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特許7192670繊維強化プラスチック成形用の繊維原料、繊維強化プラスチック成形用の原料及び繊維強化プラスチックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック成形用の繊維原料、繊維強化プラスチック成形用の原料及び繊維強化プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21J 1/00 20060101AFI20221213BHJP
   B29B 7/42 20060101ALI20221213BHJP
   B29B 7/48 20060101ALI20221213BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
D21J1/00
B29B7/42
B29B7/48
B29B7/90
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019108635
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200553
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 真琴
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-191229(JP,A)
【文献】特開2018-131700(JP,A)
【文献】特開2019-085529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21J 1/00 - 7/00
B29B 7/00 - 15/14
B29C 31/00 - 31/10
B29C 37/00 - 37/04
B29C 71/00 - 71/02
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダとなる樹脂原料と混練されて用いられる繊維強化プラスチック成形用の繊維原料において、
セルロース系繊維が積層されたパルプモールド成形体であるとともに、緊度0.3g/cm30.4g/cm3の範囲に設定されて混練前の状態において所定形状に成形されている繊維強化プラスチック成形用の繊維原料。
【請求項2】
紙を用いて成形されたパルプモールド成形体である請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料と、バインダとなる樹脂原料とを有する繊維強化プラスチック成形用の原料において、
記樹脂原料の重量を1とした場合、前記繊維原料の重量が0.01~3の範囲に設定されている繊維強化プラスチック成形用の原料
【請求項4】
繊維と樹脂とからなる繊維強化プラスチックの製造方法において、
セルロース系繊維が積層されたパルプモールド成形体であるとともに緊度0.3g/cm 3 ~0.4g/cm 3 に設定されて所定形状に成形されている繊維原料を用意し、
バインダとなる樹脂原料と前記繊維原料をスクリューで混練してペレットを成形する第一工程と、複数の前記ペレットを所定形状に成形して前記繊維強化プラスチックとする第二工程とを有する繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記第一工程を二回又は三回だけ繰り返すとともに、二回目以降の第一工程では、前回の第一工程で製造した前記ペレットを各原料とみなして混錬して再度ペレット化する請求項4に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック成形用の繊維原料、繊維強化プラスチック成形用の原料及び繊維強化プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の繊維強化プラスチックでは、強度性確保の観点などから、バインダとなる樹脂に各種の繊維が含有されている。そして繊維強化プラスチックの分野では、優れた強度を備えるガラス繊維やアラミド繊維などの繊維原料が用いられることが多いが、これら従来の繊維原料は、必ずしも環境にやさしいものではなく、また比較的高価であることが知られている。このため新たな繊維原料が求められており、その一つとしてセルロースナノファイバなどのセルロース系繊維が注目されている。ここでセルロースナノファイバとは、植物由来のセルロース原料(木材パルプなど)をナノサイズまで解繊した繊維である。このセルロースナノファイバは、高弾性率を備えているとともに、その水酸基が化学的に修飾されて疎水化されることで易解繊性などの性能が向上する。そしてセルロースナノファイバの繊維原料は、典型的な緊度(見掛け密度)が0.1g/cm未満であって樹脂に比して軽量であることが知られている。
【0003】
ここで特許文献1に開示の積層パルプモールドの製造方法では、古紙再生パルプと、セルロースナノファイバとを併用することにより、パルプモールドの強度性を向上させている。そこで繊維強化プラスチックの分野においても、このセルロースナノファイバを繊維原料とすることが考えられる。すなわちセルロースナノファイバの繊維原料と、樹脂原料とを混練してペレット化したのち、このペレットを、所定形状に成形して繊維強化プラスチックとする。こうして得られた繊維強化プラスチックは、セルロースナノファイバによって強度性が確保され、さらに環境に配慮されたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018‐199872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで繊維強化プラスチックの製造に際しては、その強度性を適切に確保する観点などから、繊維原料と樹脂原料とを極力均一に混練することが望ましい。