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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-12
(45)【発行日】2022-12-20
(54)【発明の名称】ブレーキエア抜き装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/10 20060101AFI20221213BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20221213BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20221213BHJP
   B60T 7/04 20060101ALI20221213BHJP
   B60T 11/18 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B60T7/10 L
B60T7/06 D
B60T17/00 A
B60T7/04 B
B60T11/18
B60T7/10 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019131713
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021017067
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 景一
(72)【発明者】
【氏名】上杉 量喜
(72)【発明者】
【氏名】瀧岡 晃
(72)【発明者】
【氏名】宮地 樹
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】今野 維薫
(72)【発明者】
【氏名】久保 壮功
(72)【発明者】
【氏名】松原 泰世
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03713292(US,A)
【文献】米国特許第02649814(US,A)
【文献】特開2006-096315(JP,A)
【文献】特開2017-114325(JP,A)
【文献】特開2004-102485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00-7/10
B60T 10/00-11/34
B60T 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるブレーキ装置内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置であって、
上記ブレーキ装置の一部を構成し、車室と区画される収容室内に配置される、シリンダ内を摺動するピストンのストロークに応じてブレーキ油圧を発生させるマスターシリンダと、
上記収容室内に配置され、ロッドを介して上記ピストンと接続される操作部が操作されることによって、上記ピストンにストローク方向の押圧力を付与する押圧手段と、
上記操作部を操作可能な態様で、上記操作部に取り付けられる操作レバーと、を備え、
上記操作レバーは、当該操作レバーに対して上記収容室外からアクセス可能な位置まで下方に延びており、
上記押圧手段は、ブレーキペダルと、当該ブレーキペダルの操作に応じて上記ロッドを変位させるリンク機構と、を含むブレーキペダルユニットであり、
上記操作部は、上記リンク機構であることを特徴とするブレーキエア抜き装置。
【請求項2】
上記請求項に記載のブレーキエア抜き装置において、
上記ブレーキペダルユニットは、上記ブレーキペダルが上側で、且つ、上記リンク機構が下側になるように、上記収容室内に配置されていることを特徴とするブレーキエア抜き装置。
【請求項3】
車両に搭載されるブレーキ装置内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置であって、
上記ブレーキ装置の一部を構成し、車室と区画される収容室内に配置される、シリンダ内を摺動するピストンのストロークに応じてブレーキ油圧を発生させるマスターシリンダと、
上記収容室内に配置され、ロッドを介して上記ピストンと接続される操作部が操作されることによって、上記ピストンにストローク方向の押圧力を付与する押圧手段と、
上記操作部を操作可能な態様で、上記操作部に取り付けられる操作レバーと、を備え、
上記操作レバーは、当該操作レバーに対して上記収容室外からアクセス可能な位置まで下方に延びており、
上記操作レバーは、車両の下方から、上記操作部に対し着脱可能に取り付けられるように構成されていることを特徴とするブレーキエア抜き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるブレーキ装置内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるブレーキ装置では、ブレーキフルードにエアが溜まると、ブレーキの効きが悪くなることから、ブレーキフルードに溜まったエアを抜くエア抜き作業を定期的に行う必要がある。
【0003】
かかるエア抜き作業を行う場合には、車体をジャッキアップしてタイヤを外し、キャリパーに設けられたエア抜きバルブを緩めてフルード回収用チューブを接続した後、車室内でブレーキペダルを数回踏み込むことで発生するブレーキ油圧によって、フルード回収用チューブから古いブレーキフルードと共にエアを排出するのが一般的である。
【0004】
また、例えば特許文献1には、1人で簡単にエア抜き作業が行えるように、一端にペダル取付部が設けられるとともに、他端に位置決め固定用の当て片部が設けられたエアシリンダ部にエアを供給・停止することにより、ブレーキペダル部への押圧動作を繰り返し可能としたエア抜き用作業具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-053032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、自動運転技術の進展に伴い、所謂エンコパ内の装置と機械的に連結される操作手段(例えばステアリングホイール等)を車室内に設けない車両の研究・開発が進められているところ、その一環として、ブレーキペダル等の操作手段を車室内に設けないブレーキ装置を備える車両の研究・開発も進められている。
【0007】
しかしながら、上記一般的なエア抜き手法にしても、上記特許文献1のエア抜き用作業具にしても、エア抜き作業を行う場合には、車室内のブレーキペダルを押圧して、ブレーキ油圧を発生させることが前提となっている。
【0008】
このため、ブレーキペダル等といった油圧を発生させる操作手段が車室内に設けられていないブレーキ装置を備える車両では、エア抜き作業時のメンテナンス性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置において、油圧を発生させる操作手段が車室内に設けられていない場合でも、エア抜き作業時のメンテナンス性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係るブレーキエア抜き装置では、車室と区画される収容室内に設けられた操作手段を操作することが可能な治具(レバー)を、当該冶具に対し車外からアクセス可能な態様で設けるようにしている。
