指令演算が正常であり、第1制御部150の指令演算が異常である場合、第2系統L2を用いた片系統駆動によりEPSモードを継続する。
【0109】
第1制御部150の指令演算が正常、第2制御部250の指令演算が異常であって、マイコン間通信が正常の場合、第1制御部150にて演算されたEPS電流指令値I_eps1*を第2制御部250に送信し、EPS電流指令値I_eps1*を用いて2系統での駆動を継続してもよい。また、第1制御部150の指令演算が異常、第2制御部250の指令演算が正常であって、マイコン間通信が正常の場合、第2制御部250にて演算されたEPS電流指令値I_eps2*を第1制御部150に送信し、EPS電流指令値I_eps2*を用いて2系統での駆動を継続してもよい。
【0110】
制御モードがADSモードである場合について説明する。制御部150、250における指令演算が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、独立駆動に移行し、第1制御部150はADS電流指令値I_ads1*を用い、第2制御部250はADS電流指令値I_ads2*を用いてADSモードを継続する。
【0111】
第1制御部150の指令演算が正常、第2制御部250の指令演算が異常である場合、ADSモードを中止し、EPSモードに移行する。このとき、マイコン間通信が正常であれば、第1制御部150をADSマスターに切り替えてADSモードを継続してもよい。
【0112】
第1制御部150の指令演算が異常であり、第2制御部250の指令演算が正常である場合、第1系統L1を停止し、第2系統L2にてADSモードを継続する。また、マイコン間通信が正常であれば、マイコン間通信にて、第2制御部250から第1制御部150に必要な情報を送信することで、両系統でのADSモードを継続してもよい。
【0113】
駆動系の異常が生じた場合の異常時処置を
図14に示す。本実施形態では、駆動系には、インバータ部120、220およびモータ巻線180、280が含まれ、モータ巻線180、280に流れる電流であるモータ電流の通電経路を構成する各種部品を「駆動系」とする。第1系統L1の駆動系を「(D1)EPSマスター駆動系」、第2系統L2の駆動系を「(D2)ADSマスター駆動系」とする。
【0114】
第1系統L1の駆動系、第2系統の駆動系およびマイコン間通信が、いずれも正常である場合、異常時処置を行わない。制御モードがEPSモードであれば、EPS電流指令値I_eps1*を用いてモータ80の駆動を制御し、制御モードがADSモードであれば、ADS電流指令値I_ads2*を用いてモータ80の駆動を制御する。また、系統L1、L2の駆動系がいずれも異常である場合、マイコン間通信の異常の有無によらず、モータ80の駆動を停止し、アシスト停止とする。
【0115】
制御モードがEPSモードである場合について説明する。系統L1、L2の駆動系が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、独立駆動に移行し、第1制御部150はEPS電流指令値I_eps1*を用い、第2制御部250はEPS電流指令値I_eps2*を用いて、モータ80の駆動を制御する。
【0116】
第1系統L1の駆動系が正常、第2系統L2の駆動系が異常である場合、第1系統L1を用いた片系統駆動によりEPSモードを継続する。第1系統L1の駆動系が異常、第2系統L2の駆動系が正常である場合、第2系統L2を用いた片系統駆動によりEPSモードを継続する。
【0117】
制御モードがADSモードである場合について説明する。系統L1、L2の駆動系が正常であって、マイコン間通信が異常である場合、独立駆動に移行し、第1制御部150はADS電流指令値I_ads1*を用い、第2制御部250はADS電流指令値I_ads2*を用いてADSモードを継続する。
【0118】
第1系統L1の駆動系が正常、第2系統L2の駆動系が異常の場合、ADSモードを中止し、EPSモードに移行し、第1系統L1での片系統駆動によりモータ80の駆動を制御する。また、第1制御部150をADSマスターに切り替え、第1系統L1での片系統駆動によりADSモードを継続してもよい。第1系統L1の駆動系が異常、第2系統L2の駆動系が正常の場合、第2系統L2の片系統駆動によりADSモードを継続する。
【0119】
本実施形態では、異常発生箇所、および、異常発生時の制御モードがEPSモードかADSモードかに応じ、異常時処置を異ならせる。これにより、異常発生状況に応じて適切な異常時処置を選択することができる。
【0120】
制御部150、250は、上位ECU700から舵角指令θs*を取得する。EPSモード中において、上位ECU700と、一部の制御部150、250との間の通信に異常が生じた場合、ADSモードへの移行を禁止し、EPSモードを継続する。また、ADSモード中において、上位ECU700とADSマスターである第2制御部250との通信に異常が生じた場合、ADSモードを中止し、EPSモードに移行し、上位ECU700とADSスレーブである第1制御部150との通信に異常が生じた場合、第2系統L2を用いてADSモードを継続する。これにより、上位ECU700との通信に異常が生じた場合であっても、モータ80の駆動制御を適切に継続することができる。
【0121】
EPSモード中において、一部の制御部150、250にて指令演算異常が生じた場合、正常に指令演算可能な系統を用いてモータ80の駆動を継続する。この場合、ADSモードへの移行を禁止してもよいし、ADSモードへの移行を許容してもよい。ADSモード中において、第2制御部250にて指令演算異常が生じた場合、ADSモードを中止し、EPSモードへ移行し、第1制御部150にて指令演算異常が生じた場合、第2系統L2を用いてADSモードを継続する。これにより、指令演算異常が生じた場合であっても、モータ80の駆動制御を適切に継続することができる。