しかし一般的なセルロースナノファイバの繊維原料は、低緊度であるがゆえに綿のような不定形状となっており、従来の繊維原料と比べると極端に嵩高であった。このためセルロースナノファイバを使用する場合には、嵩高で不定形状の繊維原料をどのように樹脂原料と均一に混練するかが課題となっていた。もっともセルロースナノファイバ用の専用装置を導入することもできるが、そうすると製造コストの増加や製造工程の複雑化が予想される。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックの提供を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料は、バインダとなる樹脂原料と混練されて用いられる。そして繊維強化プラスチックの分野では、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックの提供を可能にすることが望まれる。そこで本発明の繊維原料は、セルロース系繊維が積層されたパルプモールド成形体であるとともに、緊度0.3g/cm30.4g/cm3の範囲に設定されて混練前の状態において所定形状に成形されている。本発明の繊維原料は、環境に配慮したセルロース系繊維の積層体であるとともに、比較的高緊度で所定形状に成形されている。こうして繊維原料を、比較的高緊度で所定形状とすることで、樹脂原料との混練をより容易に行うことが可能となり、繊維強化プラスチックの強度性の確保と製造コストの低減に資する構成となっている。
【0007】
第2発明の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料は、第1発明の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料において、古紙を用いて成形されたパルプモールド成形体である。本発明の繊維原料は、環境への配慮から古紙を用いているとともに、原料となる古紙の調達が比較的容易であるため、繊維強化プラスチックの製造コストの低減に更に資する構成となっている。
【0008】
第3発明の繊維強化プラスチック成形用の原料は、第1発明又は第2発明に記載の繊維強化プラスチック成形用の繊維原料と、バインダとなる樹脂原料とを有し、樹脂原料の重量を1とした場合、繊維原料の重量が0.01~3の範囲に設定されている。本発明の原料では、個々の繊維原料の重量(大きさ)を、樹脂原料との均一な混練を想定して、樹脂原料の重量を基に規定している。そして繊維原料と樹脂原料の重量(大きさ)に極端な差を設けないことにより、汎用の設備(投入部や混練部)をそのまま利用することが可能となり、繊維強化プラスチックの製造コストの低減に更に資する構成となっている。
【0011】
発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、繊維と樹脂とからなる繊維強化プラスチックの製造方法である。本発明では、セルロース系繊維が積層されたパルプモールド成形体であるとともに緊度0.3g/cm30.4g/cm3に設定されて所定形状に成形されている繊維原料を用意し、下記の第一工程と第二工程を行うことにより、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックを製造することが可能となる。すなわち第一工程では、バインダとなる樹脂原料と繊維原料をスクリューで混練してペレットを成形する。また第二工程では、複数のペレットを所定形状に成形して繊維強化プラスチックとする。本発明では、繊維原料が、環境に配慮したセルロース系繊維の積層体であるとともに、比較的高緊度で所定形状に成形されている。このため本発明の繊維原料は、第一工程において樹脂原料との均一な混練が容易となっており、繊維強化プラスチックの製造コストの低減に資する構成となっている。
【0012】
発明の繊維強化プラスチックの製造方法は、第発明の繊維強化プラスチックの製造方法において、第一工程を二回又は三回だけ繰り返すとともに、二回目以降の第一工程では、前回の第一工程で製造したペレットを各原料とみなして混錬して再度ペレット化する。本発明では、第一工程を複数回繰り返して、ペレット中のセルロース系繊維と樹脂をより均一に混練することにより、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックをより確実に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る第1発明によれば、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックの提供を可能にすることができる。また第2発明によれば、製造コストや環境にさらに十分に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックの提供を可能にすることができる。また第3発明によれば、繊維原料の樹脂原料に対する混練性をより確実に確保することができる。また第発明によれば、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックを製造することができる。そして第発明によれば、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックをより確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】繊維強化プラスチックの斜視図である。
図2】繊維原料の概略斜視図である。
図3】繊維原料と樹脂原料とペレット成形装置の概略図である。
図4】繊維原料の原液と成形型を示す概略図である。