【0011】
具体的には、本発明は、車両に搭載されるブレーキ装置内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置を対象としている。
【0012】
そして、このブレーキエア抜き装置は、上記ブレーキ装置の一部を構成し、車室と区画される収容室内に配置される、シリンダ内を摺動するピストンのストロークに応じてブレーキ油圧を発生させるマスターシリンダと、上記収容室内に配置され、ロッドを介して上記ピストンと接続される操作部が操作されることによって、上記ピストンにストローク方向の押圧力を付与する押圧手段と、上記操作部を操作可能な態様で、上記操作部に取り付けられる操作レバーと、を備え、上記操作レバーは、当該操作レバーに対して上記収容室外からアクセス可能な位置まで下方に延びており、上記押圧手段は、ブレーキペダルと、当該ブレーキペダルの操作に応じて上記ロッドを変位させるリンク機構と、を含むブレーキペダルユニットであり、上記操作部は、上記リンク機構であることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、ロッドを介してピストンと接続される操作部を、操作レバーによって操作することで、ブレーキ油圧を発生させることができるので、車室と区画される収容室内に押圧手段が配置されていても、換言すると、油圧を発生させる操作手段が車室内に設けられていない場合でも、ブレーキフルードに溜まったエアを確実に抜くことができる。
【0014】
しかも、操作部に取り付けられる操作レバーは、当該操作レバーに対して収容室外からアクセス可能な位置まで下方に延びていることから、車外から操作レバーを容易に操作することができる。これにより、例えば、エア抜きバルブへのフルード回収用チューブの接続や、操作レバーの操作によるエア抜きや、フルード回収用チューブから排出されるエアの確認等といった作業を、作業者が1人でも行えるので、エア抜き作業時のメンテナンス性を向上させることができる。
【0016】
また、収容室内のマスターシリンダと機械的に連結されるブレーキペダルユニットが車室内に設けられた従来の車両における既存のブレーキ構成を、ブレーキペダルユニットを車室内に設けない本発明の車両にも転用することができるので、コストの上昇を抑えることができる。
【0017】
さらに、上記ブレーキエア抜き装置では、上記ブレーキペダルユニットは、上記ブレーキペダルが上側で、且つ、上記リンク機構が下側になるように、上記収容室内に配置されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、リンク機構を下側とすることで、操作部(リンク機構)への操作レバーの取付け構造を簡単な構造とすることができるとともに、ブレーキペダルを上側とすることで、例えばマスターシリンダの下方に配置される他の装置等とブレーキペダルとが干渉するのを抑えることができる。
【0019】
また、本発明は、車両に搭載されるブレーキ装置内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置であって、上記ブレーキ装置の一部を構成し、車室と区画される収容室内に配置される、シリンダ内を摺動するピストンのストロークに応じてブレーキ油圧を発生させるマスターシリンダと、上記収容室内に配置され、ロッドを介して上記ピストンと接続される操作部が操作されることによって、上記ピストンにストローク方向の押圧力を付与する押圧手段と、上記操作部を操作可能な態様で、上記操作部に取り付けられる操作レバーと、を備え、上記操作レバーは、当該操作レバーに対して上記収容室外からアクセス可能な位置まで下方に延びており、上記操作レバーは、車両の下方から、上記操作部に対し着脱可能に取り付けられるように構成されていることを特徴とするものである
【0020】
この構成によれば、操作レバーを操作部に対し着脱可能とすることで、例えば走行時には操作レバーを取り外すことができるので、路面上の物体と操作レバーの下端部とが干渉することによって、意図せずブレーキが作動するという事態を回避することができる。
【0021】
さらに、操作レバーを車両の下方から取付け可能に構成することで、エア抜き作業時においてジャッキアップされた車両に対し、操作レバーを容易に取り付けることができ、これにより、エア抜き作業時のメンテナンス性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係るブレーキエア抜き装置によれば、油圧を発生させる操作手段が車室内に設けられていない場合でも、エア抜き作業時のメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る車両を模式的に示す斜視図である。
図2】車両の内部を模式的に示す縦断面図である。
図3】ブレーキ装置を模式的に示す斜視図である。
図4】ブレーキ油圧伝達経路を模式的に説明する図である。
図5】ブレーキ油圧発生源の概略構成を示す図である。
図6】ブレーキアクチュエータ、マスターシリンダおよびブレーキペダルユニットの車載状態をそれぞれ模式的に示す平面図である。
図7】ブレーキアクチュエータ、マスターシリンダおよびブレーキペダルユニットの車載状態をそれぞれ模式的に示す背面図である。
図8】ブレーキアクチュエータ、マスターシリンダおよびブレーキペダルユニットの車載状態をそれぞれ模式的に示す側面図である。
図9】ストロークセンサおよびストップランプスイッチの配置構造を模式的に示す図である。
図10】ブレーキエア抜き装置を模式的に示す正面図である。
図11】マスターシリンダおよびブレーキペダルユニットを模式的に示す正面図である。
図12】操作レバーユニットを模式的に示す斜視図である。
図13】操作レバーユニットの取付け方法を模式的に説明する図である。
図14】操作レバーの操作によってブレーキペダルユニットが操作された状態を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。なお、各図における、矢印Frは車両前後方向前側を、矢印Rhは車幅方向右側を、矢印Upは上側をそれぞれ示す。
【0025】
-車両の全体構成-
図1は、本実施形態に係る車両1を模式的に示す斜視図である。この車両1は、図1に示すように、進行方向(図1の矢印参照)にほぼ対称な車体を有している点、車輪2,3が極端に両端寄りに配置されている点、エンジンルーム(モータルーム)を覆うボンネット等を有していない点、側面1cのほぼ全面が出入口を構成する点など、従来一般の車両とは大きく異なる外観を呈している。車両1は、進行方向にほぼ対称な車体を有しているが、図1の左側が前端部1a(符号2が前輪)で、図1の右側が後端部1b(符号3が後輪)となっている。
【0026】
図2は、車両1の内部を模式的に示す縦断面図である。なお、図2では座席等を図示省略している。この車両1は、所謂「自動運転」が可能な車両であり、そのことに伴って、外観のみならず内部についても、図2に示すように、従来一般の車両とは大きく異なっている。なお、「自動運転」とは、乗員の操作を全く必要としない完全な自動運転のみならず、乗員が補助的な操作を行う半自動運転をも含む概念である。