【0122】
EPSモード中において、駆動系の一部に異常が生じた場合、正常である駆動系に対応する系統を用いてモータ80の駆動を継続する。この場合、ADSモードへの移行を禁止してもよいし、ADSモードへの移行を許容してもよい。ADSモード中において、第2系統L2の駆動系に異常が生じた場合、ADSモードを中止し、第1系統L1でのEPSモードへ移行し、第1系統L1の駆動系に異常が生じた場合、第2系統L2でのADSモードを継続する。これにより、駆動系の一部に異常が生じた場合であっても、モータ80の駆動制御を適切に継続することができる。
【0123】
EPSモード中にマイコン間通信に異常が生じた場合、指令値を共有せず、独立駆動にてEPSモードを継続する。また、ADSモード中にマイコン間通信に異常が生じた場合、独立駆動にてADSモードを継続する。独立駆動とは、他系統の制御部からの情報を用いず、自系統の制御部にて演算された指令値を用いてモータ80の駆動制御を行うことである。これにより、マイコン間通信に異常が生じた場合であっても、独立制御によりモータ80の駆動制御を適切に継続することができる。
【0124】
上記実施形態では、ECU10が「回転電機制御装置」、モータ80が「回転電機」、モータ巻線180、280が「巻線」、上位ECU700が「外部制御部」、EPSモードが「トルク制御モード」、ADSモードが「角度制御モード」、舵角指令θs*が「角度指令値」に対応する。
【0125】
第1制御部150が「マスタートルク制御部」および「スレーブ角度制御部」に対応し、EPS電流指令値I_eps1*が「マスタートルク制御指令値」、ADS電流指令値I_ads1*が「角度制御指令値」に対応する。
【0126】
第2制御部250が「マスター角度制御部」および「スレーブトルク制御部」に対応し、ADS電流指令値I_ads2*が「マスター角度制御指令値」、EPS電流指令値I_eps2*が「トルク制御指令値」に対応する。
【0127】
「演算を制限する」とは、少なくとも一部の演算を停止する、および、演算周期を長くすることで演算頻度を下げることを含み、演算を制限することで、演算負荷を低減させる。例えば、EPS電流指令値I_eps2*の演算において、「演算を制限する」とは、EPS電流指令値I_eps2*の演算そのものを中止する、EPS電流指令値I_eps2*の一部の演算、例えばアシスト補償量の演算を停止する、および、演算周期を長くすることを含む。もちろん、一部の演算を停止しつつ、演算を継続するものについて演算周期を長くするようにしてもよいし、一部の演算を停止して演算周期が同じであってもよいし、演算周期を長くして全ての演算を継続してもよい。他の値における演算制限についても同様である。
【0128】
(他の実施形態)
上記実施形態では、ADSモードが「角度制御モード」に対応し、EPSモードが「トルク制御モード」に対応する。他の実施形態では、角度制御モードは、ADSモードに限らず、角度指令値に基づいてモータを駆動するどのような制御であってもよい。また、トルク制御モードは、EPSモードに限らず、トルク指令値に基づいてモータの駆動を制御するどのような制御であってもよい。
【0129】
上記実施形態では、制御部は2つである。他の実施形態では、制御部は3つ以上であってもよい。この場合、1つの制御部がマスタートルク制御部かつスレーブ角度制御部、別の1つの制御部がマスター角度制御部かつスレーブトルク制御部であって、残りの制御部がスレーブトルク制御部かつスレーブ角度制御部となる。3系統以上の場合、EPSマスター系統が異常になった場合、ADSマスター系統以外の系統をEPSマスター系統とし、複数系統での制御を継続してもよい。同様に、3系統以上の場合、ADSマスター系統が異常になった場合、EPSマスター系統以外の系統をADSマスター系統とし、複数系統での制御を継続してもよい。
【0130】
上記実施形態では、モータ巻線およびインバータ部が2つずつ設けられる。他の実施形態では、モータ巻線およびインバータ部は、1つまたは3つ以上であってもよい。また、例えば複数のモータ巻線およびインバータ部に対して1つの制御部を設ける、或いは、1つの制御部に対して複数のインバータ部およびモータ巻線を設ける、といった具合に、モータ巻線、インバータ部および制御部の数が異なっていてもよい。上記実施形態では、系統ごとに電源が設けられており、グランドが分離されている。他の実施形態では、1つの電源を複数系統にて共用してもよい。また、複数の系統が共通のグランドに接続されていてもよい。
【0131】
上記実施形態では、回転電機は、3相のブラシレスモータである。他の実施形態では、回転電機は、ブラシレスモータに限らず、どのようなモータとしてもよく、発電機の機能を併せ持つ、所謂モータジェネレータであってもよい。上記実施形態では、回転電機制御装置は、電動パワーステアリング装置に適用される。他の実施形態では、回転電機制御装置を、ステアバイワイヤ装置等、操舵を司る電動パワーステアリング装置以外の装置に適用してもよい。
【0132】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0133】
10・・・ECU(回転電機制御装置)
80・・・モータ
150・・・第1制御部(マスタートルク制御部、スレーブ角度制御部)
250・・・第2制御部(マスター角度制御部、スレーブトルク制御部)
180、280・・・モータ巻線(巻線)
700・・・上位ECU(外部制御部)