図5】繊維原料の元となる基材と成形型を示す概略図である。
図6】繊維原料の元となる基材を乾燥する工程を示す概略図である。
図7】繊維強化プラスチックを成形する成形装置の概略図である。
図8】セルロース系繊維の配綱領と曲げ弾性率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1図8を参照して説明する。図1に示す繊維強化プラスチック2は、概ね平板状の樹脂成形品であるとともに、強度性確保の観点などから繊維が含有されている。この繊維強化プラスチック2では、図1図3を参照して、環境に配慮する観点から、後述するセルロース系繊維の繊維原料3と、樹脂原料4とを使用している。そして繊維強化プラスチック2の製造に際しては、強度性を確保するために繊維原料3と樹脂原料4を極力均一に混練するのであるが、その際に専用装置の導入などが原因となって製造コストが高騰するといった事態は極力回避すべきである。そこで本実施形態では、後述する構成によって、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料3の樹脂原料4に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチック2の提供を可能にすることとした。以下、各原料3,4の詳細と繊維強化プラスチック2の製造方法について詳述する。
【0016】
[繊維原料]
図2に示す繊維強化プラスチック成形用の繊維原料3は、セルロース系繊維の積層体である。ここで繊維原料3に用いられるセルロース系繊維として、植物繊維(天然繊維)や再生繊維や精製繊維や半合成繊維等の各種のセルロース系繊維を使用でき、原料調達の利便性やリサイクル性を考慮するとパルプ(詳細後述)から得られるセルロース系繊維を好適に使用することができる。また繊維原料3は、一般的なセルロースナノファイバの繊維原料よりも高緊度となるように設定されることで、混練前の状態で所定形状(図2では平板形状)を維持することが可能となっている。すなわち繊維原料3は、緊度が0.2g/cm~1.5g/cmの範囲に設定され、好ましくは0.3g/cm~1.4g/cmの範囲に設定されている。そして緊度が0.2g/cm未満であると、繊維原料3が所定の形状を取りにくくなり、後述の樹脂原料4との均一な混練に専用装置を要するおそれがある。また繊維原料3の緊度を1.5g/cmよりも大きくすると、製造時の手間や時間がかかるなどして、製造コストの増加につながるおそれがある。
【0017】
ここで緊度0.2g/cm~1.5g/cmの範囲の繊維原料3を得る手法として、パルプモールド成形(詳細後述)や抄紙を例示できる。すなわちパルプモールド成形によると、下記[表1]を参照して、典型的に緊度0.3g/cm~0.4g/cmの範囲のパルプモールド成形体を成形できるため、このパルプモールド成形体から所定形状の繊維原料3を得ることができる。なおパルプモールド成形体は、圧縮処理することで高密度化されるため、緊度を0.4g/cmより大きくすることも可能である。また抄紙によると、下記[表2]を参照して、典型的に緊度0.5g/cm~1.4g/cmの範囲の紙体を成形できるため、この紙体から所定形状の繊維原料3を得ることが可能となる。そしてパルプモールド成形や抄紙を汎用装置にて行い、緊度0.3g/cm~1.4g/cmのパルプモールド成形体や紙体を製造することで、所定形状の繊維原料3を比較的安価に得ることが可能となる。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
[樹脂原料]
図3に示す樹脂原料4は、繊維強化プラスチック2の外形をなし且つ繊維同士を結着する役割を有し、典型的に熱可塑性樹脂にて形成することができ、必要に応じて熱硬化性樹脂を用いることもできる。そして混練前の樹脂原料4は、平板状(チップ状)や粒状や粉末状などの各種形状に成形でき、本実施形態では、繊維原料3との均一な混練を行う観点から重量を規定しやすい平板状又は粒状となっている。この種の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、原材料を植物由来とすることができるポリ乳酸樹脂、アラミドなどの芳香族ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(エチレン-2,6-ナフタレート)、ナイロン(ポリアミド)等のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂(熱可塑性タイプ)、ポリフェニレンスルファイド樹脂、プロピレン-エチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、芳香族ビニル系単量体と低級アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、テレフタル酸-エチレングリコール-シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂を例示できる。
【0021】
[繊維原料と樹脂原料の重量(大きさ)]
また図3に示す繊維原料3と樹脂原料4の重量(大きさ)は特に限定しないが、これらの極力均一な混練を実現する観点等から、両原料3,4の重量(大きさ)に過度な差を設けないことが望ましいといえる。すなわち両原料3,4の大きさが極端に異なっていると、一方の原料だけにスクリュー62p(詳細後述)からのせん断力が大きく作用するなどして、両原料3,4の均一な混練を妨げるおそれがある。そして本実施形態の繊維原料3は、上述の通り緊度の範囲が定まっているため、その重量によって大きさを規定することが可能となっている。また樹脂原料4についても、典型的な密度が0.8g/cm~1.5g/cm程度に設定されていることが多く、その重量によって大きさを規定することができる。そこで本実施形態では、混練前の一つの樹脂原料4の重量を1とした場合、個々の繊維原料3の重量を0.01~3の範囲に設定でき、より好ましくは0.06~1.6の範囲に設定できる。