【0027】
例えば、車両1では、図示しないカメラ、センサ、レーダ、GPSアンテナ等からの情報や、ネットワークを介して送信される外部サーバからの指令等に基づいて、ECU50(図4参照)が、駆動用電動モータ51(図3参照)や、ステアリングアクチュエータ(図示せず)や、ブレーキアクチュエータ20(図3参照)等を作動させることで、自動運転が行われるようになっている。
【0028】
それ故、車両1では、所謂「運転者」の存在が必須となっておらず、図2に示すように、ステアリングホイールやブレーキペダルといった運転者が操作する操作手段が、車室4内に常設されておらず、このため、車両1全体における車室4の占める割合が非常に高くなっている。なお、「車室4内に常設されていない」とは、車両1自体に全く設けられていない場合のみならず、普段は収容室5,7や床下空間6に隠れている操作手段が、不測の事態が生じた場合等に、例えばボタン操作等により車室4内に現れる場合等も含む。
【0029】
もっとも、車両1は、ECU50等による完全な自動運転のみならず、車室4内の前部に設けられた座席9(図8参照)に座っている、監視者としてのオペレータによる補助的な操作を行う半自動運転をも可能に構成されている。例えば、オペレータが所持しているタブレットPC(図示せず)に、カメラで撮影された周辺画像を映し出すことで、オペレータが車両1周辺の状況を監視したり、タブレットPCの画像上のボタンアイコンを押すことで、各種の車載機器が作動したりするように車両1のシステムが構成されている。
【0030】
なお、このオペレータについても、車室4内におけるその存在が必須となっておらず、例えば、外部の管理センターのオペレータ等が車室4内のオペレータの役割を担うようにしてもよいし、外部サーバが同様の役割を担うようにしてもよい。
【0031】
また、この車両1では、ECU50、駆動用電動モータ51、ステアリングアクチュエータ、ブレーキアクチュエータ20等といった駆動系および電気系機器を収容する前側および後側収容室5,7が、図2に示すように、車室4の一部と車両前後方向にオーバーラップするように、車両1の前端部1aおよび後端部1bに形成されている。具体的には、前側および後側収容室5,7は、後述するサイドレール65(図6参照)やクロスメンバ63(図6参照)等のフレーム部材や車室4を構成するキャビンのパネル部材(以下、フレーム部材等8ともいう。)によって、車室4と区画されている。これにより、この車両1では、前側および後側収容室5,7の上方の空間も車室4として利用することが可能となっている。
【0032】
このように、従来一般の車両とは大きく異なる本実施形態の車両1では、様々な車載機器の構成、構造および配置に工夫を凝らすことで、上述の如く、車両1全体における車室4の占める割合が非常に高い(車載機器を収容する前側および後側収容室5,7等の占める割合が非常に低い)車両を実現している。以下では、このような相対的に広い車室4の実現化の一要因となっているブレーキ装置10の機能的構成並びに構造および配置等について詳細に説明する。
【0033】
-ブレーキ装置-
〈ブレーキ装置の配置〉
図3は、ブレーキ装置10を模式的に示す斜視図である。ブレーキ装置10は、図3に示すように、ブレーキアクチュエータ20と、マスターシリンダ30と、ブレーキペダルユニット40と、第1~第4ブレーキ配管11,12,13,14と、第1~第4ブレーキキャリパ11a,12a,13a,14aと、第1~第4ブレーキディスク11b,12b,13b,14bと、を備えている。
【0034】
ブレーキ装置10において、ブレーキアクチュエータ20、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40は、前側収容室5内に配置されている。なお、車両1の駆動源である駆動用電動モータ51は、これらとは反対側の後側収容室7内に配置されている。
【0035】
ブレーキアクチュエータ20およびマスターシリンダ30は、電動モータ26,36(図5参照)でブレーキ油圧を発生させる電気作動式のものであり、車両1中央部の床下空間6に配置されたバッテリ52を電源として作動するように構成されている。
【0036】
第1ブレーキキャリパ11aおよび第1ブレーキディスク11bは、右側の前輪2aに設けられている。第1ブレーキキャリパ11aは、前側収容室5内で車幅方向右側に延びる第1ブレーキ配管11を介して、ブレーキアクチュエータ20の第1ポート23a(図4参照)と繋がっている。また、第2ブレーキキャリパ12aおよび第2ブレーキディスク12bは、左側の前輪2bに設けられている。第2ブレーキキャリパ12aは、前側収容室5内で車幅方向左側に延びる第2ブレーキ配管12を介して、ブレーキアクチュエータ20の第2ポート23b(図4参照)と繋がっている。
【0037】
第3ブレーキキャリパ13aおよび第3ブレーキディスク13bは、右側の後輪3aに設けられている。第3ブレーキキャリパ13aは、前側収容室5内で車幅方向左側に延びた後、床下空間6を車両前後方向後側に延びて後側収容室7に至り、後側収容室7内で車幅方向右側に延びる第3ブレーキ配管13を介して、ブレーキアクチュエータ20の第3ポート24a(図4参照)と繋がっている。また、第4ブレーキキャリパ14aおよび第4ブレーキディスク14bは、左側の後輪3bに設けられている。第4ブレーキキャリパ14aは、第3ブレーキ配管13と同様に後側収容室7に至った後、後側収容室7内で車幅方向左側に延びる第4ブレーキ配管14を介して、ブレーキアクチュエータ20の第4ポート24b(図4参照)と繋がっている。
【0038】
〈ブレーキ油圧伝達経路〉
図4は、ブレーキ油圧伝達経路を模式的に説明する図である。このブレーキ油圧伝達経路では、図4に示すように、マスターシリンダ30が最上流に位置し、その下流にブレーキアクチュエータ20が位置し、かかるブレーキアクチュエータ20から、第1~第4ブレーキキャリパ11a,12a,13a,14aへブレーキ油圧が供給されるようになっている。なお、ブレーキペダル43の踏部43aは、後述するように、切断除去されているが、図4および図5では、便宜上、踏部43aを有するブレーキペダル43を示す。
【0039】
ブレーキアクチュエータ20は、ブレーキ装置10におけるメインのブレーキ油圧発生源として機能する。ブレーキアクチュエータ20は、ブレーキECU21と、アクチュエータ本体部22と、リザーバタンク25と、電動モータ26と、を備えている。ブレーキECU21は、ECU50と通信回線を介して繋がっており、ECU50がセンサやカメラ等からの情報(車速、停止線や障害物との距離等)に基づいて算出した制動力要求に基づいて、電動モータ26を作動させて、ブレーキフルードをリザーバタンク25から汲み上げて加圧するように構成されている。つまり、ブレーキアクチュエータ20は、必要なとき(ECU50の要求時)に必要なだけ(ECU50の要求量)ブレーキ油圧を発生させるようになっている。
【0040】
アクチュエータ本体部22は、第1液室23と第2液室24とに分かれている。第1液室23には、第1および第2ポート23a,23bが形成されていて、ブレーキECU21の指令に基づき電動モータ26で加圧されたブレーキフルードがこれら第1および第2ポート23a,23bから第1および第2ブレーキキャリパ11a,12aへそれぞれ供給される。他方、第2液室24には、第3および第4ポート24a,24bが形成されていて、ブレーキECU21の指令に基づき電動モータ26で加圧されたブレーキフルードがこれら第3および第4ポート24a,24bから第3および第4ブレーキキャリパ13a,14aへそれぞれ供給される。
【0041】
このように、アクチュエータ本体部22を2室に分けることで、仮に片方の液室が破損等しても、ブレーキ油圧を逃がすことなく、他方の液室から前輪2または後輪3へブレーキ油圧を供給することが可能となっている。また、ブレーキアクチュエータ20は、マスターシリンダ30の下流に位置していることから、マスターシリンダ30に不具合が生じた場合でも、単独で第1~第4ブレーキキャリパ11a,12a,13a,14aへブレーキ油圧を供給することが可能となっている。
【0042】
マスターシリンダ30は、ブレーキECU31と、シリンダハウジング32と、シリンダハウジング32内を摺動する第1および第2ピストン33,34(図5参照)と、リザーバタンク35と、電動モータ36と、を備えていて、第1および第2ピストン33,34のストロークに応じてブレーキ油圧を発生させるように構成されている。電動モータ36は、リザーバタンク35から汲み上げたブレーキフルードを加圧して常に高圧に維持するように構成されている。ブレーキECU31は、ECU50と通信回線を介して繋がっており、ECU50が算出した制動力要求に基づいて、第2電磁弁39(図5参照)を開いて高圧のブレーキフルードを解放し、かかる高圧のブレーキフルードによって、第1および第2ピストン33,34をシリンダハウジング32内で摺動させるように構成されている。このようにして第1および第2ピストン33,34のストロークに応じて発生したブレーキ油圧は、シリンダハウジング32に設けられた第1および第2ポート32a,32bから、ブレーキアクチュエータ20の第1および第2液室23,24を介して、第1~第4ブレーキキャリパ11a,12a,13a,14aへ供給される。
【0043】
このように、マスターシリンダ30は、ブレーキアクチュエータ20とは独立してブレーキ油圧を発生させることから、ブレーキアクチュエータ20の電気系統に不具合が生じた場合でも、第1および第2液室23,24の少なくとも一方が損傷していなければ、前輪2または後輪3へブレーキ油圧を供給することが可能となっている。
【0044】
これらに対し、ブレーキペダルユニット40は、制動力を発生させるブレーキとしては用いられておらず、後述するように、ブレーキ装置10内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置80の一部として構成されている。ブレーキペダルユニット40は、マスターシリンダ30のシリンダハウジング32内を摺動する入力ピストン41(図5参照)と、ブレーキペダル43と、リンク機構45(図11参照)を介して、入力ピストン41とブレーキペダル43とを繋ぐロッド42と、を備えている。
【0045】
以上のように本実施形態では、(A)電気系統に不具合等がない通常時には、メインのブレーキ油圧発生源としてブレーキアクチュエータ20がブレーキ油圧を供給する。これに対し、(B)ブレーキアクチュエータ20に不具合が生じた場合は、サブのブレーキ油圧発生源であるマスターシリンダ30がブレーキ油圧を供給する。
【0046】
そうして、第1~第4ブレーキキャリパ11a,12a,13a,14aは、第1~第4ポート23a,23b,24a,24bから供給されたブレーキ油圧によって内蔵されたホイールシリンダ(図示せず)を作動させることにより、ブレーキパッド(図示せず)を第1~第4ブレーキディスク11b,12b,13b,14bにそれぞれ押し付けて摩擦制動力を発生させ、車両1を減速・停止させる。
【0047】
次に、上記(A)の場合にはブレーキアクチュエータ20のみを作動させ、上記(B)の場合には、マスターシリンダ30を作動させることを可能とする装置構成の一例を簡単に説明する。図5は、ブレーキ油圧発生源の概略構成を示す図である。なお、図5は、あくまで概略を示すものであり、ブレーキアクチュエータ20、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40等の構成を正確に示すものではない。
【0048】
図5に示すように、シリンダハウジング32内には、第1ピストン33、第2ピストン34および入力ピストン41がそれぞれ摺動可能に収容されているとともに、第1~第5液室R1,R2,R3,R4,R5が区画形成されている。第1液室R1は、リザーバタンク35およびブレーキアクチュエータ20の第1液室23と繋がっていて、その内部のブレーキフルードが第1ピストン33で加圧されるようになっている。第2液室R2は、第1ピストン33と第2ピストン34との間に形成されていて、リザーバタンク35およびブレーキアクチュエータ20の第2液室24と繋がっており、その内部のブレーキフルードが第2ピストン34で加圧されるようになっている。第2ピストン34には鍔部34aが設けられていて、鍔部34aの一方側(第1および第2液室R1,R2側)に第4液室R4が区画形成されているとともに、鍔部34aの他方側(第3液室R3側)に第5液室R5が区画形成されている。第3液室R3は、リザーバタンク35および第4液室R4と繋がっていて、その内部のブレーキフルードが入力ピストン41によって加圧可能になっている。なお、第3液室R3と第4液室R4とは、通電状態で開く第1電磁弁38を介して繋がっている。
【0049】
マスターシリンダ30のブレーキECU31は、電動モータ36を駆動させてリザーバタンク35からブレーキフルードを汲み上げて加圧するように構成されている。ブレーキフルードは、加圧された状態でアキュムレータ37に蓄えられる。アキュムレータ37は、通電状態で開く第2電磁弁39を介して第5液室R5と繋がっている。なお、ブレーキECU31は、基本的に第1電磁弁38を通電状態に維持し、マスターシリンダ30を作動させる場合以外は、第2電磁弁39を非通電状態に維持するように構成されている。
【0050】
以上の構成により、上記(A)の場合に、ブレーキECU31が第2電磁弁39を閉じた状態(非通電状態)とし、ブレーキアクチュエータ20のブレーキECU21が、電動モータ26を作動させてリザーバタンク25からブレーキフルードを汲み上げて加圧すれば、ブレーキアクチュエータ20のみのブレーキ油圧で車両1の減速・停止が行われることになる。
【0051】
これに対し、上記(B)の場合には、ブレーキECU31は、第2電磁弁39を通電状態としてこれを開き、加圧された状態でアキュムレータ37に蓄えられたブレーキフルードを第5液室R5に供給する。ここで、第1電磁弁38が通電状態(開弁状態)であることから、第3液室R3の油圧は、対向室である第4液室R4の油圧と打ち消し合うので、第2ピストン34は、第5液室R5の油圧のみによって動作することになる。これにより、マスターシリンダ30のみのブレーキ油圧で車両1の減速・停止が行われることになる。
【0052】