【0022】
例えば下記の[表3]、図2及び図3を参照して、密度0.9程度のポリプロピレンを樹脂原料4とし、個々の樹脂原料4を概ね0.03gの平板状(W3×L4×H3)に成形しておく。この場合には、例えば緊度0.3程度の繊維原料3の重量比を上記範囲に調整すべく、個々の平板状の繊維原料3の巾寸法Wと長さ寸法Lを2mm~10mm程度且つ厚み寸法Hを2mm~3mmに調節することが可能である。このように樹脂原料4と繊維原料3の重量比を設定してこれらの大きさを適度に合わせることにより、これら両原料3,4に、スクリュー62pからのせん断力をバランス良く作用させることが可能となる。さらにスクリュー62pからのせん断力を繊維原料3に作用させることで、この繊維原料3中のセルロース系繊維を、混練時において適度に解繊してナノサイズ化することが可能となる。そして本実施形態では、個々の繊維原料3の大きさが過度に大きくならないため、汎用の設備(後述の第二投入部4pや混練部6p)をそのまま利用することが可能となり、製造コストの低減に更に資する構成となる。
【0023】
【表3】
【0024】
[繊維強化プラスチックの製造方法]
図1に示す繊維強化プラスチック2の製造においては、図3に示すように繊維原料3と樹脂原料4とを用意し、後述の第一工程と第二工程とを行う。そして各原料3,4は、独自に成形してもよく、市販されている各原料3,4を使用してもよい。例えば本実施形態では、図4図6を参照して、独自に製造したパルプモールド成形体から繊維原料3を作成しており、このパルプモールド成形体は下記のパルプモールド成形にて得ることが可能である。
【0025】
[パルプモールド成形(原液の調整工程)]
ここでパルプモールド成形から繊維原料3を得るまでの工程は、成形用の原液8の調整工程(溶解工程,異物除去工程,変性工程)と、吸引成形工程と、乾燥工程と、裁断工程とに分けることができる。すなわち図4に示す原液8は、溶解工程と異物除去工程を経て形成することができ、必要に応じて後述する変性工程を行うことも可能である。そして溶解工程と除去工程においては、所定量(例えば固形分含量が0.5重量%以上となる量)のパルプを水に投入したのち、これらがスラリー状となるまで撹拌して溶解し、さらにパルプ以外の異物を極力除去しておく。そしてパルプとして、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ及び非木材パルプを1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0026】
[古紙の使用]
そして本実施形態においては、リサイクル性の観点などから古紙パルプを用いており、この古紙パルプが本発明の古紙に相当する。この種の古紙パルプとして、離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプを例示できる。この古紙パルプの原材料は、上記[表2]に示すように、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙や無選別古紙から得ることができる。なお本実施形態では、古紙パルプを単独で使用することができ、古紙パルプとその他のパルプ(化学パルプ,機械パルプ,非木材パルプ)を混合して用いることも可能である。この種の化学パルプとして、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹亜硫酸パルプ、広葉樹亜硫酸パルプを例示できる。また機械パルプとして、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)を例示できる。そして非木材パルプとして、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維を原料とするパルプを例示できる。
【0027】
なお原液8には、繊維原料3の性能向上に寄与する添加剤を添加しておくことができる。この種の添加剤として、サイズ剤、乾燥紙力剤や湿潤紙力剤等の紙力増強剤、PH調整剤、濾水性向上剤、消泡剤、嵩高剤、歩留剤、防菌剤、防カビ剤、填料、染料を例示できる。なかでも水の浸透を防いで耐水性向上に寄与するサイズ剤、乾燥状態時の破断強さ(強度性)向上に寄与する乾燥紙力剤、湿った時の強度性向上に寄与する湿潤紙力剤の少なくとも一種を原液8に添加することが好ましい。そしてサイズ剤として、ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤を例示できる。また乾燥紙力剤として、アニオン性ポリアクリルアミド樹脂等のポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂を例示できる。また湿潤紙力剤として、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂(又はその変性物)を例示できる。なお原液8に対する各添加剤の添加量は、繊維原料3に所望の性能を付与できる限り特に限定しない。例えばサイズ剤は、0.5重量%~5重量%の範囲で添加することができ、1.0重量%以上添加することが望ましい。また乾燥紙力剤は、0.5重量%~5重量%の範囲で添加することができ、3.0重量%以上添加することが望ましい。また湿潤紙力剤は、2重量%~15重量%の範囲で添加することができ、4.0重量%以上添加することが望ましい。
【0028】
[変性工程]