以上のように、本実施形態の車両1では、バッテリ52の電力で車両1の減速・停止を行うことができるので、上述した如く、ブレーキペダルを車室4内に常設しないレイアウトが可能となっている。つまり、本実施形態の車両1は、前側収容室5内に配置されるブレーキ油圧発生装置と機械的に連結されるブレーキ操作手段(ブレーキペダル等)が車室4内に設けられていない車両として構成されている。
【0053】
〈ブレーキ油圧発生装置等の配置〉
次に、前側収容室5における、ブレーキアクチュエータ20、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40の構造および配置について説明する。図6図8は、ブレーキアクチュエータ20、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40の車載状態をそれぞれ模式的に示す平面図、背面図および側面図である。
【0054】
先ず、前側収容室5について簡単に説明する。図6に示すように、図2の床下空間6に対応する部位には、車幅方向両端部で車両前後方向に延びる左右一対のサイドレール61が設けられている。これらサイドレール61の前端部は、図8に示す上下に2段並んだクロスメンバ63,64における下側のクロスメンバ64に接続されている。これらクロスメンバ63,64の車両前後方向前側に前側収容室5が形成されている。
【0055】
具体的には、図6に示すように、上側のクロスメンバ63の車幅方向両端部から左右一対のサイドレール65が車両前後方向前側に延びており、これら左右一対のサイドレール65の前端部はクロスメンバ66で接続されている。また、左右一対のサイドレール65には、当該サイドレール65およびクロスメンバ63,66よりも低い位置で車幅方向に延びる前後一対のクロスメンバ67,68が架け渡されている。各クロスメンバ67,68は、図7に示すように、車幅方向に延びているとともに、その両端部が車幅方向外側に行くほど上方に傾斜しながら延びて、サイドレール65の下部に取り付けられている。なお、図6および図7の符号69は、サスペンションタワーを示している。
【0056】
このような構成により、前側収容室5は、左右一対のサイドレール65によって左右が区画され、且つ、クロスメンバ63,66によって前後が区画されるとともに、クロスメンバ67,68によって下側が区画されている。なお、図8に示すように、フレーム部材等8における、前側収容室5の後部の上方に設けられたオペレータの座席9の下側には、開閉部8aが形成されている。それ故、例えば、座席9を取り外したり、折り畳んだりすることで、開閉部8aを通じて、前側収容室5内の機器のメンテナンスをすることが可能となっている。
【0057】
マスターシリンダ30では、図6および図7に示すように、第1および第2ピストン33,34の摺動方向に延びるシリンダハウジング32の上側に、シリンダハウジング32と同じ方向に延びるリザーバタンク35が設けられている。それ故、マスターシリンダ30全体としても、シリンダハウジング32の延びる方向と直交する方向(長手直角方向)の長さや上下方向の長さよりも、シリンダハウジング32の延びる方向(長手方向)の長さが長くなっている。なお、ブレーキECU31は、シリンダハウジング32の側面に設けられている。
【0058】
このように、シリンダハウジング32の延びる方向(第1および第2ピストン33,34の摺動方向)を長手方向とするマスターシリンダ30は、図6および図7に示すように、その長手方向が車幅方向と平行になるように、前側収容室5における上部に配置されている。具体的には、前後に並ぶ2つのクロスメンバ67,68には、図8に示すように、車両前後方向に延びる支持ブラケット67aが架け渡されている。マスターシリンダ30は、支持ブラケット67aから上方に延びる第1ブラケット71の上端部に、シリンダハウジング32のフランジ部32cがボルト103で締結されることで、長手方向が車幅方向になるように配置されている。
【0059】
また、ブレーキペダルユニット40は、図6に示すように、マスターシリンダ30と車幅方向に並んで、前側収容室5における上部に配置されている。なお、ブレーキペダルユニット40は、上述の如く、ブレーキとして用いられないことから、他部材との干渉を避けるべく、ブレーキペダル43の踏部43a(図6図9の仮想線参照)が切断除去されている。
【0060】
ブレーキアクチュエータ20では、図6および図7に示すように、ブレーキECU21と、アクチュエータ本体部22(リザーバタンク25を含む)と、電動モータ26を収容するモータハウジング27とが、車幅方向に見て、車両前後方向に少なくとも一部重なるように、この順に並んで設けられている。それ故、ブレーキアクチュエータ20全体としても、これらの並び方向(配列方向ともいう。)と直交する方向の長さや上下方向の長さよりも、配列方向の長さが長くなっている。
【0061】
このように、配列方向に長く形成されたブレーキアクチュエータ20は、図6および図7に示すように、前側収容室5の上部における、ブレーキペダル43の車両前後方向後側(マスターシリンダ30の近傍で且つマスターシリンダ30よりも車両前後方向後側)に、その長手方向(配列方向)が車幅方向と平行になるように配置されている。
【0062】
具体的には、図6および図8に示すように、上側のクロスメンバ63には、当該クロスメンバ63の前端から車両前後方向前側に延びた後、直角に折れ曲がり車幅方向右側に延びるL字状の第2ブラケット72が取り付けられている。この第2ブラケット72の先端部と、上記第1ブラケット71の上端部とは、ボルト101,102を介してそれぞれアクチュエータブラケット73と接続されており、これにより、第1および第2ブラケット71,72並びにアクチュエータブラケット73は一体になっている。そうして、ブレーキアクチュエータ20は、アクチュエータブラケット73にボルト締結されることで、ブレーキペダル43の車両前後方向後側で車幅方向に延びるように配置されている。
【0063】
ここで、ブレーキアクチュエータ20、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40は、図7および図8に示すように、前側収容室5における上部に、略同じ高さで、同一水平面内で隣接して配置されている。なお、「同一水平面内で」とは、ブレーキアクチュエータ20の少なくとも一部、マスターシリンダ30の少なくとも一部およびブレーキペダルユニット40の少なくとも一部が、同一の水平面状にあることを意味する。また、ブレーキペダル43は、通常運転者の踏力で回動することが想定されていることから、下方に延びるように配置されるが、本実施形態では、図7および図8に示すように、上方に延びるように配置されている。
【0064】
これらにより、図8に示すように、前側収容室5内におけるブレーキアクチュエータ20およびブレーキペダルユニット40の下側に相対的に広い空間が生じている。このため、本実施形態では、図7および図8に示すように、かかる空間にエアコンユニット53を配置している。
【0065】
また、ブレーキペダルユニット40がブレーキとして用いられないことを除けば、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40は、従来のマスターシリンダおよびブレーキペダルユニットとほぼ同じ構成なので、入力ピストン41等を有しない専用のマスターシリンダを製造することなく、部品の供用化を図ることができる。
【0066】
ここで、ブレーキペダルユニット40はブレーキとして用いられないことから、ブレーキペダル43のストロークを計測するストロークセンサ54や、ブレーキペダル43を踏むとONになってブレーキランプ(図示せず)を点灯させるストップランプスイッチ55を、図5に示すように、ブレーキECU31に接続する必要はないとも思われる。しかしながら、ブレーキECU31は通常、計測値等がない場合でもストロークセンサ54やストップランプスイッチ55から計測値等がないことを示す信号を受信するように構成されている。それ故、ストロークセンサ54やストップランプスイッチ55を省略すると、ブレーキECU31に信号が入力されないため、制御エラーが生じる場合がある。このため、ブレーキペダルユニット40を、制動力を発生させるブレーキとして用いない場合にも、ストロークセンサ54やストップランプスイッチ55を、ブレーキECU31に接続する必要がある。
【0067】
もっとも、本実施形態ではブレーキペダルユニット40が前側収容室5内に配置されている。このため、ブレーキペダルユニットを車室内に配置するものと同様に、ブレーキペダル43の近傍にストロークセンサ54やストップランプスイッチ55を配置すると、ストロークセンサ54やストップランプスイッチ55のための防水対応を別途施すことが必要となり、コストの上昇を招くおそれがある。
【0068】
そこで、本実施形態では、図1図2および図9に示すように、ストロークセンサ54およびストップランプスイッチ55を、前側収容室5内に配置されるブレーキペダル43から離し、車室4内に設けられたアッパフレーム70に、ブラケット74を介して支持させるようにしている。
【0069】
このように、ストロークセンサ54およびストップランプスイッチ55を、前側収容室5内に配置されるブレーキペダル43とは別置きとし、車室4内に配置することで、防水対応を別途施すことなく、制御エラーを確実に回避することができる。
【0070】
-ブレーキエア抜き装置-
ところで、ブレーキ装置では、ブレーキフルードにエアが溜まると、ブレーキの効きが悪くなることから、ブレーキフルードに溜まったエアを抜くエア抜き作業を定期的に行う必要がある。かかるエア抜き作業を行う場合には、車体をジャッキアップしてタイヤを外し、キャリパーに設けられたエア抜きバルブを緩めてフルード回収用チューブを接続した後、車室内でブレーキペダルを数回踏み込むことで発生するブレーキ油圧によって、フルード回収用チューブから古いブレーキフルードと共にエアを排出するのが一般的である。
【0071】
このように、エア抜き作業を行う場合には、車室内のブレーキペダルを押圧して、ブレーキ油圧を発生させることが前提となっているが、本実施形態の車両1はブレーキペダル43が車室4内に設けられていない車両として構成されているため、例えば開閉部8aを通じて手動でブレーキペダル43を押圧することも考えられる。しかしながら、図8に示すように、ブレーキペダルユニット40の上方の空間が狭いため、手動でブレーキペダル43を押圧し難いことから、エア抜き作業時のメンテナンス性が低下するおそれがある。
【0072】
そこで、本実施形態では、前側収容室5内に設けられたブレーキペダルユニット40を操作可能なレバーを、車両外部からアクセス可能な態様で設定するようにしている。具体的には、ブレーキ装置10内のブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置80として、ブレーキペダルユニット40のリンク機構45を操作可能な態様で、当該リンク機構45に取り付けられる操作レバーを含む機構を設けるとともに、前側収容室5外からアクセス可能な位置まで、操作レバーを下方に延ばすようにしている。以下、このようなブレーキエア抜き装置80について詳細に説明する。
【0073】
図10は、ブレーキエア抜き装置80を模式的に示す正面図である。ブレーキエア抜き装置80は、図10に示すように、マスターシリンダ30と、ブレーキペダルユニット40と、操作レバーユニット90と、を備えている。
【0074】
〈ブレーキペダルユニット〉
図11は、マスターシリンダ30およびブレーキペダルユニット40を模式的に示す正面図である。ブレーキペダルユニット40は、上述の如く、入力ピストン41、ロッド42およびブレーキペダル43の他、図11に示すように、ペダルブラケット44と、リンク機構45と、を備えている。ブレーキペダルユニット40は、ブレーキペダル43が上側で、且つ、リンク機構45が下側になるように、前側収容室5に配置されている。
【0075】
ペダルブラケット44は、ブレーキペダル43やリンク機構45を構成する部材を回動可能に支持するものである。ペダルブラケット44は、マスターシリンダ30のシリンダハウジング32のフランジ部32cがボルト締結されている第1ブラケット71の上端部に、その車幅方向右側の端部がボルト締結されている一方、サイドレール65から車幅方向に延びるブラケット65aに、その車幅方向左側の端部がボルト締結されている。これにより、ペダルブラケット44は、第1ブラケット71およびブラケット65aを介して車体に固定されている。
【0076】
このペダルブラケット44には、シャフト43bを介してブレーキペダル43が取り付けられており、これにより、ブレーキペダル43はペダルブラケット44に対してシャフト43bの軸回りに回動可能となっている。なお、ブレーキペダル43とペダルブラケット44には、スプリング43cが架け渡されており、これにより、ブレーキペダル43は図11の時計回りに付勢されている。
【0077】
リンク機構45は、中継アーム46と、アームリンク47と、第1リンク部材48と、第2リンク部材49と、を有している。
【0078】
中継アーム46は、シャフト46aを介してペダルブラケット44に取り付けられており、これにより、ペダルブラケット44に対してシャフト46aの軸回りに回動可能となっている。中継アーム46には、一端(車幅方向右側の端部)が入力ピストン41に接続されるロッド42の他端(車幅方向左側の端部)が回動可能に接続されている。
【0079】
アームリンク47は、中継アーム46に回動可能に接続されているとともに、ブレーキペダル43にも回動可能に接続されていて、中継アーム46とブレーキペダル43とを連結している。
【0080】
第1リンク部材48および第2リンク部材49は、共に中継アーム46に回動可能に取り付けられているとともに、互いに回動可能に連結されている。これら第1および第2リンク部材48,49は、本来(ブレーキペダルユニット40が車室内に配置される場合)は、前突時等に後退した第1リンク部材48が、車体に固定されたブラケット(図示せず)に当接することで回動すると、それに連動して第2リンク部材49がロッド42と干渉するように回動し、ロッド42を積極的に屈曲させることによりブレーキペダルユニット40の後退量を減少させるものである。
【0081】
もっとも、ブレーキペダルユニット40を前側収容室5に配置した本実施形態では、そのような後退抑制機能は要求されず、第1リンク部材48は、当該第1リンク部材48に入力される外力を中継アーム46に伝達する機能しか要求されていない。それ故、第1リンク部材48(および第2リンク部材49)は、中継アーム46に対し回動不能に固定されていることが望ましい。