ここで変性工程は、パルプ中のセルロース系繊維の水酸基を化学的に修飾して疎水化する工程であり、必要に応じて行うことが可能である。この変性工程は、溶解工程や異物除去工程とは別個に行うことも可能であるが、製造工程の簡略化の観点から溶解工程と同時に行うことが望ましい。そして変性工程によって、セルロース系繊維の水酸基の水素原子をカルボキシル基やアシル基などの疎水基に置換することで、セルロース系繊維の易解繊性が向上するなどして、樹脂原料4との均一な混練に資する構成となる。例えば変性工程において、水酸基の水素原子をカルボキシル基に置換する場合には、所定の薬剤(TEMPO等)をセルロース繊維に付与して、その水酸基を、触媒酸化反応などでカルボキシル基に変換してNa塩にすることができる。
【0029】
[吸引成形工程]
つぎに吸引成形工程では、図4及び図5を参照して、複数のセルロース系繊維を含む原液8を、成形型7を覆う網材7bに付与して、網材7b上にセルロース繊維を積層させて基材3Xを形成する。成形型7は、概ね平坦な成形面7aと、成形面7aに沿うように配置された網材7bと、成形面7aに開口する液体吸入部7cとを備えている。網材7bは、液体の通過は許容するがセルロース系繊維の通過は実質的に許容しないネット状の部材であり、成形面7aの概ね全面を覆うように設置されている。また液体吸入部7cは、原液8中の液体を成形型7内に吸引するための部位であり、この液体吸入部7cの開口が成形面7aの適宜の位置に設けられている。そして液体吸入部7cは、図示しないポンプと、吸引された液体を所定場所に移送する成形型7内の流路(図示省略)とを有している。
【0030】
そして図4に示すように、成形型7を上下逆にして成形面7aを原液8中に浸したのち、液体吸入部7cから原液8中の液体を吸引する。そうすると液体に含まれるセルロース系繊維は、成形面7aを覆う網材7bを通過できないため、網材7b上に徐々に積層していくこととなる。そして所望の積層量のセルロース系繊維が網材7b上に積層されたのちに、成形型7を原液8から引き上げる。そして引き上げられた成形型7の網材7b上には、図5に示すようにセルロース系繊維が積層してなる基材3Xが形成されている。この基材3Xは、繊維原料3の元となる部材であるが、繊維原料3よりも多量の水分が含まれることでウェットな状態となっている。
【0031】
[乾燥工程、裁断工程]
つぎに図6に示す乾燥工程では、基材3Xに含まれる液状成分(主として水分)を加熱により除去してパルプモールド成形体とする。例えば適度にウェットな状態にある基材3Xを成形型7から取外したのち、この基材3Xに含まれる水分を除去するために図示しない加熱装置内に配置して加熱する。なお加熱装置内の構成は特に限定しないが、典型的には、コンベア上に基材3Xを配置し、この基材3Xを移動させながら加熱して乾燥させていく。この加熱装置の設定温度は、基材3X中の余分な水分を除去可能なように100℃以上に設定でき、典型的には150℃~200℃の範囲に設定することができる。なお加熱装置の設定温度が過度に高いと、基材3Xに焦げ付き等が生じるなどして、パルプモールド成形体が部分的に変色するおそれがある。また乾燥時間は特に限定しないが、上述の設定温度では典型的に5分~30分の範囲に設定され、生産スピードとの関係から15分以内であることが望ましい。こうして製造されたパルプモールド成形体は、複数のセルロース系繊維が積層して一体化されることで適度な強度を有し且つ樹脂に比して軽量となっている。なお乾燥工程後のパルプモールド成形体を、さらに圧縮処理することにより高密度化することもでき、このとき加熱することで残余の水分を更に除去できる。そして裁断工程にて、パルプモールド成形体を、樹脂原料に応じて所定の大きさ(重量)となるように分割することで、本実施形態の繊維原料3を得ることができる。
【0032】
[第一工程]
第一工程では、図3を参照して、バインダとなる樹脂原料4と繊維原料3をスクリュー62pで混練して所定形状のペレットPTを成形する。この第一工程では、図3のペレット成形装置PMMを用いて、繊維原料3と樹脂原料4とから複数のペレットPTを成形することができる。ここで各ペレットPTの形状や寸法は、繊維強化プラスチックの成形材料として使用可能である限り特に限定しない。典型的なペレットPTの形状として、略円筒状や角柱状や略球形状を例示でき、本実施形態においては略円筒状のペレットPTを用いることができる。なお各ペレットPTには、セルロース系繊維と樹脂のほかに、各種の添加剤(難燃剤、顔料、フィラーなど)を添加しておくことができる。
【0033】
[ペレット成形装置(スクリュー、混錬条件)]
ここで図3に示すペレット成形装置PMMは、第一投入部2p及び第二投入部4pを備えた混練部6pと、冷却部8pと、裁断部10pと、回収部12pをこの順で備える。そして混練部6pは、押出式の混練機で構成されており、円筒形のシリンダ61pと、そのシリンダ61p内に回転可能に収納されている螺旋状のスクリュー62pと、このスクリュー62pを回転させる駆動部(図示省略)と、シリンダ61p内を加熱する加熱部(図示省略)とを備えている。ここで混練時のスクリュー62pの回転速度は、繊維原料3と樹脂原料4の均一な混練が可能である限り特に限定しないが、典型的には100rpm~900rpmに設定され、より好ましくは200rpm~600rpmに設定される。またシリンダ61p内の加熱温度は、樹脂原料4の融点を基に設定され、例えばポリプロピレンの場合には160℃以上に設定される。そしてシリンダ61p内の加熱温度の上限値は特に限定しないが、繊維原料3の劣化を抑える観点から210℃以下であることが望ましい。そして第一工程時に上述のように混錬条件を適切化することで、繊維原料3の加熱(摩擦熱を含む)による変色などの劣化を極力抑えることが可能となり、所望の繊維強化プラスチックをより確実に製造することが可能となる。
【0034】