【0082】
以上のように構成された、ブレーキペダルユニット40では、仮にブレーキペダル43が、図11の黒塗り矢印の向きに押圧されると、ブレーキペダル43がペダルブラケット44に対してシャフト43bを中心に反時計回りに回動する。このようにブレーキペダル43が反時計回りに回動すると、アームリンク47を介して押圧された中継アーム46が、図11の白抜き矢印で示すように、ペダルブラケット44に対してシャフト46aを中心に時計回りに回動し、これにより、ロッド42が車幅方向右側に変位することになる。
【0083】
これと同じ原理により、ブレーキペダルユニット40では、第1リンク部材48が、図11の白抜き矢印の向きに引っ張られると、中継アーム46が、ペダルブラケット44に対してシャフト46aを中心に時計回りに回動し、これにより、ロッド42が車幅方向右側に変位することになる。このように中継アーム46が時計回りに回動すると、アームリンク47を介して引っ張られたブレーキペダル43が、図11の黒塗り矢印で示すように、ペダルブラケット44に対してシャフト43bを中心に反時計回りに回動する。
【0084】
なお、請求項との関係では、本実施形態のリンク機構45(特に、中継アーム46および第1リンク部材48)が、請求項でいうところの「ロッドを介してピストンと接続される操作部」に相当し、また、本実施形態のブレーキペダルユニット40が、請求項でいうところの「収容室内に配置され、ロッドを介してピストンと接続される操作部が操作されることによって、ピストンにストローク方向の押圧力を付与する押圧手段」に相当する。
【0085】
〈操作レバーユニット〉
図12は、操作レバーユニット90を模式的に示す斜視図である。この操作レバーユニット90は、金属板で形成されていて、図12で示すように、一対の固定プレート91と、一対の支持プレート93と、操作レバー95と、係合部材97と、を備えている。
【0086】
一対の固定プレート91は、矩形状の第1固定プレート91aと、矩形状の第2固定プレート91bと、を有している。これら第1および第2固定プレート91a,91bは、同形同大に形成されていて、中央部にボルト孔(図示せず)がそれぞれ形成されている。第2固定プレート91bには、ボルト孔に挿通されたボルト98の頭部が溶接等で固定されている。
【0087】
第1および第2固定プレート91a,91bは、固定対象物を挟むように車幅方向に対向配置された後、第2固定プレート91bに固定されたボルト98の先端を第1固定プレート91aのボルト孔に挿通し、ボルト98の先端側から螺合されたナット99を締めることで、これら第1固定プレート91aと第2固定プレート91bとの間に挟まれた固定対象物を、恰も万力のように締め付けることによって、固定対象物に固定される。
【0088】
一対の支持プレート93は、ボルト98の頭部を間に挟むように車両前後方向に対向する姿勢で、第2固定プレート91bの車幅方向左側の面に溶接等で固定されていて、車幅方向左側に真っ直ぐ延びている。各支持プレート93の先端部(車幅方向左側の端部)には、一対の支持プレート93の間で車両前後方向に延びるシャフト94が溶接等で固定されている。
【0089】
操作レバー95は、長尺矩形状に形成されていて上下方向に延びている。操作レバー95の上部には、各々当該操作レバー95を車両前後方向に貫通する貫通孔95a,95bが、上下に並んで2つ形成されている。操作レバー95は、図12で示すように、一対の支持プレート93によって車両前後方向に挟まれた状態で、支持プレート93の先端部に固定されたシャフト94が下側の貫通孔95aに挿入されることで、一対の支持プレート93に対しシャフト94の軸回りに回動可能に取り付けられている。
【0090】
係合部材97は、車両前後方向に対向して各々車幅方向に延びる一対のプレート部材97a,97bの車幅方向左側の端部を、短尺のプレート部材97cで繋ぐことで形成されており、平面視でヘアピン状をなしている。各プレート部材97a,97bの基端部(車幅方向右側の端部)には、一対のプレート部材97a,97bの間で車両前後方向に延びるシャフト96が溶接等で固定されている。係合部材97は、図12で示すように、一対のプレート部材97a,97bの間に操作レバー95の上端部を挟んだ状態で、操作レバー95の上側の貫通孔95bにシャフト96が挿入されることで、操作レバー95に対しシャフト96の軸回りに回動可能に取り付けられている。
【0091】
図13は、操作レバーユニット90の取付け方法を模式的に説明する図である。以上のように構成された操作レバーユニット90は、以下のようにして、前側収容室5外である車両1の下方から(クロスメンバ67,68の下側から)、ブレーキペダルユニット40のリンク機構45に対し着脱可能に取り付けられる。
【0092】
先ず、車体をジャッキアップした後、前後一対のクロスメンバ67,68の間の空間へ操作レバーユニット90を挿入する。そうして、先端部が閉じた係合部材97を、図13の黒塗り矢印で示すように、下側からリンク機構45の第1リンク部材48に引っ掛ける。
【0093】
次いで、マスターシリンダ30およびペダルブラケット44を支持する第1ブラケット71の2本の脚部71aの間にボルト98を通すように、第2固定プレート91bを車幅方向左側から2本の脚部71aに当てる。次いで、図13の白抜き矢印で示すように、第1固定プレート91aを、そのボルト孔にボルト98を挿通しながら、車幅方向右側から2本の脚部71aに当てるとともに、ボルト98に螺合させたナット99を締める。このようにして、第1固定プレート91aと第2固定プレート91bとの間に挟まれた2本の脚部71aを締め付けることによって、一対の固定プレート91を第1ブラケット71に固定する。
【0094】
以上の手順を踏むことで、上記図10に示したように、マスターシリンダ30と、ブレーキペダルユニット40と、操作レバーユニット90と、を備えるブレーキエア抜き装置80を、車両1の下方からの作業で簡単に実現することができる。このように、操作レバー95がリンク機構45の第1リンク部材48に対し、係合部材97を介して取り付けられた状態では、操作レバー95の下端部が、車両1の接地面SSの近傍まで延びている。このように、操作レバー95の下端部が、前側収容室5の下側を区画するクロスメンバ67,68よりも下方に突出することから、操作レバー95に対し前側収容室5外から容易にアクセスすることができる。なお、エア抜き完了後、操作レバーユニット90を取り外す場合には、上記手順と逆の手順を踏めばよい。
【0095】
〈エア抜き作業〉
図14は、操作レバー95の操作によってブレーキペダルユニット40が操作された状態を模式的に説明する図である。上記ブレーキエア抜き装置80を用いてエア抜き作業を行う場合には、車体をジャッキアップしてタイヤを外し、ブレーキキャリパ11a,12aに設けられたエア抜きバルブ(図示せず)を緩めてフルード回収用チューブ(図示せず)を接続する。
【0096】
次いで、上述した手順で操作レバーユニット90を取り付けて図10に示す状態とした後、前側収容室5外である車両1の下方から操作レバー95の下端部を掴み(操作レバー95の下端部へアクセスし)、図14の白抜き矢印で示すように、操作レバー95の下端部を車幅方向左側へ押圧する。すると、操作レバー95がシャフト94の軸回りに回動し、操作レバー95の上端部が車幅方向右側に変位し、これに伴い係合部材97が第1リンク部材48を車幅方向右側に引っ張ることになる。
【0097】
このように、第1リンク部材48が車幅方向右側に引っ張られると、中継アーム46が、ペダルブラケット44に対してシャフト46aを中心に時計回りに回動し、これにより、図14の黒塗り矢印で示すように、ロッド42が車幅方向右側に変位することになる。そうして、ロッド42が車幅方向右側に変位すると、入力ピストン41が加圧側へ押し込まれ、第3液室R3の油圧が上昇する。
【0098】
ここで、エア抜き作業時においては、ブレーキECU31の電源がOFFとなることから、第1電磁弁38が非通電状態、すなわち、閉じた状態となっている。そうして、第1電磁弁38が閉じていると、第3液室R3の油圧は、対向室である第4液室R4の油圧と打ち消し合わないので、第2ピストン34は第3液室R3の油圧によって動作することになる。これにより、ブレーキ装置10内にブレーキ油圧が発生し、エア抜きバルブに接続されたフルード回収用チューブから古いブレーキフルードと共にエアを排出することができる。
【0099】
また、本実施形態では、ブレーキペダル43の踏部43aを切断除去しているが、それ以外の部位は残っており、アームリンク47を介して引っ張られたブレーキペダル43はスプリング43cによって図14の時計回りに付勢されているので、操作レバー95の下端部を車幅方向左側へ押圧する力を緩めれば、操作レバー95が図10に示す状態に戻ることになる。
【0100】
このように、図10に示す状態から操作レバー95の下端部を車幅方向左側へ押圧して図14に示す状態とする作業を数回繰り返せば、エア抜き作業が完了する。なお、車室内でブレーキペダルを数回踏み込む従来のエア抜き作業とは異なり、本実施形態では、車外(車室4外且つ前側収容室5外)からの操作レバー95の操作により、ブレーキ油圧を発生させることから、1人の作業者がフルード回収用チューブから排出されるエアを確認しながら操作レバー95を操作することができるという利点がある。
【0101】
-作用・効果-
本実施形態のブレーキエア抜き装置80によれば、ロッド42を介して入力ピストン41と接続されるリンク機構45(中継アーム46および第1リンク部材48)を、操作レバー95によって操作することで、ブレーキ油圧を発生させることができるので、車室4と区画される前側収容室5内にブレーキペダルユニット40が配置されていても、換言すると、ブレーキペダルユニット40が車室4内に設けられていない場合でも、ブレーキフルードに溜まったエアを確実に抜くことができる。
【0102】
しかも、第1リンク部材48に取り付けられる操作レバー95は、当該操作レバー95に対して前側収容室5外からアクセス可能な位置まで下方に延びていることから、車外から操作レバー95を容易に操作することができる。これにより、例えば、エア抜きバルブへのフルード回収用チューブの接続や、操作レバー95の操作によるエア抜きや、フルード回収用チューブから排出されるエアの確認等といった作業を、作業者が1人でも行うことができる。また、エア抜きに必要な作業をすべて車外から行えることから、開閉部8aを露出させるために、座席9を取り外したり、折り畳んだりする作業も省略することができる。これらにより、エア抜き作業時のメンテナンス性を向上させることができる。
【0103】
さらに、マスターシリンダ30とブレーキペダルユニット40とを備える既存のブレーキ構成を転用することができるので、コストの上昇を抑えることができる。
【0104】
また、リンク機構45を下側とすることで、第1リンク部材48への操作レバー95の取付け構造を簡単な構造とすることができるとともに、ブレーキペダル43を上側とすることで、下方に配置されるエアコンユニット53等とブレーキペダル43とが干渉するのを抑えることができる。
【0105】
さらに、操作レバーユニット90をリンク機構45に対し着脱可能とすることで、例えば走行時には操作レバーユニット90を取り外すことができるので、路面上の物体と操作レバー95の下端部とが干渉するのを抑えることができる。他方、操作レバー95を車両1の下方から取付け可能に構成することで、リンク機構45に対し容易に操作レバーユニット90を取り付けることができるので、エア抜き作業時のメンテナンス性をより一層向上させることができる。
【0106】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0107】
上記実施形態では、係合部材97を第1リンク部材48に係合させるようにしたが、操作レバー95を操作することでロッド42を変位させることができるのであれば、これに限らず、例えば、係合部材97を中継アーム46に係合させるようにしてもよいし、係合部材97をブレーキペダル43に係合させるようにしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、ブレーキペダル43が上側で、且つ、リンク機構45が下側になるように、ブレーキペダルユニット40を前側収容室5内に配置したが、他の機器との干渉が生じないのであれば、これに限らず、例えば、ブレーキペダル43が下側で、且つ、リンク機構45が上側になるように、ブレーキペダルユニット40を前側収容室5内に配置してもよいし、ブレーキペダル43が車両前後方向一方側で、且つ、リンク機構45が車両前後方向他方側になるように、ブレーキペダルユニット40を前側収容室5内に配置してもよい。
【0109】
さらに、上記実施形態では、操作レバーユニット90をリンク機構45に対し着脱可能としたが、これに限らず、例えば、操作レバー95の下端部をクロスメンバ67,68等と略同じ高さとするとともに、係合部材97を第1リンク部材48と一体とすることで、操作レバーユニット90を常設するようにしてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、ボルト98の頭部を第2固定プレート91bに固定したが、これに限らず、例えばナット99を第2固定プレート91bに溶接等で固定してもよい。
【0111】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によると、油圧を発生させる操作手段が車室内に設けられていない場合でも、エア抜き作業時のメンテナンス性を向上させることができるので、ブレーキフルードに溜まったエアを抜くブレーキエア抜き装置に適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0113】
1 車両
4 車室
5 前側収容室(収容室)
10 ブレーキ装置
30 マスターシリンダ
32 シリンダハウジング(シリンダ)
40 ブレーキペダルユニット(押圧手段)
41 入力ピストン(ピストン)
42 ロッド
43 ブレーキペダル
45 リンク機構(操作部)
80 ブレーキエア抜き装置
95 操作レバー
図1
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