そして第一投入部2pから樹脂原料4を投入するとともに、第二投入部4pから繊維原料3を投入して、これら樹脂原料4と繊維原料3を混練部6p内に送り込む(各原料の投入比率は後述)。このとき本実施形態では、個々の繊維原料3が、樹脂原料4に対応して適度な大きさ(重量)となっているため、第二投入部4pや混練部6pの構成を変更する必要がなく、これら各部を汎用構成のまま使用することができる。つぎに混練部6pにおいて、加熱により樹脂原料4を溶融させながら繊維原料3と混練してペレット成形材料(符号省略)としたのち、このペレット成形材料を、混練部6pのノズルから冷却部8pに送出す。このペレット成形材料は、混練部6pのノズルから連続的に送出されて冷却部8pにて冷却されることにより、例えばノズル口の形状に倣った細長い円筒形状の成形体(符号省略)となって裁断部10pに送出される。そして裁断部10pにて、円筒形状の成形体を順次裁断して短筒状のペレットPTとし、これら複数のペレットPTを回収部12pにて回収する。
【0035】
[第一工程の実施回数(セルロース系繊維の解繊)]
ここで図3に示す第一工程の実施回数は、一回でも良いが2回以上であることが望ましく、より望ましくは3回以上である。すなわち初回の第一工程では、繊維原料3と樹脂原料4とを混練してペレットPTに成形し、二回目以降の第一工程では、前回の第一工程で製造したペレットPTを各原料とみなして混練して再度ペレット化する。こうして第一工程を繰り返すことにより、ペレットPT中のセルロース系繊維が、次第に細かく解繊されて、樹脂中により均一に分散した状態となる。そして本実施形態の第一工程では、繊維原料3又はペレットPT(いずれも固体)を用いて、スクリュー62pのせん断力を効率的に利用することにより、セルロース系繊維の解繊と分散とを同時に行うことができる。特に初回の第一工程では、繊維原料3と樹脂原料4の大きさを極力揃えたことで、これら両原料3,4に、スクリュー62pからのせん断力をバランス良く作用させることができる。さらに二回目以降の第一工程においても、ペレットPT(固体)に対してスクリュー62pのせん断力が効率的に作用し、セルロース系繊維を樹脂中に均一に分散させつつ、更に解繊してナノサイズ化していくことが可能となる。そして第一工程が一回であったとしても、所望量のセルロース系繊維を細かく解繊でき、第一工程の実施回数が2回又は3回を超えたあたりで、セルロース系繊維の大部分をより確実に解繊させることができる。
【0036】
なお本実施形態のセルロース系繊維を用いた場合、従来のセルロースナノファイバと比較して、繊維強化プラスチックの性能に若干の相違が生じる場合がある(下記[表4]の曲げ弾性率を参照)。この相違は、第一工程を終えたペレットPTにおいて、セルロース系繊維の繊維長又は繊維径が、従来のセルロースナノファイバに比して不揃いとなっていることが原因と推察される(なお本推察は、本発明の内容を限定するものではない)。なお従来のセルロースナノファイバは、その平均繊維長が典型的に0.05μm~100μmの範囲であり、平均繊維径は1~100nmの範囲に設定されていることが多い。ここで平均繊維長(平均繊維径)は、電子顕微鏡写真から複数の繊維(通常10本以上)の長さ(直径)を測定し、その平均を計算することにより算出することができる。
【0037】
[各原料の投入比率(繊維強化プラスチック中の繊維の含有量)]
また図3に示す繊維原料3と樹脂原料4の投入比率は、図1に示す繊維強化プラスチック2に求められる強度に応じて設定することができる。例えば両原料の投入比率を調整して、繊維強化プラスチック2に、その総重量に対して5~60重量%のセルロース系繊維が含まれるように設定することで、所定の強度性を確保することが可能となる。ここでセルロース系繊維の含量が5重量%未満であると、セルロース系繊維による曲げ弾性率(詳細後述)の有意な向上が見られず、繊維強化プラスチック2の所定の強度を確保できないおそれがある。またセルロース系繊維の含量が60重量%を超えると、樹脂によるセルロース系繊維の結着が弱まるなどして、繊維強化プラスチック2が脆くなるおそれがある。
【0038】
[第二工程]
第二工程では、図7を参照して、成形装置MMを用いて、複数のペレットPTを所定形状に成形して繊維強化プラスチック2とする。ここで成形装置MMは、射出部XMと、繊維強化プラスチック2を成形する金型YMと、型締部ZMとをこの順で備える。射出部XMは、ペレットPTを溶融させて成形材料とする部位であり、モータ2xによって軸周りに回転する円筒状のスクリュー部4xと、このスクリュー部4xが挿設された円筒状のシリンダ部6xと、シリンダ部6xに連通するホッパ部8xとを有する。そしてシリンダ部6xの金型側の端部は円錐状に引締められており、その先端に、後述する金型YMに連通する射出口14xが設けられ、さらにシリンダ部6xの射出口14x側には逆流防止弁12xが嵌装されている。またシリンダ部6xの外周面にはヒーター10xが配設されており、このヒーター10xにて、シリンダ部6x内のペレットPTを加熱して溶融させることができる。また金型YMは、固定型2yと、可動型4yと、キャビティ6yと、タイバー8yを有する。キャビティ6yは、繊維強化プラスチック2の外形形状に倣った成形空間であり、型閉め状態の固定型2yと可動型4yの間に形成されている。また固定型2yと可動型4yは、これらの周囲に配置する棒状のタイバー8yに沿って離間方向に相対移動可能に配置されている。そして固定型2yには、射出部XMから送られた成形材料をキャビティ6y内に射出するスプルー3y(通路)が設けられており、可動型4yには、後述する型締部ZMのエジェクタロッド3zが相対移動可能に挿設されている。また型締部ZMは、金型YMを型閉じ状態とする部位であり、形成後の繊維強化プラスチック2を取外すエジェクタ機構2zと、このエジェクタ機構2zに設けられたエジェクタロッド3zと、固定型2yに対して可動型4yを進退させるクロスヘッド4zが設けられている。
【0039】
そして複数のペレットPTを、ホッパ部8xからシリンダ部6x内に投入する。これら複数のペレットPTは、シリンダ部6x内で溶融されながらスクリュー部4xで混練されて成形材料(図示省略)となり、この成形材料が、射出口14xから金型YMのキャビティ6y内に射出されて所定形状の繊維強化プラスチック2に成形される。そして金型YMを型開きしたのち、所定形状に成形された繊維強化プラスチック2を、エジェクタロッド3zを介して金型YMから取出すことができる。
【0040】
[繊維強化プラスチックの物性]
図1図3を参照して、繊維強化プラスチック2は、上述の繊維原料3と樹脂原料4とが極力均一に混練されて成形されたペレットPTを原材料として用いている。このため繊維強化プラスチック2では、環境にやさしいセルロース系繊維が樹脂中に極力均一に分布した状態となっており、所望の強度性の確保に適した構成となっている。特に繊維強化プラスチック2は、細かく解繊されたセルロース系繊維を5~60重量%含むことで曲げ弾性率が高められており、従来のセルロースナノファイバ製の繊維強化プラスチック2に見劣りしない強度を備えている。そして繊維強化プラスチック2は、その繊維原料3と樹脂原料4との混練が容易であるため、専用装置の使用を要することなく製造することができる。このため本実施形態の繊維強化プラスチック2は、従来のセルロースナノファイバを使用する場合に比して安価で費用対効果に優れており、さらに環境にもやさしいことから、その汎用化が可能となっている。
【0041】
以上説明した通り本実施形態の繊維原料3は、環境に配慮したセルロース系繊維の積層体であるとともに、比較的高緊度で所定形状に成形されている。こうして繊維原料3を、比較的高緊度で所定形状とすることで、樹脂原料4との混練をより容易に行うことが可能となり、繊維強化プラスチック2の強度の確保と製造コストの低減に資する構成となっている。また繊維原料3は、環境への配慮から古紙を用いているとともに、原料となる古紙の調達が比較的容易であるため、繊維強化プラスチック2の製造コストの低減に更に資する構成となっている。そして本実施形態では、個々の繊維原料3の重量(大きさ)を、樹脂原料4との均一な混練を想定して、樹脂原料4の重量を基に規定している。そして繊維原料3と樹脂原料4の重量(大きさ)に極端な差を設けないことにより、汎用の設備をそのまま利用することが可能となり、繊維強化プラスチック2の製造コストの低減に更に資する構成となっている。このため本実施形態によれば、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料3の樹脂原料4に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチック2の提供を可能にすることができる。
【0042】
また本実施形態の繊維強化プラスチック2は、繊維原料3と樹脂原料4とが極力均一に混練されて成形されたペレットPTを用いている。このため繊維強化プラスチック2では、セルロース系繊維が樹脂中に極力均一に分布した状態となっており、所望の強度性の確保に適した構成となっている。また繊維強化プラスチック2は、所定量のセルロース系繊維を含むことで曲げ弾性率が高められており、セルロース系繊維の含量に応じた強度を備えている。
【0043】
さらに本実施形態の繊維強化プラスチック2の製造方法では、繊維原料3が、環境に配慮したセルロース系繊維の積層体であるとともに、比較的高緊度で所定形状に成形されている。このため本実施形態の繊維原料3は、第一工程において樹脂原料4との均一な混練が容易となっており、繊維強化プラスチック2の製造コストの低減に資する構成となっている。また本実施形態では、第一工程を複数回繰り返して、ペレット中のセルロース系繊維と樹脂をより均一に混練することにより、所定の強度を備えた繊維強化プラスチック2をより確実に製造することが可能となる。そして本実施形態では、混練条件を適切化して、繊維原料3の加熱(摩擦熱を含む)による変色などの劣化を極力抑えることにより、各種の性能に優れる繊維強化プラスチック2をより確実に製造することが可能となる。
【0044】
[試験例]
以下、本実施形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。下記の[表4]は、各実施例と各比較例と各参考例のセルロース系繊維の配合率(重量%)と曲げ弾性率を示す表である。また[図8]は、各実施例と各比較例と各参考例のセルロース系繊維の配合率(重量%)と曲げ弾性率の関係を示すグラフである。
【0045】
[実施例1]
実施例1では、密度0.91のポリプロピレン製の樹脂原料(株式会社プライムポリマー社製、グレードJ108M)を使用した。また個々の樹脂原料は予め円筒状のペレット形状とされており、その投影寸法を基準に、巾寸法を3mm、長さ寸法を4mm、厚み寸法を3mmと算出した。また緊度0.32g/cmの繊維原料をパルプモールド成形体から作成し、パルプモールド成形の際の原液として、所定量の古紙パルプを水に投入してスラリー状としたものを使用した。そして個々の繊維原料を平板状に形成し、巾寸法を2mm、長さ寸法を8mm、厚み寸法を2mmに設定した。
【0046】
つぎに上述の繊維原料と樹脂原料を用いて、第一工程と第二工程を実施した。第一工程では、スクリューの回転速度を600rpmに設定するとともに、シリンダ内の加熱温度を200℃に設定した。そして第一工程を3回繰り返したのち第二工程を行って、図1に示す形状の実施例1の繊維強化プラスチックを製造した。そして実施例1の繊維強化プラスチックでは、その総重量に対してセルロース系繊維の配合率(含有率)が10重量%となるように調整した。
【0047】
[実施例2~実施例5]
実施例2~実施例5の繊維強化プラスチックは、セルロース系繊維の配合率を変更した以外は、実施例1と同様の条件で製造した。すなわち実施例2の繊維強化プラスチックでは、セルロース系繊維の配合率が20重量%となるように調整し、実施例3の繊維強化プラスチックでは、セルロース系繊維の配合率が30重量%となるように調整した。また実施例4の繊維強化プラスチックでは、セルロース系繊維の配合率が40重量%となるように調整し、実施例5の繊維強化プラスチックでは、セルロース系繊維の配合率が50重量%となるように調整した。
【0048】
[比較例1、比較例2]
比較例1では、実施例1と同一の樹脂原料を使用し、この樹脂原料のみから図1に示す形状のプラスチックを製造した。また比較例2では、実施例1とは異なるポリプロピレン製の樹脂原料(日本ポリプロ株式会社製、グレードMA3H)を使用し、この樹脂原料のみから図1に示す形状のプラスチックを製造した。
【0049】
[参考例1、参考例2]
また参考例1と参考例2として、「ナノセルロースシンポジウム 2018 第365回生存圏シンポジウム資料」の曲げ弾性率のデータを引用した。参考例1の繊維強化プラスチックは、比較例2の樹脂原料と、緊度0.1g/cm未満のセルロースナノファイバの繊維原料(京都市産業技術研究所製)とから製造されたものであり、10重量%のセルロースナノファイバが含まれている。また参考例1の繊維強化プラスチックは、比較例2の樹脂原料と、変性(疎水化)セルロースナノファイバの繊維原料(京都市産業技術研究所製)とから製造されたものであり、10重量%の変性セルロースナノファイバが含まれている。
【0050】
[曲げ弾性率の測定]
曲げ弾性率の測定では、三点曲げ試験用の試験機(SHIMADZU社製、商品名AG-X)を用い、支点間距離を64mm、ヘッドスピードを2mm/minに設定した。また各実施例の繊維強化プラスチックから、80mm×10mm×4mmの試験体を切り出し、常温環境の下、試験体の中央に曲げデバイス(ヘッド)を入力して本試験を実施した(JIS K7171に準拠)。そして三点曲げ試験の結果から各繊維強化プラスチックの曲げ弾性率E(MPa)を算出した。また各比較例のプラスチックの曲げ弾性率も各実施例と同一手順で算出した。
【0051】
【表4】
【0052】
[結果及び考察]
[表4]及び[図8]を参照して、各実施例の繊維強化プラスチックは、各比較例に比して曲げ弾性率が高くなっており、曲げに強く優れた強度性を備えていることがわかった。また各実施例の結果から、繊維強化プラスチックの総重量に対してセルロース系繊維の含量が5~60重量%であれば、繊維強化プラスチックの所定の強度を確保できることが容易に推察された。そして各実施例の繊維強化プラスチックは、参考例1及び参考例2の繊維強化プラスチックと遜色のない曲げ弾性率を備えていた。この試験結果は、各実施例において、比較的高緊度で所定形状に成形されている繊維原料を、細かく解繊しつつ樹脂原料と極力均一に混練したためと考えられる。そして各実施例では、セルロース系繊維を変性することにより、さらなる曲げ弾性率の向上を見込めることが容易に推察された。このため各実施例によれば、製造コストや環境に配慮しつつ、繊維原料の樹脂原料に対する混練性を確保して、所定の強度を備えた繊維強化プラスチックを提供できることがわかった。
【0053】
本実施形態の繊維強化プラスチック2及び繊維原料3は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。例えば繊維原料は、平板状(チップ状)のほか、粒状や柱状や筒状やブロック状などの各種の形状をとり得るとともに、その重量(大きさ)は、樹脂原料に応じて設定してもよく、樹脂原料とは無関係に設定することもできる。なお繊維原料は、必要に応じて液状の樹脂原料と混練することも可能である。また繊維原料として、パルプモールド成形体と紙体とを併用することも可能である。
【0054】
また本実施形態では、繊維強化プラスチックの製造方法を例示したが、製造方法を限定する趣旨ではない。例えば繊維原料と樹脂原料を混練したのち、ペレット化することなく、そのまま繊維強化プラスチックに成形することもできる。なお混練条件(スクリューの回転速度や加熱温度)は、使用する原料の種類に応じて適宜変更することができる。また繊維強化プラスチックは、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、トランスファー成形、キャスト成形、インフレーション成形などの各種成形手法にて成形することも可能である。また本実施形態の繊維強化プラスチックは、各種の用途に用いることができ、車両の内装材や外装材などの車両の構成部材のほか、家屋や防音壁などの各種の構造体に用いることができる。そして繊維強化プラスチックの形状や寸法も、その用途に応じて設定することができ、板状や柱状や筒状やブロック状などの各種の形状をとり得る。
【符号の説明】
【0055】
2 繊維強化プラスチック
3 繊維原料
4 樹脂原料
7 成形型
7a 成形面
7b 網材
7c 液体吸入部
8 原液
3X 基材
PT ペレット
PMM ペレット成形装置
2p 第一投入部
4p 第二投入部
6p 混練部
8p 冷却部
10p 裁断部
12p 回収部
61p シリンダ
62p スクリュー
MM 成形装置
XM 射出部
2x モータ
4x スクリュー部
6x シリンダ部
8x ホッパ部
10x ヒーター
12x 逆流防止弁
14x 射出口
YM 金型
2y 固定型
3y スプルー
4y 可動型
6y キャビティ
8y タイバー
ZM 型締部
2z エジェクタ機構
3z エジェクタロッド
4z クロスヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8